悪魔と天使の暇潰し
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#311 [匿名]
そんな事を思い出しながら、少ない荷物を持って家を出た。
「気を付けろよ!何かあったらすぐ連絡しろよ!」
また守の声が聞こえた気がした。
私が一人で出掛ける時は、守は必要以上に心配する。
身支度をしている時に一回言い、家を出る時にもう一回言う。心配しすぎな守を見て、面倒臭いなー、と何度思った事か。
それでもやっぱり、心配性な守を見ると嬉しかった。愛されているなって、実感出来たからだ。
:11/08/29 16:42 :F06B :Tm.8msg6
#312 [匿名]
電車に乗り、一時間かけて地元についた。
先週も来たから懐かしさは感じない。でもやっぱり安心感がある。駅を出てすぐ正面にある商店街は、小さな頃から何も変わらない。
その商店街を抜けて信号を右に曲がると実家が見えてくる。どこにでもある一軒家。
「あれ?」
ただ真っ直ぐ実家を目指していた私の隣には、昨日会った天使さんが並んで歩いていた。
「やっぱりあなたでしたか」
そう言われて天使さんの存在に気付く。
:11/08/30 23:17 :F06B :2sQh1hF.
#313 [匿名]
「あ!昨日の方。どうしてここに?」
偶然の再会に、私は素直に驚いた。
「今日は仕事の関係で、初めてここに来まして」
「あ、そうなんですか」
「あなたはどうしてここに?」
「ここ私の地元で、今日は実家に帰って来たんです」
「そうなんですか!偶然ですね」
天使さんは爽やかに笑う。
:11/08/30 23:18 :F06B :2sQh1hF.
#314 [匿名]
私は天使さんにつられて、無意識に微笑み頭だけ下げた。
「そんな事より、大丈夫ですか?昨日泣かれてたから、ずっと心配していたんです」
優しい言葉と口調に、私の心が穏やかになっていく。大丈夫です。という意味を込めて頭を下げた。
「…あ、そういえば、私に死ぬ事を進めてくる男性がいて…」
何故か私は、天使さんに悪魔さんの事を話さなければいけないと思った。
:11/08/30 23:20 :F06B :2sQh1hF.
#315 [匿名]
「ああ、それなら気にしない方がいいですよ」
天使さんの笑顔は崩れない。
人に死を進める人なんて、遠回しだが殺人者と変わらない。それなのに、驚いたり不気味だと感じたりしていないみたいだ。
「その人、死んだ旦那の事を知っていて」
「どこかで聞いたんでしょう、きっと」
「旦那しか知らない事も知っていて」
「情報っていうのは流れますから」
:11/08/30 23:22 :F06B :2sQh1hF.
#316 [匿名]
「その人の事、もしかして知っているんですか?」
私にはそう感じた。相手にしなければ何の問題も無いと分かっている様な。
「え…知らない、ですよ?今あなたに初めて聞いて知りました」
「そうですか」
とだけ返事をしたが、もやもやした物が心に残った。この天使さんがあの悪魔さんとぐるだったら、私は人を信じられなくなりそう。
「でも本当に、気にしない方がいいですよ。くだらない悪戯だと思いますから」
天使さんが微笑む。
:11/08/30 23:23 :F06B :2sQh1hF.
#317 [匿名]
「ありがとうございます」
私はお礼をした。すると天使さんは少し堅い表情になった。
「…やっぱり、死にたいと思いますか?」
「死にたいか?」
「はい」
天使さんの問いに私は答えられなかった。たとえ死にたいと言っても、天使さんはそれを許してはくれないだろう。
きっと優しい言葉で、私の暗い気持ちをうやむやにしてくれる。
だけど、いつか私は気が付く。どうしてあの時死ななかったんだろう、と。
:11/08/30 23:25 :F06B :2sQh1hF.
#318 [匿名]
そんな事を考えてしまうなんて、本気で私は、死にたいと思っているのかもしれない。
今は何の為に生きているのか分からない。
守が居た頃は、雨が止むだけで嬉しかった。朝食の目玉焼きが綺麗に焼けるだけで、今日一日絶対良い事が起こる!そう思えた。
守が側で笑っているだけで無敵だって思えたし、優しく、そして強くなる事が出来た。
:11/08/30 23:30 :F06B :2sQh1hF.
#319 [匿名]
それなのに今は――
「守さんの声、僕が変わりに聞いてきます!」
黙って下を向いてしまった私に、天使さんは力強く言った。
「聞く?」
「はい!それからでも遅くないと思いますから、だから、その…死ぬなんて今は考えないでください!…明後日!明後日に伝えに来ますから!」
「はい」
天使さんの必死さに圧倒されてしまった。
:11/08/30 23:32 :F06B :2sQh1hF.
#320 [匿名]
「またすぐ意味わかんねぇ話信じて!ちょっと考えれば怪しいって思うだろうが、普通!」
そう怒鳴る守が頭に浮かぶ。
そう言われる度にシュンとして、そうだよね。と落ち込むのが私だったけれど、何故か今回は、でも!と反論出来る気がする。
私は信じる準備をしていた。
守の言葉を、私はすぐに守だと確信出来る。
守じゃない他の誰かの言葉なら、すぐに見抜く自信がある。
私は、守をただ信じて生きてきた。
:11/08/30 23:34 :F06B :2sQh1hF.
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