記憶を売る本屋 2
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#300 [我輩は匿名である]
少しずつ、歓声がおさまってきた。
「…お前、晶の時から運動嫌いだっけ?」
奏子がいないのを確認して、直人は飛鳥に尋ねる。
「うん、あんまり好きじゃなかった」
飛鳥は頷く。
「そのわりには走るの速かったじゃん。あの…お前に付きまとってた奴から逃げる時」
「…あぁ、美代ね。ウザかったな…あいつ」
「つーか、あいつが元凶だしな」
美代の事を思い出し、2人はどんよりとした表情でうつむく。
:10/05/28 22:26
:N08A3
:TdbZtgtI
#301 [我輩は匿名である]
「……でもまぁ」
飛鳥が顔を上げて言う。
「あいつが邪魔して来なかったら、今あたし達ここにいないんだよね。
…変な言い方だけど、おかげで目が覚めたっていうか」
「…何から?」
「………いろいろ!」
上手く説明出来なくて、飛鳥は短く答えた。
:10/06/01 20:17
:N08A3
:KmSiWdQY
#302 [我輩は匿名である]
ろくに友達も作れない性格だった自分。
それを親に捨てられたからだと言って逃げていた自分。
要がいないと生きていられなかった、未熟な自分。
そんな自分に、さよなら出来た。
飛鳥はそう考え、少し笑う。
彼女が何を考えているのかわからず、直人は首を傾げる。
「…ま、何かわかんねぇけど、吹っ切れたんなら良かったな」
考えるのが嫌いな直人は、ニッと笑う。
飛鳥も「うん」と頷く。
:10/06/01 20:18
:N08A3
:KmSiWdQY
#303 [我輩は匿名である]
「弟は?何も言ってきてないか?」
「うん、あれからは何も」
「そっか。また嫌み言われたら言えよ。怒鳴り込みに言ってやるから」
「ははっ。あんたってたまに頼もしいよな」
「俺が頼もしいのはいつもの事だろ」
「それはないね」
「はぁん!?」
「青春ねぇ〜♪」
飛鳥の隣にいた響子が、2人のやりとりを見てやっと口を開いた。
:10/06/01 20:18
:N08A3
:KmSiWdQY
#304 [我輩は匿名である]
「お前いたのかよっ!」
「失礼ね、最初からいたわよ。ねぇ?」
「うん。喋らないなぁとは思ってたけど」
飛鳥は苦笑して頷く。
「だって、2人の世界に入っちゃってるから…邪魔しちゃいけないでしょ?」
響子はにっこり笑う。
『2人の世界』と言われて、直人と飛鳥は何だか恥ずかしくなって、
お互い顔を赤くして目を逸らす。
「(…両想いにしか見えないのに、何で2人とも気付かないんだろ…?)」
2人の様子を、響子は少しもどかしく思いながら見つめる。
:10/06/01 20:19
:N08A3
:KmSiWdQY
#305 [我輩は匿名である]
「で、試合どうなってんだ?」
直人は話を変えて、試合に目を向ける。
「薫のおかげで圧勝よ」
響子は笑顔でそう言いながら得点板を指差す。
4回裏で10対3という点差。
といっても、9回までやっていると終わらないので、5回裏で終わるルールなのだが。
「…すごいね、あいつ天才じゃない?」
「そりゃ、子どもに野球教えるんだって張り切ってるぐらいだからね」
3人はそれぞれ話ながら、バット片手にクラスメイトと喋っている薫を見る。
:10/06/01 20:19
:N08A3
:KmSiWdQY
#306 [我輩は匿名である]
「負けた負けたー!」
3人が黙っていると、試合を終えた奏子がやってきた。
「なんだ、みんなこっち見てたんだ」
奏子はつまらなそうに口を尖らせる。
「だってハンドボール好きじゃねーし」
直人は眉間にしわを寄せて言い返す。
すると、ちょうど野球の試合も終わったらしく、男子たちが整列している。
「…次って準決勝か?」
「そうみたいだね」
直人に聞かれ、飛鳥は頷く。
:10/06/01 20:19
:N08A3
:KmSiWdQY
#307 [我輩は匿名である]
「んー、見飽きてきたな…」
割と飽きっぽい直人は、腕を組んで呟く。
「俺、茶飲んでくるわ」
「あっ、私も行く!」
教室に向かう直人に付いて、奏子も走りだした。
「…行かなくて良いの?」
響子は飛鳥に尋ねるが、飛鳥はけろっとしている。
「だって、私今日お茶持ってきてないし」
「あ、そう…」
意外とあっさりしている飛鳥に、響子は「いいのかな、それで」と思いながらため息を吐いた。
:10/06/01 20:20
:N08A3
:KmSiWdQY
#308 [我輩は匿名である]
一方直人達は、靴を履き替えるのが面倒なので、靴下で教室に向かっていた。
「…なんかさ」
階段を上る途中、奏子が口を開いた。
直人は歩きながら「何?」とだけ返事する。
「最近、あんまり学校楽しくないんだよね…私」
奏子はいきなり、そんな話を始めた。
いつも元気な奏子がそんな事を言ったため、直人はきょとんとして足を止める。
「どうしたんだよ?いきなり」
「…ほら、私だけ都市伝説の本もらってないじゃん?だから響子達の話に入れなくて」
奏子は苦笑いして言う。
:10/06/04 08:41
:N08A3
:K5pa3eMc
#309 [我輩は匿名である]
「あ、2人とも私の前でそんな話しないよ?
しないけど…5人でいる時とかにそんな話になったりするじゃん?
それで、ちょっと…ね」
「あぁ…」
直人は「確かにな」と頭を抱える。
「悪かったな、そういうの気付いてやれなくて」
「…えっ?いや、気付いてほしかったわけじゃ…」
急に謝られて、奏子は慌てて否定する。
しかし、直人は勝手に「そうだよな」と話を進める。
:10/06/04 08:42
:N08A3
:K5pa3eMc
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