悪魔と天使の暇潰し
最新 最初 全
#363 [匿名]
ホッとした。
里美は私と守の事を良く知っている。守が交通事故に遭った事も知っている。
どうしても抜けられない仕事の都合で、里美は守の葬式には来られなかったが、心配をして、メールをくれたりもした。
もし今この場で、守の話になったら、私は笑えなくなってしまう。大切な友人である里美に心配をかけてしまう。
話題が高校生の頃の馬鹿な話になって良かった。
もしかしたら里美は気を使ってくれたのかもしれない。そう思うと、感謝の気持ちと同時に、いたたまれない気持ちになった。
:11/09/24 11:47 :F06B :FDlPqY22
#364 [匿名]
笑って、驚いて、苦しくなって、恥ずかしくなって、怒りが込み上げて来て、微笑ましくなった。
私の高校三年間は、今思い出すと、こんな感じだ。
そのどの感情を思い出しても、近くに里美がいた。
ふと腕時計を見ると、二十三時を過ぎていた。
「もうこんなに時間経ってる!」
私がそう言うと、確認する様に里美も腕時計を見た。
「早い!私達ずっと語ってたんだ」
二人して笑いが込み上げて来た。今の私は自然に笑えたのかな?
:11/09/24 11:49 :F06B :FDlPqY22
#365 [匿名]
「明日仕事でしょ?そろそろ行こうか」
「あぁ、そうだ、仕事だ。明日早いんだ…ごめんね、行こうか」
「私も仕事だし!お互い頑張ろう!」
私は何も考えずにそう言った。
この場所でこの時間まで飲み、今から実家に帰るつもりのくせに。
明日仕事へ行く気など、全く無いくせに。
:11/09/24 11:50 :F06B :FDlPqY22
#366 [匿名]
「じゃあ私自転車があるから!また、近い内に絶対に会おうね!」
そう言って里美は駅の前で、改札を抜けようとする私に言った。
「……うん」
出来るだけ精一杯の笑顔で笑った。
さっきまでは自然に笑えたのに、色々と考えてしまうと、どうもひきつる。
「幸子!」
里美が言う。
「幸子は一人じゃないよ!幸子は皆に愛されてるよ!少なくとも私は、大好きだよ!何かあったらすぐ助けに行くからさ!…守君みたいにはいかないけど、親友として、支えるから!…だから幸子も助けてよ!私にピンチが降りかかっても、飛んできてよね!」
:11/09/25 12:45 :F06B :geZHgiX2
#367 [匿名]
里美がニカーッと笑い、満足そうに胸を張った。
そして私の返事も何も聞かずに、走って行ってしまった。
こんな状況で一人にしないでよ、里美。
涙が止められなくて、恥ずかしいよ。
お酒を飲んだせいかな?
里美の不思議な力のせいかな?
私の気持ちはぐるぐる回り始めた。
とにかく今日は帰ろう。
涙を必死に隠しながら、人気の少ない車両に乗り、実家に向かった。
:11/09/25 12:48 :F06B :geZHgiX2
#368 [匿名]
五日目
「ただいま」
小さな声で呟き、実家の玄関へと入った。
里美と別れてから、電車を待ち、コンビニに寄って帰ったら意外と時間がかかった。玄関にある時計は長針も短針も<12>を指していた。
もう父も母も寝ていると思い、足音を立てない様に階段を登ろうとした時、居間の電気が点いているのが見えた。
そして気が付いた。
ロールケーキを買い忘れた事を。
:11/09/26 18:03 :F06B :.Lu5CvxE
#369 [匿名]
謝らないと。きっと母は起きて、私の帰りを待っていたのだろう。いや、待っていたのは私ではなくロールケーキだ。きっとそうだ。
複雑な気持ちで居間に入ると、朝と同じ様な光景があった。
父と母が深刻そうな表情で俯いている。
「ただいま。ごめん、ロールケーキ売り切れてた」
嘘をついた。
「ああ、さっちゃん…お、おかえり」
母が私の目を見ない。
ロールケーキの事を怒らない。
:11/09/26 18:05 :F06B :.Lu5CvxE
#370 [匿名]
重たい空気に、私は何も言えなくなってしまった。三人の間に沈黙が走る。
今までに経験した事が無い沈黙だった。重すぎて、苦しくて、空気が薄くなっている気がした。
どれだけの間黙っていたのか分からないが、私には一時間、いや二時間くらいに感じた。
「幸子、座ってくれ」
一番最初に口を開いたのは父だった。私は素直に従った。父と母が座っているソファーに対面して、床に正座をした。
時計を見たら十分しか過ぎていない。
:11/09/26 18:10 :F06B :.Lu5CvxE
#371 [匿名]
「今日な、朝早く変な男から電話がきたんだ」
父が話し出した。母はずっと下を向いたままだ。
「名前は名乗らなかったんだが、幸子が死にたがっていると言った。幸子の為にも死なせてやってくれって。…最初は信じなかった。ただの悪戯だと無視をした」
何の話をしているのか分からなかった。ただ、私の気持ちに心当たりがある。
母が心配そうに私を見た。
:11/09/26 18:13 :F06B :.Lu5CvxE
#372 [匿名]
朝、二人の様子がおかしかったのは、その電話のせいだと分かった。
「母さんが心配してな。朝は変な感じになっちゃったけど、お前が出掛けてから二人で話して、気にしないでいようと決めたんだ。どう考えても、ただの悪戯だと」
「ごめんね、ロールケーキなんてどうでも良かったのよ。ただあなたの事を父さんと一緒に話したくてねぇ」
母が眉を下げながら、泣きそうな顔で言う。
私を家から出す口実だったみたいだ。
:11/09/26 18:14 :F06B :.Lu5CvxE
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194