悪魔と天使の暇潰し
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#297 [匿名]
そして私の涙が止まる頃、天使のような彼と別れ、私は会社に向かった。そしていつもと同じように仕事をする。
今日はいつも以上に忙しく、気が付くと夜の19時を過ぎていた。
もう帰ろう。
そう考えると、帰りたくない気持ちが出てくる。
このまま何も考えず、ただ目の前に山積みにされた仕事を、手際よくこなしているだけの日々だったら、楽なのに。
どうして現実は、こうも複雑なんだろう。
:11/08/26 18:45 :F06B :yzyXQKjY
#298 [匿名]
もっと単純で、人生がゲームと同じだったら、私は間違いなくリセットボタンを押す。
そうしたら、やり直せる。守が死なない様に調節出来る。
簡単に想像出来るのに、どうして戻れないんだろう。
暗闇の様な気持ちで歩いた帰り道、私は悪魔さんに会った。
「よぉ!」
馴れ馴れしい。
昨日ほんの少し話しただけなのに、旧友に会った様な態度に、私は臆する。
:11/08/26 18:49 :F06B :yzyXQKjY
#299 [匿名]
「やっぱお前元気ねぇな」
「…出ませんよ」
「何で?」
「何でもです」
言葉に出したら、私はきっと崩れ落ちる。立つ事が出来なくなって、目の前も見えなくなる。
「死んだんだろ?だーい好きだった男が」
言葉を失う。
どうして知っているの?朝の天使さんもそうだった。
この人達は何者なの?
:11/08/26 18:51 :F06B :yzyXQKjY
#300 [匿名]
「何で知ってるの?やめてよ!死んだって簡単に言葉にしないで!…って顔してんな?」
悪魔さんはふざけた態度で、私の心をえぐった。
私ってこんなに涙脆かったんだ。ポタポタと涙が垂れて、私の服を濡らす。
そういえば、今まで感動する映画やテレビを見て泣きそうになる時、いつも隣で私より先に守が泣いていたんだっけ。
その様子を見て、私は可笑しくなって笑っちゃうんだ。
:11/08/26 18:52 :F06B :yzyXQKjY
#301 [匿名]
だって鼻は真っ赤で鼻水も出てるし、そんな人が隣にいたら、感動なんてどっかに飛んで行っちゃう。
「泣きすぎ!」
って私が笑いながら言うと
「うるせぇ!」
って守は泣きながら言う。
涙脆い守が私は好きだった。こんなにも優しい心を持つ人が側にいると思うと、私は世界で一番幸せだって感じれたから。
守がいつも私より先に泣くから、私は自分が涙脆い事に今まで気が付かなかった。
:11/08/26 18:55 :F06B :yzyXQKjY
#302 [匿名]
「今日会ったんだよ。富永守っつう男に。お前の事心配してたぞー!早くその男に会いに行こうぜ?」
「何を言ってるんですか?」
ふざけているとしか思えなかった。守に会った?守は死んだの。会えるわけがない。
「嘘だと思うか?」
「当たり前じゃないですか!」
「じゃあ何で名前、知ってると思う?」
「…そ、そんなの調べればすぐに分かります!」
「ハハッ…断固として俺の言う事を信じねーんだな」
:11/08/26 18:58 :F06B :yzyXQKjY
#303 [匿名]
守は死んだ。
あの日から私は守に会えなくなった。声が聞きたくても、触れたくても、一切出来なくなった。
それなのにこの悪魔のような人間は、守に会ったなんて酷い事を言う。
「本当なら会わせて」
守に会いたい。
「だーかーらー!死んだら会えるっつーの!まだ神様への行列に並んだばっかだからな!」
「神様?行列?」
何言っているの悪魔さん。
「おう!だから死ななきゃ守っつう男には会えねぇ」
「…嘘ですよね?」
「はあ?」
:11/08/26 18:59 :F06B :yzyXQKjY
#304 [匿名]
「私が死んだら、あなたが何か得をするんですか?」
「得っつぅか、なんつーか…」
「守を使って、私を騙さないで下さい!」
守はもう何も言えない。それをいい事に、守を使うなんて酷い。
「ったく面倒くせぇ女だな!何でも信じやすいんじゃなかったのかよ!」
悪魔さんは目を細め、空を睨む様に見ながら言った。
「人を信じるのは素晴らしい事だけど、相手の素性を見極めろ!」
悪魔さんは私を指差し、怒った。それが守にそっくりで、私は何も言えなくなる。
:11/08/26 19:01 :F06B :yzyXQKjY
#305 [匿名]
「お前過去、悪徳業者に騙されて五十万取られそうだったんだろ?守って奴が言ってたぞ?幸子にそう伝えて下さい!って。まぁ頼まれたのは俺じゃねぇんだけど、言っちゃった」
守しか知らない事。悪魔さんは、それを守から聞いてきたように喋る。
もしかしたら、嘘なんか一つも付いていないのかもしれない。
「守って奴の忠告無しでも、ちゃんと疑う心を持ち始めたんだな!…正しいよ。俺は聖者じゃないから」
そう言った悪魔さんの顔が、一瞬切なく見えた。悪魔にならなくてはならない!と必死に演じる天使のようで、私は悪魔さんの言葉を信じてみたくなる。
:11/08/26 19:05 :F06B :yzyXQKjY
#306 [匿名]
「俺がお前に協力してあげれんのは、あと三日間しかねーんだ。だからよーく考えろ」
悪魔さんは鋭い目付きで私を見た。
「もし、もし本当なら守は私にどうして欲しいと思っているんですかね?」
「そんなの、死んで同じ世界でまた一緒に居たいって、思ってるだろ?」
そう言い、悪魔さんは風の様に去って行った。
守も、私とまた一緒に居たいと思ってくれているのかな?
守は私に会いに来れないから、私が行くしかない。
:11/08/26 19:06 :F06B :yzyXQKjY
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