*柴日記*
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#101 [向日葵]
「あ、ごめんな……」
と途中で止まってしまった。
何故ならぶつかった相手がまたもや昨日の陰口を言った女の子だったからだ。
女の子は眉間にしわを寄せて上から下までジロジロと見てくる。
大丈夫。
今日は立川君とそんなに喋ってないし、因縁つけられる事もないと……思いたい。
変な汗が額に滲んできたところで、女の子が喋った。
「アンタさ、前も向いて歩けないの?」
「えと……ゴメンネ、ちょっと考え事してて」
:08/03/30 01:55
:SO903i
:☆☆☆
#102 [向日葵]
女の子はまた私をジロジロ見出した。
行き交う生徒は私達の事なんか一切気にしない。
どちらかと言えば、今は気にして欲しい気もするんだけど。
この気まずい空気から早く解放してほしい。
女の子は私を一通り観察し終わると、にっこり笑った。
それにホッとした私も笑い返そうとした。
――――その時だった。
「また捨てられたの?」
「……え」
:08/03/30 02:06
:SO903i
:☆☆☆
#103 [向日葵]
頭の中で、同じ言葉が鳴り響く。
めまいさえ起きそうだ。
「やっぱり拾いもんは出来が悪いから、すぐにポイッてされるんでしょ?可哀想に」
全然可哀想だなんて思ってない口調に表情。
その私をを見る姿を一言で言えば……嘲笑。
胸の奥が熱くなってくる気がした。
知らずの内に、スカートを握り締めて、歯を食い縛る。
膝に力を入れておかないと、崩れて……ううん、何かしてしまいそう……。
:08/03/30 02:11
:SO903i
:☆☆☆
#104 [向日葵]
「やめて……」
「え?」
私は何を言われても良い……。
でも。
「私の家族を馬鹿にしないで。拾いもんだろうがなんだろうが貴方には関係無い。立川君を好きなら、私につっかかってないで言えばいいじゃない。」
毅然と言えた。
そう思った瞬間、左頬が熱くなって、目がチカチカしだした。
何が起こったか分からないまま、数回瞬きを繰り返して女の子を見た。
:08/03/30 02:14
:SO903i
:☆☆☆
#105 [向日葵]
女の子は目をつり上げて顔を赤くしていた。
その様子から見れば、私はその子にひっぱたかれたみたいだ。
さっきまで私達に気が付かなかった生徒が、それを合図に一気に私達に注目する。
「ゴミの分際で、いっちょまえな事言ってんじゃねぇよ」
ゴミ……。
「――……ですって……?」
叩かれた頬をさすりながら、女の子に聞き返す。
周りのざわめきが聞こえないのは、皆がヒヤヒヤして私達を見ているからだ。
:08/03/30 02:18
:SO903i
:☆☆☆
#106 [向日葵]
「ムカついたからって、言って良い事と悪い事があるでしょ?それに、手を上げたら負けって小さい頃言わなかった?」
「うるさいっ!」
更に頭に血を上らせた女の子は私に掴みかかってきた。
急な事態に動き遅れた私は、胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられた。
背中を強打して、心の中で「いったー!!」と叫ぶ。
周りが止めに入っても、彼女は私から手を離さなかった。
「上から物言うな!アンタなんかあたしらより格が下って分かんねぇのかよっ!」
:08/03/30 02:23
:SO903i
:☆☆☆
#107 [向日葵]
これじゃもう因縁と言うか八つ当たりと言うか、そんなもの関係ないからとりあえずコイツ絞めとこうみたいな感じだなー。
と冷静に考える反面、頭の肝心な糸が切れなくて良かったと思った。
そんな事を考えてる間にも、髪の毛を掴まれたり胸を叩かれたりやられっぱなしだった。
防御はしても攻撃はしなかった。
それで気が済むならいいかと思ったし。
でもそうはいかなかった。
「コラ!何やってんだっ!」
:08/03/30 02:29
:SO903i
:☆☆☆
#108 [向日葵]
先生が来てしまった……。
あ、ヤバイな……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
応接間みたいな所に私と女の子は案内された。
柔らかい黒革のソファーに座ると同時に、女の子は泣き始めた。
私は別に悪い事はしてないと、叩かれたり引っかかれたりした所をさする。
しばらくしてから、先生に連れられて、女の子のお母さんと、うちのお母さんがやって来た。
「ちょっと、どういう事ですか!?」
:08/03/30 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#109 [向日葵]
女の子の派手なイメージとは全く逆の、教育ママみたいな眼鏡をしたお母さんは先生に詰め寄る。
一方うちのお母さんは私に駆け寄り、至る所にある私の体の傷を見て心配そうにハンカチを当てた。
どうやら血が出てた所があったみたい。
そしてもう1つ影が。
「なんで柴がいるの」
「越の話したら『俺も』って言うから……」
柴は大人しく私の後ろにぴったりとつく。
ようやく事情説明を聞き終えた教育ママさん風のおばさんはこちらに向き直りながら眼鏡をクイッと上げた。
:08/03/30 02:42
:SO903i
:☆☆☆
#110 [向日葵]
「失礼ですけど神田さん。貴方のご家族は皆様施設の子ですの?」
お母さんが答えた。
「それが何か?」
「まぁ……なら問題を起こして当たり前ですわね。よその子なんてもらうから手がつけられなくて野蛮な子になってしまうんですよ」
お母さんの応答する声が、1オクターブ低くなる。
「野蛮ですって?」
私も目を険しくさせた。
おばさんはそんな私達に有利に立ったつもりなのか、軽く胸を反らして見下すように私達を見る。
:08/03/30 02:46
:SO903i
:☆☆☆
#111 [向日葵]
「ええ。うちの玲奈ちゃんにこんな事させるなんて……最低じゃございません……?」
謝る気なんて一切ない。
自分の子供を贔屓に見すぎている。
明らかに被害を被ったのはこちらだし、ケンカを仕掛けたのはあちらだ。
私より遥かに堪忍袋の緒が短いお母さんは、ソファーを握りしめて怒鳴りそうになるのを堪えてた。
おばさんはそんな様子を知ってか知らずか、私達から視線を外し、私の後ろを見る。
「そちらも、お拾いになられたんですか?」
:08/03/30 02:50
:SO903i
:☆☆☆
#112 [向日葵]
柴の事だ。
「この子は、居候ですが……」
さっきより更に1オクターブ低い声でお母さんが答えた。
「あーやだやだ。そんなに集めてどうするおつもり?お子さんが今回のような事を毎回やられては困るんですよ?そんなのを増やし、外にやってもいいんでしょうか。……気に入りませんわ、わたくし。」
それ以上言わないで……。
「せいぜい監獄行きにならない事を祈りますわ。さぁ玲奈ちゃん、今日は帰りましょう」
:08/03/30 02:54
:SO903i
:☆☆☆
#113 [向日葵]
頭の中で、ブチンと勢いよく何かが弾ける音が聞こえた。
何の音だか分からないまま、私はゆらりと立ち上がる。
「待ちなさいよおばさん……。」
ドアに手をかけようとするおばさんがピクリと動き、また眼鏡を上げながらこちらを見る。
「おばさん?」
「貴方しかいないでしょ?……ねぇ、気に入らない事があったら何言ってもいいの?」
拾いもん、ゴミ、監獄行き……。
色々聞いてきたけどもう我慢ならない!!
:08/03/30 02:58
:SO903i
:☆☆☆
#114 [向日葵]
「拾いもんとかゴミとか人を人とも思ってない人がえっらそうな事を言うなっ!!アンタ達何様よ!?神様!?なら神々しく輝いてみなさいよ!大体ねぇ、お母さんは私達を大事に大事に育ててくれてる!少なくとも人の事を嘲るような目で見るようには育てない!」
それに……。
「柴の事、見ただけなのに何もかも分かったみたいに私の家族を悪く言うな!!こんの馬鹿親子っっ!!」
部屋に、私の声が反響する。
ワーンと耳の中で自分の声が響く。
先生も、女の子もおばさんも、お母さんも柴も、口をぽっかり開けたまま私を見つめていた。
:08/03/30 03:05
:SO903i
:☆☆☆
#115 [向日葵]
握り拳で息をゼーハー繰り返している事に気付いた私は、ハタッと我にかえる。
そして皆をみれば、今自分がした事に一気に血の気が引いた。
「あ……えと……だ、だから、あまり悪口は言わないで下さいって事です……」
私がそろそろ座ると同時に、お母さんが豪快に笑った。
その声に皆ハッとして、瞬きを繰り返した。
「とりあえず、和解って事でよろしいかな?奥さん」
:08/03/30 03:10
:SO903i
:☆☆☆
#116 [向日葵]
「な、なんて……人なの……。もう帰らせて頂きます!」
そそくさと、おばさん達は出て行って、その後を先生が追って行った。
横でお母さんがソファーにゆったりと座り、足を組んでポケットからタバコを取り出した。
そんな一連の動作を見ていた私に気付いたお母さんは、ニカッと笑って頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれた。
「ありがとう。家族の為に怒ってくれて。」
「そんな、私……」
戸惑う私を、お母さんは抱き締めてくれた。
:08/03/30 03:14
:SO903i
:☆☆☆
#117 [向日葵]
「アンタ達の事よその子だなんて思った事はないよ。皆あたしとお父さんとのだーいじな子供」
お母さんは柴の方を向いて優しく微笑む。
「柴、アンタもおんなじようなもんなんだからね」
そんなお母さんに、私は泣いてしまった。
どうして誰も分かってくれないんだろう。
血が繋ってないからって嘆く事が無いくらいお母さんやお父さんは私達を大切に育ててくれた。
なのに何故、ダメなんだろう……。
:08/03/30 03:18
:SO903i
:☆☆☆
#118 [向日葵]
しゃっくりをしながら泣く私をあやすように頭を撫でてくれるお母さん。
服にタバコの匂いがついてて、お母さんらしい。
くやしい。
歯がゆい。
どうすれば伝わるんだろう。
幸せだよって、伝わるんだろう……。
――――――……
お母さんと柴は帰り、先生から事情をまた聞かれた。
1から10まで真実を話し、その場にいた人を連れて来てまでのちょっとした大事になってしまった。
:08/03/30 03:22
:SO903i
:☆☆☆
#119 [向日葵]
幸い、クラスの方は立川君がしっかりと指示してくれてたおかげで問題なかったらしい。
クラスの皆に侘びれば、快く許してくれた。
1人だけ作業が遅れたので、放課後引き続きポンポン作りと、紙で花を作る。
気づけば5時を回っていた。
「フゥ……」
軽くため息をして、イスの背もたれに身を預ける。
明日は迷惑かけないようにしなきゃなぁ……。
クラスにも、お母さんにも……。
:08/03/30 03:25
:SO903i
:☆☆☆
#120 [向日葵]
こんなだから、私がしっかりしないから、今日みたいな事があるんだ……。
ため息をついて、少しぼんやりした後、戸締まりをして帰る支度を始めた。
自転車の鍵を片手に校舎を後にして、いつものように家路を急いだ。
暗い気分を自転車で走ってる間に消し去ろうと決意して、顔を上げると、校門に誰かいた。
その誰かも、こちらに気付いた。
「やっど出てきた」
「柴……っ!今まで待ってたの!?」
長時間待っていただろう柴だけれど、別に気にした風もなく私に近づく。
:08/03/31 02:10
:SO903i
:☆☆☆
#121 [向日葵]
そんな柴を見て、今日の出来事を思い出せば、柴に嫌な思いをさせた事で罪悪感いっぱいになった。
「柴……今日は、ごめんね……」
「ううん。越が謝る事なんてないよ。それに、嬉しかった」
「え……」
柴はにっこり笑うと、私の頭に手を乗せてくしゃくしゃ撫でてくれた。
灰色の瞳が、夕焼けのオレンジと混ざって変わった、だけどいつも以上に温かな色になっている事に気づく。
:08/03/31 02:14
:SO903i
:☆☆☆
#122 [向日葵]
「越が俺の為に怒ってくれて、嬉しかった。だって今までの生活は、俺の為に怒ってくれる人なんていなかったから……」
「柴……」
「ありがとう、越」
自転車を手放して、柴の胸に抱きついた。
支えて持っていた自転車が、大きな音を立てて地面に倒れる。
でもそんな事気にならなかった。
家族じゃなかった柴に、少しでも私の家族の事を分かってもらって、それで幸せになってくれたなら私も嬉しい。
:08/03/31 02:28
:SO903i
:☆☆☆
#123 [向日葵]
少しでも、自分が力になれた事が嬉しい。
とても、抱きつきたくなったのだ……。
柴は少し驚いたけど、肩を優しく抱いてくれた。
それから2ケツをして帰った。
もちろん柴がこいでくれた。
「越」
「ん?」
「越のキレた顔って怖いね」
「うるさいっ!」
なぁんて言葉を楽しく交しながら、大好きな家族が待つ家へと帰って行った。
:08/03/31 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#124 [向日葵]
:08/03/31 02:59
:SO903i
:☆☆☆
#125 [向日葵]
―*3日目*―
越姉って本当に鈍感。
小4の俺でも分かるのに、いつになったら柴の気持ち分かるんだろうなー。
(神田家・長男・空談)
今日は待ちに待った体育祭!クラス別の色のハチマキを頭に巻いて、靴紐をしっかり結んだ所で開始のアナウンス、そして空砲。
オレンジの絵が描かれたクラス旗を掲げて、皆で行進。
:08/04/01 00:29
:SO903i
:☆☆☆
#126 [向日葵]
日焼け止めを塗らなければならない程の太陽。
でもそれすらも胸をワクワクさせる。
プログラムのラジオ体操から始めまれば、それから先は戦いの始まりだ。
「あー!体がウズウズするー!」
誰よりもこの日を待ち望んでいた美嘉は、両拳を上げて叫ぶ。
側では日傘をさした椿が微笑んでいた。
まずは1年生からの種目なので、首にタオルを巻いて作ったポンポン、その他応援グッズを持って準備万端。
:08/04/01 00:36
:SO903i
:☆☆☆
#127 [向日葵]
体育祭は縦割り、つまり1年、2年、3年のB組が1つのチームとなっている為、応援はかかせない。
「ハイ、皆声出して行くよー!」
私が声を上げると、皆も「オー!!」と元気よく返してくれた。
そういえば、と、保護者が集まっている場所を見る。
お母さん達が見に来るとか言ってたけど、いつ来るのかは聞いてない。
柴も多分来るだろうけど……。
私は空を見上げた。
:08/04/01 00:40
:SO903i
:☆☆☆
#128 [向日葵]
病弱そうな柴は、この直射日光に堪えれるのだろうか……と不安になる。
ずっと外にいたら溶けてしまいそうな気さえする。
「越、どうかした?」
袖を捲って、日焼けなんか関係ないと言う風な美嘉が空を見上げたまま固まった私に問いてきた。
「ううん、なんでも」
パァン!と乾いた音が響いたかと思えば、リレーが始まった。
周りは一気に騒がしくなって、グラウンドの熱気は更に高まっていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うー……緊張してきたなー……。
:08/04/01 00:45
:SO903i
:☆☆☆
#129 [向日葵]
いくつかの種目を終え、2年生のリレーが始まろうとしていた。
実は私、3番目にリレーを走る事になっていた。
頭の中で、何度も走るシミュレーションを繰り返す。
足がちゃんと動いてくれるか心配だなぁ……。
「えっつ!体ガチガチ!」
アンカーの美嘉が肩をポンと叩いてきた。
「越足早いんだから何も心配ないでしょ?」
「美嘉には負けるけどね」
:08/04/01 00:49
:SO903i
:☆☆☆
#130 [向日葵]
でもウジウジしてはいられないと、自分の顔をパンッ!と叩いて一喝し、深呼吸する。
<選手、入場!>
アナウンスが流れたので、私達は走り出した。
場所に着けば、第1走者の準備が始まる。
汗が一筋顎へと流れる……。
銃声が鳴り響けば、一斉に走り出した。
今は2位キープ。
手を握り合わせて頑張れと祈る。
しかし2走者目に事件が。
転んでしまったのだ。
:08/04/01 00:53
:SO903i
:☆☆☆
#131 [向日葵]
次の走者の私は焦った。
今は9クラス中6位。
巻き返せるか心配だ。
走る位置についても、他のクラスの子達はドンドン行ってしまった。
「越ちゃん……っ!ごめんね!!」
転んだ子が私にバトンを渡した。
緊張が体を硬直させる。
……その時。
「おねーちゃぁん!頑張ってぇ!」
ん?苺?
走りながら、探せば、お母さんに抱き上げられた苺、桜、空、柴がいた。
:08/04/01 00:56
:SO903i
:☆☆☆
#132 [向日葵]
「お姉ちゃんいけー!」
「越姉!しっかり!」
皆恥ずかしいくらい叫ぶ中、柴は静かに、だけど面白そうに笑っていた。
ありがとう皆……お姉ちゃん、頑張ります!!
一気にやる気が出た私は、先に走る人をめがけて走り出した。
1人、2人、3人……4人……!
5人目抜けそうな所で、次の子にバトンを渡した。
息が上手く出来なくて苦しい。
:08/04/01 01:00
:SO903i
:☆☆☆
#133 [向日葵]
「越ナイスファイトー!」
「ま、前の人と……あまり差が無かったのが救いだったよ……」
襟元を持ってパタパタ仰ぐ。
ドッと汗が出てきて、何度も袖で拭いた。
しばらくして、美嘉にバトンが渡った。
しかしさすが美嘉。
1位との距離をグングン縮めて、ラストは逆転勝利。
ゴールテープを切ったと同時に、美嘉の「よっしゃー!」と言う声が聞こえた。
:08/04/01 01:04
:SO903i
:☆☆☆
#134 [向日葵]
席に帰れば、皆からの祝福が待っていた。
「おかえりー!」
「お疲れ!超すごかったよ!」
「ってか神田早すぎっ。何人抜くのかと思ったっつーの!」
「アハハ、ありがとう!」
タオルで汗を拭きながら、蒸発していった水分を補う為お茶を飲む。
だけど……自分でも驚いた。あんなに走れたんだ私……。
「越、美嘉炭酸飲みたいから自販機行くけど行かない?」
:08/04/01 01:08
:SO903i
:☆☆☆
#135 [向日葵]
「あ、行く行く」
体育祭、と言っても、皆が皆やる気な訳じゃない。
自販機に行くまでに、木陰でサボったりしている人を何人も見かけた。
でまこんな人達に限って、負けたら人一倍文句言うんだよなー……とか思いながら、サイダーのボタンをポチッと押す。
「おねーちゃぁん!」
膝に衝撃。
思わず膝カックン状態になったせいで、サイダーが入ったカップを落としそうになってしまった。
振り向けば、足元に苺がいた。
:08/04/01 01:11
:SO903i
:☆☆☆
#136 [向日葵]
「い、苺ぉー……」
「おねえちゃんはやかった!すごいすごぉい!」
太陽から守る為に被ってる麦藁帽子の下で苺はニヒッと笑う。
その後ろから空、桜、柴、お母さんがやって来た。
神田家勢ぞろいに、美嘉は「すげー」と面白そうに呟く。
サイダーを一気飲みすると、喉がシュワシュワして痛かった。
「お姉ちゃん早すぎ!見てて気持ちよかったけど」
「越姉って見掛けによらず足早いよなー」
:08/04/03 01:30
:SO903i
:☆☆☆
#137 [向日葵]
少し生意気な口を聞く空の口を軽くひねってから柴を見た。
柴は空の言った事に納得してる様子。
私ってそんなに足遅く見える……?
「いやーお母さんも若い頃は早かったよ。逃げるのに関しては」
逃げるのって……お母さん何にから逃げてたの……?
それについて何か言いかける柴の開けかけた口を頭と顎を持って急いで閉めた。
「あのね柴、苺とかいるんだからあんまり教育上悪い発言しないでちょうだいっ」
:08/04/03 01:36
:SO903i
:☆☆☆
#138 [向日葵]
こそっと柴に耳打ちすると、視線だけを動かして不服そうに私を睨んだ。
顎を持っていた私の手をはがすと、一応気を使ったのか、私と同じように声を小さくした。
「でもどう見たって祐子さんはヤンキー上がりでしょ……」
茶色の髪、少し薄目の眉毛、口はいつもくわえタバコ(今は学校だから吸ってないけど)、お酒大好き人間。
確かに見た目とか、中身とかはそんな感じだけど、お母さんの詳しい事はあんまり聞いた事がない。
お母さんは見た目こそ派手だけど、ノリがいいしサバサバしてるからあまり恨まれたりする事はない。
:08/04/03 01:46
:SO903i
:☆☆☆
#139 [向日葵]
私は柴の両頬を軽くつねった。
「柴の言い方はあんまり良い風には聞こえないよ。謝りなさい」
「……ごめん……」
やっぱり不服そうな顔をするから、少しその顔に笑ってしまった。
「越は本当、家族が好きだね」
「もちろん!自慢だもんっ!」
「……俺は?」
拗ねた口調で言うから、私は柴の頭をくしゃくしゃ撫でてやって、微笑む。
:08/04/03 01:50
:SO903i
:☆☆☆
#140 [向日葵]
「柴も家族じゃん!」
すると美嘉が呼んだので、私は「また後で」と言ってから私は席に帰って行った。
******************
変わってこちらは越が去った後の神田一家。
皆も元の場所に帰ろうと歩いていた。
「残念ね、柴」
柴の隣で桜が面白くてたまらないと言った風に呟く。その呟きが柴の耳にしっかり入ると、柴は眉を寄せ、口を尖らせて桜を睨む。
桜はその視線に気づき、にまぁと笑う。
:08/04/03 01:54
:SO903i
:☆☆☆
#141 [向日葵]
「さっきお姉ちゃんに、「好き」って言ってもらいたかったんでしょっ。」
「無理無理。越姉はにっぶいんだから。S級に」
何故分かったんだ、なんてのは愚問だから聞かない。
それにしたって柴は桜は愚か10歳である空にまで気持ちがバレてしまっているのだ。
その事実に、少し苦い思いをした。
「柴、お姉ちゃんはね、迫らなきゃきって気付かないよ。柴の気持ちだけでなく、自分の気持ちにだって疎そうだもん」
越はしっかりしてそうでホワホワしていると、家族は称する。
:08/04/03 02:01
:SO903i
:☆☆☆
#142 [向日葵]
しっかりしている面ではどちらかと言えば桜の方が上なのだ。
小さな石を見つけた柴は足で転がして行く。
「そりゃもどかしい時はあるけど……迫っちゃったら100%越の行動はおかしくなると思う」
そりゃあれだけの鈍感だから気付いた時にはロボットかってくらいギクシャクしてそうだし、顔は真っ赤っかになるそうだし……。
そんな光景が安易に目に浮かぶ。
「だから……仕方ない……」
:08/04/03 02:07
:SO903i
:☆☆☆
#143 [向日葵]
:08/04/03 02:08
:SO903i
:☆☆☆
#144 [向日葵]
「でもいざって時は襲うぐらいの勢いでいきそう、柴なら」
それには「心外だ」と言うようにため息を吐く。
「あのな柴、あんまりうかうかしてたら他の奴に横取りされちまうぞ」
10歳のくせにえらくませてるから、対等に喋ってしまう。
そして柴は密かに「何故励まされてるんだろう……」と思っていた。
柴は校舎を見上げる。
自分も確かにこんな校舎に通っていた。
こんなに古びてはいないけれど、それは確かに学舎だった筈と柴は回想にふけり始めていた。
:08/04/03 02:13
:SO903i
:☆☆☆
#145 [向日葵]
>>141※訂正
×きって気付かない
○きっと気付かない
:08/04/03 10:21
:SO903i
:☆☆☆
#146 [向日葵]
立派な白亜の校舎だった。
校門にはいつも送迎の車が何台も並んでいた。
車の種類もそれぞれに。
清楚な恰好をした女の子達。振る舞いは紳士のように優雅な男の子達。
毎日男女関係なく喋っていては、笑いの堪えないその建物の中。
柴は「いや……」と小さく頭を振る。
あれは建物なんて立派なものなんかじゃない。
あれは、ただの箱だ。
自分の家の地位や財産の自慢ばかりしている奴らが詰まっている、何も生まれやしないただの箱。
:08/04/04 02:02
:SO903i
:☆☆☆
#147 [向日葵]
笑う顔の下に、沢山の陰謀が隠されているのを知ってる柴は、その輪の中には入らず、いつも外から蔑んだ目で人々を見ていた。
そしていつも疑問に思っていた。
――何を生き甲斐としているのだろうと……。
「しばちゃん……」
呼ばれたので回想から帰ってくれば、苺が心配そうに柴を見つめていた。
自分のより遥かに大きい柴の手を、弱々しくギュッと両手で握りしめ、虚ろな柴の顔を覗き込む。
そんな苺に、柴は頬をゆるめた。
:08/04/04 02:07
:SO903i
:☆☆☆
#148 [向日葵]
「何もないよ、苺」
そう言いながら苺を抱き上げる。
自分は今、求めていたものの中にある。
しかし柴はある女性の名前を心の中で呟いた。
早代の事だ。
自分のせいで、酷い目にあっていた早代。
あの後、彼女がどうなってしまったかは出ていった柴は知らない。
幸せであって欲しいと願う。
ただ、あの家で暮らして、幸せを感じるかなんて、柴には分からなかった。
:08/04/04 02:11
:SO903i
:☆☆☆
#149 [向日葵]
―――――――……
お昼前の恒例種目。
それは応援合戦。
もとい、集団創作ダンス。
一番良かった応援には賞状がもらえる。
なのでどのクラスも気合い充分。
始まる前は円陣を組んだりとモチベーションを高めているクラスもいた。
もちろん、私達B組もその中の1つ。
「おっしゃーB組ぃ!いくぞぉぉ!!」
「オォ――――ッッ!!」
:08/04/04 02:16
:SO903i
:☆☆☆
#150 [向日葵]
威勢のいい掛け声に答える声は尚デカイ。
グラウンド中に響いて、余韻を残しながら消えていく。
曲がかかれば中央に出ていって踊る。
私達は先生の年齢層を考えて、ソーラン節を踊る事になってる。
なので只今の恰好、制服のスカート、素足、体操服の上にオレンジ色のハッピ、頭にはお祭り用のハチマキ。ちなみにクラス色のハチマキは手に結んでちょっとしたリボンみたいになってる。
「越、似合うねーっ」
袖を捲っていると、美嘉が言った。
:08/04/04 02:24
:SO903i
:☆☆☆
#151 [向日葵]
「美嘉には負けるよ」
短髪のせいか、ハッピ姿がよく似合う。
足もスラリと長く筋肉質だから、さっきから皆が美嘉をチラチラ見ているなんて本人は知らない。
<B組!用意!>
3年生のリーダーが合図を出したので、皆スッと顔を引き締め、息をひそめる。
ドォン!と太鼓が高らかに鳴ったので、私達は駆け足で定位置へ。
曲がかかるのを待つ。
胸が高鳴るのが耳の奥で聞こえた。
:08/04/04 02:29
:SO903i
:☆☆☆
#152 [向日葵]
そして曲が鳴った。
曲の中で「どっこいしょー!どっこいしょー!」の掛け声に合わせて私達も叫ぶ。
皆と一体になっているのを感じた。
しかし終盤に事件は起きる。
移動した時だった。
小さな石か何かで、足を切ってしまったのだ。
鋭くも鈍い痛み。
途中から止める事も出来ず、なんとか最後まで踊りきった。
大勢の拍手を聞きながら、なんとか続けられて良かったと大きく息を吐いた。
:08/04/04 02:35
:SO903i
:☆☆☆
#153 [向日葵]
何組か演技が終わった後、1時間の昼休憩。
裸足に運動靴を履いて、バレないように少し足を引きずった。
「午後も楽しみだね!意外とB組って運動神経いいんだ!」
「そうだねー」
と言いながら足がズッキンズッキン痛むのに顔を歪めた。
密かに保健室へ行こうと決心。
「越!」
ふと前を見ると、少し離れた所に柴が。
結構身長がある柴の頭がひょこりと見える。
人垣を分ければ、その顔が私を心配しているのが分かった。
:08/04/04 11:54
:SO903i
:☆☆☆
#154 [向日葵]
柴には私の足の状態が分かってしまったらしい。
人前だろうが何だろうが担ぎそうなので、柴の元へ行くのは少し気が引けた。
ここはいらない心配を周りにさせたくないので、穏便に事が過ぎるよう言い聞かせようと決意し、止まりかけていた足をまた進めた。
が、その時、後ろから勢いよく腕を掴まれた。
そのせいで足の傷がまたズキリと痛んだ。
「何事?」と振り返れば、少し息を切らした立川君がそこにいた。
「美男子は何しても輝いてるなー」と呑気に思っていたら、驚く事を口にした。
:08/04/04 12:02
:SO903i
:☆☆☆
#155 [向日葵]
「足、怪我してますよね」
「――えっ……」
まさか立川君にまでバレていたとは。
先を歩いていた美嘉と椿は、振り返り私に声をかけてくる。
「越ー?どうしたー?」
「あ……えと、ちょっと委員の用事ー!先に行っててー!」
美嘉が片手でヒラヒラと応じるのを見てから、私は立川君に向き直った。
「大丈夫、後でちゃんと保健室には行くから」
:08/04/04 12:05
:SO903i
:☆☆☆
#156 [向日葵]
まだ私の腕を掴んでいた立川君の握る力がギュッと強まり、少し怒っている整った顔が近付いた。
「後でと言いながら最後まで無理しそうなのが貴方です。今すぐ行きますよ」
「え、で、でも……」
有無を言わない間に立川君はやんわりと手を引く。
どうやらこのまま保健室直行らしい。
ちらりと見れば、遠くで柴が軽く目を見開いてこちらを見ていた。
と思えば、急に目をつり上げ、口を一文字に結び、睨まれた。
いや、睨まれたと言うか睨んでいる。
それも私じゃなく、立川君を……。
:08/04/04 12:11
:SO903i
:☆☆☆
#157 [向日葵]
鋭い視線が突き刺さる。
何故そんなに怒っているのか分からない。
いつもの拗ねたような可愛らしい雰囲気なんてどこにもない。
少し……柴が怖く見えた……。
校舎に上がる為、靴を脱ぐと、思っていたより出血していて冷や汗が出てきた。
床に血が付くといけないので、ケンケンしながら保健室まで移動。
そんな私を見て、立川君が顔を歪めた。
「貴方は無理ばかりする。何故僕がいるのに頼ってはくれないんです」
:08/04/05 02:07
:SO903i
:☆☆☆
#158 [向日葵]
私の中で頼ると言うのは、どうしようもなくなった最終手段な訳で、今は立川君が言う程ひどい状態でもないから特に頼る事は何もなかった。
これがもし両足ならば、人を呼んでくれとか言うだろうけど……。
悪い事はしてない筈だけど、なんだかお父さんに怒られてるみたいで、しゅんとうつ向く。
立川君はそんな私を見て「あ……」と小さく呟いてから、「すいません」と謝ってきた。
「偉そうに……。ただ神田さんは何でも1人でやってしまうから、同じ委員の僕としては、色々頼って欲しいんです」
:08/04/05 02:13
:SO903i
:☆☆☆
#159 [向日葵]
立川君は保健室のドアを開けてくれた。
さっきの立川君の言葉を嬉しく思う。
ただのクラスメイトにここまで良くしてくれる人なんて滅多にいないだろう。
立川君の人気は美男子だからだけではないと思った瞬間だった。
少なからず立川君は私に好意を持ってくれてるから、心配してくれてるのだろう。
心配してくれるって少し嬉しいかも……。
「ホラ、足見せてごらん」
保健医の指示に従い、丸いイスに座った私はヒョイと足を上げて見せた。
一頻り傷を見た保健医はさっとピンセットと茶色い瓶を持ってまた私に向き直る。
:08/04/05 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#160 [向日葵]
それを見た私の口はひくりとなる。
今からするのは明らかに消毒だ。
今でさえ、痛みがひどいのに、消毒となったらそれが2倍くらいの痛さになる。
なんとなくイスごと後退っていた私の足首を、楽しそうににっこり笑いながら保健医が掴む。
「どこ行くかしら?こんな血だらけの足さらして」
ピンセットに挟まれているは、茶色く変色している一千切りの綿。
ばい菌を消してしまう液をたーっぷりと含んでいる。
:08/04/05 02:25
:SO903i
:☆☆☆
#161 [向日葵]
「ひっ……」と思わず息を吸い込む。
綿が近づくに連れ、体内に息を取り込むのを忘れた。
軽く綿がチョンと付いた時、電気のような痺が全身を駆け抜ける。
それは回り回って悲鳴になった。
「い…………っったぁぁぁぁい!!いやー!痛い痛いいたぁぁぁい!!」
「うっさい!大袈裟!」
……鬼畜っ!
保健医は容赦無く綿を押しつける。
その度私は手をあちこちに掲げて悶絶した。
:08/04/05 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#162 [向日葵]
「出血のわりに、傷は浅いから、ガーゼだけ貼っておくわね。」
厚めのガーゼを手早くつける頃には、暴れすぎによる疲れと痛みでぐったりとしていた。
「ハイいいわよ」
ペシリと膝を叩かれたので、そろりと立ち上がる。
ガーゼのおかげで、直に床と足がくっつかないので痛みはさっきより半減していた。
その事に少しホッとして、久々に新鮮な空気を取り入れた気分になった。
立川君は戸口でずっと立って待っててくれた様子。
:08/04/05 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#163 [向日葵]
つまり、痛がって子供みたいに暴れていたみっともない私を見られていたと言う事……と思えば、恥ずかしくなった。
きっと面白かったに違いない。
その証拠に私と目が合うと、口にギュッと力を入れてる様子が伺えた。
多分笑いたいけど笑っては失礼と思ってるんだろう。
立川君はドアをまた開けてくれた。
まるで紳士みたいだなー……。
「ありがとう、立川君」
:08/04/05 02:41
:SO903i
:☆☆☆
#164 [向日葵]
立川君は無表情で首を振る。
「いつでも、また頼って下さい。僕は……」
「越っ!」
横を見れば、柴が率いて桜達が外へ出る広い戸口に立っていた。
出てくるまで待っていたみたいだ。
柴はさっきの怖い雰囲気を引っ込めて、心配そうに私を見ていた。
しかし隣にいる立川君を見ると、またじわじわと引っ込めていたオーラを出し始めた。
困りながら立川君を見れば、柴の視線を真っ向から受け、ふいっと私に視線を落とした。
:08/04/05 02:47
:SO903i
:☆☆☆
#165 [向日葵]
「ご家族が心配してるようなので、僕はもう行きますね」
「あ、立川君、ありがとう」
立川君は一度ほのかににこりと笑って、歩いて行ってしまった。
振り向けば、柴が靴を履いているにも関わらず校舎に入ってこちらにズンズンとやって来た。
なんだか勢いがあったので、微妙に後退ってしまった。が、がしりと腕を掴まれた。
「わ、ちょ……っ柴?」
「アイツ……」
:08/04/06 15:16
:SO903i
:☆☆☆
#166 [向日葵]
立川君が歩いて行った方を睨んで、また私に視線を戻した。
「前も見た。何なの?」
「な、何って、説明しなかった?クラスメイトの立川君」
柴は眉にしわを寄せながら、唇をキュッと引き縛った。とても不機嫌みたい。
一体何だと言うのだろう。
「越、アンタ怪我してんだって?」
律儀に靴を脱いでやって来たお母さんが言った。
「え、何で知って……」
「柴が気付いたの。ね、柴」
:08/04/06 15:19
:SO903i
:☆☆☆
#167 [向日葵]
話しかけられても、柴の目には私しか映っていない。
灰色の神秘的な目に威圧されながら、私は柴に言う。
「柴、心配してくれたの?」
「……」
柴の機嫌が直らない……。私まで難しい顔になってしまう。
どうしたらいいのよ……。
「ねえお姉ちゃん、午後に保護者リレーあるんだって?」
「あ、ウン。お母さんが出るの?」
:08/04/06 15:28
:SO903i
:☆☆☆
#168 [向日葵]
お母さんは「うーん」と唸ってからちらりと柴を見てからニヤッと笑った。
「柴を出すよ」
「えぇっ!?」
桜、空と一緒に私は叫ぶ。
指名された当の柴はキョトンとしているけれど、何か企んでいるお母さんの真意を読み取ったのか、特に大きなリアクションはしなかった。
「柴、アンタやるね?」
「ウン」
「え、即答?」
驚きを隠せない私を無視して、勝手に盛り上がり始める兄弟とお母さん。
:08/04/06 15:35
:SO903i
:☆☆☆
#169 [向日葵]
「ねぇ越姉」
呆気にとられている私の体操服を空がクイクイと引っ張ってきた。
「柴が何で怒ってるか、本当に分からない?」
「え?怒ってるって言うか、拗ねてるんでしょ?」
空は大袈裟にため息をついてから、私を呆れた顔で見上げた。
まるで「越姉ダメだ……」と言われてる気がして、少しムッと口を尖らせた。
そんな訳で、何かが起こりそうな体育祭はまだまだ続くのでした。
:08/04/06 15:41
:SO903i
:☆☆☆
#170 [向日葵]
―*4日目*―
えつおねえちゃんはみんなからだいすきってよくいわれてるの!でもね、しばおにいちゃんもみんなからだいすきっていわれてたよ!
(神田家・三女・苺談)
昼休みが終わって部活行進が終わり、部活リレーが終わった。
昼になれば朝よりも更に気温、湿度が上がってより汗がふき出す。
そのせいか一気に皆がだらけだしてきた。
:08/04/06 15:54
:SO903i
:☆☆☆
#171 [向日葵]
「な……なんなの。水分取っても流れ出ちゃうこの悪循環……」
「美嘉ちゃん……大丈夫ですか……」
日焼けと暑さよけの日傘をさして、心配そうに見る椿が美嘉にペットボトルの水を差し出す。
イスにぐったり寄っかかっている美嘉はダルそうにそれを受け取る。
喉を鳴らしながら半分まで一気に飲み干してしまった。
「……っくぁーっ!!あー美味い……」
「越ちゃんは大丈夫ですか……?」
:08/04/06 16:04
:SO903i
:☆☆☆
#172 [向日葵]
そんな椿の呼びかけにも気付かず、私はぼんやりとしていた。
次はなんだっけかなー……。
「あ、お母さんだ」
誰かが言ったので、入場門を見れば、様々な年齢層の保護者が集まり始めていた。
「そっか、保護者リレーとかなんとかあったよね」
貰った水をまたゴクゴク飲んで美嘉は言った。
保護者……。
柴が出るんだよね、確か……。
:08/04/06 16:11
:SO903i
:☆☆☆
#173 [向日葵]
[本当に分からない?]
空の言葉を思い出す。
分からないって何だろう。
柴は拗ねてたんじゃなくて、怒ってたって事?
それもきっと立川君に……。
「ただ助けてくれただけなのに」
私を取られたとか思ったのかな。
それならやっぱり拗ねてる部類だよね。
なのに空は怒ってるって言った。
:08/04/06 16:16
:SO903i
:☆☆☆
#174 [向日葵]
空を見上げれば、太陽が隠れる程の雲は無かった。
青空が広がっていて、私の中の分からないモヤモヤを拭い去ってくれるかと思ったけれど、欠片は残り、正体が分からないそれは小さくまだうずく。
そんな事を思っていると、曲が流れ出した。
いよいよ保護者リレーが始まるらしい。
位置についてる大人達の中で、どこに柴がいるか探す。
「おねーちゃん!」
「へ?あ、苺。……って1人で来たの!?」
「おかあさんがおねえちゃんのトコのほうがしばちゃんみえるよって!」
:08/04/07 01:52
:SO903i
:☆☆☆
#175 [向日葵]
一応一般はこちら側に来ちゃいけない事になってんだけど……ま、いっか。
「苺ちゃん!こんにちわ!」
「こんにちわ……」
「みかちゃん、つばきちゃんこんにちわ!」
苺は見た目の可愛さあって人気者なのだ。
確か去年もこうして来て、私の周りには苺を一目見ようと人だかりが出来たものだ。
「あ!しばちゃん!」
「え!」
苺の小さな指が差した方に、柴がいた。
:08/04/07 01:55
:SO903i
:☆☆☆
#176 [向日葵]
長めの髪は、お母さんから貰ったのか小さく縛っていて、Tシャツは肩まで捲っていた。
柴とは思えない恰好。
それに目を奪われる。
ひょろひょろしてるように見える体は、意外と筋肉質で、甘えてばかりの柔和な雰囲気はなく、背筋を伸ばして、いかにもスポーツをする男の人に見えた。
並んでる順番から言ってアンカーらしい。
多分若いからと無理矢理やらされてるんだろうけど。
そして気づく。
周りの女の子の視線が、柴にいってる事を。
:08/04/07 02:09
:SO903i
:☆☆☆
#177 [向日葵]
「ねぇ越。あの人知り合い?」
「え、あ、ウン……居候の柴って言うの……」
心ここにあらず。
適当に喋って、また私は柴を見る。
そうか、近くにいて分からなかったけど……柴はああ見えてカッコイイんだ……。
ダレていた空気が、一瞬にして変わり、代わりにピンク色へと変色するのが分かった。
「あれ誰かのお兄さんとかかなー」
「すごいカッコイイー……」
:08/04/07 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#178 [向日葵]
アイドルみたいに、そう、例えば立川君みたいに、キャーと叫ぶような感じではなくて、ため息をつきたくなるくらいほれぼれとした感覚で皆柴を見る。
1度見たら、目をそらせない。
今、私もそんな風だ。
パァン!と乾いた音が響けば、一斉に走り出した。
そんな間も、私は柴を見ていた。
柴は一体どんな走りをするんだろう……。
先生も加わっていて、笑いが起きても、やっぱり柴に視線が集まる。
:08/04/07 02:17
:SO903i
:☆☆☆
#179 [向日葵]
「あ、次しばちゃん!」
膝に座っている苺がはしゃぐ。
走る位置についた柴は、バトンを貰う為リードを始める。
そしてバトンが手に触れた瞬間。
鳥肌が立った。
疾風のように早く、綺麗なフォームで走り出した柴。
灰色のあの瞳が鋭く光る。
息を飲んだ。
あの柴が、こんなにもカッコよく見える事に驚く。
:08/04/07 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#180 [向日葵]
ゴールテープを切った柴に、どよめきが起こる。
そして女の子達が静かに騒ぎだす。
「わー……あたし今恋に落ちた」
「私も……」
「ってか、目が追っちゃう……」
なんだか、いてもたってもいられなくなった私は、苺を抱き上げて柴がいるだろう場所に向かう事にした。
「越?どこ行くのー?」
「ちょ、ちょっと!」
退場門の場所について、柴を探す。
:08/04/07 02:24
:SO903i
:☆☆☆
#181 [向日葵]
「あ……」
細身で長身の柴を発見した。
縛っているのが嫌なのか、髪ゴムを外しているところだった。
「しばちゃんっ!」
無邪気に苺が柴を呼ぶ。
苺に気付いた柴は、軽く汗を流しながらこちらを向いた。
その時、何故か胸がドクンと高鳴った。
柴は元の機嫌に戻ったのか、いつもの柔らかな雰囲気でこちらに近づいてくる。
さっきの柴じゃない。
分かってるけど、何故かまだ胸がドキドキしていた。
:08/04/07 02:28
:SO903i
:☆☆☆
#182 [向日葵]
側にくると、にこりと微笑んで、私の手から苺を抱き上げた。
「越、見た?俺どうだった?」
嬉しそうに言うから、いつもみたいに気軽に「カッコ良かったよ!」と言うのが恥ずかしくて言えなかった。
な、何でー……っ!?
「?越、どうかした?」
「へ?いや、な、何でも……っ?」
「顔赤くない?日焼けのせい?」
と、片手で苺を抱くと、空いてる手で私の頬に触れた。
おかしな反応をしてしまったのは、私だった。
「おぅわぁぁぁ!!」
:08/04/07 02:33
:SO903i
:☆☆☆
#183 [向日葵]
びっくりした柴はすぐに手を引っ込めて、キョトンと私を見る。
苺も瞬きを繰り返していた。
何だ……今の……。
触れられた瞬間、キューッてした……っ!
「え、越、どうかした?」
おずおず聞いてくる柴を見れば、その灰色の瞳に余計心を乱されそうな気がして、1歩1歩足を後退させていた。
「あ……、あの……私席戻らなきゃ……!」
「越!?」
:08/04/07 02:36
:SO903i
:☆☆☆
#184 [向日葵]
顔が暑い。
それは湿気のせいでも、温度のせいでもない。
全て柴のせい。
でも何で?
早足で、高鳴ったままの鼓動を聞く。
「何で」と思う度、どんどんドクドクと早まる。
両手で顔を覆う。
早くおさまってー……っ!!
「わ!越、どうしたの」
「お顔、真っ赤ですよ……」
:08/04/07 13:34
:SO903i
:☆☆☆
#185 [向日葵]
席に帰ると、一番に顔の色の事を言われた。
多分2人共、この暑さのせいと勘違いしているだろう。
だから私はその勘違いを利用する事にした。
「や、温暖化ヒドイよね!」
高速で手をパタパタして団扇代わりに顔を扇ぐ。
大丈夫、家に帰ればすぐに元通りになる筈だよ。
そう言い聞かす。
「ねぇ越、あのカッコイイお兄さんなんて名前?」
美嘉が話かけてきたので、なんとか平静を装って答える。
:08/04/07 13:39
:SO903i
:☆☆☆
#186 [向日葵]
「柴って言って、さっきも言ったみたいにうちで居候してるの」
「私……どこかであの方見た事あるんですが……。名字はなんとおっしゃいますか……?」
椿の言葉に気づいたけれど、そういえば私は柴の本当の名前を知らない。
会った時に「好きに呼べば」と言われたから、そのまま私が付けた“柴”で今日まで通ってきたけど。
「聞いたけど……忘れちゃった。今は柴ってずっと呼んでるから」
「そうですか……」
:08/04/07 13:44
:SO903i
:☆☆☆
#187 [向日葵]
今でこそ、心を開いて、笑ったり甘えたりしてくれるようになったけど、初めの方は心身共にボロボロと言った感じだったし。
本人も、あまり深い所までは追求しないで欲しそうだったから、柴の家族とか、周りの環境とかは柴が話した事以外は知らない。
柴も話さない。
「名字……かぁ……」
本当の柴を、私はまだまだ知らないんだなぁー……。
と思えば、またさっきの柴を思い出して、顔が暑くなっていった。
:08/04/07 13:49
:SO903i
:☆☆☆
#188 [向日葵]
********************
「おねえちゃんどうしたんだろうね」
越が去ってしまった後、お母さん達の元に帰って行く中、柴に抱かれている苺が聞いた。
柴も分からない。
顔が赤かったので熱でもあるのかと、顔に触れた途端変な声を出された。
少し柴はショックを受けてたりもした。
さっきまで柴は越(と言うから立川)に対して不機嫌をあらわにしていたから、それに呆れられてしまったのかましれないと思っていた。
:08/04/07 13:54
:SO903i
:☆☆☆
#189 [向日葵]
「でも……」
と柴は考え直す。
呆れていたと言うより、越は驚いていた。
何故驚かれたんだろう。
いつも朝後ろから抱きついても慣れたように接するあの越が、ただ頬に、しかも真っ正面から触れただけで驚くなんて。
考えていると、視界に苺が入ってきて、眉間に小さな手が触れる。
「しばちゃんさっきからムーッてなってる。えつおねえちゃんのこと?」
苦笑いしながら柴は1つ頷く。
:08/04/07 14:01
:SO903i
:☆☆☆
#190 [向日葵]
苺は柴の眉間を擦りながらにこりと笑う。
「しばちゃん、えつおねえちゃんがだいすきなんだね!いちごもおねえちゃんだいすき!」
苺の無邪気な笑顔に、柴はくすりと笑った。
笑いながら、苺の“好き”と自分の“好き”は違うんだけどなーとか思いながら。
それでも、何だか苺に慰められた気分になり、柴の越に対する難しい考えが緩和された。
「あ、あの!」
声をかけらるたので、柴と苺は顔を合わせてから後ろに視線をやった。
そこには越と同い年くらいの女の子が2人いて、何か言いたげにこちらを見つめていた。
柴は「何?」と言う風に首を傾げると、1人の女の子が驚く事を行った。
:08/04/08 01:01
:SO903i
:☆☆☆
#191 [向日葵]
「一目惚れしました!付き合って下さい……っ!」
柴は瞬きを繰り返した。
一目惚れ?
今?早すぎない?
いやそれが一目惚れか。
「しばちゃん、ヒトメボレってなぁに?」
意味が分かってない苺は柴に聞く。
それを今この子の前でしては可哀想と思い、苺の質問はスルーした。
「……えっと、ごめんけど好きな子いるから……」
女の子は目を見開くと、涙を溜めてうつ向いた。
:08/04/08 01:05
:SO903i
:☆☆☆
#192 [向日葵]
「そうですか……すいません突然……」
それだけ言って、付き添いであろうもう1人の女の子と共に去って行ってしまった。
「しばちゃぁん、ヒトメボレってなぁーにー?」
襟元をグイグイ引っ張りながらしつこく聞いてくる苺に「ハイハイ」と答えてから、柴は苺に分かりやすく説明しながら歩いて行った。
******************
「うわぁぁ……っ!」
体育祭の歓声や、応援合戦の騒ぎの中、違う音を聞いた私はふとそちらに振り向いた。
:08/04/08 01:10
:SO903i
:☆☆☆
#193 [向日葵]
そこには顔を両手で覆った女の子と、なだめているような女の子がいた。
どうやら片方の人は泣いてるみたいだ。
どうかしたのかな……。
「あ、男子スウェーデンだよ!」
美嘉の声に、その子達からは視線を外し、グラウンドに向ける。
男子が入場して来た途端、女の子達の黄色い声が。
何故なら立川君がいるからだ。
今だけクラス別なんて忘れてるみたい。
「立川くーん!」
「頑張ってー!!」
:08/04/08 01:16
:SO903i
:☆☆☆
#194 [向日葵]
「すごい人気ですね……」
椿が呟く。
確かに。
上級生から下級生、そして同級生。
これだけ女の子から人気があるにも関わらず、男子からも慕われている。
神だね。
立川君はきっと神だよ。
「いや菩薩様……?」
「ボサツ?」
私の呟きを聞いた美嘉が片眉を寄せて聞き返す。
「や、何でも」
:08/04/08 01:20
:SO903i
:☆☆☆
#195 [向日葵]
スウェーデンは惜しくも2位だった。
それでも立川君がいるので特に文句を言う人もいなく、爽やかに労いの言葉を皆かけていた。
「神田さん」
立川君に呼ばれたので、目で応じると、手招きしてちょっと離れた所まで連れていかれた。
なんだろうと立川君を見つめると、立川君は私の足を見つめてから口を開いた。
「次、学年種目、止めておいた方がよくないですか?」
どうやら午前中に負った怪我を心配してくれてるみたいだ。
:08/04/08 01:25
:SO903i
:☆☆☆
#196 [向日葵]
多分ここへ連れて来たのも、私が皆の目を気にしているから気を遣ってくれたのだろう。
「大丈夫!もう痛くないから!」
にこっと笑って、「ホラ!」と怪我した方の足を思いきり地面を踏むようにすれば、さすがにやり過ぎたか、痛みを忘れていた傷が復活してじわぁーと頭まで伝わってきた。
笑っていた顔が少し引きつる。
そんな私を、不安そうにして無言で立川君は見つめる。
それに答えるように何度も足を踏みならす。
:08/04/08 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#197 [向日葵]
あ……なんか今明らかに傷が開いた音したぞ……。
「た、立川君心配症だよ。ホント大丈夫だから!」
それ以上見られたりすれば、痛いのがバレてしまいそうなので、逃げるように立川君の元から駆け出した。
頑張らなきゃいけないのに弱音吐いてる場合じゃないと自分に言いきかせ、奮いたたせる。
「……そんな神田さんだから、僕は心配症にもなっちゃうんですよ」
そう言った立川君の呟きは、痛みをかき消そうとしている私の耳に届く事は無かった。
:08/04/11 00:33
:SO903i
:☆☆☆
#198 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
と言う訳で、2年生学年種目綱引きトーナメントが始まった。
本当は予選をやってからなんだけど、昨日の予行でそれは済んでしまったのでいきなりトーナメントから入ったのだ。
とは言うものの、私達のチームは負けているので今からは3位決定戦。
これに負けたらB組の得点は無しになる。
だから皆は「せめて3位を!」と闘志を燃やしていた。
皆盛り上がっている時、私は落ち着かなかった。
足が気になって仕方なかったからだ。
:08/04/11 00:38
:SO903i
:☆☆☆
#199 [向日葵]
あんなに激しく踏み鳴らさなかったら良かったと今更ながら後悔していた。
足をモジモジさせていながら周りに視線をやると、立川君がこっちを見ている事に気づきギクリとした。
内心鳴りもしない口笛を吹いてる気分で、足がどうもない事を装い美嘉に話しかけた。
「もう少しで体育祭終わっちゃうね」
「寂しいよー……美嘉の祭がぁぁ……」
せっかく綱引き頑張ろうと盛り上がっていた美嘉を落ちこませてしまった私はオロオロした。
:08/04/11 00:42
:SO903i
:☆☆☆
#200 [向日葵]
「ら、来年もあるし、今は今で楽しもうよ!ね?」
「違う……違うの越!!それだけじゃない!体育祭終わったらまた勉強の日々!あの校舎全体が活気に満ちてる雰囲気が無くなるのが嫌なの!」
美嘉の熱弁に若干引きながらも、その気持ちはよく分かった。
走り回ったり、旗を作ったり、どうやって応援するか考えたり……。
そんな楽しみが無くなれば、学校は元の静けさを取り戻していく。
それが手に取るように分かるから、体育祭が終わるだけが寂しいんじゃないと美嘉は言うのだ。
:08/04/11 00:47
:SO903i
:☆☆☆
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