悪魔と天使の暇潰し
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#288 [匿名]
「俺?うーん、なんつったら分かりやすいかな?」
目の前の男が首を捻りながら考えている。
「簡単に言ったら、悪魔かな」
そう言った男の瞳が真っ黒に変わった。私は吸い込まれそうになり光を求めて空を見た。
光の加減で変わる瞳の色ですら、不気味に感じる。
「悪魔…」
悪魔みたいな最低な人物。そう言いたいのかな?
でも何故か、そういう意味ではないような気がした。本物の悪魔が私の前に現れた。
私は、本当に死にたくて、無意識に呼んでしまったのだろうか。
:11/08/24 17:30 :F06B :CHd7z7Rw
#289 [匿名]
二日目
電話が鳴る。
ジャガイモを切る手を止めて、電話に向かった。
「はい、富永です」
私は普段より少し高い声で電話に出た。
「富永幸子さんですね?」
受話器から出る聞き覚えのない声に、私は警戒をした。
そうですが、と答えつつ、この緊張感のある声の主が誰なのか必死に記憶を辿るも、すぐにその必要は無くなる。
「富永守さんが――」
:11/08/25 18:06 :F06B :4gXk0VdA
#290 [匿名]
警察だと名乗る男の話は信じがたく、一瞬にして耳が遠くなり、目の前が真っ暗になった。
富永守さんが車に跳ねられて亡くなられました。
「…オレオレ詐欺ですか?」
やっと絞り出した声がこんな陳腐な言葉になり、自分自身の緊張を少しだけ和らげてくれた。
「いえ、すぐに病院へ来ていただいてよろしいですか?」
それから警察だと名乗る男の話す内容を聞いて、これは詐欺なんかじゃないと思い知らされた。
脚に力が入らない。
空気を上手く吸えない。
目の前がぐるぐる回る。
:11/08/25 18:08 :F06B :4gXk0VdA
#291 [匿名]
ピリリリリピリリリリ
ハッとした。
今日も目覚ましの音で目が覚める。
嫌な夢を見てしまった。あの日、仕事を定時で終わらせ急いで家に帰り、夕食の肉じゃがを作ろうとした時の夢だ。
守が死んだ。
私は警察の電話で初めて知ったのだ。今でも鮮明に覚えている。
私の人生が終わった日。
:11/08/25 18:09 :F06B :4gXk0VdA
#292 [匿名]
上の空で支度をし、家を出た。駅までの道を一人で歩く。隣を見ても守はいない。
慣れる訳がないんだ。守が居て私が居た。今の毎日は、過ごす意味のない日々。
「あの、ハンカチ落としましたよ」
肩をポンと叩かれ、条件反射で肩がビクッと上がる。
振り返ると、二十代前半の若い男が私のハンカチを持ち、差し出してくれていた。
:11/08/25 19:45 :F06B :4gXk0VdA
#293 [匿名]
また私は見とれていた。
柔らかそうな茶色の髪の毛に茶色い瞳。大きな目が印象的な可愛らしい男。
昨日会った悪魔さんの様に、整いすぎた顔のせいで、本物の人間には見えなかった。
だけど悪魔さんとは全く違う柔らかい雰囲気。
「あ、ありがとうございます」
もう少しで、お礼を言うのを忘れる所だった。
でも変だな。ハンカチはバッグの中にあるポーチに入れたと思ったんだけど、何で落ちたんだろう。
:11/08/25 19:50 :F06B :4gXk0VdA
#294 [匿名]
「落ちてすぐだったので、そんなに汚れてないと思いますよ」
またその男は優しい笑顔で微笑んでくれた。何もかも包み込んで癒してくれる、天使みたいな人だと思った。
「すみません。助かりました」
お礼を言い頭を下げて、立ち去ろうとした時、私は彼にまた呼び止められた。
「あの、こんな事いきなり言うのは自分でもどうかと思うんですが…」
深刻そうな顔になるので、私は一気に不安になる。
:11/08/25 19:51 :F06B :4gXk0VdA
#295 [匿名]
「…大切な何かを、なくされた様ですね」
天使さんは少し黙ったあと、私の目を真っ直ぐ見てそう言った。
何故分かったんですか?
そう思ったのに、言葉が出ない。
「まもる、さん?」
何で、何で名前まで知っているの?
「泣かないでください」
「えっ」
また私泣いていたんだ。
:11/08/25 19:54 :F06B :4gXk0VdA
#296 [匿名]
「僕にはそういう能力があって。あなたの辛さも、苦しみも分かります。…死にたいって思っている事も」
何だろう、この感情。
涙が止まらない。
「大丈夫です。あなたは大丈夫だから」
大丈夫という言葉が、とても力強く感じた。
「あなたは?」
「僕?えっと、人を救う仕事をしているんです」
私の勘は鋭かった。やっぱり彼は天使みたいに心の綺麗な人だ。
:11/08/25 19:57 :F06B :4gXk0VdA
#297 [匿名]
そして私の涙が止まる頃、天使のような彼と別れ、私は会社に向かった。そしていつもと同じように仕事をする。
今日はいつも以上に忙しく、気が付くと夜の19時を過ぎていた。
もう帰ろう。
そう考えると、帰りたくない気持ちが出てくる。
このまま何も考えず、ただ目の前に山積みにされた仕事を、手際よくこなしているだけの日々だったら、楽なのに。
どうして現実は、こうも複雑なんだろう。
:11/08/26 18:45 :F06B :yzyXQKjY
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