-Castaway-
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#213 [◆vzApYZDoz6]
アリサがバニッシの背中から顔を覗かせ、指の先を辿る。
そこは今まで歩いてきた場所と違い明るい。数m先に小川が流れているのがはっきり分かった。
明るみの正体は、小さなエメラルドグリーンの光。点々と幾つもの光が舞うその様は、まるで動く星郡のようだ。

アリサ「すごい綺麗…」
バニッシ「ここ座れよ」

バニッシが小川の側の木の下へ、アリサを宛がう。
アリサは言われるままに、ちょこんと三角座りをして、動く光を眺めた。

バニッシ「あれ、実は『ホタル』っていう虫だったり」
アリサ「そうなの?でも綺麗ねー…」
バニッシ「今日お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」

⏰:08/01/05 23:08 📱:P903i 🆔:0gAfYohg


#214 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「へっ?」
バニッシ「何でもない」

驚いたアリサが目を丸くして、左隣に座るバニッシの方を向く。バニッシは木に凭れ掛かって左を向いていて、顔は見えない。
そんなバニッシの様子を見ていると、恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。膝の間に顔を埋めたが、軈て嬉しそうな笑みを浮かべながら、再びホタルを眺めた。

少しの恥ずかしさからか、バニッシの反対側を向いてホタルを眺める。
バニッシもホタルを眺めているのか、小川のせせらぎ以外の音は聞こえない。

⏰:08/01/06 00:36 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#215 [◆vzApYZDoz6]
沈黙が続く中、アリサは俯いた。
自分の気持ちを、今なら言えるかも知れない。

バニッシの親とアリサの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。物心ついた時には既に、少し年上のバニッシがいつも側にいた。
幼い頃は、本当の兄だと思っていた。遊ぶ時も、ご飯の時も、寝る時も一緒だった気がする。
バニッシを意識し始めたのはいつ頃からだろう。年齢よりも大人っぽく感じるバニッシの言動に、年齢よりも子供っぽいアリサは、いつもどきどきしていた。

⏰:08/01/06 00:57 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#216 [◆vzApYZDoz6]
大人っぽくてもどこか面倒臭がりでひねくれているバニッシと喧嘩して、距離を置く事もよくあった。
喧嘩している時に、こっそり修練場に行く。バニッシは、アリサと居る時以外は大抵は修練場にいた。修行に打ち込んでいるバニッシの真面目な表情を見ると、素直になれない自分が少し恥ずかしくなる。
どんなに静かに見ていても、撃ち込みを終えたバニッシは必ずアリサに気付く。汗を袖で拭きながら無言でやってくるバニッシに、喧嘩していたのも忘れて袖で拭くと汚いと注意する。その後はいつも一緒に帰って、いつの間にか仲直りしていた。

⏰:08/01/06 01:07 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#217 [◆vzApYZDoz6]
アリサが俯いたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
バニッシとの思い出を振り返り、頭の天辺から足の先までバニッシの事を考えてみる。
再び目を開けた時には、心にほっこりと暖かい感情が芽生えた。
アリサは心の中で、今、自分の気持ちを伝えよう、と思った。
気持ちを伝えた結果がどうなっても、今ならすっきりできる気がした。

アリサ「……ねぇ、バニッシちゃん」

意を決して、隣に座るバニッシの方を向く。
だが、そこにバニッシはいなかった。

アリサ「……あれ?バニッシちゃん…どこ?」

⏰:08/01/06 01:14 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#218 [◆vzApYZDoz6]
――…
バニッシ「お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
アリサ「えっ?」
バニッシ「何でもない」

何でもない、そう言って少し恥ずかしさが込み上げてきた。
こんな顔は見られたくない、と思ったバニッシは顔を背けた。
暫くして静かに振り向くと、アリサが嬉しそうな笑顔を綻ばせながら、ホタルを眺めている。
その表情を見たバニッシは嬉しくなったが、少し複雑な気分になった。
アリサの、自分に対する気持ちは分かっている。でもそれに応える事はできない。だが、アリサを嫌いな訳ではなかった。

バニッシは、いつかパンデモを出ようと考えていた。

⏰:08/01/06 01:27 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#219 [◆vzApYZDoz6]
理由は分からない。でも、何故か自分はパンデモを出なければいけない気がした。幼い頃から、自分は何かを為し遂げなければならない、と誰かに言われてる気さえした。
なぜそんな気がしたのかは全く分からない。だが、その分からぬ答を探すためにも、バニッシはパンデモを出る事を決意した。修行に明け暮れるのも、パンデモを出る事が理由だった。
そして、これは自分1人の問題。何があるか分からないのにアリサを巻き込む訳にもいかない。
どうせ叶わない想いなら、忘れた方がいい。
だが、いつからだろうか。そんな自分の気持ちとは裏腹に、日に日にアリサとの距離は縮まっていった。

⏰:08/01/06 01:37 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#220 [◆vzApYZDoz6]
アリサは、俺の胸中を知ればどうするだろうか。
いや、答えは分かってる。好奇心の強いアリサの事、危険を知ってでも必ずついてくるだろう。
…こうなったら、俺の気持ちを話してみようか。
必ず戻る自信も無いのに、待ってろとは言えない。だが、ついてくるなら、全力をかけて守ればいいだけだ。

バニッシが溜め息混じりの笑みを溢した。
今日の自分はどこかおかしい。こんな事を考える自体、今まで無かっただろう。
こんな気分になれるのも、今日が最後かも知れない。

⏰:08/01/06 01:44 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#221 [◆vzApYZDoz6]
どちらにしたって、アリサはいつか自分に気持ちを伝える。
だが、俺の気持ちをアリサが知らない限りは、黙って断るしかないだろう。
それは絶対に嫌だ。

バニッシは、今まで黙っていた自分の気持ちを、自分の目的を話そうと、アリサの方を向く。
アリサは少し俯いて、何か考えているようだ。

バニッシが口を開きかけたその時、背後で一瞬だけ何かを感じた。
不安を駆り立てるような、形容しがたい何かの気配。
驚いて気配の方向に視線を向けるが、そこには何もないし誰もいない。

⏰:08/01/06 01:51 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


#222 [◆vzApYZDoz6]
アリサは俯いたままで、恐らく気配には気付いていない。
バニッシは神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと音をたてずに立ち上がる。小川を背にして、雑木林の暗がりを静かに見つめた。ホタルの光に照らされて、ぼんやりと見えるその場所には何も見えない。
だが、確実に『何か』がいる。
隠れているのかどうかは分からないが、底知れぬ不安感がバニッシを包んだ。
こちらには気付いているのだろうか。もし来るようであれば、アリサだけでも逃がさないといけない。
バニッシが静かに拳を握り、ゆっくりと腰を落とす。

アリサ「何やってんのそんなところで?」

⏰:08/01/06 02:03 📱:P903i 🆔:PrtJ6fdI


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