darkness;FROM OZ
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#66 [OZ]
【Family】

………………………

僕は地の底から響いてくるような歌で、
目を覚ました。

夢などではなく、
実際に歌が聞こえてきた気がしたが、意識がはっきりしたころには歌声は聞こえなくなっていた。


ここに下宿するようになって一週間が経つ。

静かだし、広々として住心地がいい。

それに家賃が安いのが一番の魅力だ。

⏰:07/07/22 12:22 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#67 [OZ]
僕は大学生になり、こちらに出てきたのはいいが、住むところが見つかっていなかった。

どうしたものか、と悩んでいたとき、たまたまここの家主である長谷川さんに出会ったのだ。

長谷川さんは70歳近いおばあさんで、一人でこの広い家に住んでいた。

そして、僕は図々しくも長谷川さん宅に住み着いたというわけだ。

長谷川は僕が住むことを喜んでくれていた。

⏰:07/07/22 12:34 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#68 [OZ]
僕の部屋は二階にある日当たりのよい部屋だった。

「おーい、みのる君」

長谷川さんの呼ぶ声が聞こえる。

そういえば、そろそろ昼食の時間だな。

僕はすっかり長谷川さんに頼りきっていた。

今日のように学校が休みのときは、一日中家に居る。

⏰:07/07/22 12:38 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#69 [OZ]
「みのる君、午後からは何をするんだい?」

長谷川さんはニコニコとしながら、僕の顔をのぞきこんだ。

僕はご飯を食べる手を止め、考える。

特にすることはない。

しかし、寝ると答えるのは気が引けるなぁ。

あ、そうだ。

「片付けをしようかと思います。
まだ荷物が片付いていないし。
といっても、ただ押し入れに荷物を詰め込むだけだと思いますが」

⏰:07/07/22 12:43 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#70 [OZ]
僕はそう言って笑ったが、長谷川さんは顔を強ばらせた。

「……どうかしました?」

長谷川さんは慌てたように笑い、首をふった。

「いやね……うちの押し入れは汚いからねぇ……。
ずっと使っていないし。
荷物は別の部屋を貸すから、そこへ置いたらどうだい?」

長谷川さんは僕に押し入れを使って欲しくないようだった。

そんなに汚いのだろうか?

⏰:07/07/22 12:47 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#71 [OZ]
僕は急に押し入れに興味がでてきて、意地でもそこに荷物を詰め込んでやろうと考えた。

長谷川さんは何度も止めたが、僕は一切言うことを聞かなかった。

とっとと昼食を食べ終え、二階の自分の部屋へと急ぎ足で戻る。

ドキドキしながら、押し入れの前に立った。

汚いのか……。

埃だらけなのだろうか?

それとも蜘蛛、鼠、ゴキブリがうようよと……。

⏰:07/07/22 15:55 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#72 [ako]
続きまってます

⏰:07/07/25 08:43 📱:SH903i 🆔:8450RV.Q


#73 [ふぅ]
あげます☆

⏰:07/07/26 22:26 📱:SH903iTV 🆔:YRlzuJiM


#74 [OZ]

akoさん、ふぅさん
ありがとうございます
更新遅れてて
本当にすいません

旅行に向けて
色々準備してて……

自分勝手で
申し訳ないのですが、
更新わ8月中旬頃まで
ストップさせて
ください

すいませんm(__)m

⏰:07/07/27 23:01 📱:N700i 🆔:☆☆☆


#75 [ako]
楽しみに待ってますね

⏰:07/08/05 09:58 📱:SH903i 🆔:bFATGGKI


#76 [蝶]
面白い!!
更新楽しみにしてますw

⏰:07/08/08 13:53 📱:SH902iS 🆔:0L6p3XVY


#77 [OZ]
akoさん、蝶さん
ありがとうございます
楽しみにしていただけて
すごく嬉しいです!!!

予定がいろいろと変更になったので、また更新再開したいと思います

それと変えました
打つのがすごく遅いと思います(∋_∈)スイマセン

⏰:07/08/09 11:52 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#78 [蝶]
わー
更新される(´∀`)
楽しみにしてます

⏰:07/08/09 12:12 📱:SH902iS 🆔:a0GsdVkc


#79 [OZ]

蝶さん
楽しみにして下さって
ありがとうございます
更新するって言って
間があいてしまって
すいませんヾ(;´Д`)ノ
更新します!

⏰:07/08/15 18:50 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#80 [OZ]
>>71

僕は勢いに任せて、押し入れを開けた。

期待に胸を膨らませ、押し入れの中に半ば体を入れるようにして覗き込む。

気持ちのよい緊張感で満ちていく。

しかし、僕の期待はあっという間に萎んでいった。

「……あれ?」

押し入れの中は空っぽだったのだ。

うっすらと埃はたまっているものの、押し入れとしては綺麗な方である。

⏰:07/08/15 18:59 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#81 [OZ]
押し入れは上段と下段にわかれていて、どちらもものの見事に何も置かれていなかった。

全然綺麗じゃないか。

僕は苛立ちながらも、考えた。

長谷川さんは、何故あんなにも僕に押し入れに近づいて欲しくなかったのだろうか?

長谷川さんは綺麗好きであるが、この程度の埃であのように叫ばないだろう。

だったら何故……?

……あれ?
それよりもどうしてこの押し入れは綺麗なんだ?

⏰:07/08/15 19:10 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#82 [OZ]
長谷川さんは足腰が悪い。

だから、ずいぶん二階にはあがっていないと言っていた。

しかしそれにもかかわらず、越してきた時、僕の部屋は綺麗だった。

あの時はなんとも思わなかったが、今思えばおかしい。

そして押し入れも綺麗だった。

まるで、最近まで誰かが使っていたかのように……。

⏰:07/08/15 19:20 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#83 [OZ]
適当に荷物を押し込み、再び一階に戻った。

僕が居間に入っていくと、長谷川さんはビクッと体を震わせた。

「長谷川さん」

僕が声をかけると、無理矢理口を歪ませて笑った。

「押し入れ……」

長谷川さんはそこで言葉を濁す。
僕が続きを引き継ぐ。

「押し入れ綺麗でしたよ……すごく」

すごく……ね。

⏰:07/08/15 21:01 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#84 [ako]
がんばってね

⏰:07/08/15 21:22 📱:SH903i 🆔:ZjfS6yZM


#85 [キナ]
あげがんばって

⏰:07/08/16 22:13 📱:D902iS 🆔:zDitEMJk


#86 [ふぅ]
頑張って下さい☆

⏰:07/08/17 05:48 📱:SH903iTV 🆔:PCBvXwKs


#87 [OZ]

akoさんキナさんふぅさん
あげてくださって
ありがとうございます
更新遅くて本当に
申し訳ないです|ω;`)

小説のほうも自分で書いていて意味がわかんなくなってきてます
意味が通じてなかったり、おかしな点があったらすいません
とりあえず頑張ります

⏰:07/08/22 17:39 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#88 [OZ]
>>83から

僕はこの時、それなりの違和感を感じていた。

しかし、考えてみると、押し入れが綺麗だろうと汚れていようと僕には関係のないことだ。

この家に来てから、押し入れに関したことで困ったことは一度だってない。

それよりも、僕が一番困るのはこの家から追い出されることなのだ。

家の主である長谷川さんが押し入れの話しを避けているのなら、それにふれるべきではない。

たかが押し入れで長谷川さんと不仲になるのは嫌だ。

⏰:07/08/22 17:49 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#89 [OZ]
……うん。
押し入れのことはきれいさっぱり忘れよう。

けれど、記憶力のよいこの僕がそう簡単に忘れられるのだろうか?
難しいかもしれない。




一時間後、僕と長谷川さんは世間話に花を咲かせていた。

長谷川さんはいつものように、人の良さそうな笑みを浮かべている。

どうやら、僕は押し入れのことを忘れるのに成功したらしい。

⏰:07/08/22 19:02 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#90 [OZ]
翌日の朝、また不思議な歌声を聞いて僕は目を覚ました。

やはり、歌声はすぐに聞こえなくなってしまったが。

僕は布団からはい出て、押し入れまで這うようにして近づいていった。

……やっぱり気になるな。
なかなか忘れられるものじゃないか。

窓からはさんさんと朝日が降り注ぎ、昨日よりも部屋の中は明るい。

もしかしたら見逃したものがあるかもしれない。

⏰:07/09/05 21:49 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#91 [蜜柑]
待ってました〜っ☆

⏰:07/09/05 22:32 📱:P904i 🆔:Qnvzn/VI


#92 [OZ]
蜜柑さん

お待たせして申し訳ないです(´;ω;`)
頑張りますので!

⏰:07/09/08 22:42 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#93 [OZ]
僕はそっと押し入れを開けた。

昨日と同じくうっすらと積もっているホコリと、わずかな僕の荷物しか入っていない。

あきらめて押し入れを閉めようとしたとき、あるものが僕の視界に飛び込んで来た。

それは押し入れの壁の隅の方に書かれた小さな字だった。

マジックペンのようなもので乱暴に『写真』とだけ書かれている。

「……写真?」

⏰:07/09/08 22:52 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#94 [OZ]
写真ってなんのことだ?
何か意味のあることなのだろうか?

なにかしらあるはずだ。

意味なく押し入れの壁に「写真」なんて書くなんておかしいじゃないか。

僕は行き詰まった。

そもそも僕は何を求めて、こんなにも何かを探っているのだろうか?

詮索して何か楽しいことが待っているというのだろうか?


……楽しいことが待っているはずなんかない。

現に僕は脅えているんだ。
得体の知れぬ何かに。

⏰:07/09/08 22:59 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#95 [OZ]
僕が居間におりていくと、長谷川さんが調度朝食を食べ終えたところだった。

「おや、みのる君は最近起きるのが早いのねぇ」

長谷川さんはからかうような笑みを浮かべ、僕の朝食を取りに台所へ行った。

僕はテーブルの前に腰を下ろし朝食を待つ。

長谷川さんの手伝いをする等という気は毛頭ないのである。

ふと、視線をあげるとテレビの隣にある低めの棚に、たくさんの写真立てが並べられてるのが目に入った。

「写真!」

⏰:07/09/09 14:19 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#96 [OZ]
今の今まで写真立ての存在など知りもしなかった。

この部屋で目にするのは、食事とテレビと長谷川さんくらいのものだったし。

僕が座っている位置からではよく見えないため、僕は立ち上がり、棚の前まで行った。

一つの写真立てを手に取ってみる。

その写真立てには六十代くらいのおじいさんの写真が入っていた。

軟弱そうな細い体に、ふわふわとした白髪が印象的だ。

「何を見ているの?」

⏰:07/09/09 14:31 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#97 [OZ]
僕は驚き、持っていた写真を落としそうになった。

振り向くと、長谷川さんがテーブルの上に朝食を置いているところだった。

訝しいそうに僕を見ている。

「あ……えっと、写真を……」

僕は珍しくもじもじしながら、写真立てを持つ手に力を込めた。

見てはいけないものだったのだろうか?

もしかすると、押し入れに書かれた『写真』という字はここに置かれている写真のことを指しているのかもしれない……。

「……すいません、勝手に見ちゃって」

⏰:07/09/09 15:23 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#98 [OZ]
長谷川さんはじりじりと僕の方にやってくる。

腰が曲がっていて顔が下を向いてしまっているので表情がわからない。

僕は身構えた。

しかし、僕の隣に立ち、写真を眺める長谷川さんの顔には笑顔が広がっていた。

あれ……?

長谷川さんは更に笑顔になって言った。

「全然かまわないわよ。
好きなだけ見て頂戴」

あ、あれあれ……?

「いいんですか?」

⏰:07/09/09 15:34 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#99 [OZ]
長谷川さんは『当たり前じゃない』というように頷いた。

そして、僕の手から写真立てを取ると、写真に映っているおじいさんを愛おしそうに指で撫でた。

「そのおじいさんは誰ですか?」

長谷川さんはほんのり頬を赤く染めた。

「……夫よ」

「あぁ、そうなんですか……。今、その人は?」

「死んじゃったわ」

⏰:07/09/09 15:46 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#100 [OZ]
僕の目に映ったおばあさんは、ちっとも悲しんでいる様子も懐かしんでいる様子もなかった。

「……他に写真はないんですか?」

棚に並んでいる写真立ての中に、このおじいさんのものは他になかった。

長谷川さんの顔から笑みがスッと消える。

「……残念だけどないの」


嘘だ。

⏰:07/09/09 15:52 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#101 [OZ]
僕は直感でそう思った。

この写真のおじいさんは、長谷川さんの夫ではない。

理由だってある。

写真のおじいさんはどこかの町を歩いているところだった。

目線は道の先の方を向いている。

写真を撮られていることに全く気付いていない様子だ。

普通、こんな風に自分の夫を撮らないだろう。

しかも写真はこれ一枚しかないという。

⏰:07/09/09 20:08 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#102 [OZ]
それに不可解な写真は他にもあった。

娘と息子だと長谷川さんは言ったが、おじいさんと同じくカメラを意識しておらず、一枚ずつしかない。

ところが、ある女の人の写真だけは、他の夫や子供達の写真とは違った。

ちゃんとカメラというものを意識して映っている。
それに、何枚も彼女の写真はあった。

棚の上に並べられた写真はほとんどが彼女だった。

「この女の人は誰ですか?」

⏰:07/09/09 23:05 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#103 [OZ]
この時の長谷川さんは、今まで見たこともないような幸せそうな顔をしていた。

夫達について話す長谷川さんにはどこか違和感があった。

何とも形容しがたいのだが、夫を一人の人間として扱っていないというか、まるでお伽話の登場人物について話しているかのように感じるのだ。

あのおじいさんが、僕が考えた通り赤の他人であるなら仕方のないことなのかもしれないが。

長谷川さんは穏やかな調子で言った。

「可夜(カヤ)っていうのよ。
私の孫なの」

⏰:07/09/10 21:55 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#104 [OZ]
「可夜……」

僕は何故か『可夜』という言葉に強く惹かれた。

「そういえば、みのる君は可夜ちゃんに少し似ているかもねぇ」

写真に映る可夜は、二十歳前後だろうか?
漆黒の艶やかな長い髪が印象的で、なかなか整った顔立ちの女性だった。
肌は透き通るような白さで、唇の赤を際立てている。

日本人形みたいだ……。


「……似てないですよ」

僕はしばらくしてそう答えた。

⏰:07/09/10 22:06 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#105 [OZ]
僕はこのあと可夜についていくつか質問し、彼女は大学生で、数年前に長谷川さんの家の近くで一人暮らしを始めたということを知った。

最近は学校やバイトが忙しく、あまり尋ねてくることはないそうだ。

可夜については驚くほど現実味があった。

しかし、それ以外の人物達があまりにも非現実的な雰囲気を漂わせており、そのため可夜という女性すら不気味な存在にさせてしまっている。

僕は聞きたいことは十分に聞いたから、部屋に戻って考えを整理させようと思った。

⏰:07/09/10 22:55 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#106 [OZ]
ところが僕は余計なことを口走ってしまったのだ。
どうしてこのタイミングで、あんなことを言ってしまったのかは自分でもわからない。

居間から出ようとして僕は立ち止まり、長谷川さんの方に向き直った。


「朝、時々奇妙な歌声が聞こえるんですよね。
何なんでしょうか?」




長谷川さんの顔から笑みが消えた。

⏰:07/09/10 23:00 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#107 [OZ]
―――――――――…


僕はぼんやりと自室の窓から庭を眺めていた。

長谷川さんの家にはそれなりの広さの庭があるのだが、とくに庭いじりをしている様子はない。

しかし、雑草はあまり生えてるわけではなく、茶色い地面がところどころ見えている。

日当たりが悪いわけではないのに、どこかじっとりとしていた。

⏰:07/09/11 07:16 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#108 [OZ]
その庭に長谷川さんは現れた。

そして、大きなスコップを使い、穴を掘り出したのだ。

僕は呆然とその様子を眺めていた。

腰の曲がった老人が掘っているとは思えないスピードで、穴は大きくなっていった。

長谷川さんは僕が見ていることに気付いたらしく、チラチラとこちらの様子を伺ってくる。

まったく、あのばあさんは何を考えているんだ?

⏰:07/09/14 20:18 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#109 [OZ]
長谷川さんは横二メートル、縦一メートルほどの穴を見事に掘り上げた。

掘り終わった後、長谷川さんは家の中に姿を消し、暫く見ていたが、穴のもとには戻ってこなかった。

夕食の時、何故穴を掘っていたのか聞いてみたが、適当にはぐらかされただけであった。


しかし、僕は案外早く、穴の使われ方を知ることになる。

あれは確か深夜2時頃ではなかっただろうか?

⏰:07/09/14 22:50 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#110 [OZ]
女の人の悲鳴を聞いて目を覚ました。

小さな声ではあったが、僕は深い眠りに就けずにいたので聞き取ることが出来た。

一瞬躊躇ったが、意を決して起き上がると、音を立てないようにして階段を下りていった。

階段を下りていったところでまた悲鳴が聞こえた。

てっきり悲鳴は家の外からしているものかと思っていたが、どうやら家の中から聞こえているようだ。

……長谷川さんの声?

⏰:07/09/16 17:41 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#111 [OZ]
僕は血の気がひいていくのを感じた。

なおも悲鳴や話し声がとぎれとぎれに聞こえてくるが、内容はまったくわからない。

よろよろと、声が聞こえてくるほうに向かって歩き出す。

なんだか夢を見ているような気分だった。

どうして自分がこんなに怯えているのかわからない。

自分はこんなにも臆病だったのだろうか。

⏰:07/09/16 22:28 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#112 [OZ]
僕の足は長谷川さんの寝室の前で止まった。

ふすまが閉まっているため、中の様子は全く見ることが出来ない。

悲鳴はやんでいたが、誰かが喋っているのが微かに聞こえる。

ここに来て、ようやくまともに思考する力が戻って来た。

もしかしたらふすまの先には長谷川さんの他に誰かいるのではないだろうか?

長谷川が一人で喋ったり悲鳴をあげたりするのは考えにくい。

⏰:07/09/16 22:37 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#113 [OZ]
だったら何か武器になるようなものを持ってくるべきだった。

けれどもう遅い。

僕にはそんなことをしている余裕はなかった。

手がするするとふすまに伸びていく。
気付いたときには、ふすまを開け放っていた。

一瞬、時間が止まったように思う。


ふすまの奥には長谷川さんと女の子がいた―…。

⏰:07/09/16 22:42 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#114 [OZ]
いや、女の子ではなく女の人だった。

僕は立ち尽くし、今にも倒れそうになっていた。
目の前の状況を理解することが出来ない。

長谷川さんも唖然とした表情である。

女の人は涙でぐちゃぐちゃになった顔で、僕を見つめている。

「長谷川さん……」

僕はやっとの思いで、そうつぶやいた。

女の子はそれを引き金に叫び出した。

⏰:07/09/16 22:49 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#115 [OZ]
助けて、と言っているのがかろうじて聞こえる。

耳をつんざくようなひどい叫び声だったが、僕の耳は耳栓をしたかのようで、叫び声はほとんど聞こえなかった。


女の人は可夜であった。

しかし、飾られていた写真の彼女とは、すっかり変わってしまっていた。

僕が彼女を女の子と見間違えたのも仕方なかったと思う。

⏰:07/09/16 23:01 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#116 [OZ]
彼女には手足がなかったのだ。

足は膝から下がなく、腕はすっかりない状態だった。

もちろん写真に映っていた可夜には、ほっそりとした手足があった。

切断面には乾燥した赤黒い血がびっちりとこびりついている。

そんな彼女を、長谷川さんは抱き抱えるようにして座っていた。

⏰:07/09/17 18:49 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#117 [OZ]
これをシルエットだけを見たとしたならば、子供を抱いている老人に見えたはずだ。

僕の心臓は早鐘のように脈打ち、頭は混乱を極めた。

それでも僕の目は可夜にくぎづけとなり、そらすことができない。

可夜は服を着ておらず、胴体の辺りに布を巻いているだけであった。

げっそりと痩せ細り、これ以上人間が痩せることは不可能に思える。

⏰:07/09/17 18:57 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#118 [OZ]
漆黒の黒い髪は乱れに乱れ、半ば抜け落ちていた。

なにがどうしたらこうなるのだ?

彼女は今にも死んでしまいそうだった。

腕や足がどのようにしてなくなってしまったかはわからないが、見たところなんの処置もされていないのはあきらかで、それで生きていられのが不思議だった。

「……長谷川さん。
説明してください……」

⏰:07/09/17 19:04 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#119 [OZ]
その時、長谷川さんのそばに包丁が転がっていたのが目に入った。

「……包丁?」

僕がそう言ったと同時に長谷川さんは、可夜に引けをとらない大声で泣き叫びながら後退して行った。

可夜は畳の上に放り出される。

老婆は這うように動き、部屋の壁に当たると頭を抱え込み、めそめそと泣き出した。

長谷川さんがどうしてこのように泣いているのか知らなかったが、僕はなんともいえない軽蔑の心がざわめき立つ。

⏰:07/09/17 19:18 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#120 [OZ]
可夜の方はようやく少し落ち着いて、静かに涙を流しながら力無く横たわっていた。

僕は無意識のうちに可夜の側へ行くと、長谷川さんがやっていたように、そっと彼女を抱き抱えた。

長谷川さんはそれから暫くの間泣いていたが、泣き止むと、心ここにあらずといった様子で、ボソリボソリと事の顛末を話し出した。

その頃には、僕は完全に長谷川さんを侮蔑し、憎んでまでいた。
長谷川さんがとても醜いものに感じられた。

⏰:07/09/17 19:29 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#121 [OZ]
長谷川さんの話はとても現実に起こったことだなんて信じられなかった。
しかもこの家で。


「可夜は私の孫でもなんでもないわ……」


可夜は、僕と同じような理由で長谷川さんの家に住まわせてもらうことになった女子大生だったそうだ。

両親はずいぶん前に亡くなり、結婚をしていなかった長谷川さんはもちろん家族もおらず、孤独だった。

⏰:07/09/17 19:40 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#122 [OZ]
そんな中、今から一年前くらいに現れた可夜は、長谷川さんにとって、何よりも大切な存在となった。

長谷川さんは可夜の美しさ、優しさを独り占めしたいと渇望した。

そして、可夜が本当の孫であればと思い、実際にそのように接した。

ところがある日突然に、可夜は長谷川さんの家を出ると言い出したそうだ。

それが彼女を哀れな姿に導くことになった。

⏰:07/09/17 19:51 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#123 [OZ]
長谷川さんはなんとかして引き止めようとしたが、彼女の決心は固かった。

可夜を絶対に手放したくなかった長谷川さんは、彼女の手足を切断した。

そして、僕が使っている部屋の押し入れに彼女を隠した。

可夜は奇跡的に死なず、生き続けた。

これが僕がこの家に来る、一週間前のことだという。

⏰:07/09/17 20:02 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#124 [OZ]
長谷川さんは僕を初めて見たとき、可夜の兄弟なのではないかと思ったそうだ。

可夜に兄弟を作ってあげるために、僕を自分の家に招き入れた。

彼女自信も男の子の孫が欲しいと思っていた。

僕が家にやってくる前に可夜を長谷川さんの寝室の押し入れに移した。

時が来たら僕に紹介するつもりだったらしい。

⏰:07/09/17 20:15 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#125 [OZ]
けれど、時間が経つにつれて、長谷川さんは可夜を疎ましく思うようになった。

新しい孫ができた今、手足のない孫などいらなくなってきたのだ。

可夜は頭がいかれてしまい、まともに話すことすらままならない。

可愛い孫としての機能を何も果たさなくなった。

それどころか奇声をあげたり、大声をあげるようになってしまった。

⏰:07/09/17 20:21 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#126 [OZ]
僕も何かを怪しみ初めて、ついに長谷川さんは心を決めた。

庭に穴を掘った。

人を埋められるくらい大きな穴を。

そして今日、可夜は死ぬはずだった。


「足腰が悪いのかと思ってました……」

僕の言葉は、静まり返った部屋に間抜けに響いた。

⏰:07/09/17 20:28 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#127 [OZ]
長谷川さんは完全に力を失い、何も答えなかった。

可夜が再び喚き出した。

「……助け…て!痛い……。殺して……あのばあさんを……。殺せーーーーーーーーっ!!」

僕は片手で可夜を抱きながら、空いた手で落ちていた包丁を拾いあげた。

長谷川さんはその様子を見ると、ゆっくりと目を閉じた。

⏰:07/09/17 20:37 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#128 [OZ]
「母親に……なりたかった……」

しゃがれた声がゆっくりとそう告げた。

僕は重いっきり包丁を持った手を振り上げ、一気に振り下ろした。


「ギャーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


部屋中に可夜の悲痛な叫びが轟く。

僕は可夜の痩せ細った体に包丁を突き立てていた。

⏰:07/09/17 20:41 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#129 [OZ]
僕は何度も何度も可夜を刺した。

長谷川さんは呆然とその様子を眺めている。

長谷川さんへの憎しみの思いは消えていた。
母親になれずに、人生を孤独に生きてきたことを哀れに思った。

それに比べ、可夜の人間と思えぬ出で立ちや叫びに苛立った。

⏰:07/09/17 20:47 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#130 [OZ]
誰が彼女をそのようにしたかなど関係なかった。









この夜、僕は生まれた。

⏰:07/09/17 20:49 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#131 [OZ]
―――――――――…

僕は自分の部屋から庭を見ていた。

相変わらずじめじめとしているが、穴は綺麗に埋められていた。

「みのる君!ご飯が出来たわよー!」

下の階から老婆の声が響き渡る。


「今行くよ!お母さん」

⏰:07/09/17 20:54 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


#132 [OZ]
END

⏰:07/09/17 20:56 📱:SH703i 🆔:☆☆☆


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