記憶を売る本屋 2
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#202 [我輩は匿名である]
「…大きなリュックサックを背負った男が、ある本を『読め』と押しつけてくる。

その本を読み終えると、ほとんどの奴は死んだり、行方不明になったりするって話だ」

薫は要点だけを拾って、簡単に説明した。

「…何で本を読んだだけで死ぬんだ?」

「内容に問題があるんだよ」

薫は眼鏡の汚れを見ながら答える。

「本の中身は、前世の自分の世界。

それも、自分の死ぬところまで見届けなければならない。

…過去の自分の記憶を取り戻せば、精神的に大きなショックを受ける。

そして、自分に対して絶望を感じる者は死を選び、恨む相手がいる者は殺しに行く」

⏰:10/05/16 12:36 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#203 [我輩は匿名である]
「…何なんだ…それは…」

良介は珍しく、真剣に話を聞いている。

「…まぁ、たまに過去の自分の悲劇に打ち勝つ者もいるけどな」

薫は最後に、それだけ付け足した。

「…なかなか興味深いな」

良介は腕を組んで言う。

「要するに、前世の本、って事か。…本当なのか?それは」

「それが原因で人を殺した男が、何ヵ月か前に捕まった。まんざら嘘でもないだろ」

眼鏡をかけ、薫は座ったまま良介を見上げる。

「まぁ本をもらったおかげで、物事が良い方に傾く奴もいるけどな。

今まで見えなかった物が、見えてきたりする奴も」

⏰:10/05/16 12:36 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#204 [我輩は匿名である]
「…そうなのか?」

「ほんの一部の話だ」

薫は小さく笑って、汚れのとれた眼鏡を外してケースに入れる。

「……そういえばさ」

薫達の様子を見ていた飛鳥が、ふと直人の方を向いた。

「ん?」

「あの自称・本屋の男、『代金は前世の奴からもらってる』って言ってたけど…

何の事だったんだろうね?」

飛鳥は首をかしげるが、直人はきょとんとしている。

「…そんな事言ってたっけ?」

⏰:10/05/16 12:37 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#205 [我輩は匿名である]
「忘れたの?まぁ気にならないっちゃ気にならないけど…。

私はちょっと気になってたんだ」

「まぁ…代金ってぐらいだし、金なんじゃねーの?」

直人はあまり考えずに返事をする。

「それじゃおかしい気がするんだ。

だって、私や要は高校生で、月城はサラリーマンだったし、響子も大人だった。

でも、私達みんな本をもらって、同じように前世を思い出した。

本当にお金が代金なら、月城と私達、どう考えても差があるはずでしょ?

私なんか、お小遣いとかほとんどもらってなかったんだから、お金なんてなかった。

だから…お金が代償じゃない気が…」

⏰:10/05/16 12:37 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#206 [我輩は匿名である]
「……お前、たまに難しい話するよな」

「意味わかってる?」

「半分ぐらい…」

頭を抱えてうなだれる直人に、飛鳥は後ろの黒板に何かを書き始めた。

「霜月優也というサラリーマンがいました。

彼は愛する妻の為に、汗水流して働いていました」

そんな話をしながら、飛鳥は黒板に、棒人間を2つ書く。

「で、こっちには長月要と石川晶という高校生がいました。

この2人は、ほとんどお金を持っていませんでした」

飛鳥は少し離れたところに、もう2つ棒人間を書く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#207 [我輩は匿名である]
直人は近寄り、それを見つめる。

「ある時、この4人は死にました」

「…展開早いな」

「そこはまぁ…。ここから仮説だけど…。

4人は『生まれ変わりたかったら、100万出せ』とおっさんに言われました」

「払えるわけねぇだろ!薫はともかく、俺高校生だぞ!?」

直人は思わず声を荒げる。

「そういう事だよ」

飛鳥は若干呆れたようにチョークを置く。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#208 [我輩は匿名である]
「同じ条件なら、同じ程の代償がないといけない。だからきっと、お金じゃない。

お金なら必ず、月城と私たちの間に差が出来るはずだからね。

だとしたら、私達はみんな、何を渡したんだろうって思って」

「…よくそんな事まで考えたな。そんな事サッパリだったぞ」

直人は感心したように頷く。

「俺は覚えてるぞ」

2人の所に、薫がやって来た。

「あいつは?」

「適当に追い返した」

見ると、もう教室内に良介の姿はない。

⏰:10/05/16 12:38 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#209 [我輩は匿名である]
「…それより、結局代金って何だったの?」

飛鳥は薫に尋ねる。

薫はチョークを手に取り、1人の棒人間の所に書き加える。

「“俺”は、ガンになるまでは風邪1つ引いたことがなかった。

大きな怪我をした事もない。言ってみれば、健康そのものだった」

薫は棒人間の口元に棒を1本加え、そこから緩やかな線を2本引っ張る。

煙草を吸っているように見える。

「…死んでから、“俺”は真っ白い世界で、ある女と会った。

長い銀髪をなびかせた、綺麗な女性だった…」

薫はその時の事を思い出しながら、4人の棒人間の上に、1人の女性の絵を描いた。

⏰:10/05/16 12:39 📱:N08A3 🆔:mFv/GhVU


#210 [我輩は匿名である]
優也が目を覚ました時、目の前には1人の女性がいた。

ドレスのような真っ白い服に身を包み、穏やかにたたずんでいる銀髪の女性。

「…あなたは…?」

優也は静かに尋ねる。

女性はゆっくりと、口を開いた。

「霜月優也…肺がんに伴う呼吸不全により死去…享年27歳」

女性はそれだけ言って、1度口を閉じた。

優也は眉間にしわを寄せ、女性を見つめる。

「…何故僕の事を?」

⏰:10/05/17 09:20 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


#211 [我輩は匿名である]
「…あなたは、生まれ変わりたいと思いますか?」

女性は優也の質問には答えず、逆に問い掛けてくる。

「生まれ変わる…?そんな事…」

「出来ますよ。…それなりの代償を払っていただければ」

「代償…」

優也はその言葉を繰り返す。

「………でも…僕には“代償”に出来る程の物はありません」

少し考えて、優也は弱々しい笑みを見せる。

⏰:10/05/17 09:21 📱:N08A3 🆔:jTxbwtII


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