先生とあたし

帰り道ひとりで
思い返す

どっちかわからない
だけど
あたしは産みたい
それだけ
絶対産むんだ
何があっても…

携帯を取出し
カズに電話をかける

｢もしもし？｣

｢‥してた｣

｢ごめん‥
聞こえねぇ｣

｢妊娠‥してた｣

｢まじ？｣

｢うん‥大マジ｣

｢良かったな｣

｢後日来てって
言われたから
連れてってね｣

｢あぁ‥
じゃあ授業始まる
から切るな｣

優もお兄ちゃんに
なるんだね

幸来は電車に乗り
優のいる病院に
向った

｢はぁ｣
とまた一寝入りする

雨はすっかり
止んでいるようだ

刺激のない毎日
だけど今日は
少し違う

幸来はお腹を
さすり
一歩一歩歩き
はじめた

｢頑張るぞー｣
と空に向って
手を伸ばす

｢ゆーうー？｣
病室に入り優を呼ぶ

優がいなかった
お父さんと散歩に
行ったようだ

｢優楽しかったな｣
お父さんと優の
笑い声が聞こえる

｢優ーお父さんー｣
幸来は無邪気に
優に抱きつく

｢きついよ､まま｣

｢ごめんね｣

｢どした？
いいことあったんか？｣
お父さんに聞かれ
幸来はピースサイン

｢優がお兄ちゃん
になります｣

もう悩んでられない
どっちかわかんなく
ても
あたしの大事な
子どもには
変わりないんだから

結局自分が
一番可愛いんだ

優に言われた
気がした

あたしはカズとの子
って思うから

心の中で叫ぶ

｢良かったな｣

｢僕お兄ちゃん
なるんだー｣

みんな‥
喜んでくれてるよね？
自惚れじゃ
ないよね？

｢そうや幸来
さっき先生が来てな
外出許可が下りたそうだ｣

｢本当に？
やったー｣

今日は何か
幸せな一日だな‥

｢僕動物園行きたい｣

｢行こーね｣

｢来週の土日
何てどうや？｣

｢来週‥？
いいよ､決まり｣

あたしはカズに
メールをした

授業をやっている
のか返事は
なかなか来ない

返事が来たのは
もう日が暮れる
ころだった

あたし以上に
彼のほうが
喜んでいた

今から病院に
来るらしい

あたしは帰ろうと
思ったが
待つことにした

お父さんは仕事に
行くからと
帰り今あたしは
優とふたりきりだ

｢ねぇ？まま｣

｢僕もう少し
生きてもいいよね？｣

｢え？｣

｢神様は僕が嫌い
だから意地悪する
んだよね
どうやったら
スキになってもらえるかな？｣