*柴日記*
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#401 [向日葵]
越……。

心の中で呼ぶ。

早く会いたい。
本当に自分は越から離れて良かったのかずっと考えていた。

好きと言ったのに、早代を追いかけてしまった……。

[もうこの家にはなんの未練もない。俺の事なら、探さないでいいから]

そう言って早代の隣を通り過ぎて間もなく、柴の前にがたいのいい男2人が立ちはだかった。

思わず驚く柴の隙をついて、2人は柴を取り抑えた。

⏰:08/06/29 02:19 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#402 [向日葵]
[ちょ、お前らなんだ……っ!]

そして連れてこられた部屋が現在いる柴の部屋だったのだ。

外からしか鍵は開けられず、窓からの脱出を試みるも2階だ。
しかも下には先ほどのSPらしき男達が何人かいた。

携帯も圏外。
連絡を取れないのはそのせいもあった。

そろそろ閉じ込められるのに限界を感じてきた柴は、部屋にあった大きくフカフカしたベッドに身を沈めた。
すると、ドアをノックされた。
返事をせずにいると、静かにドアが開かれる。

⏰:08/06/29 02:25 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#403 [向日葵]
「大和君、起きてる?」

早代だ。

起き上がって、戸口にいる早代を睨む。

「どうしてこんな事されなきゃなんないの?俺帰りたいんだけど」

「……私は、貴方にここへ帰ってきて欲しいの……」

「早代は父さんの妻だろ?なのに俺に執着するのは間違ってる」

口ごもる早代。
しかし柴は容赦しなかった。

「間違いだったのは確かに俺だ。でも離れて分かった。俺は早代に逃げてただけだって」

⏰:08/06/29 02:28 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#404 [向日葵]
誰も愛してくれない。
無気力になっていた自分。
そんな中、愛してくれた早代。

恋だと思った。
でも実は違った。

自分が何者か分からないから早代でその存在する意味を確かめていただけだったのだ。
自分で、見つけようともせずに……。早代を、利用してしまったのだ。

早代もまた、望んでない結婚を、柴に、いや大和に逃げる事で何もかも見ないようにしていた。

2人の間に、やはり愛などなかったのだ。

⏰:08/06/29 02:33 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#405 [向日葵]
[力を合わせて乗り換えていける]

そう言ってくれたのは……。

[安心していいんだよ]

そうやって、逃げず、手を取り合って、困難を乗り越えようと言ってくれたのは、越ただ1人だった。

越。
何でも越えれるようにと願いを込めて名付けられた彼女の名前。
彼女の何事にも前向きな姿、でも、触れれば壊れてしまいそうな脆さに、自分は惹かれたのだ。

「俺は逃げない。逃げたくない。早代、逃げちゃダメなんだ」

⏰:08/06/29 02:38 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#406 [向日葵]
悲痛な顔をして聞いていた早代は、急にハッと背後に視線を向けた。

「旦那様が、帰って来たみたい……」

柴は立ち上がった。

会うのは何ヶ月ぶりだろう。
柴は父が苦手だった。
呼べば振り向くも、何の感情もない目が怖くて堪らないからだ。

今も胸の奥で、鼓動がスピードを上げていってる。

[大丈夫]

柴はハッとした。

越……?

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#407 [向日葵]
>>319に感想板があるんで、良かったらお願いします

⏰:08/06/29 02:43 📱:SO903i 🆔:☆☆☆


#408 [向日葵]
携帯変わりましたが向日葵です

⏰:08/07/07 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#409 [向日葵]
彼女がいる訳がない。

そう思っていても、柴は辺りを見渡さずにはいられなかった。

あぁでももう大丈夫だ。
越が見守ってくれている気がするから……。

柴は早代の後をついて行った。

―――――――――…………

「旦那さま、大和君が帰って参りました」

中から返事はなかった。
本当に帰って来たのか?と柴は疑問に思った。
しばらく沈黙が続く。
早代は辛抱強く返事を待っている。

「大和を入れなさい」

⏰:08/07/07 00:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#410 [向日葵]
早代は目だけで柴に入れと促す。
柴はもう1度ノックをしてからゆっくりとドアを開けた。

「失礼します……」

ドアの閉まる音が、やけにやかましく感じた。

父は椅子にもたれて窓の方を向いている為、柴には背を向けている。
その表情は、怒っているのか、やっぱり無表情なのかは確認出来なかった。

「どうして、俺を……?」

重苦しい空気に堪えきれず、柴が口を開いた。
父が座っている椅子が、短くギィッと軋む。

⏰:08/07/07 00:40 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#411 [向日葵]
やがて長いため息が聞こえた。

「やはり苦手だ」

「は……?」

父は椅子から立ち上がり、窓辺に立つ。
ようやく見えた父の姿に、そういえばこんな姿をしていたっけと柴は呑気に思った。

たった数ヶ月の筈なのに、とても長い間会っていなかった気がするのは何故だろう。

「私の会社は、先々代から続くものでな……。常に成績が全ての家系だったんだよ」

何を話したいのかさっぱりな柴だが、首を傾げながらも父の淡々とした口調に耳を傾けた。

「私は、父や祖父の厳しい顔しか思い出せない……」

⏰:08/07/07 00:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#412 [向日葵]
そんなの自分だって同じだと柴は思った。
厳しい顔か無表情な顔しか自分は見た事はない。

ただ……と柴は思う。

依然父は窓の外を見たままだ。

「私はそんな両親が嫌いでね……。どうして私自身を見てくれないのかと頭を抱えたものだよ」

「それが……なんなの……」

柴が静かな問うと、父はゆっくりと振り向き、柴を真っ直ぐに見つめた。
父とこうして喋るのは、初めてな気がした。

「それが嫌だから、私は繰り返したくないと思ったんだ」

⏰:08/07/10 23:34 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#413 [向日葵]
嫌だって……。
だけど自分は……と柴は顔を少し険しくした。

その柴の思いに気づいたのか、父が口を開く。

「驚いたんだ。繰り返したくないと言いながら、私はお前が生まれて、いざ行動にうつした時、愛し方が全くわからなかったんだ」

「嘘だ」

反射的に柴はそう答えた。

「自分がしてもらいたい事をすればいいんじゃないのか……?」

⏰:08/07/10 23:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#414 [向日葵]
父は自分の両手を見つめる。
そしてまた柴を見つめた。

「いざとなるとね、自分が何をしてもらいたかったか分からなくなるんだ……。自分はどう愛して欲しかったのか、何をして欲しかったのか……」

そう言われて柴はハッとする。
その言葉に、納得してしまったからだ。

愛情が欲しいと思った。
でも愛情と言うのはどういう風にもらうのか、柴は知らない。
そうしたものをこめて接してもらった事がないからだ。

どうして欲しいか分かったのは早代が現れ、越が現れたからだ。

早代が自分を可愛がり、越はたくさんの笑顔をくれてからだ。

⏰:08/07/10 23:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#415 [向日葵]
自分は誰かから抱き締めてもらいたかったし、抱き締めたかった。

成長する過程で、親が赤ん坊を抱くのを大切とするように。

自分は、抱き締められた記憶すら、小さい頃にはなかった。

「じゃあ、今何をしたいか分かるの?分かるなら、俺が出ていく時、早代に酷い事したの?」

まだ納得してないような態度をとり、父の本当の気持ちを引き出すよう尋問する。

父は苦い顔をして机に寄りかかり、目を伏せた。

「あれは、確かに酷かったと思う……。怒りに任せてしていい事ではない……」

⏰:08/07/10 23:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#416 [向日葵]
伏せた目を覆うように、片手で目元を隠す。
そしてボソリと呟く。

「怖かった……。また去っていくのかもしれないと思うと……」

柴は、実は知っていた。

前の母親が出て行ってしまった日、柴は通りかかったのは父の書斎だった。
少し開いたドアの隙間から見る父は、窓辺に手をつき、肩を落としていた。

それこそが、父の本当の姿ではないのか?と思ったのを、柴は今でも覚えている。

「それでも早代がそばにいてくれたのが嬉しかった。私はこんなだから、それを詫びる事も未だ出来ていないが……本当に申し訳なかったと思ってる……。早代も、大和……、お前も……」

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#417 [向日葵]
>>319に感想板があるので良ければお願いしますm(__)m

⏰:08/07/10 23:58 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#418 [向日葵]
父は柴に歩みよる。
何も言わず、ただじっと柴を見つめたかと思うと、ためらいがちに手を伸ばし、柴の頭を柔らかくくしゃりと撫でた。

「本当は、抱き締めてみたいものだけど、今はこれが精一杯みたいだ……」

父が苦笑いを浮かべる。
柴は目が潤む。

この温かな瞬間を、どれほど自分は待ち望んでいただろうか。
抱き締めてくれなくてもいい。
不器用に撫でてくれる手から、何もかもが伝わってくる。

「大和、うちへ戻ってきなさい……」

柴はうつむいて、ひそかに目をこすった。

⏰:08/07/16 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#419 [向日葵]
「もう少し……考えさせてほしい……」

こちらに戻るというのは、越達と離れなきゃならないということ。
柴はまだ、越や他の皆とは離れたくない気持ちでいっぱいだった。

「分かった……とりあえず、お互いのリハビリもかねて、2、3日ここで泊まるというのはどうだ?」

越や、越達は、心配してるかな……。
ふと柴は思う。
父の問いには答えず、柴は唐突に言う。

「電話を貸してくれる?」

*******************

仕事が休みだった主婦祐子はリビングで雑誌を読みながら軽く茶をしばいていた。

⏰:08/07/16 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#420 [向日葵]
今日の午後の予定をあれやこれや考えていた祐子は越の様子が気になっていた。

いつも通り、朝早く起きて皆の為にご飯を作って、苺や空の面倒を見てから学校へ行く。

それは別にいいのだ。

行動がおかしいのではない。
越が身にまとっているそのいつも通りすぎる雰囲気がおかしいのだ。

ちょうど4日程前。

祐子は残業で遅く帰っていた。
玄関を開ける前にふと気づく。
リビングの明かりがついているのだ。

どうせ消し忘れだろうと、「ったく」と思いながら帰宅した祐子を待っていたのは、ソファに縮こまって座っていた越だった。

⏰:08/07/16 00:52 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#421 [向日葵]
帰ってきた祐子に気づいた越は、祐子の方に顔を向けて薄く笑った。

[お帰り……]

[どうしたの……?]

[ん……?ちょっと、目が覚めちゃって……]

そんな風には見えなかった祐子は眉を寄せる。
越の隣に腰を下ろす。

[お母さん……。お父さんの幸せの為なら、悲しいのも寂しいのも我慢出来る……?]

淡々と静かに語る越。
何故こんな事を聞くのかが分からなくて、あまり考えず祐子は[うん]と肯定した。

⏰:08/07/19 15:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#422 [向日葵]
すると越は力を抜くようにして微笑んだ。

[じゃあ、仕方ないね……]

[……越、何があったの?]

膝を抱えていた越は、自分の膝に顔を埋めた。
小さく微かに肩が震えているのは気のせいだろうか。

[柴が……行っちゃった……]

どこに、なんて聞かなくても、あの謎めいた甘えん坊の彼がどこへ行ってしまったか祐子は分かった。

[寂しいけど……大丈夫だよね……。またいつもの生活に戻っただけだもんね……]

明るい声を出しながらも、微かに滲んでいる悲しみの色や、微かに震えている声は、大丈夫じゃなかった。

⏰:08/07/19 15:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#423 [向日葵]
それでも、越は弱音を吐かない。
どんなに聞いても、何もないと微笑むだけ。

そんな越を、優しく包み、癒してくれていたのは、突然雨の日にやってきた、あの青年だけなのだった……。

*****************

突然鳴り出した電話に祐子は回想の世界から帰ってきた。

「ハイハイ」と立ち上がって、電話の所まで行く。

「もしもし」

{あ……祐子さん……}

「柴……っ!?」

⏰:08/07/19 15:42 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#424 [向日葵]
「アンタどこにいるの!」と怒ってしまいそうになったが、怒鳴ったところで何も解決しないので、祐子はその言葉をを飲み込んだ。

{越は?}

「時間見れば分かんでしょ。まだ学校よ」

{そっか……}

祐子は密かにため息をついて微笑む。

どんな時でも、柴は越が第一か……。

「携帯に連絡したらいいでしょ。電話は無理でもメール見てくれるかもよ」

{あ……うん……ありがとうっ}

「柴」

{……何?}

祐子はしばらく黙った。
黙って、ここ最近の越をまた思い出していた。

「アンタの幸せを1番に考えなさいね……」

⏰:08/07/22 10:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#425 [向日葵]
例えそれが、越を悲しませる結果になっても……。
だって、柴はもう家族同然なのだ。
それならば、息子には、幸せになってもらいたい。
祐子はそう思った。

{……ありがとう}

呟くように言ってから、柴は電話を切った。
祐子も受話器を静かに置く。

「頑張りなさい……。柴……」

******************

明日から旅行か……。
突然だけど、お母さん許してくれるかな……。

「越、ここの問題ってどうしたらいいの?」

⏰:08/07/22 10:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#426 [向日葵]
午後の授業中。
ぼんやりとノートを眺めていた私は、隣の美嘉に話しかけられた。

「あ、えとね……。反比例のグラフだから……」

突然、スカートに入れていた携帯が鳴りだした。
微かに聞こえるバイブ音に、美嘉も気づいたらしい。
目で「越の携帯?」と聞いてきる。
私も頷きながら「自分だ」と自分を指差す。

先生が歩いて皆が問題を解けているか見回っている。
こちらを見ていないか、近くにいないかを確かめてから、机の下でそっと携帯を開く。

メールだ……。
誰からだとボタンを押して、私は声が出そうになるのを抑える為口に急いで手を当てた。

⏰:08/07/22 10:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#427 [向日葵]
柴……っ。

画面を見たまま固まった。

柴だ……柴だ……!
それしか頭になかった。

ハッと我に返って、メールを開こうとした。

「越!先生来た!」

美嘉が小声で知らせてくれた。
素早く携帯をポケットの中に入れて、美嘉にまた教えだす。

「で、この線がこことここを通ってるから……」

教えながら、先生が近くを通り過ぎて行くのを横目で見て、ホッとする。

バレてないバレてない……。

⏰:08/07/22 10:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#428 [向日葵]
「なんか緊急のメール?返さなくて大丈夫?」

「実は……っ。……ううん、何でもない。桜が帰りにひき肉買ってきてってだけ」

なんだか、「柴から」とは言いにくかった。
柴の家庭事情を勝手に言ってはいけないと思ったし、4日前の事を話したら、柴が悪者になってしまいそうだったから……。

柴は何も悪くない。
そう思ってても、心のどこかで「どうして行ってしまったの」と思ってしまう自分が存在しているのも本当だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

休み時間になって、柴からのメールを見た。

⏰:08/07/22 10:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#429 [向日葵]
<from 柴>

久しぶり……。すぐ連絡出来なくてゴメン。携帯取り上げてられてて、今返してもらったんだ。

父さんと、さっき話した。
色々、分かったよ。

結果的に、父さんも俺も不器用だっただけなんだって分かった。いっぱい話したいけど、越は今学校だから、電話出来ないしね。

……父さんが、2、3日泊まっていかないかって言ってる。

どうしようか迷ってる。

何に迷ってるかって言われたら上手く説明出来ないけど、正直父さんと真っ正面から向き合うのは緊張するし、照れくさいからかもしれない。

⏰:08/07/22 11:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#430 [向日葵]
でもそういうのって大切なのかもしれないと思うから、こっちで過ごしてみようかなって思ってる。

思ってるけど……。
早く越に会いたいよ……。

俺が帰ったらさ、1番に越が顔見せてね。

―end―

お父さんと仲直り出来たのかと少しだけ頬を緩めた。
それと同時に、お父さんと話し合った柴は、こちらに帰ってくるのかと心配になった。

もしかしたら、行ってしまう可能性だって……。

そこまで考えて私は首を振った。

⏰:08/07/22 11:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#431 [向日葵]
そしたら涙が流れてきた。
携帯を両手で握りしめて額に押しつける。

柴。
柴が幸せになるなら私はそれでいいよ。
でもね……幸せになるなら、私と、私達と一緒になる事で幸せになって欲しかったと思うのは、私のワガママかな……。

廊下の隅で、密かに泣いていると、肩を撫でられる感触に気がついた。

顔を上げれば、目の前に椿がいた。
何も言わず、静かに微笑んでいる。

「椿……」

「私も、越ちゃんみたいに心が潰れてしまいそうな時がありました……」

⏰:08/07/22 11:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#432 [向日葵]
私は涙を拭きつつ椿の話に耳を傾ける。

「あまり、泣くという動作が出来ない私は、微笑む事が精一杯でした。……すると、ある方に怒られたんです。『こんな時まで平気なフリするな』って……」

クスクス椿は笑う。
私はそんな椿を、まだ潤んでいる視界で見つめた。

「だから越ちゃんも……無理なさる必要はないんですよ……」

そう言われると、また視界が滲んで、華奢な椿の肩に顔を埋めた。

「頭……ご、ちゃごちゃ……な……って……、何がた、だし……か、分からなくて……っ」

⏰:08/07/22 11:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#433 [向日葵]
柴にとって良い事なら、喜んであげたいのに、行かないでって引き止めてしまう自分がいる。

その両方が、常に心の中で争って、私自身の本当の思いが分からなくてなっていた。

「も……やだ……こんな自分……、醜いよ……」

椿は優しく背中をさすってくれる。
涙は止まる事を知らない。

「越ちゃん……。完璧に、幸せを願うのは、難しい事です……。私も、そうですから……」

「だから」と椿は続ける。
私はまだ涙がたまっている目で、椿を見つめる。

「越ちゃんのその思いを、1番伝えたい方に、まず伝えましょう……。伝えないままだから、余計に苦しいんです……」

⏰:08/07/26 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#434 [向日葵]
私……まだ言ってない。
大事な事……伝えてない……。

全ては……伝えた後に分かる。
柴が、決める事。
柴の幸せを願うなら、せめて柴の運命に従おう……。

<TO 柴>

元気そうで良かった。心配してたんだ。

お父さんとも仲直り出来たみたいで、本当に良かった。

あのね柴……。
柴に伝えたい事があるの。

伝えて、柴がどう思うか分からない。柴がこれからどうするかも、もちろん柴に決めて欲しい。
それが柴の生きていく道だから。

⏰:08/07/26 01:01 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#435 [向日葵]
実は私、明日から4日間、椿の別荘にお邪魔する事になってるの。
柴が帰って来た時、きっと1番に「おかえり」って言ってあげられないけど許してね……。

柴は、そっちで色々考えたいって言ったよね。
私も、色々考えたい事があるの。

……ねえ柴。
私ね、柴が来てから欲張りになっちゃったみたいなの。
だから、そんな自分を反省する為にも、よく考えてくるよ。

柴、会いたいのは、柴だけじゃない。
私も……桜や空や苺、お父さんお母さんだって……、皆みんな、柴に会いたいんだからね……。

待ってるよ。

⏰:08/07/26 01:07 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#436 [向日葵]
メールは作った。

でも送信が出来ずにいた。
ボタンを押そうとすれば、手が震えてしまう。

結局、メールを遅れたのは、寝てしまう直前だった。

⏰:08/07/26 01:10 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#437 [向日葵]
―*10日目*―

柴がいなくなってから家が随分静かな気がするよ。
なんだかんだで、あの子はこの家のムードメーカだったのかね……。
(神田家・主婦・祐子談)



窓からの日差しが眩しい……。

そう感じて柴は寝返りをうつ。
そして気づく。

いつもの布団じゃない。

ガバリと起きれば、高級なシーツに自分はくるまっていた。

「あ……」

そうか……。ここは実家だ……。

⏰:08/07/26 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#438 [向日葵]
結局泊まる事にしたんだっけか……。

大きなあくびをしながら頭をポリポリかいていた柴は、ふと窓の近くにあるテーブルを見る。
そこには自分の携帯を置いている。

よく目をこらせば、ピカピカとライトが点滅している。

そういえば、昨日バイブの音が聞こえていた気がする。

……もしかして、越……っ!?

柴は勢いよくベッドから降りて、携帯を取る。
開いてメールボックスを開けば、やはり越からだった。

一通りメールを読んだ柴は呟く。

⏰:08/07/26 01:19 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#439 [向日葵]
「考えたい事って……何……?」

それに伝えたい事も。
しかも柴に決めて欲しいって……。

越は何か勘違いしていないか?

今日から別荘に行くという事は学校は休み。
柴は急いで越の携帯に電話した。
が、電源を切っているらしく繋がらない。

別荘から帰ってきてからでは遅すぎる。
彼女は別荘に行っている間に何かを考えようとしている。
考え終えて、結果が出てからでは遅いのだ。

こうしちゃいれないと、柴は部屋を出た。

出た瞬間、すぐそこに早代がいた。
思わずぶつかりそうになる。

⏰:08/07/26 01:23 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#440 [向日葵]
「あ……おはよう大和君。昨日は……寝れた……?」

「……早代、頼みがある。車を出してくれないか?」

「どうして」と言いかけて、早代はハッとする。

「帰るの?」

「うん……」

早代は一瞬悲しそうな顔をしたが、やがて諦めたように小さくため息をついて、微笑んだ。

「そう……分かったわ……」

車の準備をしようと踵をかえした早代を、柴は呼び止めた。

「ねえ早代。父さんからヒドイ事されてもここに居続けたのは、父さんの寂しさに気づいていたから?」

⏰:08/07/26 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#441 [向日葵]
こちらに背を向けたまま、早代は小さく2回頷いた。

「放っておけなかったの……。きっとこの人は、私までいなくなってしまっては、泣いてしまうんじゃないか……って……」

「そっか……」

早代は、柴が好きだった。
しかしそれと同時に、父の事も好きだったのだ。
その事に、柴はホッとした。

2人の間に、愛が無い訳では無かったのだと。

「早代……今までありがとう……」

初めて、愛情を注いでくれていた人。
柴と共に父を支えてくれていた人……。

⏰:08/07/26 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#442 [向日葵]
********************

「越ー!」

お母さんの声にハッとした。

ぼんやり座っていた私は返事をする。

「いつ出るんだったー?」

「あと10分くらいー!」

そう答えたキリ、お母さんからの返答はなく、それが「分かった」と言う意味だろうと思った。

「越姉!」

「おねーちゃん!」

空と苺が仲良く手を繋いで入ってきた。
そして私の隣に座る。

「おねーちゃんいつ帰ってくるのー?いちごおねーちゃんいないとさみしいなぁー」

「日曜には帰ってくるよ。それまでいい子で待っててね」

「お土産忘れんなよー」

ニヒッと笑う空の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
されるがままにされていた空はふと何かを思い、私の手を止めた。

⏰:08/07/27 23:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#443 [向日葵]
「なぁ越姉……」

「ん?」

首を傾げて空の答えを待つ。
しかし空は口を開いては閉じ、開いては閉じと、何だか言いにくそうにしていた。

やがて「なんでもないっ」とまた笑った。

「よし苺、母さんの手伝いしに行こう」

「うん」

パタパタと出ていく2人に入れ替わりで、桜が入ってきた。
それと同時に私は笑い出す。

「何よお姉ちゃん」

「だって、なんだか私がこの家出ていくみたいな雰囲気なんだもん」

⏰:08/07/27 23:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#444 [向日葵]
桜はドアをパタンと閉めて、私の隣に座った。

「そんな雰囲気漂わせてるのは、お姉ちゃんだよ」

「え……」

「本当に別荘から帰ってくる?」

「もちろんだよ、何言ってんの桜」

桜は泣きそうな顔をしながら私の服の裾をキュッと掴む。

「柴がどこかへ行ってしまってからのお姉ちゃんは怖い……。急にどっか消えちゃいそうなんだもん……」

「桜……」

⏰:08/07/27 23:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#445 [向日葵]
空にしてやったように乱暴にではなく、丁寧に桜の頭を撫でてやる。

そこまで、私は皆に心配かけていたんだと思えば反省した。

周りの事、全然見えてなかったんだ……。

「大丈夫だよ桜。考えたい事があって、丁度いい機会だから、気分転換もかねて行くだけ」

安心させるように微笑めば、少しだけ桜の肩の力が抜けた。

「越ー!時間だよー!」

下からお母さんが叫ぶ。
荷物を持って、桜と下へ行った。
すると丁度呼び鈴が鳴った。

⏰:08/07/28 00:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#446 [向日葵]
「おはよう!」

ドアを開ければ、楽しみなのか、満面の笑顔の美嘉と、静かに微笑み会釈する椿がいた。

「準備はよろしいでしょうか……?」

「うん。よろしくね」

「迷惑かけんじゃないよ。気をつけてね」

お母さんは私の頭をかき乱す。
片目を瞑ってそれをやり過ごし、乱れた髪の毛を手ぐしで整える。

「じゃあ行ってきまーす!」

私はいつも椿が送り迎えしてもらっている真っ黒な車に乗った。

⏰:08/07/28 00:06 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#447 [向日葵]
―――――――…………

―――それから2、3分後の事だった。

空と苺が庭で仲良くボールで遊んでいると、1台の車が家の前に止まった。

空と苺は首を傾げる。

一瞬、越が何か忘れ物をしたのかと思ったが、その車は越達の車とは逆にくもりない真っ白な車だった。

バタン!とドアが閉まる音が聞こえると、門の所に姿を表した人物に、空と苺は声をあげた。

「柴!」

「しばちゃぁんっ!」

⏰:08/07/28 00:11 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#448 [向日葵]
「空、苺……っ」

苺は「しばちゃんだ、しばちゃんだ!」とその場ではしゃぐと、柴に駆け寄って、その足に抱きついた。

「おかえりなさぁいっ」

空は庭に通じるガラス戸を開けて、祐子に柴が来た事を知らせる。

「ただいま。苺……」

微笑んだ柴は、苺を軽々と持ち上げる。
すると騒がしい足音と共に、祐子が現れた。その後ろには桜もいる。

「柴……っ!」

「ただいま祐子さん。謝らなきゃいけない事たくさんあるの分かってるけど今は越と話したい。越はどこ?」

⏰:08/07/28 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#449 [向日葵]
桜が答えた。

「お姉ちゃんならついさっき旅行に行ったよ。あ、でも新幹線で行くとか昨日言ってたからまだ駅かも!」

「分かった、ありがとう!」

「柴!」

急いで行こうとする柴を祐子は止めた。

「アンタ……越が好き?」

「うん」

「じゃあね、あの子を絶対に1人にはしてあげないで。あの子はね、小さい頃に捨てられて、1人になる寂しさがどんなもんか身を持って味わってるんだ……」

⏰:08/07/28 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#450 [向日葵]
祐子が真剣な表情で話しているのに対し、柴の表情は柔らかいものだった。

「祐子さんさえ許してくれるなら、俺はずっと越のそばにいて、離れろって言われても離れないよ」

その言葉に納得した祐子は、頬を緩める。
そして柴が越を追うのを、ただ静かに見送っていた。

「ねえおかあさん」

「ん?」

「おねえちゃん、しばちゃんのおよめさんになったらいいのにねぇっ!」

苺の言葉に、一同唖然とする。
そんな事は知らず、苺は満面の笑みで更に続ける。

⏰:08/07/28 00:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#451 [向日葵]
「そしたらいちご、おねえちゃんとしばちゃんとずーっといっしょだよ!」

その言葉に、祐子は外だという事も忘れ、盛大に笑った。

「そうだねぇ」

苺を抱き上げ、穏やかな目で、2人が行った方を見つめた。

「どちらにせよ、あの2人は一緒にいた方が落ち着くよ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「新幹線に乗る前に、そこのコンビニでお菓子買っちゃおう!」

駅の近くにあるコンビニを指差しながら美嘉が言った。
そしてさりげなく私の手を引っ張る。

⏰:08/07/28 00:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#452 [向日葵]
「どうしたの?美嘉」

椿の婚約者が嫌いなら、椿の近くにいて妨害するかと思っていたので、美嘉の行動を疑問に感じた。

すると美嘉は拗ねているように口を尖らせながら頬を膨らませた。

「だってね越、前みたいな雰囲気じゃないの、あの2人」

私はちらりと後ろを向く。

椿の婚約者と名乗る、葵 要君と言う人は、同い年なのに大人びていて、爽やかな人だ。

素直な意見を車の中で小声で美嘉に告げると、「騙されちゃダメ!」って怒ったくせに……。

⏰:08/07/31 00:38 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#453 [向日葵]
「人はいつまでも一緒じゃないよ。それに、椿が幸せそうなら、尚一層いいじゃないっ」

と言ってから、私は自分の言葉を口の中で反芻させた。

何、軽く言ってるの私……。
人事みたいに……。
自分は今それで悩んでる最中のくせに……。

「最悪……」

「え?なんて越」

「え?あ、ううん。なんでも……」

と言いかけると、車のタイヤが軋む音が聞こえた。
「ん?」と思っただけで、さほど気にしなかった私は、コンビニへと歩いて行く。

「……あっ!越ちゃん……っ!」

少し離れた椿が珍しく叫んだ。
ぼんやりしながら振り向けば、それと同時に強く腕を引かれた。

⏰:08/07/31 00:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#454 [向日葵]
「良かった……いた……」

うそ…………っ。

「柴……っ!」

掴まれた腕を引き寄せられて、力強く抱き締められば、恥ずかしくて突き放すより、柴かどうか確かめるようにその胸に寄りかかる。

まるで時が止まったようだった。
まだ何が起こってるか上手く整理出来ていない。

「間に合った……」

耳元で苦しげに呟かれれば、泣きたくなった。

そして肩を掴まれ、私を解放すると、急にまた腕を掴んで走り出した。

⏰:08/07/31 00:56 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#455 [向日葵]
私は今の状況に頭がついて行かなくて、引っ張られるがままに足を進めた。
どうすればと、美嘉達を振り返るも、美嘉達も驚いたようにポカンと私達を見つめるだけだった。

――――――――…………

何分走っただろう。

着いたのは、遊具も何もなく、ただベンチと砂場だけがある公園だった。

柴も私も、まだ息は整っていない。

信じられない……。
柴なの……?
柴が今、ここに、私のそばに、いるの……?

「し……ば……」

⏰:08/07/31 01:04 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#456 [向日葵]
柴がこちらを見る。

日が当たって、綺麗な茶色い髪の毛が更に輝く。
こちらに向けている神秘的な灰色の瞳。
あの時の、雲とは大違いな灰色。

「ハア……何……?どうかした……?」

「どうして……どうして柴がここに……?それより、本当に、柴……?」

「何言ってんの……どう見ても俺でしょ……」

だって柴は2、3日後に帰るって言ってたし、それ以前になんで私の場所が分かったのだろう……。

⏰:08/07/31 01:14 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#457 [向日葵]
恐る恐る、柴に手を伸ばす。
指先でそっと頬を撫でる。
柴はじっとしていた。

ここにいる……。

「なんで……どうしてここに……」

「越が変な勘違いしてるみたいだったから」

「勘違い……?」

「何を考えるの?越は、何の答えを出すつもり?」

柴は少し怒ったような顔をして私に詰め寄る。

何のって……。
そんな事、1から説明しちゃったら……告白になっちゃうじゃない……っ。

⏰:08/07/31 01:28 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#458 [向日葵]
私の顔が赤くなる。

そりゃ言うって決めてたけど、今言う準備出来てない

どうしようとうつ向けば、柴が訝しげな顔をした。

「言えない事?」

「そ、そうじゃなくて……」

「じゃあ言って」

「や、あの……そんな簡単には、えと……」

少し顔を上げれば、柴の顔が不機嫌になっていた。

「……越は、もう俺なんかいらない?」

「え?何言って……」

⏰:08/07/31 01:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#459 [向日葵]
「越が考えたいって事は、俺に出ていくように言うのをどうやって言おうか考えるって事じゃないの!?」

柴は今度は悲しそうな顔をした。

もちろん今柴が言った事は、近いけれど間違っている。
もし柴が私の家にいたいと言うなら、それをわざわざ追い出そうなんて事はしない。

「あのね、し……っ」

私は息を呑んだ。
急に、力一杯抱き締められた。
痛いぐらいに、私の体が締めつけられる。
でも、うるさいぐらい胸が高鳴る。

「俺は越が好き。だから越が望むなら出ていくけど……でも、俺の気持ちは無視なの……?」

⏰:08/07/31 01:41 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#460 [向日葵]
「ち、違うの柴……っ」

柴の胸を少し押して、柴と距離を取る。
依然、まだ柴の腕の中。

「違う?だってあのメール……」

「だから、柴の勘違いなのっ。あぁ、ごめん。言葉足らずだったね」

顔が更に赤くなる。
この距離で言うのは恥ずかしいけど、今言うしかない。

「柴がね、幸せに暮らしてくれるなら、それでいいって思ったの。柴が1番に望むものを、私や、お母さん達は尊重しようって。……でも」

柴を求める私は、それを許さなかった。
去って行ってしまったあの日の柴の背中を思い出せば、涙が出そうだ。

⏰:08/08/02 00:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#461 [向日葵]
「柴が私の前からいなくなっちゃうと思ったら嫌だって思っちゃった、行かないで、そばにいてって思っちゃったの……っ。そんなの決めるのは、私じゃないのに……っ」

「越……」

「だから、反省も兼ねて、色々考えたかっただけ……。だから柴、間違えないで……。私の心の半分以上は、柴が私の隣にいる事を望んでいるの……」

柴は目を見開いて数回瞬きした。
私は言ってしまった安心感と恥ずかしさで胸がドキドキ鳴って、涙目になってしまった。

すると柴は眩しいくらいの笑顔を私に向けた。

「ハハッ!やったー!!それって越は俺が好きって事だよね!」

⏰:08/08/02 00:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#462 [向日葵]
「え、あの……っ」

柴は私の顔を大きな手で包み、覗き込む。

「もう違うだなんて言わないでよね。そばにいてほしいって思ったって事は、そういう事でしょ?」

どこか得意気な柴の顔。
だから意地悪したい気分になったけど、そんな場合じゃなかった。

柴が私の目をじっとみつめる。

これは……、この雰囲気は……知ってる……っ!
どうしようっ!
私、キスなんてした事ないのに……っ!

「あ、あの、えと、し、柴っ!ま、待って……っ!」

⏰:08/08/02 00:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#463 [向日葵]
無言の「待った無し」の雰囲気に、どうすることも出来なくてギュッと目を瞑る。
柴が近づいてくる気配がする。

もう……っ、心臓壊れそう……っっ!!

すると小さく吐息のような笑い声が聞こえた。
と思えば、柔らかなものが私の鼻に少しだけ触れた。

目を開けて、ぱちくりと瞬きをすれば、柴が柔らかく微笑んでいる。

「緊張しすぎ。でも越には早いみたいだから」

私の鼻をトントンと指先で叩く。

「そこで我慢するよ」

⏰:08/08/02 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#464 [向日葵]
自分の鼻をおさえながら、私は肺が空になるくらい息を吐く。

ようやく柴の腕から解放されて、代わりに優しく私の手を包んだ。

「帰ろっか。色々話したいから歩いて帰ろう。そんなに遠くないだろうし」

「うん。……ねえ柴。どうして急に帰ってきたの?」

柴は眉を寄せる。

「あんなメール送ってくるからだよ。何か決めちゃうんだと思えば、決めちゃう前に阻止しなきゃって思ったの」

「あ……なるほど」

んー……。私文章力ないのかなぁー……。

⏰:08/08/02 00:36 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#465 [向日葵]
柴をちらりと見る。
柴はこちらを向いたままだった。それだけで胸が苦しい。

「お……お父さんと大丈夫で良かったね!心配してたんだー。柴がもしイジメられてたりしたらどうしようって」

恥ずかしさを紛らわそうとすれば、早口になった。
柴は一層笑みを深くする。

「話をする前ね、すっごく恐かった。でもね、越の声が聞こえたんだ。そしたら胸の中が軽くなって勇気が出た」

柴は握っている手に少し力を入れる。

「それくらい特別だよ。越は」

柴がここまで自分を好いてくれるのが嬉しい。
私は柴に笑顔を向ける。

⏰:08/08/02 00:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#466 [向日葵]
「ありがとうっ。柴っ」

柴は急にニヤリと笑う。
どうしたのかと私は首を傾ける。

「祐子さんがね、越を寂しくしないようにって俺に言ったんだ。だから悪いけどね越、俺は絶対越から離れたりしないからね」

「大袈裟……っ」

私は笑う。
柴も笑う。

幸せ。
2人一緒だからもっと幸せ。

柴は私を必要としてくれて、その必要は、柴の幸せと繋がっていて、そしてその柴の幸せは私に繋がっている。

⏰:08/08/02 00:49 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#467 [向日葵]
帰ろう。

皆が待ってるあの家へ。
全てが始まったあの家へ。
これからずっと一緒に住むあの家へ。

温かい、あの家へ……。

――――――――…………

「おかえりなさいっ!」

家へ戻って来ると、笑顔で皆が玄関に勢ぞろいしていた。

「ただいま。ってか、すっごく短い旅行だよ」

「せっかくお土産期待してたのにぃー」

ちゃかす桜と顔を見合わせてアハハと笑う。

⏰:08/08/02 00:53 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#468 [向日葵]
「さて柴、色々話てもらうかな。リビングにやって来な。桜、空と苺連れて2階にいて」

桜はお母さんの指示に、従う。
私は柴とリビングへ向かった。
柴はさりげなく私の手を握る。
どうしたのかと柴を見れば、苦笑いを浮かべて耳元でこそこそ話す。

「1発くらい、殴り飛ばされそうで恐い……」

それにクスリと笑う。

「ま、ヤバイと思ったら歯を食い縛ったらいいよ」

リビングにある机をはさんで、お母さんと向かい合わせになる。
お母さんはタバコを1本取り出すと火をつけ、ふぅ……と煙を吐く。

⏰:08/08/09 02:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#469 [向日葵]
「柴。まずアンタの事を喋れる範囲で喋りな。帰って来たって事は、越のそばにいるんだろ?なら自分の娘を預ける相手が、どんな奴か知っておく必要があるからね」

「……ハイ」

柴は淡々と話し出した。

自分は本当は伊勢屋 大和と言って、何故あの場所にいたのか。
この4〜5日間何をやっていたのか。

お母さんは相づちを打ちながら柴の話に耳を傾ける。

「これで全部です」

「なるほどね……」

タバコをギュッと灰皿に押し潰し、最後に吸い込んだ煙を吐く。

⏰:08/08/09 02:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#470 [向日葵]
「柴、アンタは越のそばにいるってあたしに言ったけどさ、越の事本当に大切に出来る?中途半端な思いなんだったら、帰れって言うよ」

「越が俺をいらないって言わない限り、俺はいつも越の隣にいます」

そういえば、なんで柴は今お母さんに敬語なんだろう。

そう思いながら、隣にいると宣言してくれた柴を嬉しく感じていた。

「じゃ、越。今度はアンタが柴に話す番だよ」

そう言うと、お母さんは立ち上がって、桜達がいる2階へと行った。

⏰:08/08/09 02:13 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#471 [向日葵]
「越が俺に何を話すの?」

「……。柴は自分に闇があるって前に言ったよね」

柴はこくりと頷く。

「……私にもあるの。深い深い場所に、ずっと巣くってる小さな闇が」

それは、小さい頃。
親に捨てられた、ほんの少しの記憶。

「ただただ、その捨てられる時の事しか覚えてないけれど、私はあの瞬間で、小さいながら色々な事思った。」

自分が捨てられてしまうのは、お母さん達にとって自分はいらない存在で、どうして振り向いて、最後に手を降ってはくれないんだろうとか、そこまで嫌われていたのに、私はどうして気づかなかったのかとか……。

⏰:08/08/09 02:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#472 [向日葵]
「お母さんやお父さんは私がいて幸せな時あったかな……とか……」

考えれば考える程、闇は私の中の光を食べていった。

そんな時、今のお母さんが私を見つけてくれた。

暮らしているうちに、この人は私がいて幸せなんだって思えるようになったけれど、同時に恐かった。

嫌いになられたらどうしようって……。

「お母さんはそんな気持ちになってる私に気づいてくれたの。そしたら……」

[越。あたしは絶対嫌いになんかならないよ。だからね、もっと壁を越えてあたし達に甘えな。それが迷惑だなんて、思わないからさ]

⏰:08/08/09 02:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#473 [向日葵]
お父さんも、優しく笑って頷く。

[君は自分が嫌いなんだね。でもまずは自分を好きになろう。越、君のこの名はね、色んな試練の壁を乗り越えれる子になって欲しいからつけたんだ]

だからね、辛い事にぶち当たっても、頑張って行こう。
越1人でじゃなくて、家族で……。

その言葉が、どれだけ嬉しかったか。
当時の私は、緊張の糸が切れたように泣いた。

「だからね、柴の事も、仕方ないって思ったの。例え今は辛くても、きっと越えられる。ただ、時間がかかるけどって……」

⏰:08/08/09 02:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#474 [向日葵]
「越……」

柴は座ったまま私を抱き締める。
柴の体温に、私は身を任せる。

「どこにも行かない。越のそばに、ずっといる……。だから、越の中の光を、見失わないで……」

うん。もう大丈夫。
だって私は、柴という光を見つけた。
柴が、そばにいてくれるなら、私は光を失う事はもう無い。

「ありがとう……柴……」

見つめあう。
綺麗な灰色の瞳には、私が映っている。

今度は緊張しない。
そう思いながら、近づいてくる唇を受けとめようとした。

⏰:08/08/10 11:15 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#475 [向日葵]
「しばちゃんずっとここにいるのー!?」

突然入ってきた苺の声に、私と柴は勢いよく離れる。

「よかったぁー!いちごね、しばちゃんがいなくてずーっとさびしかったのーっ」

そんな私達の空気を知らず、苺は無邪気に立ち上がった柴の足に抱きつく。
そしてエヘヘと笑う。

「ごめんお姉ちゃん」

両手を顔の前に合わせながら、桜がリビングへと入ってくる。

そんな桜を引っ張って部屋の隅へ連れて行く。

「もしかしてずっと隠れてたなんて言わないよね」

⏰:08/08/10 11:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#476 [向日葵]
小声で問う。

「いや、それは無い……よ?」

「桜、人の目見て話そうか」

「別に邪魔するつもりはなかったのーっ。苺が勝手にトタタターって……」

「しかし柴も面白いよな」

間に空がニョッキリと出てきて喋りだす。

「面白い?」

「越姉鈍いからさ、気持ちが通じる前も肩すかし、通じても肩すかし。こりゃ越姉のファーストキス奪うのはまだまだ先になりそうだなー」

10歳が生意気な……。

⏰:08/08/10 11:25 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#477 [向日葵]
「ま、私達のいる所では、イチャイチャ出来ないと思った方がいいかもね」

イチャイチャって……。

ちらりと苺と遊んでいる柴を見る。

何はともあれ、柴がまたこの家にいる。
それが私は嬉しい。
また皆で生活を共に出来るのが嬉しい。

柴、おかえりなさい……。

⏰:08/08/10 11:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#478 [向日葵]
―*最終ページ*―

柴を見つけた日から思えば、随分寒くなったね。
柴、あのね、私、ありきたりな事を言うけど、柴と出会ったのは運命な気がしてならないんだ……。

(神田家・長女・越談)



ゆーきやコンコン、あーられやコンコン……って歌詞の続きには、いーぬはよーろこーびにーわかーけまーわり……ってあるのに、どういう訳か、うちの犬は、寒さに弱い。

「越ー……」

いつものように、ご飯の用意をしていれば、柴がくっついてきた。

⏰:08/08/10 11:37 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#479 [向日葵]
「何よ柴。寒いならコタツに入ってなよ」

「どっちにしろ寒いんだもーん……」

それでも私にくっついてるよりはあったかいと思うんだけど……。

「空ー苺ー。柴が寒いらしいから一緒に遊んでおあげっ!」

「いいぞー!」

「わぁいしばちゃん!なにしてあそぶー!?」

私が言った途端、空と苺は柴に駆け寄り引っ張っていく。
苺に至っては、柴の足にくっついたまま行く。

ふぅと一息ついて、今晩の夕食であるシチューの用意をまた始める。

⏰:08/08/10 11:43 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#480 [向日葵]
「なんかさ」

「わ!さ、桜、おかえり……」

突然出てきた桜に私は跳び跳ねた。

「な、何?」

「普段すぎるよね。柴。いつも通りお姉ちゃんに甘えてるし。私はもっとそれなりの場面に遭遇するとか思ってたのに」

それなり……?

確かに皆の前では柴はいつも通りだ。
皆の前では……ね……。

――――――――…………

ご飯を食べ終え、空と苺と桜は2階へと上がる。
柴はソファーでテレビを見ていて、私は後片付けをしている。

⏰:08/08/10 11:48 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#481 [向日葵]
冬なのでお湯で洗い物をしている。
温かいお湯が手に当たる度ホヤーと和む。

と、急に後ろに気配を感じる。
振り向こうとする前に抱き締められる。

柴だ。

いつもの甘えるみたいな抱き締め方じゃなくて、ギュッと体を押しつけるみたいにする……。

そうなのだ。
柴は2人きりになると、急に大胆さを増す。
そんな事に慣れてない私は、いつも胸がドキドキする。

「し、柴、寒いんでしょ?コタツに……」

⏰:08/08/10 11:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#482 [向日葵]
「越の方があったかいよ。なんで?」

クスリと笑った時の吐息が、軽く耳にかかる。

絶対柴はSだ……っ。
自分でMだとか言ってたけどぜーったい、ぜー……ったいSだ……っ!

「こ、子供体温だからじゃない……?」

「じゃあなんで顔が赤いの?」

指先で私の顔を柴の方に向ける。
柔らかい笑みなのに、滲み出ている意地悪オーラ。

いつもの柴らしくないから、私は戸惑ってばかりだ。

⏰:08/08/10 11:59 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#483 [向日葵]
「や、だ……柴……。私今片付けしてるの……っ!」

毅然と言ってみるも、そんな私の態度すら楽しいのか、柴はクスクス笑う。

皆さぁぁん!
ここに隠れドSがいまぁぁぁす!!

柴はこめかみにキスすると、またソファーへと戻って行った。

柴が行ってしまってから、私はお湯で洗っていたのを水に変えて洗い始めた。

この頃いつ心臓が破裂するのかと、心配でなりません。
こんな時、どう対処すればいいんだろう……。

誰か分かる人いないかなぁ……。

⏰:08/08/10 12:05 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#484 [向日葵]
―――――――…………

「どうすればいい……ですか……?」

学校の昼休み。
相談をしてみたのは椿。

椿は大きな目を更に大きく開いてパチパチ瞬きさせる。

「私は、上手く説明出来ないですよ……」

「第一椿のフィアンセは越んとこと違って純粋なんて言葉なさそうだしねー」

横から入ってくる美嘉を、椿と2人でなだめる。

「別に相手のペースに合わせなくても、越ちゃんのペースでお付き合いなさったらいいんじゃないんですか……?」

⏰:08/08/13 00:16 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#485 [向日葵]
「だっ……だってぇ……」

ついこの間まで、このドキドキはなんだとか、柴を見るだけでなんで切なくなるのかと分からなかった子供同然の私なのだ。

柴は年上だし、色々経験してるだろうし……実際早代さんとだって……。

すると胸の中がなんだかモヤッとした。
「ん?」と思いながら、胸をさする。

「だって……何?」

美嘉が話の先を促す。

「え?あぁ、だってね、あんまり動揺したりしてついていけなかったらさ、柴、めんどくさいとか思わないかな……」

⏰:08/08/13 00:20 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#486 [向日葵]
「そんなん思ったら男失格でしょ。むしろ最低。美嘉ならぶっ飛ばす」

最後の部分は共感したか分からないが、椿も美嘉と同じ考えのようで、うんうんと頷く。

恋愛って、両想いになっても大変なんだなぁ……。

「…………あれ?」

「どうしたの?」

「……。―――っ!あぁ―――っ!」

「だから何ぃっ!」

忘れていた。
柴が勝手に解釈して、そのままズルズル過ごして来たけど……。

⏰:08/08/13 00:24 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#487 [向日葵]
私、柴に好きって言ってない…………っ。

――――――…………

だからと言って、言えと言われて言えるものじゃないんだよねー……。

と遠い目をしながら自転車に乗り、いつもの道のりを帰っていく。

柴は、大胆になってから、昨日みたいな行動で気持ちを表してくれるし、時たま好きと言ってくれる事もある。

恥ずかしいけど、とても嬉しい。

そう思えば、私ばかり喜んでばかりで駄目じゃないかとか思う。

⏰:08/08/13 00:27 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#488 [向日葵]
だからと言って……となると、またさっきの考えになって、結局は堂々巡りなのだ。

柴が帰ってくる前、言おうと決意したけど、言わず終いだったのを忘れていた。

柴が気にしてなきゃいいけど……。

「……ん?」

家の前に白い車が停まっているのが見えた。
それは近づけば近づくほど、高級な外車だと分かる。

なんで家の前にこんな車が……?

自転車をガレージになおす間も車をジッと見ていた。

⏰:08/08/13 00:31 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#489 [向日葵]
「ただいまー」

「お姉ちゃんっ!」

桜が玄関まで走って来た。
どうやら今日は部活が休みらしい。

「おー桜ただいまー」

「そんな呑気な事言ってる場合じゃないのっ!」

小声で慌てて言う桜。
どうやら何かあったらしい。

眉を寄せて、首を傾げる。

「どうしたの?落ち着いて」

桜はちらりとリビングへ続く入口を見てからまた私の方へと向き直る。

⏰:08/08/13 00:35 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#490 [向日葵]
「柴の……お父さんが来てるの……」

私は驚いて、急いで靴を脱ぐ。

まさか……っ!
柴を連れ戻しに来たとか……!?

戸口に立って、中を見れば、楽しそうに話をしているお母さんと柴、それに、柴のお父さんだろう人がいた。

勝手に連れ戻しに来たと解釈していた私は、その和やかなムードにポカンとしてしまった。

すると、柴が私に気づいた。

「越おかえりっ。父さん、この子だよ。さっき話してた越。俺の大切な人っ」

と、私のそばまで来ると、ギュッと抱き締められる。

⏰:08/08/13 00:39 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#491 [向日葵]
初対面の人の前で抱きつくものだから、私は顔を赤くした。

柴のお父さんは、優しく微笑むと、私の近くまで歩いてきて、握手してくれた。
その柔和な雰囲気は、柴が普段まとっているものと似ていて、「あぁ、やっぱり親子だなぁ」って思うのと同時に、柴から聞いてるお父さん像とはまったく違うものだと思った。

「はじめまして。大和……じゃない、君のところでは柴かな。柴の父の宗平です。息子がいつもお世話になっています」

「い、いえ、こちらこそっ。長女の越ですっ」

「越さぁ、この場合、恋人の越ですって自己紹介してよ」

出来るわけないでしょ。

⏰:08/08/13 00:45 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#492 [向日葵]
「あのね越、今日、伊勢屋さんが来て下さったのは、柴がお世話になってるから、下宿させてると思って、家賃を払わせてくれないかっておっしゃってくれたんだよ」

お母さんの言葉を聞いて、私はホッとした。

なんだ、連れ戻しに来た訳じゃないんだ……。

「だからずっと一緒だよ、越」

と、私の髪に頬ずりしてくる柴。
いくらなんでも、お母さんや柴のお父さんがいるのだからもう少し節度ある行動をとってほしいものだ……。

柴のお父さんはクスクス笑う。

「本当、大和は越さんが好きなんだな」

⏰:08/08/13 00:50 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#493 [向日葵]
「うんっ」

そうやって素直な返事をされては、突き放そうにも放せなくなるじゃないか……。

「越さん。少し話をさせて頂けますか?」

「え……。あ、ハイ……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕暮れで寒くなった外に出て、門の前で私と柴のお父さんは話す事にした。

「貴方と出会って、大和は変わった気がします……」

「そうなん……ですか……?」

「少なくとも、あんな風に甘えている姿は見た事はありませんよ」

⏰:08/08/13 00:54 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#494 [向日葵]
私は逆にあんな柴しか知らない。
それか、出会った頃の、闇の底にいそうな柴しか……。

「全て、私の責任なんですがね……。少し、複雑な心境ですよ……」

と、柴のお父さんは苦笑いした。

きっと、誰よりも柴と一緒に過ごしたかったのは、お父さんなんだろうな……。
そしてお父さんも、お父さんのお父さんと、楽しく過ごしたいって、思ってたんだろうな……。

「でも、柴、前よりもっともっと幸せそうに感じます。そうなったのは、やっぱり、お父さんと和解したからじゃないでしょうか?」

⏰:08/08/17 00:57 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#495 [向日葵]
家族との繋がりって、友達よりも、……大好きな人よりも、きっと大きいものだと思う。

実際柴は、前よりも明るくなって、柔らかな雰囲気が、より柔らかくなった。
……2人っきりの時は別としてね……。

「だから、溝を埋めようとかじゃなく、もっと仲良くなって、楽しいって思いで今までの記憶を上書きしちゃいましょうよ」

柴のお父さんはキョトンとしていた。

……あれ?
私なんか変な事言った……?

2人の間を、一陣の冷たい風がふいていく。

⏰:08/08/17 01:02 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#496 [向日葵]
すると、柴のお父さんはプッ!と吹いて、喉で笑い出した。

「なるほど、大和が越さんに夢中になる筈だ。私達に無い発想をおもちのようだから」

「は……はぁ……」

柴のお父さんは門を出て、車に乗る。
帰るのかと、私も門を出る。
柴のお父さんは、ウィンドウを開ける。

「これからちょくちょく、大和をお借りしてもよろしいかな?楽しいで上書きしたいのでね」

嫌味も何もないその言葉は、私の思いをちゃんと分かってくれたようだった。
嬉しくて、私は心からの笑顔を向ける。

⏰:08/08/17 01:08 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#497 [向日葵]
すると柴のお父さんは、ウィンドウから手を出して、冷えてしまった私の指先をふわりと握った。
そして微笑む。

「私も、あなたに会えて良かったです」

そう言って手を放し、ウィンドウを閉めて、帰ってしまった。

「…………」

やっぱり、雰囲気が柴にそっくりだなぁ……。
……さりげないボディータッチ(?)も、そっくりだなぁ……。

「越」

柴が玄関のドアから顔を出す。

「マフラーくらいしたら?」

⏰:08/08/17 01:21 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#498 [向日葵]
「あ、いいの。お父さんもう帰ってしまったし」

「なんだ、帰ったんだ。なら早く入りなよ。風邪ひくよ」

「うん!」

私は家へ入った。
今になって体が冷えてしまったのが分かって、ブルッと震える。

「寒い?」

「大丈夫だよ」

あと1歩でリビングに続く戸口に着く所で、柴が後ろから私を抱き締めた。

今は2人っきりじゃない。
こんな所で、裏柴になられたらヤバイ……っ!

⏰:08/08/17 01:26 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#499 [向日葵]
「体冷たい……。本当に大丈夫?」

私の心配はよそに、柴は普段の柴だった。

「……大丈夫。ありがとう」

素直に笑顔を向けると、トンと背中に壁を感じた。
「ん?」と思っていると、柴の顔が近くにあった。

「え!?え!?柴っ!?あの……っ!」

「そんな可愛く笑う越が悪い」

ハイ―――ッ!?

実を言うと、好きって言ってない上に、柴とキスをした事はまだない。
頬とか、おでことかはあるけど、口ではまだ……。

⏰:08/08/17 01:29 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#500 [向日葵]
原因はこうなるとパニックを起こす私のせいなんだけど……でも……。
いざと言う時どうすればいいのぉ――っ!?

「しばちゃぁんっ!」

後ろから膝カックンを苺にされた柴は立てなくなって私に勢いよく寄りかかる。

そのせいで私は派手な音をたてて頭を打った。
そしてその音で何事か?と、リビングにいたお母さん達が出てきた。

「お姉ちゃんどうしたの!?」

「苺に攻撃された」

どこか不機嫌そうな柴が答える。

⏰:08/08/17 01:33 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


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