悪魔と天使の暇潰し
最新 最初 全
#283 [匿名]
「溜め息なんかついちゃって、何か嫌な事でもあったのか?」
下を向いていて、そう声をかけられるまで前に誰かがいる事に気が付かなかった。
顔を上げると若い男が立っていた。私を見て、微笑んでいる。
微笑んでいると言っても、その笑みに優しい雰囲気は一切感じない。黒い陰のような居心地の悪い雰囲気をまとっている。
それなのに私はその男に見とれてしまった。
:11/08/24 17:10 :F06B :CHd7z7Rw
#284 [匿名]
二十代前半に見える男は、スラッとした長身で黒いスーツを着ていた。
どこにでもいる若い男性だと思ったが、全然違う。
作られた物みたいに綺麗な顔立ちで、どこにも隙がない。
そう、人間じゃない、生きてはいないものみたい。
「なんだよ!俺の顔そんなに変か?」
見とれている私にその男は近付いてきた。不覚にも、胸が高鳴る。
「い、いえ!」
近ければ近い程、その男は綺麗だった。灰色の瞳が、真っ黒な髪の毛の間から覗いている。
:11/08/24 17:16 :F06B :CHd7z7Rw
#285 [匿名]
彼と目が合うと、なんだか闇に吸い込まれて行く様な気がして、咄嗟にそらしてしまった。
「まぁいいや。あんたさ、何か悩んでんだろ?」
「えっ」
いきなり赤の他人にそんな質問をぶつける人に初めて会った。
悩みと言えば悩みに分類されるのかもしれない。でも悩みという甘いものじゃない。
「…死にたいだろ?」
目の前の彼の表情が悪魔に見えた。本当に私を殺してくれそうな、そんな圧迫感がある。
:11/08/24 17:21 :F06B :CHd7z7Rw
#286 [匿名]
「もし死にたいなら、協力してやってもいいけど?」
死にたいか?
そんなの、死にたいに決まってる。
守は死んだ。
突然過ぎる事故で死んだ。
何の前触れも無く、突然私の前から居なくなり、もう二度と会えないと宣告された。
守の側に居たいんだから、死にたいに決まってる。
:11/08/24 17:22 :F06B :CHd7z7Rw
#287 [匿名]
「泣くなよ」
「え?」
私、泣いていたんだ。
目の前の男が不気味に笑うのを見て、余計に辛くなる。
どうして私は生きているのだろう。守が居なくては、生きて生けないはずなのに。もしかして私は、守が死んだあの日から、死んだも同然なのかもしれない。
「無意識に泣ける程追い込まれてんなら、死んだ方が楽だぜ?」
この人は何者?
「あなた誰?」
:11/08/24 17:24 :F06B :CHd7z7Rw
#288 [匿名]
「俺?うーん、なんつったら分かりやすいかな?」
目の前の男が首を捻りながら考えている。
「簡単に言ったら、悪魔かな」
そう言った男の瞳が真っ黒に変わった。私は吸い込まれそうになり光を求めて空を見た。
光の加減で変わる瞳の色ですら、不気味に感じる。
「悪魔…」
悪魔みたいな最低な人物。そう言いたいのかな?
でも何故か、そういう意味ではないような気がした。本物の悪魔が私の前に現れた。
私は、本当に死にたくて、無意識に呼んでしまったのだろうか。
:11/08/24 17:30 :F06B :CHd7z7Rw
#289 [匿名]
二日目
電話が鳴る。
ジャガイモを切る手を止めて、電話に向かった。
「はい、富永です」
私は普段より少し高い声で電話に出た。
「富永幸子さんですね?」
受話器から出る聞き覚えのない声に、私は警戒をした。
そうですが、と答えつつ、この緊張感のある声の主が誰なのか必死に記憶を辿るも、すぐにその必要は無くなる。
「富永守さんが――」
:11/08/25 18:06 :F06B :4gXk0VdA
#290 [匿名]
警察だと名乗る男の話は信じがたく、一瞬にして耳が遠くなり、目の前が真っ暗になった。
富永守さんが車に跳ねられて亡くなられました。
「…オレオレ詐欺ですか?」
やっと絞り出した声がこんな陳腐な言葉になり、自分自身の緊張を少しだけ和らげてくれた。
「いえ、すぐに病院へ来ていただいてよろしいですか?」
それから警察だと名乗る男の話す内容を聞いて、これは詐欺なんかじゃないと思い知らされた。
脚に力が入らない。
空気を上手く吸えない。
目の前がぐるぐる回る。
:11/08/25 18:08 :F06B :4gXk0VdA
#291 [匿名]
ピリリリリピリリリリ
ハッとした。
今日も目覚ましの音で目が覚める。
嫌な夢を見てしまった。あの日、仕事を定時で終わらせ急いで家に帰り、夕食の肉じゃがを作ろうとした時の夢だ。
守が死んだ。
私は警察の電話で初めて知ったのだ。今でも鮮明に覚えている。
私の人生が終わった日。
:11/08/25 18:09 :F06B :4gXk0VdA
#292 [匿名]
上の空で支度をし、家を出た。駅までの道を一人で歩く。隣を見ても守はいない。
慣れる訳がないんだ。守が居て私が居た。今の毎日は、過ごす意味のない日々。
「あの、ハンカチ落としましたよ」
肩をポンと叩かれ、条件反射で肩がビクッと上がる。
振り返ると、二十代前半の若い男が私のハンカチを持ち、差し出してくれていた。
:11/08/25 19:45 :F06B :4gXk0VdA
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194