悪魔と天使の暇潰し
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#365 [匿名]
「明日仕事でしょ?そろそろ行こうか」

「あぁ、そうだ、仕事だ。明日早いんだ…ごめんね、行こうか」

「私も仕事だし!お互い頑張ろう!」

私は何も考えずにそう言った。

この場所でこの時間まで飲み、今から実家に帰るつもりのくせに。
明日仕事へ行く気など、全く無いくせに。

⏰:11/09/24 11:50 📱:F06B 🆔:FDlPqY22


#366 [匿名]
「じゃあ私自転車があるから!また、近い内に絶対に会おうね!」

そう言って里美は駅の前で、改札を抜けようとする私に言った。

「……うん」

出来るだけ精一杯の笑顔で笑った。

さっきまでは自然に笑えたのに、色々と考えてしまうと、どうもひきつる。

「幸子!」

里美が言う。

「幸子は一人じゃないよ!幸子は皆に愛されてるよ!少なくとも私は、大好きだよ!何かあったらすぐ助けに行くからさ!…守君みたいにはいかないけど、親友として、支えるから!…だから幸子も助けてよ!私にピンチが降りかかっても、飛んできてよね!」

⏰:11/09/25 12:45 📱:F06B 🆔:geZHgiX2


#367 [匿名]
里美がニカーッと笑い、満足そうに胸を張った。

そして私の返事も何も聞かずに、走って行ってしまった。

こんな状況で一人にしないでよ、里美。
涙が止められなくて、恥ずかしいよ。

お酒を飲んだせいかな?
里美の不思議な力のせいかな?

私の気持ちはぐるぐる回り始めた。

とにかく今日は帰ろう。
涙を必死に隠しながら、人気の少ない車両に乗り、実家に向かった。

⏰:11/09/25 12:48 📱:F06B 🆔:geZHgiX2


#368 [匿名]
五日目




「ただいま」

小さな声で呟き、実家の玄関へと入った。

里美と別れてから、電車を待ち、コンビニに寄って帰ったら意外と時間がかかった。玄関にある時計は長針も短針も<12>を指していた。

もう父も母も寝ていると思い、足音を立てない様に階段を登ろうとした時、居間の電気が点いているのが見えた。

そして気が付いた。
ロールケーキを買い忘れた事を。

⏰:11/09/26 18:03 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#369 [匿名]
謝らないと。きっと母は起きて、私の帰りを待っていたのだろう。いや、待っていたのは私ではなくロールケーキだ。きっとそうだ。

複雑な気持ちで居間に入ると、朝と同じ様な光景があった。

父と母が深刻そうな表情で俯いている。

「ただいま。ごめん、ロールケーキ売り切れてた」

嘘をついた。

「ああ、さっちゃん…お、おかえり」

母が私の目を見ない。
ロールケーキの事を怒らない。

⏰:11/09/26 18:05 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#370 [匿名]
重たい空気に、私は何も言えなくなってしまった。三人の間に沈黙が走る。

今までに経験した事が無い沈黙だった。重すぎて、苦しくて、空気が薄くなっている気がした。

どれだけの間黙っていたのか分からないが、私には一時間、いや二時間くらいに感じた。


「幸子、座ってくれ」

一番最初に口を開いたのは父だった。私は素直に従った。父と母が座っているソファーに対面して、床に正座をした。

時計を見たら十分しか過ぎていない。

⏰:11/09/26 18:10 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#371 [匿名]
「今日な、朝早く変な男から電話がきたんだ」

父が話し出した。母はずっと下を向いたままだ。

「名前は名乗らなかったんだが、幸子が死にたがっていると言った。幸子の為にも死なせてやってくれって。…最初は信じなかった。ただの悪戯だと無視をした」

何の話をしているのか分からなかった。ただ、私の気持ちに心当たりがある。

母が心配そうに私を見た。

⏰:11/09/26 18:13 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#372 [匿名]
朝、二人の様子がおかしかったのは、その電話のせいだと分かった。

「母さんが心配してな。朝は変な感じになっちゃったけど、お前が出掛けてから二人で話して、気にしないでいようと決めたんだ。どう考えても、ただの悪戯だと」

「ごめんね、ロールケーキなんてどうでも良かったのよ。ただあなたの事を父さんと一緒に話したくてねぇ」

母が眉を下げながら、泣きそうな顔で言う。

私を家から出す口実だったみたいだ。

⏰:11/09/26 18:14 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#373 [匿名]
「ただな、夕方にその男が家に来たんだ。覚えはあるか?」

「どんな人?」

情報が少なくて、誰もが怪しく感じてしまう。

「二十代の若い男だ。芸能人みたいな顔でな、背が高くて、スラッとした体型だった」

それが誰なのか、私は二人に絞る事が出来た。

「髪の毛黒かった?」

「ああ、真っ黒だった」

そうか、悪魔さんか。
そうだよね、天使さんが両親に、私を死なせてあげてくれ、なんて言う訳ない。

明日、いやもう今日だ。今日約束もしている。

⏰:11/09/26 18:16 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#374 [匿名]
「…覚えがあるか」

私の反応を見て、父は確信したように頷いた。

本当は私に、知らない、と言って欲しかったんだろう。そうしたら、全てが考えすぎだった、と簡単に片付けられたはずだ。

父が続ける。

「その男が来て、お前の近況を話していった。…守君の事で悩んでいる事とか、毎日の様に泣いている事とか」

こういう時、どんな言葉を言うのが正解なんだろう。笑い飛ばせば良かったのかな。泣けば良かったかな。

私はただ下を向き、黙ってしまった。

⏰:11/09/28 17:53 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


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