記憶を売る本屋 2
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#661 [我輩は匿名である]
「…でも、それも今日で終わり」
要はやはり、どこか名残惜しそうにため息を吐く。
「飛鳥ちゃん、俺が言う事…よく聞いてね」
「…うん」
「…君が目を覚ました時、水無月直人は前世の記憶を全部失くしてる」
要のその一言に、飛鳥は目を丸くする。
「…何…」
「俺の事も、晶ちゃんの事も、前世に関わる記憶は何もかもね。
…信じられないと思うけど、これが俺達のルールなんだ」
:11/01/09 17:37
:N08A3
:HkzzrEHw
#662 [我輩は匿名である]
「ルールって…何…!」
言い掛けた瞬間、飛鳥の脳裏に、ある光景が広がった。
目の前にいる女性、交わした会話、示された“条件”…。
晶があの女性とした“取り引き”を、飛鳥は全て思い出した。
「……俺の言ってる事、わかるよね?」
全てを悟った飛鳥は、茫然としながらも静かに頷いた。
「大丈夫だよ、今の君なら」
要はぽんと、飛鳥の肩に手をおく。
:11/01/09 17:38
:N08A3
:HkzzrEHw
#663 [我輩は匿名である]
「…要…」
「ん?」
涙を拭ききって、飛鳥は小さく笑みを見せる。
「ありがとう。今まで、一緒にいてくれて」
泣かないようにとこらえているが、声が震えている。
「私、これから頑張るよ。もう『死にたい』なんか言わない。
友達と喧嘩しても、家族に見下されても、自分で何とかする。
…だから、ちゃんと見ててね」
飛鳥のその言葉に、要はホッとしたように笑い返した。
:11/01/09 17:39
:N08A3
:HkzzrEHw
#664 [我輩は匿名である]
「見てるよ、飛鳥ちゃんの事も、直人の事も」
そう言って、要はぺちっと、飛鳥の頬に両手をあてる。
「苦しくなったらまわりを見てみて。今の君には、支えてくれる人がたくさんいるから。
ここまで頑張って得た友達は、きっとずっと、君の宝物になる。
自信を持って」
:11/01/09 17:39
:N08A3
:HkzzrEHw
#665 [我輩は匿名である]
「…うん…!」
飛鳥は大きく頷いた。
「元気でね」
「うん。…本当に、ありがとう」
2人は再び笑い合った。初めて出会ったあの日の、長月要と石川晶のように。
:11/01/09 17:40
:N08A3
:HkzzrEHw
#666 [我輩は匿名である]
「(……どこだ…?ここ…)」
目を覚ました直人は、ボーッと天井を見つめる。
ゆっくり起き上がってみると、どこかの病院の個室のようだ。
「(……何で俺…病院にいるんだ…?)」
何があったか思い出そうとするが、全く頭が働かない。
頭を抱えつつ、窓の外の雪景色に目をやる。
「(…雪…そうだ…スキー実習に来たんだ…。
それで…香月がインフルエンザにかかったり…班行動で薫がどっか行ったり…
あぁ…安斎に告られて…神崎が遭難したとかで…)」
:11/01/16 23:29
:N08A3
:DOuhzdZM
#667 [我輩は匿名である]
そこまで考えてやっと、自分のした事を思い出した。
「……そうだ…神崎は…?」
探しに行こうと布団をめくると、それと同時に病室のドアが空いた。
入ってきたのは、病衣を着た飛鳥だった。
「水無月…!」
起き上がっている直人を見て、飛鳥は驚いた顔で駆け寄ってきた。
「大丈夫!?あんた、いつまで経っても起きないから、心配で…」
「…今何時…?」
「朝の7時だよ」
:11/01/16 23:29
:N08A3
:DOuhzdZM
#668 [我輩は匿名である]
「……マジ…?」
そんなに寝倒したのか。直人は深く息を吐く。
「お前は…怪我してなかった…?」
「あたしは大丈夫。ちょっと手首ひねったぐらいで」
「そう…そりゃ良かった」
直人は笑って返すが、その笑顔にもどこか力が無い。
飛鳥は彼の様子がおかしい事に気付き、少し首をひねる。
「水無月…?」
「ん…?あぁ…なんか頭がボーッとしちゃってさ…」
:11/01/16 23:30
:N08A3
:DOuhzdZM
#669 [我輩は匿名である]
直人は眠そうに目をこすりながら小さく笑う。
「俺…どうやってお前を助けに行ったのかとか…全く覚えてないんだよ…。
何でお前の場所がわかったのかとか…何でお前が遭難したのがわかったのかとか…。
…それだけじゃなくて…何か…もっと大事な事忘れて気がするんだけど…全然…。
変だよな…。頭とか打ったわけじゃないのに…」
声を押し出すようにして話す直人を、飛鳥はじっと黙って聞いている。
「……水無月、……“長月要”と“石川晶”って名前、聞いたことある?」
直人が話し終えたのを見て、飛鳥が静かに尋ねた。
直人は「んー…」と頭をひねる。
:11/01/16 23:30
:N08A3
:DOuhzdZM
#670 [我輩は匿名である]
「…無い…と思う」
「両方?」
「あぁ…」
飛鳥は小声で「そっか」とだけ答える。
こういう答えが返ってくることはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
“もしかしたら”と、一縷の望みを捨てきれなかったのだ。
「そいつらが、どうかした?」
「う、ううん。…あたしの勘違い」
:11/01/16 23:31
:N08A3
:DOuhzdZM
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