悪魔と天使の暇潰し
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#338 [匿名]
冷たい水のお陰で目が覚めた。腫れた目がほんの少し元に戻った気がする。
居間へと向かうと、父と母が真面目な顔で何かを話していた。小さな声だったため、何を話しているのかは分からなかったが、溜め息混じりなのは分かる。
もしかしたら今話題の熟年離婚か?と不安になる。
もしそうだとしたら何とかして止めたい。私は二人が不器用な事を知っている。それが原因なら私が間に入れば、止められる気がした。
「どうしたの?」
二人は私が居間に入ろうとしていた事に気が付いていなかったらしく、声をかけると酷く驚いた。
:11/09/13 22:02 :F06B :IrBsaxh.
#339 [匿名]
「あ!さっちゃん、やっと起きたの?」
母が無理矢理笑顔を作ってそう言った。目は笑っていないし、口元はひきつっている。
「何か食べる?お味噌汁とか残ってるけど」
母は私を見ずに台所へと向かって行った。
「うん」
私は母の背中に向かって返事をした。聞こえているのかいないのか、母は何も答えず冷蔵庫から卵を取りだし、何かを作ろうとしている。
:11/09/13 22:05 :F06B :IrBsaxh.
#340 [匿名]
居間のソファーに座っている父は下を向いたまま、おはよう、と私に言った。
「おはよう。二人共喧嘩でもした?お母さん頑固だから、いつも通りお父さんから誤りなよ?」
私は笑顔を作り、父にだけ聞こえる様に言った。
「そんなんじゃないよ」
お父さんの口調は優しく、私の勘違いを否定する為に言った事実だと、すぐに分かった。
そして疑問が沸く。
どうして二人はこんなによそよそしいのだろう。
昨日の母はいつもの母だった。私が帰るなり父の愚痴が永遠に語られたほどだ。
:11/09/13 22:09 :F06B :IrBsaxh.
#341 [匿名]
だけど最終的には、のろけとも取れる父との話題になり、私は呆れた。
父も昨日は普通だった。普通にゴルフを終えて夜に帰って来たし、普通に自慢話が始まったし、普通にご飯を食べお風呂に入り、普通に寝た。はずだった。
私が寝ている間に何かが起きたのかもしれない。そう考えるのが妥当だ。
二人が深刻に悩む事を私は考えてみる事にした。
生活費が足りない。
いや、その可能性は低い。昨日は平気で今日いきなりお金が足りなくなるなんてまず起きない。
父の会社が倒産。
それもないだろう。小さな会社ではないし、それなりに世間に貢献している会社だ。
:11/09/16 00:29 :F06B :6HbZaJDc
#342 [匿名]
親戚が危篤。
ありえる。だけどもしそうだとしたら、すぐに私に言うだろう。確かに言いにくい事だが、こんなにぎすぎすはしないはず。
他にも私はいろいろと最悪の状況を考えてみた。
事故を起こした。
詐欺に合った。
投資に失敗。
原因が思い付いても、どれもこれだ!と思える理由がなかった。
でもただ一つだけ、私にどう話し出したら良いのか二人が悩むだろう事がある。
それは、守の事。そして同時に、私の事。
:11/09/16 00:33 :F06B :6HbZaJDc
#343 [匿名]
そう考えていると、台所から玉子焼きの匂いと、お味噌汁の匂いがしてきた。
「さっちゃん、出来たからとりあえず食べなさい!」
とりあえず、という言葉に不安が込み上げる。とりあえず食べて、その後に大切な事がある様な言い方だ。
「…うん」
私は父から離れ台所にあるテーブルに座り、母が作ってくれた朝食を食べる事にした。
「いただきます」
「どうぞー」
母が私の前に座る。
:11/09/17 00:23 :F06B :gmmz71IM
#344 [匿名]
味噌汁の味も玉子焼きの味も、いつも通りの母の味だ。
「美味しい?」
母が頬杖をつきながら言う。
「うん、美味しい」
「そう!……良かった」
母はいつもの笑顔に戻っていた。暖かい、優しさの溢れる笑顔で、私を包んでくれる。
私のさっきまでの不安が一気に無くなった。
:11/09/17 00:30 :F06B :gmmz71IM
#345 [匿名]
「今日はどっか行くの?」
母が訪ねてくる。そういえば何も決めていなかった。
「うん、ちょっと出掛けようかな」
「そう?気を付けて行くのよ?車とか、いろいろね」
「もう子供じゃないんだから」
親にとって、子供はいくつになっても子供だと言うが、母は子供扱いしすぎる。
「あ、そうだ!ちょっと買ってきて貰いたいものがあるんだけどいい?」
「うん」
「あのねぇ…あの、今便利な奴!」
お母さん、それじゃ何も分からないよ。と心の中で言いながら私は真顔を作った。
:11/09/17 00:32 :F06B :gmmz71IM
#346 [匿名]
「分かるでしょ!」
「あれ?私超能力者じゃないよ?」
「あの、あれよ!ほら!便利な…」
「伝える気ある?」
「…まあいいわ。何かお土産買って来て」
何故そうなる。
「…あ!あれあれ!駅前に出来たケーキ屋のロールケーキが美味しいのよ!」
初耳だった。
「十六時に焼き上がるから、お土産はそれでいいわ!」
:11/09/17 00:38 :F06B :gmmz71IM
#347 [匿名]
それでいいと言う割には、母は嬉しそうに笑っていた。食べたかったのよねーと一人言を言っている。
さっきは私の顔を見てあんなに気まずい顔をしたのに、もうニコニコしている母を見て、頼もしく感じた。
母は何事も引きずらない。
悩みがあっても一晩寝れば忘れる人がいるが、母は一時間もあればケロッとしている。
そんな母の長所、私には受け継がれなかったみたいだ。
:11/09/17 00:41 :F06B :gmmz71IM
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