記憶を売る本屋 2
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#650 [我輩は匿名である]
昨日から考えていた事と重なり、直人は更に考え込む。

『もし前世の記憶がなかったら、自分は誰を好きになるんだろう』

前世の記憶が無くなったら、もしかしたら奏子と付き合うのかもしれないし、

あるいは全く違う人と付き合う事になるのかもしれない。

そうなった時、飛鳥は…。

「(いや…神崎はもう今までの神崎じゃない。そんな事でへこたれる奴じゃないはずだ)」

信じるしかない。直人は何度も自分にそう言い聞かせた。

⏰:11/01/08 12:34 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#651 [我輩は匿名である]
しばらく黙って歩いて、直人はまた口を開く。

「そういえば、何でさっき神崎の場所がわかったんだ?」

「俺には、神崎飛鳥を手助けできるように特別な力があるんだ。

まぁ言っちゃえば幽霊みたいなものだからね、俺。

幽霊がポルターガイスト起こせるのと同じような感じだと思うよ」

「…そんなもんなのか」

「期待外れ?」

「…ちょっとな」

直人は小さく笑う。

⏰:11/01/08 12:34 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#652 [我輩は匿名である]
「あんまり使い過ぎるのも神崎飛鳥の為にならないから、

必要以上に使わないようにしてたんだ。直人と話して助言する事は何回かあったけどね」

「……お前、最初から俺の中にいたのか?」

「うん。直人が全部思い出してから、ずっとね。

喋れる事に初めて気が付いたのは運動会の時だったけど」

「(運動会?あぁ、球技大会の時のあれの事か)」

「おかげで神崎飛鳥には幽霊だって恐がられるようになっちゃったけどねー」

2人は笑いながら話す。

思えば、こうやって要と話すなんて、あり得ない事だ。

⏰:11/01/08 12:35 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#653 [我輩は匿名である]
前世の自分と、生まれ変わった姿の自分。

「なんかでも…すげぇよな。前世とその生まれ変わりが一緒にいるんだぜ?」

「はははっ、そうだね。俺達だけじゃないの?」

「だろうな。でも…お前の事忘れるって事は、この事も忘れるんだよな…?」

「まぁ、そうなるね」

「あーあ、なんか残念だし、淋しいな」

「そうだね。それも今だけだよ。記憶が無くなれば、もう思い出す事はないんだし」

「……いつなんだよ?前世の記憶が無くなるの」

⏰:11/01/08 12:35 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#654 [我輩は匿名である]
「………今日、かな」

しばらく間を置いて、ぽつりと要が言った。

「お前なぁ、そういう事はもっと早く言えよ」

「あんまり早く言ったら、考え込んで元気無くなっちゃうじゃないか。

だから、わざわざショック受けてる時間が短くて済むように黙ってたんだよ」

「…それにしても急すぎだろ」

「本当はもっと早く消えようと思ってたんだけどね。でも良かったよ。今日まで残ってて」

「あぁ。お前がいてくれて良かった」

直人にそう言われて、要も小さく笑った。

⏰:11/01/08 22:46 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#655 [我輩は匿名である]
前世の記憶が無くなるなんて、今になっては全く想像出来ない。

思えば、『あの本をもらった者は死ぬ』と言われていた都市伝説。

それに自分が巻き込まれるなんて、あの時は思いもしなかった。

それがいつのまにか、前世の記憶がある事が当たり前の生活になっていた。

明日からは、ただの普通の男子高校性に戻る事になる。

淋しくなるな。実感がまだ全くわかないながらも、直人は心から思った。

すると、遥か遠くの方に人影がいくつか見えた。

「着いたみたいだね」

助けに来た人を見た瞬間、どっと疲れを感じ、直人はその場に座り込む。

⏰:11/01/08 22:46 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#656 [我輩は匿名である]
「…直人」

「ん?」

顔を上げると、要がこっちを向いていた。

「1つだけ、いい?」

「何だよ?」

「長生きしろよ。そして、…幸せになれ」

そう言って、要は笑った。

⏰:11/01/08 22:47 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#657 [我輩は匿名である]
直人も笑い返し、返事をする。

「おう、雲の上からちゃんと見とけよな」

2人は最後に笑い合う。

その直後、直人は強烈な眠気に襲われ、そのまま気を失ってしまった。

意識の遠くの方で、「さようなら、直人」と言う、誰かの声が聞こえた。

⏰:11/01/08 22:48 📱:N08A3 🆔:6qVLbmdA


#658 [我輩は匿名である]
「晶ちゃん」

誰かに名前を呼ばれて、飛鳥は静かに目を覚ます。

要がトラックにはねられて死んだ、あの横断歩道。そこに、飛鳥は立っていた。

そしてガードレールの所には、要が腰掛けている。

「要…」

「久しぶり、晶ちゃん。…いや………飛鳥ちゃん」

要は言い直し、飛鳥に微笑みかける。

ここは夢の中みたいだ。飛鳥はすぐにそう思った。

「……何で…?」

⏰:11/01/09 17:36 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


#659 [我輩は匿名である]
「…ちょっと、会いたくなって」

「…あたしも、会いたかった」

飛鳥はきゅっと、体の横で手を握る。

「ずっと…要に言いたい事があったんだ。でも、いつまでも言えないままで…」

要は飛鳥を見つめたまま聞いている。飛鳥の目に涙が浮かぶ。

「……ごめんなさい」

言うのと同時に、飛鳥の頬を涙が伝った。

「私があの時、要の話をちゃんと聞いてたら…信じてたら…!」

⏰:11/01/09 17:36 📱:N08A3 🆔:HkzzrEHw


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