その日が来る前に、2
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#1 [愛華]
:10/10/06 00:43
:840SH
:ZQKECwM.
#2 [愛華]
次の日。
俺はいつもどおり学校へ向かった
「おっはよタカ!お土産は?」
梓がいつものように背中を叩く。
本当にいつもどおりの朝。
「おぅ、ほれ。『むにチョコ』」
「なにそれ〜?あ、本当にむにむにしてる。ありがとー」
:10/10/06 22:10
:840SH
:ZQKECwM.
#3 [愛華]
梓はチョコを食べながら言った。
怪しげなチョコをこんなに喜んでくれるとは…梓、いいやつ。
「てゆーかさ、普通って宿泊研修とかの次の日って休みなんじゃないの?」
「そうなんだよなーひどいよな。
まぁ午前だけで終わりだし。
明日から休みだからいいけどー」
「ふーん。明日さ、タカんち
遊びいってもいいかなぁ?」
:10/10/06 22:28
:840SH
:ZQKECwM.
#4 [愛華]
「あぁ……明日ならいーよ。
ゲームするか。久々に」
「やった♪」
小さいころからよく家には
梓がいた。いつもいた。
いつのまにか父さんと母さんとも梓は仲良くなっていった。
「ほら、直純いっちゃうぞ」
「あ、うんそれじゃあね」
だいじょうぶ。いつもどおり。
:10/10/06 22:50
:840SH
:ZQKECwM.
#5 [愛華]
学校へつき、下駄箱へ向かう。
……なんだろう。
いつもどおりなのに
いつもと違う気がするんだ。
教室の前につくと、それは明らかに
強く俺を包んだ。
入った瞬間にその正体はわかった
ガラッ
「たっかのりー!!
お前やるなぁ!!女子が苦手とか言っといてよー!!」
:10/10/07 00:39
:840SH
:N/hOSzgk
#6 [愛華]
「………え?」
黒板を見ると、そこには
『赤石隆則×水沢真理菜の
熱愛発覚!!宿泊研修の夜、
キス!!お幸せにー!!』
な、んだよこれ。なんで?
真理菜ちゃんのほうを見ると、
真理菜ちゃんは恥ずかしそうに
赤くなり照れるように笑っていた
頭の中は真っ白だ。
意味がわからない。
わかりたくもない。
:10/10/07 00:43
:840SH
:N/hOSzgk
#7 [愛華]
「おまえらいつから出来てたんだよー!?白状しろよー!!」
「ち、ちが……」
「照れんなよー!二人して真っ赤になってやんのー!!」
クラスのみんなが騒ぎ立てる。
「……うっせーな……」
騒ぎ声に混じって聞こえた。
冷たい声。
……………………達也。
:10/10/07 00:47
:840SH
:N/hOSzgk
#8 [愛華]
「達也!!」
俺は達也のもとに走った。
「俺は………」
言おうとして気づいた。
何を言っても言い訳でしかない。
そんなつもりなかった
隠す気なんてなかったんだ
なにを言っても同じだ。
俺は……達也を陰で裏切ってた。
その事実は変わらない。
:10/10/07 00:53
:840SH
:N/hOSzgk
#9 [愛華]
「……なんだよ?言いたいことあんなら言えよ。言い訳するなら今のうちだぞ?」
達也の冷たい目。
教室がシンとなる。
わけもわからないみたいだ。
「………ないよ。でも俺……」
「でも……なに?」
「俺、したくてしたわけじゃねんだよ!!これは嘘じゃねぇ!」
:10/10/07 00:57
:840SH
:N/hOSzgk
#10 [愛華]
「………それだけ?」
「え………」
次の瞬間。
ドカッ!!
頬に痛みが走った。
「きゃあ!!」
「達也、おまえ何してんだよ!」
クラスのみんなの声が聞こえる。
俺は衝撃で起き上がれない。
:10/10/07 01:01
:840SH
:N/hOSzgk
#11 [愛華]
「んなこと聞いてねぇよ……
なんで隠して黙ってた?
陰で笑ってたんだろ俺のこと」
「ちげぇよ……」
「違くねぇだろ!!」
達也はさらに腕を振り上げた。
ドカッ!!
でも殴ったのは……俺だった。
:10/10/07 16:32
:840SH
:N/hOSzgk
#12 [愛華]
「人の話聞いてたかよ!!
俺はしたくてしたわけじゃねぇ!
勝手にきめつけんなよ!
俺だって意味わかんねぇよ!」
達也はゆっくり立ち上がった。
「……逆ギレしてんなよ。
結局、隠してんだから一緒だろ」
二人で睨み合う。
誰も止めない。止められない。
:10/10/07 16:35
:840SH
:N/hOSzgk
#13 [愛華]
ドカッ!!
バキッ!!
殴り合う音だけが響く。
こんなに人を殴ったのは初めてで
自分の拳の皮も剥けてきて。
痛くて痛くて痛くて。
先生が教室に来て止めに入るまで
喧嘩は続いた。
誰も 止められなかったんだ
:10/10/08 01:11
:840SH
:NTikCQwA
#14 [愛華]
′
どこで間違ったんだろう
どうしてこうなったんだ
そんなつもりなかったのに
ごめんな、達也。
遅いかもしれないけど
ごめんな
:10/10/08 23:32
:840SH
:NTikCQwA
#15 [愛華]
「………なにがあったの?」
「…………」
先生が問いただす。
俺たちは何も答えない。
「……ここで待ってなさい。
お母さん方に電話してくるから」
先生はため息をついて保健室から
でていった。
カラカラ………
:10/10/08 23:35
:840SH
:NTikCQwA
#16 [愛華]
「「………」」
沈黙が続く。
どうしよう。なんて言えば……
「………なぁ」
「………あ!?」
いきなり達也に話し掛けられて
声が裏返ってしまった。
び、びっくりした……
:10/10/08 23:40
:840SH
:NTikCQwA
#17 [愛華]
「お前つよすぎ。なんだよマジ。
明らか俺よりお前のほうが
怪我軽いじゃんか」
「あ……空手やってたから」
俺は小学校のころ空手を少し
やっていた。確かに冷静に
なってみれば達也のほうが傷の
数が多かった。
「むかつく………んだよ……」
達也はうつむいた。
俺もうつむいた。
:10/10/08 23:48
:840SH
:NTikCQwA
#18 [愛華]
「人なぐるのって……痛いな」
俺は自分の拳をさすった。
手の甲は真っ赤になっていた。
皮がめくれて空気がしみる。
「そうだな……」
窓が空いていて風がはいる。
優しい沈黙。
もしかしたら………
まだ戻れるかもしれない。
俺たちはまだ子供だから
まだ……………
:10/10/08 23:52
:840SH
:NTikCQwA
#19 [愛華]
「戻れねぇから」
もう、だめなんだ。
幼いが故の反抗。
ほどけることのない痛み
認めることは間違い。
認めないことが最後の強がり。
「仲直りしよう。悪かったな」
言ってしまえば終わる。
元に戻れる。
またいつもの日々に。
:10/10/08 23:58
:840SH
:NTikCQwA
#20 [愛華]
でも俺たちはまだ13歳で
過ちの終わらせかたを知らない
後悔することを選んだとしても
それでも俺たちは知らないから
壊れたものは治っても跡が残る。
だから俺たちは戻れなかった
幼い俺は
俺たちは
:10/10/09 00:04
:840SH
:.z2.R1DM
#21 [愛華]
′
夕暮れの赤い道を、
母さんと歩いて帰った。
母さんは喧嘩の理由は聞かずに隣のヒロくんがどーだかこーだかとか話していた。
きっと励ましてくれてる。
わかってたから何も言わなかった
ただ黙って聞いていた
:10/10/09 00:08
:840SH
:.z2.R1DM
#22 [愛華]
「……隆則、アイスたべよっか」
「……べつにいい」
母さんはかばんを俺に預けて
アイスを買ってきてくれた。
誰もいない公園のベンチで
母さんと並んでアイスを食べた
甘くて冷たい。
夕日の光に照らされて
テカテカとアイスが光る。
:10/10/09 00:12
:840SH
:.z2.R1DM
#23 [愛華]
「………隆則」
ドキッとした。
怒られるのだろうか。
だとしたらなんて?
謝りにいけ、とか?
俺は母さんの言葉を待った。
「強くなったねー。母さん、
達也くんの傷見てびっくりしたよ
隆則より全然ひどいんだもん」
:10/10/09 00:17
:840SH
:.z2.R1DM
#24 [愛華]
「………うん」
「強いことはいいことだよ。
絶対どこかで誰かの役に立つから
その時までとっておきなさい。
こんなことに使っちゃだめ。」
「……………うん」
「隆則が傷だらけになるのやだな
あんたの取り柄は顔でしょ?」
ひでぇこと言う母親だな。
でも あたたかい。
あんたは大丈夫だよ って
言ってくれてるみたいで
:10/10/09 00:56
:840SH
:.z2.R1DM
#25 [愛華]
「自分の大切なものはね、
自分だけのものじゃないの。
もったいないでしょう?
だからね、誰かのために使うの」
アイスが夕日の暖かさで
少しずつとけてゆく。
「たまには喧嘩してもいいよ。
だって男の子だもんね。でも、
その強さは……いつか隆則に守るべき人ができた時に使いなさい」
もうアイス、しょっぱくて
食べれないな。
:10/10/09 01:06
:840SH
:.z2.R1DM
#26 [愛華]
「泣いちゃだめだよ。その涙も
いつかにとっておくの。
そのほうが素敵でしょう?」
俺は鼻水と涙をぬぐった。
カッコ悪い。やだ、こんな自分。
「たくさんの人に会って
たくさんの人と話して……
いつか誰かのために泣きなさい」
母さんはティッシュを俺にくれた
なんで箱ティッシュなんか持ち歩いてんだよ。ばかじゃねぇの…
:10/10/09 01:12
:840SH
:.z2.R1DM
#27 [愛華]
母さんがくれた言葉
今でも覚えているよ
強さは守りたい人のために
笑顔は幸せにしたい人のために
涙は 愛したい人のために
その全てが重なる時
自分を全部その人に懸けてもいい
そう思えた時
:10/10/09 12:42
:840SH
:.z2.R1DM
#28 [愛華]
その人はきっとあなたにとって
1番大切な人になるよ。
その時まで
男の子は泣いちゃだめだよ。
中一の夏 友達を失った。
罪による罰を知った。
:10/10/09 12:47
:840SH
:.z2.R1DM
#29 [愛華]
そしてその日の夜
俺の父さんと母さんは死んだ。
買い物に行った帰り道に
信号無視したワゴンに衝突。
俺と直純が病院に着いた時には
意識不明の重体。
父さんと母さんは傷だらけだった
:10/10/09 12:55
:840SH
:.z2.R1DM
#30 [愛華]
′
「御家族の方はこちらへ……」
「……隆兄、隆兄なんなの?
父さんと母さんは?どこ?」
「……いいから。直純おいで」
俺は直純の手を強く握った。
病室に入るとたくさんの管に
繋がれた二人がいた。
………なんだよこれ。なんだ。
:10/10/09 13:00
:840SH
:.z2.R1DM
#31 [愛華]
外せよこんなもん
必要ないだろうが。
少し待っていると母さんの両親、
つまりじいちゃんばあちゃんが俺達のところに来た。
「…………隆則!直純!!」
じいちゃんとばあちゃんは、
俺と直純を抱きしめてくれた。
:10/10/09 13:06
:840SH
:.z2.R1DM
#32 [愛華]
「じいちゃん…ばあちゃん…」
「……大丈夫、大丈夫だからね」
いやだ、いやだよ。怖いよ。
父さん、母さん……
さっきまで笑ってたじゃん。
一緒にアイス食べてたじゃん
日曜日にキャッチボールするって
言ってたじゃんかよ、父さん。
:10/10/09 18:20
:840SH
:.z2.R1DM
#33 [愛華]
頭の中に次々と浮かぶ二人の顔
いやだ、でてくるな。
だってこんなの………
二人が死んじゃうみたいじゃん
嘘だろ?なぁ?
「………先生。頼むよ。
助けてよ。二人を助けてよ」
俺はしがみついた。
:10/10/09 18:23
:840SH
:.z2.R1DM
#34 [愛華]
「いやだ、いやだよ…………」
先生は何も言わない。
嘘でもいいから言ってくれ。
二人は助かるって 言ってくれよ
涙が溢れそうになるのをこらえる
泣くな、泣くな、泣くな、泣くな
:10/10/09 18:26
:840SH
:.z2.R1DM
#35 [愛華]
周囲の反対に負けずに
今の土地で俺達を産んでくれた
どんな時も負けなかった二人
辛いこともあったのに
「隆則と直純がいるから今は
すっごく幸せなんだよ」
そう言って抱きしめてくれた
いつも笑顔だった母さん
:10/10/09 18:38
:840SH
:.z2.R1DM
#36 [愛華]
悪いことをした時は
家の外で2時間正座させられた
終わって家に入った時
「次は2時間30分だぞ」
そう言ってコーヒーをくれたけど
苦くて飲めなかったんだ。
厳しくて優しくて
ちょっと馬鹿な芯の強い父さん
:10/10/09 19:25
:840SH
:.z2.R1DM
#37 [愛華]
しあわせだった
充分すぎるしあわせだった
当たり前のことが楽しかった
父さんに怒られて
母さんに笑われて
直純になぐさめられる
そんな明日が続いていくんだ
信じていたかったんだ
:10/10/09 23:25
:840SH
:.z2.R1DM
#38 [愛華]
「嫌だ……父さん…母さん…」
隣では直純が泣きじゃくる。
「助けて……助けてよ……」
じいちゃんとばあちゃんも泣いてる。
「助けてよ……二人を助けて…」
泣かないでくれよ。
泣きたいのは俺だって同じだ。
直純が俺の服を引っ張った。
:10/10/09 23:29
:840SH
:.z2.R1DM
#39 [愛華]
「父さんと母さんを助けて…
お願いだよ………隆兄」
ごめんな、直純
俺にはなんもできねぇんだ。
できねぇんだよ。
母さん。今日だけは ごめん。
俺は泣いた。
歯を食いしばって泣いた。
:10/10/09 23:32
:840SH
:.z2.R1DM
#40 [愛華]
何もできない。
俺は無力だ。無力だ。
「父さん!!起きろよ!!
なぁ!!起きてくれよ!!
母さん!!聞こえてんだろ!!
父さん!!母さん!!」
「隆兄……隆兄………」
直純が俺の服を強く握る。
「声をかけてあげて下さい!」
:10/10/09 23:41
:840SH
:.z2.R1DM
#41 [愛華]
「真子!!智弘さん!!」
「母さん!!父さん!!」
じいちゃんもばあちゃんも
直純も俺も
きっと、きっと助かるって
信じて泣き叫んだ
父さん、母さん。
大好きだよ。嘘じゃないよ。
だから
戻ってきて
:10/10/09 23:45
:840SH
:.z2.R1DM
#42 [愛華]
′
ピーーーーー………
父さんと母さんは死にました。
遠い遠い
二度と会えない場所へ
:10/10/09 23:49
:840SH
:.z2.R1DM
#43 [愛華]
:10/10/10 00:49
:840SH
:03QSLv5k
#44 [愛華]
漫画とかドラマとか
そんな中だけのものだと
信じて疑わなかった幼い俺は
幸せなんて
一瞬で消え失せるのだと
知らなかった俺は 俺は
失くなったものはもう戻らない
信じたくなかった俺は
ただ 泣いた
:10/10/10 11:46
:840SH
:03QSLv5k
#45 [愛華]
葬式にはたくさんの人が来た。
あまり覚えていないけれど……
俺と直純は母さんと父さんを
最後の瞬間まで見なかった。
見たくなかった。
心の中で笑っていてくれるなら
それでよかったから。
火葬の間、俺と直純はロビーで時間を潰していた。同情の目で
見られるのが凄くいやだったんだ
:10/10/10 11:51
:840SH
:03QSLv5k
#46 [愛華]
庭から優しい光が射していた。
庭に行ってみようという話になり
直純と二人で庭へ出た。
優しい、天国みたいなところ。
蝶が舞い、緑があふれている。
「………父さんと母さん………
どこいったのかなぁ……」
:10/10/10 11:55
:840SH
:03QSLv5k
#47 [愛華]
直純がぽつりと言った。
涙は枯れ果てていた。
「………天国、だよ。きっと
今ごろ笑ってる。だから心配しなくていいんだよ」
「うー……」
直純は声だけを出した
涙は、枯れ果てていた。
:10/10/10 12:00
:840SH
:03QSLv5k
#48 [愛華]
「父さん……母さぁん……」
「大丈夫だよ。…………大丈夫
兄ちゃんが守ってやるから」
絶対、守ってやるからな。
あの日俺は心に誓ったんだ。
直純を絶対に守る。
直純の幸せを、守り抜くって
だからもう 泣かないでくれ
:10/10/10 15:31
:840SH
:03QSLv5k
#49 [愛華]
直純と庭から帰ると、ロビーに
じいちゃんとばあちゃんがいた
……………ん?隣に誰か……
見たこともない顔だ。
60歳くらいの……おじいさん。
「………ばあちゃん」
:10/10/10 17:06
:840SH
:03QSLv5k
#50 [愛華]
「あ、隆則。直純……」
「誰、そのおじさん」
「あ、この人はね……」
おばあちゃんは言いにくそうに
言葉を濁らせた。……なんだ?
「……隆則。この人は父さんの
父さん………お前のもう一人の
じいちゃんなんだよ」
……………………じいちゃん。
:10/10/10 17:09
:840SH
:03QSLv5k
#51 [愛華]
父さんが憎んでいた、じいちゃん
会ったことのない、じいちゃん
この人が父さんの 父さん。
「………初めまして、隆則くん、直純くん。弘樹じいちゃんです」
「初め、ま………して」
声が出ない。
父さんに…………似てる。
:10/10/10 17:18
:840SH
:03QSLv5k
#52 [愛華]
「あの、先程の話ですが……」
「隆則と直純にはこちらから
話しますので……それに今日に
話さなくてもよいのでは?」
「………わかりました。」
そういうと弘樹じいちゃんは
ロビーの奥へ行ってしまった。
「………信じられないよ。
自分の息子が亡くなったっていうのに今こんな話………」
:10/10/10 19:06
:840SH
:03QSLv5k
#53 [愛華]
なに?なんのはなし?
「ばあちゃん………」
「……大丈夫だよ。隆則と直純はじいちゃんとばあちゃんがずっと一緒にいるからね」
その言葉でわかってしまった。
あのひと………俺と直純を
引き取りにきたんだ。
今まで会ったこともないのに?
:10/10/11 15:33
:840SH
:16SkwPpw
#54 [愛華]
………嫌だ。
「………俺、嫌だよ」
拳をぎゅっとにぎりしめて
なるべく冷静に俺は言った。
直純の手を握る方にも力が入り
直純は不安そうに俺を見た。
「隆則………」
「直純と離れることになったり
すんのも絶対にやだからな」
「…………隆兄?」
:10/10/11 16:29
:840SH
:16SkwPpw
#55 [愛華]
神様。なんでもいい。誰でもいい
もう大切な人を奪わないで
たとえ道を踏み外したとしても
俺には守らなければならないものがあるんだ。
守らなければならない幸せがあるんだよ。
絶対にこの手は離しちゃ駄目だ。
そう誓ったんだよ。
:10/10/11 19:09
:840SH
:16SkwPpw
#56 [愛華]
′
その三日後
俺達の運命は決まってしまった
あの時、あの瞬間、
あの手を離さなければ
:10/10/11 19:12
:840SH
:16SkwPpw
#57 [愛華]
「ばあちゃん!!
どういうことだよ!!」
俺は怒鳴った。
だって一緒にいるって………
言ったのに。どうしてだよ。
「………隆則。落ち着いて」
「ばあちゃん………俺達、
離れちゃうの?」
「直純も………話を聞いて?」
:10/10/11 19:14
:840SH
:16SkwPpw
#58 [愛華]
あれから俺達はばあちゃん達の
実家で過ごしていた。そして
直純は、弘樹じいちゃんと一緒に暮らすことになった
という話を告げられた。
どうして………直純だけなんだ?
:10/10/11 19:19
:840SH
:16SkwPpw
#59 [愛華]
話はこうだった。
弘樹じいちゃんは、ある会社を
持っていて父さんは跡取り候補
だった。しかし父さんは決められた婚約者から逃れて跡取りの名も捨てた。
じいちゃんは父さんを憎んだが
跡取りがいないことで目が覚め
仲直りしようとしたところで
事故が起こってしまった
じいちゃんの会社には跡取りがいない。
その跡取りとして直純を。
:10/10/11 19:25
:840SH
:16SkwPpw
#60 [愛華]
じいちゃんもばあちゃんも
年金だけの生活。
俺と直純を引き取ることなんて
到底無理だ。
一方、弘樹じいちゃんには直純を育てていく環境もお金もある
直純にとってはそっちの方がいい
と言ってるのだ。
じいちゃんとばあちゃんは
俺だけなら引き取れる。
つまり、俺と直純はばらばらになってしまうということ。
:10/10/11 19:29
:840SH
:16SkwPpw
#61 [愛華]
どうして直純を跡取りに?
どうして直純だけを?
直純を跡取りとして育てる?
直純と、ばらばらになる?
頭の中はパニックだ。
:10/10/11 19:32
:840SH
:16SkwPpw
#62 [愛華]
俺が何も言えないでいると、
玄関の戸が開く音がした。
「やぁやぁ、こんにちは」
弘樹じいちゃんだった。
「話は………聞いたかな?」
「嫌だ!!隆兄と離れるなんて
絶対にいやだ!!」
:10/10/11 19:34
:840SH
:16SkwPpw
#63 [愛華]
「直純!!落ち着け!!」
俺は直純をなだめた。
ゆっくりと深呼吸する。
胸の中をぐちゃぐちゃと掻き混ぜられたみたいだ。
気持ち悪い。
「……直純は連れていかせません絶対にだめです。」
「……でも、二人を引き取ることは無理なんだよね?
直純くんの将来のためにもそっちの方がいいと思うんだけど」
:10/10/11 19:39
:840SH
:16SkwPpw
#64 [愛華]
何も言ってないのに図々しく
ドカッと腰を下ろす。
気に入らない。なにもかもが。
弘樹じいちゃんは静かに言った
「直純くんの幸せを保障するよ」
直純の…………幸せを?
生活に困らない。約束された
将来もある。
直純には………そっちの方がいいのか?
:10/10/11 19:43
:840SH
:16SkwPpw
#65 [愛華]
「………隆兄!!」
直純に呼ばれハッとする。
「……俺は、隆兄が一緒じゃないと意味がないんだよ……」
直純の幸せを、見届けなければならない。
「………条件が、あります」
俺は背筋を伸ばし言った。
負けてたまるかよ。
:10/10/11 19:50
:840SH
:16SkwPpw
#66 [愛華]
この先なにがあったって
絶対に絶対に
直純の幸せだけは
絶対に
それが俺のやるべきこと。
なにもできなかった俺
友を失い両親を失い
罪による罰を知り
でももう泣かないと決めた俺の
:10/10/11 22:21
:840SH
:16SkwPpw
#67 [愛華]
「………俺も引き取って下さい」
「た、隆則!!」
「……君だけなら、そちらが
引き取れるんだよ?」
弘樹じいちゃんとばあちゃんは
明らかに嫌な顔をした。
じいちゃんも驚いている。
直純だけでも嫌なのに俺まで
取られることはばあちゃんには
耐えられないんだろう。
でも、ごめんな
:10/10/11 22:24
:840SH
:16SkwPpw
#68 [愛華]
直純が一人なのに、俺だけばあちゃん、じいちゃんと暮らすなんてことはできない。
「……じゃなかったら、直純は
そちらにはあげれません」
弘樹じいちゃんは顔を歪めた。
――――俺が来ると困ることがあるのか?
弘樹じいちゃんはばあちゃんの方を見た。
:10/10/11 22:35
:840SH
:16SkwPpw
#69 [愛華]
「………隆則と、同じです」
ばあちゃんは凜と言った。
その目からは涙が流れていた。
直純を離したくない俺の気持ちが痛いほどにわかったようだった
ばあちゃんも辛いはずなのに…
じいちゃんも同じようだった。
「……隆則……くんもか…」
弘樹じいちゃんは嫌そうだ。
:10/10/11 22:57
:840SH
:16SkwPpw
#70 [愛華]
「……なら一人で暮らします」
「えっ…………」
「生活費だけ、弘樹じいちゃんが出して下さい。直純の様子を
見に行きます。会いに行きます」
「た、隆則…………」
ばあちゃんの家は九州だ。
めったに会いに行けない。
それでは意味がないんだ。
「ひ、一人暮らしなんて……」
:10/10/11 23:07
:840SH
:16SkwPpw
#71 [愛華]
「……名義は弘樹じいちゃんでいいから。頼むよ…なぁ」
「………隆兄………」
俺は一人暮らしをすることに
直純は弘樹じいちゃんのもとで
たった一日で運命が決まった。
:10/10/11 23:12
:840SH
:16SkwPpw
#72 [愛華]
直純がいなくなる日。
澄んだ空気と空。
ムカつくくらい気持ちのいい日
「…………タカっ!!」
「……梓。学校どうしたお前」
「そんなことどうでもいいの!
………直純は?まだ?」
父さん母さんの葬式以来に会うのに、梓はなにも触れなかった。梓のそういうところ好きだ。
:10/10/12 00:05
:840SH
:k0dGkFW.
#73 [愛華]
しばらくすると、中から直純と
弘樹じいちゃんが出てきた。
次いで、じいちゃん、ばあちゃん
「……あ、梓ちゃん………
お見送りにきてくれたの?」
「梓!学校どうしたんだよ」
「直純!タカと同じこと言わないでよね。 おばあちゃん、こんにちわ。」
:10/10/12 00:08
:840SH
:k0dGkFW.
#74 [愛華]
梓は弘樹じいちゃんを見て、軽く頭を下げた。
梓には電話で事情を話してある。
電話ごしに泣いてるのがわかった
「………それじゃ、行くかね」
弘樹おじいちゃんが車を呼んだ。
夏休み前の転校。
直純は不安の表情だった。
:10/10/12 00:12
:840SH
:k0dGkFW.
#75 [愛華]
うるさいくらいに蝉が泣き
炎天下のこの日
直純はいなくなった。
「……会いに行くからな。
電話もするし手紙も出すから」
「恋人じゃねんだから!大丈夫だよ!たまーにでいいからさ」
「直純!あたしも!あたしも
手紙出すからね!!」
「おぅ!!………梓、隆兄のこと頼むな。面倒見てやって」
:10/10/12 00:28
:840SH
:k0dGkFW.
#76 [愛華]
………こんな時に俺の心配なんかしてんじゃねーよ、ばか。
「……直純のこと頼みます」
俺は深く弘樹じいちゃんに頭を
下げた。
俺はまだ子供で。
一人でなんか運命は変えられない
だから、頼るんだ。
:10/10/12 18:58
:840SH
:k0dGkFW.
#77 [愛華]
「……隆兄……………
ばいばいっ!!!」
頼らなければ生きられない。
だから人は支えあう。
いつか自分も、誰かに頼られる
そんな人になれるように
「強く生きろよ!!
……そうだな、ゴキブ…」
「言わなくていい!!」
梓に頭をはたかれる。
:10/10/12 19:07
:840SH
:k0dGkFW.
#78 [愛華]
「あはははは!!ばかだ!!」
直純は笑っていた。
最後まで笑っていた。
笑いすぎて……涙が出ていた。
車が見えなくなるまでずっと
手を振っていた。
腕が疲れても、ずっと………
:10/10/12 19:14
:840SH
:k0dGkFW.
#79 [愛華]
「……泣かないの、タカ」
梓は涙をぬぐいながら言った。
「泣かないよ。今は泣かない。
取っておくんだ。今はまだ…」
直純。
あの日がお前と別れた最後で
次に出会うのは6年後。
あの時、自分に誓ったもの。
:10/10/12 19:21
:840SH
:k0dGkFW.
#80 [愛華]
お前が幸せになって笑って
いつか笑って話して
でもそれはただの夢で
あの時あの手を離さなければ
そうすれば…何か変わったのか
今となってはわからないまま。
あの6年間で何があったのか
知るのは俺が19の時で
まだこの時は知る由もなくて。
:10/10/12 22:28
:840SH
:k0dGkFW.
#81 [愛華]
なぁ直純。
俺達の別れがあって
そしてまた出会って
今考えるとさ、
あの別れは
ただの始まりにすぎなかった。
別れの始まりの物語。
:10/10/12 22:31
:840SH
:k0dGkFW.
#82 [愛華]
:10/10/12 22:33
:840SH
:k0dGkFW.
#83 [愛華]
-那佑side-
:10/10/12 22:34
:840SH
:k0dGkFW.
#84 [愛華]
′
「………なお、ずみ……?」
隆則は確かにそう言った。
どうして直純くんを知ってるの
どうしてそんな顔してるの。
ねぇ、どうして?
:10/10/13 17:27
:840SH
:RgtP/6kU
#85 [愛華]
周りの音が聞こえない。
ここだけ世界が止まったみたい。
「………久しぶりだねー…隆兄」
たかにい?誰、それ。
隆則を見ながら何を言ってるの
たかにい……隆則のこと……?
:10/10/13 17:29
:840SH
:RgtP/6kU
#86 [愛華]
「……お前、今なにして……
いや、っていうか………」
隆則の様子が明らかにおかしい
いつもの隆則じゃない。
顔色が真っ青だ。
「……俺、ジジイんとこから
金だけ持って逃げてきたんだ」
「………え、弘樹じいちゃ…」
「入学手続きだけさせてね。
200万かっぱらってきた」
200万?じいさん?
どういうこと?話がわかんない
:10/10/13 17:36
:840SH
:RgtP/6kU
#87 [愛華]
「……隆則、直純くんも………
どういうこと?」
直純くんはバカバカしいと言わんばかりに振り向いた。
「……騙しててごめんね。
俺は元、赤石直純。今はジジイんとこの苗字で品野直純。
………赤石隆則の実の弟だよ」
全てが、繋がった。
:10/10/13 17:41
:840SH
:RgtP/6kU
#88 [愛華]
隆則のことを話した時の違和感
びっくりするほど隆則に似ていて
両親がいなくておじいさんと…
「……なんでここにいるんだ?
何しにここにきた……?」
「あんたに復讐するためだよ」
直純くんは冷たく言い放った。
周りの雰囲気に呑まれない
二人だけの世界。
氷のように冷たい………
:10/10/13 17:45
:840SH
:RgtP/6kU
#89 [愛華]
「……わかるよね、あんたの罪。俺はそれを償わせるために
ここに来たんだ。……………
あんたの大切なもの、奪うためにね。それがあんたへの罰だ」
「………那佑になにする気だ、
てめぇ………」
「さぁね。まぁ焦んないでよ。
時間はたーっぷりあるんだし。
それはおのずとわかるでしょ」
直純は楽しそうに笑った。
罪?罰?わけがわからない。
なんなの?意味わかんないよ
:10/10/13 17:50
:840SH
:RgtP/6kU
#90 [愛華]
「直純くん!!どういうこと…」
「あ、やべ時間だ。んじゃ行くわ事情はそこにいる彼氏に聞くといいよ。んじゃね〜」
直純くんは走っていった。
なんだったの?
直純くんは隆則の弟で……
直純くんは隆則に復讐?
わかんない。わかんない。
:10/10/13 17:54
:840SH
:RgtP/6kU
#91 [愛華]
「……隆則、大丈夫?」
「……え、あ、大丈夫。
わり、俺ちょい帰るわ」
「え、ちょっと待って……」
だって、顔真っ青だよ。
あたしだってわけわかんないのに
「………ばいばい」
隆則は哀しそうに笑った。
:10/10/13 17:57
:840SH
:RgtP/6kU
#92 [愛華]
「………隆則、待ってて!!
あたしも一緒に帰るから!」
今、隆則を放っておいちゃダメ。直感でそう思った。
あたしは制服を持ってくると
言い、学校内へ戻った。
帰ってくると隆則はいなかった。
………どこへ行ったの?
:10/10/13 18:01
:840SH
:RgtP/6kU
#93 [愛華]
あんな顔して。
なにがあったの?
直純くんとの間になにが……
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
でも今は……隆則を探さなきゃ。
あたしは学校を飛び出した。
:10/10/13 18:03
:840SH
:RgtP/6kU
#94 [愛華]
なにがあったのか、聞かなきゃ。
あたしはもう他人事じゃない。
どこを探しても隆則はいない。
家にも行ってみたが、いない。
……どこ、どこにいるの?
隆則。
あたし、わからないけれど…
あなたが傷つくのは嫌なの。
:10/10/13 18:06
:840SH
:RgtP/6kU
#95 [愛華]
さんざん探しまわって、
家に帰っているかもしれないと
隆則の家に行こうとすると……
「…………隆則っ!」
隆則は家のすぐ近くの公園にいた
「……え、那佑なんで……」
「待っててって言ったじゃん!」
「うそ、言ってたっけ?」
「……………ばか」
:10/10/13 21:05
:840SH
:RgtP/6kU
#96 [愛華]
………よかった。
聞きたいことはたくさんある。
でも今は聞かないほうがいい
そんな気がしたんだ。
「………座れば?」
「あ、うん………」
あたしは静かに隆則の座っているベンチに座った。
寒かったので隆則にくっついた。
:10/10/13 21:12
:840SH
:RgtP/6kU
#97 [愛華]
「……その格好で来たの?」
自分の格好はメイド服。
しかも上着も着ていないため
かなり寒い。だってしょうがないじゃんか。急いでたんだから…
「寒いんだから上着とけよ」
隆則は自分の上着をあたしに着せてくれた。隆則のにおい。
「………ありがとう」
思わずにやけてしまった。
:10/10/13 21:16
:840SH
:RgtP/6kU
#98 [愛華]
隆則はそれを見たのかふっと笑って、下に俯いた。
「………な、那佑」
「ん?なに?」
「ぎゅーってしてい?」
「………え」
返事をする前に手を引っ張られ
抱きしめられた。
「ちょ、返事してな………」
「キスしてい?」
:10/10/13 21:20
:840SH
:RgtP/6kU
#99 [愛華]
隆則の抱きしめている手が
震えているような気がした。
「………隆則……」
「………だめ?」
だめなわけないじゃん。
目の前で泣きそうな顔してる
愛しくて、守りたいって
思った。
「いいよ………」
静かに優しく唇が重なった。
優しくて哀しいにおいのキス。
:10/10/13 21:30
:840SH
:RgtP/6kU
#100 [愛華]
隆則の抱きしめている手が
震えているような気がした。
「………隆則……」
「………だめ?」
だめなわけないじゃん。
目の前で泣きそうな顔してる
愛しくて、守りたいって
思った。
「いいよ………」
静かに優しく唇が重なった。
哀しさが伝わってきた気がした。
:10/10/13 21:31
:840SH
:RgtP/6kU
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