記憶を売る本屋 2
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#305 [我輩は匿名である]
「で、試合どうなってんだ?」

直人は話を変えて、試合に目を向ける。

「薫のおかげで圧勝よ」

響子は笑顔でそう言いながら得点板を指差す。

4回裏で10対3という点差。

といっても、9回までやっていると終わらないので、5回裏で終わるルールなのだが。

「…すごいね、あいつ天才じゃない?」

「そりゃ、子どもに野球教えるんだって張り切ってるぐらいだからね」

3人はそれぞれ話ながら、バット片手にクラスメイトと喋っている薫を見る。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#306 [我輩は匿名である]
「負けた負けたー!」

3人が黙っていると、試合を終えた奏子がやってきた。

「なんだ、みんなこっち見てたんだ」

奏子はつまらなそうに口を尖らせる。

「だってハンドボール好きじゃねーし」

直人は眉間にしわを寄せて言い返す。

すると、ちょうど野球の試合も終わったらしく、男子たちが整列している。

「…次って準決勝か?」

「そうみたいだね」

直人に聞かれ、飛鳥は頷く。

⏰:10/06/01 20:19 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#307 [我輩は匿名である]
「んー、見飽きてきたな…」

割と飽きっぽい直人は、腕を組んで呟く。

「俺、茶飲んでくるわ」

「あっ、私も行く!」

教室に向かう直人に付いて、奏子も走りだした。

「…行かなくて良いの?」

響子は飛鳥に尋ねるが、飛鳥はけろっとしている。

「だって、私今日お茶持ってきてないし」

「あ、そう…」

意外とあっさりしている飛鳥に、響子は「いいのかな、それで」と思いながらため息を吐いた。

⏰:10/06/01 20:20 📱:N08A3 🆔:KmSiWdQY


#308 [我輩は匿名である]
一方直人達は、靴を履き替えるのが面倒なので、靴下で教室に向かっていた。

「…なんかさ」

階段を上る途中、奏子が口を開いた。

直人は歩きながら「何?」とだけ返事する。

「最近、あんまり学校楽しくないんだよね…私」

奏子はいきなり、そんな話を始めた。

いつも元気な奏子がそんな事を言ったため、直人はきょとんとして足を止める。

「どうしたんだよ?いきなり」

「…ほら、私だけ都市伝説の本もらってないじゃん?だから響子達の話に入れなくて」

奏子は苦笑いして言う。

⏰:10/06/04 08:41 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#309 [我輩は匿名である]
「あ、2人とも私の前でそんな話しないよ?

しないけど…5人でいる時とかにそんな話になったりするじゃん?

それで、ちょっと…ね」

「あぁ…」

直人は「確かにな」と頭を抱える。

「悪かったな、そういうの気付いてやれなくて」

「…えっ?いや、気付いてほしかったわけじゃ…」

急に謝られて、奏子は慌てて否定する。

しかし、直人は勝手に「そうだよな」と話を進める。

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#310 [我輩は匿名である]
「なんつーか、話してると勝手にそっちの話になっちまうんだよ。

でも、前世の記憶なんか無い方が良いぞ?」

「何で?」

「…なんか、それに縛られてる感じがするっていうか。

…俺は、な。薫達はあった方がいいのかもしれねぇけど」

直人は髪を触りながら首をかしげる。

「ふぅん…。いろいろあるんだね、みんな」

「そりゃな。神崎はどうなのかわかんねぇけど…。

あぁ、でもあいつにはあった方がいいかもな」

直人は本の話の内容はしないようにと心がけながら話す。

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#311 [我輩は匿名である]
「…やっぱ、あんたと飛鳥って関係あったんだね」

奏子は、かまをかけるように直人を見る。

「…まぁ、あるっちゃあるけど」

直人は曖昧な返事をして、逃げるように階段を上り始める。

「(やべぇな…何かポロッと言っちまいそうだ…)」

困り果てて髪をぐしゃぐしゃにしながら、直人は自分の教室に入る。

「(さっさと茶飲んで、神崎達の所に行こ…)」

ペットボトルの茶を飲みながら、運動場を見てみる。

薫達はさっきの試合に引き続き、準決勝の試合に入っている。

「(……前世の記憶が無かったら、みんなどうなってたのかな…?)」

⏰:10/06/04 08:42 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#312 [我輩は匿名である]
運動場にいる3人を見ながら、直人は考える。

「(香月は前、『前世の記憶が無くても、薫を好きになったかも』って言ってたな。

でも、薫に前世の記憶が無かったら…なんか、想像できないな)」

直人よりも前から前世の事を知っていた薫。

直人にとって、薫はある意味先輩のようなもの。

その薫に前世の記憶が無かったら、なんて考えられない。

「(…生まれ変わる為に、あんな腹黒いもやしになったんだよな。

だったら、前世の記憶を持って生まれてこなかったら…

もっと明るくて、毎年インフルエンザにかからない丈夫な奴だったのか?

……明るくて元気な薫とか…気持ち悪いな…)」

⏰:10/06/04 08:43 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#313 [我輩は匿名である]
奏子のような性格の薫を想像してみると、なんだか寒気がした。

「(…薫の事考えるのはやめよ。

神崎は…神崎はどうなるんだろ?もっと平和な育ち方したのか?

…いや、もしかしたら、もっと引きこもりになってたかも……)」

有り得る。考えながら自分で頷く。

窓際でボーッとしている直人を、奏子は「何してるんだろう?」と眺める。

「(つーか、俺達は何を代償にされたんだろ?

薫は心と健康な身体…。薫の前世って…どんな奴だったんだろ…。

……いやいや、それは今どうでもいい。香月や俺、神崎は…何を取られたんだろ?)」

手摺りに肘をついて、直人は首をひねる。

⏰:10/06/04 08:43 📱:N08A3 🆔:K5pa3eMc


#314 [我輩は匿名である]
「(なんだったんだろうなぁ…?今の…)」

運動場に向かいながら、直人はポケットに手を突っ込みながら考える。

「さっき、何考えてたの?あんた」

奏子が不思議そうに尋ねてくる。

窓際で、黄昏るような雰囲気で外を眺めていた直人。

いつもとは違うその様子が、奏子は気になっていたらしい。

「あ?いや…まぁいろいろな」

直人はそう言ってはぐらかす。

本の事について聞かれるのも、だんだんめんどくさくなってきた。

奏子は「いろいろ?」と、不満そうに直人を見ている。

⏰:10/06/06 13:49 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


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