*柴日記*
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#400 [向日葵]
******************

某所の高級住宅街でも一際大きく豪華な家が伊勢屋家の物だ。

その中にある一室に柴はいた。

4日前。
とりあえず来てちゃんと話合ってくれと訴える早代に渋々ついて行き、すぐに父と会えるのかと思いきや、父はその前の日から出張でフランスへ行ってるらしく、会う事は不可能だった。

それならばと帰ろうとした柴を、早代は止めた。

[どうして帰ろうとするの?貴方のお家はここでしょ?]

[前はね。今は違う。家族以上に家族な人達が俺を待ってるんだ]

⏰:08/06/29 02:15 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#401 [向日葵]
越……。

心の中で呼ぶ。

早く会いたい。
本当に自分は越から離れて良かったのかずっと考えていた。

好きと言ったのに、早代を追いかけてしまった……。

[もうこの家にはなんの未練もない。俺の事なら、探さないでいいから]

そう言って早代の隣を通り過ぎて間もなく、柴の前にがたいのいい男2人が立ちはだかった。

思わず驚く柴の隙をついて、2人は柴を取り抑えた。

⏰:08/06/29 02:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#402 [向日葵]
[ちょ、お前らなんだ……っ!]

そして連れてこられた部屋が現在いる柴の部屋だったのだ。

外からしか鍵は開けられず、窓からの脱出を試みるも2階だ。
しかも下には先ほどのSPらしき男達が何人かいた。

携帯も圏外。
連絡を取れないのはそのせいもあった。

そろそろ閉じ込められるのに限界を感じてきた柴は、部屋にあった大きくフカフカしたベッドに身を沈めた。
すると、ドアをノックされた。
返事をせずにいると、静かにドアが開かれる。

⏰:08/06/29 02:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#403 [向日葵]
「大和君、起きてる?」

早代だ。

起き上がって、戸口にいる早代を睨む。

「どうしてこんな事されなきゃなんないの?俺帰りたいんだけど」

「……私は、貴方にここへ帰ってきて欲しいの……」

「早代は父さんの妻だろ?なのに俺に執着するのは間違ってる」

口ごもる早代。
しかし柴は容赦しなかった。

「間違いだったのは確かに俺だ。でも離れて分かった。俺は早代に逃げてただけだって」

⏰:08/06/29 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#404 [向日葵]
誰も愛してくれない。
無気力になっていた自分。
そんな中、愛してくれた早代。

恋だと思った。
でも実は違った。

自分が何者か分からないから早代でその存在する意味を確かめていただけだったのだ。
自分で、見つけようともせずに……。早代を、利用してしまったのだ。

早代もまた、望んでない結婚を、柴に、いや大和に逃げる事で何もかも見ないようにしていた。

2人の間に、やはり愛などなかったのだ。

⏰:08/06/29 02:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#405 [向日葵]
[力を合わせて乗り換えていける]

そう言ってくれたのは……。

[安心していいんだよ]

そうやって、逃げず、手を取り合って、困難を乗り越えようと言ってくれたのは、越ただ1人だった。

越。
何でも越えれるようにと願いを込めて名付けられた彼女の名前。
彼女の何事にも前向きな姿、でも、触れれば壊れてしまいそうな脆さに、自分は惹かれたのだ。

「俺は逃げない。逃げたくない。早代、逃げちゃダメなんだ」

⏰:08/06/29 02:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#406 [向日葵]
悲痛な顔をして聞いていた早代は、急にハッと背後に視線を向けた。

「旦那様が、帰って来たみたい……」

柴は立ち上がった。

会うのは何ヶ月ぶりだろう。
柴は父が苦手だった。
呼べば振り向くも、何の感情もない目が怖くて堪らないからだ。

今も胸の奥で、鼓動がスピードを上げていってる。

[大丈夫]

柴はハッとした。

越……?

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#407 [向日葵]
>>319に感想板があるんで、良かったらお願いします

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#408 [向日葵]
携帯変わりましたが向日葵です

⏰:08/07/07 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#409 [向日葵]
彼女がいる訳がない。

そう思っていても、柴は辺りを見渡さずにはいられなかった。

あぁでももう大丈夫だ。
越が見守ってくれている気がするから……。

柴は早代の後をついて行った。

―――――――――…………

「旦那さま、大和君が帰って参りました」

中から返事はなかった。
本当に帰って来たのか?と柴は疑問に思った。
しばらく沈黙が続く。
早代は辛抱強く返事を待っている。

「大和を入れなさい」

⏰:08/07/07 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#410 [向日葵]
早代は目だけで柴に入れと促す。
柴はもう1度ノックをしてからゆっくりとドアを開けた。

「失礼します……」

ドアの閉まる音が、やけにやかましく感じた。

父は椅子にもたれて窓の方を向いている為、柴には背を向けている。
その表情は、怒っているのか、やっぱり無表情なのかは確認出来なかった。

「どうして、俺を……?」

重苦しい空気に堪えきれず、柴が口を開いた。
父が座っている椅子が、短くギィッと軋む。

⏰:08/07/07 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#411 [向日葵]
やがて長いため息が聞こえた。

「やはり苦手だ」

「は……?」

父は椅子から立ち上がり、窓辺に立つ。
ようやく見えた父の姿に、そういえばこんな姿をしていたっけと柴は呑気に思った。

たった数ヶ月の筈なのに、とても長い間会っていなかった気がするのは何故だろう。

「私の会社は、先々代から続くものでな……。常に成績が全ての家系だったんだよ」

何を話したいのかさっぱりな柴だが、首を傾げながらも父の淡々とした口調に耳を傾けた。

「私は、父や祖父の厳しい顔しか思い出せない……」

⏰:08/07/07 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#412 [向日葵]
そんなの自分だって同じだと柴は思った。
厳しい顔か無表情な顔しか自分は見た事はない。

ただ……と柴は思う。

依然父は窓の外を見たままだ。

「私はそんな両親が嫌いでね……。どうして私自身を見てくれないのかと頭を抱えたものだよ」

「それが……なんなの……」

柴が静かな問うと、父はゆっくりと振り向き、柴を真っ直ぐに見つめた。
父とこうして喋るのは、初めてな気がした。

「それが嫌だから、私は繰り返したくないと思ったんだ」

⏰:08/07/10 23:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#413 [向日葵]
嫌だって……。
だけど自分は……と柴は顔を少し険しくした。

その柴の思いに気づいたのか、父が口を開く。

「驚いたんだ。繰り返したくないと言いながら、私はお前が生まれて、いざ行動にうつした時、愛し方が全くわからなかったんだ」

「嘘だ」

反射的に柴はそう答えた。

「自分がしてもらいたい事をすればいいんじゃないのか……?」

⏰:08/07/10 23:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#414 [向日葵]
父は自分の両手を見つめる。
そしてまた柴を見つめた。

「いざとなるとね、自分が何をしてもらいたかったか分からなくなるんだ……。自分はどう愛して欲しかったのか、何をして欲しかったのか……」

そう言われて柴はハッとする。
その言葉に、納得してしまったからだ。

愛情が欲しいと思った。
でも愛情と言うのはどういう風にもらうのか、柴は知らない。
そうしたものをこめて接してもらった事がないからだ。

どうして欲しいか分かったのは早代が現れ、越が現れたからだ。

早代が自分を可愛がり、越はたくさんの笑顔をくれてからだ。

⏰:08/07/10 23:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#415 [向日葵]
自分は誰かから抱き締めてもらいたかったし、抱き締めたかった。

成長する過程で、親が赤ん坊を抱くのを大切とするように。

自分は、抱き締められた記憶すら、小さい頃にはなかった。

「じゃあ、今何をしたいか分かるの?分かるなら、俺が出ていく時、早代に酷い事したの?」

まだ納得してないような態度をとり、父の本当の気持ちを引き出すよう尋問する。

父は苦い顔をして机に寄りかかり、目を伏せた。

「あれは、確かに酷かったと思う……。怒りに任せてしていい事ではない……」

⏰:08/07/10 23:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#416 [向日葵]
伏せた目を覆うように、片手で目元を隠す。
そしてボソリと呟く。

「怖かった……。また去っていくのかもしれないと思うと……」

柴は、実は知っていた。

前の母親が出て行ってしまった日、柴は通りかかったのは父の書斎だった。
少し開いたドアの隙間から見る父は、窓辺に手をつき、肩を落としていた。

それこそが、父の本当の姿ではないのか?と思ったのを、柴は今でも覚えている。

「それでも早代がそばにいてくれたのが嬉しかった。私はこんなだから、それを詫びる事も未だ出来ていないが……本当に申し訳なかったと思ってる……。早代も、大和……、お前も……」

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#417 [向日葵]
>>319に感想板があるので良ければお願いしますm(__)m

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#418 [向日葵]
父は柴に歩みよる。
何も言わず、ただじっと柴を見つめたかと思うと、ためらいがちに手を伸ばし、柴の頭を柔らかくくしゃりと撫でた。

「本当は、抱き締めてみたいものだけど、今はこれが精一杯みたいだ……」

父が苦笑いを浮かべる。
柴は目が潤む。

この温かな瞬間を、どれほど自分は待ち望んでいただろうか。
抱き締めてくれなくてもいい。
不器用に撫でてくれる手から、何もかもが伝わってくる。

「大和、うちへ戻ってきなさい……」

柴はうつむいて、ひそかに目をこすった。

⏰:08/07/16 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#419 [向日葵]
「もう少し……考えさせてほしい……」

こちらに戻るというのは、越達と離れなきゃならないということ。
柴はまだ、越や他の皆とは離れたくない気持ちでいっぱいだった。

「分かった……とりあえず、お互いのリハビリもかねて、2、3日ここで泊まるというのはどうだ?」

越や、越達は、心配してるかな……。
ふと柴は思う。
父の問いには答えず、柴は唐突に言う。

「電話を貸してくれる?」

*******************

仕事が休みだった主婦祐子はリビングで雑誌を読みながら軽く茶をしばいていた。

⏰:08/07/16 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#420 [向日葵]
今日の午後の予定をあれやこれや考えていた祐子は越の様子が気になっていた。

いつも通り、朝早く起きて皆の為にご飯を作って、苺や空の面倒を見てから学校へ行く。

それは別にいいのだ。

行動がおかしいのではない。
越が身にまとっているそのいつも通りすぎる雰囲気がおかしいのだ。

ちょうど4日程前。

祐子は残業で遅く帰っていた。
玄関を開ける前にふと気づく。
リビングの明かりがついているのだ。

どうせ消し忘れだろうと、「ったく」と思いながら帰宅した祐子を待っていたのは、ソファに縮こまって座っていた越だった。

⏰:08/07/16 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#421 [向日葵]
帰ってきた祐子に気づいた越は、祐子の方に顔を向けて薄く笑った。

[お帰り……]

[どうしたの……?]

[ん……?ちょっと、目が覚めちゃって……]

そんな風には見えなかった祐子は眉を寄せる。
越の隣に腰を下ろす。

[お母さん……。お父さんの幸せの為なら、悲しいのも寂しいのも我慢出来る……?]

淡々と静かに語る越。
何故こんな事を聞くのかが分からなくて、あまり考えず祐子は[うん]と肯定した。

⏰:08/07/19 15:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#422 [向日葵]
すると越は力を抜くようにして微笑んだ。

[じゃあ、仕方ないね……]

[……越、何があったの?]

膝を抱えていた越は、自分の膝に顔を埋めた。
小さく微かに肩が震えているのは気のせいだろうか。

[柴が……行っちゃった……]

どこに、なんて聞かなくても、あの謎めいた甘えん坊の彼がどこへ行ってしまったか祐子は分かった。

[寂しいけど……大丈夫だよね……。またいつもの生活に戻っただけだもんね……]

明るい声を出しながらも、微かに滲んでいる悲しみの色や、微かに震えている声は、大丈夫じゃなかった。

⏰:08/07/19 15:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#423 [向日葵]
それでも、越は弱音を吐かない。
どんなに聞いても、何もないと微笑むだけ。

そんな越を、優しく包み、癒してくれていたのは、突然雨の日にやってきた、あの青年だけなのだった……。

*****************

突然鳴り出した電話に祐子は回想の世界から帰ってきた。

「ハイハイ」と立ち上がって、電話の所まで行く。

「もしもし」

{あ……祐子さん……}

「柴……っ!?」

⏰:08/07/19 15:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#424 [向日葵]
「アンタどこにいるの!」と怒ってしまいそうになったが、怒鳴ったところで何も解決しないので、祐子はその言葉をを飲み込んだ。

{越は?}

「時間見れば分かんでしょ。まだ学校よ」

{そっか……}

祐子は密かにため息をついて微笑む。

どんな時でも、柴は越が第一か……。

「携帯に連絡したらいいでしょ。電話は無理でもメール見てくれるかもよ」

{あ……うん……ありがとうっ}

「柴」

{……何?}

祐子はしばらく黙った。
黙って、ここ最近の越をまた思い出していた。

「アンタの幸せを1番に考えなさいね……」

⏰:08/07/22 10:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#425 [向日葵]
例えそれが、越を悲しませる結果になっても……。
だって、柴はもう家族同然なのだ。
それならば、息子には、幸せになってもらいたい。
祐子はそう思った。

{……ありがとう}

呟くように言ってから、柴は電話を切った。
祐子も受話器を静かに置く。

「頑張りなさい……。柴……」

******************

明日から旅行か……。
突然だけど、お母さん許してくれるかな……。

「越、ここの問題ってどうしたらいいの?」

⏰:08/07/22 10:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#426 [向日葵]
午後の授業中。
ぼんやりとノートを眺めていた私は、隣の美嘉に話しかけられた。

「あ、えとね……。反比例のグラフだから……」

突然、スカートに入れていた携帯が鳴りだした。
微かに聞こえるバイブ音に、美嘉も気づいたらしい。
目で「越の携帯?」と聞いてきる。
私も頷きながら「自分だ」と自分を指差す。

先生が歩いて皆が問題を解けているか見回っている。
こちらを見ていないか、近くにいないかを確かめてから、机の下でそっと携帯を開く。

メールだ……。
誰からだとボタンを押して、私は声が出そうになるのを抑える為口に急いで手を当てた。

⏰:08/07/22 10:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#427 [向日葵]
柴……っ。

画面を見たまま固まった。

柴だ……柴だ……!
それしか頭になかった。

ハッと我に返って、メールを開こうとした。

「越!先生来た!」

美嘉が小声で知らせてくれた。
素早く携帯をポケットの中に入れて、美嘉にまた教えだす。

「で、この線がこことここを通ってるから……」

教えながら、先生が近くを通り過ぎて行くのを横目で見て、ホッとする。

バレてないバレてない……。

⏰:08/07/22 10:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#428 [向日葵]
「なんか緊急のメール?返さなくて大丈夫?」

「実は……っ。……ううん、何でもない。桜が帰りにひき肉買ってきてってだけ」

なんだか、「柴から」とは言いにくかった。
柴の家庭事情を勝手に言ってはいけないと思ったし、4日前の事を話したら、柴が悪者になってしまいそうだったから……。

柴は何も悪くない。
そう思ってても、心のどこかで「どうして行ってしまったの」と思ってしまう自分が存在しているのも本当だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

休み時間になって、柴からのメールを見た。

⏰:08/07/22 10:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#429 [向日葵]
<from 柴>

久しぶり……。すぐ連絡出来なくてゴメン。携帯取り上げてられてて、今返してもらったんだ。

父さんと、さっき話した。
色々、分かったよ。

結果的に、父さんも俺も不器用だっただけなんだって分かった。いっぱい話したいけど、越は今学校だから、電話出来ないしね。

……父さんが、2、3日泊まっていかないかって言ってる。

どうしようか迷ってる。

何に迷ってるかって言われたら上手く説明出来ないけど、正直父さんと真っ正面から向き合うのは緊張するし、照れくさいからかもしれない。

⏰:08/07/22 11:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#430 [向日葵]
でもそういうのって大切なのかもしれないと思うから、こっちで過ごしてみようかなって思ってる。

思ってるけど……。
早く越に会いたいよ……。

俺が帰ったらさ、1番に越が顔見せてね。

―end―

お父さんと仲直り出来たのかと少しだけ頬を緩めた。
それと同時に、お父さんと話し合った柴は、こちらに帰ってくるのかと心配になった。

もしかしたら、行ってしまう可能性だって……。

そこまで考えて私は首を振った。

⏰:08/07/22 11:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#431 [向日葵]
そしたら涙が流れてきた。
携帯を両手で握りしめて額に押しつける。

柴。
柴が幸せになるなら私はそれでいいよ。
でもね……幸せになるなら、私と、私達と一緒になる事で幸せになって欲しかったと思うのは、私のワガママかな……。

廊下の隅で、密かに泣いていると、肩を撫でられる感触に気がついた。

顔を上げれば、目の前に椿がいた。
何も言わず、静かに微笑んでいる。

「椿……」

「私も、越ちゃんみたいに心が潰れてしまいそうな時がありました……」

⏰:08/07/22 11:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#432 [向日葵]
私は涙を拭きつつ椿の話に耳を傾ける。

「あまり、泣くという動作が出来ない私は、微笑む事が精一杯でした。……すると、ある方に怒られたんです。『こんな時まで平気なフリするな』って……」

クスクス椿は笑う。
私はそんな椿を、まだ潤んでいる視界で見つめた。

「だから越ちゃんも……無理なさる必要はないんですよ……」

そう言われると、また視界が滲んで、華奢な椿の肩に顔を埋めた。

「頭……ご、ちゃごちゃ……な……って……、何がた、だし……か、分からなくて……っ」

⏰:08/07/22 11:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#433 [向日葵]
柴にとって良い事なら、喜んであげたいのに、行かないでって引き止めてしまう自分がいる。

その両方が、常に心の中で争って、私自身の本当の思いが分からなくてなっていた。

「も……やだ……こんな自分……、醜いよ……」

椿は優しく背中をさすってくれる。
涙は止まる事を知らない。

「越ちゃん……。完璧に、幸せを願うのは、難しい事です……。私も、そうですから……」

「だから」と椿は続ける。
私はまだ涙がたまっている目で、椿を見つめる。

「越ちゃんのその思いを、1番伝えたい方に、まず伝えましょう……。伝えないままだから、余計に苦しいんです……」

⏰:08/07/26 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#434 [向日葵]
私……まだ言ってない。
大事な事……伝えてない……。

全ては……伝えた後に分かる。
柴が、決める事。
柴の幸せを願うなら、せめて柴の運命に従おう……。

<TO 柴>

元気そうで良かった。心配してたんだ。

お父さんとも仲直り出来たみたいで、本当に良かった。

あのね柴……。
柴に伝えたい事があるの。

伝えて、柴がどう思うか分からない。柴がこれからどうするかも、もちろん柴に決めて欲しい。
それが柴の生きていく道だから。

⏰:08/07/26 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#435 [向日葵]
実は私、明日から4日間、椿の別荘にお邪魔する事になってるの。
柴が帰って来た時、きっと1番に「おかえり」って言ってあげられないけど許してね……。

柴は、そっちで色々考えたいって言ったよね。
私も、色々考えたい事があるの。

……ねえ柴。
私ね、柴が来てから欲張りになっちゃったみたいなの。
だから、そんな自分を反省する為にも、よく考えてくるよ。

柴、会いたいのは、柴だけじゃない。
私も……桜や空や苺、お父さんお母さんだって……、皆みんな、柴に会いたいんだからね……。

待ってるよ。

⏰:08/07/26 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#436 [向日葵]
メールは作った。

でも送信が出来ずにいた。
ボタンを押そうとすれば、手が震えてしまう。

結局、メールを遅れたのは、寝てしまう直前だった。

⏰:08/07/26 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#437 [向日葵]
―*10日目*―

柴がいなくなってから家が随分静かな気がするよ。
なんだかんだで、あの子はこの家のムードメーカだったのかね……。
(神田家・主婦・祐子談)



窓からの日差しが眩しい……。

そう感じて柴は寝返りをうつ。
そして気づく。

いつもの布団じゃない。

ガバリと起きれば、高級なシーツに自分はくるまっていた。

「あ……」

そうか……。ここは実家だ……。

⏰:08/07/26 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#438 [向日葵]
結局泊まる事にしたんだっけか……。

大きなあくびをしながら頭をポリポリかいていた柴は、ふと窓の近くにあるテーブルを見る。
そこには自分の携帯を置いている。

よく目をこらせば、ピカピカとライトが点滅している。

そういえば、昨日バイブの音が聞こえていた気がする。

……もしかして、越……っ!?

柴は勢いよくベッドから降りて、携帯を取る。
開いてメールボックスを開けば、やはり越からだった。

一通りメールを読んだ柴は呟く。

⏰:08/07/26 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#439 [向日葵]
「考えたい事って……何……?」

それに伝えたい事も。
しかも柴に決めて欲しいって……。

越は何か勘違いしていないか?

今日から別荘に行くという事は学校は休み。
柴は急いで越の携帯に電話した。
が、電源を切っているらしく繋がらない。

別荘から帰ってきてからでは遅すぎる。
彼女は別荘に行っている間に何かを考えようとしている。
考え終えて、結果が出てからでは遅いのだ。

こうしちゃいれないと、柴は部屋を出た。

出た瞬間、すぐそこに早代がいた。
思わずぶつかりそうになる。

⏰:08/07/26 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#440 [向日葵]
「あ……おはよう大和君。昨日は……寝れた……?」

「……早代、頼みがある。車を出してくれないか?」

「どうして」と言いかけて、早代はハッとする。

「帰るの?」

「うん……」

早代は一瞬悲しそうな顔をしたが、やがて諦めたように小さくため息をついて、微笑んだ。

「そう……分かったわ……」

車の準備をしようと踵をかえした早代を、柴は呼び止めた。

「ねえ早代。父さんからヒドイ事されてもここに居続けたのは、父さんの寂しさに気づいていたから?」

⏰:08/07/26 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#441 [向日葵]
こちらに背を向けたまま、早代は小さく2回頷いた。

「放っておけなかったの……。きっとこの人は、私までいなくなってしまっては、泣いてしまうんじゃないか……って……」

「そっか……」

早代は、柴が好きだった。
しかしそれと同時に、父の事も好きだったのだ。
その事に、柴はホッとした。

2人の間に、愛が無い訳では無かったのだと。

「早代……今までありがとう……」

初めて、愛情を注いでくれていた人。
柴と共に父を支えてくれていた人……。

⏰:08/07/26 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#442 [向日葵]
********************

「越ー!」

お母さんの声にハッとした。

ぼんやり座っていた私は返事をする。

「いつ出るんだったー?」

「あと10分くらいー!」

そう答えたキリ、お母さんからの返答はなく、それが「分かった」と言う意味だろうと思った。

「越姉!」

「おねーちゃん!」

空と苺が仲良く手を繋いで入ってきた。
そして私の隣に座る。

「おねーちゃんいつ帰ってくるのー?いちごおねーちゃんいないとさみしいなぁー」

「日曜には帰ってくるよ。それまでいい子で待っててね」

「お土産忘れんなよー」

ニヒッと笑う空の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
されるがままにされていた空はふと何かを思い、私の手を止めた。

⏰:08/07/27 23:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#443 [向日葵]
「なぁ越姉……」

「ん?」

首を傾げて空の答えを待つ。
しかし空は口を開いては閉じ、開いては閉じと、何だか言いにくそうにしていた。

やがて「なんでもないっ」とまた笑った。

「よし苺、母さんの手伝いしに行こう」

「うん」

パタパタと出ていく2人に入れ替わりで、桜が入ってきた。
それと同時に私は笑い出す。

「何よお姉ちゃん」

「だって、なんだか私がこの家出ていくみたいな雰囲気なんだもん」

⏰:08/07/27 23:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#444 [向日葵]
桜はドアをパタンと閉めて、私の隣に座った。

「そんな雰囲気漂わせてるのは、お姉ちゃんだよ」

「え……」

「本当に別荘から帰ってくる?」

「もちろんだよ、何言ってんの桜」

桜は泣きそうな顔をしながら私の服の裾をキュッと掴む。

「柴がどこかへ行ってしまってからのお姉ちゃんは怖い……。急にどっか消えちゃいそうなんだもん……」

「桜……」

⏰:08/07/27 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#445 [向日葵]
空にしてやったように乱暴にではなく、丁寧に桜の頭を撫でてやる。

そこまで、私は皆に心配かけていたんだと思えば反省した。

周りの事、全然見えてなかったんだ……。

「大丈夫だよ桜。考えたい事があって、丁度いい機会だから、気分転換もかねて行くだけ」

安心させるように微笑めば、少しだけ桜の肩の力が抜けた。

「越ー!時間だよー!」

下からお母さんが叫ぶ。
荷物を持って、桜と下へ行った。
すると丁度呼び鈴が鳴った。

⏰:08/07/28 00:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#446 [向日葵]
「おはよう!」

ドアを開ければ、楽しみなのか、満面の笑顔の美嘉と、静かに微笑み会釈する椿がいた。

「準備はよろしいでしょうか……?」

「うん。よろしくね」

「迷惑かけんじゃないよ。気をつけてね」

お母さんは私の頭をかき乱す。
片目を瞑ってそれをやり過ごし、乱れた髪の毛を手ぐしで整える。

「じゃあ行ってきまーす!」

私はいつも椿が送り迎えしてもらっている真っ黒な車に乗った。

⏰:08/07/28 00:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#447 [向日葵]
―――――――…………

―――それから2、3分後の事だった。

空と苺が庭で仲良くボールで遊んでいると、1台の車が家の前に止まった。

空と苺は首を傾げる。

一瞬、越が何か忘れ物をしたのかと思ったが、その車は越達の車とは逆にくもりない真っ白な車だった。

バタン!とドアが閉まる音が聞こえると、門の所に姿を表した人物に、空と苺は声をあげた。

「柴!」

「しばちゃぁんっ!」

⏰:08/07/28 00:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#448 [向日葵]
「空、苺……っ」

苺は「しばちゃんだ、しばちゃんだ!」とその場ではしゃぐと、柴に駆け寄って、その足に抱きついた。

「おかえりなさぁいっ」

空は庭に通じるガラス戸を開けて、祐子に柴が来た事を知らせる。

「ただいま。苺……」

微笑んだ柴は、苺を軽々と持ち上げる。
すると騒がしい足音と共に、祐子が現れた。その後ろには桜もいる。

「柴……っ!」

「ただいま祐子さん。謝らなきゃいけない事たくさんあるの分かってるけど今は越と話したい。越はどこ?」

⏰:08/07/28 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#449 [向日葵]
桜が答えた。

「お姉ちゃんならついさっき旅行に行ったよ。あ、でも新幹線で行くとか昨日言ってたからまだ駅かも!」

「分かった、ありがとう!」

「柴!」

急いで行こうとする柴を祐子は止めた。

「アンタ……越が好き?」

「うん」

「じゃあね、あの子を絶対に1人にはしてあげないで。あの子はね、小さい頃に捨てられて、1人になる寂しさがどんなもんか身を持って味わってるんだ……」

⏰:08/07/28 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#450 [向日葵]
祐子が真剣な表情で話しているのに対し、柴の表情は柔らかいものだった。

「祐子さんさえ許してくれるなら、俺はずっと越のそばにいて、離れろって言われても離れないよ」

その言葉に納得した祐子は、頬を緩める。
そして柴が越を追うのを、ただ静かに見送っていた。

「ねえおかあさん」

「ん?」

「おねえちゃん、しばちゃんのおよめさんになったらいいのにねぇっ!」

苺の言葉に、一同唖然とする。
そんな事は知らず、苺は満面の笑みで更に続ける。

⏰:08/07/28 00:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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