記憶を売る本屋 2
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#645 [我輩は匿名である]
そういえば前に説明してくれた薫も、女性の(ような)絵を描いていた。
前世を思い出させる程の力を持っているのだから、神様と言っても過言ではないだろう。
「晶ちゃんはその人に、『もう1度要に会いたい。
要に、自分が強くなるところを見ていてほしい』って言ったらしい」
「あーなるほどな。だから俺が本もらう事になったのか」
直人は納得したように頷く。
「それで、その女の人は晶ちゃんに言ったんだ。
『いいでしょう。では、長月要の生まれ変わりの者にも前世の記憶を与えます。
その代わり、その者が前世の記憶を無くしても耐える事。
それで再び自殺を図った場合、何度生まれ変わっても同じ苦しみを味わう事になるでしょう』」
:11/01/07 13:54
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#646 [我輩は匿名である]
最後まで聞いて、直人は足を止めた。
足音が聞こえなくなったのを感じて、要も足を止めて振り返る。
「……今、何て言った?」
直人はおそるおそる口を開く。
「『その者が前世の記憶を無くしても』って…どういう事だ…?」
「…最初に言ったじゃないか」
真剣な顔で、要は答える。
:11/01/07 13:55
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#647 [我輩は匿名である]
「『前世の記憶を持つのは、未練を持ったまま死んだ人だけだ』って。
俺達は、晶ちゃんが神崎飛鳥としてやり直すための“特別措置”なんだよ。
あの子を支えるために、一時的に俺はここにいるし、お前に前世の記憶がある。
だから彼女が過去に打ち勝った時、お前の中から前世の記憶は消えなければいけない。
…本当は、お前は前世を知らないはずの人間なんだから」
想像もつかなかった話に、直人は言葉を失う。
今更前世の記憶が無くなるなんて。
急にそんな事を言われても、「はい、そうですか」で終わらせられるわけが無い。
:11/01/07 14:08
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#648 [我輩は匿名である]
ショックを隠せない直人に、要は言う。
「…それに、いつまでも“俺”がいたら、あの子はきっと強くなれない」
そう言った要の顔は、どこか悲しそうに見えた。
直人はちらっと、飛鳥の寝顔を見る。
「(……俺から前世の記憶が無くなったら…俺はどうなるんだろ…。
いや…俺だけじゃなくて、神崎も絶対ショック受けるはず…)」
直人は少しの間茫然と考えてから、顔を上げた。
それよりも先に、自分にはやらなこればいけない事がある。
:11/01/07 14:10
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#649 [我輩は匿名である]
「行こうぜ、要。…今はそんな事考えてる暇ねぇよ」
「…そうだね」
要は頷いて、また歩きだした。
「……なぁ、『何度でも同じ苦しみを味わう事になる』ってどういう事だ?」
歩きながら、直人は要の背中を見て尋ねる。
「『何度生まれ変わっても自ら死を選ぶ運命を背負う事になる』って意味だよ」
要は怯む事なく答える。
「(じゃあ…もし前世を忘れた俺が神崎を見捨てるような事をしたら…
また神崎が自殺を考えるようになったら…)」
:11/01/08 12:33
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#650 [我輩は匿名である]
昨日から考えていた事と重なり、直人は更に考え込む。
『もし前世の記憶がなかったら、自分は誰を好きになるんだろう』
前世の記憶が無くなったら、もしかしたら奏子と付き合うのかもしれないし、
あるいは全く違う人と付き合う事になるのかもしれない。
そうなった時、飛鳥は…。
「(いや…神崎はもう今までの神崎じゃない。そんな事でへこたれる奴じゃないはずだ)」
信じるしかない。直人は何度も自分にそう言い聞かせた。
:11/01/08 12:34
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#651 [我輩は匿名である]
しばらく黙って歩いて、直人はまた口を開く。
「そういえば、何でさっき神崎の場所がわかったんだ?」
「俺には、神崎飛鳥を手助けできるように特別な力があるんだ。
まぁ言っちゃえば幽霊みたいなものだからね、俺。
幽霊がポルターガイスト起こせるのと同じような感じだと思うよ」
「…そんなもんなのか」
「期待外れ?」
「…ちょっとな」
直人は小さく笑う。
:11/01/08 12:34
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#652 [我輩は匿名である]
「あんまり使い過ぎるのも神崎飛鳥の為にならないから、
必要以上に使わないようにしてたんだ。直人と話して助言する事は何回かあったけどね」
「……お前、最初から俺の中にいたのか?」
「うん。直人が全部思い出してから、ずっとね。
喋れる事に初めて気が付いたのは運動会の時だったけど」
「(運動会?あぁ、球技大会の時のあれの事か)」
「おかげで神崎飛鳥には幽霊だって恐がられるようになっちゃったけどねー」
2人は笑いながら話す。
思えば、こうやって要と話すなんて、あり得ない事だ。
:11/01/08 12:35
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#653 [我輩は匿名である]
前世の自分と、生まれ変わった姿の自分。
「なんかでも…すげぇよな。前世とその生まれ変わりが一緒にいるんだぜ?」
「はははっ、そうだね。俺達だけじゃないの?」
「だろうな。でも…お前の事忘れるって事は、この事も忘れるんだよな…?」
「まぁ、そうなるね」
「あーあ、なんか残念だし、淋しいな」
「そうだね。それも今だけだよ。記憶が無くなれば、もう思い出す事はないんだし」
「……いつなんだよ?前世の記憶が無くなるの」
:11/01/08 12:35
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#654 [我輩は匿名である]
「………今日、かな」
しばらく間を置いて、ぽつりと要が言った。
「お前なぁ、そういう事はもっと早く言えよ」
「あんまり早く言ったら、考え込んで元気無くなっちゃうじゃないか。
だから、わざわざショック受けてる時間が短くて済むように黙ってたんだよ」
「…それにしても急すぎだろ」
「本当はもっと早く消えようと思ってたんだけどね。でも良かったよ。今日まで残ってて」
「あぁ。お前がいてくれて良かった」
直人にそう言われて、要も小さく笑った。
:11/01/08 22:46
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