記憶を売る本屋 2
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#666 [我輩は匿名である]
「(……どこだ…?ここ…)」

目を覚ました直人は、ボーッと天井を見つめる。

ゆっくり起き上がってみると、どこかの病院の個室のようだ。

「(……何で俺…病院にいるんだ…?)」

何があったか思い出そうとするが、全く頭が働かない。

頭を抱えつつ、窓の外の雪景色に目をやる。

「(…雪…そうだ…スキー実習に来たんだ…。

それで…香月がインフルエンザにかかったり…班行動で薫がどっか行ったり…

あぁ…安斎に告られて…神崎が遭難したとかで…)」

⏰:11/01/16 23:29 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#667 [我輩は匿名である]
そこまで考えてやっと、自分のした事を思い出した。

「……そうだ…神崎は…?」

探しに行こうと布団をめくると、それと同時に病室のドアが空いた。

入ってきたのは、病衣を着た飛鳥だった。

「水無月…!」

起き上がっている直人を見て、飛鳥は驚いた顔で駆け寄ってきた。

「大丈夫!?あんた、いつまで経っても起きないから、心配で…」

「…今何時…?」

「朝の7時だよ」

⏰:11/01/16 23:29 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#668 [我輩は匿名である]
「……マジ…?」

そんなに寝倒したのか。直人は深く息を吐く。

「お前は…怪我してなかった…?」

「あたしは大丈夫。ちょっと手首ひねったぐらいで」

「そう…そりゃ良かった」

直人は笑って返すが、その笑顔にもどこか力が無い。

飛鳥は彼の様子がおかしい事に気付き、少し首をひねる。

「水無月…?」

「ん…?あぁ…なんか頭がボーッとしちゃってさ…」

⏰:11/01/16 23:30 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#669 [我輩は匿名である]
直人は眠そうに目をこすりながら小さく笑う。

「俺…どうやってお前を助けに行ったのかとか…全く覚えてないんだよ…。

何でお前の場所がわかったのかとか…何でお前が遭難したのがわかったのかとか…。

…それだけじゃなくて…何か…もっと大事な事忘れて気がするんだけど…全然…。

変だよな…。頭とか打ったわけじゃないのに…」

声を押し出すようにして話す直人を、飛鳥はじっと黙って聞いている。

「……水無月、……“長月要”と“石川晶”って名前、聞いたことある?」

直人が話し終えたのを見て、飛鳥が静かに尋ねた。

直人は「んー…」と頭をひねる。

⏰:11/01/16 23:30 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#670 [我輩は匿名である]
「…無い…と思う」

「両方?」

「あぁ…」

飛鳥は小声で「そっか」とだけ答える。

こういう答えが返ってくることはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。

“もしかしたら”と、一縷の望みを捨てきれなかったのだ。

「そいつらが、どうかした?」

「う、ううん。…あたしの勘違い」

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#671 [我輩は匿名である]
「何だよそれ…」

直人は呆れたように笑う。

「でも…良かったよ。…お前が大した怪我してなくて」

「…うん」

飛鳥は返事をして下を向く。

「水無月」

「何…?」

「…ありがとう」

飛鳥の声が震えているのを聞いて、直人は飛鳥を見る。

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#672 [我輩は匿名である]
「嬉しかった。来てくれるって、思ってなかったし…。

あたしを背負ってくれたあんたの背中…すごい温かくて…、

『良かった、あたしまだ生きてる』って…そう思えて…」

安心したからか、遭難した時の事を思い出してか、飛鳥の目から涙がこぼれ落ちる。

それを見て、直人は焦り始める。

「ちょ、おい、何だよ、泣くなよ…」

「ごめん…。だって、こんな事思うの初めてで…。

助けに来てくれたあんたの顔見て初めて、『あぁ生きてて良かった』って思った…」

飛鳥は両手で涙を拭きながら笑ってみせる。

⏰:11/01/16 23:31 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#673 [我輩は匿名である]
「…俺も…お前が生きてて良かった。

あの吹雪の中で、お前が目を覚まして俺の名前を呼んだ時…すげぇホッとした。

何かよくわかんねぇけど…お前だけは死なせちゃダメだって思って…。

…気を付けろよな」

「あ、あたしのせいじゃ無いし!」

「…じゃあ何であんなとこに落ちたんだよ…?」

「…それは…」

2人はそれから、担任の教師が来るまでずっと一緒にいた。

⏰:11/01/16 23:32 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#674 [我輩は匿名である]
その後、直人も飛鳥も特に問題ないと判断され、他の生徒達と一緒に帰れる事になった。

あれだけ寝たというのに、直人は飛行機の中でもずっと眠っていた。

今までの直人とは打って変わって、はしゃぐ事もなかった。

スキー実習で疲れて眠る生徒もいたが、そんな軽症なものではない。

それに気付いた薫が飛鳥に事情を聞き、後日薫を通して響子にも伝えられた。

⏰:11/01/16 23:35 📱:N08A3 🆔:DOuhzdZM


#675 [我輩は匿名である]
代休を挟んだ休み明け。

まだ眠気とだるさが完全には抜けないが、直人は何となく早めに学校にやってきた。

「おはよう」

教室に入ると、珍しい事に飛鳥がすでに登校して来ていた。

「おう、珍しく早いな」

「今日日直だったからね」

「よく覚えてたな」

直人は笑いながら自分の席に着く。

飛鳥も直人の前の席に座る。

⏰:11/01/22 12:54 📱:N08A3 🆔:ZOWzt0vc


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