-Castaway-
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#201 [◆vzApYZDoz6]
日が西に傾いた頃。
バニッシは家の炊事場の竈に火を着け、湯を湧かしていた。
文明の利器が存在しないパンデモでは、食品調理は火を起こすところから始まる。
程好い熱さになったところで鍋を竈から離す。急須のような物に熱湯を灌ぎ、それと壁に干してある短い草のような物、土で出来た深めのコップを持ち、部屋へ戻った。
三角座りで寝息を立てるアリサを余所に、急須のような物に干し草を入れてコップへ灌ぐ。その姿はまるで日本人が茶を淹れているようだ。
ゆっくりと飲み物を啜る横で、アリサが目を覚ました。

⏰:08/01/04 18:25 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#202 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが欠伸をしているアリサに話し掛ける。

バニッシ「やっと起きたか」
アリサ「……ん……あっ、おはよー…」

眠そうに目を擦るアリサに、呆れたように言った。

バニッシ「何がおはよーだ。起こせって言ったろ」
アリサ「へっ?………あー!!」

アリサが跳ね起き、慌て外を見る。
川の近く、普段なら集会場となっているところが、提灯の灯りでぼんやりとオレンジに光っている。姿は見えないが、太鼓を叩く音や笛の音が鳴り、時たま拍手や歓声が沸き起こる。恐らく今は、踊り子が舞を踊っているのだろう。

⏰:08/01/04 18:35 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#203 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もう始まって結構経ってるじゃん!!」
バニッシ「そうだな」

外を眺めていたアリサが部屋に視線を戻し、素っ気なく飲み物を啜るバニッシを睨んだ。

アリサ「いつ起きたのよ?」
バニッシ「さぁ…祭が始まる10分前ぐらい?」
アリサ「何で起こしてくれなかったのよー…」

項垂れながらその場にへたり込むアリサを見て、バニッシが楽しそうに鼻で笑った。

バニッシ「起こしてくれとは言われてないし」

バニッシが飲み物をすべて飲み終え、急須と土製のコップを持って部屋を出る。アリサはそれを眺めながら溜め息をついた。

⏰:08/01/04 18:44 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#204 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もー、自分が行きたくなかったから起こさなかったんだわ絶対…今から行っても遅いし…」

アリサが膝の中に顔を埋める。そんなに背が高くないアリサのその姿はかなり小さい。

アリサ(…今年こそ一緒に行きたかったのに…)

アリサは、一緒に行きたかったのに、寝てしまった自分に呆れ、溜め息混じりの笑みを溢した。

バニッシ「溜め息吐くと幸せが逃げますよー」

器具を片付けてバニッシが部屋に戻ってきた。

⏰:08/01/04 18:54 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#205 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「それは嫌!」

アリサは少し慌てて、吐いた息を吸う素振りを見せる。

バニッシ「はははっ、ベタな事してんなよ」
アリサ「何よー、自分が振ってきたんじゃない」

からかうように笑うバニッシの態度に、少しふて腐れたように頬を膨らませる。別にバニッシに会えなくなる訳じゃない。また来年、一緒に行ければいい。
そんな事を考えていたアリサの顔は、既にいつもの表情に戻っていた。

アリサ「はーっ、それじゃあたしはそろそろ帰ろっかな」

⏰:08/01/04 19:04 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#206 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がり、少し伸びをする。

バニッシ「あ、送ってくわ」

そう言うとバニッシも立ち上がって玄関へ向かう。
バニッシの気持ちは嬉しかったが、アリサは今日これ以上バニッシと一緒にいると泣きそうな気分がした。

アリサ「あー…いいよ、うん。まだそんなに暗くないし。大丈夫!」
バニッシ「…そうか?」

頑張って作った笑顔が不自然に見えたのか、バニッシが怪しむようにアリサの顔を覗き込む。
アリサは自分の顔が赤くなっていくのがはっきり分かった。

⏰:08/01/04 19:12 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#207 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「大丈夫だって!あたしだって一応パンデモの人間なんだよ?」
バニッシ「いやそれ、ここら辺の人間全員そうだと思うけど」
アリサ「とにかくいいから!大丈夫!」

恥ずかしがってか視線を合わせないアリサ。
そんなアリサから何かを感じ取ったのか、バニッシが不意に言った。

バニッシ「…じゃあ俺、今から散歩行くわ」

そう言って、座って靴を履いているアリサの横に座る。
アリサには、無言で靴を履くバニッシの行動の意図がよく分からなかった。

アリサ「へっ?何で?どこに行くの?」
バニッシ「適当に行く。別に理由はない」

⏰:08/01/04 19:24 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#208 [◆vzApYZDoz6]
アリサは自分の家に向かって歩いていく。バニッシは何も言わずに、アリサと肩を並べて歩いていた。

アリサ「…ねぇ、どこ行くの?」
バニッシ「気の向くままに」

一応聞いてみたが、態度は少し素っ気ない。もしかして、と思ってはいたが、やはり家まで送る気だろう。
自分の右を歩くバニッシとの距離は、少し腕を伸ばせば手を繋げられそうなくらい近い。そのせいか、背が高いバニッシが余計に高く見えた。
アリサは少し俯いて、嬉しそうに笑った。

⏰:08/01/05 03:20 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#209 [◆vzApYZDoz6]
軈てアリサの家が見えてきた。
パンデモの中でも五指に入るバニッシの家系程ではないが、アリサも上流家系の人間で、家は大きめ。
アリサは家の鳥居のような門の前で止まって振り返った。

アリサ「えっと…どうするの?」

訊かれたバニッシは無言で俯いている。アリサも暫く黙っていると、突然バニッシがアリサの手を引き歩き出した。

アリサ「えっ?ちょっと、どうしたの?」
バニッシ「いいからついてきて」

バニッシが少し早足で何処かへ歩いていく。アリサは小走りになりながら肩を並べてついていった。

⏰:08/01/05 03:30 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#210 [◆vzApYZDoz6]
向かった先は修練場だった。崖に囲まれた空間を横切り、真っ直ぐに撃ち込み用の丸太のある場所まで歩いていく。

アリサ「ちょっと、もしかして今から修行でもする気?」
バニッシ「違うよ」

そう言うと、アリサの脇の下に腕を回し、抱き上げた。
突然抱かれたアリサは、少し顔を赤くして狼狽えた。

アリサ「えっ、何?」
バニッシ「捕まってろよ」
アリサ「へっ?…きゃっ!」

バニッシがアリサを抱えて、4mはあろうかという崖を一足で乗り越えた。
突然感じた浮遊感に、アリサが反射的に瞼を閉じる。どうなったのかとゆっくり目を開けると、眼下に修練場が見えていた。

⏰:08/01/05 03:42 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


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