その日が来る前に、3
最新 最初 全 
#388 [愛華]
'
「うーっす。あ、起きてた!」
「隆則が寝るなって言ったん
じゃんかよーばか」
「ははは」
バイトから真っ直ぐきた感じで
額には汗がにじみでていた。
:11/02/11 10:02
:840SH
:zJ6xm7Y6
#389 [愛華]
変なの。
いつもどおりに隆則が来ただけ
なのに……………
なんだか懐かしい気がするのは
どうしてだろう?
「バイトから真っ直ぐ来たの?」
「そ。疲れたよー」
いつもと同じ、はずなのに……
:11/02/11 10:05
:840SH
:zJ6xm7Y6
#390 [愛華]
今日の空気はなにか違った。
なんだろ?
なんか嫌な予感がするよ………
微妙な空気の違いをあたしが
感じとったことに気づいたのか
隆則はいつもよりも多く、
あたしに笑いかけていた。
安心させようとしてくれてた
んだよね。きっと。
:11/02/11 10:09
:840SH
:zJ6xm7Y6
#391 [愛華]
世間話もほどほどに、
隆則が急にあたしに言った。
「具合どうだ?」
これも、いつもと同じセリフ。
なのに今日はいつもと重みが
全然違う気がした。
茶化しちゃいけない気がした。
:11/02/11 10:12
:840SH
:zJ6xm7Y6
#392 [愛華]
ベッドがぎしぎしときしむ。
その音が妙に耳に響く。
「絶好調ですよーだ」
「ほんとに?」
あ、今…………。
空気が冷える感覚。
:11/02/11 10:16
:840SH
:zJ6xm7Y6
#393 [愛華]
なに?なに?
こわい。こわいよ。
隆則は真っ直ぐにあたしを
見つめる。
強い決意のようなものが見える。
「今日は重大な話がありますっ」
:11/02/11 10:20
:840SH
:zJ6xm7Y6
#394 [愛華]
「重大な………はなし?」
あたしが聞き直すと、隆則は
またにっこり笑ってVサインを
出した。
「ふたつ。話があるから。
聞いてくれるか?」
聞きたくない。
でもそれは声にならなくて。
頭の中は嫌なことしか思い
浮かばなくて。
:11/02/11 10:26
:840SH
:zJ6xm7Y6
#395 [愛華]
「……………」
「那佑。俺を見て」
あたしも隆則がしてくれたように真っ直ぐと隆則を見つめる。
「…………いいよ」
「うん。ありがとな」
わしわしとあたしの頭をなでる。
:11/02/11 10:29
:840SH
:zJ6xm7Y6
#396 [愛華]
この手さえあれば。
なんでものりこえてゆける。
そんな気がするよ。
「じゃーひとつめの話」
「うん」
隆則は座っていた椅子から、
あたしのいるベッドに移った。
:11/02/11 10:33
:840SH
:zJ6xm7Y6
#397 [愛華]
空けていた窓から、夕方特有の
涼しくて少ししょっぱい風が
はいってくる。
優しくて、切なくて、でも
あたたかくて、さみしい。
「那佑、手術受けよう」
:11/02/11 10:37
:840SH
:zJ6xm7Y6
#398 [愛華]
'
手術?
頭が真っ白になった。
どうして、そんなこと………
:11/02/11 10:39
:840SH
:zJ6xm7Y6
#399 [愛華]
何度も堅く拒んだ。
絶対に嫌だったの。
手術室の中でひとりで死を
迎えるなんて絶対に。
隆則はそれを知ってるのに
今さらどうして……………?
どうしてそんなこと言うの?
:11/02/11 10:42
:840SH
:zJ6xm7Y6
#400 [愛華]
「……なに言ってんの?
するわけないじゃん手術なんか」
「今のまんまじゃダメだ」
「今のままでいいよ」
声が震える。
隆則はわかってくれてると
思ってた。
話ってそれなの……?
手術を受けろって話?
:11/02/11 14:16
:840SH
:zJ6xm7Y6
#401 [愛華]
「俺は、いやだよ」
隆則はゆっくり、あたしを
なだめるような口調で言った。
「隆則………あたしだって
自分がいなくなるのやだよ」
目を合わせられない。
悪いことをしてるような気分
になってしまう。
:11/02/11 14:21
:840SH
:zJ6xm7Y6
#402 [愛華]
「那佑。ダメだよ」
「やだ。やだよ………」
涙があふれそうだ。
だって嫌なんだよ。
こわいんだよ。
自分から死へ向かう。
そんな気がしてこわいの。
:11/02/11 14:50
:840SH
:zJ6xm7Y6
#403 [愛華]
「俺の目見て………」
「やだ!手術は受けない!!
そんな話なら帰ってよ!
聞きたくない!」
隆則は泣き叫ぶあたしの手を
思い切りひっぱると、
自分のほうに抱き寄せた。
小さいあたしの体は全部
隆則の中におさまる。
このあたたかさが今は残酷だよ。
:11/02/11 14:56
:840SH
:zJ6xm7Y6
#404 [愛華]
「はなしてよ!!」
「那佑、泣いてもいいから聞け」
隆則の声、震えてる。
隆則も、泣いてるの?
何回あたしのせいで泣いたの?
一緒に泣いてくれたこともあった
:11/02/11 14:59
:840SH
:zJ6xm7Y6
#405 [愛華]
今もあたしのせいで………
「……俺の両親が死ぬときさ。
」
「…………ん」
「直純は俺に『助けて』って
言ったんだ。でも俺は医者
なんかじゃない。無力だった。
どうすることもできなかった」
:11/02/11 15:03
:840SH
:zJ6xm7Y6
#406 [愛華]
「自分の無力さを呪った。
直純が苦しんでた時も、俺は
何もできなかったし、
あげくの果てに逃げた。」
隆則は自分の過去を悔いてる。
他人からみればどうしようも
ないことだったとしても、
隆則にはそうじゃないんだ。
今も責め続けてるんだ。
:11/02/11 15:09
:840SH
:zJ6xm7Y6
#407 [愛華]
「もうやだ。だいじなやつが
どっかいくのも。
なんもできないのもやだ」
まるで小さい子供がおねだり
するみたいに。
強くあたしを抱きしめる。
苦しくて、怖くて。
あたしは、どうすればいい?
:11/02/11 15:12
:840SH
:zJ6xm7Y6
#408 [愛華]
「こわ、い…………
会えないのこわい………」
「わかってる。でも大丈夫。
成功したって失敗したって
ずっと一緒にいてやるから」
「それって………」
「俺が一緒に死んでやる」
「馬鹿すぎ…………」
進むべき道はあるのに。
踏み出せない。
ゴールがあるのかないのかさえ
わからない道を進むのがこわい。
:11/02/11 15:17
:840SH
:zJ6xm7Y6
#409 [愛華]
「那佑、夢教えて」
あたしを抱きしめて、肩に顔を
埋めたまま隆則が言う。
あたしの、夢………?
「………バケツプリン食べる」
「まだ食べてなかったのか」
:11/02/11 15:21
:840SH
:zJ6xm7Y6
#410 [愛華]
「うん」
「あとは?」
前までは何も望まないはずだった
でも今は………
「学校卒業してね」
「うん」
「振袖とか着てね」
「うん」
:11/02/11 18:44
:840SH
:zJ6xm7Y6
#411 [愛華]
「夏は祭に行って花火見たい」
「ん………」
「一緒にプールも行きたいし
お花見もしてみたいよ。
初詣も行きたい………」
行きたいところ、したいこと
まだまだたくさんあるの。
その全部を
隆則と、過ごしたいんだ……
:11/02/11 18:48
:840SH
:zJ6xm7Y6
#412 [愛華]
ああ、あたしはまだ。
満足なんかしてないよ。
まだまだ足りないよ。
「……おっきな家におっきな犬。カッコイイ犬がいい」
「……………」
:11/02/11 18:50
:840SH
:zJ6xm7Y6
#413 [愛華]
「………子供は、3人。
男の子ふたりと女の子。」
「……………ん……」
「………隆則の、お嫁さんに
なりたいよ…………」
あたしは、欲張りですか?
:11/02/11 18:53
:840SH
:zJ6xm7Y6
#414 [愛華]
生きたいのに、手術はこわい。
やるせない思いは涙となって
あたしの中から溢れてゆく。
「…………那佑。」
「ん……」
隆則はあたしを離すと、
真っ正面に向き直った。
:11/02/11 18:55
:840SH
:zJ6xm7Y6
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194