*柴日記*
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#754 [向日葵]
口々に、しまいには泣いてしまいそうな女子たちに、祐子は困りながらも薄く微笑む。
1年前の自分には想像出来ない光景だ。
「ありがとうね……。みんな」
みんなを引き剥がし、祐子は鞄を机に置くと、すぐに教室を出て行った。
向かう先はもちろん、一朗のクラス。
逢いたい……。
自分を変えてくれた、大切な人のもとへ……。
教室を廊下から見てみるが、一朗の姿はなかった。
まだ来ていないのかと肩を落とす。
:08/12/14 01:11
:SO906i
:☆☆☆
#755 [向日葵]
踵をかえそうとした瞬間、祐子の体が包まれた。
耳元に、荒い息遣いが聞こえる。
祐子が目を見開き、驚けば驚く程包まれている力が強くなった。
「逢いたかった……」
かすれて聞こえる、一朗の声。
自分を包むのは、紛れもなく一朗の腕だ。
人目も気にせず、鞄を床にほうって、強く強く祐子を感じるように抱き締める。
「逢いたかった……っ」
苦しそうに、愛おしいそうに言うから、祐子の胸が締めつけられる。
硬直させていた腕を、ゆるゆると動かし、一朗の背中へ控えめにまわす。
:08/12/14 01:17
:SO906i
:☆☆☆
#756 [向日葵]
いや、まわしかけた。
その手をギュッと握って、力一杯一朗を押す。
一朗がよろけた隙に、祐子は駆け出した。
「祐子さんっ!」
そう……追いかけて来て……。
あなたの目に、あたししか映らないように。
あなたの頭が、あたしでいっぱいになるように。
あなたの全てが、あたしで埋め尽くされるように……。
ずっと走って、祐子は屋上へと来た。
フェンスまで走っていくと、閉じ込めるようにして一朗が網に手をかける。
:08/12/31 01:35
:SO906i
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#757 [向日葵]
むせるくらい、息があがっている。
「もう、逃げないで……」
疲れてるのか、本当に色々と限界なのか、一朗の目つきが鋭い。
走ったせいではなく、心臓がドキドキする。
髪の奥にまで一朗の細長い指が入り込み、祐子の頭を包む。
せして熱く、唇を重ねる。
息もたえだえに、けれどやっと触れられる喜びでいっぱいになる。
ようやく離れて、一朗はゆっくりと話し出す。
「この二ヶ月ほど、僕は気が狂いそうだった。君には拒絶される、その後には風の噂で入院したと聞いた。」
:08/12/31 01:40
:SO906i
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#758 [向日葵]
苦しそうに、眉を寄せる。
一朗は祐子の手を痛いと感じるほど強く握る。
祐子は一朗の言葉に心揺れながら、必死に聞いている。
「逢いに行きたかった。でもまた拒絶されれば?そう思えば怖くて、怖くて……。祐子さんを傷つけた事を死ぬほど後悔したよ……」
いつの間にか、祐子は涙を流していた。
どの感情からきている涙かは分からない。
けれど後からとめどなく流れ続けてくる。
「お願いだからそばにいて……。僕には、君が必要なんだ……。君がいてくれなきゃ、嫌なんだ……」
:08/12/31 01:46
:SO906i
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#759 [向日葵]
祐子は更に涙を流す。
ずっと、誰かに必要とされたかった。
誰かの支えになりたかった。
誰かのそばにいたかった。
その全てを、一朗は叶えてくれる。
「あたしだって……そばにいたい……」
どんなに離れても、心は正直で、求めてしまう。
それを運命と呼ぶのならば、本当に一朗とは見えない糸で小指と小指が繋がっているのだと祐子は信じれた。
いや、信じたいと思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから卒業し、一朗は大学へ、祐子は就職をし、5年後、結婚した。
:08/12/31 01:50
:SO906i
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#760 [向日葵]
子供には恵まれなかったが、今は越達がいるから寂しくない。
一朗と出会えて、心から嬉しい……。
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――――――――――――
「―――さん。……祐子さん」
祐子はパチリと目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたらしい。
枕がわりにしていた自分の腕が痛い。
「風邪ひくよ。どうして布団で寝ないの」
「あ、神田……」
「何言ってるのさ、君も神田だよ」
:08/12/31 01:53
:SO906i
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#761 [向日葵]
ハッとした。
ああ現実か。
一朗はあの頃とあまり変わらないから、夢と現実がごちゃごちゃになっていた。
そしてよくよく考えれば、一朗は結婚記念日を忘れていたと言ったのだと思い出す。
祐子はぷいとそっぽを向く。
「言われなくても寝てやるよ。晩ごはんは一朗さんが嫌いな野菜の天ぷらだからねっ」
「え?別に嫌いじゃないよ」
立ち上がった祐子は勢いよく振り返る。
「高校時代に、そういうので喧嘩したじゃないか!それすら忘れた!?」
:08/12/31 01:58
:SO906i
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#762 [向日葵]
一朗はポケッとしていたかと思うとふにゃっと相貌を崩してくすくす笑い出した。
「祐子さんは意外にヤキモチ焼きなんだね。いつの話さ」
馬鹿にされたような気がするから、祐子は一朗のそばを通りすぎて部屋から出ていこうとした。
が、一朗がそれを阻止する。
祐子は後ろ向きに一朗の腕の中におさまる。
「確かにね、得意ではなかったよ」
「ほらみろ!」
「でもね、好きな人が作ったものは、なんでも美味しく感じるんだよ。……不思議だね」
最後だけ耳元で囁くから、祐子は胸を高鳴らせる。
耳から赤くなってしまう。
:08/12/31 02:03
:SO906i
:☆☆☆
#763 [向日葵]
「そ、そんな事しても、機嫌治さないからなっ!」
「忘れてないよ、今日は結婚記念日でしょ?」
「えっ?」と蛙が踏まれたような声で祐子は聞き返す。
一朗の方を見れば、にっこりと笑っている。
「どうやら祐子さんは、記憶を捏造して子供たちに教えてるみたいだから、ちょっと意地悪してみたんだ」
「捏造って……あたしゃ何も……っ」
「へー。じゃあ僕は君におとされて夫婦になったって話は聞き間違い?」
意地悪そうに笑いながら訊ねるから、祐子は返す言葉がなく口を鯉か何かのようにパクパクさせて固まる。
:08/12/31 02:08
:SO906i
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