先生とあたし

ぽんさん
ありがとうございます

あのとき‥あのとき
声をかければ良かった
と幾度となく思った

あたしは静かに
病室を後にした

病室を出るとかずが
泣いていた

目頭を押さえ下を
向き泣いている

かずのそんな姿
始めて見たよ

あたしは黙って
かずの隣に寄り添う

「帰ろう」
とかずの手を引っ張る

子どもみたいなかず

あたしは病院を出て
ベンチに座った

隣で泣くかずの手を
握ったまま…

つらかったんだよね
かずだって辛いよね

「‥俺さ」
かずはおもむろに
口を開いた

「俺さ…優のために
何かしてあげてんのかな
って思うねん
優を幸せにしてあげて
んのかなってな」

あたしは黙ったまま

かずがこんなこと
言うなんて
初めてだろう‥

あたしは
「優はきっと幸せだよ
かずの子どもで
あたしも幸せだもん
かずのおよめさんで
辛いときもあったよ
だけどその辛さは
いつか幸せに
変わるんだよ
あたしは幸せに
変わったよ」

「それに優はねかずが
だいすきなんだよ？」

かずはあたしの話しを
聞き急に立ち上がった

「かず？」とあたしが
聞き返しても何も言わ
ずただ無言で歩き出す

あたしはあえて
追い掛けなかった

携帯を取り出し
かずにメールを打つ

ここで待っています､と

少し肌寒い風が
駆け抜けていった

あたしは空を見上げ
目をつむった

知らない間に眠って
いたらしく携帯の
着信音で目が覚めた

「もしもし幸来か？」

お父さんからだった

「何？」

「まだ帰って
来れないか？
俺じゃもう勢が
てにおえなくてな」

あたしはわかった
と返事しタクシーに
乗り込んだ

かずにメールを打つ

家に着くまでの間
運転手さんがひたすら
話しかけてきた

こういうのはあまり
好きじゃない

しかも今日は余計に
うざかった