*柴日記*
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#200 [向日葵]
「ら、来年もあるし、今は今で楽しもうよ!ね?」
「違う……違うの越!!それだけじゃない!体育祭終わったらまた勉強の日々!あの校舎全体が活気に満ちてる雰囲気が無くなるのが嫌なの!」
美嘉の熱弁に若干引きながらも、その気持ちはよく分かった。
走り回ったり、旗を作ったり、どうやって応援するか考えたり……。
そんな楽しみが無くなれば、学校は元の静けさを取り戻していく。
それが手に取るように分かるから、体育祭が終わるだけが寂しいんじゃないと美嘉は言うのだ。
:08/04/11 00:47
:SO903i
:☆☆☆
#201 [向日葵]
そんな美嘉に、私はなんだか元気を貰った。
足を気にしてる場合じゃない。
良い思い出を作る為には多少のアクシデントだってつきものだ。
傷が開こうが、そこからばい菌が入ろうが、そんなの知ったこっちゃないのだ。
「ぃよし!皆円陣組もう!」
私が呼び掛けると、皆集まって来てくれた。
1つの大きな輪が出来る。
「学年種目、これが最後なので、悔いの残らないように力発揮しましょー!」
:08/04/11 00:50
:SO903i
:☆☆☆
#202 [向日葵]
「お――っ!!」
騒いでから、選手入場のアナウンス。
しっかり決まった順に並び、私達は綱が横たわっている場所へ駆けて行った。
先生が「用意!」と言えば、皆綱を持ち、笛が鳴るのを今か今かと神経を集中させた。
そして高らかに笛の音が鳴れば、一斉に力一杯綱を引いた。
力が1つになるよう、「オーエス!」と皆で声を出す。
段々と、綱がこちらに来るのが分かる。
B組優勢のようだ。
:08/04/11 00:56
:SO903i
:☆☆☆
#203 [向日葵]
お願い……っ!
そう願った時、ピストルの音が2回鳴り、皆で地面に倒れこんだ。
「やったー!」
誰かの叫び声にハッとし、喜びが込み上げて来て飛びはねる。
近くにいた美嘉やクラスメイトの子とハイタッチしあった。
でも綱引きは2回ある。
喜びは次に勝った時こそ本物になる。
場所変えをして、同じように笛の音を待った。
そして鳴った瞬間、また一気に引く。
:08/04/11 01:01
:SO903i
:☆☆☆
#204 [向日葵]
歯を食い縛って最後の力を振り絞る。
疲れているのはお互い様なので勝負は互角になってしまった。
長時間の引き合い。
腕が千切れてしまうのではと思った。
その時、グッと少しこちらに綱が動いた。
手応えを感じたか、それから足を後ろに動かしながら綱を引く。
最後に「オーエス!」と力んだ瞬間、勝利のピストルの音を聞いた。
「やったぁぁぁ!!」
今度は皆抱き合った。
腕がダルイし手はヒリヒリしているけどそんな事どうでも良かった。
:08/04/11 01:07
:SO903i
:☆☆☆
#205 [向日葵]
席に帰っても興奮はおさまらず、遂にはイスの上に立ってタオルを振り回す人までいた。
「あぁー良かったよぉぉ……っ!」
伸びをしながら言う美嘉に、椿がにこりと微笑む。
私も喜んだ。
……さっきまでは……。
「ん?越、顔青いけどどうかした?」
「え?青い?そんな事ないよ……っ」
実は席に戻って来た時、足の事をすっかり忘れていた私は油断していていきなり訪れた痛みに疲れを感じていた。
:08/04/11 01:15
:SO903i
:☆☆☆
#206 [向日葵]
やっと全部終わった安堵感も手伝ってか、立ち上がる事すら億劫に思った。
本当はジュースでも買いにいきたいのに……。
「……わ、越!」
「え……うわぁっ!」
疲れて地面を見つめていた私の視界は、突然空と柴に変わる。
「し、柴!ちょっと何してんの!」
「いいから来て」
どうやら私はお姫様抱っこされてるみたい。
……ってそんな呑気な事考えてる場合じゃない。
:08/04/11 01:20
:SO903i
:☆☆☆
#207 [向日葵]
頭の中がぐるぐるとおかしくなりそうだった。
「柴!今は学校行事中!」
疲れや足の痛みなんてなんのその。私は柴に叫び続ける。
周りの視線が痛い程私に集まるのが分かった。
一方の柴は、うるさい私を無視して黙々と丁寧にどこかへ運んで行く。
ヤケになって降りようとすると、肩を掴んでいる柴の手が力を増した。
「じっとしてっ」
まるで子供扱い。
仕方なく渋々大人しくした。
:08/04/11 01:25
:SO903i
:☆☆☆
#208 [向日葵]
しばらく歩いて、中庭の日陰にあるベンチに座らされた。
幸い人はあまりいないので注目を浴びることはない。
そんな私の心配をよそに、柴は勝手に私の靴を脱がす。
驚いて、足をベンチの上に急いで上げた。
「な、何してるの!」
「足痛いんでしょ」
そうだけど……。
炎天下で最早足の中はサウナ状態。
当然と言うか、絶対にと言うか、足が蒸れて臭いと思う!
:08/04/13 02:06
:SO903i
:☆☆☆
#209 [向日葵]
それなのに勝手に靴を脱がすだなんて……!
「いい!柴に見てもらわなくても自分で保健室とか行けるから!」
強く拒否すると、柴は悲しそうに目を細めた。
日光と風に揺れる葉の陰の具合いで、灰色の瞳がいつもより綺麗に見える。
「俺は心配しちゃダメ?」
「え?」
「同じクラスのあの男にはよくて、俺は越の心配するのはダメなの?」
私の靴を持っていた柴は、ゆっくりとそれを地面に置いてうなだれた。
:08/04/13 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#210 [向日葵]
そんな柴を見て、どうしようとオロオロしてしまう。
私はただ心配かけたくないだけで、誰に心配してもらってもいいとかそんなの考えてない。
でも今の私の態度は、確実に柴を傷つけてしまったみたいだ。
「……柴……、あの」
と言いかけた時だった。
「あ、さっきのお兄さん!」
3人程の女の子が、柴を指差していた。
見たところ1つ下の子達みたいだ。
:08/04/13 02:16
:SO903i
:☆☆☆
#211 [向日葵]
私は靴を履いて立ち上がる。
柴は軽く首を傾げながら立ち上がった。
女の子達はこちらに遠慮なく寄ってきて、頬を染めていた。
「あ、あの、リレー見ました!」
「良かったら握手して下さい!あと、名前も教えて下さい!」
柴を囲む女の子達。
明らかにこの子達は柴が好きなんだろう。
でもこの子達はただあのリレー1回で柴を狙おうとしている。
私はこの子達より柴をずっとずっと前から知ってるのに……。
軽々しく、柴を見ないで欲しい……。
:08/04/13 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#212 [向日葵]
気がつけば、私は柴と女の子達の間に入っていた。
柴の表情は見えないけど、女の子達は驚いて、握手しようて出していた手をゆっくり引っ込めた。
「柴は、私の家族なんだからっ!」
そう言って柴の腕を掴み、中庭の更に奥へ早足で行った。
何で自分がこんな事言ったか理解出来ないまま私は足を進める。
なんだか嫌だったんだ。
あの子達が、柴にベタベタするのが許せなかったんだ。
:08/04/13 02:23
:SO903i
:☆☆☆
#213 [向日葵]
だって柴は……私の大切な人だもん……。
「越」
静かに柴に呼ばれて、足を止めた。
「……ごめん。勝手に引っ張ったりして」
大切な大切な家族。
馬鹿みたい。嫉妬するだなんて……。
柴に向き直る。
怒ってると思った。
勝手に傷つけて、勝手に引っ張って。
私に振り回されて嫌な思いしてると思った。
でも彼は、とても優しく柔らかく、笑っていた。
:08/04/13 02:28
:SO903i
:☆☆☆
#214 [向日葵]
「なんで……笑ってるの?」
「越が怒ってくれたから」
それが何故そんなに嬉しく笑う事となったかが私は分からなかった。
私が眉を寄せて理由を考えていると、柴が「違うな……」と呟いた。
「怒ったんじゃないな……拗ねてくれた」
「す、拗ねてって……っ!」
「俺が取られちゃうって思った?」
楽しそうな様子で私の顔を覗き込むから、私は自分のさっきの行動が恥ずかしくて顔を赤らめる。
:08/04/13 02:32
:SO903i
:☆☆☆
#215 [向日葵]
「柴の意地悪!」
「そんな事ないよ」
と笑いながら、私を近くの石のイスに座らせてくれた。
柴はしゃがんで、私と目線を合わせる。
私はさっきの赤くなった余韻を残したまま、まだ恥ずかしくて目をそらす。
「嬉しいんだ。越が俺の事で拗ねてくれるのが。いつも俺ばっかだからなー」
柴はさっきより嬉しそうに笑う。
嬉しくてたまらないのか、歯を見せてにっこり笑っている。
:08/04/13 02:37
:SO903i
:☆☆☆
#216 [向日葵]
それからまた靴に手をかけた。
それを見て私もまた驚く。
でも柴はさっきみたいに強制で脱がさず、靴と私の足首を持って私を下から見る。
「越。越は心配するなって言うけどそんなの無理だよ。だって越が俺の事で拗ねてくれるみたいに、俺だって拗ねる程越が大事だもん」
大事……。
そう言われてしまえば、抵抗しようと力を入れていたのが、一気に抜ける。
「傷、見てもいい?」
:08/04/13 02:41
:SO903i
:☆☆☆
#217 [向日葵]
少し躊躇ってから、ゆっくり頷いた。
柴は微笑んで、靴、靴下と丁寧に脱がしていく。
足の裏に貼っているガーゼに少し血が滲んでいるのを見て、顔を少し険しくする。
「大丈夫なの?保健室より病院行った方がよくない?」
「先生は傷は浅いって言ったから……」
「自分が車出すのめんどくさいから言っただけかもよ」
まるで自分もそんな事を体験したかのような口ぶりだった。
:08/04/13 02:45
:SO903i
:☆☆☆
#218 [向日葵]
過去に柴はそんな体験をした事があるのだろうか。
[どこかであの方見た事が……]
椿の言葉を思い出す。
私が知らない柴が、まだいる。
そう思えば、柴を知りたくなった。
柴は、私に心を開いてくれてるけれど、深い心の扉も開いてはくれるのだろうか……。
:08/04/15 00:05
:SO903i
:☆☆☆
#219 [向日葵]
―*5日目*―
柴は分かりやすいようで分かりにくいんだよね。
ま、ミステリアスな所があの子の売りなのかもしれないけど。
(神田家・主婦・祐子談)
体育祭も無事終わった。
私達B組は残念ながら2位だったけど、とても楽しかったと皆口々に話をした。
私の足も傷は塞がり、もう痛くなくなったし気にならない。
:08/04/15 00:10
:SO903i
:☆☆☆
#220 [向日葵]
どちらかと言えば私の傷よりも柴の方が気になる一方だった。
どんなに考えても、柴の正確な今までの人生は分からない。
だからと言って本人に聞いてもいいのかと考えて、結局いつもやめておこうと引き下がるのだ。
「越、さっきから何……」
「へ?」
知らずの間に、テーブルをはさんで向こう側に座っている柴を睨みつけていたらしい。
只今晩御飯中なのだ。
:08/04/15 00:15
:SO903i
:☆☆☆
#221 [向日葵]
「え……あ、ごめんね」
食べた食器を片付ける為、私は席を立って、そそくさと台所へと向かった。
いけない、いけない。
私ったら直ぐに顔に出ちゃうんだから……。
根掘り葉掘り聞こうなんて気はないけど、聞く事で柴を傷つけるのは嫌だ。
でもやっぱり……っ!
あぁぁぁ!どうしたらいいのぉっ!!
「何悶えてんのお姉ちゃん」
気づけば私と同じように食器を持ってきた桜が後ろにいて、私の様子に引いていた。
:08/04/15 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#222 [向日葵]
桜は食器を置いて、水を入れると私の方をじっと見て、耳元で囁く。
「柴の事?」
「え……っ、何で分かったの!」
「分かるよーそれくらい。お姉ちゃん分かりやすすぎるんだから」
あちゃー……。
私はチラリとテーブルにいる柴を見た。
苺についてるご飯粒を取ってあげているところだった。
これなら小さな声で喋れば分からないかと、桜に今気になっている事を話してみた。
:08/04/15 00:23
:SO903i
:☆☆☆
#223 [向日葵]
「……え、椿ちゃんって、あのご令嬢のだよね。見た事あるって……どういう繋がり?」
「分からないの。椿も、はっきりとは柴を覚えてないみたいだし」
もし椿が見た事あると言うなら、ああいうセレブが集まるパーティーみたいなのに柴がいたという事になる。
それはつまり、柴が本当はお金持ちのお坊っちゃまって事になるのだ。
そういえば、柴はうちに来た時焼きそばを知らなかった。
「お姉ちゃん、それってつまり……」
:08/04/15 00:28
:SO903i
:☆☆☆
#224 [向日葵]
「それってつまり?」
いつの間にか柴が近くにいた。
驚きのあまり、私と桜は文字通り飛び跳ねる。
「し、柴、驚かさないで!」
驚いたのと、今の会話が聞かれなかったかという心配とで心臓がドクドクする。
柴自身は驚かすつもりなんてなかったので、過剰なまでの私と桜の反応にきょとんとしていた。
「何の話してたの?」
私にずいっと寄ってくる。
:08/04/15 00:39
:SO903i
:☆☆☆
#225 [向日葵]
今度は違う意味でドクンと心臓が鳴った。
おかしい……。
ついこの間までこの神秘的な灰色の瞳や、透き通るような茶色い髪の毛が近くにあっても、こんな反応した事なかったのに。
……あの体育祭以来、柴に対する接し方を私は少し考えなくてはならないようになったのだった。
柴が一向に答えない私に更に問いつめるように迫ってくるので私は足をじりじり後ろに引いていく。
が、しばらくすれば後ろはシンクだったのでそこでストップがかかってしまった。
:08/04/15 00:43
:SO903i
:☆☆☆
#226 [向日葵]
柴が迫る度、私は顔が暑くなる。
不思議そうに更に覗き込むから、私は目をギュッと瞑るしかなかった。
「あー、あ、あの!あたしの友達の相談にのってもらってただけ!」
桜がなんとか搾りだした答えに、柴は「あっ、そ」と素っ気無く答えて、空のゲームの誘いを受けにリビングへ向かった。
私は目を開けて柴がいない事を確かめると、ズルズルその場に座りこんだ。
「も……やだ……」
「お、お姉ちゃん……?顔真っ赤だよ?」
:08/04/15 00:48
:SO903i
:☆☆☆
#227 [向日葵]
そんなの分かってる。
自分の頬に手を確かめなくったって内側にこもった熱がそれを分からせてくれるからだ。
なんでこんな風になっちゃってるか理解に苦しむ。
こんな事体験した事だってないんだもの。
「お姉ちゃん……もしかして柴が好きなの?」
好き?
「そりゃ好きだよ。嫌いな訳ないじゃない」
桜は何か呟いたけど、ここまでは届かなかった。
ただその表情からは、やっぱり前の空のように呆れた顔をしていたのだった。
:08/04/17 00:03
:SO903i
:☆☆☆
#228 [向日葵]
――――――………
昨夜天気予報を見た私は今日が雨と分かっていた。
自転車の為、レインコートを着なくてはならないのだけどあまり好きじゃない私は、早めに起きて歩いて学校へ行く事にした。
布団の上で軽く伸びてから着替えにかかる。
下に降りて少し早めの朝食を作りながら今日の持って行く物を考えていた。
すると、頭にずしっと重みが。
「柴……眠いくせに何で起きるの」
「えつがおきたけはいしたからー……」
眠たそうな声を出す柴に私は「あれ?」と思った。
昨日みたいに恥ずかしい気分にならないからだ。
:08/04/17 00:09
:SO903i
:☆☆☆
#229 [向日葵]
やっぱり私が変だったのだと思って、柴を軽く背負うようにしながら作業を進めた。
「あいたっ」
サラダの為のキュウリを切っていると、指を軽く切ってしまった。
血が滲み出てくる。
洗おうとすれば、自分よりも一回り大きな手が私の手を包んだ。
後ろを軽く見れば、柴が眉を寄せていた。
そしてなんの躊躇いもなく……カポリと口の中へ私の指を入れてしまったのだ。
:08/04/17 00:13
:SO903i
:☆☆☆
#230 [向日葵]
私は目を見開く。
指に柴の口の温度を感じれば、昨日同様、顔そして今度は全身が暑くなる気がした。
「いっ……!いやぁっ!!」
急いで自分の指を抜いた。
そしてすぐに水道へ。
それを見た柴は腕組みしながら少しムッとしていた。
「消毒じゃん。汚くないよ」
「じゃなくて!恥ずかしいでしょっ!」
私の答えに柴のムッとした表情は消えて、今度はキョトンとしていた。
私の答えが意外だったらしい。
:08/04/17 00:18
:SO903i
:☆☆☆
#231 [向日葵]
「越でも恥ずかしい事あるんだ」
私を何だと思ってるんだ……。
微妙な空気が流れて、気まずいと思っていると、これまた眠そうな声が聞こえてきた。
「おねえちゃー……ん」
苺だ。
目を擦りながら私がいる場所まで来て足にピトリとくっついてくる。
「どうしたの苺」
「おそらがゴロゴロいってておめめあいたのー……。」
:08/04/17 00:22
:SO903i
:☆☆☆
#232 [向日葵]
ゴロゴロ?
って事はもしや……。
「雷?」
と言った瞬間、空が明るくなった。
数秒遅れて、耳障りな音が聞こえてくる。
その音に怯えた苺は、足を掴んでた手に更に力を入れて小さく震えている。
「うぅー……」
眠いのと怖いとで苺がグズリだす。
頭を撫でてやっても、怖いせいで足から離れようともしない。
目配せして、柴に頼むと、柴は苺の手をゆっくりはがして抱き上げた。
:08/04/17 00:27
:SO903i
:☆☆☆
#233 [向日葵]
:08/04/20 00:23
:SO903i
:☆☆☆
#234 [向日葵]
苺はしっかりと柴の首にしがみつく。
柴は「寝かしてくる」と言って階段を上がって行った。
私はそれを見届けてから朝御飯の支度を再開しようとした。
……が自分の怪我した指を見てしばし固まった。
大した傷ではないから、血はすぐにおさまっている。しかし問題はそこじゃない。
柴が口に入れた指を洗うか否かで迷っているのだ。
消毒とは言え口に入れた指でこのまま調理していいものか頭をひねる。
:08/04/20 01:52
:SO903i
:☆☆☆
#235 [向日葵]
考えぬいた結果、柴に心の中で謝って手を綺麗に洗ってしまった。
―――――――……
「おっはよう!」
体育祭で小麦色の肌が更に増した美嘉が挨拶をしてきた。
その後ろでは椿が静かに微笑み軽く会釈する。
「おはよう美嘉、椿」
「あれ、怪我したの?」
絆創膏を貼ってる指に気づいた美嘉は私に聞いた。
私は苦笑いしながら「ちょっとね」と言う。
それから教室まで3人で仲良く行った。
:08/04/20 01:57
:SO903i
:☆☆☆
#236 [向日葵]
「そういえば、午後からどしゃぶりらしいけど越帰り大丈夫?」
あれから雷は少々おさまったものの、雨がザーと激しくなり、傘をさしても雨足と水たまりのせいで足がびしょびしょになった。
そして雨は午後からは嵐のようになるかもと、爽やかにお天気お姉さんが告げた。
「多分平気。自転車じゃなく歩きだし」
「なんなら……私の車でお送り致しますわ……」
「ありがとう椿。でも本当に大丈夫だから」
:08/04/20 02:02
:SO903i
:☆☆☆
#237 [向日葵]
すると椿は私の顔をじっと見てから何か考えるように少しうつ向いた。
「椿?」
呼びかけても椿は考え込んだままになってしまった。
席について、カバンを一旦置いてから私は椿の元へと行った。
「椿、どうかした?」
「……。前のおっしゃってた男性、柴さまでしたよね?」
「あ、うん。そうだよ」
返事をすると、椿は自分なカバンをあさり始めた。
:08/04/20 02:06
:SO903i
:☆☆☆
#238 [向日葵]
そして取り出したのは、集合写真のような横長の写真だった。
「勝手に調べたりしてごめんなさい……。でも私、これが先日見た柴さまとしか見えなくて……」
椿はその写真を私に見せた。
沢山の人が一張羅やドレスを着て上品に笑っている。
後ろに大きく掲げている幕のようなものには「60周年記念式」と書いてあった。
なんの記念式かは分からなかったけど、私はその笑っている人達を見た。
「……。柴、どこにいるの?」
:08/04/20 02:12
:SO903i
:☆☆☆
#239 [向日葵]
椿は小さな人を指差した。
そこには、あの柴が確かにいた。
今より少し髪の毛が短く、会ったばかりの頃みたいに、きらびやかな微笑みを皆が浮かべる中で何かを失望した表情をしていた。
「越さん……。柴さまのお名前、本当に柴と仰いますか……?」
「……本当は、知らないんだ。柴は、私がつけたあだ名のようなものだから……」
椿は写真に目を落として、柴の真実を更に教えてくれた。
:08/04/20 02:20
:SO903i
:☆☆☆
#240 [向日葵]
「私が言っていいものかとは思いますが……私が知る限りでは、柴さまは柴と言うお名前ではありません。伊勢屋グループのご子息、伊勢屋 大和さんです」
イセヤ……ヤマト……?
私は驚きを隠せなかった。
伊勢屋グループと言えば、飲食、服飾、ブランドなど幅広く経営している知らない人はいない程の大きな会社。
その会社の息子が、柴……。
何故それを隠しているのか分からなかった。
[愛情とかそんなもの、受けたことは無かった……]
:08/04/20 02:27
:SO903i
:☆☆☆
#241 [向日葵]
お父さんを……恨んでるとかなのだろうか……。
「越さん……ごめんなさい。柴さまのことベラベラと……」
「あ……。ううん。教えてくれて、ありがとう」
柴……。
私は柴の事を知る権利があるんだろうか……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柴の事が頭から離れない私は1日中モヤモヤしながら過ごした。
今は掃除をしていて、これが終われば今日はもう帰る予定だ。
:08/04/20 02:31
:SO903i
:☆☆☆
#242 [向日葵]
「神田さん」
箒をしまおうとすると、立川君が声をかけてきた。
立川君は毎日私の足を心配してくれて、私としては何だか申し訳ない気持ちで一杯だった。
「何?」
「何かありましたか……?」
「え……」
「ずっと難しい顔してるもので……気になって」
いつも思うのだけど、立川君はよく私の事を見てくれている。
:08/04/20 02:34
:SO903i
:☆☆☆
#243 [向日葵]
そのせいか、私の事は何でもお見通しだ。
それとも私が分かりやすすぎるのかな……。
「何もないよ。ありがとうっ」
「何もないって……何もないなら俺は声かけませんよ……っ!」
声をあげた立川君に私は驚いた。
決して取り乱したりしない立川君が、いつもクールな立川君が、今正に取り乱し、熱くなっている。
「貴方はどうしてそうなんですっ。俺は……頼ってもらいたい……貴方に……」
「立川君……」
:08/04/20 02:38
:SO903i
:☆☆☆
#244 [向日葵]
本当に友達思いだなー……。こんなに良くしてもらうなんて私は幸せ者だぁ……。
そんな立川君に、私は元気が出た。
「ありがとう!立川君。本当に本当に大丈夫だから!」
にっこり笑えば、立川君は頬を緩めて少し微笑んだ。私は立川君に何かあれば、全力で助けようと心に誓う。
と、その時、教室のドアがいきなり勢いよく開いた。
「越っ!」
「柴ぁ!?ちょ、何勝手に入ってるの!」
:08/04/20 02:43
:SO903i
:☆☆☆
#245 [向日葵]
戸口には、2本の傘を片手に柴が立っている。
傘を持ってきたせいで、床にポタポタと滴を落とし、びしゃびしゃにしてしまっていた。
柴は視界に私にしかいれてなかったらしく、立川君を見ると、失礼なぐらい嫌な顔をする。
「今日は何もしてないよ、?」
それでも柴は機嫌を直してはくれなかった。
眉を寄せたまま私と立川君を交互に見つめる。
「どうしてアイツが?」とでも言ってるみたいに私の目に射るような視線を送る。
:08/04/20 02:56
:SO903i
:☆☆☆
#246 [向日葵]
※訂正
×私にしか
○私しか
×「今日は何もしてないよ、?」
○「今日は柴が心配するような事何もしてないよ?」
スイマセン


間違ってる上セリフ抜けまくりでした


:08/04/20 03:03
:SO903i
:☆☆☆
#247 [向日葵]
体育祭では柴は私を心配してはいけないのかと聞いてきたから安心させるように言っても、柴は何故か立川君が気にくわないらしく、私と一緒にいるのが嫌らしい。
「はぁ……立川君、私帰るね……」
半ば脱力しながら私はカバンを持ち、柴の背中を押しながら立川君に言う。
「ハイ。さようなら。また明日」
「うん。じゃあ」
立川君は柴より大人だと思う……。
ってか柴が子供すぎと言うか……。
:08/04/20 03:07
:SO903i
:☆☆☆
#248 [向日葵]
柴と2人になってしまえば、朝の椿の言った事を思い出した。
雨の降る中、傘をさして、時々ちらりと柴を見る。
柴は雨が傘に落ちる音を楽しんでる。
まるでト○ロ……。
これなら……と、私は話題を持ち出す。
「柴、野々垣 椿ちゃんって知ってる?」
「……。あー、聞いた事あるかも。思い出せないけど」
柴の顔が、少し緊張しているのが分かった。
そんな様子に気づいていながら、私はまた言う。
:08/04/22 00:02
:SO903i
:☆☆☆
#249 [向日葵]
「椿……がね……柴の事知ってるんだ」
柴が歩みを止めた。
それに気づいた私は2、3歩進んでしまってから止まり、柴を振り返った。
柴の、いつもの柔和な空気が無くなっている。
無機質な顔で、私をじっと見つめていた。
灰色のあの瞳が、ひどく冷たく見えた。
「柴……。柴は、柴じゃないんだね……。やま……」
「やめてくれない?」
私の言葉を遮って、柴は言った。
:08/04/22 00:06
:SO903i
:☆☆☆
#250 [向日葵]
「越はそれを知って何か得する?そう思わないなら口には出さないで。今ここにいる間は、俺は“柴”だから」
「損得なんて考えてないよ。ただ、柴の色んな事を知りたいだけで……」
「色んな事?知ってどうするの?俺にあの家から出て行けとでも言うつもり?」
「違う柴……っ!」
言葉を発する度、柴は私の言葉を遮って自分の過去を否定する。
そんな柴を初めて見たから、私は少し怖くなった。
:08/04/22 00:10
:SO903i
:☆☆☆
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