*柴日記*
最新 最初 🆕
#1 [向日葵]
向日葵です(。・ω・。)こんにちは
良かったら見てください

感想はこちらまで
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/2995/

荒らし・中傷はお控え願います

⏰:08/03/18 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#2 [向日葵]
雨が降っていた。

もうすぐ秋の気配を感じながら帰宅した私は、まるで捨て犬みたいに縮こまって、悲しそうにうつ向いてる彼と出会ったのです。









*柴日記*

⏰:08/03/18 00:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#3 [向日葵]
「お母さぁぁん!人拾ったぁぁ!!」

「え、ちょ、アンタそんな犬拾ったみたいなテンションで!」

優雅に紅茶をすすっていたお母さんは私の叫びにびっくりした。

私はずぶ濡れの彼を家にいれて、タオルを貸してやった。

「ハイ。拭いて。風邪ひいちゃうから。」

私の言葉なんか聞いてないのか、綺麗な茶色い髪から滴る雫もそのままに、彼はぼんやりしていた。

お母さんが風呂を沸かしてあげると言って、風呂場へ向かった後、私は彼を拭いてあげる。

⏰:08/03/18 00:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#4 [向日葵]
そこで私はハッとする。

伸びている髪の毛の隙間から覗いた瞳は、グレーだった。

外人……さん……?
もしかして日本語通じないとかかな……。

「わ……ワットユアネーム?」

カタコトな英語で話かければ少し反応したのか、こちらを見た。

「分かるから……日本語。」

ぽつりとだけど、確かにそう言った。

「良かった!あ、私は神田 越(カンダ エツ)。この家の長女。貴方は?」

⏰:08/03/18 00:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#5 [向日葵]
さっきまで私に向けていた魅力的な瞳を僅かにそらして、またポツリと呟いた。

「勝手に……呼べばいい……」

何でだろう。

でも何故か分かる事は、彼はとても傷ついてるように見えると言う事。

何故そんな悲しい目をしているんだろう……。

「どうして……うちの前にいたの?」

「……疲れた。どこにも行く場所なくて、さまよって……休んでただけ……。」

⏰:08/03/18 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#6 [向日葵]
行く場所がない?
つまり家出って事なのかな。

そう思いながら、今日初めてあった人をあれこれ詮索するのはよくないと思い、私は何も聞かなかった。

「じゃあ……とりあえず貴方は柴(シバ)ね。犬みたいにうちの前にいたから!」

特に反応する訳でなく、柴は黙ったまま私に拭かれた。

―――――――……

「行くとこないっていうなら、まぁいてもいいよ。」

お母さんは寛大すぎる程寛大で、お母さんだけど男気溢れる人だ。

⏰:08/03/18 00:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#7 [向日葵]
柴がお風呂に入ってる間、さっき彼から聞いた事をお母さんに言ったところ、さっきのような返事が帰ってきた。

「今更家族が1人増えようが5人増えようがどうでもいいよ」

「5人て……。そうなったら大家族だよお母さん」

「あぁ!おねーちゃん!」

後ろから声がするので振り向いてみれば、三女で4歳の苺(イチゴ)と、長男で10歳の空(ソラ)がそこにいた。

苺はトテトテと走ってきて私の足に抱きついた。

⏰:08/03/18 01:03 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#8 [向日葵]
「おかえりなさぁい!あのね、いちご今日おうたおぼえたんだよー!」

「そうなんだぁ。またお姉ちゃんに聞かせてね。」

苺は「うん!」と元気よく言って、お母さんの膝によじ上った。

「越姉!俺今日野球でホームラン打ったよ!」

「空はさすがだねー!この調子で頑張りなよ!」

空はニカッと笑う。
それにつられて私も笑うと、玄関の方から叫び声が聞こえた。

「うわぁぁ!!」

⏰:08/03/18 01:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#9 [向日葵]
「あ、さくらおねえちゃんだ!」

桜とは、次女で14歳。
おそらく部活から帰って来たのだろう。

それはいい。

多分……柴がいたな。

玄関へつけば、風呂上がりで、さっきと変わらず頭びちょびちょの柴と、見知らぬ柴に驚いた桜がいた。

「え!?ちょ、お姉ちゃんこの人誰!?」

「柴。ちょっと柴。ちゃんと頭拭かなきゃダメでしょうが。」

すると柴は頭にタオルを乗っけて、私に頭を差し出してきた。

⏰:08/03/18 01:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#10 [向日葵]
拭けと言ってるらしい。

桜の叫びにかけつけた苺と空も、驚いていた。

「わ!誰!?」

「いちごのおにいちゃん?」

いっぺんに説明しなくちゃならないようだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小さな苺もいると言う事で、分かりやすく丁寧に話した所、最初こそ驚いたものの、皆次第に納得していった。

「分かったよお姉ちゃん」

「俺も」

「いちごもー!」

⏰:08/03/18 01:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#11 [向日葵]
皆が了解したと言う事で、私は柴が使う部屋へと案内した。

丁度1つ余っているので、そこにする事にする。

階段を上がって、空いてる部屋へと案内。
柴は黙々とついてくる。

ドアを開けると、何もない空間が広がっている。

「じゃあここね。布団はまた持ってくるから。」

「……てない。」

「は?」

柴は入口に止まったまま、窓を見つめて何か呟いた。

⏰:08/03/18 01:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#12 [向日葵]
柴よりも先に部屋に入ってた私は、柴に寄っていってもう1回何を言ったか尋ねた。

「何?」

「似てない……誰1人として、兄弟も、親子も……。」

「……そっか」

私はにこっとして、質問に答える。

「皆、施設からこの家に来たから。似てなくて当然なんだよ」

私は皆、桜も空も苺も……皆施設から今のお母さんの所へ引き取られた。

⏰:08/03/18 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#13 [向日葵]
お母さんは、子供が欲しいけど出来なくて、ずっと悲しんでいた。
そんな時、私達を見つけてくれた。

血の繋がりなんてないけど、愛情一杯に育ててくれた。

私は5歳の時、両親から捨てられた。

それでも今のお母さんが大事に育ててくれたおかげで、今は何も寂しくもないし、怖くもない。

「本当の兄弟じゃなくても、皆大切よ。」

柴は静かに私を見つめ返す。
灰色の瞳でじっと見つめられるば、少しドキドキした。

⏰:08/03/18 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#14 [向日葵]
「いいな」

「え?」

と突然、柴が被さってきた。
急なので、バランスを崩した私の体は、柴と共に倒れる。

ドスンと派手な音を立てると、私はムクリと起き上がった。

「あいったたたた。ちょっと柴!何すん」

「スー……スー……」

え、寝ちゃった?

確認するまでもなく、ピクリとも動かず柴は寝息を立てる。

⏰:08/03/18 01:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#15 [向日葵]
何か……謎めいた人だなぁ……。

歳は20ちょっとくらい。
長身、どちらかといえば美形。
そして灰色の瞳。

一体どこの人なんだろうか。

結果として膝枕をしなくちゃならない羽目になった私は、柴の寝顔を見ながらぼんやりと色々考えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

眠りがもとから浅いのか、1時間経つと柴は目を覚ました。

覚えてないのか、半目で辺りを見渡す。

そんな仕草に、私は笑ってしまった。

⏰:08/03/18 01:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#16 [向日葵]
「本当犬みたい!柴って名前あってたみたいね」

柴は少し首を傾げてから、座って頭をポリポリかいた。

私のビジョンからは、子犬が後ろ足で頭をかいてるように見える。

「お腹空いてない?喉は渇いてない?」

柴は頭をかくのを止めて、また私をじっと見つめる。
見つめながら、眉間のしわを深くした。

何か、私悪い事言ったっけ……?

「馬鹿らしい……。」

⏰:08/03/18 01:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#17 [向日葵]
は……?

「赤の他人家にあげるなんてどういう神経してんだか……第一そんなに親切にして何なの?媚売ってんの?」

最後の言葉を言い終わると同時に、私は柴の両方の頬をつねってやった。
そして間近で怒った顔をする。

「2度と、私の家族の悪口言わないで。」

媚なんて売った事はない。

困っているなら助けてあげたい。
そんな、ただ優しい心をそんな風に言うなんて許さない。

⏰:08/03/18 01:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#18 [向日葵]
「少なくとも、私はこの家族を誇りに思ってる。本当の家族であろうがなかろうが関係ない。本当の皆の心を見ずに、悪く言うのは止めて。」

そうして、私は頬から手を離す。
依然、まだ顔も気持ちも怒ったままだ。

柴はつねられた頬をさすりながら、ぼんやりと足元を見ていた。

少し……言いすぎた?
でも柴が悪いのよ。
私の家族を……あんな風に……。

「うらやましい……。」

柴がまたポツリと言う。

⏰:08/03/18 01:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#19 [向日葵]
私は眉を寄せて柴を見る。

柴はまたさっきのように悲しい目をしていた。

灰色の瞳に憂いの色が混ざる。

「悪く言ってごめん……」

あれ、意外と素直。

「でもお人好し」

でもやっぱり毒舌。

「いいの。誰かにとってはお人好しでも、誰かにとっては救いになってるかもしれないでしょ?」

柴は珍しい物のように私をじっと見つめる。

そんなにおかしい事言ったかな。

⏰:08/03/18 18:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#20 [向日葵]
カタと音がしたので振り向くと、そこに苺が覗いていた。

苺は恐る恐る部屋に入って来て、柴の近くで止まった。

最初は上から下まで何度も観察して、その内ににこぉっ笑った。

「しばおにいちゃん。いちごおにいちゃんとあそびたいな。」

柴は軽く目を見張ると、少し表情を柔らかくしたのが分かった。
目元も笑みを含んでいる。

苺も柴を気に入ったのか、生意気に膝の上に乗ってる。

⏰:08/03/18 18:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#21 [向日葵]
「兄弟いたの?」

「弟がね。」

柴は苺の頭を撫でながら言う。
苺のおかげで柴の警戒していた空気が緩和されてる。

だから私もなんなく喋る事が出来た。

「何歳くらい?」

「この子と同じくらい。」

「“このこ”じゃないよ。いちごだよ!」

苺の主張に、思わず笑ってしまう。

⏰:08/03/18 19:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#22 [向日葵]
「苺ー!ちょっとおいでー!」

桜の呼ぶ声に、元気よく「はーい!」と答えて苺は言ってしまった。

まるで空気を和らげに来ただけみたいな苺に、私は胸が温かくなった。

「あの子はいつからこの家の子?」

柴から喋り出したので、私は少し驚いた。

「苺は赤ちゃんの時から。でも本当の家族じゃない事はもう知ってるよ。」

柴は苺が行ってしまったドアを見つめる。
あんな小さな子に、そんな酷な事をとでも思ってるんだろうか。

⏰:08/03/18 19:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#23 [向日葵]
「俺もこの家に拾われたかった……」

「柴……?」

さっきもそうだった。

「いいな」とか「羨ましい」とか、どうして他の家庭を羨んでばかりいるんだろう。

そしてそういう時、いつも寂しくて悲しい顔をするのだろう。

「いいんだよ?ここにいても……」

柴の手に触れると、柴は少しピクリと震える。

柴の手は、さっきお風呂に入った筈なのにもう冷たくなっていた。

⏰:08/03/18 19:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#24 [向日葵]
「いたい……。ずっと……」

柴は膝を抱えてうつ向く。

一体この人には何があったんだろう。
心に、どれだけの傷をおっているんだろう……。

言葉の端々に、彼の心の叫びが聞こえる気がした。

「オイ越姉!イチャついてる場合じゃねぇぞ!」

今度は空がやって来た。

何でみんないっぺんに来ないかな。

「馬鹿。そんな訳ないでしょ。」

⏰:08/03/18 19:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#25 [向日葵]
「早くしないと母さんが焼きそばの上に目玉焼き乗っけてやんないって言ってたぞー」

私は空を軽くあしらって先へ行かせた。
先に立ち上がって柴の腕を引っ張って立たせてやると、柴が何かボソリと言った。

別に何言っても構わないからもう少しハキハキ喋って欲しいと思う……。

「何?」

「焼きそば……?」

「ウンそうだけど」

「何それ……」

⏰:08/03/21 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#26 [向日葵]
ハイ……?

ま、まさか焼きそば知らない……?
うっそだぁぁ!

と思いながらリビングへ連れて行き、即席で作った柴の席に座らせた。

いい香りを漂わせながら目の前に置かれた焼きそばを、柴はしげしげと眺める。

「いっただっきまーす!」

皆で行儀良く挨拶してから、ご飯を食べ始める。……と思われたが、皆初焼きそば(らしい)柴がそれを食べるかをじっと見つめていた。

⏰:08/03/21 00:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#27 [向日葵]
一方、マイペースを貫いてる柴は、焼きそばをよく観察した後、お箸を取って一口口に入れた。

一瞬止まってから、柴はまた一口、もう一口と、次々に食べだした。

どうやら美味しかったらしい。

それにホッとした私達も同じように食べ始めた。

「そーそー。アンタ細っちぃんだから、しっかり食べなよ。」

お母さんはにひっと笑って、柴の頭をぐりぐり撫でまわした。

別に気にした風もなく、柴は黙々と食べてくれたので、私も落ち着いて食べる事が出来た。

⏰:08/03/21 00:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#28 [向日葵]
*****************

柴は笑いに包まれる中、ぼんやりと昨日までの自分を振り返っていた。

安々と手に入った家族の温もり。
ただその温もりはいつか幻や夢のようにあっという間に消えてはしないだろうか。

早代(サヨ)の時みたいに……。

[出ていけ!お前などもういらない!]

激怒した父親の叫び。

離れたくなんて、なかったのに……。

ずっと、一緒にいたかった……。

******************

お箸が床に落ちる音がした。
その方を向けば、柴が箸を落とした状態のまま固まっていた。

⏰:08/03/21 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#29 [向日葵]
そして彼からは滴が流れ落ちていた。

「柴……っ!?」

「しばちゃん?」

苺が不思議そうに柴に問いかける。
このままだと皆に気をつかわせてしまう。

私は静かに柴を引っ張って行き、廊下に出る。

柴は灰色の瞳を潤ませながら細め、その目から涙を流し続ける。

それからは望みを失っているかのようにも感じとれた。

「柴……?」

⏰:08/03/21 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#30 [向日葵]
静かに私がつけた彼の名を呼ぶ。
彼は濡れた目で軽く応じた。

「俺は……家を追い出されたんだ……」

私は目を見開く。
握ったままの彼の手を、少し強く握った。

「俺は物心ついた頃から、愛情とか、そんなもの受けた事は無かった……。」

冷たい空洞の中にいるように、空っぽだった。そう柴は呟いた。

彼はポツリポツリと言葉を紡ぐ。

自分の素性をあまり話しはしなかったけれど、とにかく彼は“1人ぼっち”だったのだ。

そんな中、両親は離婚。
しかし彼は悲しいなんて感情は何も感じなかったと言う。
だって自分は、そんな感情を感じるほど何も与えてはもらわなかったから。

⏰:08/03/21 00:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#31 [向日葵]
そして、再婚。

「それが早代だった」

「早代?」

「俺と8つ歳の離れた優しい人。初めて俺に愛情を注いでくれた人……」

すると突然、柴は黙ってしまった。

先を促しては話ずらいだろうから、私は辛抱強く続きを待った。

しばらくして、柴はまた話始めた。

「あろうことか……俺は早代に恋愛感情を持つようになった。母親としてじゃなく、気持ちを、心を、もっとって欲しがるようになった……」

次に喋った時の彼の口調は、とても重かった。

⏰:08/03/21 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#32 [向日葵]
「関係を……持ってしまったんだ……」

「関係……?」

イマイチ分からなかった私は聞き返した。

柴は辛そうに細める目を閉じて、か細く言う。

「体……の事……肉体関係って……やつだよ。」

頭をきつく殴られた感覚がした。
だから彼は追い出されたのだ。

「出て行く時、早代が酷い目にあってる声が聞こえた……。俺の……せいで……っ!」

⏰:08/03/21 00:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#33 [向日葵]
柴は私に手を握られたまま床に座りこんだ。

私は今にも壊れてしまいそうな彼を見つめる。

「俺は不幸にしてしまうしかない……っ。愛情を求めても、相手を不幸にするしかないんだ……っ!」

私は、親から捨てられた記憶を持ってる。

私も柴と一緒だった。

私がいるせいで、お母さん達は不幸になった。
だから、私は捨てられてしまったんだと。

でも、この家に来てから、自分が誰かの力になれる事を知った。

⏰:08/03/21 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#34 [向日葵]
それを教えてくれたのは、“お母さん”であり、お父さんや桜や空や苺、家族だった。

「柴、大丈夫」

私は柴と視線を合わすようにしゃがんだ。
柴はまだ濡れている目で私を不思議そうに見る。

「私達の家族はね、どんな事でも力を合わせて乗り越えていける家族なの。」

柴のおでこと私のおでこを合わせて、そっと目を瞑る。

「それを受け継ぐのが私の名前、“越”。初めてここへ来た私がそんな子に育つようにつけてくれたのよ」

⏰:08/03/21 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#35 [向日葵]
宝物のような私の名前。

だからね、柴……。

「一緒にいたら、きっと何でも越えていけるよ。安心して、いいんだよ……?」

目を開くと、灰色の瞳がすぐそこにあった。
潤んだ瞳は尚美しい。

柴はその魅力的な目を瞑ると、頭を私の肩に預けて静かにまた泣いた。

でもその肩の重みが、私に心を許してくれた証のようでなんだか嬉しかった。

……これが、私と柴の出会いだった。

⏰:08/03/21 00:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#36 [向日葵]
―1日目―

柴って慣れると本当に子犬みたいなの。
気がつけば寄り添ってすぐ側にいるんだよ。
(神田家・長女・越談)






柴と出会って、2週間が経ちました。
徐々にだけど、家のルールとか、皆との接し方とか分かってきたみたいで、柴は毎日楽しそう。

良かった良かったぁ!

「……ん、よし!」

⏰:08/03/21 00:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#37 [向日葵]
現在私は朝食作ってます!
朝と言えば、やっぱり味噌汁っしょ!
今日もいい出来に仕上がったよー。

忙しい両親のお手伝いをする私の日課。
桜と自分のお弁当も私が作ってます!

卵を割ろうと、卵を持った瞬間、頭に重みが……。
間違いない……。

「ちょっと柴っ。眠いならまだ寝てればいいのに」

「なんか起きたんだもん……」

柴はよく、こうして私の頭に自分の頭に乗せて甘えてくる。

⏰:08/03/21 00:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#38 [向日葵]
柴がこうして甘えてくるのにはもう慣れた。

柴が私に心を許してくれた時からすりこみしたヒヨコみたいに柴は私の後を追いかけてくるようになった。

とは言え、別に困ってる訳じゃない。

どちらかと言えば、世話好きの血が騒ぎだして柴の事を1から10まで面倒見れて嬉しいくらい。

苺や空も私をこんな風に追いかけてくる時もあるし。

柴はペット兼弟みたいなものだ。

「今日は何時に帰ってくんの……」

「もー柴。毎日毎日同じ事言わせないで。4時半頃だよ」

「もっと早く帰って来てよー」

⏰:08/03/22 17:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#39 [我輩は匿名である]
「出来るだけね」

食事をテーブルに運ぶ間も柴はちょこんと服の裾を持ってついてくる。
イメージ的に柴の足にピヨピヨサンダルが履いてあってピヨピヨ鳴ってる感じ。

「まぁった柴はお姉ちゃんにくっついてー」

「あ、桜おはよう」

桜は優しくて、いつも早起きして私を手伝ってくれる。

頭を結びながら降りてきた桜は、お箸を並べてくれる。

「だってくっつきたいもん。それとも桜くっついて欲しい?

⏰:08/03/22 17:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#40 [我輩は匿名である]
「やめてくれ」

と言っても柴は私以外にはこうしないじゃない。
苺とか空は逆に柴に「遊べ」とくっついてくるけど。

「じゃあ文句言わないでよ」

「ちょっと、お姉ちゃんはアンタのものじゃないんだからね!あんまりそうやってると空達がお姉ちゃん取られたって拗ねちゃうんだから。少しは離れなさいよ」

すると柴は私の体に腕を回して桜に舌を出した。

「いーやーだー」

桜のこめかみ辺りに青筋が出来るのが見えた。
ついでに2人の間に火花が散る。

朝から何やってんだか……。

⏰:08/03/22 17:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#41 [我輩は匿名である]
―――――――…………

柴の構ってオーラをなんとか振り切って、私は自転車で学校へ向かいながら爽やかな風を体で感じていた。

甘えるのはいいけど学校に遅刻するっつーの……。

学校について、指定された場所に自転車を置き、下駄箱へ向かう。

「越!おっはよー!」

「美嘉。おはよ。早いね今日は」

「失礼なっ。美嘉だってやれば出来るっての!」

友達の島田美嘉(シマダミカ)ちゃんは、明るくて元気な……遅刻常習犯……です。
ハンドボールをやってて、小麦色に焼けた肌と短めの髪の毛が彼女の印象によく合っていた。

⏰:08/03/22 17:59 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#42 [我輩は匿名である]
「おはよう、ございます」

「椿おはよう。」

大人しい野々垣椿(ノノガキツバキ)ちゃん。
社長令嬢で体が少し弱い。
腰までの長い黒髪はため息をつきたくなる。

「椿今日も体育休むって。アンタ体平気なのー?」

「この頃良くなってきてますから、平気です……」

大きな声で豪快な美嘉と違い、椿の声は耳を近づけないと聞こえないくらいか細い。

そんなアンバランスな2人は実は幼なじみ。
だからとても仲が良い。

⏰:08/03/22 18:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#43 [向日葵]
「何かあったら美嘉に言いなよ!家まで担いで行くから!」

本当にやってのけそうな美嘉が恐い……。

教室に入れば、皆が挨拶をしてくれる。

「神田。おはよう」

「あ、立川君おはよう」

立川憲吾(タツカワケンゴ)君。
学級委員長で、皆から「眼鏡男子!」と唱われるほど美形な男の子。
そして何を隠そう私も学級委員。

「先生から頼まれた事があります。後で一緒にやってもらえますか」

しかも世に珍しい敬語キャラなので美形+眼鏡+敬語とくれば乙女達は歓喜の叫びを上げる。

⏰:08/03/23 02:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#44 [我輩は匿名である]
私は歓喜と言うよりこんなにモテる立川君に感心しちゃうけどなぁ。

「了解!じゃあ後でねっ」

私は席へ向かう。
すると鞄を置いた美嘉と椿がすぐに私の元へてやって来た。

「いやーモテるねー」

「ねー。あれだけ美形だったらそりゃモテちゃうよねー」

美嘉と椿は目を点にする。
2人の反応に私も目が点になって「何?」と聞き返した。

「おモテになるのは越さんの事です……」

え、私……?
モ、モテ……って……。

「何言ってんの。私告白すらされた事ないのに。」

⏰:08/03/23 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#45 [我輩は匿名である]
美嘉と椿はため息を吐く。と、美嘉は私の肩に手を置いて考え深く頷く。

「いい……それでこそ越だ」

「いやだから何が」

その後も聞いても、2人も笑顔で交して、何も教えてくれなかった。

そういえば……もし仕事が長引いてしまえば柴が拗ねる。

でも苺がいるからいいかなぁ……。

実は苺の保育園には柴が迎えに行ってるのだ。
その前まで送迎バスだったけど、迎えに来てくれるという事で、苺もすごく喜んでいる。だから誰よりも早く柴になついた。

⏰:08/03/23 02:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#46 [我輩は匿名である]
苺の遊び相手になってれば、時間なんて忘れてしまうだろう。

連絡しようか迷いながら開いていた携帯を閉めて、またポケットへ戻す。

柴が来てから、家がより明るくなったなぁ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

結局休み時間だけでは間に合わず、放課後に作業が延びてしまった。

今やってる作業は、体育大会の保護者向けパンフレット。

折れ線に従ってただ折るだけ。

こんなの先生か機械かに任せてやって欲しいものだ。
なんでよりにもよって生徒、しかも学級委員がやるかなぁ……。

⏰:08/03/23 02:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#47 [我輩は匿名である]
「終わらないね。そういえば立川君部活大丈夫?」

立川君は剣道部の主将で大会でよく優勝してる強い人なのだ。
そんな人が、ほのぼのと(かどうかは分からないけど)パンフレットを作ってていいんだろうか。

「部活より学校行事の方を優先するよう顧問の先生から言われてますから。大丈夫ですよ」

薄く笑う立川君。
美男子の笑いはやっぱり綺麗だと思う。

こんなのを見て、女の子達は卒倒したり悶えたりするんだろうなぁ……。私にはイマイチ理解出来ないけど……。

と、その時携帯のバイブが鳴った。

⏰:08/03/23 02:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#48 [向日葵]
開いてみたい所だけど、先生が見回りみたいに来たら大変だから放っておく。

「携帯、出なくていいんですか?」

「大丈夫大丈夫。すぐに終わると思うしっ」

そう言いながら、携帯は鳴り続ける。
どうやら電話らしい。

「あの……やっぱり出た方が……」

「……や、大、丈夫、だと……」

と気まずくなる私の心配をよそに、携帯はようやく鳴り終わった。

なんとなくホッとする。

「本当に良かったんですか?」

「いいのいいのっ。さぁ!早く終らせてしまお!」

⏰:08/03/23 02:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#49 [向日葵]
頑張ってやったた甲斐あって、その後20分程やると全て終わった。

「お疲れっしたー!立川君部活行って大丈夫だよ」

「え、でもこれ職員室に……」

「だって立川君、本当は早く部活行きたいんでしょ?ならいいって!」

申し訳なさそうに私にお礼を言うと、鞄を持ってドアの所まで足を運ぶ。

「神田さんは良い人ですね」

「え?そんな事ないよー」

誉められるとやっぱり嬉しい。私はでへへと笑いながら頭をかいた。

「そんな所も、俺は好きですよ」

⏰:08/03/23 02:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#50 [向日葵]
それだけ言って立川君は早々と行ってしまった。

え……好き……?
い、いっやー美男子にそんな事言われちゃったら……照れるなぁー!

立川君!私も君が好きだよ!
ってかクラスみーんな大好きだぁ!

好意をもたれる事は嬉しいのでルンルン気分で職員室にパンフレットを運び、鼻歌なんか歌いながら下駄箱へ向かった。

さぁて、今日の晩御飯何しよっかなー。

「あ、おねーちゃぁん!」

「へ?」

⏰:08/03/23 03:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#51 [向日葵]
前方を見れば、門の所からパタパタと走って来る苺を発見。
そのまま私の足に抱きつく。

「おかえりぃー!」

「ただいまー!……って和んでる場合じゃない……。苺ぉ、どうしてここにいんの?」

苺を抱き上げながら校門を通り過ぎようとした時、横から声がした。

「一緒に来たからだよ」

そこにいたのは不機嫌丸出しの柴だった。
壁に背を預けて腕組みしてる。

⏰:08/03/23 03:03 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#52 [向日葵]
「柴ぁ!どうしたのこんなとこまで!」

「“どうしたの”……じゃなぁい!今何時だと思ってんの!?」

学校の時計を見ればもう5時だ。
どうやら柴が言いたいのは4時半に帰ると言いながら何故帰ってないのか!……と言う事だ。

「だって仕事があったんだもん。仕方ないでしょー?」

「しばちゃんね、ずーっとおねえちゃんまだかなーっていってたのぉ!」

柴は黙って私が抱き上げてた苺を自分が抱くと、スタスタ足早に帰宅方向へ歩いて行ってしまった。

私も急いで追いかける。

やっぱり連絡しておくんだったなー。

⏰:08/03/23 03:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#53 [向日葵]
「柴、ごめんね。すぐ終わると思って……」

謝ると、柴は足の速度を落とした。
少しホッとして、私は柴の横を歩く。
チラリと柴の顔を見れば、やっぱりまだどこか拗ねていた。

「電話だってしたのに……」

ボソリと文句を言う柴。

「うんごめんね。でもね柴、校則じゃ携帯は禁止されてるから簡単には出せないの。柴も高校時代があったなら分かってくれるよね?」

軽くため息をつきながら、柴は小さく「うん」と言った。
柴は言えば分かってくれる素直さを持っているから嬉しい。

⏰:08/03/23 03:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#54 [向日葵]
たまにワガママの度が過ぎてる時もあるけど……。

それでも不服そうな彼は、眉を寄せて灰色の目を細める。

そういえば……。

「柴の瞳はなんで灰色なの?両親どちらか外国の人?」

少しずり落ちた苺を抱え直しながら柴は「いや」と答えた。

「おばあちゃんがそうなんだ。だからクォーター」

「へーカッコイイねー。どこの国?」

「知らない」

うんそんな予感した……。

⏰:08/03/23 03:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#55 [向日葵]
柴はじっと私を見つめた。
私は笑顔で見つめ返す。

柴はまた軽くため息をつくと、いつの間にか寝てしまった苺を片手で抱いて、空いてる方の手を私の手に絡めた。

大きな柴の手は私の手をあっという間に包んでしまう。

「本当はもっと怒りたいけど……カッコイイって言ってくれたからいいや……」

そう言って柴は微笑む。

柴がそうやって微笑んでくれると私も嬉しい。
柴が私の近くで、過去に囚われず幸せを感じてくれてるのだと思うから……。

⏰:08/03/23 03:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#56 [向日葵]
フワフワした雰囲気で返っていると、後ろから私を呼ぶ声が。

「神田さん!」

振り向くと、自転車に乗った立川君が近づいてくる。

「立川君!どうして……」

「自転車の鍵、落としてたでしょう。だから届けに来ました。自転車ごと……」

そうなのだ。
実は帰る間際、自転車置き場に行こうと鞄のポケットに手を入れたけど、いつもある筈の鍵がなくて軽くパニックを起こしていた。

⏰:08/03/23 03:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#57 [向日葵]
どうしても見つからなかったから、諦めて徒歩で帰ろうと思ったのだ。
帰れない距離でもないし、少し遠いけどなんとかなると思って、自転車は置いてきたのだ。

「ありがとうー……!良かったよー鍵があってー」

すると立川君は手を繋いでいる柴に目線を動かした。

「こちらは……」

「ああ、うちで住んで……」

「越言わなくていいから行こう」

柴は乱暴に私の手を引く。

⏰:08/03/23 23:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#58 [向日葵]
「あ、ちょっと待って柴!」

柴の手を振り払って、立川君が乗って来てくれた私の自転車を受け取る。

籠に鞄を入れて、私はもう1度立川君にお礼を言った。

「本当にありがとう。部活頑張ってね。また明日」

「いえ……また明日」

立川君は私に微笑んでからまた柴をチラリと見て走って行ってしまった。

私もチラリと柴を見ると、せっかく治りかけていた柴の機嫌がまたもとに戻って悪くなっていた。

あちゃー……と内心頭を抱える。

自転車を押しながら、また帰りだす。

「さっきの奴……誰」

⏰:08/03/23 23:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#59 [向日葵]
「同じクラスの子だよ。学級委員一緒にやっててね」
「知らない奴に俺の事ペラペラ喋るのやめてよ。俺は今の家と…………越が知ってくれてたら、それでいい……」

「柴……」

それじゃ柴の世界が狭くなってしまわないだろうか……。
もっと色んな事を知ったり、色んな人に自分を受け入れてもらった方が、きっと柴の幸せに繋がると思うのに……。

でも、柴が自分でそう言うようになってからでいいのかもしれない。
柴にとって、今他人と触れ合うのは少し怖いかもしれないから……。

⏰:08/03/23 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#60 [向日葵]
「うん……ごめんね柴……」

柴は視線だけで私を見ると、少しうつむいた。
そしてクスリと笑う。

「なんか、今日越謝ってばっかりだね。」

それは柴のせいじゃん……。

「でも越に謝られるって……なんかグッとくるなー」
柴って……ドS……?

柴の新たなる人格(?)が分かったと思いながら、夕暮れ時の街を歩いて帰った。

家に帰ると、空と桜がもう帰っていた。

「お姉ちゃんお帰りー。遅かったね」

「あ、柴!早く昨日のゲームの続きやろうよ!」

空に引っ張られるので、柴は苺を私に渡して空と2階へ行ってしまった。

⏰:08/03/23 23:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#61 [向日葵]
桜はエプロンしているから、遅くなった私の代わりに晩御飯を作ってくれてたらしい。

私も着替えを済ませると、桜の手伝いをする為エプロンをつける。

「ごめんね遅くなって」

「いいよこれくらい。あたしもたまたま早かったから。今日はカレーとサラダだよ」

カレーに入れる野菜を炒めてる横で、私はサラダにするキュウリを刻む。

「でも今日なんで柴も一緒だったの?」

桜が聞いて来たので、柴が私をわざわざ迎えに来た経緯を話した。

⏰:08/03/23 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#62 [向日葵]
話し終えた時、桜はなんとも言えない顔をしていた。

「お姉ちゃん……やるね」

「え?キュウリの輪切り?そりゃ桜よりは慣れて」

「あー違う違う違う……。……てかお姉ちゃん、分からないの?」

「何が」

この時桜が「鈍感だとは思ってたけどここまで鈍感てはっ!」と心の中で衝撃を受けていたなんて私は知らない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「たっだいまぁぁ!」

⏰:08/03/23 23:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#63 [向日葵]
皆でカレーを食べてる時、陽気なお母さんの声がした。

こういう声の時は100%酔ってる……。
でもそこまで酔うって事は、何か嫌な事があったのかもしれない。

そうでなければ7時半と言う酔うには早い時間にここまでベロベロにはならないだろう。

私達が食事をしているリビングに、お母さんを抱き上げているお父さんが顔を出した。

「ごめんね皆。お母さんこのまま寝かしてくるから気にせず食べてて」

「ハーイ」

お父さん達が部屋に行ったと同時に柴が呟いた。

「祐子さんのキャラ濃すぎて一朗さんが薄く見える……」

⏰:08/03/23 23:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#64 [向日葵]
因みに祐子(ユウコ)とはお母さん、一朗(イチロウ)とはお父さんの事である。

元気で男っぽいお母さんとは違い、お父さんは優しくてもの静かな。

2人のなれそめを聞けば、やっぱりと言うか告白したのはお母さんかららしい。

「越姉、明日お粥作った方がいいかもよ。また母さん気分悪いとか言いそうだし。」

空の忠告に、素直に私は頷く。

「おかあさんだいじょうぶー?」

「大丈夫よ苺。母さん強いから」

苺が心配しているのを、桜がなだめる。
やっぱり小さい子って、雰囲気とかを敏感に感じとっちゃうのかなー……。

⏰:08/03/24 00:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#65 [向日葵]
>>64

※訂正※

×もの静かな

○もの静かだ

⏰:08/03/24 00:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#66 [向日葵]
「あ、そういえば桜。お姉ちゃん明日から遅くなるかも」

「もーすぐ体育祭だもんね。練習とか?」

「うん。あと応援グッズとかね」

「え、また越遅くなんの?」

途中で柴が割り込んできた。

眉を寄せて納得いかないような顔をしている。

「ご、ごめんね柴……」

「柴ワガママ言うなよな!越姉だってやらなきゃいけないことあんだからさ」

⏰:08/03/26 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#67 [向日葵]
22歳が10歳に怒られるってどうなの……。

柴はムーッとしながらも小さい声で「分かってる」と言った。

全然分かってなさそうだけど……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宿題をしている時、私の部屋を誰かがノックした。

音楽を聞きながらやっていたので、イヤホンを耳から外してドアを開ける。

そこにいたのは苺だった。

「おねーちゃぁん……」

「どうしたの苺。寝たんじゃなかったの?」

⏰:08/03/26 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#68 [向日葵]
いつも一緒に寝ているパンダのぬいぐるみを小さな手で抱えて、目をこする苺は少し泣きそうだった。

どうやらぐずってるみたい。

抱き上げて、背中をトントン優しく叩いてやる。

「こわいゆめ見そうなの……。きょうおねちゃんとねていい?」

「お姉ちゃん宿題あるから電気つけてるよ?苺電気ついてたら寝れないでしょう?」

それでも苺は一緒に寝たいのか、私の腕の中で「んー……」と体を少しよじりながら唸る。

⏰:08/03/26 00:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#69 [向日葵]
困ったなー……どうしよ。
桜と空はもう寝てるし……。

「何してんの」

お風呂あがりの柴が、タオルを頭に被せたままやって来た。

最終的に私に拭いてもらう予定だったのか、髪の毛からはいくつか雫がポタポタと落ちていた。

柴は私と苺を交互に見てから苺に手を伸ばした。
そして私がやったようにあやす。

「苺ー。大丈夫。怖い夢は見ないよ。」

⏰:08/03/26 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#70 [向日葵]
「ほんと?しばちゃん」

「俺が寝るまで一緒にいてあげたら絶対ね」

苺は柴の腕の中でしばらく考えると、私の方を見て「おやすみなさい」と言った。

それから柴と一緒に部屋へ行った。

私はそのままドア近くでぼんやりと壁にもたれながらいた。

苺がぐずるのは今日みたいにお母さんが酔っ払って帰って来た日のみ。

お母さんの身にまとってる雰囲気が違っているのに小さいながら戸惑っているみたい。

⏰:08/03/26 00:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#71 [向日葵]
さっきも言ったけれどお母さんが酔っ払うのには理由があった。

1つは仕事。
上司が気持ち悪いくせに偉そうだとか、お客さんが理不尽な事注文してくるとか。

2つめは……家族の事。
やっぱり、私達のような家族は陰口をされる事が少なくない。

血が繋がってないのがそんなに駄目なのかな……。

「越?」

ハッとして目線を上げれば、目の前に柴がいつの間にかいた。

「あ……苺ありがとう。」

「ぼんやりして……どうしたの?」

⏰:08/03/26 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#72 [向日葵]
心配そうな灰色の瞳に見つめられて、不思議とホッとした。

「なぁんでも。ありがとう柴」

「そう?」

ホッとしても、胸の中のモヤモヤは簡単には取れない。だから宿題する気にはなれない私は、柴と喋る事にした。

「苺すぐ寝たんだね。」

「部屋のドア開ける頃にはもううとうとしてたから。」

「そっか……。でも今日はおまじない効かなかったなー……」

⏰:08/03/26 01:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#73 [向日葵]
“おまじない”が何か知らない柴は首を傾げる。

私はフッと笑って“おまじない”が何かを教えてあげた。

「さっきみたいに眠れない時はね、力一杯ギューッて抱き締めてあげるの。そしたら安心して寝れるっておまじない」

「ふーん……」

柴はまだボタボタの頭のまま部屋に入り、私のベッドに座ると自分で頭を拭きだした。

居座る気なのか、その内出て行くのか分からないので、私はとりあえずドアを閉めた。

⏰:08/03/27 00:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#74 [向日葵]
頭を切り換えて、また宿題を再開しようと机に向かう途中に柴が喋り出した。

「越は?」

「え?」

「おまじない。しなくていいの?」

タオルと濡れた髪の毛の隙間から、灰色の瞳が覗く。

私はそれを見つめ返した。

驚いた。
そんな事を言われたのは初めてで、今まで私はおまじないを実行する立場であって、してもらう事はなかったから……。

⏰:08/03/27 00:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#75 [向日葵]
その不思議な目が、私の中の何かを見透かしている気がして、不自然に心臓が動いた。

「何で、そう思ったの?」

「……何か、辛そうな感じがしたから」

柴はどちらかと言えば子供みたいで、心はとても純粋だと思う。

だから苺みたいに、私の雰囲気の違いに鋭く気付いたのかもしれない。

沈黙が流れた。

私は何も答えられないまま、何かを導き出そうとしている柴の目を見つめた。

⏰:08/03/27 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#76 [向日葵]
「大丈夫っ。私がしっかりさなきゃ、皆暗くなっちゃうし!私は元気だよ柴!」

言い終えると同時に、柴が私の手を引いた。
そして立ち上がる。

拭ききれてないのか、柴の髪の毛から滴る水滴が顔にかかって片目を瞑った。
その水滴を、柴の指先が拭う。

「おまじない、しなよ」

「柴人の話聞いてた?」

「うん。越は甘えたいんだなって思ったんだけど?」

呆然として、瞬きを繰り返す。

⏰:08/03/27 00:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#77 [向日葵]
どうして本質的なものを簡単にとらえてくれるのだろう。

でも……甘えるだなんて、あまりした事がない私はわからなかった。

「い、いいよ柴!私は大丈夫って言ってるじゃない!」

「じゃあさせて」

「へ?」

許可を出す前に柴の腕が私を包んだ。

まだ熱りが収まってないその体は暖かくて、心地よかった。

柴は分かってくれたんだ。
私が自分から頼む事が出来ない事。
だから柴自ら、いつもみたいに抱きついてくれたんだ。

⏰:08/03/27 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#78 [向日葵]
「越。俺ならいいよ」

「何が?」

「甘えるの。いつも越は俺に甘えさせてくれてるでしょ」

柴って不思議だなー……。

無邪気で純粋で甘えん坊で……。なのにスルスル気持ちを引き出してしまう。


多くは語らないのに、ちゃんと何が言いたいか、何をして欲しいかを分かってくれる。

その安らかにさせてくれる柴の温もりが、私の心の中に残っていたモヤモヤを取り除いてくれる。

⏰:08/03/27 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#79 [向日葵]
しばらくすると、柴は腕をほどいて「おやすみ」と出て行った。

私の体は、柴の体温でまだ温かい。

柴が出て行ったドアを見つめながら私は微笑む。

子犬のように、癒しをくれる柴。
その不思議な力に魅了されていくなんて、この頃の私はまだ知らなかった……。

⏰:08/03/27 00:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#80 [向日葵]
―2日目―

柴のワガママってどうにかならないのかなー。いい加減にしないとお姉ちゃん怒ると思うんだよね。気をつけた方がいいよー。お姉ちゃん怒るとこっわいんだからーっ!
(神田家・次女・桜談)





「しぃぃばぁぁっ!!」

桜が叫んだので、びっくりしてせっかく作った唐揚げを落としてしまいそうになった。

珍しく早く家に帰れた私は、普段通り晩御飯の用意をしていた。

⏰:08/03/27 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#81 [向日葵]
何事かと台所から顔を出せば、目をつり上げた桜と、そんな桜に動じずにソファーでゆったりと寝転んでる柴。

桜の手には、何やら袋が持たれていた。

「ここに置いてたクッキー、勝手に食べたでしょ!」

「うん。それが何?」

「調理実習で作って皆で食べたかったのに!アンタだけ食べちゃダメじゃんかぁっ!!」

あちゃー……。それはダメだよ柴。

晩御飯の用意している手を一旦止めて、仲介役で私は2人の間に入る。

⏰:08/03/27 01:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#82 [向日葵]
「まぁまぁ桜、クッキーならまた一緒に作ろう。柴も、人の物勝手に食べたりしちゃダメでしょ?」

「だってお腹減ってたんだもん」

「だからって了承もせずに食べるな!」

桜と柴は少し相性が悪いのか、よくケンカしている。

桜は気が強いからケンカしだしたら止まらない。
私はいつも2人のやりとりをハラハラしながら見ている。
柴の態度が態度だから桜の怒りが更にアップ。
正に火に油。

ケンカする程なんとやらだけど……。
これはどちらかと言うと犬猿の中だね。

桜には悪いけど桜は猿だな……。

⏰:08/03/27 01:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#83 [向日葵]
「お姉ちゃん!もっと柴叱ってよ!柴は勝手すぎるしワガママすぎる!!そしてお姉ちゃんは柴に甘すぎる!!」

痛い事言うなー桜ちゃん……。
柴を甘やかし過ぎたと思った事は無いけど……。
とりあえず注意はしなきゃね。

私は柴の前まで来ると、彼を座らせて目線を合わせた。

「いい?柴。人の物は許可なく好きにしてはダメなの。柴だって大事な何かを誰かに勝手に触られたりしたら嫌でしょ?」

「俺の大事な物はいつも触られっぱなしだけどね。許可なく。」

⏰:08/03/27 01:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#84 [向日葵]
「柴の大事な物はなに?」

聞けば柴は指差した。
指差した方向は私。
思わず笑ってしまった。

「アハハハ!柴、それは嬉しいけど私は人だよ。私が言ってるのはもーの!」

すると柴は不機嫌な顔をして口を尖らせてまた寝転んでしまった。

ソファーの後ろでは桜がそっぽを向きながら口を手でおさえてプルプルしていた。

「え?え?柴?桜、どうして笑ってるの?」

「柴、これが天罰よ。これに懲りたらもうしないでよね」

⏰:08/03/27 01:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#85 [向日葵]
「そんなの俺の自由だし」

「アンタねー!!」

柴の機嫌も、何故か悪くなってしまったので、桜と柴のケンカは暫くおさまりそうにはなかった……。

――――――……

「そー……しんっとぉ!」

前の事もあって、遅くなる日には柴にメールを入れる事にした。

学校は体育祭の準備で慌ただしく、特に私の役職である学級委員は大変だった。

⏰:08/03/27 23:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#86 [向日葵]
実行委員と打ち合わせたり、足りなくなったペンキとか、その他諸々の調達をしなくちゃならなくて、学級の中を駆けずり回っていた。

柴は私との時間が減った!とか言うし、桜は柴がまた何かやらかしたと怒るし……。
学級と家で私は手が一杯になっていた。

「神田さん。大丈夫ですか?」

「あ、立川君。大丈夫だよ。平気平気!」

「何かあれば、頼って下さいね」

それだけ言うと、立川君を呼んだクラスメイトの所へと行ってしまった。

⏰:08/03/28 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#87 [向日葵]
やっさしいなー立川君……。私はその一言でまた頑張れるよ!ありがとうー!!

「気を付けなよー」

「わ!美嘉!」

いきなりニュッと現れた美嘉に驚いて、私は文字どおり飛び上がってしまった。
その後ろに控えめに椿がいる。

「気を付けるって……何を?」

「どんっっかんな越でも分かってる通り」

そんな力込めて言わなくても……。
ってか私鈍感なの?

⏰:08/03/28 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#88 [向日葵]
「立川って人気じゃん?だから越は仲良いし、目つけられるかもよっつってんの」

「あーそっか。なるべく気を付けるよ。でも学級委員だから喋ったりするのは仕方ないんだけどなー」

「中には、情熱的な方もいらっしゃいますから……気にくわない方も多くいるんですよ……」

うーん。
私って立川君を好きな子からしたら邪魔なのかー。
それは申し訳ないなー。

「越ちゃーん!赤のカラーテープ無くなっちゃったー!」

⏰:08/03/28 00:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#89 [向日葵]
クラスメイトの要望を聞いて、美嘉達に「後でね」と言うと、私は教室を出た。

「えーと……」

カラーテープの青と赤、ペンキの緑、ゴミ袋、それからー……。

色々考えながら歩いてると、女の子に肩がぶつかった。

「あ、っと。ごめんなさい!」

謝ったと言うのに、少し化粧をしたギャルっぽい女の子は私をギッと睨んできた。

念のため、頭を少し下げてから私はその場を去ろうとした。

「拾いもんばっかの家族のくせに……でしゃばんじゃねーよ」

⏰:08/03/28 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#90 [向日葵]
確かに、そう聞こえた。
大した音量で言った訳じゃなかったけど、聞こえた。

止まってしまいそうな足を動かして、なんとか歩き出す。

あれは……多分立川君を好きな子なんだろうなぁ……。

歩きながら深呼吸して、なんとか気分を変える。

大丈夫。
そんなの言われ慣れてる。
いくらでも言えば良い。

馬鹿にされても、自分は柴も含めてあの家族に誇りを持ってるんだから。

⏰:08/03/28 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#91 [向日葵]
思い直して、私は胸を張って歩く。

恥ずかしい事なんて、何もないんだから。

――――――…………

皆がパラパラと帰りだしてきた。
時刻は5時。さっきまで騒がしかった周りが、少しずつ静かになり始める。

教室で自分の分のポンポンを美嘉、椿と一緒に作っている。

私達のクラスはB組なので、体育祭のクラス色はオレンジ。
と言う事でオレンジのポンポンだ。

⏰:08/03/28 00:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#92 [向日葵]
「しっかし、体育祭って腕鳴るよねー!リレーめちゃくちゃ楽しみ!」

「美嘉はアンカーだよね」

美嘉は見た目通りスポーツ万能なので、各種目に引っ張りダコだった。
各種目のリーダーがじゃんけんした結果、100mリレーに出る事になった。

「美嘉ちゃんはいつも早かったですよね……。中学の頃は3人も抜きましたしね……」

「あれは爽快だったなぁぁ!後で他のクラスの連中が嘆いてたしね!」

美嘉は豪快にアッハッハッハと笑う。

⏰:08/03/28 00:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#93 [向日葵]
そんな中、私はぼんやりとしていた。

「……」

―拾いもん―

「ハァ……」

ひどいなぁ……別にそこまで言わなくていいじゃない。

思い直しても、やっぱり大きな塊が私の胸につっかえてるみたいで、さっきから息を何度も吐いてるけれど、すっきりする事は無かった。

私だって、皆が快適に作業出来るように動いてるだし、別に媚てるとかそんなの無いのになぁー……。

⏰:08/03/28 00:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#94 [向日葵]
「……つ。越っ」

「え……。あ、ゴメン、何?」

「作業5時半まででしょ?そろそろ帰らない?」

「あ、そだね。よしっ、かいさーん!」

辺りに散らばるゴミを拾って捨ててから変える支度。
誰もいないのを確認してから、教室を出た。

私は自転車があるので、椿のベンツで帰る美嘉と椿にバイバイと言った。

しかし……。

私はチラリと校門を見る。

⏰:08/03/28 00:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#95 [向日葵]
黒いベンツ。
さすが椿。お嬢様なだけあるなー……。

椿が近づいていけばSPみたいな人が出て来てガチャリとドアを開けているのが見えた。

あれかな……やっぱりああいう時って、「おかえりなさいお嬢様」とか言っちゃうのかな……。

うわー生執事言葉聞いてみたいなー!

とかくだらない事を考えながら自転車の鍵をガチャリと入れる。

早く帰って桜の手伝いしてやらないと、桜も大変だな。

⏰:08/03/28 00:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#96 [向日葵]
風を感じながら、自転車をこぐ。
秋に入る前とは言え、やっぱりまだ暑い。

涼しいなぁーとのんびりした気分で校門を出た時だった。

「越!」

「え?」

ブレーキをかけるのが遅くて、数m離れた所でキキーッと停止。

後ろを振り向けば

「柴ぁっ!」

柴はにこぉと笑うと、私の所へテクテクとやって来た。

⏰:08/03/28 00:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#97 [向日葵]
>>94

※訂正

×変える支度
○帰る支度

⏰:08/03/28 01:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#98 [向日葵]
柴が目の前で止まると同時に、私は自転車を降りた。
カサと音が聞こえたので下を見ると、柴の手にスーパーの袋が持たれていて、入りきらないネギがニョキリと出ていた。

「桜にパシられた」

おそらく昨日の仕返しだろう。

不服な顔をしながら私の前に袋を出す。
そんな柴が少し笑えた。

「で、帰りに越がいるかなって」

それで私が帰ってたらどうするつもりだったんだろう……。

⏰:08/03/30 00:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#99 [向日葵]
それでも待っていてくれた事が嬉しかった。

陰口なんて気にしていたらダメだ。
だって皆、私の家族は暖かい……。

柴と夕焼けでオレンジに染まる街を歩いた。
そんな街を見ているだけでも、胸に残って重たかった気持ちが薄れていった気がした。

――――――…………

そして次の日。

相変わらずザワザワと騒がしい学校。
ドタバタ走り回るっている人ばかりなので曲がり角の所でよく人が衝突事故を起こしそうになっていた。

⏰:08/03/30 00:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#100 [向日葵]
私は相変わらずポンポン作ったり、無くなった道具を補充したり……。

そして今も、ハサミが足りないと言う事で美術室へ物色しに来てたり……。

美術室は別棟なので、静かだった。
でもそのせいで石膏の人物像が不気味に感じる。

すばやく道具置きの場所からハサミを何個か持って早足でクラスへ戻る。

体育祭はあと何日だっけなー……。

自分の指を折りながら数えていると、トンと誰かにぶつかってしまった。

⏰:08/03/30 00:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#101 [向日葵]
「あ、ごめんな……」

と途中で止まってしまった。

何故ならぶつかった相手がまたもや昨日の陰口を言った女の子だったからだ。

女の子は眉間にしわを寄せて上から下までジロジロと見てくる。

大丈夫。
今日は立川君とそんなに喋ってないし、因縁つけられる事もないと……思いたい。

変な汗が額に滲んできたところで、女の子が喋った。

「アンタさ、前も向いて歩けないの?」

「えと……ゴメンネ、ちょっと考え事してて」

⏰:08/03/30 01:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#102 [向日葵]
女の子はまた私をジロジロ見出した。

行き交う生徒は私達の事なんか一切気にしない。

どちらかと言えば、今は気にして欲しい気もするんだけど。
この気まずい空気から早く解放してほしい。

女の子は私を一通り観察し終わると、にっこり笑った。

それにホッとした私も笑い返そうとした。

――――その時だった。

「また捨てられたの?」

「……え」

⏰:08/03/30 02:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#103 [向日葵]
頭の中で、同じ言葉が鳴り響く。
めまいさえ起きそうだ。

「やっぱり拾いもんは出来が悪いから、すぐにポイッてされるんでしょ?可哀想に」

全然可哀想だなんて思ってない口調に表情。

その私をを見る姿を一言で言えば……嘲笑。

胸の奥が熱くなってくる気がした。
知らずの内に、スカートを握り締めて、歯を食い縛る。

膝に力を入れておかないと、崩れて……ううん、何かしてしまいそう……。

⏰:08/03/30 02:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#104 [向日葵]
「やめて……」

「え?」

私は何を言われても良い……。
でも。

「私の家族を馬鹿にしないで。拾いもんだろうがなんだろうが貴方には関係無い。立川君を好きなら、私につっかかってないで言えばいいじゃない。」

毅然と言えた。
そう思った瞬間、左頬が熱くなって、目がチカチカしだした。

何が起こったか分からないまま、数回瞬きを繰り返して女の子を見た。

⏰:08/03/30 02:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#105 [向日葵]
女の子は目をつり上げて顔を赤くしていた。
その様子から見れば、私はその子にひっぱたかれたみたいだ。

さっきまで私達に気が付かなかった生徒が、それを合図に一気に私達に注目する。

「ゴミの分際で、いっちょまえな事言ってんじゃねぇよ」

ゴミ……。

「――……ですって……?」

叩かれた頬をさすりながら、女の子に聞き返す。

周りのざわめきが聞こえないのは、皆がヒヤヒヤして私達を見ているからだ。

⏰:08/03/30 02:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#106 [向日葵]
「ムカついたからって、言って良い事と悪い事があるでしょ?それに、手を上げたら負けって小さい頃言わなかった?」

「うるさいっ!」

更に頭に血を上らせた女の子は私に掴みかかってきた。
急な事態に動き遅れた私は、胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられた。
背中を強打して、心の中で「いったー!!」と叫ぶ。

周りが止めに入っても、彼女は私から手を離さなかった。

「上から物言うな!アンタなんかあたしらより格が下って分かんねぇのかよっ!」

⏰:08/03/30 02:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#107 [向日葵]
これじゃもう因縁と言うか八つ当たりと言うか、そんなもの関係ないからとりあえずコイツ絞めとこうみたいな感じだなー。

と冷静に考える反面、頭の肝心な糸が切れなくて良かったと思った。

そんな事を考えてる間にも、髪の毛を掴まれたり胸を叩かれたりやられっぱなしだった。

防御はしても攻撃はしなかった。
それで気が済むならいいかと思ったし。

でもそうはいかなかった。

「コラ!何やってんだっ!」

⏰:08/03/30 02:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#108 [向日葵]
先生が来てしまった……。

あ、ヤバイな……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

応接間みたいな所に私と女の子は案内された。

柔らかい黒革のソファーに座ると同時に、女の子は泣き始めた。

私は別に悪い事はしてないと、叩かれたり引っかかれたりした所をさする。

しばらくしてから、先生に連れられて、女の子のお母さんと、うちのお母さんがやって来た。

「ちょっと、どういう事ですか!?」

⏰:08/03/30 02:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#109 [向日葵]
女の子の派手なイメージとは全く逆の、教育ママみたいな眼鏡をしたお母さんは先生に詰め寄る。

一方うちのお母さんは私に駆け寄り、至る所にある私の体の傷を見て心配そうにハンカチを当てた。

どうやら血が出てた所があったみたい。

そしてもう1つ影が。

「なんで柴がいるの」

「越の話したら『俺も』って言うから……」

柴は大人しく私の後ろにぴったりとつく。

ようやく事情説明を聞き終えた教育ママさん風のおばさんはこちらに向き直りながら眼鏡をクイッと上げた。

⏰:08/03/30 02:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#110 [向日葵]
「失礼ですけど神田さん。貴方のご家族は皆様施設の子ですの?」

お母さんが答えた。

「それが何か?」

「まぁ……なら問題を起こして当たり前ですわね。よその子なんてもらうから手がつけられなくて野蛮な子になってしまうんですよ」

お母さんの応答する声が、1オクターブ低くなる。

「野蛮ですって?」

私も目を険しくさせた。
おばさんはそんな私達に有利に立ったつもりなのか、軽く胸を反らして見下すように私達を見る。

⏰:08/03/30 02:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#111 [向日葵]
「ええ。うちの玲奈ちゃんにこんな事させるなんて……最低じゃございません……?」

謝る気なんて一切ない。

自分の子供を贔屓に見すぎている。
明らかに被害を被ったのはこちらだし、ケンカを仕掛けたのはあちらだ。

私より遥かに堪忍袋の緒が短いお母さんは、ソファーを握りしめて怒鳴りそうになるのを堪えてた。

おばさんはそんな様子を知ってか知らずか、私達から視線を外し、私の後ろを見る。

「そちらも、お拾いになられたんですか?」

⏰:08/03/30 02:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#112 [向日葵]
柴の事だ。

「この子は、居候ですが……」

さっきより更に1オクターブ低い声でお母さんが答えた。

「あーやだやだ。そんなに集めてどうするおつもり?お子さんが今回のような事を毎回やられては困るんですよ?そんなのを増やし、外にやってもいいんでしょうか。……気に入りませんわ、わたくし。」

それ以上言わないで……。

「せいぜい監獄行きにならない事を祈りますわ。さぁ玲奈ちゃん、今日は帰りましょう」

⏰:08/03/30 02:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#113 [向日葵]
頭の中で、ブチンと勢いよく何かが弾ける音が聞こえた。

何の音だか分からないまま、私はゆらりと立ち上がる。

「待ちなさいよおばさん……。」

ドアに手をかけようとするおばさんがピクリと動き、また眼鏡を上げながらこちらを見る。

「おばさん?」

「貴方しかいないでしょ?……ねぇ、気に入らない事があったら何言ってもいいの?」

拾いもん、ゴミ、監獄行き……。
色々聞いてきたけどもう我慢ならない!!

⏰:08/03/30 02:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#114 [向日葵]
「拾いもんとかゴミとか人を人とも思ってない人がえっらそうな事を言うなっ!!アンタ達何様よ!?神様!?なら神々しく輝いてみなさいよ!大体ねぇ、お母さんは私達を大事に大事に育ててくれてる!少なくとも人の事を嘲るような目で見るようには育てない!」

それに……。

「柴の事、見ただけなのに何もかも分かったみたいに私の家族を悪く言うな!!こんの馬鹿親子っっ!!」

部屋に、私の声が反響する。
ワーンと耳の中で自分の声が響く。

先生も、女の子もおばさんも、お母さんも柴も、口をぽっかり開けたまま私を見つめていた。

⏰:08/03/30 03:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#115 [向日葵]
握り拳で息をゼーハー繰り返している事に気付いた私は、ハタッと我にかえる。

そして皆をみれば、今自分がした事に一気に血の気が引いた。

「あ……えと……だ、だから、あまり悪口は言わないで下さいって事です……」

私がそろそろ座ると同時に、お母さんが豪快に笑った。

その声に皆ハッとして、瞬きを繰り返した。

「とりあえず、和解って事でよろしいかな?奥さん」

⏰:08/03/30 03:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#116 [向日葵]
「な、なんて……人なの……。もう帰らせて頂きます!」

そそくさと、おばさん達は出て行って、その後を先生が追って行った。

横でお母さんがソファーにゆったりと座り、足を組んでポケットからタバコを取り出した。

そんな一連の動作を見ていた私に気付いたお母さんは、ニカッと笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれた。

「ありがとう。家族の為に怒ってくれて。」

「そんな、私……」

戸惑う私を、お母さんは抱き締めてくれた。

⏰:08/03/30 03:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#117 [向日葵]
「アンタ達の事よその子だなんて思った事はないよ。皆あたしとお父さんとのだーいじな子供」

お母さんは柴の方を向いて優しく微笑む。

「柴、アンタもおんなじようなもんなんだからね」

そんなお母さんに、私は泣いてしまった。

どうして誰も分かってくれないんだろう。

血が繋ってないからって嘆く事が無いくらいお母さんやお父さんは私達を大切に育ててくれた。

なのに何故、ダメなんだろう……。

⏰:08/03/30 03:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#118 [向日葵]
しゃっくりをしながら泣く私をあやすように頭を撫でてくれるお母さん。
服にタバコの匂いがついてて、お母さんらしい。

くやしい。
歯がゆい。

どうすれば伝わるんだろう。

幸せだよって、伝わるんだろう……。

――――――……

お母さんと柴は帰り、先生から事情をまた聞かれた。

1から10まで真実を話し、その場にいた人を連れて来てまでのちょっとした大事になってしまった。

⏰:08/03/30 03:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#119 [向日葵]
幸い、クラスの方は立川君がしっかりと指示してくれてたおかげで問題なかったらしい。

クラスの皆に侘びれば、快く許してくれた。

1人だけ作業が遅れたので、放課後引き続きポンポン作りと、紙で花を作る。

気づけば5時を回っていた。

「フゥ……」

軽くため息をして、イスの背もたれに身を預ける。

明日は迷惑かけないようにしなきゃなぁ……。
クラスにも、お母さんにも……。

⏰:08/03/30 03:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#120 [向日葵]
こんなだから、私がしっかりしないから、今日みたいな事があるんだ……。

ため息をついて、少しぼんやりした後、戸締まりをして帰る支度を始めた。

自転車の鍵を片手に校舎を後にして、いつものように家路を急いだ。

暗い気分を自転車で走ってる間に消し去ろうと決意して、顔を上げると、校門に誰かいた。

その誰かも、こちらに気付いた。

「やっど出てきた」

「柴……っ!今まで待ってたの!?」

長時間待っていただろう柴だけれど、別に気にした風もなく私に近づく。

⏰:08/03/31 02:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#121 [向日葵]
そんな柴を見て、今日の出来事を思い出せば、柴に嫌な思いをさせた事で罪悪感いっぱいになった。

「柴……今日は、ごめんね……」

「ううん。越が謝る事なんてないよ。それに、嬉しかった」

「え……」

柴はにっこり笑うと、私の頭に手を乗せてくしゃくしゃ撫でてくれた。

灰色の瞳が、夕焼けのオレンジと混ざって変わった、だけどいつも以上に温かな色になっている事に気づく。

⏰:08/03/31 02:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#122 [向日葵]
「越が俺の為に怒ってくれて、嬉しかった。だって今までの生活は、俺の為に怒ってくれる人なんていなかったから……」

「柴……」

「ありがとう、越」

自転車を手放して、柴の胸に抱きついた。

支えて持っていた自転車が、大きな音を立てて地面に倒れる。
でもそんな事気にならなかった。

家族じゃなかった柴に、少しでも私の家族の事を分かってもらって、それで幸せになってくれたなら私も嬉しい。

⏰:08/03/31 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#123 [向日葵]
少しでも、自分が力になれた事が嬉しい。

とても、抱きつきたくなったのだ……。

柴は少し驚いたけど、肩を優しく抱いてくれた。

それから2ケツをして帰った。
もちろん柴がこいでくれた。

「越」

「ん?」

「越のキレた顔って怖いね」

「うるさいっ!」

なぁんて言葉を楽しく交しながら、大好きな家族が待つ家へと帰って行った。

⏰:08/03/31 02:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#124 [向日葵]
>>120

※訂正

×やっど出てきた
○やっと出てきた

⏰:08/03/31 02:59 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#125 [向日葵]
―*3日目*―

越姉って本当に鈍感。
小4の俺でも分かるのに、いつになったら柴の気持ち分かるんだろうなー。

(神田家・長男・空談)






今日は待ちに待った体育祭!クラス別の色のハチマキを頭に巻いて、靴紐をしっかり結んだ所で開始のアナウンス、そして空砲。

オレンジの絵が描かれたクラス旗を掲げて、皆で行進。

⏰:08/04/01 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#126 [向日葵]
日焼け止めを塗らなければならない程の太陽。
でもそれすらも胸をワクワクさせる。

プログラムのラジオ体操から始めまれば、それから先は戦いの始まりだ。

「あー!体がウズウズするー!」

誰よりもこの日を待ち望んでいた美嘉は、両拳を上げて叫ぶ。
側では日傘をさした椿が微笑んでいた。

まずは1年生からの種目なので、首にタオルを巻いて作ったポンポン、その他応援グッズを持って準備万端。

⏰:08/04/01 00:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#127 [向日葵]
体育祭は縦割り、つまり1年、2年、3年のB組が1つのチームとなっている為、応援はかかせない。

「ハイ、皆声出して行くよー!」

私が声を上げると、皆も「オー!!」と元気よく返してくれた。

そういえば、と、保護者が集まっている場所を見る。

お母さん達が見に来るとか言ってたけど、いつ来るのかは聞いてない。

柴も多分来るだろうけど……。

私は空を見上げた。

⏰:08/04/01 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#128 [向日葵]
病弱そうな柴は、この直射日光に堪えれるのだろうか……と不安になる。
ずっと外にいたら溶けてしまいそうな気さえする。

「越、どうかした?」

袖を捲って、日焼けなんか関係ないと言う風な美嘉が空を見上げたまま固まった私に問いてきた。

「ううん、なんでも」

パァン!と乾いた音が響いたかと思えば、リレーが始まった。

周りは一気に騒がしくなって、グラウンドの熱気は更に高まっていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うー……緊張してきたなー……。

⏰:08/04/01 00:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#129 [向日葵]
いくつかの種目を終え、2年生のリレーが始まろうとしていた。

実は私、3番目にリレーを走る事になっていた。

頭の中で、何度も走るシミュレーションを繰り返す。

足がちゃんと動いてくれるか心配だなぁ……。

「えっつ!体ガチガチ!」

アンカーの美嘉が肩をポンと叩いてきた。

「越足早いんだから何も心配ないでしょ?」

「美嘉には負けるけどね」

⏰:08/04/01 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#130 [向日葵]
でもウジウジしてはいられないと、自分の顔をパンッ!と叩いて一喝し、深呼吸する。

<選手、入場!>

アナウンスが流れたので、私達は走り出した。

場所に着けば、第1走者の準備が始まる。
汗が一筋顎へと流れる……。

銃声が鳴り響けば、一斉に走り出した。
今は2位キープ。

手を握り合わせて頑張れと祈る。

しかし2走者目に事件が。

転んでしまったのだ。

⏰:08/04/01 00:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#131 [向日葵]
次の走者の私は焦った。

今は9クラス中6位。
巻き返せるか心配だ。

走る位置についても、他のクラスの子達はドンドン行ってしまった。

「越ちゃん……っ!ごめんね!!」

転んだ子が私にバトンを渡した。
緊張が体を硬直させる。

……その時。

「おねーちゃぁん!頑張ってぇ!」

ん?苺?

走りながら、探せば、お母さんに抱き上げられた苺、桜、空、柴がいた。

⏰:08/04/01 00:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#132 [向日葵]
「お姉ちゃんいけー!」

「越姉!しっかり!」

皆恥ずかしいくらい叫ぶ中、柴は静かに、だけど面白そうに笑っていた。

ありがとう皆……お姉ちゃん、頑張ります!!

一気にやる気が出た私は、先に走る人をめがけて走り出した。

1人、2人、3人……4人……!

5人目抜けそうな所で、次の子にバトンを渡した。

息が上手く出来なくて苦しい。

⏰:08/04/01 01:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#133 [向日葵]
「越ナイスファイトー!」

「ま、前の人と……あまり差が無かったのが救いだったよ……」

襟元を持ってパタパタ仰ぐ。
ドッと汗が出てきて、何度も袖で拭いた。

しばらくして、美嘉にバトンが渡った。

しかしさすが美嘉。

1位との距離をグングン縮めて、ラストは逆転勝利。

ゴールテープを切ったと同時に、美嘉の「よっしゃー!」と言う声が聞こえた。

⏰:08/04/01 01:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#134 [向日葵]
席に帰れば、皆からの祝福が待っていた。

「おかえりー!」

「お疲れ!超すごかったよ!」

「ってか神田早すぎっ。何人抜くのかと思ったっつーの!」

「アハハ、ありがとう!」

タオルで汗を拭きながら、蒸発していった水分を補う為お茶を飲む。

だけど……自分でも驚いた。あんなに走れたんだ私……。

「越、美嘉炭酸飲みたいから自販機行くけど行かない?」

⏰:08/04/01 01:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#135 [向日葵]
「あ、行く行く」

体育祭、と言っても、皆が皆やる気な訳じゃない。

自販機に行くまでに、木陰でサボったりしている人を何人も見かけた。

でまこんな人達に限って、負けたら人一倍文句言うんだよなー……とか思いながら、サイダーのボタンをポチッと押す。

「おねーちゃぁん!」

膝に衝撃。
思わず膝カックン状態になったせいで、サイダーが入ったカップを落としそうになってしまった。

振り向けば、足元に苺がいた。

⏰:08/04/01 01:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#136 [向日葵]
「い、苺ぉー……」

「おねえちゃんはやかった!すごいすごぉい!」

太陽から守る為に被ってる麦藁帽子の下で苺はニヒッと笑う。

その後ろから空、桜、柴、お母さんがやって来た。

神田家勢ぞろいに、美嘉は「すげー」と面白そうに呟く。

サイダーを一気飲みすると、喉がシュワシュワして痛かった。

「お姉ちゃん早すぎ!見てて気持ちよかったけど」

「越姉って見掛けによらず足早いよなー」

⏰:08/04/03 01:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#137 [向日葵]
少し生意気な口を聞く空の口を軽くひねってから柴を見た。

柴は空の言った事に納得してる様子。

私ってそんなに足遅く見える……?

「いやーお母さんも若い頃は早かったよ。逃げるのに関しては」

逃げるのって……お母さん何にから逃げてたの……?

それについて何か言いかける柴の開けかけた口を頭と顎を持って急いで閉めた。

「あのね柴、苺とかいるんだからあんまり教育上悪い発言しないでちょうだいっ」

⏰:08/04/03 01:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#138 [向日葵]
こそっと柴に耳打ちすると、視線だけを動かして不服そうに私を睨んだ。
顎を持っていた私の手をはがすと、一応気を使ったのか、私と同じように声を小さくした。

「でもどう見たって祐子さんはヤンキー上がりでしょ……」

茶色の髪、少し薄目の眉毛、口はいつもくわえタバコ(今は学校だから吸ってないけど)、お酒大好き人間。

確かに見た目とか、中身とかはそんな感じだけど、お母さんの詳しい事はあんまり聞いた事がない。

お母さんは見た目こそ派手だけど、ノリがいいしサバサバしてるからあまり恨まれたりする事はない。

⏰:08/04/03 01:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#139 [向日葵]
私は柴の両頬を軽くつねった。

「柴の言い方はあんまり良い風には聞こえないよ。謝りなさい」

「……ごめん……」

やっぱり不服そうな顔をするから、少しその顔に笑ってしまった。

「越は本当、家族が好きだね」

「もちろん!自慢だもんっ!」

「……俺は?」

拗ねた口調で言うから、私は柴の頭をくしゃくしゃ撫でてやって、微笑む。

⏰:08/04/03 01:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#140 [向日葵]
「柴も家族じゃん!」

すると美嘉が呼んだので、私は「また後で」と言ってから私は席に帰って行った。

******************

変わってこちらは越が去った後の神田一家。

皆も元の場所に帰ろうと歩いていた。

「残念ね、柴」

柴の隣で桜が面白くてたまらないと言った風に呟く。その呟きが柴の耳にしっかり入ると、柴は眉を寄せ、口を尖らせて桜を睨む。

桜はその視線に気づき、にまぁと笑う。

⏰:08/04/03 01:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#141 [向日葵]
「さっきお姉ちゃんに、「好き」って言ってもらいたかったんでしょっ。」

「無理無理。越姉はにっぶいんだから。S級に」

何故分かったんだ、なんてのは愚問だから聞かない。
それにしたって柴は桜は愚か10歳である空にまで気持ちがバレてしまっているのだ。
その事実に、少し苦い思いをした。

「柴、お姉ちゃんはね、迫らなきゃきって気付かないよ。柴の気持ちだけでなく、自分の気持ちにだって疎そうだもん」

越はしっかりしてそうでホワホワしていると、家族は称する。

⏰:08/04/03 02:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#142 [向日葵]
しっかりしている面ではどちらかと言えば桜の方が上なのだ。

小さな石を見つけた柴は足で転がして行く。

「そりゃもどかしい時はあるけど……迫っちゃったら100%越の行動はおかしくなると思う」

そりゃあれだけの鈍感だから気付いた時にはロボットかってくらいギクシャクしてそうだし、顔は真っ赤っかになるそうだし……。

そんな光景が安易に目に浮かぶ。

「だから……仕方ない……」

⏰:08/04/03 02:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#143 [向日葵]
>>142

※訂正

×なるそうだし
○なりそうだし

⏰:08/04/03 02:08 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#144 [向日葵]
「でもいざって時は襲うぐらいの勢いでいきそう、柴なら」

それには「心外だ」と言うようにため息を吐く。

「あのな柴、あんまりうかうかしてたら他の奴に横取りされちまうぞ」

10歳のくせにえらくませてるから、対等に喋ってしまう。

そして柴は密かに「何故励まされてるんだろう……」と思っていた。

柴は校舎を見上げる。

自分も確かにこんな校舎に通っていた。
こんなに古びてはいないけれど、それは確かに学舎だった筈と柴は回想にふけり始めていた。

⏰:08/04/03 02:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#145 [向日葵]
>>141

※訂正

×きって気付かない
○きっと気付かない

⏰:08/04/03 10:21 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#146 [向日葵]
立派な白亜の校舎だった。
校門にはいつも送迎の車が何台も並んでいた。
車の種類もそれぞれに。

清楚な恰好をした女の子達。振る舞いは紳士のように優雅な男の子達。
毎日男女関係なく喋っていては、笑いの堪えないその建物の中。

柴は「いや……」と小さく頭を振る。

あれは建物なんて立派なものなんかじゃない。
あれは、ただの箱だ。

自分の家の地位や財産の自慢ばかりしている奴らが詰まっている、何も生まれやしないただの箱。

⏰:08/04/04 02:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#147 [向日葵]
笑う顔の下に、沢山の陰謀が隠されているのを知ってる柴は、その輪の中には入らず、いつも外から蔑んだ目で人々を見ていた。

そしていつも疑問に思っていた。

――何を生き甲斐としているのだろうと……。

「しばちゃん……」

呼ばれたので回想から帰ってくれば、苺が心配そうに柴を見つめていた。

自分のより遥かに大きい柴の手を、弱々しくギュッと両手で握りしめ、虚ろな柴の顔を覗き込む。

そんな苺に、柴は頬をゆるめた。

⏰:08/04/04 02:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#148 [向日葵]
「何もないよ、苺」

そう言いながら苺を抱き上げる。

自分は今、求めていたものの中にある。

しかし柴はある女性の名前を心の中で呟いた。
早代の事だ。

自分のせいで、酷い目にあっていた早代。
あの後、彼女がどうなってしまったかは出ていった柴は知らない。

幸せであって欲しいと願う。

ただ、あの家で暮らして、幸せを感じるかなんて、柴には分からなかった。

⏰:08/04/04 02:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#149 [向日葵]
―――――――……

お昼前の恒例種目。

それは応援合戦。
もとい、集団創作ダンス。

一番良かった応援には賞状がもらえる。
なのでどのクラスも気合い充分。
始まる前は円陣を組んだりとモチベーションを高めているクラスもいた。

もちろん、私達B組もその中の1つ。

「おっしゃーB組ぃ!いくぞぉぉ!!」

「オォ――――ッッ!!」

⏰:08/04/04 02:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#150 [向日葵]
威勢のいい掛け声に答える声は尚デカイ。
グラウンド中に響いて、余韻を残しながら消えていく。

曲がかかれば中央に出ていって踊る。

私達は先生の年齢層を考えて、ソーラン節を踊る事になってる。

なので只今の恰好、制服のスカート、素足、体操服の上にオレンジ色のハッピ、頭にはお祭り用のハチマキ。ちなみにクラス色のハチマキは手に結んでちょっとしたリボンみたいになってる。

「越、似合うねーっ」

袖を捲っていると、美嘉が言った。

⏰:08/04/04 02:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#151 [向日葵]
「美嘉には負けるよ」

短髪のせいか、ハッピ姿がよく似合う。
足もスラリと長く筋肉質だから、さっきから皆が美嘉をチラチラ見ているなんて本人は知らない。

<B組!用意!>

3年生のリーダーが合図を出したので、皆スッと顔を引き締め、息をひそめる。

ドォン!と太鼓が高らかに鳴ったので、私達は駆け足で定位置へ。

曲がかかるのを待つ。

胸が高鳴るのが耳の奥で聞こえた。

⏰:08/04/04 02:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#152 [向日葵]
そして曲が鳴った。

曲の中で「どっこいしょー!どっこいしょー!」の掛け声に合わせて私達も叫ぶ。

皆と一体になっているのを感じた。

しかし終盤に事件は起きる。

移動した時だった。
小さな石か何かで、足を切ってしまったのだ。

鋭くも鈍い痛み。
途中から止める事も出来ず、なんとか最後まで踊りきった。

大勢の拍手を聞きながら、なんとか続けられて良かったと大きく息を吐いた。

⏰:08/04/04 02:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#153 [向日葵]
何組か演技が終わった後、1時間の昼休憩。
裸足に運動靴を履いて、バレないように少し足を引きずった。

「午後も楽しみだね!意外とB組って運動神経いいんだ!」

「そうだねー」

と言いながら足がズッキンズッキン痛むのに顔を歪めた。
密かに保健室へ行こうと決心。

「越!」

ふと前を見ると、少し離れた所に柴が。
結構身長がある柴の頭がひょこりと見える。
人垣を分ければ、その顔が私を心配しているのが分かった。

⏰:08/04/04 11:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#154 [向日葵]
柴には私の足の状態が分かってしまったらしい。

人前だろうが何だろうが担ぎそうなので、柴の元へ行くのは少し気が引けた。
ここはいらない心配を周りにさせたくないので、穏便に事が過ぎるよう言い聞かせようと決意し、止まりかけていた足をまた進めた。

が、その時、後ろから勢いよく腕を掴まれた。
そのせいで足の傷がまたズキリと痛んだ。

「何事?」と振り返れば、少し息を切らした立川君がそこにいた。

「美男子は何しても輝いてるなー」と呑気に思っていたら、驚く事を口にした。

⏰:08/04/04 12:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#155 [向日葵]
「足、怪我してますよね」

「――えっ……」

まさか立川君にまでバレていたとは。

先を歩いていた美嘉と椿は、振り返り私に声をかけてくる。

「越ー?どうしたー?」

「あ……えと、ちょっと委員の用事ー!先に行っててー!」

美嘉が片手でヒラヒラと応じるのを見てから、私は立川君に向き直った。

「大丈夫、後でちゃんと保健室には行くから」

⏰:08/04/04 12:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#156 [向日葵]
まだ私の腕を掴んでいた立川君の握る力がギュッと強まり、少し怒っている整った顔が近付いた。

「後でと言いながら最後まで無理しそうなのが貴方です。今すぐ行きますよ」

「え、で、でも……」

有無を言わない間に立川君はやんわりと手を引く。
どうやらこのまま保健室直行らしい。

ちらりと見れば、遠くで柴が軽く目を見開いてこちらを見ていた。
と思えば、急に目をつり上げ、口を一文字に結び、睨まれた。

いや、睨まれたと言うか睨んでいる。

それも私じゃなく、立川君を……。

⏰:08/04/04 12:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#157 [向日葵]
鋭い視線が突き刺さる。

何故そんなに怒っているのか分からない。
いつもの拗ねたような可愛らしい雰囲気なんてどこにもない。

少し……柴が怖く見えた……。

校舎に上がる為、靴を脱ぐと、思っていたより出血していて冷や汗が出てきた。
床に血が付くといけないので、ケンケンしながら保健室まで移動。

そんな私を見て、立川君が顔を歪めた。

「貴方は無理ばかりする。何故僕がいるのに頼ってはくれないんです」

⏰:08/04/05 02:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#158 [向日葵]
私の中で頼ると言うのは、どうしようもなくなった最終手段な訳で、今は立川君が言う程ひどい状態でもないから特に頼る事は何もなかった。

これがもし両足ならば、人を呼んでくれとか言うだろうけど……。

悪い事はしてない筈だけど、なんだかお父さんに怒られてるみたいで、しゅんとうつ向く。

立川君はそんな私を見て「あ……」と小さく呟いてから、「すいません」と謝ってきた。

「偉そうに……。ただ神田さんは何でも1人でやってしまうから、同じ委員の僕としては、色々頼って欲しいんです」

⏰:08/04/05 02:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#159 [向日葵]
立川君は保健室のドアを開けてくれた。

さっきの立川君の言葉を嬉しく思う。
ただのクラスメイトにここまで良くしてくれる人なんて滅多にいないだろう。

立川君の人気は美男子だからだけではないと思った瞬間だった。

少なからず立川君は私に好意を持ってくれてるから、心配してくれてるのだろう。

心配してくれるって少し嬉しいかも……。

「ホラ、足見せてごらん」

保健医の指示に従い、丸いイスに座った私はヒョイと足を上げて見せた。

一頻り傷を見た保健医はさっとピンセットと茶色い瓶を持ってまた私に向き直る。

⏰:08/04/05 02:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#160 [向日葵]
それを見た私の口はひくりとなる。

今からするのは明らかに消毒だ。
今でさえ、痛みがひどいのに、消毒となったらそれが2倍くらいの痛さになる。

なんとなくイスごと後退っていた私の足首を、楽しそうににっこり笑いながら保健医が掴む。

「どこ行くかしら?こんな血だらけの足さらして」

ピンセットに挟まれているは、茶色く変色している一千切りの綿。
ばい菌を消してしまう液をたーっぷりと含んでいる。

⏰:08/04/05 02:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#161 [向日葵]
「ひっ……」と思わず息を吸い込む。
綿が近づくに連れ、体内に息を取り込むのを忘れた。

軽く綿がチョンと付いた時、電気のような痺が全身を駆け抜ける。
それは回り回って悲鳴になった。

「い…………っったぁぁぁぁい!!いやー!痛い痛いいたぁぁぁい!!」

「うっさい!大袈裟!」

……鬼畜っ!

保健医は容赦無く綿を押しつける。
その度私は手をあちこちに掲げて悶絶した。

⏰:08/04/05 02:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#162 [向日葵]
「出血のわりに、傷は浅いから、ガーゼだけ貼っておくわね。」

厚めのガーゼを手早くつける頃には、暴れすぎによる疲れと痛みでぐったりとしていた。

「ハイいいわよ」

ペシリと膝を叩かれたので、そろりと立ち上がる。
ガーゼのおかげで、直に床と足がくっつかないので痛みはさっきより半減していた。

その事に少しホッとして、久々に新鮮な空気を取り入れた気分になった。

立川君は戸口でずっと立って待っててくれた様子。

⏰:08/04/05 02:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#163 [向日葵]
つまり、痛がって子供みたいに暴れていたみっともない私を見られていたと言う事……と思えば、恥ずかしくなった。

きっと面白かったに違いない。

その証拠に私と目が合うと、口にギュッと力を入れてる様子が伺えた。
多分笑いたいけど笑っては失礼と思ってるんだろう。

立川君はドアをまた開けてくれた。

まるで紳士みたいだなー……。

「ありがとう、立川君」

⏰:08/04/05 02:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#164 [向日葵]
立川君は無表情で首を振る。

「いつでも、また頼って下さい。僕は……」

「越っ!」

横を見れば、柴が率いて桜達が外へ出る広い戸口に立っていた。
出てくるまで待っていたみたいだ。

柴はさっきの怖い雰囲気を引っ込めて、心配そうに私を見ていた。
しかし隣にいる立川君を見ると、またじわじわと引っ込めていたオーラを出し始めた。

困りながら立川君を見れば、柴の視線を真っ向から受け、ふいっと私に視線を落とした。

⏰:08/04/05 02:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#165 [向日葵]
「ご家族が心配してるようなので、僕はもう行きますね」

「あ、立川君、ありがとう」

立川君は一度ほのかににこりと笑って、歩いて行ってしまった。

振り向けば、柴が靴を履いているにも関わらず校舎に入ってこちらにズンズンとやって来た。

なんだか勢いがあったので、微妙に後退ってしまった。が、がしりと腕を掴まれた。

「わ、ちょ……っ柴?」

「アイツ……」

⏰:08/04/06 15:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#166 [向日葵]
立川君が歩いて行った方を睨んで、また私に視線を戻した。

「前も見た。何なの?」

「な、何って、説明しなかった?クラスメイトの立川君」

柴は眉にしわを寄せながら、唇をキュッと引き縛った。とても不機嫌みたい。

一体何だと言うのだろう。

「越、アンタ怪我してんだって?」

律儀に靴を脱いでやって来たお母さんが言った。

「え、何で知って……」

「柴が気付いたの。ね、柴」

⏰:08/04/06 15:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#167 [向日葵]
話しかけられても、柴の目には私しか映っていない。
灰色の神秘的な目に威圧されながら、私は柴に言う。

「柴、心配してくれたの?」

「……」

柴の機嫌が直らない……。私まで難しい顔になってしまう。

どうしたらいいのよ……。

「ねえお姉ちゃん、午後に保護者リレーあるんだって?」

「あ、ウン。お母さんが出るの?」

⏰:08/04/06 15:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#168 [向日葵]
お母さんは「うーん」と唸ってからちらりと柴を見てからニヤッと笑った。

「柴を出すよ」

「えぇっ!?」

桜、空と一緒に私は叫ぶ。
指名された当の柴はキョトンとしているけれど、何か企んでいるお母さんの真意を読み取ったのか、特に大きなリアクションはしなかった。

「柴、アンタやるね?」

「ウン」

「え、即答?」

驚きを隠せない私を無視して、勝手に盛り上がり始める兄弟とお母さん。

⏰:08/04/06 15:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#169 [向日葵]
「ねぇ越姉」

呆気にとられている私の体操服を空がクイクイと引っ張ってきた。

「柴が何で怒ってるか、本当に分からない?」

「え?怒ってるって言うか、拗ねてるんでしょ?」

空は大袈裟にため息をついてから、私を呆れた顔で見上げた。

まるで「越姉ダメだ……」と言われてる気がして、少しムッと口を尖らせた。

そんな訳で、何かが起こりそうな体育祭はまだまだ続くのでした。

⏰:08/04/06 15:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#170 [向日葵]
―*4日目*―

えつおねえちゃんはみんなからだいすきってよくいわれてるの!でもね、しばおにいちゃんもみんなからだいすきっていわれてたよ!

(神田家・三女・苺談)





昼休みが終わって部活行進が終わり、部活リレーが終わった。

昼になれば朝よりも更に気温、湿度が上がってより汗がふき出す。

そのせいか一気に皆がだらけだしてきた。

⏰:08/04/06 15:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#171 [向日葵]
「な……なんなの。水分取っても流れ出ちゃうこの悪循環……」

「美嘉ちゃん……大丈夫ですか……」

日焼けと暑さよけの日傘をさして、心配そうに見る椿が美嘉にペットボトルの水を差し出す。

イスにぐったり寄っかかっている美嘉はダルそうにそれを受け取る。

喉を鳴らしながら半分まで一気に飲み干してしまった。

「……っくぁーっ!!あー美味い……」

「越ちゃんは大丈夫ですか……?」

⏰:08/04/06 16:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#172 [向日葵]
そんな椿の呼びかけにも気付かず、私はぼんやりとしていた。

次はなんだっけかなー……。

「あ、お母さんだ」

誰かが言ったので、入場門を見れば、様々な年齢層の保護者が集まり始めていた。

「そっか、保護者リレーとかなんとかあったよね」

貰った水をまたゴクゴク飲んで美嘉は言った。

保護者……。
柴が出るんだよね、確か……。

⏰:08/04/06 16:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#173 [向日葵]
[本当に分からない?]

空の言葉を思い出す。

分からないって何だろう。

柴は拗ねてたんじゃなくて、怒ってたって事?

それもきっと立川君に……。

「ただ助けてくれただけなのに」

私を取られたとか思ったのかな。
それならやっぱり拗ねてる部類だよね。

なのに空は怒ってるって言った。

⏰:08/04/06 16:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#174 [向日葵]
空を見上げれば、太陽が隠れる程の雲は無かった。
青空が広がっていて、私の中の分からないモヤモヤを拭い去ってくれるかと思ったけれど、欠片は残り、正体が分からないそれは小さくまだうずく。

そんな事を思っていると、曲が流れ出した。

いよいよ保護者リレーが始まるらしい。

位置についてる大人達の中で、どこに柴がいるか探す。

「おねーちゃん!」

「へ?あ、苺。……って1人で来たの!?」

「おかあさんがおねえちゃんのトコのほうがしばちゃんみえるよって!」

⏰:08/04/07 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#175 [向日葵]
一応一般はこちら側に来ちゃいけない事になってんだけど……ま、いっか。

「苺ちゃん!こんにちわ!」

「こんにちわ……」

「みかちゃん、つばきちゃんこんにちわ!」

苺は見た目の可愛さあって人気者なのだ。
確か去年もこうして来て、私の周りには苺を一目見ようと人だかりが出来たものだ。

「あ!しばちゃん!」

「え!」

苺の小さな指が差した方に、柴がいた。

⏰:08/04/07 01:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#176 [向日葵]
長めの髪は、お母さんから貰ったのか小さく縛っていて、Tシャツは肩まで捲っていた。

柴とは思えない恰好。
それに目を奪われる。

ひょろひょろしてるように見える体は、意外と筋肉質で、甘えてばかりの柔和な雰囲気はなく、背筋を伸ばして、いかにもスポーツをする男の人に見えた。

並んでる順番から言ってアンカーらしい。
多分若いからと無理矢理やらされてるんだろうけど。

そして気づく。

周りの女の子の視線が、柴にいってる事を。

⏰:08/04/07 02:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#177 [向日葵]
「ねぇ越。あの人知り合い?」

「え、あ、ウン……居候の柴って言うの……」

心ここにあらず。
適当に喋って、また私は柴を見る。

そうか、近くにいて分からなかったけど……柴はああ見えてカッコイイんだ……。

ダレていた空気が、一瞬にして変わり、代わりにピンク色へと変色するのが分かった。

「あれ誰かのお兄さんとかかなー」

「すごいカッコイイー……」

⏰:08/04/07 02:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#178 [向日葵]
アイドルみたいに、そう、例えば立川君みたいに、キャーと叫ぶような感じではなくて、ため息をつきたくなるくらいほれぼれとした感覚で皆柴を見る。

1度見たら、目をそらせない。

今、私もそんな風だ。

パァン!と乾いた音が響けば、一斉に走り出した。

そんな間も、私は柴を見ていた。

柴は一体どんな走りをするんだろう……。

先生も加わっていて、笑いが起きても、やっぱり柴に視線が集まる。

⏰:08/04/07 02:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#179 [向日葵]
「あ、次しばちゃん!」

膝に座っている苺がはしゃぐ。
走る位置についた柴は、バトンを貰う為リードを始める。

そしてバトンが手に触れた瞬間。

鳥肌が立った。

疾風のように早く、綺麗なフォームで走り出した柴。
灰色のあの瞳が鋭く光る。

息を飲んだ。

あの柴が、こんなにもカッコよく見える事に驚く。

⏰:08/04/07 02:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#180 [向日葵]
ゴールテープを切った柴に、どよめきが起こる。
そして女の子達が静かに騒ぎだす。

「わー……あたし今恋に落ちた」

「私も……」

「ってか、目が追っちゃう……」

なんだか、いてもたってもいられなくなった私は、苺を抱き上げて柴がいるだろう場所に向かう事にした。

「越?どこ行くのー?」

「ちょ、ちょっと!」

退場門の場所について、柴を探す。

⏰:08/04/07 02:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#181 [向日葵]
「あ……」

細身で長身の柴を発見した。

縛っているのが嫌なのか、髪ゴムを外しているところだった。

「しばちゃんっ!」

無邪気に苺が柴を呼ぶ。
苺に気付いた柴は、軽く汗を流しながらこちらを向いた。

その時、何故か胸がドクンと高鳴った。

柴は元の機嫌に戻ったのか、いつもの柔らかな雰囲気でこちらに近づいてくる。
さっきの柴じゃない。
分かってるけど、何故かまだ胸がドキドキしていた。

⏰:08/04/07 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#182 [向日葵]
側にくると、にこりと微笑んで、私の手から苺を抱き上げた。

「越、見た?俺どうだった?」

嬉しそうに言うから、いつもみたいに気軽に「カッコ良かったよ!」と言うのが恥ずかしくて言えなかった。

な、何でー……っ!?

「?越、どうかした?」

「へ?いや、な、何でも……っ?」

「顔赤くない?日焼けのせい?」

と、片手で苺を抱くと、空いてる手で私の頬に触れた。
おかしな反応をしてしまったのは、私だった。

「おぅわぁぁぁ!!」

⏰:08/04/07 02:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#183 [向日葵]
びっくりした柴はすぐに手を引っ込めて、キョトンと私を見る。
苺も瞬きを繰り返していた。

何だ……今の……。
触れられた瞬間、キューッてした……っ!

「え、越、どうかした?」

おずおず聞いてくる柴を見れば、その灰色の瞳に余計心を乱されそうな気がして、1歩1歩足を後退させていた。

「あ……、あの……私席戻らなきゃ……!」

「越!?」

⏰:08/04/07 02:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#184 [向日葵]
顔が暑い。
それは湿気のせいでも、温度のせいでもない。
全て柴のせい。

でも何で?

早足で、高鳴ったままの鼓動を聞く。
「何で」と思う度、どんどんドクドクと早まる。

両手で顔を覆う。

早くおさまってー……っ!!

「わ!越、どうしたの」

「お顔、真っ赤ですよ……」

⏰:08/04/07 13:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#185 [向日葵]
席に帰ると、一番に顔の色の事を言われた。
多分2人共、この暑さのせいと勘違いしているだろう。

だから私はその勘違いを利用する事にした。

「や、温暖化ヒドイよね!」

高速で手をパタパタして団扇代わりに顔を扇ぐ。

大丈夫、家に帰ればすぐに元通りになる筈だよ。

そう言い聞かす。

「ねぇ越、あのカッコイイお兄さんなんて名前?」

美嘉が話かけてきたので、なんとか平静を装って答える。

⏰:08/04/07 13:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#186 [向日葵]
「柴って言って、さっきも言ったみたいにうちで居候してるの」

「私……どこかであの方見た事あるんですが……。名字はなんとおっしゃいますか……?」

椿の言葉に気づいたけれど、そういえば私は柴の本当の名前を知らない。

会った時に「好きに呼べば」と言われたから、そのまま私が付けた“柴”で今日まで通ってきたけど。

「聞いたけど……忘れちゃった。今は柴ってずっと呼んでるから」

「そうですか……」

⏰:08/04/07 13:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#187 [向日葵]
今でこそ、心を開いて、笑ったり甘えたりしてくれるようになったけど、初めの方は心身共にボロボロと言った感じだったし。

本人も、あまり深い所までは追求しないで欲しそうだったから、柴の家族とか、周りの環境とかは柴が話した事以外は知らない。

柴も話さない。

「名字……かぁ……」

本当の柴を、私はまだまだ知らないんだなぁー……。

と思えば、またさっきの柴を思い出して、顔が暑くなっていった。

⏰:08/04/07 13:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#188 [向日葵]
********************

「おねえちゃんどうしたんだろうね」

越が去ってしまった後、お母さん達の元に帰って行く中、柴に抱かれている苺が聞いた。

柴も分からない。

顔が赤かったので熱でもあるのかと、顔に触れた途端変な声を出された。

少し柴はショックを受けてたりもした。

さっきまで柴は越(と言うから立川)に対して不機嫌をあらわにしていたから、それに呆れられてしまったのかましれないと思っていた。

⏰:08/04/07 13:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#189 [向日葵]
「でも……」

と柴は考え直す。

呆れていたと言うより、越は驚いていた。
何故驚かれたんだろう。

いつも朝後ろから抱きついても慣れたように接するあの越が、ただ頬に、しかも真っ正面から触れただけで驚くなんて。

考えていると、視界に苺が入ってきて、眉間に小さな手が触れる。

「しばちゃんさっきからムーッてなってる。えつおねえちゃんのこと?」

苦笑いしながら柴は1つ頷く。

⏰:08/04/07 14:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#190 [向日葵]
苺は柴の眉間を擦りながらにこりと笑う。

「しばちゃん、えつおねえちゃんがだいすきなんだね!いちごもおねえちゃんだいすき!」

苺の無邪気な笑顔に、柴はくすりと笑った。

笑いながら、苺の“好き”と自分の“好き”は違うんだけどなーとか思いながら。

それでも、何だか苺に慰められた気分になり、柴の越に対する難しい考えが緩和された。

「あ、あの!」

声をかけらるたので、柴と苺は顔を合わせてから後ろに視線をやった。

そこには越と同い年くらいの女の子が2人いて、何か言いたげにこちらを見つめていた。

柴は「何?」と言う風に首を傾げると、1人の女の子が驚く事を行った。

⏰:08/04/08 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#191 [向日葵]
「一目惚れしました!付き合って下さい……っ!」

柴は瞬きを繰り返した。

一目惚れ?
今?早すぎない?
いやそれが一目惚れか。

「しばちゃん、ヒトメボレってなぁに?」

意味が分かってない苺は柴に聞く。

それを今この子の前でしては可哀想と思い、苺の質問はスルーした。

「……えっと、ごめんけど好きな子いるから……」

女の子は目を見開くと、涙を溜めてうつ向いた。

⏰:08/04/08 01:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#192 [向日葵]
「そうですか……すいません突然……」

それだけ言って、付き添いであろうもう1人の女の子と共に去って行ってしまった。

「しばちゃぁん、ヒトメボレってなぁーにー?」

襟元をグイグイ引っ張りながらしつこく聞いてくる苺に「ハイハイ」と答えてから、柴は苺に分かりやすく説明しながら歩いて行った。

******************

「うわぁぁ……っ!」

体育祭の歓声や、応援合戦の騒ぎの中、違う音を聞いた私はふとそちらに振り向いた。

⏰:08/04/08 01:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#193 [向日葵]
そこには顔を両手で覆った女の子と、なだめているような女の子がいた。
どうやら片方の人は泣いてるみたいだ。

どうかしたのかな……。

「あ、男子スウェーデンだよ!」

美嘉の声に、その子達からは視線を外し、グラウンドに向ける。

男子が入場して来た途端、女の子達の黄色い声が。
何故なら立川君がいるからだ。
今だけクラス別なんて忘れてるみたい。

「立川くーん!」

「頑張ってー!!」

⏰:08/04/08 01:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#194 [向日葵]
「すごい人気ですね……」

椿が呟く。

確かに。
上級生から下級生、そして同級生。
これだけ女の子から人気があるにも関わらず、男子からも慕われている。

神だね。
立川君はきっと神だよ。

「いや菩薩様……?」

「ボサツ?」

私の呟きを聞いた美嘉が片眉を寄せて聞き返す。

「や、何でも」

⏰:08/04/08 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#195 [向日葵]
スウェーデンは惜しくも2位だった。
それでも立川君がいるので特に文句を言う人もいなく、爽やかに労いの言葉を皆かけていた。

「神田さん」

立川君に呼ばれたので、目で応じると、手招きしてちょっと離れた所まで連れていかれた。

なんだろうと立川君を見つめると、立川君は私の足を見つめてから口を開いた。

「次、学年種目、止めておいた方がよくないですか?」

どうやら午前中に負った怪我を心配してくれてるみたいだ。

⏰:08/04/08 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#196 [向日葵]
多分ここへ連れて来たのも、私が皆の目を気にしているから気を遣ってくれたのだろう。

「大丈夫!もう痛くないから!」

にこっと笑って、「ホラ!」と怪我した方の足を思いきり地面を踏むようにすれば、さすがにやり過ぎたか、痛みを忘れていた傷が復活してじわぁーと頭まで伝わってきた。

笑っていた顔が少し引きつる。

そんな私を、不安そうにして無言で立川君は見つめる。

それに答えるように何度も足を踏みならす。

⏰:08/04/08 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#197 [向日葵]
あ……なんか今明らかに傷が開いた音したぞ……。

「た、立川君心配症だよ。ホント大丈夫だから!」

それ以上見られたりすれば、痛いのがバレてしまいそうなので、逃げるように立川君の元から駆け出した。

頑張らなきゃいけないのに弱音吐いてる場合じゃないと自分に言いきかせ、奮いたたせる。

「……そんな神田さんだから、僕は心配症にもなっちゃうんですよ」

そう言った立川君の呟きは、痛みをかき消そうとしている私の耳に届く事は無かった。

⏰:08/04/11 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#198 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

と言う訳で、2年生学年種目綱引きトーナメントが始まった。

本当は予選をやってからなんだけど、昨日の予行でそれは済んでしまったのでいきなりトーナメントから入ったのだ。

とは言うものの、私達のチームは負けているので今からは3位決定戦。
これに負けたらB組の得点は無しになる。

だから皆は「せめて3位を!」と闘志を燃やしていた。

皆盛り上がっている時、私は落ち着かなかった。
足が気になって仕方なかったからだ。

⏰:08/04/11 00:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#199 [向日葵]
あんなに激しく踏み鳴らさなかったら良かったと今更ながら後悔していた。

足をモジモジさせていながら周りに視線をやると、立川君がこっちを見ている事に気づきギクリとした。

内心鳴りもしない口笛を吹いてる気分で、足がどうもない事を装い美嘉に話しかけた。

「もう少しで体育祭終わっちゃうね」

「寂しいよー……美嘉の祭がぁぁ……」

せっかく綱引き頑張ろうと盛り上がっていた美嘉を落ちこませてしまった私はオロオロした。

⏰:08/04/11 00:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#200 [向日葵]
「ら、来年もあるし、今は今で楽しもうよ!ね?」

「違う……違うの越!!それだけじゃない!体育祭終わったらまた勉強の日々!あの校舎全体が活気に満ちてる雰囲気が無くなるのが嫌なの!」

美嘉の熱弁に若干引きながらも、その気持ちはよく分かった。

走り回ったり、旗を作ったり、どうやって応援するか考えたり……。
そんな楽しみが無くなれば、学校は元の静けさを取り戻していく。

それが手に取るように分かるから、体育祭が終わるだけが寂しいんじゃないと美嘉は言うのだ。

⏰:08/04/11 00:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#201 [向日葵]
そんな美嘉に、私はなんだか元気を貰った。

足を気にしてる場合じゃない。
良い思い出を作る為には多少のアクシデントだってつきものだ。

傷が開こうが、そこからばい菌が入ろうが、そんなの知ったこっちゃないのだ。

「ぃよし!皆円陣組もう!」

私が呼び掛けると、皆集まって来てくれた。

1つの大きな輪が出来る。
「学年種目、これが最後なので、悔いの残らないように力発揮しましょー!」

⏰:08/04/11 00:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#202 [向日葵]
「お――っ!!」

騒いでから、選手入場のアナウンス。
しっかり決まった順に並び、私達は綱が横たわっている場所へ駆けて行った。

先生が「用意!」と言えば、皆綱を持ち、笛が鳴るのを今か今かと神経を集中させた。

そして高らかに笛の音が鳴れば、一斉に力一杯綱を引いた。
力が1つになるよう、「オーエス!」と皆で声を出す。

段々と、綱がこちらに来るのが分かる。
B組優勢のようだ。

⏰:08/04/11 00:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#203 [向日葵]
お願い……っ!

そう願った時、ピストルの音が2回鳴り、皆で地面に倒れこんだ。

「やったー!」

誰かの叫び声にハッとし、喜びが込み上げて来て飛びはねる。
近くにいた美嘉やクラスメイトの子とハイタッチしあった。

でも綱引きは2回ある。
喜びは次に勝った時こそ本物になる。

場所変えをして、同じように笛の音を待った。

そして鳴った瞬間、また一気に引く。

⏰:08/04/11 01:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#204 [向日葵]
歯を食い縛って最後の力を振り絞る。
疲れているのはお互い様なので勝負は互角になってしまった。

長時間の引き合い。

腕が千切れてしまうのではと思った。

その時、グッと少しこちらに綱が動いた。

手応えを感じたか、それから足を後ろに動かしながら綱を引く。
最後に「オーエス!」と力んだ瞬間、勝利のピストルの音を聞いた。

「やったぁぁぁ!!」

今度は皆抱き合った。
腕がダルイし手はヒリヒリしているけどそんな事どうでも良かった。

⏰:08/04/11 01:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#205 [向日葵]
席に帰っても興奮はおさまらず、遂にはイスの上に立ってタオルを振り回す人までいた。

「あぁー良かったよぉぉ……っ!」

伸びをしながら言う美嘉に、椿がにこりと微笑む。

私も喜んだ。
……さっきまでは……。

「ん?越、顔青いけどどうかした?」

「え?青い?そんな事ないよ……っ」

実は席に戻って来た時、足の事をすっかり忘れていた私は油断していていきなり訪れた痛みに疲れを感じていた。

⏰:08/04/11 01:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#206 [向日葵]
やっと全部終わった安堵感も手伝ってか、立ち上がる事すら億劫に思った。

本当はジュースでも買いにいきたいのに……。

「……わ、越!」

「え……うわぁっ!」

疲れて地面を見つめていた私の視界は、突然空と柴に変わる。

「し、柴!ちょっと何してんの!」

「いいから来て」

どうやら私はお姫様抱っこされてるみたい。

……ってそんな呑気な事考えてる場合じゃない。

⏰:08/04/11 01:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#207 [向日葵]
頭の中がぐるぐるとおかしくなりそうだった。

「柴!今は学校行事中!」

疲れや足の痛みなんてなんのその。私は柴に叫び続ける。

周りの視線が痛い程私に集まるのが分かった。

一方の柴は、うるさい私を無視して黙々と丁寧にどこかへ運んで行く。

ヤケになって降りようとすると、肩を掴んでいる柴の手が力を増した。

「じっとしてっ」

まるで子供扱い。
仕方なく渋々大人しくした。

⏰:08/04/11 01:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#208 [向日葵]
しばらく歩いて、中庭の日陰にあるベンチに座らされた。
幸い人はあまりいないので注目を浴びることはない。

そんな私の心配をよそに、柴は勝手に私の靴を脱がす。
驚いて、足をベンチの上に急いで上げた。

「な、何してるの!」

「足痛いんでしょ」

そうだけど……。

炎天下で最早足の中はサウナ状態。
当然と言うか、絶対にと言うか、足が蒸れて臭いと思う!

⏰:08/04/13 02:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#209 [向日葵]
それなのに勝手に靴を脱がすだなんて……!

「いい!柴に見てもらわなくても自分で保健室とか行けるから!」

強く拒否すると、柴は悲しそうに目を細めた。
日光と風に揺れる葉の陰の具合いで、灰色の瞳がいつもより綺麗に見える。

「俺は心配しちゃダメ?」

「え?」

「同じクラスのあの男にはよくて、俺は越の心配するのはダメなの?」

私の靴を持っていた柴は、ゆっくりとそれを地面に置いてうなだれた。

⏰:08/04/13 02:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#210 [向日葵]
そんな柴を見て、どうしようとオロオロしてしまう。

私はただ心配かけたくないだけで、誰に心配してもらってもいいとかそんなの考えてない。

でも今の私の態度は、確実に柴を傷つけてしまったみたいだ。

「……柴……、あの」

と言いかけた時だった。

「あ、さっきのお兄さん!」

3人程の女の子が、柴を指差していた。
見たところ1つ下の子達みたいだ。

⏰:08/04/13 02:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#211 [向日葵]
私は靴を履いて立ち上がる。
柴は軽く首を傾げながら立ち上がった。
女の子達はこちらに遠慮なく寄ってきて、頬を染めていた。

「あ、あの、リレー見ました!」

「良かったら握手して下さい!あと、名前も教えて下さい!」

柴を囲む女の子達。
明らかにこの子達は柴が好きなんだろう。

でもこの子達はただあのリレー1回で柴を狙おうとしている。

私はこの子達より柴をずっとずっと前から知ってるのに……。

軽々しく、柴を見ないで欲しい……。

⏰:08/04/13 02:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#212 [向日葵]
気がつけば、私は柴と女の子達の間に入っていた。
柴の表情は見えないけど、女の子達は驚いて、握手しようて出していた手をゆっくり引っ込めた。

「柴は、私の家族なんだからっ!」

そう言って柴の腕を掴み、中庭の更に奥へ早足で行った。

何で自分がこんな事言ったか理解出来ないまま私は足を進める。

なんだか嫌だったんだ。

あの子達が、柴にベタベタするのが許せなかったんだ。

⏰:08/04/13 02:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#213 [向日葵]
だって柴は……私の大切な人だもん……。

「越」

静かに柴に呼ばれて、足を止めた。

「……ごめん。勝手に引っ張ったりして」

大切な大切な家族。
馬鹿みたい。嫉妬するだなんて……。

柴に向き直る。

怒ってると思った。
勝手に傷つけて、勝手に引っ張って。
私に振り回されて嫌な思いしてると思った。

でも彼は、とても優しく柔らかく、笑っていた。

⏰:08/04/13 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#214 [向日葵]
「なんで……笑ってるの?」

「越が怒ってくれたから」

それが何故そんなに嬉しく笑う事となったかが私は分からなかった。

私が眉を寄せて理由を考えていると、柴が「違うな……」と呟いた。

「怒ったんじゃないな……拗ねてくれた」

「す、拗ねてって……っ!」

「俺が取られちゃうって思った?」

楽しそうな様子で私の顔を覗き込むから、私は自分のさっきの行動が恥ずかしくて顔を赤らめる。

⏰:08/04/13 02:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#215 [向日葵]
「柴の意地悪!」

「そんな事ないよ」

と笑いながら、私を近くの石のイスに座らせてくれた。
柴はしゃがんで、私と目線を合わせる。

私はさっきの赤くなった余韻を残したまま、まだ恥ずかしくて目をそらす。

「嬉しいんだ。越が俺の事で拗ねてくれるのが。いつも俺ばっかだからなー」

柴はさっきより嬉しそうに笑う。
嬉しくてたまらないのか、歯を見せてにっこり笑っている。

⏰:08/04/13 02:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#216 [向日葵]
それからまた靴に手をかけた。
それを見て私もまた驚く。

でも柴はさっきみたいに強制で脱がさず、靴と私の足首を持って私を下から見る。

「越。越は心配するなって言うけどそんなの無理だよ。だって越が俺の事で拗ねてくれるみたいに、俺だって拗ねる程越が大事だもん」

大事……。

そう言われてしまえば、抵抗しようと力を入れていたのが、一気に抜ける。

「傷、見てもいい?」

⏰:08/04/13 02:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#217 [向日葵]
少し躊躇ってから、ゆっくり頷いた。

柴は微笑んで、靴、靴下と丁寧に脱がしていく。

足の裏に貼っているガーゼに少し血が滲んでいるのを見て、顔を少し険しくする。

「大丈夫なの?保健室より病院行った方がよくない?」

「先生は傷は浅いって言ったから……」

「自分が車出すのめんどくさいから言っただけかもよ」

まるで自分もそんな事を体験したかのような口ぶりだった。

⏰:08/04/13 02:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#218 [向日葵]
過去に柴はそんな体験をした事があるのだろうか。

[どこかであの方見た事が……]

椿の言葉を思い出す。

私が知らない柴が、まだいる。
そう思えば、柴を知りたくなった。

柴は、私に心を開いてくれてるけれど、深い心の扉も開いてはくれるのだろうか……。

⏰:08/04/15 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#219 [向日葵]
―*5日目*―

柴は分かりやすいようで分かりにくいんだよね。
ま、ミステリアスな所があの子の売りなのかもしれないけど。

(神田家・主婦・祐子談)





体育祭も無事終わった。
私達B組は残念ながら2位だったけど、とても楽しかったと皆口々に話をした。

私の足も傷は塞がり、もう痛くなくなったし気にならない。

⏰:08/04/15 00:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#220 [向日葵]
どちらかと言えば私の傷よりも柴の方が気になる一方だった。

どんなに考えても、柴の正確な今までの人生は分からない。
だからと言って本人に聞いてもいいのかと考えて、結局いつもやめておこうと引き下がるのだ。

「越、さっきから何……」

「へ?」

知らずの間に、テーブルをはさんで向こう側に座っている柴を睨みつけていたらしい。

只今晩御飯中なのだ。

⏰:08/04/15 00:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#221 [向日葵]
「え……あ、ごめんね」

食べた食器を片付ける為、私は席を立って、そそくさと台所へと向かった。

いけない、いけない。
私ったら直ぐに顔に出ちゃうんだから……。

根掘り葉掘り聞こうなんて気はないけど、聞く事で柴を傷つけるのは嫌だ。
でもやっぱり……っ!
あぁぁぁ!どうしたらいいのぉっ!!

「何悶えてんのお姉ちゃん」

気づけば私と同じように食器を持ってきた桜が後ろにいて、私の様子に引いていた。

⏰:08/04/15 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#222 [向日葵]
桜は食器を置いて、水を入れると私の方をじっと見て、耳元で囁く。

「柴の事?」

「え……っ、何で分かったの!」

「分かるよーそれくらい。お姉ちゃん分かりやすすぎるんだから」

あちゃー……。

私はチラリとテーブルにいる柴を見た。
苺についてるご飯粒を取ってあげているところだった。

これなら小さな声で喋れば分からないかと、桜に今気になっている事を話してみた。

⏰:08/04/15 00:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#223 [向日葵]
「……え、椿ちゃんって、あのご令嬢のだよね。見た事あるって……どういう繋がり?」

「分からないの。椿も、はっきりとは柴を覚えてないみたいだし」

もし椿が見た事あると言うなら、ああいうセレブが集まるパーティーみたいなのに柴がいたという事になる。

それはつまり、柴が本当はお金持ちのお坊っちゃまって事になるのだ。

そういえば、柴はうちに来た時焼きそばを知らなかった。

「お姉ちゃん、それってつまり……」

⏰:08/04/15 00:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#224 [向日葵]
「それってつまり?」

いつの間にか柴が近くにいた。
驚きのあまり、私と桜は文字通り飛び跳ねる。

「し、柴、驚かさないで!」

驚いたのと、今の会話が聞かれなかったかという心配とで心臓がドクドクする。

柴自身は驚かすつもりなんてなかったので、過剰なまでの私と桜の反応にきょとんとしていた。

「何の話してたの?」

私にずいっと寄ってくる。

⏰:08/04/15 00:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#225 [向日葵]
今度は違う意味でドクンと心臓が鳴った。

おかしい……。
ついこの間までこの神秘的な灰色の瞳や、透き通るような茶色い髪の毛が近くにあっても、こんな反応した事なかったのに。

……あの体育祭以来、柴に対する接し方を私は少し考えなくてはならないようになったのだった。

柴が一向に答えない私に更に問いつめるように迫ってくるので私は足をじりじり後ろに引いていく。

が、しばらくすれば後ろはシンクだったのでそこでストップがかかってしまった。

⏰:08/04/15 00:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#226 [向日葵]
柴が迫る度、私は顔が暑くなる。
不思議そうに更に覗き込むから、私は目をギュッと瞑るしかなかった。

「あー、あ、あの!あたしの友達の相談にのってもらってただけ!」

桜がなんとか搾りだした答えに、柴は「あっ、そ」と素っ気無く答えて、空のゲームの誘いを受けにリビングへ向かった。

私は目を開けて柴がいない事を確かめると、ズルズルその場に座りこんだ。

「も……やだ……」

「お、お姉ちゃん……?顔真っ赤だよ?」

⏰:08/04/15 00:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#227 [向日葵]
そんなの分かってる。

自分の頬に手を確かめなくったって内側にこもった熱がそれを分からせてくれるからだ。

なんでこんな風になっちゃってるか理解に苦しむ。
こんな事体験した事だってないんだもの。

「お姉ちゃん……もしかして柴が好きなの?」

好き?

「そりゃ好きだよ。嫌いな訳ないじゃない」

桜は何か呟いたけど、ここまでは届かなかった。
ただその表情からは、やっぱり前の空のように呆れた顔をしていたのだった。

⏰:08/04/17 00:03 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#228 [向日葵]
――――――………

昨夜天気予報を見た私は今日が雨と分かっていた。
自転車の為、レインコートを着なくてはならないのだけどあまり好きじゃない私は、早めに起きて歩いて学校へ行く事にした。

布団の上で軽く伸びてから着替えにかかる。

下に降りて少し早めの朝食を作りながら今日の持って行く物を考えていた。

すると、頭にずしっと重みが。

「柴……眠いくせに何で起きるの」

「えつがおきたけはいしたからー……」

眠たそうな声を出す柴に私は「あれ?」と思った。
昨日みたいに恥ずかしい気分にならないからだ。

⏰:08/04/17 00:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#229 [向日葵]
やっぱり私が変だったのだと思って、柴を軽く背負うようにしながら作業を進めた。

「あいたっ」

サラダの為のキュウリを切っていると、指を軽く切ってしまった。
血が滲み出てくる。

洗おうとすれば、自分よりも一回り大きな手が私の手を包んだ。

後ろを軽く見れば、柴が眉を寄せていた。

そしてなんの躊躇いもなく……カポリと口の中へ私の指を入れてしまったのだ。

⏰:08/04/17 00:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#230 [向日葵]
私は目を見開く。
指に柴の口の温度を感じれば、昨日同様、顔そして今度は全身が暑くなる気がした。

「いっ……!いやぁっ!!」

急いで自分の指を抜いた。
そしてすぐに水道へ。

それを見た柴は腕組みしながら少しムッとしていた。

「消毒じゃん。汚くないよ」

「じゃなくて!恥ずかしいでしょっ!」

私の答えに柴のムッとした表情は消えて、今度はキョトンとしていた。
私の答えが意外だったらしい。

⏰:08/04/17 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#231 [向日葵]
「越でも恥ずかしい事あるんだ」

私を何だと思ってるんだ……。

微妙な空気が流れて、気まずいと思っていると、これまた眠そうな声が聞こえてきた。

「おねえちゃー……ん」

苺だ。

目を擦りながら私がいる場所まで来て足にピトリとくっついてくる。

「どうしたの苺」

「おそらがゴロゴロいってておめめあいたのー……。」

⏰:08/04/17 00:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#232 [向日葵]
ゴロゴロ?
って事はもしや……。

「雷?」

と言った瞬間、空が明るくなった。
数秒遅れて、耳障りな音が聞こえてくる。

その音に怯えた苺は、足を掴んでた手に更に力を入れて小さく震えている。

「うぅー……」

眠いのと怖いとで苺がグズリだす。
頭を撫でてやっても、怖いせいで足から離れようともしない。

目配せして、柴に頼むと、柴は苺の手をゆっくりはがして抱き上げた。

⏰:08/04/17 00:27 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#233 [向日葵]
アンカーです(。・ω・。)
良かったらお使い下さい

>>2-100
>>101-200
>>201-300

⏰:08/04/20 00:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#234 [向日葵]
苺はしっかりと柴の首にしがみつく。
柴は「寝かしてくる」と言って階段を上がって行った。

私はそれを見届けてから朝御飯の支度を再開しようとした。
……が自分の怪我した指を見てしばし固まった。

大した傷ではないから、血はすぐにおさまっている。しかし問題はそこじゃない。

柴が口に入れた指を洗うか否かで迷っているのだ。

消毒とは言え口に入れた指でこのまま調理していいものか頭をひねる。

⏰:08/04/20 01:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#235 [向日葵]
考えぬいた結果、柴に心の中で謝って手を綺麗に洗ってしまった。

―――――――……

「おっはよう!」

体育祭で小麦色の肌が更に増した美嘉が挨拶をしてきた。
その後ろでは椿が静かに微笑み軽く会釈する。

「おはよう美嘉、椿」

「あれ、怪我したの?」

絆創膏を貼ってる指に気づいた美嘉は私に聞いた。
私は苦笑いしながら「ちょっとね」と言う。

それから教室まで3人で仲良く行った。

⏰:08/04/20 01:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#236 [向日葵]
「そういえば、午後からどしゃぶりらしいけど越帰り大丈夫?」

あれから雷は少々おさまったものの、雨がザーと激しくなり、傘をさしても雨足と水たまりのせいで足がびしょびしょになった。

そして雨は午後からは嵐のようになるかもと、爽やかにお天気お姉さんが告げた。

「多分平気。自転車じゃなく歩きだし」

「なんなら……私の車でお送り致しますわ……」

「ありがとう椿。でも本当に大丈夫だから」

⏰:08/04/20 02:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#237 [向日葵]
すると椿は私の顔をじっと見てから何か考えるように少しうつ向いた。

「椿?」

呼びかけても椿は考え込んだままになってしまった。
席について、カバンを一旦置いてから私は椿の元へと行った。

「椿、どうかした?」

「……。前のおっしゃってた男性、柴さまでしたよね?」

「あ、うん。そうだよ」

返事をすると、椿は自分なカバンをあさり始めた。

⏰:08/04/20 02:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#238 [向日葵]
そして取り出したのは、集合写真のような横長の写真だった。

「勝手に調べたりしてごめんなさい……。でも私、これが先日見た柴さまとしか見えなくて……」

椿はその写真を私に見せた。

沢山の人が一張羅やドレスを着て上品に笑っている。
後ろに大きく掲げている幕のようなものには「60周年記念式」と書いてあった。
なんの記念式かは分からなかったけど、私はその笑っている人達を見た。

「……。柴、どこにいるの?」

⏰:08/04/20 02:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#239 [向日葵]
椿は小さな人を指差した。

そこには、あの柴が確かにいた。

今より少し髪の毛が短く、会ったばかりの頃みたいに、きらびやかな微笑みを皆が浮かべる中で何かを失望した表情をしていた。

「越さん……。柴さまのお名前、本当に柴と仰いますか……?」

「……本当は、知らないんだ。柴は、私がつけたあだ名のようなものだから……」

椿は写真に目を落として、柴の真実を更に教えてくれた。

⏰:08/04/20 02:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#240 [向日葵]
「私が言っていいものかとは思いますが……私が知る限りでは、柴さまは柴と言うお名前ではありません。伊勢屋グループのご子息、伊勢屋 大和さんです」

イセヤ……ヤマト……?

私は驚きを隠せなかった。

伊勢屋グループと言えば、飲食、服飾、ブランドなど幅広く経営している知らない人はいない程の大きな会社。

その会社の息子が、柴……。

何故それを隠しているのか分からなかった。

[愛情とかそんなもの、受けたことは無かった……]

⏰:08/04/20 02:27 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#241 [向日葵]
お父さんを……恨んでるとかなのだろうか……。

「越さん……ごめんなさい。柴さまのことベラベラと……」

「あ……。ううん。教えてくれて、ありがとう」

柴……。
私は柴の事を知る権利があるんだろうか……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

柴の事が頭から離れない私は1日中モヤモヤしながら過ごした。

今は掃除をしていて、これが終われば今日はもう帰る予定だ。

⏰:08/04/20 02:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#242 [向日葵]
「神田さん」

箒をしまおうとすると、立川君が声をかけてきた。

立川君は毎日私の足を心配してくれて、私としては何だか申し訳ない気持ちで一杯だった。

「何?」

「何かありましたか……?」

「え……」

「ずっと難しい顔してるもので……気になって」

いつも思うのだけど、立川君はよく私の事を見てくれている。

⏰:08/04/20 02:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#243 [向日葵]
そのせいか、私の事は何でもお見通しだ。
それとも私が分かりやすすぎるのかな……。

「何もないよ。ありがとうっ」

「何もないって……何もないなら俺は声かけませんよ……っ!」

声をあげた立川君に私は驚いた。
決して取り乱したりしない立川君が、いつもクールな立川君が、今正に取り乱し、熱くなっている。

「貴方はどうしてそうなんですっ。俺は……頼ってもらいたい……貴方に……」
「立川君……」

⏰:08/04/20 02:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#244 [向日葵]
本当に友達思いだなー……。こんなに良くしてもらうなんて私は幸せ者だぁ……。

そんな立川君に、私は元気が出た。

「ありがとう!立川君。本当に本当に大丈夫だから!」

にっこり笑えば、立川君は頬を緩めて少し微笑んだ。私は立川君に何かあれば、全力で助けようと心に誓う。

と、その時、教室のドアがいきなり勢いよく開いた。
「越っ!」

「柴ぁ!?ちょ、何勝手に入ってるの!」

⏰:08/04/20 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#245 [向日葵]
戸口には、2本の傘を片手に柴が立っている。
傘を持ってきたせいで、床にポタポタと滴を落とし、びしゃびしゃにしてしまっていた。

柴は視界に私にしかいれてなかったらしく、立川君を見ると、失礼なぐらい嫌な顔をする。

「今日は何もしてないよ、?」

それでも柴は機嫌を直してはくれなかった。

眉を寄せたまま私と立川君を交互に見つめる。

「どうしてアイツが?」とでも言ってるみたいに私の目に射るような視線を送る。

⏰:08/04/20 02:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#246 [向日葵]
※訂正

×私にしか
○私しか

×「今日は何もしてないよ、?」

○「今日は柴が心配するような事何もしてないよ?」

スイマセン
間違ってる上セリフ抜けまくりでした

⏰:08/04/20 03:03 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#247 [向日葵]
体育祭では柴は私を心配してはいけないのかと聞いてきたから安心させるように言っても、柴は何故か立川君が気にくわないらしく、私と一緒にいるのが嫌らしい。

「はぁ……立川君、私帰るね……」

半ば脱力しながら私はカバンを持ち、柴の背中を押しながら立川君に言う。

「ハイ。さようなら。また明日」

「うん。じゃあ」

立川君は柴より大人だと思う……。
ってか柴が子供すぎと言うか……。

⏰:08/04/20 03:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#248 [向日葵]
柴と2人になってしまえば、朝の椿の言った事を思い出した。

雨の降る中、傘をさして、時々ちらりと柴を見る。
柴は雨が傘に落ちる音を楽しんでる。
まるでト○ロ……。

これなら……と、私は話題を持ち出す。

「柴、野々垣 椿ちゃんって知ってる?」

「……。あー、聞いた事あるかも。思い出せないけど」

柴の顔が、少し緊張しているのが分かった。
そんな様子に気づいていながら、私はまた言う。

⏰:08/04/22 00:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#249 [向日葵]
「椿……がね……柴の事知ってるんだ」

柴が歩みを止めた。
それに気づいた私は2、3歩進んでしまってから止まり、柴を振り返った。

柴の、いつもの柔和な空気が無くなっている。
無機質な顔で、私をじっと見つめていた。

灰色のあの瞳が、ひどく冷たく見えた。

「柴……。柴は、柴じゃないんだね……。やま……」

「やめてくれない?」

私の言葉を遮って、柴は言った。

⏰:08/04/22 00:06 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#250 [向日葵]
「越はそれを知って何か得する?そう思わないなら口には出さないで。今ここにいる間は、俺は“柴”だから」

「損得なんて考えてないよ。ただ、柴の色んな事を知りたいだけで……」

「色んな事?知ってどうするの?俺にあの家から出て行けとでも言うつもり?」

「違う柴……っ!」

言葉を発する度、柴は私の言葉を遮って自分の過去を否定する。

そんな柴を初めて見たから、私は少し怖くなった。

⏰:08/04/22 00:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#251 [向日葵]
「俺は、過去の俺が嫌い。環境が嫌い。だから忘れたい。なのにどうして思い出したくない事をいちいち聞いてくるの?」

「それは……」

「好奇心?家族じゃない人間には何を聞いてもいいと思ってる?」

私はその言葉に鋭い痛みを感じた。

好奇心?
違うよ柴。
家族じゃない?
そんな訳ないでしょう……。

家族だと思ってるから聞いてるし、過去の事を打ち明けて心を今より開いてくれたら嬉しいって……。
ただそう思っただけ……。

⏰:08/04/22 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#252 [向日葵]
でも柴がそう思ってしまったのは、私の自己中心的な考えのせいで……。

でもなんだか……すごく突き離された感じがして……。

辛いよ……柴……。

私は傘で顔を隠した。
じゃないと、泣いてしまいそうだから……。

「ごめんなさい……。もう聞かないから……」

私は回れ右をして足を進めた。
無意識に、足が早くなる。足元をチラッと見れば、いつの間にか隣に柴が歩いていた。

⏰:08/04/22 00:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#253 [向日葵]
柴は、私にとてもなついてくれてたから、勘違いしていたんだ。

好奇心……。
あながち外れてないかも。
柴の事、私だけが全部知っておきたかった。
家族の誰よりも理解してあげたかった。
柴を誰よりも……独占しておきたかったんだ……。

どっちが子供……。

まるっきり子供なのは、他の人の心の傷を無理矢理開こうとし……私だったんだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ、お姉ちゃんお帰り」

⏰:08/04/22 00:20 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#254 [向日葵]
帰れば、桜が私と柴を迎えてくれた。
さっきの事は頭から無くそうとして、桜に微笑む。

「ただいま。晩御飯今から作るね」

「あ、それがね、お母さんが久々にピザでも買っちゃいなってなんと……ジャジャーン!」

桜はピッと1万円札を2枚出してきた。

「今日は贅沢な日〜」

ルンルンな桜にもう1度笑いかけて、「着替えてくる」と言ってから柴を肩越しに見る。
普段の柴に、戻っているようだった。

⏰:08/04/22 00:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#255 [向日葵]
だから私も、普段の私に戻らないと……。

「迎えに来てくれてありがとう柴。濡れたとこ、ちゃんと拭くんだよ」

それだけ言って、階段を上がり、部屋に入った。

入ってドアにもたれながら、ズルズルと座りこむ。
スニーカー越しに染み込んできた雨が足を冷やし、私を余計悲しい気分にさせた。

まだ……胸が痛い……。

[本当の家族じゃない人間には何を聞いてもいいって思ってる?]

柴……。

⏰:08/04/22 00:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#256 [向日葵]
涙が流れた。
あとからあとから、とめどなく……。
何粒も頬を流れ、顎をつたい、ブラウスやスカートに染み込んでいく。

ごめん……。

「ごめん柴……っ」

もう聞かない。
何も知ろうとなんてしない。
だから……。
嫌いにならないで……。

*******************

越が階段を上がっていくのを柴と桜は見守っていた。
部屋のドアが閉まると共に桜は大きなため息を吐いて柴を見る。

⏰:08/04/22 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#257 [向日葵]
「お姉ちゃんずっとあんな調子?」

柴は答えに詰まる。
多分と言うか絶対、原因は自分なのだから。

歩いている間、越との会話はほとんどなかった。

時々越が「雨の匂い好きなんだ」とか「水たまりって遊びたくなるよね」と呟くように言ってた。

本人は楽しそうな声を出したつもりだろうけど、聞いてるこちらには無理してるのが分かるくらい落ち込んだ声だった。

そして帰ってくるまで、必死に傘で顔を隠して、柴には見せないようにしていた。

⏰:08/04/22 00:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#258 [向日葵]
柴は自分が越につらくあたってしまった事を後悔した。

越にあんな顔をさせるつもりなんてなかったのだ。
ただ、どうしても昔の自分、とりまく環境の事を思い出せば、胸の中に苦い物が込み上げてくる感覚が襲ってきて、とても苦しかったのだ。

正直に言えば、また越は自分を受け入れてくれるとどこかで期待した部分もあった。
八つ当たりでさえ、優しく包み込んでくれるんではないかと。

でも柴は言ってしまったのだ。

⏰:08/04/26 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#259 [向日葵]
[家族じゃない人間には]

と。

一番言ってはいけない、卑怯な言葉を使ってしまったのだ。
本当の家族じゃない越達に絶対言ってはいけない事だったのに、頭にきていた芝は、残酷にも彼女にそう言ってしまったのだった。

そして後で激しい後悔の念に襲われる。

無理矢理笑う彼女は、なんて痛々しかっただろうか……。

「越と、少し言い合いしてしまったんだ」

桜の問いに、柴は淡々とそう答える。

⏰:08/04/26 02:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#260 [向日葵]
「言い合い?そんなのいつもの事なのに。……柴、アンタ何かお姉ちゃんの傷つく事言ったんじゃ……」

桜は何でも鋭いから困るといつも柴は思う。

桜のそんな推測に、柴はうつ向いた。

きっと今頃、部屋で落ち込んでる。
でも今行けば、自分がする事なす事どれもダメなような気がして、結局いつも越が自分でなんとか立ち直った時でしかちゃんと振る舞えない。

そんな自分を柴は嘲笑し、リビングにあるソファーに深く身を沈めるのであった。

⏰:08/04/26 02:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#261 [向日葵]
*****************

ノックの音がした私は、目を開けた。

ベッドに寝転んでいたら、泣き疲れて寝てしまっていたらしい。

ゆっくりと体を起こす。
そして「はい」と言った。

入って来たのは苺だった。

ドアからひょっこり顔を出して、私の所までやって来る。

「どうしたの苺」

「さくらおねえちゃんがみんなでたべたいピザきめよーって」

⏰:08/04/26 02:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#262 [向日葵]
そういえば今日ピザなんだっけ……。

まだ起ききっていない頭でぼんやり考える。

するて苺がベッドに上がってきて、私にギュッと抱きついた。

私はどうしたのかと思いつつ、苺を膝に乗せた。

「なぁに苺」

「えつおねえちゃんげんきないからおまじない。だからぎゅーっ」

私はハッとした。
こんな小さな苺でさえ、私の異変に気づいてしまっている。

⏰:08/04/26 02:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#263 [向日葵]
こんな事ではいけない。
今お母さん達がいない以上、自分が皆の事をちゃんと面倒みなくちゃならないんだから……。
しっかりしないと。

私は苺の頭を撫でて微笑む。

「ありがとう苺。でもお姉ちゃん大丈夫よ。着替えるから、苺は先に下に行ってな」

「うんっ」

もう一度ぎゅーっと抱きついてから、苺は私の部屋を出て行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リビングのテーブルの上にはピザのチラシが沢山広げられている。

⏰:08/04/26 02:22 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#264 [向日葵]
皆で「ここの店がおいしい」やら「これが食べたい」やら話をする中、私は少し疲れた気分でいた。

「越姉、どれがいい?」

空の声に、ピクリと反応して思わず「え?」と聞き返した。

「越姉はどれが食べたい?」

「お姉ちゃんはミックスピザでいいよ。そんなにお腹も減ってないし」

正直食べるのもどうかと思った。
特に食べたいとさえ思わなかった。

そんな私を見つめる視線を感じた。
柴だ。

⏰:08/04/26 02:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#265 [向日葵]
その視線を、受けとめる事が出来なかった。
これじゃますます柴が気をつかってしまう。

しっかりしなきゃ……。
しっかりして、私。
しっかり……しっかり……。

世界が逆になった気がした。
何が起きたか分からない。

誰かの叫び声と、私の体を抱き起こし、揺さぶる力強い腕を感じるのを最後に、私は意識を手放したのだった……。

⏰:08/04/26 02:32 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#266 [向日葵]
―*6日目*―

頭の中がうまく回転してくれない。
それは柴に嫌われるのが嫌で、前みたいな振る舞い方を忘れてしまったからなのかもしれない。

(神田家・長女・越談)




「寝てなって言ってんだろ」

「いーやっ!」

さっきからこの繰り返し。

昨日倒れた私は、救急で夜病院に行くと過労と判断された。

⏰:08/04/26 02:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#267 [向日葵]
そして今、いつも通り起きようとすれば、部屋に入ってきたお母さんに止められた。

「いっぱい寝たからもう大丈夫なの。私が動かないと皆に迷惑かけちゃうから……っ」

「越」

静かなお母さんの声に、私は黙った。
そしてお母さんは軽く私の両方の頬をつねる。

「アンタばっかり何もかも背負ったって仕方ないのよ。何の為の家族?それに、無理して倒れた方がもっと迷惑かけるのよ」

そこまで言われては、何も言い返す事は出来なかった。

⏰:08/04/26 02:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#268 [向日葵]
私をベッドに寝かせるよう肩に置いたお母さんの手に従うように私はまた布団に入った。

「それに、柴がいるから、今日は思いっきり甘えといたら?」

柴と聞いて、私はドキリとした。
出来れば柴とはあまり喋りたくないと言うか……喋りづらいと言うか……。

お母さんは私の頭をくしゃりと撫でると、「じゃあね」と言って部屋を出て行った。

私は1つ、大きなため息を吐いた。

なんだか……事が前に運ばないような気がして、体調の悪さも手伝い、体が重かった。

⏰:08/04/26 02:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#269 [向日葵]
どうして私あんな事言っちゃったんだろうと何度も後悔する。

後悔すれば後悔する分、また視界が滲んだ。

考えるのが嫌になって、目を閉じれば、いつの間にか眠りについてしまった。

――――――――……

トントンと、ドアを叩く音が聞こえた気がした。
それを合図に、意識が現実に引き戻された。

ゆっくりと目を開く。

「越」

柴だ。

⏰:08/04/27 17:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#270 [向日葵]
心臓が跳ねる。

私は返事をしなかった。
するとまたノックをして、私の名前が呼ばれた。

静かな事を証明する耳鳴りのような音が聞こえた。
しばらくすれば、柴はどこかへ行ってしまった。

足音が消えた所で、私はベッドから降りる。

1日こんな気まずい状態でいれやしない。
遅刻上等で学校へ行こう。

私はさっさと支度を始めた。
鏡を覗けば、少し目が腫れていたけれどそのうち直るだろうとほっておく事にした。

⏰:08/04/27 17:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#271 [向日葵]
支度を全て終えたのはいいけれど、困った事がある。

柴の現在地が分からない。

部屋にいるのか、リビングにいるのか、はたまた別の場所にいるのか……。

深呼吸をしてから、ドアノブに手をかけ、「いざっ!」と自分を奮い起こす。
勢いよくドアを開けた。

「どこに行くつもり?」

私は1歩も部屋から踏み出す事なく硬直する。

なんと柴はドアのすぐ横にいたのだった。

⏰:08/04/27 17:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#272 [向日葵]
「……が、……こう……」

蚊が鳴くような――……とはこの事。
絶対に柴に聞こえてなかったと思うけれど、私の格好を見れば一目瞭然だと思う。

柴は私を押し戻して、また部屋に入れる。
入口は柴が塞いでしまった。
逃げ場所はない。

自分の鼓動だけがやけに早く聞こえた。

柴は腕を組んでドアにもたれる。
私はお腹辺りで指を絡ませて手を組み、うつ向く。

⏰:08/04/27 17:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#273 [向日葵]
「体、良くないんだろ」

「よく寝たから……大丈夫。心配かけてごめん」

必死に、なんでもない風を装う。
でなければ優しい柴はきっと責任を感じてしまうから。
私さえ頑張れば、全ていつも通りに戻る。
そう思い、顔を上げる。

「私、これでも委員長だから、しっかり学校行かなきゃ。柴に迷惑はかけないよ」

「別に迷惑とは思わないよ」

「ううん。私が心苦しいの。だから、大丈夫……」

⏰:08/04/27 17:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#274 [向日葵]
にこっと笑って見せる。

大丈夫だよ。私は平気だよって言うように。

柴はしばらく黙っていた。
時計の音と、私の心音がハモる。

そして柴は口を開いた。

「大丈夫なら……何で俺の事見ないの?」

私は目を見開いた。

そうなのだ。
顔を上げたものの、私は柴を見れないでいた。
それはこの前の柴の冷たい顔が目に焼き付いてしまって、怖くて見れなかったのだ。

⏰:08/04/27 17:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#275 [向日葵]
「嫌いになった?」

「……そんなんじゃない」

「じゃあ何?」

胸か苦しくなって、強行突破で柴に近づき押し退けて出て行こうとした。

でもこの作戦は有効じゃなかった。

柴は私の腕を掴んで反転すると、壁に私をドアに押し付けた。

私は息を飲んだ。

動揺していると、柴の顔が近づいてきた。
おでこがぶつかりそうな距離だ。

⏰:08/04/27 18:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#276 [向日葵]
「怖がらないで」

低く穏やかに柴が言う。
私はまだ柴に目を向けられないでいる。

「前の態度は良くなかった。謝るよ。でも俺だって、思い出したくもない過去の1つや2つある。越だって、あるでしょ……?」

「……ある」

「だったら分かって?越は知らなくていいんだ」

違う……。
そんなんじゃない。

「知らなくていいって……私は柴に必要ない?」

口をついて出たのはそんな言葉だった。

⏰:08/04/27 18:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#277 [向日葵]
「私、柴が好きだもん。大好きだもん……柴の悲しい嫌な思い出消し去るくらい、幸せになって欲しいだけなの……っ」

私達は家族。
色々な形はあると思うけど、私達家族は、悲しみを分かちあって支えあってる。

だから柴にも、打ち明けて欲しかっただけ。

でも柴は「知らなくていい」と言った。

それは柴だけが私達家族に加わっていないように私は思った。

「それでも……柴が傷つくなら聞いちゃダメって思った。これは、私のワガママだから……だからっ」

⏰:08/04/27 18:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#278 [向日葵]
「もう何も聞かないって決めてたのに」と言おうとしたら、柴の腕に包まれた。

力強く抱き締められて、私の心臓はさっきとは違う意味の脈を打った。

柴の体が密着して、体温を感じれば、更に加速していく。

「越……」

柴が耳元で呟く。
自分の名前がこんなに甘い響きを持っているなんて知らなかった。

恥ずかしさのあまり、私は目をギュッと瞑った。

「違うよ越……。俺は越が、越達家族が大切なんだ。わざわざ俺の闇に手を触れて、光を失う必要なんて無いって言いたいんだ」

⏰:08/04/27 18:17 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#279 [向日葵]
柴の声は、苦しそうだった。
私は瞑っていた目をゆっくり開いて、視線だけ動かす。
柴の綺麗な茶色い髪の毛しか見えない。

「分かって越。大切だから傷つけるのが怖いだけなんだ。でも言える時が来たなら、きっと言うから」

そう言って、少し距離を取った柴をようやく見つめる事が出来た。

「それまで待って欲しいんだ」

昨日見たあの冷たい印象を持った灰色の瞳は、温かさを取り戻していた。

それを見ただけで、ホッと安心して、頬を緩める。

「分かった」

⏰:08/04/27 18:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#280 [向日葵]
すると柴の瞳が小さく変化したような気がした。

それを感じた私は、「ん?」と思うと同時に柴の手に顔を包まれた。

和解するかのように、顔を変形させて盛大に笑うのかと思ったけどそうじゃなかった。

柴は徐々に私に顔を近づけてきた。
灰色のあの瞳に私が写っていると分かるくらい。

鈍感と言う判子をデカデカと押されている私でもさすがに今から何をされるか予想してしまった。

「わ、わぁぁっ!」

⏰:08/04/27 18:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#281 [向日葵]
ザッと勢いよくしゃがみ込んだ。
そして近くに落ちていたカバンを持ってドアを押し開ける。

「い、いいいってくるっ!!」

階段を一気に駆け下りて、外へ出れば自転車を動かして一心不乱に漕ぎだした。

何……っ!今の……っ!
ど、どどどうして柴、私にキッ……!!

そこまで思って、更に頭はヒートアップした。

「わぁぁぁぁっ!」

意味もなく叫ぶ。
明らかにおかしな子に認定されただろう。

⏰:08/04/27 18:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#282 [向日葵]
結局私が学校に着いたのは、2時間目が始まった時だった。

教室に来れば、皆がいなくておかしいと思った私は、机の上や床に置いてある沢山の荷物を見て、2時間目が体育である事を思い出す。

途中で行くのもなんなので、そのままサボる事にした。
幸い自分の席は空いていたので座った。

「はぁ……」

ため息をついて机に突っ伏す。

柴と仲直り出来たのはいいけれど、今度は違う意味で気まずくなってしまった。

⏰:08/05/02 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#283 [向日葵]
「家に帰りずらいよぉ……」

どうして柴は私にキ……キ、キスしようとしたんだろう……。
そして私はどうしてこんなにドキドキしてるんだろう……。

今まで柴が抱きついたり、抱き締めたりしても何も思わなかったし、キスなんてされてももしかしたら平気だったと思う……まぁ口は別だと思うけど。

そこで桜の言った言葉を思い出す。

[お姉ちゃん、柴が好きなの?]

す……好き……?

⏰:08/05/02 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#284 [向日葵]
好きって……そりゃ好きだけど……。

桜の言ってる“好き”は、私と違う意味を持ってるのだろうか。

頭を抱えていれば、柴がどんな人なのかを思い出す。

透き通るような茶髪。
細身で、だけどほど良く筋肉がついていて。
神秘的で魅惑的な灰色の目は、人の心を惑わす。
性格は甘えん坊。少し毒舌。とても妬きもちやき。誰よりも愛情を欲していて、優しい……。

これだけ柴の事を分かっていても、私はまだ足りないって思っちゃったんだ……。

⏰:08/05/02 00:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#285 [向日葵]
それは……。

「好きだから……?」

口にしてしまえば、それは形となって、胸の奥に甘い衝撃をもたらした。

そうだったんだ……。
私……柴が好きだったんだ……。

じゃあ柴は?
柴はどう思ってるんだろう。
もしかすれば、柴はさっきキスしようとしたんじゃないのかもしれない。
私の早とちりだったのかもしれない。

甘えたい時にはいつもやるみたいに、肩や頭に自分の頭を乗せたかっただけかもしれない。

⏰:08/05/02 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#286 [向日葵]
なら柴は、ただ私の事を飼い主程度にしか思ってないかもしれない。

なら、完全に私の片思いか……。

……でもこれが分かったからって自分が何をしなきゃならないかなんて分からない。
恋愛の基礎なんて自分は知らない。教科書があればそれを買いたいくらい。

いや……それよりもっと重要なのは、帰ったらどうすればいいかだ。

慣れない事で頭をフル回転していれば、次第にどこかに支障が出る。
私の考えはどうどう巡りしだした。

⏰:08/05/02 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#287 [向日葵]
そんな時、誰かがドアを開けた。
頭を抱えながらその方を見れば、そこに立っていたのは体操服姿の立川君だった。

立川君はこちらに気づくと、目を軽く見開いて驚いていた。

「神田さん?どうして……。だって今日休みじゃ……」

「体調も良くなったから来ちゃったよ。家にいてもしょうがないし」

と言って、またさっきの出来事を思い出した。

「しょうが……ないし……ウン……」

⏰:08/05/02 00:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#288 [向日葵]
そういえばと立川君を見る。

彼はどうして授業の最中に教室にいるのだろう。

「立川君はどうかした?まだ授業やってるよね」

「あ……はい。そうですが……。幻かと思ったんです」

立川君はなんだか眩しそうに私を見る。
私は首を傾げながら「幻?」と言った。

立川君は前髪に指を埋めて、困ったような表情を見せる。

「貴方が……グラウンドから見えたので、休みの筈なのにおかしい。自分は幻を見てるんじゃ……と思ったもので」

⏰:08/05/02 00:41 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#289 [向日葵]
「やだ立川君。私がいなくても別になんともでしょ?そりゃ委員長としては、仕事しっかりやらなきゃいけないけど」

立川君は今度は真っ直ぐに私を見る。
私の席は窓際だけれど、教室の端と端でも立川君の眼光は届いた。

「なんともない?」

呟いたその声は怒っているようにも聞こえた。
なので私は何か悪い事言ったかと不安になった。

「貴方は何も分かっていない」

立川君はそう言って、ゆっくり私との距離を詰めて来る。
その威圧感に、後退りしたくても後ろはもちろん窓なので無理だった。

⏰:08/05/02 00:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#290 [向日葵]
「た……立川君?」

名前を呼ぶと同時に、立川君はぴたりと止まる。
私との距離は1メートルほど。

「僕は、貴方が必要です。貴方ては毎日でも会いたい」

「必要って……。私は立川君みたいにしっかり仕事も出来ないし……あ、そりゃ頑張ってるつもりだよ!?でも必要って言われるほど大事な役割を担ってる感じは……」

「だから分かってないと言うのです」

立川君は手を伸ばし、私の腕を掴んだ。

⏰:08/05/02 00:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#291 [向日葵]
そして次の瞬間、私は立川君の腕の中にいた。

「ここまで言っても分かりませんか……。いや、前に言っても分かっていなかった。だからもう1度言います」

柴のような、細く力強い感じではなく、たくましい立川君の体に抱き締められた私は動揺を隠せないでいた。

「僕は貴方が好きです。友人としてではなく、異性として貴方が好きなんです。神田越さん……」

「……っ!」

驚いて、体が硬直した。

立川君が私を……っ!?

⏰:08/05/02 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#292 [向日葵]
※訂正

>>290

×貴方ては
○貴方とは

⏰:08/05/04 01:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#293 [向日葵]
「神田さんの悩みや辛い事は僕に打ち明けてもらいたい……。貴方は無茶をしすぎるから、僕は助けてあげたいんで……」

立川君の言葉を聞き終える前に、両手を突っ張った。

頭が混乱した。
そして何より……柴じゃない腕に抱き締められるのが嫌だと感じてしまった。

別に立川君が嫌いな訳じゃない。
ただいつもと違う腕の感触が違和感を覚えてしまったのだ。

私はうつ向いて言葉を無くす。
なんて言えばいいのか、どうすれば立川君を傷つけないだろうか。
傷つけないと結論が出ているのならば、私はやっぱり立川君の告白を受け止める事が出来ないと言う事だ。

⏰:08/05/04 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#294 [向日葵]
たまらず出て行こうとすると、腕を掴まれた。

「待って下さいっ!」

私は立川君を見た。
いつもクールで冷静沈着な立川君が、困った顔をして焦っていた。

何故か荒くなる息を、私は静めようとする。
耳の奥では、ドクドクと鼓動が聞こえた。

「こんな事してすいません……でも、嘘偽りはありません。これが自分の気持ちですから……。でも、だからと言って、気まずくなるのだけはやめて下さい……」

「う……うん……分かった……」

⏰:08/05/04 01:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#295 [向日葵]
「でも」と私は続けた。

「きっと……立川君の気持ちを、受け止める事は出来ない……」

立川君は軽く目を見開く。

「それは、体育祭に来ていた男性ですか?」

思えばその時からだった。
私が柴を意識し始めたのは。
初めて柴をかっこいいと思った。
知らない一面を見れば本当の柴を知りたくてドンドンのめり込みそうになる自分に驚いた。

本当は知っていたのかもしれない。
この気持ちが何なのかを……。

⏰:08/05/04 01:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#296 [向日葵]
でもその気持ちを拒否された時、私はどうすればいいか分からない。
ならば今のままでいいじゃないか。

心の底では、そう感じていたかもしれない。
だから分からないフリをし続けていたのだろうか……。

「柴は……守ってあげたいと思った人だから……」

大切に、大切にしてあげたい……。

「そう自覚したのはいつですか?」

「えっと……分からないのだけれど、気づいたのはさっきで……」

「ならチャンスはあります」

⏰:08/05/04 01:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#297 [向日葵]
え?

するりと立川君の手が私の腕を離した。

「その気持ちが、実は勘違いかも……となれば、俺にもまだ挽回のチャンスはありますよね」

「あ、いや、それは……」

そんな事を言われれば更に困ってしまう。

勘違い?
そんな筈ないと思う。
だって柴を思い出す度に胸が苦しくなるんだもの……。

「とにかく……まだ決定打を打たれるまでは、俺は諦めませんから」

⏰:08/05/04 01:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#298 [向日葵]
それだけ言って、立川君は行ってしまった。

力が抜けて、その場に座りこむ。

なんなんだ今日は……。

柴にキスされそうになるし、立川君には好きだとか言われるし……。

いっぺんに言いたい放題言わないで!したい放題しないで!
一番困っているのは……私だよ……。

と、急にクラリときた私は、そのまま床に倒れてしまった。

そういえば過労とか言われてたっけ……。

⏰:08/05/04 01:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#299 [向日葵]
―――――――……

ヒヤリとした物が、額に当たるのを感じた。
優しく髪の毛を撫でる指は、なんて長いのだろう。

誰……?

・・・・・・・・・・・・・・・・

「おねえちゃん。だいじょうぶぅ?」

「苺……?」

目をうっすら開けて周りを見れば、見慣れた景色だった。
私の部屋だ。

「もう、心配かけないでよね!」

「あれ、桜……」

⏰:08/05/04 01:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#300 [向日葵]
「学校から電話があって、お姉ちゃんが倒れたって言うから、柴が迎えに行って家まで連れて帰ってきたの!過労ならちゃんと休んでなよねぇっ!」

じゃあ……。

頭にそっと触れる。
さっき寝ている自分の髪を撫でたのは、柴なのだろうか……。

「おねえちゃん、しばちゃんにありがとうしなきゃメッよ?」

「……そうねぇ」

と苺の頭を撫でた。
苺はされるがままになっている。

「今何時?」

⏰:08/05/04 02:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#301 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300

⏰:08/05/05 12:36 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#302 [向日葵]
「6時半くらい。おかゆ作ったけど食べる?」

桜が言い終わると同時にドアをノックされた。
答えたのは桜だ。

「桜、越起きた?」

聞こえたのは柴の声。
私は焦って布団をかぶって横になった。
そんな私を苺は不思議そうな顔で見る。
そして桜も目をパチクリさせて私を見る。

「まだ寝てるって言って!」

小声でそう告げる。
桜は首を傾げながらも頷いた。

⏰:08/05/07 01:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#303 [向日葵]
「まだ寝てるーっ。看病なら私がしとくから、柴は苺連れてってー」

ドアを開けると思ったので、壁側を向いた。
それを確認した桜は、苺を柴の元へ誘導する。
桜が小声で私が起きた事は内緒にするようにと苺に耳打ちするのが聞こえた。
苺は元気よく頷いて外へと出ていった。

大きくため息をついて、上半身を起こす。

「最近柴とギクシャクしてるみたいだけど、なんかあった?」

「え……、バレてたの?」

「バレてないと思ってたのはお姉ちゃんだ・け」

⏰:08/05/07 01:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#304 [向日葵]
もう1度ため息をついて、私は桜に訳を話す事にした。

「最初はちょっとしたケンカをしてたの。でもそれは私が原因だから、なんでもないフリしたら済むと思ってて……」

「ま、あたしの目にはそれは通用しなかったみたいだけどね」

苦笑いした後、今日の朝の出来事を思い出して顔が暑くなった。

「朝に……仲直りしたの……そ、そしたら……多分だけど……キスされそうになって……」

後半は声が出てないくらい小さい声だった。

⏰:08/05/07 01:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#305 [向日葵]
それでも桜は聞きとってくれたらしく、びっくりして目を見開く。
私は話を続けた。

「それで頭一杯になったら……クラスメイトに告白されて……」

「オッケーしたの!?」

「まっさか!だって私は……っ!」

突然言葉に詰まった私を桜は首を傾げながら待つ。

「“私は”――……。何?」

改めて口にしようと思えばすごく恥ずかしかった。
でも唐突に思い出す柴の姿が胸を切なくさせて、気付けば口が動いていた。

⏰:08/05/07 01:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#306 [向日葵]
「柴が……好きみたいなの……」

この想いを再度実感した。

桜は穏やかな表情を浮かべて「そう……」と頷いた。
まるで私がいずれそう言うだろう事を分かっていたかのように。

「じゃあ柴にも告げるといいよ」

「そんな事出来ない……っ」

「どうして?」

「柴が私を好きな訳ないから」

⏰:08/05/07 01:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#307 [向日葵]
今度は苦い表情を浮かべた桜は、私に近づいて「もうっ」と唸った。

「乙女思考がお姉ちゃんの頭にやっと導入されたのに、まだそこら辺は鈍いのねっ!」

やっぱり鈍いと思われてたんだ……。

「柴のあの態度見てお姉ちゃんが嫌いな訳ないでしょ!?そんな事あたしは愚か、空や苺だって分かってるよ」

「だって怖いの……っ」

小さい頃、私は両親に捨てられた。
その記憶はしっかりとインプットされてると言うか、こびりついてしまっている。

⏰:08/05/07 01:55 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#308 [向日葵]
[バイバイ]

冷たく言い放たれたその言葉。
振り返る事のない背中を「何故」と言う気持ちだけでいつまでも見送っていた。

昔の名前をそのショックで忘れてしまった私は、新たな「越」と言う名を貰って今まで乗り越えてきた。

でも大切な人が1人、また1人と増える度、その名前はふさわしくないのではと落ち込んだ。

ねぇ柴……貴方は私の側に、いつまでもいてくれるの……?

⏰:08/05/11 18:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#309 [向日葵]
―*7日目*―

お姉ちゃんがようやく……って思ったのに、どうしても何かに脅えてるみたい。
柴も何かありそうだし……。もう、あの2人ったら、一体何なのかしらっ!

(神田家・次女・桜談)



いつもの朝なのに、風景がいつもと違う風に見えるのはどうしてなんだろう。

でも今日は、学校へ行く事が許されない。
何故なら昨日倒れたのに学校へ行った事がお母さんにバレたからだ。

⏰:08/05/11 18:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#310 [向日葵]
こっぴどく叱られた上、言う事を聞かなければお小遣い抜きの脅しをされた。

それは困ると、大人しく今日はいるのだ。

時計を見て見れば8時を回った所。
よく寝たんだなぁー、と寝返りをうってドアの方を向けば、そこに柴が座り込んで寝ていた。

「し……っ!」

大声を出しそうになって、両手で口を塞ぐ。

どうしてここに?

体を起こしながら疑問に思った。
この頃朝方は冷え込んできたので、かぶっていた布団をかぶせてやる。

⏰:08/05/11 18:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#311 [向日葵]
柴が……好き。
間近で見つめながら自分が気づいた気持ちを復唱する。

柴が言えない心の闇。
それはもしかしたら、私と同じようなものなのかもしれない。
柴……私には、柴の闇を分かち合う事は、出来ないのかな……。

さらりと綺麗な茶色い髪の毛を撫でると、それに気づいたのか柴がゆっくりとまぶたを開いた。
間近で見つめていた私は、息を止めてしまった。
胸が当たり前のように高鳴る。

「お、おはよっ……」

「おはよう……」

⏰:08/05/11 18:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#312 [向日葵]
「なんでここに?」

「祐子さんが見張れって言ったから。ここにいれば越はでれないでしょ?」

「風邪ひいたらどうするのっ!もう、今日はちゃんと家にいるんだから。」

立ち上がろうとすると、手を握られた。
温もりを感じれば、鼓動の速度は速くなっていく。

「な、……何」

「昨日の事、怒ってる?」

昨日の事。
キスしようとした事。
一気に顔の温度が上がった。

⏰:08/05/11 18:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#313 [向日葵]
「や、そ、……お、怒ってない……っ。びっくりしただけ」

「許してくれる?」

「って言うか……その、な、なんであんな事……」

「なんで?分からないの?」

握られている手に力が加えられる。
灰色の瞳に熱が宿る。
泣きたくなるくらい戸惑ってしまう。

分からない。
心の中は、何1つ。

「じゃ、じゃあ教えて……くれない?」

⏰:08/05/11 18:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#314 [向日葵]
「教えても、越は大丈夫なの?」

え……。
それは、良い事ではないのかしら。

急に不安になってしまう。
気持ちの拒絶がこんなにも怖いと思ったのは初めてかもしれない。

どうしようか戸惑っていると、柴が静かに微笑んだ。

「大丈夫じゃないなら、まだ言う訳にはいかないよね」

と言って立ち上がった。

「何か作ってくる。待ってて」

⏰:08/05/11 18:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#315 [向日葵]
静かに閉まったドアを見ながら私は自分に呆れた。

ちゃんといつもの自分にならなきゃって思ってもうまくいかない。
好きって思ってしまうとどうしてこんなに臆病になってしまうんだろう……。

柴は優しい……。
私が悪いのに、いつも許してくれるのは柴だ。

私は、そんな柴に答えなくちゃならない。
しっかりしなきゃ……私。

決意を固めていると、携帯が鳴った。
どうやらメールのようだ。

⏰:08/05/11 23:39 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#316 [向日葵]
美嘉からだ。

<体大丈夫?今日の帰りお見舞い行くね!あ、立川君が心配してたよ。お見舞いには立川君も連れて行くと思うから!>

「た、立川君が……」

[貴方が好きです]

大きなため息をついた。
私の周りにいる人は、気まずい人ばかりだ……。
しかも立川君は、諦めないとか言ってたし……。
私どうなっちゃうんだろう……なんかグダグダだなぁ……。

「越。朝飯出来たよ」

「あ、ハイ!」

⏰:08/05/11 23:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#317 [向日葵]
とにかく今は柴だ。
柴の事に集中しよう……っ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

柴はサンドイッチを作ってくれていた。
間にはさんだ新鮮な野菜が美味しくて、ついさっきまで気まずかった事を忘れた。

「美味しい?」

「すっごく!」

そう言うと、柴は優しく微笑んだ。
なんだかホッとする。

「柴は食べないの?」

「食べたからいいよ」

⏰:08/05/11 23:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#318 [向日葵]
私の正面に座る。
じっと食べてる姿を見るので、食べずらい。

「あ、あんまり見ないで」

「幸せそうに食べるから嬉しいんだ。だから見てたいだけ。気にしないで」

気にするって。

「誰かに喜んでもらえるなんて、味わった事今まで無かったから……」

サンドイッチを食べる手を止めた。
あまりに柴が寂しげに笑うから、どうしていいかが分からなくなってしまった。

⏰:08/05/11 23:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#319 [向日葵]
感想板が新しくなりました
良ければ覗いてください


bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3624/

⏰:08/05/16 19:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#320 [向日葵]
言葉のレパートリーが少ない自分がとても歯がゆくなる。
もっともっと、安心させて、悲しい顔なんてしてほしくないのに……。

「あ、あの、お昼は私が作るから!」

気を紛らす為に話題を作る。
それで十分だったのか、うつむいていた柴は私の方を見ると柔らかく微笑んだ。

それを見て、私もつられて微笑んだ。
そして、決意をしたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ぐーたらしていると時間が過ぎるのが早かった。

⏰:08/05/16 23:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#321 [向日葵]
ほのぼのと柴と過ごしていると、気づけば学校が終わる時間になっていた。

「ねぇ柴。これから友達が3人来るんだ。だからしばらく私は部屋にこもるね」

「ふーん。お菓子でも買ってこようか?」

「来てからでいいよ。ありがとう」

部屋を少し片付けようと階段を上る。
部屋に入って散らかっている机の上の教科書を綺麗に並べ、乱れている布団を整えた。

空気の入れかえにと、窓を少し開ければ、心地よい風がカーテンを揺らした。

⏰:08/05/16 23:47 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#322 [向日葵]
もう秋か……。
制服も衣替えだなー……。

とか考えていると、チャイムが鳴った。

開けた窓から下を見れば、予想通り美嘉と椿、それに立川君がいた。

美嘉が誰よりも早く窓から顔を出していた私に気づく。

「やっほ越!」

美嘉の声に気づいた他の2人も、美嘉と同じように手を振る。

「ちょっと待ってて!」

階段を駆け降りる。

⏰:08/05/16 23:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#323 [向日葵]
下まで降りようとすると、柴が腕を組んで壁に背を預けていた。
降りてくる私を一睨みする。

「何でアイツ、いるの?」

アイツとは多分立川君の事だろう。
下までとりあえず降りる。

「だって友達だもん。当たり前でしょ?」

「越は少し、いや大分鈍すぎるよ。アイツの気持ちくらい分かるでしょ?」

気持ちを分かるって何なんだと、私の中に疑問が浮かんだ。

⏰:08/05/21 23:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#324 [向日葵]
その人の気持ちを100%分かるなんて不可能な話。
少しでも分かりたいと思えって聞いてみても、その人は闇を持っていて話してくれる気配なんとない。
傷つけるのが怖くて、でも甘えて欲しい。
それでも無理矢理聞かないのは、精一杯の自分なりの気遣いだ。

聞くな、いつか話す、でも気持ちを知れ。

そんなの無理だよ。柴。

「柴だって……私の気持ち分かってなんかない……っ」

そう言うと、柴は目を少し見開いた。

⏰:08/05/21 23:35 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#325 [向日葵]
それに構わず、私は玄関に向かった。

ドアを開けて、皆を招く。

「いらっしゃい。わざわざありがとう」

「お体……大丈夫ですか……?」

「ありがとう椿。もう大分良くなったから大丈夫だよ。」

自分の部屋に入れる為、また階段を上ろうとした時にはそこに柴はいなかった。

小さくため息をつく。

また気まずくなっちゃったなぁ……。

⏰:08/05/21 23:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#326 [向日葵]
>>233にアンカー

>>319に感想板があります

良ければ感想お願いします(。・ω・。)

⏰:08/05/21 23:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#327 [向日葵]
どうして気持ちが繋がったと思った瞬間、こういう事態が起こってしまうのだろうか。
上手く立ち回る事が出来ない自分を悔いる。

そう思う反面、距離を置ける事にホッとしている自分がいた。

大事な物を得る前に、心構えをしておきたい……。
私は過去の闇を、柴と共に拭い去る事は出来るだろうか……。

「あ、ねぇ越、ケーキ買って来たんだけど食べない?」

階段を上がりながら美嘉が聞いてきた。
手にはケーキが入っているだろう箱が持たれている。

⏰:08/05/27 23:31 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#328 [向日葵]
「じゃあ先に部屋入ってて。お皿持って行くから」

上りかけていた階段をまた下がった。
お皿と飲み物の準備をしていると、「ただいまー」と声が聞こえてきた。

「おねえちゃんただいまー」

「今日部活休みだったからあたしが迎えに行ったんだー」

リビングに苺と桜が顔を出した。

「ところで柴どうかした?庭でなんかたそがれてたけど」

「え……。さ、さぁ……」

⏰:08/05/27 23:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#329 [向日葵]
リビングから庭へ出たのか、と思う。
てっきり部屋にでも行ったのかと思った。

「おきゃくさんきてるのー?」

用意している物を眺めながら苺が言う。

「うん。お姉ちゃんのお友達。桜、悪いけど晩御飯頼むね」

「おっけーい」

お盆に食器をのせて部屋へ向かった。
手が塞がっといるので声をかければ、立川君が開けてくれた。

「わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。でももう元気だよ」

⏰:08/05/27 23:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#330 [向日葵]
「本当ですか……?」

身を乗り出すようにして、心配そうな顔で立川君が訊いてきた。

私はにこりと笑って1つ頷く。

「でも……無理はなさらないで下さいね……」

「ウン。ありがとう椿」

「そうそう週末課題出てるよ」

と美嘉が出すので苦い顔でプリントを受け取った。
最悪な事に苦手な英語だ。
各自お皿に分けたケーキを食べる。

⏰:08/05/27 23:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#331 [向日葵]
これがまた体に染みていくように美味しい。
疲れた時は甘いものとよく言うけど正にだと思った。

すると誰かの携帯が鳴る。

鳴っているのは椿の携帯らしかった。

「電話?」

「いえメールです……」

「まさか椿、あの無神経な婚約者とまだ続いてたの!?」

「えぇっ!?」

美嘉より私の方がびっくりして声をあげた。

⏰:08/05/27 23:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#332 [向日葵]
「椿……婚約者いたの……?」

「うちの決まりなんです……17歳を迎えたら、婚約者を決めろと……。」

「これがまた最低最悪な奴でね!!」

美嘉が憤慨してるというのに、椿はただ静かに笑っていた。
その笑顔は幸せそうに見えたけど、少し寂しく見えた気もした。

椿はどうやって運命を共にする人を決めたんだろうか……。

「椿はその人のどこが好きで決めたの?」

何気なく訊いてみた。
すると椿はまた静かににこりと笑った。

⏰:08/05/27 23:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#333 [向日葵]
>>233
に感想板があります良かったら使ってください

>>319はアンカーです

⏰:08/05/27 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#334 [向日葵]
すいません逆でした
233がアンカー、319が感想板です

⏰:08/05/27 23:51 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#335 [向日葵]
「必要としてくれているなら、それに答えようと思ったんです……」

必要……と口の中で椿が言った事を繰り返した。

柴は私を必要としてくれているのだろうか……。
好きになっても、いいのだろうか……。

悩んでいると、立川君が立ち上がった。

「おトイレお借りしてもいいですか?」

「あ、ウン。出た所にあるから。分かるかな」

「分からなかったらまた戻ってきます」

⏰:08/06/04 23:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#336 [向日葵]
扉が静かに閉まる。

立川君がいなくなって少しホッとすると思ってしまっては失礼だろうか。
でもなんとなく落ち着かない気分でいた。

「そういえば美嘉、どうして椿の婚約者は最低なの?」

「話せば長くなるのよ」

腕を組んでウンウンと頷く美嘉を見ながら、「最低」の烙印を婚約者に押された椿は苦笑いしていた。

同い年の椿ですら、既に決断して、自分の運命を受け止めようとしている。
自分を信じようとしている。

⏰:08/06/04 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#337 [向日葵]
私もいい加減くよくよしてないで、しっかり決めた事を実行しないと……。

深呼吸を静かにして、決意を固める。
そこへ立川君が帰ってきた。

「ケーキを食べ終えたら、そろそろお邪魔させて頂きましょうか」

立川君が言った。

「あ、私なら気にしないで。重病って訳でもないんだから」

「でも、休息をとられた方が、お体もよくなるのが早いですよ……」

椿の言葉に一同が頷く。
3対1ならば勝てる筈もなく、それ以上は何も言わなかった。

⏰:08/06/04 23:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#338 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・

「じゃあ、早く良くなってね」

「ウン。ありがとう」

美嘉と椿は迎えの車で一緒に帰って行っていった。
車が見えなくなるまで手を振ってから、まだそばにいる立川君を振り返る。

「立川君も、わざわざありがとう。もうちゃんと学校行けるから」

そう言っても、立川君の表情は、はれなかった。
心配してくれているのか、私の言葉を信用してないか分からない。

ただ眉を寄せて私をじっと見つめる。

⏰:08/06/06 23:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#339 [向日葵]
居心地が悪くなって、微妙に後退りし始めた時、手首を掴まれた。
びくりと体が震える。
何事かと立川君を見ても、先ほどと表情は変わっていなかった。

「な……何……?」

恐る恐る尋ねる。

「……神田さんにとって、神田さんの好きな人は本当に必要なのですか?」

さっきの椿との話だ。

その事なら、私も話があった。
唇をキュッとしめて、姿勢を正した。

「立川君……。私は柴が好きなのを勘違いだなんて思えない」

⏰:08/06/06 23:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#340 [向日葵]
立川君は眉間のしわを更に深めた。

「柴が好き。普通女の子って守ってもらうのが憧れかもしれない。でも私は、柴が抱えている闇や悲しみをまるごと包んで守ってあげたいの。……家族以外で、そう思った人は、初めてなの……」

「ならそれは、家族愛ではないので……」

「違うのっ」

立川君の言葉を遮り、否定する。

家族みたいな、親愛の情だけで、ここまで柴を想う事はない。

⏰:08/06/06 23:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#341 [向日葵]
さらさらの綺麗な茶色い髪や、神秘的で魅惑的なグレーの瞳。
甘える仕草、無邪気な笑顔、時々見せる苦しそうな、寂しそうな顔。
泣いたあの時の弱々しさ。

全てが、いとおしい……。

「私は立川君を好きにはなれない……。だって立川君を見ても、胸が苦しくなるような痛みは伴わないもの……っ」

手首を握る立川君の手の力が強まる。
あまりの力に顔をしかめた。

「ずっと……貴方だけだったのに……」

⏰:08/06/06 23:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#342 [向日葵]
「立川君……?」

「どうしても……僕は駄目なのですか……っ!」

背中に痛みが走る。
壁に押し付けられたのだ。

目の前にいるのは誰……?あのクールな立川君はどこに?優しい立川君は?
この人は……誰……?

「ずっとずっと好きだったのに、どうして僕じゃいけないんですかっ!」

恐い……っ。

「ご、ごめんなさ……」

「何故選んでくれないんですっ!」

そう言われた時、小さい頃の自分を思い出した。

⏰:08/06/06 23:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#343 [向日葵]
育てられなくて、私を捨てた両親。

どうして……。
どうして他の何よりも、私を選んでくれないの……?

どうして皆……私から離れてしまうの……?

足がガクガク震えだした時だった。
立川君が突き飛ばされて、私の前には長身の影が現れた。

「柴……」

「越になにすんだ」

私をかばって、立川君を睨みつける。
立川君も負けじと睨み返す。

⏰:08/06/07 00:01 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#344 [向日葵]
「邪魔しないで頂きたい。これは僕らの問題です」

「ふーん。怯えさせながらの話し合いで何が解決するの?」

立川君はギリッと歯を食い縛る。

「なかなか、いい根性してるみたいで」

「ありがとう。でもお互い様だよ」

立川君はしばらく柴を睨むと、落ちたカバンを拾った。

「神田さん、失礼します」

こちらの返事も聞かず、足早に立川君は帰ってしまった。

⏰:08/06/07 00:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#345 [向日葵]
いや、気付いたのだろう。
柴の背中で隠れるようにしながら、震えている私を。

柴の服の裾を、ギュッと掴む。

「越?」

優しい声で呼ばれたかと思えば、掴んでいた手を包むように握り、服から放させた。
依然、手は握ったままだ。

「ご……ごめ……」

フラッシュバックと、普段と違う立川君とで、頭がごちゃごちゃになっている。
震えがまだおさまらない。

⏰:08/06/07 00:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#346 [向日葵]
「大丈夫だよ。もう恐くない。ゆっくり深呼吸してごらん」

言われた通り、震えながらも深呼吸をする。
柴も私と一緒にやってくれた。
何回かやっていくと、段々と落ち着いてきた。
そして柴の顔を見る。

目の前に、茶色い髪が揺れている。
その向こうには灰色の瞳。
その色からは、私を気遣う温かさが感じられた。
穏やかに微笑まれれば、一層胸は切なくなり、頬に熱い滴が流れた。

それに柴は驚く。

⏰:08/06/07 00:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#347 [向日葵]
>>319に感想板がありますので、感想などあればよろしくお願いします

⏰:08/06/07 00:13 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#348 [向日葵]
「越……っ!?どうしたの?どこか痛い?」

慌てて壁に押し付けられていた背中をさすってくれる。
でも痛かった訳じゃない。
柴が来てくれた安心と、柴の笑顔がいとしく感じたのとが合わさって、なんだか胸が熱くなったのだ。

もっと柴がいると実感したくて、抱きつきたかったけど、恥ずかしいと感じる冷静な自分が心の隅に小さく存在していたのでやめた。

それでも、まだ涙は止まらない。

「とりあえず家入ろう?」

⏰:08/06/09 00:16 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#349 [向日葵]
優しく手を引いてくれる柴に素直に従う。

とりあえず、と、柴は皆がいるリビングより私の部屋まで連れて行ってくれた。
気遣ってくれたらしい。

ベッドに座らせてくれると、柴も隣に座った。
そしてまた背中をさすってくれる。

「痛くない?大丈夫?」

皆が来る前に、ヒドイ事を言ったと言うのに、柴は優しく私を心配してくれる。安心させなきゃと、必死に泣くのを堪える。
そのせいで、しゃっくりが出だした。

⏰:08/06/09 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#350 [向日葵]
そんな私を柴はクスクス笑った。

「まるで子供だね。しゃっくり出すだなんて……」

その笑顔にまた泣きそうになったけど必死に堪える。

「ご……ごめん……。すぐ泣きやむから……」

「いいよ別に。越も俺に甘えてくれてるから嬉しいし」

さっと顔が赤くなった。

柴に無意識の内に甘えていた自分が恥ずかしくなった。
おかげど涙も引っ込んでくれる。

⏰:08/06/09 00:23 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#351 [向日葵]
「そ、そういえば柴、庭にいたんじゃなかったの?」

「散歩に行ってたんだ。で、帰って来たらこうなってたって訳」

「会話……聞いてた?」

「会話?」

立川君との会話。
確実に私の好きな人が柴とバレてしまう会話。

聞かれていれば……マズイし気まずい……。

「んーあまり」

良かった……。

「越の好きな人は俺なんだーとは思ったけど」

⏰:08/06/09 00:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#352 [向日葵]
ん?としばらく動きをとめた。

それって……つまり。

……――――――っ!

「聞こえてるじゃないっ!」

動揺を隠せない私に対し、柴は楽しそうと言うか嬉しそうと言うか、にっこり笑っている。

「嬉しいなー。越が俺を好きだなんてー」

「ち、ちが……っ、あくまで家族としてで……」

「本当に?」

急に真面目な灰色の瞳が接近した。

⏰:08/06/09 00:29 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#353 [向日葵]
そんな真剣に聞かないで欲しい。
余計「うん」と肯定するのが恥ずかしくなってしまう。

「本当に、ちが……」

目をそらそうとした時、今以上に柴が近づいて距離を詰める。

「俺は越が好きだよ」

目を見開いた。

柴が……私を好き……?

「う……そ……」

「本当。ずっと前から好きって言ってるし、態度で示してるけど、越はまったく気づかないんだもんなー」

⏰:08/06/09 00:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#354 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで良かったらお願いします

⏰:08/06/09 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#355 [向日葵]
「そんな事……」

言われたって……。

「で、越は?」

また覗き込まれる。
顔が熱くなる。
顔が近づけば、その分私は離れた。

しかし何故か強気な柴は、更に近づく。

「な、な、にが……」

「俺の事、好き?嫌い?どっち?」

そ、そりゃもちろん好きだけど……。
……ええい……こうなりゃヤケだ……。

「普通!」

⏰:08/06/13 00:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#356 [向日葵]
はい……?

自分の言った言葉に自分で驚く。
やっぱりと言うか柴も驚いている。

わ、私、今何って?

「普通……って……。」

柴がうなだれて頭をポリポリかく。

ああやっぱり普通って言っちゃったんだ私……。
ヤケだ!と意気込んだ割りに全然ヤケになってない辺り自分がとことん情けない……。

「や、だって、その……」

「まぁいっか……。嫌いって言われるよりマシだしね」

⏰:08/06/13 00:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#357 [向日葵]
柴はニッと笑う。

「でもきっと好きって言ってもらえるようにするから。越も俺が越を好きって分かったなら、ちゃんと意識してよね」

くしゃりと前髪辺りを撫でる。

意識なんて、ずっと前からしてる。

その笑顔、その声、その瞳……。
柴の全部が、私のたった1つの心臓を揺れ動かす。

私もいつか……言えたなら……迷わず言いたい……。大好きって……。

⏰:08/06/13 00:07 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#358 [向日葵]
―*8日目*―

なんか最近、越姉の雰囲気が変わったみたい。
なんて言うの、女っぽくなったって言うか……。
もしかして柴のせい?
(神田家・長男・空談)



「さてと……。柴、どれから乗る?」

「絶叫系以外……」

「なんでよっ。せっかく遊園地に来てるっていうのに!」

今日は土曜日。
私は柴と遊園地に来ているのだ。

⏰:08/06/13 00:12 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#359 [向日葵]
何故かと言うと、それは昨日の事だった。

―――――――――
―――――――――――

[フリーパスチケットォ!?]

お母さんが会社から2枚のフリーパスチケットを貰ってきたのだ。

[たまには皆で遊んどいで。いつもあたし達が世話んなってっからね]

1枚で3人までいけると言うなんとも素晴らしいチケット。
遊園地なんていつぶりだろうと心踊らせ、皆にどうするか訊いてみた。

……が。

⏰:08/06/13 00:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#360 [向日葵]
桜は。

「明日丁度試合があんだよねー。またじゃ駄目?え、明日までなのー!?最悪ー。じゃあ楽しんできて」

空は。

「明日サッカーの試合あるんだよね。オレ期待されてるから無理ー」

苺は。

「あのねー、みよちゃんといっしょにぱんださんみにいくのー」

と、言う訳で、行く人は私と柴のみ……。
ってこれって……デートとか言う!?

⏰:08/06/13 00:18 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#361 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで良ければお願いします

⏰:08/06/13 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#362 [向日葵]
―――――――
―――――――――……

そして現在に至る訳で……。

ノリノリで最初からジェットコースターとか急流滑りとかバイキングとか乗ってたら柴の顔が青ざめてしまったのでした……。

「じゃあ、えと、コーヒーカップとか」

「あのさ、越。なんで超スピードで動くか回るかのやつしか選ばないの?」

だって好きなんだもん……。

「じゃあ柴何乗りたいのさーっ」

⏰:08/06/16 00:42 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#363 [向日葵]
気分治しで買ったペットボトルの水を手で遊びながら柴は考える。
私はそんな柴の前で腰に手をあてて待った。

「ゴーカートとか……」

「えー。私あれ上手く操作出来ないんだけど……」

「2人乗りだってあるよ。行こう」

ごく自然に、柴は私の手を取り歩き出す。

ちょっと!柴、手!手が!

嫌な訳じゃないけれど恥ずかしい。
デートみたいじゃないか!?と緊張していた事は忘れていた。

⏰:08/06/16 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#364 [向日葵]
だから忘れていた分余計恥ずかしくなる。

肌寒さを感じるくらいに涼しくなった。
柴の手は、いつもひんやりしている。
きめ細かい手はすべすべしていて、手を離すのがもったいないとすら感じる。

もっと……指先で、手全体を使って、触りたいな……。

……!?
今、なんか変態っぽくなかった!?

「越、2人乗り出来るよ。良かったね」

今思っていたピンク色した考えを片手で慌てて消しさる。
柴は時々鋭いから、気づかれたらヤバイ。

⏰:08/06/16 00:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#365 [向日葵]
「そだねっ!じゃあ柴に運転任しちゃおっかな!」

「顔赤いけど、どうかした?」

先ほどまで触りたいなどといやらしい気持ちを抱いて見ていた柴の手が、するりと私の頬を包む。
顔の赤さは更に倍増。

完全に気づかれた。

案の定、柴は意地悪そうに笑う。

「越、なんかいやらしい事でも考えてたの?」

「ち、違う!」

いやそうなんだけど……。

⏰:08/06/16 00:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#366 [向日葵]
「じゃあなんで赤いの?」

「暑いだけ!」

柴はクスクス笑って「そう」とだけ言った。

周りから見れば物凄いバカップルだなんて思われてるのを知らず、私の顔の赤さは引かないままだった。

順番がまわってきて、カートに乗る。
……けど、狭い……。
お互いの肩が触れてしまいそうだ。

「右がアクセル、左がブレーキとなっています。それではいってらっしゃーい!」

⏰:08/06/16 01:02 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#367 [向日葵]
と係のお姉さんが言った途端カートは派手な音を立ててギュンッと進んだ。

「わー、結構スピード出るー!」

と関心していたら伸びてコースにまで出てきていた枝に頭を当てた。
横で柴が笑いだす。

「しっかり前見てなよ」

「失礼な!見てたもん!」

ムキになれば、また柴は派手に笑って、アクセルを更に強く踏む。

「やっぱり越はそうでなきゃね」

「え?」

⏰:08/06/16 01:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#368 [向日葵]
片手でハンドルを持って、もう一方の手で私の頭をくしゃりと撫でた。

「うろたえて赤くなってる越も可愛いくて好きだけど、笑ってる越が一番好きかな」

そう思うならそんな事言わないでほしいんですけど……。
また顔が赤くなる。
あまり見られたくなくてそっぽを向いた。

「柴の頭文字のSはドSのS……」

このまままた気まずくなるのが嫌で、ぼそりとそう呟いてみた。

「俺どっちかって言うとMでしょ」

「カミングアウトしちゃうんだ!」

おかしくなって、今度は私が笑いだした。

⏰:08/06/16 01:10 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#369 [向日葵]
>>319に感想板ありますんで良ければお願いします

⏰:08/06/16 01:11 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#370 [向日葵]
それにつられて柴も笑い出す。
そうこうしてる間に、ゴーカートの短い道のりは終わってしまった。

「あー楽しかった!あ、風船配ってる!ちょっと待ってて!」

私はうさぎの着ぐるみを来た人の元へ興奮しながら走って行った。

********************

越が楽しそうに風船を取りに行く姿を柴は穏やかに見ていた。
そして近くのベンチに座る。

ベンチに座って、改めて周りを見れば、家族連れがやはり多かった。

⏰:08/06/20 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#371 [向日葵]
そう思えば柴は自分の小さい頃を思い出していた。

もちろん、遊園地など連れて行ってもらった覚えは無かった。
それもそのはず。
両親はずっと仕事だと言って柴を構う事なんてしなかったからだ。

柴を相手したのはメイドや家庭教師。

しかし彼らが柴の心を満たせるはずもなかった。

どうあがいても彼らは他人だからだ。
対等な関係、本気の愛情、そんなものは一切ない。
自分が彼らに相手してもらったのは、大企業の息子だからだ。

⏰:08/06/20 00:40 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#372 [向日葵]
ちゃんと愛情を与えて接してくれたのは早代だけだった。

冷たく閉ざされた心を温かく溶かしてくれた。
きっと忘れる事は出来ない。

そうして早代の事を考えれば彼女の事が気になりだした。
あれから早代は幸せに暮らしているだろうか。
もしかしたら別れて別の場所にいるのだろうか。

柴との関係がバレた時、彼女は酷い仕打ちにあっていた。
その悲痛な声は、まだ柴の耳の奥に鮮明に残っている……。

⏰:08/06/20 00:44 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#373 [向日葵]
「柴?」

ハッとする。

近くに越が赤い風船とオレンジの風船を持って立っていた。

「少し休む?なんかしんどそうだよ?」

柴を覗き込む越を、柴はまぶしそうに見つめた。

早代が溶かしてくれた心が、再び冷たく閉ざされていた時、再び温もりをくれたのは越だった。

見ず知らずの大人を、何の躊躇いもなしに助けてくれた、自分にとってかけがえのない少女。

それこそ早代よりも大きな存在。

⏰:08/06/20 00:48 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#374 [向日葵]
「あ、あのね、風船2個貰ったんだっ。柴どっちがいい?」

“柴”。

新しく与えられた自分の名前。

越がつけてくれた特別な名前。

自分の名前がこんなにいとおしいと思った事はこれまでに一度も無かった。

「どっちでもいいよ。越が好きな色を持ってなよ」

「そう?柴はオレンジ選ぶかと思ったんだけどなー……」

「なんで?」

⏰:08/06/20 00:52 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#375 [向日葵]
「お日様色の方が柴は好きかなって。ホラ、オレンジって温かな感じするでしょ?だから柴はそういうのが好きそうだなって」

無邪気に笑う越を抱き締めたい衝動にかられる。
それをぐっと我慢して、彼女の風船を握る手を柔らかく包む。

越の顔が、赤い風船のように色づく。

「……し、柴……?」

「ありがとう……越……」

「あ、風船?いいよ別にそんな!タダだし!」

そうじゃない。

自分を見つけて、助けてくれて、ありがとう……。

柴はそう言いたかったのだ。

⏰:08/06/20 00:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#376 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで、感想あればお願いします

⏰:08/06/20 00:57 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#377 [向日葵]
「ねえ越。最後に観覧車に乗ろうよ」

******************

と柴が言ったので、観覧車に乗ったはいいものの、心の中で失敗したなと私は思った。

なんて言っても密室に15分間2人きり。
ゴーカートとは違う2人きりの雰囲気に戸惑いを隠せない上、誘った張本人である柴はさっきから窓の外を見つめたっきり喋ろうともしない。

さっきから話題話題と頭をフル回転させてる私もそろそろ限界だった。

「越……」

柴がポツリと私の名を呼んだ。
やっと喋ってくれた事にホッとする。

⏰:08/06/24 23:45 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#378 [向日葵]
「何?」

「どうして俺を拾ったの?」

「何、突然……」

灰色の瞳が私を見る。
暮れかけた太陽のオレンジ色が混ざる。
胸がドキドキしだす。

「あのままほっておかれたら、多分今の俺がいない気がする。時々思うんだ。今の俺が本当の俺なのかなって……」

「本当の……柴……?」

柴は頷く。

「自分が自分でなく感じる。誰かに優しくしたいとか、誰かを大切にしたいとか……今まで思わなかったんだ」

⏰:08/06/24 23:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#379 [向日葵]
柴は自分の両手を見つめる。

私はむしろ柴がそんな感情を持った事がないと言った事が不思議だった。

柴を拾った時から喋る事以外は柴のままだったからだ。
冷たいとか酷いとか思わなかった。
初対面の苺にだって優しく接していたし、柴に愛情を注いでくれた早代さんの事を話す時だって、いとおしそうな顔をしていた。

「人って何かに触れたりする度に変われるものだよ。私だって、前とはきっと全然違うだろうし……」

柴がまた私を見る。

⏰:08/06/24 23:54 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#380 [向日葵]
「柴は今の自分を受け入れたらいいと思うよ。変わる事は怖くなんかないから。怖かったら助けてあげるから」

柴が目を細めて、口をゆっくりと笑みの形にする。
太陽の光で、柴の目が輝いて見える。
それに私はまたドキドキした。

私……なんか恥ずかしい事言っちゃったかも……。

「い、いつの間にか頂上過ぎちゃったね!あ、あれって駅かな!わーあんなに小さい!」

恥ずかしさを紛らわす為に窓に張り付く。

⏰:08/06/24 23:58 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#381 [向日葵]
目は窓の外でも神経は私を見つめているだろう柴にそそがれていた。

すると柴が言った。

「そっち行っていい?」

「え?」

私が返事するのも待たず、立ち上がった柴は、私の隣に座った。

「え、ちょ、柴!?」

動揺してる私とは違って、柴はにっこり笑っているだけだ。

「肩貸してくれない?」

肩……?

⏰:08/06/25 00:04 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#382 [向日葵]
また私が返事する前に、柴の頭が柔らかく私の肩に触れた。
重さは感じない。
本当に軽くのせている程度だ。

いつもの甘えている雰囲気のようだけれど、どこかまた違う甘い雰囲気……。
茶色い綺麗な髪の毛が、私の頬と顎をくすぐる。

不思議と恥ずかしくはなかった。
それよりなんだか柴が泣いているような気がして、つい頭を包むように抱き締めてしまった。

大丈夫、そばにいるよ……。

そう言っているつもりで抱き締める。

⏰:08/06/25 00:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#383 [向日葵]
その時の2人を包む沈黙は、意外にも心地良いものだった。

―――――――……

帰り道。
何故か手を繋いで帰っている私と柴。
口数も少なかった。
まるで手だけで会話しているようだった。

時々ちらりと顔を上げて柴を見れば、柴は私の視線にすぐ気づきにこりと微笑むだけだった。
それが恥ずかしい私はまたすぐ前を向く。
そんな一連の流れを何回か繰り返した。

もうすぐ家だと思えば、ちょっと物足りない気がした。

⏰:08/06/25 00:14 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#384 [向日葵]
門の鍵を開けなくちゃならない。
その為には柴の手を離さなくちゃならない。

「えと……鍵、出すね……」

名残惜しそうに手を離す。

そして門を開けた。
その時だった。

「大和君!」

女性の声だった。
門を1歩入った私が振り向くと、柴が女性に抱き締められている所だった。

思わず目を見開く。

誰……?それに、なんで柴の本名を知って……。

⏰:08/06/25 00:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#385 [向日葵]
「早代……っ!なんで……」

体を離しながら柴が言う。

この人が、早代さん……っ。

「探したのよ!あれからずっと……。どうして何も連絡をくれなかったの……っ!」

うつ向いて顔を覆う早代さん。
柴に負けないくらい綺麗なこげ茶色の長い髪の毛をさらりと垂れる。

「俺は勘当された身だよ。今更連絡なんてする訳ないじゃないか」

「ううん大和君。旦那様はまだ正式にはしてないって仰ってるの。旦那様も大和君を探してるわ……っ!だから帰りましょう……」

⏰:08/06/25 00:24 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#386 [向日葵]
>>385
×長い髪の毛を
○長い髪の毛が

⏰:08/06/25 00:26 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#387 [向日葵]
柴は私を見る。
私はどうしたらいいか分からないから柴を見つめ返すしかなかった。

そして柴はまた早代さんに視線を戻す。

「帰らないよ、早代……。俺はもう、あの家には帰らない。絶対……、帰りたくないんだ……」

早代さんは涙を流したまま柴を見つめる。

「私がいても……?私がいるから、変わらず貴方を愛するわ。……息子としてだけれど……だから」

「早代」

静かな、だけど強い口調で柴は早代さんを呼ぶ。

「無理だ。早代はまだ俺の事を息子として見てない。また父さんの怒りを買うだけだ……。帰ってくれ」

⏰:08/06/25 00:30 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#388 [向日葵]
早代さんは一際涙を流すと、踵を返して走って行ってしまった。

そんな早代さんを見てから、柴を見る。
柴の表情は厳しくて、悲しそうだった。

柴……貴方もしかして、まだ早代さんが好きなの……?

今の柴は柴じゃない……。

伊勢屋 大和。

過去の柴だ。
そんな柴を、このまま家にいれる訳にはいかない。
そう思った。

「柴、追いかけなきゃ……」

⏰:08/06/25 00:34 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#389 [向日葵]
柴は驚いたように私を見る。

「なんで?」

「早代さんが、気になるんでしょ?」

「そんな事……」

「嘘つかないで」

柴の言葉を遮る。
困ったように柴は眉を寄せた。

でもそんな表情ですら柴でないような気がしてならなかった。

そしてそう思えば思うほど、私の心は段々と不安になっていくのだった。

⏰:08/06/25 00:37 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#390 [向日葵]
柴……貴方の好きなのは本当に私?

貴方は私を早代さんと重ねてはいない?

ああ、柴……、偉そうな事言ってごめんなさい。
何が“変化を怖れないで”よ……。
今、柴が違うように見えただけで、私はとても怖れている。

いつか柴の本当に好きな人が私ではないかと気づいてしまったら……。

「早く、行って!」

震えないように、毅然と柴を見つめて言う。
柴はやはり困っていた。

⏰:08/06/25 00:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#391 [向日葵]
お願い行かないで……。
そのまま困って、私のそばにいて……。
お願い、柴……。


「……分かった。行ってくる」

そう言って柴は、早代さんが走って行った方へと行ってしまった。

ホラね……。
大切で、特別だと思った人は、やっぱり皆私から去っていく。

ううん違う。
行かせたんだ、私が……。
私の事はいいから、幸せになってと、自らその引き止めるべき手を離していたんだ……。

⏰:08/06/25 00:46 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#392 [向日葵]
柴も……お母さん達も……。

「柴……」

私がつけてあげた名前……。

視界が突然滲む。
涙が次から次へと流れていった。

どうしてだろう。

もう見えないのに、柴が走って行った方向を見つめながら思った。

どうしてだろう……。
もうね、柴が、ここへは戻ってこないような気がするの……。

「バイバイ……」

この言葉しか、出てこないの……。

⏰:08/06/25 00:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#393 [向日葵]
>>319に感想板があるので良ければお願いします

⏰:08/06/25 00:50 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#394 [向日葵]
でもいいや……。
柴が幸せになるなら、笑って毎日が過ごせるようになったら……。

そこに私達はいないけれど……。

いいの。

柴。
柴は自分の幸せを祈って。
もう悲しまないように……。

「お姉ちゃん!」

後ろから声が聞こえてきた。
でも私は振り向く事が出来なかった。

「お姉ちゃんただいま!どうかした?向こう向いて」

⏰:08/06/29 01:49 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#395 [向日葵]
どうやら桜らしい。
桜は私の顔を後ろから覗き込んで驚く。

「お姉……ちゃん……」

「桜……幸せを願うって難しいね……」

どんなに口で言っても、頭では分かっていても、やっぱり思ってしまうのは……。

「そばにいて欲しかった……っ。ずっとずっと、一緒にいたかった……っ!」

大好きだったのに、言う事さえ出来なかった。
言ってあげられなかった。

柴はいっぱい気持ちを伝えてくれたのに……。

⏰:08/06/29 01:53 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#396 [向日葵]
「柴が……行っちゃったよぉ……っ!」

桜に抱きついて、私はわぁっと泣いた。

ただ悲しくて、ただ切なくなった。
背中を押したのは自分のくせに、今になって後悔した。

あの観覧車の中、柔らかく茶色い髪の毛が、懐かしく感じた……。

⏰:08/06/29 01:56 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#397 [向日葵]
―*9日目*―

しばちゃんがいなくなっちゃったの。いちごさみしいな。でもね、いちばんさみしそうなのは、おねえちゃんなの。
(神田家・三女・苺談)




柴がいなくなって4日が経った。
何の音沙汰もない空白の時間は、気持ち悪くて仕方なかった。

それでも私の毎日は、いつも通りにやって来て、朝ご飯を作る時、いつもはある頭の重みがないのが物足りなかった。

⏰:08/06/29 02:00 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#398 [向日葵]
―――――――…………

「旅行?」

「ウン。今度の金土日使って、椿んちが持ってる別荘まで遊びに行かない?」

「湖が綺麗に見える場所なんです……」

「いらない奴もついてくるけどね……」

不機嫌そうに呟く美嘉を見て、椿に「誰が?」と目で問いかける。
椿は苦笑いしながら答えた。

「婚約者の方も、ついて来るとおっしゃってまして……」

「ああ……私はいいけど……」

⏰:08/06/29 02:05 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#399 [向日葵]
「美嘉はぜーったいあんな奴認めないんだからね!!」

そんな美嘉の言葉にも、椿はにこにこ笑う。
その笑顔が、前に話していた時よりも幸せそうに感じたのは気のせいなのだろうか?

幸せ……。
窓から空を眺める。

今日は少し曇り空だ。
灰色の雲が重たそうに感じる。

『越』

……同じ灰色なのに、綺麗に感じないのは、どうしてなんだろうなぁ……。

⏰:08/06/29 02:09 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#400 [向日葵]
******************

某所の高級住宅街でも一際大きく豪華な家が伊勢屋家の物だ。

その中にある一室に柴はいた。

4日前。
とりあえず来てちゃんと話合ってくれと訴える早代に渋々ついて行き、すぐに父と会えるのかと思いきや、父はその前の日から出張でフランスへ行ってるらしく、会う事は不可能だった。

それならばと帰ろうとした柴を、早代は止めた。

[どうして帰ろうとするの?貴方のお家はここでしょ?]

[前はね。今は違う。家族以上に家族な人達が俺を待ってるんだ]

⏰:08/06/29 02:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#401 [向日葵]
越……。

心の中で呼ぶ。

早く会いたい。
本当に自分は越から離れて良かったのかずっと考えていた。

好きと言ったのに、早代を追いかけてしまった……。

[もうこの家にはなんの未練もない。俺の事なら、探さないでいいから]

そう言って早代の隣を通り過ぎて間もなく、柴の前にがたいのいい男2人が立ちはだかった。

思わず驚く柴の隙をついて、2人は柴を取り抑えた。

⏰:08/06/29 02:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#402 [向日葵]
[ちょ、お前らなんだ……っ!]

そして連れてこられた部屋が現在いる柴の部屋だったのだ。

外からしか鍵は開けられず、窓からの脱出を試みるも2階だ。
しかも下には先ほどのSPらしき男達が何人かいた。

携帯も圏外。
連絡を取れないのはそのせいもあった。

そろそろ閉じ込められるのに限界を感じてきた柴は、部屋にあった大きくフカフカしたベッドに身を沈めた。
すると、ドアをノックされた。
返事をせずにいると、静かにドアが開かれる。

⏰:08/06/29 02:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#403 [向日葵]
「大和君、起きてる?」

早代だ。

起き上がって、戸口にいる早代を睨む。

「どうしてこんな事されなきゃなんないの?俺帰りたいんだけど」

「……私は、貴方にここへ帰ってきて欲しいの……」

「早代は父さんの妻だろ?なのに俺に執着するのは間違ってる」

口ごもる早代。
しかし柴は容赦しなかった。

「間違いだったのは確かに俺だ。でも離れて分かった。俺は早代に逃げてただけだって」

⏰:08/06/29 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#404 [向日葵]
誰も愛してくれない。
無気力になっていた自分。
そんな中、愛してくれた早代。

恋だと思った。
でも実は違った。

自分が何者か分からないから早代でその存在する意味を確かめていただけだったのだ。
自分で、見つけようともせずに……。早代を、利用してしまったのだ。

早代もまた、望んでない結婚を、柴に、いや大和に逃げる事で何もかも見ないようにしていた。

2人の間に、やはり愛などなかったのだ。

⏰:08/06/29 02:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#405 [向日葵]
[力を合わせて乗り換えていける]

そう言ってくれたのは……。

[安心していいんだよ]

そうやって、逃げず、手を取り合って、困難を乗り越えようと言ってくれたのは、越ただ1人だった。

越。
何でも越えれるようにと願いを込めて名付けられた彼女の名前。
彼女の何事にも前向きな姿、でも、触れれば壊れてしまいそうな脆さに、自分は惹かれたのだ。

「俺は逃げない。逃げたくない。早代、逃げちゃダメなんだ」

⏰:08/06/29 02:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#406 [向日葵]
悲痛な顔をして聞いていた早代は、急にハッと背後に視線を向けた。

「旦那様が、帰って来たみたい……」

柴は立ち上がった。

会うのは何ヶ月ぶりだろう。
柴は父が苦手だった。
呼べば振り向くも、何の感情もない目が怖くて堪らないからだ。

今も胸の奥で、鼓動がスピードを上げていってる。

[大丈夫]

柴はハッとした。

越……?

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#407 [向日葵]
>>319に感想板があるんで、良かったらお願いします

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#408 [向日葵]
携帯変わりましたが向日葵です

⏰:08/07/07 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#409 [向日葵]
彼女がいる訳がない。

そう思っていても、柴は辺りを見渡さずにはいられなかった。

あぁでももう大丈夫だ。
越が見守ってくれている気がするから……。

柴は早代の後をついて行った。

―――――――――…………

「旦那さま、大和君が帰って参りました」

中から返事はなかった。
本当に帰って来たのか?と柴は疑問に思った。
しばらく沈黙が続く。
早代は辛抱強く返事を待っている。

「大和を入れなさい」

⏰:08/07/07 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#410 [向日葵]
早代は目だけで柴に入れと促す。
柴はもう1度ノックをしてからゆっくりとドアを開けた。

「失礼します……」

ドアの閉まる音が、やけにやかましく感じた。

父は椅子にもたれて窓の方を向いている為、柴には背を向けている。
その表情は、怒っているのか、やっぱり無表情なのかは確認出来なかった。

「どうして、俺を……?」

重苦しい空気に堪えきれず、柴が口を開いた。
父が座っている椅子が、短くギィッと軋む。

⏰:08/07/07 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#411 [向日葵]
やがて長いため息が聞こえた。

「やはり苦手だ」

「は……?」

父は椅子から立ち上がり、窓辺に立つ。
ようやく見えた父の姿に、そういえばこんな姿をしていたっけと柴は呑気に思った。

たった数ヶ月の筈なのに、とても長い間会っていなかった気がするのは何故だろう。

「私の会社は、先々代から続くものでな……。常に成績が全ての家系だったんだよ」

何を話したいのかさっぱりな柴だが、首を傾げながらも父の淡々とした口調に耳を傾けた。

「私は、父や祖父の厳しい顔しか思い出せない……」

⏰:08/07/07 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#412 [向日葵]
そんなの自分だって同じだと柴は思った。
厳しい顔か無表情な顔しか自分は見た事はない。

ただ……と柴は思う。

依然父は窓の外を見たままだ。

「私はそんな両親が嫌いでね……。どうして私自身を見てくれないのかと頭を抱えたものだよ」

「それが……なんなの……」

柴が静かな問うと、父はゆっくりと振り向き、柴を真っ直ぐに見つめた。
父とこうして喋るのは、初めてな気がした。

「それが嫌だから、私は繰り返したくないと思ったんだ」

⏰:08/07/10 23:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#413 [向日葵]
嫌だって……。
だけど自分は……と柴は顔を少し険しくした。

その柴の思いに気づいたのか、父が口を開く。

「驚いたんだ。繰り返したくないと言いながら、私はお前が生まれて、いざ行動にうつした時、愛し方が全くわからなかったんだ」

「嘘だ」

反射的に柴はそう答えた。

「自分がしてもらいたい事をすればいいんじゃないのか……?」

⏰:08/07/10 23:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#414 [向日葵]
父は自分の両手を見つめる。
そしてまた柴を見つめた。

「いざとなるとね、自分が何をしてもらいたかったか分からなくなるんだ……。自分はどう愛して欲しかったのか、何をして欲しかったのか……」

そう言われて柴はハッとする。
その言葉に、納得してしまったからだ。

愛情が欲しいと思った。
でも愛情と言うのはどういう風にもらうのか、柴は知らない。
そうしたものをこめて接してもらった事がないからだ。

どうして欲しいか分かったのは早代が現れ、越が現れたからだ。

早代が自分を可愛がり、越はたくさんの笑顔をくれてからだ。

⏰:08/07/10 23:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#415 [向日葵]
自分は誰かから抱き締めてもらいたかったし、抱き締めたかった。

成長する過程で、親が赤ん坊を抱くのを大切とするように。

自分は、抱き締められた記憶すら、小さい頃にはなかった。

「じゃあ、今何をしたいか分かるの?分かるなら、俺が出ていく時、早代に酷い事したの?」

まだ納得してないような態度をとり、父の本当の気持ちを引き出すよう尋問する。

父は苦い顔をして机に寄りかかり、目を伏せた。

「あれは、確かに酷かったと思う……。怒りに任せてしていい事ではない……」

⏰:08/07/10 23:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#416 [向日葵]
伏せた目を覆うように、片手で目元を隠す。
そしてボソリと呟く。

「怖かった……。また去っていくのかもしれないと思うと……」

柴は、実は知っていた。

前の母親が出て行ってしまった日、柴は通りかかったのは父の書斎だった。
少し開いたドアの隙間から見る父は、窓辺に手をつき、肩を落としていた。

それこそが、父の本当の姿ではないのか?と思ったのを、柴は今でも覚えている。

「それでも早代がそばにいてくれたのが嬉しかった。私はこんなだから、それを詫びる事も未だ出来ていないが……本当に申し訳なかったと思ってる……。早代も、大和……、お前も……」

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#417 [向日葵]
>>319に感想板があるので良ければお願いしますm(__)m

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#418 [向日葵]
父は柴に歩みよる。
何も言わず、ただじっと柴を見つめたかと思うと、ためらいがちに手を伸ばし、柴の頭を柔らかくくしゃりと撫でた。

「本当は、抱き締めてみたいものだけど、今はこれが精一杯みたいだ……」

父が苦笑いを浮かべる。
柴は目が潤む。

この温かな瞬間を、どれほど自分は待ち望んでいただろうか。
抱き締めてくれなくてもいい。
不器用に撫でてくれる手から、何もかもが伝わってくる。

「大和、うちへ戻ってきなさい……」

柴はうつむいて、ひそかに目をこすった。

⏰:08/07/16 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#419 [向日葵]
「もう少し……考えさせてほしい……」

こちらに戻るというのは、越達と離れなきゃならないということ。
柴はまだ、越や他の皆とは離れたくない気持ちでいっぱいだった。

「分かった……とりあえず、お互いのリハビリもかねて、2、3日ここで泊まるというのはどうだ?」

越や、越達は、心配してるかな……。
ふと柴は思う。
父の問いには答えず、柴は唐突に言う。

「電話を貸してくれる?」

*******************

仕事が休みだった主婦祐子はリビングで雑誌を読みながら軽く茶をしばいていた。

⏰:08/07/16 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#420 [向日葵]
今日の午後の予定をあれやこれや考えていた祐子は越の様子が気になっていた。

いつも通り、朝早く起きて皆の為にご飯を作って、苺や空の面倒を見てから学校へ行く。

それは別にいいのだ。

行動がおかしいのではない。
越が身にまとっているそのいつも通りすぎる雰囲気がおかしいのだ。

ちょうど4日程前。

祐子は残業で遅く帰っていた。
玄関を開ける前にふと気づく。
リビングの明かりがついているのだ。

どうせ消し忘れだろうと、「ったく」と思いながら帰宅した祐子を待っていたのは、ソファに縮こまって座っていた越だった。

⏰:08/07/16 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#421 [向日葵]
帰ってきた祐子に気づいた越は、祐子の方に顔を向けて薄く笑った。

[お帰り……]

[どうしたの……?]

[ん……?ちょっと、目が覚めちゃって……]

そんな風には見えなかった祐子は眉を寄せる。
越の隣に腰を下ろす。

[お母さん……。お父さんの幸せの為なら、悲しいのも寂しいのも我慢出来る……?]

淡々と静かに語る越。
何故こんな事を聞くのかが分からなくて、あまり考えず祐子は[うん]と肯定した。

⏰:08/07/19 15:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#422 [向日葵]
すると越は力を抜くようにして微笑んだ。

[じゃあ、仕方ないね……]

[……越、何があったの?]

膝を抱えていた越は、自分の膝に顔を埋めた。
小さく微かに肩が震えているのは気のせいだろうか。

[柴が……行っちゃった……]

どこに、なんて聞かなくても、あの謎めいた甘えん坊の彼がどこへ行ってしまったか祐子は分かった。

[寂しいけど……大丈夫だよね……。またいつもの生活に戻っただけだもんね……]

明るい声を出しながらも、微かに滲んでいる悲しみの色や、微かに震えている声は、大丈夫じゃなかった。

⏰:08/07/19 15:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#423 [向日葵]
それでも、越は弱音を吐かない。
どんなに聞いても、何もないと微笑むだけ。

そんな越を、優しく包み、癒してくれていたのは、突然雨の日にやってきた、あの青年だけなのだった……。

*****************

突然鳴り出した電話に祐子は回想の世界から帰ってきた。

「ハイハイ」と立ち上がって、電話の所まで行く。

「もしもし」

{あ……祐子さん……}

「柴……っ!?」

⏰:08/07/19 15:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#424 [向日葵]
「アンタどこにいるの!」と怒ってしまいそうになったが、怒鳴ったところで何も解決しないので、祐子はその言葉をを飲み込んだ。

{越は?}

「時間見れば分かんでしょ。まだ学校よ」

{そっか……}

祐子は密かにため息をついて微笑む。

どんな時でも、柴は越が第一か……。

「携帯に連絡したらいいでしょ。電話は無理でもメール見てくれるかもよ」

{あ……うん……ありがとうっ}

「柴」

{……何?}

祐子はしばらく黙った。
黙って、ここ最近の越をまた思い出していた。

「アンタの幸せを1番に考えなさいね……」

⏰:08/07/22 10:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#425 [向日葵]
例えそれが、越を悲しませる結果になっても……。
だって、柴はもう家族同然なのだ。
それならば、息子には、幸せになってもらいたい。
祐子はそう思った。

{……ありがとう}

呟くように言ってから、柴は電話を切った。
祐子も受話器を静かに置く。

「頑張りなさい……。柴……」

******************

明日から旅行か……。
突然だけど、お母さん許してくれるかな……。

「越、ここの問題ってどうしたらいいの?」

⏰:08/07/22 10:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#426 [向日葵]
午後の授業中。
ぼんやりとノートを眺めていた私は、隣の美嘉に話しかけられた。

「あ、えとね……。反比例のグラフだから……」

突然、スカートに入れていた携帯が鳴りだした。
微かに聞こえるバイブ音に、美嘉も気づいたらしい。
目で「越の携帯?」と聞いてきる。
私も頷きながら「自分だ」と自分を指差す。

先生が歩いて皆が問題を解けているか見回っている。
こちらを見ていないか、近くにいないかを確かめてから、机の下でそっと携帯を開く。

メールだ……。
誰からだとボタンを押して、私は声が出そうになるのを抑える為口に急いで手を当てた。

⏰:08/07/22 10:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#427 [向日葵]
柴……っ。

画面を見たまま固まった。

柴だ……柴だ……!
それしか頭になかった。

ハッと我に返って、メールを開こうとした。

「越!先生来た!」

美嘉が小声で知らせてくれた。
素早く携帯をポケットの中に入れて、美嘉にまた教えだす。

「で、この線がこことここを通ってるから……」

教えながら、先生が近くを通り過ぎて行くのを横目で見て、ホッとする。

バレてないバレてない……。

⏰:08/07/22 10:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#428 [向日葵]
「なんか緊急のメール?返さなくて大丈夫?」

「実は……っ。……ううん、何でもない。桜が帰りにひき肉買ってきてってだけ」

なんだか、「柴から」とは言いにくかった。
柴の家庭事情を勝手に言ってはいけないと思ったし、4日前の事を話したら、柴が悪者になってしまいそうだったから……。

柴は何も悪くない。
そう思ってても、心のどこかで「どうして行ってしまったの」と思ってしまう自分が存在しているのも本当だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

休み時間になって、柴からのメールを見た。

⏰:08/07/22 10:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#429 [向日葵]
<from 柴>

久しぶり……。すぐ連絡出来なくてゴメン。携帯取り上げてられてて、今返してもらったんだ。

父さんと、さっき話した。
色々、分かったよ。

結果的に、父さんも俺も不器用だっただけなんだって分かった。いっぱい話したいけど、越は今学校だから、電話出来ないしね。

……父さんが、2、3日泊まっていかないかって言ってる。

どうしようか迷ってる。

何に迷ってるかって言われたら上手く説明出来ないけど、正直父さんと真っ正面から向き合うのは緊張するし、照れくさいからかもしれない。

⏰:08/07/22 11:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#430 [向日葵]
でもそういうのって大切なのかもしれないと思うから、こっちで過ごしてみようかなって思ってる。

思ってるけど……。
早く越に会いたいよ……。

俺が帰ったらさ、1番に越が顔見せてね。

―end―

お父さんと仲直り出来たのかと少しだけ頬を緩めた。
それと同時に、お父さんと話し合った柴は、こちらに帰ってくるのかと心配になった。

もしかしたら、行ってしまう可能性だって……。

そこまで考えて私は首を振った。

⏰:08/07/22 11:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#431 [向日葵]
そしたら涙が流れてきた。
携帯を両手で握りしめて額に押しつける。

柴。
柴が幸せになるなら私はそれでいいよ。
でもね……幸せになるなら、私と、私達と一緒になる事で幸せになって欲しかったと思うのは、私のワガママかな……。

廊下の隅で、密かに泣いていると、肩を撫でられる感触に気がついた。

顔を上げれば、目の前に椿がいた。
何も言わず、静かに微笑んでいる。

「椿……」

「私も、越ちゃんみたいに心が潰れてしまいそうな時がありました……」

⏰:08/07/22 11:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#432 [向日葵]
私は涙を拭きつつ椿の話に耳を傾ける。

「あまり、泣くという動作が出来ない私は、微笑む事が精一杯でした。……すると、ある方に怒られたんです。『こんな時まで平気なフリするな』って……」

クスクス椿は笑う。
私はそんな椿を、まだ潤んでいる視界で見つめた。

「だから越ちゃんも……無理なさる必要はないんですよ……」

そう言われると、また視界が滲んで、華奢な椿の肩に顔を埋めた。

「頭……ご、ちゃごちゃ……な……って……、何がた、だし……か、分からなくて……っ」

⏰:08/07/22 11:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#433 [向日葵]
柴にとって良い事なら、喜んであげたいのに、行かないでって引き止めてしまう自分がいる。

その両方が、常に心の中で争って、私自身の本当の思いが分からなくてなっていた。

「も……やだ……こんな自分……、醜いよ……」

椿は優しく背中をさすってくれる。
涙は止まる事を知らない。

「越ちゃん……。完璧に、幸せを願うのは、難しい事です……。私も、そうですから……」

「だから」と椿は続ける。
私はまだ涙がたまっている目で、椿を見つめる。

「越ちゃんのその思いを、1番伝えたい方に、まず伝えましょう……。伝えないままだから、余計に苦しいんです……」

⏰:08/07/26 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#434 [向日葵]
私……まだ言ってない。
大事な事……伝えてない……。

全ては……伝えた後に分かる。
柴が、決める事。
柴の幸せを願うなら、せめて柴の運命に従おう……。

<TO 柴>

元気そうで良かった。心配してたんだ。

お父さんとも仲直り出来たみたいで、本当に良かった。

あのね柴……。
柴に伝えたい事があるの。

伝えて、柴がどう思うか分からない。柴がこれからどうするかも、もちろん柴に決めて欲しい。
それが柴の生きていく道だから。

⏰:08/07/26 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#435 [向日葵]
実は私、明日から4日間、椿の別荘にお邪魔する事になってるの。
柴が帰って来た時、きっと1番に「おかえり」って言ってあげられないけど許してね……。

柴は、そっちで色々考えたいって言ったよね。
私も、色々考えたい事があるの。

……ねえ柴。
私ね、柴が来てから欲張りになっちゃったみたいなの。
だから、そんな自分を反省する為にも、よく考えてくるよ。

柴、会いたいのは、柴だけじゃない。
私も……桜や空や苺、お父さんお母さんだって……、皆みんな、柴に会いたいんだからね……。

待ってるよ。

⏰:08/07/26 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#436 [向日葵]
メールは作った。

でも送信が出来ずにいた。
ボタンを押そうとすれば、手が震えてしまう。

結局、メールを遅れたのは、寝てしまう直前だった。

⏰:08/07/26 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#437 [向日葵]
―*10日目*―

柴がいなくなってから家が随分静かな気がするよ。
なんだかんだで、あの子はこの家のムードメーカだったのかね……。
(神田家・主婦・祐子談)



窓からの日差しが眩しい……。

そう感じて柴は寝返りをうつ。
そして気づく。

いつもの布団じゃない。

ガバリと起きれば、高級なシーツに自分はくるまっていた。

「あ……」

そうか……。ここは実家だ……。

⏰:08/07/26 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#438 [向日葵]
結局泊まる事にしたんだっけか……。

大きなあくびをしながら頭をポリポリかいていた柴は、ふと窓の近くにあるテーブルを見る。
そこには自分の携帯を置いている。

よく目をこらせば、ピカピカとライトが点滅している。

そういえば、昨日バイブの音が聞こえていた気がする。

……もしかして、越……っ!?

柴は勢いよくベッドから降りて、携帯を取る。
開いてメールボックスを開けば、やはり越からだった。

一通りメールを読んだ柴は呟く。

⏰:08/07/26 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#439 [向日葵]
「考えたい事って……何……?」

それに伝えたい事も。
しかも柴に決めて欲しいって……。

越は何か勘違いしていないか?

今日から別荘に行くという事は学校は休み。
柴は急いで越の携帯に電話した。
が、電源を切っているらしく繋がらない。

別荘から帰ってきてからでは遅すぎる。
彼女は別荘に行っている間に何かを考えようとしている。
考え終えて、結果が出てからでは遅いのだ。

こうしちゃいれないと、柴は部屋を出た。

出た瞬間、すぐそこに早代がいた。
思わずぶつかりそうになる。

⏰:08/07/26 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#440 [向日葵]
「あ……おはよう大和君。昨日は……寝れた……?」

「……早代、頼みがある。車を出してくれないか?」

「どうして」と言いかけて、早代はハッとする。

「帰るの?」

「うん……」

早代は一瞬悲しそうな顔をしたが、やがて諦めたように小さくため息をついて、微笑んだ。

「そう……分かったわ……」

車の準備をしようと踵をかえした早代を、柴は呼び止めた。

「ねえ早代。父さんからヒドイ事されてもここに居続けたのは、父さんの寂しさに気づいていたから?」

⏰:08/07/26 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#441 [向日葵]
こちらに背を向けたまま、早代は小さく2回頷いた。

「放っておけなかったの……。きっとこの人は、私までいなくなってしまっては、泣いてしまうんじゃないか……って……」

「そっか……」

早代は、柴が好きだった。
しかしそれと同時に、父の事も好きだったのだ。
その事に、柴はホッとした。

2人の間に、愛が無い訳では無かったのだと。

「早代……今までありがとう……」

初めて、愛情を注いでくれていた人。
柴と共に父を支えてくれていた人……。

⏰:08/07/26 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#442 [向日葵]
********************

「越ー!」

お母さんの声にハッとした。

ぼんやり座っていた私は返事をする。

「いつ出るんだったー?」

「あと10分くらいー!」

そう答えたキリ、お母さんからの返答はなく、それが「分かった」と言う意味だろうと思った。

「越姉!」

「おねーちゃん!」

空と苺が仲良く手を繋いで入ってきた。
そして私の隣に座る。

「おねーちゃんいつ帰ってくるのー?いちごおねーちゃんいないとさみしいなぁー」

「日曜には帰ってくるよ。それまでいい子で待っててね」

「お土産忘れんなよー」

ニヒッと笑う空の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
されるがままにされていた空はふと何かを思い、私の手を止めた。

⏰:08/07/27 23:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#443 [向日葵]
「なぁ越姉……」

「ん?」

首を傾げて空の答えを待つ。
しかし空は口を開いては閉じ、開いては閉じと、何だか言いにくそうにしていた。

やがて「なんでもないっ」とまた笑った。

「よし苺、母さんの手伝いしに行こう」

「うん」

パタパタと出ていく2人に入れ替わりで、桜が入ってきた。
それと同時に私は笑い出す。

「何よお姉ちゃん」

「だって、なんだか私がこの家出ていくみたいな雰囲気なんだもん」

⏰:08/07/27 23:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#444 [向日葵]
桜はドアをパタンと閉めて、私の隣に座った。

「そんな雰囲気漂わせてるのは、お姉ちゃんだよ」

「え……」

「本当に別荘から帰ってくる?」

「もちろんだよ、何言ってんの桜」

桜は泣きそうな顔をしながら私の服の裾をキュッと掴む。

「柴がどこかへ行ってしまってからのお姉ちゃんは怖い……。急にどっか消えちゃいそうなんだもん……」

「桜……」

⏰:08/07/27 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#445 [向日葵]
空にしてやったように乱暴にではなく、丁寧に桜の頭を撫でてやる。

そこまで、私は皆に心配かけていたんだと思えば反省した。

周りの事、全然見えてなかったんだ……。

「大丈夫だよ桜。考えたい事があって、丁度いい機会だから、気分転換もかねて行くだけ」

安心させるように微笑めば、少しだけ桜の肩の力が抜けた。

「越ー!時間だよー!」

下からお母さんが叫ぶ。
荷物を持って、桜と下へ行った。
すると丁度呼び鈴が鳴った。

⏰:08/07/28 00:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#446 [向日葵]
「おはよう!」

ドアを開ければ、楽しみなのか、満面の笑顔の美嘉と、静かに微笑み会釈する椿がいた。

「準備はよろしいでしょうか……?」

「うん。よろしくね」

「迷惑かけんじゃないよ。気をつけてね」

お母さんは私の頭をかき乱す。
片目を瞑ってそれをやり過ごし、乱れた髪の毛を手ぐしで整える。

「じゃあ行ってきまーす!」

私はいつも椿が送り迎えしてもらっている真っ黒な車に乗った。

⏰:08/07/28 00:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#447 [向日葵]
―――――――…………

―――それから2、3分後の事だった。

空と苺が庭で仲良くボールで遊んでいると、1台の車が家の前に止まった。

空と苺は首を傾げる。

一瞬、越が何か忘れ物をしたのかと思ったが、その車は越達の車とは逆にくもりない真っ白な車だった。

バタン!とドアが閉まる音が聞こえると、門の所に姿を表した人物に、空と苺は声をあげた。

「柴!」

「しばちゃぁんっ!」

⏰:08/07/28 00:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#448 [向日葵]
「空、苺……っ」

苺は「しばちゃんだ、しばちゃんだ!」とその場ではしゃぐと、柴に駆け寄って、その足に抱きついた。

「おかえりなさぁいっ」

空は庭に通じるガラス戸を開けて、祐子に柴が来た事を知らせる。

「ただいま。苺……」

微笑んだ柴は、苺を軽々と持ち上げる。
すると騒がしい足音と共に、祐子が現れた。その後ろには桜もいる。

「柴……っ!」

「ただいま祐子さん。謝らなきゃいけない事たくさんあるの分かってるけど今は越と話したい。越はどこ?」

⏰:08/07/28 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#449 [向日葵]
桜が答えた。

「お姉ちゃんならついさっき旅行に行ったよ。あ、でも新幹線で行くとか昨日言ってたからまだ駅かも!」

「分かった、ありがとう!」

「柴!」

急いで行こうとする柴を祐子は止めた。

「アンタ……越が好き?」

「うん」

「じゃあね、あの子を絶対に1人にはしてあげないで。あの子はね、小さい頃に捨てられて、1人になる寂しさがどんなもんか身を持って味わってるんだ……」

⏰:08/07/28 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#450 [向日葵]
祐子が真剣な表情で話しているのに対し、柴の表情は柔らかいものだった。

「祐子さんさえ許してくれるなら、俺はずっと越のそばにいて、離れろって言われても離れないよ」

その言葉に納得した祐子は、頬を緩める。
そして柴が越を追うのを、ただ静かに見送っていた。

「ねえおかあさん」

「ん?」

「おねえちゃん、しばちゃんのおよめさんになったらいいのにねぇっ!」

苺の言葉に、一同唖然とする。
そんな事は知らず、苺は満面の笑みで更に続ける。

⏰:08/07/28 00:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#451 [向日葵]
「そしたらいちご、おねえちゃんとしばちゃんとずーっといっしょだよ!」

その言葉に、祐子は外だという事も忘れ、盛大に笑った。

「そうだねぇ」

苺を抱き上げ、穏やかな目で、2人が行った方を見つめた。

「どちらにせよ、あの2人は一緒にいた方が落ち着くよ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「新幹線に乗る前に、そこのコンビニでお菓子買っちゃおう!」

駅の近くにあるコンビニを指差しながら美嘉が言った。
そしてさりげなく私の手を引っ張る。

⏰:08/07/28 00:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#452 [向日葵]
「どうしたの?美嘉」

椿の婚約者が嫌いなら、椿の近くにいて妨害するかと思っていたので、美嘉の行動を疑問に感じた。

すると美嘉は拗ねているように口を尖らせながら頬を膨らませた。

「だってね越、前みたいな雰囲気じゃないの、あの2人」

私はちらりと後ろを向く。

椿の婚約者と名乗る、葵 要君と言う人は、同い年なのに大人びていて、爽やかな人だ。

素直な意見を車の中で小声で美嘉に告げると、「騙されちゃダメ!」って怒ったくせに……。

⏰:08/07/31 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#453 [向日葵]
「人はいつまでも一緒じゃないよ。それに、椿が幸せそうなら、尚一層いいじゃないっ」

と言ってから、私は自分の言葉を口の中で反芻させた。

何、軽く言ってるの私……。
人事みたいに……。
自分は今それで悩んでる最中のくせに……。

「最悪……」

「え?なんて越」

「え?あ、ううん。なんでも……」

と言いかけると、車のタイヤが軋む音が聞こえた。
「ん?」と思っただけで、さほど気にしなかった私は、コンビニへと歩いて行く。

「……あっ!越ちゃん……っ!」

少し離れた椿が珍しく叫んだ。
ぼんやりしながら振り向けば、それと同時に強く腕を引かれた。

⏰:08/07/31 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#454 [向日葵]
「良かった……いた……」

うそ…………っ。

「柴……っ!」

掴まれた腕を引き寄せられて、力強く抱き締められば、恥ずかしくて突き放すより、柴かどうか確かめるようにその胸に寄りかかる。

まるで時が止まったようだった。
まだ何が起こってるか上手く整理出来ていない。

「間に合った……」

耳元で苦しげに呟かれれば、泣きたくなった。

そして肩を掴まれ、私を解放すると、急にまた腕を掴んで走り出した。

⏰:08/07/31 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#455 [向日葵]
私は今の状況に頭がついて行かなくて、引っ張られるがままに足を進めた。
どうすればと、美嘉達を振り返るも、美嘉達も驚いたようにポカンと私達を見つめるだけだった。

――――――――…………

何分走っただろう。

着いたのは、遊具も何もなく、ただベンチと砂場だけがある公園だった。

柴も私も、まだ息は整っていない。

信じられない……。
柴なの……?
柴が今、ここに、私のそばに、いるの……?

「し……ば……」

⏰:08/07/31 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#456 [向日葵]
柴がこちらを見る。

日が当たって、綺麗な茶色い髪の毛が更に輝く。
こちらに向けている神秘的な灰色の瞳。
あの時の、雲とは大違いな灰色。

「ハア……何……?どうかした……?」

「どうして……どうして柴がここに……?それより、本当に、柴……?」

「何言ってんの……どう見ても俺でしょ……」

だって柴は2、3日後に帰るって言ってたし、それ以前になんで私の場所が分かったのだろう……。

⏰:08/07/31 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#457 [向日葵]
恐る恐る、柴に手を伸ばす。
指先でそっと頬を撫でる。
柴はじっとしていた。

ここにいる……。

「なんで……どうしてここに……」

「越が変な勘違いしてるみたいだったから」

「勘違い……?」

「何を考えるの?越は、何の答えを出すつもり?」

柴は少し怒ったような顔をして私に詰め寄る。

何のって……。
そんな事、1から説明しちゃったら……告白になっちゃうじゃない……っ。

⏰:08/07/31 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#458 [向日葵]
私の顔が赤くなる。

そりゃ言うって決めてたけど、今言う準備出来てない

どうしようとうつ向けば、柴が訝しげな顔をした。

「言えない事?」

「そ、そうじゃなくて……」

「じゃあ言って」

「や、あの……そんな簡単には、えと……」

少し顔を上げれば、柴の顔が不機嫌になっていた。

「……越は、もう俺なんかいらない?」

「え?何言って……」

⏰:08/07/31 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#459 [向日葵]
「越が考えたいって事は、俺に出ていくように言うのをどうやって言おうか考えるって事じゃないの!?」

柴は今度は悲しそうな顔をした。

もちろん今柴が言った事は、近いけれど間違っている。
もし柴が私の家にいたいと言うなら、それをわざわざ追い出そうなんて事はしない。

「あのね、し……っ」

私は息を呑んだ。
急に、力一杯抱き締められた。
痛いぐらいに、私の体が締めつけられる。
でも、うるさいぐらい胸が高鳴る。

「俺は越が好き。だから越が望むなら出ていくけど……でも、俺の気持ちは無視なの……?」

⏰:08/07/31 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#460 [向日葵]
「ち、違うの柴……っ」

柴の胸を少し押して、柴と距離を取る。
依然、まだ柴の腕の中。

「違う?だってあのメール……」

「だから、柴の勘違いなのっ。あぁ、ごめん。言葉足らずだったね」

顔が更に赤くなる。
この距離で言うのは恥ずかしいけど、今言うしかない。

「柴がね、幸せに暮らしてくれるなら、それでいいって思ったの。柴が1番に望むものを、私や、お母さん達は尊重しようって。……でも」

柴を求める私は、それを許さなかった。
去って行ってしまったあの日の柴の背中を思い出せば、涙が出そうだ。

⏰:08/08/02 00:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#461 [向日葵]
「柴が私の前からいなくなっちゃうと思ったら嫌だって思っちゃった、行かないで、そばにいてって思っちゃったの……っ。そんなの決めるのは、私じゃないのに……っ」

「越……」

「だから、反省も兼ねて、色々考えたかっただけ……。だから柴、間違えないで……。私の心の半分以上は、柴が私の隣にいる事を望んでいるの……」

柴は目を見開いて数回瞬きした。
私は言ってしまった安心感と恥ずかしさで胸がドキドキ鳴って、涙目になってしまった。

すると柴は眩しいくらいの笑顔を私に向けた。

「ハハッ!やったー!!それって越は俺が好きって事だよね!」

⏰:08/08/02 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#462 [向日葵]
「え、あの……っ」

柴は私の顔を大きな手で包み、覗き込む。

「もう違うだなんて言わないでよね。そばにいてほしいって思ったって事は、そういう事でしょ?」

どこか得意気な柴の顔。
だから意地悪したい気分になったけど、そんな場合じゃなかった。

柴が私の目をじっとみつめる。

これは……、この雰囲気は……知ってる……っ!
どうしようっ!
私、キスなんてした事ないのに……っ!

「あ、あの、えと、し、柴っ!ま、待って……っ!」

⏰:08/08/02 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#463 [向日葵]
無言の「待った無し」の雰囲気に、どうすることも出来なくてギュッと目を瞑る。
柴が近づいてくる気配がする。

もう……っ、心臓壊れそう……っっ!!

すると小さく吐息のような笑い声が聞こえた。
と思えば、柔らかなものが私の鼻に少しだけ触れた。

目を開けて、ぱちくりと瞬きをすれば、柴が柔らかく微笑んでいる。

「緊張しすぎ。でも越には早いみたいだから」

私の鼻をトントンと指先で叩く。

「そこで我慢するよ」

⏰:08/08/02 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#464 [向日葵]
自分の鼻をおさえながら、私は肺が空になるくらい息を吐く。

ようやく柴の腕から解放されて、代わりに優しく私の手を包んだ。

「帰ろっか。色々話したいから歩いて帰ろう。そんなに遠くないだろうし」

「うん。……ねえ柴。どうして急に帰ってきたの?」

柴は眉を寄せる。

「あんなメール送ってくるからだよ。何か決めちゃうんだと思えば、決めちゃう前に阻止しなきゃって思ったの」

「あ……なるほど」

んー……。私文章力ないのかなぁー……。

⏰:08/08/02 00:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#465 [向日葵]
柴をちらりと見る。
柴はこちらを向いたままだった。それだけで胸が苦しい。

「お……お父さんと大丈夫で良かったね!心配してたんだー。柴がもしイジメられてたりしたらどうしようって」

恥ずかしさを紛らわそうとすれば、早口になった。
柴は一層笑みを深くする。

「話をする前ね、すっごく恐かった。でもね、越の声が聞こえたんだ。そしたら胸の中が軽くなって勇気が出た」

柴は握っている手に少し力を入れる。

「それくらい特別だよ。越は」

柴がここまで自分を好いてくれるのが嬉しい。
私は柴に笑顔を向ける。

⏰:08/08/02 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#466 [向日葵]
「ありがとうっ。柴っ」

柴は急にニヤリと笑う。
どうしたのかと私は首を傾ける。

「祐子さんがね、越を寂しくしないようにって俺に言ったんだ。だから悪いけどね越、俺は絶対越から離れたりしないからね」

「大袈裟……っ」

私は笑う。
柴も笑う。

幸せ。
2人一緒だからもっと幸せ。

柴は私を必要としてくれて、その必要は、柴の幸せと繋がっていて、そしてその柴の幸せは私に繋がっている。

⏰:08/08/02 00:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#467 [向日葵]
帰ろう。

皆が待ってるあの家へ。
全てが始まったあの家へ。
これからずっと一緒に住むあの家へ。

温かい、あの家へ……。

――――――――…………

「おかえりなさいっ!」

家へ戻って来ると、笑顔で皆が玄関に勢ぞろいしていた。

「ただいま。ってか、すっごく短い旅行だよ」

「せっかくお土産期待してたのにぃー」

ちゃかす桜と顔を見合わせてアハハと笑う。

⏰:08/08/02 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#468 [向日葵]
「さて柴、色々話てもらうかな。リビングにやって来な。桜、空と苺連れて2階にいて」

桜はお母さんの指示に、従う。
私は柴とリビングへ向かった。
柴はさりげなく私の手を握る。
どうしたのかと柴を見れば、苦笑いを浮かべて耳元でこそこそ話す。

「1発くらい、殴り飛ばされそうで恐い……」

それにクスリと笑う。

「ま、ヤバイと思ったら歯を食い縛ったらいいよ」

リビングにある机をはさんで、お母さんと向かい合わせになる。
お母さんはタバコを1本取り出すと火をつけ、ふぅ……と煙を吐く。

⏰:08/08/09 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#469 [向日葵]
「柴。まずアンタの事を喋れる範囲で喋りな。帰って来たって事は、越のそばにいるんだろ?なら自分の娘を預ける相手が、どんな奴か知っておく必要があるからね」

「……ハイ」

柴は淡々と話し出した。

自分は本当は伊勢屋 大和と言って、何故あの場所にいたのか。
この4〜5日間何をやっていたのか。

お母さんは相づちを打ちながら柴の話に耳を傾ける。

「これで全部です」

「なるほどね……」

タバコをギュッと灰皿に押し潰し、最後に吸い込んだ煙を吐く。

⏰:08/08/09 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#470 [向日葵]
「柴、アンタは越のそばにいるってあたしに言ったけどさ、越の事本当に大切に出来る?中途半端な思いなんだったら、帰れって言うよ」

「越が俺をいらないって言わない限り、俺はいつも越の隣にいます」

そういえば、なんで柴は今お母さんに敬語なんだろう。

そう思いながら、隣にいると宣言してくれた柴を嬉しく感じていた。

「じゃ、越。今度はアンタが柴に話す番だよ」

そう言うと、お母さんは立ち上がって、桜達がいる2階へと行った。

⏰:08/08/09 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#471 [向日葵]
「越が俺に何を話すの?」

「……。柴は自分に闇があるって前に言ったよね」

柴はこくりと頷く。

「……私にもあるの。深い深い場所に、ずっと巣くってる小さな闇が」

それは、小さい頃。
親に捨てられた、ほんの少しの記憶。

「ただただ、その捨てられる時の事しか覚えてないけれど、私はあの瞬間で、小さいながら色々な事思った。」

自分が捨てられてしまうのは、お母さん達にとって自分はいらない存在で、どうして振り向いて、最後に手を降ってはくれないんだろうとか、そこまで嫌われていたのに、私はどうして気づかなかったのかとか……。

⏰:08/08/09 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#472 [向日葵]
「お母さんやお父さんは私がいて幸せな時あったかな……とか……」

考えれば考える程、闇は私の中の光を食べていった。

そんな時、今のお母さんが私を見つけてくれた。

暮らしているうちに、この人は私がいて幸せなんだって思えるようになったけれど、同時に恐かった。

嫌いになられたらどうしようって……。

「お母さんはそんな気持ちになってる私に気づいてくれたの。そしたら……」

[越。あたしは絶対嫌いになんかならないよ。だからね、もっと壁を越えてあたし達に甘えな。それが迷惑だなんて、思わないからさ]

⏰:08/08/09 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#473 [向日葵]
お父さんも、優しく笑って頷く。

[君は自分が嫌いなんだね。でもまずは自分を好きになろう。越、君のこの名はね、色んな試練の壁を乗り越えれる子になって欲しいからつけたんだ]

だからね、辛い事にぶち当たっても、頑張って行こう。
越1人でじゃなくて、家族で……。

その言葉が、どれだけ嬉しかったか。
当時の私は、緊張の糸が切れたように泣いた。

「だからね、柴の事も、仕方ないって思ったの。例え今は辛くても、きっと越えられる。ただ、時間がかかるけどって……」

⏰:08/08/09 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#474 [向日葵]
「越……」

柴は座ったまま私を抱き締める。
柴の体温に、私は身を任せる。

「どこにも行かない。越のそばに、ずっといる……。だから、越の中の光を、見失わないで……」

うん。もう大丈夫。
だって私は、柴という光を見つけた。
柴が、そばにいてくれるなら、私は光を失う事はもう無い。

「ありがとう……柴……」

見つめあう。
綺麗な灰色の瞳には、私が映っている。

今度は緊張しない。
そう思いながら、近づいてくる唇を受けとめようとした。

⏰:08/08/10 11:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#475 [向日葵]
「しばちゃんずっとここにいるのー!?」

突然入ってきた苺の声に、私と柴は勢いよく離れる。

「よかったぁー!いちごね、しばちゃんがいなくてずーっとさびしかったのーっ」

そんな私達の空気を知らず、苺は無邪気に立ち上がった柴の足に抱きつく。
そしてエヘヘと笑う。

「ごめんお姉ちゃん」

両手を顔の前に合わせながら、桜がリビングへと入ってくる。

そんな桜を引っ張って部屋の隅へ連れて行く。

「もしかしてずっと隠れてたなんて言わないよね」

⏰:08/08/10 11:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#476 [向日葵]
小声で問う。

「いや、それは無い……よ?」

「桜、人の目見て話そうか」

「別に邪魔するつもりはなかったのーっ。苺が勝手にトタタターって……」

「しかし柴も面白いよな」

間に空がニョッキリと出てきて喋りだす。

「面白い?」

「越姉鈍いからさ、気持ちが通じる前も肩すかし、通じても肩すかし。こりゃ越姉のファーストキス奪うのはまだまだ先になりそうだなー」

10歳が生意気な……。

⏰:08/08/10 11:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#477 [向日葵]
「ま、私達のいる所では、イチャイチャ出来ないと思った方がいいかもね」

イチャイチャって……。

ちらりと苺と遊んでいる柴を見る。

何はともあれ、柴がまたこの家にいる。
それが私は嬉しい。
また皆で生活を共に出来るのが嬉しい。

柴、おかえりなさい……。

⏰:08/08/10 11:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#478 [向日葵]
―*最終ページ*―

柴を見つけた日から思えば、随分寒くなったね。
柴、あのね、私、ありきたりな事を言うけど、柴と出会ったのは運命な気がしてならないんだ……。

(神田家・長女・越談)



ゆーきやコンコン、あーられやコンコン……って歌詞の続きには、いーぬはよーろこーびにーわかーけまーわり……ってあるのに、どういう訳か、うちの犬は、寒さに弱い。

「越ー……」

いつものように、ご飯の用意をしていれば、柴がくっついてきた。

⏰:08/08/10 11:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#479 [向日葵]
「何よ柴。寒いならコタツに入ってなよ」

「どっちにしろ寒いんだもーん……」

それでも私にくっついてるよりはあったかいと思うんだけど……。

「空ー苺ー。柴が寒いらしいから一緒に遊んでおあげっ!」

「いいぞー!」

「わぁいしばちゃん!なにしてあそぶー!?」

私が言った途端、空と苺は柴に駆け寄り引っ張っていく。
苺に至っては、柴の足にくっついたまま行く。

ふぅと一息ついて、今晩の夕食であるシチューの用意をまた始める。

⏰:08/08/10 11:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#480 [向日葵]
「なんかさ」

「わ!さ、桜、おかえり……」

突然出てきた桜に私は跳び跳ねた。

「な、何?」

「普段すぎるよね。柴。いつも通りお姉ちゃんに甘えてるし。私はもっとそれなりの場面に遭遇するとか思ってたのに」

それなり……?

確かに皆の前では柴はいつも通りだ。
皆の前では……ね……。

――――――――…………

ご飯を食べ終え、空と苺と桜は2階へと上がる。
柴はソファーでテレビを見ていて、私は後片付けをしている。

⏰:08/08/10 11:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#481 [向日葵]
冬なのでお湯で洗い物をしている。
温かいお湯が手に当たる度ホヤーと和む。

と、急に後ろに気配を感じる。
振り向こうとする前に抱き締められる。

柴だ。

いつもの甘えるみたいな抱き締め方じゃなくて、ギュッと体を押しつけるみたいにする……。

そうなのだ。
柴は2人きりになると、急に大胆さを増す。
そんな事に慣れてない私は、いつも胸がドキドキする。

「し、柴、寒いんでしょ?コタツに……」

⏰:08/08/10 11:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#482 [向日葵]
「越の方があったかいよ。なんで?」

クスリと笑った時の吐息が、軽く耳にかかる。

絶対柴はSだ……っ。
自分でMだとか言ってたけどぜーったい、ぜー……ったいSだ……っ!

「こ、子供体温だからじゃない……?」

「じゃあなんで顔が赤いの?」

指先で私の顔を柴の方に向ける。
柔らかい笑みなのに、滲み出ている意地悪オーラ。

いつもの柴らしくないから、私は戸惑ってばかりだ。

⏰:08/08/10 11:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#483 [向日葵]
「や、だ……柴……。私今片付けしてるの……っ!」

毅然と言ってみるも、そんな私の態度すら楽しいのか、柴はクスクス笑う。

皆さぁぁん!
ここに隠れドSがいまぁぁぁす!!

柴はこめかみにキスすると、またソファーへと戻って行った。

柴が行ってしまってから、私はお湯で洗っていたのを水に変えて洗い始めた。

この頃いつ心臓が破裂するのかと、心配でなりません。
こんな時、どう対処すればいいんだろう……。

誰か分かる人いないかなぁ……。

⏰:08/08/10 12:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#484 [向日葵]
―――――――…………

「どうすればいい……ですか……?」

学校の昼休み。
相談をしてみたのは椿。

椿は大きな目を更に大きく開いてパチパチ瞬きさせる。

「私は、上手く説明出来ないですよ……」

「第一椿のフィアンセは越んとこと違って純粋なんて言葉なさそうだしねー」

横から入ってくる美嘉を、椿と2人でなだめる。

「別に相手のペースに合わせなくても、越ちゃんのペースでお付き合いなさったらいいんじゃないんですか……?」

⏰:08/08/13 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#485 [向日葵]
「だっ……だってぇ……」

ついこの間まで、このドキドキはなんだとか、柴を見るだけでなんで切なくなるのかと分からなかった子供同然の私なのだ。

柴は年上だし、色々経験してるだろうし……実際早代さんとだって……。

すると胸の中がなんだかモヤッとした。
「ん?」と思いながら、胸をさする。

「だって……何?」

美嘉が話の先を促す。

「え?あぁ、だってね、あんまり動揺したりしてついていけなかったらさ、柴、めんどくさいとか思わないかな……」

⏰:08/08/13 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#486 [向日葵]
「そんなん思ったら男失格でしょ。むしろ最低。美嘉ならぶっ飛ばす」

最後の部分は共感したか分からないが、椿も美嘉と同じ考えのようで、うんうんと頷く。

恋愛って、両想いになっても大変なんだなぁ……。

「…………あれ?」

「どうしたの?」

「……。―――っ!あぁ―――っ!」

「だから何ぃっ!」

忘れていた。
柴が勝手に解釈して、そのままズルズル過ごして来たけど……。

⏰:08/08/13 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#487 [向日葵]
私、柴に好きって言ってない…………っ。

――――――…………

だからと言って、言えと言われて言えるものじゃないんだよねー……。

と遠い目をしながら自転車に乗り、いつもの道のりを帰っていく。

柴は、大胆になってから、昨日みたいな行動で気持ちを表してくれるし、時たま好きと言ってくれる事もある。

恥ずかしいけど、とても嬉しい。

そう思えば、私ばかり喜んでばかりで駄目じゃないかとか思う。

⏰:08/08/13 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#488 [向日葵]
だからと言って……となると、またさっきの考えになって、結局は堂々巡りなのだ。

柴が帰ってくる前、言おうと決意したけど、言わず終いだったのを忘れていた。

柴が気にしてなきゃいいけど……。

「……ん?」

家の前に白い車が停まっているのが見えた。
それは近づけば近づくほど、高級な外車だと分かる。

なんで家の前にこんな車が……?

自転車をガレージになおす間も車をジッと見ていた。

⏰:08/08/13 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#489 [向日葵]
「ただいまー」

「お姉ちゃんっ!」

桜が玄関まで走って来た。
どうやら今日は部活が休みらしい。

「おー桜ただいまー」

「そんな呑気な事言ってる場合じゃないのっ!」

小声で慌てて言う桜。
どうやら何かあったらしい。

眉を寄せて、首を傾げる。

「どうしたの?落ち着いて」

桜はちらりとリビングへ続く入口を見てからまた私の方へと向き直る。

⏰:08/08/13 00:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#490 [向日葵]
「柴の……お父さんが来てるの……」

私は驚いて、急いで靴を脱ぐ。

まさか……っ!
柴を連れ戻しに来たとか……!?

戸口に立って、中を見れば、楽しそうに話をしているお母さんと柴、それに、柴のお父さんだろう人がいた。

勝手に連れ戻しに来たと解釈していた私は、その和やかなムードにポカンとしてしまった。

すると、柴が私に気づいた。

「越おかえりっ。父さん、この子だよ。さっき話してた越。俺の大切な人っ」

と、私のそばまで来ると、ギュッと抱き締められる。

⏰:08/08/13 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#491 [向日葵]
初対面の人の前で抱きつくものだから、私は顔を赤くした。

柴のお父さんは、優しく微笑むと、私の近くまで歩いてきて、握手してくれた。
その柔和な雰囲気は、柴が普段まとっているものと似ていて、「あぁ、やっぱり親子だなぁ」って思うのと同時に、柴から聞いてるお父さん像とはまったく違うものだと思った。

「はじめまして。大和……じゃない、君のところでは柴かな。柴の父の宗平です。息子がいつもお世話になっています」

「い、いえ、こちらこそっ。長女の越ですっ」

「越さぁ、この場合、恋人の越ですって自己紹介してよ」

出来るわけないでしょ。

⏰:08/08/13 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#492 [向日葵]
「あのね越、今日、伊勢屋さんが来て下さったのは、柴がお世話になってるから、下宿させてると思って、家賃を払わせてくれないかっておっしゃってくれたんだよ」

お母さんの言葉を聞いて、私はホッとした。

なんだ、連れ戻しに来た訳じゃないんだ……。

「だからずっと一緒だよ、越」

と、私の髪に頬ずりしてくる柴。
いくらなんでも、お母さんや柴のお父さんがいるのだからもう少し節度ある行動をとってほしいものだ……。

柴のお父さんはクスクス笑う。

「本当、大和は越さんが好きなんだな」

⏰:08/08/13 00:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#493 [向日葵]
「うんっ」

そうやって素直な返事をされては、突き放そうにも放せなくなるじゃないか……。

「越さん。少し話をさせて頂けますか?」

「え……。あ、ハイ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕暮れで寒くなった外に出て、門の前で私と柴のお父さんは話す事にした。

「貴方と出会って、大和は変わった気がします……」

「そうなん……ですか……?」

「少なくとも、あんな風に甘えている姿は見た事はありませんよ」

⏰:08/08/13 00:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#494 [向日葵]
私は逆にあんな柴しか知らない。
それか、出会った頃の、闇の底にいそうな柴しか……。

「全て、私の責任なんですがね……。少し、複雑な心境ですよ……」

と、柴のお父さんは苦笑いした。

きっと、誰よりも柴と一緒に過ごしたかったのは、お父さんなんだろうな……。
そしてお父さんも、お父さんのお父さんと、楽しく過ごしたいって、思ってたんだろうな……。

「でも、柴、前よりもっともっと幸せそうに感じます。そうなったのは、やっぱり、お父さんと和解したからじゃないでしょうか?」

⏰:08/08/17 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#495 [向日葵]
家族との繋がりって、友達よりも、……大好きな人よりも、きっと大きいものだと思う。

実際柴は、前よりも明るくなって、柔らかな雰囲気が、より柔らかくなった。
……2人っきりの時は別としてね……。

「だから、溝を埋めようとかじゃなく、もっと仲良くなって、楽しいって思いで今までの記憶を上書きしちゃいましょうよ」

柴のお父さんはキョトンとしていた。

……あれ?
私なんか変な事言った……?

2人の間を、一陣の冷たい風がふいていく。

⏰:08/08/17 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#496 [向日葵]
すると、柴のお父さんはプッ!と吹いて、喉で笑い出した。

「なるほど、大和が越さんに夢中になる筈だ。私達に無い発想をおもちのようだから」

「は……はぁ……」

柴のお父さんは門を出て、車に乗る。
帰るのかと、私も門を出る。
柴のお父さんは、ウィンドウを開ける。

「これからちょくちょく、大和をお借りしてもよろしいかな?楽しいで上書きしたいのでね」

嫌味も何もないその言葉は、私の思いをちゃんと分かってくれたようだった。
嬉しくて、私は心からの笑顔を向ける。

⏰:08/08/17 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#497 [向日葵]
すると柴のお父さんは、ウィンドウから手を出して、冷えてしまった私の指先をふわりと握った。
そして微笑む。

「私も、あなたに会えて良かったです」

そう言って手を放し、ウィンドウを閉めて、帰ってしまった。

「…………」

やっぱり、雰囲気が柴にそっくりだなぁ……。
……さりげないボディータッチ(?)も、そっくりだなぁ……。

「越」

柴が玄関のドアから顔を出す。

「マフラーくらいしたら?」

⏰:08/08/17 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#498 [向日葵]
「あ、いいの。お父さんもう帰ってしまったし」

「なんだ、帰ったんだ。なら早く入りなよ。風邪ひくよ」

「うん!」

私は家へ入った。
今になって体が冷えてしまったのが分かって、ブルッと震える。

「寒い?」

「大丈夫だよ」

あと1歩でリビングに続く戸口に着く所で、柴が後ろから私を抱き締めた。

今は2人っきりじゃない。
こんな所で、裏柴になられたらヤバイ……っ!

⏰:08/08/17 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#499 [向日葵]
「体冷たい……。本当に大丈夫?」

私の心配はよそに、柴は普段の柴だった。

「……大丈夫。ありがとう」

素直に笑顔を向けると、トンと背中に壁を感じた。
「ん?」と思っていると、柴の顔が近くにあった。

「え!?え!?柴っ!?あの……っ!」

「そんな可愛く笑う越が悪い」

ハイ―――ッ!?

実を言うと、好きって言ってない上に、柴とキスをした事はまだない。
頬とか、おでことかはあるけど、口ではまだ……。

⏰:08/08/17 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#500 [向日葵]
原因はこうなるとパニックを起こす私のせいなんだけど……でも……。
いざと言う時どうすればいいのぉ――っ!?

「しばちゃぁんっ!」

後ろから膝カックンを苺にされた柴は立てなくなって私に勢いよく寄りかかる。

そのせいで私は派手な音をたてて頭を打った。
そしてその音で何事か?と、リビングにいたお母さん達が出てきた。

「お姉ちゃんどうしたの!?」

「苺に攻撃された」

どこか不機嫌そうな柴が答える。

⏰:08/08/17 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#501 [向日葵]
実はキスをしていない原因は、私にもあるけれど、タイミング良く現れる苺にも原因があったり……。

そのせいで、お預け状態の柴。
密かにホッとする私。
それって変な事なのかなぁ……?

―――――――……

「お姉ちゃんのガードが堅い……ねぇ……」

今日は土曜日。
越は友達と遊びに行くと言って朝早くに家を出た。

空と苺は仲良くビデオに熱中してる。

残された部活がなく休みの桜と、越がいなくてつまらない柴はリビングでテーブルはさんで喋っていた。

⏰:08/08/17 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#502 [向日葵]
ついでなので、最近の越について柴は桜に相談している。

「堅いってか……ガチガチに緊張してるんだよね。前よりもすっごく。それも2人っきりになれば」
「柴さ、お姉ちゃんの性格分かってんでしょ?鈍くてうぶ。今まで恋愛経験なんてなかったって言うか、好意さえ悪気なくスルーしてたお姉ちゃんが、いきなり恋愛モードに集中出来るとは思えないね」

柴はテーブルに顎をのせ、頬を膨らます。

「柴も越より年上なんだから、余裕もたなきゃ」

それでも性急な柴だ。
触れていたいし、触れて欲しいと思う事すらいけないのだろうか。

⏰:08/08/17 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#503 [向日葵]
「お姉ちゃんはノロノロが1番なの。理性が強いのよ。柴みたいな狼精神がある人は刺激が強いのっ」

人をまるでケダモノみたいに……。

ますます頬を膨らます柴。
それを見て呆れたようにため息をつく桜。

「せめて今はいつもみたいに甘えて抱きつくぐらいにしてあげて。じゃないとお姉ちゃん、いつか知恵熱出ちゃうよ」

困らせるのは好きじゃない。

柴もため息をつく。

ただもう少しリラックスしてくれたらいいのにとだけ思う。

⏰:08/08/17 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#504 [向日葵]
「ってか柴……お姉ちゃんに何かしたの……?」

「普通に恋人達がするような事しかしてないよ」

「ちょっと、あんまりお姉ちゃん虐めないでよー?」

虐めてるつもりはないと言おうとしたが、顔を赤らめる越が面白くてからかっている柴は、やっぱり虐めてるのかなと口を閉める。

「ところで桜は好きな人とかいないの?」

「皆ナヨナヨしてるから恋人とか当分はいらないね」

「桜に敵う人はゴリラくらいだもんね」

その後しばらく、神田家には、叫び声が聞こえていたらしい。

⏰:08/08/17 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#505 [向日葵]
―――――――…………

美嘉と椿と遊んでいた私は、ふと後ろを振り返る。

「どうかした?」

美嘉の問いに、首を傾げながら答える。

「いや、なんか……桜の雄叫びみたいなのが聞こえた気がして……」

ポリポリと頭をかきながら、また足を進めた。

「さて、映画も見終わったし、次どこ行く!?」

「どっかでお茶でもしよっか」

と言いながらも、今は3時。
お茶する時間帯なので、どこの喫茶店もいっぱいだ。

⏰:08/08/19 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#506 [向日葵]
しかも今は寒い。

暖をとる為に居座ってる人も少なくないだろう。

寒い中、暖かい飲み物でも買って公園で喋るのも悪くないと思ったけど、椿がいるので少々心配だった。

「じゃあ、買い物しに行こうか!」

私の提案に、2人ものってくれたので、近くのデパートに行った。

周りを見れば、ふと気づく。

「そういえば……もうでクリスマスシーズン?」

「あ、そうだね。美嘉の祭大好きな血が騒ぎだす!」

⏰:08/08/19 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#507 [向日葵]
そうか、もうそんな時期かぁ……。

「あ、ねぇ、椿はどうするの?要さん……だっけ?と過ごすの?」

私の頭の中には、高級な夜景の見えるレストランで、綺麗な恰好した2人がグラスを交わしているなんともベタな姿しか見えない。

セレブって素敵だなぁ……。
柴ところもやっぱり豪華だったのかなぁ……。
でも柴は、あまりその頃あまり楽しくなかったのかもしれないなぁ……。

「アイツなら、年始までフランスだって」

「えぇっ!?」

妄想……いやいや想像していたビジョンが見事に崩れ去る。

⏰:08/08/19 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#508 [向日葵]
「なんで?」

椿は苦笑いする。
そんな彼女の代わりに、美嘉が説明してくれた。

「世界のデザイナー達が集まるクリスマスファッションショーとお正月ファッションショーがあるんだってさ。当然ファッション業界に君臨してるアイツは、顔出ししなきゃいけないって訳」

改めて、椿の婚約者さんは凄いんだなぁと感じる。

「会いに行けばいいじゃない。椿は寂しくないの?」

そう言いながら、この前自分が感じた寂しさを思い出して、少し胸が苦しくなった。

「会いにいけば、きっと迷惑がかかりますから」

⏰:08/08/19 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#509 [向日葵]
「美嘉はアイツが会いに来る気がするけどね」

どうやら要さんは椿にメロメロなご様子。
椿は要さんの事やっぱり好きだよね?

迷惑だからとか言ってるけど、本当は会いたくて仕方ないんじゃないのかなと思う。
私の場合はそうだった。

そう思えば…………たった今、柴に会いたくなった。

そんな思いをかき消すように、私は言う。

「なら、今からプレゼント探しに行かない?」

「美嘉はあげる人いないよー」

「椿にあげたらいいじゃい」

⏰:08/08/19 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#510 [向日葵]
私は家族皆にあげたい。

この何ヶ月かのうちで、私は改めて家族の大切さを学んだ。
愛情の大切さを知った。

それを教えてくれたのは、柴であり、神田家の皆だ。

血が繋がってるとか繋がってないとかなんて、大した事じゃない。
その人達を思い、思われたなら、それはもう家族なんだ。

デパートで、それぞれのプレゼントを選ぶ。
少し浮き足だってるのは気のせいではないだろう。

その時、プレゼントを選んでいた椿の手が止まった。
何を見つめているのかと思えば、携帯を見ていた。

⏰:08/08/19 01:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#511 [向日葵]
「み、美嘉ちゃん、越ちゃん。私、ちょっと帰らせて頂きます……っ!」

深々と頭を下げると、こちらの返事も待たずに椿は走って行ってしまった。

「ね、美嘉の予想通り」

少し拗ね気味の美嘉に、私は笑う。

あの椿が走って行く程の相手。
恋の力は凄いなとつくづく思う。

「美嘉、ちょっと電話してきていい?」

「ハイハイ。そうやって皆友情をほったらかしにするんだねーっと」

⏰:08/08/19 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#512 [向日葵]
「電話するだけっ!」

私より背の高い美嘉の頭を一撫でして、お店から少し離れた場所で私は電話をかけた。

「もしもし、柴……?」

――――――――…………

年末は美嘉の為にパーティーしてよね!
とまだ拗ね気味の美嘉と別れた私は家へと帰っていた。

ハァ……と息を吐けば、一瞬白くなって消えていく。
しているマフラーで口元を隠す。

「えーつっ!」

その声に顔を上げれば、まだ少し遠くの家の前で柴が立っていた。

⏰:08/08/19 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#513 [向日葵]
「ただいま柴っ!ごめんね、寒い中待たせちゃって」

「大丈夫っ。ところでなんで外に出なきゃいけなかったの?」

私は門から中に入る。
柴は私の冷えた手を取って包みこんでくれた。

「柴、もうすぐ何の日か知ってる?」

「なんかって……まさか越の誕生日とか!?」

「アハハ!違う違う!もっと簡単よ」

柴は眉間にシワを寄せて考える。
そんなに難しい質問をした訳じゃないんだけどなぁ……。

⏰:08/08/21 02:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#514 [向日葵]
「クリスマスだよ。クリスマス」

「あぁ、なぁんだ」

私は柴が包みこんでくれてる手をソッと放して、カバンからラッピングされた袋を出した。

柴はそれを見つめながら目をパチパチ瞬きさせる。

「少し早いんだけど、メリークリスマス!」

「え!?俺に!?」

頷くと、柴は目をキラキラさせた。
急いで、でも丁寧にラッピングを開けていく。

「マフラーだ……」

⏰:08/08/21 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#515 [向日葵]
プレゼントに選んだのは、柴の瞳と同じ、灰色のマフラー。
一目でこれだと思い、買ったのだ。

「ありがとう!すっごく嬉しい!」

本当に嬉しいのか柴は満面の笑みを浮かべて、いそいそとマフラーを巻いた。

巻いてまたニヒヒと笑う。

「どう?似合う?」

「うん!もちろん!」

柴は歯を見せて笑うと、私の両手をキュッと握って目を細めて微笑んだ。

「俺は越に色んなもの貰ってるね」

⏰:08/08/21 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#516 [向日葵]
「そうかな……?」

「ここで拾ってくれたのが越で本当に良かった。越が俺に色々教えてくれて、与えてくれて、幸せ。俺の幸せは、全て越のおかげだよ」

それは、私が望んでいた事。

柴の幸せを、私が与える事が出来ますようにって。

柴、あのね……。

私は柴が巻いているマフラーの端っこをグイッと引っ張った。
当然柴は前のめりになる。

その唇に、そっと私の唇を押し付けた。

柴が驚いているのが分かる。

⏰:08/08/21 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#517 [向日葵]
そして離れる。

「柴、あのね……。私、柴が大好き……っ!」

やっと言えた。
この溢れる想いを。

柴は私から色々貰ったって言うけれど、私だって柴から沢山のものを貰った。

それが嬉しくて、そしていとおしい……。

柴は急な私のキスと告白に呆然としている。
いつも私が戸惑う立場だから、なんかいい気分。

「……初めてのキスは俺からが良かったのに……」

ようやく口を開いたかと思ったら、なんだか拗ねている。

⏰:08/08/21 02:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#518 [向日葵]
「そんな事勝手に決められても困るよ。さぁ、寒いから早く家に……」

と進みかけた私の腕を、柴が掴んで引き止めた。

かと思えば、そのまま柴の腕の中へ。

「俺も好き……。越が大好きっ!」

そう言われれば、素直に嬉しくて、ギュッと抱き返す力が強くなった。

しかし、私は忘れていたのだ。

こんな素直な反応を見せれば、柴が調子にのるという事を……。

「ねぇ越。気持ちを再確認したって事で、もう1回キスしていい?」

⏰:08/08/21 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#519 [向日葵]
身の危険を察知した私は、手の力を入れて離れようとしたが、柴の力には敵わず、腕の中におさまったまま硬直する。

「し、し柴……っ、私、早く家に入りたいなぁーって思ってんだけどなぁー……」

「だぁかぁら、キスしたら入ったらいいじゃない!」

あぁ……私なんであんな事しちゃったんだろう……。

軽く後悔し始めている私の事なんて露知らず。
柴は顔の距離を詰める。

「や、あの、えと、柴っ……」

「わぁー!雪降ってんじゃーんっ!」

能天気な声は空のものだった。

私と柴は反射的にサッと離れる。

空は庭に続く戸を開けて外を眺めていた。
そしてこちらに気づいた。

⏰:08/08/21 02:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#520 [向日葵]
「あれ、越姉帰ってきてたんだ。ってか何してんの?こんな寒いとこで」

「や、お姉ちゃん達も雪降ってきたから嬉しくなっちゃって……っ!」

「あ、ちょっとお姉ちゃん聞いてよ!柴があたしに敵うのはゴリラだけとか言ったのよー!!」

桜もヒョイと顔を出す。
そして苺も同じように顔を出す。
まるでトーテンポール。

「だって桜って女の子っぽくないんだもん。俺のタイプじゃないね」

「あたしだってアンタみたいななよっちいのタイプじゃないから安心してっ!」

⏰:08/08/21 02:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#521 [向日葵]
まったくこの2人は……。

ああ言えばこう言う。
まぁケンカする程仲が良いって言うけどさ。

「ホラ、愚痴なら家に入ってから聞くから!さっさと入ろう!」

私は柴の背中を押す。
柴もどこか不服そうな顔をしながら黙って私に従って歩き出す。

その背中を見ながら思う。

これからも、この家で、この家族で、柴と共に時間を過ごせると思うと、胸の中が温かくなる。

柴も、そう思ってくれてるって思っていいんだよね?

大切な家族。
それ以上に大切な存在。

⏰:08/08/21 02:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#522 [向日葵]
この楽しい時間が永久に続きますように……。

柴、これからもずっとずーっと、大好きだよ……。









*柴日記*-fin-

⏰:08/08/21 02:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#523 [向日葵]
*あとがき*

柴日記、これにて終わりでございます
応援して頂いた皆様、アドバイスを下さった皆様、本当にありがとうございましたm(__)m
同時進行でとても遅い進行具合でしたが、なんとか書き上げる事が出来ました

もう1つの物語、柴日記の中にも出てきました、越の友人・椿と、その婚約者・要のストーリー、「ギンリョウソウ」も制作途中ですので、見て頂ければ幸いです(o^-^o)

本当にありがとうございました


向日葵

⏰:08/08/21 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#524 [向日葵]
*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600

*感想板*

良ければ感想よろしくお願いします

>>319

⏰:08/08/21 02:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#525 [向日葵]
番外編*苺日記*

⏰:08/08/28 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#526 [向日葵]
神田家の三女、苺、満4歳。

天真爛漫で神田家の癒し系アイドル。

今回はそんな彼女を少し覗いてみましょう。

「苺、いーちーごっ。起きろよ」
朝はいつも兄である空のモーニングコールで起きる。
まだ眠い目をこすって必死に起きようとする姿は可愛らしい。

「……そらくんおはよー……」

「うんおはよう。早く降りて来いよ」

空はそう言って先に朝食へ向かってしまった。
残された苺は、いつも一緒に寝ているお気に入りのパンダのぬいぐるみに可愛らしくおはようのキスをしてベッドから降りる。

⏰:08/08/28 03:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#527 [向日葵]
階段を降りて、リビングに着けば、美味しそうな匂いが部屋を満たしていた。

「おはよう苺」

苺と入れ替わりで出ていきすれ違いざまに頭をひと撫でし、洗面所に向かう桜。
神田家の次女で、気が強いがしっかりしている。

そして苺は台所から現れた人物を見て目を輝かす。
その人は苺に気づくと、優しげな微笑みを浮かべた。

「えつおねえちゃんっ!おはようっ!」

「ハイおはよう。今日は早く起きれたんだね。偉い偉い」

神田家の長女、越。

⏰:08/08/28 03:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#528 [向日葵]
共働きの両親に変わって家事と兄弟の事を面倒見ている彼女。
優しくて苺が大好きな姉だ。

越は抱きついてきた苺を抱き締めると、椅子に座らせて手際よく朝食の準備をする。
そして越の背後には、いつもべったりとくっついている人物がいた。

「ちょっと柴!準備出来ないから離れて!」

「えーやだー」

越の恋人である柴は、家の前にいたのを越に拾われた。
拾われた当時に、越から色々聞かされたが、幼い苺にはあまり理解は出来ず、とりあえず仲良くしなきゃならないとだけは分かった。

⏰:08/08/28 04:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#529 [向日葵]
「苺と仲良くご飯食べてて!」

渋々といった感じで、彼は苺のすぐ隣の席に座った。
それをじーっと見ていた苺に気づいた彼は、自分達とは違う色の目を細めて柔らかく微笑む。

「おはよう苺。さ、食べよっか」

苺には、何故自分達と色が違うのか分からなかったけれど、その色がとても温かい色に見えたし、何より苺はこの柔和な空気をまとっている柴が大好きだった。

にへーっと笑った苺は、柴と口をそろえて元気に「いただきます」と言った。

―――――――――…………

「じゃ柴、苺の事よろしくね」

⏰:08/08/28 04:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#530 [向日葵]
柴が来るまでは越が苺の保育園の送り迎えをしていたが、今は柴に任せている為越は学校へ向かう。

ちなみに桜と空はもう行ってしまった。

「苺、じゃあまた帰ってきたら遊ぼうね」

「うんっ!」

「じゃ、行ってきます!」

とドアを開けようとした越の腕を、柴が引っ張る。
そして苺がいるのも構わず、越の額にキスをした。

「いってらっしゃい」

満足気に笑って手を振る柴の一方で、越は真っ赤になって「いってきます」と呟いて出ていった。

⏰:08/08/28 04:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#531 [向日葵]
それを苺はにこにこしながら見守る。

苺にはまだ恋愛関係というのは分からないが、越も柴も、お互いがお互い大好きなんだなぁとは思っている。

「さて苺、カバン持って行こうか」

「うん!」

小さな黄色い肩かけのカバンを持って、小さな靴を履く。
柴と手を繋いで、苺は仲良く保育園へ向かった。

柴の存在は女だらけの保育園では注目の的だ。
苺は少し自慢気になる。

「じゃあ、また迎えに来るからね」

⏰:08/08/28 04:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#532 [向日葵]
そのまま去って行こうとする柴を、苺はじーっと見つめる。
柴は瞬きを繰り返して「何?」と訊ねた。

「しばちゃん、いちごにはちゅーうってしてくれないの?」

大好きなものにはキスをする。
ただ彼女にはそれぐらいの認識しかなく、その1つの動作に様々な想いがこめられているかは知らない。

だから柴は少し照れるように口元を片手で軽く隠す。

「あのね苺あれはー……。ま、いっか。いってらっしゃい」

かぶっている黄色い帽子を取って、頭にキスを落とした柴は手を振って苺を見送る。

苺は嬉しそうに笑い、教室へと向かって行った。

⏰:08/08/28 04:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#533 [向日葵]
「いちごちゃん」

「あ、みよちゃんおはよーっ」

苺の1番の友達だ。
可愛らしい星がついたゴムで高く2つにくくられている。

「いちごちゃんまたあのおにいちゃんときたの?」

「うんっ!しばちゃんっていうの!」

2人は教室にある、ままごとセットで遊ぶ為準備する。
プラスチックで作られた包丁やまな板、マジックテープでつけられた野菜は、真っ二つに離れるように出来ている。

フリルがついたエプロンをつけて、本当にお母さんになったような気分になれば、何故か嬉しくなる。
もっとも、苺の場合は越を思い浮かべるが。

⏰:08/08/30 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#534 [向日葵]
「そのおにいちゃん、やさしい?」

「すごくやさしいよ!いちごだいすきなんだぁっ!」

満面の笑みで答える苺を、お兄ちゃんがいないみよは羨ましく思った。
だから言ってみる。

「じゃあ、こんど、みよもいっしょにあそんでいい?」

すると苺の笑顔はゆっくり消えていき、逆に眉を寄せ、口を真一文字にキュッと結ぶ。

「だめっ!」

「どうしてー?」

「ぜぇーったいだめなの!しばちゃんとあそんでいいのは、いちごとそらくんだけっ!」

⏰:08/08/30 03:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#535 [向日葵]
何故怒られたのか分からないみよだが、これ以上言ってケンカをするのは嫌だったので、口を尖らせて渋々「わかった」と呟いた。

それを聞いた苺は元の愛らしい笑顔を浮かべてままごとを始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「皆ぁー。今からお絵描きしますが、今日は、皆が大好きな人を描いて下さいねー」

子供たちは元気に返事をし、自分専用の道具箱からクレヨンを取り出した。
配られた大きい画用紙に、それぞれの絵を描き始める。

「いちごちゃんなにかくのー?」

「えへへ、ないしょーっ!」

⏰:08/08/30 03:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#536 [向日葵]
みよは「ふーん」と言って肌色のクレヨンを握る。
隣では楽しそうに、でも真剣に苺が絵を描く。

先生は皆の絵を見回っていた。
そして苺の絵を目に止める。

「苺ちゃんは何描いてるのー?」

先生が近づいていた事を知らなかった苺は気づくとすぐに絵を隠した。
だが小さな手では全ては隠れきれていない。

「せんせいみちゃだめっ!せんせいみちゃったら、しばちゃんたちにきょう、なにかいたか、いっちゃうでしょっ?」

「しばちゃん?……ああ、苺ちゃんとこの頃一緒に来るお兄ちゃん?」

⏰:08/08/30 03:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#537 [向日葵]
「うんっ」

「いいなぁ、あんなカッコイイお兄ちゃんで。先生も欲しいよー」

先生は軽い気持ちで言っただけだった。
しかし苺の表情は曇り、険しくなっていった。

「あげないもんっ!せんせいにしばちゃんぜーったいあげないもんっ!」

クレヨンと画用紙を持つと、苺は教室の隅へと行ってしまった。
先生は呆然としてしまう。

何故なら苺があそこまで怒ったのは初めて見たからだ。
いつもはおっとりとしていて、聞き分けのいい子なのにと、先生は苺を見る。

⏰:08/08/30 03:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#538 [向日葵]
苺はすっかり怒っているのか、こちらに背を向けてまた絵を描いている。

その小さな胸に、どんな思いを秘めているのか、先生は突然の苺の怒りに戸惑っていた。

苺は一生懸命絵を描いていた。
大好きな人を思い、その人の笑顔を思い浮かべ、喜んでくれるかとワクワクしていた。

その人に1番に見て欲しいから、先生にだって見せたくはないのだ。
先生は、1番大好きな人じゃない。
1番大好きなのは……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「苺が?」

⏰:08/08/30 03:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#539 [向日葵]
あっという間に時間は過ぎ、保育園に柴が迎えに来た。

「ええ。ちょっと怒らせてしまいまして……。私が原因だとは思うんですが、もしかしたら何かあったのかなぁって……」

柴は足元にいる苺を見た。
苺は拗ねるみたいに口を尖らせ、柴の足にくっついている。

「苺ちゃん、じゃあまた明日ね。さようなら」

しかし苺は挨拶をしなかった。
柴は少し困った顔をして、苺の頭を軽くポンポンと叩き、挨拶を促す。

少しからかうように、また先生が言った。

「さようなら言ってくれないと、柴お兄ちゃんは先生がもらっちゃうぞーっ」

⏰:08/08/30 03:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#540 [向日葵]
すると苺は先生を睨みつけ、目にうっすら涙を浮かべる。

「せんせいなんて、だいっきらいっ!」

苺は保育園を飛び出して行ってしまった。

「苺っ!すいません、失礼します」

柴は急いで後を追いかけて行った。

小さい子の足は思ったより早い。
なので柴は更に急ぐ。
転びでもしたら大変だと焦りながら。

そしてようやく捕まえる。

「コラ苺っ!先生にあんな事言っちゃだめだろっ!」

⏰:08/08/30 03:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#541 [向日葵]
目の高さまで苺を抱き上げて、叱りつける。
苺は口を波のように歪ませると、大きな目を潤ませる。

泣く。
そう思った瞬間、体を軽く反って大声て苺が泣き出した。

「し、しばちゃんのばかぁーっ!いちご、わ、る、く、ないも、ぉーんっ!!」

うわーん!と甲高い声で泣かれれば、柴は慌てる。
苺をちゃんと抱くと、家まで急いで帰って行った。
その間も苺の機嫌は治る事は無かった。





「珍しい。苺が怒るだなんて」

⏰:08/08/30 03:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#542 [向日葵]
帰ってきた越に、柴はぐったりとしながら訳を話した。

あれから苺は自分の部屋にこもってしまった。
柴がいくら呼んでも返事をしない。
強行突破と思い、ドアを開けようしたらしっかりと鍵がかけられていた。

途方にくれた柴は、大人しく越の帰りを待ち、越になんとかしてもらおうと考えていたのだ。

「ご機嫌ななめでも話を聞く限り今日のは酷いなぁ。ちょっと行って来るよ」

「……ごめん」

「気にしなくていいよ。すぐに「しーばちゃん」って来るから」

⏰:08/08/30 03:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#543 [向日葵]
越は柴を安心させるよう微笑むと、リビングを出て2階へ行き、苺が閉じこもっている部屋まで行く。

立ち止まってしばらく中の様子をドア越しに読み取る。
そして優しくノックをする。

「いーちーご。いーれーて」

柔らかく、ちょっとおどけたように言ってみる。
返事はない。
でも越は辛抱強く待つ。
もう1度、優しく名を呼ぶ。
そして再び待つ。

するとゆっくり鍵が開けられた。
越は鍵が開けられた速度と同じくらいドアを開ける。

苺はベッドを背にしてちょこんと床に座っていた。

⏰:08/08/30 04:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#544 [向日葵]
越はその隣に座る。
苺の目は、泣きすぎか擦りすぎか、赤くなってしまっていた。

「先生に大嫌いって言ったのはどうして?」

叱りつける訳ではなく、頭を撫でながら優しく問う。
すると段々苺の目に涙がたまってきた。
そして子供特有のせわしないしゃっくりをしながら訳を話し出す。

「しばちゃん、は、い、ちごの、おに、ちゃ、だ、もんっ……。せんせ、しばちゃ、が、ほし、とか、もら、ちゃうとか、いったぁ……っ!」

つまり。
苺は柴が誰かに取られるのが嫌だと妬きもちを妬いていたのだ。

⏰:08/08/30 04:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#545 [向日葵]
遊ぶのは自分だけ。
自分だけのお兄ちゃん。
だから誰も近づくのは許さない。

そういう気持ちが強くなって、今日みたいな事が起こったのだろう。

しかし……と越は思う。
自分は柴と恋人同士にある訳なのだがそれはいいのか?と。

「柴がお姉ちゃんに抱きついたりしてるのはいいの?」

「おねえちゃんは、い、いの。いちご、は、おね、ちゃんがすき、だからっ」

基準がよく分からないな、と、苦笑いを浮かべていると、苺はそばに置いてあった丸めている画用紙を越に渡した。

⏰:08/08/30 04:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#546 [向日葵]
受け取って、苺を見る。

「見てもいいの?」

苺は両手で目を擦りながら大きく首を縦に振る。

画用紙を伸ばして見れば、人が2人クレヨンで描かれてい。
片方の人にはピンク色で「おねえちゃん」と書かかれていて、もう片方人には黄緑色で「しばちゃん」と書かれていた。

「一生懸命描いてくれたの……。ありがとう……」

苺に微笑みかける。
しゃっくりは止んできたが、苺の涙はまだ止まりそうにない。

「だ、いすきなひと、をかきましょーって、せんせい、がいっ、たの。だからね、いちごね、おねうちゃんとしばちゃん、かいた、の」

⏰:08/08/30 04:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#547 [向日葵]
「そっか……でもね苺」

越は伸ばした自分の膝の上に苺を乗せて目線を合わせて話す。

「何も言わずに“大嫌い”とか、“見ちゃだめ”とか言ったらだめだよ。先生がびっくりしちゃうでしょ?」

苺はしゃっくりを上げながらもしっかりと聞きながら相槌を打つ。そんな苺を優しく見つめながら越は背中をさする。

「なんで見ちゃだめなのか、どうして大嫌いって思っちゃったのか、伝えなきゃだめ。もしお姉ちゃんが突然苺に大嫌いって言ったら、苺どう思う?」

「……いや」

「だよね?じゃあ苺も、先生に嫌な事しちゃだめ。……ね?」

⏰:08/08/30 04:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#548 [向日葵]
苺はしょんぼりしながらもコクコク頷く。
越はこつりと苺と額をくっつける。

「苺はいい子だから、明日先生にごめんなさい出来るよね?」

「うん……」

「あと柴にも言えるよね?柴に馬鹿って言ったんだよね?柴傷ついてたよー」

苺は黙ると、また涙をため始めた。
自分のしてしまった事が悪かった事と分かり、反省しているようだった。

「苺、お返事はー?」

「……あい……」

⏰:08/08/30 04:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#549 [向日葵]
「よしいい子ー」

越は苺を抱き締めてやる。
すると苺は小さな腕を越の首に回し「うぅー」と言ってまた泣き出した。
怒られると緊張していた糸が切れたようだった。

そんな苺をポンボンと叩いてあやしながら、立ち上がる。
そして下へと降りて行く。

リビングの机でぼんやりしていた柴は苺と越に気づいて、そちらを向く。

苺は顔を上げて柴を見ると、降ろしてと越に無言で頼む。
越が床に降ろしてやると、苺はすぐに柴が座っているとこまで走って行って、その膝に飛び込んだ。

⏰:08/08/30 04:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#550 [向日葵]
「しばちゃんごめんねーっ」

柴は驚いて越を見るが、越は笑顔のままだった。
柴は再び苺に視線を落とすと、微笑んで苺を膝に乗せる。
膝に乗せると苺はヒシッと柴の胸にしがみつく。

小さな手で必死に服を掴む姿はなんとも可愛らしい。

こうして、苺のトラブルは幕を降ろした。

―――――――
―――――――――――

―次の日―

「ねえ柴、理由もなく、叱りつけたらだめだからね。子供でも意見を尊重してあげないと」

⏰:08/08/30 04:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#551 [向日葵]
いつも通りの朝。
朝ご飯の支度をしていた越は毎日の日課かのように背中にくっつく柴に言う。

「そうだね。よく分かったよ」

「それに女の子はもうあれぐらいから大人の女として意識しちゃうんだからねー。あんまり子供扱いしたら拗ねちゃうよー」

おかしそうに言う越に、「もう少し大人っぼくなってくれないかなぁ」と思う柴。
もちろんそこが越の良いところだが、あまりに純度100%だと手が出しにくいと悩んでいる彼だった。

これくらいの触れ合いが彼女にとっていいのだと分かってはいるがもう少し近づきたいと思ってるのも正直なところだった。

⏰:08/08/30 04:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#552 [向日葵]
「おねえちゃんおはよー」

声が足元から聞こえたと思えば、苺が起きていた。

「あれ苺、今日は1人で起きれたの?」

「うんっ!」

元気よく返事した苺は、越と柴を交互に見る。
すると突然2人を離そうとする。

「え、何なに?どうしたの苺」

仕方なく離れた2人の間に苺は入り、越の足にくっつく苺。

「しばちゃん、おねえちゃんはいちごのだからあんまりひっついちゃだめーっ!」

⏰:08/08/30 04:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#553 [向日葵]
「えぇっ!?」

越と柴の声が重なる。
苺はそんなのお構いなしに当然のような顔をして越にくっつく。

「苺、昨日別にいいって言ったじゃない」

「やっぱりいやーっ!おねえちゃんとくっついていいのはいちごだけっ!」

越と柴は顔を合わせる。
柴はどこか遠くを見るような目をしながら乾いた笑いを漏らす。

「大人の女のいいわけ……?」

「そ、それはちょっと違うかな……」

どうやら2人が恋人のように過ごせるのは苺がいない時と限られてしまったらしい。

⏰:08/08/30 04:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#554 [向日葵]
天真爛漫。
癒し系。
神田家のアイドル。

その名も苺。

彼女の自由奔放な生活はまだ始まったばかり。

そしてそれに振り回される人々達がその生活から解放されるのは、もう少し、先のお話なのだった。







*苺日記*-fin-

⏰:08/08/30 04:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#555 [向日葵]
*感想板*

>>319

*アンカー*

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600

⏰:08/08/30 05:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#556 [向日葵]
番外編*夫婦日記*

⏰:08/09/07 15:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#557 [向日葵]
「えー!?今日遅くなるの!?」

急な母の叫びに、家にいる子供達と柴は驚く。

何事かと見れば、先程かかってきた父からの電話に出た母は、腰に手を当て、どうやら怒っているようだった。

「……あぁ、うん。分かったよ。」

神田家の長女である越は電話の向こうで必死に母をなだめる父を想像する。
きっと内心焦っているのだろう。

「……ところで、今日なんの日か知ってる?」

母はしばらく静かに父の返答を待っていた。
するとなんの前触れもなく母は電話を切ってしまった。

⏰:08/09/07 15:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#558 [向日葵]
「お、お母さんっ!?」

母は足を踏み鳴らして台所へ向かう。
越はその後を追って行く。

換気扇をつけた母は煙草に日をつける。
明らかに不機嫌だ。

「お母さんどうしたの?お父さんとケンカ?」

「あぁちょっとね。見苦しいとこ見せちゃったわね」

ふぅと煙を吐く。
それが換気扇に吸い込まれていくのをぼんやりと眺めながら越はハタと気づく。

「そういえばお母さん、今日は何の日なの?」

⏰:08/09/07 15:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#559 [向日葵]
「え?……あぁ今日はね」

「結婚記念日?」

いつの間にか越の背後に立っていた柴が口をはさむ。

「柴正解」

「えぇっ!?」

この家にの子になってもう10何年もなる越だが、母達の結婚記念日を知らなかった上、まだ来て日が浅い柴に言い当てられたのが悔しく思った。

しょんぼりしている越に、母は微笑む。

「いいんだよ。毎年ひっそりと2人だけでやってたから。別に言うことでもないし」

⏰:08/09/07 16:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#560 [向日葵]
「じ、じゃあじゃあ、ケンカの理由ってまさか……」

母の微笑みが少し歪む。
どうやら正解らしい。

煙草をまたくわえて、また煙を吐く。

「一郎さん……“なんだっけ?”だってさ……」

多分そう言った瞬間、受話器を叩きつけるようにして置いたのだろう。

「ホヤホヤしててどこか抜けてるトコはあれど可愛らしいからいいのに……っ!しかも結婚記念日忘れた事なんていちっどもなかったんだぞ!?なのにもう老いぼれたかぁっ!!」

怒っているのか父を誉めているのかよく分からない母の言葉を聞きながら越は柴に苦笑いを向ける。

⏰:08/09/07 16:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#561 [向日葵]
「そもそもさ、祐子さん達はいつ知り合ったの?」

そういえば、母のなれそめを詳しく聞いた事はない。
越は母をじっと見つめる。

母を残り少なくなった煙草を灰皿に押しつけ、シンクにもたれる。

「一朗さんと、会ったのねぇ……」

――――――――
―――――――――――

17歳の青春真っ盛りの歳に、神田 祐子、旧姓、森下 祐子は過ごしていた。

「森下ぁ!お前また煙草吸っただろう!」

「吸って何が悪ぃんだよ!」

…………少々、荒れながら……。

⏰:08/09/07 16:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#562 [向日葵]
喧嘩上等。
売られた喧嘩は倍額で買う上、決して負ける事はない。

何度も停学になるが、祐子は学校に通い続けていた。

そんな祐子に近づくものは誰もいない。
遠巻きに見ていて、びくびくしていた。

「お前なぁ、こんな事じゃ人生台無しにするぞ!」

生徒指導室。
祐子はここの常連だ。
パイプ椅子にドカリと座り、ふんぞり返って足を組む。

あぁうるさい……。
この台詞を聞いたのは何回目だろうか……。

⏰:08/09/07 16:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#563 [向日葵]
「てめぇに人生云々言われたかねぇよ。いちいち関わんな!」

立ち上がり勝手に部屋を出ていく。
バンッと閉めると、バサバサッと何かが落ちる音が聞こえた。
その方を見ると、本をぶちまけて呆けている青年がいた。

「び、びっくりしたぁ……」

どうやら祐子が閉めた音に驚き、持っていたいくつもの本を落としてしまったらしい。

しゃがんで本を持とうとするが、もたもたしている動作に祐子はイラッとする。

「ったく早く拾えよっ!」

とつい手伝ってしまう。

⏰:08/09/07 16:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#564 [向日葵]
「すいませんっ!」

「謝るなら手ぇ動かしやがれ!」

2人で本を拾い重ね、祐子は青年に押しつけた。

「落とすぐらいに持ってんじゃねぇよ。ちったぁ量減らせ」

「あー……。でも読みたいのばかりだったから我慢出来なくて」

へらぁと、たれ目がちの目が更にたれる。
なんだからこちらまで力が抜けそうだと思った祐子は、回れ右をする。

「あ、あの!」

ちらりと背後を見れば、青年は笑顔でこちらを見ていた。

⏰:08/09/09 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#565 [向日葵]
「ありがとう」

祐子は心底驚く。
目を見開いて、青年を凝視した。
青年は祐子が去って行くまで見送る気なのか、にこにこしたままそこから動かない。

だから祐子は珍しくて仕方がなかった。

自分に笑顔で、しかもお礼を言う人間がいるのか……。
まぁあれぐらいフヤフヤした奴だと、不思議ではないかもしれない。

祐子はまた歩き出した。

――――――――――…………

壁に思いきり背中をぶつける。

⏰:08/09/09 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#566 [向日葵]
放課後、祐子と同じ系統の3年に呼び出され、お約束かのように校舎裏の人気のない場所に連れてこられた。

祐子は聞こえよがしに舌打ちをする。

耳に届いてイラついた3年の女子4人は、眉を寄せる。

「お前調子のんなよな。1人でなんでも出来ると思ったら大間違いだかんな」

祐子は女子達を嘲笑う。

1人で何も出来ないクソガキが……。

祐子の嘲笑にカッとなった女子の1人が祐子に掴みかかる。
その手を払うと、払ったその勢いで横っ面に右ストレートをお見舞いする。

⏰:08/09/09 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#567 [向日葵]
どさっと1人が地面に倒れれば、それが合図かのように残り2人が来る。

2人の攻撃をひらりと交わした祐子は振り向き様に1人の背中に回し蹴りをくらわす。
よろめいたのを確認してる隙に左からもう1人の拳が飛んできて口元をかする。

その手を取って、腹に膝蹴りを入れる。
「うっ!」と唸ると、1人は地面に突っ伏した。

ガリッと痛みを感じたと思えば、さっき回し蹴りをくらわせた奴が頬に爪をたててきた。

また飛びかかってくるのを避けた祐子は、首の後ろに手刀を下ろす。

⏰:08/09/09 01:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#568 [向日葵]
フッと気を失ったのを見て、顔をあげれば、あと1人いたのを忘れていた。
しかし明らかにビビっている。
1歩近づけばビクリとし、しかし歯を噛み締めるとかかってきたので、素早く身を屈めた祐子は立ち上がるスピードに任せて顎目掛けて拳を向ける。

痛さによろめいて口元を抑えた手の隙間から、血が滴り落ちている。

口の中を激しく切ったのだろう。

祐子は地面に倒れている1人の女子の腰辺りを踏みながら冷酷に笑った。

「リベンジいつでも受けてやるよ。ただ偉そうな事言う前に、腕を磨いておくんだな」

⏰:08/09/09 01:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#569 [向日葵]
最後に一蹴りして、祐子は去って行った。

祐子は本当は喧嘩なんてするつもりは無い。
自由に自分らしく生きていけば、反発する人がいて、それにのっかるように、面白がるように攻撃してくる人がいるのだ。

そしてやがて人数が増え、周りは敵ばかり。

いつ何が起こるか分からないから、祖父がやっている合気道教室に通い、兄が趣味でやっているボクシングを教えてもらい、とどめに父がやっている柔道の道場で修行を積んだ。

あとは自己流で色々な技を編み出せば、最強祐子の出来上がりと言う訳だった。

⏰:08/09/09 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#570 [向日葵]
しかし敵がいなくなればいなくなる程、彼女に近づく人間もいなくなっていった。

今度は噂の一人歩きや陰口がつきまとう。

自分らしく生きていく一方で、彼女は人とも孤独とも闘い続けていた。

教室に入れば、やはりと言うかもう誰もおらず、差し込むオレンジ色の夕日がただただ眩しかった。

私はなんの為に生まれてきたのだろう……。
何故こうでしか、生きれないんだろう……。

考えればキリがない事は分かっているので、鞄を持つと足早に教室を去った。

⏰:08/09/09 01:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#571 [向日葵]
下駄箱で靴を替えて、歩き出そうとした時だった。

「うわぁぁぁっ!」

頼りない叫び声と共に色々な落ちる音が聞こえる。

祐子は既視感を覚えてそろりと音がした方を向く。
するとやっぱりと言うか、鞄を投げ出し、ファスナーがちゃんと閉まっていなかったのか、中身が四方八方に散らばっている。

そしてその鞄の主は、ありえない格好で転んでいた。
奇跡としかいいようがない頭に上靴が片方乗っている姿は、可笑しさを通り越して呆れた。

「おい……」

とりあえず声をかける。

⏰:08/09/09 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#572 [向日葵]
青年は起き上がると辺りを見回し、吹っ飛んでいた眼鏡をかけると、祐子の方を見た。

やっぱり……。

今日本をぶちまけていた青年だ。

青年はへらぁっと笑った。

「あぁどうも。また会ったね」

「どんくさいにも程があるだろお前」

頭に乗っていた上靴を取って顔の前に出す。

「色々考え事してたら足が滑っちゃって」

アハハハと笑うこののんびりさはどこからやって来るのだと裕子は目を半目にする。

⏰:08/09/09 02:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#573 [向日葵]
青年はよいしょと立ち上がろうとして固まる。

「……どうした?」

「足が痛くて立てないみたいなんだぁ」

またアハハハと笑う。

……コイツある意味すげぇ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ちゃんと乗ったか?」

「アハハ、ごめんね迷惑かけてー」

まったくだ……。

立てない青年を放っておく訳にもいかないので、祐子は青年をおぶる。

⏰:08/09/09 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#574 [向日葵]
「力持ちだねー」なんてのんきに背後で喋るものだから祐子はイラッとした。

なんであたしがこんな目に合わなくちゃならないんだっ!!

ふと、前に突きだしている彼の手を見れば、綺麗な白い、けれどしっかりした手だった。

祐子の手は、毎日生傷が絶えない。
残ってしまうだろう傷痕だってある。

こんなどんくさい奴と、自分と、一体何がどう違うか、祐子には分からなかった。

保健室に着いたはいいが、中には誰もいなかった。
置いてあるホワイトボードには“職員室にいます”と記されている。

⏰:08/09/09 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#575 [向日葵]
待っていてもいつ帰ってくるかなんて分からない。
ならばさっさと手当てをして帰ろう。

「座れ」

素直に座った彼の近くにある救急セットから湿布と包帯を取り出す。

靴下を脱がせば彼の足首は見事に腫れていた。

「くじいたみたいだな。とりあえず後で病院行けよ」

「病院はやだなー。僕薬が嫌いなんだよねー」

知るか。

「にしても手慣れてるね」

「まぁな」

「どうして?」

「関係ねぇだろーが。おら、終わったぞ。あたしチャリだから家まで送ってやるよ」

⏰:08/09/09 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#576 [向日葵]
またおぶろうと思って屈もうすると青年は祐子の手を引いて、目の前の空いているもう1つの椅子に座らせた。

「オイなんだよ。さっさと帰っぞ!」

「まだ君の手当てが終わってないよ」

「はぁ?怪我なんざしてねぇよ」

「痛くないの、これ」

ふわりと彼の手が、彼女の手に触れる。
それが、さっき見た、綺麗で微かに羨ましく思った手だと思えば、祐子は払いのける。

「い、痛くなんかないっつーの……っ!」

顔が無駄に熱い。

⏰:08/09/09 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#577 [向日葵]
なんだコレ!!

しかし構わず彼はまた触れ、目の前で微笑む。

眼鏡の奥の柔らかい印象のたれ目が細められる。

「でも君、女の子だから。傷残っちゃ困るでしょ?」

「は……っ!?お、お、女の子ぉっ!?」

声が微かに裏返る。

ローラー付きの椅子を利用して、ザッと後ずさる祐子。

「寒い事、い言ってんじゃねぇぞ!そう言えば黙って手当て出来ると思ってんのか!」

「そうじゃないよ。一般論述べただけ」

⏰:08/09/09 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#578 [向日葵]
「難しい事言ってんなっ!」

「ハイハイ。とりあえず見せてね」

消毒駅を浸した脱脂綿が頬に当たる。
このくらいの傷なんて慣れっこだ。
もっと酷い怪我だってした事がある。

なのに何故、消毒する時、痛くないかドキドキするように、こんなにも心が乱れているのだろう……。

なんとなく、祐子は落ち着かなかった。

「ハイ、いいよ。次は気をつけてね」

「気をつけれたらな」

「ん?」

⏰:08/09/15 00:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#579 [向日葵]
「……何もない。家まで送る。さっさと乗れ」

青年は素直に祐子の背に乗る。
祐子は自転車通学していたので、彼を後ろに乗せるつもりでいた。

「あっ」

突然青年が祐子の耳元で声を上げる。

「うるせーな……。なんだっ!」

「君の名前思い出した!森下祐子さんだよね」

「だったらなんだ……」

「恐いって有名な」

「だから何」

⏰:08/09/15 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#580 [向日葵]
「鬼みたいだって噂の」

「だったら何なんだよっ!」

質問しているのに青年は聞いてるのかいないのか話続ける。
祐子は苛立ってつい声を荒げる。

いますぐ手を離して青年を乱暴に降ろしてやりたい衝動にかられるが、深呼吸して必死に感情を抑える。

「うーん……納得出来ない。やっぱり噂は噂だね。そう思わない?」

「てめぇ殴られたいのか……だったら何だって言ってんだろうがっ!」

「こんなに優しいのに、皆はどこを見ているんだろう……」

⏰:08/09/15 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#581 [向日葵]
祐子はぴたりと足を止める。

本気でそう思ってる風に喋るから、祐子は信じられない気持ちでいっぱいだったが、すぐに思い直す。

あぁ……コイツは変人なんだ……。
あたしを優しいだなんて思うだなんて、よっぽど頭がおかしいのだろう……。

「おいお前」

「何?森下さん」

「あたしだけ名前バレてるなんて気分悪い。お前、名前は……?」

コイツは頭がおかしい。
女の子扱いするし、寒い事言うし、ましてや自分と普通に接する。

そう思っていながら、祐子は少し、ほんの少しだけ、彼を知りたいと思っていた。

⏰:08/09/15 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#582 [向日葵]
関わる事は、もう無いだろうけど。

後ろから、クスリと息が漏れる音が聞こえた。

「神田 一朗(カンダ イチロウ)だよ」

――――――――
――――――――――――

「って言うのが出会い」

越は絶句する。
母は確かに荒れていそうな感じだったが、今は大人になり、大人の振る舞い方で人と接しているから、喧嘩で人を、ましてや血が出るほど殴っている姿が想像出来なかった。

「それでよく一朗さん口説き落としたね」

柴は越と違い平然としていた。

⏰:08/09/15 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#583 [向日葵]
祐子はカラカラ笑い、エプロンを着け始める。

「ま、色々ある訳よ。さて、これ以上越がドン引きするといけないから、夕飯作るわ。チビ共の相手してやってて」

柴は頷くと越の背中を押してリビングへと戻って行く。

それを見ながら、祐子はまた思い出す。

「口説き落とした……ねぇ……」

―――――――――
――――――――――――

「もーりしーたさんっ」

体育館裏で煙草を吸おうとしていた祐子は一朗の姿を見るなり呆れた表情を浮かべて、口にくわえていた煙草をポトリと落とした。

⏰:08/09/15 01:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#584 [向日葵]
「なんなんだ……お前は……」

「神田一朗。前に教えたじゃないか」

関わらないだろうと思っていた。
だが神田一朗は何度も祐子の前に現れては無邪気な笑みを向ける。

「神田……なんでここにいんだよ……」

「森下さんの姿が見えたから。どこ行くのかなって追ってきたんだ」

だから何故追ってくるんだと言いたいのを飲み込む。
またくだらない理由が返ってきそうだからだ。

許可もしていないのに、神田一朗は祐子の隣に腰を下ろす。
暖かな日差しに目を細めて、その温度を慈しむかのように微笑む。

⏰:08/09/15 01:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#585 [向日葵]
祐子はスカートの上に落ちた煙草を取り、またくわえる。
ちらりと神田一朗の方を見るが、対して気にした風はない。

祐子の視線を感じた神田一朗は、祐子の方へ視線を向け、首を傾げる。

「何?」

「別に……。口煩い教師達みたいに吸うなとか言うと思って」

「確かに法律上では未成年の喫煙は禁じられているし、女性は将来妊娠するだろうから控えるべきだとは思うけどね。そるに先生達に見つかれば停学は免れる事は出来ない確率の方が大きいけど」

「難しい事言うなっつってんだろ!頭痛くなるっての……っ」

「僕は先生じゃないし、森下さんの自由だから」

神田一朗はそう言うと微笑む。

⏰:08/09/15 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#586 [向日葵]
そしてまた空を眺めた。

祐子はつられて見上げる。
いつもと同じ空だ。
これと言って変わりはない。

なのに、今はどうしてこんなに穏やかな気持ちにさせるのだろうか。

まどろみそうになって祐子はハッとした。

「神田、教室に戻れ」

「なんで」

「いいからっ!」

無理矢理立たせて背中を押した。

神田一朗は不思議そうに後ろを振り返りながら体育館の角を曲がった。

⏰:08/09/15 01:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#587 [向日葵]
ホッとしたのも束の間。
反対側、祐子の背中の方から誰かがやって来る。

「コラ森下っ!またお前か!!」

やっばりと言うか、来たのは祐子のように煙草を吸っている生徒はいないかと見回りに来た教師だった。

「なんだよ。煙草吸ってお前に迷惑かけたかよっ!」

「あのな、森下。吸っちゃいけないって言う社会のルールがあるんだよ」

社会?ルール?
そんなもんくそくらえだ。

大した理由もないのに頭ごなしにダメだと言う。
だから祐子は納得出来なかった。

⏰:08/09/15 01:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#588 [向日葵]
「社会のルールかよ。じゃあ停学でもしやがれっ!あたしは痛くも痒くもねぇんだよ!!」

教師は祐子にたじたじだ。
下手をすれば祐子が飛びかかってくるのではないかと心配だからだ。
そんなのだから、祐子の心は更に納得出来なくなる。

結局祐子は何も見なかった事にされ、煙草は没収された。

――――――――…………

廊下を歩いている時だった。

「森下さんっ!」

振り返れば、向こうから神田一朗が走って来る。
そしてお約束のように何も無い所でスッ転ぶ。

⏰:08/09/15 01:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#589 [向日葵]
祐子はため息をついて彼に近づく。

「お前には気をつけると言う言葉はないのか……」

「そんな事より、さっき先生に煙草見つかったんじゃ……っ。教室に歩いて行く時、怒鳴り声が聞こえて……」

「見なかった事にするってよ」

「そ、そっかぁ……」

祐子はハッと気づき、周りに目を向ける。

あの祐子と話していると、神田一朗が変な目で見られているのを視線で感じた。

―ドウイウ関係?

―下僕?パシリ?

―マサカ恋人?

―違ウダロ。森下ガ良イヨウニ使ッテルダケダロ。

⏰:08/09/15 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#590 [向日葵]
直接言う事も出来ない馬鹿共。

いや……1番の馬鹿は、神田一朗か……。

関わらなかったら、こんな事言われる事も無かったのに……。

「――でね、森下さん」

「神田」

祐子は神田一朗の話を遮る。
そして冷たい目で彼を見つめる。

「あたしに二度と関わるな。お前がいたら、目障りなんだ」

神田一朗は固まる。

これでいい。

祐子は回れ右をして去って行った。

⏰:08/09/15 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#591 [我輩は匿名である]
>>578
誤]消毒駅
正]消毒液

>>581
誤]優しいだなんて思うだなんて
正]優しいと思うだなんて

>>585
誤]そるに
正]それに

⏰:08/09/16 00:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#592 [向日葵]
すいません上も私です

⏰:08/09/16 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#593 [向日葵]
「オイ一朗」

一朗の友人が呼びかける。

「お前何急に全力疾走してんだよ」

「ちょっとね」

「ってかお前、森下祐子となんか喋んない方がいいぞ。それでなくてもお前先生から可愛がられてる優等生なんだからさ」

一朗は運動はともかく、勉強では優秀だった。
それは2年生の間では有名で、注目はされていた。

だから、問題児である森下祐子と絡めば悪影響が出るとでも友人は思っているのだろう。

「優等生……ね……」

彼女は珍しがる訳でなく、普通に接してくれたから、新鮮だった。

⏰:08/09/16 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#594 [向日葵]
自分に向かって呆れた表情や、怒った表情、しまいには殴られそうになるけど、1つ1つ彼女を知る度楽しくなっていった。

「……もしかして」

[うっとおしい]

あの言葉の意味は……。

―――――――――…………

下校の音楽が鳴る。
それを聞きながら、誰もいない教室で祐子は机に突っ伏して目を瞑っていた。

珍しく、今日は教師との口喧嘩だけだったから、暴れたりないと言うか……。

「帰ってサンドバッグでも叩こうかね……」

⏰:08/09/16 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#595 [向日葵]
立ち上がり、沈みかけの夕日を見る。

今日も1日が終わる……。

教室を出て、下駄箱へ向かう。
靴を履き替えて、自転車置き場へ向かおうとした時、勢いよく引っ張られた。

「森下さ……」

この声は……。

「神田?」

神田一朗は祐子を追いかけてきたのか、息を切らせて祐子の腕を掴んできた。

下校時間なので校舎に残っていた生徒は帰る為下駄箱へやってくる。
祐子は手を払い退け、歩き出した。

⏰:08/09/16 01:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#596 [向日葵]
「森下さん話を聞いて」

「話なんかない」

祐子はカゴに鞄を入れ、鍵を刺す。

「僕はあるんだ!だから聞いてっ」

自転車のストッパーを外し、自転車を出す。
またがり、ペダルに足をかけると同時に、神田一朗は前に立ちはだかった。

「聞いてくれなきゃのかないよ」

ハンドルを傾けて方向転換しようとするも、また前へやって来て通せんぼする。

祐子は眉間にシワを寄せると長いため息を吐いた。

⏰:08/09/16 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#597 [向日葵]
「昼間あたしが言った事忘れたのか?」

「すっごく傷ついた」

「本音だ。私は本音しか言わない」

「嘘だ。あれは僕の為に言ったんでしょ?」

祐子はハンドルに肘をおいて頬杖をつく。

「だとしても事実には変わらない。あたしなんかと関わればお前は損する。そんな役にはなりたくない。だからうっとおしい。それだけの事だ」

「僕が誰と関わろうが僕の自由だっ!だから損しても誰の責任でもない。僕が悪い」

⏰:08/09/16 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#598 [向日葵]
だからそういうのも嫌だって言うのが分からないか、このタコは……。

「あたしなんかといても何も学べやしない。とっとと消える事をお勧めしてやるよ」

ハンドルを握り、自転車を勧めようとすると、神田一朗はかごを持ってそれを阻止する。

思っていたよりも力が強かったから、裕子は驚く。

「おいっ!殴られてぇのかっ!いい加減にしろっ!!」

「学ぶ事を前提として付き合う友達なんかどこにもいないよ。僕は一緒にいたいと思う人しかいない」

真剣な言葉に、祐子は戸惑う。

⏰:08/09/16 01:12 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#599 [向日葵]
「だったら聞く。なんでお前はあたしと一緒にいようとする」

ほとんど睨むようにして、祐子は神田一朗を見つめる。

どこからか冷たい風が吹いてきて、祐子のウェーブがかった髪の毛を揺らす。

最後にフワリと吹いてから風が止んだ時、一朗は微笑んだ。

「……好きだからかも」

祐子は神田一朗が一瞬何を言ったか分からず固まる。
そして意味を理解すれば、これが叫ばずにはいられない。

「はぁぁぁぁぁっ!?」

口があんぐりと開く。
本当に信じられなかった。

⏰:08/09/16 01:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#600 [向日葵]
しばらく口を開けたまま固まった祐子は、「ありえない」と頭を振り、自転車を進ませた。

それに神田一朗はついてくる。

「森下さん、どうしたの?」

「お前は宇宙人か。あたしを好き?馬鹿もやすみやすみ言え。それと寝言は寝てから言え」

「馬鹿な事でもないし、寝言でもないよ。本気の気持ち」

それがおかしい。

「そんな事言ってないで、大好きな本でも読みあさってろよ」

「僕は本気だっ!」

いきなり大声を出されたので、びっくりした祐子は足を地面につけながらよろける。

⏰:08/09/16 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#601 [向日葵]
神田一朗の方を見れば、なかなか信じてくれない祐子に少々腹をたててるようだった。
しかし、祐子からしてみればあまり怒っている風には見えず、どちらかと言えば拗ねてるように見える。

祐子は彼の額に指を弾いて当てる。
急に攻撃された彼は小さく「痛っ」と言って額に手を当てる。

「何考えてるか分かんねぇけど、冷静に考えてみれば分かる。お前は普通の人間。あたしは問題児。どう見られるか分かるだろ。分かったなら、二度と話かけるな」

それだけ言うと、祐子は自転車を走らせる。

もう、神田一朗は追って来なかった。

⏰:08/09/16 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#602 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいまー」

帰ってくればいい香りが祐子の鼻をくすぐる。

そしてフリフリなエプロンを着ておたまを持った祐子の母が祐子を迎える。

「おかえり祐子ちゃぁんっ!今日は祐子ちゃんがだぁい好きなハンバーグよっ」

「あのさママ……いつも思うけどそのエプロンどうなの……」

すると母は可愛らしく頬を膨らませる。

「んもうっ。ママじゃなくて翠(ミドリ)ちゃんって呼んでって言ってるじゃなぁいっ!」

⏰:08/09/16 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#603 [向日葵]
母が嫌いな訳ではない。
むしろ好きだし、尊敬するが、この少々ぶりっこが入った母の血が自分の体のどこを通っているか不思議で仕方ない祐子だ。

「早く着替えてらっしゃい。あ、そういうば今日喧嘩しなかったのね。良かったわ、これ以上女の子に傷がついたら翠悲しいんだからぁっ」

そういえば、神田一朗もそんな事を言ってたなと思い出す。
彼の事を思い出せば、帰りの事も思い出す。

「ママ……じゃない。翠ちゃん。今日あたし告白されちまったよ」

「え!本当に!?やっだぁ早くその子連れて来てぇっ!翠会いたいわぁっ!」

⏰:08/09/16 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#604 [向日葵]
「やだな翠ちゃん。連れて来るわけないっしょ。それ以前に、本気じゃなさそうだもん」

「また祐子ちゃんはぁっ!そんなの分からないでしょぉっ!?」

少し怒ったように、上目遣いで祐子を睨む。
神田一朗もこんな目してたっけ……。
やっぱり、本気じゃなさそう……。

きっと自分のような問題児が珍しいのだろうと思いながら、祐子は自分の部屋へと向かっていく。

「あ、今日、圭ちゃん遅くなるんだって!先にご飯食べちゃいましょー」

圭ちゃんとは、祐子の父、圭司(ケイジ)の事。

⏰:08/09/16 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#605 [向日葵]
あんな筋肉ムキムキな父が果たして圭ちゃんと呼ばれていいのだろうかと祐子は遠い目をした。

着替えが済んだ祐子は下へ向かいテーブルに並べられた夕飯に目を光らす。

「たっくさん食べてね。翠、いーっぱい作ったから」

「うん。いただきまっす!」

空腹は最大の調味料。
体の芯まで味が染み渡っていく。

満足気な顔でご飯を頬張る祐子を見て、翠は微笑む。
そして正面に座る。

「で、祐子ちゃん、その子どんな子?」

「その子?」

「んもうっ、しらばっくれちゃって。好きって言ってくれた子よぅっ」

どんな子……。

神田一朗の事を思い浮かべる。

⏰:08/09/18 02:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#606 [向日葵]
ふにゃふにゃしててアハハと笑いながら頭をポリポリかいてる姿が目に浮かぶ。

「……なよっちくて、変人……。いや、宇宙人……?」

「まぁ宇宙人だなんてっ。祐子ちゃんにとっては珍しく気になっちゃってるのねっ」

「え、何言ってるの」

あの宇宙人を何故気にしなくちゃならないと祐子は眉間にシワを寄せる。

出来れば関わりたくないタイプなのに気になるだなんてとんでもない。

「……ママ」

「“翠ちゃん”っ」

⏰:08/09/18 02:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#607 [向日葵]
どっちでもいいだろうに……。

「翠ちゃん達はいつ知り合ったの?」

訊けば翠は頬をポッと赤く染めてモジモジしだした。

「16歳の時、圭ちゃんがね、女の子に囲まれてる翠を助けてくれたの」

翠は指を組んでキラキラした目で宙を見つめた。
その時の父を思い浮かべ、もう1度恋に落ちるかのように。

「スーパーマンだって思ったわ!だって赤いマントが見えたものっ!」

幻覚だと言いたいのをぐっとこらえる。

「今と変わらず大きな体で必死に庇ってくれる姿に、翠は運命を感じたのっ」

⏰:08/09/18 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#608 [向日葵]
聞くんじゃなかったと後悔する。

翠には少々……いやだいぶ、乙女チックな所がある。
そう思えば、自分は父の似たのだなと祐子は思った。

守られるだなんてとんでもない。
守られるぐらいなら守ってやる。

ふと、あのたれ目を余計にたらして笑う神田一朗を思い浮かべる。

あれはどう見たって、守ってやらなくちゃいけないタイプだ。

――――――――…………

爽やかな朝。
あくびをしながら祐子は学校へ向かっていた。

⏰:08/09/18 02:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#609 [向日葵]
今日は数学のハゲチャビンの日か……。
屋上で昼寝でもしようかね……。

校門が見え、祐子の姿を見た一般生徒達は半径2メートルは離れて行動する。
いつもの場所に自転車をガシャンと置いただけでその場にいた人はそそくさと去っていく。

祐子には日常茶飯事なので、我関せずといった風にカゴから鞄を取り出す。
くるりと方向転換する。

「おはよう」

思わずぶつかりそうになる。
そこにいたのは神田一朗だった。祐子はわざとらしくため息を吐く。

「なんだよ。今日は足骨折でもしたか?」

⏰:08/09/18 03:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#610 [向日葵]
「荷物扱いされるつめりはないから気にしないで」

にっこり笑う。
祐子は無視して歩き出す。
彼は後を追ってくる。
早歩きしてもなんなく付いてくる。

祐子のこめかみに、青筋が浮き出る。

「なんだよお前よぉっ!」

振り返って彼に怒鳴る。

片目を瞑ってそれをやり過ごす彼は、ずずいっと近づいてきた。

「考えたんだ」

「は?」

「君がいったんだよ。冷静に考えてみろってさ」

⏰:08/09/18 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#611 [向日葵]
言ったような言ってないような……。

祐子は自分が言った事を忘却の彼方にやってしまっていた。

半目で神田一朗を睨む。
彼は涼しい顔で受け流す。

「僕が普通だろうが、君が問題児だろうが関係ない。僕は森下祐子さんを好きになったんだ。これが答え。合格はもらえる?」

祐子は顔が熱くなると共に足から順番に鳥肌が立っていくのが分かって身震いしながら数歩後ずさる。

「う、宇宙人……っ!寒い事言ってんじゃねぇぞっ!」

「寒い?僕はただ本音を……」

「黙れっ!」

⏰:08/09/18 03:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#612 [向日葵]
なんでこんなに心をかき乱されなくちゃならないのかと腹が立って、鞄で彼の胸辺りを殴る。

反動でカシャンと彼の眼鏡が落ちる。
彼が取ろうとする前に、祐子はその眼鏡を勢いよく踏む。
呆気ない音と共に、眼鏡は粉々になった。

さすがにやり過ぎたかと罪悪感を感じるが、全て彼が悪いと思えばそれも薄れた。

「これで私が見えないだろ。それでいい」

ならこんな風に追いかけられる事もない。

「じゃあな」

珍しく後味が悪いと思いながら、教室には行く気にはなれなかった祐子はそのまま屋上へと向かう。

⏰:08/09/18 03:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#613 [向日葵]
ひとまずアンカーしておきます

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:08/09/20 02:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#614 [向日葵]
―――――――――…………

粉々になった眼鏡を拾いながら一朗はため息をつく。

彼女がそこまで自分を拒絶するのは何故なのだろうか。

粉々になった眼鏡同様、一朗の祐子に対する気持ちも粉々になりそうだった。

眼鏡を壊されても怒る気にはならない。
そうやって感情をぶつけてくれると言うのはまだ自分は眼中にあるからだ。

だからこそ、気持ちを理由もなく受け取ってくれない彼女対し、へこみつつある一朗だった。

「――……たは?」

⏰:08/09/20 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#615 [向日葵]
>>610

誤]つめり
正]つもり

⏰:08/09/20 02:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#616 [向日葵]
話し声が聞こえたのでその方を見る。と言っても、彼のただ今の視界は水の中にいるようにぼやぼやしている。
分かるのはなんとなくそこに人がいるという事だけだ。

「さっき屋上に行った……」

「よし……行くぞ、この間の復讐……」

途切れ途切れにしか聞こえないが、誰かに喧嘩を売りに行くのだと言う事は分かった。
それもただの口喧嘩ではないらしい。
声からして計画を企てているのは女の子だろう。

女の子がそんな事しなくてもいいのに……と一朗は思う。

「いやー……女って恐ぇーなぁ……」

⏰:08/09/20 02:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#617 [向日葵]
「坂上?」

友人の声に反応する。
気づけば隣にいた。この距離なら見えなくもない。

「寄ってたかって暴行計画とは、穏やかじゃないねー。あれ、お前眼鏡は?」

粉砕した眼鏡を乗せた掌を見せると友人は納得したように頷く。
おそらく一朗がドジをしたとでも思っているのだろう。

「でもさ、あの女子達、絶対返り討ちになるよな。なんてったって、相手は学校の鬼神だかんなぁー」

呑気に言って去ろうとする友人の肩を一朗は勢いよく掴む。

「それって、森下さん?」

「ん?あぁそうだけど?」

⏰:08/09/20 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#618 [向日葵]
それを聞くなり、一朗は駆け出した。

―――――――――…………

「ぃえっくしっ!」

なんともおっさんくさいクシャミをしながら祐子は屋上で寝そべっている。
しかしさっきから寒気がして仕方ない。

ついに誰かから呪われ始めたか?と心の中で笑っていると、また派手にクシャミをする。

あぁ寒い……。
やっぱり冬に屋上に出るものじゃないな……。

別の場所に移ろうと、半身を起こした時、屋上のドアが開く。

⏰:08/09/20 02:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#619 [向日葵]
「ん?」と振り向けば、見た事ある4人組が立っていた。

「あれま先輩方、怪我はすっかり治ったみたいっすね」

にやりと余裕の笑みを浮かべる裕子に、この間こてんぱんにやられた4人は歯ぎしりする。

「あんなの怪我のうちにはいんねぇよ」

「で、何の用です?」

立ち上がりながら祐子は訊いた。

「リベンジいつでも受けるっつっただろ。正にそれだよ」

「今度はいい勝負になるといいんですけど……。ちゃんと腕あげてきたのか?」

⏰:08/09/20 02:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#620 [向日葵]
「へっ!身をもって体験しやがれっ!」

4人いっぺんに祐子に飛びかかる。
ゆっくり身構えて、相手がまずどう出るかを目で微かに捕らえてまず何をお見舞いするかすぐさま考える。

避けて回し蹴りが有効そうだと考え、実行に移すため避けた時だった。

「いけませーんっ!!」

そこにいた5人はピタッとそのままの体勢で静止する。

この……迫力の無い声は……。

振り向けば、ドア付近に息を切らした神田一朗がいた。

⏰:08/09/20 02:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#621 [向日葵]
「お前……」

祐子は頭痛を覚えて額に手を当てる。
他の4人はポカンとしていた。

「前も言ったじゃないか森下さんっ!女の子が顔に怪我したら大変なんだよっ!」

ピリッとしていた空気がまるで砂のようにさらさら呆気なく去っていくのが分かる。
変わりにぽけぽけした空気に支配されていく。

「お前は今さっきの私の行動を全く反省してな……あれ、お前眼鏡……」

粉砕したはずの眼鏡を彼はかけていた。

「スペアだよ。ホラ僕ドジだから持っておかないとダメでしょ」

⏰:08/09/20 02:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#622 [向日葵]
神田一朗の空気に流されそうになってハッと気づいた祐子はかぶりを振る。

「ってかあたしの事にいちいち首突っ込むなっ!」

「好きだから突っ込みたくもなるよ。ホラ帰ろう」

と神田一朗は祐子の手を取る。
そして目を軽く見開く。

「森下さん……熱ある?」

眉を寄せた祐子はまたクシャミをする。

さっきからのクシャミや寒気はそれで?こんな丈夫な体が?

自覚した途端、頭がくらくらしてきた。

⏰:08/09/20 02:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#623 [向日葵]
それを聞いた4人もさっきの気分を取り戻しす。

「熱ならなおのこと都合いいじゃねえか。そこの彼氏共々ボコボコにしてやんよ」

「彼氏じゃねぇし」

くらくらしながらもしゃんと立っている祐子は神田一朗を背に庇い4人に向き直る。
それを神田一朗はのけさせようとする。

「森下さん、今日は駄目っ」

「うっさい、アンタ弱いんだからさっさと帰れっ!」

その言葉に、神田一朗は目をパチパチさせた。

「僕弱くはないと思うよ」

⏰:08/09/20 02:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#624 [向日葵]
そう言うと、祐子の前に進み出て、そのまま4人の所まで平然と歩いていく。
祐子は驚いて止めようとするが声が出ない。

「先輩方、喧嘩はよしませんか?」

神田一朗はにっこり笑って言う。

「なよっちい奴は……ひっこんでなっ!」

言葉と共に繰り出された拳を、神田一朗はひらりとかわし、ひね上げ、動けないようにする。

「ね?森下さん体調不良ですし」

笑って喋りながら、近くで呆けていた1人を足払いでこかす。
あとの2人は目だけで威嚇する。

⏰:08/09/20 02:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#625 [向日葵]
笑っているのに、目からは冬の寒さよりも冷たい空気が流れてきて、4人はもう固まるしかなく、遠くにいた祐子もなんとも言えない表情をして固まっていた。

「わ、分かった!今日は止めるから放しやがれっ!」

パッとひねり上げていた手を解放すると、彼はまたにっこりと笑う。

「ありがとうございます」

野生の本能で分かる、この人には敵わないと言う雰囲気に、4人は押され、そのままそそくさと帰る。

祐子はそれを呆然と見送ってから、神田一朗を見る。

「ね、弱くないでしょ?」

⏰:08/09/20 03:00 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#626 [向日葵]
「……どうしてついて来るんだ……。あたしはお前がうっとおしいっつっただろ……」

「何回も言ってるじゃないか。僕は君が好きなの」

「だからあたしは……」

「ねぇ森下さん」

彼は祐子の言葉を遮る。

「森下さんは僕の事や、自分の周りからの評価でしか僕の事を拒否してない。でも僕が求めてるのはそんなのじゃなく、森下さん自身の気持ちが知りたいんだ」

真剣に言われてしまえば、ここから去ってしまいたい程恥ずかしい。
考えれば考える程頭が熱くなっていく。

⏰:08/09/20 03:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#627 [向日葵]
そして忘れていた。

熱があった事。

視界が真っ暗になる。

「あ、森下さんっ!」

彼の声を最後に、祐子は意識を手放した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

学校のチャイムが聞こえた気がした。

額にひやりとした物が乗せられているのが分かる。
暖かい物にくるまれているのも分かる。

体がダルい……。
そう思いながらも目を開ける。

⏰:08/09/20 03:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#628 [向日葵]
*アンカー*

>>613

*感想板*

>>319

⏰:08/09/20 03:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#629 [向日葵]
>>614

誤]彼女対し
正]彼女に対し

⏰:08/09/20 03:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#630 [向日葵]
>>623

誤]取り戻しす
正]取り戻す

⏰:08/09/20 03:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#631 [向日葵]
急な光に眩しいと思いながら周りを見渡す。

「……保健室?」

「そうだよ」

シャッとカーテンが開いたと思えば、そこに神田一朗が立っていた。

「風邪らしくって、熱が38度もあったんだ。家の方に電話してきた所だから、もう少し寝てていいよ」

ベッドのそばにある椅子に神田一朗は座る。
そしてあのたれ目がちな目で優しく祐子を見つめる。
祐子は落ち着かなくてそわそわしだす。

「森下さんって軽いよね。喧嘩強いから筋肉もついてるかと思ったけど柔らかいし」

⏰:08/09/25 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#632 [向日葵]
ここにいると言う事は神田一朗が運んだからだろう。
そしてその持ち上げた感想を聞かされ、祐子は顔を赤くする。

「だから……っ、何が言いたい……っ」

神田一朗はゆっくりと手を伸ばすと、祐子の髪に触れ優しく撫でる。
その柔らかな手つきに、祐子の胸は跳ね上がる。

「女の子だからって言うのもあるけど、僕にとっては森下さんは特別な女の子だからね、自分で自分の身を守るんじゃなくって、僕が守ってあげたいと思うんだ」

決意表明かのように、まっすぐに祐子を見つめ、そう言う。
ギュッと目を瞑りたい衝動に祐子はかられる。

⏰:08/09/25 01:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#633 [向日葵]
[女の子に囲まれてる翠を助けてくれたの]

あぁ、これじゃ両親と同じではないか。
ゆくゆくは恋愛?そして結婚?
なんとも馬鹿馬鹿しい……。

そう思っていても、この優しい綺麗な手をはねつけれない祐子だ。
それどころか心地よくて眠気すら感じる。
でもそれは熱のせいだという事にする。

「祐子……」

「ん?」

「森下さんなんて痒い呼び方するな。呼ぶなら下の名前で呼べばいい……」

⏰:08/09/25 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#634 [向日葵]
一層笑みを深くする神田一朗。
息をするのを忘れてしまいそうになる。

「僕も一朗でいいよ。祐子さん」

下の名前だと、余計に痒くなってしまった。

――――――――
―――――――――――……

若かったんだなあたし……。

食事も終わり、食後の一服と煙草をくわえながら祐子は思う。

あんなにうろたえなくても良かっただろうに。

それは仕方のない事なのだ。
喧嘩しかなかった毎日に突然舞い降りたロマンス。
慣れれる訳がない。

⏰:08/09/25 01:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#635 [向日葵]
結婚だってするとは思ってもみなかったのも本音だ。

一朗は思ったよりもずっと強引で、しつこかった。

――――――――
―――――――――――……

「祐子さん、一緒帰らない?」

「なんでお前と……」

3年にもなんとかあがれた祐子は、相変わらず一朗に追いかけられていた。
それはもう忠犬としか言いようがないくらい、毎時間、毎日……。

しかし祐子は、段々と自分の気持ちを自覚しつつある為、前のように強く拒否出来ないでいた。

⏰:08/09/25 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#636 [向日葵]
それにもまた困ったし、戸惑っていた。

「まさかまた喧嘩?」

ずずいと顔を近づけるものだから、祐子はびくっとしながら数歩素早く後ずさる。

「あ、あたしが喧嘩しようが何しようが自由だろっ!それに喧嘩じゃない!母親に頼まれてる事があんだよっ!」

「なぁんだ買い物か。じゃあ一緒に行こっかぁっ」

と突然手を握り指を絡めるものだから祐子は更にうろたえる。

「だからついてくんなぁぁぁっ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

頼まれていたものとは、翠が趣味としているお菓子作りの為の材料だった。

⏰:08/09/25 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#637 [向日葵]
「祐子さんは料理しないの?」

「出来なくはない。でもめんどくさい」

ポイポイと頼まれてる材料をカゴに入れながら祐子は答える。
すると一朗が「んー」と唸ったので、片眉を上げて振り向く。

「なんだよ」

「不味くはないんだよね?」

「だから出来なくはないって……」

「じゃあお弁当作ってよ」

口をポカンと開けて一朗を見る。
一朗は目を輝かせたまま祐子を見る。

⏰:08/09/25 01:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#638 [向日葵]
「……誰が誰に何で」

訊きたい事をいっぺんに詰め込み訊く。

「祐子さんが、僕に。食べたいからっ。なんかそりゃ好きな人の手料理って食べたいし」

恥ずかし気もなく“好きな人”だなんて言うから祐子は背筋がゾワッとしながらも耳が熱くなるのを感じる。

「めんどくさいっつったろっ!」

「そう言いながら作ってくれるんだよね祐子さんは。前だって調理実習のカップケーキくれたしっ」

くれ、とせがまれていたが、祐子は嫌だと言っていた。
しかし本当にくれないと分かればしょんぼりするのが一朗なので、可哀想だと思って前はやったが……。

⏰:08/09/25 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#639 [向日葵]
「あれはあまりがあったからだ!そうでなきゃなんでお前にやらなきゃならんっ!」

「分かったよ。そこまで否定しなくてもいいじゃない」

苦笑いを浮かべて、一朗は祐子の持っているカゴを持つ。

取り返そうとするも、また手を握られる。
思わず固まる。
これではまるで恋人同士。
顔が熱いのなんて気づかないフリをする。
一朗は何とも思わないみたいに歩く。
それを見るとなんだか腹が立ってくる。

どうしてここまで振り回されなきゃならない……。

祐子に反発心が芽生える。
主導権を握られるのは好きじゃない。

手だってなんだか汗をかいてるみたいだし……。

⏰:08/09/28 00:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#640 [向日葵]
買い物を終え、自転車のカゴに荷物を入れて、ハンドルを握ると、その上から長い指をそなえた手が被さる。

「――っ、なにっ!」

「暗くなるから送るよ。毎日送らせてくれずに自転車で逃げるように帰っちゃうからちょっと不愉快だったんだよね」

不愉快って……。

にっこりと、トゲを刺してくる一朗に、苦虫を噛み潰したような顔をする祐子。
有無を言わさず、後ろに乗せられ、一朗と2人乗りで帰る事になった。

沈みかけの夕日が、なんとも幻想的で綺麗だった。

⏰:08/09/28 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#641 [向日葵]
それも、今までで1番綺麗な気がする。

そう思うのは、どうしてだろう……。

握られたり、重ねられたりする自分の手をそっと撫でる。
自分の手が、彼の手のように綺麗になったように感じる。
自転車で進む度ふわりと吹いてくる風が心地よい。
その度、祐子の少しウェーブがかった髪もふわりとする。

ぼんやりと過ぎ行く景色を見ていたら、一朗から口笛が聞こえてくる。

「さて、なんでしょう」

その問いに、祐子は口の中でさっきのメロディを繰り返す。

⏰:08/09/28 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#642 [向日葵]
「……赤とんぼ?」

「正解っ」

そう言うと一朗は今度は口ずさむ。
その声に、祐子は耳を傾ける。

「その歌って、寂しい感じがする……」

ぼんやりと祐子は言う。
一朗は「そう?」と訊き返し、祐子の返事を待つ為に歌うのを止めた。

「夕焼けって寂しいイメージがする。そこに1匹だけ赤とんぼが飛んでる気がする。それってなんだかすごく……切ない」

夕日が嫌いなんじゃない。
さっきも思ったように綺麗だと感じるし、むしろ好きだ。

⏰:08/09/28 01:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#643 [向日葵]
ただ、祐子は教室で1人ぼっちでいる自分と、赤とんぼのイメージを重ねていた。
どこか、孤独な、その様を……。

「……祐子さん、僕がいるよ」

「は……?」

「寂しくないよ。僕がいるから」

「だ、誰が寂しいなんて言った……っ。あ、あたしはただ、そんなイメージがって……」

「うん……」

納得したのか、それとも適当に頷いたかは分からない。
ただ、彼は祐子の思いを感じ取ったようだった。

⏰:08/09/28 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#644 [向日葵]
心に、無遠慮に侵入してくる……。
居心地が悪くないのがまた困る。言うんじゃなかった……。

「なぁ神田」

「一朗でいいよ」

「かーんーだ」

意地でも呼びたくないと思い、一朗の言葉を無視する。
クスクス笑う一朗は「何?」と言う。

「手を握ったりするをやめてくれないか?」

「どうして?」

「…………手汗をかくから」

大した理由が浮かばない。
本当は恥ずかしいなんて絶対に言いたくない。
何故か、一朗の好きだと言う態度には反抗したくなる。

⏰:08/09/28 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#645 [向日葵]
「緊張するって事?」

「じゃない」

一朗はただクスクス笑う。
こっちの考えを見透かされているみたいで、祐子は居心地が悪くなる。

「やめてくれない?そうやって何でも分かった風に振る舞うの」

「だって祐子さんは分かりやすいから」

「何それ。単純馬鹿って言いたいのかよ」

「素直で可愛いって事」

そんな風に言う一朗ね背中を拳で叩く。
「痛い痛い」と、さほど痛くなさそうな声を出して、また笑う一朗。

⏰:08/10/04 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#646 [向日葵]
居心地が悪い。
ムカつく。
寒いやつ。

そう思うのに、そばにいる事を許している自分はなんなのだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あらあらあら!まぁまぁまぁ!」

翠がたまたま外へ出てくるのと、祐子を乗せた一朗が家に着くのとは同時だった。

祐子は頭を抱えてうなだれる。

この事態だけは避けておきたかった……。

案の定、翠は興奮に頬を紅潮させ目をキラキラさせる。

⏰:08/10/04 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#647 [向日葵]
一朗は祐子が怪我しないようゆっくりとブレーキをかけて止まる。祐子をおろし、自分もおりると、翠に向き直りにっこり笑う。

「初めまして。神田一朗です。祐子さんをお送りさせて頂きたくて、やって来ました」

「あらあらご丁寧に。祐子ちゃんのママの翠です」

「挨拶しなくていいからっ!ホラママ」

「翠ちゃんっ!」

「……翠ちゃん、家に入ろう」

翠は口を尖らせて祐子のそばをすり抜けると、一朗の前に行く。
そして一朗に負けないくらいにっこり笑う。

⏰:08/10/04 00:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#648 [向日葵]
「一朗君、ビーフシチューは好きかしら?祐子ちゃんを送ってくれたお礼をしたいのだけど、食べていかない?」

「ち、ちょっと翠ちゃんっ!」

こんな居心地が良いような悪いような訳の分からない気持ちにさせられる奴と食事をするなんて嫌だと思った。

せっかくの美味しい料理すら味が分からなくなる。

「好きです。邪魔にならないのでしたら、お言葉に甘えたいです」

「お前も何言ってんだよ!」

「じゃあ決まりね」

「あたしを無視するなぁぁっ!」

⏰:08/10/04 00:47 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#649 [向日葵]
結局、同じような空気をもつ2人には勝てず、渋々祐子は一朗を招き入れる事を承諾した。

「着替えてくる」

「手伝おうか?」

「殴られたいのか」

「簡単には殴られないよ」

真実なのでイラッとした祐子は口を真一文字にキュッと引っ張り足を鳴らして階段を上がっていった。
そんな姿を一朗は見てクスリと笑う。

「一朗君、好きな場所に座って」

いつにもましてルンルンな翠は、そう言いながらいつも祐子が座る場所の隣をさりげなく勧める。

⏰:08/10/04 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#650 [向日葵]
それを一朗は知らないので、勧められるがままに座る。

「ありがとうございます」

翠は笑顔で返す。
そしてソワソワするので、一朗は翠に問う。

「どうか、なさいましたか?」

「あなた、祐子ちゃんが好きなのよね?」

「ハイ。とても」

恥ずかしがるわけもなく、一朗はそう答える。
翠は更に興奮し、「キャー!」と軽い叫び声をあげる。

「素敵!私あなたなら祐子ちゃんをお嫁にあげてもいいわっ」

「それは光栄です」

⏰:08/10/04 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#651 [向日葵]
>>645

誤]一朗ね
正]一朗の

⏰:08/10/06 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#652 [向日葵]
そこでハタッと翠は動きをとめ、瞬きを繰り返しながら何かを考えてから一朗の方へ乗り出す。

「もしかしてあなたが祐子ちゃんに告白した子かしら?」

「ご存知で?」

翠は入口を気にしてから一朗に微笑みかける。

「祐子ちゃん、あんな風だけど、とってもいい子だから……仲良くしてやってね」

その言葉に、一朗は笑みを深める。

「ハイ。もちろんです」

その答えに満足した翠は、キッチンへと戻る。

⏰:08/10/06 01:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#653 [向日葵]
「ちょっと!」

着替えをすまして下りてきた祐子は大きな声を出した。
そして一朗を指差す。

「アンタどうしてそこに座ってんだよ!」

「え、好きな場所にって言われたからそうさせてもらっただけだよ?」

ずんずん歩いてきた祐子は向かい側を指差す。
どうやらこちらに座れといいたいらしい。
なんてったってその隣は祐子の特等席なのだから。

しかし聞いているのかいないのか、一朗は上から下まで祐子を見るとにっこり笑った。

「私服って新鮮だなぁ」

⏰:08/10/06 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#654 [向日葵]
祐子は言われて自分の姿を見る。

パーカーを長袖のTシャツの上からはおり、ジーパンをはいただけというラフな恰好。

「……当たり前だろ。毎日制服なんだから」

もうちょっとマシな恰好をすれば良かっただろうか?と考えている事に何の疑問も感じず少し落ち込む。

「ううん。可愛い」

そう言われてガチンと祐子の体が固まる。
そして爪先から頭のてっぺんまでゾワゾワとしたものが這い上がる。

「か……っかか可愛い!?」

思わず声が裏返る。

⏰:08/10/06 02:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#655 [向日葵]
「うん。可愛い」

もう1度言う。
祐子はブルッと震え、両腕を擦る。

「無理……っ、寒い事言うな!」

「そんなオヤジギャク言ったみたいな反応しなくても……」

と言いながら祐子の毛先を一束持つ。
それをもてあそぶ。

「猫っ毛なんだね。フワフワしてていいな。1度触ってみたかったんだ」

「翠ちゃん譲りなんだよ。あたしには似合わない」

一朗はクスクス笑う。

⏰:08/10/06 02:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#656 [向日葵]
「似合うから可愛いって言ってるのに。自分の事まったく分かってないんだね」

なんだか馬鹿にされたような気がしながらも顔を赤くさせる。

どこでもかしこでも、なんでこんな言葉が出てくるか分からない。

けれど寒い言葉ながら、少し嬉しく思ってしまう自分がいるのも否定出来ない。
そんなのだから、たちが悪い……。

「さぁ2人も、ご飯にしましょうか」

翠がもって来たビーフシチューはいい香りがして、どこかぼんやりしていた祐子の思考を醒ました。

⏰:08/10/06 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#657 [向日葵]
結局一朗は移動しないままで、あまり席にこだわっていては照れてると思われそうなので、一朗の隣に祐子は座った。

「お口にあえばいいんだけど」

一朗はにこりと笑って、両手を合わせて「いただきます」と言うと一口ビーフシチューを口に運んだ。

「美味しいです」

たれ目がちなあの目が更にたれる。
へにゃんとしたその笑顔に力が抜けそうで、少しかぶりを振った祐子はビーフシチューを食べる。
いつも通り美味しくて、祐子まで一朗の顔になりそうだった。

「おかわりあるからね。沢山食べてちょうだい」

⏰:08/10/06 02:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#658 [向日葵]
*アンカー*

>>613

*感想板*

>>319

⏰:08/10/06 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#659 [向日葵]
穏やかに、時間が流れている気がした。
一朗がいるだけで、とても和やかだった。
味が分からなくなるから嫌だ。
そう思っていた筈なのに、一朗が隣にいると、美味しい気持ちと一緒にどこかホッとした雰囲気を味わった。

―――――――――…………

食事を終え、一朗は帰ると言った。
とりあえず、門前くらいまでは送ってやろうと、祐子は一緒に外へ出る。

「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」

「翠ちゃんは料理得意だからな」

「じゃあ、祐子さんも上手なんだろうね」

⏰:08/10/09 00:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#660 [向日葵]
にっこり笑ってそう言う一朗が何を言いたいか分かった祐子は、わざと大きくため息をついた。

「どうしてもとでも言いたいのか?弁当」

「祐子さんに任せるよ」

そう言うが、一朗は祐子が作ってくれるだろうと期待している。
そして祐子はそう思っている一朗が分かるもんだから余計に脱力する。

「……はよ帰れ……」

「うん」

頷きながら、一朗は祐子の両手を握る。
不意をつかれた祐子は激しく動揺する。

⏰:08/10/09 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#661 [向日葵]
「か、帰れっつってんのに何手ぇ握ってんだよっ」

「こうする為」

軽く祐子の手を引っ張った一朗は、つんのめった祐子の頭に軽く唇を押しつける。
祐子は驚いて、手を振り払うとすぐさま一朗から離れた。

「な…………っ!」

「感謝の印。じゃあまた明日ね」

涼しい顔をして、一朗は帰っていった。

胸がドキドキして、頭がくらくらしだす。

油断してたらこうだから、祐子は自分が一朗に対して無防備なのか?と疑問に感じた。

⏰:08/10/09 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#662 [向日葵]
―――――次の日。

祐子のもつ、あのとげとげした雰囲気が時が経つにつれマシになっていったということで、3年になってからは人が祐子に喋りかけてくれるようになった。

少し戸惑う祐子に、周りの誤解は晴れていき、そんな祐子を慕って暮れることに祐子自身も嬉しかった。

今日もそんな気分で学校へ来た祐子だが、家を出た時から緊張の為心臓が早鐘を打ちっぱなしだった。
教室についてから、鞄を机に置きそれをじっと見つめる。

「甘いな……あたし……」

呟くように言う。

実は、鞄の中には一朗リクエストであるお弁当が入っているのだ。

⏰:08/10/09 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
早起きして作ったものだから、いつも早起きな翠とばったり会い、「誰に?」などとニヤニヤしながらわざとらしく訊くものだから、「うるさいっ!」と怒号してしまった。
しかしそれで翠が怯む訳もなく、お弁当を作る祐子の周りをちょこまか動くから、祐子はせっかく作ったお弁当がちゃんと美味しく出来ているかが心配だった。

そしてそこでハッとする。

何気に自分がお弁当作りに気合いを入れてしまっている。

美味しくなくてもいいじゃないか。
美味しくなければ一朗はもうお弁当を作ってくれなどと言わないし、祐子も面倒な事をしなくていい。

⏰:08/10/09 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
いやしかし、やるからにはちゃんとやらなければ気がすまないと言うか……。

段々自分が何をしたいかが分からなくなってきた祐子は、机に突っ伏す。

この頃自分はどうしたんだろう……。

「森下さん」

クラスの女子が話かけてきたので祐子は顔を上げる。
「何?」と訊けば、戸口らへんを指差して「呼んでるよ」と言われた。

見ればそこに男子が立っていた。見た事がある。
確か一朗の友達で、「坂上」とかいった。

⏰:08/10/09 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
何の用だろうと首を傾げつつ、祐子は坂上の元へと行った。

「おはよう」

礼儀正しく挨拶してくれる。

「おはよ。何?」

「ちょっといい?廊下出てよ」

いぶかしげな顔をして、祐子は導かれるままに廊下へ出た。

向き合うように立った坂上は、少し睨むように祐子を見る。

「いい加減、一朗を解放してやってくんないかな」

耳を疑う。
眉根を寄せて、上目遣いで坂上を睨む返す。

⏰:08/10/09 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
「……は?何が?なんだよ解放って」

「アイツの家は、代々医者にならなくちゃならない。だからお前と遊んでる暇はない。だから早く解放してやってくれと言ってる」

初めて聞いた祐子は驚きを隠せなかったが、まるで自分が一朗を玩具が如く連れ回しているみたいな言い方をされて、こめかみ辺りに青筋が浮かぶ。

「そんなの本人に言えよ。あたしはアイツを束縛してるつもりはない」

「アンタにはなくても一朗はそれで迷惑してるんじゃないのか?それに一朗には、恋人がちゃんといる」

は……?

もう何がなんだか分からなくなってきた。

恋人?
そんな人見た事も聞いた事もない。

⏰:08/10/09 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
坂上はわざとらしくため息を吐く。

「俺ははっきり言って、早く一朗がアンタから離れるよう願ってたよ。なんてったって、アンタはそんなだ」

“そんなだ”

たった4文字の言葉に、明らかに馬鹿にした気持ちが入っているのが分かった祐子は、怒りに握った拳を震わす一方で、泣きたくなった。

どうして……こんな事言われなくちゃならないんだ……。

悔しい。
どうして殴れない?
いつもみたいに、言い返せない?

⏰:08/10/09 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
耳の奥で、迫力ない声が聞こえる。

“女の子が喧嘩しちゃ駄目っ!”

「分かったなら、もうつきまとわないでくれよな」

どいつもこいつも好き勝手言って。
あたしはあたしだ。
自分が思ったように行動するだけだ。

そこで祐子は気づいた。
一朗の事を、一朗の気持ちを、分かろうとしたくなかったのは、自分らしくなくなっていってるのを感じたからだ。

しかし恋人がいた?
じゃあ彼は祐子をからかっていただけなのだろうか?

⏰:08/10/09 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
それなら、一朗の気持ちを分かろうとしないでいい。

私は……私だ。

「待てよ……」

祐子は坂上を呼び止めた。
坂上は眉を寄せて祐子の方を向こうとした。
しかし、その瞬間、横っ面に激痛が走る。
目がチカチカして立っていられず、坂上は尻餅をついた。

祐子は殴り飛ばした、拳を突き出したままの状態ままで静止していた。
そしてゆっくりとその腕を下ろす。
祐子の周りは、不穏な空気が流れていて、それを感じ取った坂上は血の気が引いていくのが分かった。

⏰:08/10/10 23:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
「どうして……」

祐子は呟き、歯を噛み締める。

「どうして……お前にそんな事言われなきゃなんないんだっ!!」

祐子は坂上に馬乗りになり何発も殴りつける。
何人もの生徒が周りに集まったり、祐子を止めようとする。

自分なりに生きてきた。
それをたった4文字で片付けられた事がすごく嫌だった。
好きでこうなったんじゃない。

何も知らないくせに、何も分かろうともしないくせに……。
あたしの何がいけないの……っ。

祐子には、いつの間にか何も見えなくなっていた。
勝手に動く拳を止める気もなく、そのままにしている。
ただ、遠くの方で、教師のの太い怒鳴り声が聞こえた気がした。

⏰:08/10/10 23:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
気がつけば、目の前に翠がいた。
誰もいない学校の応接間みたいなところのソファーに力なく座り、どこを見ているか分からない祐子を心配そうに見ている。
そっと、繊細な肌を持った指先が、祐子の頬を撫でる。

祐子はぼんやりと、自分が翠のようであれば、何も言われず、平和に素直に生きていけたのだろうか。

「ママ…………」

かすれた声で、翠を呼ぶ。
いつもは呼び方を否定する翠が、首を少し傾げて優しく「なぁに」と聞いてくる。

「あたし……間違ってるの…………?」

⏰:08/10/10 23:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#672 [向日葵]
「祐子ちゃん……」

自分らしく生きる事はそんなにも許されない事……?

祐子は分からなくなっていた。

誰も、自分を分かってなんかくれない。
誰も、祐子の孤独を分かってはくれない。
誰も……。

[祐子さんっ]

目の奥に、一朗の笑顔が浮かぶ。

呆れるくらい、まるで犬みたいにつきまとってくるくせに、真剣な声で自分がそばにいると言った。
噂よりも祐子自身を信じてくれた。

何も恐れず、“森下 祐子”が好きだと言った。

⏰:08/10/10 23:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#673 [向日葵]
あぁでもそれは嘘なのかもしれないんだったか。
それでも信じたい。
噂を信じなかった彼。
ならば自分も彼の口から聞いた事しか信じたくはない。

そう思うのは、きっと彼が好きだからだ……。
無邪気な笑顔を向けてくれる彼が、好きなんだ……。

いつの間にか、祐子の頬が濡れていた。
流れる滴は丸くなり、スカートの上にポトポトと落ちてゆく。

「ママ……ごめん……っ」

両手で顔を覆い、声を押し殺すようにして泣く。

いくら自分らしくと言ったって、両親に迷惑をかけてばかりの自分。

⏰:08/10/10 23:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#674 [向日葵]
全ての気持ちが、一朗を好きだと気づいた事により溢れ出す。

祐子はただ翠に「ゴメン」と謝り続ける。
何度も繰り返す祐子に、翠は優しく抱き締める。
まるで子供をあやすように背中をポンポンと叩くものだから、祐子は更に涙が溢れた。

これ以上、誰にも迷惑をかけてはいけない。かけたくもない。
一朗は将来有望の医者になるらしい。
ならば、周りからみた自分の印象は分かるから決めた。

一朗がなんと言おうと、彼から離れよう。

彼が無邪気に笑い続けてくれるなら、この気持ちが伝わらなくてももういい……。

⏰:08/10/10 23:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#675 [向日葵]
祐子は1週間の停学処分にされた。
その噂はクラスからクラス、学年から学年へと早々に伝わっていった。

この頃おとなしかった祐子なだけに、生徒は祐子の存在を再度思い出し、そして怖がった。
1部のクラスと、生徒を除いては…………。

珍しく遅刻をしてしまった一朗は、ホームルームが始まってなくてホッとする。
しかし、周りがやけに騒がしいので変だとは思っていた。

そこへ一朗のクラスの学級委員が、「あと10分したらホームルーム始める」と伝えに来た。
時間があるので、一朗は祐子の所へ行こうと教室を出た。

⏰:08/10/12 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#676 [向日葵]
一朗は5組、祐子は1組だったので少し遠い。
祐子の教室へ近づく度、ざわめき声がひどくなるのは何故だろう。1組に着いた一朗は、戸口で祐子を探す。
が、探す前にクラスの女子が一朗に群がった。

「神田君来るの遅いっ!」

「何やってるのよ!」

一朗は何故怒られているかが分からず、びっくりして後ずさりする。

「な、何が?」

「まさか知らないの?」

「知らない?」

女子が顔を見合わせる。
神妙な顔で、口を開いた。

⏰:08/10/12 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#677 [向日葵]
「森下さんがね……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女子から説明を受けた一朗は驚きを隠せないでいた。

彼女が停学。
それも自分のせいで。

一朗はショックを受けながらも自分の持っているものを見つめた。先ほど祐子のクラスから彼女から預かったものだと一朗に渡された。

それは、自分が頼んで待ち望んでいたお弁当だった。

力なく席についた一朗は、ドアから顔に湿布とガーゼと絆創膏だらけの坂上を見つけた。
彼は一朗を見つけるなり、この傷を勲章だと言わんばかりの顔をして彼の元へとやって来た。

⏰:08/10/12 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#678 [向日葵]
「森下祐子に言ってやったぞ。お前に付きまとうなって。迷惑してたんだろお前も」

一朗は何も答えず、机に置いたお弁当を見つめる。
坂上は自分の武勇伝を聞いてくれと一朗の前の席に座り語り出す。

「俺はお前の為に……まぁ少々キツイ事も言ったけど、ズバーンと言い聞かせてやったのよ。そしたらアイツってば何をキレたかしんねぇけど殴りかかって」

バァンッ!と音が鳴る。
一朗は机を拳で思いきり殴った。
それまで祐子の噂であろう話し声が一気に止む。
そして皆、一朗と坂上に注目する。

⏰:08/10/12 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#679 [向日葵]
坂上はすごく驚いたのか、目を見開いて口を半開きにして一朗を見つめている。

「僕の為……?」

ものすごく低い、唸り声のようにも取れる声は、一朗のものだと数秒してから坂上は分かった。
うつむいてる彼の表情は分からない。
だが机を殴った拳は小刻みに震えていた。
坂上は、一朗の逆鱗に触れてしまった事を瞬時に理解した。

「僕の為に祐子さんを傷つけたのか……?迷惑?僕がいつ……君にそんな事を頼んだっ!」

坂上はびくりとして席を立つ。
それでも、鋭く冷たい一朗の眼光からは逃れる事は出来ない。

⏰:08/10/12 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#680 [向日葵]
「僕の為って一体なんなんだ!僕は迷惑だと思った事はないっ!僕は祐子さんが好きだ。つきまとっていたのは彼女じゃなくむしろ僕だ。当たり前だろ好きになってほしいんだから」

強い言葉に、クラス一同圧倒される。
黙って一朗の言葉に耳を傾けた。
「彼女を傷つけたなんて許さない……。絶対にね。君は僕の友達なんかじゃないよ」

一朗は鞄とお弁当を持つと、立ち上がり教室を出ていく。
その途中、担任が教室に入って来て、どこかへ行ってしまう一朗を呼び止めた。

「神田、どこへ行くんだ?ホームルームやるぞ」

⏰:08/10/12 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#681 [向日葵]
「ホームルームよりも大切な事があります」

そう言って出ていこうとする一朗を再び止めようとした担任だが、今度はクラス全員から担任が止められた。

「先生行かせてあげて!」

「俺達はちゃんとホームルーム出るから!」

「神田って優秀じゃん?たまには息抜きさせてやってくれよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家へ帰ってきた祐子はぼんやりとベッドに横たわっていた。

いつもと変わらない天井を見上げて思うわ一朗の事だ。

⏰:08/10/12 02:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#682 [向日葵]
感想板が新しくなりました
良ければいらしてくださいね(。・ω・。)

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/

⏰:08/10/13 10:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#683 [向日葵]
彼はまた自分の元へやって来て、また無邪気に笑うのだろうか。
いや、その前に、さっきボコボコにした奴が止めるかもしれない。

それに、彼女だって……。

信じたくないのに、不安の方が勝って、最悪な結果の方へと思考が導いていく。

何も考えたくなくて、目を瞑った。
目を瞑って見える瞼の裏のチラチラしたものでさえ、今はうっとおしく思わせた。

「祐子ちゃん」

ドアの外から翠が声をかけてくる。
そのままの体勢で「何?」と答えた。

⏰:08/10/13 20:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#684 [向日葵]
カチャリとドアを開けて入ってきた翠は穏やかな微笑みを浮かべていた。
起き上がった祐子は床上にちょこんと正座した翠を見る。

「祐子ちゃん、貴方は間違ってなんかないわ。自分を貫き通すってとっても難しくて、流される人が大概だもの」

いつもの花が舞ってそうな平和な空気はなく、翠は凛としていた。だから不思議と祐子の背筋もピンと伸びる。

「流された人はなんらかの後悔をするわ。だから翠はね、祐子ちゃんには自分を貫いて後悔のないように生きて欲しいわ」

「それが……誰かの迷惑になっても……?」

⏰:08/10/13 20:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#685 [向日葵]
思い浮かべたのは、一朗の事だった。

「そうねぇ……。殴っちゃうのは正直いけないと思うわ。売られたなら買うしかないけれど」

にっこり笑って言うから思わず吹き出してしまう。
翠が喧嘩を売られて買う姿を描くのは無理だ。

「迷惑になりたくないと思う人には、少々自分を変えてもいいの。でもそれは流される事とは違うわ。自分でそうなりたいと願っているのだから」

一朗に出会って、自分の何かが変わるのを祐子は恐れていた。
自分らしくなくなって、弱くなってしまったように感じたからだ。

⏰:08/10/13 20:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#686 [向日葵]
そんな自分を認めたくはなかった。

翠は立ち上がる。
窓の外を見て、ふわりと笑う。

「今日はいいお天気ね……」

そう言って部屋から出て行った。
祐子も外を見てみる。
確かに気持ち良さそうな天気だった。
そろそろ気持ちの切り替えをしなければいけない。
窓の鍵を開けて、ガラガラと開ける。
爽やかな風が入ってくれば、心の乱れも落ち着いてくる。

と、思っていたが、それは次の瞬間見事に打ち砕かれる。

「祐子さんっ!」

⏰:08/10/15 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#687 [向日葵]
息が止まった。
目を見開き、祐子はゆっくりと下を見る。

門に、息を切らせた誰かがいる。
肩を揺らし、泣きそうな顔をしながらこちらを見ている。

それは紛れもなく、一朗だった。

「祐子さん……話をしよう。坂上が言った事を全部忘れて」

彼の必死の姿に、祐子も泣きそうになった。
奥歯を噛み締め、口を真一文字に結ぶと、強く首を振る。

「あたしは、もうアンタに近づかない。そう決めたんだ……」

なんとか一朗に聞こえる声でそう言う。
一朗は険しく苦しそうな顔をする。

⏰:08/10/16 00:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
笑ってくれたらいい。
もう辛い思いさせるのは嫌だ。

彼女がいるなら尚更……。

目をギュッと瞑って、祐子は一朗に背を向けた。
話をするつもりはない。
そう意思表示する為に。
次に振り向いた瞬間、一朗が諦めていなくなってて欲しいと願う。

数秒してから祐子は振り返った。さっき一朗がいた場所に、彼の姿はなかった。

さよなら。

別れを口の中で告げれば、悲しくなった。
本当は離れて欲しくないのに。
うつむいて、祐子は涙を流した。

⏰:08/10/16 00:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
ガザガサと、耳障りな音が聞こえる。
なんだと思い顔を上げれば、祐子の部屋の窓近くの木から、一朗が現れた。
驚いた祐子は口を開いたまま固まる。
そんなのお構いなしに、一朗は窓下にある僅かな足場に移動し、祐子の方にのり出して微笑む。

「祐子さんが僕に近づくのがダメなら、僕から祐子さんに近づくよ」

そういう問題じゃない。

そんな事を言っても一朗には通用しないのだが、祐子の頭は混乱しかけていた。

「まるでロミオとジュリエットみたいじゃない?」

⏰:08/10/16 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
「あ、アホか!早くこっちに来い!危ないだろっ」

一朗の襟を掴み、土足だという事も忘れ引っ張る。
祐子の上に、一朗が被さるようにして2人は倒れこんだ。

色々疲れて息づかいが荒い祐子に一朗は微笑む。
ハタと祐子が今の格好に気づけば恥ずかしくなって急いで離れようとすれば、それを押さえこむように一朗が祐子を抱き締めた。

どうしていいかわからない祐子は硬直する。
思っていたよりもしっかりとした腕は、父以外の男を初めて感じた。

「は……離せ……」

「離したら祐子さん逃げるもん。だから嫌」

⏰:08/10/16 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#691 [向日葵]
「い、言ってる場合か……っ!」

「言ってる場合だよ。勘違いされたまま離れるだなんて僕は許さないからね」

鼓動がうるさい。
一生分の心臓の動きを終えてしまうんじゃないかと心配になるぐらいドキドキしているのが分かった。
間近に彼の肩と髪の毛。耳には吐息と低いなめらかさのある声。
少し当たる彼のメガネのフチが冷たくてぞくぞくする。

顔は熱いし、かと思えば彼のブレザーは冷たい。
この温度差にさえ緊張してしまう。

「話、聞いてくれるなら離してあげる」

しばらくして、一朗が言った。

⏰:08/10/16 00:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#692 [向日葵]
「ただし条件がある。それでもいいなら解放するよ」

「じょ、条件って……?」

「今は言わない」

「な、なんだよそれ……っ!」

「じゃあこのままがいい?」

それは嫌だ。

この状況からは早く逃れたい。

祐子は首を振る。
「じゃあいいね?」と一朗が問うので、仕方なく頷いた。
一朗は、最後にギュッとしてから祐子を解放する。
赤い顔を見られたくなくて、起きて一朗少し離れるとそっぽを向く。

⏰:08/10/16 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#693 [向日葵]
「坂上がごめんね……」

「別に。……本当の事だし」

「じゃあ僕から離れていくの?」

祐子は黙ってしまう。
さっき強くそう決心した筈なのに、本人を目の前にしたら一気に揺らいでしまった。
せっかく引っ込んでくれた涙も、また出てきそうになる。

そんな思いを抱えているから、彼の方をまっすぐに見れないのかもしれなかった。

スカートをギュッと掴み、なんとか泣きそうになる衝動を抑える。

「アンタ……には、彼女がいるんでしょ?」

「えぇっ?」

⏰:08/10/22 00:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#694 [向日葵]
一朗がすっとんきょうな声を出す。少し怒っているようにも聞こえた。

「それも坂上から?」

祐子は頷く。
一朗は長いため息をついた後、「しょうがないなアイツは……」と呟く。

「とりあえず、祐子さん、こっち向いてくれないかな?」

こちらを見ない祐子に、一朗は覗き込む。が、祐子は更にそっぽを向く。
一朗は眉を寄せる。
祐子は困る。
一朗に力づくで彼の方へ向かされてしまえば、自分の今の感情を抑えれる自信がないからだ。

無言の祐子に、一朗は困惑する。

「僕には祐子さんだけだよ。信じてくれないの?」

⏰:08/10/22 00:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#695 [向日葵]
「そういう訳じゃ……」

「じゃあ顔見せて?」

祐子は頑なに彼の方を向かない。
一朗は困り果てるが、ゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。
祐子はビクリと震える。
彼女が何に怯えているのか、一朗にはよく分からないが、とにかく話さなければと、こちらに向くように誘導する。

顔はこちらに向いたが、うつむいたまま口をキュッと結んでいる。
下唇を少し噛んでいる姿は、拗ねた子供みたいで可愛いなどと不謹慎な事を考えてしまう。

違う、違うと、頭を軽く振った一朗は、祐子と額をくっつける。

⏰:08/10/22 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#696 [向日葵]
「祐子さん……」

柔らかく呼ばれてしまえば、何故か逆らえず、祐子は彼に目線を合わせてしまう。
眼鏡の奥の、たれがちな優しい目からは逃れられなくなる。

祐子は涙を流した。

だから嫌だったんだ。

きっと目を合わせてしまえば、決心も何もかも崩れ去って、目の前にいる彼を自分のものにしたいと求めてしまうから、そうなる前に彼には帰って欲しかった。

急に泣き出した祐子に、一朗は戸惑う。
どうしたらいいか分からなくて、あたふたするも、とりあえず頭を撫でる。

「ご、ごめんね、僕が……何かしたかな……?」

⏰:08/10/22 00:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#697 [向日葵]
祐子は髪を優しく丁寧に撫でる指を感じながら、涙で滲む視界を必死にクリアにしようと手で拭う。

「もう……お前には、振り回されてばっか……」

「うん、ごめんね。でも、祐子さんが僕に関心をもってほしいから」

「こっちの気も知らないで……」
どれだけドキドキさせれば気が済むんだ……。
あぁどうしよう……すごく、言いたい。

涙を拭くのを止めて、祐子はまっすぐに一朗を見た。

人と話す時、しっかりと目を見て祐子は話す。

⏰:08/10/22 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#698 [向日葵]
それが例え一朗でもそうだ。

でも一朗は、初めてまっすぐ真剣な目をして見つめられたような気がして、その涙に濡れる目に心臓が高鳴った。

「神田が……好きみたいだ……あたし……」

一朗は驚いて目を見張る。

言ってから祐子はまた涙を1粒2粒と流し始める。
一朗はぽかんとして言葉を失った。
そんな一朗に祐子は眉を寄せる。

「おい、いつもの饒舌ぶりはどこいったよ……。この場合お前なら「だと思ったよ。やっと僕の溢れんばかりの気持ちを分かって頂けましたか」とか言うんじゃないの?」

⏰:08/10/22 00:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#699 [向日葵]
*アンカー*
>>613

感想板
>>682

⏰:08/10/22 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#700 [向日葵]
祐子の言葉にふきだした一朗は祐子の手を握ると自分の胸に押し当てた。
何事かとうろたえて赤くなる祐子に、一朗は静かに微笑む。

「分かる?僕の心臓……」

言われて掌に神経をすませば、脈を打つ感触が伝わってきた。
ドクドク鳴っている。

それがどうしたのかと、祐子は一朗を見上げた。

「祐子さんの一言で、僕はこんなにもドキドキするんだ。これがどういう意味か、分かる……?」

その言葉は、恋愛経験がない祐子にも分かった。
赤くなる祐子を柔らかく抱き寄せる。

⏰:08/10/26 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#701 [向日葵]
髪の毛を撫でられれば、ホッとして硬直していた体から力が抜けた。

「好きだよ……。祐子さん」

誰かの為に変わる事は、悪くない。

祐子は初めてそう思えたのだった。

――――――――――
―――――――――――――

「お母さん、まだ寝ないの?」

戸口から顔を出した越は椅子に座っている祐子に話かける。

現在夜の11時。
空や苺はもう寝てしまい、越は今お風呂から出たみたいだった。
柴はおそらく越の部屋にでもいるのだろう。

⏰:08/10/26 00:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#702 [向日葵]
「一朗さんがまだ帰ってこないからね。晩御飯用意しなきゃだし。アンタは明日も学校なんだから、柴にあんまかまってないで早く寝なさいよ」

「べ、別にかまってる訳じゃなくて、柴がくっ……ついて……」

お風呂上がりの熱気ではない越の赤面に、祐子は自分もこんなのだったのかと若かりし頃を思い出す。
そして2人がもう“家族”という間柄ではない事も知っている。

「柴に変な事されそうになったらちゃんと拒むのよー」

祐子がからかうと、越は更に顔を赤くさせた。

「そ、そんな事されませんっ!おやすみっ!」

⏰:08/10/26 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#703 [向日葵]
駆け足で階段を上がっていく越に、祐子は喉の奥でクククッと笑う。
からかいがいがある愛娘は面白くて仕方がない。

頬杖をつき、時計を見る。
規則正しく動く秒針は、祐子の眠気を誘う。

―――――――――
―――――――――――――

「進路……調査……っっ」

と言う紙を握り締めて睨みつける初夏のある日。

祐子は目の前にある紙にかいてあるものがこの世のものとは思えないという顔で見ていた。

「祐子さん、顔が恐い」

⏰:08/10/26 00:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#704 [向日葵]
祐子の前の席に座っていた一朗は彼女の眉間に指をあてほぐそうとする。
されるがままになりながら祐子はまだ紙をみつめている。

放課後、2人で喋るのは日課になっていた。
あの事件後、2人の仲は皆から容認され、“一朗彼女説”は、坂上が言った口から出任せだったと本人が自白。

それからは周りが羨む程の仲良い恋人同士となり、祐子も皆から更に慕われ、今では祐子は恋愛相談をよくされるようになった。

だからと言って、そこから何か将来の事に結びつけられるかと言ったらそうではないのだ。

「将来ねぇ……圭ちゃんの道場継ぎたいんだけどなぁ……」

⏰:08/10/26 00:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#705 [向日葵]
正直にそう言えば、思いきりダメだと言われた。

「じゃあさ、いっその事、僕のお嫁さんにならない?」

「は?」

あっさり言われたので空耳かと間違う。
言った本人はにっこりと笑う。
いつもと変わらない笑みだったので、やっぱり空耳なのかと首を軽く傾ける。

「僕、祐子さんと結婚するつもりでいるんだけど?」

「とうとう脳みそ溶け始めたのか……?」

結婚?と頭がはてなだらけになっていく。
一朗は別に気にしてない風に話を続ける。

⏰:08/11/08 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#706 [向日葵]
「遅かれ早かれ、すると分かってんだったらいつしても同じだと思うんだけど」

「ちょ、ちょっと待て。ちょっと待てっ!」

勝手に話を進めていくものだから祐子は片手を突き出して一朗を黙らせる。

進路で迷ってるから結婚!?
いくらなんでもあり得なさすぎる。そして極端すぎる。

一朗は不思議そうに祐子を見る。まるで、今言った事に何か問題でも?とさえ思っていそうな顔だ。

どうして最終結論が結婚なんだ。

「あのな、あたし達まだ若い。そういう一時の情熱に身を任せれば、後で痛い目みるぞ」

⏰:08/11/08 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#707 [向日葵]
「大丈夫だよ。僕の情熱は冷めないだろうから」

いやだから。

「経験つむのは大切だ。進学はしなくても……と言うか出来るかわからないけど、ともかく!少しは働いて社会を知っておきたい」

「じゃあ僕のプロポーズは断るってわけか……。残念だな」

とか言いながら微笑むのは、祐子がそう言うだろう事を予想していたからだろうか。

本気ではなかった?
じゃあ本気で悩んだ自分は馬鹿ではないか。

祐子は苛立ちを覚える。

「もう帰る」

⏰:08/11/08 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#708 [向日葵]
不機嫌になりながら立ち上がる。

正直、祐子は一朗の事があまり分からない。
彼はいつも楽しそうに、そして余裕そうに微笑んでいるだけだ。
例えば必死な顔や、本気の怒りだって見た事がない。

好きなのは自分だけなのか?と時々不安にもなる。

それでも優しく祐子に触れる指先は、祐子が好きだと語っている気もするから独りよがりではないと信じたいし、信じている。

「僕も一緒に考えるから、焦らずゆっくり考えよう」

なだめるように言う一朗に結局負けてしまう。
柔らかく髪の毛を撫でられれば一瞬で不機嫌な気分は消えてしまう。

⏰:08/11/08 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#709 [向日葵]
いつものように、下駄箱で靴を履きかえる。
自転車置き場に行こうとした時だった。

「一朗ーっ!」

その声に祐子が振り向けば、数歩離れて歩いていた一朗に、誰か抱きついていた。

祐子は目を見開く。
一朗は抱きつかれた勢いに耐えれず倒れこんだ。

「久しぶりねっ!元気だった!?杏は超ー元気だったよーぅ!」

肩まである黒い髪の毛は外側に愛らしく跳ねているその少女は、祐子達と同じくらいに見える。
祐子は口を変な形にして2人を凝視している。

⏰:08/11/08 01:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#710 [向日葵]
「杏……っ、アメリカじゃなかったの?」

「1人暮らしの許しを得たのっ!これからはどんな時も一緒よ一朗っ!」

無邪気に微笑んで彼の頬にキスするものだから、さすがの祐子も我に返り2人を引き剥がす。
やっと祐子の存在に気づいた杏と名乗る少女は、つり目がちの目を更につり上げると祐子を睨む。

「勝手にベタベタすんのやめろよな」

「なぁにあなた。ベタベタするのは当たり前よ。私は一朗のお嫁さん候補なんだから」

「は?」と声を上げた祐子は一朗を見る。
一朗は額に手を当ててため息を吐く。

⏰:08/11/08 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#711 [向日葵]
「それは小さい頃の約束だろ?僕には大切な人がもういる」

と言って祐子を引き寄せる。
杏は眉を寄せて目を見開く。

「小さい頃の約束でも約束は約束よ!おじ様達だって、杏ならいいって言ってたもの!杏だって一朗の立場をちゃんと支えてあげられる、いいお嫁さんになるわ!」

言ってから祐子を睨む。
売られた喧嘩は倍額で買う主義の祐子は当然睨み返す。

「こんな……男まさりな人がいいの?前はあんっなに女の子らしくて可愛らしい人が好きだなんて言ってたくせにっ!」

「いつまでも夢見てんじゃねえよタコがっ!」

いい加減我慢出来なかった祐子が言う。

⏰:08/11/08 01:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#712 [向日葵]
腕組みをして、祐子は杏に詰め寄る。
身長は祐子の方が高いので見下したように杏を見る。

「あたしも大概、世間知らずだけど、アンタはあたしを上回るみたいだね」

「一朗があなたみたいな庶民と結婚していいと思ってるの?一朗は病院の跡取りなの!あなたが一緒にいていい相手じゃないのが分からない?」

馬鹿にされたので、祐子の中で何かが切れた。
その音を自分で聞いていながら、少し冷静な部分で一朗の事を考えていた。

彼は本気かどうかは分からないが、自分の事は何も言わず自分と結婚するなどと言う。
果たしてそれでいいのかが分からない。

⏰:08/11/08 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#713 [向日葵]
一朗と通じあった日、その前まで自分はもう邪魔をしたくないから諦めると思っていた。
それを打ち砕くように一朗が自分を求めてくれたから、我慢出来ず自分も求めてしまった。

本当にこれで良かったのか、祐子は再度迷い始めた。

「跡継ぎなら弟がするよ。第一、僕はもともと継ぐ気はない。それは父さん達も前々から知ってる」

「一朗分かってないわね。おじ様達は、本当はあなたに継いでもらいたいのよ。」

「僕は普通に働きたい」

「普通を求めるのは、この人がいるからじゃないの?」

⏰:08/11/08 01:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#714 [向日葵]
そう言って、また祐子を睨む。
祐子はちらりと一朗を見た。
一朗は困ったように顔をしかめていた。

どうして「違う」と言わない?
まさか本当に自分は邪魔者なのか?

教室から考えていた事や、今つきつけられた現実の迷いに、祐子は怒りの薪に着火してしまう。

「ばかばかしいっ!身内問題なら勝手にテメェらでやれ!」

足早に自転車を取りに行き、一朗が追いかけてくる前に祐子は家へと帰ってしまった。

―――――――――…………

「まぁまぁ!祐子ちゃんどうしたの?そんな恐い顔しちゃって」

⏰:08/11/08 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#715 [向日葵]
玄関にある全身鏡を見れば、確かに酷い顔をしていた。

八つ当たりはみっともないから嫌なのに、緊張感のない翠の声に苛立ちを隠せない。

「もともとだよ!悪かったね!」

翠の前を通り過ぎ、自分の部屋がある2階へと向かう。

「一朗くんと何かあったの?」

こわごわと聞いてくる。
足を止め、握りこぶしを作る。

「そんなんじゃない……」

低く呟いてから、また足を進めた。

ドアを閉めて、ズルズルと床に座り込む。

⏰:08/11/08 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#716 [向日葵]
やり場のない怒りはどうしてくれよう。
こんなのでは何の罪もない翠がとばっちりをくらってしまう。

しばらく考えて、祐子はサッとラフな格好に着替えると、何も告げず家を出て行った。

向かう先は昔から決まっている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

気分が優れない時、家から少し離れた公園のジャングルジムにのぼる。
てっぺんに腰かければ、丘の上にある公園はちょっとした夜景が見えた。
昔から、ここはお気に入りの場所でよく来ていた。
暗くなりつつある今は、藍色の空と鮮やかな家の光がとても綺麗だ。

⏰:08/11/08 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#717 [向日葵]
少し蒸し暑いが、風があるので気にならない。

そして祐子はため息をつく。

明日どんな顔で会えばいいのだろう。
いや、むしろ一朗はどんな顔して会いに来るのだろう。
何も無かったように接するのだろうか。
もしそうならば、祐子はきっと殴ってしまうだろう。人の事をなんだと思っているのだと。

本当に好きなのかと……。
そばにいてもいいのかと……。

結局1番引っかかるのはそこだったりする。
自分はいつの間にこんな腑抜けになってしまったのだろう。

それでも、こうなる事を自分から望んだ。
全ては一朗の為に……。

⏰:08/11/08 01:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#718 [向日葵]
難しい事を考えるのは嫌だから、目を伏せて風と空気だけを感じようとする。

すると耳に砂利を踏む音が届いた。
ゆっくりと目を開ければ、少し離れた所に一朗がいた。

「いた。良かった、探したんだ。翠さんは正解だったみたいだね」

1度帰っただろう彼は、ストライブのカッターにジーパンといった格好だった。
やはりと言うか、いつもと変わらない微笑みを祐子に向けている。

だから祐子はつい叫ぶ。

「近寄るな!」

⏰:08/11/08 01:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#719 [向日葵]
祐子の元へ行こうとのぼりだした一朗の動作が止まる。

「……どうして?」

「何をするか、分からないから……。何を言うか、分からないから……」

「それでもいいよ」

「あたしが嫌なんだ!頼むから……」

しばらく考えた彼は諦めたように祐子がいる真下に来て、ジャングルジムを背もたれにして立つ。

「綺麗だね」

祐子は答えない

「こんな場所があるなら教えてくれればいいのに」

⏰:08/11/08 02:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#720 [向日葵]
やっぱり祐子は答えない。

「……さっき否定しなかったのも、肯定しなかったのも、君が負い目を感じないようにだよ」

祐子は一朗に目を向ける。
一朗は夜景を眺めたままだ。

「病院を継ぐのは、僕には向いてないと幼い頃から感じていた。両親もそれは承知だった。もともと2人共、固まった考えを持っていない人だから、僕が普通の職に就きたいと中学の時に話せば快く応じてくれた」

淡々と話す一朗の話を、祐子は一生懸命聞く。

「でも申し訳ない気持ちはあるから、せめて成績だけは優秀であろうと思ってるんだ。だから特に医者になる家系だからって言うのはない」

⏰:08/11/08 02:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#721 [向日葵]
口を閉ざした彼は、祐子を見上げる。
口元だけで、薄く微笑む。

「そっちに行ってもいい?」

迷ったが、さっきまでの怒りは薄れていたので、頷く。
1歩1歩、着実にのぼってきた彼は祐子の隣に座る。

「普通に憧れている訳でも、普通を求めるのは祐子さんがいるせいでもなんでもない。ただ僕の意思で、僕の人生がそうなだけ。でも祐子さんは肯定しても否定しても、何かしら気にしそうだから答えに詰まっただけ」

風で揺れ、顔にかかる祐子の髪の毛を、長い指先ではらう。

「だって……アンタは分かりづらい……って言うか、本音を言ってるかすら、分からない時がある」

⏰:08/11/08 02:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#722 [向日葵]
一朗は優しく肩を抱く。
彼の肩に頭をもたれかかせれば、そのまま眠りたくなる程、居心地がいい一方で胸が高鳴る。

「嘘を言ってしまうのは必要がある時だけ。でも祐子さんには全て本音だよ……って言っても、信じてもらえない?」

「まぁ、言うわ簡単だよな」

クスクス笑う彼は、そっと祐子の頬を手で包むと、自分の方へ向かせて柔らかく微笑む。
そんな一朗に、祐子はいとおしさで溢れた眼差しを向ける。

「でもこれだけは絶対信じて。僕は君が好きだよ」

そう言うとゆっくりと唇を重ねた。
触れ合う唇は、いつもより熱く感じた。

⏰:08/11/08 02:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#723 [向日葵]
*アンカー*
>>613

*感想板*
>>682

⏰:08/11/08 02:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#724 [向日葵]
―――――――――…………

次の日。

早朝の爽やかな空気と友達との挨拶が交わされている教室に、どこからともなく騒がしい足音がやってくる。

「ゆ、祐子さんいるっ!?」

祐子のクラスメイトの1人だ。

丁度来て、机の中へ教科書を入れていた途中だった祐子は顔を上げる。

「なに?」

「大変よ!神田君のクラスに転校生……とにかく来て!」

説明するのもめんどくさくなったのか、女子は祐子の手を引っ張って一朗のクラスへと走って行く。

⏰:08/11/18 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#725 [向日葵]
息を軽く弾ませながら見たのは、一朗にべったりくっついてる女の子の姿。
しかも祐子は、その子を知っている。

昨日の、やたらうっとおしい奴だ。

祐子はズカズカと教室へ入っていく。
祐子に気づいた一朗のクラスメイトは、道をあけていく。

「オイ」

一朗の前に仁王立ちした祐子は、苛立っている元凶の杏を睨む。
一朗は明らかに焦っていた。

「祐子さん、これは違うからねっ……?」

「みりゃ分かるっ」

⏰:08/11/18 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#726 [向日葵]
と言いながらも、語気を荒げるのは仕方のない事。
いくら一朗が自分を好きと言ってくれていても、自分以外の女子がべったりくっついていては怒らずにはいられないだろう。

「あらあなた、まだこりてなかったの?」

「そりゃこっちのセリフだ。夢見がちの世間知らずのお嬢ちゃんよ」

杏は祐子の鋭い視線に負けそうになるも、なんとか頑張って睨み返す。
祐子は余裕しゃくしゃくで杏を見下す。
杏に睨まれても全然怖くはない。

「放れろ」

⏰:08/11/18 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#727 [向日葵]
杏はギュッと一朗の腕にしがみつく。
祐子は一歩前へ出て声を低くする。

「聞こえねぇのか。放れろっつってんだよ」

「い、嫌よ。あなたに指図される筋合いはないもの」

祐子の頭の中で、何かが派手に弾ける。
その音を聞く前に、祐子の手が出て、強制的に二人を引き剥がす。

小さく悲鳴を上げて、杏は尻餅をついた。

「いい加減にしやがれっ!いつまでもグチグチと諦めの悪い。アンタなんかお呼びじゃねぇんだよ!」

⏰:08/11/18 01:30 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#728 [向日葵]
杏は下唇を噛み締めると、教室から出て行った。
祐子は一朗に向き直る。

「お前もしっかり拒否しろよ!」

祐子の怒りはまだおさまらない。怒りの矛先がこちらへ向かってくるとは思わなかった一朗は驚いて、目をまんまるくさせる。

「だって女の子だし、乱暴はあまり出来なくて……」

「じゃあお前はベタベタ触られてるのをあたしに黙って見てろって言うのかよ!」

「そうじゃない。僕だって祐子さん以外に触れられるのは嫌に決まって……」

⏰:08/11/18 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#729 [向日葵]
「もういいっ!今日は一人で食べるから!」

祐子は回れ右をして教室を出て行った。

せっかく昨日仲直りしたのに。

こんな些細な事で、気持ちがすれ違うのが嫌だ。
そう思っても、「祐子以外の触れられるのは嫌だ」と言うのなら、力づくだろうがなんだろうが拒否すればいいのにと、ムカムカしてくる。

それもこれも、全部はあの杏とかいう奴のせいだ……っ!

廊下をあるく祐子の表情は、正に鬼の形相そのものだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「祐子さんてば……」

⏰:08/11/18 01:44 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#730 [向日葵]
これで三度目。

一朗はホームルームが終わった後の僅かな休み時間と、一時間目の休み時間にわざわざ祐子のクラスまで謝りにくる。

その姿がまるで忠犬のようだとクラス中が思っている事を二人は知らない。

祐子はずっと窓の外を見たまま口を閉ざしている。

謝れば何でも許すと思ったら大間違いだと意地になる。
さすがの一朗も困り果てている。

「……お昼、祐子さんが一緒じゃなきゃ……寂しいよ……」

心底寂しいそうな声に、少し祐子は心揺れる。

⏰:08/11/18 01:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#731 [向日葵]
それでも、と、半ば意地になって、許してしまいそうな自分をなんとか抑えて、祐子はじっと空を見つめる。いや睨む。

すると祐子を苛立たせる声がした。

「あーっ!もう一朗こんなとこにいたのー!?」

祐子の脅しもなんのその。
ケロリと忘れてしまっているのか、杏はずかずかと教室に入ってきた。
祐子の事をわざと無視して一朗の腕を引く。
一朗は祐子の方を気にしたが、二人を見れば更に怒りはおさまりそうにない祐子はそっぽを向いたままだった。

一朗は肩を落とし、小さく「またあとで」と言って教室をあとにした。

⏰:08/11/29 22:18 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#732 [向日葵]
一朗がいなくなってすぐ、クラスの女子が祐子の元へと集まる。

「祐子さん、なんなのあの子っ!」

「……幼なじみらしいよ」

「あー……よくあるパターンだよね。“幼なじみは将来の旦那さま”っていう法則みたいなの」

そんな法則は滅びればいいと思う。

「でも一朗くんもまんざらじゃなさそう……」

「馬鹿っ!」

何気にそう言った誰かの口を、皆が一斉に塞ぐ。
皆が祐子をそろりと見るものだから、祐子は苦笑いするしかなかった。

⏰:08/11/29 22:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#733 [向日葵]
「気にしなくてもいいよ」

本当はどうしようもなく不安。
それでも一朗を信じたいから、次来た時には仲直りしようかと心を入れ替える。

大丈夫だと思った。
こんな小さなすれ違いくらい……。

――――――――…………

ところが、お昼休みになっても一朗は現れなかった。
気になった祐子は、一朗の分まで作った弁当を持って、一朗の教室へ行く。

すると人だかりが出来ていた。
なんだと間から見れば……。

「はいアーン!」

「だからいらないって。僕にはお弁当が」

⏰:08/11/29 22:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#734 [向日葵]
小さく、一朗と杏の姿が見えた。
杏は一朗の口に何かを運び、無理矢理入れようとしている。
皆はおろか、野次馬すら、祐子がいる事に気づいてはいない。

ふつふつと、また祐子に怒りが蘇る。
最早この怒りはどちらに向けられる怒りか分からない。
怒りながらも、祐子はしばらく二人の様子を見る事にした。

「いいからっ」

ぐっと強制的に箸が一朗の口に入れられる。
困りながらも、しばらく噛んでいた一朗は、段々と顔を輝かせていった。

「これ……」

「懐かしいでしょ?野菜があまり得意じゃない一朗の為の私のうち特製かき揚げ。何故か昔からこれだけはよく食べてたよね」

⏰:08/11/29 22:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#735 [向日葵]
野菜が……得意じゃない……?

初耳だった。
弁当には、いつもなんらかの形で野菜が入っていた。
それでも一朗は、何も言わず、いつも笑顔で「おいしいね」と食べていた。

好きな人の、好き嫌いさえしらない……。

祐子は持っていた弁当をぎゅっと抱き締め、静かに後退りした。
すると弁当が音を立てて落ちた。
それに気づいた野次馬が、やっと祐子の存在に気づき、ざっと顔を青くする。
一朗と杏はまだ気づかない。

弁当を拾う気力すらおきない。
それでも力なくしゃがみ、ゆっくりした動作で弁当を拾う。

⏰:08/11/29 22:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#736 [向日葵]
どうして、こんなに惨めな気持ちにならなきゃならないんだろう。
一朗の恋人は自分で、いつも隣で笑って食事してるのも自分の筈なのに。
朝早いのがあまり得意じゃなくても、弁当はちゃんと一朗が笑顔で食べてくれるよう頑張ってるのに。

「祐子……さん……」

顔を上げれば、一朗がやっと気づいたのか、立ち上がってこちらを見ている。
杏は勝ち誇ったように、祐子を見てニヤリと笑っていた。

涙で視界が滲み出す。

「違うんだ祐子さんっ……」

皆がいる前では泣きたくなかったから、居ても立ってもいられず、歯を噛み締めて祐子はその場を駆け出した。

⏰:08/11/29 22:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#737 [向日葵]
いく場所も分からず走る。

「祐子さんっ!」

後ろから一朗が追いかけてくる。
こんな時、いつも抜けている筈の彼はこけてもおかしくないのに、すごい早さで祐子に追いつく。

腕を引かれ、祐子は止まるしかなかった。
走りながら流れてしまった涙を見られたくはないから、うつむいてそっぽを向いたまま腕を振り払おうとする。

「祐子さん、話を聞いてっ!僕は今から祐子さんの所へ行こうとしてたんだ!」

今更何を言われても信用出来ない。

⏰:08/11/29 22:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#738 [向日葵]
祐子は腕を振り払うと、その勢いに任せて一朗の弁当を床に叩きつけた。
弁当箱が一部破損し、中身が少しばかり出てしまった。

無意識に、息が荒くなる。

「もういい……」

声がかすれる。

「あたしは……アンタが野菜嫌いだなんて知らなかった。そうならそうで、言ってほしかった……」

「それは……」

「もうアイツに作ってもらえよ!あたしだって…………アンタの弁当を毎朝作るなんてごめんなんだよ!」

⏰:08/11/29 22:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#739 [向日葵]
祐子は階段を駆け降りる。
もう一朗は追ってこなかった。

辿り着いた場所は、いつも喧嘩で呼び出されていた校舎裏だった。
そこで座り込み、空を見上げる。

[そばにいるよ]

まだ素直になれていない頃、一朗がそう言った。
でももう無理だ。
自分と一朗は、やはり住む世界が違いすぎたんだ。

それでも、冗談でも、結婚しようと言ってくれた事は嬉しかった。恥ずかしくて、つい可愛くない事を言ってしまったけれど、本当は一朗のそばにずっといてもいい証を約束する事は、これ以上ないほど嬉しかった。

⏰:08/11/29 22:55 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#740 [向日葵]
でももういい。

あの杏とか言う奴と、くっつけば……。
祐子の心は、段々と真っ暗になっていった。

するとそんな祐子の元へ、いくつかの足音が近づいてきた。
座り込んでいた祐子が顔を上げると、何人かの女子が祐子を囲んでいた。

「おい森下。お前も腑抜けになったなぁ?」

耳障りな甲高い笑い声が響く。
祐子に恨みをもったグループらしい。

「丁度いいや。お前からうけた拳の数々、今返してやるからよぉっ!」

⏰:08/11/29 22:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#741 [向日葵]
一斉にかかってくる。
祐子は無意識にそれをかわし、一人ずつに攻撃をくわえていった。
祐子の口角が、不気味に上がる。

「よえーんだよ……。バーッカ」

逆上した女子たちは、また一斉に祐子に飛びかかった。
祐子も負けじと攻撃する。
しかし数が多すぎる。
体に何発も重い衝撃を受ける。

……数分後、決着はついた。
祐子の勝利。
荒い息を繰り返して、攻撃してきた女子たちは地面に崩れている。

祐子もボロボロだった。
もしかしたらどこかの骨が折れているかもしれない。

⏰:08/11/29 23:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#742 [向日葵]
壁を支えに、歩いて行く。

痛い。
けれどそんな事とは別に祐子は涙を流していた。
声を出して泣いてしまえば、やっぱり体は痛く、それ以上に胸が痛かった。
それでも息が出来ないくらい激しく泣く。

そして一瞬突き抜けた頭の鋭い痛みに耐えきれず、祐子はどさりと地面に倒れ込んだ。

――――――――………………

「祐子ちゃん……っ!」

再び目を開いたら、まず目に入ったのは翠と病院の天井だった。

「翠……ちゃん……」

⏰:08/11/29 23:09 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#743 [向日葵]
体か重い。
右を見れば点滴。
左を見れば、包帯が分厚く手に巻き付いていた。
巻き付いているのは手だけではなく、足が自由に動けないからして足もそれは沢山巻き付いているみたいだった。

「目を覚ましてくれて良かったぁ……」

翠はボロボロと涙を流す。
祐子はそんな可愛らしい母を見てフッと笑った。

部屋のドアが勢いよく開いたと思うと、父が息を切らせて入ってきた。

「祐子っ!大丈夫かぁっ!」

額に汗を浮かべている。
全力疾走で来てくれたのだろう。

⏰:08/11/29 23:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#744 [向日葵]
そんな二人を見て、祐子は嬉しくなったと同時に情けなくもなった。
失恋しただけでヤケを起こして、こんなにも心配をかけて。
自分は本当に駄目な奴だ……。

「ごめんね……。ごめん、二人共……」

涙が溢れる。
そんな祐子を父は優しく見つめ、柔らかく頭を撫でてくれた。
母は「良かった」と何度も繰り返し、涙を流しながら祐子の涙を拭う。

喧嘩をすることはよくない。
初めて祐子は思った。

一朗も、こんなに心配してくれてたから、祐子に喧嘩を止めてほしかったのかもしれない。

⏰:08/11/29 23:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#745 [向日葵]
*アンカー*
>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>500-600
>>600-700
>>700-800

*感想板*
>>682

⏰:08/11/29 23:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#746 [向日葵]
ついそんな事を思ってしまう自分が、どうしようもなく情けない気がした……。







祐子の怪我は、夏休み中に治り、退院を迎えた。

何かを察した翠は、残り少ない夏休みを田舎の方で過ごさないかと提案してきた。

丁度そこには翠の母、つまり祐子の祖母と親戚が一緒に住んでいて、なんだったら遊びに行こうと言った。

祐子は悩まずに直ぐに行くと返事をした。

⏰:08/12/02 00:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#747 [向日葵]
一朗が家に来そうだったからだ。

現に、祐子の着替えを取りに帰ったりした時、翠が一朗らしき姿を何回か見たと言っていた。
一朗はもちろん、クラスメイトにも病院の住所は教えていない為、お見舞いに来るものはいなかった。

だから一朗も来なかった。
それでも、先生に聞けば教えてくれるだろうに……。

もう、どうでも良くなった……?

どちらにせよ、一朗と向き合える自信はなかった。

逃げたい。
今はそうしか思わなかった。

⏰:08/12/02 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#748 [向日葵]
田舎へ来て、古びた祖母の家の縁側で、祐子はぼんやりしていた。
回りは山と畑ばかり。
時々聞こえる畑を耕したり、遠くの山で聞こえるカラスの鳴き声は、時間がゆっくりと過ぎているのを感じさせた。

オレンジ色の夕焼けが柔らかい。
荒んだ心を段々と癒してくれる。

「なに感傷に浸ってんのよっ」

言葉と共に、背中を平手で思いきり叩かれた。
唐突の攻撃に祐子はむせる。

「なによ、さやか姉」

さやかは祐子の2つ上の親戚だ。

⏰:08/12/02 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#749 [向日葵]
姉御肌で、一人っ子の祐子はさやかを慕っていた。
さやかはニカリと笑うと、祐子の隣に座る。短パンで白く長い綺麗な足を投げ出す。
体にフィットしているタンクトップは、彼女の体を引き立てている。

「……別にそういう訳じゃ……」

「隠したって無駄無駄。ユウは分かりやすいんだから」

ユウとは、祐子のあだ名だ。

「そんな事ないよ」

「じゃあ当ててあげる。ズバリ、好きな人関係でしょっ!」

人差し指を立てて得意気に言う。
そんな元気なさやかとは反対に、祐子は大きくため息を吐いた。

⏰:08/12/02 00:32 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#750 [向日葵]
「あれ?違うの?」

「……。いいや、当たり」

「で、なんなの?翠ちゃんや圭ちゃんが心配してるわよ」

祐子は膝を抱え、目の前にある植木をじっと見つめた。

語ろうとして、口を開くもやっぱり閉じる。
それを何回か繰り返しながら、頭の中で色々と整理をしていく。

「あたしは、そいつの事を何も知らなかった。そいつにとって、あたしは多分一番大切な人なのに、そいつは何も言ってくれないし、教えてくれない……」

今、彼が何を思ってるかなんて分からない。

⏰:08/12/02 00:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#751 [向日葵]
「じゃあ教えてってねだればいいじゃん」

「え……」

当たり前のような顔をしてさやかは言った。
あまりに早く返事を返されたので、祐子はびっくりして言葉が出てこない。

「人はどうして他の動物と違って言葉を発するようになったか。行動だけじゃ足りなかったからでしょ?なら言葉を有効に使いなさいよ」

カラカラ笑いながらさやかは言う。
さやかには悩みと言う言葉ほど似合わないものはなさそうだ。
清々しささえ感じるさやかに、祐子は思わず笑う。

⏰:08/12/14 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#752 [向日葵]
言葉……。
確かに言いたい事はふせていたかもしれない。
どこかで、一朗なら分かってくれてるとか甘えた考えと同時に、聞きたくない言葉も返ってきそうで怖かった、と祐子は思う。

相手ばかり責めて、いけなかったのは自分もではないか。

「で?圭ちゃんにはもう言ったの?」

「言う訳ないでしょ。圭ちゃんそれでなくても体のわりにはノミの心臓なんだから。それに親バカだし。言ったら卒倒しちゃうよ」

「でもアンタを夢中にする奴なんて、あたしも見てみたいよ」

「いつか……ね」

一朗と、しっかり向き合う覚悟が出来て、一朗がまだ自分を好きならば……。

⏰:08/12/14 01:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#753 [向日葵]
山の向こうへ飛んで行くカラスを眺めながら、祐子は思う。

「祐子ちゃーん、さやかちゃーん。スイカ切れたわよー」

―――――――――…………

新学期が始まり、祐子はいつもどおり学校へ行く。

「祐子さぁんっ!」

クラス中の女子が、久しぶりに姿を見せた祐子の元に集まり抱きつく。
いっぺんに体にしがみつかれた祐子は重力に逆らえず床へ尻餅をつく。

「もう大丈夫なの!?」

「すっごく心配したんだからねーっ」

「入院先くらい教えてくれればいいのにぃー」

⏰:08/12/14 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#754 [向日葵]
口々に、しまいには泣いてしまいそうな女子たちに、祐子は困りながらも薄く微笑む。
1年前の自分には想像出来ない光景だ。

「ありがとうね……。みんな」

みんなを引き剥がし、祐子は鞄を机に置くと、すぐに教室を出て行った。

向かう先はもちろん、一朗のクラス。

逢いたい……。
自分を変えてくれた、大切な人のもとへ……。

教室を廊下から見てみるが、一朗の姿はなかった。
まだ来ていないのかと肩を落とす。

⏰:08/12/14 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#755 [向日葵]
踵をかえそうとした瞬間、祐子の体が包まれた。
耳元に、荒い息遣いが聞こえる。

祐子が目を見開き、驚けば驚く程包まれている力が強くなった。

「逢いたかった……」

かすれて聞こえる、一朗の声。
自分を包むのは、紛れもなく一朗の腕だ。
人目も気にせず、鞄を床にほうって、強く強く祐子を感じるように抱き締める。

「逢いたかった……っ」

苦しそうに、愛おしいそうに言うから、祐子の胸が締めつけられる。
硬直させていた腕を、ゆるゆると動かし、一朗の背中へ控えめにまわす。

⏰:08/12/14 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#756 [向日葵]
いや、まわしかけた。

その手をギュッと握って、力一杯一朗を押す。
一朗がよろけた隙に、祐子は駆け出した。

「祐子さんっ!」

そう……追いかけて来て……。
あなたの目に、あたししか映らないように。
あなたの頭が、あたしでいっぱいになるように。

あなたの全てが、あたしで埋め尽くされるように……。

ずっと走って、祐子は屋上へと来た。
フェンスまで走っていくと、閉じ込めるようにして一朗が網に手をかける。

⏰:08/12/31 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#757 [向日葵]
むせるくらい、息があがっている。

「もう、逃げないで……」

疲れてるのか、本当に色々と限界なのか、一朗の目つきが鋭い。
走ったせいではなく、心臓がドキドキする。

髪の奥にまで一朗の細長い指が入り込み、祐子の頭を包む。
せして熱く、唇を重ねる。

息もたえだえに、けれどやっと触れられる喜びでいっぱいになる。

ようやく離れて、一朗はゆっくりと話し出す。

「この二ヶ月ほど、僕は気が狂いそうだった。君には拒絶される、その後には風の噂で入院したと聞いた。」

⏰:08/12/31 01:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#758 [向日葵]
苦しそうに、眉を寄せる。
一朗は祐子の手を痛いと感じるほど強く握る。
祐子は一朗の言葉に心揺れながら、必死に聞いている。

「逢いに行きたかった。でもまた拒絶されれば?そう思えば怖くて、怖くて……。祐子さんを傷つけた事を死ぬほど後悔したよ……」

いつの間にか、祐子は涙を流していた。
どの感情からきている涙かは分からない。
けれど後からとめどなく流れ続けてくる。

「お願いだからそばにいて……。僕には、君が必要なんだ……。君がいてくれなきゃ、嫌なんだ……」

⏰:08/12/31 01:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#759 [向日葵]
祐子は更に涙を流す。

ずっと、誰かに必要とされたかった。
誰かの支えになりたかった。
誰かのそばにいたかった。

その全てを、一朗は叶えてくれる。

「あたしだって……そばにいたい……」

どんなに離れても、心は正直で、求めてしまう。
それを運命と呼ぶのならば、本当に一朗とは見えない糸で小指と小指が繋がっているのだと祐子は信じれた。
いや、信じたいと思った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから卒業し、一朗は大学へ、祐子は就職をし、5年後、結婚した。

⏰:08/12/31 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#760 [向日葵]
子供には恵まれなかったが、今は越達がいるから寂しくない。

一朗と出会えて、心から嬉しい……。

―――――――――
――――――――――――

「―――さん。……祐子さん」
祐子はパチリと目を覚ました。
どうやら寝てしまっていたらしい。
枕がわりにしていた自分の腕が痛い。

「風邪ひくよ。どうして布団で寝ないの」

「あ、神田……」

「何言ってるのさ、君も神田だよ」

⏰:08/12/31 01:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#761 [向日葵]
ハッとした。

ああ現実か。

一朗はあの頃とあまり変わらないから、夢と現実がごちゃごちゃになっていた。

そしてよくよく考えれば、一朗は結婚記念日を忘れていたと言ったのだと思い出す。
祐子はぷいとそっぽを向く。

「言われなくても寝てやるよ。晩ごはんは一朗さんが嫌いな野菜の天ぷらだからねっ」

「え?別に嫌いじゃないよ」

立ち上がった祐子は勢いよく振り返る。

「高校時代に、そういうので喧嘩したじゃないか!それすら忘れた!?」

⏰:08/12/31 01:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#762 [向日葵]
一朗はポケッとしていたかと思うとふにゃっと相貌を崩してくすくす笑い出した。

「祐子さんは意外にヤキモチ焼きなんだね。いつの話さ」

馬鹿にされたような気がするから、祐子は一朗のそばを通りすぎて部屋から出ていこうとした。
が、一朗がそれを阻止する。
祐子は後ろ向きに一朗の腕の中におさまる。

「確かにね、得意ではなかったよ」

「ほらみろ!」

「でもね、好きな人が作ったものは、なんでも美味しく感じるんだよ。……不思議だね」

最後だけ耳元で囁くから、祐子は胸を高鳴らせる。
耳から赤くなってしまう。

⏰:08/12/31 02:03 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#763 [向日葵]
「そ、そんな事しても、機嫌治さないからなっ!」

「忘れてないよ、今日は結婚記念日でしょ?」

「えっ?」と蛙が踏まれたような声で祐子は聞き返す。
一朗の方を見れば、にっこりと笑っている。

「どうやら祐子さんは、記憶を捏造して子供たちに教えてるみたいだから、ちょっと意地悪してみたんだ」

「捏造って……あたしゃ何も……っ」

「へー。じゃあ僕は君におとされて夫婦になったって話は聞き間違い?」

意地悪そうに笑いながら訊ねるから、祐子は返す言葉がなく口を鯉か何かのようにパクパクさせて固まる。

⏰:08/12/31 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#764 [向日葵]
「僕が、君をおとした筈なんだけど?」

「……でも好きになったのはお前からなんだから、変わらないだろ……」

バツが悪そうに口を尖らす。

確かにおとされたと言ったらカッコ悪い気がして嘘はついたけれど……。

「だからね、おあいこ。ハイ、これあげる」

細長い箱だった。
開けて見れば、小さなダイヤが輝きを放って存在を主張している銀のネックレスだった。

「これからも仲良くしようね。大好きだよ、祐子さん」

⏰:08/12/31 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#765 [向日葵]
不覚にも、祐子は一粒涙を流してしまう。
見られたくなくて、顔を背ける前に、またギュッと抱き締められた。

幸せすぎて、やっぱり泣けてくる。

いつだってそうだ。
溢れんばかりの気持ちをくれる一朗に、祐子はいつも負けてしまう。許してしまう。

そしてドンドン、好きになってしまうのだ。

本当、ズルイ人だ……。
こんなの一生勝てっこない……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

陰でこっそり二人の様子を見守っていた越と柴はホッと胸を撫で下ろした。

⏰:08/12/31 02:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#766 [向日葵]
「良かった、仲なおりして」

にっこり笑う越に、柴も微笑み返す。

「じゃあ寝ようか」

と階段を上がりかけた越の腕を、柴が引っ張る。

「ん?何?」

「俺たちもさ、あんな風に素敵な夫婦になろうね」

越はしばらく考えてから顔を真っ赤にさせる。
そんな越に、柴は笑みを深くする。

「そ……だね……」

そんな未来が、待ち遠しい。

誰かと一緒に歩む事を約束している未来は、一番の幸せなのかもしれない……。

⏰:08/12/31 02:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#767 [向日葵]
夫婦日記

fin

⏰:08/12/31 02:22 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#768 [向日葵]
*あとがき*

夫婦日記を書き終え、これにて柴日記の全てを終わりにしたいと思います

読んで頂いた皆様、応援してくださいました皆様、アドバイスをくださいました皆様、ありがとうございました
そしてノロノロ更新申し訳ありませんでした

まだ、ギンリョウソウという話を更新中ですので、良ければ読んで下さい

本当にありがとうございました

向日葵

⏰:08/12/31 02:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#769 [向日葵]
*感想板*
よければ下さい

>>682

*アンカー*
よければ使って下さい

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800

⏰:08/12/31 02:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#770 [我輩は匿名である]
すげーおもしろそうなのであんかーしつれいします
>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800

⏰:10/01/04 18:51 📱:PC 🆔:☆☆☆


#771 [ひな]
あげ(^^)

⏰:10/01/10 11:54 📱:N905i 🆔:☆☆☆


#772 [なな]
 
失礼します◎

>>2-50
>>50-100
>>100-150
>>150-200
>>200-250
>>250-300
>>300-350
>>350-400
>>400-450
>>450-500
>>500-550
>>550-600
>>600-650
>>650-700
>>700-750
>>750-800
>>800-850

⏰:11/08/09 20:06 📱:SH011 🆔:☆☆☆


#773 [&◆JJNmA2e1As]
完〜👩‍✈️👨‍🚒👩‍🚒👨‍🎨👩‍💼

⏰:22/09/30 18:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#774 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30
>>30-60
>>60-90
>>90-120
>>120-150

⏰:22/10/04 04:31 📱:Android 🆔:☆☆☆


#775 [○○&◆.x/9qDRof2]
 希望ある未来は、本当に待っているのだろうか。

 ねぇ、きみはいま、何を思う?

⏰:22/10/04 08:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#776 [○○&◆.x/9qDRof2]
🌹 ゚🥀 ゜゚ 🌹£+:。.。:+£🌹 ゚🥀 ゜゚ £+:。.。
🌹 ゚🥀 ゜゚ 🌹£+:。.。:+£🌹 ゚🥀 ゜゚ £+:。.。

⏰:22/10/04 08:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#777 [○○&◆.x/9qDRof2]
👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋
👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋👑🌙🌟🍯🥂🧁🍋

⏰:22/10/04 08:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#778 [○○&◆.x/9qDRof2]
・ 。
 💖∴。 
  ☆  ・゚💕。
  ✨❤ ☆  
  ・ ゚💗。・゚💝。
 ☆。·*・。
    💛゚・。 🌸・。
 💖 ✨☆。💗✨
  ・゚💕✨°
     💖 ゚・。 ♡ 。
       ゚✨ 💝 。

⏰:22/10/04 08:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#779 [○○&◆.x/9qDRof2]
。 ☆  ゚。
* 。* + * ・ 。☆͙
☆ * * 。
 ゚・ 。゚・ ☆゚
. ∩∩
(。・-・) Good nighty ☆
━OuuO━┓

⏰:22/10/04 08:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#780 [○○&◆.x/9qDRof2]
 __________
 | ( ^o^)ノ  おやすみー
 |\⌒⌒⌒ \
  \|⌒⌒⌒⌒|

⏰:22/10/04 08:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#781 [○○&◆.x/9qDRof2]
 雨のち晴れ。わたしのからだを、夏のぬるい雨が打つ。こころの中も同じく晴れていない。闇が、わたしのこころに突き刺さる。

.......まぁ、これは比喩なんだけど。

⏰:22/10/04 09:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#782 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうせならもっと明るいものに刺されたい。上を向く気力が出ない。向いてもどうせ雨雲だけ。傘が無くても雨宿りしようとは思わなかった。でも光化学スモッグに侵されたこの街の雨は、体にチクチクと突き刺ささってすごく痛い。

.......まぁ比喩なんだけど。

⏰:22/10/04 09:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#783 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうせならもっと優しい雨に刺されたい。そう思って、とりあえず街から離れるためにバスに乗り込む。以外と乗車してる人は多い.......って、いま、雨降ってたんだっけ。バスの中でもずぶ濡れのわたしに視線が痛く突き刺さる。まぁ比喩なんだけど。どうせならもっと柔らかい視線に刺されたい。

⏰:22/10/04 09:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#784 [○○&◆.x/9qDRof2]
バスの中はうつ向いてやりすごした。着いた先は駅。視線を避けるようにうつ向いたまま、さっさと特急電車に乗り込んだ。尖った視線はもう慣れた。街から離れる程に人は減る。でもその分、馴れ馴れしい人が増える。あまり話し掛けてほしくなかったから、ここでもうつ向いて歩いていった。

⏰:22/10/04 09:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#785 [○○&◆.x/9qDRof2]
着いた場所は田舎町の、ある1軒の家。久しぶりに来た気がする。そこで初めて顔を上げて、家を見上げる。


 いつの間にか雨はあがっていた。あれ?上を向いただけなのに視界が明るくなった気がする。突き刺さるものは柔らかい。

⏰:22/10/04 09:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#786 [○○&◆.x/9qDRof2]
これも比喩?

ううん、違う。明るくて、優しくて、柔らかいものを感じる。後ろを振り返ると、眩しさに目が眩んだ。田舎の山々の上に広がる入道雲。その更に上で輝く太陽。太陽の光を受けた蒸気が、虹となって山々に掛かっていた。

⏰:22/10/04 09:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#787 [○○&◆.x/9qDRof2]
.......あぁ、そっか。暗かったのも、怖かったのも、尖ってたのも、わたしが下を向いていたせいなんだ。


だって、そうでしょう?

いつでもそこにある空が、こんなにも。

⏰:22/10/04 09:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#788 [○○&◆.x/9qDRof2]
後ろの家の戸が開き、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あら、あんた.......帰ってくるなら電話の1本ぐらい入れたらいいのに。なんかあったのかい?」
「別に。何となくだよ」

本当はふられちゃったからなんだけど。

⏰:22/10/04 09:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#789 [○○&◆.x/9qDRof2]
ホームシックになって何が悪い。でも、思ったより早くにわたしのこころの雨はあがった。もう大丈夫。だって、そうでしょう?そこにいつでもある空が、こんなにも。

⏰:22/10/04 09:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#790 [○○&◆.x/9qDRof2]
こんなにも、おっきいんだから。

⏰:22/10/04 09:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#791 [○○&◆.x/9qDRof2]
 雨のち晴れ。わたしのからだを、夏のぬるい雨が打つ。こころの中も同じく晴れていない。闇が、わたしのこころに突き刺さる。

⏰:22/10/04 09:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#792 [○○&◆.x/9qDRof2]
.......まぁ、これは比喩なんだけど。

どうせならもっと明るいものに刺されたい。上を向く気力が出ない。向いてもどうせ雨雲だけ。傘が無くても雨宿りしようとは思わなかった。でも光化学スモッグに侵されたこの街の雨は、体にチクチクと突き刺ささってすごく痛い。

⏰:22/10/04 09:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#793 [○○&◆.x/9qDRof2]
.......まぁ比喩なんだけど。

どうせならもっと優しい雨に刺されたい。そう思って、とりあえず街から離れるためにバスに乗り込む。以外と乗車してる人は多い.......って、いま、雨降ってたんだっけ。バスの中でもずぶ濡れのわたしに視線が痛く突き刺さる。まぁ比喩なんだけど。どうせならもっと柔らかい視線に刺されたい。

⏰:22/10/04 09:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#794 [○○&◆.x/9qDRof2]
バスの中はうつ向いてやりすごした。着いた先は駅。視線を避けるようにうつ向いたまま、さっさと特急電車に乗り込んだ。尖った視線はもう慣れた。街から離れる程に人は減る。でもその分、馴れ馴れしい人が増える。あまり話し掛けてほしくなかったから、ここでもうつ向いて歩いていった。

⏰:22/10/04 09:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#795 [○○&◆.x/9qDRof2]
着いた場所は田舎町の、ある1軒の家。久しぶりに来た気がする。そこで初めて顔を上げて、家を見上げる。


 いつの間にか雨はあがっていた。あれ?上を向いただけなのに視界が明るくなった気がする。突き刺さるものは柔らかい。

⏰:22/10/04 09:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#796 [○○&◆.x/9qDRof2]
これも比喩?

ううん、違う。明るくて、優しくて、柔らかいものを感じる。後ろを振り返ると、眩しさに目が眩んだ。田舎の山々の上に広がる入道雲。その更に上で輝く太陽。太陽の光を受けた蒸気が、虹となって山々に掛かっていた。

⏰:22/10/04 09:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#797 [○○&◆.x/9qDRof2]
.......あぁ、そっか。暗かったのも、怖かったのも、尖ってたのも、わたしが下を向いていたせいなんだ。


だって、そうでしょう?

いつでもそこにある空が、こんなにも。

⏰:22/10/04 09:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#798 [○○&◆.x/9qDRof2]
後ろの家の戸が開き、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「あら、あんた.......帰ってくるなら電話の1本ぐらい入れたらいいのに。なんかあったのかい?」
「別に。何となくだよ」

⏰:22/10/04 09:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#799 [○○&◆.x/9qDRof2]
本当はふられちゃったからなんだけど。ホームシックになって何が悪い。でも、思ったより早くにわたしのこころの雨はあがった。もう大丈夫。だって、そうでしょう?そこにいつでもある空が、こんなにも。

⏰:22/10/04 09:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#800 [○○&◆.x/9qDRof2]
こんなにも、おっきいんだから

>>700-750

⏰:22/10/04 09:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#801 [○○&◆.x/9qDRof2]
#23 [ゆびきりげんまん(1/2)]
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

「私ね、昔約束したんだ」
「約束?へぇー、誰とよ?」

図書館の机。
私の前に座る友達が読んでいた本を閉じた。こんな話にも興味を持ってくれたらしい。
広辞苑を読んでいたのだから、相当暇だっただけなのかも知れないけど。

⏰:22/10/04 10:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#802 [○○&◆.x/9qDRof2]
「誰かは思い出せないんだ。どんな約束かもよく憶えていない」
「何それ。約束した事しか憶えていないの?」
「うん。誰かと指切りげんまんしたんだ」
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

⏰:22/10/04 10:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#803 [○○&◆.x/9qDRof2]
頭の中で、そのフレーズがずっと反芻される。
あの約束で、初めて交わした指切りげんまん。

でもいつだったっけ?結構幼い頃だったような気がする。
でも人生4、5年ぐらい生きてりゃあの歌には出会えるし。何とも確証がない。頭の中で壊れたようにあのフレーズがずっと流れる。
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

⏰:22/10/04 10:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#804 [○○&◆.x/9qDRof2]
「…あっ」
「…?どしたの?」
「思い出したのよ」
「誰と約束したかを?」
「ううん、約束した事を」

うそついたら、ね?
約束した相手の声だけが頭の中で再生される。
少し低い女の子の声。顔は忘れたけど、声は思い出せる。
赤いランドセルに黄色い帽子をかぶって、約束したんだ。

⏰:22/10/04 10:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#805 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれは多分初めての指切りげんまん。

「一緒に地獄へ堕ちよう、って約束したんだ」

あの子は、憶えてるのかな。

⏰:22/10/04 10:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#806 [○○&◆.x/9qDRof2]
ギィギィ、と錆びた音が廃れた公園に響き渡る。

僕の横でブランコを漕ぐのは、あの時と何一つ変わらない君。

⏰:22/10/04 17:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#807 [○○&◆.x/9qDRof2]
亡き君に告ぐ
⏰:10/12/17 22:07 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#808 [○○&◆.x/9qDRof2]
#3 [不発花火]
僕がまだこの公園で遊んでいた時は、周りは古びた団地で、道路を渡ってすぐに優しいおばあちゃんがいる駄菓子屋があって、その少し離れた所に友達の家が経営している本屋があったはずだった。

でも今は見渡しても駄菓子屋も本屋も古びた団地もなく、コンクリートのビルや綺麗な高層マンションがそびえ立っていた。

その中でこの廃れた公園だけは昔と何一つ変わらずに、まるでここだけ世界が違うように佇んでいた。

⏰:22/10/04 17:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#809 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:10/12/17 22:08 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#4 [不発花火]
でも、昔はたくさんの子供達やその母親で賑わっていた公園も、今ではしんと静まり返っている。


ただ、ブランコの音がギィギィと鳴り響いている。


「君は変わらないな」

⏰:22/10/04 17:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#810 [○○&◆.x/9qDRof2]
ブランコを囲む鉄柵に座る僕の横で無言のまま小さくブランコを漕ぎ続ける君に僕は話し掛けた。

十何年という長い時間は、僕を大人にするのは充分すぎる程だった。
⏰:10/12/17 22:08

⏰:22/10/04 17:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#811 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:f3tn8iq6

#5 [不発花火]
大人になった僕は、小さい頃の面影なんてない程に成長していた。

顎髭なんか生やしているし、似合わないスーツだって毎日のように着ている。

昔のようにTシャツと短パンで駆け回ることもなくなった。

でも君は何一つ変わらず幼いままだ。

⏰:22/10/04 17:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#812 [○○&◆.x/9qDRof2]
どれ程の時間が経ったのだろうか。

僕は君が亡くなってから、一体何年この公園に足を運ばなくなったのだろうか。


「おじさん、誰?」

まだ声変わりをしていない、高らかな少年の声。
何も知らない、君の声。

⏰:22/10/04 17:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#813 [○○&◆.x/9qDRof2]
「僕は君の友達だよ」

懐かしさから涙が零れそうになるのを必死で耐えながら、言葉を紡ぐ。

君は気付いてくれるだろうか。
⏰:10/12/17 22:09

⏰:22/10/04 17:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#814 [○○&◆.x/9qDRof2]
#6 [不発花火]
「でも、僕はおじさんを知らないよ?」
「僕は君をずっと昔から知ってるよ」

ブランコを漕ぐのを止め、僕の目を見透かえながら君はきょとん、とした顔をしている。

「僕の、友達…?」

⏰:22/10/04 17:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#815 [○○&◆.x/9qDRof2]
そう、人見知りで泣き虫な君の、たった一人の友達だったんだ。

笑って頷くと君は嬉しそうに、けれど恥ずかしそうに再びブランコを漕ぎ出した。

「じゃあ…ブランコを押してくれる?」

「…もちろんだよ」

⏰:22/10/04 17:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#816 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕は鉄柵から立ち上がり、緩くブランコを漕ぐ君の細い背中を優しく押していく。
⏰:10/12/17 22:09 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#7 [不発花火]
「しっかり掴まってるんだよ?」

手放さないように。

「うん!もっと、もっと高く―」

あの時のように、手放さないように。

⏰:22/10/04 17:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#817 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕は少し強めに背中を押すが、君はまだ満足出来ないのか『もっと、もっと』と楽しそうに笑っている。

ふと、雨が降り出した。

ポツポツと雨粒が乾いた地面に小さな染みを作り、地面の色を変えていく。

「さあ、雨が降って来たよ。お家に帰ろうか」

⏰:22/10/04 17:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#818 [○○&◆.x/9qDRof2]
また天気が良い日に、君に会いに行くよ。
そしたら君に謝りたいことがあるんだ。
⏰:10/12/17 22:10 📱:SH04B

⏰:22/10/04 17:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#819 [○○&◆.x/9qDRof2]
8 [不発花火]
「―どうして?」


君は許してくれるだろうか。


「どうして、って雨が降ってるからだよ。風邪を引いてしまうだろ?」


僕からは君の顔は見えない。
僕の心臓は急激に早く鼓動を刻み始めた。

声は震えていなかっただろうか。


「あの時は雨が振ってても、もっと強く背中を押してくれたのにね?」

⏰:22/10/04 17:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#820 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぐるり、と180度君の顔が僕の方を向く。

人間では、有り得ない向きで君は僕の顔を見ている。

「ひっ」

つい嗚咽が漏れてしまい、慌てて手で口を塞ぐ。

⏰:22/10/04 17:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#821 [○○&◆.x/9qDRof2]
心臓の音が煩い程に鳴っている。
⏰:10/12/17 22:10 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#9 [不発花火]
「どうして僕を置いてったの?」
「僕はまだ生きていたのに」
「どうして?」

⏰:22/10/04 17:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#822 [○○&◆.x/9qDRof2]
君は僕を許してくれるだろうか。

「ごめ、ごめん…本当にごめん…怖かったんだ…責められるのが」


『君を殺した』と責められるのが。

⏰:22/10/04 17:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#823 [○○&◆.x/9qDRof2]
あの日たまたま雨が振っていて、僕はブランコを漕ぐ君の背中をいつものように押していたんだ。

ほんの少しの雨だったから、構わず親友である君と遊んでたんだ。

君を喜ばせたくて、雨粒がキラキラと宝石のように綺麗だったから、いつもより強く背中を押していたんだ。
⏰:10/12/17 22:11 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#10 [不発花火]
『立ったら、きっともっと楽しいよ』

その言葉で立ち上がった君の背中を僕が強く押した瞬間、雨で濡れた鉄で出来た手摺りから君は手を離してしまい、君の小さな体は宙を舞った。

高く飛んだ君の体は地面に強く叩き付けられ、しばらくビクビクと痙攣し、血を吐き出した後ピクリとも動かなくなった。

僕は怖くなってしまい、逃げ出してしまった。

「違、違う…助けたかったんだ…本当だよ…ごめん、ごめんよ…」

「嘘だ」

⏰:22/10/04 17:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#824 [○○&◆.x/9qDRof2]
無表情な君からは、何も感じられなかった。

怒りも悲しみも何も感じられない、君。

僕はただそれに恐怖を感じるしかなかった。

⏰:22/10/04 17:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#825 [○○&◆.x/9qDRof2]
ギィギィ、と錆びた音が廃れた公園に響き渡る。

僕の横でブランコを漕ぐのは、あの時と何一つ変わらない君。

⏰:22/10/04 17:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#826 [○○&◆.x/9qDRof2]
亡き君に告ぐ
⏰:10/12/17 22:07 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#827 [○○&◆.x/9qDRof2]
#3 [不発花火]
僕がまだこの公園で遊んでいた時は、周りは古びた団地で、道路を渡ってすぐに優しいおばあちゃんがいる駄菓子屋があって、その少し離れた所に友達の家が経営している本屋があったはずだった。

⏰:22/10/04 17:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#828 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも今は見渡しても駄菓子屋も本屋も古びた団地もなく、コンクリートのビルや綺麗な高層マンションがそびえ立っていた。

⏰:22/10/04 17:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#829 [○○&◆.x/9qDRof2]
その中でこの廃れた公園だけは昔と何一つ変わらずに、まるでここだけ世界が違うように佇んでいた。
⏰:10/12/17 22:08 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#830 [○○&◆.x/9qDRof2]
#4 [不発花火]
でも、昔はたくさんの子供達やその母親で賑わっていた公園も、今ではしんと静まり返っている。


ただ、ブランコの音がギィギィと鳴り響いている。

⏰:22/10/04 17:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#831 [○○&◆.x/9qDRof2]
君は変わらないな」

ブランコを囲む鉄柵に座る僕の横で無言のまま小さくブランコを漕ぎ続ける君に僕は話し掛けた。

十何年という長い時間は、僕を大人にするのは充分すぎる程だった。

⏰:22/10/04 17:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#832 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:10/12/17 22:08 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#5 [不発花火]
大人になった僕は、小さい頃の面影なんてない程に成長していた。

顎髭なんか生やしているし、似合わないスーツだって毎日のように着ている。

昔のようにTシャツと短パンで駆け回ることもなくなった。

⏰:22/10/04 17:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#833 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも君は何一つ変わらず幼いままだ。

どれ程の時間が経ったのだろうか。

僕は君が亡くなってから、一体何年この公園に足を運ばなくなったのだろうか。


「おじさん、誰?」

⏰:22/10/04 17:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#834 [○○&◆.x/9qDRof2]
まだ声変わりをしていない、高らかな少年の声。
何も知らない、君の声。

「僕は君の友達だよ」

懐かしさから涙が零れそうになるのを必死で耐えながら、言葉を紡ぐ。

君は気付いてくれるだろうか。

⏰:22/10/04 17:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#835 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:10/12/17 22:09 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

#6 [不発花火]
「でも、僕はおじさんを知らないよ?」
「僕は君をずっと昔から知ってるよ」

ブランコを漕ぐのを止め、僕の目を見透かえながら君はきょとん、とした顔をしている。

⏰:22/10/04 17:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#836 [○○&◆.x/9qDRof2]
「僕の、友達…?」

そう、人見知りで泣き虫な君の、たった一人の友達だったんだ。

笑って頷くと君は嬉しそうに、けれど恥ずかしそうに再びブランコを漕ぎ出した。

「じゃあ…ブランコを押してくれる?」

⏰:22/10/04 17:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#837 [○○&◆.x/9qDRof2]
「…もちろんだよ」

僕は鉄柵から立ち上がり、緩くブランコを漕ぐ君の細い背中を優しく押していく。
⏰:10/12/17 22:09 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#838 [○○&◆.x/9qDRof2]
#7 [不発花火]
「しっかり掴まってるんだよ?」

手放さないように。

「うん!もっと、もっと高く―」

あの時のように、手放さないように。

僕は少し強めに背中を押すが、君はまだ満足出来ないのか『もっと、もっと』と楽しそうに笑っている。

⏰:22/10/04 17:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#839 [○○&◆.x/9qDRof2]
ふと、雨が降り出した。

ポツポツと雨粒が乾いた地面に小さな染みを作り、地面の色を変えていく。

「さあ、雨が降って来たよ。お家に帰ろうか」

また天気が良い日に、君に会いに行くよ。
そしたら君に謝りたいことがあるんだ。
⏰:10/12/17 22:10 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#840 [○○&◆.x/9qDRof2]
#8 [不発花火]
「―どうして?」


君は許してくれるだろうか。


「どうして、って雨が降ってるからだよ。風邪を引いてしまうだろ?」


僕からは君の顔は見えない。
僕の心臓は急激に早く鼓動を刻み始めた。

声は震えていなかっただろうか。


「あの時は雨が振ってても、もっと強く背中を押してくれたのにね?」

⏰:22/10/04 17:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#841 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぐるり、と180度君の顔が僕の方を向く。

人間では、有り得ない向きで君は僕の顔を見ている。

「ひっ」

つい嗚咽が漏れてしまい、慌てて手で口を塞ぐ。

心臓の音が煩い程に鳴っている。
⏰:10/12/17 22:10 📱:SH04B 🆔:f3tn8iq6

⏰:22/10/04 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#842 [○○&◆.x/9qDRof2]
#9 [不発花火]
「どうして僕を置いてったの?」
「僕はまだ生きていたのに」
「どうして?」


君は僕を許してくれるだろうか。

「ごめ、ごめん…本当にごめん…怖かったんだ…責められるのが」

⏰:22/10/04 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#843 [○○&◆.x/9qDRof2]
『君を殺した』と責められるのが。


あの日たまたま雨が振っていて、僕はブランコを漕ぐ君の背中をいつものように押していたんだ。

ほんの少しの雨だったから、構わず親友である君と遊んでたんだ。

⏰:22/10/04 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#844 [○○&◆.x/9qDRof2]
君を喜ばせたくて、雨粒がキラキラと宝石のように綺麗だったから、いつもより強く背中を押していたんだ。
⏰:10/12/17 22:11 📱:SH04B

⏰:22/10/04 17:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#845 [○○&◆.x/9qDRof2]
#10 [不発花火]
『立ったら、きっともっと楽しいよ』

その言葉で立ち上がった君の背中を僕が強く押した瞬間、雨で濡れた鉄で出来た手摺りから君は手を離してしまい、君の小さな体は宙を舞った。

高く飛んだ君の体は地面に強く叩き付けられ、しばらくビクビクと痙攣し、血を吐き出した後ピクリとも動かなくなった。

⏰:22/10/04 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#846 [○○&◆.x/9qDRof2]
僕は怖くなってしまい、逃げ出してしまった。

「違、違う…助けたかったんだ…本当だよ…ごめん、ごめんよ…」

「嘘だ」

⏰:22/10/04 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#847 [○○&◆.x/9qDRof2]
無表情な君からは、何も感じられなかった。

怒りも悲しみも何も感じられない、君。

僕はただそれに恐怖を感じるしかなかった。

⏰:22/10/04 17:27 📱:Android 🆔:☆☆☆


#848 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきりげんまん
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

「私ね、昔約束したんだ」
「約束?へぇー、誰とよ?」

⏰:22/10/04 17:33 📱:Android 🆔:☆☆☆


#849 [○○&◆.x/9qDRof2]
図書館の机。
私の前に座る友達が読んでいた本を閉じた。こんな話にも興味を持ってくれたらしい。
広辞苑を読んでいたのだから、相当暇だっただけなのかも知れないけど。

「誰かは思い出せないんだ。どんな約束かもよく憶えていない」

⏰:22/10/04 17:33 📱:Android 🆔:☆☆☆


#850 [○○&◆.x/9qDRof2]
「何それ。約束した事しか憶えていないの?」
「うん。誰かと指切りげんまんしたんだ」
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。

⏰:22/10/04 17:34 📱:Android 🆔:☆☆☆


#851 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきった。
頭の中で、そのフレーズがずっと反芻される。
あの約束で、初めて交わした指切りげんまん。

⏰:22/10/04 17:34 📱:Android 🆔:☆☆☆


#852 [○○&◆.x/9qDRof2]
でもいつだったっけ?結構幼い頃だったような気がする。
でも人生4、5年ぐらい生きてりゃあの歌には出会えるし。何とも確証がない。頭の中で壊れたようにあのフレーズがずっと流れる。

⏰:22/10/04 17:34 📱:Android 🆔:☆☆☆


#853 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

「…あっ」
「…?どしたの?」
「思い出したのよ」
「誰と約束したかを?」
「ううん、約束した事を」

⏰:22/10/04 17:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#854 [○○&◆.x/9qDRof2]
うそついたら、ね?
約束した相手の声だけが頭の中で再生される。
少し低い女の子の声。顔は忘れたけど、声は思い出せる。
赤いランドセルに黄色い帽子をかぶって、約束したんだ。

⏰:22/10/04 17:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#855 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれは多分初めての指切りげんまん。

「一緒に地獄へ堕ちよう、って約束したんだ」

あの子は、憶えてるのかな。

⏰:22/10/04 17:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#856 [○○&◆.x/9qDRof2]
Gemini双子の正体

あたしとアイはいつも一緒。
ご飯のときも、寝るときも、お風呂も歯磨きもぜーんぶ一緒。

⏰:22/10/04 17:35 📱:Android 🆔:☆☆☆


#857 [○○&◆.x/9qDRof2]
あたしとアイはすごく高いところにあるお部屋に住んでる。
お父さんはビルって言ってた。
ベランダっていう窓からお外が見えるけど、危ないから出ちゃダメなんだって。

⏰:22/10/04 17:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#858 [○○&◆.x/9qDRof2]
一緒に住んでるお父さんは、二人目のお父さん。
一人目のお父さんは優しくていつも一緒に遊んでくれて大好きだったけど、いなくなっちゃった。
それから今のお父さんのお家にお引っ越ししたの。

⏰:22/10/04 17:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#859 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも今のお父さんは一緒に遊んでくれないしお仕事であまりお家にいないから、あたしは前のお父さんの方が好きなんだ。
お父さんには秘密だよ。

⏰:22/10/04 17:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#860 [○○&◆.x/9qDRof2]
あたしは公園が大好き。
ブランコとかお砂場とかジャングルジムとか、楽しいのがいっぱいあるから。
でも、公園には行っちゃいけないの。
今はぶっそうなよのなかだからってお父さんが言ってたけど、あたしもアイもよくわからない。

⏰:22/10/04 17:36 📱:Android 🆔:☆☆☆


#861 [○○&◆.x/9qDRof2]
一度お父さんがお仕事に行ってるときに、アイと二人でこっそり公園に行こうとした。
でもお部屋のドアが開かなくて、出られなかった。

⏰:22/10/04 17:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#862 [○○&◆.x/9qDRof2]
今のお父さんのお家に来てから、あたしはお外で遊んでないの。
アイと二人で、お父さんがつくったごはんを食べたり、テレビを見たりしてる。

⏰:22/10/04 17:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#863 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも、アイはお外に出てるの。
あたしが寝てる時にお父さんに連れて行ってもらってるんだって。
アイがお外に行った次の日は、あたしにお外の話をしてくれて楽しい。

⏰:22/10/04 17:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#864 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも、どうして?
アイとあたしはいつも一緒なのに。
どうしてアイだけお外に出られるの?
アイに聞いてみたけど、テレビを見ててお返事してくれなかった。

⏰:22/10/04 17:37 📱:Android 🆔:☆☆☆


#865 [○○&◆.x/9qDRof2]
今日のお天気は雨で、いつも窓から見てるお外がよく見えない。
アイがあたしを呼んでる。
なあに?

⏰:22/10/04 17:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#866 [○○&◆.x/9qDRof2]
―お外に出たい?
 
出たいよ。公園でブランコにのりたいな。
 
――じゃあ次にお父さんとお出かけするときは代わってあげる。

⏰:22/10/04 17:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#867 [○○&◆.x/9qDRof2]
ほんと?
 
――うん。
 
夜、お父さんがアイを呼んだ。
あたしはアイのふりして、お父さんと一緒にお部屋を出た。
ひさしぶりにお外に出てうれしかった。

⏰:22/10/04 17:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#868 [○○&◆.x/9qDRof2]
お部屋の真ん中にあるおっきなベッドに寝かされて、お父さんの手があたしの体のいろんなところを触ったりなでたりしてる。
お父さん、なにしてるんだろう?

⏰:22/10/04 17:38 📱:Android 🆔:☆☆☆


#869 [○○&◆.x/9qDRof2]
――まだあなたにはわからないね。
 
アイ?
お父さんは、なにをしてるの?
アイとお父さんはいつもこんなことしてるの?

⏰:22/10/04 17:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#870 [○○&◆.x/9qDRof2]
――逃げないで。ちゃんと向き合って。本当は知ってたんでしょ?
 
アイ、なにいってるの?
 
――あの人と、したことを。知ってたんでしょ?
 
やだ……。

⏰:22/10/04 17:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#871 [○○&◆.x/9qDRof2]
――あなたが消したい記憶を、全部あたしが背負ったの。
 
やめてよ……聞きたくない!
 
――聞いて! あたしは……

⏰:22/10/04 17:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#872 [○○&◆.x/9qDRof2]
その瞬間、全部思い出した。
アイは、あたし――。

⏰:22/10/04 17:39 📱:Android 🆔:☆☆☆


#873 [○○&◆.x/9qDRof2]
すれ違い
(※すこしホラー※)

 昨日、嫌なことがあった。いや、嫌なことなんて毎日ある。なぜなら、ぼくはいじめられているから。良いことなんて、ここ数年あったことがない。

⏰:22/10/04 17:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#874 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも、昨日は特別に嫌なことがあった。帰り道にいつも通り、ぼくの好きなひとみちゃんの後をつけていたら、彼女は他校の男子と待ち合わせしていた。

⏰:22/10/04 17:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#875 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぼくは、ひとみちゃんと付き合えるなんて勘違いするほど馬鹿じゃないから、彼女が他の男と待ち合わせしてデートするのは仕方ない。ぼくにはどうしようもないことだ。

⏰:22/10/04 17:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#876 [○○&◆.x/9qDRof2]
しばらくひとみちゃんと男の後をつけて、日が暮れだした頃、二人は公園に入っていった。ベンチに座って楽しそうに話す二人を、ぼくは隠れて見ていた。男がうらやましかった。

⏰:22/10/04 17:40 📱:Android 🆔:☆☆☆


#877 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれがぼくだったら.......そう思っていたら、男がひとみちゃんにキスをした。ぼくの大好きなひとみちゃんに!ひとみちゃんにキスの経験が無いのを知っていたぼくは、彼女が嫌がる、助けなきゃ、とその場に飛び出そうとした.......が、ぼくの考えとは逆に、彼女は自分から舌を入れたり、男の背中を撫で回したり。

⏰:22/10/04 17:41 📱:Android 🆔:☆☆☆


#878 [○○&◆.x/9qDRof2]
なんて淫乱なんだ!騙された……あんな女だったなんてっ!

 ぼくは彼女に幻滅した。そして今日、ここに来た。ぼくはいつも、嫌なことがあると近くの山に登る。山と言っても、頂上まで30分もかからない小さな山だ。

⏰:22/10/04 17:41 📱:Android 🆔:☆☆☆


#879 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぼくは、頂上に続く獣道を慣れた足取りで歩いていた。10分ほど歩くと、茂みの中に見覚えのあるものを発見した。あの淫乱女.......ひとみがいつも首に巻いているマフラーだ。

⏰:22/10/04 17:41 📱:Android 🆔:☆☆☆


#880 [○○&◆.x/9qDRof2]
なぜこんなところに?誰か他の人の?いや、毎日後をつけているぼくが見間違うはずはない。ぼくは地面に落ちていたマフラーを拾って匂いを嗅いでみた。間違いない、何日か前に嗅いだ体操服と同じ匂いだ。

⏰:22/10/04 17:41 📱:Android 🆔:☆☆☆


#881 [○○&◆.x/9qDRof2]
ひとみが近くにいるんだと思い、ぼくは茂みの奥へと入り込んでいった。5分ほど茂みの中を突き進んだぼくは、再びひとみの落としものを見つけた。

⏰:22/10/04 17:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#882 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女が肌身離さず持っている白い携帯電話だ。ぼくは素早く拾いあげると、携帯電話のボタンを操作する。この作業は、ぼくが夢にまで見ていたものだった。

⏰:22/10/04 17:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#883 [○○&◆.x/9qDRof2]
いままで一度もチャンスが無かったのだが、ぼくの気持ちが変化してからこんなことがあるなんて、皮肉なものだ。次々と画面に表れるのは、ひとみと友達のツーショット写真や、男と交わしたメッセージ.......だが、あるメール画面が表示された時、ぼくの手は止まった。

⏰:22/10/04 17:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#884 [○○&◆.x/9qDRof2]
『××山のコテージで待ってる』


送信メールの中で見つけたものだが、宛先の名前には見覚えがない。どうせあの他校生か誰かだろう。

⏰:22/10/04 17:42 📱:Android 🆔:☆☆☆


#885 [○○&◆.x/9qDRof2]
この山の頂上の少し手前には、なぜかひとつだけポツリと建てられた小さなコテージがある。そこで彼女が誰かを待っているようだ。ぼくは迷わずその場所に向かった。

⏰:22/10/04 17:43 📱:Android 🆔:☆☆☆


#886 [○○&◆.x/9qDRof2]
茂みを掻き分けてどのくらい進んだだろうか、コテージが見えてきた。だが、周囲に人影らしきものはない。あの中で、あいつはまた淫らなことをしているんじゃないだろうか。見たくない。

⏰:22/10/04 17:43 📱:Android 🆔:☆☆☆


#887 [○○&◆.x/9qDRof2]
はずなのに、ぼくのからだは意識を無視して行動していた。ぼくは建物の裏側から、周囲の様子を伺いながら慎重に近づいた。そしてコテージの壁にはりついて、窓からこっそりと内部を覗く。緊張しながらも、ぼくはひとみの姿を探した.......だが、ひとみどころか中には誰の姿も無かった。

⏰:22/10/04 17:43 📱:Android 🆔:☆☆☆


#888 [○○&◆.x/9qDRof2]
ほっとしたのと同時に、期待を裏切られたような気分だった。もう帰った後だったのだろうか。ぼくは、表に回ってコテージのドアを開けた。やはり中には誰もいない。

⏰:22/10/04 17:43 📱:Android 🆔:☆☆☆


#889 [○○&◆.x/9qDRof2]
だが、テーブルの上に置かれた赤い布がぼくの目に映った。あれは……制服のスカーフだ。近づこうとしてコテージの中に一歩足を踏み入れた瞬間、頭に衝撃が走ってぼくは崩れ落ちた。痛みに顔を歪めているぼくの耳に、男の声が聞こえた。

⏰:22/10/04 17:43 📱:Android 🆔:☆☆☆


#890 [○○&◆.x/9qDRof2]
「こいつ、やっちゃっていいの?」
「うん。いいよ」

それに答えたのは.......間違いない、ひとみだ!どういうことだ?なぜひとみがぼくを?

⏰:22/10/04 17:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#891 [○○&◆.x/9qDRof2]
「ずっと付きまとわれててさ。キモいんだよね」

ぼくはもうお前に付きまとうつもりは無い!だが、男の足が倒れているぼくのみぞおちを強打したため、声にはならなかった。痛みをこらえて目を開けると、視線の先には嫌悪感に満ちたひとみの顔があった。

⏰:22/10/04 17:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#892 [○○&◆.x/9qDRof2]
視界の端を棒のようなものが通りすぎると、すぐに頭に痛みを感じた。何かが弾けるような感覚の後、ぼくは意識を失った。

⏰:22/10/04 17:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#893 [○○&◆.x/9qDRof2]
現実を遮断する直前に聞いたのは、ひとみの声だった。



「ストーカーだったなんて、幻滅した.......好きだったのに」

⏰:22/10/04 17:44 📱:Android 🆔:☆☆☆


#894 [○○&◆.x/9qDRof2]
卒業

 もうこの学校に先輩はいない。先輩は少しだけ春の木漏れ日が差し込んだ先週の金曜日、わたしの通う高校を卒業した。もうこの学校に先輩はいない。朝わざとぎりぎりに学校に登校しても、昼休みに売店に行っても、移動教室の時友達に無理を言って遠回りしてみても。

⏰:22/10/04 17:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#895 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう先輩を見つけることはできない。


 あと二年早く生まれたかった。なんどその言葉を口にしただろう。所詮、わたしは後輩。たまに挨拶をするのがわたしの精一杯の自己表現。だけど先輩は、少しだけめんどくさそうな顔をして頭を下げてくれる。

⏰:22/10/04 17:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#896 [○○&◆.x/9qDRof2]
それだけで一日中幸せになれた。名前を呼んでくれた日など一生忘れないと思った。もちろん、いまでも覚えている。

 だけど。そんな先輩はこの学校を卒業してしまった。

⏰:22/10/04 17:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#897 [○○&◆.x/9qDRof2]
いまでも、朝学校に来れば、まず先輩の姿を探してしまう。売店へ行くと先輩はいないと頭では分かっているのに、目が勝手に先輩を探してしまう。こころが勝手に今日もパンを買ってるんじゃないかと期待してしまう。

⏰:22/10/04 17:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#898 [○○&◆.x/9qDRof2]
廊下ですれ違うことは二度とないのに、先輩を一目見ようと遠回りしてしまう。先輩とは、一年しか同じ学校に通っていないけど、その学校の至る所に先輩の思い出が隠れている。

⏰:22/10/04 17:45 📱:Android 🆔:☆☆☆


#899 [○○&◆.x/9qDRof2]
それでも。わたしはこの恋を終わらせるつもりはない。確かに想いは届かないだろう。だけど、わたしが先輩に恋した時間は永久にわたしのこころの中に残るから。

⏰:22/10/04 17:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#900 [○○&◆.x/9qDRof2]
短い期間だったけどわたしのこころは先輩でいっぱいになったから。


 だから。わたしは先輩を忘れない。


 卒業おめでとうございます。

⏰:22/10/04 17:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#901 [○○&◆.x/9qDRof2]
春への想い
雪が降っていた。

しんしんと積もる雪の音に、耳を傾ける。

白に近い灰色の空を見上げながら思うは貴方のこと。

⏰:22/10/04 17:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#902 [○○&◆.x/9qDRof2]
冷たさも感じないくらい、この白い絨毯の上に寝転んでいる。

それほど貴方のことを考えてる。

重いかな?
重いよね。

⏰:22/10/04 17:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#903 [○○&◆.x/9qDRof2]
私の想いはまるで雪のよう。
軽そうに見えて、その想いは積もれば積もるほど重くなっていく。

だから貴方は私の前からいなくなってしまったの?

一筋涙が流れて耳へとつたっていく。

⏰:22/10/04 17:46 📱:Android 🆔:☆☆☆


#904 [○○&◆.x/9qDRof2]
空気のせいか、まだ体温がある顔に触れる涙はひどく冷たく感じた。

まるで貴方の気持ちを表したみたい。
私のことなんて、もう忘れるくらい冷めてしまったのでしょう。

⏰:22/10/04 17:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#905 [○○&◆.x/9qDRof2]
しんしんと降る音の中で、サクサクと軽快に雪を踏む音が聞こえてきた。

この広く白い草原に足を踏み入れたのは誰?

するとやがて、音が無くなって、またしんしんという音だけが聞こえた。

1つの影が私にかぶさる。

⏰:22/10/04 17:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#906 [○○&◆.x/9qDRof2]
間近で見えるは、あの人。
待ちわびた人。
愛しい人。

「冷たいね。」

そう言いながら、凍りついた私の頬に、太陽のように温かい貴方の手が触れる。

⏰:22/10/04 17:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#907 [○○&◆.x/9qDRof2]
そして愛おしそうに私を見つめながら微笑む。

私の心が、寒い冬から草花溢れる春へと変わる。

⏰:22/10/04 17:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#908 [○○&◆.x/9qDRof2]
温かい日差しの中、私は貴方と手を繋ぎ笑いあう。薬指に、結ばれた証をつけて。

⏰:22/10/04 17:47 📱:Android 🆔:☆☆☆


#909 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>850-900

⏰:22/10/04 17:48 📱:Android 🆔:☆☆☆


#910 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきりげんまん
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

⏰:22/10/04 17:49 📱:Android 🆔:☆☆☆


#911 [○○&◆.x/9qDRof2]
「私ね、昔約束したんだ」
「約束?へぇー、誰とよ?」

図書館の机。
私の前に座る友達が読んでいた本を閉じた。こんな話にも興味を持ってくれたらしい。
広辞苑を読んでいたのだから、相当暇だっただけなのかも知れないけど。

⏰:22/10/04 17:49 📱:Android 🆔:☆☆☆


#912 [○○&◆.x/9qDRof2]
「誰かは思い出せないんだ。どんな約束かもよく憶えていない」
「何それ。約束した事しか憶えていないの?」
「うん。誰かと指切りげんまんしたんだ」

⏰:22/10/04 17:49 📱:Android 🆔:☆☆☆


#913 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。
頭の中で、そのフレーズがずっと反芻される。
あの約束で、初めて交わした指切りげんまん。

⏰:22/10/04 17:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#914 [○○&◆.x/9qDRof2]
でもいつだったっけ?結構幼い頃だったような気がする。
でも人生4、5年ぐらい生きてりゃあの歌には出会えるし。何とも確証がない。頭の中で壊れたようにあのフレーズがずっと流れる。

⏰:22/10/04 17:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#915 [○○&◆.x/9qDRof2]
ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

「…あっ」
「…?どしたの?」
「思い出したのよ」
「誰と約束したかを?」
「ううん、約束した事を」

⏰:22/10/04 17:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#916 [○○&◆.x/9qDRof2]
うそついたら、ね?
約束した相手の声だけが頭の中で再生される。
少し低い女の子の声。顔は忘れたけど、声は思い出せる。
赤いランドセルに黄色い帽子をかぶって、約束したんだ。
あれは多分初めての指切りげんまん。

⏰:22/10/04 17:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#917 [○○&◆.x/9qDRof2]
「一緒に地獄へ堕ちよう、って約束したんだ」

あの子は、憶えてるのかな。

⏰:22/10/04 17:50 📱:Android 🆔:☆☆☆


#918 [○○&◆.x/9qDRof2]
【決意】
 ベッドの中で彼にしがみつきながら、朦朧とした意識の中で私は考えた。

⏰:22/10/04 17:51 📱:Android 🆔:☆☆☆


#919 [○○&◆.x/9qDRof2]
―今日、言おう。
きっかけを待っていたらいつまで経っても切り出せない。
彼と私は求めるものが違いすぎる。

⏰:22/10/04 17:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#920 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼を強く感じ、私の思考はそこで途切れた。

ランジェリーを着けながらどう切り出そうか考えていると、3年間の彼との思い出がぼんやりと浮かんできた。

⏰:22/10/04 17:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#921 [○○&◆.x/9qDRof2]
温かく、そして切なくなった。
でも、これでいい。彼との今までの生活は、決して悲しいものじゃない。愛しているからこそ、大切に思うからこそ、お互いのために離れよう。

⏰:22/10/04 17:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#922 [○○&◆.x/9qDRof2]
「あのさ、」

刹那。後ろから彼に抱きすくめられた。と同時に左手に無機質な冷たさを感じた。

指輪だった。

「お前は俺と一緒にいればいいんだよ。」



私の決意は、柔らかく崩れていった。

⏰:22/10/04 17:52 📱:Android 🆔:☆☆☆


#923 [○○&◆.x/9qDRof2]
すれ違い
(※すこしホラー※)

 昨日、嫌なことがあった。いや、嫌なことなんて毎日ある。なぜなら、ぼくはいじめられているから。良いことなんて、ここ数年あったことがない。

⏰:22/10/04 17:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#924 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも、昨日は特別に嫌なことがあった。帰り道にいつも通り、ぼくの好きなひとみちゃんの後をつけていたら、彼女は他校の男子と待ち合わせしていた。

⏰:22/10/04 17:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#925 [○○&◆.x/9qDRof2]
ぼくは、ひとみちゃんと付き合えるなんて勘違いするほど馬鹿じゃないから、彼女が他の男と待ち合わせしてデートするのは仕方ない。ぼくにはどうしようもないことだ。

⏰:22/10/04 17:54 📱:Android 🆔:☆☆☆


#926 [○○&◆.x/9qDRof2]
しばらくひとみちゃんと男の後をつけて、日が暮れだした頃、二人は公園に入っていった。ベンチに座って楽しそうに話す二人を、ぼくは隠れて見ていた。男がうらやましかった。

⏰:22/10/04 17:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#927 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれがぼくだったら.......そう思っていたら、男がひとみちゃんにキスをした。ぼくの大好きなひとみちゃんに!ひとみちゃんにキスの経験が無いのを知っていたぼくは、彼女が嫌がる、助けなきゃ、とその場に飛び出そうとした.......が、ぼくの考えとは逆に、彼女は自分から舌を入れたり、男の背中を撫で回したり。

⏰:22/10/04 17:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#928 [○○&◆.x/9qDRof2]
なんて淫乱なんだ!騙された……あんな女だったなんてっ!

 ぼくは彼女に幻滅した。そして今日、ここに来た。ぼくはいつも、嫌なことがあると近くの山に登る。

⏰:22/10/04 17:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#929 [○○&◆.x/9qDRof2]
山と言っても、頂上まで30分もかからない小さな山だ。ぼくは、頂上に続く獣道を慣れた足取りで歩いていた。10分ほど歩くと、茂みの中に見覚えのあるものを発見した。

⏰:22/10/04 17:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#930 [○○&◆.x/9qDRof2]
あの淫乱女.......ひとみがいつも首に巻いているマフラーだ。なぜこんなところに?誰か他の人の?いや、毎日後をつけているぼくが見間違うはずはない。ぼくは地面に落ちていたマフラーを拾って匂いを嗅いでみた。

⏰:22/10/04 17:55 📱:Android 🆔:☆☆☆


#931 [○○&◆.x/9qDRof2]
間違いない、何日か前に嗅いだ体操服と同じ匂いだ。ひとみが近くにいるんだと思い、ぼくは茂みの奥へと入り込んでいった。5分ほど茂みの中を突き進んだぼくは、再びひとみの落としものを見つけた。

⏰:22/10/04 17:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#932 [○○&◆.x/9qDRof2]
彼女が肌身離さず持っている白い携帯電話だ。ぼくは素早く拾いあげると、携帯電話のボタンを操作する。この作業は、ぼくが夢にまで見ていたものだった。

⏰:22/10/04 17:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#933 [○○&◆.x/9qDRof2]
いままで一度もチャンスが無かったのだが、ぼくの気持ちが変化してからこんなことがあるなんて、皮肉なものだ。次々と画面に表れるのは、ひとみと友達のツーショット写真や、男と交わしたメッセージ.......だが、あるメール画面が表示された時、ぼくの手は止まった。

⏰:22/10/04 17:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#934 [○○&◆.x/9qDRof2]
『××山のコテージで待ってる』


送信メールの中で見つけたものだが、宛先の名前には見覚えがない。どうせあの他校生か誰かだろう。

⏰:22/10/04 17:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#935 [○○&◆.x/9qDRof2]
この山の頂上の少し手前には、なぜかひとつだけポツリと建てられた小さなコテージがある。そこで彼女が誰かを待っているようだ。ぼくは迷わずその場所に向かった。

⏰:22/10/04 17:56 📱:Android 🆔:☆☆☆


#936 [○○&◆.x/9qDRof2]
茂みを掻き分けてどのくらい進んだだろうか、コテージが見えてきた。だが、周囲に人影らしきものはない。あの中で、あいつはまた淫らなことをしているんじゃないだろうか。

⏰:22/10/04 17:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#937 [○○&◆.x/9qDRof2]
見たくない。はずなのに、ぼくのからだは意識を無視して行動していた。ぼくは建物の裏側から、周囲の様子を伺いながら慎重に近づいた。そしてコテージの壁にはりついて、窓からこっそりと内部を覗く。

⏰:22/10/04 17:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#938 [○○&◆.x/9qDRof2]
緊張しながらも、ぼくはひとみの姿を探した.......だが、ひとみどころか中には誰の姿も無かった。ほっとしたのと同時に、期待を裏切られたような気分だった。

⏰:22/10/04 17:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#939 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう帰った後だったのだろうか。ぼくは、表に回ってコテージのドアを開けた。やはり中には誰もいない。だが、テーブルの上に置かれた赤い布がぼくの目に映った。

⏰:22/10/04 17:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#940 [○○&◆.x/9qDRof2]
あれは……制服のスカーフだ。近づこうとしてコテージの中に一歩足を踏み入れた瞬間、頭に衝撃が走ってぼくは崩れ落ちた。痛みに顔を歪めているぼくの耳に、男の声が聞こえた。

⏰:22/10/04 17:57 📱:Android 🆔:☆☆☆


#941 [○○&◆.x/9qDRof2]
「こいつ、やっちゃっていいの?」
「うん。いいよ」

それに答えたのは.......間違いない、ひとみだ!どういうことだ?なぜひとみがぼくを?

⏰:22/10/04 17:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#942 [○○&◆.x/9qDRof2]
「ずっと付きまとわれててさ。キモいんだよね」

ぼくはもうお前に付きまとうつもりは無い!だが、男の足が倒れているぼくのみぞおちを強打したため、声にはならなかった。

⏰:22/10/04 17:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#943 [○○&◆.x/9qDRof2]
痛みをこらえて目を開けると、視線の先には嫌悪感に満ちたひとみの顔があった。視界の端を棒のようなものが通りすぎると、すぐに頭に痛みを感じた。何かが弾けるような感覚の後、ぼくは意識を失った。

⏰:22/10/04 17:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#944 [○○&◆.x/9qDRof2]
現実を遮断する直前に聞いたのは、ひとみの声だった。

⏰:22/10/04 17:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#945 [○○&◆.x/9qDRof2]
「ストーカーだったなんて、幻滅した.......好きだったのに」

⏰:22/10/04 17:58 📱:Android 🆔:☆☆☆


#946 [○○&◆.x/9qDRof2]
werewolf
あぁ……
僕は何をしているのだろう。君にはずっと隠していたのに、君が満月が綺麗なんて言うから。

⏰:22/10/04 18:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#947 [○○&◆.x/9qDRof2]
君がこんな姿になったのは僕のせいじゃない。否、誰のせいでもないんだ。仕方なかったんだ。

⏰:22/10/04 18:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#948 [○○&◆.x/9qDRof2]
だって僕は【狼男】なんだから。満月を見た瞬間から僕の意志に関係なく、手足には体を切り裂き肉をえぐるための爪が生え、体には人間の体毛とは程遠い動物の毛が生えだす。

⏰:22/10/04 18:02 📱:Android 🆔:☆☆☆


#949 [○○&◆.x/9qDRof2]
口元は大きく裂け獲物をしとめる為の牙が生える。それから、のどの渇きを潤すために鮮血をを求め、空腹を満たすために肉を求め、欲望のままに女のゾクゾクするような悲鳴を求めてしまう。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#950 [○○&◆.x/9qDRof2]
そんな僕を見て君は『化け物!!』と叫んだね。そんな事は分かっていたんだ。自分は人間ではないことぐらい百も承知していたよ。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#951 [○○&◆.x/9qDRof2]
それでも人間の姿の時だけは君と同じ時間を過ごし些細なことで幸せを感じられた。幸せだったんだ。こんな淡い時間がずっと続くと思ってた。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#952 [○○&◆.x/9qDRof2]
でも狼になった僕は僕の意志では止められない。ふと我に返ったとき僕が噛みついたであろう君の首筋から溢れ出す朱色の血、命が切れる前の微かな呼吸、赤みをなくした小さな唇、全てが美しいと思ってしまった。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#953 [○○&◆.x/9qDRof2]
あぁ……
本当に僕は狼なんだな。
もうこれで人を殺したのは4人目だろうか。だがそんな事はもうどうでもいい。僕の愛した人はこの世にいない。否、僕の牙が君をこの世から去らせた。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#954 [○○&◆.x/9qDRof2]
あぁ……
僕は狼。
人間でもない
狼でもない化け物さ。

⏰:22/10/04 18:03 📱:Android 🆔:☆☆☆


#955 [○○&◆.x/9qDRof2]
【黄-yellow-】

初めてあの子と話をした。

ビリビリ、ビリビリ。

雷が落ちたかと思った。

僕の頬はじきに腫れ上がるだろう。

⏰:22/10/04 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#956 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:11/03/30 15:39 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#77 [我輩は匿名である]
ああ。
そういえばずっと前にも、これとは別のもっと体中痺れるような電撃が走った事があったのを僕は覚えている。

⏰:22/10/04 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#957 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:11/03/30 15:41 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#78 [我輩は匿名である]
―――――――
一年前…

僕はあの子に恋をした。

一目惚れだとすぐに分かった。

身体が痺れたように動かなかった。

目があったその刹那、時が止まったんだ。

⏰:22/10/04 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#958 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:11/03/30 15:43 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#79 [我輩は匿名である]
そのすぐ後で同じ学校の生徒で隣のクラスだという事が分かった。

――運命?

などと少し乙女みたいな考えをしてしまったけれど、ただの偶然だろう。

それから僕はあの子を見つける度、無意識に目で追っていたけれど、あの時みたいに目があうことはなかった。
⏰:11/03/30 17:56 📱:F08B

⏰:22/10/04 18:12 📱:Android 🆔:☆☆☆


#959 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:iAaeFAuo

#80 [我輩は匿名である]
だがその乙女のような馬鹿みたいな考えは案外的外れではなかった。

暖かい季節が訪れ、僕はあの子と同じクラスになった。

⏰:22/10/04 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#960 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:11/03/30 17:57 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#81 [我輩は匿名である]
…まさか隣の席だったりして。

そこまで神は優しくなかった。

僕は窓際の一番後ろの席、あの子は廊下側の一番前の席。

⏰:22/10/04 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#961 [○○&◆.x/9qDRof2]
その見事な離れ具合に、誰にも気付かれないよう窓の外を見る振りをして少し笑ってしまった。
⏰:11/03/30 20:55 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

⏰:22/10/04 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#962 [○○&◆.x/9qDRof2]
#82 [我輩は匿名である]
そうして新しいクラスに慣れはじめ、僕はあの子と話す事なく梅雨が終わり暑い季節を迎えようとしていた。

だけど今日、僕は遂にあの子と話す事になる。

それはお互いにあまり良いことではなかったのだろうか…。

⏰:22/10/04 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#963 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:11/03/30 20:57 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#83 [我輩は匿名である]
―――――――

放課後、忘れ物があったのを思い出した僕は廊下を引き返した。

「ねぇーあたしの隣の席の奴!全然話さないし、笑わないの。顔はいいけど鼻にかけんなっつーの!ああいうタイプ苦手だよ。」

教室に入ろうとした僕は、僕の隣の席の人があの子と話しているのが見えた。

「あぁ、私も苦手かな。」

引きつった笑顔のあの子の口から出たその言葉に思わず僕はあの子の元へ向かい、目を見て一言。

「僕は君の事が嫌いだ。」

⏰:22/10/04 18:13 📱:Android 🆔:☆☆☆


#964 [○○&◆.x/9qDRof2]
そして――
⏰:11/03/30 21:05 📱:F08B 🆔:iAaeFAuo

#84 [我輩は匿名である]
ビリビリ、ビリビリ。

雷が落ちたかと思った。

僕の頬はじきに腫れ上がるだろう

僕はあの子の平手打ちを喰らった
⏰:11/03/30 21:07 📱:F08B

⏰:22/10/04 18:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#965 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:iAaeFAuo

#85 [我輩は匿名である]
我ながら馬鹿な事を言ったなぁと。
小学生じゃあるまいし…。

あんな事が言いたかった訳じゃないのに
⏰:11/03/30 21:10 📱:F08B

⏰:22/10/04 18:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#966 [○○&◆.x/9qDRof2]
🆔:iAaeFAuo

#86 [我輩は匿名である]
自分の言った言葉と置かれている状況をやっと理解した。

嫌われていた事なんてもうどうでもいい。

僕は教室から出て行ったあの子を追いかけた。

ただ…本当の気持ちを伝える為に。


【黄-yellow-】完

⏰:22/10/04 18:14 📱:Android 🆔:☆☆☆


#967 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30
>>30-60
>>60-90
>>90-120
>>120-150

⏰:22/10/04 18:15 📱:Android 🆔:☆☆☆


#968 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>150-180
>>180-210
>>210-240
>>240-270
>>270-300

⏰:22/10/04 18:16 📱:Android 🆔:☆☆☆


#969 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>300-330
>>330-360
>>360-390
>>390-420
>>420-450

⏰:22/10/04 18:17 📱:Android 🆔:☆☆☆


#970 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>450-480
>>480-510
>>510-540
>>540-570
>>570-600

⏰:22/10/04 18:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#971 [○○&◆.x/9qDRof2]
自分の言った言葉と置かれている状況をやっと理解した。

嫌われていた事なんてもうどうでもいい。

僕は教室から出て行ったあの子を追いかけた。

ただ…本当の気持ちを伝える為に。


【黄-yellow-】完

⏰:22/10/04 18:18 📱:Android 🆔:☆☆☆


#972 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>600-630
>>630-660
>>660-690

⏰:22/10/04 18:19 📱:Android 🆔:☆☆☆


#973 [○○&◆.x/9qDRof2]
とある禁忌。
これを犯した少年は翼を奪われ下界へ追放された。

そんな彼を愛した少女はその美しい翼で彼の後を追った。

―下界へ堕ちる前、少年と少女が交わした約束。

⏰:22/10/04 18:20 📱:Android 🆔:☆☆☆


#974 [○○&◆.x/9qDRof2]
《強く生きて再びここで逢おう》

少年リオンはリサという名の少女に転生し、
少女エールはエイトという名の少年に転生した。

⏰:22/10/04 18:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#975 [○○&◆.x/9qDRof2]
住む世界が変わっても尚、二人は結ばれる運命にあった。
だがリサを庇ったエイトは命を落とし、その魂に宿ったエールは天界へ戻った。

⏰:22/10/04 18:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#976 [○○&◆.x/9qDRof2]
罪深き天使、リオンの後を追ったエールはこの先リサと会う事を禁じられた。
これを犯せば翼を失う事になるだろう。

⏰:22/10/04 18:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#977 [○○&◆.x/9qDRof2]
神はエールが天使である事を許したが天界にはもう彼女の居場所など何処にもなく、リオンと約束したあの場所で彼を待ち続ける事にした。

その後、彼女はリサと出会い翼を失う運命にあった。

⏰:22/10/04 18:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#978 [○○&◆.x/9qDRof2]
「エール、そろそろ時間だ。僕はもう行くよ。」

「えぇ。約束…信じてるから。また逢いましょうリオン。」



―朝、カーテンの隙間から漏れる眩しい光で目が覚めた。

⏰:22/10/04 18:21 📱:Android 🆔:☆☆☆


#979 [○○&◆.x/9qDRof2]
私は滲んだ視界を拭い、近々父に会いに行こうと思った。

あの日出て行く父に言ったあの台詞。

《最低。あんたと親子だなんて考えただけで吐き気がする。私の前から消えて。二度とその顔見せないで!》

⏰:22/10/04 18:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#980 [○○&◆.x/9qDRof2]
ちゃんと謝って本当の気持ちを伝えたい。

お父さん、やっぱりあなたは私のお父さんだよ。
あの川覚えてる?今の私には少し辛い場所だけど、昔と変わらず大好きな場所なんだよ。

「新しい家族と幸せに。」
「私達に幸せをくれてありがとう。」

⏰:22/10/04 18:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#981 [○○&◆.x/9qDRof2]
そして今日も"強く生きよう"
命尽きるその日まで…。


―約束は必ず守るよ、エイト。


【白-white-】完

⏰:22/10/04 18:22 📱:Android 🆔:☆☆☆


#982 [○○&◆.x/9qDRof2]
卒業

 もうこの学校に先輩はいない。先輩は少しだけ春の木漏れ日が差し込んだ先週の金曜日、わたしの通う高校を卒業した。もうこの学校に先輩はいない。朝わざとぎりぎりに学校に登校しても、昼休みに売店に行っても、移動教室の時友達に無理を言って遠回りしてみても。

⏰:22/10/04 18:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#983 [○○&◆.x/9qDRof2]
もう先輩を見つけることはできない。


 あと二年早く生まれたかった。なんどその言葉を口にしただろう。所詮、わたしは後輩。たまに挨拶をするのがわたしの精一杯の自己表現。

⏰:22/10/04 18:23 📱:Android 🆔:☆☆☆


#984 [○○&◆.x/9qDRof2]
だけど先輩は、少しだけめんどくさそうな顔をして頭を下げてくれる。それだけで一日中幸せになれた。名前を呼んでくれた日など一生忘れないと思った。もちろん、いまでも覚えている。

⏰:22/10/04 18:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#985 [○○&◆.x/9qDRof2]
だけど。そんな先輩はこの学校を卒業してしまった。いまでも、朝学校に来れば、まず先輩の姿を探してしまう。売店へ行くと先輩はいないと頭では分かっているのに、目が勝手に先輩を探してしまう。こころが勝手に今日もパンを買ってるんじゃないかと期待してしまう。

⏰:22/10/04 18:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#986 [○○&◆.x/9qDRof2]
廊下ですれ違うことは二度とないのに、先輩を一目見ようと遠回りしてしまう。先輩とは、一年しか同じ学校に通っていないけど、その学校の至る所に先輩の思い出が隠れている。

⏰:22/10/04 18:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#987 [○○&◆.x/9qDRof2]
それでも。わたしはこの恋を終わらせるつもりはない。確かに想いは届かないだろう。だけど、わたしが先輩に恋した時間は永久にわたしのこころの中に残るから。短い期間だったけどわたしのこころは先輩でいっぱいになったから。

⏰:22/10/04 18:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#988 [○○&◆.x/9qDRof2]
だから。わたしは先輩を忘れない。


 卒業おめでとうございます。

⏰:22/10/04 18:24 📱:Android 🆔:☆☆☆


#989 [○○&◆.x/9qDRof2]
春への想い
雪が降っていた。

しんしんと積もる雪の音に、耳を傾ける。

白に近い灰色の空を見上げながら思うは貴方のこと。

⏰:22/10/04 18:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#990 [○○&◆.x/9qDRof2]
冷たさも感じないくらい、この白い絨毯の上に寝転んでいる。

それほど貴方のことを考えてる。

重いかな?
重いよね。

⏰:22/10/04 18:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#991 [○○&◆.x/9qDRof2]
私の想いはまるで雪のよう。
軽そうに見えて、その想いは積もれば積もるほど重くなっていく。

だから貴方は私の前からいなくなってしまったの?

一筋涙が流れて耳へとつたっていく。

⏰:22/10/04 18:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#992 [○○&◆.x/9qDRof2]
空気のせいか、まだ体温がある顔に触れる涙はひどく冷たく感じた。

まるで貴方の気持ちを表したみたい。
私のことなんて、もう忘れるくらい冷めてしまったのでしょう。

しんしんと降る音の中で、サクサクと軽快に雪を踏む音が聞こえてきた。

⏰:22/10/04 18:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#993 [○○&◆.x/9qDRof2]
この広く白い草原に足を踏み入れたのは誰?

するとやがて、音が無くなって、またしんしんという音だけが聞こえた。

1つの影が私にかぶさる。

間近で見えるは、あの人。
待ちわびた人。
愛しい人。

⏰:22/10/04 18:25 📱:Android 🆔:☆☆☆


#994 [○○&◆.x/9qDRof2]
「冷たいね。」

そう言いながら、凍りついた私の頬に、太陽のように温かい貴方の手が触れる。

そして愛おしそうに私を見つめながら微笑む。

私の心が、寒い冬から草花溢れる春へと変わる。

温かい日差しの中、私は貴方と手を繋ぎ笑いあう。薬指に、結ばれた証をつけて。

⏰:22/10/04 18:26 📱:Android 🆔:☆☆☆


#995 [○○&◆.x/9qDRof2]
どうして僕はこんな底辺にも程がありすぎる高校に入学してしまったんだろう。

⏰:22/10/04 18:28 📱:Android 🆔:☆☆☆


#996 [○○&◆.x/9qDRof2]
入学して3年が経とうとしている今でも毎日のように中学生だった自分をボコボコに殴って「楽なんかしないでもっと勉強して普通の底辺高校に行け」と言ってやりたい衝動に駆られる。(あくまで底辺なのは僕は勉強が苦手だからだ)


この高校は、名前を出せばどんな就職先にだって就くことができると有名だった。

⏰:22/10/04 18:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#997 [○○&◆.x/9qDRof2]
ただしAV女優や男優、そういう大人の娯楽関係の会社のみだ。

隣の席の可愛いハルカちゃんだって卒業したら「誤背ハルカ」という名前でAV女優デビューが決まっているし、前の席の向井くんは「キャラメル向井」という名前でAV男優のデビューが決まっている。

⏰:22/10/04 18:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#998 [○○&◆.x/9qDRof2]
輝かしい(?)未来のために皆今日も一生懸命性の勉強をしている。

「お前いい加減進路決めたらどうだ?男優が嫌ならAV制作会社やポルノ雑誌の編集社なんかもあるぞ?」

「結構です」

母さん、父さん。
僕に社会人としての春は訪れそうにありません。

「何が嫌なんだ?」

⏰:22/10/04 18:29 📱:Android 🆔:☆☆☆


#999 [○○&◆.x/9qDRof2]
「全てが嫌です」
「じゃあどうしてこの高校を希望したんだ」

そりゃもう。
入試が「子供はどうやってできるか。3文字の英単語で説明せよ」のみでしたし。
家から徒歩10分でしたし。
ろくにどんな学校かを調べずに入った僕も悪いですけども。

⏰:22/10/04 18:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#1000 [○○&◆.x/9qDRof2]
「馬鹿だったからです」

言って酷く虚しくなるのを感じたが、それ以外の回答が思い付かなかった。

「…帰ってよろしい」

そう言って先生から渡されたのはポルノ雑誌の編集社のチラシだった。

『溢れる性欲を満たす雑誌を作りませんか?』なんてキャッチフレーズに溜息しか出なかった。

何で他人の溢れる性欲を満たす雑誌を自分が作らなきゃいけないのか。
冷たい風が吹く帰り道を僕は虚しく一人で歩み始めた。

⏰:22/10/04 18:30 📱:Android 🆔:☆☆☆


#1001 [我輩は匿名である]
このスレッドは 1000 を超えました。
もう書けないので新しいスレッドを建ててください。

⏰:22/10/04 18:30 📱: 🆔:Thread}


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194