記憶を売る本屋 2
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#636 [我輩は匿名である]
呆れた顔で言い返してくるのを見ると、どうやら大丈夫そうだ。

「今から運んでやるから、もうちょっと頑張れよ」

「うん…」

「…死んでもいいとか、考えるんじゃねーぞ」

「考えねーよ…」

「よし」

直人は飛鳥に自分の帽子をかぶせ、飛鳥を背負って立ち上がる。

「……はぁ……温かい…」

直人におんぶされて、飛鳥は小さな声で言った。

⏰:11/01/05 19:21 📱:N08A3 🆔:4VAH5Vzw


#637 [我輩は匿名である]
「水無月…ちょっと寝ててもいい…?」

「あぁ」

直人の返事を聞いて、飛鳥は目を閉じた。

「運ぶはいいけど、どこに行けばいいか知ってるの?」

飛鳥との会話が終わったのを見て、要が話し掛けてきた。

「知ってるわけねーだろ。案内して」

直人は当然のように答える。

「いいけど、あの板と棒どうするの?」

⏰:11/01/05 19:21 📱:N08A3 🆔:4VAH5Vzw


#638 [我輩は匿名である]
レンタルの物だが、やっぱり持って帰らないと怒られるだろうか?

しかし、飛鳥を背負っているため、手が空いていない。

「仕方ないなぁ…」

要がそう言ったのと同時に、直人は一瞬眩暈を感じた。

転ばないように足を踏張り、眩暈を振り切るように首を横に振る。

そして顔を上げ、直人は自分の目を疑った。

「やぁ♪」

目の前にいるのは、違う制服を着た、自分とそっくりの男。

⏰:11/01/05 19:22 📱:N08A3 🆔:4VAH5Vzw


#639 [我輩は匿名である]
「…要…?」

「ぴんぽーん♪」

要はにっこり笑って答える。

見た目も声も要そのものだが、なぜここにいるのだろうか。

「えっ!?何で!?お前さっきまで俺の中にいたじゃん!」

「まぁまぁ落ち着いて。歩きながらゆっくり話すから」

要はそう言って、スキー板とストックを持って歩きだす。

何が何だかわからないまま、直人もそれについて行く。

⏰:11/01/06 18:21 📱:N08A3 🆔:zqGirkmY


#640 [我輩は匿名である]
「…やっと教えてくれる気になったか?」

「まぁね。到着までの間だけ、聞きたい事に答えてあげるよ」

「じゃあ…」

直人は早速何かを聞こうと思ったが、ふと考えた。

聞きたい事がありすぎて、何から聞けばいいのかわからない。

「どこから聞けばいいのかわからなくて迷ってるだろ」

「…うん」

「じゃあ、どうして俺がこの時代にいるのか、から話そうか」

⏰:11/01/06 18:22 📱:N08A3 🆔:zqGirkmY


#641 [我輩は匿名である]
「あぁ、そうだな」

確かに、そこから話した方が順序よく話が進みそうだ。

「てか、お前だけだよな、この時代にいるの。

石川晶も、薫と香月の前世もいないのに、なんでお前だけ?」

「うーん…。それは、さっき言った通り、俺達が“特別”だからだよ」

それだけではわからず、直人は首を傾げる。

「それさぁ、どう意味?つか、俺“達”って、俺も入ってる?」

「入ってるよ」

少し前を歩きながら、要は頷く。

⏰:11/01/06 18:23 📱:N08A3 🆔:zqGirkmY


#642 [我輩は匿名である]
「だって直人は元々、前世を知る予定じゃなかったんだから」

こっちを向いてそう言った要に、直人はぽかんとする。

「……は?」

「前世の記憶を持つのは、前世に“未練”があった人の生まれ変わりだけだ。

晶ちゃん、霜月優也、長谷部今日子。みんな何かしら死ぬ時に未練を残したまま死んで、

それを晴らすために前世を知り、その記憶を持ったまま生きていくんだ。

まぁ、前世の遺志を受け継ぐかどうかはその人次第だけどね。

でも俺はそうじゃない。晶ちゃんなら大丈夫だと、そう思いながら死んだ。

だから未練なんかなかった。…晶ちゃんが自殺したって知るまではね」

⏰:11/01/07 13:49 📱:N08A3 🆔:oq9oqEYg


#643 [我輩は匿名である]
要の話を、直人は黙って聞いている。

「じゃあ何で直人が前世を知る事になったのかって話になるよね。

もう知ってると思うけど、前世を背負ったまま生まれ変わって生きるためには、

それなりに何かを差し出さないといけないんだ」

そういえば、以前薫が“自分は何を払ったのか”という話をしていた。

しかし、飛鳥だけは何を払ったのかを覚えていなかった。

「じゃあ、晶は何を払ったんだ?」

「何も」

「へ?」

「払わなかったっていうより、払えなかったんだ」

⏰:11/01/07 13:53 📱:N08A3 🆔:oq9oqEYg


#644 [我輩は匿名である]
払わなかったら前世を知って生きる事は出来ないんじゃないのか?

直人はますますわからなくなり、顔をしかめる。

「あの時の晶ちゃんに、差し出せるものは何もなかった。

それでも、晶ちゃんはもう1度やり直したかったんだ。

強い人間になって、今度は頑張って生きたいって思ったんだよ。

その気持ちが、あの人に認められたんだ」

「“あの人”…?」

「神様、みたいなものだと思う。顔は見えないけど、落ち着いた女の人。

その人が前世と後世の記憶を管理するんだ」

⏰:11/01/07 13:54 📱:N08A3 🆔:oq9oqEYg


#645 [我輩は匿名である]
そういえば前に説明してくれた薫も、女性の(ような)絵を描いていた。

前世を思い出させる程の力を持っているのだから、神様と言っても過言ではないだろう。

「晶ちゃんはその人に、『もう1度要に会いたい。

要に、自分が強くなるところを見ていてほしい』って言ったらしい」

「あーなるほどな。だから俺が本もらう事になったのか」

直人は納得したように頷く。

「それで、その女の人は晶ちゃんに言ったんだ。

『いいでしょう。では、長月要の生まれ変わりの者にも前世の記憶を与えます。

その代わり、その者が前世の記憶を無くしても耐える事。

それで再び自殺を図った場合、何度生まれ変わっても同じ苦しみを味わう事になるでしょう』」

⏰:11/01/07 13:54 📱:N08A3 🆔:oq9oqEYg


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