悪魔と天使の暇潰し
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#262 [匿名]
...四年前




あれは冬の寒い夜だった。

高校二年生の彼は、居酒屋のアルバイトを終え、家に帰る途中。

雪こそ降っていなかったが、吐いた息が白い。マフラーを口まで隠し、凍えそうな手は制服のズボンのポケットに突っ込んだ。

誰も居ない公園を、足早に通り抜ける。近道だ。

だがその日、誰も居ないはずの公園に一つの人影が見えた。

⏰:11/08/20 21:45 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#263 [匿名]
その人影は右手に何かを掴み、それを思いっきり地面に叩き付けた。

それと同時に、ギャッともギュッともとれる変な音がした。

怪しい雰囲気に吸い込まれ、彼はそれを覗き込んでしまった。そしてその音が、動物の発する呻き声だと分かった。

猫が倒れている。

ピクピクとまだ動く猫を、その怪しい人影は、ヒッヒッと不気味に笑いながら見下ろしている。

⏰:11/08/20 21:48 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#264 [匿名]
この人間から、早く離れなくてはならない。彼はそう思った。


「てめぇ何やってんだ!」

だが、自分の意志とは裏腹に、彼はそう怒鳴り、怪しい人間に体当たりをした。


猫を助けなければならない。
自分の中に居る誰かがそう言っている様な不思議な感覚を、彼は感じた。

⏰:11/08/20 21:50 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#265 [匿名]
猫を助けろ!
この人間を懲らしめろ!

何度も誰かがそう言っている。自分の中に居る誰かが。彼はその声の通り、その人物を何度も殴った。

そして我に返ると、目の前に居た不気味な人間が死んでいた。


自分の拳に痛みが走る。
ああ、俺は人を殴り殺してしまったんだ。

彼は気が付いた。

⏰:11/08/20 21:53 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#266 [匿名]
だけど罪悪感はない。猫を助ける事が出来たからだ。


次の日、あれはまだ朝の6時頃、彼の部屋に老婆が訪れた。

玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると小柄な老婆がぽつんと立ち、彼に言った。

「全て見ておりました」


ドキリと胸が苦しくなった。老婆の言う「全て」が、昨日の殴り殺した一件だと、彼はすぐに理解したからだ。

⏰:11/08/20 21:58 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#267 [匿名]
殺すしかない。彼はそう思った。

だが、次に聞こえた言葉に、彼は言葉を失った。

「ありがとうございます」

震える様な声だった。

彼が老婆を改めて見ると、目には涙を浮かべ、それでも笑顔で自分を見ていた。


「私の大切なミケを助けてくれて、本当に本当にありがとうございます」

ミケとは昨日助けた猫の名だろう。

⏰:11/08/20 22:03 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#268 [匿名]
何度も頭を下げ、何度もありがとうと言う老婆を、彼はただ黙って見ていた。

どうしたらいいのか分からなかったのだ。

目の前で、人が喜んでいる。ありがとう、と言われている。

彼は産まれて初めて感じる感情に、胸が高鳴った。


嬉しい。
ただ、嬉しかった。

誰かに感謝される事で、こんなにも自分自身が暖まっていくとは思わなかった。

⏰:11/08/20 22:05 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#269 [匿名]
真っ暗で、何処に向かって歩いているのかすら分からなかったのに、今、たった今、光の射し込む場所が見えた。

やっと見つけた。
自分の歩むべき道がようやく見えた。

彼は迷う事なく、ただ一点の光目掛けて歩き出した。


ありがとうと言われたい。綺麗な涙を見ていたい。
笑った顔を増やしたい。

誰かの為に生きていたい。傷付いた人を救いたい。

自分だけが出来る事で、人の心を救うんだ。

⏰:11/08/20 22:08 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#270 [匿名]
彼は強く思った。


弱い者を救うべく、ヒーローになろうと。

ヒーローにならなくてはいけないと。




そして、この日から四年後、彼は二人の青年と出会う。
その出会いの経て、正しいヒーローへの道を、彼はやっと見つける。

⏰:11/08/20 22:11 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


#271 [匿名]
二つ目の暇潰し、終わり

⏰:11/08/20 22:12 📱:F06B 🆔:S7DQT51E


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