-Castaway-
最新 最初 🆕
#1 [主◆vzApYZDoz6]
幼い頃、男の子が一度は読んだ漫画や、女の子が母親に読み聞かせてもらったおとぎ話――

ある男女の高校生がくぐった扉は、そんな世界へ通じていました。




※小説初チャレンジなので、表現等至らぬ所もあると思いますが、寛大に見てもらえると嬉しいです
※かなりヲタク爆走な内容になるかもしれないです。てか多分そうなりますw
※無いとは思いますが、感想が増えたら感想スレ建てようかなと思います。



では

⏰:07/12/15 16:27 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#2 [主◆vzApYZDoz6]
秋もおわり、そろそろ木枯しが吹き始める季節。

マンションの一室のドアの前に、女の子が立っていた。

(浅香 藍、17歳。このお話のヒロインです。)

藍は手袋を着けていても冷える手を吐息で暖めながら、幼馴染みである川上 京介がドアを開けるのを静かに待っていた。

(川上 京介、17歳。このお話のヒーローです。)

藍がそろそろ待ちくたびれて階段に座ろうとした時、ドアのノブが回った。

藍「遅い!!」
京介「だから先行っていいっていつも言ってんじゃん」

京介は言いながらドアの鍵をかけ、寒さで肩を少し持ち上げた。
会話をしながらも、階段を少し小走りで降りる。

藍「でもいつも一緒に行ってるんだし…私が待ってなかったら京ちゃんいつも遅刻するし」
京介「京ちゃんって呼ぶのもやめろよ」
藍「何で?今までも京ちゃんて呼んでたんだしいいじゃない。てゆうか最近京ちゃん冷たいよ」
京介「あーもーうるせぇよ!学校間に合わねぇだろ!」

急ぐぞ、と早足で駅へ向かう京介を、藍は少しふてくされながら小走りで追い掛けた。


とまぁ、2人は友達以上恋人未満といった感じの、よくある関係だ。
京介はまだ思春期から抜けきっていないようで、藍に対して、心では嫌っていないが少しひねくれた態度を取っていた。
藍がもっと関係を深めたいと思うも、そんな京介のせいでいまいち進展はなかった。

⏰:07/12/15 16:58 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#3 [主◆vzApYZDoz6]
「また夫婦で登校ですかー?w」
「仲いいなー、羨ましいw」

教室に入ると、いつも通り2人へ冷やかしの言葉が飛ばされる。
春になれば3年目に入る学校で、京介と藍の2人は公認のカップルになっていた。

京介「こいつが勝手に待ってたんだよ!」
藍「いつも一緒に行ってるんだし待ってたっていいじゃない!」
京介「うるせぇよ!」

「もうこいつらいじるのも飽きてきたなーw」
「毎回言うこと同じだもんなw」
「京介もいい加減素直になれよw」
京介「うるせぇよ!散れ」


2人を冷やかしていた数人が笑いながらそれぞれ席に戻る。
京介も決してその気が無いわけではないが、朝のこういった冷やかしも京介が素直になれない一因だろう。
それは授業中も同じで――

藍「今日も教科書持ってきてないんでしょ?見せてあげる」
京介「いいって!机ひっつけんなよ」
「また夫婦喧嘩ですかー?w」

すかさず野次が飛ぶ。
席替えしても毎回京介と藍は隣同士だ。

⏰:07/12/15 17:13 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#4 [主◆vzApYZDoz6]
-放課後-

藍「さっ、帰ろ京ちゃん」
京介「いいって一緒じゃなくても」
藍「でも家まで道一緒だし…」
「そうそう、一緒なんだし一緒帰れw」
京介「うるせぇ!もういいよ、帰るぞ」

藍は頷きながら、やはり早足で行く京介に付いていく。

藍の家は京介と同じマンションの、同じ階の、京介の向かいの部屋だ。
電車どころか家のドアを開ける時も同じなので、京介もふてくされながらも毎回一緒に学校に行き、一緒に家に帰っていた。

その2人の住み慣れたマンションの1階ので、京介が自宅の郵便受けを開けている時。

藍「ねぇ…あんなとこにドアなんかあったっけ?」

藍が階段の隣を指差して京介に言った。
京介が藍の指の先を見る。
このマンションはエレベーターが無く、階段が2部屋毎に部屋に挟まれてあるだけだ。
階段は集合住宅によくあるような、階毎に踊り場を挟んで折り返し昇るタイプ。京介のマンションは、1階の階段の始まりの横-地下があるならば、さらに降りる階段がある場所です。-が壁になっていて何もない。

藍はそこを指差していた。

⏰:07/12/15 17:36 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#5 [主◆vzApYZDoz6]

京介「あれ?あんなとこにドアなんかあったっけ?」
藍「それ今言ったから!…でもあんなとこにドアなんか無かったよね?」

京介「たぶん…無かったと思うけど」


2人ともドアを見つめながら、不思議そうに会話していた。

ドアは全体的に茶色で、ドアノブと思われる水平棒がついている。ノブを回すのではなく、下げて押し開けるタイプのドアだろう。
そのドアがある場所は、今日の朝までは間違いなく壁だった。

少しの間2人とも沈黙していたが、藍が唐突に口を開いた


藍「ねぇ、中に何があるか気にならない?」

⏰:07/12/15 18:11 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#6 [主◆vzApYZDoz6]
京介「まぁ気にはなるけど…明らかに怪しいだろアレ」

京介の言うことは最もだ。
ドアがある場所は階段裏のデッドスペースで、せいぜい物置程度の空間しか無いだろう。ましてや人が住んでいるなどあるはずもない。さらに、このドアは恐らく京介達が学校にいる間に突然現れたのだ。
怪しい事この上ない。


藍「分かってるよそんなの。だから中が気になるんじゃない!」
京介「いやまぁ…言いたいことは分かるけど」
藍「ほら京ちゃん、中見てみよ!ちょっと除くだけじゃん!」
京介「万が一人がいたらどーすんだ」


京介の心配もよそに、藍は京介の腕を引いてドアへ向かっていた。
京介も何だかんだで気になるので、そのまま引かれてドアへ向かう。
藍がドアノブに手をかけた。


藍「あっ、一応おじゃましますって言った方がいいかな?」
京介「心配せんでも人はいねぇだろうけど…まぁ、好きにすればいいんじゃね?」
藍「よーし、じゃあ…おじゃましまーす!!」


藍が勢いよくドアを開け中に入る。
京介も中に入った。


京介達が予想外の中の光景に驚きはしゃいでいる後ろで、ドアの蝶番がゆっくりと戻っていく。


やがてドアが完全に閉まり、ドアノブが水平の位置へ戻る。



カチッ、という音と共にドアノブが水平に戻った瞬間、ドアが光に包まれ、忽然と消え去った。

⏰:07/12/15 18:27 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#7 [主◆vzApYZDoz6]

藍「すごーい…」
京介「何だここ?」


2人が出た場所は階段裏のデッドスペースなどではなかった。
回りはどこを見渡しても草原が広がるばかりで生き物も見当たらず、建物はおろか、木の1本すら生えていない。水平線の彼方に山が広がっているだけで、まるでモンゴルの大草原を彷彿とさせた。


京介「ドアの向こうは不思議の草原でした。」
藍「あははっ、それ『千と千尋の神隠し』じゃん!…でも何だろうねここ」
京介「てゆうかあのドアってマンション裏にあったはずじゃ…―――げっ!」


京介はドアを見ようと振り返り驚愕した。


京介「ドアが…ドアが無くなってる!」


京介は、今しがた自分が出てきた場所をまさぐったが、空を切るばかりだ。

⏰:07/12/15 18:47 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#8 [主◆vzApYZDoz6]

京介「どうやって帰るんだよ…なぁ藍、これからどう―――あれ?」

さっきまで隣にいた藍がいない。
京介は焦って辺りを見回すと、藍が50m程先で佇んでいた。
京介はほっとして胸を撫で下ろし、駆け足で近付いた。

京介「どうしたんだ?」

藍「あ、京ちゃん、あれさっきのドアじゃない?」

京介「えっ?…あっ、ホントだ」

藍が指差してた先を見ると、10mぐらい先だろうか、確かにここに来たときにくぐったのと同じようなドアが見える。

⏰:07/12/15 18:56 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#9 [主◆vzApYZDoz6]
京介「よし、ならさっさと帰るぞ」

藍「えっ、どうせならもっと探検してみようよ!」

京介「探検してみようよって、回り何もねぇじゃん…」

藍「だからあっちの山まで…」

京介「遠いわ!これ以上わけわからん事になる前に帰るぞ」

ほら、と藍の腕を引っ張る。
藍は少しふてくされながら渋々ついていった。

⏰:07/12/15 19:01 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#10 [主◆vzApYZDoz6]
さっきと同じドアを、今度は京介が開く。

京介「あれ…また変なとこに出たぞ?」


そこはマンションの階段だった。が、明らかに外の風景が自宅のマンションとは違う。
辺りは夜のようで、マンションを出るとレンガの道が左右に伸びており、脇には該当の光が点々と続いている。向かいや隣にもレンガ造りのマンションや家が並んでいる。その町並みはロンドンの市街のようだが、人は全く見当たらず、あまりに閑散としている。

藍「なんか怖いね…」

京介「まぁ…とりあえずまたドアが無いか探してみようぜ。離れんなよ」

やはりドアが消え失せて壁になっている場所を一瞥しながら、藍の手を引いて外に出る。

京介達がレンガ道の真ん中に出ると後ろで、瓦を割ったような大きな音が響いた。

京介「なんだ!?」


見ると、男が立っていた。

⏰:07/12/15 19:38 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#11 [主◆vzApYZDoz6]
男はスキンヘッドで、黒いジャケットに黒いカッターを着ていた。肌も褐色で、周囲の薄暗さも相まって景色に溶け込んでいた。
男の足元を見ると、まるで上空からボーリングの球を落としたかのように、レンガが抉れ捲り上がっていた。

京介「何だよお前…?」

後ろの藍を右腕で制しながら言う。

?「やはり来たか…悪いが、死んでもらおう」

京介「はっ?」

男は既に右腕をふりかぶっていた。

⏰:07/12/15 19:58 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#12 [主◆vzApYZDoz6]
京介「危ない!!」

京介は藍を抱え右に飛ぶ。

間一髪。
男の右腕は、つい半瞬前まで京介達がいた場所の地面にめり込んでいた。

男が腕を引き抜き、京介達の方へ向き直る。
男の右腕は、左腕の3倍はあろうかというぐらいに膨れ上がっていた。
京介はすぐに立ち上がり、藍を抱え起こす。

藍「ありがとう…でも何あの人!?」

京介「分からねぇけど、とにかく逃げるぞ!!」

京介は藍の腕を引っ張り走り出した。
男もそれを確認し、体をかがめた。

?「逃げるのはいい事だが…遅いな」

一気に飛び出す。
一瞬で京介達を飛び越えた。

京介「げっ」

?「無駄な足掻きはするんじゃない」

男は再度右腕を打ち出す。
京介は走っていて急に止まったため体勢が不安定だった。

京介「やべ…!」

その時、京介の前に見慣れた人物が現れた。

⏰:07/12/15 21:19 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#13 [主◆vzApYZDoz6]
藍「…内藤先生?」

京介「えっ?」

内藤「ふぅ…間一髪か」

内藤が男の拳を払いながら溜め息をついた。

(内藤 篤史、35歳。京介と藍のクラスの担任です。)
京介「内藤!!何でここに!?」

内藤「川上、先生を呼び捨てで呼ぶもんじゃないぞ」
?「誰だ、貴様は」


男が左手を前に突きだし構えをとった。
内藤もそれに倣い、体勢を立て直す。

内藤「俺も地球から来た人間だ。…こいつらと同じ、な」

内藤が後ろの京介達を顎で指す。

?「地球人か…ならば貴様も死んでもらうが」

⏰:07/12/15 22:16 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#14 [主◆vzApYZDoz6]
京介と藍は困惑していた。
京介は頭の中で数々の疑問が浮かぶ。
地球から来た…って、じゃあここは何処なんだ?
地球人か…って、あいつは地球人じゃないのか?
藍はわけもわからず黙って立っていた。
京介はとりあえず内藤に訊いた。

京介「なぁ、内藤、何か知ってるみたいだけど、一体なんなんだ?」

内藤「ん?それはあとで説明する。てゆうか先生を呼び捨てに―――」

会話を遮るように男が踏み込んだ。
初撃、2撃目よりも遥かに早く右ストレートが打ち出される。

内藤「……全く気が早いな。親から教わらなかったか?」

内藤の左手が男の右拳に添えられた。
男の右拳を、スピードを殺さず手前に引く。

内藤「人が喋っている時は―――」

間髪入れず右手で男の右肩を掴み、さらに引く。
左手は男の拳から離れ、そのまま弧を描きながら男の踏み込み足を掴む。
内藤が左右の腕を勢いよく交差させると、男の体が宙に舞った。
内藤はそのまま右拳を腰に構え―――

内藤「―――邪魔をするんじゃない!」

―――渾身の掌呈突きを繰り出した。

?「ごはっ!!」

男は血を吐き、体は数m吹っ飛んだ。

京介「内藤ってあんな強かったっけ…?」

内藤「だから先生を呼び捨てにするんじゃない」

⏰:07/12/15 23:01 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#15 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はポケットから煙草を取り出し、火をつける。銘柄はマルボロメンソールだ。深く煙を吸い、ゆっくり吐き出した。
京介はその様子を見ながら、内藤が何故か持っていたロープで謎の男を縛り上げていた。
藍はすぐそばにあったベンチに腰掛け、2人を静かに眺めていた。
京介が男を縛り終えた頃合いを見計らって、話を始める。

内藤「さてと…何から話すべきか」

京介「とりあえず、此処は何処なんだ?」

内藤「この世界は『ディフェレス』と言ってな…まぁ簡単に言えば異世界だな」
藍「あの人は一体何なんですか?」

内藤「あいつは『ウォルサー』っつー組織の組員…つうか戦闘員だ。…なんて言っても分からんだろう」

京介「全然分からん」

内藤「ごもっとも。一から説明しよう。黙って聞け」

⏰:07/12/15 23:15 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#16 [主◆vzApYZDoz6]
内藤は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた。

内藤「『ディフェレス』には、普通の人間の他に『レンサー』と呼ばれる特殊な力を持った人間が存在する。その特殊な力は『レンサースキル』と言って…まぁ色々ある」

京介「色々ある、ってハショんなよ。つうか何の漫画だそりゃ…」

内藤「五月蝿い。黙って聞け。…んでな、ウォルサーはそのレンサーの力で、世界征服というありきたりな事を企んでるんだ。
そして、その企みを阻止せんとする『バウンサー』という組織も存在する。俺もそこの所属だ」

藍「え?じゃあ担任をしてるのはなぜなんですか?」

内藤「うん。お前は言葉遣いが正しくて宜しい。…まぁこれにも理由があってな、ウォルサーが世界征服を目論むにあたって地球人を狙いだしたんだ。
つうのも、地球人の中にも極少数のレンサーがいる。しかも、そのスキルは他と比べ物にならないぐらい強力なものが多いんだ。ウォルサーはそこに目をつけ、スキルを持った地球人を誘拐・洗脳して利用しよう、っつーとんでもない計画を企てたんだ。」

⏰:07/12/15 23:55 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#17 [主◆vzApYZDoz6]
京介「話が突飛すぎてついていけないんだが…スキルとか洗脳とか」

内藤「その洗脳がやっかいでな…そこに縛られてるあいつも洗脳で操られている。簡単なスキルなら人に覚えさせる機械があってな、レンサーではない普通の人間でもスキルを持たせれば戦える。奴等はそうやって駒を増やしているんだ」

京介「なんか映画でなかったかこんなの?」

内藤「話を戻すぞ。地球人の誘拐を防ぐために、俺が地球に派遣された。スキルを持つ地球人の発見と保護が目的だ。
そして発見したスキルを持つ地球人が…お前だ、川上」

京介「俺!?いやいやはっきり言ってそんなわけわからん能力とか持ってないから!!」

内藤「いや、お前はスキルを持っている。『扉』が開いたのが何よりの証拠だ」

⏰:07/12/16 00:07 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#18 [主◆vzApYZDoz6]
京介「扉…ってまさか」

京介は藍と顔を見合わせる。

藍「あのドア?」

内藤「そうだ。あれはレンサーしか開けれない扉でな…ウォルサーに移動型の強力なスキルを持った奴がいてな、そいつの仕業だ。
その扉はレンサーの側に出現する仕組みになっているから、お前を担任に成り済まして見張っていたんだ…だがたまたま臨時の職員会議があってな…」

京介「頼りにならねぇな…

⏰:07/12/16 09:18 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#19 [主◆vzApYZDoz6]

京介「あれ?でもあいつらは地球人…って言うか、まぁ要するに俺を、利用しようとしてんだろ?何で殺すんだ?ってかさっきも言ったが、俺そんなわけわからん能力とか持ってないから」

内藤「あいつらの言う『地球人』は、スキルを持たない地球人の事だ。…まぁつまり、浅香、お前の事だ」

藍「私を殺そうと…?」

京介「いや、何で殺す必要があるんだよ?」

内藤「どうゆう訳かレンサーではない地球人には洗脳が効かない。つまり、ディフェレスの実情を知ればバウンサー側の人間になられる。まぁ、敵になる前に殺そうって事だ。…しかし何で浅香は扉を通れたんだ?」

⏰:07/12/16 11:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#20 [主◆vzApYZDoz6]
京介「そういや最初にあのドア開けたのお前だな」

内藤「開けた!?本当か!?」

内藤が身を乗り出す。

藍「え?…あ、はい、一応…」

内藤「まさか…いやでも開けられるのはレンサーだけ…だが反応は…」

京介「何ブツブツ言ってんだ?」

内藤「だいたいあの扉がなぜここに…クルサがモルディアに繋がるように組み換えたはず…」

⏰:07/12/16 11:16 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#21 [主◆vzApYZDoz6]
内藤のよく分からない独り言を聞いて、京介が藍に呟いた。

京介「…そういや最初は草原に出たよな?」

藍「そうだね…結局あそこは何処だったんだろ」

内藤「草原!?」

内藤がいっそう2人に近付いた。

内藤「そこへの扉を開けたのが浅香…じゃあここへ来る扉を見付けたのは?」

藍「私ですけど…」

京介「草原からここへ来たときもお前が先にドア見付けてたよな」

内藤「やはりか…」

その時、背後から甲高い声が響いた

?「いいこと聞いちゃったー♪」

⏰:07/12/16 11:26 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#22 [主◆vzApYZDoz6]
声の正体は女だった。
後ろのマンションの屋上から飛び下りたその女は、カッターシャツにカーディガン、下はプリーツのスカートという、まるで高校生のような風貌。

内藤「アリサ…!」

アリサ「もう、その女を殺さない訳にはいかないよ♪」

アリサは手を上にかかげ、指をパチンと鳴らした。
と、先刻京介達を襲い、今は縛られてる男が、一斉に現れた。手には拳銃らしいものを持っている。

京介「なんかいっぱい出てきたけど」

内藤「仕方ない…川上!」

京介が振り返ると、突然内藤の人差し指が耳に突っ込まれた。

京介「いってぇ!?」

内藤が指を引き抜きながら、前を見据える。

内藤「これでお前は戦える。お前はあのハゲ男達から藍を守れ」

そう言うと、内藤はアリサの懐へ踏み込んだ。

⏰:07/12/16 11:45 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#23 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おい待てよ内藤!」

京介が内藤を追い掛けんとするところを、男達が阻む。

男「その女を渡せ」

京介「誰が渡すか!」

京介は藍をベンチの後ろに隠させ、男達に向き直った。

京介「戦えるって…戦い方分からねーっつーの」

男「ならばお前に先に死んでもらおう」

男達が、一斉に拳銃を構えた。

⏰:07/12/16 11:51 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#24 [主◆vzApYZDoz6]
京介の視界に、自分に向かって飛んでくる無数の銃弾が映った。
なぜか、銃弾はゆっくりと自分に向かってきている。

京介「あれ…これ避けれるんじゃね?」

1番最初に自分に当たりそうな弾は左前から来ている。
京介は右に首を倒す。顔面目掛けて飛んでくる銃弾は京介の耳の横を通過した。
その銃弾を尻目に前を確認、今度は前方と右前の弾が当たりそうだ。
今度は右後ろに1歩下がった。
銃弾が眼前をゆっくり通過していく。
その銃弾の向かう先を目で追う。
藍には当たらなさそうだ。
京介はまた前を見る
男達は、自分が今立っている場所から1歩左前、つまり避ける前に立っていた場所を見ている。

京介(あれ…あいつらボーッとして何やってんだ?)

⏰:07/12/16 12:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#25 [主◆vzApYZDoz6]
京介は、自分の前に扇形に並ぶ男達の、右端の男の方に踏み込む。
京介が男達の後ろに回り込んだ頃に、ようやく男達の視線が動き出した。

男「奴がいない!?」

京介「何処見てんだよさっきから」

男「はっ!?」

男が声の方を振り返ると、味方の男が1人、宙に吹っ飛んでいた。

⏰:07/12/16 12:17 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#26 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おぉ!?」

吹っ飛んだ男は、地面に頭から着地、もとい激突した。

京介「あれ?俺ってこんなパンチ力あったっけ?」
男「貴様!!」

男の声に反応し、視線を上げる。
目の前にいた男が拳銃を捨てて殴りかかってきた。
その後ろの何人かも拳銃を捨て、横に飛び出してくる。
京介には、やはりスローモーションに見えていた。

京介「今度は右腕膨らまさねーのか?」

眼前の男の右腕は細いまま、顔を狙って拳が飛んできた。

⏰:07/12/16 12:30 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#27 [主◆vzApYZDoz6]
京介は右足を持ち上げ、前に蹴り上げた。
男はそのまま吹っ飛ぶ。
今度は左右から別の男が殴りかかってくる。
左の男の伸びてくる腕を右手で捕まえ、そのまま左肩に担ぎ、腰に体重をかける。

京介「おらっ!」

勢いよく右の男に投げ飛ばした。

京介「おー、何かよく分かんねーけどいけそうだな!」

京介は前に残る男達を倒すべく踏み込んだ。

⏰:07/12/16 12:42 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#28 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「ふふっ、私を相手にする気?♪」

京介が男達の銃弾を避けている頃、内藤はアリサと対峙していた。

アリサ「あっちも銃撃始めたみたいだし、そんなに頑張ったって、どうせあの女は殺しちゃうよ?♪」
内藤「浅香なら川上が守っているはずだ。今の川上ならあいつらぐらいどうって事ないだろう」
アリサ「やっぱりスキルを渡してきたのね♪」
内藤「…」

内藤は無言で構えた。
内心で銃撃音が気になっていたが、京介に渡したのは情報処理能力強化スキル『ブロード』。しかも、強制使用するようにしておいた。
心配はいらない、と内藤は自分に言い聞かせる。
しかし―――

アリサ「知ってるわよ♪貴方は地球での活動の妨げになるから、スキルの殆どをバウンサーの本部に置いてきてるんでしょ?♪」

内藤は最低限戦うために持っていたスキルを京介に渡してきたため、スキルを…戦うための能力を、持っていなかった。

⏰:07/12/16 13:19 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#29 [(・∀・)]
こういう系の話
大好きです!!
頑張って下さい
応援してますッ★

⏰:07/12/16 13:54 📱:SH903i 🆔:Rq4r5kG.


#30 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「大事な教え子を殺させる訳にはいかんからな」
アリサ「あら、その大事な教え子を戦わせているのはあなたじゃない♪」
内藤「川上なら大丈夫だ。…あいつがハゲ共を倒すまで、俺が時間を稼ぐ」

内藤が一気に踏み込んだ。

アリサ「ふふっ、できるものならやってごらんなさい♪」

内藤がストレートを打ち出す。
アリサは素早く後ろに下がった。内藤の拳が空を切る。

アリサ「どこまで持つかしら♪」

アリサは左手を前に突き出した。
手には、携帯電話が握られている。

⏰:07/12/16 14:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#31 [主◆vzApYZDoz6]
>>29
ありがとうございます。
頑張らせてもらいます

⏰:07/12/16 14:08 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#32 [主◆vzApYZDoz6]
開いた携帯電話を、岡っ引きの形で持つ。
その携帯電話に添うように右手を被せる。

アリサ「せいぜい頑張って頂戴ね♪」

右手が輝きだす。
左手を引き抜くようにスライドさせると、携帯電話から光の筋が浮かび上がった。
まるでライトセイバーのようなその光の剣を、八艘構えで持ち向き合う。

内藤「『ハンドルソード』か。そんな何処にでもあるようなスキル…俺も舐められたもんだ」
アリサ「今のあなたならこれで十分よ♪」

アリサが袈裟斬りを繰り出す。

内藤「しかし…ヤバいのは事実かな」

内藤は全力で右前に飛び込んだ。
足元の地面が砕けるのを尻目に、そのままアリサの後ろに回り込み、バックステップで距離を取った。

⏰:07/12/16 14:34 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#33 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「逃げるのだけは上手いのね♪」
アリサが後ろの内藤と向き合う。

内藤「褒められたもんじゃないけどな」
アリサ「分かってるなら大人しくしていなさい♪」

アリサが踏み込んだ。
先刻よりも早く剣が振り下ろされる。

内藤「それは死んでも嫌だね」

今度は後ろへ跳んだ。
初太刀の袈裟斬りを寸前でかわす。
すかさず左から水平斬りが迫ってくる。

内藤「ノーマルだからって―――」

左手を腰へ。
同時に、跳んだ反動を殺さず体を後ろに反らした。

内藤「―――舐めるなよ!」
左手を上へ打ち出す。
内藤の掌が刀身の横腹を捉え、斬撃を逸らした。
そのまま両手を逆手で地面に突き、体を丸める
反動で前に起き上がった時には、右手がすでに腰に構えられて。

アリサ「なっ…♪」
内藤「悪いが、俺は男女平等主義者でね」

掌呈突きを繰り出した。

⏰:07/12/16 15:02 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#34 [主◆vzApYZDoz6]
次々とスキンヘッドの男が転がっていくのを、藍がベンチの裏から心配そうに見ていた。
理由は分からないが、自分の幼馴染みが戦っている。
その向こうでは、自分のクラスの担任が戦っている。
藍はその光景をいまだに理解できていなかった。

京介が最後の1人を勢いよく吹っ飛ばしたのを確認して、ベンチから身を出し駆け寄った。

藍「京ちゃん、大丈夫?」
京介「全然余裕だけど」

京介が服の埃を払いながら答える。

京介「まぁ、内藤が何かしたおかげだけどな…つうかその内藤は?」
藍「あっちでさっきの女の人と戦ってるみたいだけど…」

京介が藍の視線の先を辿ると、確かに内藤がいる。
ちょうど、袈裟斬りをかわして女の後ろに回り込んでいた。

京介「あれ…危ねーんじゃねぇの?」

女の袈裟斬りを避けてはいたが、処理能力が強化されている京介の頭脳は、明らかに内藤が不利だと言っていた。
女が2撃目をふりかぶる。
京介は駆け出した。

⏰:07/12/16 15:17 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#35 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はすぐに距離を取った。
今はアリサの油断があったからこそ反撃できたが、次はそうはいかない。

内藤「川上はまだ戦っているのか…」

内藤が横目で背後を確認する。
京介が自分の元へ走ってきていた。

京介「あれ?普通に大丈夫じゃん…」

京介は、確かに脳の処理能力が強化されている状態だ。
それはつまり、普段より反応は早いが、筋力が上がったという訳ではない。
危機が迫る内藤の元へ一瞬で近付く事などできるはずもなかった。

内藤「遅いぞ、川上」
京介「いやだって走る速さ変わってないし…大の男をあんだけ吹っ飛ばせたのに」
内藤「そりゃそうだ。あいつらは風船だからな」
京介「風船?」
内藤「喋ってる暇は無い、とりあえず藍を連れて逃げるぞ」

内藤は、既に立ち上がって埃を払っているアリサを横目で見た。

京介「げっ、あいつピンピンしてんじゃん」
内藤「とりあえずスキルを返せ」

内藤は再び人差し指を突っ込み、引き抜いた。

京介「いってぇ!ったく、それやらないと返せな―――うわっ!!」

内藤は、京介を藍のいるベンチ目掛けて投げ飛ばした。

⏰:07/12/16 15:34 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#36 [主◆vzApYZDoz6]
京介「いってぇ…」
藍「ちょっと京ちゃんどうしたの?行ったと思ったらすぐ帰ってきて」
京介「いや、逃げるぞって言われて…」

言いかけたところで、地面の異変に気がついた。
自分と藍がいる場所を囲むように、ピンク色の光の筋が、円を描いている。
光の筋が京介達の周囲を360度回りきると、円の中の地面もピンク色に光りだし、京介達が全身光に包まれる。
光が消えると、京介達の姿は無くなった。

⏰:07/12/16 15:44 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#37 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「よし成功」
アリサ「『ゲートキャバ』ねぇ…♪スキルを持ってないフリをするなんてセコいわね♪」
内藤「お前が持ってないと思い込んでいただけだろう」

内藤は京介達が消えたのを横目で確認し、向き合う。中指はピンク色の光を発している。

アリサ「結局計画は失敗ね…でもまぁ逃げた先はあなたの親元でしょう?♪」
内藤「さあな。…さてと、俺ものんびりしてられないから帰らせてもらうわ」

内藤は後ろへ跳んだ。
着地点は、京介達が消えた場所。
内藤が着地と同時に中指を地面に擦ると、地面が再び輝きだした。
同じように内藤を光が包む。

内藤「まぁ、次があればお互い本気でやろうじゃないか」

言い終わるか分からないうちに、内藤も消え去った。

⏰:07/12/16 16:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#38 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「ふふっ、行っちゃった♪」

アリサは手に持った携帯電話に右手をかざす。
右手をスライドさせると、光の剣が消えていった。

アリサが携帯電話をしまっていると、どこからともなく男が現れた。

アリサ「あら、今頃どうしたのよガリアス♪」

ガリアス、と呼ばれたその男が後頭部を掻いた。
外観は若い。下はジャージをはいて、上は丈の長いTシャツという、良く言えばラフな、悪く言えばやる気のない格好だ。

ガリアス「いや、モルディブで張ってたんだけどよ…まさかこんなところに現れるとは思わねぇしさ」
アリサ「そうねぇ♪…アサカ・アイだっけ?♪」
ガリアス「うーん、先に手をうつべきかな」
アリサ「あら、今日は随分やる気じゃない♪」
ガリアス「色々あったんだよ。俺はアサカの方をやるけど、お前はどうする?」
アリサ「騒動は多い方がいいんじゃない?♪」
ガリアス「お前は何だかんだでえげつねぇな…まぁ俺はもう行くわ。早いに越した事はないし、奴等の行き先なら見当がつく」

ガリアスは踵を返し、そのままレンガ道の先の闇へ消えていった。

アリサ「自分でやる気かしら?♪まぁいっか…帰りましょ♪」

アリサが再び携帯電話を取り出しボタンを操作すると、忽然と消え去った。

⏰:07/12/17 01:12 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#39 [主◆vzApYZDoz6]
京介「今度はどこだよ…」

京介と藍は、またしても見知らぬ場所に出てウンザリしていた。
そこは荒野のようで、京介達はそこを縦断する道路の真ん中に立っていた。
例によってまわりに人影はない。が、道路の端に一台の車が停まっていた

藍「あそこに車があるけど」京介「いやっ、怪しさ満点だぜ」

と、急に京介のそばの地面が光りだす。
現れたのは内藤だった。

内藤「2人とも無事だな。今から俺んち行くぞ」
京介「内藤んちとか別に興味ねぇんだけど」
内藤「いいからついてこい」

内藤は車のドアを開け、エンジンキーを回す。
京介と藍が後部座席に乗り込んだのを確認し、発進させた。

⏰:07/12/17 01:23 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#40 [主◆vzApYZDoz6]
道はずっと直線で、たまに勾配がついていた。
1時間ほど車を走らせていると、1軒の建造物が見えてきた。
内藤が家の前で車を止めて降りる。京介と藍もそれに倣った。

京介「なんつうか、ちっこい家だな」

京介が呟く。
確かに、家と言うには小さく、大きめの納屋、と言った方が近いかもしれない。

内藤「ま、別荘みたいなもんだな」

内藤が言いながらドアを開けた。

内藤「なっ…シーナ!リーザ!大丈夫か!」

内藤が慌て中に入ったのを見て、京介も中を覗いた。
中は1つの部屋になっていた。さっぱりして、特に物も無い。
が、中央に人が2人、横たわっていた。

⏰:07/12/17 01:37 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#41 [主◆vzApYZDoz6]
藍「どうしたの?」
京介「あれ!人が倒れてる!」

京介と藍も駆け寄る。
倒れている2人は双子のようで、どちらも長い金髪の髪を束ねている。
意識はあるようだ。

内藤「大丈夫か!?誰にやられた?」
リーザ「う…ん、内藤…?」
シーナ「あなたが来たってことは、まさか…」
京介「なぁ、どうしたんだ?」

京介が内藤の前に身を乗り出したのを見て、2人が声を荒げる。

リーザ「こっちへ来ちゃ駄目!」
藍「きゃっ!!」

京介が驚いて後ろを振り返ると、ジャージをはいた男が藍を肩に抱き抱えていた。

ガリアス「まったく無用心だな、誘拐のし甲斐が無い」
京介「待ちやがれてめぇ!!」

ガリアスが素早く家から出ていった後を、京介が追う。
しかし、京介が家の外に出ても回りに誰もいなかった。

京介「あれ!?どこ行った?」ガリアス「ここだよー、カワカミ君」

辺りを見回していた京介の頭上から声がした。
京介が見上げると、そこにいたのはドラゴンに乗るガリアスだった。
ドラゴンの背中にはもう1人男が乗っている。

⏰:07/12/17 01:59 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#42 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おい!藍をどうする気だ!降りてこい!」
ガリアス「別にどうもしないよ、彼女が抵抗しなければね」

ガリアスの肩に抱かれている藍は暴れたりする様子もない。気絶させられたようだ。

ガリアス「まぁ、取り返したければ取り返しに来なよ」

そう言ってもう1人の男に目配せする。
男は頷き、京介を一瞥してから前を向く。
ドラゴンはそのまま空の彼方へ飛び去った。
京介が肩を落として振り返ると、ちょうど内藤がリーザとシーナに肩を貸しながら、家から出てきた。

内藤「おい、大丈夫だったか!?浅香は!?」
京介「連れていかれたよ…」
内藤「そうか…。だがそれなら行き先は見当がつく」
京介「本当か!?」
内藤「あぁ。藍が抵抗しなければ殺されたりはしないだろう。今はとりあえずこの2人を…」

突然、会話を遮るように、大きな電子音が乗ってきた車から鳴り響く。
内藤が車に近付いてドアを開け、無線機のような物を取り出しボタンを押した。

内藤「どうした?」
『今すぐホームへ戻ってきて!凄い数の襲撃が…!』内藤「何!?分かった、すぐに行く!!」

内藤は無線機を車に放り投げ、京介らの元へ駆け寄った。

京介「どうしたんだよ?」
内藤「説明してる暇はない、とにかく行くぞ!」

内藤が中指で地面を擦る。
京介・内藤・リーザ・シーナの4人がピンクの光に包まれた。

⏰:07/12/17 02:20 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#43 [主◆vzApYZDoz6]
-バウンサー本部-
円筒状に縦に長い建物に、スキンヘッドの男達が無数の銃弾を浴びせている。
男達の後ろにはアリサが立っていた。

アリサ「んもぅ、鬱陶しい結界ねぇ♪みんな、どんどん撃っちゃってー♪」

アリサの声をバックに、スキンヘッドの男達が銃撃が更に激しさを増す。

「うーん、これじゃスティーブの散歩にも行けやしないな」
「何言ってんですか会長!この結界もあれだけの攻撃が続くと持ちませんし、早く手を打たないとヤバいですよ!」

その様子を中から見ている2人の男が、険しい顔で話をしていた。

(ハルキン、31歳。バウンサーのトップで、通称『会長』と呼ばれています)
(ラスダン、26歳。バウンサーの一員です)

⏰:07/12/17 16:21 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#44 [主◆vzApYZDoz6]

ハルキン「いやまぁ分かってるんだけどねそれは」
ラスダン「ならばこちらも反撃するなりしないと…!ジェイト兄弟なら出撃準備が出来てますけど、出しますか?」
ハルキン「まぁ待て、ラスカが連絡してたから、そろそろ内藤が戻ってくるはずだ。敵はアリサの他にも何人かいるようだし、こちらの出撃も数が揃ってからだ」
ラスカ「あんたそれまで結界はってろって言うの?冗談じゃないわ、こっちだって辛いんだから!」

部屋の中央から1人の女が喋りかける。
(ラスカ、?歳。バウンサーの一員で、様々な結界を作るスキル『タレント』を持つレンサーです。)

ハルキン「ん?まぁ頑張れ」
ラスカ「まぁ、人の苦労も知らないで…!」

⏰:07/12/17 16:26 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#45 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「ハルキン、大丈夫か?」
ハルキン「おぉバニッシ、着いたか」

ピンクの円が光り、内藤達が現れた。

内藤「今は内藤だ。…しかし、まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは…」
ハルキン「うーん、リーザとシーナをお前んとこで養生させたのは間違いだったか」
内藤「まぁ間に合ったし、今話していても仕方がない。敵の数は?」
ハルキン「既に『調査』はすんでいる。…ラスダン!」

OK、とラスダンが親指を立てる。

ラスダン「目ぼしい敵は、アリサ、ウィニー、ハル・レインとハル・ライン。ガリアスはいないみたいだよ。風船人形がやけに多いのが気になるけど…まぁ大丈夫じゃないかな」

内藤「4人か…風船人形がいる外じゃあやりづらいな」
ハルキン「そこはジェイトらに任せよう。出撃準備は出来てるんだろう?…そうだな、1階を使わせてやるか。ラスダン、伝えておいてくれ」
ラスダン「了解」

ラスダンが足早に部屋を出ていく。
ドアのそばにいた京介がどうしていいかあたふたしているのを見て、内藤が近付いた。

内藤「よし、身体強化スキルを渡しておくから、お前も1階へ行くんだ」
京介「あ、あぁ、分かった」
京介がラスダンの後を追って部屋を出ていった。

ハルキン「ラスカ、結界を頼むぞ。やることは分かってるな?」
ラスカ「はいはい…人使い荒いんだから」
内藤「よし、行くぞ」


ラスカが見守る中、内藤とハルキンが窓から飛び出した。

⏰:07/12/17 17:02 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#46 [主◆vzApYZDoz6]
京介はエレベーターを降り、1階のフロアに出た。
1階は非常に広く、学校の講堂ぐらいの広さがある。
京介は、前方からバイクに乗った2人がやって来ているのに気付いた。
1つのバイクは車輪が車体に比べとても大きく、直径2mはあるかというぐらいだ。
もう1つのバイクは胴体部が大きく、屋根つきのバイクをさらに増築したような感じになっている。

(ジェイト兄弟。大きなタイヤの『ジェイトレッグ』を狩る兄と、大きな胴体の『ジェイトドット』を狩る弟の兄弟です。会話では『兄』と『弟』です)

兄「おーっす!あんたがキョウスケか。話は聞いてるな?俺達があのハゲ風船共を捕まえてくるから、あんたは中で奴らをバチボコにしてやれ」
弟「兄ちゃん、シャッター開けるぜ」

ジェイト弟がシャッターを開けた先に、銃撃を続ける無数の風船人形がいた。
ジェイト兄がエンジンを吹かす。

兄「ほんじゃ、頼むぜ!」

2人のバイク乗りが敵陣に駆けていった。

⏰:07/12/17 17:29 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#47 [主◆vzApYZDoz6]
感想板立てました

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3130/

⏰:07/12/17 17:33 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#48 [主◆vzApYZDoz6]
外へ向かう狭い通路を走る2台のバイク。
うち、大胴体のジェイトドットは徐々に減速し、大車輪を持つ機体ジェイトレッグは加速していた。

兄「いくぜ!ジェイトレッグ!バウンサー特製―――」

ジェイト兄が左ハンドルのボタンに手をかける。
シャッターを飛び出し、銃撃を続ける風船の頭上へ大ジャンプした。

兄「捕獲用地引き網!」

ジェイト兄がボタンを押し込む。
機体の横の一部が口を開け、大きな網が左右へ飛び出した。

風船人形「これは!」
兄「よし!いけるか弟よ!」
弟「任せろ兄ちゃん!」

風船達に被さる網の右端を、ジェイト弟が掴む。
ジェイト兄は着地して左へ走り、旋回走行で網の左端を掴みすぐさま加速した。
それを確認したジェイト弟も一気に発進させる。
狭い通路の先に左右からバイクが現れ、通路を隼の如く駆け抜けた。

風船人形の塊が、引っ張られた勢いで飛ぶように中へ突っ込んでいった。

⏰:07/12/18 02:25 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#49 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「はい着地ー、っと」

窓から飛び出した内藤とハルキンは、1階シャッターの前に着地した。
後ろを振り返ると、ジェイト兄弟が風船人形を引き摺って走っていく姿が見える。

ハルキン「よし、隔離は成功だな。さぁ、結界を解きっぱなしにするわけにはいかん、行くぞ。ラスカに合図を出してくれ」

了解、と内藤が胸に着けたピンマイクに話しかける。

内藤「3つ数えたら再度結界を張ってくれ」
ラスカ『了解。無理しちゃ駄目よ』
内藤「ああ。カウントを始める―――3」

ハルキンが敵の配置を確認する。
右前方にアリサがいつでも来い、といった感じに立っている。
左前方には、羽を休めるドラゴンに凭れている男がこちらを見ていた。

⏰:07/12/18 14:08 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#50 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「化け物退治は俺が専門だし、ウィニーは俺がやる。お前はあの女を相手しろ」

内藤が無言で頷いた。

内藤「―――2」

ハルキンは竜騎士を、内藤はアリサを見据る。

内藤「―――1」
ハルキン「…さて、久々に暴れてくるかな」

2人が、一瞬姿勢を低くし、地を蹴る足に力を入れ、


内藤「―――0!」


倒すべき敵の元へ、一気に踏み込む。


駆ける2人の背後で、本部が再び結果に包まれた。

⏰:07/12/18 14:22 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#51 [主◆vzApYZDoz6]
1階フロアにエンジン音が戻ってくる。
後ろ手に網にくるまれた風船人形の大群を引く兄弟が駆けてくるのを見て、
座って待っていた京介が立ち上がった。
兄弟は、部屋に入った瞬間に急ブレーキでストップし、反動で後ろの網を投げ飛ばした。

兄「よし、キョウスケ!そいつらは強くぶん殴れば割れるから、どんどん潰していってくれ!」
弟「俺達兄弟も手伝うぜ!」京介「分かった!」

網から這い出て次々と立ち上がる風船人形達の群れに、京介が踏み込もうとしたその時、人形から2つの影が飛び出した。

⏰:07/12/18 14:33 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#52 [主◆vzApYZDoz6]
兄「よし、俺達も行くぞ!」

兄弟が同時にスロットルを回し発進させようとした時、兄弟の前に影が降り立った。

?「おっと、お前らの相手はこの双子の兄ハル・レインと」
?「弟ハル・ラインの担当だ!」

2人の男がジェイト兄弟の前に立ちはだかり、構えをとった。
右のハル・レインが右手を突きだし掌を下に、左のハル・ラインが左手を突きだし掌を上に向ける。
2人の掌が重なるその姿は、まるで二人三脚ならぬ二人三腕だ。

兄「へっ、どうせ人形共潰してから外に出る予定だったんだ」
弟「こいつらがここにいるって事は、外はアリサとウィニーしかいないって事だね」
兄「ああ。サーキットにしてはちょっと狭いが、派手に飛ばすぜ!」

兄弟がスロットルを回し、一気に走り出す。
併走し向かってくるジェイト兄弟を迎え撃つべく、ハル兄弟も踏み込んだ。

⏰:07/12/18 14:50 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#53 [主◆vzApYZDoz6]
京介「大丈夫かなーあの2人」

向かい合う兄弟を横目で見ながら、京介は軽快に人形を潰していた。
人形達は数は多いものの、スキルは持っていないし動きも緩慢。身体が強化されている京介の相手ではない。
次々と人形を潰していると、棒立ちで動かない人形が京介の目に止まった。

京介「はっ、故障か?なら遠慮なく」

京介が顔面にパンチを撃ち込む。
しかし京介の攻撃は、その拳が当たる前に、棒立ちだった人形が鋭敏な動きで身を屈め、空振りした。

京介「なっ!?…ぐあっ!!」

腹に衝撃が走る。
京介の体は、攻撃を避けられた人形に体当たりされ人形の群れの外にまで吹っ飛んでいた。

⏰:07/12/18 15:43 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#54 [主◆vzApYZDoz6]
吹き飛ばされた京介の体は、壁に当たってようやく止まった。
強化された身体に感じる痛みは殆どない。京介が頭を掻きながら顔を上げると、無数の人形が視界に入った。

京介「あれっ!?潰した人形が元に戻ってる!」

自分の数m先にある倒した人形の皮がゆっくりと起き上がり、膨らんでいく。

『びっくりしたかな?…自己紹介をしようか。私はリッキー、所属はウォルサー。風船を操る『バルーンファイト』を持つレンサーだ』

人形の動きが止まり、どこからともなく男の声が響き渡る。

リッキー『今、この人形達を使えば、この本部を破壊する事など造作もない。…だが、それでは詰まらないので、あるゲームを考えた』

⏰:07/12/18 15:59 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#55 [主◆vzApYZDoz6]
京介「バルーンファイトって明らかどっかのアーケードゲームパクってるだろ!だいたいゲームって何をしようってんだよ?」
リッキー『10分待つ。それまでに人形に擬態化した私を見つけ、倒すことが出来れば君の勝ちだ。しかし、君が倒されたり、10分以内に私を倒すことが出来なければ…この本部が破壊されると同時に、彼女の命も戴く事になる』
京介「彼女…?」
リッキー『上を見たまえ』

上を見ると、気を失っている幼馴染みが風船に吊るされていた。

京介「藍!!」
リッキー『何、10分経つまでは殺したりはしないさぁ、ゲームスタートだ。せいぜい楽しませてくれ』

男の声が消え、再び人形達が動き出した。

京介「てめぇ!!ブッ殺す!!」
京介は蠢く人形の群れに、躊躇なく踏み込んだ。

⏰:07/12/18 16:12 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#56 [主◆vzApYZDoz6]
-ハルキンVSウィニー-

ウィニーは窓から飛び降りるハルキンと内藤を憂鬱に眺めていた。というのも、彼は戦うのが嫌いだった。
人を殴るのが嫌、等という人間的な理由ではなく、ただ単純に殴られると痛い、殴ると痛いから、嫌いだった。
だから、ハルキンがこちらに向かってくるのを見て、心底うんざりしていた。

ウィニー「はぁ、やだなぁ。…めんどくさいや、カイン、飛ぶぞ」

懐からおもむろに黒い物体を2つ取り出す。1つは小型アンテナのような物で、もう1つはソニーの某家庭用ゲーム機を思い出させるようなコントローラ。

⏰:07/12/19 00:00 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#57 [主◆vzApYZDoz6]
アンテナのような物を、ウィニーがカインと呼ぶドラゴンの首筋に差し込む。ウィニーがコントローラを操作すると、ドラゴンが天空高く飛翔した。
加速をつけて踏み込んでいたハルキンは、ドラゴンの真下で止まり上を見上げる。

ハルキン「『オペレートゲーマー』か。確か具現化したアンテナを生物に差し込んで操るスキルだったな」
ウィニー「いつまでそこでじっとしているつもりなんだよ。…めんどくさい奴だな。カイン、早くやっつけて家へ帰ろう」

かなり高い位置で様子を伺っていたドラゴン咆哮を上げる。
頭を下にして羽ばたかず、凄まじいスピードでの急降下。
だが、どんどんと近付いてくるドラゴンを前に、ハルキンは余裕の表情を見せていた。

ハルキン「…ワープの原理を知っているか?」

⏰:07/12/19 00:49 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#58 [主◆vzApYZDoz6]
急降下の加速を使い、ドラゴンの爪を前に出す。ウィニーの駆るドラゴンが、体ごとのし掛かるようにハルキンを押し潰す。
だが、攻撃が当たる直前までそこにいたはずのハルキンがいない。そんな馬鹿な、奴はどこに……

ハルキン「ワープとは、空間を圧縮して現在地点と目的地点を近付け、移動距離を限りなく0に近付ける事を言う」

突然の後ろからの声にウィニーが慌てて振り向くと、いつの間にか背後に回っていたハルキンが話を続けていた。
ウィニーが間髪入れずにコントローラを操作する。今度はドラゴンの太い尻尾がハルキンに叩き付けられた。が、やはりハルキンの姿が見当たらない。
そんな、動く気配すらないのに、一体どこへ……

ハルキン「フィクションでは何万光年と先へ移動する為の手段として使われていたが、近年では軍事兵器への応用が注目され始めていてな」

⏰:07/12/19 01:12 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#59 [主◆vzApYZDoz6]
今度は遥か数十m先の前方。ハルキンがポケットに手を突っ込んで話しているのが、なんとか肉眼で確認できる距離。
訳の分からない状況にウィニーが呆然とする中、ハルキンは相変わらず余裕の態度で話を続けていた。
ハルキン「ワープさえ使えれば、敵国と自国間の空間を圧縮し、例え地球の裏側からでも直接核兵器をぶちこめるんだ。……こんな―――」

ハルキンが重心を落とし、右手で拳を作り腰に構える。

ハルキン「―――風にな!」

ハルキンの撃ち抜いたストレートは空間を飛び越え、当たるはずのないウィニーの顔面に直撃した。

⏰:07/12/19 01:25 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#60 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニーは今の状況が理解できていなかった。今ハルキンは攻撃が届くはずがない数十m先で、正拳突きの素振りをしただけ。
それだけのはずなのに、左頬が痛い。触ると皮膚が硬くなり腫れ上がっている。口の中は鉄の味がする。

ウィニー「なっ…なんで…」
ハルキン「一応紹介しようか。俺のスキルは『ディメンション』、空間制御能力だ」

はっとして顔を上げると、ハルキンが既に数mのところまで近付いていた。

ハルキン「…さて、君は相対性理論を知っているかね?」

⏰:07/12/19 14:28 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#61 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニー「…知らないよ。あんたの能力は分かった。焼き殺してやる」

ウィニーがコントローラを操作し、ドラゴンが上昇、ある程度の高さで止まった。
次の瞬間にはドラゴンが口を広げ、広範囲の火炎放射攻撃を繰り出していた。

ハルキン「まぁ簡単に言えば…止まってる奴から見れば、動いてる奴が動いてるように見えるのは当たり前だな。しかし、動いてる奴が止まってる奴を見ると、自分が止まってて相手が動いてるように見える、って事だ」

地面に立っていたはずのハルキンは、空中で話をしていた。

⏰:07/12/19 14:58 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#62 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニー「なっ!?…ぐあっ!」

ウィニーが、自分で繰り出した火炎放射を食らっている。

ハルキン「俺のスキル『ディメンション』は一定空間の転移交換もできるのさ。…今のは『俺と地面の一部』と『お前とドラゴンと空の一部』を交換した」

ハルキンが、今度は地面から話をしていた。空間は既に戻っており、ウィニーは空にいる。

ハルキン「さて、そろそろ終わらすか。スティーブの散歩に行かなくちゃならん」

⏰:07/12/19 15:05 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#63 [主◆vzApYZDoz6]
ゆっくりと近付いてくるハルキンを前に、ウィニーがコントローラを操作する。攻撃は当たらない、防御も不可能。更に、向こうが止めを刺しに来てるとなれば、もはやウィニーに残された行動は1つしかなかった。

ウィニー「カイン、一旦引くぞ!…ハイスピードモードにシフト、飛べ!」

ドラゴンが飛び上がり、凄まじいスピードでバウンサー本部から離れていく。ハルキンもそれを見てジャンプし、右足を振り上げる。空間転移で遥か彼方にいるドラゴンが目の前に現れる。

ハルキン「悪足掻きはよすんだな」

ドラゴンを止める暇を与えず、ウィニーに強烈な回し蹴りを食らわせた。

⏰:07/12/20 14:55 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#64 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニーは蹴られた反動でドラゴンから落ち、地面に頭から激突した。ハルキンも少し遅れて着地する。

ハルキン「ま、伊達に会長と呼ばれてないからな。…さてと…」

気絶し地面に臥すウィニーを一瞥し、本部の建物に目をやる。1階ロビーへ続くシャッターから赤い光が漏れていた。

ハルキン「…まぁ、どうなるかはあいつ次第だな。とりあえず終わるまで待っているか」

ハルキンは横になり、眠り始めた。

⏰:07/12/20 15:06 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#65 [我輩は匿名である]



>>01->>1000


⏰:07/12/20 15:10 📱:D903i 🆔:HrUlyejk


#66 [主◆vzApYZDoz6]
-ジェイト兄弟VSハル兄弟-

互いが互いを討つべく走り出した、又は踏み込んだ兄弟の距離がぐんぐんと縮まっていく。ジェイト兄弟は、左のジェイトドットを駆る弟がハル・レインを、右のジェイトレッグを駆る兄がハル・ラインを前に、同時にハンドルのボタンの列びに手を掛けた。

兄&弟「ジェイトソード!」

兄弟の声と同時に、バイクのスダンドが横に飛び出す。その先には刃がついていた。鍔は無く、細い柄に長方形の刃がついたような形だ。
兄が出した剣を弟が、弟が出した剣を兄が受け取り、飛び掛かるハル兄弟を迎えうった。

⏰:07/12/20 22:43 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#67 [主◆vzApYZDoz6]
兄弟の戦いは、左右対称で繰り広げられた。

挟むように外側から迫るジェイト兄弟の袈裟斬りをジャンプでかわし、踏み込みの反動を使い前蹴り。
ジェイト兄弟は振り下ろした剣を引き、前蹴りを横腹で後ろへ受け流す。
交差した兄弟達が同時に振り返り、再び向き合う。

レイン「あまり長引かせるわけにはいかない。手早く終わらせてもらうぞ」

ハル兄弟が掌を合わせ、左右対称に腰にあてがった。

⏰:07/12/20 23:02 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#68 [主◆vzApYZDoz6]
ハル兄&弟「ツインキャンサー放出極技―――」

兄弟の声が揃い、構えた互いの掌から光球が現れ、どんどん膨れ上がっていく。

ハル兄&弟「―――ツインキャノン!!」

兄弟が同時に掌を前に突きだし、光球が勢いよく放出された。

ジェイト兄「…なら俺達の技も見せてやるよ」

⏰:07/12/20 23:18 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#69 [主◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟が、やはり同時にハンドルのボタンに手をかける。
横に大きな機体のジェイトドットの装甲が細く割れ、前後に伸びる。前に伸びた装甲は先端部に集まり、六角形の筒のようになった。
更にジェイトレッグの車輪が2つに割れ、さらに開く。ジェイトドットの後ろに伸びた割れ装甲が、ジェイトレッグを包むように被さった。
その様はまさに大砲。砲口が迫り来る光球に向けられ、輝きだす。

ジェイト兄「合体完了。…食らえ、ジェイトボール!!」

砲口から、大きな光球が発射された。

⏰:07/12/20 23:44 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#70 [主◆vzApYZDoz6]
発射された2つの光球が空中でぶつかり合い、衝撃が走る。地面は削れ、周囲は砂ぼこりが巻き上がっている。ぶつかり合う光球は、大きさもスピードもほぼ同じ。
ジェイト兄弟が相殺した時を考え、変形装甲を解除した。

軈て、2つの光球は同時に散り、辺りの視界が砂ぼこりで覆われた。

兄「ふん…仕切り直しだな」
ジェイト兄弟は剣を握りなおし、スロットルを回す。
こちらの位置はエンジン音でばれているはずだ、と考え、徐々に晴れる砂ぼこりと周囲の状況に細心の注意を払う。
その時、突然砂ぼこりが吹き飛んだ。

⏰:07/12/21 00:22 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#71 [主◆vzApYZDoz6]
砂ぼこりが晴れた視界は、鮮明ではなく赤かった。
これもハル兄弟の能力かと思ったが、周囲を見回してる様子を見ると違うようだ。

ジェイト兄弟も同じように、赤い視界を見渡す。
赤い光を発していたのは、見覚えのある人物だった。

弟「キョウスケ…?」

⏰:07/12/21 00:45 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#72 [主◆vzApYZDoz6]
-アリサVS内藤-

アリサは、自分の元へ迫る内藤を見て、携帯電話を取り出しながら嬉しそうに鼻で笑った。

アリサ「ふふっ、やっぱりこっちに来てくれた♪」

携帯電話に手をかざし、光の剣を抜く。
内藤は右手に拳を作った。

アリサ「私達は戦う運命にあるのよ♪内藤…ううん、バニッシちゃん♪」

内藤とアリサの、2度目の戦いが始まった。

⏰:07/12/21 01:01 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#73 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「今はバニッシではなく内藤だ」

内藤が踏み込み、一気に距離を縮めての掌呈突き。
腹に目掛けて突き出された掌呈をアリサが剣で払い、サイドステップで回りこみ袈裟斬りを繰り出す。
内藤は掌呈を払われたせいで重心が前に傾いていたが、それを利用し前方に飛び込む。
左手を地面に突き、反動で横倒れのまま回転、体全体を使った回し蹴り。
軸足を狙われた回し蹴りをジャンプでかわしたアリサが、空中で剣を振り下ろした。
内藤は、かわされた右足で地面を蹴りバックステップ。剣が内藤の顔を霞めていった。

⏰:07/12/21 22:46 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#74 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はそのまま距離を取り、間髪入れず再び踏み込む。

そのまま2合目、3合目と組合が続き、10合目程で一旦内藤が距離をとる。

一瞬の間に繰り広げられた攻防。だが、内藤にはアリサが本気を出していないように感じていた。

内藤「アリサ、お前…何を企んでいる?」
アリサ「やっぱりあなたを殺すのは忍びないのよ♪同じパンデモの一族じゃない♪」
内藤「…それが本音だったとしても、本気で戦わない理由はそれだけじゃないはずだ」

⏰:07/12/21 23:04 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#75 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「理由は教えられないの♪」
内藤「まぁ、大方予想はつく…が、予想通りなら喋っている暇はない。本気でいかせてもらう」

内藤が構えをとると、足元から飆(つむじかぜ)が巻き上がった。
飆はそのまま頭まで吹き上がり、絡み付くように内藤の体を覆う。

内藤「お前も…本気で来るんだな」

内藤が地を蹴り、凄まじいスピードで踏み込んだ。

⏰:07/12/22 00:01 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#76 [主◆vzApYZDoz6]
内藤の拳が風切り音と共に打ち出される。
それを剣で受けたアリサが、体ごと吹っ飛んだ。
さらに内藤が体を屈め、跳ぶ。一瞬で吹っ飛ぶアリサの後ろに回りこみ、凄まじいスピードの回し蹴りを食らわせた。
アリサが空中で回転し受身をとる。

アリサ「早いわね♪…ふふっ、その飆、スキルね♪何て言うの?♪」
内藤「『ブラストハイド』だ」
アリサ「2つのスキルを同時に操れるようになったのねぇ♪」

⏰:07/12/22 00:20 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#77 [主◆vzApYZDoz6]
内藤とアリサ、2人の出身であるパンデモ。
その一族のスキルは『ライフアンドデス』。人にスキルを渡したり、人からスキルを貰ったりといった、レンサー間の『スキル移動』ができる唯一のスキル。
パンデモの一族では、所持スキルの量と質が良い程身分が高いとされており、内藤とアリサは共にかなり身分が上の家系の生まれだ。

所持しているスキルは勿論使うことができるが、2つ以上同時に扱える者となると稀だった。

内藤「お前を追ってパンデモを出る頃には、既に同時使用できるようになっていたさ。…まぁ、お前には関係ないだろうがな…」
アリサ「ううん、バニッシちゃんとあたしはいつも一緒だったじゃない♪」
内藤「だったら…なぜパンデモを裏切り、ォルサーなんかにいるんだ?ウォルサーの目的は知っているだろう」

⏰:07/12/22 11:35 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#78 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「…理由は言えない♪そう言ったでしょ?♪」
内藤「そうか…。ならば、お前を…倒すだけだ」
アリサ「でもね、バニッシちゃんが退いてくれれば、あたしも戦わなくていいのよ♪」
内藤「何度も言わせるな。今は内藤だ」

内藤が踏み込む。再び組合いが始まったが、やはりアリサは本気ではない。
内藤の体を覆う飆が一層早く巻き、アリサを再び吹っ飛ばした。

⏰:07/12/22 11:46 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#79 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「お前が本気で戦わない理由は、時間稼ぎだろう?…一体何を狙っている?」
アリサ「やっぱり気付いてたのね♪でも、もう遅いわ♪」

アリサが素早く光の剣を納め携帯電話に戻し、そのまま電話を受け何か話している。
内藤が何かを言おうとした時、突然赤い光に照らされた。後ろを振り返ると、バウンサー本部の1階から光が漏れている。

内藤「これは…?……まさか、京介か!?」
アリサ「もう終わった?♪」
リッキー『ああ。…早いとこ帰るぞ』

⏰:07/12/22 12:07 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#80 [主◆vzApYZDoz6]
リッキー「ああ。早いとこ帰るぞ。……さてと」

リッキーが携帯を閉じ、再び人形に紛れる。
京介は髪の毛が逆立ち、瞳は赤く光っている。

リッキー「悪いがゲームは終了だ。俺が帰るまで、せいぜい足掻くんだな」

京介が人形の群れに飛び込んだ。

⏰:07/12/22 12:34 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#81 [主◆vzApYZDoz6]
アリサが通話を終え、携帯を閉じながら右を向いて叫んだ。

アリサ「ウィニーちゃん、『中断』してちょうだい!♪」

内藤が目をやると、ウィニーがコントローラに手をかけている。ハルキンが寝ているのも見えた。
内藤は舌を打ち、ウィニーの元へ駆ける。
迫る内藤を横目に、ウィニーがコントローラを操作した。

ウィニー「ハルキン、お前は必ず、必ず殺す。…ミッションアボート!」

ウィニー、アリサが消え去る中、ハルキンはまだ眠っていた。

⏰:07/12/22 12:58 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#82 [主◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟は、次々と人形を潰していく京介を眺めていた。
そのスピードは凄まじく、リッキーによる人形の復活が間に合わない。とうとう、リッキーが擬態化した人形と1対1になった。

京介「藍を返しやがれ」
リッキー「ふん…まぁまぁのスピードだが、もう時間だ。彼女は、もう一度取り返しに来たまえ」

リッキーと藍、ハル兄弟は消えかかっていた。
京介を纏う赤い光が消え、髪と瞳は元に戻る。

京介「…待ってろ藍、必ず助けてやる」

リッキーが薄く笑い、藍とハル兄弟と共に完全に消え去った。

⏰:07/12/22 13:27 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#83 [主◆vzApYZDoz6]
-バウンサー本部4階 指令室-

ラスダン、ラスカが静かに待つ中、京介、内藤、ハルキン、ジェイト兄弟が戻ってきた。

ラスダン「戻ってきたね」
内藤「あぁ。結果的に…向こうの思惑通りになってしまったが。何で寝ていたんだ?」

内藤がハルキンを睨んだ。
ハルキン「いや、まぁ不覚にも爆睡してしまってな」
内藤「ふざけるな、お前が起きていればなんとかなったはずだ」
ラスダン「まぁまぁ、みんな無事だったんだし…」
京介「いや、藍がまだ助かってない!」

⏰:07/12/22 21:19 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#84 [主◆vzApYZDoz6]
京介が少し語尾を強めながら割り入った。

京介「なぁ、藍はどこに連れていかれたんだ?」
内藤「恐らくウォルサーの本拠だ。…お前の能力が発現した以上、長いこと放ってはおけないな」

内藤が一瞬、京介に視線を向けた。

京介「俺…?」
ハルキン「説明は後だ。この際だし、奴らの本拠に乗り込むぞ」
内藤「ん?本拠の場所分かってるのか?」
ラスダン「君が地球で『内藤篤史』を演じていた間、何もしていなかった訳じゃないさ」

ラスダンが自慢気に親指を立てた。

⏰:07/12/22 21:50 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#85 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「奴らの本拠地は、北のローシャだ。早いとこ行くぞ」

ハルキンが踵を返し部屋を出た。京介達も後に続く。
エレベーターを降り外に出る。
ジェイト兄弟のバイクと、1台のワゴン車があった。車の前にはシーナとリーザの2人が立っている。

ハルキン「治ったのか?」
シーナ「バッチリ」
リーザ「私達も戦うわ」
ハルキン「よし。…ラスダン、車を出してくれ」
ラスダン「了解」

ラスダンが運転席に乗り込み、エンジンをかける。ハルキンは助手席に、内藤達は後部座席に乗り込んだ。
ジェイト兄弟もバイクに跨がり、スロットルを回す。

最後の戦の舞台、ウォルサー本拠へ向け、発進した。

⏰:07/12/22 23:04 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#86 [主◆vzApYZDoz6]
京介は、暫く車の中から外を見ていた。

車は、雪がちらつく町外れの一本道を走っていた。辺りに建物は見当たらず、遠くに山が広がっている。
車の隣では、ジェイト兄弟が併走して走っていた。

視線を車の中にやる。
京介の前の助手席にハルキンが機嫌良さそうに座り、その右の運転席にラスダンが座っていた。
内藤は京介の右に座り、前を見ている。その右に座るラスカは外を眺めていて顔は見えない。
後ろには、リーザとシーナが座っている。2人ともウェーブがかかっだ長いブロンドの髪に、青い瞳。顔立ちはそっくりで、整った日本人のような感じがした。

⏰:07/12/22 23:38 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#87 [主◆vzApYZDoz6]
年齢は2人とも京介より明らかに若く見えた。14、5歳くらいだろうか。
傍らには、剣道の竹刀を入れる細長い袋のようなものが置いてある。

少し見とれている京介の視線に気付いたのか、左側に座っていたリーザが京介に可愛らしく微笑んだ。

リーザ「そう言えば自己紹介がまだでしたね…私はリーザ、隣は妹のシーナです」

シーナが微笑みながら頭を少し下げる。
京介も慌てて頭を下げ、恥ずかしそうに前を向いた。その様子を見ていた内藤がクックッと含み笑いをした。

⏰:07/12/22 23:58 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#88 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「浅香がいなくてよかったな」
京介「うるせぇよ!」

京介が内藤の視線を逸らすように外を眺める。いつの間にか雪は本降りになっていて、景色は真っ白に染まっていた。

京介「……そういや、さっきの続き聞かせてくれよ。ほら、俺の能力がどうとかいう…」

内藤は少し考え、前を向いたまま答えた。

内藤「…今は知る必要はない。お前は浅香を取り戻す事だけ考えているんだ」

⏰:07/12/23 00:10 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#89 [主◆vzApYZDoz6]
内藤の複雑な表情を見た京介はそれ以上聞けなかった。
京介は再び視線を外に戻す。車はさっきまでは遠目にあった山々の麓を走っていた。

ハルキン「そろそろだ。あのトンネルを抜けると、奴らの本拠地だ」

トンネルに車が入っていく。
トンネルは長く、なかなか外に出ない。
京介は黙って俯いていた。

10分程トンネルの闇が続いたあと、開けた場所で車が止まった。

⏰:07/12/23 00:24 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#90 [主◆vzApYZDoz6]
京介達が車を降りる。

内藤「ふん、うちの本部とは大違いだな」

そこは切り立った山に囲まれた盆地になっており、京介達が出たのはその端。幸い木に囲まれていて、向こうからはこちらが見えない位置だった。

対面の山のフェンスに囲まれた辺りに、まるでどこかの基地かと思うような白い建造物群があった。
端には監視塔があり、中央には一際大きな要塞のような建物、両脇に倉庫のような建物がある。

ラスカ「あの監視塔は飾りじゃなさそうね。どうにか穏便に侵入できないかな」
内藤「つうかここどうやって見付けたんだ?」
ラスダン「実は、さっきの戦いの後、何者かから『思念』が飛んできたんだ」
内藤「…俺が地球にいる間に調べたんじゃなかったのか?」
ラスダン「ごめん、あれ嘘。かっこつけてみようかと思って」
内藤「…まぁいいけど」

⏰:07/12/23 00:57 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#91 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ラスダン、とりあえず『調査』を頼む」
ラスダン「了解」

ラスダンが手を前に翳すと、ノートパソコンのようなものが出現。画面には、基地の様子が映像で写っていた。

ラスダンのスキルは『サイレントハッカー』。カメラや通信機器等を一切使わずに、特定した場所の映像や音声を頭の中で見ることができる。ラスダンが具現化したパソコンを使えば、映像や音声を他の者に見せる事もできる。

ラスダン「本拠地なのは間違いなさそうだね。中に洗脳された人達と人形がいる」

⏰:07/12/23 01:20 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#92 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「中には入れそうか?」
ラスダン「両脇の倉庫から連絡橋が繋がってる。倉庫には裏口から入れそう。裏口は2つづつあるみたいだね」内藤「中の様子は分かるか?」
ラスダン「ごめん、分からない。どうやら特殊な結界が張られてるみたいで、ノイズだらけだ」

画面の基地の映像は、中央の要塞に近づくにつれて不鮮明になっていく。だが、それが逆にメインの建物だということを示唆していた。

ラスダン「てゆうか、急いだ方がよさそう。なんか戦車とかいっばい出てきてるし…」
京介「いや、それって…」

⏰:07/12/23 01:28 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#93 [主◆vzApYZDoz6]
京介が画面から目を離し、基地の方を見る。
先程まではいなかった戦車やらヘリコプターやらが倉庫から次々と出てきていた。戦車の砲口は、京介達のいる場所を向いている。

ハルキン「こりゃあ完璧にバレてるな。『思念』は罠か?」
京介「いや、そんな事言ってる場合じゃなくね?」
内藤「仕方ない、全員一旦散開して倉庫から入ろう。中央の要塞で集合だ。何かあったら各自の判断で行動しろ。……散れ!」

内藤の声と共に一斉射撃が始まる。京介達は方々へ駆け出しす。
京介達のいた場所に無数の砲弾が飛び込んで雪煙が舞い上がる。だが、その中に全く動かない黒い影があった。

⏰:07/12/23 01:45 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#94 [主◆vzApYZDoz6]
雪煙が晴れていく。
黒い影の正体は、既に合体を完了させた、ジェイト兄弟のバイクだった。
ジェイトレッグは車体が前後に割れ、蛇腹状に伸びていく。先端には大車輪がついており、その様は人間の下半身。
ジェイトドットは装甲の展開により運転席のジェイト弟を完全にカバーし、ウイリーのような形で後輪をジェイトレッグの上部に差し込む。前輪が縦2つに割れ横に広がるその様は人間の上半身。

弟「どうせ屋内じゃ満足に戦えないもんね」
兄「みんなが要塞に侵入するまで、戦車隊の気を逸らすんだ。行くぞ!」

金属の腕の先にある車輪から、重火器が飛び出す。
ガソリン駆動の巨人が、雪煙を散らし駆け出した。

⏰:07/12/23 02:05 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#95 [主◆vzApYZDoz6]
巨人の足をジェイトレッグを駆る兄が操作し、戦車の砲撃をかわしながら近付いていく。
足部についた大車輪によりローラースケートを履いているかのような滑る動きをする巨人は、戦車のシステムでは捉える事が出来なかった。
ついに前線まで突破され、ジェイトドットを駆る弟の操作により、巨人の左手のバルカン砲で次々と戦車を撃破されていく。
ヘリコプターが近付けば、右手のランチャーから発射されたグレネードが瞬く間に撃墜していった。

後方から、味方がやられていくのを見ていた戦車隊長が、無線機に叫んだ。

戦車隊長「無理だ!戦車やヘリコプターでは歯が立たない!2足歩行戦車を出してくれ!」

⏰:07/12/23 02:22 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#96 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン、ラスダン、ラスカ、京介の4人は、左側の倉庫を目指して走っていた。
フェンスを一足で飛び越え、なお走りながら、京介が戦車隊を横目に話し掛けた。

京介「ジェイト兄弟は大丈夫なのか?」
ハルキン「そこらの戦車ぐらいなら全く問題はない。侵入まで相手してくれると助かるんだが」
ラスダン「いや、どうやら2足歩行戦車を出してきたみたいだよ」

⏰:07/12/23 02:33 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#97 [主◆vzApYZDoz6]
ラスダンは、中央の要塞から2足歩行戦車が出てくるのを頭の中で見ていた。

ハルキン「まぁ、いざとなればラスカに走りながら結界張ってもらうがな」
ラスカ「あなた本当に鬼ね…いろんな意味で」

話してる間に倉庫に到着した。裏側に回ると、手前と奥に扉がある。

ラスダン「駄目だ、やっぱり中の映像は不鮮明だ」
ラスカ「…罠があっても恨みっこなしね」

⏰:07/12/23 02:43 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#98 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「そうだな、ラスカは戦力面に不安がある。俺と一緒に来るんだ」
ラスカ「了解」
ハルキン「ラスダンは京介と行け。『サイレントハッカー』が中で使えるならサポートしてやれ」
ラスダン「了解」

京介とラスダンが奥の扉を、ハルキンとラスカが手前の扉を選んだ。
ラスカが後ろを振り返る。ジェイト兄弟が2足歩行戦車と向かい合うのが見えた。

ラスカ「死んじゃ駄目よ。…皆で生きて帰りましょう」

全員が頷き、扉に入っていく。
後ろからは、砲撃音が鳴り響いた。

⏰:07/12/23 02:51 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#99 [主◆vzApYZDoz6]
内藤、リーザ、シーナの3人は右側の倉庫を目指し走っていた。
戦車による砲撃はないが、砲撃音は聞こえてくる。聞き慣れたエンジン音…戦車の追撃を遅延させているのはジェイト兄弟か。
3人はフェンスを越え、振り返らずに走った。

内藤「川上は向こうか…まぁ大丈夫だろう。そう言えばリーザ、シーナ、得物はちゃんと持ってきたのか?」
リーザ「もちろん」

リーザとシーナは細長い袋を背負って走っていた。
内藤はそれを確認し、再び前を向いて走る。
やがて、倉庫に到着した。

⏰:07/12/23 02:59 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#100 [主◆vzApYZDoz6]
裏側に回ると奥と手前に扉がある。

内藤「下手に別れるのはどうかと思うが…」
シーナ「何言ってるの」
リーザ「どっちが先に藍さんを取り返すか、競争です」

意気込む2人を見て、内藤は満足げに笑った。

内藤「よし、俺は奥の扉に入ろう。…くれぐれも気を付けろよ」
リーザ「ええ。じゃあ、行きましょう」

3人は、倉庫に入っていった。

⏰:07/12/23 03:06 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#101 [主◆vzApYZDoz6]
ウォルサーの戦闘部隊はジェイト兄弟によって殆どが撃破され、壊滅的な打撃を受けていた。
後ろには無数のヘリや戦車の残骸が転がる中で、鉄の巨人が足を止める。
目の前には、ゲームで見たことがあるような、手足がついた戦車が5機。側面にはREXと書いてある

兄「…メタルギアがあんなにいるなんて聞いてないんだが」
弟「つうか切実に著作権とか大丈夫なのかなこの小説」

弟のリアルな心配を余所に、2足歩行戦車達が一斉に襲い掛かった。

⏰:07/12/23 07:11 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#102 [主◆vzApYZDoz6]
2足歩行戦車達の持つガトリングガンが、一斉に火を吹いた。兄の操作により、滑るような動きで銃弾をギリギリかわしていく。
そんな中、アームのコクピットに座る弟は、2足歩行戦車をどう倒すか思案していた。

弟「グレネードはもう無いし、バルカン砲じゃ倒せないだろうし…どうしようかな」

弟は依然ガトリングガンを撃ち続ける2足歩行戦車を見た。見たところ敵の装備は、対戦車ガトリングガンに対歩兵マシンガン。背中にはミサイルのようなものが見える。

⏰:07/12/23 07:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#103 [主◆vzApYZDoz6]
弟「ん?メタルギアでミサイルつったら…まさかスティンガー?」

弟の予想は的中した。ガトリングガンが当たらないと見るや、2足歩行戦車達が膝をつき前屈みになり、背中のスティンガーミサイルを撃ち出した。その数、1機につき3発、計15発。

弟「しかも多いし!」

弟が鉄の巨人の右腕からチャフグレネードを撃ち出す。多数のチャフ片が辺りに舞い散り、スティンガーの追尾機能を麻痺させた。
兄がすかさず右へ飛び、さっきまで鉄の巨人がいたところが爆煙に包まれる。

⏰:07/12/23 11:51 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#104 [主◆vzApYZDoz6]
息をつく暇を与えず、爆煙を巻き2足歩行戦車が踏み込んでくる。いつの間にか腕がチェーンソーのようなものになっていた。
巨人が素早く横へ飛び込み紙一重でかわすが、さらに他の2足歩行戦車が追撃してくる。5機を避けきれず、巨人の肌に傷がついた。

弟「うーん、こりゃヤバいねどうにも」
兄「いや、思い出したぜ」

鉄の巨人の足元から飆が巻き上がり、頭まで上がった後その巨体に絡み付く。その姿は、バウンサー本部での戦いで内藤が使ったスキルのよう。

兄「バニッシ…じゃねぇや、内藤に『ブラストハイド』のスキルを渡したのは、この俺だ」

鉄の巨人が、風よりも速く駆け出した。

⏰:07/12/23 12:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#105 [主◆vzApYZDoz6]
兄「ジェイトソード出すぞ!」
弟「了解!」

ジェイト兄弟がハンドルのボタンを同時に操作し、巨人の両腰に位置していたスタンドが飛び出す。
剣を両手に握り、そのまま柄を合わせた。

弟「ツインジェイトソード!」

振り下ろされた巨大な両刃剣が、2足歩行戦車1機を袈裟懸けに真っ二つに切り裂いた。
機能を停止し膝をつく1機を尻目に、残り4機に刃を向ける。

弟「さぁ、こっからが本番だぜ!」

⏰:07/12/23 14:22 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#106 [主◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・ラスダンとラスカの場合-

扉を開けると、そこは予想に反して薄暗い。広い空間のようだが、灯りが点いている照明が少なかった。
壁には段ボールやコンテナ等が積まれている。どうやら戦車が格納されていた向こう側の建物と違い、完全な倉庫のようだ。
もう1つの扉から入れるであろう場所とは、壁で仕切られていた。ハルキンがその壁に地図を発見し、要塞の構造を確認する。

ハルキン「へぇー、これはまたご丁寧な地図もあったもんだな」

地図には全体像が描かれている。ハルキンとラスカが今いるのは左の格納庫で、単に真っ直ぐ行けば中央要塞に辿り着けるようだ。

⏰:07/12/24 01:10 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#107 [主◆vzApYZDoz6]
ラスカ「中心部までの道は特に問題ないとして…藍ちゃんはどこに捕まってるのかしら」
ハルキン「そうだな…管制コントロール室に行ってみよう。ここにこれだけの監視カメラがあるんだから、中央要塞にも設置されてるだろ」

ハルキンが壁と天井の境に設置されたカメラに目をやる。カメラの向く方向がオートで変わるタイプで、左右の壁に死角が無いように交互に設置されていた。
ハルキンとラスカが中央要塞に向けて走り出す。

ラスカ「これじゃ私達の行動は敵に筒抜けね…」
ハルキン「恐らく中央要塞に入ったら、いきなり攻撃される可能性が高い。注意しておこう」
ウィニー「その必要はない。お前らは死ぬからだ…今ここでな」

⏰:07/12/24 14:51 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#108 [◆vzApYZDoz6]
前方から声がした。
見ると、床との距離が10mはありそうな高い天井のスレスレを、ドラゴンに乗ったウィニーが滑空してきた。ガリアスも乗っている。

ハルキン「ん?お前誰だっけ?」
ウィニー「ふざけているのか?忘れたとは言わせないぞ」
ハルキン「……あぁ、思い出したよ」

少し考えるような素振りを見せていたハルキンが、笑みを浮かべながら言った。

ハルキン「スティーブの散歩に行くのを忘れていたよ」
ウィニー「貴様…!!」

⏰:07/12/25 09:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#109 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「とりあえず今は時間がない。さっさと終わらせて貰うぞ」

ハルキンが右拳を構え、天井スレスレにいるウィニーとの距離およそ10mを、空間制御を使い縮める。一瞬にして懐に飛び込み、渾身のストレートを撃ち出した。

ウィニー「今回は前のようにはいかない」

そう言った刹那、ウィニーが忽然と消え去り、ハルキンの拳が空を切った。ハルキンが少し驚いたような表情を見せる。

ハルキン「外した?」
ラスカ「会長後ろ!!」

戦えないため、下で結界を張り身を守っていたラスカが叫ぶ。
ハルキンが声に反応し後ろを振り返るのと、ドラゴンの尻尾がハルキンに叩き付けられるのは同時だった。

⏰:07/12/25 09:58 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#110 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが叩き付けられ地面に急降下する。ラスカが着地点に結界を張ったが、ハルキンが寸でのところで身を翻し受身をとった。
心配したラスカがハルキンに駆け寄る。

ラスカ「大丈夫!?」
ハルキン「あぁ、これぐらい大丈夫だ。奴は俺が倒すから、ラスカは自分の身を守っていろ」

ハルキンが天井近くのウィニーを見上げる。ウィニーがほくそ笑んでる後ろにガリアスがいるのが見えた。

ハルキン「よぉ、後ろの若造、今のはお前の能力か?」
ガリアス「教える訳ないだろ」
ウィニー「そうだ。お前は黙って死ねばいいんだよ」
ハルキン「お前には聞いてない…自力では何も出来ない低能が」

⏰:07/12/25 10:22 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#111 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーの顔が強張った。明らかに怒りを顕にし、表情が歪んでいる。

ウィニー「あぁ?今カイトに吹っ飛ばされた癖に粋がんなや」
ハルキン「今俺を吹っ飛ばしたのもお前じゃなくドラゴンだろ雑魚低能」

ハルキンが前回と同じような余裕の表情で喋るのを見て、ウィニーの眉間が寄り、唇の端がひきつる。

ウィニー「お前はそんなに俺に…」
ガリアス「もういいよ、喋るなお前。勘に障る」

⏰:07/12/25 11:12 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#112 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスが少し機嫌が悪そうな表情でウィニーの言葉を遮り、さらに続ける。

ガリアス「ハルキン、あんたも分かっただろう?俺のスキル『ヴィエロシティー』は物体を光速移動させることができる。あんたの空間圧縮や空間転移も、相手の位置が分からなければ出来ないだろう」
ハルキン「それがどうした?退いてくれ、とでも?」
ガリアス「その通りだ。俺は嫌でもこいつの手助けをしなくちゃならないし、あんたが邪魔をするならウォルサーの一員としてあんたを排除しなくちゃいけない」
ハルキン「……」

⏰:07/12/25 11:35 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#113 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンはガリアスと目を逸らさずに沈黙した。後ろではラスカが不安そうに、まだ天井近くを飛んでいる2人とハルキンを交互に見ていた。
ウィニーはドラゴンの上に座って肘をつき、明らかに不機嫌そうな態度をとっていた。とうとう待ちくたびれて口を開く。

ウィニー「いい加減にしろや揃いも揃って黙りこくって気持ちわりぃ!!要するにお前はどう足掻いても勝てねぇんだよ!時間稼ぎに必死か!?」

ウィニーの甲高い笑い声が響く。
ガリアスは溜め息をつきながら俯き、ラスカは不機嫌そうにウィニーを睨み付ける。
皆が嫌悪感を顕にする中、ハルキンは自分がここに入って来た扉を見ていた。

⏰:07/12/25 11:47 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#114 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「余所見してんじゃねーよ!!」

ハルキンはウィニーを無視し、扉を見つめていた。軈て笑みを浮かべながら視線を戻す。

ハルキン「あぁ、悪いな何も聞いていなかったよ」
ウィニー「ははは!逃げる算段を考えるのに必死か?」
ハルキン「俺が逃げるなんていつ言った?妄聴も大概にしときな低能」

ウィニーの唇がより一層ひきつる。目は赤く血走っていた。

ウィニー「あぁもういいよ、お前は殺す。ガリアス、やるぞ」
ガリアス「……」
ウィニー「おい聞いてんのかガリアス!てめぇには耳ねぇのか!」

ガリアスは後頭部を掻きながら溜め息をつき、ハルキンに視線を向けた。

⏰:07/12/25 12:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#115 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「本当に退く気はないのか?あんたがこのままあのドアに帰るなら、俺は追うつもりはない」

ガリアスが入口の扉を指差して言う。ハルキンは扉には目もくれず言葉を返した。

ハルキン「悪いが俺達にはスティーブの散歩よりも先に、藍を取り返すという目的があるんでな」
ガリアス「……残念だよ」

⏰:07/12/25 12:10 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#116 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスらの姿が忽然と消え去る。風切り音と共に、ウィニーの声が響いた。

ウィニー『ははは、大人しく逃げればよかったものを!あんたなら、光速移動する物体は質量が増加する事は知ってるだろう?全体重をかけて押し潰してやるよ!!』

再び声が消え、風切り音が響き渡る。
ハルキンは宙を見上げた。その表情は、前回の戦いと同じく余裕に満ちている。

前回と同じような表情で、前回と似たような言葉を口にした。

ハルキン「…さて、君はブラックホールというものを知ってるかね?」

⏰:07/12/25 12:21 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#117 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが『ブラックホール』という単語に過敏に反応した。驚いた表情で視線をハルキンに向ける。
ハルキンは宙を見上げているが、言わんとする事はラスカに伝わっていた。

ラスカ「ったく…どうなっても知らないよ!」

ラスカが自身の周りを纏っていた結界を解く。それをハルキンが横目で確認し、満足そうに唇の端を上げた。

ハルキン「ブラックホールってのは、太陽の何倍もあるような大質量の恒星が寿命を終え、超新星爆発と呼ばれる熱放出の後、自重力により星が圧縮されてできる」

⏰:07/12/25 12:48 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#118 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「ははは、ここで光さえも飲み込むブラックホールを作ろうってか!?大質量の星もないのに!?」
ハルキン「ブラックホールは飲み込んでいるのではなく、物質を微粒子レベルで破壊し自身に取り込んでいるんだ」
ウィニー「うるせぇから死ねよ!!」

ウィニーを乗せたドラゴンが突如現れた。
現れた場所はハルキンのすぐ後ろ。ドラゴンが爪を前に出し、ハルキンを今まさに千切らんとしている。
だが、ドラゴンの爪はハルキンに届かなかった。

ハルキン「『押し潰す』といっておきながら後ろからか…ゲスはどこまでいってもゲスだな」

⏰:07/12/25 13:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#119 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーは止まっていた。いや、止まっているように見えた。よく見ると、少しずつだが爪がハルキンに近付いている。1秒に1mmぐらいの、途方もなく遅いスピードで。

ハルキン「俺の周囲の空間を目一杯まで引き伸ばした。…苦労したぞ、光は1秒で地球を7周半回るんだからな」

ウィニーも、後ろのガリアスも無言で、表情も何一つ変えずに止まっている。

ハルキン「ま、お前らが光速移動する前には既に、ナメック星に行けるぐらいまで引き伸ばしてたんだ。こちらの姿は見えていても、声なんざ届いていないだろうな。…ラスカ!」
ラスカ「了解!でもナメック星って何さ?」

⏰:07/12/25 13:17 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#120 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが疑問を持ちながらも、自分のに周囲に少し余裕を持たせて結界を張る。ハルキンが引き伸ばした空間をそのままにして、空間転移で結界に入った。

ハルキン「例の手続きで地球に行った時、漫画とかいうやつで見たんだ…さて、と」

ハルキンが再び空間転移を使う。
未だに微動だにしないドラゴンの背中のガリアスが消え、ハルキンのすぐ隣に現れた。

ガリアス「なにっ…!?」
ハルキン「よしよし、やっぱりガリアスが離れても光速移動したままだな」

何が起きたか分からず周囲を見回しているガリアスを尻目に、ハルキンが今度はウィニーとドラゴンに向けて空間圧縮を使った。

⏰:07/12/25 13:26 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#121 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて、さっきの続きだ。ブラックホールにより破壊・吸収された微粒子は、強力な重力により再び粒子と反粒子として対生成される」

空間圧縮によりウィニーとドラゴンがみるみる縮んでいく。ついには見えない程までになったが、ハルキンはまだ圧縮を続けた。

ハルキン「対生成された粒子と反粒子は、再びぶつかり合い対消滅する。しかし、重力によってずれた時間軸のせいで、たまに粒子か反粒子のどっちかがブラックホールの地平面を飛び出してしまうんだ」

ハルキンが何かを確認し、引き伸ばした空間だけを元に戻した時、突然周囲に異変が起きた。
周囲のコンテナや段ボールが、ウィニーとドラゴンがいた場所に次々と飛び込み消えていく。

⏰:07/12/25 13:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#122 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ウィニーのブラックホールの完成だな。ラスカ、建物にも結界は張ったよな?」
ラスカ「勿論」

ラスカが即座に返事をした。

光速移動する物体の質量は、尋常ではないほどに増加する。小さな陽子でも光速移動させ電流を流せばブラックホールになる程、質量の増加率は高い。

ハルキン「光速移動で既に重力が発生しているドラゴンを、限界まで圧縮したんだ。まぁ、当然ああなるわな」

ガリアスは、ブラックホールと化したウィニーを、正確にはウィニーがいた空間を黙って見ていた。

⏰:07/12/25 13:49 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#123 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて…まだ続くぞ。そうしてブラックホールを飛び出した粒子は、熱放射で光って見える。これをホーキング輻射と言う」

ガリアスは、視認できない程小さなブラックホールに、物が飛び込んでいくのを見続ける中で、一瞬だけブラックホールが光った気がした。

ハルキン「この輻射によってエネルギー、つまり質量を失うと、取り込んだ質量によって拡大するブラックホールは質量を失う事になる」

やがてブラックホールの光はどんどん増えていき、まるで星が輝いているかのように目映く煌めく。

⏰:07/12/25 14:01 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#124 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「質量が減ればこの輻射はさらに強く働き、輻射は強度を増す」

ブラックホールの光はどんどん膨れ上がり、今にもはち切れそうに小刻みに震えだした。

ハルキン「そうなると加速度的に質量とエネルギーを失っていき、最終的には…爆発的にエネルギーを消費し消滅する。―――」

ブラックホールは、目が眩むほどの光と耳鳴りが鳴るほどの爆音を放ち…

ハルキン「―――ゲスの最後にはお似合いだろ」

…ハルキンが軽蔑の視線を向ける中、花火のように散っていった。

⏰:07/12/25 14:18 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#125 [◆vzApYZDoz6]
爆音が止み、光が消え、静寂が戻ってくる。ラスカが自分の周囲と建造物に張っていた結界を解いた。

ハルキン「じゃ、先を急ぐか」
ガリアス「ちょっと待てよ」

ガリアスが走り出そうとしていたハルキンとラスカに後ろから声をかけた。

ガリアス「なぜ俺は生かされたんだ?納得がいかねぇな」
ハルキン「お前は既に敵じゃない」
ガリアス「……でも、俺は戦わないと駄目なんだ」

ガリアスが構えを取る。ハルキンはゆっくりと溜め息をつき、顎で入口を差した。

ハルキン「見てみろよ」

ガリアスが入口を見ると、そこには人が立っていた。

ガリアス「……母さん…?」

⏰:07/12/26 11:33 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#126 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・京介とラスダンの場合-

ハルキンがウィニーと対峙していた頃、京介とラスダンは地下牢にいた。2人が入った扉は、入ってすぐに地下に下りる階段があったからだ。

京介「何でこんなところに牢屋が有るんだろ」
ラスダン「捕まってる人は…いないみたいだけど」

2人はゆっくりと歩いていた。

辺りは1階よりもさらに薄暗く、横幅3mぐらいの狭い通路の天井に、5mおきぐらいに小さな電球があるだけ。
両脇には鉄格子が延々と真っ直ぐ続いており、だいたい3m間隔で壁に仕切られている。広さからして1つの牢に1人だけのようだが、辺りが暗いので牢の奥の方が視認できない。

⏰:07/12/26 11:54 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#127 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「うーん、もしかしたらここに藍ちゃんが捕まってるんじゃ…とか思ったけど」
京介「違うみたいだな。…誰もいないし、戻った方がいいんじゃね?」

2人が歩みを止める。
確かにそこは埃が積もってるし、鉄格子は赤錆だらけ。長い間使われていない感じがした。

ラスダン「そうだね…戻ろうか」

元来た道を戻ろうと2人が踵を返した時、背後から小さな声がした。

?「…そこに、誰かいるの…?」

京介とラスダンが同時に振り返る。
通路に人は居なかった。となると、声の主がいる場所は1つしかない。

京介「…今の、牢屋からだよな?」

2人は顔を見合わせ、牢に人がいないか確認しながら声の元へ向かった。

⏰:07/12/26 12:10 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#128 [◆vzApYZDoz6]
京介「あっ、人がいる!」

2人が両脇の牢を一つ一つ確認していく中で京介が声を上げた。ラスダンが京介側の牢を見ると、確かに人が2人いる。
どちらも中年ぐらいの女性。精神的な疲労からだろうか、弱っている感じは無いが少し痩せていた。
囚われの女性が京介とラスダンを確認し口を開く。

女性「あなた方は…?」
京介「俺は京介って言うんだ」
ラスダン「僕はラスダンと言います。ここに囚われている仲間を助けに来ました。…お2方は?なぜここに囚われているのですか…?」

⏰:07/12/27 14:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#129 [◆vzApYZDoz6]
2人の女性が顔を見合わせる。少しの間沈黙し、話し出した。

女性A「私達は…人質としてここに捕まっています」
京介「人質…?」
女性B「私達の息子は強い力を持ったレンサーなんです。グラシアがそこに目を付けて…」
ラスダン「グラシアとは?」
女性A「グラシアはウォルサーの総司令官です。……グラシアは、従わなければ私達を殺す、と脅して息子を…ガリアスを働かせているんです」

京介とラスダンが顔を見合わせた。

京介「そんな非人道な事をやってんのかよ…」
ラスダン「じゃあ、もう1人の方は…」
?「おっと、そろそろ話はやめといた方がいいんじゃねぇか?」

ラスダンが振り向くと、人形と共に声の主が立っていた。

⏰:07/12/27 14:43 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#130 [◆vzApYZDoz6]
京介「またてめえか…!」

声の主はリッキーだった。リッキーが立つ狭い通路の後ろには、風船人形が無数に蠢いている。

リッキー「彼女らが解放されると少々面倒な事になるからな。その前に君達を倒してしまうぞ」
京介「……て事は、解放すればこっちに分がある、って事だな?」

ジリジリと詰め寄るリッキーに、京介が笑みを浮かべた。

リッキー「残念ながらそこまでじゃないな。第一、俺が阻止するんだからそんな事不可能だ」
京介「お前を倒してしまえばいいだけだ」

⏰:07/12/27 23:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#131 [◆vzApYZDoz6]
リッキーはやれやれ、という動作を見せたあと、人形に擬態化した。

リッキー「やるだけ無駄だろうけどね」
京介「いや、多分そうでもないけど」

髪は逆立ち、瞳は紅く、身体は赤く発光し辺りを包む。バウンサーでも見せたその姿は、まるで人を宿した鬼のよう。

京介「なんか知らんけど今の俺、絶好調なんだよな」

再び紅い鬼人と化した京介が薄く笑みを浮かべ、右手を開いて突き出した。京介を纏う赤い光が掌に集束される。
軈て撃ち出された紅球が、狭い通路をレーザーの如く駆け抜け、人形達を薙ぎ散らした。

⏰:07/12/29 20:51 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#132 [◆vzApYZDoz6]
散り散りになる人形の群れの中に、人形に擬態化したリッキーが目を見開き驚いた顔で立っていた。俯きながら独り言を呟いている。

リッキー「馬鹿な…!何故今その姿に…」
京介「どうでもいいけど余所見してていいのかよ?」

ハッとして顔を上げたリッキーの視界から京介が消える。次の瞬間に右脇腹に走った衝撃にリッキーの顔が歪む。
体をくの字に曲げ宙を舞い、鉄格子に激突した。

リッキー「ぐっ…貴様…!」
京介「今だ!」

リッキーの動きが止まった隙に、京介が鉄格子に掛けられた南京錠を壊した。
ガリアスが、母親ともう1の女性を牢から出した。

京介「2人を頼むぜ!」
ラスダン「よし…!」

ラスダンが2人を抱え、入口に走り出した。

⏰:07/12/29 23:38 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#133 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが最後にリッキーを一瞥し、その姿が小さくなっていく。
リッキーは女性を抱え走り去るラスダンを横目に、服に付いた埃と赤錆を払い拭った。

リッキー「始めからそのつもりだったか…まさか私を1人で倒そうとでも?」
京介「そのまさか。言ったろ?今の俺は絶好調だってな」
リッキー「…はははは!そうかそうか!」

何が可笑しかったのか、リッキーは突然腹を抱えて笑いだした。

⏰:07/12/30 14:00 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#134 [◆vzApYZDoz6]
京介「…?なんだよ」
リッキー「いやー、すまんすまん」

笑いを堪えられないのか、リッキーは一頻り笑ってもまだクックッと含み笑いをしていた。

リッキー「そう言えば、君にはまだ見せていなかったな」
京介「はぁ?」

中腰気味の格好で笑っていたリッキーが背筋を伸ばして立ち、右腕を上げて指を鳴らす。
と同時に、京介に潰されていた人形の残骸が煙になり、リッキーに収束されていく。

リッキー「悪いが俺の真の力は、風船を操る事じゃないんだ」

⏰:07/12/30 14:14 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#135 [我輩は匿名である]
『続き』って出てる事が多くて読みにくいかも

⏰:07/12/30 16:33 📱:SH902iS 🆔:☆☆☆


#136 [◆vzApYZDoz6]
>>135
最初の方とかだいぶありますよね…
途中から1レスの文を少なくしてみたんですが、そうするとどうしてもまとまりって言うか区切りが出来ないって言うか…締まりがないような感じにorz
とにかく『続き』って出ないようにしてみます


あっ、今から更新します

⏰:07/12/30 22:27 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#137 [◆vzApYZDoz6]
てゆうかアドバイスありがとうございますm(__)m

⏰:07/12/30 22:29 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#138 [◆vzApYZDoz6]
収束された煙がリッキーに吸収されていき、身体の回りに灰色の靄がまとわりついた。

リッキー「私のスキル『バルーンファイト』では、このガスを作って風船を出すんだが…ガスを使うと、私の力が落ちてしまうのさ」

軈て靄も消えていく。
リッキーは先程笑っていた時とはうって変わって冷やかな表情で京介を見詰めた。

京介「へー、よく分からんがつまり今のお前が本気のお前って事か」
リッキー「まぁそう言うことだ…さて」

⏰:07/12/30 22:39 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#139 [◆vzApYZDoz6]
リッキーが構える。左手を開いて前に突き出し、右手を添えるように左手に重ねた。
京介もそれに倣い、拳を握り腰を落とした。
リッキーの体越しに見える入口への通路を走っていたラスダンの姿は、今は完全に消えている。

京介(ここで止まってる暇はない。行かないとな)

リッキー「何処を見ている?…お喋りは終わりだ」
京介「…ああ」

リッキーが踏み込む。
京介も向き直り、リッキーを迎え撃つべく踏み込んだ。

⏰:07/12/31 13:32 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#140 [◆vzApYZDoz6]
-ラスダンの足取り-

ガリアスがハルキンに言われるままにドアを見ると、そこには見慣れた女性が立っていた。

ガリアス「母さん…?」
母親「ガリアス!」

母親がガリアスに抱き付く。ガリアスは驚いて母親の顔を見た。
痩せており、力を入れると折れてしまいそうな華奢な体。だが、間違いなく自分の母親だった。

ガリアス「母さん…!」

ハルキンは2人の親子の再会を見て満足そうにほくそ笑み、2人の背中越しに入口を覗いた。
そこにラスダンの姿はない。
ハルキンの様子を見ていたラスカが心配そうに話し掛けた。

ラスカ「内藤達の方かしら?」
ハルキン「…まぁ、外に出ればあいつのスキルは使える。上手くやれるだろ。…お2人さん!」

⏰:07/12/31 13:42 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#141 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが遠目からガリアス親子に話し掛ける。

ハルキン「俺達はもう行く。俺達がここに来たところに車が置いてある」

ハルキンは踵を返し、顔だけガリアスの方に向けた。

ハルキン「付いてくるかはお前の勝手だが…このまま此処に居ても危険だ、とだけ言っておこう」

⏰:07/12/31 13:49 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#142 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが走り出す。ラスカもガリアスを一瞥し、ハルキンを小走りで追い掛けた。

ラスカ「人質取られてた事、どうして分かったの?」
ハルキン「ラスダンから『思念』を受けていた。まぁ…当初は俺らでなんとかするつもりだったから…どうなるかは本人次第だな」

ハルキンがチラッと後ろを見る。ガリアス親子の姿は無くなっていた。
無言で振り返り、走り続ける。

暫く経つと、連絡通路が見えてきた。

ハルキン「…さぁ、兎にも角にも突入だ」

2人は連絡通路を駆け抜け、聳える要塞の中に入っていった。

⏰:07/12/31 14:02 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#143 [◆vzApYZDoz6]
-突入・リーザとシーナの場合-

シーナ「……長い!!」
シーザ「いいから走りなさい」

リーザとシーナは剣袋を背負い倉庫内を走っていた。
倉庫内部は外見と同じく対になっており、ハルキンらが入った倉庫の左右対称になっているだけ。中央要塞までの道程も左右対称で同じだ。
ただ、内装が違っていた。ハルキン側の倉庫はコンテナや段ボール等が乱雑に置いてあったが、こちら側にはそれらの類いは殆ど見当たらない。
代わりに升形の仕切りが等間隔に並んでいる。その仕切りの端には梯子があり、仕切りの上を縫うように通る通路に繋がっているのが、下を走るリーザ達の目にも見てとれた。

⏰:07/12/31 14:33 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#144 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「多分ここは戦車格納庫ね。仕切りもなんか駐車場っぽいし…」
シーナ「何でもいいけどその仕切りのせいでこんな時間掛かってるんだから!」

シーナが不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、頬を膨らませる。
等間隔に並んだ仕切りは左右からせり出すように交互に並んでいるため、リーザ達もそれに沿って大きく蛇行しながら走るしかなかった。

シーナ「これじゃ敵に会う前に疲れちゃうわー…」
リーザ「ほらほら!文句言ってる暇があったら急ぎなさいな」

相変わらず機嫌の悪いシーナをリーザが宥めながら、蛇行して走り続ける。
軈て仕切りがなくなり、道が広くなった。前方には連絡通路が見えている。

⏰:07/12/31 14:43 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#145 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あっ、あとちょっとじゃない!あれ要塞の入口よね?」
リーザ「そうね。…気を引き締めて行きましょうね。ここまでに何も無かったのは不自然……ッ!?」

連絡通路を走っていた2人の姿が掻き消え、宙に剣袋だけが浮く。
次の瞬間、攻撃を受け止めた剣の金属音と共にリーザとシーナが現れた。通路を挟んで左右に別れ、共に男の拳を止めている。

シーナ「ちょっと不意討ちなんて危ないわよ!」
リーザ「刺客、ですか…いいでしょう。お相手致します!」

⏰:07/12/31 19:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#146 [◆vzApYZDoz6]
シーナとリーザが剣を翻し拳を払い除ける。

ハル・ライン「不意討ちは致し方無い。俺達は平和主義者だからな」
ハル・レイン「刺客、か。本当はバイク野郎と再戦したかったんだが…外で暴れてるようで」

2人に払われたハル兄弟が一旦下がる。
双子の兄レインは双子の姉リーザと、双子の弟ラインは双子の妹シーナと、再び向き合った。

シーナ「ハル兄弟ね。ジェイトから話は聞いてるわ。確かスキルは『ツインキャンサー』―――」

リーザ「―――コンビ技が得意だそうですわね。離れたのは失敗じゃないですか?」

⏰:07/12/31 20:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#147 [◆vzApYZDoz6]
ライン「そいつは認識違いだな。『ツインキャンサー』の能力は合体攻撃に加えてもう1つ―――」

レイン「―――2人が半径20mの範囲で共闘している場合、総合的に身体能力が上昇する」

兄と姉、弟と妹が、別々に会話する。
―――――――――――
-ハル・ラインVSシーナ-

シーナ「へぇ…ま、タイマンなら望むところだしね!」
ライン「元気のいいお嬢さんだ。……では」

ハル・ラインが構える。
左手を突きだし掌を下へ。ジェイト兄弟と戦った時と同じ構えだが、今回は1人だ。

⏰:07/12/31 20:26 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#148 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが構えたのを見て、シーナも剣を構える。
シーナが持つのは乱れ波紋の日本刀。鞘を投げ捨て、先刻の不意討ちで既に鞘から抜かれていた刀の柄を握る。正眼の構えから右足を後ろに引き体軸を右に向け、柄の端を持つ左手を臍に当てる…武蔵野の構え。
シーナの戦闘準備が整ったのを確認し、ハル・ラインが口を開く。

ライン「双子柔術ツインキャンサー弟役=ハル・ライン…推参する」
シーナ「…なら私も。…柳生新陰流免許皆伝、双子の妹シーナ」

ハル・ラインが拳を握り身を屈め、重心を前に傾ける。
シーナもそれに倣いゆっくりと切っ先を下ろし右手を引き、重心を前に。

ライン「いざ!」
シーナ「仁恕に勝負よ!」

2人が同時に地を蹴り踏み込み、ぶつかり合う拳と刀から火花が散った。

⏰:07/12/31 21:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#149 [◆vzApYZDoz6]
5mはあろうかという距離は一瞬で詰まった。右拳と刀の撃ち込む力は互角で、互いに弾かれあう。

シーナ「せいっ!」

休む間も無くシーナが追撃。素早く体勢を立て直し、弾かれあい開いた距離を一足で詰める。
右拳を弾かれ、右膝を地に付いていたハル・ラインに、凄まじいスピードで袈裟斬り下ろしを繰り出した。

ライン「ふっ!」

ハル・ラインは振り下ろされる剣に左手を添え合わせて斬撃を逸らした。
シーナの手元で絞られて水平に止まった刀に添えた左手を乗せて押し、反動で右膝を起こす。更にそのまま身を浮かせての回し蹴り。

⏰:08/01/01 02:17 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#150 [◆vzApYZDoz6]
回し蹴りをガードしようにも刀はハル・ラインに押さえ付けられ動かない。
袈裟懸けに全力で振り下ろし、手元で柄を絞ったために身を屈めるのも間に合わない。

シーナ(…やばっ!)

咄嗟に左腕で蹴りをブロックする。
しかし、ツインキャンサーにより身体能力が強化され、刀と互角の威力を誇るその蹴りは、シーナのか細い腕で止められるものではなかった。

シーナ「きゃっ!」

刀ごと横なりに吹っ飛び、右肩から地に激突する。
素早く身を起こすも、左腕が少し痺れているため刀を持つ手に感覚がない。

⏰:08/01/01 02:34 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#151 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「くっ…!」
ライン「余所見はしないほうがいい。」

ハル・ラインが吹っ飛んだシーナとの一足で距離を詰め追撃する。
息をする暇も与えず次々と飛んでくる拳と蹴りを、シーナは捌き続けた。
素早く正確、且つ重い一撃が一分の隙もなく繰り出される。瞬きの間にもやられそうだ。
次第に柄を握る手が痺れてくる。

シーナ(左腕もまだ感覚が無いし…ちょっとキツいかなー)

何合撃ち合っただろうか。
飛んでくる四肢の嵐を捌ききれず、とうとうハル・ラインの拳がシーナの右頬を掠めた。

⏰:08/01/01 02:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#152 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やばっ…!)

堪らずバックステップで距離をとる。が、ハル・ラインは見透かしていたかのようにシーナと平行してくっつき、その距離は離れない。

ライン「逃がしはしない!」

くっついた状態で撃たれた腹を狙っての右フックを、刀の横腹で受け止める。
しかし、左を狙ったフックとは別に右脇腹に衝撃が走り、シーナの体がくの字に曲がって宙を舞った。

シーナ「きゃあっ!!」

数m吹っ飛んで背中から地にぶつかった。
仰向けの状態からゆっくりと上半身を起こすが、嘔吐感と下腹部の圧迫痛で身動きができない。

⏰:08/01/01 03:10 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#153 [◆vzApYZDoz6]
嘔吐が混じったような咳が出る。腹筋が圧迫された感じがして息がしづらい。

シーナ「ごほっ!…ふふ、今の…あなた元ボクサーか何か…?」
ライン「元ボクサーではないが言わんとする事は正解だ。……つまり、お嬢さんの肝臓をぶち抜いた」

右フックはフェイント。
本命のリバーブローを食らって動けなかったシーナだが、刀をついて漸く立ち上がった。

シーナ「リバーブローね…でも、今のうちに止めを刺しちゃえばよかったのに」

⏰:08/01/01 03:24 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#154 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが左腕を突きだし、再び構える。
表情は少し曇っていた。

ライン「女性をいたぶる趣味はないさ」
シーナ「あら、余裕ねー。じゃ…ちょっとご好意に甘えようかな」

シーナも刀を握り直し、武蔵野構え。
再び向き合い、2人の視線が重なる。

ライン「でもな、お嬢さん―――」

言いかけの言葉を残し、ハル・ラインの姿が忽然と掻き消えた。

⏰:08/01/01 03:38 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#155 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なっ…!?」

油断していた訳ではない。本当に一瞬で、その姿を見失った。
幻でも見たのか、という愚かな考えがシーナの頭を過った、その時。

ライン「―――少し、俺を嘗めすぎだ」

背後からの手刀が、シーナの胸を貫いた。

⏰:08/01/01 03:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#156 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あ…かっ…」

声が出ない。自分の胸に視線を向けると、ちょうど鳩尾のあたりから、自分のものではない手が突き出ていた。

シーナ「こんな……」
ライン「悪いな、お嬢さん」

ハル・ラインが手を引き抜き、シーナが力なく膝をつく。ゆっくりと倒れていく自分の体を、シーナはまるで他人の事のように感じていた。
自分が地に臥している事がはっきり分かったのはいつだろうか。気が付くとシーナの体は、血の海に俯せに横たわっていた。

ライン「心臓を貫いた。……ま、それなりに楽しめたよ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 13:09 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#157 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やられちゃった…かな。…向こうの戦いの音はちょっと前に止んじゃったし…きっとお姉ちゃんが勝ったんだよね)

ハル・ラインは心臓を貫いた、と言っていたが、シーナの脳は冷静に働いた。
頭に浮かぶのは自分の体の事ではなく、姉の事。
姉は自分よりも数段は強かったんだから、負ける筈がない。敵も相当に強いから、姉もそれなりの怪我を負ってるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶ。
シーナは敵に殆どダメージを与えられなかった自分に憤り、同時に、踵を返し相棒の元へ向かうハル・ラインを止めなければ、と考えた。

⏰:08/01/01 13:21 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#158 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは踵を返し相棒の元へ歩を進める。
1歩目を踏み出した時に、後ろで何かが動く気配。
まだ生きていたか。しかし何もできまい。
そう考えて2歩目を踏み出す。今度は刀が地をつき鳴いた音。
馬鹿な…まだ足掻く力が?いや、確実に心臓を貫いた筈だ。
余計な考えを振り払い、ゆっくりと前に出した3歩目。
突如として凄まじい気配が周囲をの空間包む。空気が痺れる程の殺気が、明らかに後ろから、自分に向けられている。
とうとう堪らなくなり振り返ると、シーナが立っていた。

シーナ「あなたを倒せば…お姉ちゃんは先に進む」

⏰:08/01/01 13:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#159 [◆vzApYZDoz6]
シーナの胸には確かに穴が空いている。が、その穴はどんどん小さくなっていた。
心臓とその周囲の筋肉、肋骨、更には手刀が掠めて穴が空いた肺までもが、凄まじいスピードで再生している。
目に見える程の早さで分裂を繰り返す細胞は、音を立てて形を成していき、瞬く間に負傷した全ての臓器、筋肉、骨が繋がった。
さらに表皮がどんどん縫い止められ、ついには胸の穴が完治する。

シーナ「紹介が忘れていたわね…私のスキルは『ライフケール』、怪我を修復出来るの」
ライン「馬鹿な!その再生力は…本当にスキルか!?」

⏰:08/01/01 14:04 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#160 [◆vzApYZDoz6]
右手に握られた刀の鋒が血の海に沈む。己が主人の血を吸い上げ、その刀身を真紅に染める。
さらに血を吸い続ける刀の鍔から血が蒸気となって吹き出し、赤い靄が主人の体に纏わりついた。

シーナ「そうね…こんな再生力もこの赤い靄も刀も『ライフケール』には無いわ。私は…人間じゃないのかも」
ライン「人間じゃない、か。…ならばこちらも容赦はしないぞ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 14:58 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#161 [◆vzApYZDoz6]
ライン「次は再生の間も与えず殺す」

ハル・ラインが向き直り構え直す。
心臓を貫いたのだから、立ち上がれる筈がない。そう考えていたハル・ラインは内心驚いていた。
油断していた自分が悪い。せめてもの情けにと心臓を狙ったのがいけなかった。次は、確実に首をはねる。
右手に手刀を作り、一気に踏み込んだ。

ライン「その首、貰うぞ!」

迫り来るハル・ラインを前に、シーナは微動だにせず呟いた。

シーナ「…やめといた方がいい気がするけど」

⏰:08/01/01 15:19 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#162 [◆vzApYZDoz6]
言い終わる前にハル・ラインが踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
確実な殺意を込めて突き出されたその手刀は、先刻心臓を貫いた時よりもさらに早い。指先から衝撃波が発生し大気を切り裂くかと思うほどの手刀は、人間には到底避ける事はかなわないだろう。
しかしその手刀は、物理的に遮られる筈もない血の靄に阻まれた。
血の靄はそのままハル・ラインの腕に巻き付く。巻き付かれた腕と手から煙のような蒸気が吹き出し、皮膚が赤黒く爛れ落ちた。

ライン「ぐあっ!!」
シーナ「ほらね…こうなる気がしたの」

シーナはゆっくりと目を瞑り、身を屈める。刀は右肩に背負う担ぎ構え。
その構えはシーナの修めた柳生新陰流にはないものだ。

⏰:08/01/01 23:31 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#163 [◆vzApYZDoz6]
ライン「はあっ、はあっ………くそっ、嘗めるなぁ!!」

ハル・ラインは無事な左手で再び手刀を作り突き出す。

シーナ「血桜舞い散る闇夜の白鶴―――」

手刀が伸びきる前にシーナの体を纏う血の靄がドーム状に広がり、周囲の空間を全て包み込む。
血の霧の中で、シーナ以外の物の動きが全て止まった。

シーナ「―――誘い微睡み心奪うは陽に嘱された紅き三日月―――」

シーナが目を瞑ったまま左手を柄に添える。
同時に血の霧が刀に収束し、刀身が目も眩むほどの真紅に染まる。

⏰:08/01/01 23:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#164 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――刹那に翳り、墜ちる三日月、堕ちる白鶴―――」

担がれた刀が迸る。
人の手刀などとは比べ物にならない速度で振り下ろされた一太刀が、周囲の物と同様で依然止まったままのハル・ラインを切り裂いた。

シーナ「―――砕け散る血桜に代わり舞うは、尽きた命の紅い血翅―――」

紅い刀を一払いし鞘に納める。鍔鳴りの音と共に周囲の物に時間が戻り、ハル・ラインの胸の裂目から鮮血が吹き出した。

⏰:08/01/02 00:03 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#165 [◆vzApYZDoz6]
ライン「ごはっ…!!」
シーナ「―――静寂の闇夜で賤しく響くは妖魅の三日月の笑い声―――」

シーナは鮮血を身に浴びながらも、目を瞑ったまま微動だにせず俯いている。
やがて吹き出す血が尽き、倒れる体を征すものが無くなったハル・ラインが膝をつく。

ライン「…見事…だ……シーナ…」

シーナがゆっくりと瞼を上る
青い澄んだ瞳で、地に倒れ臥していくハル・ラインに囁いた。

シーナ「……再び見える時は地獄で、ね」

⏰:08/01/02 00:24 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#166 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――なんて、すぐに再戦できそうだけど」

シーナが刀を取り落とす。刀と一体化していた右腕の皮膚がはち切れ、あちこちから血が吹き出した。

シーナ(これで…お姉ちゃんは先に進める。…私もちょっと休んでからすぐに行くわ…)

血を吐き、力なく地に倒れ込む。軈てゆっくりと瞼を閉じた。

⏰:08/01/02 00:43 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#167 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「シーナ!!」
レイン「間に合わなかったか…!」

倒れている妹と弟の元に、姉と兄が駆け付ける。
後ろにはラスダンと、ガリアスの母親と共に囚われていた女性…ハル兄弟の母親がいた。

ラスダン「くそっ!…2人は?」
リーザ「シーナは…息があります…!でもラインさんが…」
レイン「相当やられているが、治せるさ」

ハル・レインがハル・ラインの裂目に手を当てる。
手が金色に光り輝き、裂目に被さるように光が覆った。

レイン「『ツインキャンサー』発動中の俺達は一心同体。俺の自己治癒力をすべてラインに注げば大丈夫だ」

⏰:08/01/02 00:53 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#168 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「そんな事を…君もダメージはあるのに」

ラスダンがリーザとハル・レインに目をやる。2人ともダメージは大きいようだ。
ハル・レインの顔は頬が裂け、脇腹には血が滲んでいる。体の至るところに刺突と裂傷を受けていた。
それはリーザも同じ。服は所々破けており、頬には擦過傷、腕や足には沢山の打撲が見られる。
どうやらラスダンが到着し囚われていたハル兄弟の母親の事情を説明したのは、2人が戦いを始めて暫く経ってかららしい。

レイン「はははっ、これぐらいどうってことはない。あんたが母を助け出していなかったら、俺は今頃おっ死んでたさ」

⏰:08/01/02 01:05 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#169 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「いいえ、レインさん。貴方も素晴らしい腕前でした…もしかしたらやられていたのは、私の方かも」

微笑みあい談笑する2人からは、戦闘意欲は感じられない。
お互い志の高い武士同士、和解するのは早かったようだ。
ラスダンが安心したように笑みを溢したあと、表情を引き締める。

ラスダン「僕は一旦京介のところへ戻るよ。うまくやってるか気になるしね」
リーザ「分かりました。…私達も、少し休んですぐに向かいます」

⏰:08/01/02 01:16 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#170 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが踵を返し、来た道を再び走る。
リーザはラスダンのを見送ったあと、自分の妹に目をやった。
見たところ右腕にしか傷はない。相当に疲労しているのか、深い眠りについていた。
ここに駆け付ける前に、紅い霧が見えた。まさか…
複雑な表情で妹の顔を眺めていると、隣のハル・ラインが身を起こした。

ライン「もう…大丈夫だ、兄貴。ありがとな」
レイン「まったく、こんなに完膚なきにやられやがってだらしない」
ライン「まったくだ。敵を嘗めていたのは俺の方だな」

⏰:08/01/02 02:13 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#171 [◆vzApYZDoz6]
笑いあいながら、ハル・ラインが立ち上がり伸びをする。
ハル・レインは未だ目を覚まさないシーナと、その側で横座りしてシーナを優しく見つめているリーザに向き合った。

レイン「さて…頼みがある。俺達の母を安全な場所まで避難させてくれないか?」

リーザが一度ハル・レインに視線を向ける。
真剣な表情でこちらを見るハル・レインからは、1つの覚悟が感じられた。
リーザが再びシーナに視線を戻し、哀しそうな笑みと共に溜め息を溢す。

リーザ「それで構いません…もうシーナを戦わせるわけにはいきませんから。…私達は、ここでリタイアね」

⏰:08/01/02 13:34 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#172 [◆vzApYZDoz6]
目を閉じて静かに喋るリーザの表情は愁いに満ちていた。
それを見たハル・レインは少し申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

レイン「感謝する。後は俺達に任せてくれ」

一礼して踵を返す。後ろで腕を組んで立っていたハル・ラインの横を通りながら鼻で笑った。

レイン「まぁ、よくもここまで人をコケにしてくれるよなぁ?」

⏰:08/01/02 13:51 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#173 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは後ろの要塞入口に向かう兄を尻目に、俯いてクックッと含み笑いをした。
すぐに踵を返し、意地悪な笑みを浮かべながら兄と肩を並べて要塞へ歩き出す。

ライン「ま、落とし前はきっちりつけてもらうさ」
レイン「そうだな。顔面フルボッコにしてやるか」

リーザが心配そうに見送る前方で、要塞への大扉に2人が手をかける。

レイン「行くぜ。元上司へのお礼参りだ」
ライン「ウォルサー総指令官グラシアを…ぶち殺す」

扉を開けた兄弟が、反旗を翻すために駆け抜けた。

⏰:08/01/02 15:17 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#174 [◆vzApYZDoz6]
-母親らが囚われていた地下牢-

ラスダンが地下牢への階段を足早に降りていく。最後の3段を一足で飛び越え、尚走る。
暫く走っていると、鉄格子に凭れて座る京介の姿が見えた。奥には倒れ臥しているリッキーの姿。
肩で息をしながら、ラスダンが安堵の溜め息を洩らした。

ラスダン「倒していたんだね」
京介「全然楽勝だったよ」

膝に頬杖をつき、向かいの牢をぼんやりと眺めながら京介が呟く。
怒っているわけでも哀しんでいるわけでもないのに、その表情は少し沈んでいた。

⏰:08/01/02 17:36 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#175 [◆vzApYZDoz6]
京介の体は既に正常に戻り、赤い光も発していない。だが、少し近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

京介「さ、早く行こうぜ」
ラスダン「…あ、あぁ」

ラスダンは少し不安になりながらも、牢の奥へ歩いていく京介についていく。
歩いてる最中でもそのよくわからない不安は消えず、ラスダンは急がねばならないのに走るのも忘れていた事に気が付いた。
一体何があったのかは分からない。だが今は藍を助け出すのが先決だ。

ラスダン「京介、走ろう。一刻も早く藍ちゃんを助けないと」

⏰:08/01/02 17:56 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#176 [◆vzApYZDoz6]
京介「……そうだな」

京介は無言で止まり、目を瞑って俯き、両手で勢いよく頬を叩いた。

ラスダン「京介!どうしたのさ?」
京介「何でもない!行くぜ!」

京介が走り出した。
ラスダンには京介の胸中など知る由も無かったが、何かを吹っ切ったんだろうという事は伝わった。
ラスダンは満足げに笑い、京介の後を追って走る。

軈て、扉が見えてきた。

⏰:08/01/02 23:26 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#177 [◆vzApYZDoz6]
扉を開けると、薄暗い通路があった。
コンクリートの壁に蛍光灯が天井に点々と続いており、まるでトンネルのようになっている。

ラスダン「多分、この先に中央要塞の入口があるはずだよ…行こう!」

京介が頷き走り出す。ラスダンも後に続いた。
扉はすぐに見えてきた。

京介「よし!待ってろ藍!」

扉を勢いよく開け、要塞の中に駆けていった。

⏰:08/01/02 23:37 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#178 [◆vzApYZDoz6]
-突入・内藤の場合-

内藤が突入したのは倉庫の奥の扉。中に入るといきなり昇り階段に直面した。他に道も見当たらない。

内藤「何だこりゃ…外に階段つけろよ、スペースの無駄遣いしやがって」

文句を溢しながら階段を上る。
内藤以外の者が入った場所とは違い、内装は綺麗で証明も明るい。階段を上りきった先に自動ドアがあることからも、明らかに人が使っているだろう。

内藤「2足歩行戦車もあったしメタルギアの気分だな…気を付けるか」

内藤が自動ドアの前に立つ。ドアが機械音を立ててスライドし、中に入った。

⏰:08/01/02 23:50 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#179 [◆vzApYZDoz6]
そこは居住区として使われているようだ。
ロビーのテーブルに置かれたコーヒーカップや、談話室のソファーに開いたままで置かれている雑誌など、人の存在を匂わせるものが多々あった。
左の壁に並ぶ部屋は個室か寝室だろうか、ドアに数字が書かれている。
それらの全ては、つい先程まで使われていたような感じがした。
ついさっき出動した戦車隊の居住区か、それとも内藤らの侵入に気付いて既に退避した後なのか。

内藤(後者は…あまり考えたくはないな)

⏰:08/01/03 00:15 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#180 [◆vzApYZDoz6]
周囲を探りながら歩いていると、壁に地図を発見した。
ここはやはり居住区で、今内藤が居るのは2階。キッチンやバスルーム、談話室といった生活空間と、居住者の寝室の一部がある。1階の戦車格納庫へ続く階段があるあたり、恐らく戦車隊の居住区なのだろう、と内藤は胸を撫で下ろした。
3階は全エリアが居住者の寝室となっている。中央要塞への入口も3階にあった。
2階は粗方調べていた内藤は中央要塞の構造を覚えてから、3階へ向かった。

⏰:08/01/03 00:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#181 [◆vzApYZDoz6]
3階への階段を上り、廊下を歩く。
2階で寝室を調べようとはしていたが、プライベートルームだからか全てに鍵が掛かっていた。
一応3階でも調べようとするが、やはり鍵が開いている部屋はない。藍の救出という目的が先にあった内藤は、ドアを破ってまで調べようとはせず、鍵が掛かっていたらそれ以上そこに留まろうとはせずに進む事にしていた。
だが、廊下の奥にあったドアの前で内藤は完全に留まった。

内藤「これは…怪しさ満点だな」

⏰:08/01/03 00:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#182 [◆vzApYZDoz6]
そのドアには、チェーンがぎっちりと掛けられている。
ドアノブと蝶番にやりすぎな程にチェーンが巻かれ、さらにkeep outのテープのようにドア全体にもチェーンが張られ、その終端は壁に釘で打ち付けられていた。

内藤「引いて開けるのはめんどくさそうだな…押し破るか」

内藤が身体教化スキルを発動。
重心を落とし、手は開いて腰に構える。

内藤「勢!!」

今まで何度も見せてきた掌呈突きで、チェーンのかかったドアを容易く吹き飛ばした。

⏰:08/01/03 01:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#183 [◆vzApYZDoz6]
破られたドアが部屋の奥に激突するのを眺めながら、ドアが無くなった入口に張られているチェーンを引き契る。

内藤「ちっ、面倒だな」
「あら、その声…♪バニッシ…じゃなかった、内藤ちゃんじゃない?♪」

部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
内藤が一瞬手を止めて中を覗くが、ちょうど入口からは見えない場所に声の主がいるようだ。
急いで全てのチェーンを引き契り中に入ると、奥のベットに手首と足首を縛られ座る女性がいた。

内藤「やはりお前だったか。語尾に音符なんてつける馬鹿は、俺の知る中じゃ1人しかいないからな」

⏰:08/01/03 01:17 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#184 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「あら、酷いわね馬鹿だなんて♪」
内藤「何でもいいが…なぜこんな監禁紛いな事を…?」

中にいたのはアリサだった。カッターシャツににプリーツのスカートを穿いている格好は変わらない。
外見を見た感じでは怪我などは負っていないようだ。

アリサ「あなたのお仲間さんにここの場所教えたのがバレちゃって♪」
内藤「なるほど…バウンサー本部での『思念』はお前だったか。…て事は外の戦車はお前の所為かよ」

アリサが恥ずかしそうに笑い視線を横目に逸らした。
内藤はまだ罠の可能性も考え、話はするものの手足の枷を解放させる事はしていない。
内藤が部屋にあった椅子に腰掛け、煙草を取り出す。
口にくわえて先端に着火し、深く一吸い。携帯灰皿を取り出し、灰を落とした。

⏰:08/01/03 01:41 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#185 [◆vzApYZDoz6]
内藤「んで…なんでお前はウォルサーを裏切ったんだ?」

内藤が両膝に肘をつき、視線をアリサに向ける。
アリサは俯いたままで話し出した。

アリサ「最初から話すわ♪……私のお母さんが…ね、人質に取られてたの♪」
内藤「やっぱりか…さっきラスダンから、ガリアスとハル兄弟の母親が囚われていた、と『思念』がきた。……お前の母親も行方不明になっていたよな」

内藤が再び煙草を吸う。アリサは、その様子を黙って見ていた。

内藤「お前がパンデモを出たのは、その暫く後だったか―――」

⏰:08/01/03 01:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#186 [◆vzApYZDoz6]



登場人物の過去

-パンデモの一族・アリサと内藤-


⏰:08/01/03 02:20 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#187 [◆vzApYZDoz6]
―――…

地球とは違う異世界『ディフェレス』。
その世界の辺境、方角で言えば東の最果てに、ある一つの集落があった。
草が生い茂り、浅い小さな谷が連なる場所。周囲には高い山々が聳え立っており、その谷は盆地のようになっていた。
その谷には、木造の建物があちこちに点在している。その真ん中を突っ切るように真っ直ぐに大きな川が流れており、川の付近は谷の他の場所に比べ人が少し多い。小さな市場のようなものもできている。
パンデモの集落は、集落と言うには少し大きめで、村、或いは里と呼べるぐらいの大きさだった。

⏰:08/01/03 04:48 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#188 [◆vzApYZDoz6]
その谷の外れ、深い山の麓近くに空地のような場所があった。
そこは半径20m程の小さな草原となっていて、周囲は小さな崖に囲まれている。
修練場として使われているようで、中央には特に何もなく、端の方に撃ち込み用の丸太があったり、的のような丸い円が書かれた紙が崖に貼り付けられたりしている。
その場所で、1人丸太を相手に撃ち込みをしている若い男がいた。

(バニッシ。『内藤篤史』として京介と藍のクラスの担任になるのは、この4年後の事です)

⏰:08/01/03 05:13 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#189 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200

失礼しました。
頑張って下さい☆

⏰:08/01/03 13:28 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#190 [◆vzApYZDoz6]
>>189
安価&支援ありがとうございます(^^)
今から更新します。

⏰:08/01/03 14:59 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#191 [◆vzApYZDoz6]
その頃、修練場から少し離れた場所で、辺りを見回しながら歩く1人の女性がいた。

(アリサ。この時は、まだ語尾に音符はつけていません。理由は後々明らかになります)

アリサ「もう…何処に行ったのかしらバニッシちゃん」

アリサは周囲の家の裏を除いたり、或いは集落のすぐそばに広がる雑木林をじっくり眺めたりしながら、集落の端を伝うように歩きバニッシを探す。
その最中に、撃ち込みの反響音が聞こえてきた。
アリサは嬉しそうに笑い、修練場に小走りで向かった。

⏰:08/01/03 15:05 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#192 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが次々と拳を、または蹴りを撃ち、丸太が木片を撒き散らす。丸太はどんどんささくれ、ぼろぼろになってく。
撃ち込みの音は囲まれた崖に反射して反響し、辺りにこだました。
10合ほど撃ち込みを続けて、一旦手を休める。袖で汗を拭っていると、高く透き通った声が聞こえてきた。

アリサ「もー…またやってる。そんなに強くなってどうするのよ」

バニッシが修練場の入口に目を向ける。
アリサが呆れた顔をしながら、崖に挟まれた狭い道の真ん中に立っていた。

⏰:08/01/03 15:21 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#193 [◆vzApYZDoz6]
嬉しそうに手をふるアリサの元へ、バニッシが歩いていく。

バニッシ「別に意味は…」
アリサ「あー、また袖で汗拭いてる!汚いから駄目だっていつも言ってるじゃん!もー…ほらこれ使って」

バニッシの言葉を遮り、怒りっぽく言いながら、持っていたタオルを手渡した。バニッシが受け取り顔を埋める。

アリサ「ったく、いっつもそうなんだから」
バニッシ「いいじゃねーか、んなもん」
アリサ「よくない!汚い!」

⏰:08/01/03 15:34 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#194 [◆vzApYZDoz6]
アリサが腰に手を当てて、少し説教臭く喋る。バニッシは鬱陶しそうに視線を逸らし、耳を塞いだ。

アリサ「ちょっとー、聞いてるの?」
バニッシ「聞こえません」
アリサ「こらっ!」
バニッシ「あー、もーいいって。これありがと」

少し乱暴にタオルを返し、修練場を出ていく。アリサは不機嫌そうに頬を膨らませながら、振り返ってバニッシと肩を並べた。
集落までの道を歩きながら、バニッシが訊いた。

バニッシ「そういや、今日は何しに来たんだ?」
アリサ「やっぱり忘れてる!今日の御上祭り一緒に行くって約束したじゃん!」

⏰:08/01/03 15:49 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#195 [◆vzApYZDoz6]
御上祭り(みかみまつり)とは、パンデモで年に一度開催される祭り。
パンデモ一族にも族長という身分の人間が存在し、パンデモの初代族長の誕生日は、地球で言う元旦と同じ。その日に、その年の豊かな実りと安寧を願って開かれるのが御上祭りだ。
パンデモ一族の殆んどはこの行事に参加するが、バニッシは決まって毎年すっぽかしていた。

バニッシ「んー…そんな約束したか?」
アリサ「しました。あなたいっつもすっぽかすんだから、たまには参加しなさいよ?」

バニッシが眉間に皺を寄せながら後頭部を掻く。どうにかアリサにバレずにすっぽかす方法はないか、と考えていた。

⏰:08/01/03 16:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#196 [◆vzApYZDoz6]
その様子を見ていたアリサが、少し意地悪く笑った。

アリサ「ふふっ、今どうやって逃げようか考えてるでしょー?」
バニッシ「別に考えてない」
アリサ「本当にー?でも残念ながら、今日はお祭りが終わるまで1人にはさせないからね!」

アリサが楽しそうにバニッシの前に回る。
バニッシは呆れながら、また後頭部を掻いた。

バニッシ「……今から家帰るんだけど」
アリサ「じゃ私も一緒に帰ろーっと」
バニッシ「本気かよ…」

⏰:08/01/03 16:23 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#197 [◆vzApYZDoz6]
項垂れるバニッシを余所に、アリサは楽しそうに口笛を吹きながら、バニッシの家に向かう。
バニッシ達は集落の中心部の方に歩いていた。周りの景色は、最初は畑や田圃が多かったが、徐々に家が増えていく。
暫く歩いていると、周囲に比べ一際大きな家が見えてきた。

アリサ「はーっ、やっぱいつ見てもおっきい家よね」

⏰:08/01/03 18:01 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#198 [◆vzApYZDoz6]
木を連ねて作られた塀に囲まれた大きな敷地の奥に、バニッシの住む大きな家が聳え立っている。
バニッシとアリサは共にパンデモの中でも高い身分の家系。特にバニッシはパンデモの最上流家系の一角を占める家の現当主だった。

バニッシ「まぁ…そうだな」
アリサ「てゆうか、中に入るのは初めてね。緊張するなー」
バニッシ「何でだよ」

バニッシが笑いながら玄関の扉を開け、中に入る。
長い廊下の奥の部屋、バニッシの部屋に入った。

⏰:08/01/03 22:37 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#199 [◆vzApYZDoz6]
部屋には特に何もない。寝床のような床に藁が敷いてあるだけで、あとは服等が隅にたとんで置かれていた。
元々パンデモ自体が人里離れた山の中にあるので、文明の利器など存在しない。
アリサも何もない事を特に不思議がらなかった。

バニッシ「さてと…じゃあ俺寝るから時間になったら起こして」
アリサ「えっ…ちょっとそれじゃ、あたしはどうするのよ」
バニッシ「好きにしてな。祭り終わるまで俺から離れないんだろ」

そう言うと藁の上に横になり、眠り始めた。

⏰:08/01/03 22:51 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#200 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「何それー!…ったくもー、信じられない!」

アリサは怒って喚くが、既に寝息を立てているバニッシは反応しない。
アリサは少し呆れたが、バニッシの隣に横座りになっりバニッシを見つめる。
静かに眠るその顔からは修練場の気迫は感じられない。何処か幼さも感じられる寝顔を、柔らかく微笑みながら眺めるアリサが、小さな溜め息をついた。

アリサ「…無防備に寝ちゃって」

壁に凭れて、静かに天井を眺める。
その表情はどこか嬉しそうな感じがした。
そのまま時間の経過を待つ内に、いつの間にか眠ってしまった。

⏰:08/01/03 23:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#201 [◆vzApYZDoz6]
日が西に傾いた頃。
バニッシは家の炊事場の竈に火を着け、湯を湧かしていた。
文明の利器が存在しないパンデモでは、食品調理は火を起こすところから始まる。
程好い熱さになったところで鍋を竈から離す。急須のような物に熱湯を灌ぎ、それと壁に干してある短い草のような物、土で出来た深めのコップを持ち、部屋へ戻った。
三角座りで寝息を立てるアリサを余所に、急須のような物に干し草を入れてコップへ灌ぐ。その姿はまるで日本人が茶を淹れているようだ。
ゆっくりと飲み物を啜る横で、アリサが目を覚ました。

⏰:08/01/04 18:25 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#202 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが欠伸をしているアリサに話し掛ける。

バニッシ「やっと起きたか」
アリサ「……ん……あっ、おはよー…」

眠そうに目を擦るアリサに、呆れたように言った。

バニッシ「何がおはよーだ。起こせって言ったろ」
アリサ「へっ?………あー!!」

アリサが跳ね起き、慌て外を見る。
川の近く、普段なら集会場となっているところが、提灯の灯りでぼんやりとオレンジに光っている。姿は見えないが、太鼓を叩く音や笛の音が鳴り、時たま拍手や歓声が沸き起こる。恐らく今は、踊り子が舞を踊っているのだろう。

⏰:08/01/04 18:35 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#203 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もう始まって結構経ってるじゃん!!」
バニッシ「そうだな」

外を眺めていたアリサが部屋に視線を戻し、素っ気なく飲み物を啜るバニッシを睨んだ。

アリサ「いつ起きたのよ?」
バニッシ「さぁ…祭が始まる10分前ぐらい?」
アリサ「何で起こしてくれなかったのよー…」

項垂れながらその場にへたり込むアリサを見て、バニッシが楽しそうに鼻で笑った。

バニッシ「起こしてくれとは言われてないし」

バニッシが飲み物をすべて飲み終え、急須と土製のコップを持って部屋を出る。アリサはそれを眺めながら溜め息をついた。

⏰:08/01/04 18:44 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#204 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もー、自分が行きたくなかったから起こさなかったんだわ絶対…今から行っても遅いし…」

アリサが膝の中に顔を埋める。そんなに背が高くないアリサのその姿はかなり小さい。

アリサ(…今年こそ一緒に行きたかったのに…)

アリサは、一緒に行きたかったのに、寝てしまった自分に呆れ、溜め息混じりの笑みを溢した。

バニッシ「溜め息吐くと幸せが逃げますよー」

器具を片付けてバニッシが部屋に戻ってきた。

⏰:08/01/04 18:54 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#205 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「それは嫌!」

アリサは少し慌てて、吐いた息を吸う素振りを見せる。

バニッシ「はははっ、ベタな事してんなよ」
アリサ「何よー、自分が振ってきたんじゃない」

からかうように笑うバニッシの態度に、少しふて腐れたように頬を膨らませる。別にバニッシに会えなくなる訳じゃない。また来年、一緒に行ければいい。
そんな事を考えていたアリサの顔は、既にいつもの表情に戻っていた。

アリサ「はーっ、それじゃあたしはそろそろ帰ろっかな」

⏰:08/01/04 19:04 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#206 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がり、少し伸びをする。

バニッシ「あ、送ってくわ」

そう言うとバニッシも立ち上がって玄関へ向かう。
バニッシの気持ちは嬉しかったが、アリサは今日これ以上バニッシと一緒にいると泣きそうな気分がした。

アリサ「あー…いいよ、うん。まだそんなに暗くないし。大丈夫!」
バニッシ「…そうか?」

頑張って作った笑顔が不自然に見えたのか、バニッシが怪しむようにアリサの顔を覗き込む。
アリサは自分の顔が赤くなっていくのがはっきり分かった。

⏰:08/01/04 19:12 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#207 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「大丈夫だって!あたしだって一応パンデモの人間なんだよ?」
バニッシ「いやそれ、ここら辺の人間全員そうだと思うけど」
アリサ「とにかくいいから!大丈夫!」

恥ずかしがってか視線を合わせないアリサ。
そんなアリサから何かを感じ取ったのか、バニッシが不意に言った。

バニッシ「…じゃあ俺、今から散歩行くわ」

そう言って、座って靴を履いているアリサの横に座る。
アリサには、無言で靴を履くバニッシの行動の意図がよく分からなかった。

アリサ「へっ?何で?どこに行くの?」
バニッシ「適当に行く。別に理由はない」

⏰:08/01/04 19:24 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#208 [◆vzApYZDoz6]
アリサは自分の家に向かって歩いていく。バニッシは何も言わずに、アリサと肩を並べて歩いていた。

アリサ「…ねぇ、どこ行くの?」
バニッシ「気の向くままに」

一応聞いてみたが、態度は少し素っ気ない。もしかして、と思ってはいたが、やはり家まで送る気だろう。
自分の右を歩くバニッシとの距離は、少し腕を伸ばせば手を繋げられそうなくらい近い。そのせいか、背が高いバニッシが余計に高く見えた。
アリサは少し俯いて、嬉しそうに笑った。

⏰:08/01/05 03:20 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#209 [◆vzApYZDoz6]
軈てアリサの家が見えてきた。
パンデモの中でも五指に入るバニッシの家系程ではないが、アリサも上流家系の人間で、家は大きめ。
アリサは家の鳥居のような門の前で止まって振り返った。

アリサ「えっと…どうするの?」

訊かれたバニッシは無言で俯いている。アリサも暫く黙っていると、突然バニッシがアリサの手を引き歩き出した。

アリサ「えっ?ちょっと、どうしたの?」
バニッシ「いいからついてきて」

バニッシが少し早足で何処かへ歩いていく。アリサは小走りになりながら肩を並べてついていった。

⏰:08/01/05 03:30 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#210 [◆vzApYZDoz6]
向かった先は修練場だった。崖に囲まれた空間を横切り、真っ直ぐに撃ち込み用の丸太のある場所まで歩いていく。

アリサ「ちょっと、もしかして今から修行でもする気?」
バニッシ「違うよ」

そう言うと、アリサの脇の下に腕を回し、抱き上げた。
突然抱かれたアリサは、少し顔を赤くして狼狽えた。

アリサ「えっ、何?」
バニッシ「捕まってろよ」
アリサ「へっ?…きゃっ!」

バニッシがアリサを抱えて、4mはあろうかという崖を一足で乗り越えた。
突然感じた浮遊感に、アリサが反射的に瞼を閉じる。どうなったのかとゆっくり目を開けると、眼下に修練場が見えていた。

⏰:08/01/05 03:42 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#211 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが抱えていたアリサを地に下ろす。
崖の上には、雑木林が広がっていた。日は殆ど沈んでいるため真っ暗で、奥の方は殆ど見えない。
修練場の方を振り返ると、集落のほぼ全景が見渡せた。パンデモの集落は谷の合間にあるため、緩やかな階段状になっている。修練場は集落の外れ、一番上に存在した。
パンデモの集落となるのは、その修練場の崖まで。そこを越えてどこへ行くのだろうか。
アリサがまた振り返ると、バニッシは既に雑木林を歩いている。

アリサ「ちょっと、先々行かないでよ!」

慌ててバニッシの後を追い掛け、雑木林に入っていた。

⏰:08/01/05 04:00 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#212 [◆vzApYZDoz6]
雑木林の中は、外から見るよりもさらに暗い。目の前を歩くバニッシの姿もよく見えないぐらいだ。
灯りとなるものも持っていなかったので、地面に転がっている石に躓きそうになる。
それを見ていたバニッシが手を差し出してきたので、恥ずかしそうに手を繋いだ。
バニッシが躓きもせずに歩けるのは何でだろう、とアリサが少し感心していた時、バニッシが不意に止まった。アリサはすぐ後ろを歩いていたので、バニッシの背中に鼻をぶつけた。

アリサ「いたっ!…ちょっと急に止まらないでよ!」
バニッシ「見てみな」

バニッシが、背中に埋まるアリサに顔を向けながら、前方を指差した。

⏰:08/01/05 13:04 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#213 [◆vzApYZDoz6]
アリサがバニッシの背中から顔を覗かせ、指の先を辿る。
そこは今まで歩いてきた場所と違い明るい。数m先に小川が流れているのがはっきり分かった。
明るみの正体は、小さなエメラルドグリーンの光。点々と幾つもの光が舞うその様は、まるで動く星郡のようだ。

アリサ「すごい綺麗…」
バニッシ「ここ座れよ」

バニッシが小川の側の木の下へ、アリサを宛がう。
アリサは言われるままに、ちょこんと三角座りをして、動く光を眺めた。

バニッシ「あれ、実は『ホタル』っていう虫だったり」
アリサ「そうなの?でも綺麗ねー…」
バニッシ「今日お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」

⏰:08/01/05 23:08 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#214 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「へっ?」
バニッシ「何でもない」

驚いたアリサが目を丸くして、左隣に座るバニッシの方を向く。バニッシは木に凭れ掛かって左を向いていて、顔は見えない。
そんなバニッシの様子を見ていると、恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。膝の間に顔を埋めたが、軈て嬉しそうな笑みを浮かべながら、再びホタルを眺めた。

少しの恥ずかしさからか、バニッシの反対側を向いてホタルを眺める。
バニッシもホタルを眺めているのか、小川のせせらぎ以外の音は聞こえない。

⏰:08/01/06 00:36 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#215 [◆vzApYZDoz6]
沈黙が続く中、アリサは俯いた。
自分の気持ちを、今なら言えるかも知れない。

バニッシの親とアリサの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。物心ついた時には既に、少し年上のバニッシがいつも側にいた。
幼い頃は、本当の兄だと思っていた。遊ぶ時も、ご飯の時も、寝る時も一緒だった気がする。
バニッシを意識し始めたのはいつ頃からだろう。年齢よりも大人っぽく感じるバニッシの言動に、年齢よりも子供っぽいアリサは、いつもどきどきしていた。

⏰:08/01/06 00:57 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#216 [◆vzApYZDoz6]
大人っぽくてもどこか面倒臭がりでひねくれているバニッシと喧嘩して、距離を置く事もよくあった。
喧嘩している時に、こっそり修練場に行く。バニッシは、アリサと居る時以外は大抵は修練場にいた。修行に打ち込んでいるバニッシの真面目な表情を見ると、素直になれない自分が少し恥ずかしくなる。
どんなに静かに見ていても、撃ち込みを終えたバニッシは必ずアリサに気付く。汗を袖で拭きながら無言でやってくるバニッシに、喧嘩していたのも忘れて袖で拭くと汚いと注意する。その後はいつも一緒に帰って、いつの間にか仲直りしていた。

⏰:08/01/06 01:07 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#217 [◆vzApYZDoz6]
アリサが俯いたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
バニッシとの思い出を振り返り、頭の天辺から足の先までバニッシの事を考えてみる。
再び目を開けた時には、心にほっこりと暖かい感情が芽生えた。
アリサは心の中で、今、自分の気持ちを伝えよう、と思った。
気持ちを伝えた結果がどうなっても、今ならすっきりできる気がした。

アリサ「……ねぇ、バニッシちゃん」

意を決して、隣に座るバニッシの方を向く。
だが、そこにバニッシはいなかった。

アリサ「……あれ?バニッシちゃん…どこ?」

⏰:08/01/06 01:14 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#218 [◆vzApYZDoz6]
――…
バニッシ「お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
アリサ「えっ?」
バニッシ「何でもない」

何でもない、そう言って少し恥ずかしさが込み上げてきた。
こんな顔は見られたくない、と思ったバニッシは顔を背けた。
暫くして静かに振り向くと、アリサが嬉しそうな笑顔を綻ばせながら、ホタルを眺めている。
その表情を見たバニッシは嬉しくなったが、少し複雑な気分になった。
アリサの、自分に対する気持ちは分かっている。でもそれに応える事はできない。だが、アリサを嫌いな訳ではなかった。

バニッシは、いつかパンデモを出ようと考えていた。

⏰:08/01/06 01:27 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#219 [◆vzApYZDoz6]
理由は分からない。でも、何故か自分はパンデモを出なければいけない気がした。幼い頃から、自分は何かを為し遂げなければならない、と誰かに言われてる気さえした。
なぜそんな気がしたのかは全く分からない。だが、その分からぬ答を探すためにも、バニッシはパンデモを出る事を決意した。修行に明け暮れるのも、パンデモを出る事が理由だった。
そして、これは自分1人の問題。何があるか分からないのにアリサを巻き込む訳にもいかない。
どうせ叶わない想いなら、忘れた方がいい。
だが、いつからだろうか。そんな自分の気持ちとは裏腹に、日に日にアリサとの距離は縮まっていった。

⏰:08/01/06 01:37 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#220 [◆vzApYZDoz6]
アリサは、俺の胸中を知ればどうするだろうか。
いや、答えは分かってる。好奇心の強いアリサの事、危険を知ってでも必ずついてくるだろう。
…こうなったら、俺の気持ちを話してみようか。
必ず戻る自信も無いのに、待ってろとは言えない。だが、ついてくるなら、全力をかけて守ればいいだけだ。

バニッシが溜め息混じりの笑みを溢した。
今日の自分はどこかおかしい。こんな事を考える自体、今まで無かっただろう。
こんな気分になれるのも、今日が最後かも知れない。

⏰:08/01/06 01:44 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#221 [◆vzApYZDoz6]
どちらにしたって、アリサはいつか自分に気持ちを伝える。
だが、俺の気持ちをアリサが知らない限りは、黙って断るしかないだろう。
それは絶対に嫌だ。

バニッシは、今まで黙っていた自分の気持ちを、自分の目的を話そうと、アリサの方を向く。
アリサは少し俯いて、何か考えているようだ。

バニッシが口を開きかけたその時、背後で一瞬だけ何かを感じた。
不安を駆り立てるような、形容しがたい何かの気配。
驚いて気配の方向に視線を向けるが、そこには何もないし誰もいない。

⏰:08/01/06 01:51 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#222 [◆vzApYZDoz6]
アリサは俯いたままで、恐らく気配には気付いていない。
バニッシは神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと音をたてずに立ち上がる。小川を背にして、雑木林の暗がりを静かに見つめた。ホタルの光に照らされて、ぼんやりと見えるその場所には何も見えない。
だが、確実に『何か』がいる。
隠れているのかどうかは分からないが、底知れぬ不安感がバニッシを包んだ。
こちらには気付いているのだろうか。もし来るようであれば、アリサだけでも逃がさないといけない。
バニッシが静かに拳を握り、ゆっくりと腰を落とす。

アリサ「何やってんのそんなところで?」

⏰:08/01/06 02:03 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#223 [◆vzApYZDoz6]
不意にアリサの声がした。振り返ると、アリサが首を傾げて立っている。バニッシがいない事に気付き、探していたようだ。
バニッシが我に帰ったように辺りを見回した。
謎の気配は、既に消え失せている。一応確認してみるが、勿論そこには誰もいないし何もない。気のせいだろうか。
だが、底知れぬ不安感はまだ残っている。なにか、悪い事が起きる。そんな気がしてならなかった。

アリサ「ちょっと、どうしたのよ?」

アリサが後ろで焦れったそうにしている。
アリサは何も分かっていないようだし、わざわざ話す必要も無いだろう。

⏰:08/01/06 12:33 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#224 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「何でもない」

バニッシが元の場所に座る。アリサもそれに倣って隣に座った。

アリサ「本当にー?さっきから『何でもない』って言ってばっかりじゃない」
バニッシ「本当に何でもないって」
アリサ「また言った」
バニッシ「いやいや、今のは違うし。つうか別に…」
アリサ「『もういいって』でしょ?」
バニッシ「いや、まぁ…」

言葉を遮られて、困ったように後頭部を掻きながら俯くバニッシを見ながら、アリサが小さく呟いた。

アリサ「…まだあたしは話してないのに、よくないよ」

⏰:08/01/06 15:29 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#225 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「えっ、何て?」

頭を上げて聞き直すバニッシに、意地悪に微笑んだ。

アリサ「何でもない」
バニッシ「お前も言ってるじゃん」
アリサ「さっきのお返し」

そう言うと、アリサはそっぽを向いたように再びホタルを眺めた。アリサの表情を見たバニッシは、はにかむように笑みを溢し宙を見上げる。
さっきよりも数が増えたホタルの光がより一層辺りを目映く照らし、静かに響く小川のせせらぎは耳に心地好い。
バニッシは、ずっとこのまま時が止まればいいのに、と思った。

⏰:08/01/06 15:36 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#226 [◆vzApYZDoz6]
ホタルを眺めるバニッシは、さっきの気配の事は頭から離れていた。
気のせい等ではなく、気配を感じた場所には本当は人が居たというのに。

?A「…なかなか勘の鋭い若造だな」
?B「こんなところに人が居るとは思ってはいませんでしたが…まぁ問題はないでしょう」

謎の2人が話をするのは、気配を感じた場所の上。2人は密集する木の枝の上で、今度は完全に気配を殺して、バニッシとアリサを見下ろしていた。

(グラシア。今はまだ組織にはなっていないウォルサーの、総司令官です)
(クルサ。地球に『扉』を出現させ、京介と藍をディフェレスに移動させた張本人です)

⏰:08/01/07 04:18 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#227 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「まぁ気付いてないようだしな。早いとこ移動するぞ」
クルサ「分かりました」

クルサは返事をすると背を向け、枝から枝へ次々と縫うように素早く、しかし静かに飛び移っていく。残像だけが残り、あっという間に姿が見えなくなった。
グラシアは踵を返して顔だけ振り向き、眼下のバニッシとアリサを一瞥する。
楽しそうにホタルを指差すアリサを、バニッシが優しい表情で見ている。

グラシア(…そうだな。間接的に、あの娘を少し利用してやるか。…若造が嘆き叫ぶ顔を見るのが、今から楽しみだ)

グラシアが唇を歪め歯を見せ、声を出さずに含み笑いをする。
そのまま振り向いて枝を飛び移っていき、闇夜の雑木林に中に消えていった。

⏰:08/01/07 04:37 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#228 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは枝を飛び移って、どんどんとパンデモに近付いていく。軈て雑木林を抜け、拓けた崖の上に出た。
グラシアが出たのは修練場。中央には、既にクルサが立っていた。グラシアも崖を飛び降り、クルサに近付く。
歩いてくるグラシアにクルサが話し掛けた。

クルサ「誰でもいいのですか?」
グラシア「いや…さっきの若造の隣にいた娘の母親だ。知ってるか?」
クルサ「あの男はバニッシ、娘はアリサ、アリサの母親はイルリナです」

クルサが無表情に答える。
グラシアは嘸機嫌がいい、といった感じに含み笑いをした。

グラシア「お前を連れてきたのは正解だ」

⏰:08/01/07 17:38 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#229 [◆vzApYZDoz6]
グラシアのスキルは『アナザーコンプリート』。人、又はスキルを支配する事ができる。
人の場合は本人の意思に関係なく、グラシアの意思に沿って動かす事ができる、洗脳のようなもの。ただし、これは悪意のない人間を支配する事はできない。
スキルの場合は、レンサーの持つスキルを支配し、使用する事ができる。元々の所持者は、支配されている間はスキルを使えなくなる。これはスキルの『使用権』がグラシアに移るだけで、スキルを所持するレンサーが死ぬ・気絶するなどしてスキル発動不能状態になると、グラシアもスキルを使えなくなる。
支配できる人間やスキルに制限は無いが、2つの支配を同時に1人に使うことはできない。

⏰:08/01/07 18:03 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#230 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは、このスキルを使い戦力を増やしていた。
人体支配が及ぶ人間は支配し、支配は出来ないが有能な者は人質を使い、配下にした。

そして、クルサは人体支配を受けた、パンデモ一族の人間だった。
クルサは1人パンデモを出て旅をしている最中、グラシアに支配を受けた。

クルサのスキルを知ったグラシアは、ライフアンドデスを支配しようと試みた。
しかし、クルサは既に人体支配されているので、スキル支配を使うことはできなかった。
そこで、パンデモ一族の人間を捕え、スキルを支配しようと、パンデモを知るクルサを連れてパンデモに出向いたのだった。

⏰:08/01/07 18:12 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#231 [◆vzApYZDoz6]
クルサ「始めてもよろしいですか」

会話の時も、クルサは表情1つ変えない。
最早、パンデモの事は知識以外、両親や仲の良かったバニッシ・アリサとの思い出や感情も、全て忘れてしまったようだった。
支配されたのは、1人旅で訪れた先々の影響で、ほんの僅かな悪い心ができたからだろうか。

グラシア「ああ。始めろ」
クルサ「では…」

クルサが膝をつき、両手を重ねて前に突きだす。
手が翳された空間が歪み、黒くなっていく。

⏰:08/01/07 18:34 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#232 [◆vzApYZDoz6]
クルサのライフアンドデスで所持しているスキルの1つだろうか。
軈て地面も同様に一部分が黒くなる。黒くなった部分は円を形成していき、地面の黒と繋がり円柱のような形になった。

クルサ「ドリフターポート、ターゲット、イルリナ―――」

クルサが呟くと、黒い円柱がその場で高速回転しだした。回転速度で土埃が舞い上がる。

クルサ「―――ポートアボート!」

瞬間、黒い円柱が煙を巻いて消え去る。
消え去った跡には、女性が立っていた。

⏰:08/01/08 00:41 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#233 [◆vzApYZDoz6]
祭りがあったからだろうか、少し豪華な格好をするその女性は、驚いた様子で辺りを見回す。
整った顔立ちに、長い黒髪を複雑に束ね、金の簪と金の櫛で止めている。茶色い胴着のような服に赤い単を纏うその姿は、とても綺麗だ。

(イルリナ。アリサの母親です)

グラシア「初めまして、イルリナさん」
イルリナ「ここは…修練場?なぜ急にこんなところに…それに貴方達は…」

イルリナは言いかけて、知ってる人物がそこに居ることに気が付いた。

⏰:08/01/08 00:55 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#234 [◆vzApYZDoz6]
イルリナ「あなたっ…何でクルサちゃんがここに居るの?つい1か月くらい前にスキル収得の旅に出たはずじゃない!」

イルリナが口調を強めてクルサに迫る。
クルサは俯いたまま表情を変えず、視線も合わせず、口も開かない。イルリナはそれを見て不信に思ったのか、後ろでほくそ笑むグラシアを睨んだ。

イルリナ「あなたが…何かしたのね?私をここに喚び出したのは何のためかしら」

イルリナが半歩下がり、構えようとする。
だが、それを遮ったのはクルサだった。

⏰:08/01/08 01:07 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#235 [◆vzApYZDoz6]
クルサは下がろうとするイルリナに素早く足を掛け、後ろに回り、握られる拳をイルリナの背中で抑えた。
その力は強く、イルリナが振りほどこうとするも、後ろのクルサは全く微動だにしない。

イルリナ「ちょっとっ…どうしたのよクルサちゃんっ…!」
グラシア「彼は俺が『支配』したのさ」

イルリナはゆっくりと近付いてくるグラシアを、敵意を込めて睨み付けた。

イルリナ「なんてことを…!」
グラシア「おっと、動くなよ。女性相手に悪いが、失礼する」

グラシアはそう言うと、イルリナの胸元に手を置いた。

⏰:08/01/08 01:19 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#236 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの手が一瞬青く光った。

グラシア「失礼した。…もういいぞクルサ」

クルサが押さえ付けていた手を離す。急に離されたためイルリナが躓くようによろめいた。
イルリナが1歩下がり、自分の胸元に手を当てる。体は、特に何もおかしな所はない。意識もはっきりしているから、支配されたという訳でもなさそうだ。

イルリナ「…今私に何をしたの?」
グラシア「その質問は後で答えよう。とりあえず、俺達と一緒に帰ってもらおう」

クルサが今度は立ったまま手を重ね、イルリナに向ける。

グラシア「別に抵抗してもらっても構わない。どうせ無駄だがな」

⏰:08/01/08 20:57 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#237 [◆vzApYZDoz6]
イルリナ「…ふざけてるの?ここから逃げるぐらいなら……っ?」

イルリナが何かしようとして動きを止めた。
ライフアンドデスによって所持しているスキルが、使えない。使えば逃げる事ができるスキルが、発動しない。
それならば、と攻撃用のスキルを試みるが、やはり発動しない。
イルリナは驚愕と憔悴の入り交じった表情で、視線を落として困惑した。

イルリナ「スキルが…なんで…」
クルサ「ドリフターポート、パーティネガション」

気が付くと、イルリナ・グラシア・クルサが立つ地面と頭上に、黒い円ができている。

⏰:08/01/09 01:17 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#238 [◆vzApYZDoz6]
イルリナがバックステップで黒い円から逃れようとする。
が、今度は体が動かない。視線だけを上げると、グラシアが嘸可笑しいといったように顔を歪めて歯を見せていた。

グラシア「やはり無駄だったな」

イルリナは何かを喋ろうとしたが、もう声も出せなかった。
地面と頭上の黒円が繋がり、3人を黒い円柱が包む。

グラシア「なーに、殺しはしないさ。今はな…」
クルサ「―――ポートアボート!」

グラシアの笑いを残し、円柱が3人と共に煙を上げて消え失せた。

⏰:08/01/09 01:26 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#239 [◆vzApYZDoz6]
飽きることなく、楽しそうにホタルを眺めるアリサ。
そんなアリサを見て、バニッシはアリサを連れてきて良かったと思っていた。
パンデモを出る事は、今はいい。また今度にしよう。
そんな事を考えていた、その時。

バニッシ「―――!」

バニッシがまた、謎の気配を感じて立ち上がる。今度はさっきよりもはっきりとした気配が、さっきよりも遠い所にある。
その気配は自分らに気付いてる風ではない。だが、忘れかけていた不安感が再び、克明に蘇ってくる。

⏰:08/01/09 01:41 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#240 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がってるバニッシに気付き、少し呆れたような顔をした。

アリサ「また?さっきからちょっと変…」

アリサの言葉を待たずに、バニッシが駆け出した。

アリサ「あっ、ちょっと!…もー!」

アリサが追い掛ける。
だがバニッシの駆ける速度は速く、どんどん差が離れる。
周囲の暗さも相まって、バニッシを見失ってしまった。

アリサ「…見失っちゃった」

アリサが項垂れながら辺りを見回す。
戻ろうにも、自分が今何処にいるか分からない。
仕方なく立ち止まり、その場でバニッシを待つことにした。

その後ろに、黒い円柱が現れた。

⏰:08/01/09 22:38 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#241 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは雑木林を抜け、修練場に辿り着いた。中央に歩いていき、辺りを見回すが、例によって誰も居ない。
気配は確かに修練場から感じた筈だったが、また逃げたか若しくは隠れたか。
バニッシが眉間に皺を寄せ、深刻な表情で頭を掻く。
今日はもう帰った方がいいな、と思った時に、大事な事に気が付いた。

バニッシ「しまった…アリサ連れてくるの忘れてた!」

バニッシが慌てて崖に走っていき、一足で飛び越える。
飛び越えた崖の上には、雑木林から出てきたアリサが立っていた。

⏰:08/01/10 23:26 📱:P903i 🆔:a4m5MZjc


#242 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もー、1人でどっか行かないでよ!」

アリサが怒ったように口を尖らせる。

バニッシ「…お前、1人でここに来れたのか?」
アリサ「誰かさんのせいで迷っちゃったけど、適当に走ってたらね」
バニッシ「ああ、悪い」

あの小川への道は結構複雑だ。途中に深い谷があったりして、知らない者がそこへ行くのは難しい。本当にアリサは1人で来たのだろうか。
バニッシはそう思ったが、一応アリサは無事だったので、黙って帰ることにした。

⏰:08/01/11 09:25 📱:P903i 🆔:frq1vZoY


#243 [◆vzApYZDoz6]
2人で肩を並べ、アリサの家に向かう。バニッシは、横を歩くアリサの肩が震えているのに気付かなかった。
修練場を出て、細い道を歩く。家が増えるにつれ、ざわめきが目立った。
バニッシは不安が募った。やはり何かあったのだろうか。そう思った時、後ろから声がした。

「兄ちゃん!」

2人が後ろを振り返る。バニッシはその声を知っていたので、同時に返事をした。

バニッシ「どうしたんだバン?」
バン「あっ、アリサ姉ちゃんもいるや。ちょうどよかった」

⏰:08/01/12 00:09 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#244 [◆vzApYZDoz6]
そこに居たのは少年だった。
背は150センチ前後ぐらい、半袖のシャツに7分丈のズボンを履いている。一見すると小学生くらいに見えるその少年は、少し息を切らしながら後ろから走ってきていた。

(バン。バニッシの歳の離れた弟です)

バニッシ「何かあったのか?」
バン「うん。お祭り終わった頃からイルリナおばちゃんがどっか行っちゃって、まだ帰ってきてないんだ」

バニッシは心臓が大きく鳴った。イルリナが消えたのは、あの気配の主の仕業に違いないだろう。

バン「2人ともどこ行ってたの?イルリナおばちゃん見てない?」

バニッシは驚いているであろうアリサに顔を向ける。
だがアリサは別段驚いている様子はなく、素っ気ない顔をしていた。

アリサ「さあ…あたし達は見なかったよね?」
バニッシ「え?…あ、ああ。まぁ見てない」
アリサ「大丈夫よバンちゃん、そんな心配しなくても。前にもこんなことあったし、そのうち帰ってくるわよ」

⏰:08/01/12 01:05 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#245 [◆vzApYZDoz6]
また『続き』って出てしまったorz

読んでくださってる方、亀更新すみませんm(__)m
最近忙しいために、平日は1〜2レスぐらいしか更新できません;;;
今日はこれで終わりになります。明日は少し余裕があるので、多少更新できると思います。

ちなみにアリサと内藤の過去話はもうちょっと続きます。

⏰:08/01/12 01:10 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#246 [◆vzApYZDoz6]
アリサは再び歩き出した。
バンとバニッシは共に訳が分からない、といったように顔を見合わせた。

バン「どうしたのかなアリサ姉ちゃん?心配しなくても、って言われても」
バニッシ「……もう夜も遅いし、とりあえずお前は家に戻ってな。イルリナさんはアリサを家に送ってから俺が探してみる」
バン「分かった。じゃ先帰ってるね!」

手を振って走っていくバンを見送ってから、小走りでアリサを追いかけた。
アリサに追い付いた頃には既にアリサの家が見えていた。
アリサが門の前で振り返る。

⏰:08/01/12 21:59 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#247 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「じゃ、ありがとね」
バニッシ「ん。…お前の母さんは…」
アリサ「だから大丈夫だって!探したりしちゃ駄目よ?」
バニッシ「……あの小川でお前を置いてきた時に、何かあったか?」

バニッシが溜め息をするように呟いた。アリサは俯き、バニッシと視線を合わせない。

アリサ「……ねぇ、あたしが明日パンデモを出る事になったらどうする?」

アリサが唐突に言った。バニッシは驚いたように顔を上げる。

バニッシ「え?」
アリサ「…なんてね、冗談。じゃあね!」
バニッシ「っておい…」

バニッシが何か言う前に、アリサは家に入っていった。

⏰:08/01/12 22:10 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#248 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは考えながら自分の家に向かった。
修練場で感じた気配、イルリナの足取り、アリサの異変。バニッシはこれらが全て関係がある気がしてならなかった。
考えてるうちに、家についた。バニッシは上着を着て、行灯のようなものを持ち、再び外に出る。

バニッシ(…とにかく、イルリナさんを探さないと)

バニッシはそのままイルリナを探しに行った。
もう月も高く昇っていた。辺りは暗く、明かりが無ければ歩けなかっただろう。
集落の中はバンや他の人が探しただろうと考え、集落の外、雑木林や近くにある深い渓谷など、一晩で出来る限りの範囲を探した。

イルリナは見付からなかった。

⏰:08/01/12 22:21 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#249 [◆vzApYZDoz6]
次の日からも、バンやバニッシ、その他の人もイルリナを探すが、依然見付からないままだった。

アリサは毎日少し変わった行動をとっていた。
朝に家を出て、夜に帰ってくる。何をしているのかは分からないが、バニッシとは一度も会おうとしなかった。


そして、イルリナが行方不明になってから1か月が経ったある日。
修練場に、腕を組んで立つバニッシの姿があった。
バニッシは、アリサに修練場に呼び出されていた。

⏰:08/01/12 22:28 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#250 [◆vzApYZDoz6]
軈て、アリサが歩いてきた。
アリサとは、イルリナが行方不明になった日から一度も会っていない。バニッシは少し懐かしい感じがした。

バニッシ「どうしたんだ?」
アリサ「ごめんね、呼び出したりしちゃって♪」

バニッシはアリサの話し方に驚いた。以前のような幼さの残る話し方ではない。声は前より甲高く、イントネーションは上がり気味。
バニッシは眉間に皺を寄せた。

バニッシ「…その話し方は何だ?ふざけているのか?」
アリサ「楽しいからかな♪この1か月でいっぱいスキルも手に入ったし♪」
バニッシ「スキル…?」

⏰:08/01/12 22:39 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#251 [◆vzApYZDoz6]
アリサは手を後ろに組み、愉快そうに話している。

アリサ「1か月間、パンデモの人からスキルをいっぱい集めてたの♪バニッシちゃんにはスキル貰わなかったけど♪」
バニッシ「…何をするつもりなんだ?」

バニッシは、以前とは全く違うアリサを少し警戒していた。まるでアリサを知らないかのように話していた。

アリサ「これから戦う事もあるかも知れないんだし、スキルは多い方がいいでしょ?♪」
バニッシ「戦う?」
アリサ「だって、世界征服しようなんて考えてる人に付いていくんだから♪」

その時、アリサの後ろに2つの黒い円柱が現れた。

⏰:08/01/12 22:52 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#252 [◆vzApYZDoz6]
円柱が割れて、中から人が出てきた。バニッシは片方の人間の気配を知っていた。
以前、アリサと修練場の奥へ行ったときに感じた気配の主。オールバックがかなり威圧感を出していた。
バニッシは完全に警戒心を顕にし、1歩下がる。もう1人に視線を向け、驚いたように声を上げた。

バニッシ「クルサ!?お前は確か、収得に出ていたんじゃ?」

クルサとは1年前にパンデモを出るまで、アリサと3人でよくつるんでいた。
仲が良かった2人が、今は恐らくは敵であろう側にいる。

アリサ「彼もあたしと同じよ♪」
バニッシ「何故だ?何故、世界征服を企んでるような奴と一緒に居るんだ?」

⏰:08/01/12 23:04 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#253 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「おい、話は手短にしろ。本来なら直ぐに発っていたんだぞ」

オールバックの男、グラシアが会話に割って入った。

アリサ「あら、ごめんなさい♪」

グラシアとクルサの方へ歩いていくアリサが、途中で振り返った。

アリサ「…そうそう、今日バニッシちゃんを呼び出したのは、お別れを言うためなの♪」
バニッシ「…パンデモを、出るのか」
アリサ「色々楽しかったわ♪今までありがとね♪」
バニッシ「目を覚ませ…行かせないぞ」

バニッシがアリサに近付く。
それを止めたのはクルサだった。

⏰:08/01/12 23:18 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#254 [◆vzApYZDoz6]
アリサとの間に割って入ったクルサを、バニッシが睨んだ。

バニッシ「クルサ、お前も…」
グラシア「やって構わんぞ」

グラシアがバニッシの言葉を遮る。それとほぼ同時に、クルサが拳を撃ち出した。
バニッシは顔を後ろに反らせ、そのまま1歩下がる。拳はバニッシの頬を掠めた。

バニッシ「昔馴染みとはやり合いたくはないが…」

バニッシが頬を擦りながら呟く。既にグラシアの横に立っているアリサに一瞬目をやった。
俯いて黙っているアリサを見て、拳を握り構えて腰を落とす。

バニッシ「…仕方無いな」

ガールフレンドと親友の目を覚ますため、バニッシが踏み込んだ。

⏰:08/01/12 23:39 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#255 [◆vzApYZDoz6]
バニッシはクルサに勝てる自信があった。昔は何度も手合わせし、毎回勝っていたからだ。
クルサを全力で叩き伏せ、グラシアからアリサを奪い返す。そのあとクルサに謝れば、それで終わりだ。

バニッシ「悪いけど…我慢しろ!」

バニッシは全力で拳を撃ち出した。
しかし、その拳はクルサの掌にいとも容易く止められた。

バニッシ「なっ…」
クルサ「ドリームカットアウト、発動」

クルサが拳を払いのけ、手を前に出す。すると、青い袋が出現した。

⏰:08/01/13 00:03 📱:P903i 🆔:Tp9acfJI


#256 [◆vzApYZDoz6]
青い袋の封が独りでに開き、口を下に向け、袋の中のものが地面に落ちる。袋から出てきたのは、無数の紙吹雪。
バニッシは山のように積まれた紙吹雪を警戒し、バックステップで距離を取る。

クルサ「カットアウト、群れる隼―――」

クルサが呟くと、紙吹雪がもそもそと動き出す。地面を伝うように動き、何かの形を成していく。
軈て地面に、紙で描かれた無数の鳥が出来上がった。

クルサ「―――ドリームアウト!」

無数の鳥が地面から剥がれるように飛び出す。先ほどまで2次元だったそれは立体の紙鳥となり、全てがバニッシに襲い掛かった。

⏰:08/01/13 00:51 📱:P903i 🆔:Tp9acfJI


#257 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが迫る紙鳥をギリギリまで引き付け、後ろに跳ぶ。
紙鳥は地面に次々とぶつかり紙吹雪に戻ったが、半瞬も経たずに再び形を成し、隼の大群に戻った。今度はバニッシの四方を囲むように紙の嘴を向けた。

バニッシ「なかなか猪口才なスキルだな?」

バニッシが周りの紙隼を横目で一瞥しながら、面倒臭そうにクルサを見る。
クルサは相変わらず無言で無表情のまま。バニッシは一瞬腰を落とす。

バニッシ「そんなんで、俺に勝てると思ってるのか?」

足下を抉り、爆発的に駆け出した。

⏰:08/01/14 21:15 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#258 [◆vzApYZDoz6]
クルサとの距離は約10m。それをバニッシは一瞬で2mにまで詰め寄った。
駆け出したバニッシに平行するように紙隼の群が追うが、バニッシのスピードには追い付けない。紙隼を振り切り、クルサ目掛けて拳を振りかぶった。

クルサ「紙潜龍―――」

バニッシの視界から一瞬クルサが消えた。
次の瞬間に打ち出されたバニッシの拳は、しゃがんだクルサの頭上を通過する。
クルサの足下に置かれている青い袋の口は、バニッシに向いていた。

クルサ「―――カットアウト」

しゃがんで俯いたまま呟くクルサの前で、紙の龍がバニッシを飲み込んだ。

⏰:08/01/14 21:34 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#259 [◆vzApYZDoz6]
龍が空高くまで昇り、急降下した。
滝坪にいるかのような音をたてながら、まるで壷に吸い込まれるかのように袋に戻っていく。
龍の尻尾まで全て入りきった袋の上に、バニッシが仰向けに横たわっていた。

バニッシ「ぐっ…」
グラシア「おいおい、やられてるじゃないか。さっきの台詞はどうした?」

バニッシが顔を上げる。意地悪く顔を歪めるグラシアの隣のアリサと目があった。
アリサは反射的に目を逸らす。表情は明らかに曇っていた。
目の前にいるクルサは全く表情を変えず、地面の一点だけを見つめていた。

⏰:08/01/14 21:59 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#260 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは目を細めて溜め息をついた。
イルリナが行方不明になったのは、グラシアの仕業だろう。
アリサはグラシアに脅されてるに違いない。あんな奴に好き好んで付いていくなんてあり得ない。
クルサは何らかの方法で、グラシアに操られてるのだろう。
バニッシが拳を握り締め、ゆっくりと立ち上がった。

バニッシ「あんなアホ笑いする奴にいいようにされちゃ、たまんねぇだろ」

俯いて笑っていたグラシアが突然笑いをやめて、顔を上げる。

⏰:08/01/14 22:35 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#261 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「聞こえたぞ?なんならこの場で2人を殺してやっても…」
バニッシ「黙ってろアホ」

グラシアが言い終わる前に、バニッシが足下の青い袋を蹴り上げた。袋はグラシアの顔に被さる。
ずり落ちていく袋の下で、グラシアが眉間に皺を寄せて目を細めながら、唇の端を持ち上げた。

グラシア「…人を馬鹿にするのが好きみたいだな」
バニッシ「馬鹿にしてるんじゃない、アホにしてるんだよ」

バニッシは歯を見せて笑った。
表情だけ見ると、どうと言うことはなさそうだが、龍にやられた痛みからか腕を押さえている。
グラシアはそんなバニッシを一瞥して、呆れたような顔をした。

⏰:08/01/14 22:46 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#262 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「そんなボロボロで何ができる?強がりはよすんだな」
バニッシ「これぐらいどうってことはない」

バニッシは言いながら、1歩下がった。
体の調子に関してはグラシアの言う通りだ。先刻の攻撃で体のあちこちが痛い。
だが、このまま引き下がる訳にもいかない。

バニッシ「刺し違えてもお前は1発ぶん殴るぞ」
グラシア「やってみたまえ…出来るならな。やれ、クルサ」

グラシアの言葉に反応し、クルサが両手を前に突き出す。
グラシアの足元に落ちていた青い袋がクルサの背後で浮き上がり、口をバニッシに向けた。

⏰:08/01/14 22:57 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#263 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは溜め息をつきながら頭を掻いた。

バニッシ「操られるお前もお前だよ…まったく」

バニッシの背後で地面に伏し、静寂を保っていた紙隼のが、袋目掛けて飛び出した。
袋と紙隼の延長線上にいたバニッシが横に跳ぶ。バニッシの横を紙隼の群れが飛び去っていき、次々と袋に飛び込む。
紙隼が戻りきってから再び繰り出されるであろう紙吹雪の攻撃をを避けるべく、バニッシが後ろに跳ぼうとしたその時。

バン「兄ちゃん?」

修練場の入口から、バンのか細い声が聞こえてきた。

⏰:08/01/14 23:15 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#264 [◆vzApYZDoz6]
バンが、バニッシと対峙するように並ぶ3人に視線をずらした。

バン「あっ、アリサ姉ちゃんとクルサ兄ちゃんも…」
バニッシ「馬鹿…!何で来たんだ!」
グラシア「ほー、あれはお前の弟か?クルサ、あいつをやれ」

グラシアの嫌らしい声を聞いたバニッシが、バンの元へ駆け出す。
だがそれよりも早く、袋から紙龍が飛び出していた。紙龍が口を開けて、駆けるバニッシを軽々追い越した。

バニッシ「しまった!」
バン「うわっ!」

バンが突然の出来事に目を瞑る。

数秒後、何事もなく目を開けると、目の前にバンが知らない男が立っていた。

⏰:08/01/14 23:25 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#265 [◆vzApYZDoz6]
バンの元へ急がねばならないのに、先刻クルサにやられた怪我で早く動けない。
自分の横を紙龍が追い越していく。手を出して止められる筈もないだろう。
為す術もなく、龍が土埃を巻き上げてバンに襲い掛かかっていく。

その時、バンの前に人影が飛び込んだ。
飛び込んだかと思うと、袋に戻った時のように、人影に龍が吸い込まれていく。
その勢いで一層土埃が舞い、バンと謎の人影を完全に包んだ。

グラシア「誰だ今のは?」

グラシアが呟いた。その場の全員が土煙を見詰める中、バンとは別の声がした。

「スティーブがこの辺に迷い込んだんだが…お取り込み中だったかな?」

⏰:08/01/14 23:40 📱:P903i 🆔:F4Lh8w3U


#266 [◆vzApYZDoz6]
土煙が徐々に晴れていく。
しゃがみこんでいるバンの視線の先に、声の主が立っていた。

グラシア「ハルキン!貴様…!!」
「おお、誰かと思えばグラシアじゃないか。お前いつからこんな小さなガキ追い掛け回すようになったんだ?」

声の主は左手をポケットに突っ込んで、右手でバンの頭を撫でた。

(ハルキン。反ウォルサー組織『バウンサー』を設立し会長となるのは、この3年後です)

グラシア「何しに来たんだ!」
ハルキン「スティーブが迷い込んだって言っただろ。お前の脳味噌は猿以下か?」

余裕の表情で喋るハルキンとは対称的に、グラシアの顔ひきつっていた。

⏰:08/01/15 00:01 📱:P903i 🆔:BQeyHkao


#267 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「しかしお前がショタコンだったとは思いもしなかったな」
グラシア「…お前は本当に人を怒らせるのが得意な奴だよ」

怒りからか、グシラアの声は少し震えていた。
バニッシはそれを見て小馬鹿にしたように笑っていた。

ハルキン「そうか?お前が馬鹿なだけだろう」
グラシア「クルサ!やれ!」

ハルキンを指差し、叫ぶように指示する。
クルサが青い袋の口をハルキンに向けると、中から紙龍が飛び出した。

ハルキン「一度防がれた攻撃をまた使うか…だから馬鹿だと言うんだ」

⏰:08/01/15 00:31 📱:P903i 🆔:BQeyHkao


#268 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが右手でバンを下がらせながら、左手をポケットから抜いた。手を開き、前に突き出す。
襲い掛かった龍はまるで穴に飛び込むかのように、音も立てずに突き出された掌に頭から吸い込まれ消えていく。

ハルキン「まぁ、これはお前が食らってろ」

吸い込まれていくのと同時に、グラシアの眼前に紙龍が現れた。

グラシア「ぐあっ!」

紙龍は勢いよくグラシアを飲み込んで、修練場の壁となっている崖に激突した。

ハルキン「おいおい、支配してる人間の技にやられてどうする?」

ハルキンが冷ややかな目で笑った。
呆然とするバニッシを横目に、崖に埋まるグラシアにゆっくりと歩いていく。

⏰:08/01/15 00:47 📱:P903i 🆔:BQeyHkao


#269 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは瓦礫の中から、こちらに歩いてくるハルキンを見て、思案した。
クルサのスキルは他にもあるが、恐らく結果は同じだろう。
さっきから俯いたまま何も喋らないアリサは、命令を聞くかどうかすら分からない。
グラシアにとって、ここは一旦退くしかなかった。

グラシア「戻るぞクルサ!」

クルサが声に反応して、手を地面につける。アリサ、グラシア、クルサの3人の足下と頭上に、黒円が出現した。
アリサが顔を上げる。訳が分からず呆然としているバニッシと目があった。

⏰:08/01/15 01:06 📱:P903i 🆔:BQeyHkao


#270 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「ねえ、あたしが今パンデモを出るとしたらどうする、って聞いたの…覚えてる?」

アリサが唐突に呟いた。

バニッシ「…ああ」

忘れてはいない。
あの問いかけ以降、1か月近くアリサに会うことがなかった。
ある種、最後に聞いた言葉だ。
質問の意味はもう分かっている。

アリサ「…じゃあ、どうする…?」

バニッシが問いかけに険しい顔をしたのを見て、アリサが悲しそうに俯く。
その周りを、徐々に黒い円柱が覆っていった。

⏰:08/01/16 01:28 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#271 [◆vzApYZDoz6]
今のバニッシには、この状況はどうする事もできない。救いを求めるアリサに何もしてやれない。
だが、いつか必ず助けてやる。そう自分に誓って、アリサの足下を指差した。

バニッシ「…いつか必ずそこへ行ってやる。動かずに待ってろ…!」

アリサが目を瞑って、満足そうに小さく微笑み、頷いた。

アリサ「じゃあ、ずっと待ってる。……ここで、ね♪」

アリサが嬉しそうに顔を上げると同時に、黒い円柱がアリサ、グラシア、クルサの3人の体を完全に包み込む。

円柱が土煙を巻き上げて回転し、そのまま弾けるように消え去った。

⏰:08/01/16 01:30 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#272 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは土煙が完全に晴れてもまだ、アリサがいた場所を見つめていた。
自分に力が無いせいで、親友と愛友が連れ去られた。バニッシはやるせなさと呆れから、溜め息が止まらなかった。

バン「兄ちゃん、溜め息吐いたら幸せ逃げるよ」

後ろからバンの声がした。振り返ると、ハルキンを引き連れて、バンが腰に手を当てて立っている。
自分もアリサに同じ事を言っていた思い出し、思わず笑みが溢れた。

バニッシ「やっぱり兄弟だな」
バン「え?」
バニッシ「何でもない」

そう言ってバンの頭を押さえ付けるように撫でながら、ハルキンと向き合った。

⏰:08/01/16 02:27 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#273 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「こいつを助けてくれてありがとう。あんたは…」
ハルキン「ハルキンだ」
バニッシ「ああ。ハルキンはなぜここに…」

バニッシが言いかけた時、バニッシの頭上を何かが飛び越えた。その何かは、そのままハルキンの足下に擦り寄った。

ハルキン「お、スティーブ。探したぞ」

ハルキンが、スティーブと呼ぶ動物を片手で抱き上げた。
スティーブは見たところ犬のようだが、犬にしては体が小さく、ハルキンの片手に収まるぐらいの大きさしかない。薄い紫色の体毛がふわふわと揺れている。
パンデモにも犬はいる。しかし、バニッシはこんな犬は見たことがなかった。

⏰:08/01/16 17:49 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#274 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンは、スティーブを一頻り撫でて肩に乗せ、話し出した。

ハルキン「今逃げていった奴…グラシアは、いつか必ず『事』を起こす」

視線をバニッシとバンに交互に向けながら、ゆっくりと話す。

ハルキン「今みたく偶々出会っても、あいつは逃げ足が早いからな。奴が『事』を起こす前に、奴に対抗できる戦力を探さないといけない」
バニッシ「なら、俺も連れていってくれ!」
ハルキン「お前では力不足だ」

ハルキンは冷たく言い捨て、踵を返した。

バン「待って!」

バンが修練場を後にしようとするハルキンに飛び付くようにしがみついて、ハルキンの動きを止めた。

⏰:08/01/16 18:36 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#275 [◆vzApYZDoz6]
バン「アリサ姉ちゃんとクルサ兄ちゃんは?どうなったの?」

バンがハルキンを見上げる。
ハルキンはやれやれ、といったように頭を掻き、しゃがみこんでバンの頭を撫でた。

ハルキン「助けたいか?」
バン「当たり前じゃん!だってさっきの人って悪い奴なんでしょ?」

ハルキンはそれを聞いて、満足そうに含み笑いをした。立ち上がり、こちらを見ているバニッシを一瞥して再び踵を返した。

ハルキン「……1年後、もう1度ここに来よう。『必ずそこへ行ってやる』んだろ?」

そう言い残し、バニッシは修練場を出ていった。

⏰:08/01/16 18:43 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#276 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは修練場を出ていったハルキンを見て、ふっと溜め息をついた。

バニッシ「1年後、か…」

バニッシに、ある1つの考えが過る。
そこへバンが走って近付いてきた。

バン「兄ちゃん!」
バニッシ「バン、母さんと父さんに、1年後に帰ってくるって伝えといてくれ」
バン「えっ?」

バニッシはバンの肩を叩き、修練場を出ていく。
早足で歩くバニッシを、バンが小走りになりながら追い掛けた。

バン「兄ちゃん、どこ行くんだよ?」
バニッシ「パンデモを出る。修行だ、修行」

あっけらかんと言うバニッシに、バンが目を丸くした。

⏰:08/01/16 18:53 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#277 [◆vzApYZDoz6]
バン「待ってよ!俺はどうするんだよ!てゆうか別に今すぐ出なくても…準備とかは?」
バニッシ「時間が惜しいからな。準備なしで出るのも修行だ」

バンは、バニッシがおかしくなったのかと思った。
ずかずかと歩いていくバニッシは、とうとうパンデモの集落の入口へついた。
振り返り、小走りで自分を追ってきたせいか、少し肩で息をしているバンに向き直った。

バニッシ「お前はまだ小さいから危険だ。お前は、ここで強くなれ」

バンが膝に手をつきながらバニッシを見上げる。
バニッシの目に、覚悟の焔が宿っていた。

⏰:08/01/16 19:00 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#278 [◆vzApYZDoz6]
バン「…分かったよ。父ちゃん達には伝えとく」
バニッシ「悪いな」
バン「その代わり、約束」

バンが小さな手に拳を握り、前に突き出した。

バン「絶対強くなってくる事」
バニッシ「…お前に言われなくても、なってやるよ。約束だ」

バニッシが笑いながら、自分の拳をバンの拳に軽くぶつけた。
そのまま踵を返す。

バン「気を付けなよ、兄ちゃん!」
バニッシ「ああ。じゃあな」

バニッシが、生まれ故郷を後にする。
親友を助けるために。
愛友との約束を守るために。

バンは、集落を出て山を下るバニッシを、いつまでも見送った。

⏰:08/01/16 19:07 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#279 [◆vzApYZDoz6]

1年後。

バンは、集落の入口の門の前に立っていた。
今日がバニッシが出てからちょうど1年経った日であり、ハルキンが出てから1年経った日でもあった。
暫く立っていると人影が見えてきた。バンが駆け寄っていく。

バン「あっ、ハルキンさんと…誰?」
ハルキン「お前は…あの時のちびっこか。ちょっと背が伸びたんじゃないか?」

バンの視線は、ハルキンの両脇にいるバイクに乗った人物に向けられていた。
ハルキンがバンに気付き、頭を撫でながら言った。

ハルキン「…ああ、こいつらは俺が見付けてきた連中だ」

⏰:08/01/16 19:19 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#280 [◆vzApYZDoz6]
「俺が兄のジェイト・ブロックだ」
「俺は弟のジェイト・フラット。よろしくな」

ジェイト兄弟が挨拶代わりといったようにスロットルを回し、エンジン音を響かせた。

バン「何これ?」

バンが興味深そうにバイクを眺める。
パンデモに文明機器は存在しないので、バンは当然バイクなど見たこともなかった。

ブロック「これはバイクだ。凄い速く走れるぜ」
ハルキン「なんでもいいがエンジンは切っといてやれ」

ジェイト兄弟を諌めるハルキンを見て、バンがある事に気付いた。

バン「あれっ、スティーブは?」
ハルキン「勿論いるぞ。呼んでやろうか」

⏰:08/01/16 19:48 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#281 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが親指と人差し指で輪を作って口にくわえ、音を鳴らした。
すると、ハルキンの背後の山道の草陰から、大きな動物が飛び出してきた。
スティーブは1年前に比べ、とても大きくなっていた。サイズは、ジェイト兄弟の乗るバイクと同じぐらい。
威嚇している訳でもないのに、紫の体毛が逆立ち、針鼠のようになっている。
そのままハルキンに飛び付いて擦り寄った。

バン「何て言うか…デカくなってない?」
ハルキン「そうか?」
ブロック「いや普通にデカくなってるし」
フラット「てゆうかスティーブって絶対犬じゃない気がするんだけど」

⏰:08/01/16 19:55 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#282 [◆vzApYZDoz6]
バン「何でもいいけど大きくなったなー」

バンがスティーブに近付いて、しゃがみこんでスティーブの頭をわしゃわしゃと撫でた。
バンは、喜ぶスティーブ越しに見える山道に、人影がいる事に気が付いた。

バン「あっ…兄ちゃん!」
バニッシ「よぉ、バン。ちょっと背伸びたんじゃないか?」

バニッシがゆっくりと歩いてくる。
見た目は変わらないが、威圧感のようなものが感じられた。
ハルキンが俯いて、満足そうに笑みを溢した。

ハルキン「まぁマシにはなったみたいだな」
バニッシ「…じゃあ、もう1度言わせてもらう」

⏰:08/01/16 20:08 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#283 [◆vzApYZDoz6]
バニッシがハルキンに向き直る。

バニッシ「俺を…連れていってくれ」

ジェイト兄弟がにんまりと顔を見合わせる。
ハルキンが唇の端を持ち上げ、目を細めた。

ハルキン「乗った船からは降りられないぞ」
バニッシ「上等だ」
ハルキン「その意気、忘れるな。…お前は今日から俺達の仲間だ」

ハルキンが手を差し出す。
バニッシはほくそ笑んで、がっちりと握手を交わした。
その様子を見ていたバンは嬉しそうに笑い、咳払いをする。

バン「俺はここに残るよ」

バニッシが、バンに近付いた。

⏰:08/01/16 23:18 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#284 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「…そうだな、お前はやっぱりまだ小さい。父さん達にはよろしく言っておいてくれ」
バン「分かった。それから…」

バンが、1年前と同じように拳を突き出す。

バン「絶対にアリサ姉ちゃんを助けること!」

バニッシが拳を見つめて、小さく溜め息をついた。

バニッシ「お前に言われなくてもな…そのために出るんだよ。…約束だ」

バニッシが1年前と同じように拳をぶつけ、踵を返した。ハルキンが満足そうに笑う。

ハルキン「それじゃあ、行くとするか」
バニッシ「ああ…行こう」

見送るバンを尻目にバニッシが仲間と共に山を下りていく。
アリサとの誓いを胸に立てて―――

⏰:08/01/16 23:31 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#285 [◆vzApYZDoz6]


――――……

ウォルサー本拠、兵隊居住区3階の最奥の部屋。

内藤はゆっくりと煙草を吹かしながら、目を瞑って物思いに耽っていた。
アリサは暫く黙って見ていたが、少し遠慮がちに話を再開した。

アリサ「…母さんは、もうすぐ用済って事で殺されるわ♪多分、クルサちゃんも…♪」
内藤「……グラシアが、京介のスキルを支配したら…か」

内藤が、既に許容範囲を超えて吸殻が詰め込まれている携帯灰皿に、今しがた吸い終えた4本目の煙草を押し付ける。
携帯灰皿をしまい、座ったまま軽く前屈みになって、アリサを見上げるように視線を上げた。

⏰:08/01/16 23:47 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#286 [◆vzApYZDoz6]
内藤「…リッキーは、既に京介を『写した』んだな?」

内藤が顎に手を当てながら訊いた。

アリサ「そうよ♪…だから、早くしないと…」
内藤「その前にお前だ―――」

内藤がアリサの言葉を遮り、おもむろに立ち上がった。そのままアリサに近付いて、手足に縛られていた縄をほどいた。

内藤「―――待たせたな、アリサ」

4年越しの約束が、果たされる。
アリサは恥ずかしそうに、内藤の胸に顔を埋めた。

アリサ「…遅いんだから」
内藤「悪いな」

内藤が照れ臭そうに、アリサの頭を撫でつづけた。

⏰:08/01/18 11:40 📱:P903i 🆔:c7QlUVWo


#287 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:08/01/18 14:38 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#288 [◆vzApYZDoz6]
>>287
あげどうもです
今から更新します^^

⏰:08/01/18 22:16 📱:P903i 🆔:c7QlUVWo


#289 [◆vzApYZDoz6]
>>286
内藤「…さてと、残りのパンデモの人間も助けないとな」

少しの沈黙のあと、自分の胸に顔を埋めるアリサの肩を掴んで引き離す。
2人ともベットに座ったまま向き合った。

アリサ「母さんはどこに捕まってるか分からないわ…♪でもクルサちゃんなら、グラシアの側にいるはずよ♪」内藤「そうか…」

内藤が少し思案する。
2階で見た地図には、牢屋等の類は中央要塞には見当たらなかった。
管制コントロール室に行けば監視カメラを使って分かるかもしれないが、位置的に遠い。

内藤「…先にクルサかな。お前はどうする?」
アリサ「あら、そんなの決まってるじゃない♪」

⏰:08/01/18 22:36 📱:P903i 🆔:c7QlUVWo


#290 [◆vzApYZDoz6]
アリサを勢いよく立ち上がり、拳を内藤に突き付けた。

アリサ「あたしをこんな話し方にしたグラシアを、ぶっ飛ばすのよ!♪」

自信満々に言うアリサを見て、内藤がニカッと歯を見せて立ち上がった。

内藤「よーし、なら行くか。多分浅香も一緒にいるはずだ」

2人が顔を見合せ、肩を並べて部屋を出、中央要塞の入口へ。
行き先は1つ。グラシアの待つ、敵陣の一番奥へ。

内藤「いざ、司令室―――4年前の借りを返しにな!」
アリサ「見てなさいよ、グラシア!♪」

パンデモの絆を取り戻すために、扉を開けて駆け出した。

⏰:08/01/18 22:49 📱:P903i 🆔:c7QlUVWo


#291 [◆vzApYZDoz6]
-ウォルサー基地外部・トンネル付近-

京介とラスダン、ハルキンとラスカ、内藤とアリサ、シーナとリーザに代わりハル兄弟。それぞれが中央要塞に突入した頃。

京介達が乗ってきた車の側で、ジェイト兄弟がバイクに跨がり要塞の様子を見ていた。
中央に聳え立つ要塞の前には、5機の2足歩行戦車が機能を停止して蹲っている。
対戦車隊の殿戦闘は、少し前に終わっていた。ジェイト兄弟は、次にどう動くかを思案していた。

弟「やっぱ行った方がいいんじゃない?」
兄「でもなぁ、行ったところで銃器は弾切れ、合体無しのソードはそんな強くないしな…」

⏰:08/01/18 23:06 📱:P903i 🆔:c7QlUVWo


#292 [◆vzApYZDoz6]
問題は武器。
ジェイト兄弟の武器は、殆んどが弟ジェイト・フラットが駆るジェイトドットに搭載されている。
搭載されている武器の内、銃器は対戦車バルカン、対歩兵マシンガン、ランチャーグレネード。その全ては弾薬がもう残っていない。
両刃剣ジェイトソードは、合体しなければバイクに乗って剣を振るのとたいして変わらないだろう。
そんな状態で援護に行ったところで役に立たないのは明白だったが、かといってこのまま何もせずにいる訳にもいかなかった。

兄「どうするかなー……あれ?」

項垂れる兄の視界が、遠くにいる人影を見つけた。

⏰:08/01/19 05:44 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#293 [◆vzApYZDoz6]
兄「誰だあれ?」

人影は左側の倉庫からこちらへ走ってきている。
見たところ、1人ではなく、誰かを背負っているようだ。

弟「誰かが怪我でもしたかな?」

弟も気付き身を乗り出す。
軈て車まで走ってきたその人物は、負傷した味方ではなかった。

兄「おっと、ガリアスじゃねぇか」
弟「『思念』で話は聞いてるけど、人質取られてたんだって?」

やって来たのは、自分の母親を背負っているガリアスだ。

ガリアス「……ああ、母さんが監禁されてたんだ」

息を切らしながら、母親を背中から下ろす。
そのまま車のドアを開けて、母親を車内に入らせた。

⏰:08/01/19 05:55 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#294 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「車、使わせてもらうぜ?」
兄「ああ、使え」

ガリアスが返答を確認してから、車のドアを閉めた。
そのままジェイト兄弟と向き合った。

ガリアス「なぁ、ずっとここにいるのか?」
兄「今のところはな」
ガリアス「なら、母さんを護っていてくれ」

ガリアスが言いながら踵を返す。

弟「お前は?」
ガリアス「もう一度要塞へ行く。グラシアを殴らないと気が済まない」

ガリアスが目を細くして要塞を眺める。
中央に聳え立つ要塞。その右側にある倉庫から、人影が近付いてきているのが見えた。

ガリアス「あれは誰だ?」

⏰:08/01/19 06:04 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#295 [◆vzApYZDoz6]
兄「ん?どいつだ?」

ジェイト兄弟がガリアスの指先を追う。
その人影も、後ろに誰かを背負っている。まだ遠くて顔はよく分からないが、剣袋には見覚えがあった。
軈て負傷した仲間が車まで走ってきた。

兄「リーザ!シーナは何かあったか?」
リーザ「ええ、ちょっと敵との戦闘で」

リーザが息を切らしながら車を開けると、中にいたガリアスの母親が視界に入った。

リーザ「…後ろ、失礼しますね」

リーザが軽く会釈をし、後部座席にシーナを寝かせてドアを閉める。
そのままジェイト兄弟に向き合った。

⏰:08/01/19 06:12 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#296 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「私はもう一度要塞へ向かいます。私に代わって、シーナを預かってもらえませんか?」

リーザが要塞を横目に訊いた。

弟「あれ…これなんてデジャヴ?」
リーザ「どうしました?」
弟「あ、いや何でもないよ。シーナちゃんは護っとくよ」
兄「ところで2人共走ってきたばっかなのに大丈夫か?なんなら俺が送っていくぜ?」

兄が、要塞を見据えるガリアスとリーザに訊いた。
2人共、返答は同じ。

ガリアス「いや、いい。『ヴィエロシティー』を使えばすぐ行けるし」
リーザ「私も大丈夫です。それに、それでは2人を護る人がいなくなりますわ」
?「護る人がいればいいんじゃない?」

⏰:08/01/19 06:23 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#297 [◆vzApYZDoz6]
突然の何者かの声に、全員が振り返る。
トンネルの入口に、1人の男が立っていた。

兄「バンじゃねぇか!どうしてここが?」

兄が車に近付いてくる男に訊いた。

(バン。内藤の弟です)

バン「そろそろ最後の戦いになるらしいから、って兄ちゃんに言われて。助太刀に来たよ!」

バンが車のドアの前に回り、腕を組んで仁王立ちした。

バン「ここは俺が護っとくから、ジェイトさん達も行ってきなよ」
兄「…悪いな!さぁ、2人共そうゆう事だ、乗りな」

兄が笑って2人を見る。
ガリアスが兄の後ろ、リーザが弟の後ろに座った。

⏰:08/01/19 06:30 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#298 [◆vzApYZDoz6]
リーザは後ろを振り返って、心配そうに訊いた。

リーザ「彼に任せて大丈夫なんでしょうか」
弟「多分、今の俺や兄ちゃんよりかは強いよ。大丈夫さ」

弟が後ろを振り返る横で、兄がスロットルを回す。弟もそれに倣った。
雪山にエンジン音が響く。マフラーの排気熱で、足下の雪が水に変わっていく。

ガリアス「てゆうか俺は別に1人でも大丈夫なんだけど…」
兄「何言ってんだよ、俺達も行こうってのに。ノリ悪いな」
ガリアス「つうか俺のスキル使った方が…」
弟「何でもいいから早く行こう!」

ガリアスはまだ愚痴っていたが、弟の声を合図にバイクが駆け出した。

⏰:08/01/19 12:36 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#299 [◆vzApYZDoz6]
2台のバイクが雪煙を撒き散らしながら、基地を縦断していく。
兄弟が胸元から何かを取り出しながら、後ろに乗る2人に話し掛けた。

兄「今の俺達は屋外では戦えないから、要塞のすぐ側で待機しておく!」
弟「何かあったらこれで知らせて!」

風のせいで大声になりながら、後ろ手で取り出したものを渡す。
兄弟が渡したものは、小型の無線機だった。ガリアスとリーザがそれぞれ受け取り、懐にしまい込んだ。
それを確認した兄弟が尚スピードを上げて、要塞に向けひた走る。
ジェイト兄弟の視界の中で徐々に大きくなっていく要塞を見据え、突破口となる場所を探した。

⏰:08/01/19 12:49 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#300 [◆vzApYZDoz6]
一番最初に目に入ったのは、要塞の正面中央にある大きなシャッター。
恐らくは大型戦車等が出撃するためのものだろうが、安易に正面から侵入するのは避けたい。
シャッターの隣に自動ドアのような入口を見付けたが、これもまた正面玄関らしい雰囲気。中に何があるかは分からない状況で、正面突破はやはり無理があった。
ジェイト兄弟がそんな思案をしている内にも、バイクは刻一刻と要塞に近付いていく。
兄が焦燥感で眉間に皺を寄せた時、弟が要塞を指差して言った。

弟「ねぇ!あの窓からは入れないかな!?」
兄「窓!?」

⏰:08/01/19 18:40 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#301 [◆vzApYZDoz6]
弟が指差した方を向く。
要塞の端に、確かに窓がある。窓があるのは2階あたりで、左右にある倉庫との連絡通路のそばにそれぞれ大きな窓が、ポツンとあった。
このまま行けば、ジャンプして後ろに乗る2人に窓を突き破らせる事は可能だろう。だが、ここは要塞だ。

兄「ああゆうのって、防弾ガラスになってるんじゃねぇのか!?」
ガリアス「大丈夫だ!」

後ろで状況を把握していたガリアスが、大声で口を挟んだ。

ガリアス「あそこは防弾にはなっていない筈だ!」
兄「よーし、それなら大丈夫だな!」

兄弟が目配せし、併走していた状態から左右に離れる。

⏰:08/01/19 18:54 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#302 [◆vzApYZDoz6]
更にスロットルを回して、窓を目指しスピードを上げた。

兄「2人とも、俺の合図で跳べよ!!」
ガリアス「よし!!」
リーザ「分かりましたわ!!」
兄「ミスんなよフラット!!」
弟「任せろ!!」

要塞との距離がどんどん縮まる。リーザは剣袋から刀を取り出した。
兄がブレーキに手をかけ、叫ぶ。

兄「行くぞ!1、2の―――3!!」

合図と同時に、兄弟が全力でブレーキを引いた。
跳び出したガリアスとリーザはその反動で宙を舞う。ガリアスは拳で、リーザは鞘に入ったままの刀で、窓に向かって一撃を叩き付けた。

⏰:08/01/19 19:10 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#303 [◆vzApYZDoz6]
防弾ではないとはいえ多少の厚みはあったが、ガリアスとリーザは窓を突き破り、そのまま中に転がり込んだ。
それを見て、兄弟が拳をぶつけ合った。

兄「よっしゃ!」
弟「上手くいったね」
兄「ああ。…俺達は待機だな」
弟「うーん、大丈夫かな…」

屋内では戦えない状態でいざというときに戦えるかどうか、不安がある。

弟「…信じるしかない、か」
兄「そうだな…よし」

兄が聳え立つ要塞を見上げ、両腕を上げて叫ぶ。

兄「頼むぜ、みんな!」

叫ぶ兄を見て弟が笑い、同じように要塞を見上げた。
要塞からは、衝撃音が漏れていた。

⏰:08/01/19 20:22 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#304 [◆vzApYZDoz6]
バイクの急ブレーキの反動で宙を舞う。
リーザは、刀を鞘に納めたまま逆手で柄を握り、窓に向かって全力で突き出した。
突いた部分から放射状に亀裂が走る。体を丸めてそこへ飛び込み、窓全体を突き破った。
そのまま中へ転がり込み、顔を上げる。

リーザ「とりあえず成功ですわね…でもここは何処かしら…?」

そこは狭い通路。すぐ右手に連絡通路への道が分かれているだけで、あとは階段も部屋も見当たらなかった。
リーザが立ち上がり、体のガラス片を払い落とす。
ゆっくりと通路を進んでいると、何処からか衝撃音が聞こえてきた。

⏰:08/01/20 00:50 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#305 [◆vzApYZDoz6]
更に通路を進むにつれて、衝撃音が大きくなっていく。
そこに、階段を見つけた。左折して下に下りる階段をのようで、衝撃音はそこから聞こえている。
リーザは階段を下りることにした。
直下階段を下りきると、そこは中庭のような拓けた空間になっていた。
そこの中央に向かって、無数の風船人形が蠢いている。次々と風船が吹っ飛んでいくあたり、恐らく誰かが風船に囲まれているのだろう。

リーザ「これは…助けるべきかしら」

リーザが鞘から刀を引き抜く。
風船を外側から蹴散らし、中央にいる人物に徐々に近付いていった。

⏰:08/01/20 11:21 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#306 [◆vzApYZDoz6]
レイン「おっと、誰かが加勢してくれてるみたいだぞ」
ライン「それは助かるな。減る気配がなくてしんどかったところだ」

風船人形に囲まれていたのは、ハル兄弟だった。
始めは外側の風船が吹き飛んでいたが、どんどんこちらに近付いてきている。
軈てあと2、3歩のところまで到達し、爆発のような衝撃でその辺の風船が一基に吹き飛んだ。

リーザ「あら…あなた方は」
レイン「お、あんただったのか」
ライン「出来ればこのまま加勢してほしいんだが」

3人は、迫る風船を吹き飛ばしながら会話した。

リーザ「勿論そのつもりです。ここまで来たら、私も動けませんから」

⏰:08/01/20 11:33 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#307 [◆vzApYZDoz6]
レイン「それは助かる。こいつら一向に減る気配がないからな」
リーザ「それでしたら私のスキルを使えば、多少は楽になるかと」

リーザが言いながら、一度刀を鞘に納めた。
直ぐに風船に抜き打ちを食らわせる。すると、斬った風船の切り口から爆発のような衝撃が生じ、周囲の風船と共に吹き飛んだ。

ライン「なんだそれは?」
リーザ「私のスキル『ストライクボム』です。鞘に納めた刀が、爆弾になります」
レイン「俺と闘った時はそれ使わなかったな」
リーザ「鞘に納める暇がありませんでしたから」

リーザが微笑み、再び鞘に刀を納める。
抜き打ちで、再び風船を吹き飛ばした。

⏰:08/01/20 11:43 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#308 [◆vzApYZDoz6]
リーザのスキル『ストライクボム』。
スキル発動中に刀を鞘に納めると、刀を抜いた最初の一閃だけ斬撃が爆撃と化す。
爆発の威力は、鞘に納めていた時間に比例して大きくなる。

リーザ「…まぁ相手が風船人形ぐらいでしたら、一瞬納めるだけでも十分」

リーザは抜き打ちで吹き飛ばして再び鞘に刀を納める事を繰り返し、どんどん風船を蹴散らした。

レイン「これはなかなかいいな」
ライン「兄貴、使われなくてよかったな」
レイン「それは俺の実力だ」
リーザ「さあさあ、残りを片付けましょう」

3人が笑い合う。依然大量に残る風船に向かい、散り散りに踏み込んだ。

⏰:08/01/20 11:53 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#309 [◆vzApYZDoz6]
-突入・ガリアスの場合-

急ブレーキの反動で跳び出し、窓に拳を突き立てる。
入った亀裂に体を丸めて飛び込み、窓を突き破って中に転がり込んだ。

ガリアス「成功、か。しかし…ここは何処だ?」

そこはガリアスも見た事がない場所だった。
リーザが突入した場所とは違い、こちら側は連絡通路に繋がっていない。
歩いてみると、壁に沿って通路が続いているが、勾配がついている。徐々に下っていく感じがした。
周囲に注意を払いながら暫く歩いていると、1つの扉に突き当たった。

⏰:08/01/20 13:23 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#310 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「…入ってみるか」

暫く考えたが、他に道はない。
意を決して扉を開けた。

扉の奥は、大きな部屋となっていた。
部屋の中央に何やらよく分からない機械が2つあり、4隅には柱のようなものがあった。柱からケーブルが床を伝って、中央にある右側の機械に繋がっているのが見てとれる。

ガリアス「これは…」

機械に近付いたガリアスは驚愕し、食い付くように左側の機械を覗き込む。
機械のコンソールパネルを操作すると、文の羅列が表示された。
柱は、この機械によって張られた結界に守られているようだ。

ガリアスは、無言でコンソールを操作し続けた。

⏰:08/01/20 14:10 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#311 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・ハルキンとラスカの場合-

ラスカ「もー、何よこの要塞?ゲリラに襲撃される訳じゃあるまいし」

ハルキンらは、2階連絡通路から4階にある管制コントロール室への、複雑かつ長い道程を走っていた。

2階フロアを横切り階段を昇る。次に兵器開発室、資料室、に繋がる廊下を渡る。廊下の突き当たりにある、3階から4階まで吹き抜けになっている兵隊修練場から4階へ上がり、修練場を出て廊下を右へ曲がった突き当たり。
そこに、管制コントロール室はある。

ハルキン「まぁ複雑なのは別に構わんが…人や風船人形すら見当たらんのは気になるな」

⏰:08/01/21 18:03 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#312 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが後ろを振り返りながら呟く。
長い道程の間には、敵兵はおろか風船人形ですら存在しなかった。

ラスカ「みんな要塞の外に出てたんじゃない?」
ハルキン「だといいがな」

ハルキンは少し不安に駆られながらも走り、管制コントロール室へ到着した。
ハルキンがゆっくりと扉を開ける。
中に入ってまず目につくのが、壁一面に映し出された巨大なスクリーン。
そのスクリーンの下では、コンピュータが無機質な音を立てて稼動している。

ハルキン「誰もいないな…」

部屋を見渡すが、人が隠れている様子もなかった。

⏰:08/01/21 18:13 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#313 [◆vzApYZDoz6]
監視カメラのモニターを映すスクリーンがあるのだから、無人施設ではないはずだ。
ハルキンは明らかに不自然だと思ったが、とりあえず目的を果たすためコンソールパネルに手を掛ける。

ハルキン「カメラ映像表示は、と…これだな」

ハルキンが少しパネルを操作すると、各場所の映像が巨大スクリーンに分割表示されて映された。
ハルキンとラスカが順番に目で映像を追っていく。

ラスカ「あっ、見てこれ。リーザじゃない?」

ラスカが指差した画面には、大量の風船人形を次々と蹴散らしていくリーザとハル兄弟の姿が移し出されている。

ハルキン「なるほど、外に風船がいなかったのはこれか」

⏰:08/01/21 18:22 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#314 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ん?こっちは京介とラスダンか」

ハルキンが違う映像に目をやった。
京介らのいる場所はどうやら2階で、迷っているかのようにウロウロと動いていた。

ハルキン「そういやラスダンのスキル使えなかったんだっけな」

ハルキンがコンソールに手を伸ばし、暫く操作していると、電子音が鳴った。
スクリーンには『特殊結界解除完了』と表示されている。

ハルキン「これでよし、と」
ラスカ「会長!ちょっと見てよこれ、どういうことかしら?」

ハルキンが顔を上げ、ラスカが指差す方に顔を向ける。
3階の物資保管庫前に、アリサと肩を並べて歩く内藤が映っていた。

⏰:08/01/21 18:32 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#315 [◆vzApYZDoz6]
ラスカ「何で内藤がアリサと…?」
ハルキン「簡単な事だろ」

ハルキンが内藤の映像から目を離し、違う映像を探し始めた。
軈てハルキンの視線が1つの映像で止まる。クックッと含み笑いをしながら、その映像を指差した。

ハルキン「つまり…こういうことだ」
ラスカ「え…誰?」

映っているのは、牢獄。
若くはないが、端麗な顔立ちの女性が、ベッドに座っていた。

ハルキン「あ…お前知らないんだっけ?って言っても俺もこの人は写真で見ただけだが」
ラスカ「…?よく分からないんだけど」

ラスカが難しそうに眉間に皺を寄せた。

⏰:08/01/21 18:40 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#316 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「とりあえずこの人が先かな。…場所は地下1階か」

ハルキンが踵を返し、部屋の扉へ向かう。

ラスカ「えっ、藍ちゃんは?」
ハルキン「恐らく司令室だろう。京介のスキルは『写された』が、内藤なら大丈夫だろうしな」
ラスカ「司令室、ってここには無いね…」

ラスカがスクリーンを見上げた。
殆どの映像に人はいない。先程見つけた映像以外に、誰かが映っているカメラはないようだ。

ハルキン「まぁ司令室の場所は分かる。今はこっちが先だ」
ラスカ「…ま、いっか。了解」

ラスカが小走りで部屋を出る。それを確認し、ハルキンが歩き出した。

ハルキン「地下1階へ…イルリナの救出開始だ」

⏰:08/01/21 18:50 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#317 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・京介とラスダンの場合-
管制コントロール室のスクリーンには、依然2階を彷徨いている京介とラスダンの映像が映し出されていた。


京介「はーっ、ここはどこなんだよ…」
ラスダン「分からないけど進むしかないよ…」

京介達は今、要塞の2階の講堂にいた。
15分程前、大物資倉庫地下牢から中央要塞に入ってきた。入った場所は地下1階電力供給室。
要塞に入ってすぐラスダンのスキル『サイレントハッカー』を試してみたが、やはり使えない。
仕方無いので適当に歩いているとエレベーターを発見したので、2階へ上がってきた。
そして、何処へ行けばいいのかさっぱり分からず、迷っている。

⏰:08/01/21 22:58 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#318 [◆vzApYZDoz6]
京介「大将なんてだいたい天辺にいると思うんだけど」
ラスダン「あのエレベーターは2階までしか無かったからね…」

悪態をつきながら講堂を出る。
その時、ラスダンが急に足を止めた。

京介「あれ、どうしたんだ?」
ラスダン「いや、今『思念』が飛んできたから…」
京介「なんて?」

ラスダンは答える代わりに、手を前に翳す。
使えなかった筈のサイレントハッカーの映像が映し出された、ノートパソコンが出現した。

京介「あれ?使えてるんじゃん」
ラスダン「どうやら会長が妨害結界を解除したみたいだよ」
京介「へー、やるじゃん!」

⏰:08/01/21 23:08 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#319 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「とにかく内部構造はこれで分かる」

ラスダンがパソコンを消して、頭の中で要塞の映像を見る。

ラスダン「藍ちゃんは、5階の司令室だ」
京介「行道分かる?」
ラスダン「ちょっと複雑だけど、大丈夫だよ。行こう!」

声を合図に京介達が走り出した。
途中までは管制コントロール室への道程を辿る。4階へ上がったら左へ曲がり、更衣室前を通って突き当たりにあるエレベーターに乗る。
エレベーターの階数表示は4階と5階しかなかった。

京介「よし…!待ってろ藍!」

迷わず5のボタンを押す。
軈てエレベーターが5階に到着し、ドアが開く。
そこには、既に内藤とアリサがいた。

⏰:08/01/21 23:19 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#320 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・内藤とアリサの場合-

京介らが、道が分からず彷徨っていた頃。
内藤とアリサは、司令室へ繋がる唯一のエレベーターで、5階に到着した。
司令室の中はさっぱりとしていた。絨毯が真っ直ぐ奥まで続き、4・5段の階段を上った先にある、まさに王座といった感じの椅子に、グラシアが座っていた。
その隣には、機械類が繋がれ無駄にゴツくなっている椅子に藍が座わらされていた。眠らされているようで、意識はない。
グラシアは座ったまま、まるで毎朝の挨拶のように内藤に向かって手を上げた。

グラシア「やぁ、てっきり川上京介が先に来ると思っていたが」
内藤「貴様…」

⏰:08/01/21 23:40 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#321 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「今までのお給料はキッチリ払って貰うわよ、グラシアちゃん♪」

グラシアが内藤の隣のアリサに気付き、声を上げて笑い出した。

グラシア「ははは!どうしたんだアリサ?イルリナがどうなってもいいのか?」
アリサ「あら、京介ちゃんのスキルを支配したら、どうせ用済みになるんじゃなくって?♪」
グラシア「よく分かってるじゃないか…その通り、既に彼女は俺に必要の無い人間だ」

グラシアは一頻り笑い、まだ含み笑いをした。
その時、内藤らの背後のエレベーターの扉が開き、京介とラスダンが現れた。

⏰:08/01/21 23:50 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#322 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「や、川上京介。遅かったじゃないか」

グラシアはまたも余裕の顔で手を上げた。
京介は椅子に座らされて眠っている愛を見て、額に青筋を立て叫ぶ。

京介「藍を返せ!」
グラシア「この子のスキルはまだ支配できていないのでね…残念ながら返す訳にはいかない」

グラシアが藍の髪を撫で付ける。
京介は眉間に皺を寄せ、より一層顔が強張った。

京介「…その手で…藍に触んな!」
グラシア「ん?触られたくないなら止めたらどうだい?」
グラシアが余裕の態度なのに警戒心を抱くべきだったが、京介は怒りでグラシアを殴ることしか考えていなかった。

京介「上等だてめぇ!」

⏰:08/01/21 23:58 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#323 [◆vzApYZDoz6]
内藤「待て川上!」

内藤が我を忘れて飛び出した京介を制止しようとしたが、間に合わない。
京介は一気に踏み込んで振りかぶり、不気味に笑うグラシアの顔面に渾身のストレートを撃ち出した。
しかし、その拳はグラシアまであと数mmのところで止まった。
京介の拳が帯電したように紫電が走り、微細な稲光が光る。いくら拳を押し付けようにも、グラシアには届かなかった。

グラシア「どうした?触られたくないんじゃないのか?」

グラシアが眼前で意地悪くにやついた。まだ右手で藍の髪を撫で付けているのを見て、京介の額に再び青筋が走る。

⏰:08/01/22 00:07 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#324 [◆vzApYZDoz6]
京介「とりあえずその手を退けやがれ!」

今度は藍を撫でている右腕目掛けて、右足を蹴り上げた。
しかし結果は同じ。蹴り上げた京介の足は見えない何かにぶつかり、グラシアには届かない。何度も拳や蹴りを撃つが、その度に弾かれた。
ならば投げ飛ばそうと掴み掛かるが、やはり見えない何かに阻害され、グラシアに手が届く前に弾かれる。
何も知らない人がここだけ見れば、よくできたパントマイムだと感心するかもしれない。

京介「くそっ…!」
グラシア「止める気は無いのかな?ならば向こうへ帰ってもらおうか」

そう言うとグラシアは藍を撫でるのをやめて、右手を腰に構えた。

⏰:08/01/22 00:17 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#325 [◆vzApYZDoz6]
京介は無駄な攻撃で体力を使い、息が上がっていた。そこへ、グラシアの素早い掌呈突きが繰り出される。
腹目掛けて放たれた掌呈をかわすことも出来ず、体をくの字に曲げて内藤らの元へ吹っ飛んだ。

ラスダン「大丈夫!?」
京介「くっそ…何で当たらないんだ?」
内藤「不用意に突っ込むんじゃない」

困惑する京介を尻目に、内藤がグラシアを見据えた。グラシアは再び椅子に座りながら、余裕の顔で内藤らを見る。

グラシア「…バニッシ、君は少し気に入らないんでね。遠慮なくやらせてもらうよ」
内藤「好きにしろ。それから、今は内藤だ」

⏰:08/01/22 00:31 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#326 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「おっとその前に」

グラシアが、わざとらしく大振りで手を突きだし、踏み込もうとする内藤を制止した。

内藤「何だ?」
グラシア「いや、邪魔が入っては困るのでね。川上京介、アリサ、ラスダン。君達は…『動くな』」
京介「…は?」

京介が何を言ってるんだこいつは、という風に目を細め、内藤のそばに行こうとする。
だが、京介の体は目と口以外全く動かなくなっていた。驚いて目で周囲を見回すと、ラスダンとアリサも動きが止まっているようだ。

京介「あれっ…何で動かないんだ?」
内藤「そうか…『写し』は終わってたんだっけか?」
グラシア「その通り」

⏰:08/01/22 00:49 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#327 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは言いながら立ち上がり、藍が座る椅子の後ろから、風船人形を引っ張り出した。

グラシア「この風船にはね、川上京介、君のスキルがコピーされている」

グラシアが京介の方を向いて、風船を揺らしながら説明しだした。

京介「俺の、スキル…?」

京介は、分からない事だらけで困惑していた。

グラシア「そう。説明しようか…私のスキルは『アナザーコンプリート』。人体支配とスキル支配、2つの支配を使う事ができる」

グラシアがゆっくりと椅子に腰掛けて、頬杖をつく。

グラシア「この風船は、リッキーが君のスキルをコピーして貼り付けたものだ」

⏰:08/01/22 01:14 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#328 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「私はこの風船に『スキル支配』をかけた。そうする事で、君のスキルを手に入れようと思ってね。ただ、リッキーがスキルをコピーするには、敵がスキルを使用した状態を視認する必要があるんだ」

グラシア「そこで、バウンサー本部にリッキーを送り込んだ。彼の体に、相手にスキルを強制使用させる特殊な周波を出す機械を埋め込んでね。…コピーは成功、私は君のスキルを手に入れた。ただ、リッキーに機械を埋め込みっぱなしにしたせいで、君は地下牢で再びスキルを発現したようだがな。まぁ、彼はもう用済みだったが」
京介「あいつは…使い捨てだった訳か」

⏰:08/01/22 01:23 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#329 [◆vzApYZDoz6]
京介は動けぬ体で、歯をくいしばりグラシアを見据えていた。

グラシア「まあ、そう怒るなよ。…そうしてコピーし、今使用しているのが、君のスキル『スレイブオブキング』だ。自らを絶対的な『王』とし、他人の『行動選択権』を支配するスキル―――要するに、他人を思い通りに操れる、ということだ」

グラシアが京介を一瞥し、右手で藍の頭を撫でた。

グラシア「…君のスキルはそうして手に入れた訳だが、この子はなかなか目を醒ましてくれないのでね」
京介「てめぇ…!」

眠る藍を見て京介が歯をくいしばるが、体が動かない。
そんな京介の気持ちを察したのか、内藤が後ろ手で京介を制した。

⏰:08/01/22 01:39 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#330 [我輩は匿名である]
内藤「川上、お前は動けないだろ。下がってろ」
グラシア「バニッシ、まさか君ごときが支配者クラスである私に勝てるとでも?」
内藤「やってみなければ分からんだろう」
京介「支配者クラス?」

次々と疑問が浮かぶ京介を、グラシアがめんどくさそうに一瞥した。

グラシア「なんだ、何も知らないのか?」
京介「そりゃちょっと前まで普通の高校生だったんだから」
内藤「それは俺が説明してやる」

内藤が、なぜか勝ち誇ったような顔をしている京介をちらっと見た。
グラシアは頬杖をついたまま、見下すように京介達を眺めている。

グラシア「それは助かる…説明してやれ」

⏰:08/01/23 00:16 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#331 [◆vzApYZDoz6]
↑は俺です。なぜか酉が無くなってましたorz

⏰:08/01/23 00:18 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#332 [◆vzApYZDoz6]
内藤「支配者クラスってのは、お前やグラシアの持ってるような、何かの『支配者』となるスキルの事を指す。
ちなみにそれ以外のスキルは、種類によって分類される。俺やアリサなら『操作』スキル、ラスダンなら『調査』スキルだな」
京介「へー…って、何でそれだけで内藤があいつに勝てないかもって事になるのさ?」
内藤「支配者クラスのスキルは…身体強化能力が最初から付加される。しかもかなり協力なヤツが、な。お前も覚えがあるだろう」
京介「……そういやリッキーと最初に闘った時は、あっという間に風船を蹴散らせたような…」
グラシア「もうその辺でいいだろう?」

⏰:08/01/23 00:30 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#333 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが不意に口を挟んだ。目を細め眉間に皺を寄せ、飽々したようにこちらを見ている。

内藤「…ふん、そういえば俺はお前を倒しに来たんだったな」

内藤が向き直り、重心をゆっくりと落とした。
部屋の奥にいるグラシアとの距離はおよそ7m。内藤なら一瞬で詰め寄れる距離だ。
見えない何かに守られているグラシアとどう闘うか、そんな思案を巡らせながら、地につけた足に力を入れ踏み込もうとしたその時。

グラシア「ああ…言っておくが、闘うのは私じゃない」

グラシアが座る王座の前の小階段に、黒い円柱が煙を巻いて出現した。

⏰:08/01/23 01:43 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#334 [◆vzApYZDoz6]
現れたのはクルサだった。4年前と変わらずその顔は無表情で、その口は無言で閉ざされ、その視線は俯いたまま。
そんなクルサを前にして、内藤の視線がクルサを通り越してグラシアを一瞥する。静かに目を閉じながら、右ポケットから煙草を取り出した。

内藤「京介のスキル使ったりクルサを使ったりバリアを使ったり…」

呟きながら煙草をくわえ、先端に着火した。深く煙を吸入し、溜め息と共にゆっくりと吐き出していく。

内藤「お前は自分の力で闘おうともしないんだな」
グラシア「何とでも言いたまえ。むしろ今人の力を借りたいのは君なんじゃないか、バニッシ?」

⏰:08/01/23 21:43 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#335 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは椅子の背凭れに体を預け、見下ろすように内藤を眺めていた。その目は完璧に格下を見る目だ。

グラシア「私が自分の力を使わなくとも、今私が有利な状況は変わらないだろう?」

グラシアは言うと、視線をクルサに向けながら、顎で内藤を差した。
後ろに居て見えてもいないグラシアの動きにクルサが反応し、右手に巾着の青袋を具現化する。袋の口が独りでに開き、紙吹雪がクルサの周りを舞った。

グラシア「…だいたいクルサを支配しているのは私のスキルを使っているからだ。れっきとした私の力だろ、バニッシ?」
内藤「自分の力?お前の思考回路はとんだ間抜けだな」

⏰:08/01/23 21:52 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#336 [◆vzApYZDoz6]
腕を組みながら煙草を吸っていた内藤が、目を細めながらグラシアを見た。煙草は既に半分程まで吸われている。

グラシア「強がりは止めたまえ」
内藤「どうかな?」
グラシア「もういい、やれクルサ」

グラシアがふっと小さな溜め息をつきながらクルサに指示する。それに呼応し、クルサの周囲を舞っていた紙吹雪が、クルサを中心にとぐろを巻くように龍の形を成していく。
クルサが左手を開き、前へ。紙龍がクルサの左腕に巻き付いた。開いた掌に重なるように、紙龍の口が内藤を向く。

クルサ「紙潜龍・紅紙炎射――カットアウト!」

内藤に向けて、紅い無数の紙吹雪が放出された。

⏰:08/01/23 22:31 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#337 [◆vzApYZDoz6]
まるで火炎放射のような紙吹雪が迫るのを前に、内藤が煙草を大きく一吸い。

内藤「仕方ないな…」

呟くのと同時に、紙吹雪が直撃する。
しかし、そこに内藤はいなかった。ただ1本の短くなった煙草を宙に残して。

京介「…あれ、内藤は…」

動けないため目だけで見ていた京介が呟きかけたその時、凄まじい衝撃音が辺りに響いた。
京介が轟音の方に目をやる。
王座にふんぞり返って座るグラシアのさらに向こう、京介がいる場所と対面の壁に、クルサの顔が叩き付けられている。
壁にめり込むクルサの顔を押さえ付けていたのは、内藤だった。

⏰:08/01/23 22:42 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#338 [◆vzApYZDoz6]
内藤「しばらく寝てろ」

内藤がクルサの顔から手を離すと、クルサがゆっくりとずり落ち、内藤の足下に力なく倒れ込んだ。
内藤が足を引き抜く。踏み込んだ足下はコンクリートの床が抉れ、捲り上がっている。
その様子を、背凭れから顔を覗かせてグラシアが見ていた。

グラシア「ほー…なかなかやるじゃないか」
内藤「どうでもいいけど、油断しすぎだ」

言い終えると同時に、グラシアの視界から内藤が消えた。
次の瞬間、グラシアの右から、バリアが何かを弾いた音が響く。

内藤「ちっ、藍にも触れないか!」

内藤は、一瞬で藍の椅子の横に移動していた。

⏰:08/01/23 22:51 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#339 [◆vzApYZDoz6]
内藤「ならこっちだ!」

内藤が今度は、藍が座る椅子の後ろにある、京介のスキルをコピーした風船に、回し蹴りを繰り出した。
だが、同じように足を弾かれる。

内藤「ふん、こっちもか。えらく臆病なもんだな」
グラシア「臆病?自分の力を発揮するための当然の策だ」

グラシアは特に慌てる様子もなく、椅子に座ったまま内藤を眺めた。

内藤「結局お前を倒すしかない、か」
グラシア「…俺を倒す?クルサを倒したぐらいでいい気になるなよ」

グラシアが呆れたような表情を浮かべ、含み笑いをする。その眼前に、右腕を振りかぶる内藤が現れた。

⏰:08/01/23 22:58 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#340 [◆vzApYZDoz6]
内藤「なら試してみるか」

内藤が、素早く重い一撃を振り降ろす。が、やはりその拳があと数mmまで迫ったところで、グラシアを覆うバリアに弾かれた。
構うものかと言わんばかりに、内藤が続けて殴り、蹴りかかる。
グラシアはバリアの内側で、馬鹿にするような目で内藤を見ていたが、やがて飽きたように目を閉じて溜め息をつき、呟いた。

グラシア「もういいよ、『動くな』」

声と同時に、殴りかかろうとしていた内藤の動きがピタリと停止する。内藤が目だけを動かし、グラシアを見上げた。

内藤「くそっ!」
グラシア「そうしているのがお似合いだ」

⏰:08/01/23 23:05 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#341 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「目の前で仲間が殺られるのを見ているんだな」

グラシアが満足げに椅子から立ち上がり、対面で止まったままの京介らに近付こうと歩き出す。視線は完全に京介らを向いていた。
内藤がそれを確認し、唇の端を釣り上げる。

内藤「なんてなると思ったか間抜け」
グラシア「なっ!?」

驚愕するグラシアの振り返り様の顔面に、内藤の拳が勢いよくめり込んだ。

グラシア「ぶっ!」

声にならない声を上げて、グラシアが京介らの近くまで吹き飛び、地面を転がった。
殴られた左頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる。バリアで守られていた筈のグラシアの顔は、赤く腫れ上がっていた。

⏰:08/01/23 23:13 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#342 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「馬鹿な…なぜ動けた?いや、なぜバリアを破れたんだ?」

俯いたままぶつぶつと呟くグラシアの目は赤く血走り、狂気の色が灯っていた。内藤が近づいてくるのに動こうともせず、何かを言い続けている。
内藤は吹き飛んだグラシアの元まで歩いていき、防御の意思を見せないグラシアを遠慮することなく蹴り上げた。

グラシア「ごあっ!!」
内藤「さっきから馬鹿かお前は」

グラシアの体が今度は部屋の中央にもんどりうった。グラシアがゆっくりと立ち上がり、信じられないという目で内藤を見据えた。

グラシア「なぜ動けるんだ?なぜバリアを破られたんだ?」

⏰:08/01/23 23:24 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#343 [◆vzApYZDoz6]
内藤「そりゃ俺が凄くてお前が馬鹿だからだろ」

内藤が冷ややかな目でグラシアを見た。先程とは違い、内藤がグラシアを見下しているかのよう。

グラシア「馬鹿な!スキルは完璧にコピーした筈だ!川上京介から『スレイブオブキング』のスキルを!」

グラシアが発狂したように叫びながら京介を指差す。
内藤の強さを目の当たりにして間の抜けた顔をする京介とは対照的に、グラシアの顔は強張り、額には青筋を立て、目は赤く血走っている。

内藤「あのなぁ、だからお前は馬鹿だって言うんだよ」

⏰:08/01/23 23:31 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#344 [◆vzApYZDoz6]
内藤が呆れたように後頭部を掻いた。

京介のスキル『スレイブオブキング』は、自らを絶対的な『王』とし、他人の『行動選択権』を支配する、というもの。
そして内藤は、そのスキルの持ち主である京介の、学校の担任だ。

内藤「…例え京介が王であろうと、担任を支配出来る訳ないだろ?お前はそんな京介のスキルをコピーしたんだ、俺を支配できる訳ないだろ。馬鹿かお前は」
グラシア「なっ…!?」
京介「ってそんな理由!?」

京介とグラシアが唖然として口を開ける中、内藤は1人涼しい顔をしていた。

内藤「そういうわけで京介、お前がスキル使えたからって学校の成績は上がらないぞ」

⏰:08/01/23 23:39 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#345 [◆vzApYZDoz6]
京介「いや、それかなり無理矢理な感じがするけど…担任だから、って」
内藤「自分が慕う先生を支配しようとは思わんだろ?まぁ諦めろ」
京介「そんな殺生な!」

談笑する2人を目の前に、グラシアは深刻な顔をしていた。

グラシア(馬鹿な…!スキルは実際に内藤が支配から逃れているから話は本当だろうが…なぜバリアを破れたんだ!?ミサイルの直撃も防ぐバリアだぞ!?)

グラシアが思案を巡らせる。
内藤のスピードは跳ね上がっているが、今食らった攻撃はそんなに強い訳じゃない。内藤の攻撃でバリアが破れたとは考えにくかった。
物理的原因ではないとすれば――

グラシア「…発生装置か」

⏰:08/01/23 23:58 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#346 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「あー、めんどくせえな」

コンソールを操作し続けていたガリアスは、部屋の4隅の柱に掛けられた結界を解除していた。
バリア発生装置となっている4本の柱のうち3本が、逆さになって地面に突き刺さっている。逆さになっていない残る1本の柱に近付きながら、ぶつくさと文句を垂れた。

ガリアス「ったく、別に俺が闘う訳でもないのに、何で発生装置なんか壊してるんだ俺」

残る1本に手を翳す。ガリアスのスキル『ヴィエロシティー』により、柱が風切り音を出しながら部屋の中を光速で飛び回る。
ガリアスが翳した手を振り降ろすと、逆さになった柱が床に激突し突き刺さった。

⏰:08/01/24 00:06 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#347 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「…まったく」

グラシアが、怒りを吐き出すように息を吐いた。顔を上げ、細めた目で内藤を見据える。

グラシア「自分の思い通りにならないと、こうも苛々するのか」

グラシアはの怒りは既に最高潮まで近付いていた。肩は小刻みに震え、手は自然と拳が握られている。

グラシア「どいつもこいつも…バニッシごときに…」
内藤「やられているのは、お前に力が無いからだよ」

怒りに震えるグラシアに気付いた内藤が、強い口調で言い放った。

内藤「他人の力に頼ってばかりで努力しようともしない。そんなお前が、4年間死に物狂いで努力した俺に勝てると思うか?」

⏰:08/01/24 00:13 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#348 [◆vzApYZDoz6]
内藤「そして他人の力を失ったお前は、今俺にボコボコにやられている」

内藤が再び煙草を取り出した。余裕をかましながら火をつける内藤をグラシアが賤しく眺める。

グラシア「うるせぇよ…お前はもう『喋るな』!」

怒りで我を忘れてか、効かないと分かっている京介のスキルを発動する。
内藤は煙草の煙を深く吸った。ゆっくりと吐き出しながら、哀れみを込めて言う。

内藤「バーカ、やなこった」グラシア「ああそうか…」

グラシアが何かを企んでいるかのように怪しい笑みを浮かべた。
次の瞬間、バックステップで一気に王座まで戻り、依然眠ったままの藍を素早く抱え上げた。

⏰:08/01/24 00:21 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#349 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「ならこの娘だ!」
内藤「しまった藍を!」

内藤が踏み込むより早く、グラシアが背後の窓ガラスを突き破る。直ぐ様燦に乗って内藤らを一瞥し、そのまま窓から飛び下りた。

内藤「くそっ!」

内藤が慌てて窓から身を乗り出す。降下するグラシアの足下には中庭のような空間が広がっていた。
司令室は5階で、下は恐らく1階。壁に取っ掛かりも無いのに飛び降りるのは危険かもしれない。
ふと、対面の中庭の端からグラシアの着地点に向かって走る人影が、3人見えた。
着地しようとするグラシアに思い切り攻撃する3人を見て、内藤が安堵と真剣さの混じった息を吐いた。

⏰:08/01/25 01:01 📱:P903i 🆔:piHG.QUc


#350 [◆vzApYZDoz6]
内藤「…とりあえずは大丈夫か」

内藤が振り返ると、まだ動けないでいる京介とアリサとラスダンが見えた。

内藤「っと、まだ動けないままか。仕方ないな」

内藤が、さっきまで藍が座っていた椅子に一足で近付き、風船人形に手を掛ける。さっきまで触れる事が出来なかった風船に触れられたのは、発生装置が機能を停止させている事を示唆していた。
内藤が風船の顔に拳を叩き付ける。風船は散々に割れて、それと同時に動けないでいた3人の体に突然自由が戻った。

アリサ「やっと体が戻った♪」
ラスダン「てゆうか僕ら絶対存在を忘れられてたような…」

⏰:08/01/26 18:05 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#351 [◆vzApYZDoz6]
京介「それよかあいつを追い掛けないと!」

京介がすぐに振り返り、エレベーターのボタンを押す。4階と5階を往復するだけのエレベーターは、すぐに京介らの居る5階に到着した。
京介、ラスダン、アリサに続いて、内藤もエレベーターに乗り込む。京介が4階のボタンを押し、扉を閉めるボタンに手をかけようとしたところで、内藤が唐突に口を開いた。

内藤「川上…焦るなよ。自分の力を自覚するんだ」
京介「えっ?」

思わず振り返ると、内藤は少し俯いて腕を組んでいた。京介は言葉の意味が分からなかったが、内藤はそれ以上何も喋りそうにない。
エレベーターの扉は、そうこうするうちに閉まった。

⏰:08/01/26 23:32 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#352 [◆vzApYZDoz6]
-中庭・京介らが5階に到着する15分前-

拳が空を切る音と風船が弾ける音が連続で響く。時折、小爆発の音と共に幾体かの風船人形が宙を舞う。
ハル兄弟とリーザが風船人形を潰し始めてから、既に20分近く経過している。初めは中庭を埋め尽くす程に無数の風船人形が蠢いていたが、今はもうハル兄弟とリーザの周囲に居る数十体を残して、それ以外の全ては残骸と化して中庭の地面を覆っていた。

リーザが『ストライクボム』を使うために刀を鞘に納めた回数は、最早数え切れない程。残りも少なくなった風船を前に、リーザが何回目かも分からない鞘納めをする。

⏰:08/01/26 23:51 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#353 [◆vzApYZDoz6]
これまでは一瞬納めただけですぐに抜刀していたが、今度は刀を抜かない。その様子を尻目にした兄弟が、息を切らしながら背中を合わせて話し掛けた。

ライン「だいぶ数も減ってきたし…」
レイン「できるだけ1ヵ所に集めてみようか?」
リーザ「お願いしますわ」

よし、と小さく頷き、兄弟が左右に分かれて跳ぶ。周りを囲む風船の外側に着地した。
兄弟が風船の腕を掴み、次から次へと中庭の端へ投げ飛ばす。リーザは鞘を持つ左手以外の四肢を使い、風船の単純な攻撃を往なしている。
30秒程で中庭の端に全ての風船が積み上げられる。もがきバラけようとする風船よりも先にリーザが踏み込んだ。

⏰:08/01/27 00:03 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#354 [◆vzApYZDoz6]
リーザが納められた刀の柄に手をかけ、鞘をしっかりと握り直す。
一瞬足が止まり、次の瞬間には一閃の光と鍔鳴りの音を残して、積み上げられた風船の後ろに居た。鞘には刀が納められたまま。
その刀は、一度抜かれていた。
突如として、積み上げられた風船の中腹から爆発が起こり、辺りに散々になった風船の残骸が飛び散る。
リーザがゆっくりと立ち上がり、振り返る。唇を持ち上げながらこちらに歩いてくる兄弟に微笑んだ。

ライン「やっと終わったな」
リーザ「ええ…疲れました」
レイン「それにしても全くふざけた数だな。なんでここにこんなに風船が居るんだ」

⏰:08/01/27 00:16 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#355 [◆vzApYZDoz6]
3人が辺りを見回す。
本来なら芝生が生えている中庭の地面は、風船の残骸が覆い尽くして黒いビニールだらけになっている。

レイン「まぁ…今は考えても仕方がないな。とりあえずグラシアを…」

喋り声を遮るように、ガラスが割れる音が響いた。
音がした方を見ると、上からバラバラとガラス片が落ちてくる。続いて落下してきたのは、ハル兄弟にとっては憎役の人間。

レイン「お、今日はついてるな。向こうから降ってきやがった」
ライン「そりゃカウントダウンハイパーで2位だったからな」
リーザ「行きましょう!」

リーザの掛け声と同時に、3人が走り出した。

⏰:08/01/27 00:38 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#356 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「ぶはぁ!!」

内藤を見上げながら落下していたグラシアの腹に衝撃が走る。
飛び出したハル・レインの蹴りが鳩尾にめり込んでいた。

グラシア「貴様…!」
ライン「おっと、余所見はすんなよな」
グラシア「ぶふっ!」

今度は後頭部。ハル・ラインがダブルスレッジハンマーを食らわせた。
続いてリーザが飛び出し、抜刀して斬りかかる。が、斬撃は寸でのところでグラシアの左手に止められた。

グラシア「小癪な!」

グラシアが刀を振り回し、リーザ諸とも吹っ飛ばす。上手く着地したリーザの両隣にハル兄弟が跳んできた。着地するグラシアに立ち塞がるように周りを囲んだ。

⏰:08/01/27 00:48 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#357 [◆vzApYZDoz6]
ライン「これはこれは、どーも社長」
レイン「ウチの母親がすっかりお世話になったみたいで」

グラシアを指差しながら、からかうように話す。リーザはグラシアの退路を絶つように後ろに回り込んだ。
グラシアがゆっくりと息を吐く。怒りは既に臨界点を通り越し、逆に冷静さを取り戻していた。

グラシア「…まったく次から次へと…」
レイン「まぁまぁ、そう怒らないで。お世話になった代金は労災保険で支払いますから」
ライン「心優しい社長なら、今まで働いた分の給料貰えますよね?」
グラシア「は…こんな気分は久しぶりだよ」

その時、グラシアの体に変化が起きた。

⏰:08/01/27 04:54 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#358 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの着ていたスーツが破ける。
額には角のような突起が現れ、手や胸板は甲殻類のように硬質化していく。
全身の筋肉が急速に膨張し厳のように赤くなる。人間の5倍はあろうかという圧倒的な体躯がスーツの破れカスを体に巻き付けて、尚膨れ上がっていく。

グラシア「一体なんだろうな…何もかもがどうでもよくなるようなこの気分は」
ライン「それは…オヤジのスキル!!」
レイン「貴様! まさかオヤジにまで手を掛けたのか!?」
グラシア「君達がこの要塞に住み込んだ後でね。家に1人残されては可哀想だろう?」
リーザ「なんて非道な…!」

⏰:08/01/27 10:26 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#359 [◆vzApYZDoz6]
膨張した体躯から繰り出される圧倒的な腕力はダイヤモンドですら砕き、歩くだけでコンクリートを押し潰す圧倒的な脚力にはチーターですら敵わない。
それはイルリナのスキルを使い手に入れたハル兄弟の父親のスキル『レッドデーモン』。
あまりの膨張率に湾曲した背中の筋肉が、赤い鬼の顔に見える事からその名がつけられた。

グラシア「俺の『アナザーコンプリート』では、スキル所持者を殺してしまうとそのスキルが使えなくなるからね。その点では、『ライフアンドデス』は優秀だ」
リーザ「と言うことはまさか…」
グラシア「彼は逃げたからね…仕方がない」

⏰:08/01/27 10:38 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#360 [◆vzApYZDoz6]
ライン「貴様…なぜだ!? 俺達は忠実に働いた筈だ!!」
グラシア「君達はテーブルの食べ残しをずっと置いておくのか?」
レイン「オヤジはお前の晩飯だった、とでも言うのか!」
グラシア「そうだな、なかなか魅力的な晩飯だったよ。まあ…カレーライスぐらいかな」
レイン「貴様…!!」
ライン「よくもオヤジを殺したな!」
グラシア「いや、死んだかどうかは見ていない。部隊が断崖にまで追い詰めて、崖から飛び下りたそうだ。眼下の海に死体は見付からなかったがね」
ライン「なんだ、驚かせやがって」

グラシアの言葉を聞き、ハル兄弟は顔を見合わせて笑いあった。

レイン「それぐらいであのオヤジが死ぬ訳がないだろう」

⏰:08/01/27 10:49 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#361 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「それぐらいでって、普通死にますわよそれ」

グラシアの後ろで、リーザが呆気に取られた顔をした。

ライン「オヤジは普通じゃないからな。だが、今までこき使われたんだ」
レイン「落とし前はキッチリ取って貰うぜ」

兄弟が腕を突きだし、いつかのバイク乗りと対峙した時のように構える。

ライン「俺達をしっかり覚えてな」
レイン「お前を殺すのは、俺達ハル兄弟だ!」

膨れ上がった体躯の一番上に付いている顔がハル兄弟を見下ろし、ふん、と鼻で笑った。

グラシア「こうなったらお前らで鬱憤を晴らしてやろうか…愛する父親のスキルで千切れ死ね!」

⏰:08/01/27 10:59 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#362 [アリス]
あげます(^U^♪)

⏰:08/01/28 03:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#363 [◆vzApYZDoz6]
>>362
どうもです^^
最近忙しさがかなり加速してて、更新できない日もあるかもしれないです(´`)

今から少し更新します

⏰:08/01/28 16:17 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#364 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが膨れ上がった右腕を無造作にふりかぶる。
その時に胸部が初めて顕になり、左脇に抱えられた藍が見えた。

レイン「おっと、あれは確か助けなきゃいけない子だよな?」
ライン「参ったな。派手に戦えそうにもない…っと!!」

2人の会話を遮るように右腕が乱暴に、だがしかし凄まじいスピードで振り下ろされる。
ハル兄弟は迫る拳を飛び退くようにかわして二手にわかれた。そのまま強大な体躯のグラシアの脇腹に潜り込み、2人同時に拳を撃ち出す。
しかし、鉄を殴ったような反響音が響いて、兄弟の拳から血が滲み出るだけだった。

⏰:08/01/28 16:28 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#365 [◆vzApYZDoz6]
ライン「むぅ…やはり痛い」
レイン「馬鹿野郎、これぐらい我慢しろ」
グラシア「チョロチョロと邪魔だ蟻共が!」

グラシアが右腕1本で両脇腹に潜り込んだハル兄弟を薙払う。兄弟は思わず血が出た拳を振りながら、薙払いをバックステップでかわした。
そこへ、藍をグラシアから奪い返そうと飛び掛かったリーザが放り投げられてきた。
リーザは上手く着地しながら、困ったような顔をして兄弟に呟いた。

リーザ「藍さんをグラシアから引き剥がさない事には、私のスキルも使えません…どうにかならないでしょうか?」
レイン「それならいい方法が…ちょっと」

⏰:08/01/28 16:36 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#366 [◆vzApYZDoz6]
ハル・レインが横目でグラシアを警戒しながらリーザを手招きし、何やら耳打ちした。

レイン「……ってな具合だ。ちなみに、今はスキルは?」
リーザ「発動中ですわ」
レイン「よっしゃ。行くぞライン、対オヤジ戦法だ」
ライン「おっ、久しぶりにやるか兄貴」

3人が小声の会話を終えて、グラシアに向き合う。会話する3人に特に何もせず、むしろ余裕といった感じに立ち尽くしていた。

グラシア「作戦タイムは終わったかな?」
レイン「待ってくれるとはいい奴だな」
グラシア「何…君達が負けるという結果は変わらない」
レイン「ならやってやろうか。…2人ともタイミングを合わせろ、行くぞ!」

⏰:08/01/28 16:44 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#367 [◆vzApYZDoz6]
3人が一斉に駆け出す。ハル兄弟が平行に並んで走り、その後ろをリーザが追う形。

今グラシアが使用しているスキル『レッドデーモン』は、ハル兄弟の父親のスキル。ハル兄弟はそれ故に、対処方を熟知していた。
発動中は外皮が鉄のような硬さを持ち、1対1では到底敵わず、また外部からいくら打撃を与えても大したダメージにはならない。
そんなスキル発動中の人間に攻撃を当てる方法は限られている。鋼鉄の皮膚をも裂く程の威力の攻撃を叩き込むか、若しくは皮膚の硬さなど関係ない肉体内部に直接ダメージを与えるか。
藍を抱えているグラシアには、後者の方法を使うしかない。

⏰:08/01/28 16:55 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#368 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが兄弟を迎え撃つために右腕を振り上げた。
その時、左を走ってきていたハル・レインが、一瞬視界から消え去る。次の瞬間には、グラシアの眼前にまで飛び上がっていた。

グラシア「小癪な!」

回し蹴りを繰り出すハル・レインに向かって、振り上げた拳を叩き付ける。が、またしても拳が当たる寸前に視界から消え失せた。
と同時にハル・ラインが踏み込み、一気に懐まで入り込んだ。グラシアが舌打ちをしながら、自分の顔の前にあった右拳を振り下ろすように叩き付ける。が、それも空振り。

グラシア「ちっ…小賢しい!」
ライン「後ろだよ赤鬼野郎!」

⏰:08/01/28 17:13 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#369 [◆vzApYZDoz6]
声に反応し後ろを向いた瞬間。

レイン「ツインキャンサー大鵬打撃奥義!」

振り下ろして地面を砕き割り、地面にめり込むように止まっていた右拳の上に、ハル・レインが拳を腰に据えながら着地した。
後ろを向いた時に一瞬見えたハル・ラインに気を取られ、拳に着地したハル・レインへの反応が遅れる。
それを見計らったかのように兄弟が同時に胸部に飛び込み、拳を握り締めた。
狙うは――心臓。

レイン&ライン「――ハートブレイク・ショット!」

ハル・レインが前から、ハル・ラインが後ろから、裏当てを使って心臓を撃ち抜いた。

⏰:08/01/28 17:24 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#370 [◆vzApYZDoz6]
力点と作用点を『ずらす』のが裏当て。
胸筋と背筋に撃ち込まれた拳の威力は皮膚を突き抜け、グラシアの心臓で互いにぶつかり合い炸裂した。
グラシアの心臓は体内で弾け散り、嘔吐感と共に大量の血液が食堂をさかのぼる。

グラシア「ぐっ…がはっ!!」

体内に致命傷を食らい、片膝をついて血を吐き出した。
降り注ぐ鮮血を避けるように、懐に入っていたハル・レインが後ろに飛び退いた。
ハル・レインが退がる隣を、リーザが鞘に納まれた刀の柄に手を掛けながら駆け抜ける。懐に入り込み、止まらぬ血を吐き出し続けるグラシアの無防備な大口に向かって、神速の刺突を繰り出した。

⏰:08/01/28 17:36 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#371 [◆vzApYZDoz6]
突き出された刀の切っ先は、外皮の硬さが影響しない口の中を通って脳に到達する。

リーザは、5階から窓を破って降りてきたグラシアに攻撃した後に、刀を鞘に納めてスキルを発動した。以降この瞬間まで抜刀される事はなく、刀は納めっぱなしにされていた。
その時間、約4分30秒。戦闘前に兄弟とグラシアが言い争っていたのが、思わぬ功を奏した。

リーザが素早く剣を引き抜き、刀身を鞘に滑らせて刀を納めていく。

リーザ「その残忍な頭脳…一度シェイクして差し上げましょう」

チン、という小さな鍔鳴りの音と同時に、グラシアの脳に届いた裂傷が頭蓋の中で大爆発を起こした。

⏰:08/01/28 18:00 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#372 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが頭をガクガクと奮わせて白目を向いた。頭部のあちこちに亀裂が走り、どす黒い血液が筋となって噴き出していく。
噴き出した血はグラシアが吐き出した血と混ざりあい大きな血溜りとなり、そこへグラシアがゆっくりと俯せに沈んでいった。
グラシアの赤く硬い皮膚の内側で、心臓は完膚なきまでにその機能を停止させ、脳は原型が分からぬ程に磨り潰され、その体は最早生物的に死んでいた。
グラシアは、今自分が倒れた事すら分かっていないだろう。
3人は血の海に臥すグラシアを一瞥して、交互にハイタッチを交わした。

⏰:08/01/28 22:08 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#373 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「ふふっ、少し可哀想な事をしてしまいましたね」
ライン「いや、俺達をタダ働きさせた罰だぜ」
レイン「全くだ。これがオヤジなら今頃コブラツイスト掛けられてるな」

談笑しながらも、ハル兄弟の顔はどこか浮いていなかった。
ハル兄弟のハートブレイク・ショットは壮絶な親子喧嘩の末に編み出された技。だが相手が父親なら踏み込んだ時点でハル・レインは跳ぶ前に撃墜され、ハル・ラインは懐に入る前に蹴り飛ばされていただろう。
無論、ハル兄弟も父親も本気で戦った事など無い。
父親へだけの技だったハートブレイク・ショットを本気で使ったのが、少し悲しかった。

⏰:08/01/28 22:35 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#374 [◆vzApYZDoz6]
レイン「さーて、とっとと帰るか」
ライン「先にお袋迎えに行かないとな」
リーザ「あっ、私も藍さんを助けないと」

リーザが慌ててグラシアの元へ駆けていく。それを見ながらハル・レインが伸びをして、階段の元へ踵を返した。
そこへちょうど、息を切らしながら京介達が降りてきた。
こいつらより先にグラシアを倒したのは不味かったかな、等と考えていたハル・レインの視界に写っていたのは、予想外に険しい顔をしている京介や内藤の姿。
どうしたのかと思い話し掛けようとすると、内藤が不意に叫んだ。

内藤「リーザ!!」

⏰:08/01/28 22:58 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#375 [◆vzApYZDoz6]
内藤の叫び声とほぼ同時に、何かが潰れるような鈍い音が背後から響いた。
ハル・レインが驚いて振り返る。グラシアを倒したと思い、気を抜いて藍を引っ張り出そうとしていたリーザが、赤く膨れ上がった巨大な右手に捕まれていた。
脳を破壊され死んでいた目には光が戻り、心臓を破壊されしぼみかけていた体は再び膨らみ始めている。
リーザの腹部にはグラシアの太い爪が食い込んでいた。

リーザ「かっ…ぐぅ…!」
ライン「馬鹿な!?」
グラシア「くくく、その程度か?」

グラシアが膝をつきながらゆっくりと立ち上がる。藍を左脇に抱えたまま、リーザを掴む右腕を振り回した。

⏰:08/01/29 00:46 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#376 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「そらよ!」

振り回すスピードは凄まじく早い。近くにいたハル・ラインに逃げる暇を与えず回転に巻き込んで、既に意識の無いリーザごと後ろの壁に投げ飛ばした。

ライン「ぐあっ!!」
レイン「ライン!!」
グラシア「おっと、余所見していていいのか?あれだけ離れればツインキャンサーの効果は無いぞ」

グラシアが右腕を引いてハル・レインに向かい振り下ろす。
乱暴に、だが凄まじいスピードで振り下ろされた拳は、ツインキャンサーの効果が切れて身体能力が低下したハル・レインに避けられるものでは無かった。
あっという間に吹き飛ばされ、京介らが居る階段の側の壁に激突し気を失った。

⏰:08/01/29 00:57 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#377 [◆vzApYZDoz6]
京介「みんな!」
内藤「遅かったか…!」

気絶したハル・ラインをつまらなさそうに一瞥するグラシアを、内藤が今にも飛び出しそうな京介を制しながら見据える。
3人が気を抜ききっていた事や、グラシアの足下にある大量の血溜りから見ても、グラシアが1度やられたのは間違いないだろう。
恐らく再生系の、かなり強力なスキルを使ったはず。同時使用ができるのはライフアンドデスの力か。
内藤はそんな思案を巡らせながら、グラシアの能力を確かめるために少しずつにじり寄る。
グラシアが、視線は逸らさず忍び足でこちらに来る内藤を見て、馬鹿にしたように鼻で笑った。

⏰:08/01/29 23:41 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#378 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「来るなら来い…と言いたいところだが、生憎私は君らと戦う暇など無いのでね。戦いたければ追いかけてくるんだな」

勝ち誇ったように言い放つと素早く後ろを振り返り、京介らの対面の中庭出入口に向かって駆け出した。
内藤がすかさず追い掛けようとするが、グラシアの走るスピードはとんでもなく早い。あっという間に姿を見失ってしまった。

内藤「くそっ!逃げ足だけは早いな」

内藤が一旦止まり、舌打ちをしながら振り返る。こちらに走ってくる京介越しに、ラスダンとアリサに叫んだ。

内藤「俺は奴を追う!!リーザ達を頼んだぞ!!」

⏰:08/01/29 23:57 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#379 [◆vzApYZDoz6]
了解、という叫び声が返ってくる。
内藤は感謝の意を込めて片手を振り上げ、振り返って京介と肩を並べて走り出した。中庭を出て、再び要塞の中に入ると、グラシアに付いた血液が足跡となり点々と続いていた。

内藤「おっ、ご丁寧に足跡残してくれてるな」
京介「それにしてもあいつ…あんな急いで何処に行くつもりなんだ?」
内藤「さぁな。小便にでも行きたかったんじゃないか?」
京介「えー…」

馬鹿馬鹿しい程に胡散臭そうな顔を作って唸る京介にイラッと来て、内藤が平手を振り上げた瞬間。
遠くから、大きな衝撃音と共に床が小刻みに震え、続いて瓦礫が崩れ落ちるような音がした。

⏰:08/01/30 01:17 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#380 [◆vzApYZDoz6]
突然の騒音に驚いて足を止める。それはどうやら上の階から発生したようだ。

京介「なんだ?」
内藤「ちっ、我慢できなくなってトイレを破壊しやがったか」
京介「いや絶対違うと思うそれ」

気にはなりつつも再び足跡を追って走り出す。コンクリートに付けられた血の足跡を追い掛けて角を曲がると、そこには階段があった。
余程急いでいたのか、足跡は2段飛ばしで付いている。

京介「あいつ上に昇ったんだ…てことはさっきの音はあいつか?」
内藤「ほら見ろ。グラシアは今、膀胱を抑えて走り回ってる筈だ」
京介「いや…うん。そのネタ引っ張りすぎ」

京介は、正直しんどいと思った。

⏰:08/01/30 02:08 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#381 [◆vzApYZDoz6]
-バリア発生装置がある部屋-

部屋の4隅にある、発生装置である小さな柱は、全てが逆さになって地面に突き刺さっている。柱に繋がっていた制御ケーブルは引き千切れて、ケーブルが繋がっていた制御装置の画面は電力供給用コードが切断されており光が失われていた。
ガリアスはその制御装置にもたれ掛かかって座り込み、虚に宙を仰いで考えていた。
この発生装置はグラシアが使っていたため、要塞内でも普通の通路から隔離され独立していた。

ガリアス「…ここどうやって出ればいいんだろ」

⏰:08/01/30 22:12 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#382 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスが項垂れるように溜め息をつく。
バリア発生装置があった事すら知らなかったガリアスには、実は隠し扉が存在する事など知る由もなかった。
破ってきた窓まで戻るのは如何せん面倒。この隔離空間から出る方法はガリアスには1つしか思い浮かばなかった。

ガリアス「仕方ねぇな…壁ぶち壊すか」

ガリアスは立ち上がり、もたれ掛かっていた制御装置に手を当てる。
ヴィエロシティーの光速移動能力を制御装置に使って、部屋の壁に全力で叩き付けた。
大きな衝撃音が響き破片が飛ぶ。だが音はそこでは終わらず、瓦礫が崩れ落ちるような音が続いていた。

⏰:08/01/30 23:24 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#383 [◆vzApYZDoz6]
反響音はどんどん小さくなるが、なかなか消えない。気になって、開けた穴から周囲を見回した。

ガリアス「あれ、ここって…非常階段じゃん」

吹き抜けの空間に、階段が大きな螺旋を描きながら上下に伸びている。複雑な要塞の中で唯一、地下2階から6階の上の屋上まで全エリアと繋がっている階段だが、要塞の端に位置するため普段は使われていない。
だが、その階段を掛け上っている人物が見えた。
その人物は開いた穴から出てきたガリアスを見下ろして一瞥し、何事も無かったかのように視線を戻す。
再び螺旋階段を掛け上がる人物に、ガリアスが叫んだ。

ガリアス「グラシア!!」

⏰:08/01/31 20:13 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#384 [◆vzApYZDoz6]
体は赤く変色し膨れ上がっていたが、顔は変わっていない。巨大な体躯には狭すぎる階段を凄まじいスピードで上がっていくその人物は、紛れもなくグラシアだった。
ガリアスがすぐに穴を飛び出し螺旋階段を駆け上がる。大きな円周を描きながら勾配を付ける階段の壁には、グラシアがその体躯を擦った跡がついていた。
ガリアスのヴィエロシティーは、自分には能力を使えない。有り得ないスピードで駆け上がるグラシアには到底追い付けなかった。
グラシアがあっという間に屋上まで到達して、屋上の扉を開ける。
それを見たガリアスは、懐からジェイト兄弟に渡された無線機を取り出した。

⏰:08/01/31 20:22 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#385 [◆vzApYZDoz6]
-要塞屋上-

低めのフェンスに囲まれた空間に、白いコンクリートが広がる。その端にある扉が勢いよく開け放たれ、グラシアが出てきた。
遠くの空を仰いで、唇の端を釣り上げて呟く。

グラシア「よし…いい頃合いだ」

グラシアの視線の先には、こちらに向かって飛んでくる1基のヘリコプターが写っていた。それはただのヘリコプターではなく、迷彩が施され、プロペラは3つ付けられた軍用ヘリコプター。
次第にバラバラと響くローターの回転音が大きくなり、続いてプロペラが生み出した直下風がグラシアの髪をなびかせる。

⏰:08/01/31 20:40 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#386 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「こんな所にもう用はない。逃げる事になるのは癪だがな」
ガリアス「逃げられねぇよ!」

開け放たれたままのドアから、ガリアスが息を切らして現れる。しかし、グラシアが不気味な薄ら笑いを浮かべて振り返ると、ガリアスの体が吹き飛んだ。

グラシア「お前にはどうにもできんよ」

そう言い放つグラシアの背後には、ヘリコプターがもう間近に迫っていた。徐々に減速するヘリコプターを見上げながら、着地点にゆっくりと歩いていくグラシアに、ガリアスが呟く。

ガリアス「言ったろ、逃げられねぇよ」

掻き消される呟きが聞こえていたかのように、鉄の巨人がフェンスの奥から飛び出した。

⏰:08/01/31 20:54 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#387 [名無しの書き手さん◆vzApYZDoz6]
ブロック「また俺達の出番だぜ!」
フラット「屋上に出たのは間違いだったな!」

ジェイト兄弟の駆る鉄の巨人は、その両足に付いたローラー車輪でフェンスを駆け上る。
身体には飆を纏い、両手にはその体躯に見合う巨大な両刃剣を握り締めて、ヘリコプターに飛び掛かった。

グラシア「なにぃ!?」

両手を天に掲げてヘリコプターを見上げていたグラシアの悲鳴に近い叫び声と同時に、綺麗に両断されたヘリコプターがやりすぎ感のある爆発を起こした。
大きな爆音で揺れる屋上に、鉄の巨人が爆煙を巻いて滑るように着地する。
風が逆巻く両刃剣を構え直し、グラシアに向き合った。

⏰:08/02/01 17:35 📱:P903i 🆔:PBa5kcbA


#388 [◆vzApYZDoz6]
フラット「こっからは逃げられやしねぇぜ!」
ブロック「そんな可愛い子を汗臭い汚い脇に挟むなよ!」

鉄の巨人が、挑発するように刃先をグラシアに向ける。グラシアの体は常人では考えられない程膨張していたが、鉄の巨人はそれよりもさらに大きく、黒光りするその車体が圧倒的な威圧感を持っていた。
中庭から立て続けに造反を食らったグラシアの怒りは既に心頭状態だった。
唇をひくつかせながら何かを言おうとするグラシアの後頭部に、今度は鉄製の何かがぶち当たる。
当たったのドア板。後ろを見れば、ドアが引き千切られて無くなった螺旋階段への入口に、ガリアスが立っていた。

⏰:08/02/01 17:52 📱:P903i 🆔:PBa5kcbA


#389 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「お得意のバリアは使わないのかよ?」

グラシアにドアをぶつけたガリアスが、得意そうな笑みを浮かべる。
グラシアは自分の後頭部にめり込むドアをゆっくり剥がし、地面に立てて置いた。

グラシア「ああ、発生装置に何かしたのはやはりお前か。…ふざけやがって!」

置いたドアを、ガリアスに向かって思い切り蹴りつける。回転しながら凄まじいスピードで元へ飛んでくるドアを、ガリアスは寸での所で避けた。
避けたガリアスの元へ、血走った目と引きつった笑みを浮かべながらグラシアが歩いていく。

グラシア「この怒り、どうしてくれようか?」
フラット「俺達にぶつければ?」

⏰:08/02/02 12:26 📱:P903i 🆔:V0kcwsys


#390 [◆vzApYZDoz6]
両刃剣ジェイトソードの鋒が、グラシアの首筋に突き付けられる。言いながら巨人の左腕が両刃剣の柄に伸び、突き付けた刃と反対側、巨人の懐に伸びる刃とそれに付いた柄を割り折るように、離した。逆手に持つ左手の剣を手元で回し、順手に持ち変え岡っ引きのようにグラシアに突き付ける。
その様は、正に二刀流。
突き付けられた二枚の刀身越しに、グラシアが巨人を睨む。異様に細めたその目からは危険な香りが漂っていた。
それに臆することなく、弟が言い放つ。

フラット「さぁて、兄貴にばっかり見せ場はやれないぜ」

飆が逆巻く巨人が握る双剣に、一瞬紫電が走った。

⏰:08/02/03 22:26 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#391 [◆vzApYZDoz6]
紫電は直ぐ様大きくなり、バチバチと弾ける音を立てながら、刀身を蛇のように包み込む。
足元から全身を逆巻く飆。両手に携えられた武器に宿る稲光。
その様は、巨大な漆黒の体に風神と雷神を一挙に宿したよう。

フラット「『プラズマアウト』。能力は…見りゃ分かるだろ」

稲妻を纏う双剣を突き付けたまま、巨人の首元のコクピットからグラシアを見据える。
対するグラシアは、惚けたような顔で巨人を見上げていた。

グラシア「……うびょ…規…」
ブロック「は?」


蟻が呟いたような小さな声。
次の瞬間、グラシアと後ろで見ていたガリアスが同時に巨人の下へ駆け出した。

⏰:08/02/03 22:45 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#392 [◆vzApYZDoz6]
フラット「え、何?」

戸惑いながらも弟が両腕を操り、稲妻を纏う双剣を振り下ろそうとする。
だがその腕は全く動かない。その事態をいち早く察知した兄が、ならば退くぞと足を操作。
だがこれも動かない。コントローラとなっているハンドルやクラッチ、アクセルは動くのに、鉄の巨人がそれに対し全く反応を示さない。電子回路でも潰されたのか、というずれた考えが兄の頭を過った。
そんな兄弟など余所に、グラシアが拳を腰に構える。ジェイトソードの刀身分、およそ5mの距離をほぼ一足で懐まで詰め寄り、赤く変色し肥大した拳を撃ち据える。
それを阻害したのは、独りでに宙を舞った双剣だった。

⏰:08/02/03 22:59 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#393 [◆vzApYZDoz6]
動かない巨人の手から双剣が飛び出し、うち1本が巨人の懐に飛び込もうとするグラシアの進路を阻むように地に突き刺さる。
立て続けにもう1本がグラシアを狙う。目の前に突き刺さった大剣が邪魔でそれ以上前に踏み込めず、舌打ちをしながら懐から離脱した。

ガリアス「そのスキルは知ってる。あいつらが武器を出しててよかった」
グラシア「…ふん」

グラシアが、阻害したガリアスを賤しく睨み付ける。
突き刺さった双剣が抜かれ、紫電を纏ったままガリアスの頭上に滞空した。

ガリアス「はっきり聞くけど…何秒?」
グラシア「分からない方がスリリングじゃないか?」

⏰:08/02/03 23:11 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#394 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「同時に2つ操るとスピード落ちるんだけどなー」

グラシアとガリアスが踏み込んだ。
今度は剣を突き立てず、払うように斬りかかる。グラシアがそれを往なし殴りかかる所を、もう1本で防ぐ。殴れば剣の紫電にやられるために仕方なく退くグラシアに、払われた剣を突き立てる。
グラシアに圧倒的な体躯とスピードで後れを取る分、ガリアスは双剣とそれに纏う稲妻で補っていた。
素手のゴリラと、特殊警棒を持つ猿のような戦いを、巨人を止められ為す術のない兄弟が眺めていた。

フラット「あれ…出番は?」
ブロック「どうやら俺達は武器提供しただけみたいだ」

⏰:08/02/03 23:25 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#395 [◆vzApYZDoz6]
戦いを見詰める。時間は長いようで短い。鉄の巨人が動きを止めてから、まだ20秒ぐらいしか経っていないだろう。
とその時、戦う2人に異変が起きた。
グラシアが頬を歪ませながら兄弟を一瞥したかと思うと、ガリアスが見計らったように1本の双剣の柄にしがみつく。もう1本を、動けない巨人へ向けて飛ばし付けた。

フラット「ちょっ…!」

弟が、動かないと知りつつ反射的に腕を操作する。
だが、腕は動いた。巨人が紫電を纏う大剣を受け取ると同時に、グラシアがしがみついたままヴィエロシティーの力で離れようとするガリアスに叫ぶように言った。

グラシア「10秒規制!」

⏰:08/02/04 00:02 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#396 [◆vzApYZDoz6]
瞬間、剣にしがみついていたガリアスの動きがピタリと止まる。慣性など無視して、反動もなく完全に止まった。
グラシアがそれを尻目に、今度は巨人に向かって踏み込む。巨人の左腕が動き剣を受け止めたのを見ていた兄が、一瞬の判断で足を操作した。
足も動いた。大気を撃ち据えるグラシアの拳をなんとか避けながら、解除していたブラストハイドを再び発動。
凍り付いたように動かないガリアスがしがみついているもう1本の大剣の元へ、地を蹴って駆け出した。
拳が空を切ったグラシアは一旦滑るように止まって再び踏み込み、鉄の巨人へ迫る。グラシアに追い付かれる前に、巨人が大剣を手にした。

⏰:08/02/04 00:12 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#397 [◆vzApYZDoz6]
フラット「どらせいっ!」

右手をガリアスがしがみつく剣に伸ばしながら、左手の剣を後ろに振るう。
無造作に振るわれた一閃はかわされたが、右手は剣を逆手に捕まえていた。振り返り様に、腕を回すように剣を払う。

フラット「食らえプラズマ!」

剣に纏っていた紫電が、斬撃を肥大させるように放電した。
まさか剣から電撃が撃たれるとは思っていなかったグラシアに、その電撃が浴びせられる。

グラシア「ぎゃっ!」

いくら筋肉が膨らみ皮膚が硬くなろうとも、元は人間。
声にならない声を上げて、地面を転がるように鉄の巨人から離れた先には、屋上の入口。

内藤「おいおい、みっともねぇな」

⏰:08/02/04 00:24 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#398 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「くそっ!」

グラシアが飛び退くように離れ、フェンスの側に駆け出す。グラシアが走る先には、ヘリコプターを爆破された時に一旦その手から離れた藍がいた。

内藤「おっと浅香はあんなところにいたのか」

思わず京介が飛び出さんとするところを内藤が制する。その時、入口から更にぞろぞろと声がした。

ライン「おい兄貴、俺達をみっくみくにした赤鬼さんは今、多勢に無勢だ」
レイン「それはいい情報だ。みっくみくにし返してやるか」
リーザ「あなた達、治りが早いですわね…私もシーナがいればこれぐらい…」
ラスダン「駄目だよ喋っちゃ!」
アリサ「内藤ちゃん大丈夫?♪助けに来たわ♪」

⏰:08/02/04 00:38 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#399 [◆vzApYZDoz6]
中庭で倒れた3人と介抱していた2人も追い掛けてきた。
ハル兄弟は自己治癒力を片方に順番に注ぎ込んだらしく、傷はすっかり治っている。リーザはラスダンに肩を借り、包帯代わりに腹の傷に巻いているラスダンの上着には血が滲んでいる。アリサは飄々と内藤に視線を送っていた。

内藤「…なんだこの大所帯」

入口の騒がしさを余所に、止まっていたガリアスに動きが戻る。
それを合図に戦える面子が、藍に腕を回し爪を突き立てるグラシアに向き合った。
多勢に無勢、最早追い詰められたグラシアは、とうとう最後の手段に打って出た。

グラシア「…動けば…こいつの命はないぞ」

⏰:08/02/04 00:53 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#400 [◆vzApYZDoz6]
京介「てめえ…」
内藤「駄目だな…見ろ、あいつの目。ありゃ犬の目だ」

京介や内藤達の戦える面子がにじりよる。が、グラシアはフェンスを背にしているため、なかなか背後を取れない。
その上、今のグラシアはレッドデーモンのスキルにより身体能力は大幅に上がっている。下手に動けば藍が殺される状況下、京介らは動くに動けなかった。

グラシア「犬の目、か。畜生とでも何でも言うがいい…だがな」

グラシアが爪を藍の首筋に突きつける。浅く刺さった爪の先から血が滲み出た。

グラシア「そうなれば最早関係無いぜ?」

⏰:08/02/05 01:28 📱:P903i 🆔:D0w4yy/Y


#401 [◆vzApYZDoz6]
京介「くそっ…藍に手を出すな!」
内藤「すみませんグラシア様あなた様は神様ですどうか下僕にしてください」
グラシア「五月蝿い!そこを動くなよ!全員だ!」

グラシアが爪を振りかざしながら、フェンスを伝い入口に移動する。京介らは、睨むことしかできなかった。
やがて入口にまで到着し、後ずさるように階段へ向かう。

グラシア「くくく…やはり最後に勝つのはこの俺だったよう…」
ハルキン「通行の邪魔だ低能!」

言いかけたグラシアの無防備な後頭部に、ハルキンの強烈な蹴りが直撃した。

内藤「よし今だ!」
京介「あいつやっぱり馬鹿だぜ!」

⏰:08/02/05 01:36 📱:P903i 🆔:D0w4yy/Y


#402 [アリス]
あげときます(o>_<o)

⏰:08/02/06 15:15 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#403 [◆vzApYZDoz6]
突然現れたハルキンに不意の一撃を食らい、グラシアが吹き飛ぶように転がる。そのグラシアを追うように、京介らが走った。

グラシア「ぐっ…寄るなぁ!」

グラシアが爪を藍に突き立てようとしたとき、体の異変に気が付いた。
体が、萎んでしまっている。レッドデーモンの効果が切れ、体躯は元の大きさに戻っていた。
鋭利な爪が付いていた手が元に戻ったことで抑制力を失い、途端に京介らに囲まれる。グラシアはそれでも藍を抱えたまま、ハルキンを睨み付けた。

グラシア「貴様…私に何をした?」
ハルキン「俺は何もしていないが?まぁイルリナは助けたがな」
グラシア「まさか…!」

⏰:08/02/06 22:04 📱:P903i 🆔:jsejo7Lc


#404 [◆vzApYZDoz6]
グラシアがフェンスから外を見て、目を見開いた。
眼下に広がる雪原にジェイト兄弟が潰した戦車やら戦闘機やらが転がる合間を、2人の女性が走っていた。透明な薄紅色の結界を張りながら、恐らくこの基地の出口であるトンネルへ向かって。
走る2人との大きな離差に加えて要塞の屋上から見ているため、豆粒ほどの大きさにしか見えないが、片方の女性の格好はグラシアに見覚えがあった。

グラシア「イルリナと…あれはラスカか…!」
ハルキン「あれだけ離したんだ、お前のスキル支配はもう効かない。観念するんだな」

⏰:08/02/07 07:34 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#405 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが視線を戻し、陰湿な目でハルキンを睨み付ける。

グラシア「確かに私のスキルの効力は、離れると薄くなる…だがなぜ貴様がそれを知っている?」
ハルキン「クルサをわざわざ司令室に居させたり、イルリナを地下に監禁したり…支配してる連中は皆、お前の側にいたからな。何と無くだ」
グラシア「…そうか。…だがな、まだこの娘がいる!」

グラシアは懐から素早くナイフを取り出して、再び藍の喉元に突き付けた。

グラシア「俺から離れろ!!」
ハルキン「…全く。悪足掻きは…」
藍「……んっ……うん…?」

ハルキンが言いかけた時、藍が目を覚ました。

⏰:08/02/07 14:01 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#406 [◆vzApYZDoz6]
藍の瞼がゆっくりと開いていく。その場にいた全員の視線が集中する中で、藍が呑気な声を出した。

藍「あれっ…ここどこ?」

藍の視界に写るのは沢山の人間。京介と内藤とアリサ以外の顔は知らない。誰だろうと考えている最中に、ようやく自分が誰かに抱えられている事に気付く。
抱えている人間を見上げると、引きつった顔をしている男と目があった。続いて見えたのは、振りかぶった男の右腕と、その先に握られている鋭利なナイフ。
震える男の唇が、僅かにつり上がった。
眠っていた藍の現状を理解できていない脳でも、自分が殺されそうな事は理解した。

⏰:08/02/07 14:21 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#407 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが最後の悪足掻きに打って出た。どうせ逃げられないなら――

グラシア「――死に花だ!」
京介「藍!!」

京介が叫んで駆け出すのと、グラシアがナイフを振り下ろしたのは同時だった。

藍「きやっ!!」

思わず藍が目を瞑る。
だが、ナイフは刺さった感触はない。代わりに大岩が降ってきたような大きな音と、抱えられている腕から体が落ちたような感覚がした。
藍が恐る恐る目を開けると、そこにあったのは見覚えのある古ぼけた茶色い扉。既に閉まりかけだった扉がゆっくりと閉じていき、閉まりきった途端に点のような光を巻いて消滅する。

京介とグラシアは、居なくなっていた。

⏰:08/02/07 23:34 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#408 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの元へ駆けた京介の視界は突然真っ白になり、浮遊感に襲われ、次の瞬間には芝生のような地面を転がっていた。

京介「いってぇ…」

京介が、地面で打った後頭部をさすりながら辺りを見回した。

京介「ここって…」

周囲は見渡す限りの大草原。生き物は見当たらず、建物はおろか、木の1本すら生えてない。地平線の彼方に高い山々が霞んで見えるだけで、まるでモンゴルの大草原を彷彿とさせる。
そこは、京介と藍がレンサーの住む異世界『ディフェレス』に来た時、扉を通って最初に出た場所だった。
バタン、と扉の閉まる音が響く。振り返ると、既に扉は無くなっていた。

⏰:08/02/08 00:02 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#409 [◆vzApYZDoz6]
京介は光が巻いた跡が残る場所を一瞥し、訳の分からないまま地面を睨む。膝を付いて、最初にここへ来た時の記憶を手繰り寄せた。
あの時も同様に扉が消え、藍が同じような扉を見付けていた。その扉をくぐって出たのが、さっきまで居た場所。

京介(扉…)

京介が顔を上げ、扉を求めて周囲を見回す。

京介「あっ…グラシア!」

京介から少し離れた横で、グラシアが先程の京介と同じように頭をさすっている。
京介に気付いて顔を上げ、これまた同じように膝を付いて周囲を見回す。遠くを眺めながら溜め息をついて、芋虫を噛み締めるような苦い表情を浮かべた。

⏰:08/02/08 00:19 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#410 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「あの娘は…ここに居ないのか」

グラシアが遠くを眺めたまま、静かに呟いた。

京介「あの娘…ってのは藍か。多分いない」
グラシア「…そうか…こんな事になろうとは…くくく…」

グラシアが俯き、くぐもった笑いをする。その不気味な声とは裏腹に、表情はどこか哀愁さが漂っていた。
1人現状を理解しているようなグラシアに、京介が眉をしかめた。

京介「おい、お前は何か知ってるのか?…ここはどこなんだよ?」

京介が少し強めに言い放つ。グラシアは薄く笑みを浮かべたまま、目を細めて冷ややかに京介を見詰めた。

グラシア「ここは…あの娘のスキルが生んだ世界だ」

⏰:08/02/08 00:36 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#411 [◆vzApYZDoz6]
京介「藍の?…って事は藍も、スキルを持ってるのか…」

京介が記憶を遡る。
思い出すのはディフェレスに来た当初。1体の風船人形と対峙した時に内藤が現れて、風船人形をあっという間に倒した後の会話。
内藤が『レンサーにしか開けれない』と確かに言っていた。その扉を最初に開けたのは、紛れもなく藍だった。

グラシア「あの娘とお前はディフェレスに来た時に、扉を通った筈だ。その扉は、クルサがモルディブに繋がるように作ったものだ」

京介が会話を思い返す。
一度草原に出た事を聞いた内藤の独り言に、確かにそれらの単語があった。
グラシアはさらに話を続けた。

⏰:08/02/08 00:55 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#412 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「お前らはスキルさえ戴けば地球に返す予定だった…手早く終わらせる為に、モルディブに出来るだけ戦闘員を配備した。バニッシ、お前らの言う内藤は感付いていたがな」

グラシア「だが、クルサの扉を通ったにも拘わらず、お前らはモルディブからかなり離れた場所に出た。たまたま別行動を取っていたアリサがお前らを見付けたがな。お前とバニッシの会話の内容をアリサから聞いて驚いたよ…」

グラシアがそこで少し沈黙し、京介を見詰めた。

グラシア「…俺の、そしてバニッシの推測が正しければ…あの娘のスキルはディフェレスの伝説に残っているものだ。名を…『キャストアウェイ』と言う」

⏰:08/02/08 15:07 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#413 [◆vzApYZDoz6]
-ウォルサー基地・要塞屋上-

藍「伝説に…?」
ハルキン「ああ。そもそも地球人の存在、そして地球人の強力なスキルの存在をディフェレスが知ったのは、その時だ」

京介とグラシアが居なくなった屋上。
残された人間は今の状況を話し合っていた。突然出現した扉について、内藤とハルキンが述べる見解を皆が静かに聞いていた。

内藤「キャストアウェイの能力は『亜空間』と『通行』の2つの支配…新たに空間を創造する事ができ、その創造空間若しくは既存空間へ繋がる『扉』を作り出す。扉には他者や物質をスキル所持者の意思で通行させる事ができる」

⏰:08/02/08 23:14 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#414 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「最初にディフェレスに来た地球人は『ジオ』と呼ばれた。詳細は分かっていないが、その能力でディフェレスの危機を救ったとされている」
内藤「浅香、お前確かここに来る時に草原を通ったらしいな?」
藍「はい…」
内藤「その草原は創造空間だ。キャストアウェイは所持者の身に危険が迫っているときに自動的に発動し、危険を回避する…と伝説にも残っている。最初、お前と川上が通った扉は、本当ならウォルサーが待ち受ける場所に行く筈だったんだ。恐らく扉に触れた時にそれを感知したんだろう」
藍「…って事は京ちゃんはまさか…?」
内藤「自動発動に巻き込まれて、グラシアと草原に居る筈だ」

⏰:08/02/09 03:35 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#415 [◆vzApYZDoz6]
-藍の創造空間・大草原-

グラシア「その力は強力だ。俺はそれを欲し、あの娘を捕らえた訳だ。まぁ、なぜあの娘が伝説のスキルを所持しているのかは知らんがな」


グラシアが一通り話すのを、京介は黙って聞いていた。
ディフェレスの事など分からない京介が理解できたのは、今の状況が藍のスキルによって引き起こされた、という事だけ。そして、それと同時に1つの不確定要素が頭に浮かんだ。

京介「…元の場所に戻る方法はあるのか?」

グラシアが少し沈黙する。思わず京介が固唾を飲んだ時、グラシアが重い口を開いた。

グラシア「…方法はある。だが期待はできない」

⏰:08/02/09 08:17 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#416 [◆vzApYZDoz6]
京介「方法があるのか!?」
グラシア「あの娘がスキルを使えれば、な」
京介「なんだ…簡単な事じゃん」

京介の体に異変が起きた。紅く発光し、髪が逆立ち、黒目が銀色に染まっていく。
その様子を静かに眺めていたグラシアが、小さく含み笑いをした。

グラシア「くくく…なぜ使える?」
京介「内藤が教えてくれたよ。俺がスキルを使えなかったのは…俺のスキルが何なのか、自覚してなかっただけだ。俺のスキルは、『他者の行動選択権を支配する』…だったな」
グラシア「だが、お前は俺に勝てない」

言いかけたグラシアが、一瞬京介の前から消える。次の瞬間には、青く光る掌が京介の胸に当てられていた。

⏰:08/02/09 12:05 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#417 []
>>1-150
>>151-300
>>301-450
>>451-600

失礼しましたあ

⏰:08/02/09 14:11 📱:F905i 🆔:☆☆☆


#418 [◆vzApYZDoz6]
青い掌は、いつかのパンデモの時のように京介のスキルの使用権を奪う筈だった。

グラシア「なっ…」

だがグラシアがいくら頑張っても、京介の紅い光は消えず、髪は逆立ったままで目は銀色に染まったまま。それはつまり、スキルを支配できていない事を示唆していた。
懐に入ったまま目を見開いて自分の掌を見詰めるグラシアの脇腹に、京介が膝を蹴り上げる。

グラシア「がっ!!」

支配が効かない事に驚いて硬直していたグラシアの体は避ける意思を見せず、思わず前屈みになり悶絶する。たった1回の膝蹴りが、絶大な威力を誇っていた。

グラシア「馬鹿な…!なぜ支配できない…なぜこれ程の威力が…!」

⏰:08/02/09 19:37 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#419 [◆vzApYZDoz6]
京介「お前、本当に馬鹿だな」
グラシア「なにぃ!?」

京介が、足下で蹲るグラシアを小馬鹿にしたように冷たく見下ろす。

京介「俺のスキルは『他者の行動選択支配』。俺のスキルは『支配者』で、自動的に身体強化の付加がつく。お前が言ってたんじゃなかったっけ?」
グラシア「ぐっ…くそぉ!!」

蹲っていたグラシアが急に体を上げて、京介の顔面目掛けて拳を撃つ。グラシアの拳は大気を切り裂き、その威力は決して小さくはない。

京介「動くな!」

だが、京介の一言でいとも容易く停止する。
次の瞬間に撃ち出された京介の拳は、グラシアに視認させる暇も与えず顔面をえぐり抜いた。

⏰:08/02/09 19:55 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#420 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの表情が歪み、地を転がるように勢いよく体が吹き飛ぶ。何度も転がった後もんどりうって、うつ伏せに停止した。

グラシア「ぐふっ…」

ゆっくりと地から離した顔は鼻が潰れて鼻血が滴り、京介の拳が当たった部分が赤く変色して、まるで顔がへこんでいるように見えた。
顔をしかめて、止めどなく溢れる鼻血をなんとか止めようと鼻を押さえる。そのまま顔を上げたグラシアの視界に、ゆっくりとこちらに歩いてくる京介が写った。
グラシアは頭では逃げなければ、と考えていても、顔と脇腹の痛みと謂れのない恐怖で体がすくみ、卑しく睨み付ける事しかできなかった。

⏰:08/02/09 20:08 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#421 [◆vzApYZDoz6]
京介「お前はもう謝っても許さないぜ?」

京介は歩みを止めずに、唇の端を軽くつり上げながら言い放つ。
地に這いつくばって見ていたグラシアは、愕然と肩を落としわなわなと震わせた。
今まで自分が一番格上だったと思い込んでいた脳に、上には上がいるという事実を叩き付けられる。
京介の毅然とした態度の前に、怒りや屈辱はもとより絶対的な敗北感すら生まれてきていた。
だが、ここまで来て逃げる訳にもいかなかった。

グラシア「俺は…この世界を支配してやるんだ」

すくむ足を抑え立ち上がる。
京介は眉をハの字に曲げ、端から見れば滑稽に見えるグラシアを悲しそうに見詰めた。

⏰:08/02/09 21:06 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#422 [◆vzApYZDoz6]
京介「何でだ?何でそんなに…」
グラシア「五月蝿い…!お前に俺の気持ちが分かってたまるか!」

グラシアが京介に拳を突き立てる。
だがその拳には力が込もらず、京介の胸に弱々しく埋まる。そのまま崩れ落ち、京介の足下にもたれ掛かった。

グラシア「俺はまだ戦える…お前を倒して、世界を支配して…認めてもらうんだ…!」

すがるように何度も力の入らない拳を振る。
京介は眉をしかめて苦い表情を浮かべた。

京介「…もう無理だよ」
グラシア「五月蝿い…こんな無様を晒すわけにはいかないんだ!」

グラシアが更に拳を叩きつけようと振りかぶったその時。
2人の隣に、再び扉が出現した。

⏰:08/02/09 22:07 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#423 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「これは…」
京介「うわっ!」

突き破られたように勢いよく扉が開き、京介とグラシアが吹き飛ぶように中へ吸い込まれた。
京介が思わず固く目を瞑る。一瞬浮遊感が生まれ、すぐに地を転がるように体が揺さぶられた。
草原に飛ばされた時と同じ感覚に、今度は素早く目を開ける。

内藤「よっしゃ成功」
藍「京ちゃん!」

最初に見えたのは藍の姿。その側に内藤が、さらに向こうでディフェレスに来て出会った面々がこちらを見ていた。
屋上に戻ってきたのか、とぼんやり考えていた京介に、藍が飛び付くように駆け寄る。

藍「よかった…私のせいでどこかに消えちゃったもんね」

⏰:08/02/10 11:58 📱:P903i 🆔:F7TzN6YU


#424 [◆vzApYZDoz6]
京介の顎の下に藍の顔がすっぽり収まる。
藍がさらわれたのはつい数時間前なのに、京介は起きている藍を何年か振りに見た気がした。
京介はスキルを発動したままで、体は紅く光っており髪は逆立っている。

京介「ああ…悪かっ」
藍「てゆうかその髪とか何!?」
京介「たぶっ!!」

腕を回そうとした京介の顎に、勢いよく顔を上げた藍の頭頂部が激突した。

藍「あっ…ごめん!」
京介「いや、大丈夫…」
内藤「お前ら、そうゆう事は後にしな」

内藤が横を見ながら2人を諌める。内藤の視線の先には、まだ鼻血を出したまま蹲っているグラシアがいた。

⏰:08/02/10 13:05 📱:P903i 🆔:F7TzN6YU


#425 [◆vzApYZDoz6]
京介「…なぁ、あいつに何があったんだ?」

京介が苦い表情を浮かべながら、グラシアを眺める。
草原で自分にすがるような態度を見せた事が少し気になっていた。

ハルキン「俺が話してやろう。いや、俺が話すべきだな」

京介の意思を理解しているかのように、ハルキンが唐突に、静かに口を開く。
それまで黙って俯いていたグラシアが、機嫌悪そうに上目でハルキンを睨んだ。

グラシア「話す必要は無い」
ハルキン「他の連中も知らん事だ。今が機だろう」

何か言いたげにしていたグラシアをハルキンが睨み付け黙らせる。皆を見回し、咳払いを切って話し出した。

ハルキン「…この話は10年前まで遡る」

⏰:08/02/11 16:36 📱:P903i 🆔:hd/VybYQ


#426 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「10年前…ディフェレスはローシャのある施設で、ある研究が行われていた」
京介「研究?」
ハルキン「強大な能力の付加研究…地球人のレンサーが持つ強力なスキル、それをディフェレスの人間にも発現させよう、って研究だ」

その研究は、地球人を調べる事から始まった。
地球のレンサーを何人か、神隠し等といった現象に見せ掛けて秘密裏にディフェレスに運び込み、体細胞の構造から食生活に至るまで細かく分析した。

ハルキン「結果、レンサースキルを司る遺伝子から、地球人だけが持つ特殊な細胞が発見された」

⏰:08/02/12 00:33 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#427 [◆vzApYZDoz6]
本来、スキルの遺伝子は誰にでもあるもの。それをたまたま発現できた者が、レンサーと呼ばれた。

ハルキン「その特殊な細胞自体はどの地球人も同じものを持っていて、持って生まれた資質や生活環境によって姿を変える事も分かった」

研究者は孤児院や兵隊学校等、様々な場所から資質と才能に溢れた子供を集め、その特殊な細胞をレンサースキルを司る遺伝子に組み込んだ。
また、スキルを確実に発現させる為に能力開発手術を施し、同時に手術と人工発現の痛みに耐えられるよう訓練させた。

ハルキン「手術は問題なく成功。子供達は様々な、かつ強力なスキルを発現させる事に成功した」

⏰:08/02/12 00:44 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#428 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「中には、スキルは発現しても強力じゃかった子供もいた。…その子供は失敗作として処分されたがな」

成功した子供達のスキルは、戦闘向きの強力な能力や超絶的な回復能力、人の心を読む能力など、ありとあらゆるもの。
子供達はその施設内で、スキルの性質に合った様々な訓練を受けて育った。

ハルキン「子供達はディフェレスの各地でそのスキルを生かす予定だった。だが、世の中そう上手くはいかない」

スキルを持った子供達の中でも、特に際立って強大な力を発揮する子供がいた。
その子供も小さな頃は従順だったが、歳を重ねるに連れて反抗的に、また性格も残虐になっていった。

⏰:08/02/12 01:02 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#429 [◆vzApYZDoz6]
その子供に不安を感じた研究者は、その子供を牢に閉じ込めた。
いくら能力が強力とはいえ、そんな危険な子供を世に送り出す訳にはいかない。研究者達の話し合いで、その子供の処分が決定された。
だが、処分の為に牢に行ってみるとその子供はいなかった。壁には丸く切り取られたかのような穴。
不安になった研究者が他の子供が寝泊まりする居住区へ向かうと、そこにあったのは壁や床中に滴り溜まる血と、子供達の死体。

ハルキン「処分を恐れたんだろう。自分の力を見せ付ければ処分を取り消してもらえる…そう考えての行動は、逆効果だった」

⏰:08/02/12 01:15 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#430 [◆vzApYZDoz6]
その場にいた研究者が、返り血を浴びて突っ立っているその子供に銃口を向けた。
その子供は、殺される前に研究者を殺した。殺した研究者の手に握られる拳銃をもぎ取り、天井に向けて発泡。
銃声を聞き付け集まった他の研究者へ、返り血を浴びたままで叫んだ。

ハルキン「俺の力を見ていろ、とな。そうしてその子供が施設を飛び出したのは、研究が始まってから6年後の話だ。もう分かるな?その子供が、そこの馬鹿だ」
グラシア「馬鹿な…なぜ貴様がそこまで知っている!?貴様は何者だ!?」
ハルキン「ただのレンサーさ。地球人の細胞を埋め込まれながら、強力な力を発現できず処分された…な」

⏰:08/02/12 01:29 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#431 [◆vzApYZDoz6]
京介「処分された子供、ってハルキンの事だったのか…」
ハルキン「ああ。俺の空間制御能力は、当時は今と比べ物にならない程弱かった。スキルとしても他の連中に目劣りしたからな」
グラシア「貴様が…あの研究の失敗作だと?お前は研究を知る者の1人だと…」
ハルキン「そう言っておけばお前は油断するだろう?それが馬鹿だと言うんだ、馬鹿」
グラシア「ぐっ…!」

グラシアの体が震える。
自分より劣る失敗作に見下ろされる屈辱感に、怒りで拳を握りしめた。

ハルキン「殺された研究者と子供達の代わりだ。お前は倒す」
グラシア「五月蝿い!俺は、俺の力をあのオヤジ共に…認めさせてやるんだ!!」

⏰:08/02/12 01:48 📱:P903i 🆔:T5HVcZKQ


#432 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「それは無理だ。強力なスキルを研究した目的は、人の役に立つ子供の育成の為。だがお前は…ただの殺人者だ」
グラシア「黙れ!!」

蹲っていたグラシアが屋上の床を殴って立ち上がり、ハルキンに掴みかかろうとする。
だがそれは敢えなくかわされ、逆にカウンターの蹴りが顔面に突き刺さった。
転がるように吹き飛び、屋上のフェンスにぶつかって停止する。

ハルキン「それに、研究者もその研究からは手を引いた。お前を認める者なんざ誰もいないさ」
グラシア「……」

蹴られた顔を押さえ、痛みに対し静かに悶絶するグラシア。その表情は段々と虚ろになっていく。

⏰:08/02/13 01:45 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#433 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「もう、諦めろ。お前は…終わりだ」
グラシア「……フフフ、フヒャヒャヒャ!」

何がおかしいのか、グラシアは狂ったように笑いだした。
頬を大きく釣り上げて、歯茎が見える程の笑みを作る。

グラシア「こうなったら…貴様ら全員道連れだ!」

口を大きく開け、続いて思い切り噛み締める。歯が擦れる音と共に、グラシアの奥歯に仕込まれていた何かの機械が潰れた。
同時に、京介らが居る基地から遠く離れた所にある、ミサイル発射基地。
グラシアの奥歯に仕込まれていた機械から絶えず発せられていた周波が途絶えたのをうけて、1つのミサイルが京介らの基地に向けて発射された。

⏰:08/02/13 01:56 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#434 [◆vzApYZDoz6]
京介「…?」
内藤「何も起こらないが」
グラシア「直ぐに分かるさ。直ぐになぁ!」

グラシアが懐に手を突っ込み、素早く拳銃を取り出す。黒光りする銃口が、直ぐ様藍に向けられた。

グラシア「フハハハ、死ねぇ!」
内藤「ちっ!」

すかさず内藤とハルキンが駆け出し、ジェイト兄弟の駆る巨人が剣を振り下ろす。
だが剣は避けられ、既に指が引き金に掛けられている状態では内藤とハルキンは間に合わない。
それを見てリーザとハル兄弟が藍の方へ走り出すが、盾になるには藍との距離が離れすぎていた。
しかし、皆がそれらの動作を起こす前に、京介が走り出していた。

⏰:08/02/13 02:06 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#435 [◆vzApYZDoz6]
京介「うおおおお!!」

柄にもない叫びを上げて、京介は人生で一番速く走っていた。
グラシアが引き金を引く寸前で飛び出し、体ごとグラシアにぶつかる。

京介「おらぁ!!」
グラシア「ぐっ…俺は…!」

発射された銃弾は体当たりによって軌道が反れ、あらぬ方向へ飛んでいった。
体当たりされたグラシアの体はフェンスを勢いよく突き破り、屋上から投げ出され宙を舞った。

グラシア「俺は…認めて…褒めて…」

何かに憑かれたような目をして落下していくグラシアを、京介は見向きはしなかった。

⏰:08/02/13 02:16 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#436 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「なんだ…ここはどこだ?」

屋上から落下したグラシアは、なぜかどこかの部屋にいた。
驚き辺りを見回すと、埃を被ったベットや、カバーを掛けられた少し古くさい感じのする機械群。
そこはレンサースキル研究が行われた場所。グラシアとハルキンに縁のある場所。
無意識にテレポートスキルでも使ったのか、と一瞬思ったが、イルリナとの距離を離された為に貯めていたスキルは使えなかったはず。だが、理由が何にしろ、自分は今ここにいる。
その時、部屋の外から足音が響いた。
やがてゆっくりと部屋の扉が開き、人が入ってくる。

「やはり来たか…いずれ来ると思っていた」

⏰:08/02/13 02:29 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#437 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「チーフ…いや…父さん?」
父「待っていたよ、グラシア」

そこに居たのは、研究の第一人者だった人間。
グラシアを閉じ込め、処分という決断を下した人間。
責任と息子への情けから、せめて自分が処分しようと、1人で幼きグラシアの牢にへ赴いた人間。
居なくなっていたグラシアを探しに居住区へ行き、グラシアを撃ち殺そうとした人間。
銃口を向けられ、反射的にグラシアに殺された人間。
グラシアが只1人殺した研究者。
そして、グラシアの父親だった人間。
殺したと思っていた父親が、目の前にいた。

グラシア「ああ…父さん…?…なんで…死んだんじゃ…」

⏰:08/02/13 02:39 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#438 [◆vzApYZDoz6]
父「今までよく頑張ったな。苦労したろう?」
グラシア「父さん…!」
父「お前を研究体にした父さんを許してくれとは言わない。だがお前は私の研究の成果であり、誇りだ」

グラシアが目に涙を浮かべて、殺した筈の父親にすがり付く。

父「お前のした事は許される事じゃない。でも父さんだけは許してあげよう」

父親はグラシアを優しく片手で抱き寄せた。

父「だからもう…おやすみ」

残る手に握られた拳銃をグラシアのこめかみに当てた。乾いた銃声が響くのと同時に、グラシアの意識が完全に途絶える。

基地の地面に激突したグラシアの顔は、憑き物が落ちたような穏やかな目をしていた。

⏰:08/02/13 02:52 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#439 [◆vzApYZDoz6]
京介「スキルなんてものがあるから…レンサーなんてものが居るから、こんな事になったのか?」
内藤「かもしれんな。人の業、というやつだ」
京介「…」

京介は、落ちていったグラシアを追わなかった。
死んでしまったのかは知らない。少し気になったが、グラシアは京介をディフェレスに巻き込んで藍を拐った張本人だ。
京介はハルキンの話を聞いた時、不憫に思いこそはしたが同情はしなかった。

藍「…京ちゃん」

フェンスを背にして渋い表情を浮かべていた京介に、藍が寄り添うように近付いた。両手で京介の片手を握り、恥じらうように視線を落とすその姿は、なんともいじらしい。

⏰:08/02/13 04:40 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#440 [◆vzApYZDoz6]
京介「どした?」
藍「…その、お礼忘れてたし…助けてくれてありがと」

俯いたまま小さく呟く藍を見て、京介の表情が柔らかく綻んだ。

京介「いいよ、俺がしたくてした事だし」
藍「…なによ、格好つけちゃって!」
京介「って、それはちょっとひどくね?」
内藤「いいじゃないか、ツンデレ」
京介「いやいや、一体何の話?」
ライン「いいねぇ、若いって」
レイン「いや、俺達も十分若いぞ。と言うわけで嫁にならんか?」
リーザ「丁重に、お断りしますわ」
ガリアス「…恋愛、か。全くついていけんな」
ブロック「右に同じく。俺にとってはバイクが恋人さ」
フラット「上に同じく。俺にとっては以下略」

⏰:08/02/13 04:52 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#441 [◆vzApYZDoz6]
藍の一言をきっかけに、さっきまでの戦闘が嘘のように場の雰囲気が和む。
皆を一頻り見渡して、ハルキンが満足そうな笑みを浮かべた。

ハルキン「一件落着、だな」
アリサ「帰りましょ、バニッシちゃん♪」
内藤「おいやめろ、くっつくな」
レイン「あーうぜぇうぜぇ」
ライン「おもいっきりひがむな」
京介「……ま、何はともあれ、これで終わったんだな」
ラスダン「いいや。…まだ終わってないみたいだよ」

1人浮かない声のラスダンに、全員が振り返る。
ノートパソコンを具現化し、自分が今しがた頭の中で見ていた映像をディスプレイに表示させ、皆の方に向けた。

⏰:08/02/13 05:11 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#442 [◆vzApYZDoz6]
そこに映っていたのは、携帯型のミサイル等とは比較にならない程の大きなミサイル。
1基の大陸間弾道弾が、京介達がいるこの基地へ、猛スピードで飛んできていた。基地との距離を見る限り着弾まであと僅かしか無いだろう。

内藤「あいつの言ってた道連れとは、これのことか…!」
リーザ「早く逃げましょう!」

一行が踵を返し、屋上の扉へ向かう。
その時、要塞内部で大きな爆発が連続して発生した。
ハルキン「ちっ!誰かが自爆スイッチでも押しやがったか!?」

続いて起こる激しい縦揺れに要塞が耐えきれず、京介達の足下から真っ二つに分かたれた。

⏰:08/02/13 12:22 📱:P903i 🆔:Grvs9S/A


#443 [◆vzApYZDoz6]
亀裂が走った要塞屋上で、一行は完全に2手に別れた。

内藤「全員無事か!?」

内藤が辺りを見回す。
亀裂を挟んで内藤がいる側は、自分の腕にくっついていたアリサと、後ろで傍観していたハル兄弟、ガリアス。ジェイト兄弟とバイクも居た。
階段は、亀裂を挟んだ向こう側。間に走る溝は深く、階段からは脱出出来そうにもない。

ブロック「みんな掴まれ!!」

だが、内藤側には鉄の巨人がいた。屋上から飛び降りて脱出するのは可能だろう。
内藤が爆音に掻き消されまいと、声を張上げた。

内藤「ハルキン!川上!そっちは頼んだぞ!」

⏰:08/02/14 01:28 📱:P903i 🆔:E0IzjAOc


#444 [◆vzApYZDoz6]
任せろ、という京介の叫びが返ってくる。内藤はそれを確認し、鉄の巨人の元へ駆け出した。
既にエンジンを吹かして準備万端整う巨人の右腕にガリアスが、左腕にハル兄弟が掴まっている。

アリサ「早く!♪」

アリサが大振りに手招きする。自爆の影響で激しく縦に揺れる屋上を這うように走り、アリサを抱え込んで、ちょうど巨人の肩にあたる突起に手を掛けた。

フラット「しっかり掴まってろ、舌噛むなよ!いくぜ!」

アクセルを吹かし、クラッチを弾くように離す。
駆け出した巨人がフェンスを突き破り、内藤の体に浮遊感が生まれる。
次に訪れるであろう落下感に備え、内藤が片目を強く瞑った。

⏰:08/02/14 01:38 📱:P903i 🆔:E0IzjAOc


#445 [◆vzApYZDoz6]
京介「藍、走れるか!?」
藍「大丈夫!急ごう、京ちゃん!」

京介とハルキンの居る階段側に別れたのは、戦力はさして大きくない藍とラスダン、そして手負いのリーザ。
怪我人を守らねばならぬ状況で、懸命に非常通路の大螺旋階段を降りていた。
京介が藍の手を引きながら落ちてくる瓦礫から藍を守り、ハルキンが手負いのリーザに肩を貸しながら瓦礫を潰して道を開く。ラスダンが脳内で頭上を視て状況を見極め、出来るだけ落下物の少ない道を先導する。
そんな風に、出来るだけ全力で螺旋階段が終わる2階に到着した。

ハルキン「あと少しだ!」
京介「よし…うわっ!」

⏰:08/02/14 01:50 📱:P903i 🆔:E0IzjAOc


#446 [◆vzApYZDoz6]
要塞のどこかで2次爆発が起きた。
立っていられない程の揺れと耳をつんざくような爆音。それに加えて、さっきよりも大きな瓦礫が、まるで壁のように落ちてくる。
1階へ降りる階段は廊下の端。だが、そこまでの道程の間に落ちてきた瓦礫が立ち塞がった。

京介「道が!」

行く手を阻まれ、全員が足を止める。
激しい縦揺れでまともに走れていなかった為、巻き込まれる事は無かった。
だが振り返るとそこにも降り注ぐ無数の瓦礫が。

ハルキン「こっちもか!」

瓦礫に挟まれ密閉空間となった廊下から脱出するには、床を壊すしかない。
だがそれよりも先に、瓦礫の塊が京介達の頭上に襲い掛かった。

⏰:08/02/15 01:05 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#447 [◆vzApYZDoz6]
京介「くそっ!」
藍「きゃっ!」

藍が咄嗟に目を瞑り、京介が落ちてくる瓦礫を叩き散らす為身構える。
ハルキンの空間制御は間に合わない。これだけの数と質量の瓦礫を潰しきるのは不可能に近い。
それが分かっていてもハルキンが構えた、その時。

廊下の壁を勢いよく突き破って、無数の隼が現れた。
その隼は全て純白で、体は肉ではなく紙吹雪の塊。
不意の出来事に京介の動きが止まるが、瓦礫の方は隼が次々と粉塵に変えていき、落ちてこない。
程無くして、隼が突き破り穴が空いた壁から、青い巾着袋を片手にクルサが出てきた。

クルサ「危ないところだった…」

⏰:08/02/15 01:15 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#448 [◆vzApYZDoz6]
京介「あっ!あんたは確か…えーっと…」
ハルキン「クルサ!助かったぞ!」
京介「それだクルサ!ありがとう!」
クルサ「うん…くっそ、バニッシの奴こっぴどくやってくれた」

クルサは右手に巾着袋を持ち、左手で右肩を押さえている。
片足を引き摺り苦し気な表情を浮かべるその姿は、内藤に倒された時のダメージを負ったままのようだ。
頭上では隼が最後の瓦礫に突進し、落ちてくる瓦礫は一段落した。
だがしかし、直ぐに次の瓦礫がやってくるだろう。
ラスダンがクルサに肩を貸したのを確認し、ハルキンが床を見据えて拳を振りかぶる。
だがそれは、壁が豪快に吹き飛んだ事によって邪魔された。

⏰:08/02/15 01:27 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#449 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「今度は何だ?」

吹き飛んだ壁は、クルサが出てきた穴の対面側。
ハルキンが舌打ちをして、むせ返りそうになる土埃に鼻と口を押さえながら、かなり派手に空いた巨大な穴の向こうを見る。
そこに居たのは鉄の巨人。だが壁を破壊したのは、巨人の足元にいるハル兄弟の双砲撃だった。

ライン「逃げ道は確保してやったぞ!」
レイン「次の瓦礫が来る前に降りてこい!」
ハルキン「ええい、余計な事を…」
京介「いいから行こうぜ!」

京介が、速く走れない藍を脇に抱えて駆け出した。
ハルキンもリーザを肩に担ぎ上げ走り出す。
しかし、別段身体能力の高くないラスダンと怪我人のクルサは、初動が遅れた。

⏰:08/02/15 01:37 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#450 [◆vzApYZDoz6]
一番に穴に辿り着いたのは京介と、脇に抱えられた藍。振り返ると、すぐ後ろにハルキンが走ってきていた。
まだ奥にいるラスダンとクルサが気になったが、早く穴から飛び降りろ、と顎で指示するハルキンに促され、眼下の地上へ飛び降りた。
続けざまにハルキンが穴に到着し、担ぎ上げていたリーザを降ろす。

ハルキン「1人で飛び降りれるか?」
リーザ「…何とかいけそうですわ」
ハルキン「よし。俺はあいつらを連れて来る」

ハルキンがリーザを送り出し、まだ穴から距離のある場所にいるラスダンとクルサを見る。手助けに行こうと踏み出そしたその時。

とうとう、ミサイルが着弾した。

⏰:08/02/15 01:46 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#451 [◆vzApYZDoz6]
ミサイルの直撃によって、要塞は完全に崩壊した。
7階建の要塞、その2階から上の部分を支えていた床や壁が瓦礫となって、全てがラスダンとクルサのいる場所に落ちてくる。その数は筆舌に尽くしがたい程。
ハルキンの足が止まる。恐らく駆け寄るよりも先に、瓦礫が滝の如く落ちてきて、巻き込まれるだろう。
だが、ハルキンのいる穴からラスダンとクルサがいる場所までの道に、瓦礫は降ってこなかった。
隼の大群が、瓦礫を体で止めていた。まるで穴までの道に純白の屋根が架かったように。

ラスダンが振り返る。
そこには、巾着袋の口をラスダンに向けている、満身創痍のクルサがいた。

⏰:08/02/15 18:36 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#452 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「うわっ!」

ラスダンの体が、巾着袋から飛び出した紙の龍に飲み込まれる。
紙の龍がそのまま純白の屋根の下を駆け抜けて、ハルキンに向かってラスダンを吐き出す。
ハルキンがラスダンを受け止めるのと同時に、純白の屋根が崩れ落ちた。

ハルキン「クルサ!!」

押し潰される紙吹雪の上に、大量の瓦礫が落下する。
瓦礫の僅かな隙間から見えたクルサの顔。小さく微笑んで、顎で行けと指示する。最後にまた小さく笑って、瓦礫の山に見えなくなった。

ハルキン「ちっ…くしょうが!!」

ラスダンを抱え穴から飛び降りる。
ハルキンが着地して振り返る頃には、既に2階も崩れ落ちていた。

⏰:08/02/15 18:52 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#453 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「あいつに、助けられたか」
ラスダン「…助けられたね」
ハルキン「全く…どいつもこいつも格好付けやがって」

手負いの体では間に合わないと判断したのか、それともハルキンが空間転移を使って助けようとしていたのが分かっていたのか。
何れにせよラスダンとハルキンは、自分の身を犠牲にしてクルサに助けられたのだ。

ハルキン「またいつかここに来てやらないとな。…車に戻るぞ」
ラスダン「…了解」

2人が、他のメンバーが待つ車の元へ向かってひた走る。
背後でまだ続く崩壊。その轟音が、2人の耳に少し悲しくこだましていた。

⏰:08/02/15 19:06 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#454 [◆vzApYZDoz6]
京介達の元に2人が到着する。
基地の端、車のそばの雪原で、崩壊する要塞を眺めていた。

京介「今度こそ、終わったのか…」
内藤「ああ、終わった。どっと疲れたな」
ラスダン「クルサは…助からなかったけど、ね…」

ラスダンが静かに呟く。
内藤とアリサは、少し表情を暗くした。

内藤「ああ…見ていた」
アリサ「クルサちゃん…最後までちょっと不憫だったわね…♪」
内藤「お前が言うな」

原型をとうに失い、それでもなお崩壊し続ける要塞。
暫くの間全員が沈黙して、要塞が崩れ落ちるのを最後まで見届けた。

⏰:08/02/15 19:16 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#455 [◆vzApYZDoz6]
やがて完全に崩壊し、音も止んでいく。
ハルキンが伸びをしながら切り出した。

ハルキン「さぁ、帰るぞ」
内藤「帰るか」
ブロック「帰ろ帰ろ。早く寝たいよ」

ぞろぞろと車に乗り込む一行。
最初のメンバーで定員だったのに、救出したイルリナやアリサ、車で待機していたバンと、面子が増えた車内は、当然のように狭かった。
仕方無いので、元の形体に戻ったジェイト兄弟の2台のバイクの後ろに、内藤とラスダンが跨がる。
最後に京介が崩壊した要塞を一瞥して、トンネルをくぐり抜け基地を後にした。

ガリアスやハル兄弟とその母親の姿は、いつの間にか消えていたが。

⏰:08/02/15 19:31 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#456 [◆vzApYZDoz6]
京介達の乗った車とバイクが通り抜けた後のトンネルを、何人かが肩を震わせ歩いていた。

レイン「うー、寒っ」
ライン「やっぱり、あいつらの車に乗せてもらった方が良かったんじゃ…」
レイン「無理だろ。乗るスペースもないし」
ハル母「そうだよ!だいたいあたしらは北のローシャの民だろう、これぐらい扇風機程度だよ!」
ライン「いや…捕まってたのに何でそんなに元気なんだよお袋…」

ガリアス「しかし南国育ちの俺らには堪えるな…母さん大丈夫?」
ガリアス母「大丈夫よ…ごめんねぇ、迷惑かけて」
ガリアス「母さんは悪くないよ。早く家に帰ろう」

彼らは、きっと今後も飄々と生きるだろう。

⏰:08/02/15 19:41 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#457 [◆vzApYZDoz6]
-帰りの車内-

ラスダン「結果的に殆ど無事だし、まぁよかったよね」
ラスカ「あたしは殆ど何もやってないけどね」
ハルキン「何人か死亡フラグが立ってたみたいだが」
リーザ「それは私の事でしょうか…」
京介「藍も危なかったなー」
藍「京ちゃん…それ終わった後だからそんな簡単に言ってるんだよね?」

何かよく分からない話題で盛り上がる車内。ちなみに内藤とラスダンとジェイト兄弟は外でバイクに跨がっているため、会話に不参加。

シーナ「あっ…!要塞に刀忘れてきた!」

シーナが唐突に声を上げる。
リーザが顔をしかめた。

⏰:08/02/15 19:55 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#458 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「まぁ…そう言えば私があなたを車に運んだ時、持っていなかったわね」
シーナ「どーしよう…あれ大事な刀なのに」
ハルキン「後で取りに行けばいいだろう」
ラスダン「僕が手伝うよ。瓦礫の下にあるんでしょ?」
シーナ「じゃあお願いするね…ジェイトにも頼んどかないと」

そうこう話している内に、車はバウンサー本部に到着した。
京介は車から降り、倉庫にバイクをしまうジェイト兄弟を藍と共にぼんやりと眺めていた。そこに内藤が声を掛ける。

内藤「疲れただろ」
京介「かなり、な」
内藤「今日は寝て、明日地球に帰るぞ」

それだけ言って、内藤はバウンサー本部に入っていった。

⏰:08/02/15 20:05 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#459 [◆vzApYZDoz6]
暫くして京介も本部に入る。
用意された部屋のベッドに1人寝転んで、天井を仰いだ。

考えてみれば、たった1日の出来事。
自分と藍がここへ来た事から始まり、藍が誘拐され、闘い、藍を取り返し、グラシアを倒すまで。
グラシアが起こしたその一連の事件の動機と、その裏にある過去。
それらは全て、特殊な力…スキルと、それを持つ人間…レンサーが関わっていた。

正直、もう関わりたくはない。藍もそう思っているだろう。
その為にどうすればいいか。考えた結果、京介は1つの答えを見つける。

無言でベッドから起き上がり、部屋を出た。

⏰:08/02/15 22:26 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#460 [◆vzApYZDoz6]
-次の日-

地球に帰る京介らを見送る為に、バウンサーの面子が表に揃っていた。
ディフェレスに来て2日目。早くも地球に帰る日となった事が、京介には少し可笑しかった。

帰るには藍のスキルを使うらしいが、藍はスキルを使えない。
京介とグラシアが草原に飛ばされた時に、京介を戻すために藍のスキルを使ったのは内藤だった。
今回も内藤がスキルを使う。

京介「…ってあれ?内藤も地球に帰るのか」
内藤「当たり前だ。お前らが卒業するまで業務契約続いてるからな」
京介「そんな事務的な理由かよ…」

内藤はぶつくさと何かを言っている京介を無視して、藍のスキルを発動した。

⏰:08/02/15 22:41 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#461 [◆vzApYZDoz6]
最初に京介と藍がくぐった茶色い扉が、目の前に現れる。

京介「…本当に大丈夫か?」
内藤「大丈夫だ。早くしろ」
京介「よーし…」

京介が静かにドアノブに手を掛ける。藍が笑いながら、後ろから楽しそうに声を掛けてきた。

藍「おじゃましますって言った方がいいんじゃない?」
京介「いやー、大丈夫だろ?」

京介の顔が綻ぶ。
ノブを下げて押し開けるタイプの扉。その扉のノブである水平棒をゆっくりと下げて、ドアを開けた。
京介、藍、内藤の3人が中に入っていくと、蝶番が独りでに閉まっていく。
バタン、と閉まりきった瞬間に、扉が光を巻いて消えていった。

⏰:08/02/15 22:51 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#462 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「…行ったね」
ラスカ「行ったわね」
リーザ「行きましたね」
シーナ「行ったのね」
ブロック「行ったんだな」
バン「行っちゃったね」
イルリナ「行っt」
フラット「もういいよ!」
イルリナ「……」
フラット「あっ、いやその…ごめんなさい」
ハルキン「何をやってんだお前らは」

ハルキンが呆れたように振り返り、本部を眺めた。
グラシアに対抗する為の組織、その本部。グラシアを倒した今はもう必要ない。

ハルキン「バウンサーも…これで解散だな」
ラスダン「そうだね…」
イルリナ「さっ、私達も帰りましょうか」
バン「うん…あれ?」

バンが辺りを見回す。内藤の他に居る筈のパンデモの人間が1人、見当たらなかった。

⏰:08/02/15 23:00 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#463 [◆vzApYZDoz6]
京介らが扉をくぐったその先は、見慣れた風景。
白い壁に白い階段、側には郵便受け。そこは京介と藍の住まうマンションの1階。
元居た場所に…地球に、帰ってきた。

京介「って言ってもなんか実感ねぇな」
藍「地球とたいして変わらなかったもんね」
内藤「確かにな」
「私は初めてだからなんか新鮮ね♪」

「「「…はっ?」」」

3人が振り返る。
『何で?』と考える程度の驚きの京介と藍に対し、内藤は普段ではあり得ないぐらいに目を丸くして、開いた口がなかなか塞がらなかった。


後日、京介と藍の通う学校に、新しい保険医が着任した…とかなんとか。

⏰:08/02/15 23:11 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#464 [◆vzApYZDoz6]
-ディフェレスのその後-

バウンサーは解散した。しかし、ハルキン、ラスカ、ラスダンの3人は、衣食住揃う本部でずっと生活していた。
今日は自分の家に帰ったジェイト兄弟とシーナとリーザが、本部にやって来る日。
シーナが忘れてきた刀を回収するために、ジェイト兄弟のバイクで基地まで行き、ラスダンのスキルを使って探す予定だ。
本部で待っていたラスダンの耳に、聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。
窓から外を見る。バイクに跨がるジェイト兄弟と、バイクの後ろに乗るシーナとリーザが見えた。
外に出ようとするラスダンを、ハルキンが呼び止める。

⏰:08/02/15 23:23 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#465 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「基地に行くなら、クルサも探してこい」
ラスダン「へっ?それなら一緒に来たら?」
ハルキン「俺はスティーブの散歩に行かないと」
ラスダン「ふぅん…分かった、探しとくね」

ラスダンが踵を返し部屋を出る。
エレベーターを降り、ジェイト兄弟らの待つ表へ出た、その時だった。
ズシン、という重い音。音がした瞬間だけ、地面が揺れた。
そしてその音は等間隔に響いていた。まるで巨人が地を踏みしめる足音のように。
そしてその音は、明らかに本部の建物内から聞こえてきいる。

ブロック「あー、スティーブか」
フラット「散歩は久々だから喜んでるんじゃない?」

⏰:08/02/15 23:32 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#466 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「はっ?スティーブって犬じゃ…」
ブロック「犬だぜ?」

ジェイト兄弟があっけらかんと言い放つ。その間にも、足音は響いていた。

ラスダン「えっ…シーナとか知ってた?」
シーナ「昔見たことあるわ」
リーザ「昔はもうちょっと小さくて、まだ愛嬌があったんですけど…」
ブロック「あんだけデカいんじゃ餌代も馬鹿にならねぇんじゃねぇか?」
フラット「体長余裕で5、6メートルはあるよな」
ラスダン「…早く行こう。嫌な予感がする」
フラット「え?」
ラスダン「いいから」

ラスダンに促され、兄弟がスロットルを回して走り出す。
少し走った所で、後ろからこの世の物とは思えない程の甲高い咆哮が響いた。

⏰:08/02/15 23:41 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#467 [◆vzApYZDoz6]
-地球のその後-

京介は学校の屋上で、仰向けに寝転がっていた。

地球から帰ってきた時は既に昼になっていたので、学校を休んだ。
藍と一緒に学校を1日休んだ程度では、クラスメイトに変な噂を立てられたりはしなかった。
親にも特に何も言われなかった。どうやら内藤がディフェレスに来る前に上手く言いくるめたらしい。

寝転がったまま、ポケットから1本の細い棒を取り出して太陽にかざす。
京介は地球に帰る前の日の晩、内藤に『スキルを消去する方法は無いか』と訪ねて、その棒を貰った。

京介「『耳に入れれば減衰させれる』…って言ってたけど…本当かな」

⏰:08/02/15 23:52 📱:P903i 🆔:cxnz/jkI


#468 [◆vzApYZDoz6]
暫く棒を見詰めていると、屋上のドアが開いて藍が入ってきた。

藍「あっ、ここに居たんだ」
京介「どうした?」
藍「別に用事は無いんだけど…あっ、それ…」

藍が京介の持っていた棒に気付いた。
おもむろに制服のスカートのポケットに手を突っ込んで、何かを取り出す。
藍が見せたそれは、京介が持っている物と同じ細い棒。

京介「あっ、お前も?」
藍「抜け駆けは、許しまへんでー」
京介「…懐かしいなそれ。お残しは、だっけ」
藍「そうそう」

ちなみに、忍たま乱太郎ネタ。
知ってる人は知ってると思います。

⏰:08/02/16 00:06 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#469 [◆vzApYZDoz6]
以後、何事も無かったかのように再開。

藍「やっぱり、こういう争いを生む力なんて、無い方がいいもんね」
京介「だな。俺は普通に幸せに暮らせればそれで…」

言いかけて、言葉が止まる。
普通に幸せに暮らすために必要な物を1つ、忘れていた事に気付く。
必要な物、というより者は、京介の目の前で棒をどちらの耳に入れればいいか迷っている。
これを機に、いい加減ひねくれるのはやめようと思っていた。

藍「ねぇ、どっちがいいかなこれ?」
京介「どっちでもいいけど、その前に1ついい?」
藍「どうしたの?」


京介「――俺と付き合ってほしいんだけど」

⏰:08/02/16 00:14 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#470 [◆vzApYZDoz6]
それから半年が経った。

京介と藍は3年に上がり、学校はもうすぐ夏休みに入る。
3年でも京介と藍はクラスが一緒だった。
担任も同じく内藤。最近は休憩時間の度に保健室に入り浸る姿が目撃され、美人の保険医と仲睦まじいと生徒達の噂の的になっていた。

いつもと同じ朝。
いつもと同じように、マンションの一室、京介の家の前に藍が立っていた。
京介は、いつもと同じように遅刻ギリギリらしい。
待ちくたびれた藍が階段に座ろうとした時に、京介の家の扉が開いた。

藍「遅い!!」
京介「へい、すんません」
藍「まーたギリギリなんだから…早く行こ!」
京介「よっしゃ」

⏰:08/02/16 00:24 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#471 [◆vzApYZDoz6]
階段を駆け降りる。1階に着いた時に、ふと階段横の白い壁が京介の目に止まった。

ディフェレスに行った時を思い出す。
たった1日の出来事だったが、ディフェレスで出会った色々な人の顔が思い浮かんだ。その顔は、全員が笑っていた。
恐らく自分も同じ顔をしているだろう。

京介「ま、やっぱ普通が一番だな」
藍「え?」
京介「何でもない。早く行こう!」

駅に向かって小走りになる。卒業まであと半年、この道を通るのもあと半年。
だが大丈夫だろう。

2人の手はしっかりと、京介の方から握られていた。



Castaway  お わ り

⏰:08/02/16 00:44 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#472 [◆vzApYZDoz6]
アンカー
>>1-150
>>151-300
>>301-450
>>451-500

⏰:08/02/16 00:52 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#473 [◆vzApYZDoz6]
-後書き-

はい、と言うわけで御仕舞いです。
今日中に終わらせてやろうと頑張った結果少し微妙になったかもしれません。が後悔はしとらんw
続編があるか無いかは分かりませんが、一応は完結ということで。

このサイトでこんな小説はあまり無いし支持もされませんが、それでも読んで下さった方々、こんな駄文に最後まで付き合って下さってありがとうございましたm(__)m

次回作は今のところ考えてませんが、続編かもしくは似たようなの投下しようと思っております。

質問、感想、批判などは感想板へ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3130/


ではまた会う日まで
ありがとう、さようなら!

⏰:08/02/16 00:53 📱:P903i 🆔:Nvi.CgcA


#474 [アリス]
主さん,完結おめでとうございます(o>_<o)
そして,お疲れ様です

久しぶりに来たら完結してたので,びっくりしてしまいました

私はファンタジーのお話が大好きで,ここにはあまり無いので,とても楽しく読ませて頂きました
文章も読みやすく,話の構成など良く考えられている様で,凄く面白かったです

また,新作書かれるなら是非教えて下さい
楽しみにしてますね
宜しくお願いしますm(__)m

⏰:08/02/26 02:15 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#475 [◆vzApYZDoz6]
>>474
どうもです^^
結構最初から支援して下さってましたよね?
本当にありがたかったですm(__)m

ちなみに新作、というか続編がありますよw
数少ない読者様から続編書いてほしいと言われたので、期待に応えられればと…

Castaway-2nd battle-↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/7455/

もしかしたら気付いてるかもw
なんかgdgdになりそうな予感してますが、時間かかっても最後まで書こうと思ってますので
よろしければ引き続き支援くれれば嬉しいですorz

⏰:08/02/26 03:02 📱:P903i 🆔:i4wdI.cw


#476 [アリス]
あげ
凄く面白いから読んでみて下さい(〃ω〃)

⏰:08/03/07 14:16 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#477 [我輩は匿名である]
あげます☆

⏰:08/04/12 20:36 📱:PC 🆔:yaWiR6n6


#478 [◆Lv76252642]
面白かった!!
あげー

⏰:08/04/15 12:58 📱:F705i 🆔:ve948VJA


#479 [我輩は匿名である]
失礼しまーす
>>1-250
>>251-500

⏰:08/04/16 07:12 📱:SH905i 🆔:XLWPujF6


#480 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400

⏰:08/08/31 00:43 📱:W52SH 🆔:qZ0IvmPM


#481 [我輩は匿名である]
>>60-100

⏰:08/08/31 00:44 📱:W52SH 🆔:qZ0IvmPM


#482 []
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500

⏰:09/09/07 07:45 📱:SH904i 🆔:wxB5hqds


#483 [わをん◇◇]
↑(*゚∀゚*)↑

⏰:22/11/23 16:18 📱:Android 🆔:yR7K92nk


#484 [わをん◇◇]
>>440-480

⏰:22/11/23 16:55 📱:Android 🆔:yR7K92nk


#485 [わをん◇◇]
>>1-30

⏰:22/11/23 17:00 📱:Android 🆔:yR7K92nk


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194