-Castaway-
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#101 [主◆vzApYZDoz6]
ウォルサーの戦闘部隊はジェイト兄弟によって殆どが撃破され、壊滅的な打撃を受けていた。
後ろには無数のヘリや戦車の残骸が転がる中で、鉄の巨人が足を止める。
目の前には、ゲームで見たことがあるような、手足がついた戦車が5機。側面にはREXと書いてある

兄「…メタルギアがあんなにいるなんて聞いてないんだが」
弟「つうか切実に著作権とか大丈夫なのかなこの小説」

弟のリアルな心配を余所に、2足歩行戦車達が一斉に襲い掛かった。

⏰:07/12/23 07:11 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#102 [主◆vzApYZDoz6]
2足歩行戦車達の持つガトリングガンが、一斉に火を吹いた。兄の操作により、滑るような動きで銃弾をギリギリかわしていく。
そんな中、アームのコクピットに座る弟は、2足歩行戦車をどう倒すか思案していた。

弟「グレネードはもう無いし、バルカン砲じゃ倒せないだろうし…どうしようかな」

弟は依然ガトリングガンを撃ち続ける2足歩行戦車を見た。見たところ敵の装備は、対戦車ガトリングガンに対歩兵マシンガン。背中にはミサイルのようなものが見える。

⏰:07/12/23 07:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#103 [主◆vzApYZDoz6]
弟「ん?メタルギアでミサイルつったら…まさかスティンガー?」

弟の予想は的中した。ガトリングガンが当たらないと見るや、2足歩行戦車達が膝をつき前屈みになり、背中のスティンガーミサイルを撃ち出した。その数、1機につき3発、計15発。

弟「しかも多いし!」

弟が鉄の巨人の右腕からチャフグレネードを撃ち出す。多数のチャフ片が辺りに舞い散り、スティンガーの追尾機能を麻痺させた。
兄がすかさず右へ飛び、さっきまで鉄の巨人がいたところが爆煙に包まれる。

⏰:07/12/23 11:51 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#104 [主◆vzApYZDoz6]
息をつく暇を与えず、爆煙を巻き2足歩行戦車が踏み込んでくる。いつの間にか腕がチェーンソーのようなものになっていた。
巨人が素早く横へ飛び込み紙一重でかわすが、さらに他の2足歩行戦車が追撃してくる。5機を避けきれず、巨人の肌に傷がついた。

弟「うーん、こりゃヤバいねどうにも」
兄「いや、思い出したぜ」

鉄の巨人の足元から飆が巻き上がり、頭まで上がった後その巨体に絡み付く。その姿は、バウンサー本部での戦いで内藤が使ったスキルのよう。

兄「バニッシ…じゃねぇや、内藤に『ブラストハイド』のスキルを渡したのは、この俺だ」

鉄の巨人が、風よりも速く駆け出した。

⏰:07/12/23 12:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#105 [主◆vzApYZDoz6]
兄「ジェイトソード出すぞ!」
弟「了解!」

ジェイト兄弟がハンドルのボタンを同時に操作し、巨人の両腰に位置していたスタンドが飛び出す。
剣を両手に握り、そのまま柄を合わせた。

弟「ツインジェイトソード!」

振り下ろされた巨大な両刃剣が、2足歩行戦車1機を袈裟懸けに真っ二つに切り裂いた。
機能を停止し膝をつく1機を尻目に、残り4機に刃を向ける。

弟「さぁ、こっからが本番だぜ!」

⏰:07/12/23 14:22 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#106 [主◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・ラスダンとラスカの場合-

扉を開けると、そこは予想に反して薄暗い。広い空間のようだが、灯りが点いている照明が少なかった。
壁には段ボールやコンテナ等が積まれている。どうやら戦車が格納されていた向こう側の建物と違い、完全な倉庫のようだ。
もう1つの扉から入れるであろう場所とは、壁で仕切られていた。ハルキンがその壁に地図を発見し、要塞の構造を確認する。

ハルキン「へぇー、これはまたご丁寧な地図もあったもんだな」

地図には全体像が描かれている。ハルキンとラスカが今いるのは左の格納庫で、単に真っ直ぐ行けば中央要塞に辿り着けるようだ。

⏰:07/12/24 01:10 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#107 [主◆vzApYZDoz6]
ラスカ「中心部までの道は特に問題ないとして…藍ちゃんはどこに捕まってるのかしら」
ハルキン「そうだな…管制コントロール室に行ってみよう。ここにこれだけの監視カメラがあるんだから、中央要塞にも設置されてるだろ」

ハルキンが壁と天井の境に設置されたカメラに目をやる。カメラの向く方向がオートで変わるタイプで、左右の壁に死角が無いように交互に設置されていた。
ハルキンとラスカが中央要塞に向けて走り出す。

ラスカ「これじゃ私達の行動は敵に筒抜けね…」
ハルキン「恐らく中央要塞に入ったら、いきなり攻撃される可能性が高い。注意しておこう」
ウィニー「その必要はない。お前らは死ぬからだ…今ここでな」

⏰:07/12/24 14:51 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#108 [◆vzApYZDoz6]
前方から声がした。
見ると、床との距離が10mはありそうな高い天井のスレスレを、ドラゴンに乗ったウィニーが滑空してきた。ガリアスも乗っている。

ハルキン「ん?お前誰だっけ?」
ウィニー「ふざけているのか?忘れたとは言わせないぞ」
ハルキン「……あぁ、思い出したよ」

少し考えるような素振りを見せていたハルキンが、笑みを浮かべながら言った。

ハルキン「スティーブの散歩に行くのを忘れていたよ」
ウィニー「貴様…!!」

⏰:07/12/25 09:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#109 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「とりあえず今は時間がない。さっさと終わらせて貰うぞ」

ハルキンが右拳を構え、天井スレスレにいるウィニーとの距離およそ10mを、空間制御を使い縮める。一瞬にして懐に飛び込み、渾身のストレートを撃ち出した。

ウィニー「今回は前のようにはいかない」

そう言った刹那、ウィニーが忽然と消え去り、ハルキンの拳が空を切った。ハルキンが少し驚いたような表情を見せる。

ハルキン「外した?」
ラスカ「会長後ろ!!」

戦えないため、下で結界を張り身を守っていたラスカが叫ぶ。
ハルキンが声に反応し後ろを振り返るのと、ドラゴンの尻尾がハルキンに叩き付けられるのは同時だった。

⏰:07/12/25 09:58 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#110 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが叩き付けられ地面に急降下する。ラスカが着地点に結界を張ったが、ハルキンが寸でのところで身を翻し受身をとった。
心配したラスカがハルキンに駆け寄る。

ラスカ「大丈夫!?」
ハルキン「あぁ、これぐらい大丈夫だ。奴は俺が倒すから、ラスカは自分の身を守っていろ」

ハルキンが天井近くのウィニーを見上げる。ウィニーがほくそ笑んでる後ろにガリアスがいるのが見えた。

ハルキン「よぉ、後ろの若造、今のはお前の能力か?」
ガリアス「教える訳ないだろ」
ウィニー「そうだ。お前は黙って死ねばいいんだよ」
ハルキン「お前には聞いてない…自力では何も出来ない低能が」

⏰:07/12/25 10:22 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#111 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーの顔が強張った。明らかに怒りを顕にし、表情が歪んでいる。

ウィニー「あぁ?今カイトに吹っ飛ばされた癖に粋がんなや」
ハルキン「今俺を吹っ飛ばしたのもお前じゃなくドラゴンだろ雑魚低能」

ハルキンが前回と同じような余裕の表情で喋るのを見て、ウィニーの眉間が寄り、唇の端がひきつる。

ウィニー「お前はそんなに俺に…」
ガリアス「もういいよ、喋るなお前。勘に障る」

⏰:07/12/25 11:12 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#112 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスが少し機嫌が悪そうな表情でウィニーの言葉を遮り、さらに続ける。

ガリアス「ハルキン、あんたも分かっただろう?俺のスキル『ヴィエロシティー』は物体を光速移動させることができる。あんたの空間圧縮や空間転移も、相手の位置が分からなければ出来ないだろう」
ハルキン「それがどうした?退いてくれ、とでも?」
ガリアス「その通りだ。俺は嫌でもこいつの手助けをしなくちゃならないし、あんたが邪魔をするならウォルサーの一員としてあんたを排除しなくちゃいけない」
ハルキン「……」

⏰:07/12/25 11:35 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#113 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンはガリアスと目を逸らさずに沈黙した。後ろではラスカが不安そうに、まだ天井近くを飛んでいる2人とハルキンを交互に見ていた。
ウィニーはドラゴンの上に座って肘をつき、明らかに不機嫌そうな態度をとっていた。とうとう待ちくたびれて口を開く。

ウィニー「いい加減にしろや揃いも揃って黙りこくって気持ちわりぃ!!要するにお前はどう足掻いても勝てねぇんだよ!時間稼ぎに必死か!?」

ウィニーの甲高い笑い声が響く。
ガリアスは溜め息をつきながら俯き、ラスカは不機嫌そうにウィニーを睨み付ける。
皆が嫌悪感を顕にする中、ハルキンは自分がここに入って来た扉を見ていた。

⏰:07/12/25 11:47 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#114 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「余所見してんじゃねーよ!!」

ハルキンはウィニーを無視し、扉を見つめていた。軈て笑みを浮かべながら視線を戻す。

ハルキン「あぁ、悪いな何も聞いていなかったよ」
ウィニー「ははは!逃げる算段を考えるのに必死か?」
ハルキン「俺が逃げるなんていつ言った?妄聴も大概にしときな低能」

ウィニーの唇がより一層ひきつる。目は赤く血走っていた。

ウィニー「あぁもういいよ、お前は殺す。ガリアス、やるぞ」
ガリアス「……」
ウィニー「おい聞いてんのかガリアス!てめぇには耳ねぇのか!」

ガリアスは後頭部を掻きながら溜め息をつき、ハルキンに視線を向けた。

⏰:07/12/25 12:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#115 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「本当に退く気はないのか?あんたがこのままあのドアに帰るなら、俺は追うつもりはない」

ガリアスが入口の扉を指差して言う。ハルキンは扉には目もくれず言葉を返した。

ハルキン「悪いが俺達にはスティーブの散歩よりも先に、藍を取り返すという目的があるんでな」
ガリアス「……残念だよ」

⏰:07/12/25 12:10 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#116 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスらの姿が忽然と消え去る。風切り音と共に、ウィニーの声が響いた。

ウィニー『ははは、大人しく逃げればよかったものを!あんたなら、光速移動する物体は質量が増加する事は知ってるだろう?全体重をかけて押し潰してやるよ!!』

再び声が消え、風切り音が響き渡る。
ハルキンは宙を見上げた。その表情は、前回の戦いと同じく余裕に満ちている。

前回と同じような表情で、前回と似たような言葉を口にした。

ハルキン「…さて、君はブラックホールというものを知ってるかね?」

⏰:07/12/25 12:21 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#117 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが『ブラックホール』という単語に過敏に反応した。驚いた表情で視線をハルキンに向ける。
ハルキンは宙を見上げているが、言わんとする事はラスカに伝わっていた。

ラスカ「ったく…どうなっても知らないよ!」

ラスカが自身の周りを纏っていた結界を解く。それをハルキンが横目で確認し、満足そうに唇の端を上げた。

ハルキン「ブラックホールってのは、太陽の何倍もあるような大質量の恒星が寿命を終え、超新星爆発と呼ばれる熱放出の後、自重力により星が圧縮されてできる」

⏰:07/12/25 12:48 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#118 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「ははは、ここで光さえも飲み込むブラックホールを作ろうってか!?大質量の星もないのに!?」
ハルキン「ブラックホールは飲み込んでいるのではなく、物質を微粒子レベルで破壊し自身に取り込んでいるんだ」
ウィニー「うるせぇから死ねよ!!」

ウィニーを乗せたドラゴンが突如現れた。
現れた場所はハルキンのすぐ後ろ。ドラゴンが爪を前に出し、ハルキンを今まさに千切らんとしている。
だが、ドラゴンの爪はハルキンに届かなかった。

ハルキン「『押し潰す』といっておきながら後ろからか…ゲスはどこまでいってもゲスだな」

⏰:07/12/25 13:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#119 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーは止まっていた。いや、止まっているように見えた。よく見ると、少しずつだが爪がハルキンに近付いている。1秒に1mmぐらいの、途方もなく遅いスピードで。

ハルキン「俺の周囲の空間を目一杯まで引き伸ばした。…苦労したぞ、光は1秒で地球を7周半回るんだからな」

ウィニーも、後ろのガリアスも無言で、表情も何一つ変えずに止まっている。

ハルキン「ま、お前らが光速移動する前には既に、ナメック星に行けるぐらいまで引き伸ばしてたんだ。こちらの姿は見えていても、声なんざ届いていないだろうな。…ラスカ!」
ラスカ「了解!でもナメック星って何さ?」

⏰:07/12/25 13:17 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#120 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが疑問を持ちながらも、自分のに周囲に少し余裕を持たせて結界を張る。ハルキンが引き伸ばした空間をそのままにして、空間転移で結界に入った。

ハルキン「例の手続きで地球に行った時、漫画とかいうやつで見たんだ…さて、と」

ハルキンが再び空間転移を使う。
未だに微動だにしないドラゴンの背中のガリアスが消え、ハルキンのすぐ隣に現れた。

ガリアス「なにっ…!?」
ハルキン「よしよし、やっぱりガリアスが離れても光速移動したままだな」

何が起きたか分からず周囲を見回しているガリアスを尻目に、ハルキンが今度はウィニーとドラゴンに向けて空間圧縮を使った。

⏰:07/12/25 13:26 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#121 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて、さっきの続きだ。ブラックホールにより破壊・吸収された微粒子は、強力な重力により再び粒子と反粒子として対生成される」

空間圧縮によりウィニーとドラゴンがみるみる縮んでいく。ついには見えない程までになったが、ハルキンはまだ圧縮を続けた。

ハルキン「対生成された粒子と反粒子は、再びぶつかり合い対消滅する。しかし、重力によってずれた時間軸のせいで、たまに粒子か反粒子のどっちかがブラックホールの地平面を飛び出してしまうんだ」

ハルキンが何かを確認し、引き伸ばした空間だけを元に戻した時、突然周囲に異変が起きた。
周囲のコンテナや段ボールが、ウィニーとドラゴンがいた場所に次々と飛び込み消えていく。

⏰:07/12/25 13:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#122 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ウィニーのブラックホールの完成だな。ラスカ、建物にも結界は張ったよな?」
ラスカ「勿論」

ラスカが即座に返事をした。

光速移動する物体の質量は、尋常ではないほどに増加する。小さな陽子でも光速移動させ電流を流せばブラックホールになる程、質量の増加率は高い。

ハルキン「光速移動で既に重力が発生しているドラゴンを、限界まで圧縮したんだ。まぁ、当然ああなるわな」

ガリアスは、ブラックホールと化したウィニーを、正確にはウィニーがいた空間を黙って見ていた。

⏰:07/12/25 13:49 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#123 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて…まだ続くぞ。そうしてブラックホールを飛び出した粒子は、熱放射で光って見える。これをホーキング輻射と言う」

ガリアスは、視認できない程小さなブラックホールに、物が飛び込んでいくのを見続ける中で、一瞬だけブラックホールが光った気がした。

ハルキン「この輻射によってエネルギー、つまり質量を失うと、取り込んだ質量によって拡大するブラックホールは質量を失う事になる」

やがてブラックホールの光はどんどん増えていき、まるで星が輝いているかのように目映く煌めく。

⏰:07/12/25 14:01 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#124 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「質量が減ればこの輻射はさらに強く働き、輻射は強度を増す」

ブラックホールの光はどんどん膨れ上がり、今にもはち切れそうに小刻みに震えだした。

ハルキン「そうなると加速度的に質量とエネルギーを失っていき、最終的には…爆発的にエネルギーを消費し消滅する。―――」

ブラックホールは、目が眩むほどの光と耳鳴りが鳴るほどの爆音を放ち…

ハルキン「―――ゲスの最後にはお似合いだろ」

…ハルキンが軽蔑の視線を向ける中、花火のように散っていった。

⏰:07/12/25 14:18 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#125 [◆vzApYZDoz6]
爆音が止み、光が消え、静寂が戻ってくる。ラスカが自分の周囲と建造物に張っていた結界を解いた。

ハルキン「じゃ、先を急ぐか」
ガリアス「ちょっと待てよ」

ガリアスが走り出そうとしていたハルキンとラスカに後ろから声をかけた。

ガリアス「なぜ俺は生かされたんだ?納得がいかねぇな」
ハルキン「お前は既に敵じゃない」
ガリアス「……でも、俺は戦わないと駄目なんだ」

ガリアスが構えを取る。ハルキンはゆっくりと溜め息をつき、顎で入口を差した。

ハルキン「見てみろよ」

ガリアスが入口を見ると、そこには人が立っていた。

ガリアス「……母さん…?」

⏰:07/12/26 11:33 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#126 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・京介とラスダンの場合-

ハルキンがウィニーと対峙していた頃、京介とラスダンは地下牢にいた。2人が入った扉は、入ってすぐに地下に下りる階段があったからだ。

京介「何でこんなところに牢屋が有るんだろ」
ラスダン「捕まってる人は…いないみたいだけど」

2人はゆっくりと歩いていた。

辺りは1階よりもさらに薄暗く、横幅3mぐらいの狭い通路の天井に、5mおきぐらいに小さな電球があるだけ。
両脇には鉄格子が延々と真っ直ぐ続いており、だいたい3m間隔で壁に仕切られている。広さからして1つの牢に1人だけのようだが、辺りが暗いので牢の奥の方が視認できない。

⏰:07/12/26 11:54 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#127 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「うーん、もしかしたらここに藍ちゃんが捕まってるんじゃ…とか思ったけど」
京介「違うみたいだな。…誰もいないし、戻った方がいいんじゃね?」

2人が歩みを止める。
確かにそこは埃が積もってるし、鉄格子は赤錆だらけ。長い間使われていない感じがした。

ラスダン「そうだね…戻ろうか」

元来た道を戻ろうと2人が踵を返した時、背後から小さな声がした。

?「…そこに、誰かいるの…?」

京介とラスダンが同時に振り返る。
通路に人は居なかった。となると、声の主がいる場所は1つしかない。

京介「…今の、牢屋からだよな?」

2人は顔を見合わせ、牢に人がいないか確認しながら声の元へ向かった。

⏰:07/12/26 12:10 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#128 [◆vzApYZDoz6]
京介「あっ、人がいる!」

2人が両脇の牢を一つ一つ確認していく中で京介が声を上げた。ラスダンが京介側の牢を見ると、確かに人が2人いる。
どちらも中年ぐらいの女性。精神的な疲労からだろうか、弱っている感じは無いが少し痩せていた。
囚われの女性が京介とラスダンを確認し口を開く。

女性「あなた方は…?」
京介「俺は京介って言うんだ」
ラスダン「僕はラスダンと言います。ここに囚われている仲間を助けに来ました。…お2方は?なぜここに囚われているのですか…?」

⏰:07/12/27 14:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#129 [◆vzApYZDoz6]
2人の女性が顔を見合わせる。少しの間沈黙し、話し出した。

女性A「私達は…人質としてここに捕まっています」
京介「人質…?」
女性B「私達の息子は強い力を持ったレンサーなんです。グラシアがそこに目を付けて…」
ラスダン「グラシアとは?」
女性A「グラシアはウォルサーの総司令官です。……グラシアは、従わなければ私達を殺す、と脅して息子を…ガリアスを働かせているんです」

京介とラスダンが顔を見合わせた。

京介「そんな非人道な事をやってんのかよ…」
ラスダン「じゃあ、もう1人の方は…」
?「おっと、そろそろ話はやめといた方がいいんじゃねぇか?」

ラスダンが振り向くと、人形と共に声の主が立っていた。

⏰:07/12/27 14:43 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#130 [◆vzApYZDoz6]
京介「またてめえか…!」

声の主はリッキーだった。リッキーが立つ狭い通路の後ろには、風船人形が無数に蠢いている。

リッキー「彼女らが解放されると少々面倒な事になるからな。その前に君達を倒してしまうぞ」
京介「……て事は、解放すればこっちに分がある、って事だな?」

ジリジリと詰め寄るリッキーに、京介が笑みを浮かべた。

リッキー「残念ながらそこまでじゃないな。第一、俺が阻止するんだからそんな事不可能だ」
京介「お前を倒してしまえばいいだけだ」

⏰:07/12/27 23:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#131 [◆vzApYZDoz6]
リッキーはやれやれ、という動作を見せたあと、人形に擬態化した。

リッキー「やるだけ無駄だろうけどね」
京介「いや、多分そうでもないけど」

髪は逆立ち、瞳は紅く、身体は赤く発光し辺りを包む。バウンサーでも見せたその姿は、まるで人を宿した鬼のよう。

京介「なんか知らんけど今の俺、絶好調なんだよな」

再び紅い鬼人と化した京介が薄く笑みを浮かべ、右手を開いて突き出した。京介を纏う赤い光が掌に集束される。
軈て撃ち出された紅球が、狭い通路をレーザーの如く駆け抜け、人形達を薙ぎ散らした。

⏰:07/12/29 20:51 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#132 [◆vzApYZDoz6]
散り散りになる人形の群れの中に、人形に擬態化したリッキーが目を見開き驚いた顔で立っていた。俯きながら独り言を呟いている。

リッキー「馬鹿な…!何故今その姿に…」
京介「どうでもいいけど余所見してていいのかよ?」

ハッとして顔を上げたリッキーの視界から京介が消える。次の瞬間に右脇腹に走った衝撃にリッキーの顔が歪む。
体をくの字に曲げ宙を舞い、鉄格子に激突した。

リッキー「ぐっ…貴様…!」
京介「今だ!」

リッキーの動きが止まった隙に、京介が鉄格子に掛けられた南京錠を壊した。
ガリアスが、母親ともう1の女性を牢から出した。

京介「2人を頼むぜ!」
ラスダン「よし…!」

ラスダンが2人を抱え、入口に走り出した。

⏰:07/12/29 23:38 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#133 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが最後にリッキーを一瞥し、その姿が小さくなっていく。
リッキーは女性を抱え走り去るラスダンを横目に、服に付いた埃と赤錆を払い拭った。

リッキー「始めからそのつもりだったか…まさか私を1人で倒そうとでも?」
京介「そのまさか。言ったろ?今の俺は絶好調だってな」
リッキー「…はははは!そうかそうか!」

何が可笑しかったのか、リッキーは突然腹を抱えて笑いだした。

⏰:07/12/30 14:00 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#134 [◆vzApYZDoz6]
京介「…?なんだよ」
リッキー「いやー、すまんすまん」

笑いを堪えられないのか、リッキーは一頻り笑ってもまだクックッと含み笑いをしていた。

リッキー「そう言えば、君にはまだ見せていなかったな」
京介「はぁ?」

中腰気味の格好で笑っていたリッキーが背筋を伸ばして立ち、右腕を上げて指を鳴らす。
と同時に、京介に潰されていた人形の残骸が煙になり、リッキーに収束されていく。

リッキー「悪いが俺の真の力は、風船を操る事じゃないんだ」

⏰:07/12/30 14:14 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#135 [我輩は匿名である]
『続き』って出てる事が多くて読みにくいかも

⏰:07/12/30 16:33 📱:SH902iS 🆔:☆☆☆


#136 [◆vzApYZDoz6]
>>135
最初の方とかだいぶありますよね…
途中から1レスの文を少なくしてみたんですが、そうするとどうしてもまとまりって言うか区切りが出来ないって言うか…締まりがないような感じにorz
とにかく『続き』って出ないようにしてみます


あっ、今から更新します

⏰:07/12/30 22:27 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#137 [◆vzApYZDoz6]
てゆうかアドバイスありがとうございますm(__)m

⏰:07/12/30 22:29 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#138 [◆vzApYZDoz6]
収束された煙がリッキーに吸収されていき、身体の回りに灰色の靄がまとわりついた。

リッキー「私のスキル『バルーンファイト』では、このガスを作って風船を出すんだが…ガスを使うと、私の力が落ちてしまうのさ」

軈て靄も消えていく。
リッキーは先程笑っていた時とはうって変わって冷やかな表情で京介を見詰めた。

京介「へー、よく分からんがつまり今のお前が本気のお前って事か」
リッキー「まぁそう言うことだ…さて」

⏰:07/12/30 22:39 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#139 [◆vzApYZDoz6]
リッキーが構える。左手を開いて前に突き出し、右手を添えるように左手に重ねた。
京介もそれに倣い、拳を握り腰を落とした。
リッキーの体越しに見える入口への通路を走っていたラスダンの姿は、今は完全に消えている。

京介(ここで止まってる暇はない。行かないとな)

リッキー「何処を見ている?…お喋りは終わりだ」
京介「…ああ」

リッキーが踏み込む。
京介も向き直り、リッキーを迎え撃つべく踏み込んだ。

⏰:07/12/31 13:32 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#140 [◆vzApYZDoz6]
-ラスダンの足取り-

ガリアスがハルキンに言われるままにドアを見ると、そこには見慣れた女性が立っていた。

ガリアス「母さん…?」
母親「ガリアス!」

母親がガリアスに抱き付く。ガリアスは驚いて母親の顔を見た。
痩せており、力を入れると折れてしまいそうな華奢な体。だが、間違いなく自分の母親だった。

ガリアス「母さん…!」

ハルキンは2人の親子の再会を見て満足そうにほくそ笑み、2人の背中越しに入口を覗いた。
そこにラスダンの姿はない。
ハルキンの様子を見ていたラスカが心配そうに話し掛けた。

ラスカ「内藤達の方かしら?」
ハルキン「…まぁ、外に出ればあいつのスキルは使える。上手くやれるだろ。…お2人さん!」

⏰:07/12/31 13:42 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#141 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが遠目からガリアス親子に話し掛ける。

ハルキン「俺達はもう行く。俺達がここに来たところに車が置いてある」

ハルキンは踵を返し、顔だけガリアスの方に向けた。

ハルキン「付いてくるかはお前の勝手だが…このまま此処に居ても危険だ、とだけ言っておこう」

⏰:07/12/31 13:49 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#142 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが走り出す。ラスカもガリアスを一瞥し、ハルキンを小走りで追い掛けた。

ラスカ「人質取られてた事、どうして分かったの?」
ハルキン「ラスダンから『思念』を受けていた。まぁ…当初は俺らでなんとかするつもりだったから…どうなるかは本人次第だな」

ハルキンがチラッと後ろを見る。ガリアス親子の姿は無くなっていた。
無言で振り返り、走り続ける。

暫く経つと、連絡通路が見えてきた。

ハルキン「…さぁ、兎にも角にも突入だ」

2人は連絡通路を駆け抜け、聳える要塞の中に入っていった。

⏰:07/12/31 14:02 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#143 [◆vzApYZDoz6]
-突入・リーザとシーナの場合-

シーナ「……長い!!」
シーザ「いいから走りなさい」

リーザとシーナは剣袋を背負い倉庫内を走っていた。
倉庫内部は外見と同じく対になっており、ハルキンらが入った倉庫の左右対称になっているだけ。中央要塞までの道程も左右対称で同じだ。
ただ、内装が違っていた。ハルキン側の倉庫はコンテナや段ボール等が乱雑に置いてあったが、こちら側にはそれらの類いは殆ど見当たらない。
代わりに升形の仕切りが等間隔に並んでいる。その仕切りの端には梯子があり、仕切りの上を縫うように通る通路に繋がっているのが、下を走るリーザ達の目にも見てとれた。

⏰:07/12/31 14:33 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#144 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「多分ここは戦車格納庫ね。仕切りもなんか駐車場っぽいし…」
シーナ「何でもいいけどその仕切りのせいでこんな時間掛かってるんだから!」

シーナが不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、頬を膨らませる。
等間隔に並んだ仕切りは左右からせり出すように交互に並んでいるため、リーザ達もそれに沿って大きく蛇行しながら走るしかなかった。

シーナ「これじゃ敵に会う前に疲れちゃうわー…」
リーザ「ほらほら!文句言ってる暇があったら急ぎなさいな」

相変わらず機嫌の悪いシーナをリーザが宥めながら、蛇行して走り続ける。
軈て仕切りがなくなり、道が広くなった。前方には連絡通路が見えている。

⏰:07/12/31 14:43 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#145 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あっ、あとちょっとじゃない!あれ要塞の入口よね?」
リーザ「そうね。…気を引き締めて行きましょうね。ここまでに何も無かったのは不自然……ッ!?」

連絡通路を走っていた2人の姿が掻き消え、宙に剣袋だけが浮く。
次の瞬間、攻撃を受け止めた剣の金属音と共にリーザとシーナが現れた。通路を挟んで左右に別れ、共に男の拳を止めている。

シーナ「ちょっと不意討ちなんて危ないわよ!」
リーザ「刺客、ですか…いいでしょう。お相手致します!」

⏰:07/12/31 19:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#146 [◆vzApYZDoz6]
シーナとリーザが剣を翻し拳を払い除ける。

ハル・ライン「不意討ちは致し方無い。俺達は平和主義者だからな」
ハル・レイン「刺客、か。本当はバイク野郎と再戦したかったんだが…外で暴れてるようで」

2人に払われたハル兄弟が一旦下がる。
双子の兄レインは双子の姉リーザと、双子の弟ラインは双子の妹シーナと、再び向き合った。

シーナ「ハル兄弟ね。ジェイトから話は聞いてるわ。確かスキルは『ツインキャンサー』―――」

リーザ「―――コンビ技が得意だそうですわね。離れたのは失敗じゃないですか?」

⏰:07/12/31 20:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#147 [◆vzApYZDoz6]
ライン「そいつは認識違いだな。『ツインキャンサー』の能力は合体攻撃に加えてもう1つ―――」

レイン「―――2人が半径20mの範囲で共闘している場合、総合的に身体能力が上昇する」

兄と姉、弟と妹が、別々に会話する。
―――――――――――
-ハル・ラインVSシーナ-

シーナ「へぇ…ま、タイマンなら望むところだしね!」
ライン「元気のいいお嬢さんだ。……では」

ハル・ラインが構える。
左手を突きだし掌を下へ。ジェイト兄弟と戦った時と同じ構えだが、今回は1人だ。

⏰:07/12/31 20:26 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#148 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが構えたのを見て、シーナも剣を構える。
シーナが持つのは乱れ波紋の日本刀。鞘を投げ捨て、先刻の不意討ちで既に鞘から抜かれていた刀の柄を握る。正眼の構えから右足を後ろに引き体軸を右に向け、柄の端を持つ左手を臍に当てる…武蔵野の構え。
シーナの戦闘準備が整ったのを確認し、ハル・ラインが口を開く。

ライン「双子柔術ツインキャンサー弟役=ハル・ライン…推参する」
シーナ「…なら私も。…柳生新陰流免許皆伝、双子の妹シーナ」

ハル・ラインが拳を握り身を屈め、重心を前に傾ける。
シーナもそれに倣いゆっくりと切っ先を下ろし右手を引き、重心を前に。

ライン「いざ!」
シーナ「仁恕に勝負よ!」

2人が同時に地を蹴り踏み込み、ぶつかり合う拳と刀から火花が散った。

⏰:07/12/31 21:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#149 [◆vzApYZDoz6]
5mはあろうかという距離は一瞬で詰まった。右拳と刀の撃ち込む力は互角で、互いに弾かれあう。

シーナ「せいっ!」

休む間も無くシーナが追撃。素早く体勢を立て直し、弾かれあい開いた距離を一足で詰める。
右拳を弾かれ、右膝を地に付いていたハル・ラインに、凄まじいスピードで袈裟斬り下ろしを繰り出した。

ライン「ふっ!」

ハル・ラインは振り下ろされる剣に左手を添え合わせて斬撃を逸らした。
シーナの手元で絞られて水平に止まった刀に添えた左手を乗せて押し、反動で右膝を起こす。更にそのまま身を浮かせての回し蹴り。

⏰:08/01/01 02:17 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#150 [◆vzApYZDoz6]
回し蹴りをガードしようにも刀はハル・ラインに押さえ付けられ動かない。
袈裟懸けに全力で振り下ろし、手元で柄を絞ったために身を屈めるのも間に合わない。

シーナ(…やばっ!)

咄嗟に左腕で蹴りをブロックする。
しかし、ツインキャンサーにより身体能力が強化され、刀と互角の威力を誇るその蹴りは、シーナのか細い腕で止められるものではなかった。

シーナ「きゃっ!」

刀ごと横なりに吹っ飛び、右肩から地に激突する。
素早く身を起こすも、左腕が少し痺れているため刀を持つ手に感覚がない。

⏰:08/01/01 02:34 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#151 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「くっ…!」
ライン「余所見はしないほうがいい。」

ハル・ラインが吹っ飛んだシーナとの一足で距離を詰め追撃する。
息をする暇も与えず次々と飛んでくる拳と蹴りを、シーナは捌き続けた。
素早く正確、且つ重い一撃が一分の隙もなく繰り出される。瞬きの間にもやられそうだ。
次第に柄を握る手が痺れてくる。

シーナ(左腕もまだ感覚が無いし…ちょっとキツいかなー)

何合撃ち合っただろうか。
飛んでくる四肢の嵐を捌ききれず、とうとうハル・ラインの拳がシーナの右頬を掠めた。

⏰:08/01/01 02:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#152 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やばっ…!)

堪らずバックステップで距離をとる。が、ハル・ラインは見透かしていたかのようにシーナと平行してくっつき、その距離は離れない。

ライン「逃がしはしない!」

くっついた状態で撃たれた腹を狙っての右フックを、刀の横腹で受け止める。
しかし、左を狙ったフックとは別に右脇腹に衝撃が走り、シーナの体がくの字に曲がって宙を舞った。

シーナ「きゃあっ!!」

数m吹っ飛んで背中から地にぶつかった。
仰向けの状態からゆっくりと上半身を起こすが、嘔吐感と下腹部の圧迫痛で身動きができない。

⏰:08/01/01 03:10 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#153 [◆vzApYZDoz6]
嘔吐が混じったような咳が出る。腹筋が圧迫された感じがして息がしづらい。

シーナ「ごほっ!…ふふ、今の…あなた元ボクサーか何か…?」
ライン「元ボクサーではないが言わんとする事は正解だ。……つまり、お嬢さんの肝臓をぶち抜いた」

右フックはフェイント。
本命のリバーブローを食らって動けなかったシーナだが、刀をついて漸く立ち上がった。

シーナ「リバーブローね…でも、今のうちに止めを刺しちゃえばよかったのに」

⏰:08/01/01 03:24 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#154 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが左腕を突きだし、再び構える。
表情は少し曇っていた。

ライン「女性をいたぶる趣味はないさ」
シーナ「あら、余裕ねー。じゃ…ちょっとご好意に甘えようかな」

シーナも刀を握り直し、武蔵野構え。
再び向き合い、2人の視線が重なる。

ライン「でもな、お嬢さん―――」

言いかけの言葉を残し、ハル・ラインの姿が忽然と掻き消えた。

⏰:08/01/01 03:38 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#155 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なっ…!?」

油断していた訳ではない。本当に一瞬で、その姿を見失った。
幻でも見たのか、という愚かな考えがシーナの頭を過った、その時。

ライン「―――少し、俺を嘗めすぎだ」

背後からの手刀が、シーナの胸を貫いた。

⏰:08/01/01 03:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#156 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あ…かっ…」

声が出ない。自分の胸に視線を向けると、ちょうど鳩尾のあたりから、自分のものではない手が突き出ていた。

シーナ「こんな……」
ライン「悪いな、お嬢さん」

ハル・ラインが手を引き抜き、シーナが力なく膝をつく。ゆっくりと倒れていく自分の体を、シーナはまるで他人の事のように感じていた。
自分が地に臥している事がはっきり分かったのはいつだろうか。気が付くとシーナの体は、血の海に俯せに横たわっていた。

ライン「心臓を貫いた。……ま、それなりに楽しめたよ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 13:09 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#157 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やられちゃった…かな。…向こうの戦いの音はちょっと前に止んじゃったし…きっとお姉ちゃんが勝ったんだよね)

ハル・ラインは心臓を貫いた、と言っていたが、シーナの脳は冷静に働いた。
頭に浮かぶのは自分の体の事ではなく、姉の事。
姉は自分よりも数段は強かったんだから、負ける筈がない。敵も相当に強いから、姉もそれなりの怪我を負ってるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶ。
シーナは敵に殆どダメージを与えられなかった自分に憤り、同時に、踵を返し相棒の元へ向かうハル・ラインを止めなければ、と考えた。

⏰:08/01/01 13:21 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#158 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは踵を返し相棒の元へ歩を進める。
1歩目を踏み出した時に、後ろで何かが動く気配。
まだ生きていたか。しかし何もできまい。
そう考えて2歩目を踏み出す。今度は刀が地をつき鳴いた音。
馬鹿な…まだ足掻く力が?いや、確実に心臓を貫いた筈だ。
余計な考えを振り払い、ゆっくりと前に出した3歩目。
突如として凄まじい気配が周囲をの空間包む。空気が痺れる程の殺気が、明らかに後ろから、自分に向けられている。
とうとう堪らなくなり振り返ると、シーナが立っていた。

シーナ「あなたを倒せば…お姉ちゃんは先に進む」

⏰:08/01/01 13:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#159 [◆vzApYZDoz6]
シーナの胸には確かに穴が空いている。が、その穴はどんどん小さくなっていた。
心臓とその周囲の筋肉、肋骨、更には手刀が掠めて穴が空いた肺までもが、凄まじいスピードで再生している。
目に見える程の早さで分裂を繰り返す細胞は、音を立てて形を成していき、瞬く間に負傷した全ての臓器、筋肉、骨が繋がった。
さらに表皮がどんどん縫い止められ、ついには胸の穴が完治する。

シーナ「紹介が忘れていたわね…私のスキルは『ライフケール』、怪我を修復出来るの」
ライン「馬鹿な!その再生力は…本当にスキルか!?」

⏰:08/01/01 14:04 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#160 [◆vzApYZDoz6]
右手に握られた刀の鋒が血の海に沈む。己が主人の血を吸い上げ、その刀身を真紅に染める。
さらに血を吸い続ける刀の鍔から血が蒸気となって吹き出し、赤い靄が主人の体に纏わりついた。

シーナ「そうね…こんな再生力もこの赤い靄も刀も『ライフケール』には無いわ。私は…人間じゃないのかも」
ライン「人間じゃない、か。…ならばこちらも容赦はしないぞ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 14:58 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#161 [◆vzApYZDoz6]
ライン「次は再生の間も与えず殺す」

ハル・ラインが向き直り構え直す。
心臓を貫いたのだから、立ち上がれる筈がない。そう考えていたハル・ラインは内心驚いていた。
油断していた自分が悪い。せめてもの情けにと心臓を狙ったのがいけなかった。次は、確実に首をはねる。
右手に手刀を作り、一気に踏み込んだ。

ライン「その首、貰うぞ!」

迫り来るハル・ラインを前に、シーナは微動だにせず呟いた。

シーナ「…やめといた方がいい気がするけど」

⏰:08/01/01 15:19 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#162 [◆vzApYZDoz6]
言い終わる前にハル・ラインが踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
確実な殺意を込めて突き出されたその手刀は、先刻心臓を貫いた時よりもさらに早い。指先から衝撃波が発生し大気を切り裂くかと思うほどの手刀は、人間には到底避ける事はかなわないだろう。
しかしその手刀は、物理的に遮られる筈もない血の靄に阻まれた。
血の靄はそのままハル・ラインの腕に巻き付く。巻き付かれた腕と手から煙のような蒸気が吹き出し、皮膚が赤黒く爛れ落ちた。

ライン「ぐあっ!!」
シーナ「ほらね…こうなる気がしたの」

シーナはゆっくりと目を瞑り、身を屈める。刀は右肩に背負う担ぎ構え。
その構えはシーナの修めた柳生新陰流にはないものだ。

⏰:08/01/01 23:31 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#163 [◆vzApYZDoz6]
ライン「はあっ、はあっ………くそっ、嘗めるなぁ!!」

ハル・ラインは無事な左手で再び手刀を作り突き出す。

シーナ「血桜舞い散る闇夜の白鶴―――」

手刀が伸びきる前にシーナの体を纏う血の靄がドーム状に広がり、周囲の空間を全て包み込む。
血の霧の中で、シーナ以外の物の動きが全て止まった。

シーナ「―――誘い微睡み心奪うは陽に嘱された紅き三日月―――」

シーナが目を瞑ったまま左手を柄に添える。
同時に血の霧が刀に収束し、刀身が目も眩むほどの真紅に染まる。

⏰:08/01/01 23:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#164 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――刹那に翳り、墜ちる三日月、堕ちる白鶴―――」

担がれた刀が迸る。
人の手刀などとは比べ物にならない速度で振り下ろされた一太刀が、周囲の物と同様で依然止まったままのハル・ラインを切り裂いた。

シーナ「―――砕け散る血桜に代わり舞うは、尽きた命の紅い血翅―――」

紅い刀を一払いし鞘に納める。鍔鳴りの音と共に周囲の物に時間が戻り、ハル・ラインの胸の裂目から鮮血が吹き出した。

⏰:08/01/02 00:03 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#165 [◆vzApYZDoz6]
ライン「ごはっ…!!」
シーナ「―――静寂の闇夜で賤しく響くは妖魅の三日月の笑い声―――」

シーナは鮮血を身に浴びながらも、目を瞑ったまま微動だにせず俯いている。
やがて吹き出す血が尽き、倒れる体を征すものが無くなったハル・ラインが膝をつく。

ライン「…見事…だ……シーナ…」

シーナがゆっくりと瞼を上る
青い澄んだ瞳で、地に倒れ臥していくハル・ラインに囁いた。

シーナ「……再び見える時は地獄で、ね」

⏰:08/01/02 00:24 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#166 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――なんて、すぐに再戦できそうだけど」

シーナが刀を取り落とす。刀と一体化していた右腕の皮膚がはち切れ、あちこちから血が吹き出した。

シーナ(これで…お姉ちゃんは先に進める。…私もちょっと休んでからすぐに行くわ…)

血を吐き、力なく地に倒れ込む。軈てゆっくりと瞼を閉じた。

⏰:08/01/02 00:43 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#167 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「シーナ!!」
レイン「間に合わなかったか…!」

倒れている妹と弟の元に、姉と兄が駆け付ける。
後ろにはラスダンと、ガリアスの母親と共に囚われていた女性…ハル兄弟の母親がいた。

ラスダン「くそっ!…2人は?」
リーザ「シーナは…息があります…!でもラインさんが…」
レイン「相当やられているが、治せるさ」

ハル・レインがハル・ラインの裂目に手を当てる。
手が金色に光り輝き、裂目に被さるように光が覆った。

レイン「『ツインキャンサー』発動中の俺達は一心同体。俺の自己治癒力をすべてラインに注げば大丈夫だ」

⏰:08/01/02 00:53 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#168 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「そんな事を…君もダメージはあるのに」

ラスダンがリーザとハル・レインに目をやる。2人ともダメージは大きいようだ。
ハル・レインの顔は頬が裂け、脇腹には血が滲んでいる。体の至るところに刺突と裂傷を受けていた。
それはリーザも同じ。服は所々破けており、頬には擦過傷、腕や足には沢山の打撲が見られる。
どうやらラスダンが到着し囚われていたハル兄弟の母親の事情を説明したのは、2人が戦いを始めて暫く経ってかららしい。

レイン「はははっ、これぐらいどうってことはない。あんたが母を助け出していなかったら、俺は今頃おっ死んでたさ」

⏰:08/01/02 01:05 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#169 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「いいえ、レインさん。貴方も素晴らしい腕前でした…もしかしたらやられていたのは、私の方かも」

微笑みあい談笑する2人からは、戦闘意欲は感じられない。
お互い志の高い武士同士、和解するのは早かったようだ。
ラスダンが安心したように笑みを溢したあと、表情を引き締める。

ラスダン「僕は一旦京介のところへ戻るよ。うまくやってるか気になるしね」
リーザ「分かりました。…私達も、少し休んですぐに向かいます」

⏰:08/01/02 01:16 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#170 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが踵を返し、来た道を再び走る。
リーザはラスダンのを見送ったあと、自分の妹に目をやった。
見たところ右腕にしか傷はない。相当に疲労しているのか、深い眠りについていた。
ここに駆け付ける前に、紅い霧が見えた。まさか…
複雑な表情で妹の顔を眺めていると、隣のハル・ラインが身を起こした。

ライン「もう…大丈夫だ、兄貴。ありがとな」
レイン「まったく、こんなに完膚なきにやられやがってだらしない」
ライン「まったくだ。敵を嘗めていたのは俺の方だな」

⏰:08/01/02 02:13 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#171 [◆vzApYZDoz6]
笑いあいながら、ハル・ラインが立ち上がり伸びをする。
ハル・レインは未だ目を覚まさないシーナと、その側で横座りしてシーナを優しく見つめているリーザに向き合った。

レイン「さて…頼みがある。俺達の母を安全な場所まで避難させてくれないか?」

リーザが一度ハル・レインに視線を向ける。
真剣な表情でこちらを見るハル・レインからは、1つの覚悟が感じられた。
リーザが再びシーナに視線を戻し、哀しそうな笑みと共に溜め息を溢す。

リーザ「それで構いません…もうシーナを戦わせるわけにはいきませんから。…私達は、ここでリタイアね」

⏰:08/01/02 13:34 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#172 [◆vzApYZDoz6]
目を閉じて静かに喋るリーザの表情は愁いに満ちていた。
それを見たハル・レインは少し申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

レイン「感謝する。後は俺達に任せてくれ」

一礼して踵を返す。後ろで腕を組んで立っていたハル・ラインの横を通りながら鼻で笑った。

レイン「まぁ、よくもここまで人をコケにしてくれるよなぁ?」

⏰:08/01/02 13:51 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#173 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは後ろの要塞入口に向かう兄を尻目に、俯いてクックッと含み笑いをした。
すぐに踵を返し、意地悪な笑みを浮かべながら兄と肩を並べて要塞へ歩き出す。

ライン「ま、落とし前はきっちりつけてもらうさ」
レイン「そうだな。顔面フルボッコにしてやるか」

リーザが心配そうに見送る前方で、要塞への大扉に2人が手をかける。

レイン「行くぜ。元上司へのお礼参りだ」
ライン「ウォルサー総指令官グラシアを…ぶち殺す」

扉を開けた兄弟が、反旗を翻すために駆け抜けた。

⏰:08/01/02 15:17 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#174 [◆vzApYZDoz6]
-母親らが囚われていた地下牢-

ラスダンが地下牢への階段を足早に降りていく。最後の3段を一足で飛び越え、尚走る。
暫く走っていると、鉄格子に凭れて座る京介の姿が見えた。奥には倒れ臥しているリッキーの姿。
肩で息をしながら、ラスダンが安堵の溜め息を洩らした。

ラスダン「倒していたんだね」
京介「全然楽勝だったよ」

膝に頬杖をつき、向かいの牢をぼんやりと眺めながら京介が呟く。
怒っているわけでも哀しんでいるわけでもないのに、その表情は少し沈んでいた。

⏰:08/01/02 17:36 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#175 [◆vzApYZDoz6]
京介の体は既に正常に戻り、赤い光も発していない。だが、少し近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

京介「さ、早く行こうぜ」
ラスダン「…あ、あぁ」

ラスダンは少し不安になりながらも、牢の奥へ歩いていく京介についていく。
歩いてる最中でもそのよくわからない不安は消えず、ラスダンは急がねばならないのに走るのも忘れていた事に気が付いた。
一体何があったのかは分からない。だが今は藍を助け出すのが先決だ。

ラスダン「京介、走ろう。一刻も早く藍ちゃんを助けないと」

⏰:08/01/02 17:56 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#176 [◆vzApYZDoz6]
京介「……そうだな」

京介は無言で止まり、目を瞑って俯き、両手で勢いよく頬を叩いた。

ラスダン「京介!どうしたのさ?」
京介「何でもない!行くぜ!」

京介が走り出した。
ラスダンには京介の胸中など知る由も無かったが、何かを吹っ切ったんだろうという事は伝わった。
ラスダンは満足げに笑い、京介の後を追って走る。

軈て、扉が見えてきた。

⏰:08/01/02 23:26 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#177 [◆vzApYZDoz6]
扉を開けると、薄暗い通路があった。
コンクリートの壁に蛍光灯が天井に点々と続いており、まるでトンネルのようになっている。

ラスダン「多分、この先に中央要塞の入口があるはずだよ…行こう!」

京介が頷き走り出す。ラスダンも後に続いた。
扉はすぐに見えてきた。

京介「よし!待ってろ藍!」

扉を勢いよく開け、要塞の中に駆けていった。

⏰:08/01/02 23:37 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#178 [◆vzApYZDoz6]
-突入・内藤の場合-

内藤が突入したのは倉庫の奥の扉。中に入るといきなり昇り階段に直面した。他に道も見当たらない。

内藤「何だこりゃ…外に階段つけろよ、スペースの無駄遣いしやがって」

文句を溢しながら階段を上る。
内藤以外の者が入った場所とは違い、内装は綺麗で証明も明るい。階段を上りきった先に自動ドアがあることからも、明らかに人が使っているだろう。

内藤「2足歩行戦車もあったしメタルギアの気分だな…気を付けるか」

内藤が自動ドアの前に立つ。ドアが機械音を立ててスライドし、中に入った。

⏰:08/01/02 23:50 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#179 [◆vzApYZDoz6]
そこは居住区として使われているようだ。
ロビーのテーブルに置かれたコーヒーカップや、談話室のソファーに開いたままで置かれている雑誌など、人の存在を匂わせるものが多々あった。
左の壁に並ぶ部屋は個室か寝室だろうか、ドアに数字が書かれている。
それらの全ては、つい先程まで使われていたような感じがした。
ついさっき出動した戦車隊の居住区か、それとも内藤らの侵入に気付いて既に退避した後なのか。

内藤(後者は…あまり考えたくはないな)

⏰:08/01/03 00:15 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#180 [◆vzApYZDoz6]
周囲を探りながら歩いていると、壁に地図を発見した。
ここはやはり居住区で、今内藤が居るのは2階。キッチンやバスルーム、談話室といった生活空間と、居住者の寝室の一部がある。1階の戦車格納庫へ続く階段があるあたり、恐らく戦車隊の居住区なのだろう、と内藤は胸を撫で下ろした。
3階は全エリアが居住者の寝室となっている。中央要塞への入口も3階にあった。
2階は粗方調べていた内藤は中央要塞の構造を覚えてから、3階へ向かった。

⏰:08/01/03 00:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#181 [◆vzApYZDoz6]
3階への階段を上り、廊下を歩く。
2階で寝室を調べようとはしていたが、プライベートルームだからか全てに鍵が掛かっていた。
一応3階でも調べようとするが、やはり鍵が開いている部屋はない。藍の救出という目的が先にあった内藤は、ドアを破ってまで調べようとはせず、鍵が掛かっていたらそれ以上そこに留まろうとはせずに進む事にしていた。
だが、廊下の奥にあったドアの前で内藤は完全に留まった。

内藤「これは…怪しさ満点だな」

⏰:08/01/03 00:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#182 [◆vzApYZDoz6]
そのドアには、チェーンがぎっちりと掛けられている。
ドアノブと蝶番にやりすぎな程にチェーンが巻かれ、さらにkeep outのテープのようにドア全体にもチェーンが張られ、その終端は壁に釘で打ち付けられていた。

内藤「引いて開けるのはめんどくさそうだな…押し破るか」

内藤が身体教化スキルを発動。
重心を落とし、手は開いて腰に構える。

内藤「勢!!」

今まで何度も見せてきた掌呈突きで、チェーンのかかったドアを容易く吹き飛ばした。

⏰:08/01/03 01:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#183 [◆vzApYZDoz6]
破られたドアが部屋の奥に激突するのを眺めながら、ドアが無くなった入口に張られているチェーンを引き契る。

内藤「ちっ、面倒だな」
「あら、その声…♪バニッシ…じゃなかった、内藤ちゃんじゃない?♪」

部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
内藤が一瞬手を止めて中を覗くが、ちょうど入口からは見えない場所に声の主がいるようだ。
急いで全てのチェーンを引き契り中に入ると、奥のベットに手首と足首を縛られ座る女性がいた。

内藤「やはりお前だったか。語尾に音符なんてつける馬鹿は、俺の知る中じゃ1人しかいないからな」

⏰:08/01/03 01:17 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#184 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「あら、酷いわね馬鹿だなんて♪」
内藤「何でもいいが…なぜこんな監禁紛いな事を…?」

中にいたのはアリサだった。カッターシャツににプリーツのスカートを穿いている格好は変わらない。
外見を見た感じでは怪我などは負っていないようだ。

アリサ「あなたのお仲間さんにここの場所教えたのがバレちゃって♪」
内藤「なるほど…バウンサー本部での『思念』はお前だったか。…て事は外の戦車はお前の所為かよ」

アリサが恥ずかしそうに笑い視線を横目に逸らした。
内藤はまだ罠の可能性も考え、話はするものの手足の枷を解放させる事はしていない。
内藤が部屋にあった椅子に腰掛け、煙草を取り出す。
口にくわえて先端に着火し、深く一吸い。携帯灰皿を取り出し、灰を落とした。

⏰:08/01/03 01:41 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#185 [◆vzApYZDoz6]
内藤「んで…なんでお前はウォルサーを裏切ったんだ?」

内藤が両膝に肘をつき、視線をアリサに向ける。
アリサは俯いたままで話し出した。

アリサ「最初から話すわ♪……私のお母さんが…ね、人質に取られてたの♪」
内藤「やっぱりか…さっきラスダンから、ガリアスとハル兄弟の母親が囚われていた、と『思念』がきた。……お前の母親も行方不明になっていたよな」

内藤が再び煙草を吸う。アリサは、その様子を黙って見ていた。

内藤「お前がパンデモを出たのは、その暫く後だったか―――」

⏰:08/01/03 01:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#186 [◆vzApYZDoz6]



登場人物の過去

-パンデモの一族・アリサと内藤-


⏰:08/01/03 02:20 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#187 [◆vzApYZDoz6]
―――…

地球とは違う異世界『ディフェレス』。
その世界の辺境、方角で言えば東の最果てに、ある一つの集落があった。
草が生い茂り、浅い小さな谷が連なる場所。周囲には高い山々が聳え立っており、その谷は盆地のようになっていた。
その谷には、木造の建物があちこちに点在している。その真ん中を突っ切るように真っ直ぐに大きな川が流れており、川の付近は谷の他の場所に比べ人が少し多い。小さな市場のようなものもできている。
パンデモの集落は、集落と言うには少し大きめで、村、或いは里と呼べるぐらいの大きさだった。

⏰:08/01/03 04:48 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#188 [◆vzApYZDoz6]
その谷の外れ、深い山の麓近くに空地のような場所があった。
そこは半径20m程の小さな草原となっていて、周囲は小さな崖に囲まれている。
修練場として使われているようで、中央には特に何もなく、端の方に撃ち込み用の丸太があったり、的のような丸い円が書かれた紙が崖に貼り付けられたりしている。
その場所で、1人丸太を相手に撃ち込みをしている若い男がいた。

(バニッシ。『内藤篤史』として京介と藍のクラスの担任になるのは、この4年後の事です)

⏰:08/01/03 05:13 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#189 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200

失礼しました。
頑張って下さい☆

⏰:08/01/03 13:28 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#190 [◆vzApYZDoz6]
>>189
安価&支援ありがとうございます(^^)
今から更新します。

⏰:08/01/03 14:59 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#191 [◆vzApYZDoz6]
その頃、修練場から少し離れた場所で、辺りを見回しながら歩く1人の女性がいた。

(アリサ。この時は、まだ語尾に音符はつけていません。理由は後々明らかになります)

アリサ「もう…何処に行ったのかしらバニッシちゃん」

アリサは周囲の家の裏を除いたり、或いは集落のすぐそばに広がる雑木林をじっくり眺めたりしながら、集落の端を伝うように歩きバニッシを探す。
その最中に、撃ち込みの反響音が聞こえてきた。
アリサは嬉しそうに笑い、修練場に小走りで向かった。

⏰:08/01/03 15:05 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#192 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが次々と拳を、または蹴りを撃ち、丸太が木片を撒き散らす。丸太はどんどんささくれ、ぼろぼろになってく。
撃ち込みの音は囲まれた崖に反射して反響し、辺りにこだました。
10合ほど撃ち込みを続けて、一旦手を休める。袖で汗を拭っていると、高く透き通った声が聞こえてきた。

アリサ「もー…またやってる。そんなに強くなってどうするのよ」

バニッシが修練場の入口に目を向ける。
アリサが呆れた顔をしながら、崖に挟まれた狭い道の真ん中に立っていた。

⏰:08/01/03 15:21 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#193 [◆vzApYZDoz6]
嬉しそうに手をふるアリサの元へ、バニッシが歩いていく。

バニッシ「別に意味は…」
アリサ「あー、また袖で汗拭いてる!汚いから駄目だっていつも言ってるじゃん!もー…ほらこれ使って」

バニッシの言葉を遮り、怒りっぽく言いながら、持っていたタオルを手渡した。バニッシが受け取り顔を埋める。

アリサ「ったく、いっつもそうなんだから」
バニッシ「いいじゃねーか、んなもん」
アリサ「よくない!汚い!」

⏰:08/01/03 15:34 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#194 [◆vzApYZDoz6]
アリサが腰に手を当てて、少し説教臭く喋る。バニッシは鬱陶しそうに視線を逸らし、耳を塞いだ。

アリサ「ちょっとー、聞いてるの?」
バニッシ「聞こえません」
アリサ「こらっ!」
バニッシ「あー、もーいいって。これありがと」

少し乱暴にタオルを返し、修練場を出ていく。アリサは不機嫌そうに頬を膨らませながら、振り返ってバニッシと肩を並べた。
集落までの道を歩きながら、バニッシが訊いた。

バニッシ「そういや、今日は何しに来たんだ?」
アリサ「やっぱり忘れてる!今日の御上祭り一緒に行くって約束したじゃん!」

⏰:08/01/03 15:49 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#195 [◆vzApYZDoz6]
御上祭り(みかみまつり)とは、パンデモで年に一度開催される祭り。
パンデモ一族にも族長という身分の人間が存在し、パンデモの初代族長の誕生日は、地球で言う元旦と同じ。その日に、その年の豊かな実りと安寧を願って開かれるのが御上祭りだ。
パンデモ一族の殆んどはこの行事に参加するが、バニッシは決まって毎年すっぽかしていた。

バニッシ「んー…そんな約束したか?」
アリサ「しました。あなたいっつもすっぽかすんだから、たまには参加しなさいよ?」

バニッシが眉間に皺を寄せながら後頭部を掻く。どうにかアリサにバレずにすっぽかす方法はないか、と考えていた。

⏰:08/01/03 16:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#196 [◆vzApYZDoz6]
その様子を見ていたアリサが、少し意地悪く笑った。

アリサ「ふふっ、今どうやって逃げようか考えてるでしょー?」
バニッシ「別に考えてない」
アリサ「本当にー?でも残念ながら、今日はお祭りが終わるまで1人にはさせないからね!」

アリサが楽しそうにバニッシの前に回る。
バニッシは呆れながら、また後頭部を掻いた。

バニッシ「……今から家帰るんだけど」
アリサ「じゃ私も一緒に帰ろーっと」
バニッシ「本気かよ…」

⏰:08/01/03 16:23 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#197 [◆vzApYZDoz6]
項垂れるバニッシを余所に、アリサは楽しそうに口笛を吹きながら、バニッシの家に向かう。
バニッシ達は集落の中心部の方に歩いていた。周りの景色は、最初は畑や田圃が多かったが、徐々に家が増えていく。
暫く歩いていると、周囲に比べ一際大きな家が見えてきた。

アリサ「はーっ、やっぱいつ見てもおっきい家よね」

⏰:08/01/03 18:01 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#198 [◆vzApYZDoz6]
木を連ねて作られた塀に囲まれた大きな敷地の奥に、バニッシの住む大きな家が聳え立っている。
バニッシとアリサは共にパンデモの中でも高い身分の家系。特にバニッシはパンデモの最上流家系の一角を占める家の現当主だった。

バニッシ「まぁ…そうだな」
アリサ「てゆうか、中に入るのは初めてね。緊張するなー」
バニッシ「何でだよ」

バニッシが笑いながら玄関の扉を開け、中に入る。
長い廊下の奥の部屋、バニッシの部屋に入った。

⏰:08/01/03 22:37 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#199 [◆vzApYZDoz6]
部屋には特に何もない。寝床のような床に藁が敷いてあるだけで、あとは服等が隅にたとんで置かれていた。
元々パンデモ自体が人里離れた山の中にあるので、文明の利器など存在しない。
アリサも何もない事を特に不思議がらなかった。

バニッシ「さてと…じゃあ俺寝るから時間になったら起こして」
アリサ「えっ…ちょっとそれじゃ、あたしはどうするのよ」
バニッシ「好きにしてな。祭り終わるまで俺から離れないんだろ」

そう言うと藁の上に横になり、眠り始めた。

⏰:08/01/03 22:51 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#200 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「何それー!…ったくもー、信じられない!」

アリサは怒って喚くが、既に寝息を立てているバニッシは反応しない。
アリサは少し呆れたが、バニッシの隣に横座りになっりバニッシを見つめる。
静かに眠るその顔からは修練場の気迫は感じられない。何処か幼さも感じられる寝顔を、柔らかく微笑みながら眺めるアリサが、小さな溜め息をついた。

アリサ「…無防備に寝ちゃって」

壁に凭れて、静かに天井を眺める。
その表情はどこか嬉しそうな感じがした。
そのまま時間の経過を待つ内に、いつの間にか眠ってしまった。

⏰:08/01/03 23:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


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