悪魔と天使の暇潰し
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#257 [匿名]
部屋の床に投げ付けられ、倒れたままのターゲットはポカーンとした顔で俺達を見ている。
「え?」
動揺するのも無理はない。死を覚悟し、自ら体を外へ放り投げ、後は体が地面に叩きつけられるのを待つだけだったはず。
それなのに叩きつけられたのは、自分の部屋。
ターゲットは今自分に起きた摩訶不思議な現象を必死に把握しようとしている。
「本当に君は素直じゃないね」
あいつが俺に言う。
:11/08/18 18:10 :F06B :OoxCdEe2
#258 [匿名]
「うるせぇ!」
あいつに言い返す。
だけどあいつはニヤッと笑っただけで、俺との言い合いを終わらせ、ターゲットに声をかけた。
むかつく。
「君は、死ぬ必要なんてない。正しい事に気付けたんだ。これからどれだけでも挽回出来るよ」
「俺は、生きてていいのか?」
その問いにあいつが深く頷いた。
ターゲットは顔をくしゃくしゃにして泣いた。歯を食い縛る事も、涙を手で隠す事もしない。隠さず泣いている。今まで溜まっていたものが、全て流れ出ている。
:11/08/18 18:13 :F06B :OoxCdEe2
#259 [匿名]
「泣いてんじゃねーよ!俺が助けたんだぞ!死んだら殺すからな!」
また訳の分からない言葉が出てきた。本当は、お前は悪くない、と言ってやりたかったが、やっぱりそんな事言えない。
暇潰しで、自分から負けを選ぶという悪魔失格な事をしておいて、変な所で意地を張ってしまう。
俺は馬鹿だ。
あいつが馬鹿にするのも無理はない。悔しいが。
:11/08/18 18:16 :F06B :OoxCdEe2
#260 [匿名]
「僕の勝ちだね。また君が悪魔である事を、放棄してくれたお陰だけど」
あいつが玄関へと向かいながら、俺に言った。
俺の負け。
だけど負けに対しては悔しくない。
「次は勝つ!」
「ああ。頑張ってくれ」
むかつく。
舌打ちをし、あいつが俺とターゲットから離れるのを見届けてからターゲットを見下ろした。
:11/08/18 18:17 :F06B :OoxCdEe2
#261 [匿名]
「お前は生きなきゃ駄目だ!自分の気持ちに正直に生きれば、それは絶対正しい」
そう、ターゲットにだけ聞こえる様に言った。あいつにはばれていない。だろう。
「何様だよ」
ターゲットが、泣きながら笑う。
:11/08/18 18:20 :F06B :OoxCdEe2
#262 [匿名]
...四年前
あれは冬の寒い夜だった。
高校二年生の彼は、居酒屋のアルバイトを終え、家に帰る途中。
雪こそ降っていなかったが、吐いた息が白い。マフラーを口まで隠し、凍えそうな手は制服のズボンのポケットに突っ込んだ。
誰も居ない公園を、足早に通り抜ける。近道だ。
だがその日、誰も居ないはずの公園に一つの人影が見えた。
:11/08/20 21:45 :F06B :S7DQT51E
#263 [匿名]
その人影は右手に何かを掴み、それを思いっきり地面に叩き付けた。
それと同時に、ギャッともギュッともとれる変な音がした。
怪しい雰囲気に吸い込まれ、彼はそれを覗き込んでしまった。そしてその音が、動物の発する呻き声だと分かった。
猫が倒れている。
ピクピクとまだ動く猫を、その怪しい人影は、ヒッヒッと不気味に笑いながら見下ろしている。
:11/08/20 21:48 :F06B :S7DQT51E
#264 [匿名]
この人間から、早く離れなくてはならない。彼はそう思った。
「てめぇ何やってんだ!」
だが、自分の意志とは裏腹に、彼はそう怒鳴り、怪しい人間に体当たりをした。
猫を助けなければならない。
自分の中に居る誰かがそう言っている様な不思議な感覚を、彼は感じた。
:11/08/20 21:50 :F06B :S7DQT51E
#265 [匿名]
猫を助けろ!
この人間を懲らしめろ!
何度も誰かがそう言っている。自分の中に居る誰かが。彼はその声の通り、その人物を何度も殴った。
そして我に返ると、目の前に居た不気味な人間が死んでいた。
自分の拳に痛みが走る。
ああ、俺は人を殴り殺してしまったんだ。
彼は気が付いた。
:11/08/20 21:53 :F06B :S7DQT51E
#266 [匿名]
だけど罪悪感はない。猫を助ける事が出来たからだ。
次の日、あれはまだ朝の6時頃、彼の部屋に老婆が訪れた。
玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると小柄な老婆がぽつんと立ち、彼に言った。
「全て見ておりました」
ドキリと胸が苦しくなった。老婆の言う「全て」が、昨日の殴り殺した一件だと、彼はすぐに理解したからだ。
:11/08/20 21:58 :F06B :S7DQT51E
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