-Castaway-
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#1 [主◆vzApYZDoz6]
幼い頃、男の子が一度は読んだ漫画や、女の子が母親に読み聞かせてもらったおとぎ話――

ある男女の高校生がくぐった扉は、そんな世界へ通じていました。




※小説初チャレンジなので、表現等至らぬ所もあると思いますが、寛大に見てもらえると嬉しいです
※かなりヲタク爆走な内容になるかもしれないです。てか多分そうなりますw
※無いとは思いますが、感想が増えたら感想スレ建てようかなと思います。



では

⏰:07/12/15 16:27 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#2 [主◆vzApYZDoz6]
秋もおわり、そろそろ木枯しが吹き始める季節。

マンションの一室のドアの前に、女の子が立っていた。

(浅香 藍、17歳。このお話のヒロインです。)

藍は手袋を着けていても冷える手を吐息で暖めながら、幼馴染みである川上 京介がドアを開けるのを静かに待っていた。

(川上 京介、17歳。このお話のヒーローです。)

藍がそろそろ待ちくたびれて階段に座ろうとした時、ドアのノブが回った。

藍「遅い!!」
京介「だから先行っていいっていつも言ってんじゃん」

京介は言いながらドアの鍵をかけ、寒さで肩を少し持ち上げた。
会話をしながらも、階段を少し小走りで降りる。

藍「でもいつも一緒に行ってるんだし…私が待ってなかったら京ちゃんいつも遅刻するし」
京介「京ちゃんって呼ぶのもやめろよ」
藍「何で?今までも京ちゃんて呼んでたんだしいいじゃない。てゆうか最近京ちゃん冷たいよ」
京介「あーもーうるせぇよ!学校間に合わねぇだろ!」

急ぐぞ、と早足で駅へ向かう京介を、藍は少しふてくされながら小走りで追い掛けた。


とまぁ、2人は友達以上恋人未満といった感じの、よくある関係だ。
京介はまだ思春期から抜けきっていないようで、藍に対して、心では嫌っていないが少しひねくれた態度を取っていた。
藍がもっと関係を深めたいと思うも、そんな京介のせいでいまいち進展はなかった。

⏰:07/12/15 16:58 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#3 [主◆vzApYZDoz6]
「また夫婦で登校ですかー?w」
「仲いいなー、羨ましいw」

教室に入ると、いつも通り2人へ冷やかしの言葉が飛ばされる。
春になれば3年目に入る学校で、京介と藍の2人は公認のカップルになっていた。

京介「こいつが勝手に待ってたんだよ!」
藍「いつも一緒に行ってるんだし待ってたっていいじゃない!」
京介「うるせぇよ!」

「もうこいつらいじるのも飽きてきたなーw」
「毎回言うこと同じだもんなw」
「京介もいい加減素直になれよw」
京介「うるせぇよ!散れ」


2人を冷やかしていた数人が笑いながらそれぞれ席に戻る。
京介も決してその気が無いわけではないが、朝のこういった冷やかしも京介が素直になれない一因だろう。
それは授業中も同じで――

藍「今日も教科書持ってきてないんでしょ?見せてあげる」
京介「いいって!机ひっつけんなよ」
「また夫婦喧嘩ですかー?w」

すかさず野次が飛ぶ。
席替えしても毎回京介と藍は隣同士だ。

⏰:07/12/15 17:13 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#4 [主◆vzApYZDoz6]
-放課後-

藍「さっ、帰ろ京ちゃん」
京介「いいって一緒じゃなくても」
藍「でも家まで道一緒だし…」
「そうそう、一緒なんだし一緒帰れw」
京介「うるせぇ!もういいよ、帰るぞ」

藍は頷きながら、やはり早足で行く京介に付いていく。

藍の家は京介と同じマンションの、同じ階の、京介の向かいの部屋だ。
電車どころか家のドアを開ける時も同じなので、京介もふてくされながらも毎回一緒に学校に行き、一緒に家に帰っていた。

その2人の住み慣れたマンションの1階ので、京介が自宅の郵便受けを開けている時。

藍「ねぇ…あんなとこにドアなんかあったっけ?」

藍が階段の隣を指差して京介に言った。
京介が藍の指の先を見る。
このマンションはエレベーターが無く、階段が2部屋毎に部屋に挟まれてあるだけだ。
階段は集合住宅によくあるような、階毎に踊り場を挟んで折り返し昇るタイプ。京介のマンションは、1階の階段の始まりの横-地下があるならば、さらに降りる階段がある場所です。-が壁になっていて何もない。

藍はそこを指差していた。

⏰:07/12/15 17:36 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#5 [主◆vzApYZDoz6]

京介「あれ?あんなとこにドアなんかあったっけ?」
藍「それ今言ったから!…でもあんなとこにドアなんか無かったよね?」

京介「たぶん…無かったと思うけど」


2人ともドアを見つめながら、不思議そうに会話していた。

ドアは全体的に茶色で、ドアノブと思われる水平棒がついている。ノブを回すのではなく、下げて押し開けるタイプのドアだろう。
そのドアがある場所は、今日の朝までは間違いなく壁だった。

少しの間2人とも沈黙していたが、藍が唐突に口を開いた


藍「ねぇ、中に何があるか気にならない?」

⏰:07/12/15 18:11 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#6 [主◆vzApYZDoz6]
京介「まぁ気にはなるけど…明らかに怪しいだろアレ」

京介の言うことは最もだ。
ドアがある場所は階段裏のデッドスペースで、せいぜい物置程度の空間しか無いだろう。ましてや人が住んでいるなどあるはずもない。さらに、このドアは恐らく京介達が学校にいる間に突然現れたのだ。
怪しい事この上ない。


藍「分かってるよそんなの。だから中が気になるんじゃない!」
京介「いやまぁ…言いたいことは分かるけど」
藍「ほら京ちゃん、中見てみよ!ちょっと除くだけじゃん!」
京介「万が一人がいたらどーすんだ」


京介の心配もよそに、藍は京介の腕を引いてドアへ向かっていた。
京介も何だかんだで気になるので、そのまま引かれてドアへ向かう。
藍がドアノブに手をかけた。


藍「あっ、一応おじゃましますって言った方がいいかな?」
京介「心配せんでも人はいねぇだろうけど…まぁ、好きにすればいいんじゃね?」
藍「よーし、じゃあ…おじゃましまーす!!」


藍が勢いよくドアを開け中に入る。
京介も中に入った。


京介達が予想外の中の光景に驚きはしゃいでいる後ろで、ドアの蝶番がゆっくりと戻っていく。


やがてドアが完全に閉まり、ドアノブが水平の位置へ戻る。



カチッ、という音と共にドアノブが水平に戻った瞬間、ドアが光に包まれ、忽然と消え去った。

⏰:07/12/15 18:27 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#7 [主◆vzApYZDoz6]

藍「すごーい…」
京介「何だここ?」


2人が出た場所は階段裏のデッドスペースなどではなかった。
回りはどこを見渡しても草原が広がるばかりで生き物も見当たらず、建物はおろか、木の1本すら生えていない。水平線の彼方に山が広がっているだけで、まるでモンゴルの大草原を彷彿とさせた。


京介「ドアの向こうは不思議の草原でした。」
藍「あははっ、それ『千と千尋の神隠し』じゃん!…でも何だろうねここ」
京介「てゆうかあのドアってマンション裏にあったはずじゃ…―――げっ!」


京介はドアを見ようと振り返り驚愕した。


京介「ドアが…ドアが無くなってる!」


京介は、今しがた自分が出てきた場所をまさぐったが、空を切るばかりだ。

⏰:07/12/15 18:47 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#8 [主◆vzApYZDoz6]

京介「どうやって帰るんだよ…なぁ藍、これからどう―――あれ?」

さっきまで隣にいた藍がいない。
京介は焦って辺りを見回すと、藍が50m程先で佇んでいた。
京介はほっとして胸を撫で下ろし、駆け足で近付いた。

京介「どうしたんだ?」

藍「あ、京ちゃん、あれさっきのドアじゃない?」

京介「えっ?…あっ、ホントだ」

藍が指差してた先を見ると、10mぐらい先だろうか、確かにここに来たときにくぐったのと同じようなドアが見える。

⏰:07/12/15 18:56 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#9 [主◆vzApYZDoz6]
京介「よし、ならさっさと帰るぞ」

藍「えっ、どうせならもっと探検してみようよ!」

京介「探検してみようよって、回り何もねぇじゃん…」

藍「だからあっちの山まで…」

京介「遠いわ!これ以上わけわからん事になる前に帰るぞ」

ほら、と藍の腕を引っ張る。
藍は少しふてくされながら渋々ついていった。

⏰:07/12/15 19:01 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#10 [主◆vzApYZDoz6]
さっきと同じドアを、今度は京介が開く。

京介「あれ…また変なとこに出たぞ?」


そこはマンションの階段だった。が、明らかに外の風景が自宅のマンションとは違う。
辺りは夜のようで、マンションを出るとレンガの道が左右に伸びており、脇には該当の光が点々と続いている。向かいや隣にもレンガ造りのマンションや家が並んでいる。その町並みはロンドンの市街のようだが、人は全く見当たらず、あまりに閑散としている。

藍「なんか怖いね…」

京介「まぁ…とりあえずまたドアが無いか探してみようぜ。離れんなよ」

やはりドアが消え失せて壁になっている場所を一瞥しながら、藍の手を引いて外に出る。

京介達がレンガ道の真ん中に出ると後ろで、瓦を割ったような大きな音が響いた。

京介「なんだ!?」


見ると、男が立っていた。

⏰:07/12/15 19:38 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#11 [主◆vzApYZDoz6]
男はスキンヘッドで、黒いジャケットに黒いカッターを着ていた。肌も褐色で、周囲の薄暗さも相まって景色に溶け込んでいた。
男の足元を見ると、まるで上空からボーリングの球を落としたかのように、レンガが抉れ捲り上がっていた。

京介「何だよお前…?」

後ろの藍を右腕で制しながら言う。

?「やはり来たか…悪いが、死んでもらおう」

京介「はっ?」

男は既に右腕をふりかぶっていた。

⏰:07/12/15 19:58 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#12 [主◆vzApYZDoz6]
京介「危ない!!」

京介は藍を抱え右に飛ぶ。

間一髪。
男の右腕は、つい半瞬前まで京介達がいた場所の地面にめり込んでいた。

男が腕を引き抜き、京介達の方へ向き直る。
男の右腕は、左腕の3倍はあろうかというぐらいに膨れ上がっていた。
京介はすぐに立ち上がり、藍を抱え起こす。

藍「ありがとう…でも何あの人!?」

京介「分からねぇけど、とにかく逃げるぞ!!」

京介は藍の腕を引っ張り走り出した。
男もそれを確認し、体をかがめた。

?「逃げるのはいい事だが…遅いな」

一気に飛び出す。
一瞬で京介達を飛び越えた。

京介「げっ」

?「無駄な足掻きはするんじゃない」

男は再度右腕を打ち出す。
京介は走っていて急に止まったため体勢が不安定だった。

京介「やべ…!」

その時、京介の前に見慣れた人物が現れた。

⏰:07/12/15 21:19 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#13 [主◆vzApYZDoz6]
藍「…内藤先生?」

京介「えっ?」

内藤「ふぅ…間一髪か」

内藤が男の拳を払いながら溜め息をついた。

(内藤 篤史、35歳。京介と藍のクラスの担任です。)
京介「内藤!!何でここに!?」

内藤「川上、先生を呼び捨てで呼ぶもんじゃないぞ」
?「誰だ、貴様は」


男が左手を前に突きだし構えをとった。
内藤もそれに倣い、体勢を立て直す。

内藤「俺も地球から来た人間だ。…こいつらと同じ、な」

内藤が後ろの京介達を顎で指す。

?「地球人か…ならば貴様も死んでもらうが」

⏰:07/12/15 22:16 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#14 [主◆vzApYZDoz6]
京介と藍は困惑していた。
京介は頭の中で数々の疑問が浮かぶ。
地球から来た…って、じゃあここは何処なんだ?
地球人か…って、あいつは地球人じゃないのか?
藍はわけもわからず黙って立っていた。
京介はとりあえず内藤に訊いた。

京介「なぁ、内藤、何か知ってるみたいだけど、一体なんなんだ?」

内藤「ん?それはあとで説明する。てゆうか先生を呼び捨てに―――」

会話を遮るように男が踏み込んだ。
初撃、2撃目よりも遥かに早く右ストレートが打ち出される。

内藤「……全く気が早いな。親から教わらなかったか?」

内藤の左手が男の右拳に添えられた。
男の右拳を、スピードを殺さず手前に引く。

内藤「人が喋っている時は―――」

間髪入れず右手で男の右肩を掴み、さらに引く。
左手は男の拳から離れ、そのまま弧を描きながら男の踏み込み足を掴む。
内藤が左右の腕を勢いよく交差させると、男の体が宙に舞った。
内藤はそのまま右拳を腰に構え―――

内藤「―――邪魔をするんじゃない!」

―――渾身の掌呈突きを繰り出した。

?「ごはっ!!」

男は血を吐き、体は数m吹っ飛んだ。

京介「内藤ってあんな強かったっけ…?」

内藤「だから先生を呼び捨てにするんじゃない」

⏰:07/12/15 23:01 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#15 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はポケットから煙草を取り出し、火をつける。銘柄はマルボロメンソールだ。深く煙を吸い、ゆっくり吐き出した。
京介はその様子を見ながら、内藤が何故か持っていたロープで謎の男を縛り上げていた。
藍はすぐそばにあったベンチに腰掛け、2人を静かに眺めていた。
京介が男を縛り終えた頃合いを見計らって、話を始める。

内藤「さてと…何から話すべきか」

京介「とりあえず、此処は何処なんだ?」

内藤「この世界は『ディフェレス』と言ってな…まぁ簡単に言えば異世界だな」
藍「あの人は一体何なんですか?」

内藤「あいつは『ウォルサー』っつー組織の組員…つうか戦闘員だ。…なんて言っても分からんだろう」

京介「全然分からん」

内藤「ごもっとも。一から説明しよう。黙って聞け」

⏰:07/12/15 23:15 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#16 [主◆vzApYZDoz6]
内藤は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた。

内藤「『ディフェレス』には、普通の人間の他に『レンサー』と呼ばれる特殊な力を持った人間が存在する。その特殊な力は『レンサースキル』と言って…まぁ色々ある」

京介「色々ある、ってハショんなよ。つうか何の漫画だそりゃ…」

内藤「五月蝿い。黙って聞け。…んでな、ウォルサーはそのレンサーの力で、世界征服というありきたりな事を企んでるんだ。
そして、その企みを阻止せんとする『バウンサー』という組織も存在する。俺もそこの所属だ」

藍「え?じゃあ担任をしてるのはなぜなんですか?」

内藤「うん。お前は言葉遣いが正しくて宜しい。…まぁこれにも理由があってな、ウォルサーが世界征服を目論むにあたって地球人を狙いだしたんだ。
つうのも、地球人の中にも極少数のレンサーがいる。しかも、そのスキルは他と比べ物にならないぐらい強力なものが多いんだ。ウォルサーはそこに目をつけ、スキルを持った地球人を誘拐・洗脳して利用しよう、っつーとんでもない計画を企てたんだ。」

⏰:07/12/15 23:55 📱:P903i 🆔:cNAOSz2Y


#17 [主◆vzApYZDoz6]
京介「話が突飛すぎてついていけないんだが…スキルとか洗脳とか」

内藤「その洗脳がやっかいでな…そこに縛られてるあいつも洗脳で操られている。簡単なスキルなら人に覚えさせる機械があってな、レンサーではない普通の人間でもスキルを持たせれば戦える。奴等はそうやって駒を増やしているんだ」

京介「なんか映画でなかったかこんなの?」

内藤「話を戻すぞ。地球人の誘拐を防ぐために、俺が地球に派遣された。スキルを持つ地球人の発見と保護が目的だ。
そして発見したスキルを持つ地球人が…お前だ、川上」

京介「俺!?いやいやはっきり言ってそんなわけわからん能力とか持ってないから!!」

内藤「いや、お前はスキルを持っている。『扉』が開いたのが何よりの証拠だ」

⏰:07/12/16 00:07 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#18 [主◆vzApYZDoz6]
京介「扉…ってまさか」

京介は藍と顔を見合わせる。

藍「あのドア?」

内藤「そうだ。あれはレンサーしか開けれない扉でな…ウォルサーに移動型の強力なスキルを持った奴がいてな、そいつの仕業だ。
その扉はレンサーの側に出現する仕組みになっているから、お前を担任に成り済まして見張っていたんだ…だがたまたま臨時の職員会議があってな…」

京介「頼りにならねぇな…

⏰:07/12/16 09:18 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#19 [主◆vzApYZDoz6]

京介「あれ?でもあいつらは地球人…って言うか、まぁ要するに俺を、利用しようとしてんだろ?何で殺すんだ?ってかさっきも言ったが、俺そんなわけわからん能力とか持ってないから」

内藤「あいつらの言う『地球人』は、スキルを持たない地球人の事だ。…まぁつまり、浅香、お前の事だ」

藍「私を殺そうと…?」

京介「いや、何で殺す必要があるんだよ?」

内藤「どうゆう訳かレンサーではない地球人には洗脳が効かない。つまり、ディフェレスの実情を知ればバウンサー側の人間になられる。まぁ、敵になる前に殺そうって事だ。…しかし何で浅香は扉を通れたんだ?」

⏰:07/12/16 11:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#20 [主◆vzApYZDoz6]
京介「そういや最初にあのドア開けたのお前だな」

内藤「開けた!?本当か!?」

内藤が身を乗り出す。

藍「え?…あ、はい、一応…」

内藤「まさか…いやでも開けられるのはレンサーだけ…だが反応は…」

京介「何ブツブツ言ってんだ?」

内藤「だいたいあの扉がなぜここに…クルサがモルディアに繋がるように組み換えたはず…」

⏰:07/12/16 11:16 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#21 [主◆vzApYZDoz6]
内藤のよく分からない独り言を聞いて、京介が藍に呟いた。

京介「…そういや最初は草原に出たよな?」

藍「そうだね…結局あそこは何処だったんだろ」

内藤「草原!?」

内藤がいっそう2人に近付いた。

内藤「そこへの扉を開けたのが浅香…じゃあここへ来る扉を見付けたのは?」

藍「私ですけど…」

京介「草原からここへ来たときもお前が先にドア見付けてたよな」

内藤「やはりか…」

その時、背後から甲高い声が響いた

?「いいこと聞いちゃったー♪」

⏰:07/12/16 11:26 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#22 [主◆vzApYZDoz6]
声の正体は女だった。
後ろのマンションの屋上から飛び下りたその女は、カッターシャツにカーディガン、下はプリーツのスカートという、まるで高校生のような風貌。

内藤「アリサ…!」

アリサ「もう、その女を殺さない訳にはいかないよ♪」

アリサは手を上にかかげ、指をパチンと鳴らした。
と、先刻京介達を襲い、今は縛られてる男が、一斉に現れた。手には拳銃らしいものを持っている。

京介「なんかいっぱい出てきたけど」

内藤「仕方ない…川上!」

京介が振り返ると、突然内藤の人差し指が耳に突っ込まれた。

京介「いってぇ!?」

内藤が指を引き抜きながら、前を見据える。

内藤「これでお前は戦える。お前はあのハゲ男達から藍を守れ」

そう言うと、内藤はアリサの懐へ踏み込んだ。

⏰:07/12/16 11:45 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#23 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おい待てよ内藤!」

京介が内藤を追い掛けんとするところを、男達が阻む。

男「その女を渡せ」

京介「誰が渡すか!」

京介は藍をベンチの後ろに隠させ、男達に向き直った。

京介「戦えるって…戦い方分からねーっつーの」

男「ならばお前に先に死んでもらおう」

男達が、一斉に拳銃を構えた。

⏰:07/12/16 11:51 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#24 [主◆vzApYZDoz6]
京介の視界に、自分に向かって飛んでくる無数の銃弾が映った。
なぜか、銃弾はゆっくりと自分に向かってきている。

京介「あれ…これ避けれるんじゃね?」

1番最初に自分に当たりそうな弾は左前から来ている。
京介は右に首を倒す。顔面目掛けて飛んでくる銃弾は京介の耳の横を通過した。
その銃弾を尻目に前を確認、今度は前方と右前の弾が当たりそうだ。
今度は右後ろに1歩下がった。
銃弾が眼前をゆっくり通過していく。
その銃弾の向かう先を目で追う。
藍には当たらなさそうだ。
京介はまた前を見る
男達は、自分が今立っている場所から1歩左前、つまり避ける前に立っていた場所を見ている。

京介(あれ…あいつらボーッとして何やってんだ?)

⏰:07/12/16 12:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#25 [主◆vzApYZDoz6]
京介は、自分の前に扇形に並ぶ男達の、右端の男の方に踏み込む。
京介が男達の後ろに回り込んだ頃に、ようやく男達の視線が動き出した。

男「奴がいない!?」

京介「何処見てんだよさっきから」

男「はっ!?」

男が声の方を振り返ると、味方の男が1人、宙に吹っ飛んでいた。

⏰:07/12/16 12:17 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#26 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おぉ!?」

吹っ飛んだ男は、地面に頭から着地、もとい激突した。

京介「あれ?俺ってこんなパンチ力あったっけ?」
男「貴様!!」

男の声に反応し、視線を上げる。
目の前にいた男が拳銃を捨てて殴りかかってきた。
その後ろの何人かも拳銃を捨て、横に飛び出してくる。
京介には、やはりスローモーションに見えていた。

京介「今度は右腕膨らまさねーのか?」

眼前の男の右腕は細いまま、顔を狙って拳が飛んできた。

⏰:07/12/16 12:30 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#27 [主◆vzApYZDoz6]
京介は右足を持ち上げ、前に蹴り上げた。
男はそのまま吹っ飛ぶ。
今度は左右から別の男が殴りかかってくる。
左の男の伸びてくる腕を右手で捕まえ、そのまま左肩に担ぎ、腰に体重をかける。

京介「おらっ!」

勢いよく右の男に投げ飛ばした。

京介「おー、何かよく分かんねーけどいけそうだな!」

京介は前に残る男達を倒すべく踏み込んだ。

⏰:07/12/16 12:42 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#28 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「ふふっ、私を相手にする気?♪」

京介が男達の銃弾を避けている頃、内藤はアリサと対峙していた。

アリサ「あっちも銃撃始めたみたいだし、そんなに頑張ったって、どうせあの女は殺しちゃうよ?♪」
内藤「浅香なら川上が守っているはずだ。今の川上ならあいつらぐらいどうって事ないだろう」
アリサ「やっぱりスキルを渡してきたのね♪」
内藤「…」

内藤は無言で構えた。
内心で銃撃音が気になっていたが、京介に渡したのは情報処理能力強化スキル『ブロード』。しかも、強制使用するようにしておいた。
心配はいらない、と内藤は自分に言い聞かせる。
しかし―――

アリサ「知ってるわよ♪貴方は地球での活動の妨げになるから、スキルの殆どをバウンサーの本部に置いてきてるんでしょ?♪」

内藤は最低限戦うために持っていたスキルを京介に渡してきたため、スキルを…戦うための能力を、持っていなかった。

⏰:07/12/16 13:19 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#29 [(・∀・)]
こういう系の話
大好きです!!
頑張って下さい
応援してますッ★

⏰:07/12/16 13:54 📱:SH903i 🆔:Rq4r5kG.


#30 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「大事な教え子を殺させる訳にはいかんからな」
アリサ「あら、その大事な教え子を戦わせているのはあなたじゃない♪」
内藤「川上なら大丈夫だ。…あいつがハゲ共を倒すまで、俺が時間を稼ぐ」

内藤が一気に踏み込んだ。

アリサ「ふふっ、できるものならやってごらんなさい♪」

内藤がストレートを打ち出す。
アリサは素早く後ろに下がった。内藤の拳が空を切る。

アリサ「どこまで持つかしら♪」

アリサは左手を前に突き出した。
手には、携帯電話が握られている。

⏰:07/12/16 14:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#31 [主◆vzApYZDoz6]
>>29
ありがとうございます。
頑張らせてもらいます

⏰:07/12/16 14:08 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#32 [主◆vzApYZDoz6]
開いた携帯電話を、岡っ引きの形で持つ。
その携帯電話に添うように右手を被せる。

アリサ「せいぜい頑張って頂戴ね♪」

右手が輝きだす。
左手を引き抜くようにスライドさせると、携帯電話から光の筋が浮かび上がった。
まるでライトセイバーのようなその光の剣を、八艘構えで持ち向き合う。

内藤「『ハンドルソード』か。そんな何処にでもあるようなスキル…俺も舐められたもんだ」
アリサ「今のあなたならこれで十分よ♪」

アリサが袈裟斬りを繰り出す。

内藤「しかし…ヤバいのは事実かな」

内藤は全力で右前に飛び込んだ。
足元の地面が砕けるのを尻目に、そのままアリサの後ろに回り込み、バックステップで距離を取った。

⏰:07/12/16 14:34 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#33 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「逃げるのだけは上手いのね♪」
アリサが後ろの内藤と向き合う。

内藤「褒められたもんじゃないけどな」
アリサ「分かってるなら大人しくしていなさい♪」

アリサが踏み込んだ。
先刻よりも早く剣が振り下ろされる。

内藤「それは死んでも嫌だね」

今度は後ろへ跳んだ。
初太刀の袈裟斬りを寸前でかわす。
すかさず左から水平斬りが迫ってくる。

内藤「ノーマルだからって―――」

左手を腰へ。
同時に、跳んだ反動を殺さず体を後ろに反らした。

内藤「―――舐めるなよ!」
左手を上へ打ち出す。
内藤の掌が刀身の横腹を捉え、斬撃を逸らした。
そのまま両手を逆手で地面に突き、体を丸める
反動で前に起き上がった時には、右手がすでに腰に構えられて。

アリサ「なっ…♪」
内藤「悪いが、俺は男女平等主義者でね」

掌呈突きを繰り出した。

⏰:07/12/16 15:02 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#34 [主◆vzApYZDoz6]
次々とスキンヘッドの男が転がっていくのを、藍がベンチの裏から心配そうに見ていた。
理由は分からないが、自分の幼馴染みが戦っている。
その向こうでは、自分のクラスの担任が戦っている。
藍はその光景をいまだに理解できていなかった。

京介が最後の1人を勢いよく吹っ飛ばしたのを確認して、ベンチから身を出し駆け寄った。

藍「京ちゃん、大丈夫?」
京介「全然余裕だけど」

京介が服の埃を払いながら答える。

京介「まぁ、内藤が何かしたおかげだけどな…つうかその内藤は?」
藍「あっちでさっきの女の人と戦ってるみたいだけど…」

京介が藍の視線の先を辿ると、確かに内藤がいる。
ちょうど、袈裟斬りをかわして女の後ろに回り込んでいた。

京介「あれ…危ねーんじゃねぇの?」

女の袈裟斬りを避けてはいたが、処理能力が強化されている京介の頭脳は、明らかに内藤が不利だと言っていた。
女が2撃目をふりかぶる。
京介は駆け出した。

⏰:07/12/16 15:17 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#35 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はすぐに距離を取った。
今はアリサの油断があったからこそ反撃できたが、次はそうはいかない。

内藤「川上はまだ戦っているのか…」

内藤が横目で背後を確認する。
京介が自分の元へ走ってきていた。

京介「あれ?普通に大丈夫じゃん…」

京介は、確かに脳の処理能力が強化されている状態だ。
それはつまり、普段より反応は早いが、筋力が上がったという訳ではない。
危機が迫る内藤の元へ一瞬で近付く事などできるはずもなかった。

内藤「遅いぞ、川上」
京介「いやだって走る速さ変わってないし…大の男をあんだけ吹っ飛ばせたのに」
内藤「そりゃそうだ。あいつらは風船だからな」
京介「風船?」
内藤「喋ってる暇は無い、とりあえず藍を連れて逃げるぞ」

内藤は、既に立ち上がって埃を払っているアリサを横目で見た。

京介「げっ、あいつピンピンしてんじゃん」
内藤「とりあえずスキルを返せ」

内藤は再び人差し指を突っ込み、引き抜いた。

京介「いってぇ!ったく、それやらないと返せな―――うわっ!!」

内藤は、京介を藍のいるベンチ目掛けて投げ飛ばした。

⏰:07/12/16 15:34 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#36 [主◆vzApYZDoz6]
京介「いってぇ…」
藍「ちょっと京ちゃんどうしたの?行ったと思ったらすぐ帰ってきて」
京介「いや、逃げるぞって言われて…」

言いかけたところで、地面の異変に気がついた。
自分と藍がいる場所を囲むように、ピンク色の光の筋が、円を描いている。
光の筋が京介達の周囲を360度回りきると、円の中の地面もピンク色に光りだし、京介達が全身光に包まれる。
光が消えると、京介達の姿は無くなった。

⏰:07/12/16 15:44 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#37 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「よし成功」
アリサ「『ゲートキャバ』ねぇ…♪スキルを持ってないフリをするなんてセコいわね♪」
内藤「お前が持ってないと思い込んでいただけだろう」

内藤は京介達が消えたのを横目で確認し、向き合う。中指はピンク色の光を発している。

アリサ「結局計画は失敗ね…でもまぁ逃げた先はあなたの親元でしょう?♪」
内藤「さあな。…さてと、俺ものんびりしてられないから帰らせてもらうわ」

内藤は後ろへ跳んだ。
着地点は、京介達が消えた場所。
内藤が着地と同時に中指を地面に擦ると、地面が再び輝きだした。
同じように内藤を光が包む。

内藤「まぁ、次があればお互い本気でやろうじゃないか」

言い終わるか分からないうちに、内藤も消え去った。

⏰:07/12/16 16:06 📱:P903i 🆔:jBKYDY9A


#38 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「ふふっ、行っちゃった♪」

アリサは手に持った携帯電話に右手をかざす。
右手をスライドさせると、光の剣が消えていった。

アリサが携帯電話をしまっていると、どこからともなく男が現れた。

アリサ「あら、今頃どうしたのよガリアス♪」

ガリアス、と呼ばれたその男が後頭部を掻いた。
外観は若い。下はジャージをはいて、上は丈の長いTシャツという、良く言えばラフな、悪く言えばやる気のない格好だ。

ガリアス「いや、モルディブで張ってたんだけどよ…まさかこんなところに現れるとは思わねぇしさ」
アリサ「そうねぇ♪…アサカ・アイだっけ?♪」
ガリアス「うーん、先に手をうつべきかな」
アリサ「あら、今日は随分やる気じゃない♪」
ガリアス「色々あったんだよ。俺はアサカの方をやるけど、お前はどうする?」
アリサ「騒動は多い方がいいんじゃない?♪」
ガリアス「お前は何だかんだでえげつねぇな…まぁ俺はもう行くわ。早いに越した事はないし、奴等の行き先なら見当がつく」

ガリアスは踵を返し、そのままレンガ道の先の闇へ消えていった。

アリサ「自分でやる気かしら?♪まぁいっか…帰りましょ♪」

アリサが再び携帯電話を取り出しボタンを操作すると、忽然と消え去った。

⏰:07/12/17 01:12 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#39 [主◆vzApYZDoz6]
京介「今度はどこだよ…」

京介と藍は、またしても見知らぬ場所に出てウンザリしていた。
そこは荒野のようで、京介達はそこを縦断する道路の真ん中に立っていた。
例によってまわりに人影はない。が、道路の端に一台の車が停まっていた

藍「あそこに車があるけど」京介「いやっ、怪しさ満点だぜ」

と、急に京介のそばの地面が光りだす。
現れたのは内藤だった。

内藤「2人とも無事だな。今から俺んち行くぞ」
京介「内藤んちとか別に興味ねぇんだけど」
内藤「いいからついてこい」

内藤は車のドアを開け、エンジンキーを回す。
京介と藍が後部座席に乗り込んだのを確認し、発進させた。

⏰:07/12/17 01:23 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#40 [主◆vzApYZDoz6]
道はずっと直線で、たまに勾配がついていた。
1時間ほど車を走らせていると、1軒の建造物が見えてきた。
内藤が家の前で車を止めて降りる。京介と藍もそれに倣った。

京介「なんつうか、ちっこい家だな」

京介が呟く。
確かに、家と言うには小さく、大きめの納屋、と言った方が近いかもしれない。

内藤「ま、別荘みたいなもんだな」

内藤が言いながらドアを開けた。

内藤「なっ…シーナ!リーザ!大丈夫か!」

内藤が慌て中に入ったのを見て、京介も中を覗いた。
中は1つの部屋になっていた。さっぱりして、特に物も無い。
が、中央に人が2人、横たわっていた。

⏰:07/12/17 01:37 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#41 [主◆vzApYZDoz6]
藍「どうしたの?」
京介「あれ!人が倒れてる!」

京介と藍も駆け寄る。
倒れている2人は双子のようで、どちらも長い金髪の髪を束ねている。
意識はあるようだ。

内藤「大丈夫か!?誰にやられた?」
リーザ「う…ん、内藤…?」
シーナ「あなたが来たってことは、まさか…」
京介「なぁ、どうしたんだ?」

京介が内藤の前に身を乗り出したのを見て、2人が声を荒げる。

リーザ「こっちへ来ちゃ駄目!」
藍「きゃっ!!」

京介が驚いて後ろを振り返ると、ジャージをはいた男が藍を肩に抱き抱えていた。

ガリアス「まったく無用心だな、誘拐のし甲斐が無い」
京介「待ちやがれてめぇ!!」

ガリアスが素早く家から出ていった後を、京介が追う。
しかし、京介が家の外に出ても回りに誰もいなかった。

京介「あれ!?どこ行った?」ガリアス「ここだよー、カワカミ君」

辺りを見回していた京介の頭上から声がした。
京介が見上げると、そこにいたのはドラゴンに乗るガリアスだった。
ドラゴンの背中にはもう1人男が乗っている。

⏰:07/12/17 01:59 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#42 [主◆vzApYZDoz6]
京介「おい!藍をどうする気だ!降りてこい!」
ガリアス「別にどうもしないよ、彼女が抵抗しなければね」

ガリアスの肩に抱かれている藍は暴れたりする様子もない。気絶させられたようだ。

ガリアス「まぁ、取り返したければ取り返しに来なよ」

そう言ってもう1人の男に目配せする。
男は頷き、京介を一瞥してから前を向く。
ドラゴンはそのまま空の彼方へ飛び去った。
京介が肩を落として振り返ると、ちょうど内藤がリーザとシーナに肩を貸しながら、家から出てきた。

内藤「おい、大丈夫だったか!?浅香は!?」
京介「連れていかれたよ…」
内藤「そうか…。だがそれなら行き先は見当がつく」
京介「本当か!?」
内藤「あぁ。藍が抵抗しなければ殺されたりはしないだろう。今はとりあえずこの2人を…」

突然、会話を遮るように、大きな電子音が乗ってきた車から鳴り響く。
内藤が車に近付いてドアを開け、無線機のような物を取り出しボタンを押した。

内藤「どうした?」
『今すぐホームへ戻ってきて!凄い数の襲撃が…!』内藤「何!?分かった、すぐに行く!!」

内藤は無線機を車に放り投げ、京介らの元へ駆け寄った。

京介「どうしたんだよ?」
内藤「説明してる暇はない、とにかく行くぞ!」

内藤が中指で地面を擦る。
京介・内藤・リーザ・シーナの4人がピンクの光に包まれた。

⏰:07/12/17 02:20 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#43 [主◆vzApYZDoz6]
-バウンサー本部-
円筒状に縦に長い建物に、スキンヘッドの男達が無数の銃弾を浴びせている。
男達の後ろにはアリサが立っていた。

アリサ「んもぅ、鬱陶しい結界ねぇ♪みんな、どんどん撃っちゃってー♪」

アリサの声をバックに、スキンヘッドの男達が銃撃が更に激しさを増す。

「うーん、これじゃスティーブの散歩にも行けやしないな」
「何言ってんですか会長!この結界もあれだけの攻撃が続くと持ちませんし、早く手を打たないとヤバいですよ!」

その様子を中から見ている2人の男が、険しい顔で話をしていた。

(ハルキン、31歳。バウンサーのトップで、通称『会長』と呼ばれています)
(ラスダン、26歳。バウンサーの一員です)

⏰:07/12/17 16:21 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#44 [主◆vzApYZDoz6]

ハルキン「いやまぁ分かってるんだけどねそれは」
ラスダン「ならばこちらも反撃するなりしないと…!ジェイト兄弟なら出撃準備が出来てますけど、出しますか?」
ハルキン「まぁ待て、ラスカが連絡してたから、そろそろ内藤が戻ってくるはずだ。敵はアリサの他にも何人かいるようだし、こちらの出撃も数が揃ってからだ」
ラスカ「あんたそれまで結界はってろって言うの?冗談じゃないわ、こっちだって辛いんだから!」

部屋の中央から1人の女が喋りかける。
(ラスカ、?歳。バウンサーの一員で、様々な結界を作るスキル『タレント』を持つレンサーです。)

ハルキン「ん?まぁ頑張れ」
ラスカ「まぁ、人の苦労も知らないで…!」

⏰:07/12/17 16:26 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#45 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「ハルキン、大丈夫か?」
ハルキン「おぉバニッシ、着いたか」

ピンクの円が光り、内藤達が現れた。

内藤「今は内藤だ。…しかし、まさかこのタイミングで仕掛けてくるとは…」
ハルキン「うーん、リーザとシーナをお前んとこで養生させたのは間違いだったか」
内藤「まぁ間に合ったし、今話していても仕方がない。敵の数は?」
ハルキン「既に『調査』はすんでいる。…ラスダン!」

OK、とラスダンが親指を立てる。

ラスダン「目ぼしい敵は、アリサ、ウィニー、ハル・レインとハル・ライン。ガリアスはいないみたいだよ。風船人形がやけに多いのが気になるけど…まぁ大丈夫じゃないかな」

内藤「4人か…風船人形がいる外じゃあやりづらいな」
ハルキン「そこはジェイトらに任せよう。出撃準備は出来てるんだろう?…そうだな、1階を使わせてやるか。ラスダン、伝えておいてくれ」
ラスダン「了解」

ラスダンが足早に部屋を出ていく。
ドアのそばにいた京介がどうしていいかあたふたしているのを見て、内藤が近付いた。

内藤「よし、身体強化スキルを渡しておくから、お前も1階へ行くんだ」
京介「あ、あぁ、分かった」
京介がラスダンの後を追って部屋を出ていった。

ハルキン「ラスカ、結界を頼むぞ。やることは分かってるな?」
ラスカ「はいはい…人使い荒いんだから」
内藤「よし、行くぞ」


ラスカが見守る中、内藤とハルキンが窓から飛び出した。

⏰:07/12/17 17:02 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#46 [主◆vzApYZDoz6]
京介はエレベーターを降り、1階のフロアに出た。
1階は非常に広く、学校の講堂ぐらいの広さがある。
京介は、前方からバイクに乗った2人がやって来ているのに気付いた。
1つのバイクは車輪が車体に比べとても大きく、直径2mはあるかというぐらいだ。
もう1つのバイクは胴体部が大きく、屋根つきのバイクをさらに増築したような感じになっている。

(ジェイト兄弟。大きなタイヤの『ジェイトレッグ』を狩る兄と、大きな胴体の『ジェイトドット』を狩る弟の兄弟です。会話では『兄』と『弟』です)

兄「おーっす!あんたがキョウスケか。話は聞いてるな?俺達があのハゲ風船共を捕まえてくるから、あんたは中で奴らをバチボコにしてやれ」
弟「兄ちゃん、シャッター開けるぜ」

ジェイト弟がシャッターを開けた先に、銃撃を続ける無数の風船人形がいた。
ジェイト兄がエンジンを吹かす。

兄「ほんじゃ、頼むぜ!」

2人のバイク乗りが敵陣に駆けていった。

⏰:07/12/17 17:29 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#47 [主◆vzApYZDoz6]
感想板立てました

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3130/

⏰:07/12/17 17:33 📱:P903i 🆔:m2d30OU2


#48 [主◆vzApYZDoz6]
外へ向かう狭い通路を走る2台のバイク。
うち、大胴体のジェイトドットは徐々に減速し、大車輪を持つ機体ジェイトレッグは加速していた。

兄「いくぜ!ジェイトレッグ!バウンサー特製―――」

ジェイト兄が左ハンドルのボタンに手をかける。
シャッターを飛び出し、銃撃を続ける風船の頭上へ大ジャンプした。

兄「捕獲用地引き網!」

ジェイト兄がボタンを押し込む。
機体の横の一部が口を開け、大きな網が左右へ飛び出した。

風船人形「これは!」
兄「よし!いけるか弟よ!」
弟「任せろ兄ちゃん!」

風船達に被さる網の右端を、ジェイト弟が掴む。
ジェイト兄は着地して左へ走り、旋回走行で網の左端を掴みすぐさま加速した。
それを確認したジェイト弟も一気に発進させる。
狭い通路の先に左右からバイクが現れ、通路を隼の如く駆け抜けた。

風船人形の塊が、引っ張られた勢いで飛ぶように中へ突っ込んでいった。

⏰:07/12/18 02:25 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#49 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「はい着地ー、っと」

窓から飛び出した内藤とハルキンは、1階シャッターの前に着地した。
後ろを振り返ると、ジェイト兄弟が風船人形を引き摺って走っていく姿が見える。

ハルキン「よし、隔離は成功だな。さぁ、結界を解きっぱなしにするわけにはいかん、行くぞ。ラスカに合図を出してくれ」

了解、と内藤が胸に着けたピンマイクに話しかける。

内藤「3つ数えたら再度結界を張ってくれ」
ラスカ『了解。無理しちゃ駄目よ』
内藤「ああ。カウントを始める―――3」

ハルキンが敵の配置を確認する。
右前方にアリサがいつでも来い、といった感じに立っている。
左前方には、羽を休めるドラゴンに凭れている男がこちらを見ていた。

⏰:07/12/18 14:08 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#50 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「化け物退治は俺が専門だし、ウィニーは俺がやる。お前はあの女を相手しろ」

内藤が無言で頷いた。

内藤「―――2」

ハルキンは竜騎士を、内藤はアリサを見据る。

内藤「―――1」
ハルキン「…さて、久々に暴れてくるかな」

2人が、一瞬姿勢を低くし、地を蹴る足に力を入れ、


内藤「―――0!」


倒すべき敵の元へ、一気に踏み込む。


駆ける2人の背後で、本部が再び結果に包まれた。

⏰:07/12/18 14:22 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#51 [主◆vzApYZDoz6]
1階フロアにエンジン音が戻ってくる。
後ろ手に網にくるまれた風船人形の大群を引く兄弟が駆けてくるのを見て、
座って待っていた京介が立ち上がった。
兄弟は、部屋に入った瞬間に急ブレーキでストップし、反動で後ろの網を投げ飛ばした。

兄「よし、キョウスケ!そいつらは強くぶん殴れば割れるから、どんどん潰していってくれ!」
弟「俺達兄弟も手伝うぜ!」京介「分かった!」

網から這い出て次々と立ち上がる風船人形達の群れに、京介が踏み込もうとしたその時、人形から2つの影が飛び出した。

⏰:07/12/18 14:33 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#52 [主◆vzApYZDoz6]
兄「よし、俺達も行くぞ!」

兄弟が同時にスロットルを回し発進させようとした時、兄弟の前に影が降り立った。

?「おっと、お前らの相手はこの双子の兄ハル・レインと」
?「弟ハル・ラインの担当だ!」

2人の男がジェイト兄弟の前に立ちはだかり、構えをとった。
右のハル・レインが右手を突きだし掌を下に、左のハル・ラインが左手を突きだし掌を上に向ける。
2人の掌が重なるその姿は、まるで二人三脚ならぬ二人三腕だ。

兄「へっ、どうせ人形共潰してから外に出る予定だったんだ」
弟「こいつらがここにいるって事は、外はアリサとウィニーしかいないって事だね」
兄「ああ。サーキットにしてはちょっと狭いが、派手に飛ばすぜ!」

兄弟がスロットルを回し、一気に走り出す。
併走し向かってくるジェイト兄弟を迎え撃つべく、ハル兄弟も踏み込んだ。

⏰:07/12/18 14:50 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#53 [主◆vzApYZDoz6]
京介「大丈夫かなーあの2人」

向かい合う兄弟を横目で見ながら、京介は軽快に人形を潰していた。
人形達は数は多いものの、スキルは持っていないし動きも緩慢。身体が強化されている京介の相手ではない。
次々と人形を潰していると、棒立ちで動かない人形が京介の目に止まった。

京介「はっ、故障か?なら遠慮なく」

京介が顔面にパンチを撃ち込む。
しかし京介の攻撃は、その拳が当たる前に、棒立ちだった人形が鋭敏な動きで身を屈め、空振りした。

京介「なっ!?…ぐあっ!!」

腹に衝撃が走る。
京介の体は、攻撃を避けられた人形に体当たりされ人形の群れの外にまで吹っ飛んでいた。

⏰:07/12/18 15:43 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#54 [主◆vzApYZDoz6]
吹き飛ばされた京介の体は、壁に当たってようやく止まった。
強化された身体に感じる痛みは殆どない。京介が頭を掻きながら顔を上げると、無数の人形が視界に入った。

京介「あれっ!?潰した人形が元に戻ってる!」

自分の数m先にある倒した人形の皮がゆっくりと起き上がり、膨らんでいく。

『びっくりしたかな?…自己紹介をしようか。私はリッキー、所属はウォルサー。風船を操る『バルーンファイト』を持つレンサーだ』

人形の動きが止まり、どこからともなく男の声が響き渡る。

リッキー『今、この人形達を使えば、この本部を破壊する事など造作もない。…だが、それでは詰まらないので、あるゲームを考えた』

⏰:07/12/18 15:59 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#55 [主◆vzApYZDoz6]
京介「バルーンファイトって明らかどっかのアーケードゲームパクってるだろ!だいたいゲームって何をしようってんだよ?」
リッキー『10分待つ。それまでに人形に擬態化した私を見つけ、倒すことが出来れば君の勝ちだ。しかし、君が倒されたり、10分以内に私を倒すことが出来なければ…この本部が破壊されると同時に、彼女の命も戴く事になる』
京介「彼女…?」
リッキー『上を見たまえ』

上を見ると、気を失っている幼馴染みが風船に吊るされていた。

京介「藍!!」
リッキー『何、10分経つまでは殺したりはしないさぁ、ゲームスタートだ。せいぜい楽しませてくれ』

男の声が消え、再び人形達が動き出した。

京介「てめぇ!!ブッ殺す!!」
京介は蠢く人形の群れに、躊躇なく踏み込んだ。

⏰:07/12/18 16:12 📱:P903i 🆔:TmlkQt.c


#56 [主◆vzApYZDoz6]
-ハルキンVSウィニー-

ウィニーは窓から飛び降りるハルキンと内藤を憂鬱に眺めていた。というのも、彼は戦うのが嫌いだった。
人を殴るのが嫌、等という人間的な理由ではなく、ただ単純に殴られると痛い、殴ると痛いから、嫌いだった。
だから、ハルキンがこちらに向かってくるのを見て、心底うんざりしていた。

ウィニー「はぁ、やだなぁ。…めんどくさいや、カイン、飛ぶぞ」

懐からおもむろに黒い物体を2つ取り出す。1つは小型アンテナのような物で、もう1つはソニーの某家庭用ゲーム機を思い出させるようなコントローラ。

⏰:07/12/19 00:00 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#57 [主◆vzApYZDoz6]
アンテナのような物を、ウィニーがカインと呼ぶドラゴンの首筋に差し込む。ウィニーがコントローラを操作すると、ドラゴンが天空高く飛翔した。
加速をつけて踏み込んでいたハルキンは、ドラゴンの真下で止まり上を見上げる。

ハルキン「『オペレートゲーマー』か。確か具現化したアンテナを生物に差し込んで操るスキルだったな」
ウィニー「いつまでそこでじっとしているつもりなんだよ。…めんどくさい奴だな。カイン、早くやっつけて家へ帰ろう」

かなり高い位置で様子を伺っていたドラゴン咆哮を上げる。
頭を下にして羽ばたかず、凄まじいスピードでの急降下。
だが、どんどんと近付いてくるドラゴンを前に、ハルキンは余裕の表情を見せていた。

ハルキン「…ワープの原理を知っているか?」

⏰:07/12/19 00:49 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#58 [主◆vzApYZDoz6]
急降下の加速を使い、ドラゴンの爪を前に出す。ウィニーの駆るドラゴンが、体ごとのし掛かるようにハルキンを押し潰す。
だが、攻撃が当たる直前までそこにいたはずのハルキンがいない。そんな馬鹿な、奴はどこに……

ハルキン「ワープとは、空間を圧縮して現在地点と目的地点を近付け、移動距離を限りなく0に近付ける事を言う」

突然の後ろからの声にウィニーが慌てて振り向くと、いつの間にか背後に回っていたハルキンが話を続けていた。
ウィニーが間髪入れずにコントローラを操作する。今度はドラゴンの太い尻尾がハルキンに叩き付けられた。が、やはりハルキンの姿が見当たらない。
そんな、動く気配すらないのに、一体どこへ……

ハルキン「フィクションでは何万光年と先へ移動する為の手段として使われていたが、近年では軍事兵器への応用が注目され始めていてな」

⏰:07/12/19 01:12 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#59 [主◆vzApYZDoz6]
今度は遥か数十m先の前方。ハルキンがポケットに手を突っ込んで話しているのが、なんとか肉眼で確認できる距離。
訳の分からない状況にウィニーが呆然とする中、ハルキンは相変わらず余裕の態度で話を続けていた。
ハルキン「ワープさえ使えれば、敵国と自国間の空間を圧縮し、例え地球の裏側からでも直接核兵器をぶちこめるんだ。……こんな―――」

ハルキンが重心を落とし、右手で拳を作り腰に構える。

ハルキン「―――風にな!」

ハルキンの撃ち抜いたストレートは空間を飛び越え、当たるはずのないウィニーの顔面に直撃した。

⏰:07/12/19 01:25 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#60 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニーは今の状況が理解できていなかった。今ハルキンは攻撃が届くはずがない数十m先で、正拳突きの素振りをしただけ。
それだけのはずなのに、左頬が痛い。触ると皮膚が硬くなり腫れ上がっている。口の中は鉄の味がする。

ウィニー「なっ…なんで…」
ハルキン「一応紹介しようか。俺のスキルは『ディメンション』、空間制御能力だ」

はっとして顔を上げると、ハルキンが既に数mのところまで近付いていた。

ハルキン「…さて、君は相対性理論を知っているかね?」

⏰:07/12/19 14:28 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#61 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニー「…知らないよ。あんたの能力は分かった。焼き殺してやる」

ウィニーがコントローラを操作し、ドラゴンが上昇、ある程度の高さで止まった。
次の瞬間にはドラゴンが口を広げ、広範囲の火炎放射攻撃を繰り出していた。

ハルキン「まぁ簡単に言えば…止まってる奴から見れば、動いてる奴が動いてるように見えるのは当たり前だな。しかし、動いてる奴が止まってる奴を見ると、自分が止まってて相手が動いてるように見える、って事だ」

地面に立っていたはずのハルキンは、空中で話をしていた。

⏰:07/12/19 14:58 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#62 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニー「なっ!?…ぐあっ!」

ウィニーが、自分で繰り出した火炎放射を食らっている。

ハルキン「俺のスキル『ディメンション』は一定空間の転移交換もできるのさ。…今のは『俺と地面の一部』と『お前とドラゴンと空の一部』を交換した」

ハルキンが、今度は地面から話をしていた。空間は既に戻っており、ウィニーは空にいる。

ハルキン「さて、そろそろ終わらすか。スティーブの散歩に行かなくちゃならん」

⏰:07/12/19 15:05 📱:P903i 🆔:SHcTx/1A


#63 [主◆vzApYZDoz6]
ゆっくりと近付いてくるハルキンを前に、ウィニーがコントローラを操作する。攻撃は当たらない、防御も不可能。更に、向こうが止めを刺しに来てるとなれば、もはやウィニーに残された行動は1つしかなかった。

ウィニー「カイン、一旦引くぞ!…ハイスピードモードにシフト、飛べ!」

ドラゴンが飛び上がり、凄まじいスピードでバウンサー本部から離れていく。ハルキンもそれを見てジャンプし、右足を振り上げる。空間転移で遥か彼方にいるドラゴンが目の前に現れる。

ハルキン「悪足掻きはよすんだな」

ドラゴンを止める暇を与えず、ウィニーに強烈な回し蹴りを食らわせた。

⏰:07/12/20 14:55 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#64 [主◆vzApYZDoz6]
ウィニーは蹴られた反動でドラゴンから落ち、地面に頭から激突した。ハルキンも少し遅れて着地する。

ハルキン「ま、伊達に会長と呼ばれてないからな。…さてと…」

気絶し地面に臥すウィニーを一瞥し、本部の建物に目をやる。1階ロビーへ続くシャッターから赤い光が漏れていた。

ハルキン「…まぁ、どうなるかはあいつ次第だな。とりあえず終わるまで待っているか」

ハルキンは横になり、眠り始めた。

⏰:07/12/20 15:06 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#65 [我輩は匿名である]



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⏰:07/12/20 15:10 📱:D903i 🆔:HrUlyejk


#66 [主◆vzApYZDoz6]
-ジェイト兄弟VSハル兄弟-

互いが互いを討つべく走り出した、又は踏み込んだ兄弟の距離がぐんぐんと縮まっていく。ジェイト兄弟は、左のジェイトドットを駆る弟がハル・レインを、右のジェイトレッグを駆る兄がハル・ラインを前に、同時にハンドルのボタンの列びに手を掛けた。

兄&弟「ジェイトソード!」

兄弟の声と同時に、バイクのスダンドが横に飛び出す。その先には刃がついていた。鍔は無く、細い柄に長方形の刃がついたような形だ。
兄が出した剣を弟が、弟が出した剣を兄が受け取り、飛び掛かるハル兄弟を迎えうった。

⏰:07/12/20 22:43 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#67 [主◆vzApYZDoz6]
兄弟の戦いは、左右対称で繰り広げられた。

挟むように外側から迫るジェイト兄弟の袈裟斬りをジャンプでかわし、踏み込みの反動を使い前蹴り。
ジェイト兄弟は振り下ろした剣を引き、前蹴りを横腹で後ろへ受け流す。
交差した兄弟達が同時に振り返り、再び向き合う。

レイン「あまり長引かせるわけにはいかない。手早く終わらせてもらうぞ」

ハル兄弟が掌を合わせ、左右対称に腰にあてがった。

⏰:07/12/20 23:02 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#68 [主◆vzApYZDoz6]
ハル兄&弟「ツインキャンサー放出極技―――」

兄弟の声が揃い、構えた互いの掌から光球が現れ、どんどん膨れ上がっていく。

ハル兄&弟「―――ツインキャノン!!」

兄弟が同時に掌を前に突きだし、光球が勢いよく放出された。

ジェイト兄「…なら俺達の技も見せてやるよ」

⏰:07/12/20 23:18 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#69 [主◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟が、やはり同時にハンドルのボタンに手をかける。
横に大きな機体のジェイトドットの装甲が細く割れ、前後に伸びる。前に伸びた装甲は先端部に集まり、六角形の筒のようになった。
更にジェイトレッグの車輪が2つに割れ、さらに開く。ジェイトドットの後ろに伸びた割れ装甲が、ジェイトレッグを包むように被さった。
その様はまさに大砲。砲口が迫り来る光球に向けられ、輝きだす。

ジェイト兄「合体完了。…食らえ、ジェイトボール!!」

砲口から、大きな光球が発射された。

⏰:07/12/20 23:44 📱:P903i 🆔:luVYk1ak


#70 [主◆vzApYZDoz6]
発射された2つの光球が空中でぶつかり合い、衝撃が走る。地面は削れ、周囲は砂ぼこりが巻き上がっている。ぶつかり合う光球は、大きさもスピードもほぼ同じ。
ジェイト兄弟が相殺した時を考え、変形装甲を解除した。

軈て、2つの光球は同時に散り、辺りの視界が砂ぼこりで覆われた。

兄「ふん…仕切り直しだな」
ジェイト兄弟は剣を握りなおし、スロットルを回す。
こちらの位置はエンジン音でばれているはずだ、と考え、徐々に晴れる砂ぼこりと周囲の状況に細心の注意を払う。
その時、突然砂ぼこりが吹き飛んだ。

⏰:07/12/21 00:22 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#71 [主◆vzApYZDoz6]
砂ぼこりが晴れた視界は、鮮明ではなく赤かった。
これもハル兄弟の能力かと思ったが、周囲を見回してる様子を見ると違うようだ。

ジェイト兄弟も同じように、赤い視界を見渡す。
赤い光を発していたのは、見覚えのある人物だった。

弟「キョウスケ…?」

⏰:07/12/21 00:45 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#72 [主◆vzApYZDoz6]
-アリサVS内藤-

アリサは、自分の元へ迫る内藤を見て、携帯電話を取り出しながら嬉しそうに鼻で笑った。

アリサ「ふふっ、やっぱりこっちに来てくれた♪」

携帯電話に手をかざし、光の剣を抜く。
内藤は右手に拳を作った。

アリサ「私達は戦う運命にあるのよ♪内藤…ううん、バニッシちゃん♪」

内藤とアリサの、2度目の戦いが始まった。

⏰:07/12/21 01:01 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#73 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「今はバニッシではなく内藤だ」

内藤が踏み込み、一気に距離を縮めての掌呈突き。
腹に目掛けて突き出された掌呈をアリサが剣で払い、サイドステップで回りこみ袈裟斬りを繰り出す。
内藤は掌呈を払われたせいで重心が前に傾いていたが、それを利用し前方に飛び込む。
左手を地面に突き、反動で横倒れのまま回転、体全体を使った回し蹴り。
軸足を狙われた回し蹴りをジャンプでかわしたアリサが、空中で剣を振り下ろした。
内藤は、かわされた右足で地面を蹴りバックステップ。剣が内藤の顔を霞めていった。

⏰:07/12/21 22:46 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#74 [主◆vzApYZDoz6]
内藤はそのまま距離を取り、間髪入れず再び踏み込む。

そのまま2合目、3合目と組合が続き、10合目程で一旦内藤が距離をとる。

一瞬の間に繰り広げられた攻防。だが、内藤にはアリサが本気を出していないように感じていた。

内藤「アリサ、お前…何を企んでいる?」
アリサ「やっぱりあなたを殺すのは忍びないのよ♪同じパンデモの一族じゃない♪」
内藤「…それが本音だったとしても、本気で戦わない理由はそれだけじゃないはずだ」

⏰:07/12/21 23:04 📱:P903i 🆔:P.ePEbRE


#75 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「理由は教えられないの♪」
内藤「まぁ、大方予想はつく…が、予想通りなら喋っている暇はない。本気でいかせてもらう」

内藤が構えをとると、足元から飆(つむじかぜ)が巻き上がった。
飆はそのまま頭まで吹き上がり、絡み付くように内藤の体を覆う。

内藤「お前も…本気で来るんだな」

内藤が地を蹴り、凄まじいスピードで踏み込んだ。

⏰:07/12/22 00:01 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#76 [主◆vzApYZDoz6]
内藤の拳が風切り音と共に打ち出される。
それを剣で受けたアリサが、体ごと吹っ飛んだ。
さらに内藤が体を屈め、跳ぶ。一瞬で吹っ飛ぶアリサの後ろに回りこみ、凄まじいスピードの回し蹴りを食らわせた。
アリサが空中で回転し受身をとる。

アリサ「早いわね♪…ふふっ、その飆、スキルね♪何て言うの?♪」
内藤「『ブラストハイド』だ」
アリサ「2つのスキルを同時に操れるようになったのねぇ♪」

⏰:07/12/22 00:20 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#77 [主◆vzApYZDoz6]
内藤とアリサ、2人の出身であるパンデモ。
その一族のスキルは『ライフアンドデス』。人にスキルを渡したり、人からスキルを貰ったりといった、レンサー間の『スキル移動』ができる唯一のスキル。
パンデモの一族では、所持スキルの量と質が良い程身分が高いとされており、内藤とアリサは共にかなり身分が上の家系の生まれだ。

所持しているスキルは勿論使うことができるが、2つ以上同時に扱える者となると稀だった。

内藤「お前を追ってパンデモを出る頃には、既に同時使用できるようになっていたさ。…まぁ、お前には関係ないだろうがな…」
アリサ「ううん、バニッシちゃんとあたしはいつも一緒だったじゃない♪」
内藤「だったら…なぜパンデモを裏切り、ォルサーなんかにいるんだ?ウォルサーの目的は知っているだろう」

⏰:07/12/22 11:35 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#78 [主◆vzApYZDoz6]
アリサ「…理由は言えない♪そう言ったでしょ?♪」
内藤「そうか…。ならば、お前を…倒すだけだ」
アリサ「でもね、バニッシちゃんが退いてくれれば、あたしも戦わなくていいのよ♪」
内藤「何度も言わせるな。今は内藤だ」

内藤が踏み込む。再び組合いが始まったが、やはりアリサは本気ではない。
内藤の体を覆う飆が一層早く巻き、アリサを再び吹っ飛ばした。

⏰:07/12/22 11:46 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#79 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「お前が本気で戦わない理由は、時間稼ぎだろう?…一体何を狙っている?」
アリサ「やっぱり気付いてたのね♪でも、もう遅いわ♪」

アリサが素早く光の剣を納め携帯電話に戻し、そのまま電話を受け何か話している。
内藤が何かを言おうとした時、突然赤い光に照らされた。後ろを振り返ると、バウンサー本部の1階から光が漏れている。

内藤「これは…?……まさか、京介か!?」
アリサ「もう終わった?♪」
リッキー『ああ。…早いとこ帰るぞ』

⏰:07/12/22 12:07 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#80 [主◆vzApYZDoz6]
リッキー「ああ。早いとこ帰るぞ。……さてと」

リッキーが携帯を閉じ、再び人形に紛れる。
京介は髪の毛が逆立ち、瞳は赤く光っている。

リッキー「悪いがゲームは終了だ。俺が帰るまで、せいぜい足掻くんだな」

京介が人形の群れに飛び込んだ。

⏰:07/12/22 12:34 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#81 [主◆vzApYZDoz6]
アリサが通話を終え、携帯を閉じながら右を向いて叫んだ。

アリサ「ウィニーちゃん、『中断』してちょうだい!♪」

内藤が目をやると、ウィニーがコントローラに手をかけている。ハルキンが寝ているのも見えた。
内藤は舌を打ち、ウィニーの元へ駆ける。
迫る内藤を横目に、ウィニーがコントローラを操作した。

ウィニー「ハルキン、お前は必ず、必ず殺す。…ミッションアボート!」

ウィニー、アリサが消え去る中、ハルキンはまだ眠っていた。

⏰:07/12/22 12:58 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#82 [主◆vzApYZDoz6]
ジェイト兄弟は、次々と人形を潰していく京介を眺めていた。
そのスピードは凄まじく、リッキーによる人形の復活が間に合わない。とうとう、リッキーが擬態化した人形と1対1になった。

京介「藍を返しやがれ」
リッキー「ふん…まぁまぁのスピードだが、もう時間だ。彼女は、もう一度取り返しに来たまえ」

リッキーと藍、ハル兄弟は消えかかっていた。
京介を纏う赤い光が消え、髪と瞳は元に戻る。

京介「…待ってろ藍、必ず助けてやる」

リッキーが薄く笑い、藍とハル兄弟と共に完全に消え去った。

⏰:07/12/22 13:27 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#83 [主◆vzApYZDoz6]
-バウンサー本部4階 指令室-

ラスダン、ラスカが静かに待つ中、京介、内藤、ハルキン、ジェイト兄弟が戻ってきた。

ラスダン「戻ってきたね」
内藤「あぁ。結果的に…向こうの思惑通りになってしまったが。何で寝ていたんだ?」

内藤がハルキンを睨んだ。
ハルキン「いや、まぁ不覚にも爆睡してしまってな」
内藤「ふざけるな、お前が起きていればなんとかなったはずだ」
ラスダン「まぁまぁ、みんな無事だったんだし…」
京介「いや、藍がまだ助かってない!」

⏰:07/12/22 21:19 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#84 [主◆vzApYZDoz6]
京介が少し語尾を強めながら割り入った。

京介「なぁ、藍はどこに連れていかれたんだ?」
内藤「恐らくウォルサーの本拠だ。…お前の能力が発現した以上、長いこと放ってはおけないな」

内藤が一瞬、京介に視線を向けた。

京介「俺…?」
ハルキン「説明は後だ。この際だし、奴らの本拠に乗り込むぞ」
内藤「ん?本拠の場所分かってるのか?」
ラスダン「君が地球で『内藤篤史』を演じていた間、何もしていなかった訳じゃないさ」

ラスダンが自慢気に親指を立てた。

⏰:07/12/22 21:50 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#85 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「奴らの本拠地は、北のローシャだ。早いとこ行くぞ」

ハルキンが踵を返し部屋を出た。京介達も後に続く。
エレベーターを降り外に出る。
ジェイト兄弟のバイクと、1台のワゴン車があった。車の前にはシーナとリーザの2人が立っている。

ハルキン「治ったのか?」
シーナ「バッチリ」
リーザ「私達も戦うわ」
ハルキン「よし。…ラスダン、車を出してくれ」
ラスダン「了解」

ラスダンが運転席に乗り込み、エンジンをかける。ハルキンは助手席に、内藤達は後部座席に乗り込んだ。
ジェイト兄弟もバイクに跨がり、スロットルを回す。

最後の戦の舞台、ウォルサー本拠へ向け、発進した。

⏰:07/12/22 23:04 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#86 [主◆vzApYZDoz6]
京介は、暫く車の中から外を見ていた。

車は、雪がちらつく町外れの一本道を走っていた。辺りに建物は見当たらず、遠くに山が広がっている。
車の隣では、ジェイト兄弟が併走して走っていた。

視線を車の中にやる。
京介の前の助手席にハルキンが機嫌良さそうに座り、その右の運転席にラスダンが座っていた。
内藤は京介の右に座り、前を見ている。その右に座るラスカは外を眺めていて顔は見えない。
後ろには、リーザとシーナが座っている。2人ともウェーブがかかっだ長いブロンドの髪に、青い瞳。顔立ちはそっくりで、整った日本人のような感じがした。

⏰:07/12/22 23:38 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#87 [主◆vzApYZDoz6]
年齢は2人とも京介より明らかに若く見えた。14、5歳くらいだろうか。
傍らには、剣道の竹刀を入れる細長い袋のようなものが置いてある。

少し見とれている京介の視線に気付いたのか、左側に座っていたリーザが京介に可愛らしく微笑んだ。

リーザ「そう言えば自己紹介がまだでしたね…私はリーザ、隣は妹のシーナです」

シーナが微笑みながら頭を少し下げる。
京介も慌てて頭を下げ、恥ずかしそうに前を向いた。その様子を見ていた内藤がクックッと含み笑いをした。

⏰:07/12/22 23:58 📱:P903i 🆔:VB.q.IRE


#88 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「浅香がいなくてよかったな」
京介「うるせぇよ!」

京介が内藤の視線を逸らすように外を眺める。いつの間にか雪は本降りになっていて、景色は真っ白に染まっていた。

京介「……そういや、さっきの続き聞かせてくれよ。ほら、俺の能力がどうとかいう…」

内藤は少し考え、前を向いたまま答えた。

内藤「…今は知る必要はない。お前は浅香を取り戻す事だけ考えているんだ」

⏰:07/12/23 00:10 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#89 [主◆vzApYZDoz6]
内藤の複雑な表情を見た京介はそれ以上聞けなかった。
京介は再び視線を外に戻す。車はさっきまでは遠目にあった山々の麓を走っていた。

ハルキン「そろそろだ。あのトンネルを抜けると、奴らの本拠地だ」

トンネルに車が入っていく。
トンネルは長く、なかなか外に出ない。
京介は黙って俯いていた。

10分程トンネルの闇が続いたあと、開けた場所で車が止まった。

⏰:07/12/23 00:24 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#90 [主◆vzApYZDoz6]
京介達が車を降りる。

内藤「ふん、うちの本部とは大違いだな」

そこは切り立った山に囲まれた盆地になっており、京介達が出たのはその端。幸い木に囲まれていて、向こうからはこちらが見えない位置だった。

対面の山のフェンスに囲まれた辺りに、まるでどこかの基地かと思うような白い建造物群があった。
端には監視塔があり、中央には一際大きな要塞のような建物、両脇に倉庫のような建物がある。

ラスカ「あの監視塔は飾りじゃなさそうね。どうにか穏便に侵入できないかな」
内藤「つうかここどうやって見付けたんだ?」
ラスダン「実は、さっきの戦いの後、何者かから『思念』が飛んできたんだ」
内藤「…俺が地球にいる間に調べたんじゃなかったのか?」
ラスダン「ごめん、あれ嘘。かっこつけてみようかと思って」
内藤「…まぁいいけど」

⏰:07/12/23 00:57 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#91 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ラスダン、とりあえず『調査』を頼む」
ラスダン「了解」

ラスダンが手を前に翳すと、ノートパソコンのようなものが出現。画面には、基地の様子が映像で写っていた。

ラスダンのスキルは『サイレントハッカー』。カメラや通信機器等を一切使わずに、特定した場所の映像や音声を頭の中で見ることができる。ラスダンが具現化したパソコンを使えば、映像や音声を他の者に見せる事もできる。

ラスダン「本拠地なのは間違いなさそうだね。中に洗脳された人達と人形がいる」

⏰:07/12/23 01:20 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#92 [主◆vzApYZDoz6]
内藤「中には入れそうか?」
ラスダン「両脇の倉庫から連絡橋が繋がってる。倉庫には裏口から入れそう。裏口は2つづつあるみたいだね」内藤「中の様子は分かるか?」
ラスダン「ごめん、分からない。どうやら特殊な結界が張られてるみたいで、ノイズだらけだ」

画面の基地の映像は、中央の要塞に近づくにつれて不鮮明になっていく。だが、それが逆にメインの建物だということを示唆していた。

ラスダン「てゆうか、急いだ方がよさそう。なんか戦車とかいっばい出てきてるし…」
京介「いや、それって…」

⏰:07/12/23 01:28 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#93 [主◆vzApYZDoz6]
京介が画面から目を離し、基地の方を見る。
先程まではいなかった戦車やらヘリコプターやらが倉庫から次々と出てきていた。戦車の砲口は、京介達のいる場所を向いている。

ハルキン「こりゃあ完璧にバレてるな。『思念』は罠か?」
京介「いや、そんな事言ってる場合じゃなくね?」
内藤「仕方ない、全員一旦散開して倉庫から入ろう。中央の要塞で集合だ。何かあったら各自の判断で行動しろ。……散れ!」

内藤の声と共に一斉射撃が始まる。京介達は方々へ駆け出しす。
京介達のいた場所に無数の砲弾が飛び込んで雪煙が舞い上がる。だが、その中に全く動かない黒い影があった。

⏰:07/12/23 01:45 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#94 [主◆vzApYZDoz6]
雪煙が晴れていく。
黒い影の正体は、既に合体を完了させた、ジェイト兄弟のバイクだった。
ジェイトレッグは車体が前後に割れ、蛇腹状に伸びていく。先端には大車輪がついており、その様は人間の下半身。
ジェイトドットは装甲の展開により運転席のジェイト弟を完全にカバーし、ウイリーのような形で後輪をジェイトレッグの上部に差し込む。前輪が縦2つに割れ横に広がるその様は人間の上半身。

弟「どうせ屋内じゃ満足に戦えないもんね」
兄「みんなが要塞に侵入するまで、戦車隊の気を逸らすんだ。行くぞ!」

金属の腕の先にある車輪から、重火器が飛び出す。
ガソリン駆動の巨人が、雪煙を散らし駆け出した。

⏰:07/12/23 02:05 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#95 [主◆vzApYZDoz6]
巨人の足をジェイトレッグを駆る兄が操作し、戦車の砲撃をかわしながら近付いていく。
足部についた大車輪によりローラースケートを履いているかのような滑る動きをする巨人は、戦車のシステムでは捉える事が出来なかった。
ついに前線まで突破され、ジェイトドットを駆る弟の操作により、巨人の左手のバルカン砲で次々と戦車を撃破されていく。
ヘリコプターが近付けば、右手のランチャーから発射されたグレネードが瞬く間に撃墜していった。

後方から、味方がやられていくのを見ていた戦車隊長が、無線機に叫んだ。

戦車隊長「無理だ!戦車やヘリコプターでは歯が立たない!2足歩行戦車を出してくれ!」

⏰:07/12/23 02:22 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#96 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン、ラスダン、ラスカ、京介の4人は、左側の倉庫を目指して走っていた。
フェンスを一足で飛び越え、なお走りながら、京介が戦車隊を横目に話し掛けた。

京介「ジェイト兄弟は大丈夫なのか?」
ハルキン「そこらの戦車ぐらいなら全く問題はない。侵入まで相手してくれると助かるんだが」
ラスダン「いや、どうやら2足歩行戦車を出してきたみたいだよ」

⏰:07/12/23 02:33 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#97 [主◆vzApYZDoz6]
ラスダンは、中央の要塞から2足歩行戦車が出てくるのを頭の中で見ていた。

ハルキン「まぁ、いざとなればラスカに走りながら結界張ってもらうがな」
ラスカ「あなた本当に鬼ね…いろんな意味で」

話してる間に倉庫に到着した。裏側に回ると、手前と奥に扉がある。

ラスダン「駄目だ、やっぱり中の映像は不鮮明だ」
ラスカ「…罠があっても恨みっこなしね」

⏰:07/12/23 02:43 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#98 [主◆vzApYZDoz6]
ハルキン「そうだな、ラスカは戦力面に不安がある。俺と一緒に来るんだ」
ラスカ「了解」
ハルキン「ラスダンは京介と行け。『サイレントハッカー』が中で使えるならサポートしてやれ」
ラスダン「了解」

京介とラスダンが奥の扉を、ハルキンとラスカが手前の扉を選んだ。
ラスカが後ろを振り返る。ジェイト兄弟が2足歩行戦車と向かい合うのが見えた。

ラスカ「死んじゃ駄目よ。…皆で生きて帰りましょう」

全員が頷き、扉に入っていく。
後ろからは、砲撃音が鳴り響いた。

⏰:07/12/23 02:51 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#99 [主◆vzApYZDoz6]
内藤、リーザ、シーナの3人は右側の倉庫を目指し走っていた。
戦車による砲撃はないが、砲撃音は聞こえてくる。聞き慣れたエンジン音…戦車の追撃を遅延させているのはジェイト兄弟か。
3人はフェンスを越え、振り返らずに走った。

内藤「川上は向こうか…まぁ大丈夫だろう。そう言えばリーザ、シーナ、得物はちゃんと持ってきたのか?」
リーザ「もちろん」

リーザとシーナは細長い袋を背負って走っていた。
内藤はそれを確認し、再び前を向いて走る。
やがて、倉庫に到着した。

⏰:07/12/23 02:59 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#100 [主◆vzApYZDoz6]
裏側に回ると奥と手前に扉がある。

内藤「下手に別れるのはどうかと思うが…」
シーナ「何言ってるの」
リーザ「どっちが先に藍さんを取り返すか、競争です」

意気込む2人を見て、内藤は満足げに笑った。

内藤「よし、俺は奥の扉に入ろう。…くれぐれも気を付けろよ」
リーザ「ええ。じゃあ、行きましょう」

3人は、倉庫に入っていった。

⏰:07/12/23 03:06 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#101 [主◆vzApYZDoz6]
ウォルサーの戦闘部隊はジェイト兄弟によって殆どが撃破され、壊滅的な打撃を受けていた。
後ろには無数のヘリや戦車の残骸が転がる中で、鉄の巨人が足を止める。
目の前には、ゲームで見たことがあるような、手足がついた戦車が5機。側面にはREXと書いてある

兄「…メタルギアがあんなにいるなんて聞いてないんだが」
弟「つうか切実に著作権とか大丈夫なのかなこの小説」

弟のリアルな心配を余所に、2足歩行戦車達が一斉に襲い掛かった。

⏰:07/12/23 07:11 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#102 [主◆vzApYZDoz6]
2足歩行戦車達の持つガトリングガンが、一斉に火を吹いた。兄の操作により、滑るような動きで銃弾をギリギリかわしていく。
そんな中、アームのコクピットに座る弟は、2足歩行戦車をどう倒すか思案していた。

弟「グレネードはもう無いし、バルカン砲じゃ倒せないだろうし…どうしようかな」

弟は依然ガトリングガンを撃ち続ける2足歩行戦車を見た。見たところ敵の装備は、対戦車ガトリングガンに対歩兵マシンガン。背中にはミサイルのようなものが見える。

⏰:07/12/23 07:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#103 [主◆vzApYZDoz6]
弟「ん?メタルギアでミサイルつったら…まさかスティンガー?」

弟の予想は的中した。ガトリングガンが当たらないと見るや、2足歩行戦車達が膝をつき前屈みになり、背中のスティンガーミサイルを撃ち出した。その数、1機につき3発、計15発。

弟「しかも多いし!」

弟が鉄の巨人の右腕からチャフグレネードを撃ち出す。多数のチャフ片が辺りに舞い散り、スティンガーの追尾機能を麻痺させた。
兄がすかさず右へ飛び、さっきまで鉄の巨人がいたところが爆煙に包まれる。

⏰:07/12/23 11:51 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#104 [主◆vzApYZDoz6]
息をつく暇を与えず、爆煙を巻き2足歩行戦車が踏み込んでくる。いつの間にか腕がチェーンソーのようなものになっていた。
巨人が素早く横へ飛び込み紙一重でかわすが、さらに他の2足歩行戦車が追撃してくる。5機を避けきれず、巨人の肌に傷がついた。

弟「うーん、こりゃヤバいねどうにも」
兄「いや、思い出したぜ」

鉄の巨人の足元から飆が巻き上がり、頭まで上がった後その巨体に絡み付く。その姿は、バウンサー本部での戦いで内藤が使ったスキルのよう。

兄「バニッシ…じゃねぇや、内藤に『ブラストハイド』のスキルを渡したのは、この俺だ」

鉄の巨人が、風よりも速く駆け出した。

⏰:07/12/23 12:23 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#105 [主◆vzApYZDoz6]
兄「ジェイトソード出すぞ!」
弟「了解!」

ジェイト兄弟がハンドルのボタンを同時に操作し、巨人の両腰に位置していたスタンドが飛び出す。
剣を両手に握り、そのまま柄を合わせた。

弟「ツインジェイトソード!」

振り下ろされた巨大な両刃剣が、2足歩行戦車1機を袈裟懸けに真っ二つに切り裂いた。
機能を停止し膝をつく1機を尻目に、残り4機に刃を向ける。

弟「さぁ、こっからが本番だぜ!」

⏰:07/12/23 14:22 📱:P903i 🆔:BXLbCLgc


#106 [主◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・ラスダンとラスカの場合-

扉を開けると、そこは予想に反して薄暗い。広い空間のようだが、灯りが点いている照明が少なかった。
壁には段ボールやコンテナ等が積まれている。どうやら戦車が格納されていた向こう側の建物と違い、完全な倉庫のようだ。
もう1つの扉から入れるであろう場所とは、壁で仕切られていた。ハルキンがその壁に地図を発見し、要塞の構造を確認する。

ハルキン「へぇー、これはまたご丁寧な地図もあったもんだな」

地図には全体像が描かれている。ハルキンとラスカが今いるのは左の格納庫で、単に真っ直ぐ行けば中央要塞に辿り着けるようだ。

⏰:07/12/24 01:10 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#107 [主◆vzApYZDoz6]
ラスカ「中心部までの道は特に問題ないとして…藍ちゃんはどこに捕まってるのかしら」
ハルキン「そうだな…管制コントロール室に行ってみよう。ここにこれだけの監視カメラがあるんだから、中央要塞にも設置されてるだろ」

ハルキンが壁と天井の境に設置されたカメラに目をやる。カメラの向く方向がオートで変わるタイプで、左右の壁に死角が無いように交互に設置されていた。
ハルキンとラスカが中央要塞に向けて走り出す。

ラスカ「これじゃ私達の行動は敵に筒抜けね…」
ハルキン「恐らく中央要塞に入ったら、いきなり攻撃される可能性が高い。注意しておこう」
ウィニー「その必要はない。お前らは死ぬからだ…今ここでな」

⏰:07/12/24 14:51 📱:P903i 🆔:HXNfgySU


#108 [◆vzApYZDoz6]
前方から声がした。
見ると、床との距離が10mはありそうな高い天井のスレスレを、ドラゴンに乗ったウィニーが滑空してきた。ガリアスも乗っている。

ハルキン「ん?お前誰だっけ?」
ウィニー「ふざけているのか?忘れたとは言わせないぞ」
ハルキン「……あぁ、思い出したよ」

少し考えるような素振りを見せていたハルキンが、笑みを浮かべながら言った。

ハルキン「スティーブの散歩に行くのを忘れていたよ」
ウィニー「貴様…!!」

⏰:07/12/25 09:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#109 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「とりあえず今は時間がない。さっさと終わらせて貰うぞ」

ハルキンが右拳を構え、天井スレスレにいるウィニーとの距離およそ10mを、空間制御を使い縮める。一瞬にして懐に飛び込み、渾身のストレートを撃ち出した。

ウィニー「今回は前のようにはいかない」

そう言った刹那、ウィニーが忽然と消え去り、ハルキンの拳が空を切った。ハルキンが少し驚いたような表情を見せる。

ハルキン「外した?」
ラスカ「会長後ろ!!」

戦えないため、下で結界を張り身を守っていたラスカが叫ぶ。
ハルキンが声に反応し後ろを振り返るのと、ドラゴンの尻尾がハルキンに叩き付けられるのは同時だった。

⏰:07/12/25 09:58 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#110 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが叩き付けられ地面に急降下する。ラスカが着地点に結界を張ったが、ハルキンが寸でのところで身を翻し受身をとった。
心配したラスカがハルキンに駆け寄る。

ラスカ「大丈夫!?」
ハルキン「あぁ、これぐらい大丈夫だ。奴は俺が倒すから、ラスカは自分の身を守っていろ」

ハルキンが天井近くのウィニーを見上げる。ウィニーがほくそ笑んでる後ろにガリアスがいるのが見えた。

ハルキン「よぉ、後ろの若造、今のはお前の能力か?」
ガリアス「教える訳ないだろ」
ウィニー「そうだ。お前は黙って死ねばいいんだよ」
ハルキン「お前には聞いてない…自力では何も出来ない低能が」

⏰:07/12/25 10:22 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#111 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーの顔が強張った。明らかに怒りを顕にし、表情が歪んでいる。

ウィニー「あぁ?今カイトに吹っ飛ばされた癖に粋がんなや」
ハルキン「今俺を吹っ飛ばしたのもお前じゃなくドラゴンだろ雑魚低能」

ハルキンが前回と同じような余裕の表情で喋るのを見て、ウィニーの眉間が寄り、唇の端がひきつる。

ウィニー「お前はそんなに俺に…」
ガリアス「もういいよ、喋るなお前。勘に障る」

⏰:07/12/25 11:12 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#112 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスが少し機嫌が悪そうな表情でウィニーの言葉を遮り、さらに続ける。

ガリアス「ハルキン、あんたも分かっただろう?俺のスキル『ヴィエロシティー』は物体を光速移動させることができる。あんたの空間圧縮や空間転移も、相手の位置が分からなければ出来ないだろう」
ハルキン「それがどうした?退いてくれ、とでも?」
ガリアス「その通りだ。俺は嫌でもこいつの手助けをしなくちゃならないし、あんたが邪魔をするならウォルサーの一員としてあんたを排除しなくちゃいけない」
ハルキン「……」

⏰:07/12/25 11:35 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#113 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンはガリアスと目を逸らさずに沈黙した。後ろではラスカが不安そうに、まだ天井近くを飛んでいる2人とハルキンを交互に見ていた。
ウィニーはドラゴンの上に座って肘をつき、明らかに不機嫌そうな態度をとっていた。とうとう待ちくたびれて口を開く。

ウィニー「いい加減にしろや揃いも揃って黙りこくって気持ちわりぃ!!要するにお前はどう足掻いても勝てねぇんだよ!時間稼ぎに必死か!?」

ウィニーの甲高い笑い声が響く。
ガリアスは溜め息をつきながら俯き、ラスカは不機嫌そうにウィニーを睨み付ける。
皆が嫌悪感を顕にする中、ハルキンは自分がここに入って来た扉を見ていた。

⏰:07/12/25 11:47 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#114 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「余所見してんじゃねーよ!!」

ハルキンはウィニーを無視し、扉を見つめていた。軈て笑みを浮かべながら視線を戻す。

ハルキン「あぁ、悪いな何も聞いていなかったよ」
ウィニー「ははは!逃げる算段を考えるのに必死か?」
ハルキン「俺が逃げるなんていつ言った?妄聴も大概にしときな低能」

ウィニーの唇がより一層ひきつる。目は赤く血走っていた。

ウィニー「あぁもういいよ、お前は殺す。ガリアス、やるぞ」
ガリアス「……」
ウィニー「おい聞いてんのかガリアス!てめぇには耳ねぇのか!」

ガリアスは後頭部を掻きながら溜め息をつき、ハルキンに視線を向けた。

⏰:07/12/25 12:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#115 [◆vzApYZDoz6]
ガリアス「本当に退く気はないのか?あんたがこのままあのドアに帰るなら、俺は追うつもりはない」

ガリアスが入口の扉を指差して言う。ハルキンは扉には目もくれず言葉を返した。

ハルキン「悪いが俺達にはスティーブの散歩よりも先に、藍を取り返すという目的があるんでな」
ガリアス「……残念だよ」

⏰:07/12/25 12:10 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#116 [◆vzApYZDoz6]
ガリアスらの姿が忽然と消え去る。風切り音と共に、ウィニーの声が響いた。

ウィニー『ははは、大人しく逃げればよかったものを!あんたなら、光速移動する物体は質量が増加する事は知ってるだろう?全体重をかけて押し潰してやるよ!!』

再び声が消え、風切り音が響き渡る。
ハルキンは宙を見上げた。その表情は、前回の戦いと同じく余裕に満ちている。

前回と同じような表情で、前回と似たような言葉を口にした。

ハルキン「…さて、君はブラックホールというものを知ってるかね?」

⏰:07/12/25 12:21 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#117 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが『ブラックホール』という単語に過敏に反応した。驚いた表情で視線をハルキンに向ける。
ハルキンは宙を見上げているが、言わんとする事はラスカに伝わっていた。

ラスカ「ったく…どうなっても知らないよ!」

ラスカが自身の周りを纏っていた結界を解く。それをハルキンが横目で確認し、満足そうに唇の端を上げた。

ハルキン「ブラックホールってのは、太陽の何倍もあるような大質量の恒星が寿命を終え、超新星爆発と呼ばれる熱放出の後、自重力により星が圧縮されてできる」

⏰:07/12/25 12:48 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#118 [◆vzApYZDoz6]
ウィニー「ははは、ここで光さえも飲み込むブラックホールを作ろうってか!?大質量の星もないのに!?」
ハルキン「ブラックホールは飲み込んでいるのではなく、物質を微粒子レベルで破壊し自身に取り込んでいるんだ」
ウィニー「うるせぇから死ねよ!!」

ウィニーを乗せたドラゴンが突如現れた。
現れた場所はハルキンのすぐ後ろ。ドラゴンが爪を前に出し、ハルキンを今まさに千切らんとしている。
だが、ドラゴンの爪はハルキンに届かなかった。

ハルキン「『押し潰す』といっておきながら後ろからか…ゲスはどこまでいってもゲスだな」

⏰:07/12/25 13:00 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#119 [◆vzApYZDoz6]
ウィニーは止まっていた。いや、止まっているように見えた。よく見ると、少しずつだが爪がハルキンに近付いている。1秒に1mmぐらいの、途方もなく遅いスピードで。

ハルキン「俺の周囲の空間を目一杯まで引き伸ばした。…苦労したぞ、光は1秒で地球を7周半回るんだからな」

ウィニーも、後ろのガリアスも無言で、表情も何一つ変えずに止まっている。

ハルキン「ま、お前らが光速移動する前には既に、ナメック星に行けるぐらいまで引き伸ばしてたんだ。こちらの姿は見えていても、声なんざ届いていないだろうな。…ラスカ!」
ラスカ「了解!でもナメック星って何さ?」

⏰:07/12/25 13:17 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#120 [◆vzApYZDoz6]
ラスカが疑問を持ちながらも、自分のに周囲に少し余裕を持たせて結界を張る。ハルキンが引き伸ばした空間をそのままにして、空間転移で結界に入った。

ハルキン「例の手続きで地球に行った時、漫画とかいうやつで見たんだ…さて、と」

ハルキンが再び空間転移を使う。
未だに微動だにしないドラゴンの背中のガリアスが消え、ハルキンのすぐ隣に現れた。

ガリアス「なにっ…!?」
ハルキン「よしよし、やっぱりガリアスが離れても光速移動したままだな」

何が起きたか分からず周囲を見回しているガリアスを尻目に、ハルキンが今度はウィニーとドラゴンに向けて空間圧縮を使った。

⏰:07/12/25 13:26 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#121 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて、さっきの続きだ。ブラックホールにより破壊・吸収された微粒子は、強力な重力により再び粒子と反粒子として対生成される」

空間圧縮によりウィニーとドラゴンがみるみる縮んでいく。ついには見えない程までになったが、ハルキンはまだ圧縮を続けた。

ハルキン「対生成された粒子と反粒子は、再びぶつかり合い対消滅する。しかし、重力によってずれた時間軸のせいで、たまに粒子か反粒子のどっちかがブラックホールの地平面を飛び出してしまうんだ」

ハルキンが何かを確認し、引き伸ばした空間だけを元に戻した時、突然周囲に異変が起きた。
周囲のコンテナや段ボールが、ウィニーとドラゴンがいた場所に次々と飛び込み消えていく。

⏰:07/12/25 13:41 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#122 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「ウィニーのブラックホールの完成だな。ラスカ、建物にも結界は張ったよな?」
ラスカ「勿論」

ラスカが即座に返事をした。

光速移動する物体の質量は、尋常ではないほどに増加する。小さな陽子でも光速移動させ電流を流せばブラックホールになる程、質量の増加率は高い。

ハルキン「光速移動で既に重力が発生しているドラゴンを、限界まで圧縮したんだ。まぁ、当然ああなるわな」

ガリアスは、ブラックホールと化したウィニーを、正確にはウィニーがいた空間を黙って見ていた。

⏰:07/12/25 13:49 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#123 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「さて…まだ続くぞ。そうしてブラックホールを飛び出した粒子は、熱放射で光って見える。これをホーキング輻射と言う」

ガリアスは、視認できない程小さなブラックホールに、物が飛び込んでいくのを見続ける中で、一瞬だけブラックホールが光った気がした。

ハルキン「この輻射によってエネルギー、つまり質量を失うと、取り込んだ質量によって拡大するブラックホールは質量を失う事になる」

やがてブラックホールの光はどんどん増えていき、まるで星が輝いているかのように目映く煌めく。

⏰:07/12/25 14:01 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#124 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「質量が減ればこの輻射はさらに強く働き、輻射は強度を増す」

ブラックホールの光はどんどん膨れ上がり、今にもはち切れそうに小刻みに震えだした。

ハルキン「そうなると加速度的に質量とエネルギーを失っていき、最終的には…爆発的にエネルギーを消費し消滅する。―――」

ブラックホールは、目が眩むほどの光と耳鳴りが鳴るほどの爆音を放ち…

ハルキン「―――ゲスの最後にはお似合いだろ」

…ハルキンが軽蔑の視線を向ける中、花火のように散っていった。

⏰:07/12/25 14:18 📱:P903i 🆔:NYrpWQ/k


#125 [◆vzApYZDoz6]
爆音が止み、光が消え、静寂が戻ってくる。ラスカが自分の周囲と建造物に張っていた結界を解いた。

ハルキン「じゃ、先を急ぐか」
ガリアス「ちょっと待てよ」

ガリアスが走り出そうとしていたハルキンとラスカに後ろから声をかけた。

ガリアス「なぜ俺は生かされたんだ?納得がいかねぇな」
ハルキン「お前は既に敵じゃない」
ガリアス「……でも、俺は戦わないと駄目なんだ」

ガリアスが構えを取る。ハルキンはゆっくりと溜め息をつき、顎で入口を差した。

ハルキン「見てみろよ」

ガリアスが入口を見ると、そこには人が立っていた。

ガリアス「……母さん…?」

⏰:07/12/26 11:33 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#126 [◆vzApYZDoz6]
-要塞内部・京介とラスダンの場合-

ハルキンがウィニーと対峙していた頃、京介とラスダンは地下牢にいた。2人が入った扉は、入ってすぐに地下に下りる階段があったからだ。

京介「何でこんなところに牢屋が有るんだろ」
ラスダン「捕まってる人は…いないみたいだけど」

2人はゆっくりと歩いていた。

辺りは1階よりもさらに薄暗く、横幅3mぐらいの狭い通路の天井に、5mおきぐらいに小さな電球があるだけ。
両脇には鉄格子が延々と真っ直ぐ続いており、だいたい3m間隔で壁に仕切られている。広さからして1つの牢に1人だけのようだが、辺りが暗いので牢の奥の方が視認できない。

⏰:07/12/26 11:54 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#127 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「うーん、もしかしたらここに藍ちゃんが捕まってるんじゃ…とか思ったけど」
京介「違うみたいだな。…誰もいないし、戻った方がいいんじゃね?」

2人が歩みを止める。
確かにそこは埃が積もってるし、鉄格子は赤錆だらけ。長い間使われていない感じがした。

ラスダン「そうだね…戻ろうか」

元来た道を戻ろうと2人が踵を返した時、背後から小さな声がした。

?「…そこに、誰かいるの…?」

京介とラスダンが同時に振り返る。
通路に人は居なかった。となると、声の主がいる場所は1つしかない。

京介「…今の、牢屋からだよな?」

2人は顔を見合わせ、牢に人がいないか確認しながら声の元へ向かった。

⏰:07/12/26 12:10 📱:P903i 🆔:iPwdxIVQ


#128 [◆vzApYZDoz6]
京介「あっ、人がいる!」

2人が両脇の牢を一つ一つ確認していく中で京介が声を上げた。ラスダンが京介側の牢を見ると、確かに人が2人いる。
どちらも中年ぐらいの女性。精神的な疲労からだろうか、弱っている感じは無いが少し痩せていた。
囚われの女性が京介とラスダンを確認し口を開く。

女性「あなた方は…?」
京介「俺は京介って言うんだ」
ラスダン「僕はラスダンと言います。ここに囚われている仲間を助けに来ました。…お2方は?なぜここに囚われているのですか…?」

⏰:07/12/27 14:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#129 [◆vzApYZDoz6]
2人の女性が顔を見合わせる。少しの間沈黙し、話し出した。

女性A「私達は…人質としてここに捕まっています」
京介「人質…?」
女性B「私達の息子は強い力を持ったレンサーなんです。グラシアがそこに目を付けて…」
ラスダン「グラシアとは?」
女性A「グラシアはウォルサーの総司令官です。……グラシアは、従わなければ私達を殺す、と脅して息子を…ガリアスを働かせているんです」

京介とラスダンが顔を見合わせた。

京介「そんな非人道な事をやってんのかよ…」
ラスダン「じゃあ、もう1人の方は…」
?「おっと、そろそろ話はやめといた方がいいんじゃねぇか?」

ラスダンが振り向くと、人形と共に声の主が立っていた。

⏰:07/12/27 14:43 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#130 [◆vzApYZDoz6]
京介「またてめえか…!」

声の主はリッキーだった。リッキーが立つ狭い通路の後ろには、風船人形が無数に蠢いている。

リッキー「彼女らが解放されると少々面倒な事になるからな。その前に君達を倒してしまうぞ」
京介「……て事は、解放すればこっちに分がある、って事だな?」

ジリジリと詰め寄るリッキーに、京介が笑みを浮かべた。

リッキー「残念ながらそこまでじゃないな。第一、俺が阻止するんだからそんな事不可能だ」
京介「お前を倒してしまえばいいだけだ」

⏰:07/12/27 23:05 📱:P903i 🆔:IeTfHkfs


#131 [◆vzApYZDoz6]
リッキーはやれやれ、という動作を見せたあと、人形に擬態化した。

リッキー「やるだけ無駄だろうけどね」
京介「いや、多分そうでもないけど」

髪は逆立ち、瞳は紅く、身体は赤く発光し辺りを包む。バウンサーでも見せたその姿は、まるで人を宿した鬼のよう。

京介「なんか知らんけど今の俺、絶好調なんだよな」

再び紅い鬼人と化した京介が薄く笑みを浮かべ、右手を開いて突き出した。京介を纏う赤い光が掌に集束される。
軈て撃ち出された紅球が、狭い通路をレーザーの如く駆け抜け、人形達を薙ぎ散らした。

⏰:07/12/29 20:51 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#132 [◆vzApYZDoz6]
散り散りになる人形の群れの中に、人形に擬態化したリッキーが目を見開き驚いた顔で立っていた。俯きながら独り言を呟いている。

リッキー「馬鹿な…!何故今その姿に…」
京介「どうでもいいけど余所見してていいのかよ?」

ハッとして顔を上げたリッキーの視界から京介が消える。次の瞬間に右脇腹に走った衝撃にリッキーの顔が歪む。
体をくの字に曲げ宙を舞い、鉄格子に激突した。

リッキー「ぐっ…貴様…!」
京介「今だ!」

リッキーの動きが止まった隙に、京介が鉄格子に掛けられた南京錠を壊した。
ガリアスが、母親ともう1の女性を牢から出した。

京介「2人を頼むぜ!」
ラスダン「よし…!」

ラスダンが2人を抱え、入口に走り出した。

⏰:07/12/29 23:38 📱:P903i 🆔:Z.e5IRec


#133 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが最後にリッキーを一瞥し、その姿が小さくなっていく。
リッキーは女性を抱え走り去るラスダンを横目に、服に付いた埃と赤錆を払い拭った。

リッキー「始めからそのつもりだったか…まさか私を1人で倒そうとでも?」
京介「そのまさか。言ったろ?今の俺は絶好調だってな」
リッキー「…はははは!そうかそうか!」

何が可笑しかったのか、リッキーは突然腹を抱えて笑いだした。

⏰:07/12/30 14:00 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#134 [◆vzApYZDoz6]
京介「…?なんだよ」
リッキー「いやー、すまんすまん」

笑いを堪えられないのか、リッキーは一頻り笑ってもまだクックッと含み笑いをしていた。

リッキー「そう言えば、君にはまだ見せていなかったな」
京介「はぁ?」

中腰気味の格好で笑っていたリッキーが背筋を伸ばして立ち、右腕を上げて指を鳴らす。
と同時に、京介に潰されていた人形の残骸が煙になり、リッキーに収束されていく。

リッキー「悪いが俺の真の力は、風船を操る事じゃないんだ」

⏰:07/12/30 14:14 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#135 [我輩は匿名である]
『続き』って出てる事が多くて読みにくいかも

⏰:07/12/30 16:33 📱:SH902iS 🆔:☆☆☆


#136 [◆vzApYZDoz6]
>>135
最初の方とかだいぶありますよね…
途中から1レスの文を少なくしてみたんですが、そうするとどうしてもまとまりって言うか区切りが出来ないって言うか…締まりがないような感じにorz
とにかく『続き』って出ないようにしてみます


あっ、今から更新します

⏰:07/12/30 22:27 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#137 [◆vzApYZDoz6]
てゆうかアドバイスありがとうございますm(__)m

⏰:07/12/30 22:29 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#138 [◆vzApYZDoz6]
収束された煙がリッキーに吸収されていき、身体の回りに灰色の靄がまとわりついた。

リッキー「私のスキル『バルーンファイト』では、このガスを作って風船を出すんだが…ガスを使うと、私の力が落ちてしまうのさ」

軈て靄も消えていく。
リッキーは先程笑っていた時とはうって変わって冷やかな表情で京介を見詰めた。

京介「へー、よく分からんがつまり今のお前が本気のお前って事か」
リッキー「まぁそう言うことだ…さて」

⏰:07/12/30 22:39 📱:P903i 🆔:crD5S7T2


#139 [◆vzApYZDoz6]
リッキーが構える。左手を開いて前に突き出し、右手を添えるように左手に重ねた。
京介もそれに倣い、拳を握り腰を落とした。
リッキーの体越しに見える入口への通路を走っていたラスダンの姿は、今は完全に消えている。

京介(ここで止まってる暇はない。行かないとな)

リッキー「何処を見ている?…お喋りは終わりだ」
京介「…ああ」

リッキーが踏み込む。
京介も向き直り、リッキーを迎え撃つべく踏み込んだ。

⏰:07/12/31 13:32 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#140 [◆vzApYZDoz6]
-ラスダンの足取り-

ガリアスがハルキンに言われるままにドアを見ると、そこには見慣れた女性が立っていた。

ガリアス「母さん…?」
母親「ガリアス!」

母親がガリアスに抱き付く。ガリアスは驚いて母親の顔を見た。
痩せており、力を入れると折れてしまいそうな華奢な体。だが、間違いなく自分の母親だった。

ガリアス「母さん…!」

ハルキンは2人の親子の再会を見て満足そうにほくそ笑み、2人の背中越しに入口を覗いた。
そこにラスダンの姿はない。
ハルキンの様子を見ていたラスカが心配そうに話し掛けた。

ラスカ「内藤達の方かしら?」
ハルキン「…まぁ、外に出ればあいつのスキルは使える。上手くやれるだろ。…お2人さん!」

⏰:07/12/31 13:42 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#141 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが遠目からガリアス親子に話し掛ける。

ハルキン「俺達はもう行く。俺達がここに来たところに車が置いてある」

ハルキンは踵を返し、顔だけガリアスの方に向けた。

ハルキン「付いてくるかはお前の勝手だが…このまま此処に居ても危険だ、とだけ言っておこう」

⏰:07/12/31 13:49 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#142 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが走り出す。ラスカもガリアスを一瞥し、ハルキンを小走りで追い掛けた。

ラスカ「人質取られてた事、どうして分かったの?」
ハルキン「ラスダンから『思念』を受けていた。まぁ…当初は俺らでなんとかするつもりだったから…どうなるかは本人次第だな」

ハルキンがチラッと後ろを見る。ガリアス親子の姿は無くなっていた。
無言で振り返り、走り続ける。

暫く経つと、連絡通路が見えてきた。

ハルキン「…さぁ、兎にも角にも突入だ」

2人は連絡通路を駆け抜け、聳える要塞の中に入っていった。

⏰:07/12/31 14:02 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#143 [◆vzApYZDoz6]
-突入・リーザとシーナの場合-

シーナ「……長い!!」
シーザ「いいから走りなさい」

リーザとシーナは剣袋を背負い倉庫内を走っていた。
倉庫内部は外見と同じく対になっており、ハルキンらが入った倉庫の左右対称になっているだけ。中央要塞までの道程も左右対称で同じだ。
ただ、内装が違っていた。ハルキン側の倉庫はコンテナや段ボール等が乱雑に置いてあったが、こちら側にはそれらの類いは殆ど見当たらない。
代わりに升形の仕切りが等間隔に並んでいる。その仕切りの端には梯子があり、仕切りの上を縫うように通る通路に繋がっているのが、下を走るリーザ達の目にも見てとれた。

⏰:07/12/31 14:33 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#144 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「多分ここは戦車格納庫ね。仕切りもなんか駐車場っぽいし…」
シーナ「何でもいいけどその仕切りのせいでこんな時間掛かってるんだから!」

シーナが不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、頬を膨らませる。
等間隔に並んだ仕切りは左右からせり出すように交互に並んでいるため、リーザ達もそれに沿って大きく蛇行しながら走るしかなかった。

シーナ「これじゃ敵に会う前に疲れちゃうわー…」
リーザ「ほらほら!文句言ってる暇があったら急ぎなさいな」

相変わらず機嫌の悪いシーナをリーザが宥めながら、蛇行して走り続ける。
軈て仕切りがなくなり、道が広くなった。前方には連絡通路が見えている。

⏰:07/12/31 14:43 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#145 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あっ、あとちょっとじゃない!あれ要塞の入口よね?」
リーザ「そうね。…気を引き締めて行きましょうね。ここまでに何も無かったのは不自然……ッ!?」

連絡通路を走っていた2人の姿が掻き消え、宙に剣袋だけが浮く。
次の瞬間、攻撃を受け止めた剣の金属音と共にリーザとシーナが現れた。通路を挟んで左右に別れ、共に男の拳を止めている。

シーナ「ちょっと不意討ちなんて危ないわよ!」
リーザ「刺客、ですか…いいでしょう。お相手致します!」

⏰:07/12/31 19:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#146 [◆vzApYZDoz6]
シーナとリーザが剣を翻し拳を払い除ける。

ハル・ライン「不意討ちは致し方無い。俺達は平和主義者だからな」
ハル・レイン「刺客、か。本当はバイク野郎と再戦したかったんだが…外で暴れてるようで」

2人に払われたハル兄弟が一旦下がる。
双子の兄レインは双子の姉リーザと、双子の弟ラインは双子の妹シーナと、再び向き合った。

シーナ「ハル兄弟ね。ジェイトから話は聞いてるわ。確かスキルは『ツインキャンサー』―――」

リーザ「―――コンビ技が得意だそうですわね。離れたのは失敗じゃないですか?」

⏰:07/12/31 20:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#147 [◆vzApYZDoz6]
ライン「そいつは認識違いだな。『ツインキャンサー』の能力は合体攻撃に加えてもう1つ―――」

レイン「―――2人が半径20mの範囲で共闘している場合、総合的に身体能力が上昇する」

兄と姉、弟と妹が、別々に会話する。
―――――――――――
-ハル・ラインVSシーナ-

シーナ「へぇ…ま、タイマンなら望むところだしね!」
ライン「元気のいいお嬢さんだ。……では」

ハル・ラインが構える。
左手を突きだし掌を下へ。ジェイト兄弟と戦った時と同じ構えだが、今回は1人だ。

⏰:07/12/31 20:26 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#148 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが構えたのを見て、シーナも剣を構える。
シーナが持つのは乱れ波紋の日本刀。鞘を投げ捨て、先刻の不意討ちで既に鞘から抜かれていた刀の柄を握る。正眼の構えから右足を後ろに引き体軸を右に向け、柄の端を持つ左手を臍に当てる…武蔵野の構え。
シーナの戦闘準備が整ったのを確認し、ハル・ラインが口を開く。

ライン「双子柔術ツインキャンサー弟役=ハル・ライン…推参する」
シーナ「…なら私も。…柳生新陰流免許皆伝、双子の妹シーナ」

ハル・ラインが拳を握り身を屈め、重心を前に傾ける。
シーナもそれに倣いゆっくりと切っ先を下ろし右手を引き、重心を前に。

ライン「いざ!」
シーナ「仁恕に勝負よ!」

2人が同時に地を蹴り踏み込み、ぶつかり合う拳と刀から火花が散った。

⏰:07/12/31 21:07 📱:P903i 🆔:SihxquWw


#149 [◆vzApYZDoz6]
5mはあろうかという距離は一瞬で詰まった。右拳と刀の撃ち込む力は互角で、互いに弾かれあう。

シーナ「せいっ!」

休む間も無くシーナが追撃。素早く体勢を立て直し、弾かれあい開いた距離を一足で詰める。
右拳を弾かれ、右膝を地に付いていたハル・ラインに、凄まじいスピードで袈裟斬り下ろしを繰り出した。

ライン「ふっ!」

ハル・ラインは振り下ろされる剣に左手を添え合わせて斬撃を逸らした。
シーナの手元で絞られて水平に止まった刀に添えた左手を乗せて押し、反動で右膝を起こす。更にそのまま身を浮かせての回し蹴り。

⏰:08/01/01 02:17 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#150 [◆vzApYZDoz6]
回し蹴りをガードしようにも刀はハル・ラインに押さえ付けられ動かない。
袈裟懸けに全力で振り下ろし、手元で柄を絞ったために身を屈めるのも間に合わない。

シーナ(…やばっ!)

咄嗟に左腕で蹴りをブロックする。
しかし、ツインキャンサーにより身体能力が強化され、刀と互角の威力を誇るその蹴りは、シーナのか細い腕で止められるものではなかった。

シーナ「きゃっ!」

刀ごと横なりに吹っ飛び、右肩から地に激突する。
素早く身を起こすも、左腕が少し痺れているため刀を持つ手に感覚がない。

⏰:08/01/01 02:34 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#151 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「くっ…!」
ライン「余所見はしないほうがいい。」

ハル・ラインが吹っ飛んだシーナとの一足で距離を詰め追撃する。
息をする暇も与えず次々と飛んでくる拳と蹴りを、シーナは捌き続けた。
素早く正確、且つ重い一撃が一分の隙もなく繰り出される。瞬きの間にもやられそうだ。
次第に柄を握る手が痺れてくる。

シーナ(左腕もまだ感覚が無いし…ちょっとキツいかなー)

何合撃ち合っただろうか。
飛んでくる四肢の嵐を捌ききれず、とうとうハル・ラインの拳がシーナの右頬を掠めた。

⏰:08/01/01 02:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#152 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やばっ…!)

堪らずバックステップで距離をとる。が、ハル・ラインは見透かしていたかのようにシーナと平行してくっつき、その距離は離れない。

ライン「逃がしはしない!」

くっついた状態で撃たれた腹を狙っての右フックを、刀の横腹で受け止める。
しかし、左を狙ったフックとは別に右脇腹に衝撃が走り、シーナの体がくの字に曲がって宙を舞った。

シーナ「きゃあっ!!」

数m吹っ飛んで背中から地にぶつかった。
仰向けの状態からゆっくりと上半身を起こすが、嘔吐感と下腹部の圧迫痛で身動きができない。

⏰:08/01/01 03:10 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#153 [◆vzApYZDoz6]
嘔吐が混じったような咳が出る。腹筋が圧迫された感じがして息がしづらい。

シーナ「ごほっ!…ふふ、今の…あなた元ボクサーか何か…?」
ライン「元ボクサーではないが言わんとする事は正解だ。……つまり、お嬢さんの肝臓をぶち抜いた」

右フックはフェイント。
本命のリバーブローを食らって動けなかったシーナだが、刀をついて漸く立ち上がった。

シーナ「リバーブローね…でも、今のうちに止めを刺しちゃえばよかったのに」

⏰:08/01/01 03:24 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#154 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインが左腕を突きだし、再び構える。
表情は少し曇っていた。

ライン「女性をいたぶる趣味はないさ」
シーナ「あら、余裕ねー。じゃ…ちょっとご好意に甘えようかな」

シーナも刀を握り直し、武蔵野構え。
再び向き合い、2人の視線が重なる。

ライン「でもな、お嬢さん―――」

言いかけの言葉を残し、ハル・ラインの姿が忽然と掻き消えた。

⏰:08/01/01 03:38 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#155 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なっ…!?」

油断していた訳ではない。本当に一瞬で、その姿を見失った。
幻でも見たのか、という愚かな考えがシーナの頭を過った、その時。

ライン「―――少し、俺を嘗めすぎだ」

背後からの手刀が、シーナの胸を貫いた。

⏰:08/01/01 03:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#156 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あ…かっ…」

声が出ない。自分の胸に視線を向けると、ちょうど鳩尾のあたりから、自分のものではない手が突き出ていた。

シーナ「こんな……」
ライン「悪いな、お嬢さん」

ハル・ラインが手を引き抜き、シーナが力なく膝をつく。ゆっくりと倒れていく自分の体を、シーナはまるで他人の事のように感じていた。
自分が地に臥している事がはっきり分かったのはいつだろうか。気が付くとシーナの体は、血の海に俯せに横たわっていた。

ライン「心臓を貫いた。……ま、それなりに楽しめたよ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 13:09 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#157 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やられちゃった…かな。…向こうの戦いの音はちょっと前に止んじゃったし…きっとお姉ちゃんが勝ったんだよね)

ハル・ラインは心臓を貫いた、と言っていたが、シーナの脳は冷静に働いた。
頭に浮かぶのは自分の体の事ではなく、姉の事。
姉は自分よりも数段は強かったんだから、負ける筈がない。敵も相当に強いから、姉もそれなりの怪我を負ってるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶ。
シーナは敵に殆どダメージを与えられなかった自分に憤り、同時に、踵を返し相棒の元へ向かうハル・ラインを止めなければ、と考えた。

⏰:08/01/01 13:21 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#158 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは踵を返し相棒の元へ歩を進める。
1歩目を踏み出した時に、後ろで何かが動く気配。
まだ生きていたか。しかし何もできまい。
そう考えて2歩目を踏み出す。今度は刀が地をつき鳴いた音。
馬鹿な…まだ足掻く力が?いや、確実に心臓を貫いた筈だ。
余計な考えを振り払い、ゆっくりと前に出した3歩目。
突如として凄まじい気配が周囲をの空間包む。空気が痺れる程の殺気が、明らかに後ろから、自分に向けられている。
とうとう堪らなくなり振り返ると、シーナが立っていた。

シーナ「あなたを倒せば…お姉ちゃんは先に進む」

⏰:08/01/01 13:47 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#159 [◆vzApYZDoz6]
シーナの胸には確かに穴が空いている。が、その穴はどんどん小さくなっていた。
心臓とその周囲の筋肉、肋骨、更には手刀が掠めて穴が空いた肺までもが、凄まじいスピードで再生している。
目に見える程の早さで分裂を繰り返す細胞は、音を立てて形を成していき、瞬く間に負傷した全ての臓器、筋肉、骨が繋がった。
さらに表皮がどんどん縫い止められ、ついには胸の穴が完治する。

シーナ「紹介が忘れていたわね…私のスキルは『ライフケール』、怪我を修復出来るの」
ライン「馬鹿な!その再生力は…本当にスキルか!?」

⏰:08/01/01 14:04 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#160 [◆vzApYZDoz6]
右手に握られた刀の鋒が血の海に沈む。己が主人の血を吸い上げ、その刀身を真紅に染める。
さらに血を吸い続ける刀の鍔から血が蒸気となって吹き出し、赤い靄が主人の体に纏わりついた。

シーナ「そうね…こんな再生力もこの赤い靄も刀も『ライフケール』には無いわ。私は…人間じゃないのかも」
ライン「人間じゃない、か。…ならばこちらも容赦はしないぞ、お嬢さん」

⏰:08/01/01 14:58 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#161 [◆vzApYZDoz6]
ライン「次は再生の間も与えず殺す」

ハル・ラインが向き直り構え直す。
心臓を貫いたのだから、立ち上がれる筈がない。そう考えていたハル・ラインは内心驚いていた。
油断していた自分が悪い。せめてもの情けにと心臓を狙ったのがいけなかった。次は、確実に首をはねる。
右手に手刀を作り、一気に踏み込んだ。

ライン「その首、貰うぞ!」

迫り来るハル・ラインを前に、シーナは微動だにせず呟いた。

シーナ「…やめといた方がいい気がするけど」

⏰:08/01/01 15:19 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#162 [◆vzApYZDoz6]
言い終わる前にハル・ラインが踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
確実な殺意を込めて突き出されたその手刀は、先刻心臓を貫いた時よりもさらに早い。指先から衝撃波が発生し大気を切り裂くかと思うほどの手刀は、人間には到底避ける事はかなわないだろう。
しかしその手刀は、物理的に遮られる筈もない血の靄に阻まれた。
血の靄はそのままハル・ラインの腕に巻き付く。巻き付かれた腕と手から煙のような蒸気が吹き出し、皮膚が赤黒く爛れ落ちた。

ライン「ぐあっ!!」
シーナ「ほらね…こうなる気がしたの」

シーナはゆっくりと目を瞑り、身を屈める。刀は右肩に背負う担ぎ構え。
その構えはシーナの修めた柳生新陰流にはないものだ。

⏰:08/01/01 23:31 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#163 [◆vzApYZDoz6]
ライン「はあっ、はあっ………くそっ、嘗めるなぁ!!」

ハル・ラインは無事な左手で再び手刀を作り突き出す。

シーナ「血桜舞い散る闇夜の白鶴―――」

手刀が伸びきる前にシーナの体を纏う血の靄がドーム状に広がり、周囲の空間を全て包み込む。
血の霧の中で、シーナ以外の物の動きが全て止まった。

シーナ「―――誘い微睡み心奪うは陽に嘱された紅き三日月―――」

シーナが目を瞑ったまま左手を柄に添える。
同時に血の霧が刀に収束し、刀身が目も眩むほどの真紅に染まる。

⏰:08/01/01 23:48 📱:P903i 🆔:KRat.OYw


#164 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――刹那に翳り、墜ちる三日月、堕ちる白鶴―――」

担がれた刀が迸る。
人の手刀などとは比べ物にならない速度で振り下ろされた一太刀が、周囲の物と同様で依然止まったままのハル・ラインを切り裂いた。

シーナ「―――砕け散る血桜に代わり舞うは、尽きた命の紅い血翅―――」

紅い刀を一払いし鞘に納める。鍔鳴りの音と共に周囲の物に時間が戻り、ハル・ラインの胸の裂目から鮮血が吹き出した。

⏰:08/01/02 00:03 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#165 [◆vzApYZDoz6]
ライン「ごはっ…!!」
シーナ「―――静寂の闇夜で賤しく響くは妖魅の三日月の笑い声―――」

シーナは鮮血を身に浴びながらも、目を瞑ったまま微動だにせず俯いている。
やがて吹き出す血が尽き、倒れる体を征すものが無くなったハル・ラインが膝をつく。

ライン「…見事…だ……シーナ…」

シーナがゆっくりと瞼を上る
青い澄んだ瞳で、地に倒れ臥していくハル・ラインに囁いた。

シーナ「……再び見える時は地獄で、ね」

⏰:08/01/02 00:24 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#166 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――なんて、すぐに再戦できそうだけど」

シーナが刀を取り落とす。刀と一体化していた右腕の皮膚がはち切れ、あちこちから血が吹き出した。

シーナ(これで…お姉ちゃんは先に進める。…私もちょっと休んでからすぐに行くわ…)

血を吐き、力なく地に倒れ込む。軈てゆっくりと瞼を閉じた。

⏰:08/01/02 00:43 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#167 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「シーナ!!」
レイン「間に合わなかったか…!」

倒れている妹と弟の元に、姉と兄が駆け付ける。
後ろにはラスダンと、ガリアスの母親と共に囚われていた女性…ハル兄弟の母親がいた。

ラスダン「くそっ!…2人は?」
リーザ「シーナは…息があります…!でもラインさんが…」
レイン「相当やられているが、治せるさ」

ハル・レインがハル・ラインの裂目に手を当てる。
手が金色に光り輝き、裂目に被さるように光が覆った。

レイン「『ツインキャンサー』発動中の俺達は一心同体。俺の自己治癒力をすべてラインに注げば大丈夫だ」

⏰:08/01/02 00:53 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#168 [◆vzApYZDoz6]
ラスダン「そんな事を…君もダメージはあるのに」

ラスダンがリーザとハル・レインに目をやる。2人ともダメージは大きいようだ。
ハル・レインの顔は頬が裂け、脇腹には血が滲んでいる。体の至るところに刺突と裂傷を受けていた。
それはリーザも同じ。服は所々破けており、頬には擦過傷、腕や足には沢山の打撲が見られる。
どうやらラスダンが到着し囚われていたハル兄弟の母親の事情を説明したのは、2人が戦いを始めて暫く経ってかららしい。

レイン「はははっ、これぐらいどうってことはない。あんたが母を助け出していなかったら、俺は今頃おっ死んでたさ」

⏰:08/01/02 01:05 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#169 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「いいえ、レインさん。貴方も素晴らしい腕前でした…もしかしたらやられていたのは、私の方かも」

微笑みあい談笑する2人からは、戦闘意欲は感じられない。
お互い志の高い武士同士、和解するのは早かったようだ。
ラスダンが安心したように笑みを溢したあと、表情を引き締める。

ラスダン「僕は一旦京介のところへ戻るよ。うまくやってるか気になるしね」
リーザ「分かりました。…私達も、少し休んですぐに向かいます」

⏰:08/01/02 01:16 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#170 [◆vzApYZDoz6]
ラスダンが踵を返し、来た道を再び走る。
リーザはラスダンのを見送ったあと、自分の妹に目をやった。
見たところ右腕にしか傷はない。相当に疲労しているのか、深い眠りについていた。
ここに駆け付ける前に、紅い霧が見えた。まさか…
複雑な表情で妹の顔を眺めていると、隣のハル・ラインが身を起こした。

ライン「もう…大丈夫だ、兄貴。ありがとな」
レイン「まったく、こんなに完膚なきにやられやがってだらしない」
ライン「まったくだ。敵を嘗めていたのは俺の方だな」

⏰:08/01/02 02:13 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#171 [◆vzApYZDoz6]
笑いあいながら、ハル・ラインが立ち上がり伸びをする。
ハル・レインは未だ目を覚まさないシーナと、その側で横座りしてシーナを優しく見つめているリーザに向き合った。

レイン「さて…頼みがある。俺達の母を安全な場所まで避難させてくれないか?」

リーザが一度ハル・レインに視線を向ける。
真剣な表情でこちらを見るハル・レインからは、1つの覚悟が感じられた。
リーザが再びシーナに視線を戻し、哀しそうな笑みと共に溜め息を溢す。

リーザ「それで構いません…もうシーナを戦わせるわけにはいきませんから。…私達は、ここでリタイアね」

⏰:08/01/02 13:34 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#172 [◆vzApYZDoz6]
目を閉じて静かに喋るリーザの表情は愁いに満ちていた。
それを見たハル・レインは少し申し訳なさそうな顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

レイン「感謝する。後は俺達に任せてくれ」

一礼して踵を返す。後ろで腕を組んで立っていたハル・ラインの横を通りながら鼻で笑った。

レイン「まぁ、よくもここまで人をコケにしてくれるよなぁ?」

⏰:08/01/02 13:51 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#173 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは後ろの要塞入口に向かう兄を尻目に、俯いてクックッと含み笑いをした。
すぐに踵を返し、意地悪な笑みを浮かべながら兄と肩を並べて要塞へ歩き出す。

ライン「ま、落とし前はきっちりつけてもらうさ」
レイン「そうだな。顔面フルボッコにしてやるか」

リーザが心配そうに見送る前方で、要塞への大扉に2人が手をかける。

レイン「行くぜ。元上司へのお礼参りだ」
ライン「ウォルサー総指令官グラシアを…ぶち殺す」

扉を開けた兄弟が、反旗を翻すために駆け抜けた。

⏰:08/01/02 15:17 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#174 [◆vzApYZDoz6]
-母親らが囚われていた地下牢-

ラスダンが地下牢への階段を足早に降りていく。最後の3段を一足で飛び越え、尚走る。
暫く走っていると、鉄格子に凭れて座る京介の姿が見えた。奥には倒れ臥しているリッキーの姿。
肩で息をしながら、ラスダンが安堵の溜め息を洩らした。

ラスダン「倒していたんだね」
京介「全然楽勝だったよ」

膝に頬杖をつき、向かいの牢をぼんやりと眺めながら京介が呟く。
怒っているわけでも哀しんでいるわけでもないのに、その表情は少し沈んでいた。

⏰:08/01/02 17:36 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#175 [◆vzApYZDoz6]
京介の体は既に正常に戻り、赤い光も発していない。だが、少し近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

京介「さ、早く行こうぜ」
ラスダン「…あ、あぁ」

ラスダンは少し不安になりながらも、牢の奥へ歩いていく京介についていく。
歩いてる最中でもそのよくわからない不安は消えず、ラスダンは急がねばならないのに走るのも忘れていた事に気が付いた。
一体何があったのかは分からない。だが今は藍を助け出すのが先決だ。

ラスダン「京介、走ろう。一刻も早く藍ちゃんを助けないと」

⏰:08/01/02 17:56 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#176 [◆vzApYZDoz6]
京介「……そうだな」

京介は無言で止まり、目を瞑って俯き、両手で勢いよく頬を叩いた。

ラスダン「京介!どうしたのさ?」
京介「何でもない!行くぜ!」

京介が走り出した。
ラスダンには京介の胸中など知る由も無かったが、何かを吹っ切ったんだろうという事は伝わった。
ラスダンは満足げに笑い、京介の後を追って走る。

軈て、扉が見えてきた。

⏰:08/01/02 23:26 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#177 [◆vzApYZDoz6]
扉を開けると、薄暗い通路があった。
コンクリートの壁に蛍光灯が天井に点々と続いており、まるでトンネルのようになっている。

ラスダン「多分、この先に中央要塞の入口があるはずだよ…行こう!」

京介が頷き走り出す。ラスダンも後に続いた。
扉はすぐに見えてきた。

京介「よし!待ってろ藍!」

扉を勢いよく開け、要塞の中に駆けていった。

⏰:08/01/02 23:37 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#178 [◆vzApYZDoz6]
-突入・内藤の場合-

内藤が突入したのは倉庫の奥の扉。中に入るといきなり昇り階段に直面した。他に道も見当たらない。

内藤「何だこりゃ…外に階段つけろよ、スペースの無駄遣いしやがって」

文句を溢しながら階段を上る。
内藤以外の者が入った場所とは違い、内装は綺麗で証明も明るい。階段を上りきった先に自動ドアがあることからも、明らかに人が使っているだろう。

内藤「2足歩行戦車もあったしメタルギアの気分だな…気を付けるか」

内藤が自動ドアの前に立つ。ドアが機械音を立ててスライドし、中に入った。

⏰:08/01/02 23:50 📱:P903i 🆔:RqwpsYaM


#179 [◆vzApYZDoz6]
そこは居住区として使われているようだ。
ロビーのテーブルに置かれたコーヒーカップや、談話室のソファーに開いたままで置かれている雑誌など、人の存在を匂わせるものが多々あった。
左の壁に並ぶ部屋は個室か寝室だろうか、ドアに数字が書かれている。
それらの全ては、つい先程まで使われていたような感じがした。
ついさっき出動した戦車隊の居住区か、それとも内藤らの侵入に気付いて既に退避した後なのか。

内藤(後者は…あまり考えたくはないな)

⏰:08/01/03 00:15 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#180 [◆vzApYZDoz6]
周囲を探りながら歩いていると、壁に地図を発見した。
ここはやはり居住区で、今内藤が居るのは2階。キッチンやバスルーム、談話室といった生活空間と、居住者の寝室の一部がある。1階の戦車格納庫へ続く階段があるあたり、恐らく戦車隊の居住区なのだろう、と内藤は胸を撫で下ろした。
3階は全エリアが居住者の寝室となっている。中央要塞への入口も3階にあった。
2階は粗方調べていた内藤は中央要塞の構造を覚えてから、3階へ向かった。

⏰:08/01/03 00:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#181 [◆vzApYZDoz6]
3階への階段を上り、廊下を歩く。
2階で寝室を調べようとはしていたが、プライベートルームだからか全てに鍵が掛かっていた。
一応3階でも調べようとするが、やはり鍵が開いている部屋はない。藍の救出という目的が先にあった内藤は、ドアを破ってまで調べようとはせず、鍵が掛かっていたらそれ以上そこに留まろうとはせずに進む事にしていた。
だが、廊下の奥にあったドアの前で内藤は完全に留まった。

内藤「これは…怪しさ満点だな」

⏰:08/01/03 00:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#182 [◆vzApYZDoz6]
そのドアには、チェーンがぎっちりと掛けられている。
ドアノブと蝶番にやりすぎな程にチェーンが巻かれ、さらにkeep outのテープのようにドア全体にもチェーンが張られ、その終端は壁に釘で打ち付けられていた。

内藤「引いて開けるのはめんどくさそうだな…押し破るか」

内藤が身体教化スキルを発動。
重心を落とし、手は開いて腰に構える。

内藤「勢!!」

今まで何度も見せてきた掌呈突きで、チェーンのかかったドアを容易く吹き飛ばした。

⏰:08/01/03 01:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#183 [◆vzApYZDoz6]
破られたドアが部屋の奥に激突するのを眺めながら、ドアが無くなった入口に張られているチェーンを引き契る。

内藤「ちっ、面倒だな」
「あら、その声…♪バニッシ…じゃなかった、内藤ちゃんじゃない?♪」

部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
内藤が一瞬手を止めて中を覗くが、ちょうど入口からは見えない場所に声の主がいるようだ。
急いで全てのチェーンを引き契り中に入ると、奥のベットに手首と足首を縛られ座る女性がいた。

内藤「やはりお前だったか。語尾に音符なんてつける馬鹿は、俺の知る中じゃ1人しかいないからな」

⏰:08/01/03 01:17 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#184 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「あら、酷いわね馬鹿だなんて♪」
内藤「何でもいいが…なぜこんな監禁紛いな事を…?」

中にいたのはアリサだった。カッターシャツににプリーツのスカートを穿いている格好は変わらない。
外見を見た感じでは怪我などは負っていないようだ。

アリサ「あなたのお仲間さんにここの場所教えたのがバレちゃって♪」
内藤「なるほど…バウンサー本部での『思念』はお前だったか。…て事は外の戦車はお前の所為かよ」

アリサが恥ずかしそうに笑い視線を横目に逸らした。
内藤はまだ罠の可能性も考え、話はするものの手足の枷を解放させる事はしていない。
内藤が部屋にあった椅子に腰掛け、煙草を取り出す。
口にくわえて先端に着火し、深く一吸い。携帯灰皿を取り出し、灰を落とした。

⏰:08/01/03 01:41 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#185 [◆vzApYZDoz6]
内藤「んで…なんでお前はウォルサーを裏切ったんだ?」

内藤が両膝に肘をつき、視線をアリサに向ける。
アリサは俯いたままで話し出した。

アリサ「最初から話すわ♪……私のお母さんが…ね、人質に取られてたの♪」
内藤「やっぱりか…さっきラスダンから、ガリアスとハル兄弟の母親が囚われていた、と『思念』がきた。……お前の母親も行方不明になっていたよな」

内藤が再び煙草を吸う。アリサは、その様子を黙って見ていた。

内藤「お前がパンデモを出たのは、その暫く後だったか―――」

⏰:08/01/03 01:50 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#186 [◆vzApYZDoz6]



登場人物の過去

-パンデモの一族・アリサと内藤-


⏰:08/01/03 02:20 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#187 [◆vzApYZDoz6]
―――…

地球とは違う異世界『ディフェレス』。
その世界の辺境、方角で言えば東の最果てに、ある一つの集落があった。
草が生い茂り、浅い小さな谷が連なる場所。周囲には高い山々が聳え立っており、その谷は盆地のようになっていた。
その谷には、木造の建物があちこちに点在している。その真ん中を突っ切るように真っ直ぐに大きな川が流れており、川の付近は谷の他の場所に比べ人が少し多い。小さな市場のようなものもできている。
パンデモの集落は、集落と言うには少し大きめで、村、或いは里と呼べるぐらいの大きさだった。

⏰:08/01/03 04:48 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#188 [◆vzApYZDoz6]
その谷の外れ、深い山の麓近くに空地のような場所があった。
そこは半径20m程の小さな草原となっていて、周囲は小さな崖に囲まれている。
修練場として使われているようで、中央には特に何もなく、端の方に撃ち込み用の丸太があったり、的のような丸い円が書かれた紙が崖に貼り付けられたりしている。
その場所で、1人丸太を相手に撃ち込みをしている若い男がいた。

(バニッシ。『内藤篤史』として京介と藍のクラスの担任になるのは、この4年後の事です)

⏰:08/01/03 05:13 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#189 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200

失礼しました。
頑張って下さい☆

⏰:08/01/03 13:28 📱:P902iS 🆔:☆☆☆


#190 [◆vzApYZDoz6]
>>189
安価&支援ありがとうございます(^^)
今から更新します。

⏰:08/01/03 14:59 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#191 [◆vzApYZDoz6]
その頃、修練場から少し離れた場所で、辺りを見回しながら歩く1人の女性がいた。

(アリサ。この時は、まだ語尾に音符はつけていません。理由は後々明らかになります)

アリサ「もう…何処に行ったのかしらバニッシちゃん」

アリサは周囲の家の裏を除いたり、或いは集落のすぐそばに広がる雑木林をじっくり眺めたりしながら、集落の端を伝うように歩きバニッシを探す。
その最中に、撃ち込みの反響音が聞こえてきた。
アリサは嬉しそうに笑い、修練場に小走りで向かった。

⏰:08/01/03 15:05 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#192 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが次々と拳を、または蹴りを撃ち、丸太が木片を撒き散らす。丸太はどんどんささくれ、ぼろぼろになってく。
撃ち込みの音は囲まれた崖に反射して反響し、辺りにこだました。
10合ほど撃ち込みを続けて、一旦手を休める。袖で汗を拭っていると、高く透き通った声が聞こえてきた。

アリサ「もー…またやってる。そんなに強くなってどうするのよ」

バニッシが修練場の入口に目を向ける。
アリサが呆れた顔をしながら、崖に挟まれた狭い道の真ん中に立っていた。

⏰:08/01/03 15:21 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#193 [◆vzApYZDoz6]
嬉しそうに手をふるアリサの元へ、バニッシが歩いていく。

バニッシ「別に意味は…」
アリサ「あー、また袖で汗拭いてる!汚いから駄目だっていつも言ってるじゃん!もー…ほらこれ使って」

バニッシの言葉を遮り、怒りっぽく言いながら、持っていたタオルを手渡した。バニッシが受け取り顔を埋める。

アリサ「ったく、いっつもそうなんだから」
バニッシ「いいじゃねーか、んなもん」
アリサ「よくない!汚い!」

⏰:08/01/03 15:34 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#194 [◆vzApYZDoz6]
アリサが腰に手を当てて、少し説教臭く喋る。バニッシは鬱陶しそうに視線を逸らし、耳を塞いだ。

アリサ「ちょっとー、聞いてるの?」
バニッシ「聞こえません」
アリサ「こらっ!」
バニッシ「あー、もーいいって。これありがと」

少し乱暴にタオルを返し、修練場を出ていく。アリサは不機嫌そうに頬を膨らませながら、振り返ってバニッシと肩を並べた。
集落までの道を歩きながら、バニッシが訊いた。

バニッシ「そういや、今日は何しに来たんだ?」
アリサ「やっぱり忘れてる!今日の御上祭り一緒に行くって約束したじゃん!」

⏰:08/01/03 15:49 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#195 [◆vzApYZDoz6]
御上祭り(みかみまつり)とは、パンデモで年に一度開催される祭り。
パンデモ一族にも族長という身分の人間が存在し、パンデモの初代族長の誕生日は、地球で言う元旦と同じ。その日に、その年の豊かな実りと安寧を願って開かれるのが御上祭りだ。
パンデモ一族の殆んどはこの行事に参加するが、バニッシは決まって毎年すっぽかしていた。

バニッシ「んー…そんな約束したか?」
アリサ「しました。あなたいっつもすっぽかすんだから、たまには参加しなさいよ?」

バニッシが眉間に皺を寄せながら後頭部を掻く。どうにかアリサにバレずにすっぽかす方法はないか、と考えていた。

⏰:08/01/03 16:07 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#196 [◆vzApYZDoz6]
その様子を見ていたアリサが、少し意地悪く笑った。

アリサ「ふふっ、今どうやって逃げようか考えてるでしょー?」
バニッシ「別に考えてない」
アリサ「本当にー?でも残念ながら、今日はお祭りが終わるまで1人にはさせないからね!」

アリサが楽しそうにバニッシの前に回る。
バニッシは呆れながら、また後頭部を掻いた。

バニッシ「……今から家帰るんだけど」
アリサ「じゃ私も一緒に帰ろーっと」
バニッシ「本気かよ…」

⏰:08/01/03 16:23 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#197 [◆vzApYZDoz6]
項垂れるバニッシを余所に、アリサは楽しそうに口笛を吹きながら、バニッシの家に向かう。
バニッシ達は集落の中心部の方に歩いていた。周りの景色は、最初は畑や田圃が多かったが、徐々に家が増えていく。
暫く歩いていると、周囲に比べ一際大きな家が見えてきた。

アリサ「はーっ、やっぱいつ見てもおっきい家よね」

⏰:08/01/03 18:01 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#198 [◆vzApYZDoz6]
木を連ねて作られた塀に囲まれた大きな敷地の奥に、バニッシの住む大きな家が聳え立っている。
バニッシとアリサは共にパンデモの中でも高い身分の家系。特にバニッシはパンデモの最上流家系の一角を占める家の現当主だった。

バニッシ「まぁ…そうだな」
アリサ「てゆうか、中に入るのは初めてね。緊張するなー」
バニッシ「何でだよ」

バニッシが笑いながら玄関の扉を開け、中に入る。
長い廊下の奥の部屋、バニッシの部屋に入った。

⏰:08/01/03 22:37 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#199 [◆vzApYZDoz6]
部屋には特に何もない。寝床のような床に藁が敷いてあるだけで、あとは服等が隅にたとんで置かれていた。
元々パンデモ自体が人里離れた山の中にあるので、文明の利器など存在しない。
アリサも何もない事を特に不思議がらなかった。

バニッシ「さてと…じゃあ俺寝るから時間になったら起こして」
アリサ「えっ…ちょっとそれじゃ、あたしはどうするのよ」
バニッシ「好きにしてな。祭り終わるまで俺から離れないんだろ」

そう言うと藁の上に横になり、眠り始めた。

⏰:08/01/03 22:51 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#200 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「何それー!…ったくもー、信じられない!」

アリサは怒って喚くが、既に寝息を立てているバニッシは反応しない。
アリサは少し呆れたが、バニッシの隣に横座りになっりバニッシを見つめる。
静かに眠るその顔からは修練場の気迫は感じられない。何処か幼さも感じられる寝顔を、柔らかく微笑みながら眺めるアリサが、小さな溜め息をついた。

アリサ「…無防備に寝ちゃって」

壁に凭れて、静かに天井を眺める。
その表情はどこか嬉しそうな感じがした。
そのまま時間の経過を待つ内に、いつの間にか眠ってしまった。

⏰:08/01/03 23:33 📱:P903i 🆔:7ZY8twyc


#201 [◆vzApYZDoz6]
日が西に傾いた頃。
バニッシは家の炊事場の竈に火を着け、湯を湧かしていた。
文明の利器が存在しないパンデモでは、食品調理は火を起こすところから始まる。
程好い熱さになったところで鍋を竈から離す。急須のような物に熱湯を灌ぎ、それと壁に干してある短い草のような物、土で出来た深めのコップを持ち、部屋へ戻った。
三角座りで寝息を立てるアリサを余所に、急須のような物に干し草を入れてコップへ灌ぐ。その姿はまるで日本人が茶を淹れているようだ。
ゆっくりと飲み物を啜る横で、アリサが目を覚ました。

⏰:08/01/04 18:25 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#202 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが欠伸をしているアリサに話し掛ける。

バニッシ「やっと起きたか」
アリサ「……ん……あっ、おはよー…」

眠そうに目を擦るアリサに、呆れたように言った。

バニッシ「何がおはよーだ。起こせって言ったろ」
アリサ「へっ?………あー!!」

アリサが跳ね起き、慌て外を見る。
川の近く、普段なら集会場となっているところが、提灯の灯りでぼんやりとオレンジに光っている。姿は見えないが、太鼓を叩く音や笛の音が鳴り、時たま拍手や歓声が沸き起こる。恐らく今は、踊り子が舞を踊っているのだろう。

⏰:08/01/04 18:35 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#203 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もう始まって結構経ってるじゃん!!」
バニッシ「そうだな」

外を眺めていたアリサが部屋に視線を戻し、素っ気なく飲み物を啜るバニッシを睨んだ。

アリサ「いつ起きたのよ?」
バニッシ「さぁ…祭が始まる10分前ぐらい?」
アリサ「何で起こしてくれなかったのよー…」

項垂れながらその場にへたり込むアリサを見て、バニッシが楽しそうに鼻で笑った。

バニッシ「起こしてくれとは言われてないし」

バニッシが飲み物をすべて飲み終え、急須と土製のコップを持って部屋を出る。アリサはそれを眺めながら溜め息をついた。

⏰:08/01/04 18:44 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#204 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もー、自分が行きたくなかったから起こさなかったんだわ絶対…今から行っても遅いし…」

アリサが膝の中に顔を埋める。そんなに背が高くないアリサのその姿はかなり小さい。

アリサ(…今年こそ一緒に行きたかったのに…)

アリサは、一緒に行きたかったのに、寝てしまった自分に呆れ、溜め息混じりの笑みを溢した。

バニッシ「溜め息吐くと幸せが逃げますよー」

器具を片付けてバニッシが部屋に戻ってきた。

⏰:08/01/04 18:54 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#205 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「それは嫌!」

アリサは少し慌てて、吐いた息を吸う素振りを見せる。

バニッシ「はははっ、ベタな事してんなよ」
アリサ「何よー、自分が振ってきたんじゃない」

からかうように笑うバニッシの態度に、少しふて腐れたように頬を膨らませる。別にバニッシに会えなくなる訳じゃない。また来年、一緒に行ければいい。
そんな事を考えていたアリサの顔は、既にいつもの表情に戻っていた。

アリサ「はーっ、それじゃあたしはそろそろ帰ろっかな」

⏰:08/01/04 19:04 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#206 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がり、少し伸びをする。

バニッシ「あ、送ってくわ」

そう言うとバニッシも立ち上がって玄関へ向かう。
バニッシの気持ちは嬉しかったが、アリサは今日これ以上バニッシと一緒にいると泣きそうな気分がした。

アリサ「あー…いいよ、うん。まだそんなに暗くないし。大丈夫!」
バニッシ「…そうか?」

頑張って作った笑顔が不自然に見えたのか、バニッシが怪しむようにアリサの顔を覗き込む。
アリサは自分の顔が赤くなっていくのがはっきり分かった。

⏰:08/01/04 19:12 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#207 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「大丈夫だって!あたしだって一応パンデモの人間なんだよ?」
バニッシ「いやそれ、ここら辺の人間全員そうだと思うけど」
アリサ「とにかくいいから!大丈夫!」

恥ずかしがってか視線を合わせないアリサ。
そんなアリサから何かを感じ取ったのか、バニッシが不意に言った。

バニッシ「…じゃあ俺、今から散歩行くわ」

そう言って、座って靴を履いているアリサの横に座る。
アリサには、無言で靴を履くバニッシの行動の意図がよく分からなかった。

アリサ「へっ?何で?どこに行くの?」
バニッシ「適当に行く。別に理由はない」

⏰:08/01/04 19:24 📱:P903i 🆔:ba3mTFuU


#208 [◆vzApYZDoz6]
アリサは自分の家に向かって歩いていく。バニッシは何も言わずに、アリサと肩を並べて歩いていた。

アリサ「…ねぇ、どこ行くの?」
バニッシ「気の向くままに」

一応聞いてみたが、態度は少し素っ気ない。もしかして、と思ってはいたが、やはり家まで送る気だろう。
自分の右を歩くバニッシとの距離は、少し腕を伸ばせば手を繋げられそうなくらい近い。そのせいか、背が高いバニッシが余計に高く見えた。
アリサは少し俯いて、嬉しそうに笑った。

⏰:08/01/05 03:20 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#209 [◆vzApYZDoz6]
軈てアリサの家が見えてきた。
パンデモの中でも五指に入るバニッシの家系程ではないが、アリサも上流家系の人間で、家は大きめ。
アリサは家の鳥居のような門の前で止まって振り返った。

アリサ「えっと…どうするの?」

訊かれたバニッシは無言で俯いている。アリサも暫く黙っていると、突然バニッシがアリサの手を引き歩き出した。

アリサ「えっ?ちょっと、どうしたの?」
バニッシ「いいからついてきて」

バニッシが少し早足で何処かへ歩いていく。アリサは小走りになりながら肩を並べてついていった。

⏰:08/01/05 03:30 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#210 [◆vzApYZDoz6]
向かった先は修練場だった。崖に囲まれた空間を横切り、真っ直ぐに撃ち込み用の丸太のある場所まで歩いていく。

アリサ「ちょっと、もしかして今から修行でもする気?」
バニッシ「違うよ」

そう言うと、アリサの脇の下に腕を回し、抱き上げた。
突然抱かれたアリサは、少し顔を赤くして狼狽えた。

アリサ「えっ、何?」
バニッシ「捕まってろよ」
アリサ「へっ?…きゃっ!」

バニッシがアリサを抱えて、4mはあろうかという崖を一足で乗り越えた。
突然感じた浮遊感に、アリサが反射的に瞼を閉じる。どうなったのかとゆっくり目を開けると、眼下に修練場が見えていた。

⏰:08/01/05 03:42 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#211 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが抱えていたアリサを地に下ろす。
崖の上には、雑木林が広がっていた。日は殆ど沈んでいるため真っ暗で、奥の方は殆ど見えない。
修練場の方を振り返ると、集落のほぼ全景が見渡せた。パンデモの集落は谷の合間にあるため、緩やかな階段状になっている。修練場は集落の外れ、一番上に存在した。
パンデモの集落となるのは、その修練場の崖まで。そこを越えてどこへ行くのだろうか。
アリサがまた振り返ると、バニッシは既に雑木林を歩いている。

アリサ「ちょっと、先々行かないでよ!」

慌ててバニッシの後を追い掛け、雑木林に入っていた。

⏰:08/01/05 04:00 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#212 [◆vzApYZDoz6]
雑木林の中は、外から見るよりもさらに暗い。目の前を歩くバニッシの姿もよく見えないぐらいだ。
灯りとなるものも持っていなかったので、地面に転がっている石に躓きそうになる。
それを見ていたバニッシが手を差し出してきたので、恥ずかしそうに手を繋いだ。
バニッシが躓きもせずに歩けるのは何でだろう、とアリサが少し感心していた時、バニッシが不意に止まった。アリサはすぐ後ろを歩いていたので、バニッシの背中に鼻をぶつけた。

アリサ「いたっ!…ちょっと急に止まらないでよ!」
バニッシ「見てみな」

バニッシが、背中に埋まるアリサに顔を向けながら、前方を指差した。

⏰:08/01/05 13:04 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#213 [◆vzApYZDoz6]
アリサがバニッシの背中から顔を覗かせ、指の先を辿る。
そこは今まで歩いてきた場所と違い明るい。数m先に小川が流れているのがはっきり分かった。
明るみの正体は、小さなエメラルドグリーンの光。点々と幾つもの光が舞うその様は、まるで動く星郡のようだ。

アリサ「すごい綺麗…」
バニッシ「ここ座れよ」

バニッシが小川の側の木の下へ、アリサを宛がう。
アリサは言われるままに、ちょこんと三角座りをして、動く光を眺めた。

バニッシ「あれ、実は『ホタル』っていう虫だったり」
アリサ「そうなの?でも綺麗ねー…」
バニッシ「今日お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」

⏰:08/01/05 23:08 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#214 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「へっ?」
バニッシ「何でもない」

驚いたアリサが目を丸くして、左隣に座るバニッシの方を向く。バニッシは木に凭れ掛かって左を向いていて、顔は見えない。
そんなバニッシの様子を見ていると、恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。膝の間に顔を埋めたが、軈て嬉しそうな笑みを浮かべながら、再びホタルを眺めた。

少しの恥ずかしさからか、バニッシの反対側を向いてホタルを眺める。
バニッシもホタルを眺めているのか、小川のせせらぎ以外の音は聞こえない。

⏰:08/01/06 00:36 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#215 [◆vzApYZDoz6]
沈黙が続く中、アリサは俯いた。
自分の気持ちを、今なら言えるかも知れない。

バニッシの親とアリサの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。物心ついた時には既に、少し年上のバニッシがいつも側にいた。
幼い頃は、本当の兄だと思っていた。遊ぶ時も、ご飯の時も、寝る時も一緒だった気がする。
バニッシを意識し始めたのはいつ頃からだろう。年齢よりも大人っぽく感じるバニッシの言動に、年齢よりも子供っぽいアリサは、いつもどきどきしていた。

⏰:08/01/06 00:57 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#216 [◆vzApYZDoz6]
大人っぽくてもどこか面倒臭がりでひねくれているバニッシと喧嘩して、距離を置く事もよくあった。
喧嘩している時に、こっそり修練場に行く。バニッシは、アリサと居る時以外は大抵は修練場にいた。修行に打ち込んでいるバニッシの真面目な表情を見ると、素直になれない自分が少し恥ずかしくなる。
どんなに静かに見ていても、撃ち込みを終えたバニッシは必ずアリサに気付く。汗を袖で拭きながら無言でやってくるバニッシに、喧嘩していたのも忘れて袖で拭くと汚いと注意する。その後はいつも一緒に帰って、いつの間にか仲直りしていた。

⏰:08/01/06 01:07 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#217 [◆vzApYZDoz6]
アリサが俯いたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
バニッシとの思い出を振り返り、頭の天辺から足の先までバニッシの事を考えてみる。
再び目を開けた時には、心にほっこりと暖かい感情が芽生えた。
アリサは心の中で、今、自分の気持ちを伝えよう、と思った。
気持ちを伝えた結果がどうなっても、今ならすっきりできる気がした。

アリサ「……ねぇ、バニッシちゃん」

意を決して、隣に座るバニッシの方を向く。
だが、そこにバニッシはいなかった。

アリサ「……あれ?バニッシちゃん…どこ?」

⏰:08/01/06 01:14 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#218 [◆vzApYZDoz6]
――…
バニッシ「お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
アリサ「えっ?」
バニッシ「何でもない」

何でもない、そう言って少し恥ずかしさが込み上げてきた。
こんな顔は見られたくない、と思ったバニッシは顔を背けた。
暫くして静かに振り向くと、アリサが嬉しそうな笑顔を綻ばせながら、ホタルを眺めている。
その表情を見たバニッシは嬉しくなったが、少し複雑な気分になった。
アリサの、自分に対する気持ちは分かっている。でもそれに応える事はできない。だが、アリサを嫌いな訳ではなかった。

バニッシは、いつかパンデモを出ようと考えていた。

⏰:08/01/06 01:27 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#219 [◆vzApYZDoz6]
理由は分からない。でも、何故か自分はパンデモを出なければいけない気がした。幼い頃から、自分は何かを為し遂げなければならない、と誰かに言われてる気さえした。
なぜそんな気がしたのかは全く分からない。だが、その分からぬ答を探すためにも、バニッシはパンデモを出る事を決意した。修行に明け暮れるのも、パンデモを出る事が理由だった。
そして、これは自分1人の問題。何があるか分からないのにアリサを巻き込む訳にもいかない。
どうせ叶わない想いなら、忘れた方がいい。
だが、いつからだろうか。そんな自分の気持ちとは裏腹に、日に日にアリサとの距離は縮まっていった。

⏰:08/01/06 01:37 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#220 [◆vzApYZDoz6]
アリサは、俺の胸中を知ればどうするだろうか。
いや、答えは分かってる。好奇心の強いアリサの事、危険を知ってでも必ずついてくるだろう。
…こうなったら、俺の気持ちを話してみようか。
必ず戻る自信も無いのに、待ってろとは言えない。だが、ついてくるなら、全力をかけて守ればいいだけだ。

バニッシが溜め息混じりの笑みを溢した。
今日の自分はどこかおかしい。こんな事を考える自体、今まで無かっただろう。
こんな気分になれるのも、今日が最後かも知れない。

⏰:08/01/06 01:44 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#221 [◆vzApYZDoz6]
どちらにしたって、アリサはいつか自分に気持ちを伝える。
だが、俺の気持ちをアリサが知らない限りは、黙って断るしかないだろう。
それは絶対に嫌だ。

バニッシは、今まで黙っていた自分の気持ちを、自分の目的を話そうと、アリサの方を向く。
アリサは少し俯いて、何か考えているようだ。

バニッシが口を開きかけたその時、背後で一瞬だけ何かを感じた。
不安を駆り立てるような、形容しがたい何かの気配。
驚いて気配の方向に視線を向けるが、そこには何もないし誰もいない。

⏰:08/01/06 01:51 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#222 [◆vzApYZDoz6]
アリサは俯いたままで、恐らく気配には気付いていない。
バニッシは神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと音をたてずに立ち上がる。小川を背にして、雑木林の暗がりを静かに見つめた。ホタルの光に照らされて、ぼんやりと見えるその場所には何も見えない。
だが、確実に『何か』がいる。
隠れているのかどうかは分からないが、底知れぬ不安感がバニッシを包んだ。
こちらには気付いているのだろうか。もし来るようであれば、アリサだけでも逃がさないといけない。
バニッシが静かに拳を握り、ゆっくりと腰を落とす。

アリサ「何やってんのそんなところで?」

⏰:08/01/06 02:03 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#223 [◆vzApYZDoz6]
不意にアリサの声がした。振り返ると、アリサが首を傾げて立っている。バニッシがいない事に気付き、探していたようだ。
バニッシが我に帰ったように辺りを見回した。
謎の気配は、既に消え失せている。一応確認してみるが、勿論そこには誰もいないし何もない。気のせいだろうか。
だが、底知れぬ不安感はまだ残っている。なにか、悪い事が起きる。そんな気がしてならなかった。

アリサ「ちょっと、どうしたのよ?」

アリサが後ろで焦れったそうにしている。
アリサは何も分かっていないようだし、わざわざ話す必要も無いだろう。

⏰:08/01/06 12:33 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#224 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「何でもない」

バニッシが元の場所に座る。アリサもそれに倣って隣に座った。

アリサ「本当にー?さっきから『何でもない』って言ってばっかりじゃない」
バニッシ「本当に何でもないって」
アリサ「また言った」
バニッシ「いやいや、今のは違うし。つうか別に…」
アリサ「『もういいって』でしょ?」
バニッシ「いや、まぁ…」

言葉を遮られて、困ったように後頭部を掻きながら俯くバニッシを見ながら、アリサが小さく呟いた。

アリサ「…まだあたしは話してないのに、よくないよ」

⏰:08/01/06 15:29 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#225 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「えっ、何て?」

頭を上げて聞き直すバニッシに、意地悪に微笑んだ。

アリサ「何でもない」
バニッシ「お前も言ってるじゃん」
アリサ「さっきのお返し」

そう言うと、アリサはそっぽを向いたように再びホタルを眺めた。アリサの表情を見たバニッシは、はにかむように笑みを溢し宙を見上げる。
さっきよりも数が増えたホタルの光がより一層辺りを目映く照らし、静かに響く小川のせせらぎは耳に心地好い。
バニッシは、ずっとこのまま時が止まればいいのに、と思った。

⏰:08/01/06 15:36 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#226 [◆vzApYZDoz6]
ホタルを眺めるバニッシは、さっきの気配の事は頭から離れていた。
気のせい等ではなく、気配を感じた場所には本当は人が居たというのに。

?A「…なかなか勘の鋭い若造だな」
?B「こんなところに人が居るとは思ってはいませんでしたが…まぁ問題はないでしょう」

謎の2人が話をするのは、気配を感じた場所の上。2人は密集する木の枝の上で、今度は完全に気配を殺して、バニッシとアリサを見下ろしていた。

(グラシア。今はまだ組織にはなっていないウォルサーの、総司令官です)
(クルサ。地球に『扉』を出現させ、京介と藍をディフェレスに移動させた張本人です)

⏰:08/01/07 04:18 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#227 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「まぁ気付いてないようだしな。早いとこ移動するぞ」
クルサ「分かりました」

クルサは返事をすると背を向け、枝から枝へ次々と縫うように素早く、しかし静かに飛び移っていく。残像だけが残り、あっという間に姿が見えなくなった。
グラシアは踵を返して顔だけ振り向き、眼下のバニッシとアリサを一瞥する。
楽しそうにホタルを指差すアリサを、バニッシが優しい表情で見ている。

グラシア(…そうだな。間接的に、あの娘を少し利用してやるか。…若造が嘆き叫ぶ顔を見るのが、今から楽しみだ)

グラシアが唇を歪め歯を見せ、声を出さずに含み笑いをする。
そのまま振り向いて枝を飛び移っていき、闇夜の雑木林に中に消えていった。

⏰:08/01/07 04:37 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#228 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは枝を飛び移って、どんどんとパンデモに近付いていく。軈て雑木林を抜け、拓けた崖の上に出た。
グラシアが出たのは修練場。中央には、既にクルサが立っていた。グラシアも崖を飛び降り、クルサに近付く。
歩いてくるグラシアにクルサが話し掛けた。

クルサ「誰でもいいのですか?」
グラシア「いや…さっきの若造の隣にいた娘の母親だ。知ってるか?」
クルサ「あの男はバニッシ、娘はアリサ、アリサの母親はイルリナです」

クルサが無表情に答える。
グラシアは嘸機嫌がいい、といった感じに含み笑いをした。

グラシア「お前を連れてきたのは正解だ」

⏰:08/01/07 17:38 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#229 [◆vzApYZDoz6]
グラシアのスキルは『アナザーコンプリート』。人、又はスキルを支配する事ができる。
人の場合は本人の意思に関係なく、グラシアの意思に沿って動かす事ができる、洗脳のようなもの。ただし、これは悪意のない人間を支配する事はできない。
スキルの場合は、レンサーの持つスキルを支配し、使用する事ができる。元々の所持者は、支配されている間はスキルを使えなくなる。これはスキルの『使用権』がグラシアに移るだけで、スキルを所持するレンサーが死ぬ・気絶するなどしてスキル発動不能状態になると、グラシアもスキルを使えなくなる。
支配できる人間やスキルに制限は無いが、2つの支配を同時に1人に使うことはできない。

⏰:08/01/07 18:03 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#230 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは、このスキルを使い戦力を増やしていた。
人体支配が及ぶ人間は支配し、支配は出来ないが有能な者は人質を使い、配下にした。

そして、クルサは人体支配を受けた、パンデモ一族の人間だった。
クルサは1人パンデモを出て旅をしている最中、グラシアに支配を受けた。

クルサのスキルを知ったグラシアは、ライフアンドデスを支配しようと試みた。
しかし、クルサは既に人体支配されているので、スキル支配を使うことはできなかった。
そこで、パンデモ一族の人間を捕え、スキルを支配しようと、パンデモを知るクルサを連れてパンデモに出向いたのだった。

⏰:08/01/07 18:12 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#231 [◆vzApYZDoz6]
クルサ「始めてもよろしいですか」

会話の時も、クルサは表情1つ変えない。
最早、パンデモの事は知識以外、両親や仲の良かったバニッシ・アリサとの思い出や感情も、全て忘れてしまったようだった。
支配されたのは、1人旅で訪れた先々の影響で、ほんの僅かな悪い心ができたからだろうか。

グラシア「ああ。始めろ」
クルサ「では…」

クルサが膝をつき、両手を重ねて前に突きだす。
手が翳された空間が歪み、黒くなっていく。

⏰:08/01/07 18:34 📱:P903i 🆔:lqpkon9E


#232 [◆vzApYZDoz6]
クルサのライフアンドデスで所持しているスキルの1つだろうか。
軈て地面も同様に一部分が黒くなる。黒くなった部分は円を形成していき、地面の黒と繋がり円柱のような形になった。

クルサ「ドリフターポート、ターゲット、イルリナ―――」

クルサが呟くと、黒い円柱がその場で高速回転しだした。回転速度で土埃が舞い上がる。

クルサ「―――ポートアボート!」

瞬間、黒い円柱が煙を巻いて消え去る。
消え去った跡には、女性が立っていた。

⏰:08/01/08 00:41 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#233 [◆vzApYZDoz6]
祭りがあったからだろうか、少し豪華な格好をするその女性は、驚いた様子で辺りを見回す。
整った顔立ちに、長い黒髪を複雑に束ね、金の簪と金の櫛で止めている。茶色い胴着のような服に赤い単を纏うその姿は、とても綺麗だ。

(イルリナ。アリサの母親です)

グラシア「初めまして、イルリナさん」
イルリナ「ここは…修練場?なぜ急にこんなところに…それに貴方達は…」

イルリナは言いかけて、知ってる人物がそこに居ることに気が付いた。

⏰:08/01/08 00:55 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#234 [◆vzApYZDoz6]
イルリナ「あなたっ…何でクルサちゃんがここに居るの?つい1か月くらい前にスキル収得の旅に出たはずじゃない!」

イルリナが口調を強めてクルサに迫る。
クルサは俯いたまま表情を変えず、視線も合わせず、口も開かない。イルリナはそれを見て不信に思ったのか、後ろでほくそ笑むグラシアを睨んだ。

イルリナ「あなたが…何かしたのね?私をここに喚び出したのは何のためかしら」

イルリナが半歩下がり、構えようとする。
だが、それを遮ったのはクルサだった。

⏰:08/01/08 01:07 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#235 [◆vzApYZDoz6]
クルサは下がろうとするイルリナに素早く足を掛け、後ろに回り、握られる拳をイルリナの背中で抑えた。
その力は強く、イルリナが振りほどこうとするも、後ろのクルサは全く微動だにしない。

イルリナ「ちょっとっ…どうしたのよクルサちゃんっ…!」
グラシア「彼は俺が『支配』したのさ」

イルリナはゆっくりと近付いてくるグラシアを、敵意を込めて睨み付けた。

イルリナ「なんてことを…!」
グラシア「おっと、動くなよ。女性相手に悪いが、失礼する」

グラシアはそう言うと、イルリナの胸元に手を置いた。

⏰:08/01/08 01:19 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#236 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの手が一瞬青く光った。

グラシア「失礼した。…もういいぞクルサ」

クルサが押さえ付けていた手を離す。急に離されたためイルリナが躓くようによろめいた。
イルリナが1歩下がり、自分の胸元に手を当てる。体は、特に何もおかしな所はない。意識もはっきりしているから、支配されたという訳でもなさそうだ。

イルリナ「…今私に何をしたの?」
グラシア「その質問は後で答えよう。とりあえず、俺達と一緒に帰ってもらおう」

クルサが今度は立ったまま手を重ね、イルリナに向ける。

グラシア「別に抵抗してもらっても構わない。どうせ無駄だがな」

⏰:08/01/08 20:57 📱:P903i 🆔:DkUPgSHo


#237 [◆vzApYZDoz6]
イルリナ「…ふざけてるの?ここから逃げるぐらいなら……っ?」

イルリナが何かしようとして動きを止めた。
ライフアンドデスによって所持しているスキルが、使えない。使えば逃げる事ができるスキルが、発動しない。
それならば、と攻撃用のスキルを試みるが、やはり発動しない。
イルリナは驚愕と憔悴の入り交じった表情で、視線を落として困惑した。

イルリナ「スキルが…なんで…」
クルサ「ドリフターポート、パーティネガション」

気が付くと、イルリナ・グラシア・クルサが立つ地面と頭上に、黒い円ができている。

⏰:08/01/09 01:17 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#238 [◆vzApYZDoz6]
イルリナがバックステップで黒い円から逃れようとする。
が、今度は体が動かない。視線だけを上げると、グラシアが嘸可笑しいといったように顔を歪めて歯を見せていた。

グラシア「やはり無駄だったな」

イルリナは何かを喋ろうとしたが、もう声も出せなかった。
地面と頭上の黒円が繋がり、3人を黒い円柱が包む。

グラシア「なーに、殺しはしないさ。今はな…」
クルサ「―――ポートアボート!」

グラシアの笑いを残し、円柱が3人と共に煙を上げて消え失せた。

⏰:08/01/09 01:26 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#239 [◆vzApYZDoz6]
飽きることなく、楽しそうにホタルを眺めるアリサ。
そんなアリサを見て、バニッシはアリサを連れてきて良かったと思っていた。
パンデモを出る事は、今はいい。また今度にしよう。
そんな事を考えていた、その時。

バニッシ「―――!」

バニッシがまた、謎の気配を感じて立ち上がる。今度はさっきよりもはっきりとした気配が、さっきよりも遠い所にある。
その気配は自分らに気付いてる風ではない。だが、忘れかけていた不安感が再び、克明に蘇ってくる。

⏰:08/01/09 01:41 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#240 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がってるバニッシに気付き、少し呆れたような顔をした。

アリサ「また?さっきからちょっと変…」

アリサの言葉を待たずに、バニッシが駆け出した。

アリサ「あっ、ちょっと!…もー!」

アリサが追い掛ける。
だがバニッシの駆ける速度は速く、どんどん差が離れる。
周囲の暗さも相まって、バニッシを見失ってしまった。

アリサ「…見失っちゃった」

アリサが項垂れながら辺りを見回す。
戻ろうにも、自分が今何処にいるか分からない。
仕方なく立ち止まり、その場でバニッシを待つことにした。

その後ろに、黒い円柱が現れた。

⏰:08/01/09 22:38 📱:P903i 🆔:BlcCJlsg


#241 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは雑木林を抜け、修練場に辿り着いた。中央に歩いていき、辺りを見回すが、例によって誰も居ない。
気配は確かに修練場から感じた筈だったが、また逃げたか若しくは隠れたか。
バニッシが眉間に皺を寄せ、深刻な表情で頭を掻く。
今日はもう帰った方がいいな、と思った時に、大事な事に気が付いた。

バニッシ「しまった…アリサ連れてくるの忘れてた!」

バニッシが慌てて崖に走っていき、一足で飛び越える。
飛び越えた崖の上には、雑木林から出てきたアリサが立っていた。

⏰:08/01/10 23:26 📱:P903i 🆔:a4m5MZjc


#242 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「もー、1人でどっか行かないでよ!」

アリサが怒ったように口を尖らせる。

バニッシ「…お前、1人でここに来れたのか?」
アリサ「誰かさんのせいで迷っちゃったけど、適当に走ってたらね」
バニッシ「ああ、悪い」

あの小川への道は結構複雑だ。途中に深い谷があったりして、知らない者がそこへ行くのは難しい。本当にアリサは1人で来たのだろうか。
バニッシはそう思ったが、一応アリサは無事だったので、黙って帰ることにした。

⏰:08/01/11 09:25 📱:P903i 🆔:frq1vZoY


#243 [◆vzApYZDoz6]
2人で肩を並べ、アリサの家に向かう。バニッシは、横を歩くアリサの肩が震えているのに気付かなかった。
修練場を出て、細い道を歩く。家が増えるにつれ、ざわめきが目立った。
バニッシは不安が募った。やはり何かあったのだろうか。そう思った時、後ろから声がした。

「兄ちゃん!」

2人が後ろを振り返る。バニッシはその声を知っていたので、同時に返事をした。

バニッシ「どうしたんだバン?」
バン「あっ、アリサ姉ちゃんもいるや。ちょうどよかった」

⏰:08/01/12 00:09 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#244 [◆vzApYZDoz6]
そこに居たのは少年だった。
背は150センチ前後ぐらい、半袖のシャツに7分丈のズボンを履いている。一見すると小学生くらいに見えるその少年は、少し息を切らしながら後ろから走ってきていた。

(バン。バニッシの歳の離れた弟です)

バニッシ「何かあったのか?」
バン「うん。お祭り終わった頃からイルリナおばちゃんがどっか行っちゃって、まだ帰ってきてないんだ」

バニッシは心臓が大きく鳴った。イルリナが消えたのは、あの気配の主の仕業に違いないだろう。

バン「2人ともどこ行ってたの?イルリナおばちゃん見てない?」

バニッシは驚いているであろうアリサに顔を向ける。
だがアリサは別段驚いている様子はなく、素っ気ない顔をしていた。

アリサ「さあ…あたし達は見なかったよね?」
バニッシ「え?…あ、ああ。まぁ見てない」
アリサ「大丈夫よバンちゃん、そんな心配しなくても。前にもこんなことあったし、そのうち帰ってくるわよ」

⏰:08/01/12 01:05 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#245 [◆vzApYZDoz6]
また『続き』って出てしまったorz

読んでくださってる方、亀更新すみませんm(__)m
最近忙しいために、平日は1〜2レスぐらいしか更新できません;;;
今日はこれで終わりになります。明日は少し余裕があるので、多少更新できると思います。

ちなみにアリサと内藤の過去話はもうちょっと続きます。

⏰:08/01/12 01:10 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#246 [◆vzApYZDoz6]
アリサは再び歩き出した。
バンとバニッシは共に訳が分からない、といったように顔を見合わせた。

バン「どうしたのかなアリサ姉ちゃん?心配しなくても、って言われても」
バニッシ「……もう夜も遅いし、とりあえずお前は家に戻ってな。イルリナさんはアリサを家に送ってから俺が探してみる」
バン「分かった。じゃ先帰ってるね!」

手を振って走っていくバンを見送ってから、小走りでアリサを追いかけた。
アリサに追い付いた頃には既にアリサの家が見えていた。
アリサが門の前で振り返る。

⏰:08/01/12 21:59 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#247 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「じゃ、ありがとね」
バニッシ「ん。…お前の母さんは…」
アリサ「だから大丈夫だって!探したりしちゃ駄目よ?」
バニッシ「……あの小川でお前を置いてきた時に、何かあったか?」

バニッシが溜め息をするように呟いた。アリサは俯き、バニッシと視線を合わせない。

アリサ「……ねぇ、あたしが明日パンデモを出る事になったらどうする?」

アリサが唐突に言った。バニッシは驚いたように顔を上げる。

バニッシ「え?」
アリサ「…なんてね、冗談。じゃあね!」
バニッシ「っておい…」

バニッシが何か言う前に、アリサは家に入っていった。

⏰:08/01/12 22:10 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#248 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは考えながら自分の家に向かった。
修練場で感じた気配、イルリナの足取り、アリサの異変。バニッシはこれらが全て関係がある気がしてならなかった。
考えてるうちに、家についた。バニッシは上着を着て、行灯のようなものを持ち、再び外に出る。

バニッシ(…とにかく、イルリナさんを探さないと)

バニッシはそのままイルリナを探しに行った。
もう月も高く昇っていた。辺りは暗く、明かりが無ければ歩けなかっただろう。
集落の中はバンや他の人が探しただろうと考え、集落の外、雑木林や近くにある深い渓谷など、一晩で出来る限りの範囲を探した。

イルリナは見付からなかった。

⏰:08/01/12 22:21 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#249 [◆vzApYZDoz6]
次の日からも、バンやバニッシ、その他の人もイルリナを探すが、依然見付からないままだった。

アリサは毎日少し変わった行動をとっていた。
朝に家を出て、夜に帰ってくる。何をしているのかは分からないが、バニッシとは一度も会おうとしなかった。


そして、イルリナが行方不明になってから1か月が経ったある日。
修練場に、腕を組んで立つバニッシの姿があった。
バニッシは、アリサに修練場に呼び出されていた。

⏰:08/01/12 22:28 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


#250 [◆vzApYZDoz6]
軈て、アリサが歩いてきた。
アリサとは、イルリナが行方不明になった日から一度も会っていない。バニッシは少し懐かしい感じがした。

バニッシ「どうしたんだ?」
アリサ「ごめんね、呼び出したりしちゃって♪」

バニッシはアリサの話し方に驚いた。以前のような幼さの残る話し方ではない。声は前より甲高く、イントネーションは上がり気味。
バニッシは眉間に皺を寄せた。

バニッシ「…その話し方は何だ?ふざけているのか?」
アリサ「楽しいからかな♪この1か月でいっぱいスキルも手に入ったし♪」
バニッシ「スキル…?」

⏰:08/01/12 22:39 📱:P903i 🆔:QPQfzk3U


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