心霊夜話
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#186 [怪男]
次第にドアノブを握る手が汗ばむ。
“バレてしまったらその時はその時”
そう思うと同時に携帯電話の電源が入っていない事に期待して、ドアノブをゆっくり回してドアを開けた。
照明で照らされた明るい廊下が目に入る。
恐る恐る玄関に足を一歩踏み出してドアを閉める。
「た、ただいま」
力のない声で言い、靴を脱いでいると母・渓子がリビングから出てきた。
“もうバレているかもしれない”
そう考えると母の顔を見る事ができなかったが、母は美緒の姿を見るなり心配そうな声で
「おかえり、どこ行ってたのぉー」
と聞いてきた。
:12/01/19 05:16
:W62P
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#187 [怪男]
その言葉から察するに、少なくとも母は何も知らないんだとわかった。
心なしか安心した美緒は胸をホッと撫で下ろして
「ごめんね。バイトの子が風邪で早退しちゃって…シフト延長になっちゃった」
と母の顔を見て苦笑いしながら言うと、途端に母の顔が強ばった。
「…お母さん?」
美緒がそんな母の表情に首を傾げていると、母は一言…
「アンタ…今日シフトなかったんじゃないの?店長から電話あったよ」
美緒の心臓がドクンと高鳴った―
:12/01/19 05:17
:W62P
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#188 [怪男]
廊下がシーンと静まり返り、なんとも言えない緊張感が漂う。
美緒は目の前に立つ母の足元に視線をやっている。
今、母がどんな顔をしているのか知りたくないからだ。
きっと疑いの眼で自分を見ているんだと思っていた。
だが、しばらくして母は優しい声で
「とにかく中に入りなさい。お腹空いてるでしょ?」
と言いながら美緒の肩にそっと手をやった。
:12/01/19 16:38
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#189 [怪男]
置かれた手の方に視線をやってから、母の方に目を向ける。
母は優しく微笑んでいた。
だが美緒にとっては、怒る事なく笑みを浮かべているそんな母が少し不気味に思えた。
「すき焼きの余った材料で夜食作っといてあるから、食べなさい」
「う、うん…ありがと」
途中まで脱いでいた靴から足を抜いて、背を向けて歩き出した母の後を追うようにリビングへと向かった。
:12/01/19 16:39
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#190 [怪男]
「今、ご飯チンするからね。座ってなさい」
母の言葉に「うん」と小さく頷いてから美緒はリビングを見回した。
さりげなく携帯電話を探すも、リビングには見当たらない。
美緒は少しホッとした。
もしかしたら自分の部屋にあるかもしれないと思ったからである。
部屋には鍵がついている。
家を出る前に自分の部屋の鍵を閉めた事は確認しているので、もし携帯電話が部屋にあるのなら、今日一日は誰も自分の携帯電話に触れる事はもちろん、合い鍵もないので誰も部屋に入る事ができない。
:12/01/19 16:40
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#191 [怪男]
そう思えたと同時に段々と肩の力が抜けていき、どっと疲れが出てきたのでテーブルの上にバッグをポンと置いてソファーに座った。
やがて温かい白いご飯と、牛肉と野菜の合わせものが母によって運ばれてくる。
「はい」
「わっ、美味しそう!」
今まで胸の中に溜まっていたモヤモヤが晴れたせいか、その夜食はとても美味しそうで「幸せ」だと感じた。
:12/01/19 16:42
:W62P
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#192 [怪男]
母は皿をテーブルに置くと、美緒の向かい側に座った。
夜食を食べている間、母はずっと美緒の顔を見つめる。
「…なに?」
さすがに美緒もそれが気になり、箸と茶碗を持ったまま尋ねるが
「いや…食べてからでいいよ」
と苦笑いで答える母・渓子。
母が何を言おうとしているのかは大体予想はできた。
:12/01/19 16:43
:W62P
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#193 [怪男]
おそらく“どこに行っていたのか”という事だろうと。
美緒は夜食をゆっくりと食べつつ、なんと答えるかを考えた。
母がじっと自分を見つめている事と、言い訳を考えている為にご飯の味がさっぱりわからなくなっていたが、なんとか十分ほどして食べ終える。
「美味しかった?」
「う、うん」
実は途中から味がわからなくなったとは言えなかった。
:12/01/19 16:44
:W62P
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#194 [怪男]
言い訳も思いついて、母の質問を今か今かと待っていると、母は服のポケットから白い粉が入った透明の四つの袋を取り出してテーブルの上に置いた。
美緒はポカーンとしながら、その袋に目をやる。
「え…なにこれ…?」
袋と母を交互に見ながら聞く。
母は小さなため息をついてから重い口を開いた。
「これ…勇紀が買ったんだって。わかるでしょ?覚醒剤」
「かく…せい…ざい?」
美緒は唖然とした。
:12/01/19 16:45
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#195 [怪男]
「学校の知り合いから勧められたんだって」
母はテーブルの上の袋を一直線に見つめて言う。
「勇紀が……本当に?」
「…お母さんも信じたくはなかったよ。息子がこんなものを…って」
そう言う母の表情が徐々に哀しみに変わっていく瞬間を美緒は見た。
自分の息子が覚醒剤に手を出した―
そんな事実を知って、堂々としていられる親はそうはいない。
:12/01/21 16:23
:W62P
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