-Castaway-
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#406 [◆vzApYZDoz6]
藍の瞼がゆっくりと開いていく。その場にいた全員の視線が集中する中で、藍が呑気な声を出した。

藍「あれっ…ここどこ?」

藍の視界に写るのは沢山の人間。京介と内藤とアリサ以外の顔は知らない。誰だろうと考えている最中に、ようやく自分が誰かに抱えられている事に気付く。
抱えている人間を見上げると、引きつった顔をしている男と目があった。続いて見えたのは、振りかぶった男の右腕と、その先に握られている鋭利なナイフ。
震える男の唇が、僅かにつり上がった。
眠っていた藍の現状を理解できていない脳でも、自分が殺されそうな事は理解した。

⏰:08/02/07 14:21 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#407 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが最後の悪足掻きに打って出た。どうせ逃げられないなら――

グラシア「――死に花だ!」
京介「藍!!」

京介が叫んで駆け出すのと、グラシアがナイフを振り下ろしたのは同時だった。

藍「きやっ!!」

思わず藍が目を瞑る。
だが、ナイフは刺さった感触はない。代わりに大岩が降ってきたような大きな音と、抱えられている腕から体が落ちたような感覚がした。
藍が恐る恐る目を開けると、そこにあったのは見覚えのある古ぼけた茶色い扉。既に閉まりかけだった扉がゆっくりと閉じていき、閉まりきった途端に点のような光を巻いて消滅する。

京介とグラシアは、居なくなっていた。

⏰:08/02/07 23:34 📱:P903i 🆔:WUGfi2tM


#408 [◆vzApYZDoz6]
グラシアの元へ駆けた京介の視界は突然真っ白になり、浮遊感に襲われ、次の瞬間には芝生のような地面を転がっていた。

京介「いってぇ…」

京介が、地面で打った後頭部をさすりながら辺りを見回した。

京介「ここって…」

周囲は見渡す限りの大草原。生き物は見当たらず、建物はおろか、木の1本すら生えてない。地平線の彼方に高い山々が霞んで見えるだけで、まるでモンゴルの大草原を彷彿とさせる。
そこは、京介と藍がレンサーの住む異世界『ディフェレス』に来た時、扉を通って最初に出た場所だった。
バタン、と扉の閉まる音が響く。振り返ると、既に扉は無くなっていた。

⏰:08/02/08 00:02 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#409 [◆vzApYZDoz6]
京介は光が巻いた跡が残る場所を一瞥し、訳の分からないまま地面を睨む。膝を付いて、最初にここへ来た時の記憶を手繰り寄せた。
あの時も同様に扉が消え、藍が同じような扉を見付けていた。その扉をくぐって出たのが、さっきまで居た場所。

京介(扉…)

京介が顔を上げ、扉を求めて周囲を見回す。

京介「あっ…グラシア!」

京介から少し離れた横で、グラシアが先程の京介と同じように頭をさすっている。
京介に気付いて顔を上げ、これまた同じように膝を付いて周囲を見回す。遠くを眺めながら溜め息をついて、芋虫を噛み締めるような苦い表情を浮かべた。

⏰:08/02/08 00:19 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#410 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「あの娘は…ここに居ないのか」

グラシアが遠くを眺めたまま、静かに呟いた。

京介「あの娘…ってのは藍か。多分いない」
グラシア「…そうか…こんな事になろうとは…くくく…」

グラシアが俯き、くぐもった笑いをする。その不気味な声とは裏腹に、表情はどこか哀愁さが漂っていた。
1人現状を理解しているようなグラシアに、京介が眉をしかめた。

京介「おい、お前は何か知ってるのか?…ここはどこなんだよ?」

京介が少し強めに言い放つ。グラシアは薄く笑みを浮かべたまま、目を細めて冷ややかに京介を見詰めた。

グラシア「ここは…あの娘のスキルが生んだ世界だ」

⏰:08/02/08 00:36 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#411 [◆vzApYZDoz6]
京介「藍の?…って事は藍も、スキルを持ってるのか…」

京介が記憶を遡る。
思い出すのはディフェレスに来た当初。1体の風船人形と対峙した時に内藤が現れて、風船人形をあっという間に倒した後の会話。
内藤が『レンサーにしか開けれない』と確かに言っていた。その扉を最初に開けたのは、紛れもなく藍だった。

グラシア「あの娘とお前はディフェレスに来た時に、扉を通った筈だ。その扉は、クルサがモルディブに繋がるように作ったものだ」

京介が会話を思い返す。
一度草原に出た事を聞いた内藤の独り言に、確かにそれらの単語があった。
グラシアはさらに話を続けた。

⏰:08/02/08 00:55 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#412 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「お前らはスキルさえ戴けば地球に返す予定だった…手早く終わらせる為に、モルディブに出来るだけ戦闘員を配備した。バニッシ、お前らの言う内藤は感付いていたがな」

グラシア「だが、クルサの扉を通ったにも拘わらず、お前らはモルディブからかなり離れた場所に出た。たまたま別行動を取っていたアリサがお前らを見付けたがな。お前とバニッシの会話の内容をアリサから聞いて驚いたよ…」

グラシアがそこで少し沈黙し、京介を見詰めた。

グラシア「…俺の、そしてバニッシの推測が正しければ…あの娘のスキルはディフェレスの伝説に残っているものだ。名を…『キャストアウェイ』と言う」

⏰:08/02/08 15:07 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#413 [◆vzApYZDoz6]
-ウォルサー基地・要塞屋上-

藍「伝説に…?」
ハルキン「ああ。そもそも地球人の存在、そして地球人の強力なスキルの存在をディフェレスが知ったのは、その時だ」

京介とグラシアが居なくなった屋上。
残された人間は今の状況を話し合っていた。突然出現した扉について、内藤とハルキンが述べる見解を皆が静かに聞いていた。

内藤「キャストアウェイの能力は『亜空間』と『通行』の2つの支配…新たに空間を創造する事ができ、その創造空間若しくは既存空間へ繋がる『扉』を作り出す。扉には他者や物質をスキル所持者の意思で通行させる事ができる」

⏰:08/02/08 23:14 📱:P903i 🆔:cbzn3QkA


#414 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「最初にディフェレスに来た地球人は『ジオ』と呼ばれた。詳細は分かっていないが、その能力でディフェレスの危機を救ったとされている」
内藤「浅香、お前確かここに来る時に草原を通ったらしいな?」
藍「はい…」
内藤「その草原は創造空間だ。キャストアウェイは所持者の身に危険が迫っているときに自動的に発動し、危険を回避する…と伝説にも残っている。最初、お前と川上が通った扉は、本当ならウォルサーが待ち受ける場所に行く筈だったんだ。恐らく扉に触れた時にそれを感知したんだろう」
藍「…って事は京ちゃんはまさか…?」
内藤「自動発動に巻き込まれて、グラシアと草原に居る筈だ」

⏰:08/02/09 03:35 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


#415 [◆vzApYZDoz6]
-藍の創造空間・大草原-

グラシア「その力は強力だ。俺はそれを欲し、あの娘を捕らえた訳だ。まぁ、なぜあの娘が伝説のスキルを所持しているのかは知らんがな」


グラシアが一通り話すのを、京介は黙って聞いていた。
ディフェレスの事など分からない京介が理解できたのは、今の状況が藍のスキルによって引き起こされた、という事だけ。そして、それと同時に1つの不確定要素が頭に浮かんだ。

京介「…元の場所に戻る方法はあるのか?」

グラシアが少し沈黙する。思わず京介が固唾を飲んだ時、グラシアが重い口を開いた。

グラシア「…方法はある。だが期待はできない」

⏰:08/02/09 08:17 📱:P903i 🆔:Fj4wlIII


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