ぼくらのみかた
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#301 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『別にいいよ…』
…と、そう一言だけ言った。
それから俺は二人に詳しい話をした。
茜さんが携帯サイトで知り合い告白した相手が、彼女の父親が働いている学校の生徒だと言うこと。
父親が、言い寄ってきたのは久保の方からだと勘違いをしている事も伝えると、彼女はわかってくれたようで…
『お父さんには、あたしからちゃんと事実を伝える』
…と俺に約束してくれた。
:11/08/24 00:30
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#302 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『じゃあ、行こう』
『ど、どこに…?』
俺は行く場所を伝えずに茜さんを外に連れ出した。
行く先は決まっている。
吉田さんのマンションから数十分歩いて、久保のいる病院に到着した。
『ここは…?』
茜さんが不思議そうに問う。
『久保とはメールはしてたけど、会うのは初めてでしょ?』
『あ、いえ…。一回だけ会った事あります』
…これは予想外だ。
まさか会った事があるとは。
:11/08/24 00:43
:T005
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#303 [輪廻◆j6ceQ96kak]
いや、久保が初めて俺に彼女ができたと言ってから半年は経っている。
一回や二回会っていても不思議ではないだろう。
それにしても、吉田さんなりの優しさなのだろうか、茜さんが原因で久保が謹慎になったりした事は伝えていなかったようだ。
俺はそんな吉田さんをちょっと見直した。
…ちょっとだけだけど。
:11/08/24 00:58
:T005
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#304 [輪廻◆j6ceQ96kak]
久保の病室をノックして茜さんと二人、中に入った。
『久保、遅くなったな』
軽く手を振りながらそう言って、茜さんの背中をポンと押して久保の姿を見せた。
『…ひ、久しぶり…だね』
なんだこの雰囲気…
かなり気まずいではないか。
久保は側にある俺が昨日あげたノートと鉛筆を手に取ると、何かを書き始めた。
:11/08/24 01:11
:T005
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#305 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ほら茜さん…いや、茜ちゃん。久保が何か伝えたいみたいだよ』
彼女はノートに書く久保に首を傾げながらも、側にかけ寄った。
俺は気をきかせて二人とは離れた所で何も見てないフリをする事にしよう。
『失声症…!?』
茜ちゃんの驚いた声が聞こえてくる。
…そりゃ驚くだろうけど。
俺も正直、木下先生からそう聞かされた時は言葉を失った。
:11/08/24 01:19
:T005
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#306 [輪廻◆j6ceQ96kak]
…いや、待て。
木下先生が久保の失声症の事を知っていた理由がハッキリしていない。
…でも、なんとなくわかるような気がする。
木下先生も木下先生で少しくらい罪悪感があったのだろう。
だから暇を見てこっそりお見舞いに来ていたのかもしれない。
俺はそう思う事にした。
例の木下先生の勘違いの件は茜ちゃんに任せよう。
今の彼女なら自分自身の言葉でちゃんと伝えられる。
そして木下先生もわかってくれるはずだ。
:11/08/24 01:29
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#307 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして…
俺は久保と茜ちゃんを二人にさせてこっそりと病室を出た。
少し悔しいが、俺はやっぱりこのままの草食系男子でいいと思っている。
『自分は自分でいい』
…そう言い聞かせて。
さて、次は俺の番だ。
4月に親の仕事の関係で北海道に行く事を、来週から3日間行われる期末テストが終わってからクラスの皆に報告する―
:11/08/24 01:40
:T005
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#308 [輪廻◆j6ceQ96kak]
皆と別れるのは辛いけど、だからといってこれまでやってきた事は消えたりはしない。
ずっと忘れられない思い出として心の中に留まり続ける。
―4月 春
…あれから期末テストが終わった後、担任は久保の事をクラスの皆に全て話した。
一方、娘の茜ちゃんに事実を伝えられた木下先生は、さすがに自分のした事を後悔したみたいで、自分は教師失格だと言い残して辞職した。
これらの事で、しばらく各クラス内で大騒ぎが続いたのは言うまでもない。
:11/08/24 01:56
:T005
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#309 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それと…
北海道に行く事を打ち明けた後、雪乃ちゃんが俺に突然謝ってきた。
理由を聞くと、あの時久保の携帯電話の受信メールを削除したのは自分だと言ってきた。
更にその理由を聞いたが、なぜか今度は泣き出して、それを目撃した野村に『また泣かせたな』と言われてビンタされる始末。
…今となってはどうでもいいが。
:11/08/24 02:10
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#310 [輪廻◆j6ceQ96kak]
失声症の久保は、まだ声は途切れ途切れで出るものの、身体はよくなったので3月の中旬頃、無事に退院した。
久しぶりの学校に久保は大いに喜んでいた。
そこで久保は一人テストを受けて、2学年への進級も決まる。
俺は久保達と一緒に2学年を過ごす事はできないが、最後にクラスの皆で撮った写真…
これを持っていれば、いつでも皆と一緒にいれる気がする。
:11/08/24 02:23
:T005
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#311 [輪廻◆j6ceQ96kak]
―4月10日 土曜日
俺ら家族は北海道に行く為に空港に来ていた。
ソファーに座って時間を待っていると、目の前に一人の人物が現れた。
『よっ、高見〜』
この声は…やっぱり…
『よ、吉田さん!』
『見送りに来てやったよ。一応世話になったしな』
…世話をした覚えはないけど、しいて言えば荷物持ちジャンケンで荷物を持ってあげた事くらいか。
:11/08/24 02:32
:T005
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#312 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『そういえば吉田さん…進級はできたんですか?』
『は? バカにすんなよ? 俺だってやる時はやるし』
…という事は、進級できたらしい。
『でもさあ、進級できたのはいいけど、雪乃とはまたクラス別なんだよ』
『それはなんていうか…残念ですね』
俺はそう言う反面、少し安心した。
『あ、あのよ…えと…』
…なんだ?
吉田さんが口ごもる姿なんて初めて見たぞ。
:11/08/24 02:43
:T005
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#313 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『どうしたんですか?』
そう言いながらふと彼の手元を見ると、何やら白い紙を手にしていた。
まさか…
いや、そんな訳ないよな。
何考えてるんだ俺は。
『あの、それ…』
その持っている紙を指さすと、彼はサっとそれを俺に差し出した。
その紙には、携帯電話の番号とメールアドレスが記入されているではないか。
でも番号もアドレスも吉田さんのものとは違うようだ。
:11/08/24 02:49
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#314 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『あの…これは誰のですか?』
俺が首を傾げていると、吉田さんが背後を気にする素振りを見せた。
俺もつられて彼の後ろの方に視線をやる。
『あ…』
今、柱の影に誰かがいた。
『ちょっと待ってろ』
吉田さんはそう言って柱の方へ向かって、そこにいた人物の腕を引っ張って再び俺の元に戻ってきた。
:11/08/24 02:57
:T005
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#315 [輪廻◆j6ceQ96kak]
彼が連れてきた人物は、まぎれもなく雪乃ちゃんだった。
『雪乃、やっぱり言いたい事はちゃんと面と向かって伝えた方がいいぞ』
『そ、そうだね』
…という事は、この番号とアドレスはもしかして…。
『高見くん…それ私の携帯の。いつでも連絡してきてね』
『あ、うん。あ、ありがとう…』
こういう雰囲気はやっぱり苦手だ。
:11/08/24 03:04
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#316 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『それとこれ…久保くんに言われて、高見くんに渡して欲しいって』
雪乃ちゃんがバッグから取り出したのは、見覚えのある一冊のノート。
…久保にあげたやつだ。
『ありがとう。久保によろしく言っておいて』
『…うん、わかったよ』
それからしばらく俺と彼女の間に何ともいえない沈黙が続いた。
:11/08/24 03:09
:T005
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#317 [輪廻◆j6ceQ96kak]
「午前10時10分発〜北海道行きの便〜間もなく出発致します。搭乗手続きがお済みの方は〜」
『順一、行くぞ!』
アナウンスが流れ、親父が俺を呼んだ。
『じゃ、じゃあ…二人共、元気で』
涙が出そうになるが、唇を思いっきり噛んで耐えた。
『いつでも連絡してこいよ!』
『体に気をつけてね』
…ダメだ。
このとどめを刺すような二人の言葉にやられ、涙を流してしまった。
:11/08/24 03:19
:T005
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#318 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『高見くん…私は何も見なかった事にするから』
『俺はバッチリ見たけどな』
二人が笑いながら言う最後の姿を見届け、俺は後ろを振り返る事なく飛行機に搭乗した。
北海道か…
そこで転入する高校でまた新たな出会いが待っているんだ。
俺には皆がついてるから大丈夫だ。
飛行機の中で久保からのノートを何気に開く。
その1ページ目には、クラスの皆からの寄せ書きが書かれていた。
:11/08/24 03:30
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#319 [輪廻◆j6ceQ96kak]
「高見、向こうの学校でも頑張れ 倉野」
「俺らの事忘れたら承知しない! 上野」
「向こうでも女の子泣かせたりしないよーに 野村」
「黒板に、高見は個人情報収集してるとか書いたのは俺です。本当にごめん! 島田」
他にも、あまり話した事のない奴らからも書かれていた。
涙を堪えながら最後のページを開いてみると、久保から一言…
「ぼくらのみかた 久保」
…と大きく書いてあった。
:11/08/24 03:43
:T005
:EjU97vFg
#320 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『…どういう意味だよ』
俺が笑い泣きに変わった瞬間だった。
数時間後―
北海道の空港に到着したようだ。
飛行機なんて初めて乗ったけど、皆の事を考えたり眠ったりしていて、外の景色など全く楽しむ余裕などはなかった。
空港から出ると、4月だというのに異様に肌寒いではないか。
北海道の冬は寒いと聞いた事があるけど、4月でもまだ寒いんだ…冬だったらこれの倍以上は寒いんじゃないかと思うと嫌になってきた。
:11/08/24 03:51
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:EjU97vFg
#321 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ああ、地元が恋しい。
『よし、じゃあまずはお前の実家に寄ってくか』
…え?
親父が母さんに言った『お前の実家』という言葉がひっかかった。
『ねえ親父…母さんの実家って?』
『実家は実家だろ。…ああ、お前は知らないのか。葉子は北海道出身。出張でここに来た俺と出会って結婚して、お前が生まれたばかりの頃まではここにいたんだ』
という事は…
俺の地元は北海道だったって事…?
『んなバカなあぁぁぁぁッ!!』
〜Last episode END〜
:11/08/24 04:14
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#322 [輪廻◆j6ceQ96kak]
■epilog■
親父から衝撃的な事実を聞かされて数日が過ぎ―
なんとか精神が落ち着いてきた俺は高校に転入した。
一応転校生という事になる。
自己紹介が緊張するではないか。
それに転校生が来ると聞くと、その教室内は皆が期待して騒ぐだろう。
そう…無駄にハードルをあげてくるのだ。
:11/08/24 04:20
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#323 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『じゃあ行きましょうか』
俺の新しい学校のクラスの担任になる教師の後ろについていく。
…心臓がバクバクしている。
今は自己紹介よりも、変に期待されて俺の顔を見た途端にクラスの皆のテンションが下がるのが嫌だ。
男は『なんだ男かよ〜』
女は『イケメンじゃないじゃん〜』
そう言ってざわめき始めた日には、正直ヘコむぞ。
:11/08/24 04:29
:T005
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#324 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ここは『人は顔じゃない』って事を自己紹介でわからせてやるしかない。
「2―C」
と書かれた教室の前で足を止めた。
ますます心臓が高鳴る。
担任がまず教室に入って、俺は呼ばれるまで廊下で待機していた。
『今日は親の仕事の都合で地方の学校から転入してきた生徒を紹介します。では入ってきてください』
…ついにきた。
もう後戻りはできない。
:11/08/24 04:37
:T005
:EjU97vFg
#325 [輪廻◆j6ceQ96kak]
俺はゆっくりと歩いて、教室に入り担任の隣に立った。
『では高見くん、まずは軽くでいいので自己紹介をお願いします』
『は、はい…』
…もうやけだ。
こういう場合は皆の顔を大根だと思え、俺!
『えと…高見順一です。母親が一応北海道の出身らしいです。でも俺はそんな事を最近まで知らなくて、それ聞いてびっくりして…』
何言ってるのか自分でもわからないが、とにかくなんでもいいから言いまくるんだ、俺。
:11/08/24 04:44
:T005
:EjU97vFg
#326 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『えと…俺はいわゆる草食系男子です。でもそんな俺でも前の学校では好きな人が出来たけど、その人には彼氏がいて…』
『た、高見くん…そのくらいで結構ですよ』
…しまった。
担任がものすごい引いた目で俺を見ている。
いや、担任だけではない。
教室内の皆が、唖然とした表情で俺を凝視しているではないか。
:11/08/24 04:50
:T005
:EjU97vFg
#327 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ず、随所と個性的な生徒で賑やかになりそうですね。皆、仲良くしてあげてください…』
おーい担任よ。
声に全く感情がこもっていないのは何故?
『じゃあ高見くんは…あそこの空いてる席に』
運がいい事に、一番後ろの席だ。
これで授業中に目立つ事なく寝る事ができる。
…いや、その前に一人でも多く友達を作らなければ。
休み時間にでも、気が合いそうな奴に積極的に声をかけてみる事にしよう。
:11/08/24 05:00
:T005
:EjU97vFg
#328 [輪廻◆j6ceQ96kak]
できれば久保のような友達が欲しい。
朝の号令を終え、担任が教室を出ていった後、それを見計らっていたかのように教室がざわめき始めた。
当然といえば当然の光景なのだが、この騒ぎ様は尋常ではないぞ。
前の学校の倍はあるだろうバカでかい声が響き渡る。
こっちの学校では、前の学校とは逆で男子の方がうるさそうだ。
女子は、ほとんどが最初の授業の準備などをしていて真面目でおとなしいものだ。
:11/08/24 05:09
:T005
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#329 [輪廻◆j6ceQ96kak]
同じ男で気が合いそうな奴はこの教室にはいない気がする。
まるで、吉田さんが沢山いるみたいだ。
いつでも連絡してこいって言ってたから、暇がある時にでも相談するとしよう。
『ねえ転校生くん、転校生くん』
大騒ぎの中、突然俺の前の席に座る男子が失礼な呼び方をしながらこっちを向いてきた。
『…なに?』
人は第一印象でどんな性格か決まる…もしくは決められてしまう事が多い。
ここは強気にいかなければ、ナメられる。
:11/08/24 05:18
:T005
:EjU97vFg
#330 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『俺もどちらかって言えば草食系なんだよね。まあ仲良くしようぜ』
その男はそう言ってわざわざ手を伸ばして俺の肩をポンポンと叩いた。
この男…ぱっと見、肉食系にしか見えないが、人を見た目で判断してはダメだろう。
『転校生くん』と呼ばれるのは腹立たしいが。
こいつも俺にとって『味方』になるのか『敵』になるのか…まだわからない。
こうして北の大地、北海道での新しい高校生活がスタートした―
ぼくらのみかた【完】
:11/08/24 05:39
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