記憶を売る本屋 2
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#531 [我輩は匿名である]
「直人は俺がトイレットペーパー買いに行かされた時から知ってたんだな」
「まぁそういう事だな……ん?」
直人は返事をしながら、前方に女性が歩いているのに気付いた。
見慣れた茶髪に、見覚えのあるプーマのジャージ。
「神崎!」
直人は白い息を吐き出して、女性に声をかける。
すると、ジャージの女性は振り返った。
「水無月」
「何してんだ?お前」
飛鳥に駆け寄り、尋ねてみる。
:10/11/20 21:53
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#532 [我輩は匿名である]
「暇だから、散歩」
「散歩!?こんな寒いのによく外に出ようと思ったなぁ…」
「家にいるよりマシだし」
そりゃそうか。直人は頷く。
「あんたは?」
「トイレットペーパー買って来いって言われてさ。一緒に来る?」
「…うん、行く」
飛鳥は小さく笑って返事した。
2人は並んで、薬局に向かった。
:10/11/20 21:53
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#533 [我輩は匿名である]
「お前、冬休み暇で仕方ねぇんじゃねーの?」
「そりゃ暇だよ。バイトない日は特にな」
「そういえば、安斎との喧嘩はどうなったんだ?仲直りしたか?」
「してない」
「だろうな…」
直人はめんどくさそうにため息を吐く。
「まぁ…そのうちね」
飛鳥も、そろそろ話し合わないといけない事はわかっているようだ。
だったらいいか、と、直人は小さく笑う。
:10/11/20 21:54
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#534 [我輩は匿名である]
「お前暇なんだったら、一緒に初詣でも行くか?」
「は?何、急に」
「いやぁ、いつもは薫と行くんだけどさ、
あいつ多分香月連れてくるだろうから、お前も来るかなぁと思って」
直人の提案に、飛鳥は少し意外そうな顔をしながらも「行く!」と即答した。
「…あー、お前ケータイ持ってねぇんだったな。
んじゃあ、1月1日10時に学校で待ち合わせな」
「…うん!」
飛鳥は久しぶりに、嬉しそうな笑顔を見せた。
:10/11/20 21:54
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#535 [我輩は匿名である]
1月1日。
飛鳥はジャージではなく私服を来て、玄関で靴を履いていた。
「どこ行くの?」
またいびりに来たのか、巧が後ろに立っている。
「こんな元旦から出歩くなんて、暇人はいいよねぇ。
僕は勉強で大忙しだっていうのに。
どうせつまんない奴らとつるんでるんでしょ」
飛鳥はそれを聞き流しながら、スニーカーの紐を結んでいる。
そういえば、巧がどこかに出かけていくのを見たことが無い。
:10/11/21 13:57
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:qrb3T8Wo
#536 [我輩は匿名である]
「まぁ、誰かとつるむの自体時間の無駄だけどね」
その一言で、飛鳥は立ち上がり、巧に向き合った。
「あんた、友達いないんだ」
巧の口元が、微妙に引きつる。
「…はぁ?」
「だってそうだろ?誰かと遊びに行くとこも見た事ないし、
友達いる奴が『つるむのは時間の無駄』なんか言わないし」
「だから?友達がいたから何なの?そんな事、将来に何の関係がある?」
巧はどこか、意地になったように問い詰めてくる。
:10/11/21 13:57
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#537 [我輩は匿名である]
「僕はお前とは違って、将来を期待されてるんだ。
他の奴らと馴れ合ってる暇なんかないんだよ」
「勉強熱心で毎回試験で1位とってる奴でも、友達はたくさんいるよ。
1位の奴だけじゃない。バカだろうが秀才だろうが、みんな誰かと一緒に生きてる。
……あんたみたいな考え方の奴が、将来まともに生きていけるはず無い」
「何?僕に勝てないからって、とうとう負け惜しみ!?みっとも…」
「何とでも言いなよ。でも私は間違った事を言ってるとは思ってない。
あんたは他人をバカにしすぎてる。
“自分は誰よりも賢い”なんかバカな思い込み、捨てたら?」
:10/11/21 13:58
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#538 [我輩は匿名である]
「うるさいな!」
巧はついに、ムキになって声を荒げた。
「今そんな事に時間費やしてる暇ないんだよ!
僕は将来、父さんみたいな優秀な弁護士になるって決めてるんだ!
お前みたいな出来損ないに見下される筋合いないね!」
巧はそう言い切って、飛鳥を睨む。
“昔の自分”に似てる。飛鳥はなぜか、そう感じた。
「…そう。じゃあその“出来損ない”は、将来は捨てて今日1日楽しんで来るわ。
将来を考えるより、今を大事にする方がいいし」
「ははっ、じゃあ一生父さんにも母さんにも認められないよ!?」
:10/11/21 13:58
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:qrb3T8Wo
#539 [我輩は匿名である]
「学力しか見ない親なんか、こっちから願い下げだよ」
飛鳥はそう吐き捨てて、家を出る。
そして、何歩か歩いて立ち止まった。
全身が震えている。
「(……よくあんだけ言い返せたな、あたし。弟相手に震えるとか、みっともない…)」
それでも、今回は負けた気がしない。
よくやった、と、心の中で自分を褒めた。
:10/11/21 13:59
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:qrb3T8Wo
#540 [我輩は匿名である]
「飛鳥ちゃん来ないねー」
校門の前で、直人・薫・響子は飛鳥を待っていた。
10時を回ったが、飛鳥はまだ来ない。
「本当に来るのか?」
「来るって言ってたぞ」
薫はあまり信じていないようだ。
「…あっ、来た来た」
響子は言いながら、こちらに向かって走ってくる飛鳥に手を振る。
「遅い」
薫は腕を組んで飛鳥を睨む。
:10/11/25 20:31
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