*柴日記*
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#301 [向日葵]
:08/05/05 12:36
:SO903i
:☆☆☆
#302 [向日葵]
「6時半くらい。おかゆ作ったけど食べる?」
桜が言い終わると同時にドアをノックされた。
答えたのは桜だ。
「桜、越起きた?」
聞こえたのは柴の声。
私は焦って布団をかぶって横になった。
そんな私を苺は不思議そうな顔で見る。
そして桜も目をパチクリさせて私を見る。
「まだ寝てるって言って!」
小声でそう告げる。
桜は首を傾げながらも頷いた。
:08/05/07 01:34
:SO903i
:☆☆☆
#303 [向日葵]
「まだ寝てるーっ。看病なら私がしとくから、柴は苺連れてってー」
ドアを開けると思ったので、壁側を向いた。
それを確認した桜は、苺を柴の元へ誘導する。
桜が小声で私が起きた事は内緒にするようにと苺に耳打ちするのが聞こえた。
苺は元気よく頷いて外へと出ていった。
大きくため息をついて、上半身を起こす。
「最近柴とギクシャクしてるみたいだけど、なんかあった?」
「え……、バレてたの?」
「バレてないと思ってたのはお姉ちゃんだ・け」
:08/05/07 01:40
:SO903i
:☆☆☆
#304 [向日葵]
もう1度ため息をついて、私は桜に訳を話す事にした。
「最初はちょっとしたケンカをしてたの。でもそれは私が原因だから、なんでもないフリしたら済むと思ってて……」
「ま、あたしの目にはそれは通用しなかったみたいだけどね」
苦笑いした後、今日の朝の出来事を思い出して顔が暑くなった。
「朝に……仲直りしたの……そ、そしたら……多分だけど……キスされそうになって……」
後半は声が出てないくらい小さい声だった。
:08/05/07 01:43
:SO903i
:☆☆☆
#305 [向日葵]
それでも桜は聞きとってくれたらしく、びっくりして目を見開く。
私は話を続けた。
「それで頭一杯になったら……クラスメイトに告白されて……」
「オッケーしたの!?」
「まっさか!だって私は……っ!」
突然言葉に詰まった私を桜は首を傾げながら待つ。
「“私は”――……。何?」
改めて口にしようと思えばすごく恥ずかしかった。
でも唐突に思い出す柴の姿が胸を切なくさせて、気付けば口が動いていた。
:08/05/07 01:48
:SO903i
:☆☆☆
#306 [向日葵]
「柴が……好きみたいなの……」
この想いを再度実感した。
桜は穏やかな表情を浮かべて「そう……」と頷いた。
まるで私がいずれそう言うだろう事を分かっていたかのように。
「じゃあ柴にも告げるといいよ」
「そんな事出来ない……っ」
「どうして?」
「柴が私を好きな訳ないから」
:08/05/07 01:51
:SO903i
:☆☆☆
#307 [向日葵]
今度は苦い表情を浮かべた桜は、私に近づいて「もうっ」と唸った。
「乙女思考がお姉ちゃんの頭にやっと導入されたのに、まだそこら辺は鈍いのねっ!」
やっぱり鈍いと思われてたんだ……。
「柴のあの態度見てお姉ちゃんが嫌いな訳ないでしょ!?そんな事あたしは愚か、空や苺だって分かってるよ」
「だって怖いの……っ」
小さい頃、私は両親に捨てられた。
その記憶はしっかりとインプットされてると言うか、こびりついてしまっている。
:08/05/07 01:55
:SO903i
:☆☆☆
#308 [向日葵]
[バイバイ]
冷たく言い放たれたその言葉。
振り返る事のない背中を「何故」と言う気持ちだけでいつまでも見送っていた。
昔の名前をそのショックで忘れてしまった私は、新たな「越」と言う名を貰って今まで乗り越えてきた。
でも大切な人が1人、また1人と増える度、その名前はふさわしくないのではと落ち込んだ。
ねぇ柴……貴方は私の側に、いつまでもいてくれるの……?
:08/05/11 18:26
:SO903i
:☆☆☆
#309 [向日葵]
―*7日目*―
お姉ちゃんがようやく……って思ったのに、どうしても何かに脅えてるみたい。
柴も何かありそうだし……。もう、あの2人ったら、一体何なのかしらっ!
(神田家・次女・桜談)
いつもの朝なのに、風景がいつもと違う風に見えるのはどうしてなんだろう。
でも今日は、学校へ行く事が許されない。
何故なら昨日倒れたのに学校へ行った事がお母さんにバレたからだ。
:08/05/11 18:31
:SO903i
:☆☆☆
#310 [向日葵]
こっぴどく叱られた上、言う事を聞かなければお小遣い抜きの脅しをされた。
それは困ると、大人しく今日はいるのだ。
時計を見て見れば8時を回った所。
よく寝たんだなぁー、と寝返りをうってドアの方を向けば、そこに柴が座り込んで寝ていた。
「し……っ!」
大声を出しそうになって、両手で口を塞ぐ。
どうしてここに?
体を起こしながら疑問に思った。
この頃朝方は冷え込んできたので、かぶっていた布団をかぶせてやる。
:08/05/11 18:38
:SO903i
:☆☆☆
#311 [向日葵]
柴が……好き。
間近で見つめながら自分が気づいた気持ちを復唱する。
柴が言えない心の闇。
それはもしかしたら、私と同じようなものなのかもしれない。
柴……私には、柴の闇を分かち合う事は、出来ないのかな……。
さらりと綺麗な茶色い髪の毛を撫でると、それに気づいたのか柴がゆっくりとまぶたを開いた。
間近で見つめていた私は、息を止めてしまった。
胸が当たり前のように高鳴る。
「お、おはよっ……」
「おはよう……」
:08/05/11 18:44
:SO903i
:☆☆☆
#312 [向日葵]
「なんでここに?」
「祐子さんが見張れって言ったから。ここにいれば越はでれないでしょ?」
「風邪ひいたらどうするのっ!もう、今日はちゃんと家にいるんだから。」
立ち上がろうとすると、手を握られた。
温もりを感じれば、鼓動の速度は速くなっていく。
「な、……何」
「昨日の事、怒ってる?」
昨日の事。
キスしようとした事。
一気に顔の温度が上がった。
:08/05/11 18:48
:SO903i
:☆☆☆
#313 [向日葵]
「や、そ、……お、怒ってない……っ。びっくりしただけ」
「許してくれる?」
「って言うか……その、な、なんであんな事……」
「なんで?分からないの?」
握られている手に力が加えられる。
灰色の瞳に熱が宿る。
泣きたくなるくらい戸惑ってしまう。
分からない。
心の中は、何1つ。
「じゃ、じゃあ教えて……くれない?」
:08/05/11 18:52
:SO903i
:☆☆☆
#314 [向日葵]
「教えても、越は大丈夫なの?」
え……。
それは、良い事ではないのかしら。
急に不安になってしまう。
気持ちの拒絶がこんなにも怖いと思ったのは初めてかもしれない。
どうしようか戸惑っていると、柴が静かに微笑んだ。
「大丈夫じゃないなら、まだ言う訳にはいかないよね」
と言って立ち上がった。
「何か作ってくる。待ってて」
:08/05/11 18:57
:SO903i
:☆☆☆
#315 [向日葵]
静かに閉まったドアを見ながら私は自分に呆れた。
ちゃんといつもの自分にならなきゃって思ってもうまくいかない。
好きって思ってしまうとどうしてこんなに臆病になってしまうんだろう……。
柴は優しい……。
私が悪いのに、いつも許してくれるのは柴だ。
私は、そんな柴に答えなくちゃならない。
しっかりしなきゃ……私。
決意を固めていると、携帯が鳴った。
どうやらメールのようだ。
:08/05/11 23:39
:SO903i
:☆☆☆
#316 [向日葵]
美嘉からだ。
<体大丈夫?今日の帰りお見舞い行くね!あ、立川君が心配してたよ。お見舞いには立川君も連れて行くと思うから!>
「た、立川君が……」
[貴方が好きです]
大きなため息をついた。
私の周りにいる人は、気まずい人ばかりだ……。
しかも立川君は、諦めないとか言ってたし……。
私どうなっちゃうんだろう……なんかグダグダだなぁ……。
「越。朝飯出来たよ」
「あ、ハイ!」
:08/05/11 23:43
:SO903i
:☆☆☆
#317 [向日葵]
とにかく今は柴だ。
柴の事に集中しよう……っ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
柴はサンドイッチを作ってくれていた。
間にはさんだ新鮮な野菜が美味しくて、ついさっきまで気まずかった事を忘れた。
「美味しい?」
「すっごく!」
そう言うと、柴は優しく微笑んだ。
なんだかホッとする。
「柴は食べないの?」
「食べたからいいよ」
:08/05/11 23:47
:SO903i
:☆☆☆
#318 [向日葵]
私の正面に座る。
じっと食べてる姿を見るので、食べずらい。
「あ、あんまり見ないで」
「幸せそうに食べるから嬉しいんだ。だから見てたいだけ。気にしないで」
気にするって。
「誰かに喜んでもらえるなんて、味わった事今まで無かったから……」
サンドイッチを食べる手を止めた。
あまりに柴が寂しげに笑うから、どうしていいかが分からなくなってしまった。
:08/05/11 23:51
:SO903i
:☆☆☆
#319 [向日葵]
:08/05/16 19:45
:SO903i
:☆☆☆
#320 [向日葵]
言葉のレパートリーが少ない自分がとても歯がゆくなる。
もっともっと、安心させて、悲しい顔なんてしてほしくないのに……。
「あ、あの、お昼は私が作るから!」
気を紛らす為に話題を作る。
それで十分だったのか、うつむいていた柴は私の方を見ると柔らかく微笑んだ。
それを見て、私もつられて微笑んだ。
そして、決意をしたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぐーたらしていると時間が過ぎるのが早かった。
:08/05/16 23:43
:SO903i
:☆☆☆
#321 [向日葵]
ほのぼのと柴と過ごしていると、気づけば学校が終わる時間になっていた。
「ねぇ柴。これから友達が3人来るんだ。だからしばらく私は部屋にこもるね」
「ふーん。お菓子でも買ってこようか?」
「来てからでいいよ。ありがとう」
部屋を少し片付けようと階段を上る。
部屋に入って散らかっている机の上の教科書を綺麗に並べ、乱れている布団を整えた。
空気の入れかえにと、窓を少し開ければ、心地よい風がカーテンを揺らした。
:08/05/16 23:47
:SO903i
:☆☆☆
#322 [向日葵]
もう秋か……。
制服も衣替えだなー……。
とか考えていると、チャイムが鳴った。
開けた窓から下を見れば、予想通り美嘉と椿、それに立川君がいた。
美嘉が誰よりも早く窓から顔を出していた私に気づく。
「やっほ越!」
美嘉の声に気づいた他の2人も、美嘉と同じように手を振る。
「ちょっと待ってて!」
階段を駆け降りる。
:08/05/16 23:51
:SO903i
:☆☆☆
#323 [向日葵]
下まで降りようとすると、柴が腕を組んで壁に背を預けていた。
降りてくる私を一睨みする。
「何でアイツ、いるの?」
アイツとは多分立川君の事だろう。
下までとりあえず降りる。
「だって友達だもん。当たり前でしょ?」
「越は少し、いや大分鈍すぎるよ。アイツの気持ちくらい分かるでしょ?」
気持ちを分かるって何なんだと、私の中に疑問が浮かんだ。
:08/05/21 23:30
:SO903i
:☆☆☆
#324 [向日葵]
その人の気持ちを100%分かるなんて不可能な話。
少しでも分かりたいと思えって聞いてみても、その人は闇を持っていて話してくれる気配なんとない。
傷つけるのが怖くて、でも甘えて欲しい。
それでも無理矢理聞かないのは、精一杯の自分なりの気遣いだ。
聞くな、いつか話す、でも気持ちを知れ。
そんなの無理だよ。柴。
「柴だって……私の気持ち分かってなんかない……っ」
そう言うと、柴は目を少し見開いた。
:08/05/21 23:35
:SO903i
:☆☆☆
#325 [向日葵]
それに構わず、私は玄関に向かった。
ドアを開けて、皆を招く。
「いらっしゃい。わざわざありがとう」
「お体……大丈夫ですか……?」
「ありがとう椿。もう大分良くなったから大丈夫だよ。」
自分の部屋に入れる為、また階段を上ろうとした時にはそこに柴はいなかった。
小さくため息をつく。
また気まずくなっちゃったなぁ……。
:08/05/21 23:38
:SO903i
:☆☆☆
#326 [向日葵]
:08/05/21 23:40
:SO903i
:☆☆☆
#327 [向日葵]
どうして気持ちが繋がったと思った瞬間、こういう事態が起こってしまうのだろうか。
上手く立ち回る事が出来ない自分を悔いる。
そう思う反面、距離を置ける事にホッとしている自分がいた。
大事な物を得る前に、心構えをしておきたい……。
私は過去の闇を、柴と共に拭い去る事は出来るだろうか……。
「あ、ねぇ越、ケーキ買って来たんだけど食べない?」
階段を上がりながら美嘉が聞いてきた。
手にはケーキが入っているだろう箱が持たれている。
:08/05/27 23:31
:SO903i
:☆☆☆
#328 [向日葵]
「じゃあ先に部屋入ってて。お皿持って行くから」
上りかけていた階段をまた下がった。
お皿と飲み物の準備をしていると、「ただいまー」と声が聞こえてきた。
「おねえちゃんただいまー」
「今日部活休みだったからあたしが迎えに行ったんだー」
リビングに苺と桜が顔を出した。
「ところで柴どうかした?庭でなんかたそがれてたけど」
「え……。さ、さぁ……」
:08/05/27 23:34
:SO903i
:☆☆☆
#329 [向日葵]
リビングから庭へ出たのか、と思う。
てっきり部屋にでも行ったのかと思った。
「おきゃくさんきてるのー?」
用意している物を眺めながら苺が言う。
「うん。お姉ちゃんのお友達。桜、悪いけど晩御飯頼むね」
「おっけーい」
お盆に食器をのせて部屋へ向かった。
手が塞がっといるので声をかければ、立川君が開けてくれた。
「わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。でももう元気だよ」
:08/05/27 23:38
:SO903i
:☆☆☆
#330 [向日葵]
「本当ですか……?」
身を乗り出すようにして、心配そうな顔で立川君が訊いてきた。
私はにこりと笑って1つ頷く。
「でも……無理はなさらないで下さいね……」
「ウン。ありがとう椿」
「そうそう週末課題出てるよ」
と美嘉が出すので苦い顔でプリントを受け取った。
最悪な事に苦手な英語だ。
各自お皿に分けたケーキを食べる。
:08/05/27 23:42
:SO903i
:☆☆☆
#331 [向日葵]
これがまた体に染みていくように美味しい。
疲れた時は甘いものとよく言うけど正にだと思った。
すると誰かの携帯が鳴る。
鳴っているのは椿の携帯らしかった。
「電話?」
「いえメールです……」
「まさか椿、あの無神経な婚約者とまだ続いてたの!?」
「えぇっ!?」
美嘉より私の方がびっくりして声をあげた。
:08/05/27 23:45
:SO903i
:☆☆☆
#332 [向日葵]
「椿……婚約者いたの……?」
「うちの決まりなんです……17歳を迎えたら、婚約者を決めろと……。」
「これがまた最低最悪な奴でね!!」
美嘉が憤慨してるというのに、椿はただ静かに笑っていた。
その笑顔は幸せそうに見えたけど、少し寂しく見えた気もした。
椿はどうやって運命を共にする人を決めたんだろうか……。
「椿はその人のどこが好きで決めたの?」
何気なく訊いてみた。
すると椿はまた静かににこりと笑った。
:08/05/27 23:49
:SO903i
:☆☆☆
#333 [向日葵]
:08/05/27 23:50
:SO903i
:☆☆☆
#334 [向日葵]
すいません逆でした

233がアンカー、319が感想板です
:08/05/27 23:51
:SO903i
:☆☆☆
#335 [向日葵]
「必要としてくれているなら、それに答えようと思ったんです……」
必要……と口の中で椿が言った事を繰り返した。
柴は私を必要としてくれているのだろうか……。
好きになっても、いいのだろうか……。
悩んでいると、立川君が立ち上がった。
「おトイレお借りしてもいいですか?」
「あ、ウン。出た所にあるから。分かるかな」
「分からなかったらまた戻ってきます」
:08/06/04 23:44
:SO903i
:☆☆☆
#336 [向日葵]
扉が静かに閉まる。
立川君がいなくなって少しホッとすると思ってしまっては失礼だろうか。
でもなんとなく落ち着かない気分でいた。
「そういえば美嘉、どうして椿の婚約者は最低なの?」
「話せば長くなるのよ」
腕を組んでウンウンと頷く美嘉を見ながら、「最低」の烙印を婚約者に押された椿は苦笑いしていた。
同い年の椿ですら、既に決断して、自分の運命を受け止めようとしている。
自分を信じようとしている。
:08/06/04 23:48
:SO903i
:☆☆☆
#337 [向日葵]
私もいい加減くよくよしてないで、しっかり決めた事を実行しないと……。
深呼吸を静かにして、決意を固める。
そこへ立川君が帰ってきた。
「ケーキを食べ終えたら、そろそろお邪魔させて頂きましょうか」
立川君が言った。
「あ、私なら気にしないで。重病って訳でもないんだから」
「でも、休息をとられた方が、お体もよくなるのが早いですよ……」
椿の言葉に一同が頷く。
3対1ならば勝てる筈もなく、それ以上は何も言わなかった。
:08/06/04 23:52
:SO903i
:☆☆☆
#338 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、早く良くなってね」
「ウン。ありがとう」
美嘉と椿は迎えの車で一緒に帰って行っていった。
車が見えなくなるまで手を振ってから、まだそばにいる立川君を振り返る。
「立川君も、わざわざありがとう。もうちゃんと学校行けるから」
そう言っても、立川君の表情は、はれなかった。
心配してくれているのか、私の言葉を信用してないか分からない。
ただ眉を寄せて私をじっと見つめる。
:08/06/06 23:38
:SO903i
:☆☆☆
#339 [向日葵]
居心地が悪くなって、微妙に後退りし始めた時、手首を掴まれた。
びくりと体が震える。
何事かと立川君を見ても、先ほどと表情は変わっていなかった。
「な……何……?」
恐る恐る尋ねる。
「……神田さんにとって、神田さんの好きな人は本当に必要なのですか?」
さっきの椿との話だ。
その事なら、私も話があった。
唇をキュッとしめて、姿勢を正した。
「立川君……。私は柴が好きなのを勘違いだなんて思えない」
:08/06/06 23:42
:SO903i
:☆☆☆
#340 [向日葵]
立川君は眉間のしわを更に深めた。
「柴が好き。普通女の子って守ってもらうのが憧れかもしれない。でも私は、柴が抱えている闇や悲しみをまるごと包んで守ってあげたいの。……家族以外で、そう思った人は、初めてなの……」
「ならそれは、家族愛ではないので……」
「違うのっ」
立川君の言葉を遮り、否定する。
家族みたいな、親愛の情だけで、ここまで柴を想う事はない。
:08/06/06 23:48
:SO903i
:☆☆☆
#341 [向日葵]
さらさらの綺麗な茶色い髪や、神秘的で魅惑的なグレーの瞳。
甘える仕草、無邪気な笑顔、時々見せる苦しそうな、寂しそうな顔。
泣いたあの時の弱々しさ。
全てが、いとおしい……。
「私は立川君を好きにはなれない……。だって立川君を見ても、胸が苦しくなるような痛みは伴わないもの……っ」
手首を握る立川君の手の力が強まる。
あまりの力に顔をしかめた。
「ずっと……貴方だけだったのに……」
:08/06/06 23:53
:SO903i
:☆☆☆
#342 [向日葵]
「立川君……?」
「どうしても……僕は駄目なのですか……っ!」
背中に痛みが走る。
壁に押し付けられたのだ。
目の前にいるのは誰……?あのクールな立川君はどこに?優しい立川君は?
この人は……誰……?
「ずっとずっと好きだったのに、どうして僕じゃいけないんですかっ!」
恐い……っ。
「ご、ごめんなさ……」
「何故選んでくれないんですっ!」
そう言われた時、小さい頃の自分を思い出した。
:08/06/06 23:57
:SO903i
:☆☆☆
#343 [向日葵]
育てられなくて、私を捨てた両親。
どうして……。
どうして他の何よりも、私を選んでくれないの……?
どうして皆……私から離れてしまうの……?
足がガクガク震えだした時だった。
立川君が突き飛ばされて、私の前には長身の影が現れた。
「柴……」
「越になにすんだ」
私をかばって、立川君を睨みつける。
立川君も負けじと睨み返す。
:08/06/07 00:01
:SO903i
:☆☆☆
#344 [向日葵]
「邪魔しないで頂きたい。これは僕らの問題です」
「ふーん。怯えさせながらの話し合いで何が解決するの?」
立川君はギリッと歯を食い縛る。
「なかなか、いい根性してるみたいで」
「ありがとう。でもお互い様だよ」
立川君はしばらく柴を睨むと、落ちたカバンを拾った。
「神田さん、失礼します」
こちらの返事も聞かず、足早に立川君は帰ってしまった。
:08/06/07 00:05
:SO903i
:☆☆☆
#345 [向日葵]
いや、気付いたのだろう。
柴の背中で隠れるようにしながら、震えている私を。
柴の服の裾を、ギュッと掴む。
「越?」
優しい声で呼ばれたかと思えば、掴んでいた手を包むように握り、服から放させた。
依然、手は握ったままだ。
「ご……ごめ……」
フラッシュバックと、普段と違う立川君とで、頭がごちゃごちゃになっている。
震えがまだおさまらない。
:08/06/07 00:09
:SO903i
:☆☆☆
#346 [向日葵]
「大丈夫だよ。もう恐くない。ゆっくり深呼吸してごらん」
言われた通り、震えながらも深呼吸をする。
柴も私と一緒にやってくれた。
何回かやっていくと、段々と落ち着いてきた。
そして柴の顔を見る。
目の前に、茶色い髪が揺れている。
その向こうには灰色の瞳。
その色からは、私を気遣う温かさが感じられた。
穏やかに微笑まれれば、一層胸は切なくなり、頬に熱い滴が流れた。
それに柴は驚く。
:08/06/07 00:12
:SO903i
:☆☆☆
#347 [向日葵]
>>319に感想板がありますので、感想などあればよろしくお願いします

:08/06/07 00:13
:SO903i
:☆☆☆
#348 [向日葵]
「越……っ!?どうしたの?どこか痛い?」
慌てて壁に押し付けられていた背中をさすってくれる。
でも痛かった訳じゃない。
柴が来てくれた安心と、柴の笑顔がいとしく感じたのとが合わさって、なんだか胸が熱くなったのだ。
もっと柴がいると実感したくて、抱きつきたかったけど、恥ずかしいと感じる冷静な自分が心の隅に小さく存在していたのでやめた。
それでも、まだ涙は止まらない。
「とりあえず家入ろう?」
:08/06/09 00:16
:SO903i
:☆☆☆
#349 [向日葵]
優しく手を引いてくれる柴に素直に従う。
とりあえず、と、柴は皆がいるリビングより私の部屋まで連れて行ってくれた。
気遣ってくれたらしい。
ベッドに座らせてくれると、柴も隣に座った。
そしてまた背中をさすってくれる。
「痛くない?大丈夫?」
皆が来る前に、ヒドイ事を言ったと言うのに、柴は優しく私を心配してくれる。安心させなきゃと、必死に泣くのを堪える。
そのせいで、しゃっくりが出だした。
:08/06/09 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#350 [向日葵]
そんな私を柴はクスクス笑った。
「まるで子供だね。しゃっくり出すだなんて……」
その笑顔にまた泣きそうになったけど必死に堪える。
「ご……ごめん……。すぐ泣きやむから……」
「いいよ別に。越も俺に甘えてくれてるから嬉しいし」
さっと顔が赤くなった。
柴に無意識の内に甘えていた自分が恥ずかしくなった。
おかげど涙も引っ込んでくれる。
:08/06/09 00:23
:SO903i
:☆☆☆
#351 [向日葵]
「そ、そういえば柴、庭にいたんじゃなかったの?」
「散歩に行ってたんだ。で、帰って来たらこうなってたって訳」
「会話……聞いてた?」
「会話?」
立川君との会話。
確実に私の好きな人が柴とバレてしまう会話。
聞かれていれば……マズイし気まずい……。
「んーあまり」
良かった……。
「越の好きな人は俺なんだーとは思ったけど」
:08/06/09 00:26
:SO903i
:☆☆☆
#352 [向日葵]
ん?としばらく動きをとめた。
それって……つまり。
……――――――っ!
「聞こえてるじゃないっ!」
動揺を隠せない私に対し、柴は楽しそうと言うか嬉しそうと言うか、にっこり笑っている。
「嬉しいなー。越が俺を好きだなんてー」
「ち、ちが……っ、あくまで家族としてで……」
「本当に?」
急に真面目な灰色の瞳が接近した。
:08/06/09 00:29
:SO903i
:☆☆☆
#353 [向日葵]
そんな真剣に聞かないで欲しい。
余計「うん」と肯定するのが恥ずかしくなってしまう。
「本当に、ちが……」
目をそらそうとした時、今以上に柴が近づいて距離を詰める。
「俺は越が好きだよ」
目を見開いた。
柴が……私を好き……?
「う……そ……」
「本当。ずっと前から好きって言ってるし、態度で示してるけど、越はまったく気づかないんだもんなー」
:08/06/09 00:33
:SO903i
:☆☆☆
#354 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで良かったらお願いします

:08/06/09 00:34
:SO903i
:☆☆☆
#355 [向日葵]
「そんな事……」
言われたって……。
「で、越は?」
また覗き込まれる。
顔が熱くなる。
顔が近づけば、その分私は離れた。
しかし何故か強気な柴は、更に近づく。
「な、な、にが……」
「俺の事、好き?嫌い?どっち?」
そ、そりゃもちろん好きだけど……。
……ええい……こうなりゃヤケだ……。
「普通!」
:08/06/13 00:00
:SO903i
:☆☆☆
#356 [向日葵]
はい……?
自分の言った言葉に自分で驚く。
やっぱりと言うか柴も驚いている。
わ、私、今何って?
「普通……って……。」
柴がうなだれて頭をポリポリかく。
ああやっぱり普通って言っちゃったんだ私……。
ヤケだ!と意気込んだ割りに全然ヤケになってない辺り自分がとことん情けない……。
「や、だって、その……」
「まぁいっか……。嫌いって言われるよりマシだしね」
:08/06/13 00:04
:SO903i
:☆☆☆
#357 [向日葵]
柴はニッと笑う。
「でもきっと好きって言ってもらえるようにするから。越も俺が越を好きって分かったなら、ちゃんと意識してよね」
くしゃりと前髪辺りを撫でる。
意識なんて、ずっと前からしてる。
その笑顔、その声、その瞳……。
柴の全部が、私のたった1つの心臓を揺れ動かす。
私もいつか……言えたなら……迷わず言いたい……。大好きって……。
:08/06/13 00:07
:SO903i
:☆☆☆
#358 [向日葵]
―*8日目*―
なんか最近、越姉の雰囲気が変わったみたい。
なんて言うの、女っぽくなったって言うか……。
もしかして柴のせい?
(神田家・長男・空談)
「さてと……。柴、どれから乗る?」
「絶叫系以外……」
「なんでよっ。せっかく遊園地に来てるっていうのに!」
今日は土曜日。
私は柴と遊園地に来ているのだ。
:08/06/13 00:12
:SO903i
:☆☆☆
#359 [向日葵]
何故かと言うと、それは昨日の事だった。
―――――――――
―――――――――――
[フリーパスチケットォ!?]
お母さんが会社から2枚のフリーパスチケットを貰ってきたのだ。
[たまには皆で遊んどいで。いつもあたし達が世話んなってっからね]
1枚で3人までいけると言うなんとも素晴らしいチケット。
遊園地なんていつぶりだろうと心踊らせ、皆にどうするか訊いてみた。
……が。
:08/06/13 00:15
:SO903i
:☆☆☆
#360 [向日葵]
桜は。
「明日丁度試合があんだよねー。またじゃ駄目?え、明日までなのー!?最悪ー。じゃあ楽しんできて」
空は。
「明日サッカーの試合あるんだよね。オレ期待されてるから無理ー」
苺は。
「あのねー、みよちゃんといっしょにぱんださんみにいくのー」
と、言う訳で、行く人は私と柴のみ……。
ってこれって……デートとか言う!?
:08/06/13 00:18
:SO903i
:☆☆☆
#361 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで良ければお願いします

:08/06/13 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#362 [向日葵]
―――――――
―――――――――……
そして現在に至る訳で……。
ノリノリで最初からジェットコースターとか急流滑りとかバイキングとか乗ってたら柴の顔が青ざめてしまったのでした……。
「じゃあ、えと、コーヒーカップとか」
「あのさ、越。なんで超スピードで動くか回るかのやつしか選ばないの?」
だって好きなんだもん……。
「じゃあ柴何乗りたいのさーっ」
:08/06/16 00:42
:SO903i
:☆☆☆
#363 [向日葵]
気分治しで買ったペットボトルの水を手で遊びながら柴は考える。
私はそんな柴の前で腰に手をあてて待った。
「ゴーカートとか……」
「えー。私あれ上手く操作出来ないんだけど……」
「2人乗りだってあるよ。行こう」
ごく自然に、柴は私の手を取り歩き出す。
ちょっと!柴、手!手が!
嫌な訳じゃないけれど恥ずかしい。
デートみたいじゃないか!?と緊張していた事は忘れていた。
:08/06/16 00:49
:SO903i
:☆☆☆
#364 [向日葵]
だから忘れていた分余計恥ずかしくなる。
肌寒さを感じるくらいに涼しくなった。
柴の手は、いつもひんやりしている。
きめ細かい手はすべすべしていて、手を離すのがもったいないとすら感じる。
もっと……指先で、手全体を使って、触りたいな……。
……!?
今、なんか変態っぽくなかった!?
「越、2人乗り出来るよ。良かったね」
今思っていたピンク色した考えを片手で慌てて消しさる。
柴は時々鋭いから、気づかれたらヤバイ。
:08/06/16 00:54
:SO903i
:☆☆☆
#365 [向日葵]
「そだねっ!じゃあ柴に運転任しちゃおっかな!」
「顔赤いけど、どうかした?」
先ほどまで触りたいなどといやらしい気持ちを抱いて見ていた柴の手が、するりと私の頬を包む。
顔の赤さは更に倍増。
完全に気づかれた。
案の定、柴は意地悪そうに笑う。
「越、なんかいやらしい事でも考えてたの?」
「ち、違う!」
いやそうなんだけど……。
:08/06/16 00:58
:SO903i
:☆☆☆
#366 [向日葵]
「じゃあなんで赤いの?」
「暑いだけ!」
柴はクスクス笑って「そう」とだけ言った。
周りから見れば物凄いバカップルだなんて思われてるのを知らず、私の顔の赤さは引かないままだった。
順番がまわってきて、カートに乗る。
……けど、狭い……。
お互いの肩が触れてしまいそうだ。
「右がアクセル、左がブレーキとなっています。それではいってらっしゃーい!」
:08/06/16 01:02
:SO903i
:☆☆☆
#367 [向日葵]
と係のお姉さんが言った途端カートは派手な音を立ててギュンッと進んだ。
「わー、結構スピード出るー!」
と関心していたら伸びてコースにまで出てきていた枝に頭を当てた。
横で柴が笑いだす。
「しっかり前見てなよ」
「失礼な!見てたもん!」
ムキになれば、また柴は派手に笑って、アクセルを更に強く踏む。
「やっぱり越はそうでなきゃね」
「え?」
:08/06/16 01:05
:SO903i
:☆☆☆
#368 [向日葵]
片手でハンドルを持って、もう一方の手で私の頭をくしゃりと撫でた。
「うろたえて赤くなってる越も可愛いくて好きだけど、笑ってる越が一番好きかな」
そう思うならそんな事言わないでほしいんですけど……。
また顔が赤くなる。
あまり見られたくなくてそっぽを向いた。
「柴の頭文字のSはドSのS……」
このまままた気まずくなるのが嫌で、ぼそりとそう呟いてみた。
「俺どっちかって言うとMでしょ」
「カミングアウトしちゃうんだ!」
おかしくなって、今度は私が笑いだした。
:08/06/16 01:10
:SO903i
:☆☆☆
#369 [向日葵]
>>319に感想板ありますんで良ければお願いします

:08/06/16 01:11
:SO903i
:☆☆☆
#370 [向日葵]
それにつられて柴も笑い出す。
そうこうしてる間に、ゴーカートの短い道のりは終わってしまった。
「あー楽しかった!あ、風船配ってる!ちょっと待ってて!」
私はうさぎの着ぐるみを来た人の元へ興奮しながら走って行った。
********************
越が楽しそうに風船を取りに行く姿を柴は穏やかに見ていた。
そして近くのベンチに座る。
ベンチに座って、改めて周りを見れば、家族連れがやはり多かった。
:08/06/20 00:34
:SO903i
:☆☆☆
#371 [向日葵]
そう思えば柴は自分の小さい頃を思い出していた。
もちろん、遊園地など連れて行ってもらった覚えは無かった。
それもそのはず。
両親はずっと仕事だと言って柴を構う事なんてしなかったからだ。
柴を相手したのはメイドや家庭教師。
しかし彼らが柴の心を満たせるはずもなかった。
どうあがいても彼らは他人だからだ。
対等な関係、本気の愛情、そんなものは一切ない。
自分が彼らに相手してもらったのは、大企業の息子だからだ。
:08/06/20 00:40
:SO903i
:☆☆☆
#372 [向日葵]
ちゃんと愛情を与えて接してくれたのは早代だけだった。
冷たく閉ざされた心を温かく溶かしてくれた。
きっと忘れる事は出来ない。
そうして早代の事を考えれば彼女の事が気になりだした。
あれから早代は幸せに暮らしているだろうか。
もしかしたら別れて別の場所にいるのだろうか。
柴との関係がバレた時、彼女は酷い仕打ちにあっていた。
その悲痛な声は、まだ柴の耳の奥に鮮明に残っている……。
:08/06/20 00:44
:SO903i
:☆☆☆
#373 [向日葵]
「柴?」
ハッとする。
近くに越が赤い風船とオレンジの風船を持って立っていた。
「少し休む?なんかしんどそうだよ?」
柴を覗き込む越を、柴はまぶしそうに見つめた。
早代が溶かしてくれた心が、再び冷たく閉ざされていた時、再び温もりをくれたのは越だった。
見ず知らずの大人を、何の躊躇いもなしに助けてくれた、自分にとってかけがえのない少女。
それこそ早代よりも大きな存在。
:08/06/20 00:48
:SO903i
:☆☆☆
#374 [向日葵]
「あ、あのね、風船2個貰ったんだっ。柴どっちがいい?」
“柴”。
新しく与えられた自分の名前。
越がつけてくれた特別な名前。
自分の名前がこんなにいとおしいと思った事はこれまでに一度も無かった。
「どっちでもいいよ。越が好きな色を持ってなよ」
「そう?柴はオレンジ選ぶかと思ったんだけどなー……」
「なんで?」
:08/06/20 00:52
:SO903i
:☆☆☆
#375 [向日葵]
「お日様色の方が柴は好きかなって。ホラ、オレンジって温かな感じするでしょ?だから柴はそういうのが好きそうだなって」
無邪気に笑う越を抱き締めたい衝動にかられる。
それをぐっと我慢して、彼女の風船を握る手を柔らかく包む。
越の顔が、赤い風船のように色づく。
「……し、柴……?」
「ありがとう……越……」
「あ、風船?いいよ別にそんな!タダだし!」
そうじゃない。
自分を見つけて、助けてくれて、ありがとう……。
柴はそう言いたかったのだ。
:08/06/20 00:56
:SO903i
:☆☆☆
#376 [向日葵]
>>319に感想板がありますんで、感想あればお願いします

:08/06/20 00:57
:SO903i
:☆☆☆
#377 [向日葵]
「ねえ越。最後に観覧車に乗ろうよ」
******************
と柴が言ったので、観覧車に乗ったはいいものの、心の中で失敗したなと私は思った。
なんて言っても密室に15分間2人きり。
ゴーカートとは違う2人きりの雰囲気に戸惑いを隠せない上、誘った張本人である柴はさっきから窓の外を見つめたっきり喋ろうともしない。
さっきから話題話題と頭をフル回転させてる私もそろそろ限界だった。
「越……」
柴がポツリと私の名を呼んだ。
やっと喋ってくれた事にホッとする。
:08/06/24 23:45
:SO903i
:☆☆☆
#378 [向日葵]
「何?」
「どうして俺を拾ったの?」
「何、突然……」
灰色の瞳が私を見る。
暮れかけた太陽のオレンジ色が混ざる。
胸がドキドキしだす。
「あのままほっておかれたら、多分今の俺がいない気がする。時々思うんだ。今の俺が本当の俺なのかなって……」
「本当の……柴……?」
柴は頷く。
「自分が自分でなく感じる。誰かに優しくしたいとか、誰かを大切にしたいとか……今まで思わなかったんだ」
:08/06/24 23:50
:SO903i
:☆☆☆
#379 [向日葵]
柴は自分の両手を見つめる。
私はむしろ柴がそんな感情を持った事がないと言った事が不思議だった。
柴を拾った時から喋る事以外は柴のままだったからだ。
冷たいとか酷いとか思わなかった。
初対面の苺にだって優しく接していたし、柴に愛情を注いでくれた早代さんの事を話す時だって、いとおしそうな顔をしていた。
「人って何かに触れたりする度に変われるものだよ。私だって、前とはきっと全然違うだろうし……」
柴がまた私を見る。
:08/06/24 23:54
:SO903i
:☆☆☆
#380 [向日葵]
「柴は今の自分を受け入れたらいいと思うよ。変わる事は怖くなんかないから。怖かったら助けてあげるから」
柴が目を細めて、口をゆっくりと笑みの形にする。
太陽の光で、柴の目が輝いて見える。
それに私はまたドキドキした。
私……なんか恥ずかしい事言っちゃったかも……。
「い、いつの間にか頂上過ぎちゃったね!あ、あれって駅かな!わーあんなに小さい!」
恥ずかしさを紛らわす為に窓に張り付く。
:08/06/24 23:58
:SO903i
:☆☆☆
#381 [向日葵]
目は窓の外でも神経は私を見つめているだろう柴にそそがれていた。
すると柴が言った。
「そっち行っていい?」
「え?」
私が返事するのも待たず、立ち上がった柴は、私の隣に座った。
「え、ちょ、柴!?」
動揺してる私とは違って、柴はにっこり笑っているだけだ。
「肩貸してくれない?」
肩……?
:08/06/25 00:04
:SO903i
:☆☆☆
#382 [向日葵]
また私が返事する前に、柴の頭が柔らかく私の肩に触れた。
重さは感じない。
本当に軽くのせている程度だ。
いつもの甘えている雰囲気のようだけれど、どこかまた違う甘い雰囲気……。
茶色い綺麗な髪の毛が、私の頬と顎をくすぐる。
不思議と恥ずかしくはなかった。
それよりなんだか柴が泣いているような気がして、つい頭を包むように抱き締めてしまった。
大丈夫、そばにいるよ……。
そう言っているつもりで抱き締める。
:08/06/25 00:09
:SO903i
:☆☆☆
#383 [向日葵]
その時の2人を包む沈黙は、意外にも心地良いものだった。
―――――――……
帰り道。
何故か手を繋いで帰っている私と柴。
口数も少なかった。
まるで手だけで会話しているようだった。
時々ちらりと顔を上げて柴を見れば、柴は私の視線にすぐ気づきにこりと微笑むだけだった。
それが恥ずかしい私はまたすぐ前を向く。
そんな一連の流れを何回か繰り返した。
もうすぐ家だと思えば、ちょっと物足りない気がした。
:08/06/25 00:14
:SO903i
:☆☆☆
#384 [向日葵]
門の鍵を開けなくちゃならない。
その為には柴の手を離さなくちゃならない。
「えと……鍵、出すね……」
名残惜しそうに手を離す。
そして門を開けた。
その時だった。
「大和君!」
女性の声だった。
門を1歩入った私が振り向くと、柴が女性に抱き締められている所だった。
思わず目を見開く。
誰……?それに、なんで柴の本名を知って……。
:08/06/25 00:19
:SO903i
:☆☆☆
#385 [向日葵]
「早代……っ!なんで……」
体を離しながら柴が言う。
この人が、早代さん……っ。
「探したのよ!あれからずっと……。どうして何も連絡をくれなかったの……っ!」
うつ向いて顔を覆う早代さん。
柴に負けないくらい綺麗なこげ茶色の長い髪の毛をさらりと垂れる。
「俺は勘当された身だよ。今更連絡なんてする訳ないじゃないか」
「ううん大和君。旦那様はまだ正式にはしてないって仰ってるの。旦那様も大和君を探してるわ……っ!だから帰りましょう……」
:08/06/25 00:24
:SO903i
:☆☆☆
#386 [向日葵]
:08/06/25 00:26
:SO903i
:☆☆☆
#387 [向日葵]
柴は私を見る。
私はどうしたらいいか分からないから柴を見つめ返すしかなかった。
そして柴はまた早代さんに視線を戻す。
「帰らないよ、早代……。俺はもう、あの家には帰らない。絶対……、帰りたくないんだ……」
早代さんは涙を流したまま柴を見つめる。
「私がいても……?私がいるから、変わらず貴方を愛するわ。……息子としてだけれど……だから」
「早代」
静かな、だけど強い口調で柴は早代さんを呼ぶ。
「無理だ。早代はまだ俺の事を息子として見てない。また父さんの怒りを買うだけだ……。帰ってくれ」
:08/06/25 00:30
:SO903i
:☆☆☆
#388 [向日葵]
早代さんは一際涙を流すと、踵を返して走って行ってしまった。
そんな早代さんを見てから、柴を見る。
柴の表情は厳しくて、悲しそうだった。
柴……貴方もしかして、まだ早代さんが好きなの……?
今の柴は柴じゃない……。
伊勢屋 大和。
過去の柴だ。
そんな柴を、このまま家にいれる訳にはいかない。
そう思った。
「柴、追いかけなきゃ……」
:08/06/25 00:34
:SO903i
:☆☆☆
#389 [向日葵]
柴は驚いたように私を見る。
「なんで?」
「早代さんが、気になるんでしょ?」
「そんな事……」
「嘘つかないで」
柴の言葉を遮る。
困ったように柴は眉を寄せた。
でもそんな表情ですら柴でないような気がしてならなかった。
そしてそう思えば思うほど、私の心は段々と不安になっていくのだった。
:08/06/25 00:37
:SO903i
:☆☆☆
#390 [向日葵]
柴……貴方の好きなのは本当に私?
貴方は私を早代さんと重ねてはいない?
ああ、柴……、偉そうな事言ってごめんなさい。
何が“変化を怖れないで”よ……。
今、柴が違うように見えただけで、私はとても怖れている。
いつか柴の本当に好きな人が私ではないかと気づいてしまったら……。
「早く、行って!」
震えないように、毅然と柴を見つめて言う。
柴はやはり困っていた。
:08/06/25 00:43
:SO903i
:☆☆☆
#391 [向日葵]
お願い行かないで……。
そのまま困って、私のそばにいて……。
お願い、柴……。
「……分かった。行ってくる」
そう言って柴は、早代さんが走って行った方へと行ってしまった。
ホラね……。
大切で、特別だと思った人は、やっぱり皆私から去っていく。
ううん違う。
行かせたんだ、私が……。
私の事はいいから、幸せになってと、自らその引き止めるべき手を離していたんだ……。
:08/06/25 00:46
:SO903i
:☆☆☆
#392 [向日葵]
柴も……お母さん達も……。
「柴……」
私がつけてあげた名前……。
視界が突然滲む。
涙が次から次へと流れていった。
どうしてだろう。
もう見えないのに、柴が走って行った方向を見つめながら思った。
どうしてだろう……。
もうね、柴が、ここへは戻ってこないような気がするの……。
「バイバイ……」
この言葉しか、出てこないの……。
:08/06/25 00:49
:SO903i
:☆☆☆
#393 [向日葵]
:08/06/25 00:50
:SO903i
:☆☆☆
#394 [向日葵]
でもいいや……。
柴が幸せになるなら、笑って毎日が過ごせるようになったら……。
そこに私達はいないけれど……。
いいの。
柴。
柴は自分の幸せを祈って。
もう悲しまないように……。
「お姉ちゃん!」
後ろから声が聞こえてきた。
でも私は振り向く事が出来なかった。
「お姉ちゃんただいま!どうかした?向こう向いて」
:08/06/29 01:49
:SO903i
:☆☆☆
#395 [向日葵]
どうやら桜らしい。
桜は私の顔を後ろから覗き込んで驚く。
「お姉……ちゃん……」
「桜……幸せを願うって難しいね……」
どんなに口で言っても、頭では分かっていても、やっぱり思ってしまうのは……。
「そばにいて欲しかった……っ。ずっとずっと、一緒にいたかった……っ!」
大好きだったのに、言う事さえ出来なかった。
言ってあげられなかった。
柴はいっぱい気持ちを伝えてくれたのに……。
:08/06/29 01:53
:SO903i
:☆☆☆
#396 [向日葵]
「柴が……行っちゃったよぉ……っ!」
桜に抱きついて、私はわぁっと泣いた。
ただ悲しくて、ただ切なくなった。
背中を押したのは自分のくせに、今になって後悔した。
あの観覧車の中、柔らかく茶色い髪の毛が、懐かしく感じた……。
:08/06/29 01:56
:SO903i
:☆☆☆
#397 [向日葵]
―*9日目*―
しばちゃんがいなくなっちゃったの。いちごさみしいな。でもね、いちばんさみしそうなのは、おねえちゃんなの。
(神田家・三女・苺談)
柴がいなくなって4日が経った。
何の音沙汰もない空白の時間は、気持ち悪くて仕方なかった。
それでも私の毎日は、いつも通りにやって来て、朝ご飯を作る時、いつもはある頭の重みがないのが物足りなかった。
:08/06/29 02:00
:SO903i
:☆☆☆
#398 [向日葵]
―――――――…………
「旅行?」
「ウン。今度の金土日使って、椿んちが持ってる別荘まで遊びに行かない?」
「湖が綺麗に見える場所なんです……」
「いらない奴もついてくるけどね……」
不機嫌そうに呟く美嘉を見て、椿に「誰が?」と目で問いかける。
椿は苦笑いしながら答えた。
「婚約者の方も、ついて来るとおっしゃってまして……」
「ああ……私はいいけど……」
:08/06/29 02:05
:SO903i
:☆☆☆
#399 [向日葵]
「美嘉はぜーったいあんな奴認めないんだからね!!」
そんな美嘉の言葉にも、椿はにこにこ笑う。
その笑顔が、前に話していた時よりも幸せそうに感じたのは気のせいなのだろうか?
幸せ……。
窓から空を眺める。
今日は少し曇り空だ。
灰色の雲が重たそうに感じる。
『越』
……同じ灰色なのに、綺麗に感じないのは、どうしてなんだろうなぁ……。
:08/06/29 02:09
:SO903i
:☆☆☆
#400 [向日葵]
******************
某所の高級住宅街でも一際大きく豪華な家が伊勢屋家の物だ。
その中にある一室に柴はいた。
4日前。
とりあえず来てちゃんと話合ってくれと訴える早代に渋々ついて行き、すぐに父と会えるのかと思いきや、父はその前の日から出張でフランスへ行ってるらしく、会う事は不可能だった。
それならばと帰ろうとした柴を、早代は止めた。
[どうして帰ろうとするの?貴方のお家はここでしょ?]
[前はね。今は違う。家族以上に家族な人達が俺を待ってるんだ]
:08/06/29 02:15
:SO903i
:☆☆☆
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