記憶を売る本屋 2
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#262 [我輩は匿名である]
直人は「ふぅん」とだけ返事を返す。
「まぁ、あれだ。ここから先はガールズトークってやつだよ」
薫はその場に腰を下ろしながら言った。
まぁ直人にはわからないだろうけど、と思いながら。
「なんか、女ってめんどくせぇな」
直人は頭の後ろに手を組んでため息をつく。
その横で、響子は飛鳥に耳打ちする。
「何かあったら、いつでも言いなよ。大体は奏子ちゃんの事でしょ?」
「…うん」
「悩みはね、人に話したら大体すっきりするものよ。ね?薫」
:10/05/28 22:09
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#263 [我輩は匿名である]
「ん?あぁ…」
「どう考えても、悩みはため込むタイプだろ、お前」
「……まぁ、どっちかっていうとな」
「だめよ、ため込むだけため込んでると、そのうち…」
「大丈夫だよ、ハゲるまでは悩まないから」
「まだその話引っ張ってんのかよ」
「え、あんたハゲるの?」
「あーあ、クールな性格が台無しだな」
「誰がハゲるって断定したんだ」
好き放題言い出した2人を薫が睨む。
隣では、そのやり取りを見ながら響子が笑っている。
:10/05/28 22:09
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#264 [我輩は匿名である]
「(…………ふぅん…)」
屋上のドアの隙間から、奏子が4人のやりとりを見つめていた。
最初は盗み見するつもりではなかったのだが、
急に直人が飛鳥に向かって怒鳴りだしたため、出ていくタイミングを失ってしまったのだ。
今の4人の会話は遠くて聞き取れないが、怒鳴っていた直人の言葉だけは聞こえていた。
「(……飛鳥の前世…自殺だったって事か…。
しかも、なんか水無月の前世の人と仲良かったみたいだし…)」
奏子は暗い顔で考え込む。
直人が『もうあんな事してほしくない』と言っている所を見ると、
かなり深い関係があったようだ。
:10/05/28 22:09
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#265 [我輩は匿名である]
その上、『ついでに妊婦も道連れに』という発言も引っ掛かる。
以前、直人が響子に『飛び降り自殺に巻き込まれて死んだんだろ?』と言っていた。
『巻き込んだ』のが飛鳥だったとしたら、話が噛み合ってくる。
「(…まさか…そんな出来すぎた話…)」
あるわけない。そう思いたかった。
しかしそれ以前に、前世だの過去に行くだの、ありえない話が起きている。
こうなれば、飛鳥と響子の関係だって、ありえない事もない。
「(………あーっ、止めよ!考えるのめんどい!)」
奏子は疑問を振り払うように首を振る。
そして、再度4人の様子をうかがった後、階段を降りていった。
:10/05/28 22:10
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#266 [我輩は匿名である]
そして、待ちに待った月曜日。
「おっしゃー!!優勝するぞこらー!!」
「おー!!」
男子体育委員の掛け声に、クラス全員が奮起する。
「(野球する薫の姿が見れるのかぁ…♪)」
響子は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「(水無月にいいとこ見せないとね!)」
奏子は奏子で、担任の話を聞きながらそんな事を考えていた。
「(……球技大会か…早く終わらないかな…)」
飛鳥だけは、ため息をついていた。
:10/05/28 22:11
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#267 [我輩は匿名である]
5人の中で、出番が1番早いのは薫だった。
ルールでは、野球部以外の選手相手には、ピッチャーは本気で投げてはいけないらしい。
「ちっ…本気で投げてこないのか…」
ジャンケンで負けて1番バッターになってしまった薫は、
つまらなそうに小さく舌打ちをする。
「月城ー!男を見せろー!」
「フィアンセが見てるぞー!!」
「いいとこ見せなきゃアメリカンに取られるぞこらー!!」
「(…うるせぇなぁ…)」
クラスメート達の変な声援にムッとしながら、薫はバットを構える。
:10/05/28 22:11
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#268 [我輩は匿名である]
「おー、構えはやっぱり慣れてる感じあるな」
「優也の野球歴なめないほうがいいわよ」
フェンスごしに、直人達も薫を見ている。
相手は2年生で、ピッチャーもボールを構える。
そして、下から軽くボールを投げてきた。
「(…ちょろいな)」
薫はにやっと笑い、思いっきりバットを振る。
その直後、カキーンという快音が運動場に響き渡り、ボールは外野の頭を軽々飛び越えていった。
1発目から出たホームランに、相手チームもチームメイトも、ギャラリーでさえぽかんとする。
:10/05/28 22:12
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:TdbZtgtI
#269 [我輩は匿名である]
その間に、薫は涼しい顔で塁を回っていく。
2塁を回ったらへんで、ギャラリーから一斉に声が上がった。
歓声と、早くも絶望感の込もった2種類の声が。
「月城ー!お前は神だー!!」
ホームに戻るなり、チームメイト全員が薫に駆け寄ってきた。
「まぐれだろ、多分」
全くまぐれではないのだが、薫は笑いながら言った。
「薫ー」
名前を呼んで大きく手を振る響子。
それが届いたのか、薫が4人の方を向き、手を振り返してきた。
:10/05/28 22:12
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:TdbZtgtI
#270 [我輩は匿名である]
「すげー!すげーなあいつ!!」
直人は興奮して声を上げる。
「言ったでしょ?」
「…すごい…」
「あんなの打てるんなら、野球部入れば良かったのにね」
「入らないわよ、坊主にしないといけないもん。薫が坊主なんて、絶対許さない…」
「(……たまに出るこの怖い笑顔は何なんだ…?)」
奏子の疑問に笑顔で答える響子に、直人と飛鳥は何故か鳥肌が立った。
その後、薫はバッターボックスに入る毎にヒットやホームランを打ち続け、
第1試合は13対5で終わった。
:10/05/28 22:13
:N08A3
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#271 [我輩は匿名である]
次の出番は奏子のハンドボール。
運動が好きな奏子は、コート中を駆け回り、ディフェンスも振り切ってゴールに突っ込み続ける。
「あいつもすげーな」
直人は意外そうに笑う。
「本当だね。まぁ、運動は得意そうだけど」
飛鳥もボーッと奏子の動きを見ながら頷く。
「…あんたは、やっぱりスポーツ好きな子が好き?」
何気なくそう聞かれて、直人は「へ?」と飛鳥に目を向ける。
「んー…まぁ、どっちでもいいけどな。別に好きな女のタイプとかないし」
:10/05/28 22:13
:N08A3
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