記憶を売る本屋 2
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#322 [我輩は匿名である]
「あ?あぁ…」

3人から見られて、直人は困ったように後ずさる。

「……ど、どうでもいいじん、そんな事」

「まぁ、どうでもいいと言えばどうでもいいけどね」

飛鳥ほど気にはならないらしく、響子はそう言って試合に目を向ける。

「…あら、いつの間にか終わってたみたいね」

響子に言われて、3人もそっちに目をやる。

薫たちの対戦相手だった生徒達が引きあげると同時に、決勝戦で戦うチームが入ってきている。

体操服の色からして、3年生のようだ。

「おい、そこの」

左肩にコールドスプレーを吹き掛けていた薫に、大将らしい生徒が話し掛ける。

⏰:10/06/06 13:53 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#323 [我輩は匿名である]
「…はい」

背後から話し掛けられて、薫は振り向く。

「(……こいつ、野球部のキャプテンだった奴か)」

高校総体の壮行会の時に見たことがあった。

「お前、あんな速さの球ばっかり打ってて楽しいか?」

この夏までキャプテンだったその男子が薫に言う。

「どういう意味ですか」と、薫は首をかしげる。

「あんな、誰にでも打てる球しか相手に出来なくて、つまらなくないか?

どこで経験積んだのか知らねぇけど、結構良い腕してるみたいだしよ。

……ちょっと、本気で投げてみてぇなって思ったわけ」

⏰:10/06/06 13:53 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#324 [我輩は匿名である]
元キャプテンは、少し笑ってそう言った。

薫は少し考える。そんなに簡単にルール変更できるのだろうか?と。

しかし、フッと笑い返して薫は言った。

「…確かに、正直面白くないな、とは思ってたんですよ。

12年も野球やってたんだし、本気出せるんなら出したいですね」

「(12年…?こいつ、いつから野球やってんだ…?)」

元キャプテンは少々疑問に思いながらも、薫の返事に笑みを浮かべた。

「じゃあ、やるんだな?」

「えぇ、受けて立ちましょう」

⏰:10/06/06 13:54 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#325 [我輩は匿名である]
「……何だ?あいつ」

「喧嘩でも売られてるんじゃないの?」

2人が何を話しているのかわからず、直人達は遠くからそれを見つめている。

「………あの人さぁ」

黙って薫の話し相手を見ていた奏子が口を開く。

「知ってんの?奏子」

「この間まで野球部キャプテンだった、ピッチャーの人じゃない?」

奏子の言葉に、3人は一瞬きょとんとする。

「…マジで!?」

「じゃあ絶対喧嘩じゃん。『お前調子乗んなよ』…みたいな」

⏰:10/06/06 13:54 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#326 [我輩は匿名である]
直人と飛鳥は奏子と話し合う。

が、響子はじーっと、審判と話している薫達を見つめる。

しばらくして、グラウンド中にアナウンスが流れた。

『野球の決勝試合では、一部の生徒のみ、

“スローボールしか投げてはいけない”というルールから除外される事になりました』

「…はぁ…?」

直人は思わず首をかしげる。

同時に、ギャラリーも「何事か」とざわつき始めた。

「何だ?どういう事だ?」

「ようするに、手加減抜きで投げてくるって事じゃないの?」

⏰:10/06/06 13:55 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#327 [我輩は匿名である]
「えっ!?そんなん有りかよ!?

あいつキャプテンなんだろ?ピッチャーなんだろ!?ヤバいじゃん!!」

「年上の人の事『あいつ』とか言わない」

ギャーギャー騒ぐ直人の横で、飛鳥が冷静に言い返す。

「でも、薫も結構やる気みたいよ」

ほら、と、響子は薫を指差す。

⏰:10/06/06 13:56 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#328 [我輩は匿名である]
「…ギャラリーがうるさいな。本当にいいんだな?」

投げる前に、元キャプテンが薫に呼び掛ける。

「いいですよ。思いっきり投げて下さい」

薫も、元キャプテンに届くように、少し声を大きくして答えた。

元キャプテンは笑って、地面を踏みしめてボールを構える。

そして、大きく肩を回して、キャッチャー目がけて思いっきりボールを投げた。

パァン!という音がして、ボールがキャッチャーのグローブにあたる。

薫はバットを振る素振りを見せず、キャッチャーに捕まれたボールを横目で見る。

「…手が出なかったか?ストレートだぞ」

ボールをピッチャーに返しながら、キャッチャーが薫に言う。

⏰:10/06/06 13:57 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#329 [我輩は匿名である]
「……速いですね。125km/hってとこですか?」

「………はっ、見てただけかよ」

薫の表情を見て、キャッチャーは呆れたように笑う。

ピッチャーはまた、ボールを構え、投げてくる。

薫は飛んでくるボールを目で追い、勢いよくバットを振った。

カン!と音がして、ボールがバットに当たる。

しかし、ボールはラインの外に転がっていった。

「……ファールか」

薫は小さく舌打ちをして構え直す。

⏰:10/06/06 13:57 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#330 [我輩は匿名である]
「おい…勝てんのかよ?」

直人達はハラハラしながら薫を見つめる。

「お前、薫が負けたら絶対あのピッチャー殺しに行くだろ」

「どうでもいいわ、ピッチャーなんて」

直人に言われて、響子はきっぱりと答える。

「野球に燃える薫、かっこいい…♪」

「…燃えてんの?あれ」

「燃えてるじゃない!」

「わかんねーよ!!」

直人が響子に言い返した瞬間、再びバットの快音が響き渡った。

⏰:10/06/06 13:58 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


#331 [我輩は匿名である]
ギャラリーが声を上げる中、4人はそろって視線を戻す。

ボールが二塁と三塁の間を抜けている間に、薫は一塁まで走る。

「おー!すげぇ!!」

「かっこいい薫ー!!!」

「(延長戦とかなったら嫌だなー…)」

興奮している3人を尻目に、ボールがくる前に一塁に着いた薫は、右手で左肩をさする。

⏰:10/06/06 13:59 📱:N08A3 🆔:p4xWyoPk


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