-Castaway-
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#301 [◆vzApYZDoz6]
弟が指差した方を向く。
要塞の端に、確かに窓がある。窓があるのは2階あたりで、左右にある倉庫との連絡通路のそばにそれぞれ大きな窓が、ポツンとあった。
このまま行けば、ジャンプして後ろに乗る2人に窓を突き破らせる事は可能だろう。だが、ここは要塞だ。

兄「ああゆうのって、防弾ガラスになってるんじゃねぇのか!?」
ガリアス「大丈夫だ!」

後ろで状況を把握していたガリアスが、大声で口を挟んだ。

ガリアス「あそこは防弾にはなっていない筈だ!」
兄「よーし、それなら大丈夫だな!」

兄弟が目配せし、併走していた状態から左右に離れる。

⏰:08/01/19 18:54 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#302 [◆vzApYZDoz6]
更にスロットルを回して、窓を目指しスピードを上げた。

兄「2人とも、俺の合図で跳べよ!!」
ガリアス「よし!!」
リーザ「分かりましたわ!!」
兄「ミスんなよフラット!!」
弟「任せろ!!」

要塞との距離がどんどん縮まる。リーザは剣袋から刀を取り出した。
兄がブレーキに手をかけ、叫ぶ。

兄「行くぞ!1、2の―――3!!」

合図と同時に、兄弟が全力でブレーキを引いた。
跳び出したガリアスとリーザはその反動で宙を舞う。ガリアスは拳で、リーザは鞘に入ったままの刀で、窓に向かって一撃を叩き付けた。

⏰:08/01/19 19:10 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#303 [◆vzApYZDoz6]
防弾ではないとはいえ多少の厚みはあったが、ガリアスとリーザは窓を突き破り、そのまま中に転がり込んだ。
それを見て、兄弟が拳をぶつけ合った。

兄「よっしゃ!」
弟「上手くいったね」
兄「ああ。…俺達は待機だな」
弟「うーん、大丈夫かな…」

屋内では戦えない状態でいざというときに戦えるかどうか、不安がある。

弟「…信じるしかない、か」
兄「そうだな…よし」

兄が聳え立つ要塞を見上げ、両腕を上げて叫ぶ。

兄「頼むぜ、みんな!」

叫ぶ兄を見て弟が笑い、同じように要塞を見上げた。
要塞からは、衝撃音が漏れていた。

⏰:08/01/19 20:22 📱:P903i 🆔:YFlO93FE


#304 [◆vzApYZDoz6]
バイクの急ブレーキの反動で宙を舞う。
リーザは、刀を鞘に納めたまま逆手で柄を握り、窓に向かって全力で突き出した。
突いた部分から放射状に亀裂が走る。体を丸めてそこへ飛び込み、窓全体を突き破った。
そのまま中へ転がり込み、顔を上げる。

リーザ「とりあえず成功ですわね…でもここは何処かしら…?」

そこは狭い通路。すぐ右手に連絡通路への道が分かれているだけで、あとは階段も部屋も見当たらなかった。
リーザが立ち上がり、体のガラス片を払い落とす。
ゆっくりと通路を進んでいると、何処からか衝撃音が聞こえてきた。

⏰:08/01/20 00:50 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#305 [◆vzApYZDoz6]
更に通路を進むにつれて、衝撃音が大きくなっていく。
そこに、階段を見つけた。左折して下に下りる階段をのようで、衝撃音はそこから聞こえている。
リーザは階段を下りることにした。
直下階段を下りきると、そこは中庭のような拓けた空間になっていた。
そこの中央に向かって、無数の風船人形が蠢いている。次々と風船が吹っ飛んでいくあたり、恐らく誰かが風船に囲まれているのだろう。

リーザ「これは…助けるべきかしら」

リーザが鞘から刀を引き抜く。
風船を外側から蹴散らし、中央にいる人物に徐々に近付いていった。

⏰:08/01/20 11:21 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#306 [◆vzApYZDoz6]
レイン「おっと、誰かが加勢してくれてるみたいだぞ」
ライン「それは助かるな。減る気配がなくてしんどかったところだ」

風船人形に囲まれていたのは、ハル兄弟だった。
始めは外側の風船が吹き飛んでいたが、どんどんこちらに近付いてきている。
軈てあと2、3歩のところまで到達し、爆発のような衝撃でその辺の風船が一基に吹き飛んだ。

リーザ「あら…あなた方は」
レイン「お、あんただったのか」
ライン「出来ればこのまま加勢してほしいんだが」

3人は、迫る風船を吹き飛ばしながら会話した。

リーザ「勿論そのつもりです。ここまで来たら、私も動けませんから」

⏰:08/01/20 11:33 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#307 [◆vzApYZDoz6]
レイン「それは助かる。こいつら一向に減る気配がないからな」
リーザ「それでしたら私のスキルを使えば、多少は楽になるかと」

リーザが言いながら、一度刀を鞘に納めた。
直ぐに風船に抜き打ちを食らわせる。すると、斬った風船の切り口から爆発のような衝撃が生じ、周囲の風船と共に吹き飛んだ。

ライン「なんだそれは?」
リーザ「私のスキル『ストライクボム』です。鞘に納めた刀が、爆弾になります」
レイン「俺と闘った時はそれ使わなかったな」
リーザ「鞘に納める暇がありませんでしたから」

リーザが微笑み、再び鞘に刀を納める。
抜き打ちで、再び風船を吹き飛ばした。

⏰:08/01/20 11:43 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#308 [◆vzApYZDoz6]
リーザのスキル『ストライクボム』。
スキル発動中に刀を鞘に納めると、刀を抜いた最初の一閃だけ斬撃が爆撃と化す。
爆発の威力は、鞘に納めていた時間に比例して大きくなる。

リーザ「…まぁ相手が風船人形ぐらいでしたら、一瞬納めるだけでも十分」

リーザは抜き打ちで吹き飛ばして再び鞘に刀を納める事を繰り返し、どんどん風船を蹴散らした。

レイン「これはなかなかいいな」
ライン「兄貴、使われなくてよかったな」
レイン「それは俺の実力だ」
リーザ「さあさあ、残りを片付けましょう」

3人が笑い合う。依然大量に残る風船に向かい、散り散りに踏み込んだ。

⏰:08/01/20 11:53 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#309 [◆vzApYZDoz6]
-突入・ガリアスの場合-

急ブレーキの反動で跳び出し、窓に拳を突き立てる。
入った亀裂に体を丸めて飛び込み、窓を突き破って中に転がり込んだ。

ガリアス「成功、か。しかし…ここは何処だ?」

そこはガリアスも見た事がない場所だった。
リーザが突入した場所とは違い、こちら側は連絡通路に繋がっていない。
歩いてみると、壁に沿って通路が続いているが、勾配がついている。徐々に下っていく感じがした。
周囲に注意を払いながら暫く歩いていると、1つの扉に突き当たった。

⏰:08/01/20 13:23 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#310 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「…入ってみるか」

暫く考えたが、他に道はない。
意を決して扉を開けた。

扉の奥は、大きな部屋となっていた。
部屋の中央に何やらよく分からない機械が2つあり、4隅には柱のようなものがあった。柱からケーブルが床を伝って、中央にある右側の機械に繋がっているのが見てとれる。

ガリアス「これは…」

機械に近付いたガリアスは驚愕し、食い付くように左側の機械を覗き込む。
機械のコンソールパネルを操作すると、文の羅列が表示された。
柱は、この機械によって張られた結界に守られているようだ。

ガリアスは、無言でコンソールを操作し続けた。

⏰:08/01/20 14:10 📱:P903i 🆔:YgALv/g.


#311 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・ハルキンとラスカの場合-

ラスカ「もー、何よこの要塞?ゲリラに襲撃される訳じゃあるまいし」

ハルキンらは、2階連絡通路から4階にある管制コントロール室への、複雑かつ長い道程を走っていた。

2階フロアを横切り階段を昇る。次に兵器開発室、資料室、に繋がる廊下を渡る。廊下の突き当たりにある、3階から4階まで吹き抜けになっている兵隊修練場から4階へ上がり、修練場を出て廊下を右へ曲がった突き当たり。
そこに、管制コントロール室はある。

ハルキン「まぁ複雑なのは別に構わんが…人や風船人形すら見当たらんのは気になるな」

⏰:08/01/21 18:03 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#312 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが後ろを振り返りながら呟く。
長い道程の間には、敵兵はおろか風船人形ですら存在しなかった。

ラスカ「みんな要塞の外に出てたんじゃない?」
ハルキン「だといいがな」

ハルキンは少し不安に駆られながらも走り、管制コントロール室へ到着した。
ハルキンがゆっくりと扉を開ける。
中に入ってまず目につくのが、壁一面に映し出された巨大なスクリーン。
そのスクリーンの下では、コンピュータが無機質な音を立てて稼動している。

ハルキン「誰もいないな…」

部屋を見渡すが、人が隠れている様子もなかった。

⏰:08/01/21 18:13 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#313 [◆vzApYZDoz6]
監視カメラのモニターを映すスクリーンがあるのだから、無人施設ではないはずだ。
ハルキンは明らかに不自然だと思ったが、とりあえず目的を果たすためコンソールパネルに手を掛ける。

ハルキン「カメラ映像表示は、と…これだな」

ハルキンが少しパネルを操作すると、各場所の映像が巨大スクリーンに分割表示されて映された。
ハルキンとラスカが順番に目で映像を追っていく。

ラスカ「あっ、見てこれ。リーザじゃない?」

ラスカが指差した画面には、大量の風船人形を次々と蹴散らしていくリーザとハル兄弟の姿が移し出されている。

ハルキン「なるほど、外に風船がいなかったのはこれか」

⏰:08/01/21 18:22 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#314 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ん?こっちは京介とラスダンか」

ハルキンが違う映像に目をやった。
京介らのいる場所はどうやら2階で、迷っているかのようにウロウロと動いていた。

ハルキン「そういやラスダンのスキル使えなかったんだっけな」

ハルキンがコンソールに手を伸ばし、暫く操作していると、電子音が鳴った。
スクリーンには『特殊結界解除完了』と表示されている。

ハルキン「これでよし、と」
ラスカ「会長!ちょっと見てよこれ、どういうことかしら?」

ハルキンが顔を上げ、ラスカが指差す方に顔を向ける。
3階の物資保管庫前に、アリサと肩を並べて歩く内藤が映っていた。

⏰:08/01/21 18:32 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#315 [◆vzApYZDoz6]
ラスカ「何で内藤がアリサと…?」
ハルキン「簡単な事だろ」

ハルキンが内藤の映像から目を離し、違う映像を探し始めた。
軈てハルキンの視線が1つの映像で止まる。クックッと含み笑いをしながら、その映像を指差した。

ハルキン「つまり…こういうことだ」
ラスカ「え…誰?」

映っているのは、牢獄。
若くはないが、端麗な顔立ちの女性が、ベッドに座っていた。

ハルキン「あ…お前知らないんだっけ?って言っても俺もこの人は写真で見ただけだが」
ラスカ「…?よく分からないんだけど」

ラスカが難しそうに眉間に皺を寄せた。

⏰:08/01/21 18:40 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#316 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「とりあえずこの人が先かな。…場所は地下1階か」

ハルキンが踵を返し、部屋の扉へ向かう。

ラスカ「えっ、藍ちゃんは?」
ハルキン「恐らく司令室だろう。京介のスキルは『写された』が、内藤なら大丈夫だろうしな」
ラスカ「司令室、ってここには無いね…」

ラスカがスクリーンを見上げた。
殆どの映像に人はいない。先程見つけた映像以外に、誰かが映っているカメラはないようだ。

ハルキン「まぁ司令室の場所は分かる。今はこっちが先だ」
ラスカ「…ま、いっか。了解」

ラスカが小走りで部屋を出る。それを確認し、ハルキンが歩き出した。

ハルキン「地下1階へ…イルリナの救出開始だ」

⏰:08/01/21 18:50 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#317 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・京介とラスダンの場合-
管制コントロール室のスクリーンには、依然2階を彷徨いている京介とラスダンの映像が映し出されていた。


京介「はーっ、ここはどこなんだよ…」
ラスダン「分からないけど進むしかないよ…」

京介達は今、要塞の2階の講堂にいた。
15分程前、大物資倉庫地下牢から中央要塞に入ってきた。入った場所は地下1階電力供給室。
要塞に入ってすぐラスダンのスキル『サイレントハッカー』を試してみたが、やはり使えない。
仕方無いので適当に歩いているとエレベーターを発見したので、2階へ上がってきた。
そして、何処へ行けばいいのかさっぱり分からず、迷っている。

⏰:08/01/21 22:58 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#318 [◆vzApYZDoz6]
京介「大将なんてだいたい天辺にいると思うんだけど」
ラスダン「あのエレベーターは2階までしか無かったからね…」

悪態をつきながら講堂を出る。
その時、ラスダンが急に足を止めた。

京介「あれ、どうしたんだ?」
ラスダン「いや、今『思念』が飛んできたから…」
京介「なんて?」

ラスダンは答える代わりに、手を前に翳す。
使えなかった筈のサイレントハッカーの映像が映し出された、ノートパソコンが出現した。

京介「あれ?使えてるんじゃん」
ラスダン「どうやら会長が妨害結界を解除したみたいだよ」
京介「へー、やるじゃん!」

⏰:08/01/21 23:08 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#319 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「とにかく内部構造はこれで分かる」

ラスダンがパソコンを消して、頭の中で要塞の映像を見る。

ラスダン「藍ちゃんは、5階の司令室だ」
京介「行道分かる?」
ラスダン「ちょっと複雑だけど、大丈夫だよ。行こう!」

声を合図に京介達が走り出した。
途中までは管制コントロール室への道程を辿る。4階へ上がったら左へ曲がり、更衣室前を通って突き当たりにあるエレベーターに乗る。
エレベーターの階数表示は4階と5階しかなかった。

京介「よし…!待ってろ藍!」

迷わず5のボタンを押す。
軈てエレベーターが5階に到着し、ドアが開く。
そこには、既に内藤とアリサがいた。

⏰:08/01/21 23:19 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#320 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・内藤とアリサの場合-

京介らが、道が分からず彷徨っていた頃。
内藤とアリサは、司令室へ繋がる唯一のエレベーターで、5階に到着した。
司令室の中はさっぱりとしていた。絨毯が真っ直ぐ奥まで続き、4・5段の階段を上った先にある、まさに王座といった感じの椅子に、グラシアが座っていた。
その隣には、機械類が繋がれ無駄にゴツくなっている椅子に藍が座わらされていた。眠らされているようで、意識はない。
グラシアは座ったまま、まるで毎朝の挨拶のように内藤に向かって手を上げた。

グラシア「やぁ、てっきり川上京介が先に来ると思っていたが」
内藤「貴様…」

⏰:08/01/21 23:40 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#321 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「今までのお給料はキッチリ払って貰うわよ、グラシアちゃん♪」

グラシアが内藤の隣のアリサに気付き、声を上げて笑い出した。

グラシア「ははは!どうしたんだアリサ?イルリナがどうなってもいいのか?」
アリサ「あら、京介ちゃんのスキルを支配したら、どうせ用済みになるんじゃなくって?♪」
グラシア「よく分かってるじゃないか…その通り、既に彼女は俺に必要の無い人間だ」

グラシアは一頻り笑い、まだ含み笑いをした。
その時、内藤らの背後のエレベーターの扉が開き、京介とラスダンが現れた。

⏰:08/01/21 23:50 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#322 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「や、川上京介。遅かったじゃないか」

グラシアはまたも余裕の顔で手を上げた。
京介は椅子に座らされて眠っている愛を見て、額に青筋を立て叫ぶ。

京介「藍を返せ!」
グラシア「この子のスキルはまだ支配できていないのでね…残念ながら返す訳にはいかない」

グラシアが藍の髪を撫で付ける。
京介は眉間に皺を寄せ、より一層顔が強張った。

京介「…その手で…藍に触んな!」
グラシア「ん?触られたくないなら止めたらどうだい?」
グラシアが余裕の態度なのに警戒心を抱くべきだったが、京介は怒りでグラシアを殴ることしか考えていなかった。

京介「上等だてめぇ!」

⏰:08/01/21 23:58 📱:P903i 🆔:QgkZYMa6


#323 [◆vzApYZDoz6]
内藤「待て川上!」

内藤が我を忘れて飛び出した京介を制止しようとしたが、間に合わない。
京介は一気に踏み込んで振りかぶり、不気味に笑うグラシアの顔面に渾身のストレートを撃ち出した。
しかし、その拳はグラシアまであと数mmのところで止まった。
京介の拳が帯電したように紫電が走り、微細な稲光が光る。いくら拳を押し付けようにも、グラシアには届かなかった。

グラシア「どうした?触られたくないんじゃないのか?」

グラシアが眼前で意地悪くにやついた。まだ右手で藍の髪を撫で付けているのを見て、京介の額に再び青筋が走る。

⏰:08/01/22 00:07 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#324 [◆vzApYZDoz6]
京介「とりあえずその手を退けやがれ!」

今度は藍を撫でている右腕目掛けて、右足を蹴り上げた。
しかし結果は同じ。蹴り上げた京介の足は見えない何かにぶつかり、グラシアには届かない。何度も拳や蹴りを撃つが、その度に弾かれた。
ならば投げ飛ばそうと掴み掛かるが、やはり見えない何かに阻害され、グラシアに手が届く前に弾かれる。
何も知らない人がここだけ見れば、よくできたパントマイムだと感心するかもしれない。

京介「くそっ…!」
グラシア「止める気は無いのかな?ならば向こうへ帰ってもらおうか」

そう言うとグラシアは藍を撫でるのをやめて、右手を腰に構えた。

⏰:08/01/22 00:17 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#325 [◆vzApYZDoz6]
京介は無駄な攻撃で体力を使い、息が上がっていた。そこへ、グラシアの素早い掌呈突きが繰り出される。
腹目掛けて放たれた掌呈をかわすことも出来ず、体をくの字に曲げて内藤らの元へ吹っ飛んだ。

ラスダン「大丈夫!?」
京介「くっそ…何で当たらないんだ?」
内藤「不用意に突っ込むんじゃない」

困惑する京介を尻目に、内藤がグラシアを見据えた。グラシアは再び椅子に座りながら、余裕の顔で内藤らを見る。

グラシア「…バニッシ、君は少し気に入らないんでね。遠慮なくやらせてもらうよ」
内藤「好きにしろ。それから、今は内藤だ」

⏰:08/01/22 00:31 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#326 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「おっとその前に」

グラシアが、わざとらしく大振りで手を突きだし、踏み込もうとする内藤を制止した。

内藤「何だ?」
グラシア「いや、邪魔が入っては困るのでね。川上京介、アリサ、ラスダン。君達は…『動くな』」
京介「…は?」

京介が何を言ってるんだこいつは、という風に目を細め、内藤のそばに行こうとする。
だが、京介の体は目と口以外全く動かなくなっていた。驚いて目で周囲を見回すと、ラスダンとアリサも動きが止まっているようだ。

京介「あれっ…何で動かないんだ?」
内藤「そうか…『写し』は終わってたんだっけか?」
グラシア「その通り」

⏰:08/01/22 00:49 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#327 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは言いながら立ち上がり、藍が座る椅子の後ろから、風船人形を引っ張り出した。

グラシア「この風船にはね、川上京介、君のスキルがコピーされている」

グラシアが京介の方を向いて、風船を揺らしながら説明しだした。

京介「俺の、スキル…?」

京介は、分からない事だらけで困惑していた。

グラシア「そう。説明しようか…私のスキルは『アナザーコンプリート』。人体支配とスキル支配、2つの支配を使う事ができる」

グラシアがゆっくりと椅子に腰掛けて、頬杖をつく。

グラシア「この風船は、リッキーが君のスキルをコピーして貼り付けたものだ」

⏰:08/01/22 01:14 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#328 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「私はこの風船に『スキル支配』をかけた。そうする事で、君のスキルを手に入れようと思ってね。ただ、リッキーがスキルをコピーするには、敵がスキルを使用した状態を視認する必要があるんだ」

グラシア「そこで、バウンサー本部にリッキーを送り込んだ。彼の体に、相手にスキルを強制使用させる特殊な周波を出す機械を埋め込んでね。…コピーは成功、私は君のスキルを手に入れた。ただ、リッキーに機械を埋め込みっぱなしにしたせいで、君は地下牢で再びスキルを発現したようだがな。まぁ、彼はもう用済みだったが」
京介「あいつは…使い捨てだった訳か」

⏰:08/01/22 01:23 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#329 [◆vzApYZDoz6]
京介は動けぬ体で、歯をくいしばりグラシアを見据えていた。

グラシア「まあ、そう怒るなよ。…そうしてコピーし、今使用しているのが、君のスキル『スレイブオブキング』だ。自らを絶対的な『王』とし、他人の『行動選択権』を支配するスキル―――要するに、他人を思い通りに操れる、ということだ」

グラシアが京介を一瞥し、右手で藍の頭を撫でた。

グラシア「…君のスキルはそうして手に入れた訳だが、この子はなかなか目を醒ましてくれないのでね」
京介「てめぇ…!」

眠る藍を見て京介が歯をくいしばるが、体が動かない。
そんな京介の気持ちを察したのか、内藤が後ろ手で京介を制した。

⏰:08/01/22 01:39 📱:P903i 🆔:PI.xtWT2


#330 [我輩は匿名である]
内藤「川上、お前は動けないだろ。下がってろ」
グラシア「バニッシ、まさか君ごときが支配者クラスである私に勝てるとでも?」
内藤「やってみなければ分からんだろう」
京介「支配者クラス?」

次々と疑問が浮かぶ京介を、グラシアがめんどくさそうに一瞥した。

グラシア「なんだ、何も知らないのか?」
京介「そりゃちょっと前まで普通の高校生だったんだから」
内藤「それは俺が説明してやる」

内藤が、なぜか勝ち誇ったような顔をしている京介をちらっと見た。
グラシアは頬杖をついたまま、見下すように京介達を眺めている。

グラシア「それは助かる…説明してやれ」

⏰:08/01/23 00:16 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#331 [◆vzApYZDoz6]
↑は俺です。なぜか酉が無くなってましたorz

⏰:08/01/23 00:18 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#332 [◆vzApYZDoz6]
内藤「支配者クラスってのは、お前やグラシアの持ってるような、何かの『支配者』となるスキルの事を指す。
ちなみにそれ以外のスキルは、種類によって分類される。俺やアリサなら『操作』スキル、ラスダンなら『調査』スキルだな」
京介「へー…って、何でそれだけで内藤があいつに勝てないかもって事になるのさ?」
内藤「支配者クラスのスキルは…身体強化能力が最初から付加される。しかもかなり協力なヤツが、な。お前も覚えがあるだろう」
京介「……そういやリッキーと最初に闘った時は、あっという間に風船を蹴散らせたような…」
グラシア「もうその辺でいいだろう?」

⏰:08/01/23 00:30 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#333 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが不意に口を挟んだ。目を細め眉間に皺を寄せ、飽々したようにこちらを見ている。

内藤「…ふん、そういえば俺はお前を倒しに来たんだったな」

内藤が向き直り、重心をゆっくりと落とした。
部屋の奥にいるグラシアとの距離はおよそ7m。内藤なら一瞬で詰め寄れる距離だ。
見えない何かに守られているグラシアとどう闘うか、そんな思案を巡らせながら、地につけた足に力を入れ踏み込もうとしたその時。

グラシア「ああ…言っておくが、闘うのは私じゃない」

グラシアが座る王座の前の小階段に、黒い円柱が煙を巻いて出現した。

⏰:08/01/23 01:43 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#334 [◆vzApYZDoz6]
現れたのはクルサだった。4年前と変わらずその顔は無表情で、その口は無言で閉ざされ、その視線は俯いたまま。
そんなクルサを前にして、内藤の視線がクルサを通り越してグラシアを一瞥する。静かに目を閉じながら、右ポケットから煙草を取り出した。

内藤「京介のスキル使ったりクルサを使ったりバリアを使ったり…」

呟きながら煙草をくわえ、先端に着火した。深く煙を吸入し、溜め息と共にゆっくりと吐き出していく。

内藤「お前は自分の力で闘おうともしないんだな」
グラシア「何とでも言いたまえ。むしろ今人の力を借りたいのは君なんじゃないか、バニッシ?」

⏰:08/01/23 21:43 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#335 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは椅子の背凭れに体を預け、見下ろすように内藤を眺めていた。その目は完璧に格下を見る目だ。

グラシア「私が自分の力を使わなくとも、今私が有利な状況は変わらないだろう?」

グラシアは言うと、視線をクルサに向けながら、顎で内藤を差した。
後ろに居て見えてもいないグラシアの動きにクルサが反応し、右手に巾着の青袋を具現化する。袋の口が独りでに開き、紙吹雪がクルサの周りを舞った。

グラシア「…だいたいクルサを支配しているのは私のスキルを使っているからだ。れっきとした私の力だろ、バニッシ?」
内藤「自分の力?お前の思考回路はとんだ間抜けだな」

⏰:08/01/23 21:52 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#336 [◆vzApYZDoz6]
腕を組みながら煙草を吸っていた内藤が、目を細めながらグラシアを見た。煙草は既に半分程まで吸われている。

グラシア「強がりは止めたまえ」
内藤「どうかな?」
グラシア「もういい、やれクルサ」

グラシアがふっと小さな溜め息をつきながらクルサに指示する。それに呼応し、クルサの周囲を舞っていた紙吹雪が、クルサを中心にとぐろを巻くように龍の形を成していく。
クルサが左手を開き、前へ。紙龍がクルサの左腕に巻き付いた。開いた掌に重なるように、紙龍の口が内藤を向く。

クルサ「紙潜龍・紅紙炎射――カットアウト!」

内藤に向けて、紅い無数の紙吹雪が放出された。

⏰:08/01/23 22:31 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#337 [◆vzApYZDoz6]
まるで火炎放射のような紙吹雪が迫るのを前に、内藤が煙草を大きく一吸い。

内藤「仕方ないな…」

呟くのと同時に、紙吹雪が直撃する。
しかし、そこに内藤はいなかった。ただ1本の短くなった煙草を宙に残して。

京介「…あれ、内藤は…」

動けないため目だけで見ていた京介が呟きかけたその時、凄まじい衝撃音が辺りに響いた。
京介が轟音の方に目をやる。
王座にふんぞり返って座るグラシアのさらに向こう、京介がいる場所と対面の壁に、クルサの顔が叩き付けられている。
壁にめり込むクルサの顔を押さえ付けていたのは、内藤だった。

⏰:08/01/23 22:42 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#338 [◆vzApYZDoz6]
内藤「しばらく寝てろ」

内藤がクルサの顔から手を離すと、クルサがゆっくりとずり落ち、内藤の足下に力なく倒れ込んだ。
内藤が足を引き抜く。踏み込んだ足下はコンクリートの床が抉れ、捲り上がっている。
その様子を、背凭れから顔を覗かせてグラシアが見ていた。

グラシア「ほー…なかなかやるじゃないか」
内藤「どうでもいいけど、油断しすぎだ」

言い終えると同時に、グラシアの視界から内藤が消えた。
次の瞬間、グラシアの右から、バリアが何かを弾いた音が響く。

内藤「ちっ、藍にも触れないか!」

内藤は、一瞬で藍の椅子の横に移動していた。

⏰:08/01/23 22:51 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#339 [◆vzApYZDoz6]
内藤「ならこっちだ!」

内藤が今度は、藍が座る椅子の後ろにある、京介のスキルをコピーした風船に、回し蹴りを繰り出した。
だが、同じように足を弾かれる。

内藤「ふん、こっちもか。えらく臆病なもんだな」
グラシア「臆病?自分の力を発揮するための当然の策だ」

グラシアは特に慌てる様子もなく、椅子に座ったまま内藤を眺めた。

内藤「結局お前を倒すしかない、か」
グラシア「…俺を倒す?クルサを倒したぐらいでいい気になるなよ」

グラシアが呆れたような表情を浮かべ、含み笑いをする。その眼前に、右腕を振りかぶる内藤が現れた。

⏰:08/01/23 22:58 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#340 [◆vzApYZDoz6]
内藤「なら試してみるか」

内藤が、素早く重い一撃を振り降ろす。が、やはりその拳があと数mmまで迫ったところで、グラシアを覆うバリアに弾かれた。
構うものかと言わんばかりに、内藤が続けて殴り、蹴りかかる。
グラシアはバリアの内側で、馬鹿にするような目で内藤を見ていたが、やがて飽きたように目を閉じて溜め息をつき、呟いた。

グラシア「もういいよ、『動くな』」

声と同時に、殴りかかろうとしていた内藤の動きがピタリと停止する。内藤が目だけを動かし、グラシアを見上げた。

内藤「くそっ!」
グラシア「そうしているのがお似合いだ」

⏰:08/01/23 23:05 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#341 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「目の前で仲間が殺られるのを見ているんだな」

グラシアが満足げに椅子から立ち上がり、対面で止まったままの京介らに近付こうと歩き出す。視線は完全に京介らを向いていた。
内藤がそれを確認し、唇の端を釣り上げる。

内藤「なんてなると思ったか間抜け」
グラシア「なっ!?」

驚愕するグラシアの振り返り様の顔面に、内藤の拳が勢いよくめり込んだ。

グラシア「ぶっ!」

声にならない声を上げて、グラシアが京介らの近くまで吹き飛び、地面を転がった。
殴られた左頬を抑えながらゆっくりと立ち上がる。バリアで守られていた筈のグラシアの顔は、赤く腫れ上がっていた。

⏰:08/01/23 23:13 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#342 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「馬鹿な…なぜ動けた?いや、なぜバリアを破れたんだ?」

俯いたままぶつぶつと呟くグラシアの目は赤く血走り、狂気の色が灯っていた。内藤が近づいてくるのに動こうともせず、何かを言い続けている。
内藤は吹き飛んだグラシアの元まで歩いていき、防御の意思を見せないグラシアを遠慮することなく蹴り上げた。

グラシア「ごあっ!!」
内藤「さっきから馬鹿かお前は」

グラシアの体が今度は部屋の中央にもんどりうった。グラシアがゆっくりと立ち上がり、信じられないという目で内藤を見据えた。

グラシア「なぜ動けるんだ?なぜバリアを破られたんだ?」

⏰:08/01/23 23:24 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#343 [◆vzApYZDoz6]
内藤「そりゃ俺が凄くてお前が馬鹿だからだろ」

内藤が冷ややかな目でグラシアを見た。先程とは違い、内藤がグラシアを見下しているかのよう。

グラシア「馬鹿な!スキルは完璧にコピーした筈だ!川上京介から『スレイブオブキング』のスキルを!」

グラシアが発狂したように叫びながら京介を指差す。
内藤の強さを目の当たりにして間の抜けた顔をする京介とは対照的に、グラシアの顔は強張り、額には青筋を立て、目は赤く血走っている。

内藤「あのなぁ、だからお前は馬鹿だって言うんだよ」

⏰:08/01/23 23:31 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#344 [◆vzApYZDoz6]
内藤が呆れたように後頭部を掻いた。

京介のスキル『スレイブオブキング』は、自らを絶対的な『王』とし、他人の『行動選択権』を支配する、というもの。
そして内藤は、そのスキルの持ち主である京介の、学校の担任だ。

内藤「…例え京介が王であろうと、担任を支配出来る訳ないだろ?お前はそんな京介のスキルをコピーしたんだ、俺を支配できる訳ないだろ。馬鹿かお前は」
グラシア「なっ…!?」
京介「ってそんな理由!?」

京介とグラシアが唖然として口を開ける中、内藤は1人涼しい顔をしていた。

内藤「そういうわけで京介、お前がスキル使えたからって学校の成績は上がらないぞ」

⏰:08/01/23 23:39 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#345 [◆vzApYZDoz6]
京介「いや、それかなり無理矢理な感じがするけど…担任だから、って」
内藤「自分が慕う先生を支配しようとは思わんだろ?まぁ諦めろ」
京介「そんな殺生な!」

談笑する2人を目の前に、グラシアは深刻な顔をしていた。

グラシア(馬鹿な…!スキルは実際に内藤が支配から逃れているから話は本当だろうが…なぜバリアを破れたんだ!?ミサイルの直撃も防ぐバリアだぞ!?)

グラシアが思案を巡らせる。
内藤のスピードは跳ね上がっているが、今食らった攻撃はそんなに強い訳じゃない。内藤の攻撃でバリアが破れたとは考えにくかった。
物理的原因ではないとすれば――

グラシア「…発生装置か」

⏰:08/01/23 23:58 📱:P903i 🆔:I.ywfF/k


#346 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「あー、めんどくせえな」

コンソールを操作し続けていたガリアスは、部屋の4隅の柱に掛けられた結界を解除していた。
バリア発生装置となっている4本の柱のうち3本が、逆さになって地面に突き刺さっている。逆さになっていない残る1本の柱に近付きながら、ぶつくさと文句を垂れた。

ガリアス「ったく、別に俺が闘う訳でもないのに、何で発生装置なんか壊してるんだ俺」

残る1本に手を翳す。ガリアスのスキル『ヴィエロシティー』により、柱が風切り音を出しながら部屋の中を光速で飛び回る。
ガリアスが翳した手を振り降ろすと、逆さになった柱が床に激突し突き刺さった。

⏰:08/01/24 00:06 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#347 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「…まったく」

グラシアが、怒りを吐き出すように息を吐いた。顔を上げ、細めた目で内藤を見据える。

グラシア「自分の思い通りにならないと、こうも苛々するのか」

グラシアはの怒りは既に最高潮まで近付いていた。肩は小刻みに震え、手は自然と拳が握られている。

グラシア「どいつもこいつも…バニッシごときに…」
内藤「やられているのは、お前に力が無いからだよ」

怒りに震えるグラシアに気付いた内藤が、強い口調で言い放った。

内藤「他人の力に頼ってばかりで努力しようともしない。そんなお前が、4年間死に物狂いで努力した俺に勝てると思うか?」

⏰:08/01/24 00:13 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#348 [◆vzApYZDoz6]
内藤「そして他人の力を失ったお前は、今俺にボコボコにやられている」

内藤が再び煙草を取り出した。余裕をかましながら火をつける内藤をグラシアが賤しく眺める。

グラシア「うるせぇよ…お前はもう『喋るな』!」

怒りで我を忘れてか、効かないと分かっている京介のスキルを発動する。
内藤は煙草の煙を深く吸った。ゆっくりと吐き出しながら、哀れみを込めて言う。

内藤「バーカ、やなこった」グラシア「ああそうか…」

グラシアが何かを企んでいるかのように怪しい笑みを浮かべた。
次の瞬間、バックステップで一気に王座まで戻り、依然眠ったままの藍を素早く抱え上げた。

⏰:08/01/24 00:21 📱:P903i 🆔:SoaPGRjY


#349 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「ならこの娘だ!」
内藤「しまった藍を!」

内藤が踏み込むより早く、グラシアが背後の窓ガラスを突き破る。直ぐ様燦に乗って内藤らを一瞥し、そのまま窓から飛び下りた。

内藤「くそっ!」

内藤が慌てて窓から身を乗り出す。降下するグラシアの足下には中庭のような空間が広がっていた。
司令室は5階で、下は恐らく1階。壁に取っ掛かりも無いのに飛び降りるのは危険かもしれない。
ふと、対面の中庭の端からグラシアの着地点に向かって走る人影が、3人見えた。
着地しようとするグラシアに思い切り攻撃する3人を見て、内藤が安堵と真剣さの混じった息を吐いた。

⏰:08/01/25 01:01 📱:P903i 🆔:piHG.QUc


#350 [◆vzApYZDoz6]
内藤「…とりあえずは大丈夫か」

内藤が振り返ると、まだ動けないでいる京介とアリサとラスダンが見えた。

内藤「っと、まだ動けないままか。仕方ないな」

内藤が、さっきまで藍が座っていた椅子に一足で近付き、風船人形に手を掛ける。さっきまで触れる事が出来なかった風船に触れられたのは、発生装置が機能を停止させている事を示唆していた。
内藤が風船の顔に拳を叩き付ける。風船は散々に割れて、それと同時に動けないでいた3人の体に突然自由が戻った。

アリサ「やっと体が戻った♪」
ラスダン「てゆうか僕ら絶対存在を忘れられてたような…」

⏰:08/01/26 18:05 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#351 [◆vzApYZDoz6]
京介「それよかあいつを追い掛けないと!」

京介がすぐに振り返り、エレベーターのボタンを押す。4階と5階を往復するだけのエレベーターは、すぐに京介らの居る5階に到着した。
京介、ラスダン、アリサに続いて、内藤もエレベーターに乗り込む。京介が4階のボタンを押し、扉を閉めるボタンに手をかけようとしたところで、内藤が唐突に口を開いた。

内藤「川上…焦るなよ。自分の力を自覚するんだ」
京介「えっ?」

思わず振り返ると、内藤は少し俯いて腕を組んでいた。京介は言葉の意味が分からなかったが、内藤はそれ以上何も喋りそうにない。
エレベーターの扉は、そうこうするうちに閉まった。

⏰:08/01/26 23:32 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#352 [◆vzApYZDoz6]
-中庭・京介らが5階に到着する15分前-

拳が空を切る音と風船が弾ける音が連続で響く。時折、小爆発の音と共に幾体かの風船人形が宙を舞う。
ハル兄弟とリーザが風船人形を潰し始めてから、既に20分近く経過している。初めは中庭を埋め尽くす程に無数の風船人形が蠢いていたが、今はもうハル兄弟とリーザの周囲に居る数十体を残して、それ以外の全ては残骸と化して中庭の地面を覆っていた。

リーザが『ストライクボム』を使うために刀を鞘に納めた回数は、最早数え切れない程。残りも少なくなった風船を前に、リーザが何回目かも分からない鞘納めをする。

⏰:08/01/26 23:51 📱:P903i 🆔:ug1pEsy.


#353 [◆vzApYZDoz6]
これまでは一瞬納めただけですぐに抜刀していたが、今度は刀を抜かない。その様子を尻目にした兄弟が、息を切らしながら背中を合わせて話し掛けた。

ライン「だいぶ数も減ってきたし…」
レイン「できるだけ1ヵ所に集めてみようか?」
リーザ「お願いしますわ」

よし、と小さく頷き、兄弟が左右に分かれて跳ぶ。周りを囲む風船の外側に着地した。
兄弟が風船の腕を掴み、次から次へと中庭の端へ投げ飛ばす。リーザは鞘を持つ左手以外の四肢を使い、風船の単純な攻撃を往なしている。
30秒程で中庭の端に全ての風船が積み上げられる。もがきバラけようとする風船よりも先にリーザが踏み込んだ。

⏰:08/01/27 00:03 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#354 [◆vzApYZDoz6]
リーザが納められた刀の柄に手をかけ、鞘をしっかりと握り直す。
一瞬足が止まり、次の瞬間には一閃の光と鍔鳴りの音を残して、積み上げられた風船の後ろに居た。鞘には刀が納められたまま。
その刀は、一度抜かれていた。
突如として、積み上げられた風船の中腹から爆発が起こり、辺りに散々になった風船の残骸が飛び散る。
リーザがゆっくりと立ち上がり、振り返る。唇を持ち上げながらこちらに歩いてくる兄弟に微笑んだ。

ライン「やっと終わったな」
リーザ「ええ…疲れました」
レイン「それにしても全くふざけた数だな。なんでここにこんなに風船が居るんだ」

⏰:08/01/27 00:16 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#355 [◆vzApYZDoz6]
3人が辺りを見回す。
本来なら芝生が生えている中庭の地面は、風船の残骸が覆い尽くして黒いビニールだらけになっている。

レイン「まぁ…今は考えても仕方がないな。とりあえずグラシアを…」

喋り声を遮るように、ガラスが割れる音が響いた。
音がした方を見ると、上からバラバラとガラス片が落ちてくる。続いて落下してきたのは、ハル兄弟にとっては憎役の人間。

レイン「お、今日はついてるな。向こうから降ってきやがった」
ライン「そりゃカウントダウンハイパーで2位だったからな」
リーザ「行きましょう!」

リーザの掛け声と同時に、3人が走り出した。

⏰:08/01/27 00:38 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#356 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「ぶはぁ!!」

内藤を見上げながら落下していたグラシアの腹に衝撃が走る。
飛び出したハル・レインの蹴りが鳩尾にめり込んでいた。

グラシア「貴様…!」
ライン「おっと、余所見はすんなよな」
グラシア「ぶふっ!」

今度は後頭部。ハル・ラインがダブルスレッジハンマーを食らわせた。
続いてリーザが飛び出し、抜刀して斬りかかる。が、斬撃は寸でのところでグラシアの左手に止められた。

グラシア「小癪な!」

グラシアが刀を振り回し、リーザ諸とも吹っ飛ばす。上手く着地したリーザの両隣にハル兄弟が跳んできた。着地するグラシアに立ち塞がるように周りを囲んだ。

⏰:08/01/27 00:48 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#357 [◆vzApYZDoz6]
ライン「これはこれは、どーも社長」
レイン「ウチの母親がすっかりお世話になったみたいで」

グラシアを指差しながら、からかうように話す。リーザはグラシアの退路を絶つように後ろに回り込んだ。
グラシアがゆっくりと息を吐く。怒りは既に臨界点を通り越し、逆に冷静さを取り戻していた。

グラシア「…まったく次から次へと…」
レイン「まぁまぁ、そう怒らないで。お世話になった代金は労災保険で支払いますから」
ライン「心優しい社長なら、今まで働いた分の給料貰えますよね?」
グラシア「は…こんな気分は久しぶりだよ」

その時、グラシアの体に変化が起きた。

⏰:08/01/27 04:54 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#358 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの着ていたスーツが破ける。
額には角のような突起が現れ、手や胸板は甲殻類のように硬質化していく。
全身の筋肉が急速に膨張し厳のように赤くなる。人間の5倍はあろうかという圧倒的な体躯がスーツの破れカスを体に巻き付けて、尚膨れ上がっていく。

グラシア「一体なんだろうな…何もかもがどうでもよくなるようなこの気分は」
ライン「それは…オヤジのスキル!!」
レイン「貴様! まさかオヤジにまで手を掛けたのか!?」
グラシア「君達がこの要塞に住み込んだ後でね。家に1人残されては可哀想だろう?」
リーザ「なんて非道な…!」

⏰:08/01/27 10:26 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#359 [◆vzApYZDoz6]
膨張した体躯から繰り出される圧倒的な腕力はダイヤモンドですら砕き、歩くだけでコンクリートを押し潰す圧倒的な脚力にはチーターですら敵わない。
それはイルリナのスキルを使い手に入れたハル兄弟の父親のスキル『レッドデーモン』。
あまりの膨張率に湾曲した背中の筋肉が、赤い鬼の顔に見える事からその名がつけられた。

グラシア「俺の『アナザーコンプリート』では、スキル所持者を殺してしまうとそのスキルが使えなくなるからね。その点では、『ライフアンドデス』は優秀だ」
リーザ「と言うことはまさか…」
グラシア「彼は逃げたからね…仕方がない」

⏰:08/01/27 10:38 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#360 [◆vzApYZDoz6]
ライン「貴様…なぜだ!? 俺達は忠実に働いた筈だ!!」
グラシア「君達はテーブルの食べ残しをずっと置いておくのか?」
レイン「オヤジはお前の晩飯だった、とでも言うのか!」
グラシア「そうだな、なかなか魅力的な晩飯だったよ。まあ…カレーライスぐらいかな」
レイン「貴様…!!」
ライン「よくもオヤジを殺したな!」
グラシア「いや、死んだかどうかは見ていない。部隊が断崖にまで追い詰めて、崖から飛び下りたそうだ。眼下の海に死体は見付からなかったがね」
ライン「なんだ、驚かせやがって」

グラシアの言葉を聞き、ハル兄弟は顔を見合わせて笑いあった。

レイン「それぐらいであのオヤジが死ぬ訳がないだろう」

⏰:08/01/27 10:49 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#361 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「それぐらいでって、普通死にますわよそれ」

グラシアの後ろで、リーザが呆気に取られた顔をした。

ライン「オヤジは普通じゃないからな。だが、今までこき使われたんだ」
レイン「落とし前はキッチリ取って貰うぜ」

兄弟が腕を突きだし、いつかのバイク乗りと対峙した時のように構える。

ライン「俺達をしっかり覚えてな」
レイン「お前を殺すのは、俺達ハル兄弟だ!」

膨れ上がった体躯の一番上に付いている顔がハル兄弟を見下ろし、ふん、と鼻で笑った。

グラシア「こうなったらお前らで鬱憤を晴らしてやろうか…愛する父親のスキルで千切れ死ね!」

⏰:08/01/27 10:59 📱:P903i 🆔:aI5Q63wk


#362 [アリス]
あげます(^U^♪)

⏰:08/01/28 03:52 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#363 [◆vzApYZDoz6]
>>362
どうもです^^
最近忙しさがかなり加速してて、更新できない日もあるかもしれないです(´`)

今から少し更新します

⏰:08/01/28 16:17 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#364 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが膨れ上がった右腕を無造作にふりかぶる。
その時に胸部が初めて顕になり、左脇に抱えられた藍が見えた。

レイン「おっと、あれは確か助けなきゃいけない子だよな?」
ライン「参ったな。派手に戦えそうにもない…っと!!」

2人の会話を遮るように右腕が乱暴に、だがしかし凄まじいスピードで振り下ろされる。
ハル兄弟は迫る拳を飛び退くようにかわして二手にわかれた。そのまま強大な体躯のグラシアの脇腹に潜り込み、2人同時に拳を撃ち出す。
しかし、鉄を殴ったような反響音が響いて、兄弟の拳から血が滲み出るだけだった。

⏰:08/01/28 16:28 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#365 [◆vzApYZDoz6]
ライン「むぅ…やはり痛い」
レイン「馬鹿野郎、これぐらい我慢しろ」
グラシア「チョロチョロと邪魔だ蟻共が!」

グラシアが右腕1本で両脇腹に潜り込んだハル兄弟を薙払う。兄弟は思わず血が出た拳を振りながら、薙払いをバックステップでかわした。
そこへ、藍をグラシアから奪い返そうと飛び掛かったリーザが放り投げられてきた。
リーザは上手く着地しながら、困ったような顔をして兄弟に呟いた。

リーザ「藍さんをグラシアから引き剥がさない事には、私のスキルも使えません…どうにかならないでしょうか?」
レイン「それならいい方法が…ちょっと」

⏰:08/01/28 16:36 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#366 [◆vzApYZDoz6]
ハル・レインが横目でグラシアを警戒しながらリーザを手招きし、何やら耳打ちした。

レイン「……ってな具合だ。ちなみに、今はスキルは?」
リーザ「発動中ですわ」
レイン「よっしゃ。行くぞライン、対オヤジ戦法だ」
ライン「おっ、久しぶりにやるか兄貴」

3人が小声の会話を終えて、グラシアに向き合う。会話する3人に特に何もせず、むしろ余裕といった感じに立ち尽くしていた。

グラシア「作戦タイムは終わったかな?」
レイン「待ってくれるとはいい奴だな」
グラシア「何…君達が負けるという結果は変わらない」
レイン「ならやってやろうか。…2人ともタイミングを合わせろ、行くぞ!」

⏰:08/01/28 16:44 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#367 [◆vzApYZDoz6]
3人が一斉に駆け出す。ハル兄弟が平行に並んで走り、その後ろをリーザが追う形。

今グラシアが使用しているスキル『レッドデーモン』は、ハル兄弟の父親のスキル。ハル兄弟はそれ故に、対処方を熟知していた。
発動中は外皮が鉄のような硬さを持ち、1対1では到底敵わず、また外部からいくら打撃を与えても大したダメージにはならない。
そんなスキル発動中の人間に攻撃を当てる方法は限られている。鋼鉄の皮膚をも裂く程の威力の攻撃を叩き込むか、若しくは皮膚の硬さなど関係ない肉体内部に直接ダメージを与えるか。
藍を抱えているグラシアには、後者の方法を使うしかない。

⏰:08/01/28 16:55 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#368 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが兄弟を迎え撃つために右腕を振り上げた。
その時、左を走ってきていたハル・レインが、一瞬視界から消え去る。次の瞬間には、グラシアの眼前にまで飛び上がっていた。

グラシア「小癪な!」

回し蹴りを繰り出すハル・レインに向かって、振り上げた拳を叩き付ける。が、またしても拳が当たる寸前に視界から消え失せた。
と同時にハル・ラインが踏み込み、一気に懐まで入り込んだ。グラシアが舌打ちをしながら、自分の顔の前にあった右拳を振り下ろすように叩き付ける。が、それも空振り。

グラシア「ちっ…小賢しい!」
ライン「後ろだよ赤鬼野郎!」

⏰:08/01/28 17:13 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#369 [◆vzApYZDoz6]
声に反応し後ろを向いた瞬間。

レイン「ツインキャンサー大鵬打撃奥義!」

振り下ろして地面を砕き割り、地面にめり込むように止まっていた右拳の上に、ハル・レインが拳を腰に据えながら着地した。
後ろを向いた時に一瞬見えたハル・ラインに気を取られ、拳に着地したハル・レインへの反応が遅れる。
それを見計らったかのように兄弟が同時に胸部に飛び込み、拳を握り締めた。
狙うは――心臓。

レイン&ライン「――ハートブレイク・ショット!」

ハル・レインが前から、ハル・ラインが後ろから、裏当てを使って心臓を撃ち抜いた。

⏰:08/01/28 17:24 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#370 [◆vzApYZDoz6]
力点と作用点を『ずらす』のが裏当て。
胸筋と背筋に撃ち込まれた拳の威力は皮膚を突き抜け、グラシアの心臓で互いにぶつかり合い炸裂した。
グラシアの心臓は体内で弾け散り、嘔吐感と共に大量の血液が食堂をさかのぼる。

グラシア「ぐっ…がはっ!!」

体内に致命傷を食らい、片膝をついて血を吐き出した。
降り注ぐ鮮血を避けるように、懐に入っていたハル・レインが後ろに飛び退いた。
ハル・レインが退がる隣を、リーザが鞘に納まれた刀の柄に手を掛けながら駆け抜ける。懐に入り込み、止まらぬ血を吐き出し続けるグラシアの無防備な大口に向かって、神速の刺突を繰り出した。

⏰:08/01/28 17:36 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#371 [◆vzApYZDoz6]
突き出された刀の切っ先は、外皮の硬さが影響しない口の中を通って脳に到達する。

リーザは、5階から窓を破って降りてきたグラシアに攻撃した後に、刀を鞘に納めてスキルを発動した。以降この瞬間まで抜刀される事はなく、刀は納めっぱなしにされていた。
その時間、約4分30秒。戦闘前に兄弟とグラシアが言い争っていたのが、思わぬ功を奏した。

リーザが素早く剣を引き抜き、刀身を鞘に滑らせて刀を納めていく。

リーザ「その残忍な頭脳…一度シェイクして差し上げましょう」

チン、という小さな鍔鳴りの音と同時に、グラシアの脳に届いた裂傷が頭蓋の中で大爆発を起こした。

⏰:08/01/28 18:00 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#372 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが頭をガクガクと奮わせて白目を向いた。頭部のあちこちに亀裂が走り、どす黒い血液が筋となって噴き出していく。
噴き出した血はグラシアが吐き出した血と混ざりあい大きな血溜りとなり、そこへグラシアがゆっくりと俯せに沈んでいった。
グラシアの赤く硬い皮膚の内側で、心臓は完膚なきまでにその機能を停止させ、脳は原型が分からぬ程に磨り潰され、その体は最早生物的に死んでいた。
グラシアは、今自分が倒れた事すら分かっていないだろう。
3人は血の海に臥すグラシアを一瞥して、交互にハイタッチを交わした。

⏰:08/01/28 22:08 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#373 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「ふふっ、少し可哀想な事をしてしまいましたね」
ライン「いや、俺達をタダ働きさせた罰だぜ」
レイン「全くだ。これがオヤジなら今頃コブラツイスト掛けられてるな」

談笑しながらも、ハル兄弟の顔はどこか浮いていなかった。
ハル兄弟のハートブレイク・ショットは壮絶な親子喧嘩の末に編み出された技。だが相手が父親なら踏み込んだ時点でハル・レインは跳ぶ前に撃墜され、ハル・ラインは懐に入る前に蹴り飛ばされていただろう。
無論、ハル兄弟も父親も本気で戦った事など無い。
父親へだけの技だったハートブレイク・ショットを本気で使ったのが、少し悲しかった。

⏰:08/01/28 22:35 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#374 [◆vzApYZDoz6]
レイン「さーて、とっとと帰るか」
ライン「先にお袋迎えに行かないとな」
リーザ「あっ、私も藍さんを助けないと」

リーザが慌ててグラシアの元へ駆けていく。それを見ながらハル・レインが伸びをして、階段の元へ踵を返した。
そこへちょうど、息を切らしながら京介達が降りてきた。
こいつらより先にグラシアを倒したのは不味かったかな、等と考えていたハル・レインの視界に写っていたのは、予想外に険しい顔をしている京介や内藤の姿。
どうしたのかと思い話し掛けようとすると、内藤が不意に叫んだ。

内藤「リーザ!!」

⏰:08/01/28 22:58 📱:P903i 🆔:b5xYdHV2


#375 [◆vzApYZDoz6]
内藤の叫び声とほぼ同時に、何かが潰れるような鈍い音が背後から響いた。
ハル・レインが驚いて振り返る。グラシアを倒したと思い、気を抜いて藍を引っ張り出そうとしていたリーザが、赤く膨れ上がった巨大な右手に捕まれていた。
脳を破壊され死んでいた目には光が戻り、心臓を破壊されしぼみかけていた体は再び膨らみ始めている。
リーザの腹部にはグラシアの太い爪が食い込んでいた。

リーザ「かっ…ぐぅ…!」
ライン「馬鹿な!?」
グラシア「くくく、その程度か?」

グラシアが膝をつきながらゆっくりと立ち上がる。藍を左脇に抱えたまま、リーザを掴む右腕を振り回した。

⏰:08/01/29 00:46 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#376 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「そらよ!」

振り回すスピードは凄まじく早い。近くにいたハル・ラインに逃げる暇を与えず回転に巻き込んで、既に意識の無いリーザごと後ろの壁に投げ飛ばした。

ライン「ぐあっ!!」
レイン「ライン!!」
グラシア「おっと、余所見していていいのか?あれだけ離れればツインキャンサーの効果は無いぞ」

グラシアが右腕を引いてハル・レインに向かい振り下ろす。
乱暴に、だが凄まじいスピードで振り下ろされた拳は、ツインキャンサーの効果が切れて身体能力が低下したハル・レインに避けられるものでは無かった。
あっという間に吹き飛ばされ、京介らが居る階段の側の壁に激突し気を失った。

⏰:08/01/29 00:57 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#377 [◆vzApYZDoz6]
京介「みんな!」
内藤「遅かったか…!」

気絶したハル・ラインをつまらなさそうに一瞥するグラシアを、内藤が今にも飛び出しそうな京介を制しながら見据える。
3人が気を抜ききっていた事や、グラシアの足下にある大量の血溜りから見ても、グラシアが1度やられたのは間違いないだろう。
恐らく再生系の、かなり強力なスキルを使ったはず。同時使用ができるのはライフアンドデスの力か。
内藤はそんな思案を巡らせながら、グラシアの能力を確かめるために少しずつにじり寄る。
グラシアが、視線は逸らさず忍び足でこちらに来る内藤を見て、馬鹿にしたように鼻で笑った。

⏰:08/01/29 23:41 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#378 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「来るなら来い…と言いたいところだが、生憎私は君らと戦う暇など無いのでね。戦いたければ追いかけてくるんだな」

勝ち誇ったように言い放つと素早く後ろを振り返り、京介らの対面の中庭出入口に向かって駆け出した。
内藤がすかさず追い掛けようとするが、グラシアの走るスピードはとんでもなく早い。あっという間に姿を見失ってしまった。

内藤「くそっ!逃げ足だけは早いな」

内藤が一旦止まり、舌打ちをしながら振り返る。こちらに走ってくる京介越しに、ラスダンとアリサに叫んだ。

内藤「俺は奴を追う!!リーザ達を頼んだぞ!!」

⏰:08/01/29 23:57 📱:P903i 🆔:mb3nTzbM


#379 [◆vzApYZDoz6]
了解、という叫び声が返ってくる。
内藤は感謝の意を込めて片手を振り上げ、振り返って京介と肩を並べて走り出した。中庭を出て、再び要塞の中に入ると、グラシアに付いた血液が足跡となり点々と続いていた。

内藤「おっ、ご丁寧に足跡残してくれてるな」
京介「それにしてもあいつ…あんな急いで何処に行くつもりなんだ?」
内藤「さぁな。小便にでも行きたかったんじゃないか?」
京介「えー…」

馬鹿馬鹿しい程に胡散臭そうな顔を作って唸る京介にイラッと来て、内藤が平手を振り上げた瞬間。
遠くから、大きな衝撃音と共に床が小刻みに震え、続いて瓦礫が崩れ落ちるような音がした。

⏰:08/01/30 01:17 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#380 [◆vzApYZDoz6]
突然の騒音に驚いて足を止める。それはどうやら上の階から発生したようだ。

京介「なんだ?」
内藤「ちっ、我慢できなくなってトイレを破壊しやがったか」
京介「いや絶対違うと思うそれ」

気にはなりつつも再び足跡を追って走り出す。コンクリートに付けられた血の足跡を追い掛けて角を曲がると、そこには階段があった。
余程急いでいたのか、足跡は2段飛ばしで付いている。

京介「あいつ上に昇ったんだ…てことはさっきの音はあいつか?」
内藤「ほら見ろ。グラシアは今、膀胱を抑えて走り回ってる筈だ」
京介「いや…うん。そのネタ引っ張りすぎ」

京介は、正直しんどいと思った。

⏰:08/01/30 02:08 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#381 [◆vzApYZDoz6]
-バリア発生装置がある部屋-

部屋の4隅にある、発生装置である小さな柱は、全てが逆さになって地面に突き刺さっている。柱に繋がっていた制御ケーブルは引き千切れて、ケーブルが繋がっていた制御装置の画面は電力供給用コードが切断されており光が失われていた。
ガリアスはその制御装置にもたれ掛かかって座り込み、虚に宙を仰いで考えていた。
この発生装置はグラシアが使っていたため、要塞内でも普通の通路から隔離され独立していた。

ガリアス「…ここどうやって出ればいいんだろ」

⏰:08/01/30 22:12 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#382 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスが項垂れるように溜め息をつく。
バリア発生装置があった事すら知らなかったガリアスには、実は隠し扉が存在する事など知る由もなかった。
破ってきた窓まで戻るのは如何せん面倒。この隔離空間から出る方法はガリアスには1つしか思い浮かばなかった。

ガリアス「仕方ねぇな…壁ぶち壊すか」

ガリアスは立ち上がり、もたれ掛かっていた制御装置に手を当てる。
ヴィエロシティーの光速移動能力を制御装置に使って、部屋の壁に全力で叩き付けた。
大きな衝撃音が響き破片が飛ぶ。だが音はそこでは終わらず、瓦礫が崩れ落ちるような音が続いていた。

⏰:08/01/30 23:24 📱:P903i 🆔:tKsLXZlI


#383 [◆vzApYZDoz6]
反響音はどんどん小さくなるが、なかなか消えない。気になって、開けた穴から周囲を見回した。

ガリアス「あれ、ここって…非常階段じゃん」

吹き抜けの空間に、階段が大きな螺旋を描きながら上下に伸びている。複雑な要塞の中で唯一、地下2階から6階の上の屋上まで全エリアと繋がっている階段だが、要塞の端に位置するため普段は使われていない。
だが、その階段を掛け上っている人物が見えた。
その人物は開いた穴から出てきたガリアスを見下ろして一瞥し、何事も無かったかのように視線を戻す。
再び螺旋階段を掛け上がる人物に、ガリアスが叫んだ。

ガリアス「グラシア!!」

⏰:08/01/31 20:13 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#384 [◆vzApYZDoz6]
体は赤く変色し膨れ上がっていたが、顔は変わっていない。巨大な体躯には狭すぎる階段を凄まじいスピードで上がっていくその人物は、紛れもなくグラシアだった。
ガリアスがすぐに穴を飛び出し螺旋階段を駆け上がる。大きな円周を描きながら勾配を付ける階段の壁には、グラシアがその体躯を擦った跡がついていた。
ガリアスのヴィエロシティーは、自分には能力を使えない。有り得ないスピードで駆け上がるグラシアには到底追い付けなかった。
グラシアがあっという間に屋上まで到達して、屋上の扉を開ける。
それを見たガリアスは、懐からジェイト兄弟に渡された無線機を取り出した。

⏰:08/01/31 20:22 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#385 [◆vzApYZDoz6]
-要塞屋上-

低めのフェンスに囲まれた空間に、白いコンクリートが広がる。その端にある扉が勢いよく開け放たれ、グラシアが出てきた。
遠くの空を仰いで、唇の端を釣り上げて呟く。

グラシア「よし…いい頃合いだ」

グラシアの視線の先には、こちらに向かって飛んでくる1基のヘリコプターが写っていた。それはただのヘリコプターではなく、迷彩が施され、プロペラは3つ付けられた軍用ヘリコプター。
次第にバラバラと響くローターの回転音が大きくなり、続いてプロペラが生み出した直下風がグラシアの髪をなびかせる。

⏰:08/01/31 20:40 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#386 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「こんな所にもう用はない。逃げる事になるのは癪だがな」
ガリアス「逃げられねぇよ!」

開け放たれたままのドアから、ガリアスが息を切らして現れる。しかし、グラシアが不気味な薄ら笑いを浮かべて振り返ると、ガリアスの体が吹き飛んだ。

グラシア「お前にはどうにもできんよ」

そう言い放つグラシアの背後には、ヘリコプターがもう間近に迫っていた。徐々に減速するヘリコプターを見上げながら、着地点にゆっくりと歩いていくグラシアに、ガリアスが呟く。

ガリアス「言ったろ、逃げられねぇよ」

掻き消される呟きが聞こえていたかのように、鉄の巨人がフェンスの奥から飛び出した。

⏰:08/01/31 20:54 📱:P903i 🆔:.ut2PBe.


#387 [名無しの書き手さん◆vzApYZDoz6]
ブロック「また俺達の出番だぜ!」
フラット「屋上に出たのは間違いだったな!」

ジェイト兄弟の駆る鉄の巨人は、その両足に付いたローラー車輪でフェンスを駆け上る。
身体には飆を纏い、両手にはその体躯に見合う巨大な両刃剣を握り締めて、ヘリコプターに飛び掛かった。

グラシア「なにぃ!?」

両手を天に掲げてヘリコプターを見上げていたグラシアの悲鳴に近い叫び声と同時に、綺麗に両断されたヘリコプターがやりすぎ感のある爆発を起こした。
大きな爆音で揺れる屋上に、鉄の巨人が爆煙を巻いて滑るように着地する。
風が逆巻く両刃剣を構え直し、グラシアに向き合った。

⏰:08/02/01 17:35 📱:P903i 🆔:PBa5kcbA


#388 [◆vzApYZDoz6]
フラット「こっからは逃げられやしねぇぜ!」
ブロック「そんな可愛い子を汗臭い汚い脇に挟むなよ!」

鉄の巨人が、挑発するように刃先をグラシアに向ける。グラシアの体は常人では考えられない程膨張していたが、鉄の巨人はそれよりもさらに大きく、黒光りするその車体が圧倒的な威圧感を持っていた。
中庭から立て続けに造反を食らったグラシアの怒りは既に心頭状態だった。
唇をひくつかせながら何かを言おうとするグラシアの後頭部に、今度は鉄製の何かがぶち当たる。
当たったのドア板。後ろを見れば、ドアが引き千切られて無くなった螺旋階段への入口に、ガリアスが立っていた。

⏰:08/02/01 17:52 📱:P903i 🆔:PBa5kcbA


#389 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「お得意のバリアは使わないのかよ?」

グラシアにドアをぶつけたガリアスが、得意そうな笑みを浮かべる。
グラシアは自分の後頭部にめり込むドアをゆっくり剥がし、地面に立てて置いた。

グラシア「ああ、発生装置に何かしたのはやはりお前か。…ふざけやがって!」

置いたドアを、ガリアスに向かって思い切り蹴りつける。回転しながら凄まじいスピードで元へ飛んでくるドアを、ガリアスは寸での所で避けた。
避けたガリアスの元へ、血走った目と引きつった笑みを浮かべながらグラシアが歩いていく。

グラシア「この怒り、どうしてくれようか?」
フラット「俺達にぶつければ?」

⏰:08/02/02 12:26 📱:P903i 🆔:V0kcwsys


#390 [◆vzApYZDoz6]
両刃剣ジェイトソードの鋒が、グラシアの首筋に突き付けられる。言いながら巨人の左腕が両刃剣の柄に伸び、突き付けた刃と反対側、巨人の懐に伸びる刃とそれに付いた柄を割り折るように、離した。逆手に持つ左手の剣を手元で回し、順手に持ち変え岡っ引きのようにグラシアに突き付ける。
その様は、正に二刀流。
突き付けられた二枚の刀身越しに、グラシアが巨人を睨む。異様に細めたその目からは危険な香りが漂っていた。
それに臆することなく、弟が言い放つ。

フラット「さぁて、兄貴にばっかり見せ場はやれないぜ」

飆が逆巻く巨人が握る双剣に、一瞬紫電が走った。

⏰:08/02/03 22:26 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#391 [◆vzApYZDoz6]
紫電は直ぐ様大きくなり、バチバチと弾ける音を立てながら、刀身を蛇のように包み込む。
足元から全身を逆巻く飆。両手に携えられた武器に宿る稲光。
その様は、巨大な漆黒の体に風神と雷神を一挙に宿したよう。

フラット「『プラズマアウト』。能力は…見りゃ分かるだろ」

稲妻を纏う双剣を突き付けたまま、巨人の首元のコクピットからグラシアを見据える。
対するグラシアは、惚けたような顔で巨人を見上げていた。

グラシア「……うびょ…規…」
ブロック「は?」


蟻が呟いたような小さな声。
次の瞬間、グラシアと後ろで見ていたガリアスが同時に巨人の下へ駆け出した。

⏰:08/02/03 22:45 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#392 [◆vzApYZDoz6]
フラット「え、何?」

戸惑いながらも弟が両腕を操り、稲妻を纏う双剣を振り下ろそうとする。
だがその腕は全く動かない。その事態をいち早く察知した兄が、ならば退くぞと足を操作。
だがこれも動かない。コントローラとなっているハンドルやクラッチ、アクセルは動くのに、鉄の巨人がそれに対し全く反応を示さない。電子回路でも潰されたのか、というずれた考えが兄の頭を過った。
そんな兄弟など余所に、グラシアが拳を腰に構える。ジェイトソードの刀身分、およそ5mの距離をほぼ一足で懐まで詰め寄り、赤く変色し肥大した拳を撃ち据える。
それを阻害したのは、独りでに宙を舞った双剣だった。

⏰:08/02/03 22:59 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#393 [◆vzApYZDoz6]
動かない巨人の手から双剣が飛び出し、うち1本が巨人の懐に飛び込もうとするグラシアの進路を阻むように地に突き刺さる。
立て続けにもう1本がグラシアを狙う。目の前に突き刺さった大剣が邪魔でそれ以上前に踏み込めず、舌打ちをしながら懐から離脱した。

ガリアス「そのスキルは知ってる。あいつらが武器を出しててよかった」
グラシア「…ふん」

グラシアが、阻害したガリアスを賤しく睨み付ける。
突き刺さった双剣が抜かれ、紫電を纏ったままガリアスの頭上に滞空した。

ガリアス「はっきり聞くけど…何秒?」
グラシア「分からない方がスリリングじゃないか?」

⏰:08/02/03 23:11 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#394 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「同時に2つ操るとスピード落ちるんだけどなー」

グラシアとガリアスが踏み込んだ。
今度は剣を突き立てず、払うように斬りかかる。グラシアがそれを往なし殴りかかる所を、もう1本で防ぐ。殴れば剣の紫電にやられるために仕方なく退くグラシアに、払われた剣を突き立てる。
グラシアに圧倒的な体躯とスピードで後れを取る分、ガリアスは双剣とそれに纏う稲妻で補っていた。
素手のゴリラと、特殊警棒を持つ猿のような戦いを、巨人を止められ為す術のない兄弟が眺めていた。

フラット「あれ…出番は?」
ブロック「どうやら俺達は武器提供しただけみたいだ」

⏰:08/02/03 23:25 📱:P903i 🆔:8OogwqYw


#395 [◆vzApYZDoz6]
戦いを見詰める。時間は長いようで短い。鉄の巨人が動きを止めてから、まだ20秒ぐらいしか経っていないだろう。
とその時、戦う2人に異変が起きた。
グラシアが頬を歪ませながら兄弟を一瞥したかと思うと、ガリアスが見計らったように1本の双剣の柄にしがみつく。もう1本を、動けない巨人へ向けて飛ばし付けた。

フラット「ちょっ…!」

弟が、動かないと知りつつ反射的に腕を操作する。
だが、腕は動いた。巨人が紫電を纏う大剣を受け取ると同時に、グラシアがしがみついたままヴィエロシティーの力で離れようとするガリアスに叫ぶように言った。

グラシア「10秒規制!」

⏰:08/02/04 00:02 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#396 [◆vzApYZDoz6]
瞬間、剣にしがみついていたガリアスの動きがピタリと止まる。慣性など無視して、反動もなく完全に止まった。
グラシアがそれを尻目に、今度は巨人に向かって踏み込む。巨人の左腕が動き剣を受け止めたのを見ていた兄が、一瞬の判断で足を操作した。
足も動いた。大気を撃ち据えるグラシアの拳をなんとか避けながら、解除していたブラストハイドを再び発動。
凍り付いたように動かないガリアスがしがみついているもう1本の大剣の元へ、地を蹴って駆け出した。
拳が空を切ったグラシアは一旦滑るように止まって再び踏み込み、鉄の巨人へ迫る。グラシアに追い付かれる前に、巨人が大剣を手にした。

⏰:08/02/04 00:12 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#397 [◆vzApYZDoz6]
フラット「どらせいっ!」

右手をガリアスがしがみつく剣に伸ばしながら、左手の剣を後ろに振るう。
無造作に振るわれた一閃はかわされたが、右手は剣を逆手に捕まえていた。振り返り様に、腕を回すように剣を払う。

フラット「食らえプラズマ!」

剣に纏っていた紫電が、斬撃を肥大させるように放電した。
まさか剣から電撃が撃たれるとは思っていなかったグラシアに、その電撃が浴びせられる。

グラシア「ぎゃっ!」

いくら筋肉が膨らみ皮膚が硬くなろうとも、元は人間。
声にならない声を上げて、地面を転がるように鉄の巨人から離れた先には、屋上の入口。

内藤「おいおい、みっともねぇな」

⏰:08/02/04 00:24 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#398 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「くそっ!」

グラシアが飛び退くように離れ、フェンスの側に駆け出す。グラシアが走る先には、ヘリコプターを爆破された時に一旦その手から離れた藍がいた。

内藤「おっと浅香はあんなところにいたのか」

思わず京介が飛び出さんとするところを内藤が制する。その時、入口から更にぞろぞろと声がした。

ライン「おい兄貴、俺達をみっくみくにした赤鬼さんは今、多勢に無勢だ」
レイン「それはいい情報だ。みっくみくにし返してやるか」
リーザ「あなた達、治りが早いですわね…私もシーナがいればこれぐらい…」
ラスダン「駄目だよ喋っちゃ!」
アリサ「内藤ちゃん大丈夫?♪助けに来たわ♪」

⏰:08/02/04 00:38 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#399 [◆vzApYZDoz6]
中庭で倒れた3人と介抱していた2人も追い掛けてきた。
ハル兄弟は自己治癒力を片方に順番に注ぎ込んだらしく、傷はすっかり治っている。リーザはラスダンに肩を借り、包帯代わりに腹の傷に巻いているラスダンの上着には血が滲んでいる。アリサは飄々と内藤に視線を送っていた。

内藤「…なんだこの大所帯」

入口の騒がしさを余所に、止まっていたガリアスに動きが戻る。
それを合図に戦える面子が、藍に腕を回し爪を突き立てるグラシアに向き合った。
多勢に無勢、最早追い詰められたグラシアは、とうとう最後の手段に打って出た。

グラシア「…動けば…こいつの命はないぞ」

⏰:08/02/04 00:53 📱:P903i 🆔:a0Cu9JGg


#400 [◆vzApYZDoz6]
京介「てめえ…」
内藤「駄目だな…見ろ、あいつの目。ありゃ犬の目だ」

京介や内藤達の戦える面子がにじりよる。が、グラシアはフェンスを背にしているため、なかなか背後を取れない。
その上、今のグラシアはレッドデーモンのスキルにより身体能力は大幅に上がっている。下手に動けば藍が殺される状況下、京介らは動くに動けなかった。

グラシア「犬の目、か。畜生とでも何でも言うがいい…だがな」

グラシアが爪を藍の首筋に突きつける。浅く刺さった爪の先から血が滲み出た。

グラシア「そうなれば最早関係無いぜ?」

⏰:08/02/05 01:28 📱:P903i 🆔:D0w4yy/Y


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