*柴日記*
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#660 [向日葵]
にっこり笑ってそう言う一朗が何を言いたいか分かった祐子は、わざと大きくため息をついた。

「どうしてもとでも言いたいのか?弁当」

「祐子さんに任せるよ」

そう言うが、一朗は祐子が作ってくれるだろうと期待している。
そして祐子はそう思っている一朗が分かるもんだから余計に脱力する。

「……はよ帰れ……」

「うん」

頷きながら、一朗は祐子の両手を握る。
不意をつかれた祐子は激しく動揺する。

⏰:08/10/09 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#661 [向日葵]
「か、帰れっつってんのに何手ぇ握ってんだよっ」

「こうする為」

軽く祐子の手を引っ張った一朗は、つんのめった祐子の頭に軽く唇を押しつける。
祐子は驚いて、手を振り払うとすぐさま一朗から離れた。

「な…………っ!」

「感謝の印。じゃあまた明日ね」

涼しい顔をして、一朗は帰っていった。

胸がドキドキして、頭がくらくらしだす。

油断してたらこうだから、祐子は自分が一朗に対して無防備なのか?と疑問に感じた。

⏰:08/10/09 00:51 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#662 [向日葵]
―――――次の日。

祐子のもつ、あのとげとげした雰囲気が時が経つにつれマシになっていったということで、3年になってからは人が祐子に喋りかけてくれるようになった。

少し戸惑う祐子に、周りの誤解は晴れていき、そんな祐子を慕って暮れることに祐子自身も嬉しかった。

今日もそんな気分で学校へ来た祐子だが、家を出た時から緊張の為心臓が早鐘を打ちっぱなしだった。
教室についてから、鞄を机に置きそれをじっと見つめる。

「甘いな……あたし……」

呟くように言う。

実は、鞄の中には一朗リクエストであるお弁当が入っているのだ。

⏰:08/10/09 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#663 [向日葵]
早起きして作ったものだから、いつも早起きな翠とばったり会い、「誰に?」などとニヤニヤしながらわざとらしく訊くものだから、「うるさいっ!」と怒号してしまった。
しかしそれで翠が怯む訳もなく、お弁当を作る祐子の周りをちょこまか動くから、祐子はせっかく作ったお弁当がちゃんと美味しく出来ているかが心配だった。

そしてそこでハッとする。

何気に自分がお弁当作りに気合いを入れてしまっている。

美味しくなくてもいいじゃないか。
美味しくなければ一朗はもうお弁当を作ってくれなどと言わないし、祐子も面倒な事をしなくていい。

⏰:08/10/09 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#664 [向日葵]
いやしかし、やるからにはちゃんとやらなければ気がすまないと言うか……。

段々自分が何をしたいかが分からなくなってきた祐子は、机に突っ伏す。

この頃自分はどうしたんだろう……。

「森下さん」

クラスの女子が話かけてきたので祐子は顔を上げる。
「何?」と訊けば、戸口らへんを指差して「呼んでるよ」と言われた。

見ればそこに男子が立っていた。見た事がある。
確か一朗の友達で、「坂上」とかいった。

⏰:08/10/09 01:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#665 [向日葵]
何の用だろうと首を傾げつつ、祐子は坂上の元へと行った。

「おはよう」

礼儀正しく挨拶してくれる。

「おはよ。何?」

「ちょっといい?廊下出てよ」

いぶかしげな顔をして、祐子は導かれるままに廊下へ出た。

向き合うように立った坂上は、少し睨むように祐子を見る。

「いい加減、一朗を解放してやってくんないかな」

耳を疑う。
眉根を寄せて、上目遣いで坂上を睨む返す。

⏰:08/10/09 01:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#666 [向日葵]
「……は?何が?なんだよ解放って」

「アイツの家は、代々医者にならなくちゃならない。だからお前と遊んでる暇はない。だから早く解放してやってくれと言ってる」

初めて聞いた祐子は驚きを隠せなかったが、まるで自分が一朗を玩具が如く連れ回しているみたいな言い方をされて、こめかみ辺りに青筋が浮かぶ。

「そんなの本人に言えよ。あたしはアイツを束縛してるつもりはない」

「アンタにはなくても一朗はそれで迷惑してるんじゃないのか?それに一朗には、恋人がちゃんといる」

は……?

もう何がなんだか分からなくなってきた。

恋人?
そんな人見た事も聞いた事もない。

⏰:08/10/09 01:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#667 [向日葵]
坂上はわざとらしくため息を吐く。

「俺ははっきり言って、早く一朗がアンタから離れるよう願ってたよ。なんてったって、アンタはそんなだ」

“そんなだ”

たった4文字の言葉に、明らかに馬鹿にした気持ちが入っているのが分かった祐子は、怒りに握った拳を震わす一方で、泣きたくなった。

どうして……こんな事言われなくちゃならないんだ……。

悔しい。
どうして殴れない?
いつもみたいに、言い返せない?

⏰:08/10/09 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#668 [向日葵]
耳の奥で、迫力ない声が聞こえる。

“女の子が喧嘩しちゃ駄目っ!”

「分かったなら、もうつきまとわないでくれよな」

どいつもこいつも好き勝手言って。
あたしはあたしだ。
自分が思ったように行動するだけだ。

そこで祐子は気づいた。
一朗の事を、一朗の気持ちを、分かろうとしたくなかったのは、自分らしくなくなっていってるのを感じたからだ。

しかし恋人がいた?
じゃあ彼は祐子をからかっていただけなのだろうか?

⏰:08/10/09 01:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#669 [向日葵]
それなら、一朗の気持ちを分かろうとしないでいい。

私は……私だ。

「待てよ……」

祐子は坂上を呼び止めた。
坂上は眉を寄せて祐子の方を向こうとした。
しかし、その瞬間、横っ面に激痛が走る。
目がチカチカして立っていられず、坂上は尻餅をついた。

祐子は殴り飛ばした、拳を突き出したままの状態ままで静止していた。
そしてゆっくりとその腕を下ろす。
祐子の周りは、不穏な空気が流れていて、それを感じ取った坂上は血の気が引いていくのが分かった。

⏰:08/10/10 23:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#670 [向日葵]
「どうして……」

祐子は呟き、歯を噛み締める。

「どうして……お前にそんな事言われなきゃなんないんだっ!!」

祐子は坂上に馬乗りになり何発も殴りつける。
何人もの生徒が周りに集まったり、祐子を止めようとする。

自分なりに生きてきた。
それをたった4文字で片付けられた事がすごく嫌だった。
好きでこうなったんじゃない。

何も知らないくせに、何も分かろうともしないくせに……。
あたしの何がいけないの……っ。

祐子には、いつの間にか何も見えなくなっていた。
勝手に動く拳を止める気もなく、そのままにしている。
ただ、遠くの方で、教師のの太い怒鳴り声が聞こえた気がした。

⏰:08/10/10 23:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#671 [向日葵]
気がつけば、目の前に翠がいた。
誰もいない学校の応接間みたいなところのソファーに力なく座り、どこを見ているか分からない祐子を心配そうに見ている。
そっと、繊細な肌を持った指先が、祐子の頬を撫でる。

祐子はぼんやりと、自分が翠のようであれば、何も言われず、平和に素直に生きていけたのだろうか。

「ママ…………」

かすれた声で、翠を呼ぶ。
いつもは呼び方を否定する翠が、首を少し傾げて優しく「なぁに」と聞いてくる。

「あたし……間違ってるの…………?」

⏰:08/10/10 23:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#672 [向日葵]
「祐子ちゃん……」

自分らしく生きる事はそんなにも許されない事……?

祐子は分からなくなっていた。

誰も、自分を分かってなんかくれない。
誰も、祐子の孤独を分かってはくれない。
誰も……。

[祐子さんっ]

目の奥に、一朗の笑顔が浮かぶ。

呆れるくらい、まるで犬みたいにつきまとってくるくせに、真剣な声で自分がそばにいると言った。
噂よりも祐子自身を信じてくれた。

何も恐れず、“森下 祐子”が好きだと言った。

⏰:08/10/10 23:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#673 [向日葵]
あぁでもそれは嘘なのかもしれないんだったか。
それでも信じたい。
噂を信じなかった彼。
ならば自分も彼の口から聞いた事しか信じたくはない。

そう思うのは、きっと彼が好きだからだ……。
無邪気な笑顔を向けてくれる彼が、好きなんだ……。

いつの間にか、祐子の頬が濡れていた。
流れる滴は丸くなり、スカートの上にポトポトと落ちてゆく。

「ママ……ごめん……っ」

両手で顔を覆い、声を押し殺すようにして泣く。

いくら自分らしくと言ったって、両親に迷惑をかけてばかりの自分。

⏰:08/10/10 23:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#674 [向日葵]
全ての気持ちが、一朗を好きだと気づいた事により溢れ出す。

祐子はただ翠に「ゴメン」と謝り続ける。
何度も繰り返す祐子に、翠は優しく抱き締める。
まるで子供をあやすように背中をポンポンと叩くものだから、祐子は更に涙が溢れた。

これ以上、誰にも迷惑をかけてはいけない。かけたくもない。
一朗は将来有望の医者になるらしい。
ならば、周りからみた自分の印象は分かるから決めた。

一朗がなんと言おうと、彼から離れよう。

彼が無邪気に笑い続けてくれるなら、この気持ちが伝わらなくてももういい……。

⏰:08/10/10 23:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#675 [向日葵]
祐子は1週間の停学処分にされた。
その噂はクラスからクラス、学年から学年へと早々に伝わっていった。

この頃おとなしかった祐子なだけに、生徒は祐子の存在を再度思い出し、そして怖がった。
1部のクラスと、生徒を除いては…………。

珍しく遅刻をしてしまった一朗は、ホームルームが始まってなくてホッとする。
しかし、周りがやけに騒がしいので変だとは思っていた。

そこへ一朗のクラスの学級委員が、「あと10分したらホームルーム始める」と伝えに来た。
時間があるので、一朗は祐子の所へ行こうと教室を出た。

⏰:08/10/12 01:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#676 [向日葵]
一朗は5組、祐子は1組だったので少し遠い。
祐子の教室へ近づく度、ざわめき声がひどくなるのは何故だろう。1組に着いた一朗は、戸口で祐子を探す。
が、探す前にクラスの女子が一朗に群がった。

「神田君来るの遅いっ!」

「何やってるのよ!」

一朗は何故怒られているかが分からず、びっくりして後ずさりする。

「な、何が?」

「まさか知らないの?」

「知らない?」

女子が顔を見合わせる。
神妙な顔で、口を開いた。

⏰:08/10/12 01:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#677 [向日葵]
「森下さんがね……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女子から説明を受けた一朗は驚きを隠せないでいた。

彼女が停学。
それも自分のせいで。

一朗はショックを受けながらも自分の持っているものを見つめた。先ほど祐子のクラスから彼女から預かったものだと一朗に渡された。

それは、自分が頼んで待ち望んでいたお弁当だった。

力なく席についた一朗は、ドアから顔に湿布とガーゼと絆創膏だらけの坂上を見つけた。
彼は一朗を見つけるなり、この傷を勲章だと言わんばかりの顔をして彼の元へとやって来た。

⏰:08/10/12 01:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#678 [向日葵]
「森下祐子に言ってやったぞ。お前に付きまとうなって。迷惑してたんだろお前も」

一朗は何も答えず、机に置いたお弁当を見つめる。
坂上は自分の武勇伝を聞いてくれと一朗の前の席に座り語り出す。

「俺はお前の為に……まぁ少々キツイ事も言ったけど、ズバーンと言い聞かせてやったのよ。そしたらアイツってば何をキレたかしんねぇけど殴りかかって」

バァンッ!と音が鳴る。
一朗は机を拳で思いきり殴った。
それまで祐子の噂であろう話し声が一気に止む。
そして皆、一朗と坂上に注目する。

⏰:08/10/12 01:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#679 [向日葵]
坂上はすごく驚いたのか、目を見開いて口を半開きにして一朗を見つめている。

「僕の為……?」

ものすごく低い、唸り声のようにも取れる声は、一朗のものだと数秒してから坂上は分かった。
うつむいてる彼の表情は分からない。
だが机を殴った拳は小刻みに震えていた。
坂上は、一朗の逆鱗に触れてしまった事を瞬時に理解した。

「僕の為に祐子さんを傷つけたのか……?迷惑?僕がいつ……君にそんな事を頼んだっ!」

坂上はびくりとして席を立つ。
それでも、鋭く冷たい一朗の眼光からは逃れる事は出来ない。

⏰:08/10/12 01:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#680 [向日葵]
「僕の為って一体なんなんだ!僕は迷惑だと思った事はないっ!僕は祐子さんが好きだ。つきまとっていたのは彼女じゃなくむしろ僕だ。当たり前だろ好きになってほしいんだから」

強い言葉に、クラス一同圧倒される。
黙って一朗の言葉に耳を傾けた。
「彼女を傷つけたなんて許さない……。絶対にね。君は僕の友達なんかじゃないよ」

一朗は鞄とお弁当を持つと、立ち上がり教室を出ていく。
その途中、担任が教室に入って来て、どこかへ行ってしまう一朗を呼び止めた。

「神田、どこへ行くんだ?ホームルームやるぞ」

⏰:08/10/12 02:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#681 [向日葵]
「ホームルームよりも大切な事があります」

そう言って出ていこうとする一朗を再び止めようとした担任だが、今度はクラス全員から担任が止められた。

「先生行かせてあげて!」

「俺達はちゃんとホームルーム出るから!」

「神田って優秀じゃん?たまには息抜きさせてやってくれよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

家へ帰ってきた祐子はぼんやりとベッドに横たわっていた。

いつもと変わらない天井を見上げて思うわ一朗の事だ。

⏰:08/10/12 02:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#682 [向日葵]
感想板が新しくなりました
良ければいらしてくださいね(。・ω・。)

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3992/

⏰:08/10/13 10:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#683 [向日葵]
彼はまた自分の元へやって来て、また無邪気に笑うのだろうか。
いや、その前に、さっきボコボコにした奴が止めるかもしれない。

それに、彼女だって……。

信じたくないのに、不安の方が勝って、最悪な結果の方へと思考が導いていく。

何も考えたくなくて、目を瞑った。
目を瞑って見える瞼の裏のチラチラしたものでさえ、今はうっとおしく思わせた。

「祐子ちゃん」

ドアの外から翠が声をかけてくる。
そのままの体勢で「何?」と答えた。

⏰:08/10/13 20:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#684 [向日葵]
カチャリとドアを開けて入ってきた翠は穏やかな微笑みを浮かべていた。
起き上がった祐子は床上にちょこんと正座した翠を見る。

「祐子ちゃん、貴方は間違ってなんかないわ。自分を貫き通すってとっても難しくて、流される人が大概だもの」

いつもの花が舞ってそうな平和な空気はなく、翠は凛としていた。だから不思議と祐子の背筋もピンと伸びる。

「流された人はなんらかの後悔をするわ。だから翠はね、祐子ちゃんには自分を貫いて後悔のないように生きて欲しいわ」

「それが……誰かの迷惑になっても……?」

⏰:08/10/13 20:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#685 [向日葵]
思い浮かべたのは、一朗の事だった。

「そうねぇ……。殴っちゃうのは正直いけないと思うわ。売られたなら買うしかないけれど」

にっこり笑って言うから思わず吹き出してしまう。
翠が喧嘩を売られて買う姿を描くのは無理だ。

「迷惑になりたくないと思う人には、少々自分を変えてもいいの。でもそれは流される事とは違うわ。自分でそうなりたいと願っているのだから」

一朗に出会って、自分の何かが変わるのを祐子は恐れていた。
自分らしくなくなって、弱くなってしまったように感じたからだ。

⏰:08/10/13 20:17 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#686 [向日葵]
そんな自分を認めたくはなかった。

翠は立ち上がる。
窓の外を見て、ふわりと笑う。

「今日はいいお天気ね……」

そう言って部屋から出て行った。
祐子も外を見てみる。
確かに気持ち良さそうな天気だった。
そろそろ気持ちの切り替えをしなければいけない。
窓の鍵を開けて、ガラガラと開ける。
爽やかな風が入ってくれば、心の乱れも落ち着いてくる。

と、思っていたが、それは次の瞬間見事に打ち砕かれる。

「祐子さんっ!」

⏰:08/10/15 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#687 [向日葵]
息が止まった。
目を見開き、祐子はゆっくりと下を見る。

門に、息を切らせた誰かがいる。
肩を揺らし、泣きそうな顔をしながらこちらを見ている。

それは紛れもなく、一朗だった。

「祐子さん……話をしよう。坂上が言った事を全部忘れて」

彼の必死の姿に、祐子も泣きそうになった。
奥歯を噛み締め、口を真一文字に結ぶと、強く首を振る。

「あたしは、もうアンタに近づかない。そう決めたんだ……」

なんとか一朗に聞こえる声でそう言う。
一朗は険しく苦しそうな顔をする。

⏰:08/10/16 00:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#688 [向日葵]
笑ってくれたらいい。
もう辛い思いさせるのは嫌だ。

彼女がいるなら尚更……。

目をギュッと瞑って、祐子は一朗に背を向けた。
話をするつもりはない。
そう意思表示する為に。
次に振り向いた瞬間、一朗が諦めていなくなってて欲しいと願う。

数秒してから祐子は振り返った。さっき一朗がいた場所に、彼の姿はなかった。

さよなら。

別れを口の中で告げれば、悲しくなった。
本当は離れて欲しくないのに。
うつむいて、祐子は涙を流した。

⏰:08/10/16 00:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#689 [向日葵]
ガザガサと、耳障りな音が聞こえる。
なんだと思い顔を上げれば、祐子の部屋の窓近くの木から、一朗が現れた。
驚いた祐子は口を開いたまま固まる。
そんなのお構いなしに、一朗は窓下にある僅かな足場に移動し、祐子の方にのり出して微笑む。

「祐子さんが僕に近づくのがダメなら、僕から祐子さんに近づくよ」

そういう問題じゃない。

そんな事を言っても一朗には通用しないのだが、祐子の頭は混乱しかけていた。

「まるでロミオとジュリエットみたいじゃない?」

⏰:08/10/16 00:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#690 [向日葵]
「あ、アホか!早くこっちに来い!危ないだろっ」

一朗の襟を掴み、土足だという事も忘れ引っ張る。
祐子の上に、一朗が被さるようにして2人は倒れこんだ。

色々疲れて息づかいが荒い祐子に一朗は微笑む。
ハタと祐子が今の格好に気づけば恥ずかしくなって急いで離れようとすれば、それを押さえこむように一朗が祐子を抱き締めた。

どうしていいかわからない祐子は硬直する。
思っていたよりもしっかりとした腕は、父以外の男を初めて感じた。

「は……離せ……」

「離したら祐子さん逃げるもん。だから嫌」

⏰:08/10/16 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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