-Castaway-
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#155 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「なっ…!?」
油断していた訳ではない。本当に一瞬で、その姿を見失った。
幻でも見たのか、という愚かな考えがシーナの頭を過った、その時。
ライン「―――少し、俺を嘗めすぎだ」
背後からの手刀が、シーナの胸を貫いた。
:08/01/01 03:48 :P903i :KRat.OYw
#156 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「あ…かっ…」
声が出ない。自分の胸に視線を向けると、ちょうど鳩尾のあたりから、自分のものではない手が突き出ていた。
シーナ「こんな……」
ライン「悪いな、お嬢さん」
ハル・ラインが手を引き抜き、シーナが力なく膝をつく。ゆっくりと倒れていく自分の体を、シーナはまるで他人の事のように感じていた。
自分が地に臥している事がはっきり分かったのはいつだろうか。気が付くとシーナの体は、血の海に俯せに横たわっていた。
ライン「心臓を貫いた。……ま、それなりに楽しめたよ、お嬢さん」
:08/01/01 13:09 :P903i :KRat.OYw
#157 [◆vzApYZDoz6]
シーナ(やられちゃった…かな。…向こうの戦いの音はちょっと前に止んじゃったし…きっとお姉ちゃんが勝ったんだよね)
ハル・ラインは心臓を貫いた、と言っていたが、シーナの脳は冷静に働いた。
頭に浮かぶのは自分の体の事ではなく、姉の事。
姉は自分よりも数段は強かったんだから、負ける筈がない。敵も相当に強いから、姉もそれなりの怪我を負ってるだろう。
そんな考えが頭に浮かぶ。
シーナは敵に殆どダメージを与えられなかった自分に憤り、同時に、踵を返し相棒の元へ向かうハル・ラインを止めなければ、と考えた。
:08/01/01 13:21 :P903i :KRat.OYw
#158 [◆vzApYZDoz6]
ハル・ラインは踵を返し相棒の元へ歩を進める。
1歩目を踏み出した時に、後ろで何かが動く気配。
まだ生きていたか。しかし何もできまい。
そう考えて2歩目を踏み出す。今度は刀が地をつき鳴いた音。
馬鹿な…まだ足掻く力が?いや、確実に心臓を貫いた筈だ。
余計な考えを振り払い、ゆっくりと前に出した3歩目。
突如として凄まじい気配が周囲をの空間包む。空気が痺れる程の殺気が、明らかに後ろから、自分に向けられている。
とうとう堪らなくなり振り返ると、シーナが立っていた。
シーナ「あなたを倒せば…お姉ちゃんは先に進む」
:08/01/01 13:47 :P903i :KRat.OYw
#159 [◆vzApYZDoz6]
シーナの胸には確かに穴が空いている。が、その穴はどんどん小さくなっていた。
心臓とその周囲の筋肉、肋骨、更には手刀が掠めて穴が空いた肺までもが、凄まじいスピードで再生している。
目に見える程の早さで分裂を繰り返す細胞は、音を立てて形を成していき、瞬く間に負傷した全ての臓器、筋肉、骨が繋がった。
さらに表皮がどんどん縫い止められ、ついには胸の穴が完治する。
シーナ「紹介が忘れていたわね…私のスキルは『ライフケール』、怪我を修復出来るの」
ライン「馬鹿な!その再生力は…本当にスキルか!?」
:08/01/01 14:04 :P903i :KRat.OYw
#160 [◆vzApYZDoz6]
右手に握られた刀の鋒が血の海に沈む。己が主人の血を吸い上げ、その刀身を真紅に染める。
さらに血を吸い続ける刀の鍔から血が蒸気となって吹き出し、赤い靄が主人の体に纏わりついた。
シーナ「そうね…こんな再生力もこの赤い靄も刀も『ライフケール』には無いわ。私は…人間じゃないのかも」
ライン「人間じゃない、か。…ならばこちらも容赦はしないぞ、お嬢さん」
:08/01/01 14:58 :P903i :KRat.OYw
#161 [◆vzApYZDoz6]
ライン「次は再生の間も与えず殺す」
ハル・ラインが向き直り構え直す。
心臓を貫いたのだから、立ち上がれる筈がない。そう考えていたハル・ラインは内心驚いていた。
油断していた自分が悪い。せめてもの情けにと心臓を狙ったのがいけなかった。次は、確実に首をはねる。
右手に手刀を作り、一気に踏み込んだ。
ライン「その首、貰うぞ!」
迫り来るハル・ラインを前に、シーナは微動だにせず呟いた。
シーナ「…やめといた方がいい気がするけど」
:08/01/01 15:19 :P903i :KRat.OYw
#162 [◆vzApYZDoz6]
言い終わる前にハル・ラインが踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
確実な殺意を込めて突き出されたその手刀は、先刻心臓を貫いた時よりもさらに早い。指先から衝撃波が発生し大気を切り裂くかと思うほどの手刀は、人間には到底避ける事はかなわないだろう。
しかしその手刀は、物理的に遮られる筈もない血の靄に阻まれた。
血の靄はそのままハル・ラインの腕に巻き付く。巻き付かれた腕と手から煙のような蒸気が吹き出し、皮膚が赤黒く爛れ落ちた。
ライン「ぐあっ!!」
シーナ「ほらね…こうなる気がしたの」
シーナはゆっくりと目を瞑り、身を屈める。刀は右肩に背負う担ぎ構え。
その構えはシーナの修めた柳生新陰流にはないものだ。
:08/01/01 23:31 :P903i :KRat.OYw
#163 [◆vzApYZDoz6]
ライン「はあっ、はあっ………くそっ、嘗めるなぁ!!」
ハル・ラインは無事な左手で再び手刀を作り突き出す。
シーナ「血桜舞い散る闇夜の白鶴―――」
手刀が伸びきる前にシーナの体を纏う血の靄がドーム状に広がり、周囲の空間を全て包み込む。
血の霧の中で、シーナ以外の物の動きが全て止まった。
シーナ「―――誘い微睡み心奪うは陽に嘱された紅き三日月―――」
シーナが目を瞑ったまま左手を柄に添える。
同時に血の霧が刀に収束し、刀身が目も眩むほどの真紅に染まる。
:08/01/01 23:48 :P903i :KRat.OYw
#164 [◆vzApYZDoz6]
シーナ「―――刹那に翳り、墜ちる三日月、堕ちる白鶴―――」
担がれた刀が迸る。
人の手刀などとは比べ物にならない速度で振り下ろされた一太刀が、周囲の物と同様で依然止まったままのハル・ラインを切り裂いた。
シーナ「―――砕け散る血桜に代わり舞うは、尽きた命の紅い血翅―――」
紅い刀を一払いし鞘に納める。鍔鳴りの音と共に周囲の物に時間が戻り、ハル・ラインの胸の裂目から鮮血が吹き出した。
:08/01/02 00:03 :P903i :RqwpsYaM
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