記憶を売る本屋 2
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#625 [我輩は匿名である]
頭の中で話していると、急に強い風が吹き抜けた。
空を見上げると、さっきよりも雪がひどくなってきている。
「この天気じゃ危ないですよ…。もうこっちじゃちょっと吹雪いて…えぇ…。
…はい、はい…わかりました…はい…」
男性の話からも、吹雪いてくるのは時間の問題だと思われる。
「あの!」
直人はスキー板を外し、男性の元へ駆け寄る。
「…遭難って、誰が助けに行くんですか?」
他の生徒に聞こえないように、小声で尋ねる。
:11/01/03 22:35
:N08A3
:LGFlTx3A
#626 [我輩は匿名である]
「…え、もしかして聞こえてた?」
「あ、いや…勘っすよ。女子が遭難したんじゃないんですか?」
図星らしく、男性は困った顔で「うーん…」と言葉を濁す。
「…どうなったんですか?生きてるんですよね?」
直人は男性に詰め寄る。他の生徒が気になって見ているが、それどころではない。
「生きてるとは思うよ。落ちた場所もそんなに危ない所じゃないし…」
どっかから落ちたのか。直人はそれを聞き逃さなかった。
「多分今救助要請してると思うけど、何せこんな天気だからなぁ…。
とりあえず、危ないから俺たちも今から降りよう」
:11/01/03 22:36
:N08A3
:LGFlTx3A
#627 [我輩は匿名である]
直人は仕方なく列に戻ってスキー板を履く。
少しは慣れただけなのに、板にはすでに雪が積もり始めている。
救助要請したって、この天気だと救助ヘリが飛ぶかわからない。
それ以前に、要請を受けて救助に来るまでにかかる時間もある。
おまけに、飛鳥が今どこにいるのかすら定かではない。
怪我で出血でもしていたら、下手すれば手遅れだ。
「(………要)」
「何?」
:11/01/03 22:36
:N08A3
:LGFlTx3A
#628 [我輩は匿名である]
「(神崎がどこにいるのか、わかったりする?)」
直人はぎゅっと、ストックを持つ手をかたく握る。
「……自分で行く気?」
「(場所がわかれば行く。じゃないと、いつ助けてもらえるかわからないだろ)」
直人の決意は、どうやっても覆らないようだ。
最初はあんなにグレていたのに、今では打ち解けようと頑張っている飛鳥。
ここまで立ち直ったのに、こんな所で死なせたくない。
その思いは、要も同じだった。
:11/01/03 22:37
:N08A3
:LGFlTx3A
#629 [我輩は匿名である]
「…自分も死なないって自信ある?」
「(大ありだ!無かったらこんな事考えねぇよ!)」
「…じゃあ、俺の言う通りに滑ってよ」
「(任せろ!)」
直人は答えると同時に、順番を無視して滑りだした。
「水無月!?」
驚いた男子達の声を振り切って、直人はさっさと滑り降りる。
:11/01/03 22:38
:N08A3
:LGFlTx3A
#630 [我輩は匿名である]
不思議な事に、救助に任せようという気にはならなかった。
“怖い”という気持ちも、“自分も遭難したら”という気持ちもない。
あるのは、“俺が行かないと”という、根拠の無い変な使命感だけ。
「右側にいて。あと、もうちょっとゆっくり」
「ゆっくり滑ってる場合かよ」
「じゃなくて、通り過ぎちゃったら意味ないだろ!」
「あぁ、そうか」
要に怒られて、直人はやっと蛇行し始めた。
:11/01/04 21:22
:N08A3
:CNkCJZG6
#631 [我輩は匿名である]
「…あそこじゃね?」
しばらく滑ると、斜面の右端で女子グループが留まっているのを見つけた。
「…みたいだけど、邪魔だな。もうちょっと降りて」
要に指示されて、直人はルートを変えて更に降りる。
「……あ、止まって」
直人は言われた通りに、右に寄って止まる。
女子グループが止まっている所とふもとの、ちょうど中間くらいの高さだ。
また、さっきよりも少し斜面が緩やかに見える。
:11/01/04 21:23
:N08A3
:CNkCJZG6
#632 [我輩は匿名である]
「…ここから降りれる?」
緩やかながらも、やはり危険なのか、進入禁止のテープが張ってある。
「…あぁ」
「気をつけてね。お前が怪我したらどうしようもないんだから」
「へっ、そんなヘマするかよ」
ひと呼吸おいた後、テープをくぐり、コースを外れて滑りだした。
今までの斜面より急勾配だが、集中していれば滑れない事もない。
しかし、雪の質がゲレンデとは違ってフカフカなため、少々滑りにくい。
:11/01/04 21:23
:N08A3
:CNkCJZG6
#633 [我輩は匿名である]
「つーかさぁ!何でお前わかんの!?」
「そんな大声を出さなくても十分聞こえてるよ」
「うっせぇ!さっきからスピード出し過ぎて耳痛ぇんだよ!で、何で!?」
「……俺は、ちょっと特別だからだよ」
「はぁ!?何それ!?どういう……あ!」
話している途中で、前方に誰かが倒れているのを見つけた。
「いた!!」
ストックで雪を蹴り、さらにスピードを上げる。
転びそうになりながらも、何とか降りきった。
:11/01/04 21:23
:N08A3
:CNkCJZG6
#634 [我輩は匿名である]
「神崎!」
急いでスキー板を外して、飛鳥に駆け寄る。
見たところ、血は出ていない。
うつ伏せになっている飛鳥を抱き起こし、何度も声をかける。
すると、飛鳥がうっすらと目を開けた。
「神崎、大丈夫か!?」
「水無月…?」
飛鳥はボーッとしながら、直人の名前を呼ぶ。
「怪我は?どっか痛いとこ無いか?」
:11/01/05 19:20
:N08A3
:4VAH5Vzw
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