悪魔と天使の暇潰し
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#377 [匿名]
「さっちゃが死んだら、私達は、どうしたらいいの?」
母が言う。苦しくなった。母がとても辛そうに言うから。
「幸子、辛かったなぁ。父さん達も辛かった。守君が亡くなって、幸子が心配で仕方がなかった…」
母の肩を支えながら父が言った。
「…………」
「守君の存在は、幸子にとってあまりにも大きすぎたなぁ。……そして、早すぎた。これからだったのになぁ」
守の笑顔が浮かんで、涙が出そうになった。
:11/09/28 18:01 :F06B :rJ3sHHyM
#378 [匿名]
「でもなぁ、幸子」
父の震える声が、しっかりとした声に変わった。その声につられ、顔を上げて父を見た。
真剣な顔で私を見ている。
「お前には、守君しかいなかったのか?お前にとって大切な人間は、守君だけだったのか?」
唇が震えた。
目の前がぼやけだした。
「守君は幸子を愛してくれたなぁ。でもな、幸子を愛してるのは、守君だけじゃないぞ。…父さんと母さんは、守君と同様、幸子を愛してきた」
:11/09/28 18:03 :F06B :rJ3sHHyM
#379 [匿名]
涙がとうとう溢れた。
「…いや、守君が幸子を愛する前から、ずっと、ずっと前から幸子を愛してきた。…幸子が母さんのお腹に居ると分かったその日から、一時も幸子を愛さなかった時間は無い!…分かるか?」
何も言えない。言う資格がない。ただただ何度も頷いた。
どうして気が付かなかったんだろう。こんなに近くに、こんなに大きな愛がある事に。
「さっちゃん、ずっと味方だからね。ずっと、ずっと愛しているから」
母が抱き締めてくれた。
温かくて、安心感がある、私の大好きなぬくもり。
母の肩が、私の涙と鼻水で濡れていく。
:11/09/28 18:04 :F06B :rJ3sHHyM
#380 [匿名]
―――
泣き疲れた私は、あれから子供の様に眠りについた。
気が付くと朝日がカーテンの隙間から射し込んでいて、朝になった事を知らせてくれている。
まず会社に電話をし、体調不良のため休む事を伝えた。勿論、体調だけは絶好調なので、嘘だ。演技もした。
それから一階に降りて洗顔などを済ませてから、父と母がいる居間へと向かった。
寝る前の記憶が鮮明に蘇り、私は二人と、どんな顔をして会えばいいのか分からなくなってしまった。
:11/10/04 00:20 :F06B :qunnOhr.
#381 [匿名]
ゆっくりと一歩一歩二人に近付くにつれ、言い様の無い緊張感が襲って来た。
だけれどそれは一瞬で、無駄な緊張感だったと思い知らせれる。
「さっちゃんおはよ!ご飯出来てるわよー」
母が私を見付けるとすぐにそう言った。普通すぎて、私はポカーンとしてしまったんだろう。
「変な顔してー」
母が笑う。
ホッとして、気が付くと私も笑っていた。
:11/10/04 00:21 :F06B :qunnOhr.
#382 [匿名]
父はソファーに座り新聞を読んでいた。
「おう、おはよう。何か手紙が届いてたぞ」
「おはよう。手紙?」
私は父の言葉を聞きながらテーブルに座り、母の作ってくれた朝食を食べようとしていた。
母と同様、父もいつもと変わらない態度で接してくれた。
きっと二人は私が寝ている間にいろいろと話したんだろう。
「ほら」
父が私の所まで手紙を持ってきてくれた。
:11/10/04 00:23 :F06B :qunnOhr.
#383 [匿名]
それは<幸子へ>とだけ書かれた真っ白な封筒だった。その他には何も書いていなく、差出人は不明。
「ありがとう」
私はその手紙を受け取り、朝食に取りかかった。甘い卵焼きとワカメの味噌汁。納豆にはネギが入っていた。
「今日は何時に帰るの?」
「朝食食べて支度したら帰る」
「そう。気をつけて帰るのよ?着いたら連絡してね」
「うん、分かってるよ」
:11/10/04 00:24 :F06B :qunnOhr.
#384 [匿名]
二人につられて、私はすぐにいつもの私になれた。笑えたし、冗談も言えた。
もうこれ以上、二人に心配をかけたくない。二人の悲しい涙なんて二度と見たくない。
そう考えながらふと手紙を見た。よく見れば見るほどその<幸子へ>という文字に、見覚えがある。
ただ、癖を隠そうと出来るだけ丁寧に書いた様な気配がして、実際のその人の文字が分からない。
どこで見たのだろう?
誰だか分からない人からの手紙を両親に見られるのは気が引けたので、部屋に戻ってから見る事にした。
:11/10/04 00:25 :F06B :qunnOhr.
#385 [匿名]
<幸子へ
久しぶりだな。元気か?>
封筒を開け、中に入っている手紙を読んだ。書き始めを見た途端、すぐに記憶が甦った。
丸いようなかくばっている独特な文字は、昔良く見た文字だった。懐かしく、一気に暖かい気持ちにさせてくれる。
目が熱くなっていく。歯に力が入って、息が上手く吸えなくなった。
その途端、涙が大雨の様に溢れた。
:11/10/04 22:31 :F06B :qunnOhr.
#386 [匿名]
その手紙は、私の事をよく理解していないと書けない内容だった。
いつも注意されていた事が、文章となっていた。泣きながら笑えたりもした。
涙が視界をぼやけさせ、何度も何度も涙を拭いながら、ゆっくりと丁寧に読んでいく。
読み終わり、私はカーテンを開け空を見上げた。
今なら笑える。
毎日笑ってみせる。
笑っていれば幸せになれるなら、あなたがそう言うなら、私はずっと笑っていようと思う。
:11/10/04 22:33 :F06B :qunnOhr.
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