-Castaway-
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#209 [◆vzApYZDoz6]
軈てアリサの家が見えてきた。
パンデモの中でも五指に入るバニッシの家系程ではないが、アリサも上流家系の人間で、家は大きめ。
アリサは家の鳥居のような門の前で止まって振り返った。
アリサ「えっと…どうするの?」
訊かれたバニッシは無言で俯いている。アリサも暫く黙っていると、突然バニッシがアリサの手を引き歩き出した。
アリサ「えっ?ちょっと、どうしたの?」
バニッシ「いいからついてきて」
バニッシが少し早足で何処かへ歩いていく。アリサは小走りになりながら肩を並べてついていった。
:08/01/05 03:30 :P903i :0gAfYohg
#210 [◆vzApYZDoz6]
向かった先は修練場だった。崖に囲まれた空間を横切り、真っ直ぐに撃ち込み用の丸太のある場所まで歩いていく。
アリサ「ちょっと、もしかして今から修行でもする気?」
バニッシ「違うよ」
そう言うと、アリサの脇の下に腕を回し、抱き上げた。
突然抱かれたアリサは、少し顔を赤くして狼狽えた。
アリサ「えっ、何?」
バニッシ「捕まってろよ」
アリサ「へっ?…きゃっ!」
バニッシがアリサを抱えて、4mはあろうかという崖を一足で乗り越えた。
突然感じた浮遊感に、アリサが反射的に瞼を閉じる。どうなったのかとゆっくり目を開けると、眼下に修練場が見えていた。
:08/01/05 03:42 :P903i :0gAfYohg
#211 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが抱えていたアリサを地に下ろす。
崖の上には、雑木林が広がっていた。日は殆ど沈んでいるため真っ暗で、奥の方は殆ど見えない。
修練場の方を振り返ると、集落のほぼ全景が見渡せた。パンデモの集落は谷の合間にあるため、緩やかな階段状になっている。修練場は集落の外れ、一番上に存在した。
パンデモの集落となるのは、その修練場の崖まで。そこを越えてどこへ行くのだろうか。
アリサがまた振り返ると、バニッシは既に雑木林を歩いている。
アリサ「ちょっと、先々行かないでよ!」
慌ててバニッシの後を追い掛け、雑木林に入っていた。
:08/01/05 04:00 :P903i :0gAfYohg
#212 [◆vzApYZDoz6]
雑木林の中は、外から見るよりもさらに暗い。目の前を歩くバニッシの姿もよく見えないぐらいだ。
灯りとなるものも持っていなかったので、地面に転がっている石に躓きそうになる。
それを見ていたバニッシが手を差し出してきたので、恥ずかしそうに手を繋いだ。
バニッシが躓きもせずに歩けるのは何でだろう、とアリサが少し感心していた時、バニッシが不意に止まった。アリサはすぐ後ろを歩いていたので、バニッシの背中に鼻をぶつけた。
アリサ「いたっ!…ちょっと急に止まらないでよ!」
バニッシ「見てみな」
バニッシが、背中に埋まるアリサに顔を向けながら、前方を指差した。
:08/01/05 13:04 :P903i :0gAfYohg
#213 [◆vzApYZDoz6]
アリサがバニッシの背中から顔を覗かせ、指の先を辿る。
そこは今まで歩いてきた場所と違い明るい。数m先に小川が流れているのがはっきり分かった。
明るみの正体は、小さなエメラルドグリーンの光。点々と幾つもの光が舞うその様は、まるで動く星郡のようだ。
アリサ「すごい綺麗…」
バニッシ「ここ座れよ」
バニッシが小川の側の木の下へ、アリサを宛がう。
アリサは言われるままに、ちょこんと三角座りをして、動く光を眺めた。
バニッシ「あれ、実は『ホタル』っていう虫だったり」
アリサ「そうなの?でも綺麗ねー…」
バニッシ「今日お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
:08/01/05 23:08 :P903i :0gAfYohg
#214 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「へっ?」
バニッシ「何でもない」
驚いたアリサが目を丸くして、左隣に座るバニッシの方を向く。バニッシは木に凭れ掛かって左を向いていて、顔は見えない。
そんなバニッシの様子を見ていると、恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。膝の間に顔を埋めたが、軈て嬉しそうな笑みを浮かべながら、再びホタルを眺めた。
少しの恥ずかしさからか、バニッシの反対側を向いてホタルを眺める。
バニッシもホタルを眺めているのか、小川のせせらぎ以外の音は聞こえない。
:08/01/06 00:36 :P903i :PrtJ6fdI
#215 [◆vzApYZDoz6]
沈黙が続く中、アリサは俯いた。
自分の気持ちを、今なら言えるかも知れない。
バニッシの親とアリサの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。物心ついた時には既に、少し年上のバニッシがいつも側にいた。
幼い頃は、本当の兄だと思っていた。遊ぶ時も、ご飯の時も、寝る時も一緒だった気がする。
バニッシを意識し始めたのはいつ頃からだろう。年齢よりも大人っぽく感じるバニッシの言動に、年齢よりも子供っぽいアリサは、いつもどきどきしていた。
:08/01/06 00:57 :P903i :PrtJ6fdI
#216 [◆vzApYZDoz6]
大人っぽくてもどこか面倒臭がりでひねくれているバニッシと喧嘩して、距離を置く事もよくあった。
喧嘩している時に、こっそり修練場に行く。バニッシは、アリサと居る時以外は大抵は修練場にいた。修行に打ち込んでいるバニッシの真面目な表情を見ると、素直になれない自分が少し恥ずかしくなる。
どんなに静かに見ていても、撃ち込みを終えたバニッシは必ずアリサに気付く。汗を袖で拭きながら無言でやってくるバニッシに、喧嘩していたのも忘れて袖で拭くと汚いと注意する。その後はいつも一緒に帰って、いつの間にか仲直りしていた。
:08/01/06 01:07 :P903i :PrtJ6fdI
#217 [◆vzApYZDoz6]
アリサが俯いたまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
バニッシとの思い出を振り返り、頭の天辺から足の先までバニッシの事を考えてみる。
再び目を開けた時には、心にほっこりと暖かい感情が芽生えた。
アリサは心の中で、今、自分の気持ちを伝えよう、と思った。
気持ちを伝えた結果がどうなっても、今ならすっきりできる気がした。
アリサ「……ねぇ、バニッシちゃん」
意を決して、隣に座るバニッシの方を向く。
だが、そこにバニッシはいなかった。
アリサ「……あれ?バニッシちゃん…どこ?」
:08/01/06 01:14 :P903i :PrtJ6fdI
#218 [◆vzApYZDoz6]
――…
バニッシ「お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
アリサ「えっ?」
バニッシ「何でもない」
何でもない、そう言って少し恥ずかしさが込み上げてきた。
こんな顔は見られたくない、と思ったバニッシは顔を背けた。
暫くして静かに振り向くと、アリサが嬉しそうな笑顔を綻ばせながら、ホタルを眺めている。
その表情を見たバニッシは嬉しくなったが、少し複雑な気分になった。
アリサの、自分に対する気持ちは分かっている。でもそれに応える事はできない。だが、アリサを嫌いな訳ではなかった。
バニッシは、いつかパンデモを出ようと考えていた。
:08/01/06 01:27 :P903i :PrtJ6fdI
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