先生とあたし

そんなの‥そんなの
｢カズ‥はあたしの
ものやから｣

あー‥ばかだ
あたしは､本当に
こんなこと言っても
無駄なのにね

｢きゃは‥っ｣
舞が苦笑しだした
大きな目を釣り上げて
笑うと出るえくぼ

昔はそんな舞の
笑顔が好きだった
だけど今は
憎いんだよ
その笑顔が‥

舞はカズの手を
握ったまま離さない

｢その手離してよ｣
あたし我慢できない

カズがほんの少し
離そうとした

だけど舞が
離そうとしない

｢離してよ｣
あたしが言っても
離してくれない
悔しさと惨めさと
悲しさと辛さで
涙があふれる

こんなつもり
じゃないのに‥

田渕に｢頑張る｣
って言ったのに

沢口は舞の手を
優しく離し
あたしに近づく

何か遠い人って
感じがした

あたしの手の
届かない人だって
高校生のころ
沢口を好きだった
ときみたいに‥

｢話そう｣
落ち着いた口調
だから余計涙出るよ

あたしは頷いた
沢口が泣き顔の
あたしを見て
｢うわぁー‥
ひでー顔だな｣

何て笑うから
あたし少し期待
しちゃったよ

｢おまえどやって
ここへ来たんや？｣
急に顔が豹変する

｢どやってってー‥
だから｣
ことばに困る
何て言うべき？
ことば選んでるのが
バレそうで
必死で隠した

｢‥一緒に来た｣

｢誰と？｣

｢やからー‥
えっと…｣

｢田渕か？｣
バレてたんだ

あたしは下を
向いたまま

｢おまえもよく言うよ
男とふたりで
夜会ってさー‥｣

｢え？｣

｢俺だけが悪いんか？
違うやろ？｣

｢あたしはもう
終止符打ったよ｣

都合のいい女で
ごめん
本当はあたしが
見事に玉砕
したんだけど

｢何やそれ？
やから寂しくなった
からって俺に
移り気したんか？｣

｢違う‥違うもん
わかったんよ
カズのことが
好きな気持ちが｣

綺麗にスカルプチャー
されてある自分の
手を触りながら
舞は口を開く

｢舞のんがカズヒロ
好きなんやから
高校時代舞を
裏切ったくせに｣

裏切った‥
確かにそうだけど
あたしやって
カズが大好きやった

｢おまえ人裏切んのも
いい加減にしろ
田渕のこと
やって許したわけ
ちゃうでな｣

あたしはうつむいた
ままただ‥ただ
地面とにらめっこ

｢それはいいすぎ
じゃね？｣

なんてやつは
格好よく登場
するんだよ