記憶を売る本屋 2
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#340 [我輩は匿名である]
クラスメイト達は、祈るような気持ちで薫を見つめる。
しかし、薫はバットを振る瞬間、左手を離した。
「ちょっ、お前…!」
びっくりして、キャッチャーが思わず声を漏らす。
薫は右手だけで金属バットを振ったのだ。
ボールは見事にバットに当たり、右手首に痛みが走る。
そのまま無理矢理打ち飛ばしたボールは、まっすぐ飛んでいく。
:10/06/08 17:13
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:JzbPbZSE
#341 [我輩は匿名である]
ピッチャーが手を伸ばせば、充分に届く距離に。
パシッという音を立てて、ピッチャーのグローブがボールを掴む。
ギャラリーも選手達も、息を呑んでそれを見つめていた。
「アウト!チェンジ!」
審判の声が響き渡る。
相手チームの外野たちが、もう試合が終わったかのように、はしゃぎながら走ってくる。
:10/06/08 17:13
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#342 [我輩は匿名である]
「はぁ…」
薫はため息をついて、左手にバットを持ちかえながらベンチに戻る。
「悪い。捻挫したから、二塁の守り代わってくれないか?」
補欠の男子にそう言って、薫はベンチに腰を下ろす。
そして、0対5まで点差が開いた後、試合は終わった。
:10/06/08 17:13
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#343 [我輩は匿名である]
「礼!」
「ありがとうございました!」
審判の声に合わせて、選手達は互いに頭を下げる。
「もったいないな。お前が野球部に入ってくれれば、安心して卒業出来るのに」
挨拶を終え、ピッチャーが薫に話し掛けてきた。
まるで死ぬような言い方だな。薫は小さく笑う。
「坊主にすると、俺多分殺されますから」
「…誰に?」
:10/06/08 17:14
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#344 [我輩は匿名である]
「こいつ、彼女いるらしいぜ」
キャッチャーも話に入ってきた。
「…え、マジで?」
「薫!!」
薫の背後で声がした。
振り向いてみると、響子がかなり怒った顔で立っている。
「…例の彼女か?」
「何であんな打ち方したのよ!?手痛めるの当たり前でしょ!?」
響子は怒鳴り付けながら薫に詰め寄る。
:10/06/08 17:15
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#345 [我輩は匿名である]
「いや…動かしすぎると、また左肩痛めそうだったからさ」
薫は答えながら、左の鎖骨辺りをさする。
その仕草を見て、響子は動きを止めた。
「……階段から落ちた時の、あの怪我の事?」
「…まぁ、な」
薫は誤魔化そうとしながらも頷く。
「“階段から落ちた”って…こいつ、あの階段事件で突き落とされた奴だったのか?」
「あぁーなるほどな」
2人の様子を見ながら、ピッチャーとキャッチャーが小声で話し合う。
:10/06/08 17:15
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#346 [我輩は匿名である]
「……そっち痛める方が、絶対お前に怒られると思って」
薫は苦笑し、響子の頭を撫でる。
響子はしゅんとしたように下を向く。
「こいつ、あんたの為にあんな打ち方したんだぜ。
『俺の野球姿見て喜んでる奴がいるから』ってな」
キャッチャーがニヤニヤしながら響子に言う。
バラされると思っていなかった薫は、顔を赤らめて「ちょっと!」と彼を睨む。
響子はゆっくりと顔を上げ、薫を見る。
:10/06/08 17:16
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#347 [我輩は匿名である]
薫は恥ずかしそうに顔を背けている。
それを見て、響子は嬉しそうに笑って薫に抱きついた。
「なぁ、その子がお前の彼女?」
2人がからかうように薫の肩を持つ。
いらん事を言わなきゃ良かった。薫は思いながら笑った。
「そうですよ」
断言する薫に、2人は絶句する。
:10/06/08 17:16
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#348 [我輩は匿名である]
「いつまでいちゃついてんだ、あいつら」
「さぁ?ま、いいんじゃないの?」
彼らの微笑ましい様子を、直人や飛鳥は遠くから眺めていた。
:10/06/08 17:17
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#349 [我輩は匿名である]
「やっと帰れるな」
帰り道、飛鳥は直人に話し掛ける。
奏子はバイトに行き、響子は薫の捻挫の手当てに付き添って
保健室に行っているため、2人で帰ってくる事になったのだ。
「そんなに帰りたかったのかよ」
「好きじゃないんだもん、運動」
「絶対人生損してるぞ」
「嫌いなもんは嫌いなんだよ!仕方ないだろ!
晶の時から運動大っ嫌いだったんだから!」
飛鳥は開き直ったように言い返す。
:10/06/10 18:56
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