-Castaway-
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#153 [◆vzApYZDoz6]
嘔吐が混じったような咳が出る。腹筋が圧迫された感じがして息がしづらい。
シーナ「ごほっ!…ふふ、今の…あなた元ボクサーか何か…?」
ライン「元ボクサーではないが言わんとする事は正解だ。……つまり、お嬢さんの肝臓をぶち抜いた」
右フックはフェイント。
本命のリバーブローを食らって動けなかったシーナだが、刀をついて漸く立ち上がった。
シーナ「リバーブローね…でも、今のうちに止めを刺しちゃえばよかったのに」
:08/01/01 03:24
:P903i
:KRat.OYw
#154 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが左腕を突きだし、再び構える。
表情は少し曇っていた。
ライン「女性をいたぶる趣味はないさ」
シーナ「あら、余裕ねー。じゃ…ちょっとご好意に甘えようかな」
シーナも刀を握り直し、武蔵野構え。
再び向き合い、2人の視線が重なる。
ライン「でもな、お嬢さん―――」
言いかけの言葉を残し、ハル・ラインの姿が忽然と掻き消えた。
:08/01/01 03:38
:P903i
:KRat.OYw
#155 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なっ…!?」
油断していた訳ではない。本当に一瞬で、その姿を見失った。
幻でも見たのか、という愚かな考えがシーナの頭を過った、その時。
ライン「―――少し、俺を嘗めすぎだ」
背後からの手刀が、シーナの胸を貫いた。
:08/01/01 03:48
:P903i
:KRat.OYw
#156 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あ…かっ…」
声が出ない。自分の胸に視線を向けると、ちょうど鳩尾のあたりから、自分のものではない手が突き出ていた。
シーナ「こんな……」
ライン「悪いな、お嬢さん」
ハル・ラインが手を引き抜き、シーナが力なく膝をつく。ゆっくりと倒れていく自分の体を、シーナはまるで他人の事のように感じていた。
自分が地に臥している事がはっきり分かったのはいつだろうか。気が付くとシーナの体は、血の海に俯せに横たわっていた。
ライン「心臓を貫いた。……ま、それなりに楽しめたよ、お嬢さん」
:08/01/01 13:09
:P903i
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#157 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やられちゃった…かな。…向こうの戦いの音はちょっと前に止んじゃったし…きっとお姉ちゃんが勝ったんだよね)
ハル・ラインは心臓を貫いた、と言っていたが、シーナの脳は冷静に働いた。
頭に浮かぶのは自分の体の事ではなく、姉の事。
姉は自分よりも数段は強かったんだから、負ける筈がない。敵も相当に強いから、姉もそれなりの怪我を負ってるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶ。
シーナは敵に殆どダメージを与えられなかった自分に憤り、同時に、踵を返し相棒の元へ向かうハル・ラインを止めなければ、と考えた。
:08/01/01 13:21
:P903i
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#158 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは踵を返し相棒の元へ歩を進める。
1歩目を踏み出した時に、後ろで何かが動く気配。
まだ生きていたか。しかし何もできまい。
そう考えて2歩目を踏み出す。今度は刀が地をつき鳴いた音。
馬鹿な…まだ足掻く力が?いや、確実に心臓を貫いた筈だ。
余計な考えを振り払い、ゆっくりと前に出した3歩目。
突如として凄まじい気配が周囲をの空間包む。空気が痺れる程の殺気が、明らかに後ろから、自分に向けられている。
とうとう堪らなくなり振り返ると、シーナが立っていた。
シーナ「あなたを倒せば…お姉ちゃんは先に進む」
:08/01/01 13:47
:P903i
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#159 [◆vzApYZDoz6]
シーナの胸には確かに穴が空いている。が、その穴はどんどん小さくなっていた。
心臓とその周囲の筋肉、肋骨、更には手刀が掠めて穴が空いた肺までもが、凄まじいスピードで再生している。
目に見える程の早さで分裂を繰り返す細胞は、音を立てて形を成していき、瞬く間に負傷した全ての臓器、筋肉、骨が繋がった。
さらに表皮がどんどん縫い止められ、ついには胸の穴が完治する。
シーナ「紹介が忘れていたわね…私のスキルは『ライフケール』、怪我を修復出来るの」
ライン「馬鹿な!その再生力は…本当にスキルか!?」
:08/01/01 14:04
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#160 [◆vzApYZDoz6]
右手に握られた刀の鋒が血の海に沈む。己が主人の血を吸い上げ、その刀身を真紅に染める。
さらに血を吸い続ける刀の鍔から血が蒸気となって吹き出し、赤い靄が主人の体に纏わりついた。
シーナ「そうね…こんな再生力もこの赤い靄も刀も『ライフケール』には無いわ。私は…人間じゃないのかも」
ライン「人間じゃない、か。…ならばこちらも容赦はしないぞ、お嬢さん」
:08/01/01 14:58
:P903i
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#161 [◆vzApYZDoz6]
ライン「次は再生の間も与えず殺す」
ハル・ラインが向き直り構え直す。
心臓を貫いたのだから、立ち上がれる筈がない。そう考えていたハル・ラインは内心驚いていた。
油断していた自分が悪い。せめてもの情けにと心臓を狙ったのがいけなかった。次は、確実に首をはねる。
右手に手刀を作り、一気に踏み込んだ。
ライン「その首、貰うぞ!」
迫り来るハル・ラインを前に、シーナは微動だにせず呟いた。
シーナ「…やめといた方がいい気がするけど」
:08/01/01 15:19
:P903i
:KRat.OYw
#162 [◆vzApYZDoz6]
言い終わる前にハル・ラインが踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
確実な殺意を込めて突き出されたその手刀は、先刻心臓を貫いた時よりもさらに早い。指先から衝撃波が発生し大気を切り裂くかと思うほどの手刀は、人間には到底避ける事はかなわないだろう。
しかしその手刀は、物理的に遮られる筈もない血の靄に阻まれた。
血の靄はそのままハル・ラインの腕に巻き付く。巻き付かれた腕と手から煙のような蒸気が吹き出し、皮膚が赤黒く爛れ落ちた。
ライン「ぐあっ!!」
シーナ「ほらね…こうなる気がしたの」
シーナはゆっくりと目を瞑り、身を屈める。刀は右肩に背負う担ぎ構え。
その構えはシーナの修めた柳生新陰流にはないものだ。
:08/01/01 23:31
:P903i
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