*柴日記*
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#650 [向日葵]
それを一朗は知らないので、勧められるがままに座る。
「ありがとうございます」
翠は笑顔で返す。
そしてソワソワするので、一朗は翠に問う。
「どうか、なさいましたか?」
「あなた、祐子ちゃんが好きなのよね?」
「ハイ。とても」
恥ずかしがるわけもなく、一朗はそう答える。
翠は更に興奮し、「キャー!」と軽い叫び声をあげる。
「素敵!私あなたなら祐子ちゃんをお嫁にあげてもいいわっ」
「それは光栄です」
:08/10/04 00:57
:SO906i
:☆☆☆
#651 [向日葵]
:08/10/06 01:50
:SO906i
:☆☆☆
#652 [向日葵]
そこでハタッと翠は動きをとめ、瞬きを繰り返しながら何かを考えてから一朗の方へ乗り出す。
「もしかしてあなたが祐子ちゃんに告白した子かしら?」
「ご存知で?」
翠は入口を気にしてから一朗に微笑みかける。
「祐子ちゃん、あんな風だけど、とってもいい子だから……仲良くしてやってね」
その言葉に、一朗は笑みを深める。
「ハイ。もちろんです」
その答えに満足した翠は、キッチンへと戻る。
:08/10/06 01:54
:SO906i
:☆☆☆
#653 [向日葵]
「ちょっと!」
着替えをすまして下りてきた祐子は大きな声を出した。
そして一朗を指差す。
「アンタどうしてそこに座ってんだよ!」
「え、好きな場所にって言われたからそうさせてもらっただけだよ?」
ずんずん歩いてきた祐子は向かい側を指差す。
どうやらこちらに座れといいたいらしい。
なんてったってその隣は祐子の特等席なのだから。
しかし聞いているのかいないのか、一朗は上から下まで祐子を見るとにっこり笑った。
「私服って新鮮だなぁ」
:08/10/06 01:59
:SO906i
:☆☆☆
#654 [向日葵]
祐子は言われて自分の姿を見る。
パーカーを長袖のTシャツの上からはおり、ジーパンをはいただけというラフな恰好。
「……当たり前だろ。毎日制服なんだから」
もうちょっとマシな恰好をすれば良かっただろうか?と考えている事に何の疑問も感じず少し落ち込む。
「ううん。可愛い」
そう言われてガチンと祐子の体が固まる。
そして爪先から頭のてっぺんまでゾワゾワとしたものが這い上がる。
「か……っかか可愛い!?」
思わず声が裏返る。
:08/10/06 02:05
:SO906i
:☆☆☆
#655 [向日葵]
「うん。可愛い」
もう1度言う。
祐子はブルッと震え、両腕を擦る。
「無理……っ、寒い事言うな!」
「そんなオヤジギャク言ったみたいな反応しなくても……」
と言いながら祐子の毛先を一束持つ。
それをもてあそぶ。
「猫っ毛なんだね。フワフワしてていいな。1度触ってみたかったんだ」
「翠ちゃん譲りなんだよ。あたしには似合わない」
一朗はクスクス笑う。
:08/10/06 02:09
:SO906i
:☆☆☆
#656 [向日葵]
「似合うから可愛いって言ってるのに。自分の事まったく分かってないんだね」
なんだか馬鹿にされたような気がしながらも顔を赤くさせる。
どこでもかしこでも、なんでこんな言葉が出てくるか分からない。
けれど寒い言葉ながら、少し嬉しく思ってしまう自分がいるのも否定出来ない。
そんなのだから、たちが悪い……。
「さぁ2人も、ご飯にしましょうか」
翠がもって来たビーフシチューはいい香りがして、どこかぼんやりしていた祐子の思考を醒ました。
:08/10/06 02:13
:SO906i
:☆☆☆
#657 [向日葵]
結局一朗は移動しないままで、あまり席にこだわっていては照れてると思われそうなので、一朗の隣に祐子は座った。
「お口にあえばいいんだけど」
一朗はにこりと笑って、両手を合わせて「いただきます」と言うと一口ビーフシチューを口に運んだ。
「美味しいです」
たれ目がちなあの目が更にたれる。
へにゃんとしたその笑顔に力が抜けそうで、少しかぶりを振った祐子はビーフシチューを食べる。
いつも通り美味しくて、祐子まで一朗の顔になりそうだった。
「おかわりあるからね。沢山食べてちょうだい」
:08/10/06 02:19
:SO906i
:☆☆☆
#658 [向日葵]
:08/10/06 02:20
:SO906i
:☆☆☆
#659 [向日葵]
穏やかに、時間が流れている気がした。
一朗がいるだけで、とても和やかだった。
味が分からなくなるから嫌だ。
そう思っていた筈なのに、一朗が隣にいると、美味しい気持ちと一緒にどこかホッとした雰囲気を味わった。
―――――――――…………
食事を終え、一朗は帰ると言った。
とりあえず、門前くらいまでは送ってやろうと、祐子は一緒に外へ出る。
「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」
「翠ちゃんは料理得意だからな」
「じゃあ、祐子さんも上手なんだろうね」
:08/10/09 00:41
:SO906i
:☆☆☆
#660 [向日葵]
にっこり笑ってそう言う一朗が何を言いたいか分かった祐子は、わざと大きくため息をついた。
「どうしてもとでも言いたいのか?弁当」
「祐子さんに任せるよ」
そう言うが、一朗は祐子が作ってくれるだろうと期待している。
そして祐子はそう思っている一朗が分かるもんだから余計に脱力する。
「……はよ帰れ……」
「うん」
頷きながら、一朗は祐子の両手を握る。
不意をつかれた祐子は激しく動揺する。
:08/10/09 00:46
:SO906i
:☆☆☆
#661 [向日葵]
「か、帰れっつってんのに何手ぇ握ってんだよっ」
「こうする為」
軽く祐子の手を引っ張った一朗は、つんのめった祐子の頭に軽く唇を押しつける。
祐子は驚いて、手を振り払うとすぐさま一朗から離れた。
「な…………っ!」
「感謝の印。じゃあまた明日ね」
涼しい顔をして、一朗は帰っていった。
胸がドキドキして、頭がくらくらしだす。
油断してたらこうだから、祐子は自分が一朗に対して無防備なのか?と疑問に感じた。
:08/10/09 00:51
:SO906i
:☆☆☆
#662 [向日葵]
―――――次の日。
祐子のもつ、あのとげとげした雰囲気が時が経つにつれマシになっていったということで、3年になってからは人が祐子に喋りかけてくれるようになった。
少し戸惑う祐子に、周りの誤解は晴れていき、そんな祐子を慕って暮れることに祐子自身も嬉しかった。
今日もそんな気分で学校へ来た祐子だが、家を出た時から緊張の為心臓が早鐘を打ちっぱなしだった。
教室についてから、鞄を机に置きそれをじっと見つめる。
「甘いな……あたし……」
呟くように言う。
実は、鞄の中には一朗リクエストであるお弁当が入っているのだ。
:08/10/09 00:57
:SO906i
:☆☆☆
#663 [向日葵]
早起きして作ったものだから、いつも早起きな翠とばったり会い、「誰に?」などとニヤニヤしながらわざとらしく訊くものだから、「うるさいっ!」と怒号してしまった。
しかしそれで翠が怯む訳もなく、お弁当を作る祐子の周りをちょこまか動くから、祐子はせっかく作ったお弁当がちゃんと美味しく出来ているかが心配だった。
そしてそこでハッとする。
何気に自分がお弁当作りに気合いを入れてしまっている。
美味しくなくてもいいじゃないか。
美味しくなければ一朗はもうお弁当を作ってくれなどと言わないし、祐子も面倒な事をしなくていい。
:08/10/09 01:02
:SO906i
:☆☆☆
#664 [向日葵]
いやしかし、やるからにはちゃんとやらなければ気がすまないと言うか……。
段々自分が何をしたいかが分からなくなってきた祐子は、机に突っ伏す。
この頃自分はどうしたんだろう……。
「森下さん」
クラスの女子が話かけてきたので祐子は顔を上げる。
「何?」と訊けば、戸口らへんを指差して「呼んでるよ」と言われた。
見ればそこに男子が立っていた。見た事がある。
確か一朗の友達で、「坂上」とかいった。
:08/10/09 01:06
:SO906i
:☆☆☆
#665 [向日葵]
何の用だろうと首を傾げつつ、祐子は坂上の元へと行った。
「おはよう」
礼儀正しく挨拶してくれる。
「おはよ。何?」
「ちょっといい?廊下出てよ」
いぶかしげな顔をして、祐子は導かれるままに廊下へ出た。
向き合うように立った坂上は、少し睨むように祐子を見る。
「いい加減、一朗を解放してやってくんないかな」
耳を疑う。
眉根を寄せて、上目遣いで坂上を睨む返す。
:08/10/09 01:11
:SO906i
:☆☆☆
#666 [向日葵]
「……は?何が?なんだよ解放って」
「アイツの家は、代々医者にならなくちゃならない。だからお前と遊んでる暇はない。だから早く解放してやってくれと言ってる」
初めて聞いた祐子は驚きを隠せなかったが、まるで自分が一朗を玩具が如く連れ回しているみたいな言い方をされて、こめかみ辺りに青筋が浮かぶ。
「そんなの本人に言えよ。あたしはアイツを束縛してるつもりはない」
「アンタにはなくても一朗はそれで迷惑してるんじゃないのか?それに一朗には、恋人がちゃんといる」
は……?
もう何がなんだか分からなくなってきた。
恋人?
そんな人見た事も聞いた事もない。
:08/10/09 01:17
:SO906i
:☆☆☆
#667 [向日葵]
坂上はわざとらしくため息を吐く。
「俺ははっきり言って、早く一朗がアンタから離れるよう願ってたよ。なんてったって、アンタはそんなだ」
“そんなだ”
たった4文字の言葉に、明らかに馬鹿にした気持ちが入っているのが分かった祐子は、怒りに握った拳を震わす一方で、泣きたくなった。
どうして……こんな事言われなくちゃならないんだ……。
悔しい。
どうして殴れない?
いつもみたいに、言い返せない?
:08/10/09 01:21
:SO906i
:☆☆☆
#668 [向日葵]
耳の奥で、迫力ない声が聞こえる。
“女の子が喧嘩しちゃ駄目っ!”
「分かったなら、もうつきまとわないでくれよな」
どいつもこいつも好き勝手言って。
あたしはあたしだ。
自分が思ったように行動するだけだ。
そこで祐子は気づいた。
一朗の事を、一朗の気持ちを、分かろうとしたくなかったのは、自分らしくなくなっていってるのを感じたからだ。
しかし恋人がいた?
じゃあ彼は祐子をからかっていただけなのだろうか?
:08/10/09 01:27
:SO906i
:☆☆☆
#669 [向日葵]
それなら、一朗の気持ちを分かろうとしないでいい。
私は……私だ。
「待てよ……」
祐子は坂上を呼び止めた。
坂上は眉を寄せて祐子の方を向こうとした。
しかし、その瞬間、横っ面に激痛が走る。
目がチカチカして立っていられず、坂上は尻餅をついた。
祐子は殴り飛ばした、拳を突き出したままの状態ままで静止していた。
そしてゆっくりとその腕を下ろす。
祐子の周りは、不穏な空気が流れていて、それを感じ取った坂上は血の気が引いていくのが分かった。
:08/10/10 23:02
:SO906i
:☆☆☆
#670 [向日葵]
「どうして……」
祐子は呟き、歯を噛み締める。
「どうして……お前にそんな事言われなきゃなんないんだっ!!」
祐子は坂上に馬乗りになり何発も殴りつける。
何人もの生徒が周りに集まったり、祐子を止めようとする。
自分なりに生きてきた。
それをたった4文字で片付けられた事がすごく嫌だった。
好きでこうなったんじゃない。
何も知らないくせに、何も分かろうともしないくせに……。
あたしの何がいけないの……っ。
祐子には、いつの間にか何も見えなくなっていた。
勝手に動く拳を止める気もなく、そのままにしている。
ただ、遠くの方で、教師のの太い怒鳴り声が聞こえた気がした。
:08/10/10 23:08
:SO906i
:☆☆☆
#671 [向日葵]
気がつけば、目の前に翠がいた。
誰もいない学校の応接間みたいなところのソファーに力なく座り、どこを見ているか分からない祐子を心配そうに見ている。
そっと、繊細な肌を持った指先が、祐子の頬を撫でる。
祐子はぼんやりと、自分が翠のようであれば、何も言われず、平和に素直に生きていけたのだろうか。
「ママ…………」
かすれた声で、翠を呼ぶ。
いつもは呼び方を否定する翠が、首を少し傾げて優しく「なぁに」と聞いてくる。
「あたし……間違ってるの…………?」
:08/10/10 23:14
:SO906i
:☆☆☆
#672 [向日葵]
「祐子ちゃん……」
自分らしく生きる事はそんなにも許されない事……?
祐子は分からなくなっていた。
誰も、自分を分かってなんかくれない。
誰も、祐子の孤独を分かってはくれない。
誰も……。
[祐子さんっ]
目の奥に、一朗の笑顔が浮かぶ。
呆れるくらい、まるで犬みたいにつきまとってくるくせに、真剣な声で自分がそばにいると言った。
噂よりも祐子自身を信じてくれた。
何も恐れず、“森下 祐子”が好きだと言った。
:08/10/10 23:21
:SO906i
:☆☆☆
#673 [向日葵]
あぁでもそれは嘘なのかもしれないんだったか。
それでも信じたい。
噂を信じなかった彼。
ならば自分も彼の口から聞いた事しか信じたくはない。
そう思うのは、きっと彼が好きだからだ……。
無邪気な笑顔を向けてくれる彼が、好きなんだ……。
いつの間にか、祐子の頬が濡れていた。
流れる滴は丸くなり、スカートの上にポトポトと落ちてゆく。
「ママ……ごめん……っ」
両手で顔を覆い、声を押し殺すようにして泣く。
いくら自分らしくと言ったって、両親に迷惑をかけてばかりの自分。
:08/10/10 23:26
:SO906i
:☆☆☆
#674 [向日葵]
全ての気持ちが、一朗を好きだと気づいた事により溢れ出す。
祐子はただ翠に「ゴメン」と謝り続ける。
何度も繰り返す祐子に、翠は優しく抱き締める。
まるで子供をあやすように背中をポンポンと叩くものだから、祐子は更に涙が溢れた。
これ以上、誰にも迷惑をかけてはいけない。かけたくもない。
一朗は将来有望の医者になるらしい。
ならば、周りからみた自分の印象は分かるから決めた。
一朗がなんと言おうと、彼から離れよう。
彼が無邪気に笑い続けてくれるなら、この気持ちが伝わらなくてももういい……。
:08/10/10 23:33
:SO906i
:☆☆☆
#675 [向日葵]
祐子は1週間の停学処分にされた。
その噂はクラスからクラス、学年から学年へと早々に伝わっていった。
この頃おとなしかった祐子なだけに、生徒は祐子の存在を再度思い出し、そして怖がった。
1部のクラスと、生徒を除いては…………。
珍しく遅刻をしてしまった一朗は、ホームルームが始まってなくてホッとする。
しかし、周りがやけに騒がしいので変だとは思っていた。
そこへ一朗のクラスの学級委員が、「あと10分したらホームルーム始める」と伝えに来た。
時間があるので、一朗は祐子の所へ行こうと教室を出た。
:08/10/12 01:34
:SO906i
:☆☆☆
#676 [向日葵]
一朗は5組、祐子は1組だったので少し遠い。
祐子の教室へ近づく度、ざわめき声がひどくなるのは何故だろう。1組に着いた一朗は、戸口で祐子を探す。
が、探す前にクラスの女子が一朗に群がった。
「神田君来るの遅いっ!」
「何やってるのよ!」
一朗は何故怒られているかが分からず、びっくりして後ずさりする。
「な、何が?」
「まさか知らないの?」
「知らない?」
女子が顔を見合わせる。
神妙な顔で、口を開いた。
:08/10/12 01:39
:SO906i
:☆☆☆
#677 [向日葵]
「森下さんがね……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女子から説明を受けた一朗は驚きを隠せないでいた。
彼女が停学。
それも自分のせいで。
一朗はショックを受けながらも自分の持っているものを見つめた。先ほど祐子のクラスから彼女から預かったものだと一朗に渡された。
それは、自分が頼んで待ち望んでいたお弁当だった。
力なく席についた一朗は、ドアから顔に湿布とガーゼと絆創膏だらけの坂上を見つけた。
彼は一朗を見つけるなり、この傷を勲章だと言わんばかりの顔をして彼の元へとやって来た。
:08/10/12 01:45
:SO906i
:☆☆☆
#678 [向日葵]
「森下祐子に言ってやったぞ。お前に付きまとうなって。迷惑してたんだろお前も」
一朗は何も答えず、机に置いたお弁当を見つめる。
坂上は自分の武勇伝を聞いてくれと一朗の前の席に座り語り出す。
「俺はお前の為に……まぁ少々キツイ事も言ったけど、ズバーンと言い聞かせてやったのよ。そしたらアイツってば何をキレたかしんねぇけど殴りかかって」
バァンッ!と音が鳴る。
一朗は机を拳で思いきり殴った。
それまで祐子の噂であろう話し声が一気に止む。
そして皆、一朗と坂上に注目する。
:08/10/12 01:50
:SO906i
:☆☆☆
#679 [向日葵]
坂上はすごく驚いたのか、目を見開いて口を半開きにして一朗を見つめている。
「僕の為……?」
ものすごく低い、唸り声のようにも取れる声は、一朗のものだと数秒してから坂上は分かった。
うつむいてる彼の表情は分からない。
だが机を殴った拳は小刻みに震えていた。
坂上は、一朗の逆鱗に触れてしまった事を瞬時に理解した。
「僕の為に祐子さんを傷つけたのか……?迷惑?僕がいつ……君にそんな事を頼んだっ!」
坂上はびくりとして席を立つ。
それでも、鋭く冷たい一朗の眼光からは逃れる事は出来ない。
:08/10/12 01:56
:SO906i
:☆☆☆
#680 [向日葵]
「僕の為って一体なんなんだ!僕は迷惑だと思った事はないっ!僕は祐子さんが好きだ。つきまとっていたのは彼女じゃなくむしろ僕だ。当たり前だろ好きになってほしいんだから」
強い言葉に、クラス一同圧倒される。
黙って一朗の言葉に耳を傾けた。
「彼女を傷つけたなんて許さない……。絶対にね。君は僕の友達なんかじゃないよ」
一朗は鞄とお弁当を持つと、立ち上がり教室を出ていく。
その途中、担任が教室に入って来て、どこかへ行ってしまう一朗を呼び止めた。
「神田、どこへ行くんだ?ホームルームやるぞ」
:08/10/12 02:01
:SO906i
:☆☆☆
#681 [向日葵]
「ホームルームよりも大切な事があります」
そう言って出ていこうとする一朗を再び止めようとした担任だが、今度はクラス全員から担任が止められた。
「先生行かせてあげて!」
「俺達はちゃんとホームルーム出るから!」
「神田って優秀じゃん?たまには息抜きさせてやってくれよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
家へ帰ってきた祐子はぼんやりとベッドに横たわっていた。
いつもと変わらない天井を見上げて思うわ一朗の事だ。
:08/10/12 02:04
:SO906i
:☆☆☆
#682 [向日葵]
:08/10/13 10:27
:SO906i
:☆☆☆
#683 [向日葵]
彼はまた自分の元へやって来て、また無邪気に笑うのだろうか。
いや、その前に、さっきボコボコにした奴が止めるかもしれない。
それに、彼女だって……。
信じたくないのに、不安の方が勝って、最悪な結果の方へと思考が導いていく。
何も考えたくなくて、目を瞑った。
目を瞑って見える瞼の裏のチラチラしたものでさえ、今はうっとおしく思わせた。
「祐子ちゃん」
ドアの外から翠が声をかけてくる。
そのままの体勢で「何?」と答えた。
:08/10/13 20:07
:SO906i
:☆☆☆
#684 [向日葵]
カチャリとドアを開けて入ってきた翠は穏やかな微笑みを浮かべていた。
起き上がった祐子は床上にちょこんと正座した翠を見る。
「祐子ちゃん、貴方は間違ってなんかないわ。自分を貫き通すってとっても難しくて、流される人が大概だもの」
いつもの花が舞ってそうな平和な空気はなく、翠は凛としていた。だから不思議と祐子の背筋もピンと伸びる。
「流された人はなんらかの後悔をするわ。だから翠はね、祐子ちゃんには自分を貫いて後悔のないように生きて欲しいわ」
「それが……誰かの迷惑になっても……?」
:08/10/13 20:13
:SO906i
:☆☆☆
#685 [向日葵]
思い浮かべたのは、一朗の事だった。
「そうねぇ……。殴っちゃうのは正直いけないと思うわ。売られたなら買うしかないけれど」
にっこり笑って言うから思わず吹き出してしまう。
翠が喧嘩を売られて買う姿を描くのは無理だ。
「迷惑になりたくないと思う人には、少々自分を変えてもいいの。でもそれは流される事とは違うわ。自分でそうなりたいと願っているのだから」
一朗に出会って、自分の何かが変わるのを祐子は恐れていた。
自分らしくなくなって、弱くなってしまったように感じたからだ。
:08/10/13 20:17
:SO906i
:☆☆☆
#686 [向日葵]
そんな自分を認めたくはなかった。
翠は立ち上がる。
窓の外を見て、ふわりと笑う。
「今日はいいお天気ね……」
そう言って部屋から出て行った。
祐子も外を見てみる。
確かに気持ち良さそうな天気だった。
そろそろ気持ちの切り替えをしなければいけない。
窓の鍵を開けて、ガラガラと開ける。
爽やかな風が入ってくれば、心の乱れも落ち着いてくる。
と、思っていたが、それは次の瞬間見事に打ち砕かれる。
「祐子さんっ!」
:08/10/15 23:57
:SO906i
:☆☆☆
#687 [向日葵]
息が止まった。
目を見開き、祐子はゆっくりと下を見る。
門に、息を切らせた誰かがいる。
肩を揺らし、泣きそうな顔をしながらこちらを見ている。
それは紛れもなく、一朗だった。
「祐子さん……話をしよう。坂上が言った事を全部忘れて」
彼の必死の姿に、祐子も泣きそうになった。
奥歯を噛み締め、口を真一文字に結ぶと、強く首を振る。
「あたしは、もうアンタに近づかない。そう決めたんだ……」
なんとか一朗に聞こえる声でそう言う。
一朗は険しく苦しそうな顔をする。
:08/10/16 00:01
:SO906i
:☆☆☆
#688 [向日葵]
笑ってくれたらいい。
もう辛い思いさせるのは嫌だ。
彼女がいるなら尚更……。
目をギュッと瞑って、祐子は一朗に背を向けた。
話をするつもりはない。
そう意思表示する為に。
次に振り向いた瞬間、一朗が諦めていなくなってて欲しいと願う。
数秒してから祐子は振り返った。さっき一朗がいた場所に、彼の姿はなかった。
さよなら。
別れを口の中で告げれば、悲しくなった。
本当は離れて欲しくないのに。
うつむいて、祐子は涙を流した。
:08/10/16 00:05
:SO906i
:☆☆☆
#689 [向日葵]
ガザガサと、耳障りな音が聞こえる。
なんだと思い顔を上げれば、祐子の部屋の窓近くの木から、一朗が現れた。
驚いた祐子は口を開いたまま固まる。
そんなのお構いなしに、一朗は窓下にある僅かな足場に移動し、祐子の方にのり出して微笑む。
「祐子さんが僕に近づくのがダメなら、僕から祐子さんに近づくよ」
そういう問題じゃない。
そんな事を言っても一朗には通用しないのだが、祐子の頭は混乱しかけていた。
「まるでロミオとジュリエットみたいじゃない?」
:08/10/16 00:10
:SO906i
:☆☆☆
#690 [向日葵]
「あ、アホか!早くこっちに来い!危ないだろっ」
一朗の襟を掴み、土足だという事も忘れ引っ張る。
祐子の上に、一朗が被さるようにして2人は倒れこんだ。
色々疲れて息づかいが荒い祐子に一朗は微笑む。
ハタと祐子が今の格好に気づけば恥ずかしくなって急いで離れようとすれば、それを押さえこむように一朗が祐子を抱き締めた。
どうしていいかわからない祐子は硬直する。
思っていたよりもしっかりとした腕は、父以外の男を初めて感じた。
「は……離せ……」
「離したら祐子さん逃げるもん。だから嫌」
:08/10/16 00:16
:SO906i
:☆☆☆
#691 [向日葵]
「い、言ってる場合か……っ!」
「言ってる場合だよ。勘違いされたまま離れるだなんて僕は許さないからね」
鼓動がうるさい。
一生分の心臓の動きを終えてしまうんじゃないかと心配になるぐらいドキドキしているのが分かった。
間近に彼の肩と髪の毛。耳には吐息と低いなめらかさのある声。
少し当たる彼のメガネのフチが冷たくてぞくぞくする。
顔は熱いし、かと思えば彼のブレザーは冷たい。
この温度差にさえ緊張してしまう。
「話、聞いてくれるなら離してあげる」
しばらくして、一朗が言った。
:08/10/16 00:22
:SO906i
:☆☆☆
#692 [向日葵]
「ただし条件がある。それでもいいなら解放するよ」
「じょ、条件って……?」
「今は言わない」
「な、なんだよそれ……っ!」
「じゃあこのままがいい?」
それは嫌だ。
この状況からは早く逃れたい。
祐子は首を振る。
「じゃあいいね?」と一朗が問うので、仕方なく頷いた。
一朗は、最後にギュッとしてから祐子を解放する。
赤い顔を見られたくなくて、起きて一朗少し離れるとそっぽを向く。
:08/10/16 00:26
:SO906i
:☆☆☆
#693 [向日葵]
「坂上がごめんね……」
「別に。……本当の事だし」
「じゃあ僕から離れていくの?」
祐子は黙ってしまう。
さっき強くそう決心した筈なのに、本人を目の前にしたら一気に揺らいでしまった。
せっかく引っ込んでくれた涙も、また出てきそうになる。
そんな思いを抱えているから、彼の方をまっすぐに見れないのかもしれなかった。
スカートをギュッと掴み、なんとか泣きそうになる衝動を抑える。
「アンタ……には、彼女がいるんでしょ?」
「えぇっ?」
:08/10/22 00:04
:SO906i
:☆☆☆
#694 [向日葵]
一朗がすっとんきょうな声を出す。少し怒っているようにも聞こえた。
「それも坂上から?」
祐子は頷く。
一朗は長いため息をついた後、「しょうがないなアイツは……」と呟く。
「とりあえず、祐子さん、こっち向いてくれないかな?」
こちらを見ない祐子に、一朗は覗き込む。が、祐子は更にそっぽを向く。
一朗は眉を寄せる。
祐子は困る。
一朗に力づくで彼の方へ向かされてしまえば、自分の今の感情を抑えれる自信がないからだ。
無言の祐子に、一朗は困惑する。
「僕には祐子さんだけだよ。信じてくれないの?」
:08/10/22 00:09
:SO906i
:☆☆☆
#695 [向日葵]
「そういう訳じゃ……」
「じゃあ顔見せて?」
祐子は頑なに彼の方を向かない。
一朗は困り果てるが、ゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。
祐子はビクリと震える。
彼女が何に怯えているのか、一朗にはよく分からないが、とにかく話さなければと、こちらに向くように誘導する。
顔はこちらに向いたが、うつむいたまま口をキュッと結んでいる。
下唇を少し噛んでいる姿は、拗ねた子供みたいで可愛いなどと不謹慎な事を考えてしまう。
違う、違うと、頭を軽く振った一朗は、祐子と額をくっつける。
:08/10/22 00:14
:SO906i
:☆☆☆
#696 [向日葵]
「祐子さん……」
柔らかく呼ばれてしまえば、何故か逆らえず、祐子は彼に目線を合わせてしまう。
眼鏡の奥の、たれがちな優しい目からは逃れられなくなる。
祐子は涙を流した。
だから嫌だったんだ。
きっと目を合わせてしまえば、決心も何もかも崩れ去って、目の前にいる彼を自分のものにしたいと求めてしまうから、そうなる前に彼には帰って欲しかった。
急に泣き出した祐子に、一朗は戸惑う。
どうしたらいいか分からなくて、あたふたするも、とりあえず頭を撫でる。
「ご、ごめんね、僕が……何かしたかな……?」
:08/10/22 00:19
:SO906i
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#697 [向日葵]
祐子は髪を優しく丁寧に撫でる指を感じながら、涙で滲む視界を必死にクリアにしようと手で拭う。
「もう……お前には、振り回されてばっか……」
「うん、ごめんね。でも、祐子さんが僕に関心をもってほしいから」
「こっちの気も知らないで……」
どれだけドキドキさせれば気が済むんだ……。
あぁどうしよう……すごく、言いたい。
涙を拭くのを止めて、祐子はまっすぐに一朗を見た。
人と話す時、しっかりと目を見て祐子は話す。
:08/10/22 00:24
:SO906i
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#698 [向日葵]
それが例え一朗でもそうだ。
でも一朗は、初めてまっすぐ真剣な目をして見つめられたような気がして、その涙に濡れる目に心臓が高鳴った。
「神田が……好きみたいだ……あたし……」
一朗は驚いて目を見張る。
言ってから祐子はまた涙を1粒2粒と流し始める。
一朗はぽかんとして言葉を失った。
そんな一朗に祐子は眉を寄せる。
「おい、いつもの饒舌ぶりはどこいったよ……。この場合お前なら「だと思ったよ。やっと僕の溢れんばかりの気持ちを分かって頂けましたか」とか言うんじゃないの?」
:08/10/22 00:29
:SO906i
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#699 [向日葵]
:08/10/22 00:31
:SO906i
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#700 [向日葵]
祐子の言葉にふきだした一朗は祐子の手を握ると自分の胸に押し当てた。
何事かとうろたえて赤くなる祐子に、一朗は静かに微笑む。
「分かる?僕の心臓……」
言われて掌に神経をすませば、脈を打つ感触が伝わってきた。
ドクドク鳴っている。
それがどうしたのかと、祐子は一朗を見上げた。
「祐子さんの一言で、僕はこんなにもドキドキするんだ。これがどういう意味か、分かる……?」
その言葉は、恋愛経験がない祐子にも分かった。
赤くなる祐子を柔らかく抱き寄せる。
:08/10/26 00:10
:SO906i
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